EUが第三国へのデータ移転に関する最終ガイダンスを発表

欧州データ保護会議(EDPB)は現地時間6月22日、最終勧告を発表した。これは、2020年夏にCJEU(欧州司法裁判所)が下した画期的な判決(別名「Schrems II」判決)を踏まえて、EUデータ保護法を遵守しつつ第三国に個人データを移転するためのガイダンスを策定するものだ。

この最終勧告は、実際のところ48ページもあり、かなり長いのだが、その要旨は、第三国に(合法的に)データを移転することが不可能になる場合があるということだ。例えば、欧州委員会によって最近改正されたStandard Contractual Clauses(標準的契約条項)という、適法にデータ移転を行うための手段など、第三国へのデータ移転を行う場合に(理屈の上では)活用できる法的な仕組みが引き続き存在するのにも関わらず、である。

しかし、個々の移転事例の実行可能性を判断することはデータ管理者に任されており、ある特定のケースのデータフローが法的に許容されるかどうかを個別に決定する。例えば、ある企業が、外国政府の監視体制と、それが特定のオペレーションに及ぼす影響について複雑な評価を行う場合は、そのようなケース・バイ・ケースの判断が必要になるかもしれない。

EU加盟国外からEUユーザーのデータを定期的に収集し(米国などの)第三国でそれを処理している企業が、データの適法性に関する取り決めをEUと締結していない場合、最も楽観的なシナリオでも莫大な費用が必要になり、コンプライアンスを満たす面で課題に直面することになる。

移転されるデータの安全性を確かめるための実行可能な「特別措置」を適用できない場合は、データフローを停止することが義務付けられている。この義務を履行しないと、データフローの停止をデータ保護当局から命令される危険がある(さらに追加で制裁が科される可能性もある)。

そのような企業にとって代替手段となるのが、EUユーザーのデータをEU内でローカルに保管し処理する方法であるが、すべての会社がそれを実行できるわけではないのは明らかだ。

法律事務所は、この結果に非常に満足しているであろう。企業がデータフローの枠組みを作り、Schrems II判決後のやり方に適応しようと取り組むため、法律関連のアドバイスへの需要が高まるからだ。

一部のEU加盟国(ドイツなど)のデータ保護当局は、移転の差し止め命令が確実に遵守されるよう、活発にコンプライアンスチェックを実行している。

その一方で、欧州データ保護監督機関は、AWS(アマゾンウェブサービス)やMicrosoft(マイクロソフト)などのテクノロジー大企業がハイレベルな枠組みを持ち、合格レベルに達しているかを確認するため、EU機関自体の米国クラウドサービス大企業の使用について入念に調査することに注力している。

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CJEU(欧州司法裁判所)は2020年の夏、EU米国間の「 Privacy Shield(プライバシー・シールド)」制度を廃止した。適法性に関するこの重要な制度が制定されてから、ほんの数年後のことだ。それの前身となる「Safe Harbor(セーフ・ハーバー)」制度も、およそ15年持ちこたえたものの、同様の根本的な法的課題があり、同じ結末を迎えた。そして、プライバシー・シールド制度の廃止以降、EU委員会は、今度は応急措置となる代わりの合意を結ばないと何度も警告してきた。米国の監視法が大幅に改正されることを求めているのに他ならない。

米国とEUの議員はEU-USデータフロー協定の代替案について交渉中のままであるが、以前の2つの制度では解決できなかった法律的な課題に耐え得る実行可能な案をまとめるには、数カ月どころか、数年を要するであろう。

つまり当面は、EU米国間のデータフローは、法的不確定性に直面することになるということだ。

一方、英国は、ブレグジット後の計画がデータ保護の分野での規制を逸脱していると声高に指摘する一部の意見をよそに、データの適法性に関する一定の取り決めへの合意を欧州委員会から引き出した。

もし英国が、EUの法制度から受け継いだ主要な考え方を捨てる方針で突き進めば、数年以内に、高い確率で適法ステータスを失うことになる。つまり、英国も、EUとの間のデータフローに入るのを妨げる壁にぶち当たることになる(今のところは問題をなんとか回避しているようだ)。

適法性に関する取り決めをEUと締結していない他の第三国(中国やインドなど)へのデータフローも、現在見られる法的不確定性に直面することになる。

EU加盟国と非加盟国との間のデータフローに関する課題の背景には、発端となった申し立てがある。7年以上前に、NSA(米国国家安全保障理事会)の内部告発者であるEdward Snowden(エドワード・スノーデン)氏が政府の大規模監視プログラムについて暴露したことを受けて、Max Schrems(マックス・シュレムス)氏が、自身の名前を冠した文書を作成し、EU米国間データフローの安全性に疑問を投げかけたのだ。

シュレムス氏の申し立ては、特にFacebookのビジネスに的を絞ったものであったが、アイルランドのデータ保護委員会(DPC)がその執行力を用いて、Facebookによる欧州と米国間のデータフローを禁止する事態に至った。

規制が定まらずに揺れ動き、ついには、欧州最高裁判所での訴訟問題へと発展した。そして、最終的には、EU米国間のプライバシー・シールド制度の廃止につながったのである。CJEU(欧州司法裁判所)の判決では、情報が危険にさらされる場所にデータが流れていることが疑われる場合は、加盟国のデータ規制当局が介入して措置を講じるべきであることが、法律面での疑問の余地を残すことなく明示された。

Schrems IIの判決に続いて、DPCは(ついに)2020年秋、EU米国間のデータワークフローを停止するよう、Facebookに仮差し止め命令を通知した。Facebookは、すぐにアイルランド裁判所の命令に異議を申し立て、その動きを止めるよう求めたが、その試みは失敗に終わった。Facebookが、欧州と米国間のデータフローを実行できる時間はあとわずかしか残されていない

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Facebookは米国のFISA(外国情報監視法)第702項に従う義務があるため、同社が、EUデータ移転を補完するための「特別措置」を適用できるオプションは、控えめに言っても限られているように見える。

例えば、Facebookは、同社が確実にアクセスできない方法(ゼロアクセス暗号法)でデータを暗号化することはできない。それではFacebookの巨大な広告事業は機能できないからだ。また、シュレムス氏が以前に指摘したように、Facebookがデータ移転の問題を解決するには、そのサービスを連携させて、EUユーザーの情報をEU内に保管する必要がある。

Facebookのような企業がコンプライアンスを守るのに要する費用は非常に莫大で、その複雑性も相当なものだと言って間違いない。

しかし、CJEU(欧州司法裁判所)の判決の結果、何千もの企業はコンプライアンス費用と複雑性に直面することになる。欧州および米国のスタートアップ連合は、2021年6月初めのEU-USサミットに先駆けて議員あてに送った最近の公開書簡の中で、プライバシー・シールド制度の無効化をはじめとする、デジタル分野での最近の展開について言及し「このままでは、スタートアップのエコシステムが、競争の激しいグローバル市場で不利な立場に置かれたままになる危険がある」として、規制基準の整備における連携を図るよう政策立案者に要請した。

この懸念について、スタートアップ権利擁護団体Allied For StartupsでEU政策監督官を務めるBenedikt Blomeyer(ベネディクト・ブロマイヤー)氏は、TechCrunchに次のように語った。「スタートアップは起業初日からグローバルです。例えば、米国のスタートアップは、欧州のコンシューマーに提供できるものをたくさん持っています。市場がますます相互につながり合っていく中で、なぜデータ保護関連の法律が増え続け、デジタル経済においての貿易障壁が高まっているのでしょうか」。

しかし、EU米国間の規制の食い違い解消を求める意見を擁護しているスタートアップは、現時点で、例えば米国の監視法改正のような具体的な措置を目指して政府に働きかけているのか、とブロマイヤー氏に尋ねたところ、その点に関するコメントは今は控えたいとのことだった。

EDPB(欧州データ保護会議)による最終勧告の採択に関して、議長のAndrea Jelinek(アンドレア・ジェリネク)氏は次のようにコメントしている。「Schrems II判決が及ぼした影響は計り知れません。国際的なデータフローはすでに、それぞれのレベルで徹底調査を行う規制当局の厳しい監視の下に置かれています。EDPB最終勧告の目標は、個人データを合法的に第三国に移転するようデータ輸出者を導くことであり、それと同時に、欧州経済圏内で保証されているのと実質的に同じような一定レベルの保護が、移転されたデータに与えられるよう保証することです」。

同氏はさらに次のように語った。「利害関係者が表明した懸念を晴らし、特に第三国における公共機関の慣行を調査することの重要性を明確にすることによって、データ輸出者が、第三国へのデータ移転について評価する方法を簡単に学べるようにしたいと考えており、効果的な補完的措置を特定して、必要に応じて実行に移したいと考えています。EDPBは、今後発令するガイダンスにおいても、Schrems II判決の影響と、利害関係者から寄せられたコメントを引き続き考慮していきます」。

EDPB(欧州データ保護会議)は2020年、Schrems II判決への準拠に関する最初のガイダンスを発表した。

当初の勧告と今回の最終勧告の間に見られる主な調整点には「第三国の法律および慣行が、GDPR第46条で定められた移転手段の有効性を実際に侵害するかどうか、データ輸出者の法的評価において第三国の公共機関の慣行を調査することの重要性が強調されていること」「データ輸出者は、その評価において、具体的な補足情報など他の要素とともにデータ輸入者の実務状況を考慮に入れる可能性があること」「データの行き先となる第三国の法律が、データ移転へのアクセスをデータ輸入者の介入なしに関係当局に許可している場合にも移転手段の有効性が侵害される可能性があることに関する明示的な説明」などが含まれている。

法律事務所Linklaters(リンクレーターズ)は、声明の中でEDPB(欧州データ保護会議)の勧告について、このガイダンスがビジネスに与える今後の影響について危惧しながら、これは「厳しいガイダンスだ」とコメントした。

この国際的な法律事務所で弁護士を務めるPeter Church(ピーター・チャーチ)氏は、次のように説明する。「これらの移転に対する実用的なアプローチがあるとの証拠はあまり見られず、EDPBはデータがEU内にとどまるという結論であれば、それでまったく十分ではないかとも思います。例えば、企業は(ふさわしいデータ保護法がない状態で)第三国に個人データを移転する前に、法律だけでなく、法的処置と国家安全保障局が実質どのように運営されているかを考慮する必要があります。これらの活動は、通常は機密として扱われ、不透明であるため、このタイプの分析は数万ユーロを要し、時間もかかります。この分析が、比較的無害な移転に対しても必要になるようです」。

同氏はさらに「中小企業がこれらの要件をどの程度遵守すべきなのかという点が明確に示されていない」と付け加え「私たちは現在、国際化社会で取引を行っており、EDPBは、(王であっても海岸に押し寄せる潮を引き止めることはできないことを示したという逸話を残す)クヌート1世のように、それが持つ力の実際的な限界を考慮に入れるべきです。このガイダンスが、世界中でデータの波の満ち引きを止めることはありません。しかし、多くのビジネスは、この新しい要件に従うため相当苦しむことになるのです」と語った。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

【コラム】親愛なるEUへ、テックスタートアップ政策の優柔不断をやめてコミットする時がやってきた

EUは、その無気力、欠点の数々、官僚主義のフェティシゼーションなどを考慮に入れても、究極的には良いアイデアだ。欧州経済共同体が設立されて64年になるかもしれないが、マーストリヒト条約でEUが創設されて29年が経ち、この国際機関は今でも優柔不断なミレニアム世代のように振る舞い、テックスタートアップ政策を喜んでいじくり回している。EUはそろそろデジタルノマドをやめ、長年の懸案であるスタートアップへの対応について、1つの「場所」にコミットする時期に来ているのではないだろうか。

1つだけ誰もが同意できることがあるとすれば、それは今がユニークな時期であるということだ。新型コロナウイルスのパンデミックは世界的に、特にヨーロッパでテクノロジーの受け入れを加速させた。ありがたいことに、テック企業やスタートアップ企業は、確立した経済の大部分よりも回復力が高いことが証明されている。その結果、EUの政治指導者たちは、ヨーロッパのより持続可能な未来のために、イノベーション経済に目を向け始めた。

しかし、この時が訪れるまでには時間がかかった。

ヨーロッパのテックシーンは、スタートアップの設立数、テック分野の人材、資金調達ラウンド、IPO、イグジットなどの面で、米国やアジアに比べてまだ遅れをとっている。もちろん、ヨーロッパ市場が非常に細分化されていることも助けになっておらず、それは今後も長く続くだろう。

しかし、米国やアジアのテック巨人たちに対抗するために、スタートアップ企業の法律、税制、人材育成を改革するというEUの義務に関しては、言い訳はまったく存在しない。

だが率直に言ってEUは、スタートアップを取り巻く環境を整えることができないようだ。

これまであった提案の数々を考えてみよう。

古くは2016年に「Start-Up and Scale-Up Initiative」が発足した。同年には「Scale-Up Manifesto」も発表された。そして2019年には「Cluj Recommendations」、2020年にはオプション改革のための「Not Optional」という取り組みが行われた。

現実を受け入れよう。ヨーロッパのVC、創業者、スタートアップ協会コミュニティは、国やヨーロッパのリーダーに対して、何年も前からほとんど同じことを言っている。

2021年になってついに、これらの努力の集大成に近づくものが出てきた。

2021年前半のEU議長国であるポルトガルは勇敢に難局に立ち向かおうと決断し、EUが必要とするものの最終的な草案に近いものを作成した。

欧州のエコシステム関係者との綿密な協議を経て、同国はスタートアップの迅速な創出、人材、ストックオプション、規制の革新、資金調達へのアクセスなど、さまざまな問題を取り上げた上で、競争条件を整えるための8つのベストプラクティスを特定した。考えられる問題は網羅している提案だ。

これらは「Startup Nations Standard(SNS)」と呼ばれる立法文書としてまとめられ、2021年3月19日に行われたDigital Dayで、欧州委員会とともに、情報社会・メディア総局(DG CNECT)とその担当であるTierry Breton(ティエリー・ブルトン)委員に提出された。このことについては、当時書いた

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明らかに実現可能なこれらの提案に、EUはようやく理解を示し署名するだろうか?

少なくとも今回は、進展がありそうに思えた。この日、25の加盟国が宣言に署名し、おそらく初めて、この政策についての政治的コンセンサスが形成されたように見えたのである。

実際、ポルトガルのAntónio Costa(アントニオ・コスタ)首相は、このイニシアチブを統括するための機関(European Startup Nations Alliance、ESNA)の設立を発表している。この機関は、基準の監視、開発、最適化を行い、その成功と失敗に関するデータを加盟国から収集し、その結果を欧州理事会の議長国が変わるのに合わせ年2回の会議で報告するとのことだった。

冷えたバイラーダエスプマンテDOCでも開けて、これらの提案された政策のうち、少なくとも基本的な部分をEUがようやく実施し始めるかもしれないことを祝えそうなものだ。

しかし、そうは問屋が卸さない。パンデミックがいまだに続いている中、EUのリーダーたちはこれらのテーマについて考える時間を持て余していたようだ。

そこで今度はEmmanuel Macron(エマニュエル・マクロン)仏大統領が、ヨーロッパの主要なテック創業者、投資家、研究者、企業CEO、政府関係者など150人以上の選りすぐりのグループを集めて、スタートアップについて考える「Scaleup Europe」というイニシアティブを打ち出した。また、研究・イノベーション総局(DG RTD)のMariya Gabriel(マリヤ・ガブリエル)委員による「Global Powerhouse Initiative」も出てきた。

そう、ご列席のみなさん、EUはまるで巨大な金魚のような記憶力で、再びすべて同じプロセスを繰り返していたのだ。

このような集団行動が悪いというわけではない。しかし、EUのスタートアップは、もっと断固とした行動を必要としている。

現状では、非常に合理的なポルトガルの提案を実行する代わりに、2022年にフランスが議長国になるまで、EUの歯車がゆっくりと回転するのを待たなければならない。

とはいえ、うまくいけば、La French TechStartup PortugalStartup Estoniaのような組織で構成される、欧州共同体から委任されたテックスタートアップ政策の実施を監督する機関がようやく手の届くところに見えてくるかもしれない。

しかし外から見る者にとっては、EUの政策の歯ぎしりはまだまだ続くのではないかと感じてしまう。フランスは「La French Tech for Europe」を提唱し、ポルトガルはESNAをすでに立ち上げているが、これらの取り組みは連携が取れているとは言い難い。

つまるところ、テックスタートアップの創業者や投資家たちは、この新しい組織がどこから来たのか、どこの国が立ち上げたのかなどということは気にしないだろう。

何年もの貢献、何年もの協議を経て、今こそ行動を起こすべき時だ。

今こそEU加盟国は合意して前進し、確立されたベストプラクティスに基づいて他の加盟国が追いつけるように支援する時だ。

待望のEUテック巨人が開花し、米国生まれのビッグテックに対抗し、EUがようやくその力を発揮してもいい時期が来たのだ。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

KiaとUberが提携し欧州20マーケットのドライバーにEV車両を割引価格で提供

Kia(起亜自動車)のe-Niroとe-Soulの購入、リース、ローン、レンタルにかかる特別ディールを欧州の20マーケットに住むUberドライバーに提供するためにUber(ウーバー)とKia Europeがタイアップする。配車サービス大手Uberの二酸化炭素排出抑制の目標達成に向けた最新の取り組みだ。

Uberは2030年までに欧州全体でゼロエミッションモビリティプラットフォームになることに注力していて、同年までにドライバー3万人にKiaのBEV車両に乗り換えて欲しいと考えている。KiaはUberがドライバーに電気自動車の割引価格を提供する取り組みに加わる最新の自動車メーカーとなる。2021年5月にUberは、配車サービスドライバー向け専用電気自動車の生産でEVメーカーArrivalとの提携を発表した。そして2020年9月にはUberはカナダと米国のドライバーに全電動Chevrolet Boltを割引価格で提供すべくGM(ゼネラル・モーターズ)と提携した

関連記事:配車サービス用のEV生産に向けUberとArrivalが提携

欧州連合が最近制定した法律は、2030年までに二酸化炭素排出量を1990年代に比べて少なくとも55%削減することを目指している。UberのKiaとの提携は、欧州で二酸化炭素排出に関する規制がますます厳しくなることを予想してのことだ。規制に対応するためにUberはまた、2025年までに欧州のプラットフォームでEV10万台超を所有し、アムステルダム、ベルリン、ブリュッセル、リスボン、ロンドン、マドリッド、パリでの走行の半分をゼロエミッション車によるものにすることを目指している。

Kiaは2026年までに11種のEVモデルを発売する準備を進めていて、自社のBEV普及のために今回の提携を活用したいと考えている。e-Niroクロスオーバーは航続距離239マイル(約384km)で、DC急速充電を使えば54分でリチウムイオンバッテリーの80%を充電できる。可愛らしい小型デザインのサブコンパクトクロスオーバーe-Soulの航続距離は243マイル(約391km)だ。

しかし割引があっても、Uberのロンドン拠点ドライバーがEVを購入できるポータルのPartnerPointで提供されているKiaモデルはまだかなり高価だ。Kiaが提供している割引幅は8%で、一方日産の割引幅は13%、Hyundai(現代自動車)は22%だ。Kiaの割引後の車両価格は2万9877.40ポンド(約463万円)〜3万6471.40ポンド(約565万円)で、これはロンドンのドライバーの年間給与とほぼ同額だ。

にもかかわらず、ドライバーはこの割引と、5%のローン利子やClean Air Feeなどその他のインセンティブを活用しているようだ。Clean Air FeeはEVのコストにあてるために1回の乗車あたり3ペンスを集めるというもので、Uberによるとドライバーは年平均3000ポンド(約46万円)を節約できる。

2019年にClean Air Planが導入されて以来、ロンドンでは完全電気自動車の乗車が350万回以上あった。ロンドンのプラットフォームに加わる新しい車の50%ほどが今では完全EVで、広域マーケットではこの数字は8%だ。過去1年でUberプラットフォーム上のEV台数は700台から2100台に増えた。同社は2021年末までにさらに倍増させたいと考えている。

今回の発表ではUberはまた、乗客が排気ガスの少ない車両の配車をリクエストでき、一方でドライバーがそうした乗車にかかるサービス料金の15%割引を受けられるUber Greenという取り組みを2021年末までに欧州60都市に拡大する計画だと述べた。このサービスは現在、ロンドンのゾーン1内から乗車する客にのみ提供されているが、今こそドライバーがプラットフォームを通じて安い維持費とさらなる潜在的な収入を手にするときだとUberは話す。

欧州のUberドライバーはドライバーアプリ、ダイレクトメール、ドライバー向けウェビナーでEVについての情報を収集できる、と同社は述べた。車両の価格はドライバーのローケーションによって異なることはない。

カテゴリー:モビリティ
タグ:UberKia電気自動車二酸化炭素ヨーロッパ

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

グーグルが総額2億2000万円の黒人ファウンダー基金を欧州のスタートアップ30社に分配

Google(グーグル)は、ヨーロッパのスタートアップ企業から、総額200 万ドル(約2億2000万円)の黒人ファウンダー基金の対象となる30社を決定した。これらの企業は現金とGoogle関係者とのネットワークを獲得し、Googleの価値のあるクラウドサービスを利用できることになる。

2020年秋に発表されたこの基金は、助成金や新たなスポンサーシップと並んで「すべての人にとってより公平な未来を築く」ための全社的な取り組みの一環として行われたものだ。800社以上の企業が応募し、Googleはそのうちの100社と面接を行い、最終的に米国時間6月3日発表された30社に絞られた

各企業には、最大10万ドル(約1100万円)の株式の希薄化を伴わない資金と、最大12万ドル(約1300万円)の広告助成金および10万ドル(約1100万円)のクラウド利用のクレジットが提供される(この資金がどのように分配されたのか、全額を受け取った企業があるのかどうかについて、Googleに詳細を問い合わせている。回答があれば記事を更新する)。

また、Googleの起業家ネットワークや技術サポートなど、数字には現れない資産も利用できるようになる。

そのうちの1人は、LINEDOCK(ラインドック) の共同設立者であるNancy de Fays(ナンシー・デ・フェイズ)である。LINEDOCKは、MacBook Pro用のクールなバッテリーとハブを組み合わせたガジェットを販売。このガジェットでたくさんのポートとバッテリーが追加され、見た目もスマートだ。展示会で彼女と話していると、多くのことを学ぶことができる。残念ながら筆者はほとんどの仕事をデスクトップで行っており、LINEDOCKのガジェットを使う機会がない。

黒人ファウンダー基金に選ばれたことを受けて、デ・フェイ氏はブログで、企業は社会変革のために力を尽くすべきであり、スタートアップ企業は多様性と公平性をリードしていかなければならない、と主張する。

私たちは、製品よりも価値や基準で選んで購入します。私たちは現実よりも理想の人生を購入します。大企業の発信力と、ブランドの価値やメッセージに対する消費者の受容性という2つのパラメータを方程式に入れると、このような社会変革を推進するためには、大企業が強いメッセージを発し、伝えていくべきだと私は思います。

創業者は、二次受傷に陥らずに多様性のあるチームを作る必要があります。共感と敬意を示し、最高の人材を採用しなければなりません。創業者は、自分たちの価値観を率直に語り、強力でグローバルな考え方を伝え、それを中心に組織を構築する必要があります。そして、その過程で多様性スコアが低いことに気づいたら、その理由を自問自答し、慈善事業ではなく行動に移すべきなのです。

最近よく聞く「企業はミッションに集中し、客観的であるべき」とは対極にある考え方だ。

Googleが支援する他の29社は以下のとおりだ(説明は各社のブログ記事から引用)。

Googleのスタートアッププログラムの詳細はこちら。続報をお楽しみに!

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:Googleヨーロッパ

画像クレジット:Google

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

欧州人権裁判所は「大規模なデジタル通信の傍受には有効なプライバシー保護手段が必要」と強調

欧州人権裁判所(ECHR)の最高院は、デジタル通信の大量傍受が人権法(プライバシーと表現の自由に対する個人の権利を規定)に抵触することを本質的には認定せず、欧州の監視反対運動家たちに打撃を与えた。

ただし、現地時間5月25日に下された大法廷判決は、判事がいうところの「エンド・ツー・エンドの保護手段」を備えた上でこうした侵入的諜報権限を運用する必要性について強調している。

そのような措置を講じていない欧州各国政府は、欧州人権条約の下、こうした法令を法的な異議申し立てに一層さらしていくことになるだろう。

大法廷判決はまた、2000年捜査権限規制法(通称RIPA)に基づく英国の歴史的な監視体制が、必要な保護手段を欠いていたため違法であったとする判断を下した。

裁判所は「エンド・ツー・エンド」の保護手段の内容について次のように説明している。「大量傍受を行う権限は、プロセスの各段階において、講じるべき措置の必要性と比例性の評価を伴わなければならない」「大量傍受は、運用の対象と範囲が定義される最初の段階で、独立した承認を受けるべきである」「運用は、監督および独立した『事後』検証の対象とすべきである」。

大法廷判決は、RIPAの時代の中で英国で運用されてきた大量傍受体制に、いくつかの欠陥があることを明らかにした。大量傍受は行政機関から独立した組織ではなく国務大臣によって承認されていたこと、捜査令状の申請に通信の種類を定義する検索語のカテゴリを含めなくてよいとされていたこと、個人に関連する検索語(メールアドレスなどの特定の識別子)の使用について事前の内部承認が不要であったことなどだ。

裁判所はさらに、機密の報道資料に対する十分な保護が含まれていなかったことを理由に、英国の大量傍受体制が第10条(表現の自由)を侵害したと判断した。

通信サービスプロバイダーから通信データを取得するために使用された当該体制は「法に従っていなかったため」、第8条(プライバシーおよび家族、生活 / 通信に対する権利)と第10条に違反するとしている。

一方、裁判所は、英国が外国政府や諜報機関に情報提供を要請できるようにしている当該体制が、濫用を防止し、英国当局がこうした要請を国内法や条約に基づく義務を回避する目的で利用していないことを保証するという点では、十分な保護手段を有していることを認めた。

「現代社会において国家が直面している多数の脅威のために、大量傍受体制を運用すること自体は条約に違反していないと判断した」と裁判所はプレスリリースで付言した。

RIPA体制は後に、英国の調査権限法(IPA:Investigatory Powers Act)に置き換わり、大量傍受権限が明確に法制化されている(ただし監視の層の主張が盛り込まれている)。

IPAは、数多くの人権問題にも直面してきた。2018年、政府は英国高等裁判所から、人権法と相容れないとされてきた法律の一部を改正するよう命じられた。

今回の大法廷判決は、RIPAの他、いくつかの法的な異議申し立てにも関連している。ECHRが一斉に聴取を行うことになった、NSAの内部告発者Edward Snowden(エドワード・スノーデン)氏による2013年の大規模監視暴露を受けて、ジャーナリストやプライバシー活動家、デジタル権利活動家が英国の大規模監視体制に対して提起したものだ。

2018年に行われた同様の裁定で、下級審は英国の体制のいくつかの側面が人権法に違反すると判断した。過半数の投票により、英国の大量傍受体制は不十分な監視(選別者とフィルタリング、検査のために傍受された通信の調査と選択、関連通信データの選択の管理における不適切な保護措置など)のために第8条に違反するとした。

人権活動家らはこれに続き、大法廷への付託を要請し、確保した。大法廷は今回、そのときの見解を採択したことになる。

通信事業者から通信データを取得する制度について、第8条違反があったことを全会一致で認定した。

しかし、12票対5票で、英国の体制が外国政府や諜報機関に対して傍受された資料を要求したことについては、第8条に違反していないと判断した。

別の全会一致の投票においては、大量傍受体制と、通信サービスプロバイダーから通信データを取得するための体制の両方に関して、第10条の違反があったと大法廷は認めている。

しかし、繰り返しになるが、12票対5票で、外国政府や諜報機関に傍受された資料を要求したことについては第10条に違反していないと裁定したのである。

今回の問題の当事者の一員であるプライバシー擁護団体Big Brother Watchは、声明の中でこの判決について「英国の大量傍受行為が何十年にもわたって違法であったことが明確に確認され」、スノーデン氏の内部告発の正当性が示されたと述べている。

同団体はまた、Pinto de Alburquerque(ピント・デ・アルバーカーキ)判事による異議を唱える意見も強調した。

対象を定めない大量傍受を認めることは、欧州における犯罪防止や捜査、情報収集に対する我々の見方を根本的に変えてしまうことになります。特定できる容疑者を標的にすることから始まり、すべての人を潜在的な容疑者として扱い、そのデータを保存、分析、プロファイリングすることになりかねません【略】こうした基盤の上に築かれた社会は、民主社会というよりは警察国家に近いものです。これは、欧州人権の創立者たちが1950年に条約に署名したときに欧州に求めていたものとは、対極に位置します。

Big Brother Watchでディレクターを務めるSilkie Carlo(シルキー・カルロ)氏は、判決についてさらに次のように述べている。「大規模監視は、保護を装いながら民主主義に損害を与えるものであり、裁判所がそれを認めたことについて歓迎します。ある判事が述べたように、私たちは欧州の電子的な『ビッグブラザー』の中で暮らす大きな危険にさらされています。英国の監視体制が違法であったという判決を支持しますが、裁判所がより明確な制限と保護措置を定める機会を逸したことは、リスクが依然として存在し、現実的であることを意味するものです」。

「私たちは、侵害的な大規模監視活動の終結に向けて、議会から裁判所に至るまで、プライバシーを保護するための取り組みを継続します」と同氏は言い添えた。

この件の別の当事者であるPrivacy Internationalは、大法廷はECHRの2018年の判決よりもさらに踏み込んで「新たな、より強力な保護手段を設けるとともに、大量傍受には事前の独立した、あるいは司法による承認が必要であるとする新たな要件を追加している」と述べ、判決の結果を前向きに解釈する姿勢を示した。

同団体は声明で「承認は意味のある厳格なものでなければならず、適切な『エンド・ツー・エンドの保護手段』が存在することを確かめる必要があります」と付け加えた。

また、Open Rights GroupのエグゼクティブディレクターJim Killock(ジム・キルロック)氏は、公開コメントで次のように語った。「2013年に私たちがBig Brother WatchとConstanze Kurzとともに法廷に持ち込んだ時点で、英国政府の法的枠組みは脆弱で不適切であったことを裁判所は示しています。裁判所は、将来の大量傍受体制を評価するための明確な基準を定めていますが、大量傍受が濫用されないようにするためには、将来的にこれらをより厳しい判断基準に展開していく必要があると考えています」。

「裁判所が述べているように、大量傍受の権限は巨大な力であり、事実上秘密主義的で、制御するのは容易ではありません。技術的な機能性が深まりを続けている一方で、今日の大量傍受が十分に保護されているとは到底考えにくいです。GCHQは、テクノロジープラットフォームと生データを米国と共有し続けています」とキルロック氏は続け、判決を「長期的な道のりにおける1つの重要なステップ」と評した。

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デジタルIDへ独自の道を歩む欧州、危ぶまれる実現性
EUが大手テック企業の「新型コロナ偽情報対応は不十分」と指摘

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

デジタルIDへ独自の道を歩む欧州、危ぶまれる実現性

欧州連合は、デジタル政策に関する最新の意欲的な取り組みの1つとして「信頼できる安全な欧州のe-ID(デジタルID)」のフレームワークの構築を提案した。これは、すべての市民、居住者、企業が公共サービスや商業サービスを利用する際に、EU内のどこからでも自分の身分を証明するために、公的なデジタルIDをより簡単に使用できるようにしたいとして、現地時間6月3日に発表された。

EUには、すでに電子認証システムに関する規則(eIDAS)があり、2014年に発効している。しかし、今回のe-IDに関する欧州委員会の提案の意図は、e-IDを展開することでeIDASの限界や不十分な点(普及率の低さやモバイルサポートの不足など)に対処することにある。

また、e-IDフレームワークにデジタルウォレットを組み込むことも目指している。つまり、ユーザーはモバイル機器にウォレットアプリをダウンロードして電子文書を保存し、銀行口座の開設やローンの申し込みなど、ID確認が必要な特定の取引で、電子文書を選択的に共有できるようにするものだ。その他の機能(電子署名など)も、こういったe-IDデジタルウォレットによってサポートされることを想定している。

欧州委員会は、e-IDに統合すれば便利になると考えられる他の例として、レンタカーやホテルへのチェックインなどを挙げている。また、EUの議員らは、市民が地方税の申告をしたりEU内の大学へ入学したりする場合の利便性を挙げ、各国のデジタルIDの認証に完全な相互運用性を持たせることを提案している。

一部のEU加盟国では、すでに国の電子IDを提供しているが、国境をまたぐ相互運用性には問題がある。欧州委員会によると、全加盟国の主要な公共サービスプロバイダーのうち、国境を越えた認証を許可している電子IDシステムは、わずか14%だが、そういった認証は増加しているという。

全EUで利用可能な「e-ID」は、理論的には、欧州の人々が自国以外で旅行したり生活したりする際に、本人確認を含めて商業的サービスや公的サービスへのアクセスが容易になり、EU全体にわたって単一市場としてのデジタル活動を促進する。

EUの議員らは、もし全欧州の公的デジタルIDについて統一的なフレームワークを作ることができれば、そこにデジタルパズルの戦略的なピースを「手に入れる」機会があると考えているようだ。消費者に(少なくとも一部の状況で必要な)物理的な公的IDや、特定のサービスの利用で必要な書類を持ち歩かずに済む、より便利な新しい手段を提供するだけではない。商業的なデジタルIDシステムでは提供できないであろう、自分のデータのどの部分を誰が見るかをユーザーが完全にコントロールできる「信頼された安全な」IDシステムというハイレベルな確約を提供しようとしている。欧州委員会は同日の発表で、それを「欧州の選択」と称している。

もちろん、すでにいくつかの大手テック企業は、自社のサービスにアクセスするための認証情報を使ってサードパーティのデジタルサービスにもサインインできる機能をユーザーに提供している。しかし、ほとんどの場合、ユーザーは、認証情報を管理するデータマイニングの大手プラットフォーム企業に個人情報を送る新たなルートを開くことになり、Facebook(フェイスブック)などは、そのユーザーのインターネット上の行動について知っていることをさらに具体的に把握することになる。

欧州委員会のステートメントでは「欧州の新しいデジタルIDウォレットによって、欧州のすべての人々が、個人的なIDを使用したり、個人データを不必要に共有したりすることなく、オンラインサービスにアクセスできるようになる。このソリューションでは、自分が共有するデータを完全に自分でコントロールできる」と、提案するe-IDフレームワークのビジョンを述べている。

同委員会はまた、このシステムが「信頼できる安全なIDサービス」に関連した誓約に基づく「広範な新サービス」の提供を支援することによって、欧州企業に大きな利益をもたらす可能性があることを示唆している。また、デジタルサービスに対する欧州市民の信頼を高めることは、欧州委員会がデジタル政策に取り組む際の重要な柱であり、オンラインサービスの普及率を高めるためには不可欠な方策だと主張する。

しかし、このe-ID構想を「意欲的」といったのは、実現性に対する危惧を、リスペクトを込めて表現したものだ。

まず、普及という厄介な問題がある。つまり、欧州の人々に(A)e-IDが知れ渡り(B)実際に使ってもらうためには(C)e-IDをサポートする十分なプラットフォームを用意し(D)強固な安全性を確保した上で、必要とされる機能を持つウォレットを開発するプロバイダーの参加も必要だ。それに加え、恐らく(E)ウェブブラウザーに、e-IDを統合させ効率よくアクセスできるよう、説得または強要する必要もあるだろう。

別の方法、つまりブラウザーのUIに組み込まれない場合は、普及に向けた他のステップがより面倒になることは間違いない。

しかし、委員会のプレスリリースは、そういった詳細にはほとんど触れておらず、次のようにしか書かれていない。「非常に大規模なプラットフォームでは、ユーザーの要求に応じて欧州のデジタルIDウォレットの使用を受け入れることが求められる」。

それにもかかわらず、提案は全体として「ウェブサイト認証のための適格証明書」の議論に費やされている。これはサービスの信頼性を確保するためであり、eIDASで採用されたアプローチを拡張したものだ。e-IDでは、ウェブサイトの運営者に認証を与えることでユーザーの信頼性をさらに高めようと、委員会が、熱心に取り入れようとしている(提案では、ウェブサイトが認証を受けることは任意としているが)。

この提案の要点は、必要とされる信頼を得るために、ウェブブラウザがそういった証明書をサポートし、表示する必要があるということだ。つまり、このEUの要求に対応するために、サードパーティは、既存のウェブインフラストラクチャとの相互運用性確保のために非常に微妙な作業が必要となる(すでに複数のブラウザメーカーがこの作業に重大な懸念を表明しているようだ)。

セキュリティとプライバシーの研究者であるLukasz Olejnik(ルーカス・オレイニク)博士は「この規制は、ウェブブラウザに新たなタイプの『信頼証明書』の受け入れを強いる可能性がある」と、委員会の提案に関するTechCrunchとの対話で述べている。そして次のように語る。

「この方式では、ウェブブラウザがそういった証明書を尊重し、何らかの方法で表示するようにウェブブラウザのユーザーインターフェイスを変更するという要件がともなう。このようなものが実際に信頼を向上させるかどうかは疑問だ。もしこれが『フェイクニュース』と戦うための仕組みだとしたら、厄介な問題だ。一方で、ウェブブラウザのベンダーが、セキュリティとプライバシーのモデルの修正を求められれば、これは新たな前例となる」。

欧州委員会のe-ID構想が投じるもう1つの大きな疑問は、想定されている認証済みデジタルIDウォレットが、ユーザーデータをどのように保存し、最も重要なことだが、どのように保護するのかということだ。初期段階である現時点では、この点について、決定すべきことが数多くある。

例えば、この規制の備考には、加盟国は「革新的なソリューションを管理された安全な環境でテストするための共同サンドボックスを設定し、特にソリューションの機能性、個人データの保護、セキュリティ、相互運用性を向上させ、テクニカルリファレンスや法的要件の将来の更新を通知する」ことが奨励される、という記述がある。

また、さまざまなアプローチが検討されているようだ。備考11では、デジタルウォレットへのアクセスに生体認証を使用することが議論されている(同時に、十分なセキュリティ確保の必要性に加え、権利に対する潜在的なリスクについても言及されている)。

欧州のデジタルIDウォレットでは、認証に使用される個人データについて、そのデータがローカルに保存されているか、クラウドベースのソリューションに保存されているかにかかわらず、さまざまなリスクレベルを考慮して、最高レベルのセキュリティを確保する必要がある。バイオメトリクスを用いた認証は、特に他の認証要素と組み合わせて使用すると、高いレベルの信頼性を確保できる識別方法の1つだ。バイオメトリクスは個人の固有の特性を表すため、バイオメトリクスを使用する処理については、人の権利と自由に及ぼす恐れのあるリスクに対応し、規則2016/679に準拠する組織的なセキュリティ対策が必要となる。

つまるところ、統一された(そして求心力のある)欧州のe-IDという欧州委員会の高尚で壮大なアイデアの根幹には、安全で信頼できる欧州のデジタルIDというビジョンを実現するために解決すべき複雑な要件が山積している。そして、ほとんどのウェブ利用者に無視されたり利用されなかったりといったことだけではなく、高度な技術的要件や、困難(広範な普及の実現が求められていることなど)が立ちふさがっていることは明らかだ。

成功を阻むものは、確かに手強いようだ。

それでもなお、議員らは、パンデミックによってデジタルサービスの導入が加速したことを受け、eIDASの欠点に対処し「EU全域で効果的かつユーザーフレンドリーなデジタルサービスを提供する」という目標の達成が急務であると主張し、努力を続けている。

同日の規制案に加え、議員らは加盟国に対して「2022年9月までに共通のツールボックスを構築し、必要な準備作業を直ちに開始すること」を求める提言を発表した。そして、2022年10月に、合意されたツールボックスを公開し、その後(合意された技術的フレームワークに基づく)パイロットプロジェクトを開始することを目標としている。

同委員会は「このツールボックスには、技術的なアーキテクチャー、標準規格、ベストプラクティスのためのガイドラインが含まれる必要がある」と付け加えているが、厄介な問題をいくつも抱えていることには触れていない。

それでもなお委員会は、2030年までにEU市民の80%がe-IDソリューションを使用することを目指すと書いているが、全面的な展開までのタイムフレームとして約10年の歳月を見込んでいることは、この課題の大きさを如実に表している。

さらに長い目で見れば、EUはデジタル主権を獲得して、外資系大手テック企業に踊らされないようにしたいと考えている。そして「EUブランド」として自律的に運営される欧州のデジタルIDは、この戦略的目標に確実に合致するものだ。

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フェイスブックの広告データ利用について英国と欧州の規制当局が競争規則違反の疑いで調査開始

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

フェイスブックの広告データ利用について英国と欧州の規制当局が競争規則違反の疑いで調査開始

Facebook(フェイスブック)は、欧州で新たに2つの独占禁止法違反の調査を受けている。

英国の競争・市場庁(CMA)と欧州委員会は現地時間6月4日、ソーシャルメディアの巨人であるFacebookの事業に対する正式な調査開始を発表した。そのタイミングはおそらく協調して合わせたものと思われる。

英国と欧州の競争規制当局は、Facebookが広告顧客やSSO(シングルサインオン)ツールのユーザーから得たデータをどのように利用しているかを精査し、特にこのデータを、クラシファイド広告などの市場で、競合他社に対して不公正な手段として利用していないかどうかを調査する。

英国が欧州連合から離脱したことで、英国の競争監視当局は、EUが実施している反トラスト調査と類似または重複する可能性のある調査を、より自由に行うことができるようになった。

Facebookに対する2つの調査は、表面的には類似しているように見える。どちらも広告データをどのように利用しているかに大きく焦点を当てているからだ(とはいえ、調査の結果は異なるかもしれない)。

Facebookが恐れるのは、英国とEUの規制当局が、共同で調査を行ったり、調査結果を相互参照する機会を得て(いうまでもなく、英国とEUの機関間では多少の調査競争が行われる)、両者から規制措置が取られた結果、より高い次元の監視が同社のビジネスに適用されるようになることだ。

CMAは、Facebookがオンライン・クラシファイド広告やオンライン・デートのサービスを提供する上で、特定のデータの収集・使用を通じて競合他社よりも不当に有利な立場にないかということを調査しているという。

つまり、これらの同種のサービスを提供する競合他社に対し、Facebookが不当な優位性を得ているのではないかと懸念していると、英国の規制当局は述べている。

Facebookはもちろん、オンラインクラシファイド広告とオンラインデートの分野で、それぞれFacebook Marketplace(フェイスブック・マーケットプレイス)とFacebook Dating(フェイスブック・デーティング)というサービスを展開して収益を上げている。

CMAのCEOを務めるAndrea Coscelli(アンドレア・コシェリ)氏は、今回の措置に関する声明の中で次のように述べている。「私たちは、Facebookのデータ利用を徹底的に調査し、同社のビジネスのやり方がオンライン・デートやクラシファイド広告の分野で不当な優位性を築いていないかを見極めるつもりです。そのような優位性は、新規事業や小規模事業を含む競合企業の成功を阻むものであり、顧客の選択肢を狭める可能性があります」。

欧州委員会の調査も同様に、Facebookが事業を展開している市場で、広告主から収集した広告データを利用して広告主と競合し、EUの競争規則に違反していないかということに焦点を当てている。

ただし、調査の対象となる市場で特に懸念される例として、欧州委員会はクラシファイド広告のみを挙げている。

EUの調査にはもう1つの要素がある。それは、Facebookが同社のオンライン・クラシファイド広告サービスをソーシャルネットワークに結びつけることが、EUの競争規則に違反していないかを調べることだ。

これとは別の(国による)動きとして、ドイツの競争当局は2020年末、FacebookがOculus(オキュラス)とFacebookアカウントの使用を結びつけていることについて、同様の調査を開始した。このようにFacebookは、米国で2020年12月に提起された大規模な独占禁止法違反の訴訟に加え、欧州でも複数の独占禁止法違反の調査を受けており、各地で苦しい立場に置かれている。

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欧州委員会は「Facebookとも直接競合する企業が、Facebookでサービスを宣伝する際に、商業的に価値のあるデータを同社に提供する場合があります。Facebookはデータを提供した企業と競合するために、そのデータを利用している可能性があります」と、プレスリリースで指摘した。

「これは特に、オンラインクラシファイド広告プロバイダーに当てはまります。多くの欧州の消費者が商品を売買するプラットフォームであるオンラインクラシファイド広告プロバイダーは、Facebookのソーシャルネットワーク上で自社のサービスを宣伝していますが、同時にこれらの業者は、Facebook独自のオンラインクラシファイド広告サービスである『Facebook Marketplace』と競合しています」。

欧州委員会は、すでに実施した予備調査で、Facebookがオンラインクラシファイド広告サービスの市場を歪めている懸念が生じていると付け加えた。委員会は今後、このソーシャルメディアの巨人がEUの競争規則に違反しているかどうかを完全に判断するため、より踏み込んだ調査を行うことになる。

欧州委員会の競争政策で責任者を務めるEVPのMargrethe Vestager(マルグレーテ・ベステアー)氏は、声明の中で次のように述べている。「Facebookは、毎月30億人近くの人々に利用されており、700万社近くの企業がFacebookに広告を出しています。Facebookは、そのソーシャルネットワークのユーザーや閲覧者の活動に関する膨大なデータを収集することができ、それによって特定の顧客グループをターゲットにすることが可能です。私たちは、特に人々が毎日商品を売買し、Facebookがデータを収集している企業とも競合しているオンライン・クラシファイド広告の分野で、このデータがFacebookに不当な競争上の優位性を与えているかどうかを詳細に調査していきます。現代のデジタル経済において、データを使用して競争を歪めることは、許されるべきではありません」。

今回の欧州の独占禁止法に関する調査についてコメントを求められたFacebookは、次のような声明を発表した。

当社は、Facebookを利用する人々の進化する需要に応えるために、常により良いサービスを開発しています。MarketplaceとDatingは、人々により多くの選択肢を提供し、どちらも多くの大手既存企業が存在する競争の激しい環境で運営されています。我々は調査に全面的に協力し、この調査が無意味であることを証明していきます。

これまで(特に) Google(グーグル)やAmazon(アマゾン)のような他の巨大テック企業に対して複数の調査と取締りを行ってきた欧州委員会の競争当局にとって、Facebookはちょっとした盲点だった。

しかし、ベステアー氏のFacebookに対する看過は、これで正式に終了した(Facebook Marketplaceに対するEUの非公式調査は、2019年3月から続いていた)。

一方、英国のCMAは、アドテック複占の翼を切り落とすという計画に基づき、FacebookやGoogleなどの巨大テック企業に真っ向から狙いを定めた、より広範な競争促進規制の改革に取り組んでいる。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

欧州の物流業界に一石を投じる貨物フォワーディング企業Sennderが約88億円調達、評価額約1100億円超えに

2020年のeコマースの大ブームに加え、新型コロナウイルスの影響から物の移動をより効率的に行うことが求められていることもあり、貨物フォワーディング(貨物利用運送事業。貨物をどのように、どこへ運ぶかを手配するプロセスであり、その作業を支える技術のこと)は物流業界の中でも特に重要な分野となっている。この分野における大手企業の1つが、現地時間6月1日、この機会を生かすための資金を調達したことを発表した。

欧州地域の貨物輸送(特にトラック運送)に特化したデジタル貨物フォワーダーであるSennder(センダー)は、8000万ドル(約88億円)の資金を調達し、評価額が10億ドル(約1100億円)を超えたと発表した。

ベルリンを拠点とするこのスタートアップは、2021年に入ってから資金調達を繰り返している。2021年1月には1億6000万ドル(約176億円)の資金調達を発表しており、今回の8000万ドルでシリーズDラウンドをクローズした。今回の延長シリーズDはBaillie Gifford(ベイリー・ギフォード)が主導し、Hedosophia(ヘドソフィア)、Accel(アクセル)、Lakestar(レイクスター)、HV Capital(HVキャピタル)、Project A(プロジェクトA)、Scania(スカニア)が前回のシリーズDから参加している。

今回のラウンドによって、3億5000万ドル(約384億円)を超える資金を調達したSennderは、貨物輸送業者の中でも最も資金力のある企業の1つとなった。現在この分野は注目を浴びており、欧州のZencargo(ゼンカーゴ)も5月に4200万ドル(約46億円)を調達したばかりだ。競合企業には米国のFlexport(フレックスポート)などがある。

Sennderは有機的に成長を遂げているが、規模を拡大するためにいくつかの買収も行っている。これは、市場の活性化だけでなく、細分化が進んでいることの表れでもある。5月にはCars&Cargo(カーズ&カーゴ)を買収し、フランスとベネルクスでの存在感を強めた。2020年にはUber Freight Europe(ウーバー・フレイト・ヨーロッパ)とEveroad(エバーロード)を買収し、イタリアの郵政公社であるPoste Italiane(ポステ・イタリアーネ)との合弁会社も設立。欧州に同社は全部で8つのハブを持つことになった。

Sennderによれば、同社は今後もこの種の買収を行う計画で、現在のトラック1万2500台におよぶネットワークを拡大するために、DAX30(ドイツ株式指数)のうち10社、Euro Stoxx(ユーロ・ストックス)50のうち11社と提携し、2021年にはトラック100万台分以上の輸送量を見込んでいるという。

「2020年から2021年に向けて、すでに1件の買収と複数の戦略的パートナーシップの締結を行い、その勢いを維持できていることを喜ばしく思います」と、Sennderの共同設立者であるCEOのDavid Nothacker(デイビッド・ノーサッカー)氏は、声明の中で語っている。「私たちは欧州における事業を拡大し、より多くの運送者や荷主をSnnderのプラットフォームに取り込み、SaaSなどのデジタルサービスを拡大していきます。買収や戦略的提携もこの戦略の一環であり、今回の追加資金は適切な機会に資本投下する柔軟性を当社にもたらします。Baillie Giffordは、革新的な技術を持つ企業を次々と支援してきました。彼らの支援は、我々のチーム、技術、ビジネスモデルに対する信頼の証です」。

Baillie Gifford European Growth Trust PLCの共同マネージャーであるStephen Paice(ステファン・ペイス)氏は、次のように付け加えた。「欧州の物流業界に一石を投じるSennderチームの旅に参加できることをうれしく思います。Sennderの技術は、非効率性や不必要な二酸化炭素排出に悩まされている業界で、出資者や社会に多大な価値を生み出す可能性があると確信しています。これまでの実績に加えて、特に印象的だったのは、目的意識を持った起業家精神が同社内に浸透していることです。これが長期的な成功のための重要な要素となることは間違いありません」。

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

不正なやり方でCookie同意を求めるウェブサイトの粛清が欧州で始まる

あなたはCookie(クッキー)のポップアップにうんざりしていないだろうか?欧州では、ウェブサイトの閲覧時に現れる「データの選択」の通知が、オンラインで行おうとしていることを邪魔し、イライラさせられたり、混乱させられたりするため、ウェブが「使いにくい」という苦情が多数のユーザーから寄せられている。

煩わしいから、不気味な広告のような誰も好まないものを動かす必須でないCookieは「すべて拒否」できるボタンがあればいいのに、と思う人もいるだろう。

しかし法規では、ユーザーが明確に「拒否を選択(オプトアウト)する」意思表示がなされるべきだとしている。だからEUの「規制好きな官僚主義」が問題だと訴える人々は、文句をいう対象を間違えている。

Cookieの同意に関するEUの法規は明確だ。ウェブユーザーには「受け入れる」か「拒否する」かというシンプルで自由な選択が提供されるべきというものである。

問題は、単にほとんどのウェブサイトがこれを遵守していないということだ。例えば、それらのウェブサイトは、非常にシンプルな「受け入れる」(すべてのデータを渡す)と、非常に解り難くてイライラする退屈な「拒否する」(場合によっては拒否の選択肢がまったくない)という、歪んだ選択肢を提供しているところもある。これは法規を馬鹿にした行為だ。

勘違いしてはいけない。これは意図的に法律を無視するように作られたのだ。このようなサイトは、あえて非対称な「選択肢」を提供することで、人々を疲弊させ、データを奪い続けようとしているのだ。

しかし、現行のEU規制では、そのようなCookieの同意を求めるやり方は認められていないので、こういうことをしているウェブサイトは、欧州一般データ保護規則(GDPR)やeプライバシー(ePrivacy)指令の下、規則に背いたとして多額の罰金を科せられることになる。

例えば、2020年末にはフランスで、Google(グーグル)とAmazon(アマゾン)が、ユーザーの同意なしに追跡用のCookieを投下したとして、前者に総額1億ユーロ(約134億円)、後者には3500万ユーロ(約47億円)の罰金が科せられた。

罰金は確かに目を見張るほど高額だ。だが、不正なCookie同意に対するEUの取締りは、まだそれほど見られない。

これは欧州各国のデータ保護機関が、ウェブサイトをコンプライアンスに導くために、ほとんどの場合、穏便なアプローチをとってきたためである。しかし、取締りがより厳しくなる兆候もある。その1つは、データ保護機関が、適切なCookieの同意とはどういうものかを詳細に明記した指針を発表したことだ。これで意図的に間違ったことをしても言い訳の余地がなくなる。

一部のデータ保護機関は、企業がCookieの同意フローに必要な変更を加える時間を確保するため、コンプライアンスの猶予期間を設けていた。しかし、今やEUの一般データ保護規則(GDPR)が適用されてから、まる3年が経過している。もはや、いまだにひどく歪んだCookie同意バナーを掲載しているウェブサイトには、正当な理由はない。それはそのサイトが法律を破り、取り締まられない幸運を祈っている状態であることを意味する。

Cookie同意に関する取り締まりがすぐに始まることを予感させる理由は他にもある。欧州のプライバシー保護団体「noyb」は現地時間5月31日、コンプライアンス違反を一掃するための大規模なキャンペーンを開始したと発表。年内に最大1万サイトのコンプライアンスを確認し、違反しているサイトには自動的に苦情を申し立てるソフトウェアを開発したという。このキャンペーンの一環として、noybは違反者が規則を遵守するためのガイダンスも無料で提供している。

まずはその第1弾として、EU全域(33カ国)における大小さまざまなサイトに対し、すでに560件の苦情を申し立てたことが発表された。noybによると、苦情の対象となっているのは、Google(グーグル)やTwitter(ツイッター)などの大手企業から「ある程度の訪問者数を持つ」ローカルなページまで多岐にわたるという。

「コンサルタントからデザイナーに至るまで、業界全体が、仮想の同意率を確保するために、おかしなクリックの迷宮を開発しています。人々をイライラさせて『OK』をクリックさせることは、GDPRの原則に明らかに違反しています。この法律に従い、企業はユーザーの選択を容易にし、システムを公正にデザインしなければなりません。これらの企業は、実際にCookieを受け入れたいと思っているユーザーが全体の3%しかいないことを公に認めています。しかし、90%以上のユーザーは『同意』ボタンをクリックするように誘導することができるのです」と、nybの会長であり、長年にわたりEUのプライバシーキャンペーンに携わってきたMax Schrems(マックス・シュレムス)氏は声明の中で述べている。

「企業は『はい』か『いいえ』という単純な選択肢を与える代わりに、あらゆる手段を用いてユーザーを操作しています。私たちは、15種類以上のよくある悪用を確認しました。最も多く見られる問題は、最初のページに『拒否』ボタンがないことです」と、シュレムス氏は続けている。「私たちは欧州で人気のあるページに焦点を当てています。このプロジェクトで申し立てる苦情は、1万件を容易に超えるだろうと予想しています。私たちの団体は寄付によって運営されているため、法律事務所とは違って、企業に無料で簡単な解決方法を提供しています。ほとんどの苦情が迅速に解決され、バナーがもっともっとプライバシーに配慮したものになることを、私たちは期待しています」。

noybはその活動を拡大するため、Cookieの同意フローを自動的に解析してコンプライアンス上の問題点を特定し(最上層で「拒否」ボタンが提供されていない、ボタンの色がまぎらわしい、偽の「legitimate interest(正当な利益)」によるCookieの受け入れが行われている、など)、違反者にメールで送信できる(noybの法務担当者が確認してから)報告書のドラフトを自動的に作成するツールを開発した。

これは、組織的に行われている悪質なCookie操作に取り組むための、革新的で拡張性のあるアプローチと言える。実際に目立った変化を起こし、おぞましいCookieポップアップを一掃することができるだろう。

noybは、まず違反者に警告を与え、1カ月以内に違反行為を是正させる猶予を与える。それでも改善されなければ、そのサイトが関連するデータ保護機関に正式な苦情を申し立てる(そして違反者には涙が出るほど高額な罰金が課せられるだろう)。

その最初の取り組みでは、この地域で最もよく使用されているテンプレートツールの1つであるOneTrust(ワントラスト)の利用同意管理プラットフォーム(CMP)に焦点を当てている。このツールは、欧州のプライバシー研究者が以前、顧客ベースにプレチェックボックスのような非準拠の選択肢を設定するための豊富なオプションを提供していると指摘していた。困った話だ。

noybの広報担当者は、OneTrustのツールが人気が高いため、今回はそれから始めたと語っているが、将来的には他のCMPにも対象を拡大していくことを認めている。

noybが始めたCookie同意に関する苦情の取り組みは、現在多くのウェブサイトで展開されているダークパターンの腐敗ぶりを露呈させた。noybが確認した500以上のページのうち、81%は最初のページで「拒否する」選択肢を提供しておらず(つまり、ユーザーは拒否オプションを見つけるためにサブメニューを探さなければならない)、73%はユーザーを騙して「同意する」をクリックさせようとする「欺瞞的な色とコントラスト」を使用していたという。

noybの評価では、90%が法律で定められている「容易に同意を撤回できる」方法を提供していないこともわかった。

第1弾の苦情申立て対象となったサイトで見つかったCookie遵守に関する問題(画像クレジット:noyb)

このことは、大規模な法規制の施行がまったく成功していないということの現れだ。しかし、不正なCookie同意の横行も、もはやこれまでといったところだろう。

クロールしたウェブサイトに基づき、EU全域でCookieの不正使用がどの程度蔓延しているかを把握できたかと尋ねられたnoybの広報担当者は、その過程には技術的な問題があるため、判断は難しいと答えたが、しかし最初に収集した5000サイトから3600サイトに絞られたと述べた。そして、そのうち3300サイトがEU一般データ保護規則に違反していると判断できたという。

残りの300サイトについては、技術的な問題があるものと、違反していないものがあったが、やはり大部分(90%)は違反していると判断された。これほど多くの規則違反があるのだから「不正な同意」の問題を改善するには組織的なアプローチが必要だ。つまり、noybによる自動化技術の使用は、非常に理に適っている。

この非営利団体は、他にも革新的な方法を考えている。noybは欧州の人々が「迷惑なCookieバナーを使わずに、バックグラウンドでプライバシーに関する選択を知らせることができる」自動化されたシステムの開発に取り組んでいるという。

この記事を書いている時点では、このシステムがどのように機能するかについての詳細は明らかにされていないが(おそらくブラウザのプラグインのようなものになると思われる)、noybは「今後数週間のうちに」詳細を発表すると語っているので、なるべく早くわかることを期待したい。

「すべてを拒否する」ボタンを自動的に検出して選択することができる(たとえ、最も普及しているCMPのサブセットのみに有効であっても)ブラウザプラグインは「Do not track(追跡するな)」の夢を復活させるかもしれない。少なくとも、Cookieバナーによるダークパターンの弊害に対抗し、不正なCookieをデジタルの塵にするための強力な武器となるだろう。

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画像クレジット:Lisa Zins Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

欧州の金融スーパーアプリへ向けてVivid Moneyが約79.6億円を調達

ドイツのスタートアップVivid Money(ビビッドマネー)は、GreenoaksがリードするシリーズBラウンドで新たに7300万ドル(79億6000万円)を調達した。既存の投資家からRibbit Capitalも参加した。この資金調達ラウンドで、Vivid Moneyのバリュエーションは4億3600万ドル(約480億円)に達した。

Vivid MoneyはRevolutの競合企業と見ることができるが、ユーロ圏向けに特別にデザインされている。同社は銀行インフラにSolarisbankを利用して開発されており、ユーザーはさまざまな方法で送金、受け取り、支出、投資、貯蓄が可能になる。

アカウントを作成すると、DEで始まるドイツのIBAN(国際銀行口座番号)と、メタルカードが届く。カード自体にはカードの情報は記載されていない。すべての情報はアプリにある。他のフィンテックスタートアップと同様、Vivid Moneyを利用すると、アプリからカードをコントロールできる。カードをロックしたりロックを解除したり、GooglePayやApplePayに追加したりできる。

その後、アカウントにチャージすれば、数十の異なる通貨を持つことができる。海外でカードを使って支払う場合、同社は現在の為替レートに少額のマークアップをのせる。通常銀行で適用される為替レートよりも良いレートが得られるはずだ。

このかなり標準的な一連の機能に加え、VividMoneyは端株での株取引を提供している。株式やETFに投資でき、手数料はかからない。同様に、アプリから暗号資産(仮想通貨)を購入、保有、共有することもできる。同社はこれらの機能についてCM Equity AGと提携している。

また、キャッシュバックプログラムと月額9.90ユーロ(約1300円)のプレミアムサブスクリプションもある。有料ユーザーは、無料の現金引き出し枠の拡大、バーチャルカードを作成する機能、追加の通貨のサポート、より良いキャッシュバックリワードの対象となる。

最後に、ユーザーはポケットと呼ばれるサブアカウントを作成できる。あるポケットから別のポケットにお金を移動したり、他のユーザーをポケットに追加したりできる。各ポケットには独自のIBANがある。従い、それぞれのポケットで別々の請求書の支払いを行うことができる。また、将来の買い物のために、カードを特定のポケットにリンクさせることもできる。

Vivid Moneyは、またたく間に多数の機能を追加した。今では銀行口座に多額の資金を預かる。今後、定評ある欧州のフィンテックプレーヤーとの競争の中で、多くのユーザー層を引き付けることができるかどうか注目したい。

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画像クレジット:Vivid Money

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(文:Romain Dillet、翻訳:Nariko Mizoguchi

南ヨーロッパのペット向けウェルネススタートアップ「Barkyn」がシリーズAで約10.5億円を調達

Barkyn創業者のAndré Jordão(アンドレ・ジョルダン)氏とRicardo Macedo(リカルド・マセド)氏

ペット用のフードと遠隔獣医サービスを組み合わせたヨーロッパのサブスクリプション「Barkyn」が、フードテック投資家のFive Seasons Venturesから300万ユーロ(約3億9000万円)を調達した。これにより、以前から実施していたシリーズAが800万ユーロ(約10億5000万円)に増え、これまでの調達金額の合計は1000万ユーロ(約13億1000万円)となった。Five Seasons Venturesは、これまでに投資していたIndico Capital Partners、All Iron Ventures、Portugal Ventures、Shilling Capitalに続く投資家となった。Barkynは、Nestléに買収されたTailsや2800万ドル(約30億6000万円)を調達した英国のButternut Boxと同じジャンルの企業だ。

2017年に創業したポルトガルのBarkynは現在、ポルトガル、スペイン、イタリアでサービスを展開し、南ヨーロッパの主要な「ペットウェルネス」ブランドとなることを狙っている。

Barkynによれば、同社のサブスクリプションサービスは「新鮮な肉を使ったヘルシーなフード」と専任のリモートオンライン獣医を提供している。犬の栄養状態に合うようにフードをカスタマイズしていることが顧客を引きつけている部分だという。同社はペット向け抗炎症サプリで商標登録済の「Barkyn Complex」や、ポルトガルの顧客を対象としたペット保険商品も開発した。

Barkynの共同創業者でCEOのAndré Jordão(アンドレ・ジョルダン)氏は発表の中で「栄養や体の状態を考えれば1つですべてのペットに合う製品はありません。我々の知識、既存の製品、継続的な研究開発によってこれを解決します」と述べている。

Barkynにとってはチャンスの扉が開かれている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大し、世界中がロックダウンの辛さと闘う中でペットを飼う人が増えたことは広く知られている。

同社によれば、2020年には南ヨーロッパ全体で四半期ごとに40%ずつ成長したという。

Barkynへの投資に関してFive Seasonsの創業パートナーであるNiccolo Manzoni(ニコロ・マンゾーニ)氏は「ペットを飼う人が多いのに魅力的なデジタルペットウェルネスブランドがない南ヨーロッパにおいて、Barkynは類のない企業です。フードのカスタマイズと遠隔獣医サービス、ポルトガルでは保険も組み合わせることで、顧客にペットの健康と安心を1カ所で提供しています」とコメントした。

ジョルダン氏はTechCrunchに対し、Barkynは既存のペットフードブランドを超えることに挑戦していると述べ、その背景を「テクノロジーを活用したペット市場はどうあるべきかを再考し、ペットフードのサブスクリプションだけではなくペットケアサービスを構築しています。我々は360度全体にわたるエクスペリエンスを開発しました。自分の犬に最適なフードと遠隔医療のサブスクリプションです。我々はモデルを成長させながらも極めて緊密な関係を獲得できます」と語った。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:ペットBarkyn資金調達ポルトガルヨーロッパ

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(文:Mike Butcher、翻訳:Kaori Koyama)

南ヨーロッパのペット向けウェルネススタートアップ「Barkyn」がシリーズAで約10.5億円を調達

Barkyn創業者のAndré Jordão(アンドレ・ジョルダン)氏とRicardo Macedo(リカルド・マセド)氏

ペット用のフードと遠隔獣医サービスを組み合わせたヨーロッパのサブスクリプション「Barkyn」が、フードテック投資家のFive Seasons Venturesから300万ユーロ(約3億9000万円)を調達した。これにより、以前から実施していたシリーズAが800万ユーロ(約10億5000万円)に増え、これまでの調達金額の合計は1000万ユーロ(約13億1000万円)となった。Five Seasons Venturesは、これまでに投資していたIndico Capital Partners、All Iron Ventures、Portugal Ventures、Shilling Capitalに続く投資家となった。Barkynは、Nestléに買収されたTailsや2800万ドル(約30億6000万円)を調達した英国のButternut Boxと同じジャンルの企業だ。

2017年に創業したポルトガルのBarkynは現在、ポルトガル、スペイン、イタリアでサービスを展開し、南ヨーロッパの主要な「ペットウェルネス」ブランドとなることを狙っている。

Barkynによれば、同社のサブスクリプションサービスは「新鮮な肉を使ったヘルシーなフード」と専任のリモートオンライン獣医を提供している。犬の栄養状態に合うようにフードをカスタマイズしていることが顧客を引きつけている部分だという。同社はペット向け抗炎症サプリで商標登録済の「Barkyn Complex」や、ポルトガルの顧客を対象としたペット保険商品も開発した。

Barkynの共同創業者でCEOのAndré Jordão(アンドレ・ジョルダン)氏は発表の中で「栄養や体の状態を考えれば1つですべてのペットに合う製品はありません。我々の知識、既存の製品、継続的な研究開発によってこれを解決します」と述べている。

Barkynにとってはチャンスの扉が開かれている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大し、世界中がロックダウンの辛さと闘う中でペットを飼う人が増えたことは広く知られている。

同社によれば、2020年には南ヨーロッパ全体で四半期ごとに40%ずつ成長したという。

Barkynへの投資に関してFive Seasonsの創業パートナーであるNiccolo Manzoni(ニコロ・マンゾーニ)氏は「ペットを飼う人が多いのに魅力的なデジタルペットウェルネスブランドがない南ヨーロッパにおいて、Barkynは類のない企業です。フードのカスタマイズと遠隔獣医サービス、ポルトガルでは保険も組み合わせることで、顧客にペットの健康と安心を1カ所で提供しています」とコメントした。

ジョルダン氏はTechCrunchに対し、Barkynは既存のペットフードブランドを超えることに挑戦していると述べ、その背景を「テクノロジーを活用したペット市場はどうあるべきかを再考し、ペットフードのサブスクリプションだけではなくペットケアサービスを構築しています。我々は360度全体にわたるエクスペリエンスを開発しました。自分の犬に最適なフードと遠隔医療のサブスクリプションです。我々はモデルを成長させながらも極めて緊密な関係を獲得できます」と語った。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:ペットBarkyn資金調達ポルトガルヨーロッパ

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(文:Mike Butcher、翻訳:Kaori Koyama)

TikTokが米国に続き欧州に「透明性」センターを設置、専門家に取り組みを開示

TikTok(ティックトック)は米国時間4月27日、コンテンツモデレーションやレコメンデーション、プラットフォームセキュリティ、ユーザープライバシーに同社がどのように取り組んでいるかを外部の専門家に示すセンターを欧州に設置すると発表した。

欧州Transparency and Accountability Centre(TAC、透明性・説明責任センター)は2020年の米国センター開所に続くもので、米国同様、同社の「透明性へのコミットメント」の一環と位置づけられている。

米国TACを発表してすぐにTikTokは米国でコンテンツ・アドバイザリー・カウンシルも設置した。そして2021年3月に異なる複数の専門家で構成される同様のアドバイザリー機関を欧州にも設けた。

関連記事:TikTokがコンテンツ管理改善のため欧州に安全諮問委員会を設置

そして今、欧州TACを設置することで米国におけるアプローチを完全に再現している。

これまでに専門家や議員など70人以上がバーチャルの米国ツアーに参加した、とTikTokは述べた。このツアーでは参加者はTikTokの業務の詳細を学び、安全性やセキュリティに関する慣行について質問することができる。

ショートビデオのソーシャルメディアサイトであるTikTokは近年、人気が高まるにつれ、コンテンツポリシーや所有構造をめぐって厳しい視線が注がれてきた。

TikTokが中国テック大企業の所有で、かつ中国共産党が定めるインターネットデータ法の対象となっていることから、米国における懸念は主に検閲のリスクとユーザーデータのセキュリティについてだった。

一方、欧州では議員や当局、市民社会が子どもの安全とデータプライバシーに関する問題などを含む幅広い懸念を提起してきた。

2021年初めに注目を集めたケースでは、TikTokでコンテンツチャレンジに参加していたとされているイタリアの少女の死を受けて、同国のデータ保護当局が緊急介入した。その結果、TikTokはイタリアのプラットフォームで全ユーザーの年齢を再度チェックすることに同意した

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同社は、現在も続く新型コロナウイルスパンデミックのために、欧州TACがバーチャルで取り組みを開始すると述べた。しかし同社が欧州本社を置くアイルランドに実際のセンターを2022年に開所する計画だ。

欧州の議員らは最近、コンテンツレコメンデーションエンジンなどを含むAIシステムのアカウンタビリティーをさらに強調するため、デジタル法案に一連のアップデートを提案した。

欧州委員会が先週提示したAI規制の草案は、有害となり得る方法で人々の行動を操作するためのAIテクノロジーにおける潜在意識の使用の全面禁止も提案している。例えば自殺賛成のコンテンツやリスクのある問題を暗示的に展開することで自傷するようユーザーをそそのかすコンテンツレコメンダーエンジンなどが禁止の対象となる(草案には、違反した場合の罰金はグローバルの年間売上高の最大6%と盛り込まれている)。

欧州TACはレコメンデーションテクノロジーに関する詳細な洞察を提供する、とTikTokが明示したのは非常に興味深い。

「TikTokのチームがコミュニティのためにプラットフォームをポジティブで安全なエクスペリエンスにしようとしている取り組みを専門家、研究者、議員が確認する機会をセンターは提供します」と同社はプレスリリースに書いている。そして専門家は、同社が「TikTokコミュニティを安全なものにし続ける」ためにどのようにテクノロジーを使っているか、訓練されたコンテンツレビューチームがコミュニティガイドラインに基づいてコンテンツに関しどのように決断を下しているか「モデレーションの取り組みを補完する人間のレビュワーが潜在的なポリシー違反を見つけるためにテクノロジーを使っている方法」について知見も得る、としている。

EUのAI規制草案にはまた、人工知能のハイリスクな適用を人間が監視するという要件が盛り込まれている。規制の草案にある一連の現在のカテゴリーを考えた時、ソーシャルメディアプラットフォームが特定の義務に従うかどうかは不透明だ。

しかしAI規制は、プラットフォームにフォーカスした欧州委員会の規則制定の1つのピースにすぎない。

欧州委員会は2020年末、プラットフォームにデューデリジェンスを義務づけるDSAとDMAのもと、デジタルサービス向けのルールに広範なアップデートを提案した。そしてアルゴリズムを使ったランキングやヒエラルキーを説明するよう大手プラットフォームに求めている。そしてTikTokはおそらく義務の対象となる。

ブレグジットで現在はEU外となっている英国もまた2021年中に提示することになっている独自のOnline Safety regulationに取り組んでいる。つまり、数年のうちにTikTokのようなプラットフォームが欧州で遵守すべき、コンテンツにフォーカスした複数の規則制度ができる。そして外部専門家にアルゴリズムをみせることは、ソフトなPRではなく厳しい法的要件となりそうだ。

関連記事:2021年提出予定の英国オンライン危害法案の注意義務違反への罰金は年間売上高10%

声明の中での欧州TACの立ち上げについてのコメントで、TikTokの信頼・安全責任者のCormac Keenan(コーマック・キーナン)氏は次のように述べた。「欧州中に1億人超のユーザーを抱え、当社はコミュニティと広く社会の信頼を得るための責任を認識しています。当社の透明性・説明責任センターは、TikTokを喜び、クリエイティビティ、楽しみのための場所にし続けるために当社が展開しているチームやプロセス、テクノロジーを人々が理解できるようにする過程において次のステップです。すべきことがたくさんあるのは理解していて、待ち受けている困難を積極的に解決していくことに前向きです。当社のシステムをさらに改善できるよう、欧州中から専門家を迎え、率直なフィードバックを聞くことを楽しみにしています」。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:TikTokプライバシー個人情報ヨーロッパEU

画像クレジット:Sean Gallup / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

カラフルなシェア電動スクーターDottが約92億円調達、スペイン・英国やバイクシェアへ拡大

Dott(ドット)は中央ヨーロッパ時間4月20日、新たに8500万ドル(約91億9000万円)のシリーズB資金調達を完了した。今回のラウンドは、エクイティと資産担保デットファイナンスを組み合わせたもので、ベルギーの投資会社Sofinaが主導した。Dottは、ヨーロッパの都市で見かけるカラフルな電動キックスクーターで知られるマイクロモビリティのスタートアップだ。

同社は、5カ国で3万台の電動スクーターを運用している。ユーザーはモバイルアプリをダウンロードすると、アプリを通じてスクーターのロックを解除できる。同社は、ロック解除料と1分ごとの料金を徴収している。

Dottは設立当初、自らを資本効率が高く、持続可能な電動スクーター企業と位置づけていた。Dottは、Bird(バード)やLime(ライム)に比べて資金調達額が少なく、運営面でも異なるアプローチをとっている。

例えばDottはこれまで、車両の充電や修理を行うための倉庫を自社で保有してきた。同社はサードパーティのロジスティクス業者とは提携していない。Dottは、ロジスティクス担当従業員の自社チームを独自に採用している。

また、Dottはスクーターの修理、再利用、リサイクルを可能な限り行っている。交換可能なバッテリーと電気トラックにより、同社は事業を展開する都市でのCO2排出量を可能な限り低く抑えようとしている。

その結果Dottは、パリとリヨンで入札を経て営業許可を獲得した。全体では、フランス、イタリア、ベルギー、ドイツ、ポーランドの十数都市で事業を展開している。欧州の競合企業であるTier(ティア)はより積極的に事業を拡大しており、2020年11月に2億5000万ドル(約270億2000万円)を調達した

Sofinaに加え、EQT Ventures、Prosus Ventures、Aberdeen Standard Investments、Estari、Expon Capital、Felix Capital、FJ Labs、Invest-NL、McRock Capital、Quadiaなどの新規および既存投資家が今ラウンドに参加している。

このたびの資金調達により、同社は電子スクーターにとどまらず、新たにバイクシェアサービスを展開する予定だという。Dottはすでにそのeバイクの画像を公開している。このサービスは2021年夏に開始される予定だ。

またDottは、スペインや英国を皮切りに他の都市や国への展開も計画している。このように、Dottは一度に100の都市でサービスを立ち上げようとは思っていない。徐々に新しい都市でのサービスを展開している。現在同社は、すべての都市でEBIT(利払前・税引前利益)黒字となっており、Dottはおそらくその状態を維持したいと考えているのだろう。

関連記事:その求人情報からNYCとロンドンの電動キックスクーターパイロット参加企業が見えてきた

カテゴリー:モビリティ
タグ:電動キックスクーター 欧州

近頃起こったデータ漏洩についてFacebookからの回答が待たれる

Facebookの欧州連合(EU)のデータ保護規制当局は、2021年4月第1週末に報告された大規模なデータ侵害について、この大手企業に回答を求めている。

この問題は、米国時間4月2日に Business Insiderが報じたもので、5億件以上のFacebookアカウントの個人情報(メールアドレスや携帯電話番号を含む)が低レベルのハッキングフォーラムに投稿され、数億人のFacebookユーザーのアカウントの個人情報が自由に利用できる状態になっていた。

ビジネスインサイダーによると「今回公開されたデータには、106カ国の5億3300万人以上のFacebookユーザーの個人情報が含まれており、その中には、米国のユーザーに関する3200万人以上の記録、英国のユーザーに関する1100万人以上の記録、インドのユーザーに関する600万人以上の記録が含まれる」。さらにその中には、電話番号、FacebookのID、氏名、所在地、生年月日、経歴、一部のメールアドレスなどが含まれていることを明らかにした。

Facebookは、データ漏洩の報告に対して、2019年8月に「発見して修正した」自社プラットフォームの脆弱性に関連するものだとし、その情報を2019年にも報告された「古いデータ」と呼ぶ。しかし、セキュリティ専門家がすぐに指摘したように、ほとんどの人は携帯電話の番号を頻繁に変更することはない。そのため、この侵害をそれほど重大でないものに見せようとするFacebookの反応は、責任逃れのための思慮の浅い試みのように思われる。

また、 Facebookの最初の回答が示しているように、すべてのデータが「古い」ものであるかどうかも明らかではない。

Facebookがまたしても起こったこのデータスキャンダルを、それほど重大でないものに見せようとする理由は山ほどある。欧州連合のデータ保護規則では、重大なデータ漏洩を関連当局に速やかに報告しなかった企業に対して厳しい罰則が設けられていることもその理由の1つだ。また、欧州連合の一般データ保護規則(GDPR)では、設計上およびデフォルトでのセキュリティが期待されているため、違反自体にも厳しい罰則が課せられる。

Facebookは、流出したデータが「古い」という主張を推し進めることで、それがGDPRの適用開始(2018年5月)よりも前であるという考えを宣伝したいのかもしれない。

しかし、欧州連合におけるFacebookの主なデータ監督機関であるアイルランドのデータ保護委員会(DPC)は、TechCrunchに対し、現時点ではそれが本当に古いと言えるのかどうかは十分に明らかではないと述べる。

DPCのGraham Doyle(グラハム・ドイル)副委員長は「新たに公開されたデータセットは、オリジナルの2018年(GDPR以前)のデータセットと、それより後の時期のものと思われるデータ接セットで構成されているようだ」との声明を出している。

ドイル氏はまた「情報が公開されたユーザーの多くはEUユーザーだ。データの多くは、Facebookの公開プロフィールからしばらく前に取得されたデータのようだ」とも述べている。

「以前のデータセットは2019年と2018年に公開されたが、これはFacebookのウェブサイトの大規模なスクレイピングに関連するものだ(当時Facebookは、Facebookが電話検索機能の脆弱性を閉鎖した2017年6月から2018年4月の間にこれが発生したと報告していた)。このスクレイピングはGDPR発効以前に行われたため、FacebookはこれをGDPRに基づく個人データ侵害として通知しないことに決めたのだ」。

ドイル氏によると、規制当局は週末にFacebookから情報漏洩に関する「すべての事実」を取得しようとしており、現在もそれは「続いている」。つまり、Facebookが情報漏洩自体を「古い」と主張しているにもかかわらず、この問題については現在も明らかになっていないということだ。

GDPRでは、重要なデータ保護問題について規制当局に積極的に知らせる義務が企業に課せられているにもかかわらず、この問題についてFacebookから積極的な連絡がなかったことがDPCによって明らかになった。それどころか、規制当局がFacebookに働きかけ、さまざまなチャネルを使って回答を得なければならなかった。

こうした働きかけによりDPCは、Facebookとしては、情報のスクレイピングは、Cambridge Analyticaのデータ不正利用スキャンダルを受けて確認された脆弱性を考慮して2018年と2019年にプラットフォームに加えた変更の前に発生したと考えていることが分かったと述べている。

2019年9月、オンライン上で、Facebookの電話番号の膨大なデータベースが保護されていない状態で発見された。

関連記事:Facebookユーザーの電話番号が掲載された大量データベースが流出

また、Facebookは以前、自社が提供する検索ツールに脆弱性があることを認めていた。2018年4月には、電話番号やメールアドレスを入力することでユーザーを調べられる機能を介して、10億から20億人のFacebookユーザーの公開情報が抽出されていたことを明らかにしているが、これが個人情報の貯蔵庫となっている可能性もある。

Facebookは2020年、国際的なデータスクレイピングに関与したとして、2社を提訴している。

関連記事:Facebookがデータスクレイピングを実行する2社を提訴

しかし、セキュリティ設計の不備による影響は「修正」から数年経った今でもFacebookの悩みの種となっている。

さらに重要なのは、大規模な個人情報の流出による影響は、インターネット上で今や自分の情報が公然とダウンロードにさらされるようになったFacebookユーザーにも及んでおり、スパムやフィッシング攻撃、その他の形態のソーシャルエンジニアリング(個人情報の窃盗を試みるものなど)のリスクにさらされていることだ。

この「古い」Facebookデータが、ハッカーフォーラムで無料で公開されるに至った経緯については、謎に包まれている部分が多い。

DPCは、Facebookから「問題となっているデータは、第三者によって照合されたものであり、複数のソースから得られたものである可能性がある」との説明を受けたと述べている。

Facebookはまた「十分な信頼性をもってその出所を特定し、貴局および当社のユーザーに追加情報を提供するには、広範な調査が必要である」と主張しているが、これは遠回しに、Facebookにも出所の見当がつかないということを示唆している。

「Facebookは、DPCに対し、確実な回答の提供に鋭意努めることを保証している」とドイル氏は述べている。ハッカーサイトで公開された記録の中には、ユーザーの電話番号やメールアドレスが含まれているものもある。

「ユーザーには、マーケティングを目的としたスパムメールが送られてくる可能性がある。また電話番号やメールアドレスを使った認証が必要なサービスを自ら利用している場合も、第三者がアクセスを試みる危険性があるため注意が必要だ」

「DPCは、Facebookから報告を受け次第、さらなる事実を公表する」と彼は付け加えた。

本稿執筆時点で、Facebookにこの違反行為についてのコメントを求めたが、同社はこれに応じなかった。

自分の情報が公表されていないか心配なFacebookユーザーは、データ漏洩について助言を行うサイト「haveibeenpwned」で、自分の電話番号やメールアドレスを検索することができる。

haveibeenpwnedのTroy Hunt(トロイ・ハント)氏によると、今回のFacebookのデータ漏洩には、メールアドレスよりも携帯電話番号の方がはるかに多く含まれている。

彼によると、数週間前にデータが送られてきた。最初に3億7000万件の記録が送られてきたが、その後「現在、非常広く流通しているより大規模なデータ」が送られてきたという。

「多くは同じものですが、同時に多くが異なってもいます」とハント氏は述べ、次のように付け加えた。「このデータには1つとして明確なソースはありません」。

【更新1】Facebookは今回のデータ流出についてブログ記事を公開し、問題のデータは2019年9月以前に「悪意のある者」が連絡先インポート機能を使ってユーザーのFacebookプロフィールからスクレイピングしたものと考えていることを明らかにした。またその際、ツールに修正を行い、大量の電話番号をアップロードしてプロフィールに一致する番号を見つける機能をブロックすることで悪用を防ぐ変更を施している。

「修正前の機能では、(Facebookの連絡先インポートツールのユーザーは)利用者プロフィールを照合し、公開プロフィールに含まれる一定の情報のみは取得することができました」とFacebookは説明し、これらの情報には利用者の金融情報や医療情報、パスワードは含まれていないと付け加えた。

ただし、悪意のある者がツールを転用することでどのようなデータを取得できたかについて、あるいは当該行為者を特定し、訴追しようとしたかどうかという点については明記されていない。

その代わりに同社の広報は、そのような行為は同社の規約に違反しているとし「このデータセットの削除に取り組んでいる」ことを強調した。同社はまた「機能を悪用する人々を可能な限り積極的に追跡していきます」と述べているが、ここでも悪用者を特定して確実に排除した実例は示していない。

(例えば、Facebookが2018年にCambridge Analyticaのスキャンダルを受けて実施すると述べたアプリ内部監査の最終報告書はどこにあるのだろうか。英国のデータ保護規制当局は最近、Facebookとの法的取り決めにより、アプリ監査について公の場で議論することはできないと述べている。つまりFacebookは、自社ツールの不正使用にどう取り組むかについての透明性を回避することに関しては、積極的なアプローチをとっているようだ……)

「過去のデータセットの再流通や新たなデータセットの出現を完全に防ぐことは困難ではありますが、専任チームを設け、今後もこの課題に対して注力してまいります」とFacebookは広報の中で述べており、ユーザーのデータが同社のサービス上で安全であることを一切保証していない。

同社はユーザーに対し、アカウントに提供しているプライバシー設定をチェックすることを推奨している。その設定には、同社のサービス上で他人があなたを検索する方法を制御する機能も含まれている。これではデータセキュリティの責任はFacebook自身ではなくFacebookユーザーの手中にあると言っているようなもので、Facebookデータ漏洩の事実から逸脱し、責任転換をしようとしているだけである。

もちろん、実際はユーザー次第ではない。FacebookユーザーがFacebookから提供されるのはデータの部分的なコントロールだけであり、Facebookの設計と仕組み(プライバシーに配慮したデフォルト設定を含む)が全面的に関与するものだ。

さらに、少なくとも欧州では、製品の設計にセキュリティを組み込む法的責任がある。個人データに対して適切なレベルの保護を提供できない場合、大きな規制上の制裁を受ける可能性があるが、企業は依然としてGDPRの施行上のボトルネックから恩恵を享受している。

Facebookの広報はまた、ユーザーが二段階認証を有効にしてアカウントのセキュリティを向上させることを提案している。

それは確かに名案だが、二段階認証に関しては、Facebookが二段階認証用のセキュリティキーとサードパーティ認証アプリのサポートを提供していることは注目に値する。つまり、Facebookに携帯番号を与えるリスクを冒すことなく、この付加的なセキュリティ層を追加することができる。ユーザーの電話番号を大量にリークしていた過去もあり、ターゲティング広告に二段階認証の数字を使うことも認めているため、Facebookに自分の電話番号を託すべきではないといえるだろう。

【更新2】Facebookは追加の背景説明で、規制当局との通信内容についてはコメントしないことを明らかにした。

同社はまた、侵害についてユーザーに個別に通知する計画はないと述べ、さらに、データが取得された方法(スクレイピング)の性質上、通知が必要なユーザーを完全に特定することはできないとしている。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Facebookデータ漏洩GDPREUヨーロッパプライバシー個人情報

画像クレジット:Jakub Porzycki/NurPhoto / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)