MediaLabがメッセージアプリKikを買収し閉鎖を回避

人気のメッセージアプリであるKikは、ロサンゼルス拠点のマルチメディア持株会社のMediaLabによる買収で本当に生き残ることになる。

米国証券取引委員会と争いを展開している最中にKikがシャットダウンすることになるかもしれないないという先の報道をはねつけたときのKikのCEOであるTim Livingston(ティム・リビングストン)氏の発言のとおりだ。リビングストン氏はKikが素晴らしい企業との覚書にサインしたが、まだ取引は完了していないとツイートしていた。

そして相手企業が明らかになった。MediaLabだ。金曜日に投稿されたKikのブログには、MediaLabはKikメッセンジャーを買収することで“合意した”と語った、とある。

Kikは、大望を抱いていた初心に我々を立ち返らせる素晴らしい場所のひとつ」とブログにはある。「変な漫画に対する情熱だろうが、あるいはお気に入りのサッカーチームに対する情熱だろうが、Kikは携帯電話を通して築かれる新たな友情のためのプラットフォームを提供するという驚くべき能力を示してきた」。

MediaLabは、匿名のソーシャルネットワークであるWhisperやミックステープのアプリのDatPiffなど、いくつかのモバイルサービス企業を傘下に持つ持株会社だ。Kikの買収で、保有するモバイルアプリの数をさらに増やす。

「アプリの動きを早くし、不要なメッセージやスパムボットを減らすなど、Kikをさらに発展させるためのいくつかのアイデアがある」とMediaLabは話した。「プラットフォーム運営の費用を賄うために数週間以内に広告を導入する」とも語った。

Kikメッセージプラットフォームを買収することで、MediaLabと同社のCEO、Michael Heyward(マイケル・ヘイワード)氏は新たなソーシャルメディアの武器を手に入れることになる。

ヘイワード氏は8年ほど前に匿名のメッセージサービスのWhisperを立ち上げ、新進のロサンゼルス拠点スタートアップコミュニティのスターだった。当時、WhisperはSecretやYikYakなどを含む一群の匿名アプリの1つにすぎなかった。Whisperは告白の日記やburn book(怒りの内容の本のこと)、心情吐露の場をオンラインに設けるために数千万ドルを調達した。

2017年にTechCrunchは、Whisperが閉鎖を回避し、収益化を図るためにかなりの解雇を行ったことを報じた。

当時、Whisperはアプリとウェブでおおよそ2000万人の月間アクティブユーザーを抱えていて、過去に売上に貢献したスポンサーブランド広告よりも、プログラマティックな広告で収益を上げる方策を模索していた。ウィジェットを通じて、同社は1カ月あたりさらに1000万人のコンテンツ視聴者を獲得した。そして、視聴者数はさまざまなウィジェットとFacebookや投稿が掲載された他のソーシャルネットワークを介して2億5000万人に達した。

Whisperに詳しい人によると、当時の総売上高は約100万ドル(約1億円)だったが、2017年の売上高は1250万ドル(約14億円)になろうとしていた。情報筋は当時「2018年までに売上高は最高3000万ドル(約33億円)となることが見込まれる」としていた。

フラッグシップのWhisperアプリでは、ユーザーは匿名でテキストや画像を投稿でき、そうした投稿にライクの意思表示をしたりコメントしたりできる。ヘイワード氏はこのアプリが人々にとって個人的で密やかなことを共有する手段となることを意図していた。ハラスメントではなく、告白やサポートのためのソーシャルネットワークだ。

このアイデアは投資家の注意を引き、WhisperはSequoiaやLightspeed Venture PartnersShasta Venturesといった投資家から6100万ドル(約66億円)調達した。Whisperの直近のラウンドは3600万ドル(約39億円)を調達した2014年のシリーズCだ。

話を2018年に進めると、YikYakは破産した一方で、Secretは3年間シャットダウンされていた。YikYakはエンジニアリングのチームを約100万ドル(約1億円)でSquareに売り払った。一方のWhisperは、他のアプリも傘下に持つ持株会社として MediaLabを立ち上げた。同社は2018年6月にカリフォルニアに会社登録の書類を提出した。

書類には、投資会社であるSierra Wasatch Capitalのパートナー、Susan Stone(スーザン・ストーン)氏の名がMediaLabのディレクターとして記載されている。

ハワード氏にコメントを求めたが、返事はなかった。

【編集部注】この記事にはライターZack Whittakerも協力した。

画像クレジット:Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

Facebookの新暗号通貨プラットフォーム「Libra」を解剖する

米国時間6月18日、Facebookは独自の暗号通貨、Libraを発表した。プロジェクトの内容はTechCrunchの今月始めの予測とほぼ一致していた。LibraはFacebookが構築しようとしている新しい金融システムの一環となるものだ。

Libraを利用したウォレット・サービスのためにCalibraという子会社も設立された。またMastercard、PayPal、Visa、Uber、Andreessen Horowitz、Creative Destruction Labなど有力企業が提携先となっている。

FacebookのLibraイニシアティブは革新的、野心的である一方で大きなリスクもはらんでいる。実はLibraには先行する試みがあり、これと比較することがFacebookのビジョンを理解するために役立つとおもう。

ここで考えているのは英国ロンドン発のモバイルチャットサービスのKikと、そのソーシャルネットワークを利用した仮想通貨のkikkinだ。KinについてTechCrunchの読者に一番よく知られているのは、SEC(米証券取引委員会)に訴追を受けていることだろう。SECはKikが2017に実施したICO(暗号通貨による資金調達)を違法としている。KikはこのICOで1億ドルを調達したが、公衆からの資金調達に必要な認可をSECから得ていなかった。

KikのCEOであるTed Livingston(テッド・リビングストン)氏によれば「Kikが暗号通貨は通貨の一種でありSECの管轄外と考えているのに対し、SECは管轄内の証券の一種と考えていることによる」のが根本的な対立点だという。両者の主張の法的当否は別として(仮に通貨だとしてもKikには法定通貨を発行する権限がないのは明らかだ)、KinはFacebookが独自の暗号通貨を作った背景、仕組み、将来構想を理解するために役立つ。

Creative Destruction Labのイベントで先週、リビングストン氏は「我々には資金が必要だった」と語った。Kinはこの極めて差し迫った問題に対する回答だった。Kikではいくつか異なったマネタイズを試してきた。ひとつはCardsモデルで、これはモバイルメッセージアプリ内にHTML5で書かれたツールやゲームが利用できるエコシステムだ。これは中国のWeChatモデルに近い。

Kikは英国発のメッセージアプリとして大成功した(ただし子供を狙う犯罪者に愛用されているという指摘もあった)とはいえ、規模はFacebookとはかけ離れている。そのためFacebookのように安定した広告収入を得ることはできなかった。 LivingstonのCEOの回想によれば、2011年にKik はBitcoin(ビットコイン)を知り、「これが我々が探していたビジネスモデルかもしれない」と考えたのだという。

リビングストン氏は「ユーザーのコミュニティに自然な形で簡単、迅速に価値を交換できるため暗号通貨はKinのプラットフォームにとって大きな意味があると気づいた」と語った。Kinのコミュニティはクッキングなどメンバーの得意分野の知識を交換する場になっていたので、支払い手段として暗号通貨は適していた。

KikにとってカギとなったのはKinを利用することがユーザーにもデベロッパーにも利益となるようなモデルを構築できるかどうかだった。Kikやデベロッパーには当然ながらkinの普及を図る動機があったが、ユーザーがKinを利用したくなる動機とは別のものだった。リビングストン氏よれば、暗号通貨でサービス提供者とユーザーとの利益を調整するのは広告モデルのビジネスとは決定的に違うという。このため両者のインセンティブがまったく噛み合わないケースが出てくるのはわれわれもたびたび見てきた。

SECによる訴追も含めKinの将来については不確定な要素が多いが、上で述べた問題はすべてLibraにも当てはまる。両者の違いは規模だ。Facebookは成熟した大企業であり、それ自身の巨大な経済圏を持っている。Kikは暗号通貨を資金調達手段として利用した。これはすぐにも資金が必要だったからだ(そこでICOに飛びついた)。

Kikにはビッグネーム企業多数をプラットフォームに参加させ、自力で市場の構造そのものを変えるような力はなかった。見切り発車してコミュニティーに活用されることをデモし、投資家やパートナーが後から参加してくることに望みをつないだ。、

これに対し、FacebookはKikが持っていなかったものをすべて持っている。企業規模と市場支配力はプロジェクトのスタート当初から大企業をパートナーとして参加させるのに十分であり、背に腹は代えられない資金調達の必要にも迫られていない。もしプロジェクトが失敗しても機会損失というコスト生じるだけだ。また今後も相当期間、広告ビジネスからの安定した収入が見込める。

しかし根本的なレベルではFacebookとKikの暗号通貨プロジェクトは極めて似ている。 暗号通貨による決済プラットフォームは広告モデル以上にユーザーに利益をもたらし長期にわたって維持可能なビジネスモデルとなるという認識だ。

現在のところFacebookのLibraは広告ビジネスに対するリスクヘッジという意味が強い。これがFacebookの生き残りをかけたコミットメントに変わるときに真価が問われることになるのだろう。

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook