国連、欧州委員会、欧州議会などの巨大機関やBMW、JPMorgan(JPモルガン)、Microsoft(マイクロソフト)などの企業を顧客に持つ遠隔通訳プラットフォームのInteractio(インテラクシオ)が、3000万ドル(約33 億円)のシリーズAをクローズした。新型コロナウイルスのパンデミックによってオンライン会議プラットフォームの需要が急増し、2019年から2020年にかけて同社のツールの使用率が12倍になったことがこの要因である。
今回のシリーズAは、Eight Roads Ventures(エイト・ローズ・ベンチャーズ)とシリコンバレーを拠点とするStorm Ventures(ストーム・ベンチャーズ)がリードしており、Practica Capital(プラクティカ・キャピタル)、Notion Capital(ノーション・キャピタル)の他、Skype(スカイプ)の共同創業者であるJaan Tallinn(ジャン・タリン)氏や、Samsung(サムスン)の元チーフ・ストラテジー・オフィサーであるYoung Sohn(ヤング・ソン)氏などの著名なエンジェル投資家が参加している。
リトアニアのヴィリニュスを拠点とするこのスタートアップは、会議と認定通訳者をつなぐデジタルツールを提供し、リアルタイムの通訳により会議参加者間の言葉の橋渡しを行っている。同社はビデオ会議プラットフォームも提供しており顧客はこれを使ってリモート会議を行うこともできるが、ZoomやWebexなどのサードパーティー製ソフトウェアとの統合も自由自在だ(2020年、同社のデジタルツールは43のビデオストリーミングプラットフォームで使用されたという)。
Interactioの通訳者は、会議が実際に行われている部屋に行くことも、会議のストリームを見聞きしながら完全にリモートでリアルタイムの通訳を行うこともできる。また、顧客の要望があれば遠隔地での通訳とオンサイトでの通訳を組み合わせることも可能だ。
会議に必要なすべての通訳者を提供することも可能で、同社は厳しい審査過程を経た認証された通訳者のみをプラットフォームに登録しているという。同社の通訳者を使わない場合、会議当日に物事が円滑に進められるよう、顧客の通訳者にツールの使い方のトレーニングも行っている。
現在Interactioは1000人以上のフリーランス通訳者と提携している他「通訳会社との強力な関係」を有していると謳っており、需要の増加に応じて通訳者の数を4倍に増やすことも可能だと豪語している。
同社のサービスではあらゆる言語の通訳を提供しており、1つのイベントで使用できる言語の数に制限はない。2020年は70カ国以上で1万8000件以上の会議を開催し、39万人の聴衆が参加したという。
新型コロナウイルスで引き続き出張に出向くことが難しい今、同社はシリーズAで得た豊富な資金を活用して、多言語によるオンライン会議が増加するであろう将来に向けて準備を進めている。
「当初私たちの最大の競合は、現場での同時通訳用ハードウェアでした。当時は、参加者が自身の携帯電話とヘッドフォン以外に別のハードウェアを使用する必要のない当社のソフトウェアを世に広めようと試みていました。しかし我々がフォーカスしていた機関にとってはハイブリッドな会議こそがカギだったのです。そこで同時通訳ハードウェアメーカーやインテグレーターと提携し、参加者はオンサイトでハードウェアを使用し、オンラインでは我々のサービスを使用するというハイブリッドイベントをともに行うようになりました」と広報担当者は話している。
「こうして、基本的にはケーブル1本でオンサイトのハードウェアと統合することができる完全なハイブリッドソリューションを提供することで、他社のプラットフォームと差別化することができました」。
「また市場のトレンドを見るとやはりZoomが最も使われているので、それを補完するために我々はプロフェッショナルな通訳ソリューションを提供しています」。
カスタマーサポートに重点を置くということも他社に差をつけるための戦略の1つとして同社は考えており、また、iOSとAndroidのアプリは総体的に高い評価を得ることができている(一方で過去のクレームの中には、大規模なオーディエンスへのサービスのスケーリングに問題があったことや、長年にわたってオーディオの品質などに問題があったことを示唆するものもある)。
2014年に設立されたこのスタートアップはすでに利益を上げているものの、今回のシリーズAはリモートワークブームの中で加速した需要と急激な成長に対応するための準備に充てたいと考えている。
具体的には、通訳を必要としている企業が簡単にアクセスできるようにするための技術やUX / UIの強化の他、通訳者が「置かれた場所で最高の仕事ができる」ようにするためのツールのアップグレードなどに使われる予定だ。
また、顧客基盤の拡大のためにも資金が投入される予定で、特により多くの企業や異なる種類の顧客の獲得を目指している(「欧州委員会、欧州議会、国連など、2020年から現在にかけて重点的に取り組んだ機関ではミスが一切許されず、最もプロフェッショナルなソリューションが求められています。顧客ベースを法人顧客や通訳を必要とするより多くの一般の人々に拡大することが次のステップです」と同社は話している)。
今回の資金は、これらの目標を達成するためのチーム規模の拡大の他、需要の増加に対応するための認定通訳者数の拡大のためにも使用される予定だ。
国連のような主要機関は、現場にしてもリモートにしても、人による通訳コストを節約して外交官や政治家に提供する通訳の質を落とすようなリスクをおかすことは決してないが、リアルタイムの機械翻訳技術が利用可能になったことで、プロフェッショナルなリアルタイム通訳のスケーリングには限界がでてくるかもしれない。リアルタイムの機械翻訳技術は、プロフェッショナル同士のカジュアルなミーティングなどのより簡単な会議の際に、より安価な代替策として活用できる。
例えばGoogle(グーグル)では、スマートフォンのプラットフォームのユーザーがGoogleの音声アシスタントAIを介してアクセスできるリアルタイム通訳モードを提供している。ハードウェアのスタートアップもリアルタイム通訳をターゲットにしようと試みている。AIを搭載した現実の「Babel Fish」への夢は依然として強いのだ。
どちらにせよ、こういったものは大規模な会議やカンファレンスをサポートするのには適さない。大規模な会議では、音質やその他の問題が発生した場合のトラブルシューティングを担当する集中型の配信サービスが不可欠である。
機械翻訳の性能が年々向上していることは間違いないが(ただし言語によって性能は大きく異なる)、機械が翻訳を間違えた場合に重要な情報が失われてしまうというリスクがある。そのため、リモートワークの増加(と海外出張の減少)がニューノーマルとなっていく今後、人間による通訳をデジタルプラットフォームでスケーラブルに提供することができれば、それが一番理に適った方法なのではないだろうか。
「迅速なソリューションを必要とし、品質を犠牲にしても構わない場合には、AIによる通訳が最適なツールです。私たちのクライアントは大企業や機関であるため、あらゆる誤解が決定的なものとなります。単に異なる言語で言葉を話すというのが目的ではなく、翻訳によって意味と文脈を正確に伝えることが重要なのです」と同社はいう。
「私たちは会話の本当の文脈や意味は人間にしか理解できないと強く信じています。声のトーンや感情、話し方によって、機械では気づかないような大きな違いが生まれることもあるからです」。
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画像クレジット:Interactio
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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)