または:もし私がケロッグのCEOならどうすべきか
【編集部注】著者のRyan Caldbeckは、消費財企業および小売企業のための投資市場であるCircleUpの、創業者兼最高経営責任者である。
消費財の世界は変化している。消費者の嗜好はますます細分化されており、既存の大企業たちは新興のブランドたちからシェアを奪われ続けている。こうした既存の企業たちは、対応策への苦慮を重ねている。CPG(消費者向けパッケージ商品:消費財)の世界には、賢い人間が溢れているが、最大規模のブランドの多くが、ここ数年その売上の停滞もしくは減少を経験している。
消費財企業たちは、売上の増加またはコスト削減のいずれかの手段によって、利益を増やし株主価値を提供することができるが、こうした企業たちが試みてきた潮目の切り替えは、いずれも上手く行っていない。革新を行おうとするとき、彼らが行うことといえば、消費者が本当に欲している新しい商品を提供するのではなく、既存製品に対するちょっとした変更に留まるだけなのだ(例えばポテトチップの脂質を減らすとか)。
あるいは、消費者たちに既存の製品を購入すべきだと説得するために、広告に何十億ドルも費やしているのだ。そして売上を増やすことができない場合には、貴重なビジネスチームをリストラして支出を削減したり、他の消費財メーカーを買収してコストを減らそうとする(クラフト-ハインツのケースなど)。こうした戦略は、しかし、大規模消費財企業たちを長期的な成功へとは導かない。そこで以下では、成功へ導くかもしれない、いくつかの提言を行う。
なお、さらに深く掘り下げる前に、お断りしておくが、私は全ての答を知っているわけではない(それどころかそのほとんどを知っているわけではない)。私は従業員65人を抱えるスタートアップのCEOであり、3万人の従業員を抱える大企業を経営しているわけではない。私がここで共有したいと思っている知見は、消費財企業に対して投資を行い、そうした企業たちの成長を助けてきた10年以上の経験から集められたものである。しかしそれらの知見は、あくまでも外部から中を眺めて得られたものである。
以下の記事の中では「ケロッグ」を、ペプシコ、エスティー・ローダー、ネスレ、クラフト-ハインツ、もしくは無数の有名ブランドたちに適宜置き換えながら読んで欲しい。それでもお話する内容は役に立つはずだ。これは、単に1つの会社だけでなく、実質的に全ての既存消費財企業に当て嵌まるダイナミックな知見なのだ。
違いを生み出すために、私なら何をするか
ケロッグのCEOとしての初日に私がやることは、鏡を真剣に覗き込みながら、どのケロッグブランドが、いまでも市場価値があり成長の余地があるのかを、自分に厳しく問いかけることだろう。最近私は大手CPG企業の元副社長と議論をする機会があった。彼によれば、大きなCPG企業が罪深いのは、もし新しいニュースを吹き込むことができれば、何でも市場価値を保ったままでいられると考えている点だということだった。私も同意する。私たちは稼ぎ頭のブランドやプロダクトを持っているものの、それらが徐々に死にかけていることも、私はCEOとして率直に認めよう。
決心することは苦しいが、将来のために踏み出すべきステップは、死につつあるレガシーな稼ぎ頭を売却して、手に入れた現金をイノベーションに対して投資することだろう。今週私はフォーチュン100に載る消費財企業の20年選手であるベテラン社員と、また別の議論をする機会を持った。彼は「10年後にはもう、うちの会社は存在しないと思います。解体してしまうでしょう」と言った。レガシーブランドの売却の話を出すと、多くの消費財企業の幹部たちは話をそらそうとする。しかしそれは行う必要のある話なのだ。瀕死の稼ぎ頭を切り捨てることは、船を救うためには、最も困難な(しかしおそらく最も重要な)ステップである。
既存のブランドのどれを剥ぎ取るかを決めたなら、私の次のステップは、自分たちの会社がコストカットに力を注ぐことを止め、真にビジネスを成長させるためのイノベーションの文化に投資を行うことを、広く発表することだ。これにより短期的には株価が下落する可能性はあるが、このことが会社にとっては中長期的には大いに役立つのだ。
端的に言うならば、私たちは永遠にコストカットを行いながら生きながらえることはできないということだ。私たちは成長する必要がある。自分たちのイノベーションの文化は、様々なやりかたで育ち広がっていく。以下に挙げたものは、逐次的な実行リストではなく、むしろ並行して追求すべき活動の一覧である。
1)研究開発:自分たちがコスト削減ではなく、成長とイノベーションに注力するのだということを、ウォールストリートに伝える。研究開発のプロセスとパイプラインを見直し、より大きな夢を描くのだ。2017年のケロッグの研究開発費は1億4800万ドル(総売上の1.1%)だった。最初耳にしたときには、これは多額であるように聞こえる。しかしGoogleと比べてみよう。Googleは同じ期間に166億ドル(総売上の15%)を研究開発に使っているのである。こうした面に対する、テック企業と消費財企業の資金の使い方の違いが、以下の図で対比されている。
年間総売上に対する研究開発費の割合
出典:Company 10-Ks for 2017
これらの企業の1つがFrosted Flakes(日本ではコーンフロスティという商品名)を同じやり方で60年以上も作り続けてきたことは間違いない(そのほとんどの期間面白おかしいテレビコマーシャルを伴って)。一方、その他の企業の1つは検索エンジンとしてスタートし、いまや携帯電話、地図、そして自動運転車を開発している。テック企業が、5年間同じプロダクトを販売することが、どれほど滑稽なことかを想像してみて欲しい。まして50年などは論外だ。ここで行うべき研究開発は、決して単に新しいフレーバーを考えたり、既存の製品を低脂肪化することに限られるものではない。
ある大規模CPG企業の熟練社員が最近私に語ってくれた ―― 「消費者はもう『より白い白』なんかには興味を持っていないんですよ」。消費者が本当に望んでいるものを知るための適応性のあるインフラを構築すること、そして得た情報を開発チームに対して、彼らが素早くかつ効果的に対応できるように伝えることが必要なのだ。製品そのものではなく、製品カテゴリーと消費者に焦点を当てる研究開発チームが必要なのだ。ペプシコは低脂肪のポテトチップスを考えるのではなく、スナックカテゴリ全体を再考する必要があるのだ。
なぜAB InBev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ:酒類メーカー)が二日酔いにならないビールを開発することを考えることは「頭がおかしい」と言われ、イーロン・マスクが火星に人類を送り込もうと考えることは、「狂気の沙汰」とは言われないのだろうか?なぜCloroxが無毒で安全な漂白剤の代替製品に対して、10億ドルを投資することがお笑い草だと揶揄され、世界中のタクシーを置き換え輸送というものを再考しようとしているUberに、150億ドルを投資することを考えることは普通なのだろう?もちろん上のコメントは、大衆消費財企業のCEOたちを鼓舞するためのものであり、SpaceXやUberを貶めようとするものではない。
良い研究開発には、既に存在するかもしれない優れたアイデアを探すために、地面に耳を押し当てて聞くことも含まれる。例えばインドの歯磨き粉には、アメリカ人が考える歯磨き粉の概念に革命をもたらすものがあるかもしれないが、耳を傾けなければそうしたことを知ることはできない。こうした良い研究開発インフラがないときにどうなるかの例を、製薬業界に見ることができる。大手製薬会社は現在イノベーションのアウトソース化に対してコストを掛けざるを得なくなりつつある。もはや社内でそうした活動を抱えることができないからだ。CPG企業も大手製薬会社の運命を辿りつつあるのだ。
2)インキュベーション: 優れた消費財企業への投資とパートナーシップに加えて、社内にそうした相手を育てるための部門と専門家も用意する。最近ケロッグは、Conagra Brandsならびにシカゴ市と提携して、3400万ドル規模の食品インキュベーターへの投資を行った。このインキュベーターは約75社をサポートすることが期待されており、そのうちの80%がスナックカテゴリーの企業だ。これは間違いなく正しい方向への1歩だが、CEOとしての私は、より規模を広げ、そうした活動を社内でも行いたいと考えるだろう。多種多様なカテゴリーから年間100社以上の企業を育成し、消費者のためのY Combinatorを目指したい。これはウィンウィン関係を生み出す。優れた消費者企業の成長を支援し、それらの企業がわが社の専門知識とインフラを活用するのだ。
3)ベンチャーキャピタル: あまりにも多くのCPG企業が、5年以上経ったブランドだけに投資し、最終的には巨額の金額を拠出している。私なら、売上や既存の製品戦略にすぐに貢献すると考えられる企業だけでなく、10年後に興味深い結果を出す企業にも投資するという方向に考えを改める。ここでは長期的な視野が必要とされ、データが大きな役割を果たす。わがケロッグは、単に1ダースの人間をExpo Westにに送るだけで、イノベーションを探そうとするわけではない。Expoの販売ブースでのプレゼンでは分からない、相手の成長の可能性を見抜き、将来性のあるブランドを早期に見つけ出すことを助けてくれる、まだ共有化されていないデータとテクノロジーソリューションが必要なのである。ケロッグは1億ドル規模のベンチャー担当部門を持つという意味で、ベンチャー対応においては他のCPG企業よりも実際には先行している。しかしこれはまだ小さすぎる。
私ならまず、自分たちのベンチャー担当部門の管理する資産を5億ドルに増額する(総売上の4%以下である、それでも多くのCPG企業のベンチャー担当部門の運用残高の50倍の規模となる)、そして担当者たちに200から300の企業に対して投資を行うことを指示する。中心に据えるのは、この先2年から4年の売上が1000万ドル未満のアーリーステージ企業たちだ。もしそれが、頭のおかしいアイデアのように聞こえるならば、GoogleのGV(Googleのベンチャー担当部門)を見てインスピレーションを受けて欲しい。彼らは、さまざまな、時には予想外の角度からのイノベーションを促進するために、多様なポートフォリオを構築したのだ。テックVCたちが数百社のポートフォリオを持つことができるなら、私達にも可能だ。消費財企業のベンチャー担当部門そのものは、特に新しいアイデアではない。多くの大手CPG企業がベンチャー担当部門を立ち上げたが、こうした消費財企業VCは、500万から1000万ドルを、3社か4社に投資する程度の場合がほとんどである。そしてその後CEOは怖気づき、短期的なコスト削減の圧力に屈して、戦略を諦めるのだ。私たちはあえて長い目で見ていこう。
単なる資本を提供するだけでなく、私はこれらの企業の成功を助けるためのリソースとサポートを提供する仕組みも作り上げるだろう。私たちは、ケロッグ(ならびにパートナー企業)と投資対象の会社たちの間に、エクスターンシップ(企業間研修)のプログラムを用意するだろう。小規模な会社への転職を希望している、大手CPG企業のブランドマネージャー、マーケティング担当者、サプライチェーンの専門家などからのメールを、私が受け取らない週はほとんどない。このエクスターシッププログラムは、小規模なブランドにとっての資産となり、一方その競争力を保持するツールの役割も果たし、イノベーションををケロッグに持ち帰る結果にもつながる。
4)M&A:私はM&Aそのものに反対しているわけではない。私が反対するのは、株主にとっての長期的な価値を提供するという名の下に、単にコストカットを目的として行われるM&Aである。10年後には、多くの消費財企業の主要既存製品の売上は、現在よりも遥かに少なくなってしまうだろうと、私は考えている。こうした製品は1つや2つの新製品で置き換えられてしまうのではなく、数百、あるいは数千の製品で置き換えられてしまうのだ。これは消費者の断片化、あるいは過去に私たちが「消費者のパーソナライゼーション」と呼んできたものである。大手CPG企業は、こうしたプロダクトたちを(まだ早期のステージのうちに)買収するか、それらに負けるかのどちらかとなる。私なら、自分の会社には、そうしたブランドたちが大きくなって数百万(あるいは数十億)ドルの資金が買収のためには必要になる前に、早い段階でそれらを多く買収して欲しいと思う。さらに多くのブランドと連携し、彼らの成長の恩恵を受けるために必要な、インフラストラクチャにも投資する必要がある。様々なブランドたちが、ケロッグの敵になるのではなく、家族に加わるのだ。
5)パートナーシップおよびジョイントベンチャー:時おり、消費財企業の世界でのジョイントベンチャーやパートナーシップについて、耳にすることがあるが、実際にはとても稀な出来事である。それは何故だろう?おそらく多くの場合、大きな消費財企業たちは、他の企業とのパートナーシップを利益の分割(すなわち最終的な利益への悪い影響)ととらえているからだろうと、私は想像している。しかし、それは生産的な態度ではない。ほぼ全ての他の業界では、成功したパートナーシップの例を見ることができる。例えばWalmartの商品をGoogle Expressで提供するGoogleとWalmartの提携や、自動運転車両にむけたChryslerとWaymoの提携といった、様々なステークホルダーとの提携は、最良のイノベーション生み出す手助けとなる。私はまた、業界自体の教育を助けるために、他の消費財企業と提携することには大きなチャンスがあると考えている。私たちは最高の消費財起業家と、最も秀逸なアイデアを集めた会議を開催することが可能だ。そしてその結果として誰もが利益を得ることになるだろう。
なぜこれが重要なのか
最高経営責任者(CEO)としての私の計画が有効に実施されれば、私たちは3つの強力な効果を見ることになるだろう。まず第1に、より多くの新興ブランドへの小規模な投資を行い、イノベーションの文化を構築することによって、ケロッグは消費財の世界における支配的プレーヤーになるだろう。もう顧客を奪われる心配をしなくても良いのだ。彼らは大改革を生み出しそれを活用する者になるだろう。第2に、このロードマップは、最良の製品が消費者の手に届くことを可能にして、誰もが幅広い種類の食品と、より健康的な選択肢を選ぶことができるようにする。そして最後に、このインフラストラクチャーを構築することにより、ケロッグは起業家たちの流通、ブランド、サプライチェーン、チームを支援することができるようになる。それらの企業が成長し成功することで、株主にとっての価値も高まることになる。消費財は特に非効率的な市場だが、ケロッグはそれを変革する上場企業となることができる。
まあ繰り返しになるが、こうした戦略を外から助言することは簡単だ。内部から外を眺めながら、こうしたことを実現していくことはずっと困難なことである。大規模消費財企業のCEOの多くは、おそらく長期的にその企業の役に立つ。大胆なアイデアを胸の中で温めていることだろう。彼らがそれを実行できないのは短期的な問題に取り組まなければならないからだ。即時のコスト削減を求める取締役会と、即座に株価を上げることを要求する市場が目の前の難敵である。
そのために、こうしたCEOたちはみな骨抜きにされ、タイタニック号の甲板で船が沈むまで椅子を並べ替えることしかできなくなるのだ。もし船を救うために、あまりにも多くのことに手を出すと、自分の地位も長続きしないということを彼らは恐れているのだ。ゲイツ、マスク、そしてベゾスは自由にビジョンを描き、企業をイノベーションの最先端に導いて行くことができる。それなのに、Cahillane(ケロッグのCEO)、Hees(クラフト-ハインツ)、そしてQuincey(コカ・コーラ)たちは、自分が置かれた箱の中で働かなければならない。大規模消費財企業たちがイノベーションを始め、創造性を発揮して、消費者たちが望むものに耳を傾けることを、私は切に願っているのだ。そしてそれぞれの企業の取締役会とウォールストリートが、そうしたものの長期的価値に気が付くことも。もし業界が進化しなければ、先のことは知る由もないが、Googleが朝食用シリアルをひっさげて参入してくるかもしれないのだから。
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(翻訳:sako)