2021年1月中旬、Twitter(ツイッター)のCEOであるJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏は、Donald Trump(ドナルド・トランプ)元大統領をプラットフォームから追放するという同社の決定についてついに公式に回答を述べた。同氏は、Twitterは「看過できない異常事態に直面した」のであり、あの決定を「誇らしい」とは思っていないと記している。同氏はその投稿で、Twitterが提言して始めた「Bluesky(ブルースカイ)」と呼ばれる新しい構想について時間をかけて説明した。ブルースカイが目指すのは「ソーシャルメディアのためのオープンな分散型標準」の構築であり、Twitterはその一部となるにすぎないという。
ソーシャルウェブの力関係を根本的に変える可能性がある、まだ初期段階の構想について、ブルースカイに関わる研究者たちがTechCrunchに明らかにしてくれた。
ブルースカイが目指すのは「耐久性のある」ウェブ標準の構築だ。最終的には、インターネット上で発言力を持つユーザーやコミュニティを決める上で、Twitterのようなプラットフォームに責任が集中しないようにすることを目指している。これは、社会的被排除集団の言論を保護する一方で、昨今のモデレーション手法やオンラインでの急進化防止の取り組みを根底から覆す可能性も持っている。
ブルースカイとは
Bitcoin(ビットコイン)に統制のための中央銀行がないように、分散型ソーシャルネットワークプロトコルは中央の統制機構なしで機能する。これはTwitterがブルースカイ上に構築された自社のアプリのみを統制し、プロトコル上の他のアプリは統制しないことを意味する。システムはオープンで独立しているため、アプリケーションはその標準規格全体のコンテンツを表示したり検索したり互いに通信したりできる。Twtitterはこのプロジェクトが既存のTwitter APIの機能を超越することを期待している。目指すのは、さまざまなインターフェイスやキュレーション手法アルゴリズムのアプリケーションを開発者が作成できるようにし、さまざまなモデレーションツールやアイデンティティーネットワークへのプラグアンドプレイアクセスについてTwitterのようなプロトコルを介してエンティティに支払いを行えるようにすることだ。
広く採用されている分散型プロトコルではソーシャルネットワークがより広いネットワークにモデレーションの責任を「移譲」できるが、ブルースカイの初期プロジェクトに関わったある人物は、ユーザーからのアクセスをブロックするアカウントやネットワークをプロトコル上の個々のアプリケーションが決定できるようにすることを提案している。
Parler(パーラー)やGab(ギャブ)のようなソーシャルプラットフォームは、理論的にはブルースカイでネットワークを再構築することで安定性やオープンプロトコルによるネットワーク効果といった恩恵を受けることができるだろう。関係する研究者はまた、このようなシステムが政府の検閲に対抗する効果的な手段となり、世界中の社会的被排除集団の言論を保護することにつながるだろう、と明言している。
関係者がTechCrunchに語ったところによると、ブルースカイの現在のスコープは研究フェーズに限定されているという。分散型テクノロジーコミュニティのさまざまな派閥に属する約40~50名のアクティブなメンバーがソフトウェアの状況を調査し、プロトコルの完成形についての提案をまとめている。Twitterは、今後数週間のうちにプロジェクトマネージャーを雇い、プロトコルそのものの構築に着手する独立したチームを結成したいと考えていることを初期のメンバーに明かしていた。
この動きについて、Twitterの広報担当者からはコメントが得られなかった。
ブルースカイの初期メンバーは2020年初めにTwitterのCTOであるParag Agrawal(パラッグ・アグラワル)氏によって招へいされた。このグループは後に、セキュアなチャットプラットフォームであるElement(エレメント)上でホストされたワーキンググループの参加者であるMastodon(マストドン)やActivityPub(アクティビティパブ)といった、より認知度の高い分散型ネットワークプロジェクトの代表的な人々とも対話の道を開くことにした。
分散型ソーシャルプラットフォームHappening(ハプニング)の創設者であるJay Graber(ジェイ・グラバー)氏は、「Twitterがエコシステム内の既存のオプションを評価するのを支援」するために、Twitterから報酬をもらって分散型ソーシャルエコシステムのテクニカルレビューを書いたとTechCrunchに語っている。
「もしこれを設計したいと(Twitterが)思っていたなら、社内で人を集めてその仕事を割り当てることもできたはずだ。しかし、このちっぽけなブルースカイのグループがTwitterよりも優れている唯一の点は『Twitterではないこと』だ」と、グループの他のメンバーで、プライバシー中心の市民参加型ソーシャルネットワークciv.works(シーアイヴィーワークス)の共同創設者であり、Postmates(ポストメイツ)のシニアソフトウェアエンジニアとして働くGolda Velez(ゴルダ・ベレス)氏は話す。
グループはプロジェクトのスコープについてTwitterの幹部と何度かやり取りを行った後、Twitterが承認したこの構想の目標をまとめた文書を完成させた。この文書では、ブルースカイプロトコルが取り組むべき課題の詳細だけでなく、標準規格に基づいて構築を行うアプリケーション作成者がどのような責任を負うのが最善かという点についても説明されている。
画像クレジット:TechCrunch
関係者の正体
上記の文書をTechCrunchも閲覧したが、そこに列挙された課題には、Twitterの最大の欠点のいくつかが要約されている。それには「拡散メカニズムを悪用した論争や暴挙を防ぐ方法」に加え、モデレーションのための「カスタマイズが可能なメカニズム」を開発したいという願望が含まれているが、同文書は、「コンプライアンス、検閲、削除などの最終的な責任を負う」のはプロトコル全体ではなくアプリケーションであると述べている。
「アルゴリズムの問題の解決策はアルゴリズムを除去することではないと思う。投稿を時系列で並べ替えるのもアルゴリズムの機能だ。解決策は、さまざまなアルゴリズムを試して適合性を確認したりおすすめのものを使用したりできるようにして、つけ外し可能なオープンなシステムにすることである」と、ワーキンググループの別のメンバーであるEvan Henshaw-Plath(エバン・ヘンショープラット)氏は述べている。同氏はTwitter創業初期の従業員の1人で、Planetary(プラネタリー)と呼ばれる独自の分散型ソーシャルプラットフォームを構築してきた。
ヘンショープラット氏のプラットフォームはSecure Scuttlebuttプロトコルがベースとなっており、ユーザーはオフラインでも暗号化された方法でネットワークを閲覧できる。ヘンショープラット氏によると、プラネタリーは当初、企業投資とCEOのジャック・ドーシー氏からの個人投資を取りつけるためにTwitterと交渉していたが、プラットフォームの競争力の高さからTwitterの弁護士の間で懸念が生じ、結局、Twitterの共同創業者であるBiz Stone(ビズ・ストーン)氏のベンチャーファンドであるFuture Positive(フューチャー・ポジティブ)からの投資を受けることになったという。ストーン氏はインタビューの依頼には応じなかった。
目標に合意した後、Twitterはより広範なチームがいくつかの共通のコンセンサスに至るものという期待を当初、抱いていたが、グループ内で意見が真っ向から対立したため、Twitterはメンバーからの個別の提案を受け入れることにした。既存の標準を全面的に採用するか進化させるようTwitterに圧力をかける者もいれば、標準規格の相互運用性を早期から追求してユーザーの自然な動向を見るためにブルースカイを推す者もいた。
ブルースカイを標準に組み入れることを望んでいるグループの開発者の1人にマストドンのクリエイターであるEugen Rochko(オイゲン・ロチコ)氏がいる。彼はTechCrunchに、ソーシャルメディアプラットフォームがグローバルに機能するためには大きな変革が必要だと思っていることを話してくれた。
「トランプ氏を追放したのは正しい決断だったと思う。むしろ、少し遅すぎたかもしれない。同時に、この状況は、こういったことを決定するのが米国の一企業であってはならないということを示していると思う」とロチコ氏は本誌に語った。
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ロチコ氏も、グループの他のメンバーと同じく、ブルースカイプロトコルに対するTwitterの動機について時おり懐疑的な見方をしてきた。ドーシー氏が2019年に最初の発表を行った直後、マストドンの公式Twitterアカウントは痛烈な批評をツイートし、次のように書いた。「これは車輪の再発明の発表ではありません。Twitterが発表しているのは、GoogleがAndroidをコントロールするように自分たちがコントロールできるプロトコルを構築しようとしているということです」。
今日、マストドンは間違いなく最も成熟した分散型ソーシャルプラットフォームの1つだ。ロチコ氏は、分散型ノードのネットワークに230万人以上のユーザーがいて、数千台のサーバーに広がっていると主張している。2017年の初め、このプラットフォームがTwitterで話題になったことにより、ロチコ氏が寄付ベースモデルの支持を拒否したことに強い関心を示した潜在的投資家と並んで「数十万人」の新規ユーザーが流れ込むことになった。
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潜在リスク
ロチコ氏が集めた注目が、すべて歓迎されたわけではない。2019年、右派過激派が支持するソーシャルネットワークであるGabは、マストドンプラットフォームのオープンソースコードとの統合を行った後、そのプラットフォーム全体をマストドンネットワークに持ち込んだため、マストドンは大量のウェブユーザーを一気に抱え込んで、最も望ましくない責任を負わされる羽目になった。
ロチコ氏はすぐにそのネットワークを否認して、マストドンプラットフォーム上の他のノードとの関係を断ち切り、アプリケーション作成者にも同様の行動をとるよう説得する方向に舵を切った。しかし、右派過激派の温床となることがこの種のプラットフォームの最初の「サクセスストーリー」になってしまったことで、分散化支持者が最も恐れていたことがときを経ず顕在化することとなった。
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この恐れの余波は先に、分散型コミュニティにまでおよんだ。米国議会議事堂での暴動の前後にサイト上に暴力的なコンテンツが浮上した後、アプリストアの所有者やネットワークが別の右派ソーシャルネットワークであるParlerをウェブから排除したことで、一部の開発者は自分たちの分散化標準がParlerのアジトにされるのではないかと恐れている。
「ファシストは間違いなくピア・ツー・ピアテクノロジーを利用する。すでにそうしており、その傾向はますます強まる【略】もし主流のインフラストラクチャから追放されたり、人々の綿密な監視を受けたりすれば、そうしようとする動機はますます高まるだろう」と、分散型ネットワーク上での過激派の出現について研究しているEmmi Bevensee(エミ・ベベンシー)氏はいう。「おそらく、極右が悪であると考える人々によって排斥される前に、極右はピア・ツー・ピアで強力な足場を固めることになるだろう」。
最も懸念されているのは、ブルースカイのような取り組みを通じて分散化プラットフォームがコモディティ化されることで、現在のプラットフォームから追放された過激派がその支持者をつなぎ留めておく道を見いだし、一般的なインタネットユーザーに過激化への道をいたずらに提供することになるのではないかということだ。
「今のところ、ピア・ツー・ピアテクノロジーは、全体的に見れば敷居が高いものだが、一部ではそうではない。たとえば現在Cash AppでBitocoinを買うことができる。これはどちらかといえば、このテクノロジーが今後より主流になって、導入の敷居が下がることを証明している」と、ベベンシー氏はTechCrunchに語った。「この脱Parlerの風潮によって、ParlerはIPFSにあまり乗り気ではない支持者を大量に失いかけている。Scuttlebuttは本当にクールなテクノロジーだが、Twitterのように容易に導入できるものではない」。
過激派がプライバシーと強力な暗号化を促進するテクノロジーを採用しようとするのは今に始まったことではないが、Signal(シグナル)やTelegram(テレグラム)のような暗号化チャットアプリは、近年そのような論争の的になっている。ベベンシー氏は、極右の過激派ネットワークが分散型ネットワークテクノロジーを採用するようになったせいで初期の開発者コミュニティの「士気が極めて低下」したこと、さらにその同じテクノロジーが「世界各地の社会的被排除者たち」に利益をもたらす可能性があり、実際にそうなっていると指摘している。
ブルースカイの初期の取り組みに関係する人々は、プロトコルの開発と採用までの道のりはまだ長いと見ているが、Parlerとトランプ大統領に対する最近のプラットフォーム排除によって、他の利害関係者が最終的にこの標準規格との統合にコミットするようになるのではないかと期待している。
ペレス氏は次のように述べている。「現時点で、エンドユーザーだけでなくプラットフォームにとっても、採用する理由はたくさんあると思う。厄介なモデレーションの問題を抱えているのはTwitterだけではない。みんな今が正念場だということをわかっていると思う」。
画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch
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(文:Lucas Matney、翻訳:Dragonfly)