Amazonは137億ドルをWhole Foods Marketの買収に投じることで、生鮮食料品ビジネスに深く食い込もうとしている。この買収の話自体はAmazonとWhole Foods Market間のものだが、実際に買収が成立すれば、両社以外にもたくさんの企業が影響を受けることになる。
食べ物とテクノロジーの融合はここ数年で活発化し、さまざまなスタートアップが誕生したほか、大手テック企業が食べ物に関連した取り組みを始めたり、逆に大手食品小売企業が次世代の消費者や彼らがどのようにお店を選ぶかを見逃さないためにテクノロジーを利用し始めたりしている。その中でも特に業界への影響力や規模が大きい企業(+それ以外の数社)に関して、Whole Foods MarketのM&Aがどのようなインパクトを与え得るかについて以下に考察を記している。
Instacart
2012年にY Combinatorのアクセラレータープログラムから誕生したこのスタートアップは、まだ宅配サービスを行う生鮮食料品店がほどんど存在しない頃に、商品をアプリ経由で販売・配達するというサービスを開始し、アメリカの食料品配達業界の草分け的な存在となった。自分たちのことをAmazonの競合と捉えているInstacartは、主要都市で大きな利益を上げ、投資家も同社の力を信じている。その証拠に、Instacartはこれまでに約6億7500万ドルを調達しており、同社のバリュエーションは34億ドルにのぼる。
そんなInstacartの株主であり食品小売パートナーでもあるのが、他ならぬWhole Foods Marketなのだ。
つまり、AmazonによるWhole Foodsの買収が完了すれば、これまで1番の競合相手だった企業がInstacartの株主になってしまうのだ。問題はAmazonがこの状況にどう対応するかだ。まず、Instacartを完全に買収して競合企業の数を減らすというシナリオが考えられる。さらに、金融投資としてInstacartの株式はそのまま保有しつつ、Whole Foodsの全デリバリー事業をAmazon Primeに移管するというのもあり得るだろう。
Whole FoodsとInstacartの契約期間はあと4年残っており、情報筋によれば今回の買収によって契約内容が変わることはないため、後者はすぐには起きないかもしれない。
そうなると、Instacartが買収のターゲットとなる可能性もあり、CostcoやWalmartのようなAmazonの競合候補であればそれに興味を示すだろう。また、Whole Foodsとの契約がなくなれば、他の食品小売企業から見ても、Instacartはデリバリーパートナーとして魅力的に映ると考えられる。
Instacartの計画について知る情報筋によれば、どうやら市場はその方向に進もうとしているようだ。つまり、最大のライバルを株主の座に座らせておく代わりに、InstacartはAmazonが持つ株式(割合的には1%未満)を買い戻す可能性が高い。
Instacartは今年の終わりまでに、アメリカ国内市場の約80%をカバーするようになる予定で、先週にはPublixやWegmans、Ahold Delhaizeと新規契約や契約内容の拡充を行った。さらに先述の情報筋によれば、Instacartの売上全体に占めるWhole Foods Marketの割合は10%にも満たないというのも注目に値する。
Instacartのこれまでの道のりは決して平坦ではなかった。事業の成長に伴い、不透明な料金体系にフラストレーションを感じていた顧客や配達人やからは数々の反発があり、資金的にも同社にダメージを与えていた。しかし、依然としてInstacartは成長を続けており、Amazonが求めているものよりも大きなものを築いてきた。
Google Shopping
Googleは早くから小売業に進出しようとしており、2013年のGoogle Shopping ExpressのローンチでAmazonと競合することになった。その後同社は食品を主に扱うようになり、それにつれて段々とパートナー企業の数も増えていった。その中の1社がWhole Foodsなのだ。Amazonが親会社になることで、Whol FoodsはGoogleが扱っている商品をAmazonに移動させる可能性がある。
これを受けて、Googleは今後タッグを組む食品小売企業の数を増やしていくことになるのだろうか? また、CostcoやTargetといったパートナーが扱う商品の宅配対象品目を拡大してくのだろうか?
小売業界におけるAmazonの力は年々増してきているように感じられる。そんな中、インターネットと関わりがほとんど(もしくは全く)ないような食料品店にもチャンスが生まれるかもしれない。大型買収とは無縁な小さなお店が、パートナーとしてのWhole Foodsを失い在庫の確保に必死なGoogleで商品を販売できるようになるかもしれないのだ。その一方で、Googleは販売網の拡大を狙う小売店と優位な契約を結べるかもしれない。
Shipt
競合といえば、Instacartがやっていることをもっとうまくできると考えているスタートアップは未だに増え続けている。そんな企業のひとつであるShiptは、今年に入ってから4000万ドルを調達し、まだGoogleやAmazon、Instacartが手を出せていない”非沿岸地域”の顧客を狙っている。
彼らもWhole Foodsとパートナーシップを結んでいるが、Googleのように最終的には同社との協業関係が崩れてしまうかもしれない。また、Whole Foodsからの売上と他のパートナー企業(アメリカ中部の小売大手が名を連ねている)からの売上の割合も気になるところだ。しかし、Amazonの傘下にない小売企業ができるだけ同社から距離を保つために、Shiptとパートナーシップを結びたいと考える可能性も十分にある。というのも、良くも悪くもInstacartはAmazonと資本的な繋がり(たとえAmazonが単なる株主に留まるとしても)を持つことになるのだ。
同じことがStorePowerとGrubmarketに関して言える。両社はどちらもInstacartのようなサービスを提供しており、StrePowerは食料品店を、Grubmarketは生産者や農家を対象に、顧客から注文をとったり、商品を配送したりする手助けを行っている。さらに、どちらもこれまでにかなりの金額を外部から調達してきた。
現在Instacartと取引をしている小売企業が、今後Amazonとの関係が複雑化するかもしれないということを受けて、Instacart以外のオプション(パートナーとしても買収対象としても)に気づくようになれば、StorePowerやGrubmarketのような企業に追い風が吹く可能性もある。そうすれば、資金調達時の彼らの交渉力も上がってくるだろう。
Costco
Costcoにはさまざまな手札が揃っている。テクノロジーという意味ではそこまで名が通っていない同社だが、スーパーマーケットチェーンとしては世界第3位(1位:米Walmart、2位:仏Carrefour)で、Amazonに対抗するためのパートナーを求めている。そんな彼らには多くの選択肢が残されている。
Blue Apron、Sunbasketなどの食材宅配企業
Whole Foodsのメインの商品は生鮮食料品だが、同社は加工食品も扱っているため、その中間に位置する食材宅配サービスを始めるのもそこまで難しいことではない。つまり、Whole Foodsの買収で生鮮食料品や加工食品(ミレニアル世代が好むブランドの商品を含む)を扱う店舗網を手に入れることになったAmazonには、Blue Apronのような事業を始めるチャンスがあるのだ。なお、Blue Apronはこのサービスで大成功をおさめ、健全なバランスシートをもってIPOを控えている。AmazonはBlue Apronが既に解決し終えようとしている規模の経済性の問題に対処しなければならないが、その一方で、食材宅配企業にとってメインの市場となる大都市にWhole Foodsが持つ店舗網のきめ細かやかさ(そして各店舗にある新鮮な食材を販売するためのリソース)を無視することはできない。今後どうなるかについてはまだ静観するしかないが、もしもAmazonにその気があれば食材宅配企業にとってはかなりの脅威になるだろう。
Walmart
WalmartにはWhole FoodsとAmazonのニュースに関するコメントを現在求めているところだが、彼らの眼前にもCostcoと同じようにさまざまな可能性が広がっている。TechCrunchライターのSarah Perezが既に指摘している通り、WalmartがAmazonになる前にAmazonはWalmartになりたいと考えている。そして、Walmartは既に食料品のピックアップサービスを提供している一方で、まだ宅配サービスには手を付けていない。
Walmartがこのギャップを埋めるようとしているならば、今回のニュースを受けて、同社は物流のノウハウを持つ企業を買収することになるかもしれない。さらに、顧客層にまでWhole Foods買収の影響がおよぶ可能性もある。Sarahの分析記事でも触れられている通り、AmazonはAmazonプライムで中間〜富裕層の消費者を重点的に攻めている。高級スーパーとして知られるWhole Foods(Whole Paycheckという名前で呼ばれることがあるほど)の買収でその傾向はさらに強まるだろう。そんな中、Walmartが富裕層に対してどのような動きを見せるのかというのはとても気になるところだ。”Amazon効果”を心配する企業が増えることで、Walmartは優位に交渉を進められうようになるかもしれない。
Jana Partners
投資会社Jana Partnersの努力がこの度ようやく報われた。彼らは今年の4月からWhole Foodsにプレッシャーをかけ続けており、遂にAmazonとの話がまとまったのだ。今回の買収はWhole Foodsの株主に大きな利益をもたらし、Jana Partnersも今年に入ってから取得したWhole Foodsの株でかなりのリターンを稼ぎ出した。これを受けて、今後食料品業界で「物言う投資家」の動きが活発化する可能性がある。
Ocado、Bigbasket、Conershop
食料品配達企業の中には各地域に特化したプレイヤーもいるが、一様にAmazonの競合と表現されており、今後Amazonがそのうち何社を買収するのか気になるところだ。Whole Foodsに大金を投じたことで、しばらくの間Amazonは財布の紐は締めることになるかもかもしれない。しかし、だからといって各地で活躍する企業を買収する気が全くないということはないだろうし、買収対象となる企業もAmazonのような大きな枠組みの中で、各種の有用なデータを利用しながら事業を展開する方がうまくいく可能性もある。その一方で、InstacartやPostmates(以下で触れている)のような評価額が彼らにつくかどうかというのはまた別の話だ。
Postmates
現在Postmatesはフードデリバリーサービスを主な事業をとしているが、オンデマンドのデリバリーネットワークというもともとの構想もなくなったわけではない。他のデリバリーネットワークや特定の地域に特化したプレイヤーと同じように、PostmatesはInstacartとの関係性が今後複雑化するであろう小売企業と、より良い関係を築けるようになるかもしれない。InstacartとWhole Foods(Amazonとも読み替えられる)の親密な関係は、他の小売企業にとってはある種の障害となる可能性が高く、これはInstacartの競合企業にとっては喜ばしいことだ。さらに大手小売企業がPostmatesのような企業のことをAmazonに対抗する上での重要なパートナーと捉えることで、彼らの価値自体が高まる可能性もある。
Slack
Amazonはこれまでにも数々の大型買収を行ってきたが、Whole Foodsほどの規模のものはなかった。先述の通り、Whole Foodsの買収が連続大型買収のひとつめということでもない限り、Amazonはしばらくの間M&Aの手を緩めることになることになるだろう。その一方で、先週AmazonがSlackの買収に興味を持っているという噂が浮上した。どうやら結局Slackは別の道を歩むと決めたようで、代わりに5億ドルを調達しようとしていると報じられている。しかし、CiscoがIPO直前のAppDynamicsを買収したように、ギリギリのタイミングで物事が変わることはよくあり、Microsoftも同社には注目しているようだ。
いずれにしろ、Slackの値段は公知のものとなり、しかもかなりの高値がついている。もしかしたら、Whole Foodsの買収に大金を費やしたAmazonが買収競争から外れると見た、テック業界とはそこまで関係の深くない企業が急にSlackの買収に乗り出すということもあるかもしれない。これに関しては、これまでに比べてかなりはっきりとした金額が明らかになったということを考慮し、今後の行く末を見守るしかない。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)