スタートアップの不安、スタートアップの大志

リキャピタリゼーション。レイオフ。スローダウン。CEOの交代。予算カット。規模縮小。

この数カ月間で、スタートアップの大型エグジットがいくつも達成され、米国時間2月25日にはIntuit(インテュイット)が71億ドル(約7830億円)でCredit Karma(クレディット・カルマ)を買収するというフィンテック界の輝かしい瞬間も迎えたが、スタートアップの世界では厳しい状況が続いており、方々でレイオフが行われている。その中心はおそらくソフトバンク・ビジョン・ファンドのポートフォリオだが、それに留まるどころの騒ぎではない。評判も悪く、知名度もないスタートアップは、どんどんシャッターを下ろしている。しかも、2020年の投資家たちの心情を左右するであろう新型コロナウイルスのようなグローバルでマクロな懸念をそこに織り込む余地すらない。

スタートアップの世界は、少々停滞し始めている。可能性が消えそうだという感覚がある。作ろうと思ったものはみな、すでに作られていて、技術そのものは世間の冷たい目で監視され、イノベーションはままならない。

多分、すべて本当だろう。しかしやれることは、まだまだたくさん残ってる。

どの経済セクターも、今なお抜本的な立て直しを必要としている。医療はまだほとんどデジタル化されていない。パーソナル化も一切されておらず、根拠に基づく、またはデータに基づく医療もほとんど進んでいない。住宅やインフラの建設コストはうなぎ登りだが、エンドユーザーが受ける利益は実際にはほとんどない。学資ローンの債務危機に苦しむ人たちも大勢いるというのに、学校制度は100年前からほとんど変わっていないように見える。

気候変動によって地球がますます浸食される中、数十億の人たちがインターネットを利用して産業と知識の経済圏に加わるようになり、先進国と同じ利便性を求めている。地球上のすべての人たちに空調、住宅、交通、医療などなどさまざまなものを提供するには、どうしたらいいのか。私たちは、二酸化炭素排出量を削減しつつGDPを100倍にしなければならない。数十億の人たちが我々を頼りにしているのだ。

組織の中において、私たちはデザイン、データ、意志決定をうまく組み合わせて製品のイノベーションと成長を生み出す方法を、ようやく理解し始めたところだ。昨日、私は、同僚のJordan Crook(ジョーダン・クルック)の目を通して見たデザイン界の変遷に関する記事を読んで、プロタイピング用のツールについて記事を書いた。たしかに、ツールは良くなっている。だが、無数の人たちが努力することなくデザインできるようになったとしたら、どうなるだろう? または、無数の人たちがコーディング不要のプラットフォームをもっと広く利用するようになったら、何が起きるだろうか? 我々は何をすれば、そうした人たちの創造力を後押しできるだろうか?

デジタル製品での一般的な体験を考えてみるのもいい。スマートフォンは高速になった。そのカメラで撮影できる写真も高精細になった。それでいて、手に持ったときの質感は変わらぬままだ。だがそれは本当の意味で、さまざまな利便性をきれいに融合させているだろうか? 私は今でも、ファイルの同期、電子メールのチェック、カレンダーへのランチミーティングの予定のリンクを行い、指で前後にフリックするときに細かい見落としがないか気をつけている。毎日のソフトウェアの利用がすっかり日常化したことで、特に指導を受ける必要もなく現代の技術で簡単に行えることを、笑えるほど初歩的なツールでやっているという現実に気づかなくなっている。

データもしかり。ビジネス、娯楽、行政におけるデータ革命は、ようやく幼年期を迎えたあたりだ。データは、大企業の周囲には散乱しているようだが、それが意志決定に何らかの影響を与えるまでには、今日でもほとんどなっていない。データをもっと効率的に利用できるようになったら、何が起きるだろうか? 今の無骨なビジネスインテリジェンスツールよりも高速にデータを調査できたとしたら、どうだろう? データの最適な調査パターンを、地球上のあらゆる個人が利用できるようになったとしたら、どうだろう? ごく簡単な意志決定においてすら、最善のAIモデルを即座かつ簡単に作って解決できるようになったとしたら、どうだろう?

例を挙げればきりがない。特定の市場から、コミュニティーの中のダイナミクスまで、そして社会と企業、エンドユーザーと、エンドユーザーに提供される製品に至るまで、現状はイノベーションサイクルの終点からはほど遠い。数百もの自動車メーカーと関連企業が最終的に現在のひと握りの巨大メーカーに統合されてしまった100年前のデトロイトとは違う。やれることはまだたくさんある。FAANGだけで対応できる数ではない。

適切な集団の中でさえ、何をやるべきかを知ることと、何をやらなければならないかを知っていることとの違いが、広く重大に受け止められていないのが奇妙に思える。今日、取り組む価値のある解決されていない課題は山ほどある。それは何千万もの人々の生活を支えるばかりでなく、数十億ドル(数千億円)規模の経済そのものになる可能性をも秘めているのだ。

だから、私たちは気持ちを切り替えなければいけない。私たちは、失敗したスタートアップのこと、それが成し遂げられなかった大志のことをしっかりと憶えておかなければいけない。いつ間違いが発生したのかを認識し、その煽りを受けた人たちの気持ちを考える必要がある。この業界のネガティブなニュースに蓋をしてはいけない。無視すれば、同じ過ちを犯してしまう。

とはいえ、雪崩のように押し寄せるネガティブなニュースや批判的な分析結果に立ち向かうには、ポジティブな気持ちが不可欠だ。未来を、変革を、私たち全員にまだ残っているパワーを見据えて、今すぐ方向転換をしよう。やらなければならないことが山ほどある。まだ日は昇ったばかりだ。

画像クレジットFlashpop  / Getty Images

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

イノベーションのサプライチェーン:アイデアは大陸を横断し経済を変革させる

[著者:Alex Lazarow]
公共、民間、社会分野の投資とイノベーションと経済発展の交差点で活動している。Cathay Innovationのベンチャー投資家であり、ミドルベリー国際大学院MBAプログラムの非常勤教授を務める。

西欧では、微積分を発明したのはアイザック・ニュートンとゴットフリート・ライプニッツなどの17世紀の天才学者だとする考えが一般的だが、理論的な基礎はその数千年前に遡る。基礎的定理は、紀元前1820年の古代エジプトで登場し、その後、その影響がバビロニア、古代ギリシャ、中国、中東の文献に見られるようになる。

世界最大級のアイデアとは、こうした性質を持つ。つまり、世界の片隅で生まれたコンセプトが、未来の発展の足場となるのだ。そのアイデアの本当の価値がわかるまでには時間がかかる。また、さまざまな文化や視点からのインプットも必要になる。

技術革新も例外ではない。

今日のテクノロジー界では、それを次の3つの基本方針にまとめることができる。

  • アイデアはグローバルになったときに改善される。
  • よいアイデアは次第に国際的になる。
  • グローバルに試すことが差別化戦略となる。

グローバルに拡大されたときにアイデアは磨かれる

微積分と同じく技術革新も国際的な切磋琢磨によって磨かれる

たとえばライドシェアは、サンフランシスコのUberとLyftによって先導された発明としてスタートしたが、これらのスタートアップは、すぐさまそのビジネスモデルをグローバルに展開した。そしてそれは、地方のニーズに応える形で進化した。今やインドネシアで独占的な地位を誇るライドシェアアプリ「Go-Jek」の場合を見てみよう。Go-JekはUberとLyftのビジネスモデルをそのままコピーしたのだが、そのコンセプトをジャカルタに昔からある未認可のバイクタクシー「オジェック」に適用させる高度なローカライズを行った。

Go-Jekは、オジェックのドライバーには人を運ぶだけでなく、それ以上の可能性があることに気がついた。同社はドライバーの1日の稼働率を最大限に高めるために、人の移動だけでなく、食事の出前、荷物、サービスの配送もできるマルチサービス・アプリを立ち上げた。Go-JekのCEO、Nadiem Makarimはこう話している。「朝は人を家から職場に送り、昼時にはオフィスに食事を配達し、夕方には人を家に送り、夜には食材や料理を配達します。その合間には、電子商取引や金融商品や、その他のサービスを行っています」

ひとつのライドシェア・プラットフォームで幅広いサービスを提供するというモデルは、明らかにシリコンバレーのオリジナルとは異なる。シリコンバレーでは、「Uber for X」(訳注:人以外のものを運ぶUberのようなサービスの総称)を提供する企業が次々と現れているが、UberEatsのようなUberの最新カテゴリーは、東南アジアのモデルに近い。

シリコンバレーは
イノベーションのアイデアと
製造と流通を独占してきた
しかし
その時代は終わった

さらに言えば、Go-Jekのビジョンは、他の地域のアイデアも採り入れている。中国だ。中国では、TencentのWeChatのようなプラットフォームが、相乗りサービス、買い物、食事の出前、そしてもちろん決済など、自社またはサードパーティーのさまざまなサービスを提供している。WeChatの決済機能(Antに相当する)は、中国の主要都市なら、ほぼどこでも使える。

Go-Jekは、競合相手のGrabと同様に、アプリの一部として決済プラットフォームを組み入れることで、そのモデルを進化させた。Uberが金融サービスに参入したときは驚いた。最近開始したUberクレジットカードがそのひとつだ。

これらのモデルは、他の地域の教訓を学び、採り入れて進化してゆく。

種は次第にグローバルになる

歴史的に、シリコンバレー以外の起業家は物真似だと批判されてきた。サンフランシスコやパロアルトで成功したモデルをコピーして流用しているだけだと。

時代は変わっている。

影響力の強い技術革新は、その多くがシリコンバレーの外で生まれている。アメリカ産ですらない。2018年でもっとも成功した新規公開株の一部を見ただけでも、スウェーデンのSpotify、ブラジルのStone、Cathay Innovationの投資先企業である中国のPinDuoDuoなどとなっている。

起業家は、世界各地のイノベーションを真似ることに務めている。モバイル決済を例にとれば、ケニアのM-Pesaがある。今やケニアのGDPの50パーセントに及ぶ決済額を誇る、ケニア中で使える決済プラットフォームだが、これがグローバルに展開された。現在、世界の275以上の国々に普及している。

何かに特化した地域がある。トロントとモントリオールは人工知能のハブとして成長している。ロンドンとシンガポールはフィンテックのハブとして健在だ。イスラエルは、サイバーセキュリティーと分析技術で知られている。また、地域に根ざす活動が、触媒となってそれをさらに発展させている。たとえば、Rise of the Restは、アメリカの起業家を支援している。Endeavorなどの団体は、世界の起業家のハブの発展に尽力している。

黎明期のイノベーションのサプライチェーンでは、新しいアイデアの発生は、次第にグローバル化されてゆく。

エコシステムが理想的な実験場となる

ブロードウェイは、小さな劇場でショーの人気を試し、それから大きな劇場にかけるという方式で知られている。同じようにイノベーターも、新しく生まれた市場でモデルをテストし、やがてスケールアップしてゆく。

地震の早期警戒システム「SkyAlert」は、その好例だ。地震の揺れ自体で亡くなる人は少ない。倒壊した建物に閉じ込められたり押しつぶされたりする事故が、死因の大半を占めている。理論的に地震は、震源地付近で最初に発生した揺れが外に伝搬する段階を捕らえて、早期警報を出すことが可能だ。SkyAlertは、分散された地震センサーのネットワークを使って、建物から外に避難するよう警報を出す。また、企業と協力することで、安全確保のための手順(ガスの遮断など)を自動化することもできる。

SkyAlertは、サンフランシスコ生まれではない。創設者のAlejandro Cantuは、彼がイノベーションの研究所と呼ぶメキシコシティーで起業した。初期バージョンは、商品化よりもむしろ研究開発を目的としたものだ。メキシコシティーで開発することで、製品のイノベーションのコストがずっと抑えられる。人件費は安いし、企業買収も安い。現在のメインターゲットはアメリカだが、メキシコは事業の初期段階の本拠地であり、実験場となっている。

イノベーターのコミュニティーとして
私たちはそうした流れを
活用する好機に恵まれている

シリコンバレーの技術者が、Amazonの家庭向けドローン配送の話を聞き慣れているが、それと同じように、遠くの新興市場で面白いドローン関連のイノベーションが起きていることは、あまり知られていない。インフラが未整備な開発途上国では、ドローンが人々の命を支える可能性を持っている。Ziplineなどのスタートアップは、インフラが破壊されたり、まったく整備されていない地域で、ドローンを使って一足飛びに問題を解決しようとしている。彼らはルワンダにおいて、保健省と協力しながら、日持ちのしない薬剤や血液を配送している。すでに、彼らのドローンは60万キロメートルをカバーし、1万4000ユニットの血液を運んでいる(これは緊急時の必要量の3分の1に相当する)。

起業家たちは、こうしたイノベーションを、より低コストで、需要が逼迫している市場でテストを行っている。やがて、これらのモデルはスケールを拡大して、先進国に戻ってくる。こうして、イノベーションのサプライチェーンは進化する。

この先にあるもの

Economist誌は、「Techodus」(テクオダス)を予測している。シリコンバレーからのイノベーションの大移動が続くということだ。この話には、深い意味がある。

シリコンバレーは、イノベーションのアイデアと製造と流通を独占してきた。しかし、その時代は終わった。クリエイティブは火花は世界各地で発生し、イノベーターたちは低コストで需要が逼迫した市場でアイデアを試す。そうして、そのモデルは、世界中の体験によって磨かれ完成される。

イノベーターのコミュニティーとして、私たちは、そうした流れを活用する好機に恵まれている。根底から変革に対応できる新製品のアイデアを持っているかだろうか? よろしい。それをグローバルに行える人が他にいるか? 新しいアイデアを試してみたいか? それぞれの土地での利点と欠点は何か? 海外でのイノベーションの体験を、その土地に合わせて導入するにはどうしたらよいか?

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

宇宙技術の進歩に追いつけない宇宙法が、イノベーションを殺そうとしている

【編集部注】著者のLyon Brad Kingは、Orbion Space Technologyの共同創業者であり、ミシガン工科大学の宇宙システムRon and Elaine Starr教授、ならびに機械工学-工学機械科ディレクタである。

「ディスラプション」(Disruption)という言葉は、テクノロジーの世界で特に優れた開発や製品を表現するために(過剰に)使われている用語だ。とはいえ、この言葉の本来の意味は、そのカジュアルな意味とは正反対である:ディスラプションというのは「イベント、アクティビティ、あるいはプロセスを妨害する障害や問題」のことなのだ。現在宇宙技術が経験しているのは、この両者の意味のディスラプションである。

信頼できる見積もりによれば、今後5〜7年以内に、地球の住人たちは、これまでのこの惑星の歴史の中で打ち上げられてきたものよりも、さらに多数の衛星を宇宙空間に打ち上げることだろう。これは、最も良い意味でのディスラプションだ。しかしながらそこには深刻な問題が横たわっている。その興奮を粉砕し、星への歩みを遅らせるような真のリスクに、私たちは直面しているのだ。政府の検討事項の中では宇宙政策の優先度は高くない。このため、この不幸な規制不毛状況によって、現在最もイノベーティブな企業たちの計画が、古臭く時代遅れの規則や規制で悪い意味でディスラプトされようとしているのだ。

画像:Bryce Durbin/TechCrunch

既存の宇宙政策

既存の宇宙政策についての状況を知らない人のために説明すると、広く受け入れられている国際協定である“Treaty on Principles Governing the Activities of States in the Exploration and Use of Outer Space including the Moon and Other Celestial Bodies”(月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約)は、1966年〜1967年に草案が作られ、協議され、そして署名されたものだ。一般にThe Outer Space Treaty(宇宙条約)と呼ばれているこの協定は、各国がその国から発せられる、あらゆる宇宙関連の活動に対して責任を持つことを規定している。その活動が、市民によるもの、企業によるもの、あるいは政府自身のものであるかは問われない。各国は、自国発のすべての宇宙物体を完全に管轄し、管理もしなくてはならない。

この協定に署名が行われた時点では、企業が宇宙空間で何かをしようとすることを予測できた者はいなかったということは指摘しておく価値があるだろう。ましてや企業が自分たちで衛星を打ち上げるなどということは想像することもできなかったのだ。

許可…そしてFCC

このような経緯から、米国政府が、私たちの国を起点とする宇宙活動と宇宙物体に対して責任を持っていることになるのはお分かりだろうか?このことが意味するのは、打ち上げられる全ての人物と全ての物体について知り、追跡しなければならないということだ。もちろんこれは簡単な仕事ではない。大気圏と宇宙の間に横たわるカーマンラインを、衛星が横切ろうとするときに、強制的な衛星検査を行うことは不可能だ。では、どうやってそれらを追跡するのだろう?打ち上げ前にそれらに対する許可を行うのだ。そして私たちはここで「許可」という言葉を使ったが、この言葉の大まかな意味は「政府の官僚的巨大泥沼」というものだ。

現在のシステムでは、FCC(Federal Communications Commission:連邦通信委員会)から許可を得ることになる。だがこれは奇妙な話だ。「人工衛星」について考えたときに、適切な専門機関としてFCCがまず心の中に浮かぶだろうか。ここでの理屈はこのようなものだ。もし何らかの物体を宇宙に打ち上げることを計画しているのなら、もちろんそれと何らかの通信をすることを計画している筈だ…命令を送信したり、あるいはデータを受信したり…そしてそれにはある無線の周波数の利用が必要で、それを調整しているのがFCCなのだ。ともあれFCCに連絡すれば、「車検」を実施してくれて、許可証を衛星のお尻に貼り付けてくれるというわけだ。

問題は、FCCが現在、衛星に関連するすべてのもののゲートキーパーになり、無線周波数とは関係のない多くの検査項目にまで手を広げていることだ。例えば、FCCは、すべての許可申請者に対して、衛星が地球の大気に再突入するときに、負傷または損害を引き起こさないことを証明することを要求する。そうした計算に、複数の疑わしい前提や曖昧な数学が含まれていたとしても不思議はないだろう。そしておそらくは他の機関(NASAとか?)の方が、こうしたことを上手くチェックできるのではないだろうか。

多くの検査項目の中でも特に、FCCは打ち上げ許可申請者に対して、衛星が宇宙で常に監視下に置かれて他の衛星との衝突の可能性を予見できるように、「追跡可能」であることを証明することを要求する。これこそが、人工衛星製造業者であるSwarm Technologiesがその小さいSpaceBee衛星を、IoT世界のディスラプトを狙って申請を出した際に、FCCから妨害(ディスラプト)された理由なのだ(この2つのディスラプトの違いがおわかりだろうか?)。 それらの衛星はこれまで軌道に乗せられたいかなるものよりも小さい(うらやましいほどのイノベーションだ!)、だがそれ故にFCCはそれらが衛星の追跡に使われる通常のレーダーでは見ることができないと結論付けたのだ。許可は下りなかった。これは混乱を招いている、なぜならより小さな衛星が、これまでも同じ機関によって打ち上げ許可が行われてきたからだ。

スタートアップの行く末

論理的な道筋は、FCCにへつらいながら合法的な許可を懇願することである。これは、巨大な航空宇宙企業が、衛星を10年かけて開発していた過去に行われていたことだ。しかし数ヶ月のうちに小さな衛星を開発するディスラプティブなスタートアップの身になって考えて欲しい。ベンチャーキャピタルからの資金をゼロに向かって一定の勢いで食いつぶしながら、自分自身の宇宙における技術が、次の大金を生み出すことを実証しなければならないのだ。FCCの受付で番号をとって順番を待ち続けていたとしたら、おそらくその結果は、許可証が破産した会社の住所に届くことになることが多いだろう。

こうした見通しに直面すれば、野心的で大胆なスタートアップたちが、限界を押しのけて、許可なしで運用した場合の罰則がどれほど厳しいものかを試してみたくなる誘惑に駆られることは疑いがない(そして実際、その手段がSwarmチームによって実行されたようだ)。現時点では、その行く末がどうなるかは誰にもわからない。最悪の場合、挑戦したスタートアップのビジネス全体を破壊してしまうだろう。だがいつまでかかるかわからないFCCの再審査プロセスのことを思えば、いずれにせよ破産は免れそうにない。

だが興味深い別の選択肢が存在している:企業はその衛星を別の国に輸出し、その国での宇宙許可プロセスを申請するという方法だ。だが言うまでもなく、米国企業が技術をオフショアにしようとする際に直面する連邦規制は、私たちが喜んで取り組みたいものではない。ああそれに、衛星を輸出するための法律はそれはもう面倒くさいもので、それに比べたら打ち上げ許可申請などは国立公園の入場チケットを買う程度の手間だ。

Made in Spaceによって開発されたロボットシステムArchinautは、衛星、宇宙船、あるいはその他の大型機器を、ゼロ重力下で製造、組み立て、そして修理することができる。

新しい宇宙時代のために壊れたシステムを直す

どのように壊れたシステムを直せばよいだろうか?すぐに国際条約を改正できるとは思えないので、宇宙条約によって定められた内容に規定され続けることを想定することが安全だろう。可能性のある政府による対応の1つは、既存の政策や法律の適用をより厳格にすることであり、違反者には手厳しい罰則が科されるというものだ。だがこうすることで予想される事態は:エキサイティングで新しいアイデアに取り組むスタートアップたちは窮地に追い込まれ、旧来の宇宙巨大産業たちは影響を受けないという結末だ。反対に、政府は厳格な姿勢とは反対を向き、単に軽い罰則を与えるだけで済ませることもできる。だがこのやり方はより多くの危険で極端な規制違反を招くことになり、責任ある宇宙関係者たちにとってただ危険なものへと結びつく可能性がある。

宇宙条約があるために、米国は常に、米国内から打ち上げられる全ての衛星を監視し追跡することが求めらる。FAA(Federal Aviation Administration:アメリカ連邦航空局)によって提案されているコンセプトもある、これは各衛星に無線ビーコンの搭載を必須とするもので、海上の船舶のように自分自身を識別情報を発信させる。これまでのところ、こうしたことはただ議論されているだけで、実行されているものは何もない。そうしている間にも、新しい宇宙違反者たちは、規制の壁を押し続け、旧来の企業たちは礼儀をしらない若造たちの無礼に激怒することになる。混乱を鎮めるための唯一の解は、新しい探求者たちに、自己組織化と自己警察の機能を任せてしまうことなのかもしれない。

いずれにしても、私たちは地球周回衛星だけにとどまることのない、宇宙政策と規制に対する先見的なアプローチを取ることが、強く求められている。もしこの先政府が、広範な商業活動に拡大可能な、包括的宇宙政策の必要性を無視し続けていた場合には、法的に致命的な、市民、商業、あるいは国際的な紛争が宇宙で起きるのは時間の問題だ。

[原文へ]
(翻訳:sako)

Boxが語るイノベーションへのアプローチ

毎日使っているソフトウェアとサービスが、どのように作られているのかを真剣に考える人はとても少ない。ただアクセスしたいときにそこにあり、ほとんどの場合うまく働いてくれると思っているだけだ。しかし会社というものは、ただ闇雲に出現したり拡大しているわけではない。イノベーションを続けるためにはきちんとしたプロセスと方法が必要だ、もしそうでなければ長続きはしないだろう。

Boxは、2005年の創業以来成長を続け、その年間収益は5億ドルを超えるまでになった。成長の過程で同社は、その中心を消費者むけのものから、企業のコンテンツマネジメントへとシフトした。そしてオンラインとファイル共有が主力サービスだったプラットフォームを拡張し、さまざまなコンテンツサービスをクラウドの中で提供するものとなっている。

私はつい最近、プロダクトならびに戦略責任者のJeetu Patelと話をする機会をもった。Patelの仕事の大きな部分を占めているのは、同社の開発チームを維持すること、そしてBoxプラットフォームを強化し、新しい顧客を引きつけ、収益を増加させる新しい機能に集中することだ。

基本的な考え方

問題を解決しようとする前に、まずその問題に取り組む適切な人びとのグループが必要となる。Patelによれば、チームを構築のためには、製品とチームの開発の指針となるいくつかの主要原則がある。それは、イノベーティブなソリューションを生み出し、資金と人員という意味でのリソースをどこに投入すべきかに集中させてくれる、ルールと行動基準から始まる。

図表:Box

イノベーションに関して言えば、市場の変化する要件に対応できるようにチームを構成しなければならず、今日のテクノロジー業界ではアジャイル(敏捷)であることが、これまで以上に重要だ。「チームに邪魔が入らず、十分なスピードと自律性が与えられるような、正しい構造を得るためには、イノベーションエンジンをチーム、モチベーション、人材採用の視点から構築しなければなりません」とPatelは説明する。

そして、顧客と市場を十分に把握する必要がある。そのためには、市場の要求を絶えず調査し、その要求に応えるためのプロダクトと機能の構築を目指さなければならないし、それらの賞味期限にも気を配らなければならない。

顧客から始めよう

Patelによれば、つまるところ、同社はそのプロダクトの不備な点を埋めていくことで顧客の役に立ちたいのだと言う。企業理念の観点の中心から眺めるとき、それは顧客から始まる。ひょっとすると、それは顧客への迎合を意味しているように聞こえるかもしれないが、ゴールを心の中にしっかり持てば、それが全体プロセスのための指標として働いてくれると彼は語る。

「私たちは心に持つ中核理念を元に、企業の中で働くひとたちの全てが、顧客の問題を起点に逆算して働くように仕向けなければなりません。しかし、その戦いの90%を占めるのは、解くべき正しい問題を選び出すことです」と彼は言う。

難しい問題を解決しよう

Petelは、解くべき問題の品質がプロジェクトの成果物の品質に直接比例すると強く信じている。その一部は、実際の顧客の苦労を解決することだが、エンジニアたちに挑戦することでもある。簡単な問題なら、ほとんどの場合には首尾よく解決することができる。しかし、その場合には最高のエンジニアリングの才能をもつ人たちを集める必要はない。

「もし多くの使命と目的を伴う真に難しい問題を考えていれば、本当に最高のチームを引きつけることができるのです」と彼は言う。

これは多くの価値を追加できる問題を探すことを意味する「あなたが時間を費やすために選ぶ問題は、現在市場に存在するものに対して10倍もの価値を独自に提供できるものでなければなりません」とPatelは説明する。もしそのレベルに達していないなら、顧客を動かす動機を与えることはできず、従って追求する価値のないものだと彼は信じている。

小さなチームを作れ

大きな問題を特定することができたら、その問題への取り組みを始めるためのチームを作る必要がある。Patelはチームを管理可能な大きさに保つことを推奨する、そして彼はAmazonの「2枚のピザチーム」アプローチの信奉者である…つまり2枚のピザでまかなえる8人から10人ほどのチームということだ。チームが大きくなりすぎると、調整が難しくなり、革新ではなく計画に時間が浪費されすぎるようになる。

「はっきり定義された程よい大きさのミッションを持つこと、そうしたミッションを遂行するための(小さな)チームを持つこと、そしてそうしたチームが敏捷性を保てるように大きくなりすぎないようにすること。そうしたことがプロダクトを開発する上でとても大切なコア運用原則です」とPatelは言う。

会社規模が拡大するに従って、それはさらに重要になる。そのための鍵は、成長するに従って、少数の大きなチームではなく、多数の小さなチームで構成されるような組織にしておくということだ。そのようにすれば、チームミッションをより正確に特定できる。

Box製品の開発

Patelは、Boxで新製品を最終的に構築する際には、4つの重要な領域を見ている。まず第一に、それはエンタープライズグレードでなければならない、すなわち安全で信頼性が高く、スケーラブルでフォールトトレラントといった特性が必要なのだ。

もちろんそれが第一だが、コンテンツマネジメント市場で、これまでBoxを特別なものにしてきたのは、その使いやすさだ。彼はそれこそが、ソフトウェア主導のビジネスプロセスから、多くの障害を可能な限り取り除くものだと考えている。

次に、企業内のプロセスをインテリジェントにしようとすることで、コンテンツの目的を理解することになる。Patelによればそうした検討には、より良い検索 、コンテンツのより良い表出、そして、企業内のワークフローを通じてそのコンテンツを移動させる自動トリガーイベントなどが含まれると言う。

最終的には、それがワークフローの中にどのように収まるかを見ることになる。なぜならコンテンツは、企業内の空洞の中にただ置かれているわけではないからだ。それは一般的に明確な目的を持ち、コンテンツ管理システムは各コンテンツを目的のためのより広いコンテキストの中に、容易に統合できなければならない。

2回測定せよ

これらの小規模なチームにミッションを設定したら、素早く作業を進めることができるようにルールとメトリクスを確立する必要があるが、さらに彼らが会社にとって価値のあるプロジェクトに取り組んでいることを判別するために、守らなければならないマイルストーンも定義しなければならない。悪いプロジェクトにさらに金を注ぎ込みたくはない。

PatelとBoxの場合は、チームが成功しつつあるのか、それとも失敗しつつあるのかを示すメトリクスが、常に存在している。こう聞くとシンプルなものに思えるが、マネジメントの観点からミッションとゴールを定義し、それを定常的に追跡するためには、多大な労力が必要とされる。

彼はそこには3つの要素があると言う:「考慮することは3つあります、作るものに対するプランは何か、作るものに対する戦略は何か、そして私たちそれぞれの協調レベルはどの程度なのかです。こうしたことが実際、作るものが成功するか失敗するかに大きく関わってくるのです」。

結局のところ、これは反復的なプロセスである。そのプロセスは企業が成長し発展するにつれて進化を続け、それぞれのプロジェクトや各チームから学んでいく。「私たちは常にプロセスを見て、調整が必要なものは何だ?と問い続けています」とPatelは語った。

[原文へ]
(翻訳:sako)

画像:Michael Short/Bloomberg/Getty Images

消費者を取り戻すために、大ブランドは研究開発とイノベーションに投資すべきだ

または:もし私がケロッグのCEOならどうすべきか

【編集部注】著者のRyan Caldbeckは、消費財企業および小売企業のための投資市場であるCircleUpの、創業者兼最高経営責任者である。

消費財の世界は変化している。消費者の嗜好はますます細分化されており、既存の大企業たちは新興のブランドたちからシェアを奪われ続けている。こうした既存の企業たちは、対応策への苦慮を重ねている。CPG(消費者向けパッケージ商品:消費財)の世界には、賢い人間が溢れているが、最大規模のブランドの多くが、ここ数年その売上の停滞もしくは減少を経験している。

消費財企業たちは、売上の増加またはコスト削減のいずれかの手段によって、利益を増やし株主価値を提供することができるが、こうした企業たちが試みてきた潮目の切り替えは、いずれも上手く行っていない。革新を行おうとするとき、彼らが行うことといえば、消費者が本当に欲している新しい商品を提供するのではなく、既存製品に対するちょっとした変更に留まるだけなのだ(例えばポテトチップの脂質を減らすとか)。

あるいは、消費者たちに既存の製品を購入すべきだと説得するために、広告に何十億ドルも費やしているのだ。そして売上を増やすことができない場合には、貴重なビジネスチームをリストラして支出を削減したり、他の消費財メーカーを買収してコストを減らそうとする(クラフト-ハインツのケースなど)。こうした戦略は、しかし、大規模消費財企業たちを長期的な成功へとは導かない。そこで以下では、成功へ導くかもしれない、いくつかの提言を行う。

なお、さらに深く掘り下げる前に、お断りしておくが、私は全ての答を知っているわけではない(それどころかそのほとんどを知っているわけではない)。私は従業員65人を抱えるスタートアップのCEOであり、3万人の従業員を抱える大企業を経営しているわけではない。私がここで共有したいと思っている知見は、消費財企業に対して投資を行い、そうした企業たちの成長を助けてきた10年以上の経験から集められたものである。しかしそれらの知見は、あくまでも外部から中を眺めて得られたものである。

以下の記事の中では「ケロッグ」を、ペプシコ、エスティー・ローダー、ネスレ、クラフト-ハインツ、もしくは無数の有名ブランドたちに適宜置き換えながら読んで欲しい。それでもお話する内容は役に立つはずだ。これは、単に1つの会社だけでなく、実質的に全ての既存消費財企業に当て嵌まるダイナミックな知見なのだ。

違いを生み出すために、私なら何をするか

ケロッグのCEOとしての初日に私がやることは、鏡を真剣に覗き込みながら、どのケロッグブランドが、いまでも市場価値があり成長の余地があるのかを、自分に厳しく問いかけることだろう。最近私は大手CPG企業の元副社長と議論をする機会があった。彼によれば、大きなCPG企業が罪深いのは、もし新しいニュースを吹き込むことができれば、何でも市場価値を保ったままでいられると考えている点だということだった。私も同意する。私たちは稼ぎ頭のブランドやプロダクトを持っているものの、それらが徐々に死にかけていることも、私はCEOとして率直に認めよう。

決心することは苦しいが、将来のために踏み出すべきステップは、死につつあるレガシーな稼ぎ頭を売却して、手に入れた現金をイノベーションに対して投資することだろう。今週私はフォーチュン100に載る消費財企業の20年選手であるベテラン社員と、また別の議論をする機会を持った。彼は「10年後にはもう、うちの会社は存在しないと思います。解体してしまうでしょう」と言った。レガシーブランドの売却の話を出すと、多くの消費財企業の幹部たちは話をそらそうとする。しかしそれは行う必要のある話なのだ。瀕死の稼ぎ頭を切り捨てることは、船を救うためには、最も困難な(しかしおそらく最も重要な)ステップである。

既存のブランドのどれを剥ぎ取るかを決めたなら、私の次のステップは、自分たちの会社がコストカットに力を注ぐことを止め、真にビジネスを成長させるためのイノベーションの文化に投資を行うことを、広く発表することだ。これにより短期的には株価が下落する可能性はあるが、このことが会社にとっては中長期的には大いに役立つのだ。

端的に言うならば、私たちは永遠にコストカットを行いながら生きながらえることはできないということだ。私たちは成長する必要がある。自分たちのイノベーションの文化は、様々なやりかたで育ち広がっていく。以下に挙げたものは、逐次的な実行リストではなく、むしろ並行して追求すべき活動の一覧である。

1)研究開発:自分たちがコスト削減ではなく、成長とイノベーションに注力するのだということを、ウォールストリートに伝える。研究開発のプロセスとパイプラインを見直し、より大きな夢を描くのだ。2017年のケロッグの研究開発費は1億4800万ドル(総売上の1.1%)だった。最初耳にしたときには、これは多額であるように聞こえる。しかしGoogleと比べてみよう。Googleは同じ期間に166億ドル(総売上の15%)を研究開発に使っているのである。こうした面に対する、テック企業と消費財企業の資金の使い方の違いが、以下の図で対比されている。

年間総売上に対する研究開発費の割合

出典:Company 10-Ks for 2017

これらの企業の1つがFrosted Flakes(日本ではコーンフロスティという商品名)を同じやり方で60年以上も作り続けてきたことは間違いない(そのほとんどの期間面白おかしいテレビコマーシャルを伴って)。一方、その他の企業の1つは検索エンジンとしてスタートし、いまや携帯電話、地図、そして自動運転車を開発している。テック企業が、5年間同じプロダクトを販売することが、どれほど滑稽なことかを想像してみて欲しい。まして50年などは論外だ。ここで行うべき研究開発は、決して単に新しいフレーバーを考えたり、既存の製品を低脂肪化することに限られるものではない。

ある大規模CPG企業の熟練社員が最近私に語ってくれた ―― 「消費者はもう『より白い白』なんかには興味を持っていないんですよ」。消費者が本当に望んでいるものを知るための適応性のあるインフラを構築すること、そして得た情報を開発チームに対して、彼らが素早くかつ効果的に対応できるように伝えることが必要なのだ。製品そのものではなく、製品カテゴリーと消費者に焦点を当てる研究開発チームが必要なのだ。ペプシコは低脂肪のポテトチップスを考えるのではなく、スナックカテゴリ全体を再考する必要があるのだ。

なぜAB InBev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ:酒類メーカー)が二日酔いにならないビールを開発することを考えることは「頭がおかしい」と言われ、イーロン・マスクが火星に人類を送り込もうと考えることは、「狂気の沙汰」とは言われないのだろうか?なぜCloroxが無毒で安全な漂白剤の代替製品に対して、10億ドルを投資することがお笑い草だと揶揄され、世界中のタクシーを置き換え輸送というものを再考しようとしているUberに、150億ドルを投資することを考えることは普通なのだろう?もちろん上のコメントは、大衆消費財企業のCEOたちを鼓舞するためのものであり、SpaceXやUberを貶めようとするものではない。

良い研究開発には、既に存在するかもしれない優れたアイデアを探すために、地面に耳を押し当てて聞くことも含まれる。例えばインドの歯磨き粉には、アメリカ人が考える歯磨き粉の概念に革命をもたらすものがあるかもしれないが、耳を傾けなければそうしたことを知ることはできない。こうした良い研究開発インフラがないときにどうなるかの例を、製薬業界に見ることができる。大手製薬会社は現在イノベーションのアウトソース化に対してコストを掛けざるを得なくなりつつある。もはや社内でそうした活動を抱えることができないからだ。CPG企業も大手製薬会社の運命を辿りつつあるのだ。

2)インキュベーション: 優れた消費財企業への投資とパートナーシップに加えて、社内にそうした相手を育てるための部門と専門家も用意する。最近ケロッグは、Conagra Brandsならびにシカゴ市と提携して、3400万ドル規模の食品インキュベーターへの投資を行った。このインキュベーターは約75社をサポートすることが期待されており、そのうちの80%がスナックカテゴリーの企業だ。これは間違いなく正しい方向への1歩だが、CEOとしての私は、より規模を広げ、そうした活動を社内でも行いたいと考えるだろう。多種多様なカテゴリーから年間100社以上の企業を育成し、消費者のためのY Combinatorを目指したい。これはウィンウィン関係を生み出す。優れた消費者企業の成長を支援し、それらの企業がわが社の専門知識とインフラを活用するのだ。

3)ベンチャーキャピタル: あまりにも多くのCPG企業が、5年以上経ったブランドだけに投資し、最終的には巨額の金額を拠出している。私なら、売上や既存の製品戦略にすぐに貢献すると考えられる企業だけでなく、10年後に興味深い結果を出す企業にも投資するという方向に考えを改める。ここでは長期的な視野が必要とされ、データが大きな役割を果たす。わがケロッグは、単に1ダースの人間をExpo Westにに送るだけで、イノベーションを探そうとするわけではない。Expoの販売ブースでのプレゼンでは分からない、相手の成長の可能性を見抜き、将来性のあるブランドを早期に見つけ出すことを助けてくれる、まだ共有化されていないデータとテクノロジーソリューションが必要なのである。ケロッグは1億ドル規模のベンチャー担当部門を持つという意味で、ベンチャー対応においては他のCPG企業よりも実際には先行している。しかしこれはまだ小さすぎる。

私ならまず、自分たちのベンチャー担当部門の管理する資産を5億ドルに増額する(総売上の4%以下である、それでも多くのCPG企業のベンチャー担当部門の運用残高の50倍の規模となる)、そして担当者たちに200から300の企業に対して投資を行うことを指示する。中心に据えるのは、この先2年から4年の売上が1000万ドル未満のアーリーステージ企業たちだ。もしそれが、頭のおかしいアイデアのように聞こえるならば、GoogleのGV(Googleのベンチャー担当部門)を見てインスピレーションを受けて欲しい。彼らは、さまざまな、時には予想外の角度からのイノベーションを促進するために、多様なポートフォリオを構築したのだ。テックVCたちが数百社のポートフォリオを持つことができるなら、私達にも可能だ。消費財企業のベンチャー担当部門そのものは、特に新しいアイデアではない。多くの大手CPG企業がベンチャー担当部門を立ち上げたが、こうした消費財企業VCは、500万から1000万ドルを、3社か4社に投資する程度の場合がほとんどである。そしてその後CEOは怖気づき、短期的なコスト削減の圧力に屈して、戦略を諦めるのだ。私たちはあえて長い目で見ていこう。

単なる資本を提供するだけでなく、私はこれらの企業の成功を助けるためのリソースとサポートを提供する仕組みも作り上げるだろう。私たちは、ケロッグ(ならびにパートナー企業)と投資対象の会社たちの間に、エクスターンシップ(企業間研修)のプログラムを用意するだろう。小規模な会社への転職を希望している、大手CPG企業のブランドマネージャー、マーケティング担当者、サプライチェーンの専門家などからのメールを、私が受け取らない週はほとんどない。このエクスターシッププログラムは、小規模なブランドにとっての資産となり、一方その競争力を保持するツールの役割も果たし、イノベーションををケロッグに持ち帰る結果にもつながる。

4)M&A:私はM&Aそのものに反対しているわけではない。私が反対するのは、株主にとっての長期的な価値を提供するという名の下に、単にコストカットを目的として行われるM&Aである。10年後には、多くの消費財企業の主要既存製品の売上は、現在よりも遥かに少なくなってしまうだろうと、私は考えている。こうした製品は1つや2つの新製品で置き換えられてしまうのではなく、数百、あるいは数千の製品で置き換えられてしまうのだ。これは消費者の断片化、あるいは過去に私たちが「消費者のパーソナライゼーション」と呼んできたものである。大手CPG企業は、こうしたプロダクトたちを(まだ早期のステージのうちに)買収するか、それらに負けるかのどちらかとなる。私なら、自分の会社には、そうしたブランドたちが大きくなって数百万(あるいは数十億)ドルの資金が買収のためには必要になる前に、早い段階でそれらを多く買収して欲しいと思う。さらに多くのブランドと連携し、彼らの成長の恩恵を受けるために必要な、インフラストラクチャにも投資する必要がある。様々なブランドたちが、ケロッグの敵になるのではなく、家族に加わるのだ。

5)パートナーシップおよびジョイントベンチャー:時おり、消費財企業の世界でのジョイントベンチャーやパートナーシップについて、耳にすることがあるが、実際にはとても稀な出来事である。それは何故だろう?おそらく多くの場合、大きな消費財企業たちは、他の企業とのパートナーシップを利益の分割(すなわち最終的な利益への悪い影響)ととらえているからだろうと、私は想像している。しかし、それは生産的な態度ではない。ほぼ全ての他の業界では、成功したパートナーシップの例を見ることができる。例えばWalmartの商品をGoogle Expressで提供するGoogleとWalmart提携や、自動運転車両にむけたChryslerとWaymoの提携といった、様々なステークホルダーとの提携は、最良のイノベーション生み出す手助けとなる。私はまた、業界自体の教育を助けるために、他の消費財企業と提携することには大きなチャンスがあると考えている。私たちは最高の消費財起業家と、最も秀逸なアイデアを集めた会議を開催することが可能だ。そしてその結果として誰もが利益を得ることになるだろう。

なぜこれが重要なのか

最高経営責任者(CEO)としての私の計画が有効に実施されれば、私たちは3つの強力な効果を見ることになるだろう。まず第1に、より多くの新興ブランドへの小規模な投資を行い、イノベーションの文化を構築することによって、ケロッグは消費財の世界における支配的プレーヤーになるだろう。もう顧客を奪われる心配をしなくても良いのだ。彼らは大改革を生み出しそれを活用する者になるだろう。第2に、このロードマップは、最良の製品が消費者の手に届くことを可能にして、誰もが幅広い種類の食品と、より健康的な選択肢を選ぶことができるようにする。そして最後に、このインフラストラクチャーを構築することにより、ケロッグは起業家たちの流通、ブランド、サプライチェーン、チームを支援することができるようになる。それらの企業が成長し成功することで、株主にとっての価値も高まることになる。消費財は特に非効率的な市場だが、ケロッグはそれを変革する上場企業となることができる。

まあ繰り返しになるが、こうした戦略を外から助言することは簡単だ。内部から外を眺めながら、こうしたことを実現していくことはずっと困難なことである。大規模消費財企業のCEOの多くは、おそらく長期的にその企業の役に立つ。大胆なアイデアを胸の中で温めていることだろう。彼らがそれを実行できないのは短期的な問題に取り組まなければならないからだ。即時のコスト削減を求める取締役会と、即座に株価を上げることを要求する市場が目の前の難敵である。

そのために、こうしたCEOたちはみな骨抜きにされ、タイタニック号の甲板で船が沈むまで椅子を並べ替えることしかできなくなるのだ。もし船を救うために、あまりにも多くのことに手を出すと、自分の地位も長続きしないということを彼らは恐れているのだ。ゲイツ、マスク、そしてベゾスは自由にビジョンを描き、企業をイノベーションの最先端に導いて行くことができる。それなのに、Cahillane(ケロッグのCEO)、Hees(クラフト-ハインツ)、そしてQuincey(コカ・コーラ)たちは、自分が置かれた箱の中で働かなければならない。大規模消費財企業たちがイノベーションを始め、創造性を発揮して、消費者たちが望むものに耳を傾けることを、私は切に願っているのだ。そしてそれぞれの企業の取締役会とウォールストリートが、そうしたものの長期的価値に気が付くことも。もし業界が進化しなければ、先のことは知る由もないが、Googleが朝食用シリアルをひっさげて参入してくるかもしれないのだから。

[原文へ]
(翻訳:sako)

「デザイン思考」の伝道者、IDEOのTom Kelleyにインタビュー

High Resolution 16回目のエピソードは、Tom Kelleyとの対談をお届けする。KelleyはIDEOのパートナーである。ビデオでは、イノベーションの定義、創造的な自信を取り戻す方法、現在のデザインチームだけではなく、この先世界のデザインリーダーを生み出すことのできる習慣について語ってもらった。

「イノベーション」という言葉は過度に使われて来た。Kelleyによれば、最も基本的なレベルでのイノベーションとは、実現可能であり価値をもたらす新鮮なアイデアのことであると述べている。アイデアだけではイノベーションではない。

注意を喚き立てるスクリーンや通知で満たされているこの世界では、私たちは容易に注意散漫になってしまう。Kellyは、最も創造的なアイデアが降り注ぐ、静かな瞬間を見つけて守ることの重要性を説明している。そうした瞬間が起き易いのがいつかを知ることができれば、あとは将来の実装に向けて生まれるアイデアを捕まえれば良いだけということになる。

インタビュアーのJared EronduBobby GhoshalHigh Resolutionのホストである。この投稿とエピソードのメモは、フリーランスライターであるGannon Burgettによってまとめられた。興味があれば、毎週月曜日、太平洋標準時の朝8時にTechCrunchに投稿されるエピソードを見て欲しい。iTunesOvercastで聴くこともできる。

*インタビューは英語だがビデオ画面の右下に並ぶ4つのアイコンの一番左のものをクリックすると自動生成された英語字幕が表示される。

[ 原文へ ]
(翻訳:Sako)

クリエイティビティの罠――実務的な業務の重要性

【編集部注】執筆者のEliot Gattegnoは、ニューヨーク大学上海校でPractice of Business and Artsの客員准教授を務め、クリエイティビティとイノベーションに関する授業を行っている。さらに彼は、香港中文大学(深圳)のイノベーション・デザイン・アントレプレナーシップセンターのファウンダー兼ディレクターで、香港中文大学のビジネススクールでも教鞭をとっている。

今日のクリエイティブな職場では、実際に会社を動かしているクリエイティブでない仕事の重要性が分かりづらくなってしまっている。”クリエイティビティ”と呼ばれるものが、凝り固まった社会を変える特効薬としてもてはやされている一方で、このような考え方が、裏で会社を支えている仕事を犠牲にして、夢物語にフォーカスをあてるような企業を生み出している。

残念ながら、私たちのクリエイティビティに関する妄想はとどまるところを知らない。2000年には、「次の時代の勝者」となる企業は「今いるクリエイティブな人材を余すところなく」利用できるような企業だとする内容の本が出版され、2013年には多くの人が「社員のクリエイティビティを上げるためにテック企業が実践している12の変な制度」と題された記事を貪り読み、昨年にはクリエイティビティそのものを刺激する香水さえもが発売された。

しかし私たちは邪神を崇拝してしまっているのではないだろうか? 職場で”クリエイティブ”とされている事柄は、極めて薄っぺらいもののように感じられる(例えばビーズクッションや食べ放題の寿司ランチなど)。人々がクリエイティブだと思いこんでいるものは、オフィスの設計変更にはつながるかもしれないが、特に平社員レベルの人たちの仕事を変えるようなものだとは思えない。

社員がデスクについた(もしくはソファースペースにノートパソコンを持っていった)とき、彼らは本当に自由に創造性をはたらかせているのだろうか? それとも彼らは、会社を動かすために必要な具体的で明確なタスクをこなしているのだろうか? ほとんどの場合は後者だろう。結局のところ、誰かがコードをデバッグしたり、スプレッドシートを管理したりしなければいけないのだ。賢いマネージャーや経営陣であれば、あまり魅力的ではないが会社が機能するために必要な(ときに退屈な)仕事を、クリエイティビティで代替することはできないと気づいているはずだ。クリエティブでない仕事をしている人のこともきちんと評価しようではないか。

クリエイティビティ=投資

私たちの時代に誕生した驚くほど”クリエイティブ”なものを見てみよう。そうすれば、クリエイティビティとは一瞬の輝きではなく、むしろ孤独で長い旅なのだということがわかるだろう。例えばPixarは、素晴らしいアニメーション技術はもちろんのこと、彼らのビジョンやユーモア、そして感情表現で人々の称賛を集めている。しかし、誰が見てもクリエイティブな彼らの作品が完成するまでには、通常4〜7年の時間がかかる。そしてそのプロセスはスケッチにはじまり、ストーリーボード、モデリング、レイアウト等々、途方もないほどだ。

賢いマネージャーや経営陣であれば、あまり魅力的ではないが会社が機能するために必要な(ときに退屈な)仕事を、クリエイティビティで代替することはできないと気づいているはずだ。

どんなクリエイティブなものに関しても、その裏側には信じられないほどの量の修練や努力が隠されている。たとえ傍から見ると、一瞬の出来事のように感じられるようなものでもだ。ジャズマスターが”ゾーン”に入ったときの即興演奏(これには人生を通した練習が必要)から、”キャンプファイヤーの周りで順番に物語を語り合う仲間たち”のように聞こえつつも、形になるまで何ヶ月にも及ぶ準備が行われているThis American Lifeというラジオ番組まで、クリエイティビティの裏側には多大な努力が隠されている。クリエイティビティに欠かすことができないこの準備期間は、普通の企業にとってはかなり大きな投資を意味する。しかし他の人たちの言葉を信じれば、クリエイティビティにはそのくらいの価値があるのではないだろうか? 実はそうとも言い切れない。

”ボヘミアン”だけでは生きていけない

RedditやInstagram経由で、きらびやかな”ネット時代の寵児”を雇う企業も存在する今、”クリエイティビティ”自体が資格のように考えられがちだ。しかし数字を見てみれば、その考えは間違っているとわかる。『Economic Geography』に掲載されている調査では、”クリエイティブ層”と関連づけられることの多い生産性の高さというのは、その人のクリエイティビティよりも教育レベルによってほぼ決まるとされている。さらに、”ボヘミアン”(大卒資格のないクリエイティブな人たちを指して研究者がつけた名称)は、クリエイティブさに欠けつつも教育レベルの高い人に比べ、会社への貢献度が低いということがわかった。もちろん例外はあるだろうが、一般的に社員のパフォーマンスを左右するのはクリエイティビティではなく教育である、ということがこの調査からわかる。

実はクリエイティブな人たち自身もこの事実に気づいており、世界的に有名な作家の村上春樹氏は、クリエイティブな生活におけるトレーニングの重要さを上手く表現している。彼は自伝的エッセイ『走ることについて語るときに僕の語ること』の中で、小説を書くという作業を長距離走に例えて説明しているのだ。彼は芸術家にとって「集中力と忍耐力」は才能と同じくらい重要で、「トレーニングを通じて会得、向上することができる」という意味では、このふたつの方が才能よりもずっと到達しやすい目標だと主張する。つまり、彼にとってクリエイティビティとはスタート地点でしかなく、目指すものを成し遂げるためにはトレーニングと確固たる労働倫理が必要だと言っているのだ。

ここで私が伝えたいことはハッキリしている。他の経歴を無視してInstagram上の輝かしいプロフィールだけに飛びつくなということだ。ほとんどの仕事に関して、まずはその仕事をこなせる能力を持った人が必要であり、クリエイティビティはその次にくる。この順番を間違ってはいけない。さらに企業は、候補者が画期的なアイディアの実現に向けてきちんと努力できる人なのかどうかを見極めなければいけない。

クリエイティビティの管理

他の大事な能力よりもクリエイティビティを重視するような企業は、そのうち問題に直面することになるだろう。『Accounting, Organizations and Society』の調査は、クリエイティビティを重視する企業ほど、社員の問題行動を防ぐための管理に時間を割くことになると示している。さらに管理が行き届かなければ、社員は個々のタスクに集中するあまり、チームや会社全体のゴールを見失ってしまうとされているのだ。これを考えると、企業が”クリエイティビティ”をビーズクッションあたりで留めているのにも納得がいく。というのも、締切を無視して各タスクに過度に集中するクリエイティブな人というのは、会社にとってかなりやっかいな存在だからだ。

重要なのは、スターのようなクリエイティブな人材だけでなく、社員全員が会社への貢献度をきちんと評価してもらえるような環境を構築することだ。

職場におけるクリエイティビティ向上の最前線に立っているGoogleでさえ、社内外で崇められている制度の一部は継続できないと気づいた。都市伝説のように語り継がれていた、就業時間の20%(1週間あたり丸1日!)を自分のプロジェクトに使え、Gmailの開発に繋がったとされている制度のことを覚えているだろうか? YahooのCEOになる前にGoogleに勤めていたMarissa Mayerは、その秘密に関して「Googleの20%ルールというのは、本当のところ120%のうちの20%ということなんです」と語っている

最近ではGoogleが20%ルールを実質的に廃止し、トップダウンのイノベーション(マネージャーが承認したプロジェクトなど)を優先していると言われている。中にはこの制度変更によって、これまで褒めそやされていたGoogleの自由でクリエイティブな文化が損なわれてしまうと考えている人もいるようだ。これは魔法か現実かをめぐる難しい問題だ。クリエイティビティが全くコントロールされていないと、社員は会社のゴールを見失ってしまうが、管理されたクリエイティビティなど、もはやクリエティブではないと言うこともできる。

私は職場にクリエイティビティなど必要ないと言いたいわけではない。誰かがスプレッドシートを管理して、電話に応えなければいけないように、誰かがGmailのような革新的なプロダクトを考えつかなければならないのだ。しかし、クリエイティビティが何よりも重要で、これこそ成功への近道だという考え方には同意できない。

誰かを採用する際には、年齢や性別、人種といった表面的な多様性だけでなく、「クリエイティブVS現実的」「内向的VS外交的」「夢見がちなイノベーターVS地に足の着いた実行者」といったそれぞれの性格も考慮しなければならないのだ。Slack Technologiesでは、アーティスティックな社員(例えば哲学の学位を持つ共同ファウンダー)とエンジニアの面白い組合せによって、会社とプロダクトの両方が大きく成長した。

重要なのは、スターのようなクリエイティブな人材だけでなく、社員全員が会社やプロダクトや企業文化に対する貢献度をきちんと評価してもらえるような環境を構築するということだ。そもそもクリエイティブな人とそうでない人を分けて考える必要もないのではないだろうか? 表面的なことだけにとらわれず、現代でもっともエキサイティングでクリエイティブなエンジニアをはじめとする、実務的な仕事にもしっかりと目を向けなければいけない。クリエイティビティを重視し過ぎると、何も実行せずに夢物語についてばかり考える会社になってしまう。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Tesla車のアップデートサイクルは1〜1.5年、Elon MuskがTwitterで発言

tesla-fleet

TeslaのCEO兼ファウンダーであるElon Muskは、すぐに古くさくならないような車を買いたいと考えている人にこうアドバイスする。「他のメーカーの車を買ったほうがいい」

通称HW2を装備したTesla車に搭載されている新しいセンサー、コンピューター、パーツを、以前のモデルにも有料アップグレードという形で取り付けることを考えてくれないかというTwitter上での質問に対し、Muskは上記のように答えた。彼はさらに現行のモデルに搭載されたテクノロジーは、今後平均して1年から1年半の頻度で大幅に改良されることになると語った。

@elonmusk 現行モデルにAP2を追加するのにも8000ドル近くかかります。M3に力を入れていることもわかりますが、Teslaファンは改修用の組み立てラインの設置を求めています。

@dtweiseth Teslaは絶えずイノベーションを生み出そうとしています。もしも改修ラインを求めているならば、その人たちは買う車を間違っています。Teslaでは12〜18ヶ月ごとに大幅な改良が行われる予定です。

Teslaのアップデートの頻度は、GMやFord、トヨタといった従来の自動車メーカーに比べれば、かなりアグレッシブなものだと言える。通常あるモデルが発表されると、新しいオプションや細かな機能が追加されることはあっても、最大約5年間は大幅なアップデートは行われない。ましてや、TeslaのModel SとXがHW1からHW2へとアップデートしたように、”大幅な改良”が行われることはまずない。

Teslaオーナーの中には、この同社の戦略にいらだっている人もいるかもしれない。決して安くはないTesla車が、スマートフォンと同じくらいの頻度でアップデートされるというのは確かにもどかしいだろう。しかしこれは、もっと高いレベルのイノベーションを起こす上でTeslaがとった選択なのだとMuskは話す。

@dtweiseth もしも私たちが限られたリソースを使ってかなり複雑な改修を行うとすれば、Teslaのイノベーションのスピードは劇的に落ちてしまいます。

さらにMuskは、以前のモデルにHW2のキットを組み込むとなると、車をフレームまで解体して300種類以上のパーツを取り替えるという、極めて複雑な工程が必要になると言う。また彼は、既存モデルの改修にフォーカスすることが、新しいテクノロジーを生み出す上で障害になってしまうと付け加えた。

つまりTeslaはこれまで消費者が慣れ親しんできた自動車メーカーとは大きく違い、その違いは開発サイクルにまで及ぶということだ。長く使えるプロダクトは、ある意味では使っている人を過去に縛りつけてしまう。そしてMuskは、お金に見合った価値があると顧客に感じてもらうためだとしても、Teslaの動きを止めるようなことはしない。

私はTeslaが大手自動車メーカーと戦っていく上で、テック企業のようなスピード感を保つことが重要だと考えているため、Muskの今回の発言には安心している。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

イスラエルにイノベーションセンターが誕生、若手起業家の育成を目指す

history-floor-03

イスラエルは技術革新の国として既によく知られている。ここ数年だけを見ても、イスラエルからはWazeViberFiverrといった消費者向けの人気スタートアップが誕生している。さらに、イスラエルはUSBメモリや冠動脈ステントなど、多くのハードサイエンス分野の発明が誕生した場所でもある。

しかし、現在イスラエルはちょっとした岐路に立っている。前述のような技術的な「勝利」を見せびらかしたいと考えている一方、これからもイノベーションを生み出す続けることが出来なければ、過去にすがっていてもしょうがないとも考えているのだ。

その解決策とは、過去の成功体験を使って次世代の発明家や起業家を刺激することだった。

それを実現するための方法のひとつが、ヤッファ(Jaffa)のPeres Peace House内にある、イスラエル前大統領Shimon Peresが建てたIsraeli Innovation Centerだ。

本日発表されたこの施設は、既にイスラエルに存在する発明品や企業、さらには未だ開発されていない未来のイスラエルのテクノロジーにスポットをあてることとなる。

しかし、この施設の目的は、イスラエルについての自慢話をすることだけではない。実際のところ、Peres前大統領はその目的について、イスラエルがイノベーションを生み出しつづけることを促進することだと述べている。

Israeli Innovation Centerは、未来への道筋を一番重要視しており、私たちはイノベーションには制限や障壁がないことを証明しようとしています。イノベーションは、国家や民族を超えた対話を実現し、ユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒など宗教を問わず、イノベーションによって全ての若者が平等に科学やテクノロジーに携わることができるのです。この施設で私たちは、幼少期から平和を推進することができると強調すると共に、全ての少年少女の想像力を刺激しながら彼らの夢を育んでいきたいと考えています。

前イスラエル大統領 Shimon Peres

彼らはどのようにPeres前大統領の言う夢を実現していくのだろうか? まず、施設の一部は「主要なイスラエル企業の紹介」と、さまざまな業界にわたるイスラエルの発明品の紹介に割り当てられる。

しかしもっと重要なのが、コミュニティースペースとして利用される予定の残りのスペースだ。ここでは、起業家が顔合わせ、一緒に働き、学ぶことを目的としており、ハッカソンに参加することもできる。Peres前大統領は、この場所では旧来の学校や大学では行っていない、実践的な経験学習をすることができると強調した。

彼は、テクノロジーこそがより良い社会を作り、世界に平和をもたらす一番の方法だと考えており、次世代の発明家や起業家が刺激を受けつつ、そのような世界を作りだせるようにトレーニングが受けられるような環境を整えたいと考えている。

そして、開所式に出席していた主賓の顔ぶれを見ると、この施設がイスラエル全体にとって最も重要なテクノロジーセンターになろうとしているのがわかる。イベントには、イスラエルの3大重要人物である前大統領Shimon Peres、現大統領Reuven Rivlin、そして現在の首相のBenjamin Netanyahuが出席していたのだ。

実際に、3人はVRヘッドセットを式典中に試し、Peres前大統領はVR体験が「全く新しいもの」であり、「新しい現実世界を創るのに必要な夢を生み出すことに繋がるかもしれない」と語った。

20160721_122829 (1) (1)
原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter