現実に追いつかれた? 未来の民主主義を描いたマルカ・オールダーの最新SF小説『State Tectronics』

全能のデータ・インフラストラクチャーと知識共有技術を持つ組織が、世界中に広がっている。地球規模でのプロパガンダの拡散と不正選挙に関する陰謀説は、いまだに消えない。人が何を客観的事実と見るかをアルゴリズムが決定し、テロ組織は情報の独占企業を引きずり下ろそうと身構えている。

Malka Older(マルカ・オールダー)は、スペキュレイティブ・フィクションを得意とするSF作家でも、生涯滅多に遭遇しないであろう事態に直面した。自分が描いた作品に現実が追いついてしまうという問題だ。オールダーは2年前に『Central Cycle』シリーズを書き始めたのだが、そのプロットは早くも本のページを飛び出して、日常的にニュース専門チャンネルのネタになり、議会では度重なる調査の対象にされている。彼女の世界は数十年先の未来と想定されていたのだが、歴史は速度を上げてきた。数十年後の未来は、今では2019年を意味する。

オールダーのこの三部作は『Infomocracy』から始まった。そしてその続編『Null State』を経て、今年、完結編である『State Tectonics』が発表された。三部作を書き上げるのは並大抵の苦労ではないが、『State Tectonics』は彼女がもっとも得意とする手法で書かれている。政治の未来にいくつものスリラーのスタイルを混ぜ合わせ、思考を刺激するニュアンスを山盛りにしているのだ。

オールダーの世界は、2つの単純な前提の上に作られている。ひとつは、マイクロデモクラシーと呼ばれるプロジェクトにより、世界がセントラルと呼ばれる10万人単位の行政単位に分割され、誰もが自由に好きな行政単位に移住できる権利を持つという世界だ。これは奇妙な副産物を生んだ。たとえば、ニューヨーク市のような過密地域では、企業が支援する自由主義の楽園的行政単位から、最左翼の環境主義のオアシス的行政単位へ、まるで地下鉄で移動するかのように乗り換えることができてしまう。

もうひとつは、市民が最善の選択をできるよう、Informationと呼ばれる世界的組織(Googleと国連とBBCのハイブリッド)が、政治と世界に関する客観的情報を提供するために不断の努力を行っているという社会だ。Informationは、選挙公約からレストランのメニューの味に至るまで、あらゆる物事のクレームを検証している。

これらの前提をひとつにまとめ、オールダーは情報操作と選挙戦略の世界を、客観的真実の意味とは何かを黙想しつつ探求した。この三部作では、Informationの職員の目線で、一連の世界規模の選挙にまつわる政治的策略や陰謀を暴いてゆく。こうした構造により、テンポのよいスリラーでありながら、スペキュレイティブ・フィクションの知的な精神性が保たれている。

前作『Null State』では、不平等と情報アクセスの不備に焦点が当てられていたが、『State Tectonics』では、オールダーはInformationによる情報の独占の意味に疑問を投げかけている。このマイクロデモクラシーの世界では、検証されていない情報を一般に公開すると罪に問われる。しかしInformationでも、全世界の膨大な情報を完全に持ち合わせているわけではない。そこで、闇のグループがInformationの公式チャンネルの外で、地方都市や人々に関する情報を流し始める。そうして根本的な疑問が湧く。誰が現実を「所有」しているか? その前に、客観的事実をどうやって判断するのか?

この核心となる疑問の背景には、都合よく現実を調整してしまうアルゴリズムの偏向の罪に問われたInformation職員の苦悩がある。どこかで聞いたような話ではないだろうか?

スペキュレイティブ・フィクション作品として、とくに未来の民主主義という難しい問題を扱った小説として、『State Tectonics』は最上級だ。細かい場面にアイデアを次から次へと織り込むオールダーの激烈な才能は、常に読者を立ち止まらせて思考に迷い込ませる。この本だけで、私たちは政治、精神的健康、インフラ金融、交通、食糧、国粋主義、アイデンティティー政治のすべてを論議できる。爽快なまでのダイナミックレンジだ。

ただ、幅が広すぎて深さが犠牲になっている部分もある。いくつかの問題では掘り下げが足りず、表面をなぞっただけのようなところが見受けられ、登場人物も十分に描かれていない。この3冊の分厚い本を読み終えた今でも、私には、長い間付き合ってきた登場人物たちを理解しきれていない感覚が残っている。彼らは、出入りの激しいニューヨークで知り合った友人のようだ。一緒に週末を楽しんだが、離れてしまった後、連絡を取ろうとは思わない程度の人物だ。

さらに言わせてもらえれば、余分とも思われる細部に重点を置きすぎている面がある。仮想世界を読者の頭の中に構築させたいのはわかるが、Wikipediaを読まされているような気になる。その点では、オールダーは初期の作品から成長している。細かい説明は短くなり頻度も減った。だが、それでもまだ、説明によって本筋から脇道にそれることがあり、そのために登場人物のさらなる肉付けのための時間が奪われている。

『State Tectonics』は、その前の2作と同様、最高にして最低の折衷料理だ。メニューには刺激的な料理が並んでいて、従来のカテゴリーや信念を劇的に超越する思考を与えてくれる。しかし、大半の料理はごちゃ混ぜで、その場は美味く感じても余韻が残らない。だがこの小説は、民主主義の未来を見事に物語っている。このテーマに強い関心を持つ人にとって、これ以上の小説を探すことは難しいだろう。

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(翻訳:金井哲夫)

自動化技術の進展を横目に、Blinkistは人力で書籍要約を行っている

私が、ノンフィクションの新刊を、読みやすい要約と音声にしてくれる、Blinkistのことを耳にしたとき、最初はまあどうせ機械学習を応用した類のものだろうと考えた。しかし、ベルリンになるBlinkistの本社で、共同創業者のNiklas Jansenと話をしたところ、同社は依然として大幅に人力を採用しているということがわかり、嬉しさと共に驚きを感じた ―― そして実際、それこそが同社の成功の源なのだ。

Blinkistの基本的なアイデアは、ノンフィクションの新刊から最良のものを選び、その内容をそれぞれ1、2分で読める長さの幾つかの断片に凝縮して、本全体を合計15分程で読める”blink”(まばたき、一瞬)の集まりにまとめるということだ。タイトルは、ベストセラーや、トップ10リスト、そしてユーザーウィッシュリストや提案から選ばれて、定期的に追加されて行く。

特に変わったところはない。しかし、Blinkistが差別化しようとしているところは、これらの要約の品質にある。誰でも本を読んで、各章の概要を伝えることはできる。また、そのようなことを行ってくれる自動サマリーサービスも存在している。しかし、Blinkistの場合は、その分野をよく知っていて、その情報をどのように伝えれば良いかに精通した人物を選び出して、その作業を行うのだ。

しかし、出版されている様々なノンフィクションをフォローするためには、専門家、博士、著者たちの膨大なデータベースが必要ではないだろうか?もちろんそうだ。そして、そのようなデータベースを構築するところこそ、Blinkistが多大なリソースを投入した場所なのだ。

サブスクリプションサービスとしては既に安定した収入を得ているので、書籍を詳しく検討し、重要な部分を抜き出し、説得力のある方法でまとめるという、大切な仕事を依頼することのできる専門家の大きなネットワークを維持しながら、高品質な出力を行うことができている。しかしこれらの要約は網羅的なものは目指してはいない、それが「要約」(summary)と呼ばれている理由だ。

「重要なのは、Blinkistは対象の本を置き換えるつもりはないということです」とJansenは語る。「私たちは、Blinkistを実際の本への橋渡しと考えています。その後で、元の本を買いたくなる場合がいつでも出てきますからね」(もちろん、購入用のリンクが用意されている)。

私はまた、Blinkistがフィクションに関しても同じことをやるのではないかとも考えていた(そうだとすると読書の楽しみが台無しになると思いながら)。なにしろ、フィクションを読むという行為は、コアになる概念を学んだり、それがどのように実証され証拠立てられているかを知る行為ではないからだ。それは物語を体験するという行為だ。そして読む速度、言葉、そして会話がそこではとても大切だ。幸いBlinkistもこれを理解している。それがチームがそちらへ進まない理由なのだ。ということでノンフィクションは、はるかに論理的な選択肢なのだ。

ここで私は、現代のノンフィクションを、大量には読んでいないことを告白しなければならない。本当に。しかし、そうした本が決して私の興味を惹かなかったということではない。Blinkistは私のような人間にも向いているようだ、すなわち素早く好奇心が満たされることを望む読者たちに。

現代のスタートアップが人間の要素に大きく依存しているのを知ることは、元気付けられることだ。Blinkistに必要な費用は年間50ドルで、無料ではない。しかしそれを「人文系博士保全」ファンドだと考えることもできる。

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(翻訳:sako)

日本のKindle Unlimited騒動をヨソに、米国ではAmazonがプライム会員向けPrime Readingを開始

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本日、米国Amazonはプライム会員のための新しい特典を開始した:Prime Readingという名のそのサービスは、1000冊を超えるKindleの書籍、雑誌、短編、コミックその他をプライム特典の一部として会員に読ませるものだ。本質的にはKindle Unlimitedのカタログが縮小されたものである(Unlimitedは100万冊を超える書籍、雑誌、そしてオーディオブックを提供している)が、既にプライム会員なら追加コストは不要だ。

サービスに含まれる書籍には、例えば「ホビット」「ハリー・ポッターと賢者の石」といったものも含まれているが、雑誌のラインナップはもっと魅力的だ。なぜならNational Geographic Traveler、People, Sports Illustrated、Popular Mechanics、その他が含まれているのだ。Prime Readingのコンテンツは、KindleアプリやAmazon自身のKindleデバイスを介してアクセスできる。

Prime Readingの主要セールスポイントは:コミックリストの最初のラインナップに「The Essential Calvin and Hobbes」が含まれていることだ。もう一つの重要なセールスポイント:もしプライム会員なら、既にそれはあなたのものであるということ。私はおそらく、この発表を受けてKindle Unlimitedを解約するだろう。おそらくそれはAmazonが最も望んでいない結果だと思う。しかし今でも私はUnlimitedをむしろランダムな暇つぶし読書に充てていて、例え少ないライブラリコンテンツだったとしても気軽な拾い読み目的には十分だからである。

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(翻訳:Sako)

楽天、eブック・マーケットのOverDriveを4.1億ドルで買収―Koboに250万タイトルを追加

楽天はeブック、デジタル・コンテンツ事業の強化を図るためオーディオブックのマーケットプレイス、OverDriveを4億1000万ドルで買収すると発表した。

日本のeコマースの巨人である楽天は2011年にeブックリーダーのメーカー、Koboを3億1500万ドルで買収し、デジタル・コンテンツ・ビジネスに参入した。 アメリカを本拠とするOverDriveは1986年に創立された老舗で、現在5000のパブリッシャーの250万タイトルが登録されている。Koboユーザーの読書の幅は大いに広がることになるから楽天のOverDriveの買収は理にかなっているといえるだろう。

「OverDriveの豊富なコンテンツ・ライブラリーとパブリッシャー、学校、書店との緊密な関係は楽天がデジタルコンテンツ事業を新たな市場に拡張し、成長を加速させることを助けるだろう」と楽天のeブック事業の責任者、相木孝仁氏は述べた。

興味あることに、楽天はOverDriveの買収(来月手続きが完了する見込み)により、「eブック事業が今年中にほぼ損益分岐点に達する」としている。これはOverDriveの良好な財務体質によるものだ。同社の2014年のEBITDA利益は2500万ドルだった。

楽天が力を入れているのはeブックとオーディオブックだけではなく、他のエンタテインメントにも相当の投資をしている。2013年には ビデオプラットフォームのVikiを2億ドルで買収しており、2012年に買収した Netflix的なビデオサービス、Wuakiコンテンツジャンルタイトル数も着実に拡張している。

チャットと通話アプリのViberも目立った買収だった。昨年9億ドルで買収されたViberは楽天社内で、同社のeコマースをモバイル化する際のカギを握るプラットフォームだとされている。またアジアとラテンアメリカへの進出に大きな助けになると期待されているという。これら各社はすべて楽天の傘下に入ることで相乗効果を発揮するはずだ。TechCrunchとしてもVikiとWuakiはViberサービスの重要な柱になっていくだろうと予想している。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


「ムゲンブックス」はAmazonや書店で買える紙の本を無料で出版できる


ブログを書くように執筆した原稿を、紙の本として出版できるウェブサービス「∞books(ムゲンブックス)」が始まった。売れた分だけオンデマンド印刷する仕組みで、出版にかかる費用は無料。著者の印税は10%。できあがった本は、Amazonや全国の書店から買える。

専用の入力画面でタイトルと本文を入力するだけで、紙の本の出版に必要な目次やページ番号、文字組みなどを自動的に設定してくれる。完成した本にはISBNが付与され、出版社である「デザインエッグ」を通じて出版する。

ムゲンブックスは、KDDIが手がけるベンチャー育成プログラム「KDDI∞Labo」第7期プログラム採択案件。代表を務める佐田幸宏氏はかつて、4980円で紙の本が出版できる「MyISBN」を開発し、リリース1年半で250タイトルの本を出版している。

MyISBNは、PDFファイルをアップロードするだけで本を作れるのが特徴。しかし、一般ユーザーの中には、PDFを作成するのが技術的に難しい人も多かったと、佐田氏は振り返る。「文字を打つだけで出版できるムゲンブックスは、技術的なハードルをほぼゼロにした」。

出版社の「お墨付き」がなくても本を出すニーズは?

著者としては無料で出版できるのは魅力だけれど、表紙のデザインや文章の編集、誤字脱字のチェックなどは、全部自ら行う必要がある。ぼくには、知名度の高い出版社の「お墨付き」がなくても、紙の本にしたい需要がどれくらいあるのかは未知数に思える。

ムゲンブックスははどんなユーザーを想定しているのか? 佐田氏によれば、大きくわけて2つのターゲット層があると言う。

1つ目は、ニッチなノウハウを持つコミュニティだ。MyISDNでは、マシジミを飼うための本や、ライフルの弾道学について書いた本が好評だったといい、ムゲンブックスでも、一定のファンがいるコミュニティに出版需要があると見ている。

2つ目は、自分の想いや記憶を残したいと考える、50歳以上のユーザーを想定している。こうした層は自費出版を通じて本を出したりするが、費用は数十万円から数百万円と高いことから、無料で出版できることをアピールしていけるのかもしれない。

ムゲンブックスを通じて出版した本


クリスマスを前に戦争は終わった―HachetteとAmazonがKindle版価格設定問題で和解

メリー・クリスマスと叫ぶのにはまだ少し早いが、例の戦争は終わった。AmazonとHachette Book Groupはeブックと印刷本の販売に関して「複数年にわたる合意」に達したという。この合意によれば、Hachetteはすべてのeブックに関して価格を自由に設定できる。 ただしHachetteは「低い価格に対してよりよい販売条件を得られる」という。つまりHachetteは自分で価格を設定できるが、無茶な設定をしなければ得をするらしい。

AmazonのKindle担当副社長、David Naggarはプレスリリースで、「今回の合意に、Hachetteが価格を引き下げればメリットがあるようなインセンティブの仕組みを導入できたことを嬉しく思っている。これは読者、著者をともに大きく利するものだと信ずる」と述べた。

新たな合意によるeブックの価格設定は2015年から適用となるが、AmazonはHachetteのタイトルに対する制裁をすぐに中止するという。制裁を受けていたHachetteの本は再び「目立つようにプロモーションされる」ようになる。

簡単に言えば、AmazonはHachetteに価格設定権というアメを与えたわけだ。しかしHachetteがAmazonの価格ルールに従えばメリットがあるような仕組みが導入されたことは大きな効果があるだろう。HachetteがAmazonに対して独占的な低価格でKindle版を提供すればAmazonストアのショーウィンドウの目立つ位置に飾ってもらえる、ということなのだろう。Hachetteは価格設定の自由を手に入れはしたが、やがてこれも「悪魔との契約」だったと考えるようになるかもしれない。 

画像: Stephen Woods/Flickr UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


【書籍】Apple CEOティム・クックが名指しで批判した「沈みゆく帝国」

編集部:この記事は、本の要約サイト「flier(フライヤー)」と共同で選書したIT・テクノロジー関連書籍の要約を紹介するものだ。コンテンツは後日、フライヤーで公開される内容の一部である。

タイトル 沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、Appleは偉大な企業でいられるのか
著者 ケイン岩谷ゆかり 著、井口耕二 訳、外村仁 解説
ページ数 540
出版社 日経BP社
価格 2160円(税込)
要約者の評点 総合:3.7(5点満点、下記3点の平均値)
革新性:3.5、明瞭性:4.0、応用性:3.5

要約者によるレビュー

Appleの偉大な経営者スティーブ・ジョブズが存命中には、彼のリーダーシップやプレゼンテーションに注目が集まり、それにまつわる多数の書籍が出版された。その後ジョブズが膵臓がんで亡くなると、『インサイド・アップル』(早川書房)や『アップル帝国の正体』(文藝春秋)といった、Appleの組織構造について言及した書籍が発表されるようになる。

そしていま、世間の関心は「ビジョナリーなリーダーが去っても、偉大な会社が偉大なままでいられるのか」という点に寄せられている。たとえば、昨年末に日本で発売された『アップルvs.グーグル―どちらが世界を支配するのか―』(新潮社)では、GoogleとAppleがテクノロジーの領域にとどまらずメディア業界まで視野に入れた戦いを繰り広げるなかで、AndroidがiPhoneのシェアを追い抜き、優勢に立っているのはGoogleだと主張している。

対する本書はAppleの内部について深く掘り下げた1冊だ。社員が辞め、イノベーションが生まれないばかりか、アプリまで失敗作続きという状態に陥ってしまった内情を探るとともに、下請けの台湾企業フォックスコンの労働環境やサムスンとの特許裁判における争点など、次々と明らかにされる事実は衝撃的なものばかりである。

Appleの現CEO、ティム・クックが「寝言だ」と名指しで批判したと言われる本書は、米国の読者レビューを見ても肯定派と否定派に二分されているようだ。しかしながら、仔細にわたる著者の調査や分析は現経営陣が陥っている苦境を白日の下に晒している。日本に多いApple信者にこそぜひ読んでいただきたい一冊だ。著者のケイン岩谷ゆかりは、ウォール・ストリート・ジャーナルでApple担当として活躍した人物。ジョブズの肝臓移植やiPadの発表など数々のスクープを出した後、本書執筆のために退職した。

本書の要点

・ジョブズの後継者としてAppleのCEOに就任したティム・クックは、「在庫のアッティラ王」と呼ばれるほど管理面には強いが、ビジョナリーではなく、イノベーターの経験もない。

・帝国と化したAppleはSiriや地図アプリの失敗、Androidの台頭によるスマートフォン市場でのシェア低下、終わらない特許係争、制御不能になったサプライヤーなど、多くの課題を抱えている。

・ジョブズ亡きあと、問題が噴出しているAppleにはもはや世界を再発明するような製品を生み出す能力はなく、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」の例外ではなくなってしまった。

【必読ポイント】沈みゆく帝国

Siriの失敗

ジョブズの死去前日に発表されたiPhone 4Sは、見た目は前機種と変わらないものの、いくつかの機能が改良されたほか、新たな機能としてSiriが搭載されていた。未来を感じさせるものとして当初センセーショナルを巻き起こしたSiriだが、「バーチャルアシスタント」という謳い文句ほど役には立たないことがすぐに明らかになる。関係のない答えを返してきたり、わけのわからないことを言ったりすることが多いのだ。聞き間違えによって質問すら理解できないことすらある。

未熟な段階であるにもかかわらず、Appleは世間のSiriに対する期待値を上げすぎてしまっていた。それゆえ、Siriは「洗練されている」というAppleのイメージを叩き壊すとともに、今後もAppleが並外れた新製品を生み出せるということに疑問を抱かせてしまったのだ。

イノベーションのジレンマ

ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるクレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」は、巨大企業が新興企業に敗れる理由を説明した理論だ。技術がどんどん進化していく世界においては、既存市場を破壊する能力がなければ生き残りは難しい。

新たな製品を発表するたびに大きく、また無敵になっていくAppleは、これまでこの理論が適用できない例外となっていた。市場に新たな可能性を拓き、新たな消費者の欲求を生み出すことを一番の目標とし、利益は二の次にするのが特徴だった。しかし最近はライバルをたたくことに重きを置きすぎており、製品をより完璧に近づけることに邁進している。その結果、安さを武器にライバルが市場参入する隙ができてしまったのだ。

ソニーが共同創業者である盛田氏の引退を機に偉大な企業から単なる良い企業になってしまったように、Appleもイノベーションのジレンマに囚われてしまう可能性があるとクリステンセンは指摘する。そうならないためには、オペレーティングシステムをオープンにして技術を供与するという形でイノベーションを推進し、自社開発では得られないほどの存在感を業界内で確立すること。もしくは、破壊的な製品カテゴリをまた生み出すことが必要だ。クックは「最高の製品をつくることこそ、我々の道しるべだ」と繰り返し述べている。あとは、それができることを証明しなくてはならない。

地図アプリの失敗

スマートフォン市場におけるAppleのシェアが低下する一方、サムスンのシェアが急伸している。失敗が許されない状況の中で、新たに発表されたiPhone 5に標準搭載となる地図アプリは悲惨な結果を招いてしまう。それまで搭載されていたGoogleマップではなく、自社開発の地図アプリに差し替えることにしたのだが、あるはずの道路が表示されない、お店やランドマークの名前が間違っている、と地図自体が使い物にならない有様だったのだ。

AppleはGoogleを超えるものを作ろうとするあまり勇み足になってしまった。さらに、Siriと同様に開発を秘密裡に進めたために十分な試験ができなかった。地図アプリの試験を担当したディベロッパーはバグを報告しており、その問題がトップに報告されていなかったのか、それとも大した問題ではないと判断されたのかは定かではない。いずれにせよ、Appleの仕事の進め方がおかしくなってしまっていた。

クックは自ら謝罪を表明するとともに、ライバルのアプリの利用を促すという屈辱を受けた。さらにこのアプリを監修していたフォーストールが謝罪を拒否したため、クックは次期CEO候補と言われていたフォーストールを辞任させる。失敗を厳しく追及するクックのやり方では、部下がリスクを嫌ってイノベーションが生まれにくくなるおそれがある。このように見てくると、「Appleの未来を描く人物としてクックが最良の人物なのか」という疑問が湧いてくる。

弱まるAppleの支配力

Appleは自社工場を持っていない。iPhoneなどの製品の多くは、サプライヤーである台湾の巨大メーカー、フォックスコン(鴻海精密工業)に作らせている。軍隊にたとえられるフォックスコンの工場では教育と訓練が施された100万人もの工員が計画通りに製品を作っている。Apple製品に対する需要が高まるにつれ、Appleはフォックスコンに対して圧力をかけ、その厳しい労働環境は自殺者が相次いで問題になるほどであった。

そしてフォックスコンがiPhone 5の製造を受注し、組立ラインをフル稼働させるよう工場のマネージャーに指示が下されたとき、工員たちの堪忍袋の緒が切れた。今回は自殺ではなく、外に対して怒りを爆発させたのだ。2000名もの工員が暴徒と化し、建物を破壊した。別の工場では製造の基準が高すぎるとして、工員と品質管理係がストライキに入った。美しいiPhoneやiPadを製造する現場の暗い実態が明るみに出てしまった格好だ。

Appleにとって痛手なのは、こうしたイメージ面での失敗だけではない。クックがCEOに就任してからもAppleとフォックスコンの蜜月関係は続いていたが、Appleがあまりにフォックスコンに依存してしまったため、最近では力関係が逆転し、フォックスコンの方がAppleの要求を押し返し、価格の引き上げを交渉できるようになってしまったのだ。

Appleは委託先を拡大してフォックスコンへの依存を引き下げようと努力しているが、製造ノウハウはサプライヤーが握っているため、なかなか一筋縄ではいかない。新しいサプライヤーをAppleが要求する高い品質基準を満たすよう鍛えるのは容易ではない。最近ではシャープのようにAppleの販売減速の影響を受けて窮地に立たされる企業も出てきており、以前のようにAppleとの取引には大きなメリットがあるわけではなくなってしまったのだ。

沈みゆく帝国

ジョブズが亡くなって2年あまりのうちに、彼が生み出し、愛した会社は四方八方から押し寄せるたくさんの課題に直面している。

業界自体を変えてしまう夢のような新製品が出なくなったことだけではない。世間からの憧れは消え失せ、厳しい目が注がれるようになった。フォックスコンに依存していることに伴う危険が明らかになった。スマートフォンやタブレット市場はAndroidが席巻しつつあり、Apple製品のシェアが低下した。士気が低迷した社員が次々と辞め、あろうことかGoogleに行く人も多い。

こうした課題が大挙して押し寄せているなかで、株価は低迷し、利益もこの10年で初めて減少してしまった。株主総会でクックは新製品の開発に注力していると繰り返し述べたが、「クックが話すたびに株価が下がる」とまで揶揄される始末だ。

Appleに求められていることは、もう一度世界をあっと言わせる魔法のような新製品を出し、Appleの売上や利益にはっきりと貢献するような成功を収めることだ。だが、ジョブズが後継者に選んだクックはビジョナリーではなく、イノベーターの経験もなく、強みは表計算ソフトでしかない。クックの口から出てくる言葉は単調で、ちょっと調子が外れている。きらめきも、炎のような活気も感じられない。

元Apple取締役で、ジョブズの親友でもあったOracleのCEOであるラリー・エリソンは、「ジョブズがいなくなったいま、昔ほどの成功はもう無理だ」と語っている。


Amazon、Hachetteの著者に「交渉が決着するまでeブック売上の100%を支払う」と提案

AmazonはHachetteとの戦争が長引く中で新しい手を打ってきた。New York Timesによれば、AmazonのKindleコンテンツ担当副社長、DavidNaggarはHachetteの一部の著者に向けて「交渉が決着するまで売上の100%を著者に払う」と提案するメールを送ったという。このメールはAmazonの宿敵、AuthorsGuildにも転送された。

Naggarのメールにはこうある。

Hachetteとの交渉が長引く中、これに巻き込まれた著者が不利益を被っていることをわれわれは認識している。特に新人、中堅の著者に与える影響が深刻であることに留意している。しかしHachetteはわれわれの提案に対してなかなか反応せず、交渉を進展させようという意欲に著しく欠けている。Hachetteがこの態度を劇的に改めない限り、交渉は非常に長引くだろう。

Hachetteが同意するなら、この交渉が続く期間中、Hachetteの著者はAmazonが販売するeブックの売上の100%を受け取ることにするようわれわれは提案する。AmazonとHachetteは双方ともに、新たな合意に達するまでの期間中、eブック売上からの利益を放棄するものとする。

これと同時に、AmazonはHachetteの印刷版書籍の在庫、販売価格についてもすべて従来のレベルに戻す。また近刊書の予約受け付けも再開する。

この書簡に対してAuthors Guildは「著者を助けると見せかけてHachetteを骨抜きにしようとする企みだ」とブーイングしている。しかしAmazonが出版社を必要とする度合いよりも出版社がAmazonを必要とする度合いの方が大きい。主にAmazonの支援によって、インディー出版社は質量ともに四半期ごとに急成長しつつある。インディー出版社が既存の巨大出版社を追い越す日も近いのではないか。

出版社に対する著者の感情も厳しくなっている。先週、ミステリー作家のRobert Chazz Chute はAuthors GuildのAmazonに対する頑な態度について「Amazonは市場で競争に勝っているに過ぎない。これを独占と呼んで非難するのは奇妙だ」と批判した。

Amazonが著者が失っている収入の埋め合わせをするのは正しい。しかしこれがAmazonにできる最良のことかといえばもちろんノーだ。しかし両者とも簡単には引き下がらないだろう。SF作家のコリー・ドクトロウが論じたように、出版社は海賊行為を恐れるあまり、最大、最強の海賊、ジェフ・ベゾスに権利を預けてしまった。出版社が2000年代にeブックにDRMを設定することを決めたとき、われわれがAmazonの鉄の腕に囲いこまれるという運命が決まってしまった。AppleでさえAmazonからわれわれを救い出すことはできなかった。

いずれHachetteは妥協を余儀なくされるだろう。Amazonの支配力は一層増すに違いない。Authors Guildはまたもやイノベーションに歯ぎしりして食ってかかるチャンスを得るだろう。そうした中で割を食うのはいつも著者だ

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


出版した書籍を10倍売るためのプロモーション戦略 って勉強会に行ってきた

7月27日、ソフトバンク クリエイティブ株式会社で開催された、出版した書籍を10倍売るためのプロモーション戦略 ~『本格ビジネスサイトを作りながら学ぶ WordPressの教科書』に見るWordPressとSEO、SMO、Amazon対策~という、勉強会に参加してきました。

本格ビジネスサイトを作りながら学ぶ WordPressの教科書」は、WordPress勉強中、利用中の方なら、きっともうお手元にお持ちの方いっぱいいらっしゃるかと!
WordPressの書籍で売れに売れまくってる本です。

本に関して、最初の感想はとにかくサンプルサイトがきれいです。
デザインのクオリティが高くてワクワクします!
私、実は書籍の中身よりも結構前にサンプルサイトを拝見いたしまして、きれいなデザインだなー(゚ω゚=)と、だいぶジロジロ見てしまいましたw
この本読むとこれと同じWordPressサイト作れるよ〜♪っていう流れで手取り足取り制作の流れを教えてくれる、タイトルどおりの教科書的な作りになってます。
私的にはぜひぜひ、デザイナーさんが読むとすごくためになるんじゃないかなぁ〜と思います!
(本自体のデザインも技術書なのにキレイで見やすくまとめられてて好きです。)

この書籍での一番すごいなーと思うポイントは、書籍の内容についての質問に答えてくれるんです〜
こちらで⇒『WordPressの教科書』FAQ
私だけでしょうか。。。普通、質問ってビクビクしますよね(・Θ・;)
「その質問既出なんだから全部確認してから来てよ」
「ちょっと、その質問的がずれてんだけど」
なんて言われたらこえー、すみません、すみません、ごめんなさい、と思って。

でも今回の勉強会でお話しされてたんですが、そういった質問も丁寧にお答えしているそうです。
多分、お答えする側からしたら結構手間なんじゃあ?と思うんですが、FAQページは一つ一つ丁寧に答えられてるため、どんどん長くなってます。
すごい。
なんか、最近、WordPressを勉強しやすい環境がたくさんあってほんとにありがとうございます、です。

今回の勉強会に参加しまして、本の「親切丁寧さ」が、制作前・制作中・出版後本を手に取った読者へのフォローまで徹底しているのが伝わってきて、そりゃ売れるよなー、なんて思ってしまいました。
(同時に、売れる本って、やっぱ手間かかるんだなーと思いました(^▽^;))
勉強会の内容については株式会社コミュニティコムの星野邦敏さんのブログで詳しくご紹介されてます。

で、私今回初めて知ってほぉ~!と思ったのですが著者陣の中のお一人が、以前、国語の先生をされてたそうですよー。
きれいな日本語のプロが文章を書かれていて、@imura_designさんがデザインしたサンプルサイト、さらにWordPress界のアノ人@jim0912さんがソース書いてる本ってなんかすごいですね(・・;)
勉強会の後の懇親会は残念ながら都合で参加できず、で残念。。

じっくり時間かけてこの本読んでくと、かなりWordPressの知識が深まる一冊で、WordPress初級・中級の方にオススメです。
私ももっとじっくり読まなきゃー。

※ちなみに、会場までの道順、だいぶ迷って六本木をさまよいました。
GoogleMAPで吐き出される結果がどうもおかしいようで、六本木一丁目からすぐなのに麻布十番付近に行かされるウロウロする人が数名いらしたようで、、
GoogleMAPに対してプリプリしてたのですが、実は私は六本木一丁目から向かったにもかかわらず徒歩7分のところを35分かけてやっとたどり着いたので、便乗してGoogleMAPに切れてる場合じゃないな、と反省してます。ゴメンナサイ。