産業廃棄物を回収する収集車の配車最適化をAIで実現するファンファーレが「配車頭」を正式リリース

ファンファーレは8月24日、廃棄物回収に特化したAIによる配車計画の自動作成サービス「配車頭」(ハイシャガシラ)を9月に正式リリースすることを発表した。併せて、Coral Capitalからの3000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。今回調達した資金は、営業体制の強化、サービスリリースに伴うカスタマーサポートの拡充などに活用する予定だ。

「配車頭」は、廃棄物の収集運搬に特化したAIを用いた配車管理サービス。同社によると、複雑で時間のかかっていた配車計画作成に必要な作業時間を従来の100分の1以下にできるとのことで、現在特許出願中だ。

廃棄物回収は、住民の生活の維持に欠かせないエッセンシャルワークの1つだが、現在深刻な人手不足に陥っている。家族経営の業者が多く、高齢化や跡継ぎ不足などの問題を抱えているからだ。同社代表の近藤志人氏によると、業界ではこういった問題を解決するため、現在複数の会社を組織化して業界再編を進めている。ここにも特殊な事情があり、会社自体を吸収してしまうと、その会社が所持していた廃棄物回収の免許が取り直しになってしまう。産業廃棄物にもさまざまな種類があり、それに伴いさまざまな免許取得が必要なのだ。そこでホールディングス形式で子会社化するケースが増えているそうだ。そして株式上場によって、さらなる社会的な信用を得る方向に向かっている。

もう1つの問題は、工事現場などでも最後に残るのが産業廃棄物であり、廃棄物回収事業者が回収タイミングを見極めるのは難しい現状がある。「工事現場側の都合で数時間の待ち時間や日時の再調整が発生したり、住宅地や建物密集地などでは廃棄物回収トラックの長期間の乗り入れが禁止もしくは忌避されることもあるため、数km先で長時間待つというケースも多い」と加藤氏。

配車頭はこういった廃棄物回収業の特殊な事情を条件に組み込んで最適化した配車サービス。ユニック車(クレーン付きトラック)のルート回収にも対応しており、廃棄物品目ごとに最適なコンテナの積み込み、積み下ろし順を踏まえた配車計画を作成できる。もちろん、廃棄物回収・破棄後のコンテナ洗浄など、産廃の収集運搬で発生するさまざな要件もシステムに組み込まれている。配車頭の概要は以下のとおり。

  • 正式名称:配車頭(ハイシャガシラ)
  • サービス対象地域:全国
  • 料金:月額5万円〜(詳細はお問合せフォームから)

なお、今後は配車計画の最適化だけでなく、受発注のオンライン化による発注の効率化や、収集運搬後の処理の効率化にも対応していく予定とのこと。同社は、電話やFAXなどが主流のアナログな廃棄物回収業界を、AIを活用したDXによって人手不足の解消と廃棄物回収車の稼働効率の向上を進めていく考えだ。

ファンファーレは2020年3月、東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)が手掛ける、起業を目指す現役東大生や卒業生などの大学関係者、起業をしてまもない東京大学関連ベンチャーに対して事業化資金や経営支援を提供するプログラムの新たな支援先にも選ばれている企業。同社代表の近藤氏は前職のリクルートホールディングス時代にUX業務を担当する傍らで、副業として産廃大手の基幹システムの改善に携わってた人物。その際に現場の課題を知ったことがの起業につながった。

関連記事:ゴミテック、道路点検AI、小型衛星エンジンなど、東大IPC起業支援プログラムが新たな支援先を発表

CoralやDNX、グロービスなどVC数社が追加投資用ファンドを組成し投資先の成長後押しへ

VCが有望な投資先に対して手厚いサポートをするべく、追加投資専用のファンドを組成する動きが国内でも増え始めている。

先日グロービス・キャピタル・パートナーズが大手機関投資家を中心に37.3億円で新ファンドの一次募集を完了したことをアナウンスしたのに続き、本日4月13日にも2つのVCが新たな追加投資用ファンドを組成したことが明らかになった。

1社はシードVCのCoral Capital、もう1社がB2Bスタートアップを中心に日米で投資をしているDNX Venturesだ。前者は約27億円で新ファンドの一次募集を完了したことを、後者は約40億円の新ファンドの組成を完了したことを発表している。

シードから入って手厚いサポートを

Coral Capitalの基本スタイルはシードからシリーズAの段階で投資をして、その後積極的にフォローオン投資をするというもの。これまで1号ファンド(約38億円)だけでも43社に投資を実行していて、4億円までを上限に追加投資も行ってきた。

代表案件となっているのがSmartHRだ。Coral Capitalではシード期以降もSmartHRを手厚くサポートするための1つの取り組みとして専用のファンド(SPV)を組成。そうすることで同社のシリーズBCラウンドでも追加投資を実施し、合計で20億円以上を投資している。

「(SmartHRへの投資を通じて)シードから入って、投資先のその後の成長に合わせて継続的に支援するという挑戦のPMFができた。実際に1回やってみて、専用ファンドを作ればレイターステージに近づいても支援し続けられることがわかった」(Coral Capital創業パートナー兼CEOのJames Riney氏)

James氏によると1号ファンドの中からSmartHRに続くような有望案件が徐々に出始めているそう。「それらの会社のために毎回SVPを作るよりは、あらかじめある程度まとまった金額を用意しておく方がよりスムーズに支援ができる」との考えから、今回追加投資用のグロースファンドを設立するに至ったという。

グロースファンドの設立によって1社あたりの投資額の上限を拡張し「イメージとしては1社あたり5億円〜15億円を投資していく」計画。同ファンドでは1号ファンドの投資先のみを対象に追加投資を行い、新規の投資や2号ファンドの投資先への追加投資は引き続き現在運用している2号ファンド(約60億円)から実施する。

なお今回のファンドでは国内大手機関投資家や事業会社など既存LPのみから資金を集めているとのこと。同ファンドと1号・2号ファンド、そしてSmartHRのSPVなどを含めるとCoral Capitalの運用総額は約150億円となった。

国内SaaS中心に既存投資先の大型調達を支援

専用ファンドによって有望な既存投資先の成長を後押ししようという考えはDNX Venturesも同様だ。特に同社が積極的に投資をしているSaaS領域は近年数十億〜100億円規模の資金調達が目立ち、大型化が進んでいる。

「マネーフォワードやSansan、freeeなど大型調達をしながらARRが積み上がるまでは上場せず、プライベートカンパニーとして成長し続けるやり方が国内でも定着し始めている。自分たちの投資先でも同じような動きが今後予想される中で、(ステージが進んでも)しっかりとフォローオンできるように追加投資専用のファンドが必要だと考えた」(DNX Venturesマネージングディレクターの倉林陽氏)

新ファンドの対象となるのは2号ファンドから投資をした日本企業だ。倉林氏の話ではかなり厳選した上で1社あたり数億円〜十数億円の投資を行っていく計画とのことで、100億円を調達したフロムスクラッチのシリーズDラウンドなど、新ファンドからすでに数件投資を実行しているという。

フロムスクラッチのほかオクト、カケハシ、toBeマーケティング、UPWARDに新ファンドから投資済みとのこと

「(レイターステージにもなると)もともと想定していた1社あたりの投資額をはるかに超えてくるようになるが、それでもいい投資先であればできる限りその要求に応じたい。既存投資先が継続して投資をするということは、新規の投資先にとってもいいメッセージになる」(倉林氏)

新ファンドには国内大手機関投資家2社のほか、アドウェイズ、HAKUHODO DY FUTURE DESIGN FUND、フジ・メディア・ホールディングス、みずほ銀行、三井不動産、三菱UFJ銀行、米子信用金庫などがLPとして出資。同ファンドを合わせるとDNX Venturesの合計運用総額は約580億円となる。

新型コロナウイルスの影響は?

タイミング的にも気になるので新型コロナウイルスとの関連についても両社に聞いてみたが、前提として「(新ファンドは)それ以前から構想していたもので、コロナウイルスの影響を受けて組成したわけではない」という。

ただし結果的にコロナの影響で大型調達が難しくなったり、調達が円滑に進まなくなったりする既存投資先を支援できるのではないかという話もあった。

「今後大型の調達が難しくなる可能性は高い。実際に足元を見ていても、当初二桁億円を調達する予定だったが数億円しか集まりそうにないといった話はある。(既存の投資先であれば)今までの上限枠以上の金額を投資できるようになったので、今回のファンドを通じて大型調達も積極的にサポートしていきたい」(Coral Capital創業パートナーの澤山陽平氏)

「調達環境が大きく変わってきていることは間違いない。自分たちの投資先でも上半期に調達が必要な会社もあるが、スタートアップはバリュエーションを強気で設定しづらくなるほか、多くの投資家がまず既存投資先の支援に時間を使うようになるため新規の案件はかなりセレクティブになる。全ての案件を支援できる訳ではないが、(1社あたりの上限金額が上がったことで)投資先の調達力を担保し、大型のラウンドを支えることができるようになった」(倉林氏)

両社が言及していたのが、今後特に事業会社が積極的に投資をするのが難しくなるのではないかということ。近年は国内でも新規のCVCの設立などが目立ち、調達関連の取材をしていても事業会社の名前を聞くことが増えていたので、事業会社の状況が変わってくるとバリュエーションや調達額、スタートアップと投資家とのパワーバランスなどにも影響が出てくるかもしれない。

「資金調達環境への影響はステージによっても異なる。シードやプレシリーズAは長いスパンで見ている案件が多いので、そこまで景気に左右されにくい。実際に自分たち自身も新規投資のペースは変わっていないし、シリコンバレーの状況を聞いていても状況は近い。レイターステージに関しては交渉がシビアになる可能性はあるが、日本でもミドルレイターのVCが増えてきているので、投資自体は引き続き実行されると考えている。ただしそのような状況下では二極化が加速し、有望なスタートアップに資金が集中していくのではないか」(澤山氏)

調剤薬局向けクラウド「Musubi」開発のカケハシが26億円調達、伊藤忠やアフラックが株主に加わる

カケハシは10月31日、シリーズBラウンドで第三者割当増資による26億円の資金調達を発表した。引き受け先は既存株主のDNX Venturesやグロービス・キャピタル・パートナーズのほか、新たに伊藤忠商事、電通ベンチャーズ、アフラック・イノベーション・パートナーズ、みずほキャピタルが加わった。今回の資金調達により累計調達額は約37億円となる。そのほか既存の引き受け先は以下のとおり。

  • STRIVE
  • 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ
  • 千葉道場2号投資事業有限責任組合
  • Coral Capital(旧500 Startups Japan)
  • SMBCベンチャーキャピタル

カケハシは、調剤薬局向けのクラウドシステム「Musubi」を開発している2016年3月設立のスタートアップ。患者の疾患や年齢、性別、アレルギー、生活習慣、検査値などのデータを基に最適化した服薬指導をサポートする。季節に応じた対応や、過去の処方や薬歴などを参照した指導内容の提示も可能だ。データを入力していくことで各種情報が蓄積され、より高い精度で患者に最適な服薬指導やアドバイスを自動提案してくれる。

Musubiはタブレットを使用するサービスで、服薬指導中に患者と薬剤師が一緒に画面を見ながら、話した内容をタップするだけで薬歴の下書きを自動生成できるのも特徴だ。調剤薬局といえば、医師から出された処方箋を手渡して薬をもらうだけの場所になりがち。通常は「(処方された薬を)ジェネリック医薬品に切り替えますか」「お薬手帳を持っていますか?」ぐらいの会話しか発生しない。

こういった環境にMusubiを導入することで「かかりつけ薬局」としての存在感が増すという。患者にとっては、診察を受ける医療機関はさまざまでも、薬を受け取る調剤薬局を1つに決めておくことで薬歴が集約されるので、調剤薬局で市販薬を購入する際の服薬指導やアドバイスの精度も増すはずだ。小児科や皮膚科などは平日でも混み合っていることが多く待ち時間が長い。深刻な症状を除けば、調剤薬局に相談して解決というケースも増えるだろう。

カケハシによると、今回調達した資金のうちの大半は、Musubi事業の拡大と新規事業の創出に必要な人材に投資するとのこと。同社は2019年2月に大阪に拠点を開設するなど首都圏以外での事業展開を進めている最中だ。

暗号資産取引のリスク検知でマネロン対策を支援するBassetが5000万円を調達

(写真右から3人目)Basset代表取締役CEO 竹井悠人氏

暗号資産(仮想通貨)による“自由な”取引が世の中に与えたのは、国境を越えた自由な送金や安価な送金コストといったメリットだけではない。日本では2017年4月に資金決済法が改正され、仮想通貨交換業者の登録制が導入されたが、その後もコインチェックZaifなど、取引所からの暗号資産流出事件が起こっているし、投機的な取引による利用者保護の問題や、違法な売買、マネーロンダリングで利用されるといった不適正な取引のリスクもある。

これらの課題を受けて、今年6月7日にはあらためて、資金決済法と金融商品取引法の改正法が公布された。また国際的にも規制強化への要求が高まるマネーロンダリングやテロ資金供与に関しては、6月21日、政府間会合である金融活動作業部会(FATF)から暗号資産サービスプロバイダーに対し、対策の強化を求めるガイドラインが発表されている。

暗号資産を巡るこのような背景の中、仮想通貨交換業者にも厳格な本人確認「KYC(Know Your Customer)」に加えて、資産の預入れ、引出しの取引を都度リスク評価・分析する「KYT(Know Your Transaction)」が求められるようになっている。2019年7月に設立されたBasset(バセット)は、仮想通貨交換業者や行政機関向けに、ブロックチェーン取引の分析・監視ソリューションを開発するスタートアップだ。9月18日、BassetはCoral Capitalを引受先として、5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

“RegTechカンパニー”として金融機関を支援していく

Basset創業者で代表取締役CEOの竹井悠人氏は、前職のbitFlyerではCISO(Chief Information Security Officer)およびブロックチェーン開発部長を務めていた。ほかの3名の創業メンバーもbitFlyerに在籍していた同僚たちで、bitFlyerからスピンアウトするような形で独立したのがBassetだ。

竹井氏はbitFlyerでの業務を通して「暗号資産の取引所では今後、コンプライアンスがとても重要になる」と考えていた。同時にデータ分析の観点からも、コンプライアンスプロダクトの分野に強く魅力を感じていた。だが、bitFlyerは仮想通貨取引所。コンプライアンス製品をつくる会社ではないし、スタートアップとしてイノベーションを追うステージを卒業して、取引所、金融機関として安定した運営を金融庁からも求められるフェーズにあった。そこで竹井氏は「新しいチャレンジにそろそろ取り組むタイミング」として、6月末にbitFlyerを退職し、Bassetを立ち上げることにしたという。

Bassetが開発しているのは、暗号資産のマネーロンダリングを防止するためのデータ分析サービスだ。これはブロックチェーンデータを分析することで、資金の流れを追うプロダクトである。BTC(ビットコイン)やETH(イーサリウム)をはじめ、金融庁のホワイトリストで指定された暗号資産のリスク検知・評価とマネーロンダリング対策に対応していく予定だ。

Bassetでは、仮想通貨取引所や、金融庁などの行政機関へのソリューション提供を想定している。また警察や司法機関などでの利用も考えられている。竹井氏は「我々が把握しているだけでも、世界で過去2年間にサイバー攻撃によって取引所から暗号資産が流出した金額は1200億円相当にのぼり、流出した資産は小口の送金を繰り返してマネーロンダリングされ、犯罪者の手に渡っている」と述べ、「これらの取引による資金の流れは、世界各国の警察が欲している情報だ」と説明する。

竹井氏は「コンプライアンス関連のニーズは金融機関の間でどんどん高まっている。ブロックチェーンの世界はすべてデータでできている。その中でコンプライアンス遵守に対応する『レギュレーション(法規法令)×テクノロジー』のRegTechカンパニーとして、クライアントを支援していきたい」と話している。

世界的に見ると、同様のソリューションを提供する企業としては、米・ニューヨークに拠点を置き、欧米でサービスを展開するChainalysis、英・ロンドンに本社があるElliptic、今年5月に楽天ウォレットが提携したCipherTraceといった先行者がいる。

「彼らが日本市場へ進出するという話もあり、今後戦っていくことになるということは認識している」と竹井氏は述べつつ、「コンプライアンス強化のためには1つのサービスを使っていればよいということはなく、我々のような別の分析ソリューションが要らないというわけではない」と続ける。

「こういった分析ツールでは、どれだけ多くのデータをカバーするかというのが重要。海外の会社が英語圏で強いのは当然だが、一方アジア言語圏はどうかと言えば、日本語、中国語などのソースについては我々の方が目が届きやすい。そこにフォーカスをして差別化を図ろうと考えている」(竹井氏)

竹井氏によれば、あるシンクタンクが発表した統計では、金融機関が使うコンプライアンス関連のテクニカルソリューションの数は、これまで1製品で完結していることが多かったのだが、ここ数年は利用する製品数が増える傾向にあるのだという。「理由としては、データソースのカバレッジが多ければ多いほどよい、という状況の中で反社会的勢力のデータベースなど複数のデータをチェックすることが増えていることが挙げられる。また顧客や企業の照会をするといった、さまざまな用途がある中で、複数製品を組み合わせてコンプライアンスプログラムを組むのがより一般化しつつあるためだ」(竹井氏)

そのような背景から「我々のようなブロックチェーンのフォレンジック(インシデントにおける証拠調査・解析)の分野でも、1つの製品のみならず、複数の製品を組み合わせて利用していただくということは、今後あるのではないか」と竹井氏は見ている。

取引可視化はマーケティングに使える可能性も

プロダクトは現在も鋭意開発中。「MVP(Minimum Viable Product)はできあがっており、現在、いくつかの仮想通貨取引所でトライアルで利用してもらっている」(竹井氏)とのことだ。

調達資金はエンジニア採用などに主に投資すると竹井氏は述べている。ほかに、世界各国の犯罪者データベースを参照するためのデータパートナーシップ締結や、サーバー運用、分析のための計算にかかるフィーなどにも充てる可能性があるという。

竹井氏は今後の同社の展望について、「ブロックチェーン関連のコンプライアンスという領域をスタート地点としているが、実際の犯罪捜査に役立てるためには、まだまだいろいろな機能が足りていない。また取引所のコンプライアンス対応として、反社チェックまですべてやりたいとなるとブロックチェーンのデータだけでは完結しないので、ほかのデータも集め始めている。データを広げる、機能を増やすという観点での拡大は考えている」と話す。

また「捜査・コンプライアンスに関するフォレンジックツールとしてだけではなく、暗号資産の取引が可視化できるということは、マーケティングにも使える可能性がある。さらに、例えば将来ビットコインでの支払いを受け付けたいという店舗が増えた場合に、そうした店舗でマネーロンダリングの検出プラットフォームとして利用してもらい、店頭での高額商品の購入がマネーロンダリングの温床にならないような使い方というのも想定している」とも竹井氏は語っていた。

30億円以上のバリュエーションでの資金調達が約2.6倍に、Coral Capitalが調査レポートを公開

ベンチャーキャピタルのCoral Capitalは8月14日、国内スタートアップ約580社を対象とした資金調達に関する実態調査レポート「Japan Startup Deal Terms 2019 Summer」を公開した。

本レポートは同社が2年前に発表した「調査レポート: 186社の登記簿から分かったスタートアップの資⾦調達の相場」をバージョンアップしたもの。2018年の1年間に国内スタートアップで資⾦調達を⾏ったと推測される約580社に関して800件以上の商業登記簿謄本を取得し、資⾦調達条件の詳細を調査した結果がまとめられている。

起業家や投資家が実務で必要とするような観点から情報が整理されているのが特徴で専門的な論点も多いが、今回はそこから主に以下のポイントをピックアップし、Coral Capital創業パートナーの澤山陽平氏のコメントも交えながら紹介していく。

  • 30億円以上のバリュエーションでの資金調達が前年同期比で約2.6倍に増加
  • 1億円以上の調達では70%以上が優先株式を利用。条件も徐々に起業家有利な内容に
  • 1億円以下のシード案件では約10%の案件でJ-KISSなどのコンバーティブルエクイティが利⽤

なお調査対象のスタートアップは報道やプレスリリース配信サイトなどの公開情報をベースとしたものであり、未公表案件などは含まれていない可能性もあるとのこと。投資条件については商業登記簿謄本の記載を元にした推測であるため、公開されていない条件などにより実際とは異なる場合があることもあらかじめお伝えしておきたい。

30億円以上のバリュエーションでの調達が約2.6倍に

まずは資金調達の件数から触れていく。対象となる資金調達件数は2018年トータルで約600社、828件となっていて、四半期ごとでは若干の変動はあるもののだいたい200件弱ほど。2018年第4四半期は対前年同期比で8.0%増加している。

2018年全体では1億円以下の調達が509件、1億円〜5億円が229件、 5億円〜10億円が52件、10億円〜30億円が30件、30億円以上が8件だ。

澤山氏がポイントにあげるのが、調達時の完全希薄化後ポストバリュエーションの変化について。具体的には30億円以上のバリュエーションでの調達が増加傾向にあり、2018年第4四半期の件数は前年同期比で約2.6倍になった(22件から58件に増加)。

この結果に大きく影響を与えているのが「ミドル〜レイターステージの投資家が増えたこと」(澤山氏)だ。

たとえば先月発表されたSmartHRのシリーズCラウンドには以前紹介したシニフィアンの新ファンドや2社の海外投資家が参加。100億円を調達したフロムスクラッチの場合もKKRやゴールドマン・サックスなどから出資を受けている。

国内外でミドル〜レイターステージの投資家が増えたことによって、スタートアップが未上場のまま数十億円を超えるバリュエーションで大型の資金調達を実施できる環境が整い始めたことは近年の大きな変化と言えるだろう。

「バブルだと危惧する人もいるかもしれないが、必ずしもそうではなく別の見方もできるのではないか。(投資家が増えたことで)今まではシリーズBの後に上場だったのが、シリーズB、C、D、Eまでやってから上場というように、後ろの滑走路が伸びてきていることが統計からもわかる」(澤山氏)

優先株式では条件が起業家有利に変わりつつある

より実務的な観点ではスタートアップ界隈でファイナンスに関する知見のシェアも進み、起業家と投資家双方のリテラシーが向上したことで資金調達の手段も変わってきているという。

スタートアップのエクイティによる調達手段を大きく「普通株式」「優先株式」「コンバーティブルエクイティ」に分けた場合、大型の調達では優先株式が使われるケースが多くなっている。

その一方でシードステージでは速度やコストの面でメリットのある「J-KISS型新株予約権」などのコンバーティブルが活用されるケースも増えてきた。

2018年通年の数字を見ると1億円以下の調達では509件中52件 (構成比10.2%)がコンバーティブル、208件(同40.9%)が優先株式、249件(同 48.9%)が普通株式を利用。1億円を超えると優先株式の割合が拡大し、1億円〜5億円では229件中161件(同70.3%)、5億円〜10億円では52件中41件(同88.5%)、10億円〜30億円では30件中27件(同90.0%)という結果になった。

実際の現場で優先株式による資金調達を進める際には「残余財産分配権」が1つのポイントになるので、それに関する調査にも触れておこう。

残余財産分配権は通常「払込金額の倍率」と「その後の分配への参加・非参加」で規定される。M&Aなどの支配権移転取引が発生した場合、普通株式に優先して投資家に分配が行われるため、条件次第では特にスタートアップが低い価格で買収される際に創業者が十分なリターンを得られないこともあり得る。

今回の調査では優先倍率は1倍が89.8%、1.2倍 が5.1%、1.5倍が5.1%という結果に。参加型or非参加型では96.7%が参加型となった。

「優先分配倍率1倍かつ参加型」が多いという傾向自体は2年前のレポートと同様だが、前回と比べても優先分配倍率1倍の割合が増加。また依然として一部ではあるものの四半期に数件は非参加型の優先株式での調達が行われていて、少しずつ起業家有利な条件になりつつあるという。

「ファイナンスの知識がある起業家が増えたことや投資家間の競争が激しくなったことに加え、メルカリを代表するように日本でもホームラン案件を狙えるという認識が広まったこともあり、非参加型の優先株を使うケースも徐々に出てきた」(澤山氏)

なお残余財産分配権に関しては日本と米国で大きな違いがあり、米国の場合は「優先分配権1倍かつ非参加型」の割合が多いそうだ(優先株式の利益分配などについておさらいしたい方は、澤山氏のシードファイナンス勉強会の動画などをチェックしてみてほしい)。

そのほか今回のレポートでは上述した内容に加え「ステージごとの資金調達額の分布」や「ステージ別のプレ時価総額の分布」、「ステージ別の希薄化率の分布」などもまとめられている。完全版についてはCoral Capitalのサイトから閲覧することが可能だ。

ちなみに「海外の投資家も日本のスタートアップに興味を示しているが、言語の壁などによりその情報をキャッチアップできる手段がほとんどない」(澤山氏)状況のため、今回のレポートは英語版も作成しているそう。

今後も同社では資金調達に関する情報の透明性を高めるとともに、日本の状況を海外投資家に伝えるべく、半年ごとを目安に継続してレポートを発行していく予定だという。

ジャーナリストからVCヘ、TechCrunch Japan前編集長の西村賢氏がCoral Capitalに参画

左からCoral Capital創業パートナーの澤山陽平氏、新たにパートナー兼編集長として参画したTechCrunch Japan前編集長の西村賢氏、創業パートナー兼CEOのJames Riney(ジェームズ・ライニー)氏

Sequoia Capitalのマイケル・モリッツ氏、Google VenturesのM.G.シーグラ―氏、Trues Venturesのオム・マリク氏。米国でベンチャーキャピタリストとして活躍する彼らにはある共通点がある。全員が過去にジャーナリストを経験しているということだ。

モリッツ氏はTIME magazine、シーグラー氏はTechCrunch、マリク氏は自身が立ち上げたテックメディアのGigaomに携わった後、キャピタリストへと転身している。

ちなみにシーグラー氏が以前在籍していたCrunchFundもメディア出身者が立ち上げたVC。創設者はTechCrunchの創設者でもあるマイケル・アリントン氏だ(現在アリントン氏はデジタル資産運用ファンドを立ち上げ、運営している)。

さて、ここまでは米国の事例をいくつか紹介してきたけれど、本日は日本国内におけるジャーナリストからVCへの転身ニュースを取り上げたい。

VCのCoral Capitalは8月1日、TechCrunch Japan(以下 TC)前編集長の西村賢氏がパートナー兼編集長として参画したことを明らかにした。

「ジャーナリストがVCへ移籍する、もしくはVCを立ち上げる」事例は米国に比べると日本ではまだまだ少ない。日経BPでの編集記者やCNET Japan編集長などを経て、慶応大VCである慶應イノベーション・イニシアティブの代表取締役社長に就任した山岸広太郎氏。そして西村氏の前にTCの編集長を務め、現在はB Dash Venturesで活動している西田隆一氏らが代表的な例だろうか。

今回は新たなチャレンジを始める西村氏と、Coral Capital(以下Coral)の2人の創業パートナーにジョインの背景や今後の取り組みについて話を聞いた。

テック系ジャーナリストからGoogleを経てVCへ

西村氏は2013年にTCへジョインする前からアスキーやITmediaにてテクノロジー領域のジャーナリストとして活動してきた。

特にITmedia時代には「@IT」の副編集長としてエンタープライズITやソフトウェア技術の動向を追いかけ、DropboxやAirbnbなど今やIT業界を代表する企業の創業者らにも取材をしている。2013年からは約5年間に渡ってTCの編集長を務めた後、昨年Googleに移籍。国内のスタートアップ支援や投資関連業務に携わっていた。

Coralではパートナー兼編集長としてウェブメディア「Coral Insights」のコンテンツ責任者を担うほか、新規投資先の開拓や投資業務などにも関わる予定。西村氏によるとまずはメディア側の仕事がメインになるそうで「直近は9:1とか8:2の割合でメディアを中心にしつつ、ゆくゆくは投資業務の割合を増やしていくことを考えている」という。

「TC時代に感じていたのは、国内のスタートアップコミュニティでは情報の非対称性が大きいということ。起業家に比べてVCが圧倒的に多くの情報を持っていて有利な状況で、メディアとして情報の透明性を高めることでなんとか変えたいと考えていた。『どうすれば日本のスタートアップエコシステムが健全に発展するのか』というのは個人のアジェンダとして何年も前から模索してきたことだ」(西村氏)

情報が普及することでエコシステムのレベルアップに繋がる

Coral Capitalが運営するメディア「Coral Insights」

西村氏がジョインしたCoral Capitalは500 Startups Japanの創業チームが2019年3月に立ち上げたVC。500 Startups Japanの立ち上げ期から自社のブログメディアを軸に、オリジナルコンテンツの発信や投資契約書「J-KISS」の無償公開など情報公開を積極的に行ってきた。4月に紹介した起業家調査レポートも同社が作成したものだ。

Coral Capital創業パートナー兼CEOのJames Riney(ジェームズ・ライニー)氏も話していたが、米国ではVCが自ら情報発信する文化があり、多様な情報やナレッジが普及することでスタートアップエコシステム全体のレベルアップにも繋がっている。

たとえば日本のメディアにもよく登場するAndreessen HorowitzやY Combinatorなどはテキストコンテンツはもちろん、ポッドキャストを通じた音声や動画コンテンツにも以前から取り組んでいる。

ジェームズ氏らもファンドを組成した当初から「(年間のスタートアップ投資が数千億円の)限られた日本市場のパイを奪い合うのではなく、パイ自体を大きくする挑戦をしたいと考えていた」ため、エコシステムのさらなる発展に向けて日本語での情報発信に力を入れてきたという。

これまではジェームズ氏と創業パートナーである澤山陽平氏の2人を中心に手探りで取り組んできたが、メディア機能を一層強化する上ではプロフェッショナルにジョインしてもらったほうがいいと感じていたそう。2号ファンドがクローズしてリソースが増えたタイミングで、以前から付き合いのあった西村氏を正式に招き入れた。

「ここ数年で大型の調達も増え、起業家のバックグラウンドも多様化するなど国内のスタートアップ環境が大きく変わった。スタートアップ界隈の人にはこれまでのやり方でも情報を届けられるかもしれないが、『大企業にいてなんとなくスタートアップにいる人』や『(テックとは)まったく繋がりのなかった業界や士業の人』にまで広く情報を届けるには、さらにパワーアップさせる必要がある」(澤山氏)

ちなみに最近ではCoral Capitalでも新たに動画コンテンツの配信に取り組んでいて、YouTubeの公式チャンネルでは投資先インタビューやセミナーのパネルディスカッション、澤山氏によるファイナンスのレクチャーなどが配信されている。

このチームでなら、大きなインパクトを残せるかもしれない

Coralの2人のパートナーと西村氏の出会いは2015年に500 Startups Japanが始動する以前に遡る。元起業家でかつてディー・エヌ・エーの投資部門にも在籍していたジェームズ氏とはTCのイベントなどで、野村證券出身でエンジニアとしての顔も持つ澤山氏ともTC主催のハッカソンなどで交流があった。

双方とも「当時は後に同じチームでスタートアップ投資をやることになるとは思ってもいなかった」と口を揃えるが、ファンドのリブランディングとメディアの強化を考える時期に差し掛かりジェームズ氏から熱烈にオファーしたそうだ。

「起業家に親身になって考える姿勢はもちろん、バイリンガルな点や自ら手を動かしてものを作れる点も含めてカルチャーにフィットしていると感じた。特にCoralのメンバーは自分でものを作れるメンバーが多く、大事にしている考え方の1つでもある。サイトも自分たちでデザインして作っていて、澤山とはVCを立ち上げる前に2人でプロダクトを開発していたこともあるほど。(TC時代から社内ツールを自作するなどしていた西村氏とは)似ている部分も多い」(ジェームズ氏)

「何事もデータ・ドリブン、テックドリブンでスケーラブルなやり方を考えるという文化がある。情報発信にしても草の根的に直接伝えることもやりながら、記事や動画にしてコンテンツをシェアしていくことも並行して行う。その点でも(西村氏は)相性がいいと考えていた」(澤山氏)

西村氏も彼らの情報発信のスタンスには500 Startups Japanの頃から注目していたとのこと。もともとは今回のタイミングで転職を考えていなかったため「ジェームズから声をかけられなければ、当然のようにGoogleに在籍していたと思う」と話すが、カルチャーや目指しているビジョンなども合致したことで最終的には参画を決めたようだ。

「コンテンツに関われること自体が自分にとっては報酬のようなもの。アーリーステージから、よりダイレクトに起業家と接していられる環境も魅力的だった。でも1番はジェームズの話を聞く中でこのチームと一緒にやれば大きなインパクトを出せるんじゃないかと直感的に思えたこと。ジェームズは起業家出身ということもあって、けっこうしつこいところがある(笑)。それはとても大事なことで、ビジョンを掲げて人を巻き込む力が強く、そこにも共感できた」(西村氏)

チーム「Coral Capital」としてエコシステムの発展目指す

Coralとしては今回西村氏が加わったことで「これまではブログ的な形で運営していたが、本格的なメディアを作るくらいの熱量で情報発信する」(ジェームズ氏)とのこと。まずは日本のスタートアップへの投資額を1兆円規模まで拡大させることを1つの目標に、メディアを始め各領域で投資担当以外のメンバーも招き入れながらチームとしてスタートアップを支援していくという。

「Coralには投資担当以外にもすでに(投資先の採用を支援する)採用担当や広報を支援するパートタイムのPR担当がいて、お金以外のバリューをどれだけ出せるか強く意識しながらやってきた。継続的にリターンを出しながらエコシステムの健全な発展に大きなインパクトを与え、歴史に名を残せるような存在を目指してチームで取り組んでいく」(ジェームズ氏)

西村氏も「近年はVCが今まで以上にチーム戦になってきている」と感じているそう。日本のスタートアップ環境の変化とともにVCを取り巻く状況にも変化が訪れているタイミングで、「2019年は日本のVCにとってティッピングポイントになるのではないか」という。

「たとえばAndreessen Horowitzは約150名のメンバーのうち投資担当は50名弱ほど。コンテンツだけでなくデザイナーやエンジニア視点でアドバイスができるメンバーなども含め、VCがチームとしてスタートアップを支える基盤を強化している。日本でも同じような流れになるのではないか」

「ここ2〜3年で日本国内のスタートアップコミュニティ内でも、ものすごいスピードで情報のキャッチアップが進んできた。とはいえみんなが当たり前のようにエクイティの話をしたり、幅広い層に情報が行き届く状態には達していない。まずはVCの中から情報発信を通じて、スタートアップエコシステムの発展につながるチャレンジをしていきたい」(西村氏)

スタートアップ向け人間ドックが紀尾井町に誕生、標準価格より2〜3割安価

Coral Capital(500 Startups Japan)は、クリニックチェーンの経営支援を行うCAPSおよびその支援先である医療法人ナイズと提携し、スタートアップ企業の創業者と経営陣向けに人間ドックの格安プログラムの提供を開始した。対象となるのは、Coral Capitalと500 Startups Japanの投資先の創業者と経営陣。

具体的には、医療法人ナイズが運営するキャップス健診クリニック紀尾井町で人間ドックを利用できる。実際の料金は検査項目で変化するが、通常よりも2〜3割安い料金で受診できるとのこと。さらにCAPSが運営する24時間フィットネスクラブ「データフィットネス六本木」も特別料金で利用可能になる。

人手が限られるスタートアップの創業期は自分の限界まで働く経営者が多い印象だが、最近では20代の若手起業家だけでなく、一般企業でキャリアを積んだうえで各業界の問題点を解決すべく起業する30代、40代の経営者も増えている。スタートアップ=若手という構図は崩れており、連日かつ長時間の激務を「若さ」では乗り切れない経営者が増加傾向だ。

とはいえ、数人のメンバーしかいない創業期は報酬も低めなので、高額な人間ドックは敬遠されがち。こうした状況を踏まえて、スタートアップ経営陣向けの人間ドックのアイデアが生まれたそうだ。フィットネスクラブの利用も含め、スタートアップ経営陣の健康を守ることを目指すという。

Coral Capitalは、米ベンチャーキャピタルの500 Startupsの日本向けファンドである500 Startups Japanのメンバーが、新たに設立したベンチャーキャピタル。なおCAPSは、500 Startups Japanの出資先でもある。

CAPSは、かかりつけの医療機関向けの総合支援サービス「プライマリケア・クリニックチェーンマネジメント」のサービスを提供するスタートアップ。クリニックを開業する際の不動産の選定・取得から、経営システム、電子カルテの構築・運用、医師や看護師の募集をまとめてアウトソージングできる。さらに、365日、夜間対応も可能な診療体制を支援する。

自分では若いと思っても、身体のどこかに鈍い痛みが生じ始める30代、40代。今回のような健康支援プログラムが充実してくれば、スタートアップ企業の働き方改革も進むはずだ。