東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

東北大学(杉本諭教授)と東芝の研究グループは2月24日、電気自動車などに使用する小型モーター向けとして、高性能で安価に生産が可能な等方性ボンド磁石を開発したと発表した。レアアースの使用量はネオジムボンド磁石の約半分でありながら、性能は同等。耐熱性はネオジムボンド磁石よりも高い。

等方性とは、全方位に磁力が均一な磁石のこと。ボンド磁石とは、磁石粉末を樹脂やゴムに混ぜて成形した磁石のことをいう。そのため等方性ボンド磁石は、着磁方向が自由に選べ、形状の自由度や寸法精度が高く、製造工程が簡略で生産性が高いといった特徴を持つ。研究グループが開発した磁石も、これらの利点を備えている。

日本の総消費電力の過半数は、モーターが占めているといわれている(産総研「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」)。一般にモーターの効率は、磁石の性能が上がれば高くなる。その要になるのがレアアースを使用した強力な磁石だ。現在、そのレアアースとして使われているのはネオジムが圧倒的に多いのだが、それは特定国からの輸入依存度が高く、資源リスクが心配されている。そこで研究グループは、ネオジムを採掘する際の副産物であり、余剰資源となっているサマリウムに着目し、ネオジムへの依存度を減らす研究に取り組んだ。

研究グループが開発したサマリウムを使った等方性ボンド磁石の製造方法は、サマリウムと鉄に、適正な量のコバルト、ニオブ、ホウ素を加えた合金を溶解した後、急冷凝固させ、適切な熱処理を行うことで「高鉄濃度な化合物結晶の境目にニオブとホウ素を濃縮させる」というものだ。これにより、従来のネオジム合金に含まれるネオジムの量が13原子%なのに対して、このサマリウム鉄系合金に含まれるサマリウムは6原子%と、レアアースの量は約半分となった。永久磁石の単位体積あたりの磁気エネルギーを示す磁束密度と磁界の積の最大値、最大エネルギー積は、摂氏20度で98kJ/m3と、ネオジムボンド磁石と同等だった。永久磁石の強度を示す残留磁束密度も摂氏20度で0.82テスラと、これもネオジムボンド磁石と同等だった。さらに、摂氏1度あたりの残留磁束密度の低下率は0.06%とネオジムボンド磁石の半分で、高い耐熱性が示された。

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

余剰資源として今後も増え続けるであろうサマリウムを利用することに加え、使用するレアアースの量を半分にできるこの技術は、「資源リスクの低減と各種モーターのサプライチェーンの強靭化に貢献します」と研究グループは話す。今後は、磁石メーカーと連携し、量産化を見据えた低コストで安定した生産技術の開発を進め、さらなる性能向上を目指すとしている。また同磁石を各種モーター製品に適用していくためのモーター設計の最適化についても検討する予定。

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

東北大学(杉本諭教授)と東芝の研究グループは2月24日、電気自動車などに使用する小型モーター向けとして、高性能で安価に生産が可能な等方性ボンド磁石を開発したと発表した。レアアースの使用量はネオジムボンド磁石の約半分でありながら、性能は同等。耐熱性はネオジムボンド磁石よりも高い。

等方性とは、全方位に磁力が均一な磁石のこと。ボンド磁石とは、磁石粉末を樹脂やゴムに混ぜて成形した磁石のことをいう。そのため等方性ボンド磁石は、着磁方向が自由に選べ、形状の自由度や寸法精度が高く、製造工程が簡略で生産性が高いといった特徴を持つ。研究グループが開発した磁石も、これらの利点を備えている。

日本の総消費電力の過半数は、モーターが占めているといわれている(産総研「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」)。一般にモーターの効率は、磁石の性能が上がれば高くなる。その要になるのがレアアースを使用した強力な磁石だ。現在、そのレアアースとして使われているのはネオジムが圧倒的に多いのだが、それは特定国からの輸入依存度が高く、資源リスクが心配されている。そこで研究グループは、ネオジムを採掘する際の副産物であり、余剰資源となっているサマリウムに着目し、ネオジムへの依存度を減らす研究に取り組んだ。

研究グループが開発したサマリウムを使った等方性ボンド磁石の製造方法は、サマリウムと鉄に、適正な量のコバルト、ニオブ、ホウ素を加えた合金を溶解した後、急冷凝固させ、適切な熱処理を行うことで「高鉄濃度な化合物結晶の境目にニオブとホウ素を濃縮させる」というものだ。これにより、従来のネオジム合金に含まれるネオジムの量が13原子%なのに対して、このサマリウム鉄系合金に含まれるサマリウムは6原子%と、レアアースの量は約半分となった。永久磁石の単位体積あたりの磁気エネルギーを示す磁束密度と磁界の積の最大値、最大エネルギー積は、摂氏20度で98kJ/m3と、ネオジムボンド磁石と同等だった。永久磁石の強度を示す残留磁束密度も摂氏20度で0.82テスラと、これもネオジムボンド磁石と同等だった。さらに、摂氏1度あたりの残留磁束密度の低下率は0.06%とネオジムボンド磁石の半分で、高い耐熱性が示された。

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

余剰資源として今後も増え続けるであろうサマリウムを利用することに加え、使用するレアアースの量を半分にできるこの技術は、「資源リスクの低減と各種モーターのサプライチェーンの強靭化に貢献します」と研究グループは話す。今後は、磁石メーカーと連携し、量産化を見据えた低コストで安定した生産技術の開発を進め、さらなる性能向上を目指すとしている。また同磁石を各種モーター製品に適用していくためのモーター設計の最適化についても検討する予定。

エネルギー効率1000倍・ノイズ100分の1に改善、高感度で広帯域な計測が可能な低消費電力磁気センサーを開発

エネルギー効率1000倍・ノイズ100分の1に改善、高感度で広帯域な計測が可能な低消費電力磁気センサーを開発

(a)MI素子の概要図。(b)開発した磁気センサーのブロック図。(c)MI素子向け計測用ASICのチップ写真

産業技術総合研究所(産総研)は2月19日、低ノイズ、広帯域な磁気センサーを開発したと発表した。従来の方式であるフラックスゲート型磁気センサーと比較して、アナログ回路の動作エネルギー効率を示す性能指標「正規化エネルギー」が1000倍改善され、正規化エネルギーの低い(電気効率が高い)集積化フラックスゲート型磁気センサーに比べて、ノイズは1/100を実現した。生体磁気計測や産業用計測における、小型、高感度、低消費電力のセンシングシステムが期待できるという。

これは、産総研デバイス技術研究部門先端集積回路研究グループ(秋田一平氏)と愛知製鋼との共同研究。低ノイズで広帯域な磁気センサーは、脳磁図、筋磁図などの生体磁気、自動運転、非破壊検査、電流センシングといった多くの分野で求められているが、これまで使われてきた集積化フラックスゲート型の磁気センサーはチップサイズと小型ながら磁気ノイズが大きい。また、低ノイズな磁気センサーはサイズや駆動電流が大きくなるという難点がある。

エネルギー効率1000倍・ノイズ100分の1に改善、高感度で広帯域な計測が可能な低消費電力磁気センサーを開発

開発した磁気センサーの性能比較

そこで研究グループは、低ノイズ化、低消費電力化、小型化を同時に実現するものとして、愛知製鋼が開発した磁気インピーダンス素子(MI素子)に着目した。この素子を、産総研が研究してきた低消費電力で高精度な計測用のアナログ特定用途向け集積回路(ASIC)の知見を応用して実装したのが、今回開発された磁気センサーだ。

MI素子は、アモルファス合金ワイヤーの周りにコイルを形成したもの。このワイヤーに電流パルスを通すと、ワイヤー表層で外部磁気に比例した磁束が生じる。この磁束の変化をコイルを通じて誘導電圧として検出する。この誘導電圧は、適切なタイミングでサンプリングされた後、信号処理回路により増幅され、出力される。低ノイズ化を行おうとすると、信号処理回路に多くの電流が流れることになるが、回路構成と動作を最適化することで、低ノイズを低消費電力とを両立させることに成功した。

また、低ノイズ化と広帯域化のためには、誘導電圧のサンプリング処理をナノ秒単位で制御する必要がある。このサンプリングのタイミングが狂えば、MI素子の感度が低下し、ノイズや帯域にも影響が出る。そこでデジタル自動補正技術を開発し、高い時間分解能でサンプリングのタイミングを調整できるようにした。

今後は、さらなる高感度化と電力効率を向上させ、製品として組み込むための開発を進めるということだ。

顕微鏡開発の歴史を塗り替える成果、原子分解能磁場フリー電子顕微鏡を利用し磁力の起源となる原子磁場の直接観察に成功

顕微鏡開発の歴史を塗り替える成果、原子分解能磁場フリー電子顕微鏡を利用し磁力の起源となる原子磁場の直接観察に成功

新開発の超高感度・高速分割型検出器。写真左:原子分解能磁場フリー電子顕微鏡の外観。写真中央:電子顕微鏡下部に装着した新型検出器。写真右:40個の検出領域に分割した検出面

東京大学と日本電子は2月10日、新開発の原子分解能磁場フリー電子顕微鏡により、世界で初めて、原子磁場の直接観察に成功したことを発表した。原子が持つ微小な磁場を直接観測できる技術は、磁石、鉄鋼、半導体デバイス、量子技術などの最先端マテリアル研究を大きく推進させるものであり、顕微鏡開発の歴史を塗り替える画期的な成果だとしている。

これは、科学技術振興機構(JST) 先端計測分析技術・機器開発プログラムのもとで行われている、東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構(柴田直哉教授)と日本電子(河野祐二氏)らによる共同研究。原子の周辺に発生している磁場は、磁石(磁力)の起源ともいわれているが、従来の電子顕微鏡では観測が不可能だった。従来方式の電子顕微鏡は、原子を直接観察できる分解能を有しているが、非常に強力なレンズ磁場の中に試料を入れる必要があるため、レンズの磁場と試料の磁場が強く相互作用し、構造が変化したり破壊されたりしてしまうためだ。影響を与えない程度に磁力を落とせば、分解能が低下して観察ができなくなる。

そこで、同研究グループは2019年、試料室を磁場のない環境に保つことができる、まったく新しい対物レンズを開発し、磁性体の原子観察を世界で初めて実現した。そして今回、超高感度、高速検出器を搭載した原子分解能磁場フリー電子顕微鏡を新しく開発し、鉄鉱石の一種であるヘマタイト(α-Fe2O3)結晶の中の鉄原子周囲の磁場観測を成功させた。

ヘマタイト結晶の磁場観察には、走査型透過電子顕微鏡法(STEM)と、原子分解能微分位相コントラスト法(DPC)が用いられた。まず、STEMで観察を行ったところ、鉄(Fe)原子位置が明るい輝点として観察できたが、磁気の作用を示す磁気モーメントの情報は得られなかった。次にDPCを用いたが、すべてのFe原子が同じコントラストを示し、磁気モーメントに対応する磁場は観察できなかった。だがこれは、原子核と電子雲との間に強い電場が存在しているためで、この電場による影響を差し引けば、磁場のみを取り出すことができる。そこで、特殊な画像処理を行った結果、Fe原子層ごとに互い違いに反平行にコントラストが変化する様子が観察できた。これは、磁気モーメントの並びを仮定したシミュレーションと一致した。つまりこれが、「反強磁性的なスピン配列に伴う原子磁場を直接観察できた」ことを意味するという。

顕微鏡開発の歴史を塗り替える成果、原子分解能磁場フリー電子顕微鏡を利用し磁力の起源となる原子磁場の直接観察に成功

ヘマタイト(α-Fe2O3)結晶の室温における原子構造像と磁場像。(a)STEM像、(b)DPC像、(c)DPC像を画像処理したもの、(d)像シミュレーション結果

今後は、「磁石、鉄鋼材料、磁気デバイス、磁気メモリー、磁性半導体、スピントロニクス、トポロジカル材料など、さまざまなマテリアルやデバイスの研究開発を先導する新計測手法となることが期待されます」とのこと。「今まで見えなかった原子の磁場観察という大きな一歩を記す成果です」と研究グループは話している。

マスクに磁石で固定する「顔用FitBit」はヘルストラッキングに加えフィットもモニター

おそらく2022年は、コンシューマーヘルストラッキングが手首から他の場所へと広がる年になるだろう。ここ数年Ouraの台頭を見てきたが、CESではいくつかのリング型フィットネストラッカーが登場した。Google(グーグル)がNest Homeにバイタルや睡眠トラッキング機能を追加したのに続き、Sengledはスマート電球に健康状態の測定機能を追加している。

では、マスクはどうだろうか?健康に関連したフェイスカバーは中国など多くの国で古くから定着しており、現在のパンデミックワールドではいたるところに存在する。米国での一般的なマスクの利用がコロナ禍が終わってからも続くかどうかはわからないが、パンデミックが長期化する中で、当面は日常生活の一部として使われる可能性が高くなってきている。

画像クレジット:Northwestern University

顔は、特定のバイタルサインをモニターするのに適した位置にある。また、マスクの普及により、比較的固定された場所でデータを収集できる。そこで、ノースウエスタン大学のチームは、N95マスク、サージカルマスク、布製マスクなどに磁石で取り付けるいわば顔用FitBit「FaceBit」を発表した。FaceBitは、N95やサージカルマスク、布製マスクなどに磁石で取り付け、呼吸数や心拍数、マスク着用時間などをモニターすることができる。

チームリーダーのJosiah Hester(ジョサイア・ヘスター)准教授は声明の中でこう述べている。「私たちは、医療従事者のためのインテリジェントなマスクをデザインしたいと考えました。それも、シフトの途中で不便になるようなコンセントは必要ないものを。さまざまななソースからのエネルギーハーベスティングでバッテリーのエネルギーを増強したことで、1~2週間、バッテリーの充電や交換をせずにマスクを装着できるようになりました」。

このシステムは最近論文で詳細が発表されたが、マスクの使用に慣れていない人にとっての問題である、マスクの適正フィットも判断できる。マスクが緩んだり、位置がずれたりすると、接続されたアプリが着用者に警告を発する。現在、このシステムのバッテリーは1回の充電で約11日間持続するが、同大チームは、熱エネルギーや運動エネルギーなどを利用したバッテリーレスのバージョンを構想しているという。

製品開発を進めるにはさらなる臨床試験が必要となるが、本プロジェクトは関心のある人のためにオープンソース製品としても提供されている。

画像クレジット:Northwestern University

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(文:Brian Heater、翻訳:Aya Nakazato)

東北大学が電子のスピンをナノモーターの駆動力として提案、アインシュタインらによる実験で発見された磁気回転効果利用

東北大学が電子の「スピン」をナノモーターの駆動力として提案、アインシュタインが唯一かかわった実験で発見した磁気回転効果利用

東北大学は1月5日、アインシュタインが生涯で唯一かかわった実験で発見された磁気回転効果が、ナノモーターの動作原理に利用できることを量子論によって解明したと発表した。カーボンナノチューブと強磁性電極のハイブリッド構造で、ナノモーターの実現を目指すとしている。

ナノモーター(ナノ回転子)とは、電気モーターのように軸が回転するナノサイズの機構のこと。2層のカーボンナノチューブの外側のナノチューブを軸受けに、内側のナノチューブを軸にして回転させることでナノモーターを作る方法は以前から提案されていたが、その駆動方法については研究が進んでいなかった。そこで東北大学大学院理学研究科の泉田渉助教らによる研究グループは、磁気回転効果に着目した。

磁気回転効果は、20世紀初頭アインシュタインらにより検証・発見されたもので、磁石の磁気量を変えると、その変化量に応じて回転運動が生じるという現象。古典物理学では説明がつかず、後に量子論によって解明され、さらにそこから、電子には「スピン」という角運動量(回転の方向と大きさを表す量)があることがわかった。つまり電子は自転ができるということだ。量子力学的には、磁気回転効果は「電子の持つミクロな角運動量であるスピンと、マクロな物体の回転運動が相互変換される現象」となる。研究グループが提案したのは、2層構造のカーボンナノチューブと強磁性金属の電極を組み合わせ、電流を使ってスピンを回転運動に連続的に変換するという構造だ。

この機構は、ナノスケールの電気機械を回転駆動させるものだが、カーボンナノチューブだけでなく、小さな物体を回転させる技術に広く応用できるという。研究グループには、明治大学理工学部の奥山倫助教、仙台高等専門学校総合工学科の佐藤健太郎准教授、東京大学物性研究所の加藤岳生准教授、中国科学院大学カブリ理論科学研究所の松尾衛准教授が参加している。

産総研が強磁場発生装置を用いない量子抵抗標準素子の開発に成功、国家計量標準と同等精度の電気測定が手軽に

産総研が強磁場発生装置を用いない量子抵抗標準素子の開発に成功、国家計量標準と同等精度の電気測定が手軽に

産業技術総合研究所は12月14日、強磁場発生装置を使わずに、電気抵抗の精密測定ができる新しい量子抵抗標準素子を開発したことを発表した。新材料「トポロジカル絶縁体」によって発現する「量子異常ホール効果」を応用したもので、ホームセンターでも購入できる安価な材料を使い、国家計量標準と同等の8桁の精度を持つ量子抵抗標準素子を作り上げた。

電気抵抗は、超低温の強磁場下では量子ホール効果という現象を生じる。そのときの抵抗値は常に一定(量子化抵抗値)であるため、国際的な抵抗値の基準に使われている。そうした量子ホール効果を生む量子ホール素子を使った電気抵抗の測定には強磁場が必要で、超伝導磁石などで使われる大型の強磁場発生装置を用いなければならない。

そこで産業技術総合研究所物理計測標準研究部門は、理化学研究所創発物性科学研究センター東京大学大学院工学系研究科東北大学金属材料研究所と共同で、強磁場発生装置を必要としない電気抵抗の精密測定を可能にする新しい量子抵抗標準素子を開発した。

これは、2016年にノーベル物理学賞を受賞したトポロジカル絶縁体の研究が下地になっている。研究グループは、トポロジカル絶縁体によって発現する「量子異常ホール効果」という現象に着目した。量子異常ホール効果は、量子ホール効果と同じ量子ホール素子の電気抵抗値が量子化抵抗値となる物理現象だが、一般的に使われる普通の磁石程度の磁力で発現するというものだ。世界中で研究が進められているが、電流を流すと量子抵抗値がずれてしまうという不安定さがあり、現在のところ電気抵抗値の基準としては使えていない。

不安定さの原因は、トポロジカル絶縁体を構成するビスマス、アンチモン、テルル、クロムの4つの元素の濃度の不均一さにある。研究グループは、こららの元素の比率、素子構造、製作時の温度などの条件を最適化することで不均一さを低減した。これにより、測定電流が2μA(マイクロアンペア)以下での量子異常ホール効果のずれがゼロに近づき、強磁場発生装置を使わずとも国家標準と同等の精度の抵抗標準を実現することができた。

画像左:トポロジカル絶縁体を用いて作製した量子抵抗標準素子。画像右:抵抗値の量子化抵抗値からのずれ(相対値)の測定電流依存性

画像左:トポロジカル絶縁体を用いて作製した量子抵抗標準素子。画像右:抵抗値の量子化抵抗値からのずれ(相対値)の測定電流依存性

今後は、さらに品質改良を行い、利便性と信頼性を高めるとしている。また、この新型抵抗標準素子を搭載した小型軽量の精密電気測定装置の開発にも取り組むとのことだ。

大阪大学、磁気を使ったセンサーシステムによりコンクリートに埋蔵された鉄筋の透視に成功

大阪大学、コンクリートに埋蔵された鉄筋の磁気による透視に成功

大阪大学産業科学研究所は12月13日、磁気を使ったセンサーシステムにより、コンクリートに埋蔵された鉄筋の様子を透視することに成功した。また、2次元スキャンロボットによるコンクリート内部の鉄筋の状況を可視化する計測技術を確立。老朽化した建屋の検査、施工確認などが安価にスピーディーに行えるようになるという。

大阪大学産業科学研究所の千葉大地教授らによる研究グループは、2020年「永久磁石法」という手法を開発し、新たな鉄筋探査方法になり得ることを発表している。現在、鉄筋の探査方法として広く用いられている中でコンパクトなものに、電磁波レーダー法や電磁誘導法などがあるが、電磁波レーダーは深い鉄筋も検知できるものの精度が低く、コンクリートの湿り具合や空洞に影響を受けてしまう。電磁誘導法では深い場所にある鉄筋は探知できない。また、磁性のある鉄筋以外の金属の影響を受けてしまうといった欠点がある。

研究グループが開発した永久磁石法は、永久磁石と磁気センサーを組み合わせたシンプルなセンサーモジュールで、磁性を持たない金属には反応しないため、鉄筋のみを狙って検出できる。「磁気誘導法」により、深く埋まっている鉄筋も観測でき、コンクリートの湿潤状況に左右されない。

研究グループは、このセンサーモジュールを2次元スキャンロボットに搭載して、格子状鉄筋の配筋状況の可視化を行った。永久磁石法の場合、センサーモジュールからはコンクリートは完全に透明なものに見えるため、実験用にコンクリートに覆われた鉄筋のサンプルを用意する必要がなく、さまざまな太さの鉄筋や、深さ(距離)を変えて計測結果のデータベースを容易に蓄積できるというメリットがある。

この2次元ロボットの実験では、左上が右下に比べて壁面から数mm離れてしまうという事故があった。その計測結果、鉄筋との距離によってシグナル強度が変化したのだが、これを利用すれば、鉄筋の深さや太さの情報も得られるようになるとの期待が生まれた。

今後は、2次元スキャンロボットとは別に、タブレットやスマートフォンとワイヤレス接続できる小型のハンディーセンサーの開発を進めるという。プロトタイプ機は完成しており、さらなる軽量化と使い勝手の向上を目指すとのことだ。

米GMとGEがEV製造に使われるレアアース材料のサプライチェーン構築で提携合意

自動車メーカー各社がサプライチェーンの変化を先取りしようとしているさらにもう1つのサインとして、General Motors(GM、ゼネラルモーターズ)は、EV(電気自動車)やクリーンエネルギー機器の製造に使用されるレアアース材料の供給に関して、General Electric(GE、ゼネラル・エレクトリック)と了解覚書(MOU)を締結したと発表した。

拘束力のないこの契約は、GEのクリーンエネルギー部門であるGE Renewable Energyとのもの。レアアース希土類に加えて、磁石、銅、電気用鋼の供給を改善する方法も検討されている。

当初は、北米および欧州における磁石製造のためのサプライチェーンの確立に焦点を当てた協力関係を構築する予定だという。これは、磁石の主な生産国が中国、ブラジル、インドなどであることを考えると重要なことだ。また両社は、銅や、自動車用トラクションモーターや再生可能エネルギー発電に使用されるリサイクル素材「eSteel」についても、新たなサプライチェーンを検討していく。

今回の合意は、北米の自動車メーカーが重要鉱物の供給において海外に依存することを減らしたいと考えていることを示している。このニュースは、Joe Biden(ジョー・バイデン)大統領とDonald Trump(ドナルド・トランプ)前大統領が、あらゆるものの電動化を進めるにあたり競争力を維持するために、銅やリチウムなどの鉱物資源の国内調達を強化するよう求めてきたことを考えると、先見性がある動きといえる。

そのために、両社は公共政策面での協力も視野に入れており、北米や欧州を中心としたこれらの素材のサプライチェーンの構築を支援する政策を模索している。

GMのグローバル購買・サプライチェーン担当副社長であるShilpan Amin(シルパン・アミン)氏は、声明の中でこう説明している。「EV用素材の安全で持続可能なローカルサプライチェーンは、GMのビジョンである”オール・エレクトリック・フューチャー”を実現するために不可欠です。モーターは当社のアルティウム(Ultium)プラットフォームの最も重要なコンポーネントの一つであり、重希土類および軽希土類材料は当社のモーターマグネットに不可欠な成分です」。

画像クレジット:Jeffrey Sauger for Chevrolet

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Aya Nakazato)

Wrightが大型機の動力源になる2メガワット電動旅客機用モーターの試験を開始

自動車業界と同様に、航空業界も電動化を目指している。だが、バッテリー駆動のパワーユニットで空を飛ぶことは、地上を走るよりも難しい。Wright(ライト)は、小型機以上の規模で電動化を実現しようとしているスタートアップ企業の1つで、その2メガワットのモーターは、第一世代の大型電動旅客機の動力源となる可能性がある。

電気自動車はすでに大きな成功を果たしているものの、自動車は飛行機と違って、自らの重量を空中に保つために十分な揚力を発生させる必要がないという利点がある。だが、電気旅客機の場合は、そもそも乗客を乗せて遠くまで飛ぶために必要なバッテリーの重量が、重くなり過ぎて空を飛べなくなるという根本的な問題があり、実現には至っていない。

この難問から逃れるためには、電力1ワットあたりにどれだけの推力を出せるかという効率性を高めることが重要だ。電池の質量を軽減させるための技術革新にはまだしばらく時間がかかるため、現状では素材や機体、そしてもちろん原動機など、他の方法で革新するしかない。従来のジェット機では、巨大で非常に重く、複雑な内燃機関が使われてきた。

一般的に、電気モーターは内燃エンジンよりも軽く、シンプルで、信頼性が高いと言われているが、飛行を可能にするためには、かなりの高効率を達成しなければならない。ジェット機が1秒間に1000ガロンの燃料を燃やしていたら、離陸に必要な燃料を保持していられないからだ。そこでWrightやH3xのような企業は、同じ量の蓄積エネルギーからより多くの推力を生み出せる電動機を作ろうとしているのだ。

関連記事:電動航空機の実現はH3Xの斬新な電動モーターで加速される

H3Xが、おそらくより早く飛行が実現できそうな小型機に焦点を合わせているのに対し、Wrightの創業者であるJeff Engler(ジェフ・エングラー)氏は、航空業界の二酸化炭素排出量を削減したいのであれば、商用旅客機に目を向けなければならないと説明し、同社では旅客機の製造を計画している。とはいえ、その社名に関わらず、同社は完全にゼロから旅客機を作らなければならないわけではない。

「私たちは、翼や胴体などの概念を再発明しているわけではありません。変わるのは、飛行機の推力を発生するものです」と、エングラー氏はいう。同氏は電気自動車を例に挙げ、エンジンがモーターに変わっても、自動車の大部分は、100年前と基本的に同じ機能を果たす部品で構成されていると説明する。とはいえ、新しい推進システムを飛行機に組み込むのは容易なことではない。

原動機は出力2メガワット、つまり2700馬力に相当するパワーを発生する電気モーターで、その効率は重量1キログラムあたり約10キロワットという計算になる。「電動航空機用に設計されたモーターの中では最もパワフルで、従来の2倍以上のパワーを発生し、しかも他社製品よりも大幅に軽量化されています」と、エングラー氏はいう。

この軽さは、永久磁石を使用したアプローチと「野心的な熱管理戦略」で、徹底的に設計を見直したことによるものだと、同氏は説明する。通常の航空機用途よりも高い電圧と、それに見合った絶縁システムにより、大型機の飛行に必要な出力と効率を実現したという。

画像クレジット:Wright

Wrightは自社のモーターを後付けで搭載できるように設計しているが、既存の機体メーカーと共同で独自の飛行機も開発している。その最初の機体は、軽量で効率的な推進装置と液体燃料エンジンの航続距離を組み合わせたハイブリッド電動機となるだろう。水素に頼れば複雑になるが、電気飛行への移行をより迅速に行うことができ、排出ガスと燃料の使用量を大幅に削減することができる。

複数のモーターをそれぞれの翼に取り付けることで、少なくとも2つの利点が得られる。1つ目は冗長性だ。巨大な原動機を2基搭載した飛行機は、1基が故障しても飛ぶことができるように設計されている。6基や8基の原動機を搭載していれば、1基が故障してもそれほど致命的ではなく、結果として飛行機は必要な原動機の2倍も搭載する必要がなくなる。2つ目の利点は、複数のモーターを個別にあるいは協調するように調整することによって、振動や乱流を抑えることができ、安定性向上と騒音低減が可能になるということだ。

現在、Wrightのモーターは海面位での施設内試験を行っているところだが、試験に合格したら(来年中の予定)、高度シミュレーション室で運転を行い、それから実際に4万フィートまで上昇する。これは長期的なプロジェクトだが、業界全体が一夜にして変わるわけではない。

エングラー氏は、Wrightに多額の資金、資材、専門知識を提供しているNASAや軍部の熱意とサポートを強調した。同社のモーターが新型の爆撃用ドローンに搭載されるかもしれないという話を筆者が持ち出すと、エングラー氏はその可能性には神経質にならざるを得ないが、彼が見てきた(そして目指している)ものは、防衛省が延々と行っている貨物や人員の輸送に近いものだと語った。軍は大量の汚染物質を排出しているが、それを変えたいと思っていることがわかったという。そして、毎年の燃料費を削減したいと思っているのだ。

「プロペラ機からジェット機に変わったときに、何がどう変わったかを考えてみてください」と、エングラーはいう。「それは飛行機の運用方法を再定義したのです。私たちの新しい推進技術は、航空業界全体の再構築を可能にします」。

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画像クレジット:Wright

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

初実験で致命的な脳腫瘍を30%縮小させた磁気ヘルメット

脳腫瘍を発見するヘルメットAIはこれまでにもあったが、実際に脳腫瘍を治療することもできる新しいヘルメットが登場した。

神経学上の最新ブレイクスルーの一環として、研究者たちは、磁場を発生させるヘルメットを使い、致命的な腫瘍を3分の1縮小した。この治療を受けた53歳の患者は、最終的には無関係の負傷で死亡したが、彼の脳を解剖したところ、短期間で腫瘍の31%を除去したことがわかった。この実験は、致命的な脳腫瘍である膠芽腫に対する初めての非侵襲的な治療法となる。

このヘルメットには3つの回転マグネットが搭載されており、それらはマイクロプロセッサーベースの電子コントローラーに接続され、充電式バッテリーで動作する。治療の一環として、患者はこの装置を5週間にわたってクリニックで装着し、その後、妻の助けを借りて自宅でも装着した。その結果、ヘルメットが作り出す磁場の治療は、最初は2時間、その後は1日最大6時間まで増やされた。この期間中、患者の腫瘍の質量と体積は約3分の1縮小し、縮小率は治療量と相関関係があることがわかったという。

この装置は、米国食品医薬品局(FDA)から例外的使用(Compassionate Use、CU)の承認を受けており、発明者たちは、放射線治療や化学療法を行わずに脳腫瘍を治療できる日が来ると主張している。

ヒューストンメソジスト神経研究所の脳神経外科ケネス・R・ピーク脳・下垂体腫瘍治療センター長であるDavid S. Baskin(デイビット・バスキン)医師は「今回の結果は、非侵襲的かつ無毒な治療法の新しい世界を開くものであり、将来的に多くのエキサイティングな可能性を秘めています」と述べている。この治療の詳細は、学術誌「Frontiers in Oncology」に掲載されている。

編集部注:本記事はEngadgetに最初に掲載された。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:治療ヘルメット腫瘍磁気米国食品医薬品局(FDA)

画像クレジット:Houston Methodist Neurological Institute

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(文:Saqib Shah、翻訳:Aya Nakazato)