アイルランドのデータ保護委員会(DPC)は、長期戦となっているFacebook(フェイスブック)による国際的な個人データ転送をめぐる訴訟を直ちに解決させることに合意した。これにより数カ月後には、FacebookはEU域内から米国へのデータ転送を停止せざるを得なくなる可能性がある。
プライバシー活動家であるMax Schrems(マックス・シュレムス)氏が2013年に提出した同訴状は、NSAの内部告発者Edward Snowden(エドワード・スノーデン)氏によって暴露された、米政府の知的機関が大規模な情報監視プログラムの下、Facebookユーザーのデータにアクセスしているという事実とEUのプライバシー権の衝突が発端にある。
シュレムス氏が率いるプライバシー保護団体であるNoybは、同氏の申し立てを中断して新たな訴訟手続きを開始するという決定に対して2020年に提訴したが、やっとのことでその司法審査のプロセスを最終化させ、迅速にシュレムス氏の申し立てを解決すべくDPCは取り組むこととなった。
Noybによると、アイルランド高等裁判所が調査の開始を許可した場合、和解という条件下でDPCの「独自の決断」による手続きとしてシュレムス氏のヒアリングが行われ、また同氏はFacebookによるすべての提出物にアクセスすることが可能となる。
当初の申し立てを再検討する以前にFacebook独自の司法審査の高裁判決を待つとDPCが決定した場合には、さらなる中断が起きる可能性があるとNoybは認識しているものの、シュレムス氏は7年半という長期にわたる訴訟は最終章に向かっており、今後数カ月以内に決着がつくのではないかと予測している。
シュレムス氏は現状を「もどかしいが最大限の可能性がある」と表現し「アイルランドの裁判所は期限の設定に消極的ですが、DPCはそれを利用してタイムラインが見えないと言い続けていました【略】アイルランドの法の範囲内で最大限に強い『迅速な』解決という決断を今回得ることができました」と同氏はテッククランチに語ってくれた。
この訴訟に対する最終的な決定がいつ下されると思うかと質問すると、早ければ2021年の夏だが、現実的には秋頃になるだろうと同氏は答えている。
シュレムス氏は自身の申し立てに対するDPCの対処方法や、さらにはペースの速い巨大テック企業と対照的なスピード感に欠ける政府の執行力に対して声高に非難し、アイルランドの規制当局は、シュレムス氏が申し立ての中で要求したように単にFacebookにデータ転送を停止するよう命じるのではなく、EU域内から米国へのデータ転送の仕組みの合法性についてより幅広く提起している。
この一連の訴訟はすでに莫大な影響力を及ぼしている。2020年の夏、欧州司法裁判所は、個人情報保護においてEUと同等の基準を米国が満たしていないと判断し、EUと米国間のデータ転送の取り決めを取り消すという画期的な判決を下している。
また欧州司法裁判所はデータが危険にさらされている場合にはEUのデータ保護規制当局が介入して第三国への転送を停止させる義務があることを明確にしており、アイルランドの法廷に事態を正すよう促している。
DPCに最新の進展についてコメントを求めると、本日中に回答するという答えが返ってきたため、それについてはまた更新したいと思う。
EUの一般データ保護規則(GDPR)に基づくFacebookのデータ規制当局であるDPCは、欧州司法裁判所による画期的な判決を受けて、2020年9月には同社に対してデータ転送を一時停止するよう予備命令を出している。
しかしFacebookは即座に反撃し、7年以上続く訴訟であるのに関わらず、DPCによる命令は時期尚早だとしている。
Noybは本日、Facebookが今後もアイルランド高等裁判所を利用してEU法の施行を遅らせようとするだろうと述べている。またFacebookは2020年、EUと米国間でデータ転送を行なっている数多くの企業に影響を与える問題の政治的解決策を考え出すために、また米国の新政権がこの問題に対処するための時間稼ぎのために、法廷を使って議員に「合図を送って」いることを認めている。
しかし、Zuckerberg(ザッカーバーグ)氏が場当たり的なこの規制ゲームをいつまで続けることができるのかといえば時間の問題だ。今後半年以内に、EUのデータ流出問題は解決を迎えようとしているのだ。
EUと米国政府間の今はなきプライバシーシールドの代替案をめぐり、EUと米国の議員はかなりタイトなスケジュールで交渉を進めて行かなければならない。
欧州委員会は2020年秋、米国の監視法の改正なしには代替案を実現することは不可能だと述べている。米国企業が必要な変更をもたらすため働き掛け、大規模な努力をしない限り、ここまで抜本的な法改正が夏か秋までに実現するとは考え難い。
Facebookは2020年、DPCに予備命令を受けた際に提出した法廷文書の中で、データ転送に対してEUの法案が施行された場合、欧州でのサービス運用を停止しなければならない場合もあると述べている。
しかし同社のPRチーフであるNick Clegg(ニック・クレッグ)氏はすぐにそれを撤回。その代わりに「パーソナライズド広告」はEUにおけるポストコロナの経済回復に必要不可欠であると主張し、データに深く依存したビジネスモデルに対して好意的に見るようEUの議員らに呼び掛けた。
しかし、巨大テック企業にはさらなる規制が必要であり、緩和は必要ないというのが欧州連合の議員間の総意であった。
それとは別に、現在、Bobek(ボベック)法務官の意見に沿ったものであれば、欧州司法裁判所にとって影響力の強いアドバイザーの意見が今後の欧州でのGDPRの施行スピードに影響を与え得る可能性がある。国際的なケースを扱うためのGDPRのワンストップショップメカニズムの結果として起きている、アイルランドのような主要な管轄区域での障害に同氏が目をつけているとも受け取れるからだ。
ボベック法務官は国際的なケースを調査する主管規制当局に能力があるとする一方で「データ保護における主管当局は国際的なケースにおいてはGDPRの唯一の執行者とはみなされず、GDPRが定める関連規則と期限を遵守して、この分野でその意見が重要とされる関連する他のデータ保護当局と緊密に協力しなければならない」と記している。
同氏はまた「緊急措置」の採用を目的とする場合や「データ保護当局が事案を取り扱わないことを決定した後」に介入する場合など、各国のDPAが独自の訴訟を起こすための具体的な条件を提示している。
法務官の意見を受け、DPCのGraham Doyl(グレアム・ドイル)副長官は次のように述べている。「我々と協力関係にあるEUのDPAとともに、我々は法務官の意見に留意し、関連するワンストップショップ規則の解釈という点で裁判所の最終判決を待つこととします」。
アムステルダム大学でデータプライバシーのポスドク研究者を務めるJef Ausloos(ジェフ・オースルース)氏に法務官の発言についての見解を求めたところ、この意見は「実際の保護と執行がワンストップショップメカニズムによって損なわれる可能性があることを明確に認識したもの」だという。
しかし同氏によると、DPAが主管規制当局を回避するための新たな道が法務官の意見から見て取れたとしても、短期的には何の影響力もないとのことだ。「長期的な場合に限って、変化に向けた道は開けていると思います」と同氏はいう。
画像クレジット:TechCrunch
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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)