11月17日、18日に東京・渋谷で開催したTechCrunch Tokyo 2016。17日の最終セッションには、サイバーエージェント代表取締役の藤田晋氏が登壇した。藤田氏は4月11日の本開局(サービス正式ローンチ)からわずか半年で1000万ダウンロードを突破するなど、快進撃を続けるインターネットテレビ局「AbemaTV」について、サービス開始から今後の展開までを語った。聞き手はTechCrunch Japan副編集長・岩本有平が務めた。
若年層の取り込みに成功。わずか半年で1000万ダウンロードを突破
サイバーエージェントとテレビ朝日がタッグを組んで展開しているインターネットテレビ局AbemaTV。オリジナルの生放送コンテンツや、ニュース、音楽、スポーツ、アニメなど約30チャンネル(2016年12月現在)が全て無料で楽しめる。
4月11日の本開局から、約半年で1000万ダウンロードを突破。順調に成長を続けている。その状況について、藤田氏はこう口にする。
「予想を上回るスピードで1000万ダウンロードを突破することができましたが、そもそもスマートフォンでテレビ番組を観る視聴習慣が整っていない中、フライング気味にスタートしたサービス。なので長期戦になると思っています。そういう意味では何とかなるだろうと楽観的な一方で、予断を許さないとも思っています」(藤田氏)
「長期戦になる」という言葉どおり、藤田氏は2017年、AbemaTVに年間200億円を先行投資すると発表。予算のほとんどをコンテンツ制作と広告に充てるという。
驚異的なスピードでユーザー数を増やしているAbemaTV。その内訳を見てみると、10代〜20代の若年層がほとんど。“若者のテレビ離れ”が叫ばれて久しいが、スマートフォンに最適化された動画コンテンツを配信することで若年層の取り込みに成功しているのだ。
「もともと狙っていたのが、テレビを見なくなった若年層だったので、この結果は狙い通りです。テレビを見なくなった層が何をしているかというと、スマートフォンを覗き込んでいるので、スマートフォン上にコンテンツを送り込めばいい、と思いました」(藤田氏)
なぜテレビで勝負することにしたのか?
2016年を「動画元年」と位置づけ、AbemaTVの本開局に踏み切った藤田氏。だが「Hulu」や「Netflix」といった定額制動画配信サービスや、「YouTube」のような動画配信プラットフォームではなく、なぜテレビで勝負しようと思ったのだろうか?
「最初はテレビ型にするかどうかを決めず、動画事業に参入することだけを決めていたのですが、自分の中でAppleのiTunesが伸び悩んでいたことが決定打となりました。好きな音楽を好きなときに聴けるiTunesの仕組みは個人的にすごく良かったのですが、好きなもの以外を見つけるのが面倒くさいんですよね。受け身で音楽が聴けるストリーミングサービス『AWA』を始めたとき、やっぱり人は受け身で探す方が楽なんだと痛感しました。数ある映像が並んでいても、自分で選んで再生するというのは結構億劫なもの。受け身のサービスの方が人は楽なんじゃないかという前提に立って、テレビ型にすることを決めました」(藤田氏)
“受け身”というように、AbemaTVは暇があったら開く状態を目指している。例えば、1チャンネル目にニュースを持ってきて新鮮な情報を提供していることを打ち出したり、会員登録をなくしたり、とにかくユーザビリティの向上に注力しているそうだ。
「簡単で使いやすくすることで手が癖になり、アプリを立ち上げてくれるかもしれない。FacebookやTwitterといったコミュニティサービスに勝てるとは思っていませんが、SNSを見尽くして、やることがなくなったときに見てもらえるメディアであればいいと思っています」(藤田氏)
Netflixの日本上陸がAbemaTVの立ち上げの契機に
もちろん、テレビである以上、使いやすいだけでなくコンテンツも面白くなければユーザーに観てもらえない。その点、AbemaTVはテレビ朝日と提携することでクオリティの高い番組が作れているといってもいい。
堀江貴文氏がフジテレビを買収する、三木谷浩史氏がTBSを買収する騒動があった10年前には想像できなかったかもしれないが、テレビとネットの関係性は劇的に変化している“今”だからこそ、サイバーエージェントとテレビ朝日の提携が実現したという。
「昔から通信と放送は融合すると言われ続けていましたが、まだスマホも登場していなかったので実感値が全くなかった。だからこそ、コンテンツは独占してこそ価値があるものだと思われていましたし、テレビ以外のデバイスに映すのはもってのほかだった。そんな状況を大きく変えたのがNetflixの日本上陸。ワールドワイドで収益を上げ、膨大な制作資金をかけてドラマを作っている会社が日本に来るということで、各テレビ局が対応を迫られることになった。この出来事がAbemaTVが生まれるきっかけにもなりました」(藤田氏)
Netflixの上陸だけでなく、Apple TVやChromecastといった端末も登場してきた。テレビは今後どうしていくのかを、たまたまテレビ朝日の審議委員会で話していた(藤田氏はテレビ朝日の番組審議委員を務めていた)こともあり、テレビ朝日側に立って出した答えがサイバーエージェントとテレビ朝日の提携だったそうだ。
まさにNetflixの日本上陸がAbemaTVを立ち上げる契機になったと言えるが、運営していく中で自社でコンテンツを作っていく考えはなかったのだろうか?
「自社でコンテンツを作れるのではないか、という考えも頭をよぎりました。例えば映画の買い付けや放映権の取得などお金を出せば何とかなりそうかなと思ったのですが、それは大きな間違いでした。テレビ局と組むことが必須だったんです。主要な映像コンテンツは基本的に全てテレビ局に集まっていますし、映像制作のクオリティがすごく高い。よく視聴率がとれる番組は制作会社が作っていると思われがちなんですけど、それは全然違う。クリエイティブディレクションをやっているのはテレビ局の人たちなので、彼らと組む以外、道はなかったと思います」(藤田氏)
無理に黒字化しようとすると事業がおかしくなる
様々な動画サービスが立ち上がっていることもあり、今後、テレビ局がネット企業と手を組むなど、AbemaTVの競合が出てくる可能性は十分に考えられる。その点、藤田氏はどう考えているのだろうか?
「AbemaTVは世界的にも見たことがないサービス形態になったのですが、有り無しがまだ分からない。もちろん、有りだと思い込んでやっているんですけど、マスメディアに出来るかは全くの未知数。こんな状態で競合は出てきてほしくないのが本音ですが、テレビ朝日が社を挙げて全面的に協力してくれている。こんな奇跡的な状況の会社はそうそう無いと思っているので、競合は来ないんじゃないかなと思っています」(藤田氏)
先ほど、「テレビ局の協力が必須だった」と述べていたように、テレビに進出する時にテレビ局の協力、ネットに進出するときはネット企業の協力が必須だという。だからこそ、同じような形でサービスを立ち上げてくる可能性は少ないと考えているようだ。
約半年で1000万ダウンロードを突破したAbemaTVの今後の展開について、「いつまでに黒字化する、いつまでに◯◯ユーザーを獲得するといったことは絶対に言いません。無理に黒字化させようとすると事業がおかしくなるので」と前置きをした上で次のように語った。
「これからAndroid TV、Apple TVにも対応していきますが、Amazon Fire TVなどを使った視聴体験が思った以上に素晴らしいので、そこのマーケティングは強化していく予定です。あと、年明けにはバックグラウンド再生と縦画面でも開けるようにして、より気軽に使えるようにしていきます。コンテンツ面ではニュースに力を入れていき、大事なニュースがあったらAbemaTVをつける習慣を作っていくことを考えています」(藤田氏)