人類史上初、大気中二酸化炭素濃度が415ppmを超えた

人類が環境破壊のレースでまた新たな記録を打ち立てた。おめでとう、人類!

人類史上(有史以来ではなく、人類が地球上に存在して以来)初めて、大気中の二酸化炭素濃度が415ppmを超え、415.26ppmに達したことが米国海洋大気庁の研究施設マウナロア観測所で観測された。

CO2排出量の時間変動は、北極の氷およびマウナロア観測所の測定によって記録されている。資料提供元:スクリップス海洋研究所

この恐ろしい出来事は、気象レポーターのEric Holthause氏によってTwitterで報告された。カリフォルニア大学サンディエゴ校のスクリップス海洋研究所が記録・提供したデータによる。

(いて欲しくはないが)この値に注意を引かれない人のために言うと、これは人類が環境大惨事へと向かう新たな道を切り開こうとする前例なき領域に我々がいることの新たな証である。

つい先週、人類の活動と経済発展の副産物である二酸化炭素排出によって、100万以上の種が絶滅の危機に瀕していることが報告されたばかりだ。

これは、二酸化炭素排出と密接に関連し米国だけで2090年には年間5000億ドルの費用が必要とされる気象変動問題に加わるものだ。

大気中の二酸化炭素濃度の増加が問題になるのは、その熱吸収の性質による。地球上の陸と海は熱を吸収・排出し、その熱が二酸化炭素分子によって捕らえられる。NOAAは、CO2を暖炉に置かれたレンガが火の消えた後も熱を放出することになぞらえている。

温室効果ガスは、地球が生命を維持する温度を持続するのに役立っているが、多すぎるとわれわれを維持している生態系全体に影響を与える。それが今起きていることだ。NOAAはこう指摘する。「温室効果ガスの増加は地球のエネルギー均衡を破り、新たな熱を蓄えて地球の平均気温を上昇させている」。

CO2はその性質上、他の物質とは異なる形で温室効果に寄与する。それは、水蒸気などの物質が吸収できない波長の熱エネルギーを吸収するためだ。地球温暖化を起こしているエネルギー不均衡全体の約3分の2が大気中二酸化炭素の増加によるものであるとNOAAは説明している。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Virgin Galacticがニューメキシコ州の「宇宙港アメリカ」にやって来た

野心的な宇宙観光旅行会社Virgin Galacticは、その事業を米国ニューメキシコ州のSpaceport America(宇宙港アメリカ)に移す準備ができたことを発表した。そこから同社の最初の商用フライトが離陸する予定だ。「ついにVirgin Galacticがニューメキシコ州にやってきました。世界を良いものにしていくために、共にここから宇宙へ飛び立ちましょう」とVirginの創業者リチャード・ブランソン氏は記者会見で語った。

Virgin Galacticとニューメキシコ州は、現時点では世界唯一の宇宙港の創設に協力していたので、この計画自体は唐突な話ではない。しかし、テストと研究開発用の格納庫から、実際の顧客が宇宙船に乗る場所への移動は、大きな節目となる。

私はVirgin Galactic(VG)のCEOであるジョージ・ホワイトサイド(George Whitesides)氏に、動きが実際のところ何を意味するのか、そしてもちろんそれが本当はいつ行われるのかについて話を聞いた。

「私たちは、何年も前に行なった、世界初の専用宇宙港に商用の宇宙路線(Spaceline)を就航させるという約束を、果たしつあるところです」と彼は私に語った。「それは結局何を意味するのでしょう?まずは、宇宙飛行機(ホワイトナイトツーなどの発射用飛行機)が移動するということです。そしてそれらの宇宙飛行機を運用するために必要な様々な品々が集まってきます。そして、宇宙飛行機を運用するすべての人々、そしていわゆる顧客対応スタッフがいます。さらに、宇宙路線の運営に関連するサプライチェーン関係者と、核となるインフラストラクチャ関係者をすべて揃えることになります」。

現時点では、このかなり複雑なリストは実際には最大約100人程度になるだけだ。残りの従業員たちの大部分は、R&Dと新しい宇宙飛行機のエンジニアリングがThe Spaceship Companyとして継続される、カリフォルニア州モハーベに残ることになる。

「商用サービスに移行していく過程で、私たちは次に来ることについてより考えるようになっています。たとえば極超音速や、ポイントツーポイントの宇宙飛行などです」とホワイトサイド氏は語った。

とはいえ、VGは現在の宇宙船をまだ完成させていない。エンジニアが必要だと思うものに応じて、あと少々手を入れるところがあるだろう。しかしそれは「膨大な数」ではない。

ホワイトサイド氏によれば、現在のモハーベの施設からSpaceport Americaへの移動は、いくつかの理由から行われているのだという。まず第一に宇宙船はほぼ完成している。

「最後に行ったフライトで、私たちは基本的に、宇宙船機体の内装を含む完全な商業的なプロフィールをお見せしました」と彼は語る。「私たちは単に、宇宙に上がって降りてきたというだけではありません。ベス(フライトインストラクターのBeth Moses)が客席に搭乗していたので、彼女が乗客の役割を果たしてくれました。彼女は何度も起き上がって、歩き回ったので、私たちの客室の状態をチェックすることができたのです。こうしたことから、おそらく私たちは引っ越しを始めることができる段階に来たのだろうと考え始めたのです」。

FAAやその他の当局から課せられた事務手続きは順調に進んでいる。宇宙港に関しても、少なくとも滑走路、燃料インフラ、通信機器などのような大変な部分の準備は整っている。現在は、内装のために、カーペットの色を選び、壁掛けディスプレイや冷蔵庫を買う必要に迫られているようだ。

「しかし、関わるひとたちの視点がこのためには大切です」とホワイトサイド氏は続けた。「だれもが家族をもち、子どもがいます。私たちが考えていたのは、夏の間に引っ越すのが良いのではないかということでした。そうすれば学年の途中で学校を変わる必要がありませんからね(米国は9月から新学年に切り替わる)。いまから移動を開始すれば、従業員たちはニューメキシコ州のコミュニティに、より簡単に溶け込むことができるでしょう。そこで私たちは『よし今やろう』と決めたのです。それは大胆な選択であり、大きなことではありますが、正しいことなのです」。

そして、VMS EveとVSS Unityといった宇宙飛行機(弾道宇宙船を上空へ運ぶ役割を果たす)の方はどうだろう?どのように現地にやってくるのだろうか?

「それが空中発射システムの優れた点です」とホワイトサイド氏は言う。「ある意味で最も簡単な部分なのです。他のものがすべて落ち着いたら、お互いの目を深く覗き込んで『準備はできたか?』と言うことでしょう。そうしたら宇宙船を搭載して出発するだけです。それは宇宙船そのものよりも長い距離を飛行するように作られています。ですからその日の運行はモハーベで始まり、ニューメキシコで終わることになるでしょう」。

そこは素敵な拠点になるだろう。イギリスのFoster&Partnersによって設計された宇宙港は、砂漠から立ち上がる極めて目立つ形状をしていて、商業宇宙路線を運営するのに必要な、すべての設備を備えているに違いない。おそらくその目的に使われる世界で唯一の場所だ。その目的として使われてこそ意味がある。

「私達は水平に離着陸を行うので、地上から見ると、運用上は基本的に空港のように見えます。これまでで、もっともクールな空港ですが、空港であることは間違いありません」とホワイトサイド氏は語る。「大きくて美しい滑走路があります。しかし同時に地球から宇宙への通信リンクである特別なアンテナにも気が付かれるでしょう。管制塔の代わりに司令室がありますし、もちろん酸化剤のタンクやロケット推進に関わるインフラなどの、特別な地上タンク設備もあります」。

宇宙港を取り囲む空域もまた、地表から無限の高さまでずっと制限されている。これは、フライトが複数の飛行レベルにまたがる場合に役立つ。「そして、この場所はすでに標高1マイル(約1600メートル)なのですが、それは資産ということです」とホワイトサイド氏は述べた。宇宙に1マイル近い…まあ少しは便利だろう。だが悪い話ではない。

実際の移動作業は夏の間に行われるだろう。残りのテストフライトはまだ予定されていないが、すぐに動きはあるだろう。そしてそして初の商用フライトが決まったとき、間違いなくそのことを耳にすることになるだろう。

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(翻訳:sako)

ベゾス、Blue Originの月植民計画と着陸船を公開

今日(米国時間5/9)、ホワイトハウスからほど近いワシントンの会場で、Amazonのファウンダー、ジェフ・ベゾスが2024年までに有人月旅行を実現する計画の詳細を発表した。聴衆にはプレス、企業と政府の幹部に加えて大勢の中学生も招かれていた。同時にBlue Moonと呼ばれる月着陸船も公開された。

ベゾスによれば月は資源の宝庫だと言う。ベゾスが私費を投じて運営している宇宙企業、Blue Originは、今年中にNew Shepardロケットで有人宇宙旅行を行う予定だ。

イベントのステージは最初に月を歩いた人間、ニール・アームストロング宇宙飛行士の「人類にとって大きな一歩」という有名な言葉をモチーフにしていた。ここでベゾスは「人口が1兆人に達したとき人類はどこに生存のための資源を求めるべきか?」という非常に深刻な問題に答えようとした(こちらはベゾスの過去のビジョン関係の発言)。

宇宙というユートピアに進出する上で最大のハードルは、巨大通販会社のファウンダーとして熟知している問題、すなわちロジスティクスとインフラのコストを実現可能なレベルに削減する方法だ。

ベゾスは「われわれの世代の役目は宇宙旅行のインフラの構築だ。われわれは宇宙への通路を開かねばならない」と述べた。

アメリカ政府機関と特にNASAの研究によれば宇宙への道は月を経由するという。ベゾスが今日のイベントで月着陸船を披露した)理由の一つはそこにある。

アメリカのペンス副大統領はこの3月、国家宇宙委員会(National Space Council)の総会でNASAに対し、「2024年までにアメリカの有人宇宙船を月周回軌道に乗せ、月の南極に着陸させるためにあらゆる手段を活用する」よう指示した。

南極が目的地として選ばれた理由は氷だ。NASAのジム・ブライデンスタイン長官は「われわれの科学者の調査によれば、4.5億トンの氷が月の南極に存在する」と述べている。

月の自転軸の傾きにより南極には太陽の光が射さない極めて低温の場所がある。南極のクレーター中に摂氏マイナス160度という低温により蒸発を免れた大量の氷が埋まっているとNASAの科学者は推定している。氷はロケットの推進剤に利用することができる。

マイク・ペンス副大統領は3月の国家宇宙委員会総会で大統領のコミットメントが裏付けだとしてこう述べた。

今世紀、われわれは新たな野心を抱いて月に戻る。単にそこに行くだけではなく、永久に日照のない南極のクレーターの底の氷から原子力によって水をつくり、酸素や宇宙ロケットの推進剤を得る。そうした補給があればわれわれの宇宙船は数年ではなく数ヶ月で火星に到達できるだろう。

Y Combinatorが支援するスタートアップ、Momentusは水を推進剤とするロケットを建造中だ。このロケットは原子炉から得られた電力で水を加熱し、水プラズマによって推進力を得る。

しかしこれまでNASAの有人宇宙プロジェクトは予算の削減などにより遅延を重ねてきた。月に戻るというのは非常に高価な事業となる。NASAもアメリカ政府も推定金額がどれほどになるか明らかにしていない。(略)

「アメリカは月に戻る」というのは2017年にトランプ大統領が署名した宇宙政策指令1号(Space Policy Directive 1)に基づくものだが、NASA のプランの具体的内容は不明だ。

これがBlue Originが重要な役割を担って登場した背景だ。

今日披露されたBlue Moon月着陸船に加えて、Blue Originは2種類の宇宙ロケットを開発している。New Shepardロケットは低軌道を短時間飛行して宇宙飛行に関するテクノロジーやノウハウの収集を行うことを目的としている。ペイロードを地球周回軌道に打ち上げるのはNew Glennロケットの任務だ。 2021に最初の打ち上げが予定されており、45トンのペイロードを地球周回低軌道に投入できる。ロケットはどちらも垂直着陸によって回収され、複数回利用される。

先週、Blue OriginのNew Shepardは低軌道を弾道飛行して各種の実験を行うことに成功している。これは11回目のミッショだった。New Shepardは成層圏と宇宙の境界である高度100キロメートルまで上昇してカプセルを切り離した後、逆噴射と垂直着陸によって回収された。カプセルは慣性で上昇を続け、こちらはパラシュートによって無事回収された。

ベゾスはこのカプセルを一般人向け宇宙観光旅行にも利用する計画で、昨年のReutersの記事によれば、チケットは20万ドルから30万ドル程度だという。

一方、イーロン・マスクのSpaceXはこれとは異なるアプローチを採用してきた。SpaceXは大型ロケットを開発し、さらに超大型ロケットの開発に進んでいる。同社として「最新、最大のロケット、Falcon Heavyは63.8トンのペイロードを地球周回軌道に投入できるSpaceXではさらに惑星間飛行を視野に入れた次世代宇宙船、Starshipを開発中だ。こちらは100トンのペイロードを低軌道に乗せることができるという。Starshipの最初の打ち上げは2020年に予定されている。.

これ以外にも活動中の民間宇宙企業は数多い。スタートアップとしてはリチャード・ブランソンのVirgin Galacticを始め、Rocket Lab、Vectorなどが打ち上げプラットフォームの開発に取り組んでいる。スタートアップは現在の衛星打ち上げ事業の主流となっているロシアのソユーズ、アメリカのロッキード・マーティンとボーイングの合弁企業ULA、EUのアリアンスペースといった巨大企業のロケットと競争しなければならない。またロケット以外にも衛星、着陸船、制御システムなどの重要部分を開発、製造するスタートアップも多数現れている。

ベゾスはイベントで「月に戻るときが来た。単に旅行するのではなく、われわれはそこに留まるのだ」と宣言した。

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滑川海彦@Facebook

民間宇宙船で宇宙ステーションへ、SpaceXとボーイングの計画はどこまで進んだのか

SpaceXとボーイングは、NASAと協力して独自の宇宙船を開発している。その狙いは、民間開発の宇宙船による宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)への輸送だ。

宇宙開発の民間企業へと委託の一環として進められているこの計画だが、その道のりは平坦ではない。

民間企業による宇宙船開発のメリットと、その現状を紹介しよう。

ロシアに依存する現状

現在NASAの宇宙飛行士は、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から国際宇宙ステーションへと向かう。これは、ロシアの「ソユーズ」宇宙船を利用するためだ。

以前、国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送には、ソユーズとスペースシャトルが利用されてきた。しかしスペースシャトルが2011年に引退したのにともない、アメリカはロシアに宇宙飛行士の輸送を委託することになる。

現在、アメリカはソユーズの座席をロシアから購入している。この価格は年々上昇しており、アメリカが宇宙開発にてプレゼンスを示せないだけでなく、予算確保という意味でも頭の痛い問題となっている。

輸送計画の民間委託

そこでNASAは、国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送を民間企業に委託する「商業乗員輸送プログラム(CCP)」を表明する。民間企業のコスト感覚とスピードを、宇宙開発に持ち込むのがその狙いだ。

そして商業乗員輸送プログラムに選ばれたのは、SpaceXとボーイングの2社。それぞれがNASAから26億ドル(約2900億円)と42億ドル(約4700億円)の契約を結び、宇宙船を開発することになる。

上の画像は、SpaceXの宇宙船「Crew Dragon」だ。国際宇宙ステーションへの物資補給に利用されていた「Dragon補給船」を発展させたもので、最大7人の乗船が可能だ。また船内には多数のタッチパネルが搭載され、先進的な操縦システムを実現している。

ようやく実現した打ち上げ

SpaceXとボーイングの宇宙船開発は、数度の延期を繰り返した。宇宙飛行士の輸送に利用される宇宙船は高い安全性の基準が設けられており、それをクリアする難しさがうかがえる。

まず、宇宙船の打ち上げにこぎつけたのはSpaceXだ。2019年3月に無人のCrew Dragonを自社のロケット「Falcon 9」にて打ち上げ、軌道投入から国際宇宙ステーションへのドッキング、分離、そして海上への着水と回収という、難しいミッションを1発で成功させた。

宇宙船の内部には、宇宙飛行士を模したダミー人形「リプリー」と、「ゼロGインジケーター」と名付けられた人形が搭載された。宇宙船からの動画配信では、このダミー人形が宇宙空間で浮かび上がる様子も確認されている。

さらに、国際宇宙ステーションにドッキングしたCrew Dragonには、当時の長期滞在クルーだった宇宙飛行士も乗り込み、ゼロGインジケーターを回収している。宇宙船は気密性なども問題なく、SpaceXの技術が非常に高いレベルにあることが実証された。

しかし、今年4月に実施されたエンジンテストにて、Crew Dragonは大きなトラブルに遭遇する。事故の詳細は明かされていないものの、テストの際に宇宙船から煙が上がったのだ。また、非公式ながら爆発の模様を捉えた動画も出回った。

Crew Dragoの側面には、小型エンジン「Super Draco」が搭載されている。これは、宇宙船にトラブルが発生した時に動作し、緊急脱出のために利用されるエンジンだ。例えば、ロケットの打ち上げの最中にトラブルが発生した場合、そこから離脱するといった使用方法が想定される。

宇宙飛行士を輸送する宇宙船にとって、緊急脱出装置は必須の装備となる。つまり、このSuper Dracoの安全性が確認されない限り、Crew Dragonの運用が始まることはない。公式声明は発表されていないものの、このトラブルによりCrew Dragonの計画が遅延する可能性が出てきた。

なお、SpaceXはCrew Dragonに搭乗する宇宙飛行士のために、専用の宇宙服もデザインしている。上の宇宙服は、マーベル映画のコスチュームも手がける「Ironhead Studio」のデザイナーが手がけたものだ。このようなスタイリッシュな宇宙服の登場も、宇宙開発が新たな時代に突入したことを予感させてくれる。

SpaceXの宇宙船に比べて話題に上ることは少ないが、ボーイングも宇宙船「CST-100 Starliner」の開発を進めている。

CST-100 Starlinerは7人乗りの宇宙船で、かつて人を月へと運んだ「アポロ宇宙船」にも似た円錐形となっている。内部には貨物を搭載することもでき、最大10回の再使用が可能。またスペースXと同じく、ボーイングも専用の宇宙服をデザインしている。

先述のようなトラブルや開発の遅れにより、SpaceXとボーイングの計画は常に流動的だ。最新のスケジュールでは、SpaceXのCrew Dragonは7月に有人テスト飛行を実施する。また、ボーイングのCST-100 Starlinerは有人テスト飛行を11月に実施する予定だ。そして、実際の宇宙飛行士の輸送ミッションはその後に実施される。

民間開発の宇宙船で宇宙飛行士を輸送するという野心的な計画には、今後もさまざまな困難を乗り越える必要があるだろう。しかし、それを実現しようとしているアメリカ企業のダイナミズムには、感服せざるを得ない。

(文/塚本直樹 Twitter

小惑星衝突に備えて緊急対応計画を練るNASAとFEMA

小惑星が地球に衝突するアルマゲドンに対応する計画となれば、NASA(米航空宇宙局)とFEMA(米連邦緊急事態管理局)に見落としは許されない

ESA(欧州宇宙機関)のSpace Situational Awareness-NEO Segment(宇宙状況地球近傍天体認識部門)やIAWN(国際小惑星警報ネットワーク)といった国際的なパートナーとともに、NASAのPlanetary Defense Coordination Office(地球防衛調整局)は、ある「卓上演習」に参加する。それは、地球に衝突する軌道上にある小惑星への対応方法のシナリオをシミュレートするものだ(『アルマゲドン』に出演したBilly Bob Thornton氏、Bruce Willis氏、Ben Affleck氏、Liv Tyler氏らが参加するかどうかは定かではない)。

NASAとその関連機関は、もう20年以上にわたって、潜在的な危険性を持つ地球近傍天体(小惑星、彗星、また地球から3000万マイル=約4830万キロ以内にある未確認物体)を実際に探査してきた。

この卓上演習は、災害管理計画立案に使用されるシミュレーションで、動員および対応について関連すると思われる組織に対し、起こりうる大災害の重要な局面についての情報を提供し、対応方法を特定できるようにすためのもの。

この「ハルマゲドン」演習(正式名称ではない)の参加者は、NASAのジェット推進研究所のNEO研究センター(CNEOS)が開発したシナリオを使用することになっている。

「これらの演習は、われわれ地球規模の防衛コミュニティとして、災害管理側にいる組織が知っておくべきことを理解するのに本当に有効でした」と、NASAの地球防衛担当官であるLindley Johnson氏は声明の中で述べた。「この演習は、われわれが互いに、そして政府との間で、より効果的なコミュニケーションを確立するのに役立つはずです」。

このようなシミュレーションは、National Near-Earth Object Preparedness Strategy and Action Plan(国家による地球近傍天体に対する準備戦略と行動計画)に規定され、実際には政府によって義務付けられている。

こうした組織が取り組もうとしているシナリオには、架空のNEO(地球近傍天体)の発見が含まれている。これは、3月26日に発見され、天文学者が地球に潜在的な危険を及ぼす可能性があると判断したことになっているものだ。ここで科学者たちは、2027年にその小惑星が地球に命中する確率を100分の1と見積もっている。実はこの100分の1という数字は、小惑星の衝突に対応するために、地球規模のコミュニティとして計画を開始する際の現実のしきい値なのだ。

そこから、シミュレーションの参加者は、探査と衝突回避のミッションのために準備可能なことについて議論する。さらに、もし衝突した場合の影響を軽減するための計画も検討する。

「NASAとFEMAは、継続的に拡大している米政府機関および国際的なパートナーのコミュニティとともに、定期的な演習を引き続き実行します」と、Johnson氏は声明の中で述べている。「そうした演習は、われわれが協力して取り組み、互いのニーズを満たしつつ、ホワイトハウスによる国家NEO準備行動計画に示された目的を達成す方法を学ぶための素晴らしい方法なのです」。

NASAがNEOの衝突演習に参加したのは今回が初めてではない。これまでにも、NASAは6回の衝突演習を完了している。そのうちの3回は国際演習(2013年、2015年、2017年)で、残りの3回はFEMAとともに(さらに国防総省と国務省の代表の参加も得て)実施した。

「緊急対応マネージャが知りたいのは、いつ、どこに、そしてどのように小惑星が衝突するのか、そしてその被害がどのようなもので、規模はどの程度になるのか、ということです」と、FEMAのResponse Operations Division(対応業務部)のLeviticus Lewis氏は述べている。

NASAは、映画「インデペンデンス・デイ」のようなシナリオにも対応可能なものとして、緊急対応計画を策定したかどうかは明らかにしていない。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

目に見えないブラックホールの撮影を可能にした「スパースモデリング 」とは

ブラックホール撮影の難しさとその解決手段

ブラックホールシャドウの画像(出典元:EHT Collaboration)

先日、国際プロジェクトである「イベント・ホライズン・テレスコープ」(EHT)がブラックホールシャドウを撮影することに世界で初めて成功したと発表しました。画像上の明るいリングのようなものがブラックホールの強い重力場に影響を受けて渦巻いているガスで、その中の暗い部分がブラックホールです。

そもそもなぜ今までブラックホールの姿を見られなかったのでしょうか。ブラックホールはとても小さいので、例えるならば地球から見て月の表面に置いてあるオレンジを撮影するようなものになります。今までの手法で最高の解像度で地球から月の表面を撮影したとしても、1ピクセルの大きさを実際の尺度に直せば、オレンジ150万個ぶんの大きさになってしまうほどの粗さでしか撮影できません。もし月の表面に置かれたオレンジ1つを撮影しようと思うなら、地球サイズの望遠鏡が必要になってしまいます。

そこで世界中に電波望遠鏡を設置し、正確に同時に測定することで巨大な仮想望遠鏡を作成するというプロジェクトがスタートしました。これにより、地上の観測装置としては最高の300万の視力を達成することができます。とはいえ観測データをそのまま見るだけでブラックホール が可視化できるわけではなく、観測データを画像化することによって初めて画像を得ることができます。その画像化の手法として日本チームが取り入れたのがスパースモデリングです。

スパースモデリングとブラックホール撮影との関係

スパースモデリングとは、観測データが説明変数よりも少ない場合であったとしても、説明変数の多くが本質的な情報を少ししか持たないという仮定を置くことで答えを求めることができるという考え方になります。

ブラックホールの観測に用いられた電波干渉計による観測では、天体画像の画素数に比べ、観測データが少なくなってしまうという問題があります。下図は電波干渉計で観測された波のイメージです。観測されたデータが2つの望遠鏡を結んだ線のようになってしまうので、一部分しか観測できずにデータが少なくなってしまうイメージが掴めるかと思います。

観測されるデータのイメージ(出展元:M.Honma, et al. Publ. Astron. Soc. Japan(2014))

この観測データ不足の問題のため、データを画像化する際に不足部分が生じてしまいます。そこで本質的な情報を持った部分の解を抽出することで、問題を解くことができるLASSOという手法が初めに採用されました。その後もさまざまな手法が開発されましたが、基本となるのは多くの画素値がゼロであり、周囲の画素の値が近いことを仮定して問題を解くというスパースモデリングの発想に基づいた考え方です。

スパースモデリングの応用例

ここまではスパースモデリングがブラックホール撮影にどのように用いられたかについて書いてきましたが、スパースモデリングは決してブラックホール撮影のみならず、多岐にわたる分野での応用が可能です。

例えば、医療現場に必須とも言える検査の手法であるMRI撮像が挙げられます。MRIは検査に有用なものではありますが、安静にしておかなければならない時間が長いという問題点があります。そこでMRIに撮像時間を短縮するという試みが行われていますが、その中でスパースモデリングを利用した手法が期待されています。データを間引くことで撮影時間を短縮したとしても、スパースモデリングを利用することで診断に十分な鮮明さを担保することができるのです。下図は既存手法(上段)とスパースモデリングで再構成した画像(下段)の比較ですが、スパースモデリング を用いた画像再構成のほうが撮像の高速化倍率を高くした時により鮮明な画像を作成できていることがわかります(図下部の数値が高速化の倍率を示します)。

従来法とスパースモデリングによる画像の再構成の結果(出典元:九州大学

画像のみならず、レコメンデーションの分野においても活用は可能です。レコメンデーションにおいて一般的に用いられる手法に協調フィルタリングというものがあります。これは例えばECサイトにおいて、個々のユーザーごとにそれぞれのアイテムを購入したかどうかの情報を用いて類似度を測定し、その類似度を用いてどの商品を推薦するか決定します。

ところが実際のデータではユーザー同士がある同じ分野に興味があったとしても、ユーザー同士では互いに同じものを買っていなかったりすることが多くなります。例えばスポーツに興味があるユーザーが複数いたとしても、それぞれ購入するものはスポーツ用品だったり、スポーツに関する雑誌だったり、はたまたスポーツで負傷した時に使うテーピングだったりするということです。

このような場合は類似度が非常に低くなってしまい、何もリコメンドできないということが発生します。つまり意味のあるデータが少ない、スカスカな状態ですが、このような時にもスパースモデリング が効果を発揮します。スパースモデリングを用いれば、ユーザー同士購入したことのない商品であったとしても、同じ軸でまとめてしまって、その軸に基づいてレコメンデーションしよう、ということができます。スパースモデリングを用いて重要な部分を抽出することができているわけです。

【編集部注】この記事は、スパースモデリングの実用化を進めるAIベンチャーのハカルスによる寄稿だ。ハカルスでは、少量データから特徴抽出に優れるスパースモデリングを応用した機械学習およびAIの開発を進めている。産業分野向けに画像データ解析や時系列データ解析を行うさまざまなAIを「モジュール」と呼ばれる部品単位で提供するほか、スパースモデリングが持つ高い解釈性を応用し、医療分野向けに診断・治療支援を行うAIを提供する。

近年は、完全オフラインの環境で学習と推論の両方が実行できるAIチップやエッジ端末の開発に注力。環境変化に自動的に追従するAIをスパースモデリングで実現。なお、自社のAIの一部はオープンソースとして公開しているため、世界中の開発者がすぐにスパースモデリングを使用したAI開発が行え、機械学習コミュニティへの貢献にも力を入れているとのこと。

【参考資料】
ETH日本サイト
過去のスパースモデリングを用いた超巨大ブラックホールの直接撮像プロジェクト
ETHに参加しているMITの学生のTED(ブラックホール撮像の難しさや画像再構成の手法について言及)

イスラエルのBeresheetは月面への降下中に消息を絶つ

イスラエルのSpaceILは、あともう少しで歴史を作るところだったが、米国時間4月11日、Beresheet宇宙船は月面に着陸する寸前、下降中に失敗を喫することになってしまった。イスラエルは、制御された月面着陸を成功させた4番目の国になるチャンスを逃したことになる。しかし、全行程の99パーセントまで到達したことは、民間による宇宙飛行としては並外れた成果と言えるだろう。

Beresheet(Genesis)は、この2月にSpaceXのFalcon 9ロケットの第2ペイロードとして打ち上げられ、螺旋状に軌道を拡げながら1カ月半後に月の周回軌道に入った。これは先週のことだ。今回の最終的な操作は、エンジンの噴射によって月面に対する相対速度を落とし、さらにブレーキをかけて「晴れの海」に軟着陸するというものだった。

すべては最後の瞬間の直前まで完璧に動いていた。宇宙空間ではよくある状況だ。意図した降下開始点に寸分違わずに到達した宇宙船は、すべてのシステムの準備が整っていることを確認し、予定通りの着陸プロセスを開始した。

一瞬テレメトリを失ったので、宇宙船をリセットしてメインエンジンをオンラインに戻す必要が生じた。そして、月面からわずか数キロメートルの地点で、通信は途絶えてしまった。上の「自撮り」写真は、月面から22km上空で、そのわずか数分前に撮影されたもの。そのすぐ後で、宇宙船は消息を絶ったと発表された。

まったくがっかりな結末だが、ワクワクさせてくれるものだった。チームはすぐに落ち着きを取り戻し、「あそこまで到達できたということだけでも絶大な功績であり、誇ってよいことだと思います」と述べている。そして「1回目に失敗したら、何度も挑戦するだけです」と。

このプロジェクトは、10年以上前に発表されたGoogleのLunar Xprizeに応募するものとして始まったのだが、その後このチームが指定された期間内に挑むのは難しすぎることが判明していた。競技の継続とその賞金は諦めざるを得なかったが、イスラエルのSpaceILチームは仕事を続けていた。幸い、航空機産業を統括する国営のIsrael Aerospace Industriesによるサポートを受けることもできた。

Beresheetは、このように政府からかなりの支援を受けていたのは確かだが、一般的な政府主導の大規模なミッションに比べれば、どこからどう見ても「私的な」ミッションであると言って間違いない。チームのメンバーは50人以下で、予算も2億ドル(約220億円)というのは、月着陸に限らず、実際にどんな重大なミッションと比べても、一笑に付されるほどの規模でしかない。

私は、着陸動作に入る前に、Xprizeの創立者兼CEOのPeter Diamandis、Anousheh Ansariの両氏に話を聞いてみた。いずれも非常に興奮していて、このミッションはすでに大成功したものと考えられることを表明していた。

(参考記事日本語版:民間初の月面探査機が木曜夜に打ち上げへ

「ここにいるのは、この奇跡が起こるところをひと目見ようと集まってきた、科学、教育、そして政府関係者の錚々たる面々です」と、Diamandis氏は述べた。「私たちは、今から11年前にこの競技を始め、エンジニアを鼓舞し、教育しました。時間切れになったとは言え、このプロジェクトは目標の100%を達成しました。たとえ完全に無傷で着陸できなかったとしても、すでにかなりの熱狂と興奮を巻き起こしました。15年前のAnsari Xprizeを思い出させるものです」。

こう考えているのは彼だけではない。自身の名前を冠した有名な宇宙飛行Xprizeに資金を提供し、最初のツアーとしての国際宇宙ステーション上空の宇宙飛行を経験したAnsari氏も、共感を示している。

「これは驚くべき瞬間です。とてもたくさんのすばらしい思い出を蘇らせてくれます」と、彼女は私に語った。「私たちがみんなMojaveに赴いて、Spaceship Oneの打ち上げを待っていた時のことを思い出します」。

Ansari氏は、着陸が人類の進歩のように感じられるものであることを力説した。

「過去50年間で、全人類70億人のうちたった500人しか宇宙に行っていないのです。その数は近いうちに数千人にもなるでしょう」と、彼女は言う。「私たちは、この技術分野にはできることがもっとたくさんあると信じています。文明だけでなく人類にも利益をもたらす、本当のビジネスチャンスがまだまだあるのです」。

SpaceILチームが成し遂げたことを祝福したい。そして、次の挑戦では、きっとうまく着陸できることを願っている。

画像クレジット:SpaceIL

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

中国最大のストックフォトプロバイダーがブラックホール画像の販売で大炎上

世界が史上初のブラックホールの映像に驚嘆する一方で、ある中国の写真共有コミュニティでは、その画期的写真の使用に対する猛烈な抗議と、中国における著作権慣行についての幅広い議論が勃発していた。

ヨーロッパ南天天文台(ESO)が4月10日に、ブラックホールの写真を公開した直後に、中国のトップストックイメージプロバイダであるVisual China Group(VCG)が、その写真をライブラリの中で売り始めたのだ。そこにはブラックホールのイメージを捉えるために行われた、世界各国の電波望遠鏡の共同プロジェクトであるEvent Horizon Telescope(EHT、事象地平線望遠鏡)へのクレジットも添えられていなかった。VCGはGetty Imagesと比べられるほどのイメージプロバイダであり、かつてはFlikrのライバルでもあった500pxを買収し所有している。

「これは印刷向け映像です。商用を希望される方は400-818-2525へお電話するか、カスタマーサービスへご連絡下さい」という説明がVCGウェブサイトのブラックホール画像には添えられていた。

インターネットユーザーたちは、人類に無償で配布されることが意図された写真を、収益の手段として使ったとして、VCGをソーシャルメディアで痛烈に非難した。ESOのサイト上にある画像のほとんどのものは、同組織からの表明によれば、クリエイティブコモンズライセンスの下に置かれている。

特に明記されていない限り、ESOの公開ウェブサイトで配布されている画像、ビデオ、および音楽は、プレスリリース、発表、今週の写真、ブログ投稿、およびキャプションのテキストとともに、クリエイティブ・コモンズ表示4.0国際でライセンスされます。そしてクレジットが明示されている限り、非独占的に無料で複製することが許諾されています。

VCGはその後即座に、ブラックホールの写真を商用目的に利用してはならないという内容に説明を修正したが、パンドラの箱はすでに開け放たれてしまった後だった。この出来事は、中国版TwitterであるWeibo(微博)上で、VCGの日和見主義的なビジネス慣行を非難する、膨大なコメントの殺到を招いた。このサイトは、しばしば他者から金銭的補償を得るために犠牲者の振舞いをすることがあると言われている。VCGが先回りをして著作権を取得しておいた元々パブリックドメインの画像を、うっかり利用してしまったユーザーに対して、損害賠償を請求するのである。

4月12日午前10時の時点で、VCGの株価は10%下落し、時価総額は176.6億元(26.3億ドル)となった。VCGの膨大なコンテンツライブラリ資産は、Baiduような大手ハイテク企業のロゴから、中国の国旗までにも及んでいる。

中国共産党青年連盟は、その公式なWeiboアカウントから、「貴社は国旗と国家紋章の著作権も所有なさっているのでしょうか?」と、VCGの破廉恥なライセンス慣行への辛辣なコメントを投げかけている。国家紋章の画像の値段は、新聞記事で使用する場合は150元(22ドル)以上、雑誌の表紙の場合には1500元(220ドル)以上だ。

中国国家紋章の画像は、VCGで150元から1500元の価格で売りに出されていた

「著作権保護はもちろん確実に推進されるべきです。問題は、なぜVCGはブラックホールなどの写真に対して、市場で価格設定することを許されているのかということです。なぜ法の抜け穴を悪用できるのしょう?」と北京を拠点とするフリーランステクノロジージャーナリストのDu Yu(杜預)氏は、TechCrunchに語った。TechCrunchはESOにコメントを求めている。

オンラインでの批判の直後には、行政機関の介入が続いた。4月11日には、VCGの親会社の本拠地である天津のサイバースペース監視委員会が、写真サイトに対して「違法で規則違反の行為」を止めるように命令した

4月12日にはVCGが、会社の声明として謝罪を行い、問題となっていた画像をアップロードしたとされる契約投稿者に対する監督の欠如を認めた。「規則に準拠していない写真はすべて削除し、関連した法令に従った修正のために、自主的にサイトを閉鎖しました」とVCGは語っている。

史上初めて捉えられたブラックホールの画像、地球から5500万光年

画像クレジット: Event Horizon Telescope Collaboration (EHT)

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(翻訳:sako)

SpaceXのFalcon Heavyが全ブースターの着陸に初成功

SpaceXのFalcon Heavyによる初の商業ミッションが米国時間4月11日に成功し、通信衛星を投入することで大型ロケットとしての性能を証明した。さらに、3つのロケットコアの地球への自動着陸にも成功している。これらは、すべて再使用が予定されているのだ。

搭載されていた人工衛星「Arabsat-6A」は、予定軌道に投入されてミッションは成功。Falcon Heavyは大型ペイロードが搭載できる他社の競合ロケットと比較し、非常に廉価な打ち上げを可能にする。なによりも、すでに運用が開始されているというアドバンテージがあるのだ。

今回の打ち上げは強風のために1日延期されていた。米国東部時間6時35分にケープ・カナベラルから打ち上げられたFalcon Heavyは2機のブースターを切り離し、それぞれがLZ-1とLZ-2に着陸。そしてセンター・コアはドローン船「Of Course I Still Love You」に着陸した。動画中継が一時途切れるなど不安な場面もあったが、すぐにドローン船にそびえ立つセンター・コアが映し出された。

興奮の瞬間は打ち上げから10分以内(T-0からT+10 min)に集中した。なぜなら、3機のブースターの着陸はこれまでなし得なかったミッションで、かつドローン船への着陸は失敗例もあったからだ。

なお、打ち上げ時にペイロードをカバーするフェアリングの回収が実施されたかどうかについての言及はない。これについても、後に情報がもたらされることだろう。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

DARPAの37.7億円の打ち上げチャレンジにVectorとVirgin、そして謎の1社が参加

DARPA(国防高等研究計画局)は、どこでも、いつでも、何回も続けてロケットを発射したがっている。無理な注文だろうか? 同局の打上げチャレンジで資格を得たばかりのVector SpaceとVirgin Orbitと匿名のスタートアップの3社にとってはそうではない。彼らは敏捷性と機動性の高いロケット発射能力を極限まで追究する。

このチャレンジで各チームは、わずか数日前に通知された場所から積荷を軌道に打ち上げなくてはならない。打ち上げが終わると、第二の発射場所からまた数日後に発射するように言われる。成績に応じて優勝チームには最大1200万ドル、2位と3位にもそれぞれ最大1100万ドルと1000万ドルが与えられる。

「現在、軍事あるいは政府の打上げのほとんどは、数年前から計画された国家的イベントであり、大型の固定施設を必要としていた」とDARPAのプログラムマネジャーであるTodd Master氏がリリース文で言った。「われわれは、兵士に求められるスピードで宇宙に資源を送り込むために、よりリスクを容認する哲学とより速いペースに移行したいと考えている」。

コロラドスプリングスで行われた35Space Symposiumの講演で、Masterは昨年の今頃発表したこの競争に上記3社が参加することを発表した。いずれの会社もこれまで軌道に打上げた経験がないことは興味深い。

打上げの可能性のある場所

Vector Spaceは同社のロケットVector-Rを初めて軌道に打ち上げるために、最近7000万ドルを調達し、ツーソンの工場で製造を開始した。目標は、週単位頻度の短い間隔で小規模打上げを行うことだ。

Virgin Orbit(正確にはVOX Space)は、2段ロケットを発射する747ベースの第一ステージを使用する。過去に少量の積載物でうまくいった飛行機を補助的に利用する打上げ方法だ。ロケットと積荷の移動しやすさは、飛行機による第一ステージ方式の特徴なので、今回のチャレンジに特に合っているかもしれない。

3番目の会社は現在まだステルスモードで活動しているため、匿名を希望している。当初私は、密かに打上げ技術を開発している実在の打上げスタートアップで、現在ステルスモードにあるStelth社のことかと思った。しかし、数知れない密かに打上げ技術に取り組んでいる会社の一つであることも十分考えられる。

DARPALaunch Challengeは、短納期打上げを続けるロケット発射チームに賞金1000万ドルを提供

各社は参加資格を得たことで40万ドルを受け取り、合法性(FAA認可などが必要)が確認される。打上げは2020年中に行われる。最初の積荷を軌道に載せた各社には賞金200万ドルが与えられ、二番目の作業を完了すると1000万ドル、900万ドル、800万ドルがそれぞれ与えられる。判定はさまざまな基準に基づいて行われる。

全部合わせると3400万ドル(約37.7億円)ほどになる。もちろん、DARPAの要求を満たすためにはそれ以上の費用がかかると思われる。しかし、この手の競技会はそういうものだ。

DARPAが詳細を発表するまでこれ以上はわからない。当然打上げ日程は発表されるまで知ることはできないが、それまでにはしばらくかかる(各社が発射装置を完成させなくてはならない)ので、しばらくリラックスしていてよい。読者が参加チームのいずれかで働いているなら話は別で、その場合はせっせと働き始めなくてはならない。

成功すれば宇宙産業を変革、SpaceXの超大型ロケット「Falcon Heavy

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

初めてのブラックホールの画像を作ったアルゴリズムはMITの院生Katie Boumanの指揮で開発された

ブラックホールの画像の作成を初めて可能にしたアルゴリズムの開発を指揮したのは、当時まだMITの大学院生だったコンピューターサイエンティストのKatie Bouman氏だ。Bouman氏がFacebookでシェアした写真では、彼女自身がその歴史的な画像が処理されていく様子に反応している。

Bouman氏がCHIRP(Continuous High-resolution Image Reconstruction using Patch priors、パッチプライオリティを用いる連続的で高解像度な画像再構築)と名付けたそのアルゴリズムは、ブラックホールの画像データを捉えてそれらを一枚の統一的な画像にまとめる国際的なコラボレーションEvent Horizon Telescopeを構成する、世界中の8つの電波望遠鏡からのデータを結合するために必要だった。

彼女のサイトによると、現在ポスドクのフェローとしてEvent Horizon Telescopeに関わっており、その後はカルテックのコンピューティングと数学学部の助教授になる。

CHIRPの開発は2016年にMITが発表し、3つの異なる場所から集まった研究者チームが開発に携わった。それらは、MITのコンピューターサイエンスと人工知能研究所、Harvard-Smithsonian天体物理学センター、そしてMITのHaystack天文台だ。MITの3年前の説明によると、そのプロジェクトは地球全体を巨大な電波望遠鏡の一枚のディッシュ(パラボラアンテナの反射板)にすることを目指していた。

天文学的信号は少しずつ異なるレートで電波望遠鏡にやってくるから、正しい視覚的情報が取り出せるような正しい計算のためには、レートの不均一性に対応する方法を編み出さないといけない。

MITは以下のように説明する。

Bouman氏はこの問題に対して、巧妙な代数的解法を採用した。3つの望遠鏡からの測定値をかけ合わせれば、大気ノイズに起因する余計な遅延は互いに打ち消し合う。そのためにはそれぞれの新たな測定値が2台ではなく3台の望遠鏡からのデータを必要とするが、精度の向上が情報の喪失を埋め合わせる。

それからこのアルゴリズムは最初の画像を再構築して精製し、ブラックホールの最終的な歴史的画像を準備する。CHIRPは、無線インターフェロメトリーを用いるいかなる撮像システムにも利用できる。

Event Horizon Telescopeが集めたデータはあまりにも大量で、MITのHaystack天文台には計500キログラムのハードディスクに載せて送られた。

(左はKatie Bouman氏とブラックホールの画像データを収めたハードディスクの山。右は人間の月面着陸を助けるコードを書いた同じくMITのコンピューターサイエンティストMargaret Hamilton氏)。

アルゴリズムの開発過程を詳しく知りたい人は、Bouman氏の2016年のTED講義を聴こう。

画像クレジット: MIT

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

宇宙ゴミ除去に取り組むアストロスケールが約33億円を調達、米国拠点の開設も発表

スペースデブリ(宇宙ごみ)除去サービスに取り組むアストロスケールホールディングスは4月11日、米国拠点の開設に加えて、約30百万米ドル(約33億円)の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回の調達はシリーズDラウンドの追加調達という位置付け。INCJ、東京大学協創プラットフォーム開発、三井住友トラスト・インベストメント、エースタート、平尾丈氏から出資を受け、同ラウンドの累計調達額は約132百万米ドル(約146億円)となる。

以前も紹介した通り、スペースデブリとは宇宙空間に漂っている役目を終えた衛星、ロケットの一部や金属片のこと。アストロスケールの昨年の発表によると宇宙空間には1cm以上のデブリだけでも約75万個が存在すると言われていて、これらが宇宙機の安全航行を脅かす存在として問題視されている。

同社では2013年の創業期より、増加し続けるデブリの低減・除去策として、宇宙機が故障や運用終了を迎えた際の除去(EOL サービス)や、既存デブリ除去(ADR サービス)などの技術開発に取り組んできた。現在はデブリ除去の技術実証ミッションである「ELSA-d(エルサディー)」の2020年初頭打上げに向けて設計・開発を進めている。

今回の資金調達は、デブリ問題に対する世界での認識の高まりや需要の顕在化に伴い、更なる開発・製造・運用能力の増強を目指したもの。新たに米国拠点をコロラド州デンバーに開設してグローバル展開を加速させる計画で、同拠点のマネジングディレクターには航空宇宙業界での経験が豊富なロナルド・ロペス氏が就任するという。

なおアストロスケール創業者兼CEOの岡田光信氏は、本件について以下のようにコメントしている。

「アストロスケールにとって、米国拠点の開設は、従業員や顧客にとっても多くの恩恵をもたらす、非常に重要なマイルストーンであると捉えています。米国はこれまで、宇宙交通管制(STM)や軌道上デブリの低減に積極的に取り組んできました。米国に拠点を構えることで、グローバル課題であるデブリ問題について、政策立案者や業界リーダーとの密なコミュニケーションが可能となり、持続的な解決策に向けて考察を深められると考えています」(岡田氏)

史上初めて捉えられたブラックホールの画像、地球から5500万光年

地球から5500万光年離れた乙女座銀河団に位置する「Messier 87」銀河の内部のブラックホールが撮影された。このようにブラックホールが撮影されたのは、史上初だ。

今回の観測には、複数大陸にまたがる8箇所の電波望遠鏡が利用されている。MITはこれを「仮想的な地球サイズの望遠鏡」と言及している。

画像では「火のリング」のように周囲を囲う物体と、中心の黒い穴のようなブラックホールが確認できる。中心のブラックホールは強い重力ですべてのものを引き寄せ、光さえも抜け出すことができない。

MITにて研究科学者を務めるHaystack Observatory氏は、「このブラックホールは、太陽を200年で周る海王星の周回軌道よりもずっと大きい」と語っている。「M87ブラックホールは非常に巨大で、周囲の惑星は光に近い速さで1週間以内に周回しています」

実際にこのブラックホールは特に巨大で、オランダのラドバウド大学のHeino Falcke教授がBBCに語ったところによれば、「太陽質量の65億倍も重い」という。「これは現在存在するブラックホールの中でも最も重いものの一つで、宇宙でもモンスター並の超重量級ブラックホールです」

なお、ブラックホール周囲の物体は周囲の銀河よりもずっと明るく、それゆえに非常に遠い距離からでも観測が可能となった。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

Rocket Labが人工衛星の製造サービスを提供へ

ニュースペース(NewSpace)業界でも注目度の高い、ロケットの打ち上げや人工衛星関連サービスを提供するRocket Lab(ロケット・ラボ)。同社は新たに、人工衛星の製造をそのビジネスに加えることになる。

すでに商業ロケットの打ち上げを開始しているRocket Rabは、今後組み立て済みの人工衛星を顧客に提供するのだ。「Photon」と名付けられた人工衛星プラットフォームを利用すれば、顧客は自ら人工衛星を製造する必要がなくなる。

Rocket Labの創立者のPeter Beck氏は声明にて「小型人工衛星の運用会社は宇宙からのデータやサービスの提供に集中したいが、人工衛星の製造が大いにそれを阻んでいる」と語っている。

「現在、小型人工衛星の運営会社はハードウェアから設計する必要があり、資産と人材を本来の目標以外に浪費している。そこで宇宙ビジネスを推し進めるためにRocket Labが提供するのが、すぐに使える小型人工衛星のソリューションだ。我々は顧客がそのペイロードとミッションに集中することを可能にする」

Rocket Labの人工衛星は地球低軌道にて、技術実証やリスク低減のための調査、コンステレーション、ペイロードの運搬に利用される。また軌道上にて5年間飛行し、Sバンドでの通信機能やハイレベルな高度コントロール機能、推進/飛行アビオニクス・ツールを提供する。

人工衛星はRocket Labの米カリフォルニアにあるハンティントン・ビーチ拠点にて製造され、「Electron」ロケットによって打ち上げられる。Photonの最初の打ち上げは年内に、そして初の商業打ち上げは2020年を予定している。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

もうすぐ月面に着陸するイスラエルのBeresheet

Beresheetは、イスラエルの私的資金で開発され、打ち上げられたミッションで、月面着陸を目指している。今回、1ヶ月半におよぶ飛行の末、月の周回軌道に入ることに成功した。機体は現在、4月11日の着陸に備えて、軌道を調整しているところだ。

この宇宙船は、去る2月21日に、SpaceXのFalcon 9によって打ち上げられた。その後地球の軌道を回りながら、月に向けて加速した。この機体を制作したSpaceILのエンジニアは、その正確な仕事を証明して見せた。Beresheetが最後の噴射を終えて月の楕円軌道に入ったのは、打ち上げ前に予想されていた時刻と9分とずれていなかったのだ。これは、まさにロケットサイエンスのなせる技だ!

この計画の次のステップは、連続的にエンジンを噴射しながら、徐々に月の周回軌道を小さくしていくこと。それがある地点まで達したら、最終的なエンジンの噴射により、月面に向けて降下する。

「月に到達したことは、それ自体歴史的なイベントです。それと同時に、月の周回軌道に入ることのできた7カ国の仲間に、イスラエルも加わることを意味します」と、SpaceILのMorris Kahn氏は声明の中で述べている。「今日から1週間後に、月面着陸という、さらに大きな歴史を作ります。それは、これまでに3つの超大国しか成し得なかったことです」。

ここで言う超大国とは、もちろんアメリカ、ロシア、そして中国のこと。しかも中国は、今年のはじめに月の裏側(「影」の部分ではない)に着陸している。

しかしBeresheetは、月面に軟着陸する最初のプライベートな事業となるはずだ。さらに、単に私的に計画され、資金が集められただけでなく、その開発と打ち上げも、民間企業によって成し遂げられた。これは地球規模の宇宙開発コミュニティの威力を示すもの。費用も1億ドル(約110億円)未満で、非常に安価だ。

すべてがうまくいくと仮定すると、着陸船はMare Serenitatis、つまり「晴れの海」に着陸し、数日間、周辺を探査する。いくらかの実験装置を積んではいるが、着陸船はその後まもなく動作を停止する。着陸後の動作は、それほど重要ではなく、長期的なものでもない。

つまりこのミッションでは、科学は二次的な目標に過ぎないのだ。Beresheetの打ち上げは、まず第1に国家の威信と、イスラエルの宇宙開発コミュニティの発展のため。そしてその目的のためには、すでに成功を収めたことになる。着陸船は、もうすぐ月面に向かって降下を始める。お楽しみに。

画像クレジット:SpaceIL

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

高く舞い上がる宇宙開発ベンチャー

宇宙開発ベンチャーへの投資額は、近年成層圏にも届きそうな勢いで跳ね上がっている。しかも、この分野の投資家たちは、まだまだ高まるばかりだと踏んでいる。

資金調達額が急上昇した最新の例としては、衛星インターネットのスタートアップOneWebを挙げることができる。打ち上げの成功を受けて、銀河規模とも言える12億5000万ドル(約1375億円)のベンチャー資金ラウンドの調達成功を発表した。今回の資金調達には、気前の良さで知られるソフトバンクをはじめとする多くの投資家が名を連ねている。その結果、このバージニア州アーリントンにあるOneWebは、これまでの合計で巨額の34億ドル(約3740億円)の投資を獲得した。

しかし当然ながら、OneWebが最近の大規模な投資を引き出した唯一の宇宙開発関連企業というわけではない。この分野への大規模な投資をまとめたCrunchbase Newsは、ベンチャーキャピタルからの注目を集め、巨額の資金も引き出した企業のリストを掘り起こしている。その中には、2018年以降に5000万ドル(約55億円)以上の資金を確保した、五指に余る会社が含まれている。

魅力はどこにあるのか? しばしば繰り返される話だが、初期段階だった企業が成熟するにつれて、スタートアップ投資担当部門による査定額が上昇していることが大きく影響している。これは、投資家グループSpace AngelsのCEO、Chad Anderson氏の意見だ。

「参入に対する抵抗は、2009年に消えました。それはSpaceXが、低コストかつ透明な費用による打ち上げを何度も成功させたからです」と、Anderson氏は言う。「Planet(※以前のPlanet Labs)のような真に草分け的な企業が、2013年以降、新たな宇宙へのアクセスを活用できるようになったこともあります」。

今では、5〜6年前に立ち上げられた宇宙開発関連の企業は、スタートアップの基準からすれば中堅企業となり、より大きな、後半の投資ラウンドの時機が熟している。

近年、衛星の設計と打ち上げに関する費用の経済性が向上したことも、投資家に対する大きな説得力となっているのは確かだ。衛星は、設計、製造、打ち上げのための費用として、以前は数億(または数十億)ドル(数百億〜数千億円)もかかっていた。今日では、小型衛星なら数万ドル(数百万円)で製造し、数十万ドル(数千万円)で打ち上げることができるようになった、とAnderson氏は説明する。

ベンチャー投資家は、そうした計算を好むものだ。Space Angelsの見積もりによれば、ベンチャー投資家のファンドは、過去10年間で宇宙産業に約42億ドル(約4620億円)投資した。そのうちの70%は、ここ3年間に集中しているのだ。

そしてさらに多くの投資会社が、この分野に参入しつつある。Anderson氏の計算によれば、上位100社のベンチャーキャピタルのうち40%強の会社が、少なくとも1件以上の宇宙関連投資を行っていることになる。こうした投資は、2つの領域に集中している。衛星と打ち上げ技術だ。特に小型衛星をターゲットにしたものが多い。

資金がどこに向かっているのかを確認するため、昨年以降に大きな資金調達を達成した宇宙開発関連企業を、以下の表にまとめてみた。

宇宙開発企業が多大なベンチャー投資を生み出している一方で、それほど多くのスタートアップがエグジットを達成しているわけではない。それもまったく驚くに値することではないだろう。典型的なベンチャーのスタートアップからエグジットまでのタイムラインを当てはめて考えてみれば、それも納得できるはずだ。仮に、投資を受けたスタートアップが、2013年ごろに創立されたものとすれば、これから数年後には、いくつかエグジットが期待できるだろう。

しかし、ベンチャーキャピタルからの支援を受けた宇宙開発関連企業の中で、最も有名、かつ先駆的な役割を果たしているイーロン・マスク氏のSpaceXは、まだ株式を公開していない。これは注目に値する。もちろん、Spacexの知名度、業績を考えれば、ブロックバスター的なIPOを実現しても不思議ではない。

それでもAnderson氏は、それはありそうにないことだと主張している。この先だいぶ時間が経ってもだ。1つには、マスク氏が考える会社の究極の目標が、火星を植民地化すること、という事実がある。それは、株式を公開している一般的な会社の責務とはうまく合致しない。つまり、四半期ごとに会計の帳尻を合わせるといったことは難しい。さらにマスク氏が、テスラでのやり方に関して、すでに規制当局との関係をこじらせていることも、プラスには働かない。

それでもSpaceXは、その壮大な野心を追求する過程で、他の多くの宇宙開発起業家の発射台としても機能してきた。ここに、SpaceXの卒業生を創立者、またはコアメンバーに持つ9つのスタートアップをリストアップしてみた。

火星の植民地化というのは、リスクの高い賭けには違いないが、地球上で宇宙開発関連企業がエグジットを果たす可能性は、より高いものになってきている。

※PlanetとSpaceXは、Space Angelsのポートフォリオ会社

画像クレジット:John Devolle

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

成功すれば宇宙産業を変革 、SpaceXの超大型ロケット「Falcon Heavy」

Falcon Heavyは1年前に飛行テストに成功しているが、米国時間4月7日の日曜に予定されているのは、本番の商用衛星打ち上げだ。ライバルの宇宙企業は固唾をのんで成否を注視している。SpaceXの新ロケットが成功すれば、大重量のペイロードを経済的かつ頻繁に軌道に送り込むことできる時代の幕開けとなる。我々は打ち上げを、(ロケット発射場の)ケープ・カナベラルの現場から報じる予定だ。

来る4月7日(日本時間4月8日の月曜)に予定されているFalcon Heavyの打ち上げは、昨年2月のテスト成功以来、初の飛行となる。テスト飛行のときのペイロードはイーロン・マスク愛用の電気自動車、赤いTeslaロードスターでデビッド・ボウイの曲をBGMにダミー宇宙飛行士のスターマンがハンドルを握っていた。今は火星軌道を過ぎているはずだ。この成功によりSpaceXはローンチ・カスタマーを獲得できた。日曜の打ち上げはロッキード製のArabsat-6A通信衛星を静止軌道に送り込む予定だ。下は昨年、私(Coldeway)と同僚のEtheringtonがFalcon Heavyのテスト打ち上げを取材したときのものだ。

今日の地上テスト噴射も成功しているので天候に問題がなければ打ち上げは予定どおり実施されるはずだ。SpaceXのCEOであるイーロン・マスク氏もツイートしているとおり、今回のFalcon Heavy Block 5(つまり商用バージョン)はオリジナルに比べて推力が10%アップしているという。つまり安全率もそれだけ向上しているとみていいだろう。

なぜFalcon Heavyは宇宙産業にとって非常に重要なのか?アポロ計画の成功以来、何百トンという衛星が地球周回軌道に(あるいはそれを超えて)打ち上げられている。簡単にいえばFalcon Heavyが革命的なのは打ち上げ費用だ。

衛星打ち上げはそれ自身きわめて複雑、困難な仕事であり、重量と軌道高さが増えると難しさは指数関数的に増大する。ロケットの素材、燃料が大きく進歩したことは、中型、小型のシステムに最大限のメリットをもたらした。ミニ衛星、マイクロ衛星はきわめて安価に可能となり、われわれは何千もの小型衛星のネットワークが地球を取り囲む新しい時代の入り口に差し掛かっている。

Rocket LabのElectron(使い捨て)やFalcon 9(再利用)などのシステムは中小型衛星の打ち上げコストをそれまでの何分の1にも引き下げた。

しかし大重量の衛星を高い軌道に打ち上げる能力がある大型システムのコストは依然として極めて高価なままだった。多数の小型衛星10トンぶんを軌道に投入することはスタートアップにも可能になったが、100トンを打ち上げる能力は依然として超大企業に限られる。

Falcon Heavyは大型衛星の打ち上げコストをミニ、マイクロ衛星並みに引き下げられる可能性を初めて示したシステムだ。Falcon Heavyのコストは1億ドル前後と推定されている。これは小銭とはいえないが、ライバルのDelta IVが3.5から5億ドルすると考えられているのに比べれば画期的に安い。

これほどの価格引き下げはあらゆる宇宙事業を根本的に変える。NASAは同じ費用ではるかに多くの惑星探査ミッションを実行できるだろう。もちろんDelta IVの打ち上げ実績は優秀で、過去15年以上にわたって100%の打ち上げ成功率を誇っている。この信頼性がDelta IVのプレミアム価格の理由の一部となっている。しかしFalcon Heavyが実績を積めば状況は変わってくる。

Delta IVの打ち上げ(2016)

大型衛星の打ち上げは(ミニ衛星の場合も同様だが)、 極端にサプライサイド優勢だ。つまり打ち上げ能力が最大の制約要因となっている。政府や巨大企業は衛星(ないし惑星探査機)打ち上げの順番を待つために何年も行列に並んでいるのが現状だ。SpaceXではFalcon Heavyのペイロード・スペースをロケットが製造される端から埋めていくことができる。Flacon Heavyの中央本体は使い捨てだが、両側のブースターは再利用可能だ。これはライバルに比べてはるかに大きな供給能力を約束する。Falcon Heavyが成功すれば巨額のビジネスとなるだけでなく、その影響は宇宙産業全体に及ぶだろう。

低軌道への衛星投入50トン以上というFalcon Heavyの能力には、今のところライバルがほとんどいない。しかしこの閾値の下は競争が激しい。ロッキードとボーイングの共同事業であるULA、EUの宇宙事業、Arianeをはじめ、ロシア、中国、さらにはジェフ・ベゾス氏のBlue Originのようなスタートアップも低価格の次世代衛星打ち上げシステムの開発に全力を挙げている。この宇宙事業の将来も我々にとって重要な課題だが、詳しく論じるのは別の機会に譲りたい。

現時点ではFalcon Heavyは桁外れの打ち上げシステムだ。能力を高めたほか、大きくコストを引き下げ数多くの宇宙事業を手の届くものにするというのは、野心的であるだけでなく歓迎すべきビジョン。現地時間日曜の打ち上げはこの変化が起きる瞬間を目撃するチャンスになるかもしれない。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

日本の「はやぶさ2」が小惑星を銃撃して穴を掘る

打ち上げあり、テストあり軌道確保ありで忙しかった4月4日の宇宙に、今度は宇宙銃で小惑星を撃ってクレーターを作り、その中を調べるという遠隔探査が始まる。それをやってのける日本の探査機「はやぶさ2」は、「りゅうぐう」と呼ばれるオブジェクトからの標本回収という野心的なミッションに挑み、今のところ立派に成功している。

2014年に打ち上げられた「はやぶさ2」は、「りゅうぐう」の近傍に数カ月いて、一連の調査を行った。4基の小さな着陸装置があり、2つが昨年投下されて、その小惑星の上で楽しげに遊んでいる〔マーカーのことか?〕。

2月には本体が表面にタッチダウンして、大量の埃を舞い上がらせたが、衝突装置(SCI、Small Carry-on Impactor)がその小さな手荷物であるインパクター(衝突体)を秒速2キロメートルで撃ちこむというアナログなクライマックスはまだこれからだ。下のビデオは、地球上の実験で「りゅうぐう」に似た物質を銃撃したテストだ。

重力がとても小さい小惑星に、何が起きるだろうか。埃や岩石の小片が舞い上がるだろう。着陸したロボットたちはずっと離れたところにいるから、デブリのシャワーを浴びることはない。

その後、正確に言うと数週間後に、着陸装置と「はやぶさ2」本体は、新しいクレーターと埃や、銃撃で露出した岩石の層を調べる。標本を採取した船体は、今年後半に帰還する。

このクレーター生成オペレーションは米国時間4月4日夜、 日本時間4月5日午前中に行われる。画像はすぐに送られて来るだろう。チームはすでに、「りゅうぐう」の素晴らしい画像を大量にポストしている。その中には、子どもたちが描いた絵もある。太平洋時間4日午後6時には、下のビデオで実況放送も始まる。

この宇宙船が今何をしているか、いつ何どきでも知りたいという好奇心旺盛な人は、このHaya2NOWWebアプリケーションをチェックするとよい。このページは、受信したデータを直ちに視覚化して見せている。とっても便利なサイトだね!

画像クレジット: JAXA

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

Amazonが衛星ブロードバンドに参入、SpaceXやOneWeb、Facebookも計画

Amazon(アマゾン)は地球低軌道に衛星コンステレーションによる高速インターネット網を構築する計画があることが、明らかになった。

GeekWireによれば、Amazonは3236個の人工衛星をKuiper Systemsの名のもとで打ち上げるため、米政府に資料を提出している。

Amazonは声明にて、「Project Kuiperは地球低軌道に衛星コンステレーションを構築し、低レイテンシかつ高速なブロードバンド接続を遠隔地に提供する」と伝えている。「これはブロードバンドインターネットへの接続方法がない数千万人のための長期的なプロジェクトだ。今後は、目的をともにする企業との提携を楽しみにしている」

地球を周る人工衛星

 

なお、プロジェクトの名称は惑星科学にて大きな業績を残した、米天文学者のジェラルド・カイパー氏から取られている。

また、人工衛星を利用した高速インターネットの提供は、大きな利益をもたらすものと推測されている。なぜなら、現在も地球上では38億人がインターネットにアクセスできていないからだ。

今年2月には、同じく衛星ブロードバンドサービスを計画しているOneWebが初の人工衛星を打ち上げた。同社は、Virgin、コカ・コーラ、Bharti Groupなどから30億ドル(約3300億円)の出資を受け入れている。

SpaceXも衛星ブロードバンドを計画しており、打ち上げロケットを所有していることから他社より優位な位置につけている。同社はStarlink計画として1万1000個の人工衛星を打ち上げる予定で、すでにプロトタイプの人工衛星を2機打ち上げている。

さらにFacebook(フェイスブック)も、衛星ブロードバンドサービスを計画している。IEEE Spectrumが公開した5月のレポートによれば、同社はPointView Techのもと、SpaceXのStarlinkよりも10倍高速なインターネットを提供する人工衛星「Athena」を開発している。

AmazonのKuiper計画は、人工衛星の打ち上げ用ロケットを開発しているジェフ・ベゾス氏のBlue Originを補完するものでもある。

それだけでなく、Blue Originは光回線レベルの衛星ブロードバンドサービスを計画しているTelesatとも、複数回のロケット打ち上げについて契約を交わしている。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

SpaceXが「Starhopper」の初ホップテストを係留状態にて完了

SpaceXは米国時間4月3日の夜、宇宙船「Starship」のプロトタイプを利用した、初となる係留状態でのジャンプ(ホップ)テストを完了した。

限定的なホップと着陸のテストに用いられる「Starhopper」はテキサスのボカ・チカに設置された射場にて、ロケットエンジンが機体に装着された状態でのはじめての点火試験(スタティック・ファイア・テスト)を実施したことになる。

今回のホップテストは、再使用が可能な商業ロケット「Falcon 9」の開発の経過に類似している。その際にはGrasshopperとF9R Devが使用され、Falcon 9の開発に大いに貢献した。今回のStarhopperのテストも、惑星間を旅するStarshipへと連なるものとなるはずだ。

StarhopperはStarshipの小型版プロトタイプだ。Starshipは2022年までの無人での初飛行を予定している。イーロン・マスク氏によれば、Starshipの有人初飛行はZOZOTOWN率いる前澤氏の月旅行として2023年に実施される。さらに、有人火星飛行を2024年に実施し、2028年には火星基地を建設する予定だ。

Starhopperは今年1月に披露され、それ以来さまざまなコンポーネントがテストされてきた。最新のニュースとしては、宇宙船が大気圏に再突入する際に、圧縮熱から機体を守るヒートシールドのテストの模様が公開されている。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter