グラフェンを使ったランニングシューズは早々と来年市販される、奇跡のように

ランニングシューズとグラフェンは相性抜群だ。いつも最新の技術に飢えている前者に、後者は最近の記憶にあるかぎり最高の結果をもたらした。この、原子一個ぶんの厚さしかない素材を長年世界のリーダーとして研究してきたマンチェスター大学が、イギリスのスポーツウェアブランドinov-8とパートナーして、グラフェンのフットウェアを作ったのだ。

‘奇跡の素材’と呼ばれるものがときどき、派手な報道とともに登場するが、それらと違ってこのグラフェンのランニングシューズは、今の世代中に製品化される。これぞまさに、奇跡かもね。発売予定は来年で、お値段は高いが140〜150ポンド、最高級製品で200ポンドだから、それほど高嶺の花でもない。

靴への実装に奇跡らしきものは見当たらないが、グラフェンによって蹴りの柔軟性が増し、強度も従来の靴より大幅にアップする。グラフェンは、世界でいちばん薄い素材でありながら鋼鉄の200倍強い。研究者たちは、靴底部分にグラフェンを加熱して小さな粒子にしたものを加えている。

“inov-8’s G-Seriesのシューズに使われているゴムにグラフェンを加えると、強度をはじめ、グラフェンの特徴のすべてを持つようになる”、と同大のDr. Aravind Vijayaraghavanは言っている。“われわれ独自の配合により、これらの本底は、グラフェンのない業界標準のゴムの50%強く、伸展性が50%増す”。

ものすごく小さめに見積もれば、グラフェンのの採用は、イノベーションが重要な競争材料になっている衣料雑貨の世界で目立つための良策、と言えないこともない。Adidasの3Dプリントで作ったスニーカーや、Nikeの自力で紐を結ぶシューズのように。

でもマンチェスター大学の研究者たちはかなり前から、人間の着用物におけるグラフェンの可能性を語ってきた。上述の超能力のほかにも、透明でしかも銅などより伝導性が良い、という特性がある。これは、未来の電子製品にも向いてる特長だ。同大は、センサーの素材としての適性を最近デモしたし、また今度のスニーカーは、もっと大きなことの始まりにすぎないかもしれない。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

Teslaphoresisで自己を組み立てるカーボンナノチューブは、こんな言葉では言い表せないぐらいクールだ

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重要な科学研究のすべてがクールに見えたり、名前がクールだったりするわけではないが、でもときには、その両方の場合がある。この、自分で自分を組み立てるカーボンナノチューブ(self-assembling carbon nanotubes)は、Teslaphoresis〔仮訳: テスラ泳動〕と呼ばれる工程で作られる。あなたが今日見たあらゆる文の中に、これよりもクールな響きを持つ文*が一つでもあったら、教えてほしい。〔*: 全文: These self-assembling carbon nanotubes are created with a process called Teslaphoresis.〕

ライス大学(Rice University)の化学者Paul Cherukuriの研究室も、まるでマッドサイエンティストの隠れ家みたいだ。でも、そんなけばいびらびらに騙されてはいけない。これはきわめて重要な研究開発なのだ。

ナノチューブは一連のカーボン製卓越機能素材(supermaterials)の一種で、グラフェンと同じく、興味深い特性がたくさんあり、理論上の応用技術/製品も多い。しかし、これまたグラフェンと同じく、安価で信頼性の高い製法が難しい。このテスラ〜〜法は、超薄型で超強力で超伝導性のあるカーボンナノワイヤを作るための、画期的な方法かもしれない。

Cherukuriは、子どものころから今日まで、テスラコイルのファンだ。それは、強力な交流電界を作り出す。

同大学が発表したビデオの中で、彼はこう言っている: “われわれが発見したのは、この電界下ではナノチューブが自分自身でひも状につながってワイヤーを作ることだ。Teslaphoresis〔という言葉〕は、それが離れた空間における自己組み立てであることを理解するための、いちばん簡単な方法だ”。

コイルの交流電流が、ナノチューブの小片に極性を与えるようである。すると彼らは直ちに隣同士で列を成(な)し、長い鎖(さ)を作る。下図のように:

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上の二つめのgifでは、ワイヤーが実際に二つのLEDを接続し、それらに電気を送っている。これまでで最長の鎖は15センチだ。ワイヤーがやや毛羽立って見えるのは、たくさんのナノチューブが、われもわれもと列に並ぼうとするからだ。面にパターンがあって、余分なのをそぎ落としたり、行き先をガイドできたりすれば、この現象は防げる。あるいは、コイルを複数使ってもよい。

この研究のペーパー執筆を監督しているLindsey Bornhoeft(テキサスA&M大学の院生)によると、“これらのナノチューブワイヤーは神経のように成長し行動する”、という。“ナノ素材のコントロールされた組み立てがこのようにボトムアップで行われるのなら、再生医療のためのテンプレートなどの応用がありえるだろう”。

恒久性のある電子回路インプラントとか、可撓性のある電子回路なども、この技術の応用として可能になるのではないだろうか。もうすぐ、それらが世の中の当たり前になる。研究者たちは彼らの仕事を、アメリカ化学学界の機関誌Nanoに発表している

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

グラフェンを電極として使用すると効果的な脳移植が可能になる…二つの大学の研究より

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厚さ1炭素原子の超薄炭素結晶シート、グラフェン(graphene)は、それを通常のバルク材から取り出せるようになって以来この10年あまり、科学者たちを興奮させてきた。なぜなら、この特殊な炭素結晶体により、電子工学と生物学の混合が可能と思われてきたからだ。

Cambridge Graphene Centreとイタリアのトリエステ大学が行い、ACS Nano誌に載った最新の研究は、有効性が高くて柔軟性に富む脳移植が、この素材により可能であることを示唆している。今日の、シリコンやタングステンなどの剛体でできている電極には、術後痕における信号の喪失という問題があったが、グラフェンを使用するバイオデバイスでは、それがないことが期待される。

この研究の中心命題は、人間の脳は柔らかい組織でできているから、電極にもそのような可撓性があるべきだ、という点にある。またグラフェンは、生体適合性(biocompatibility)が優れている、と見なされている(ただしその毒性については、現段階で結論が出ていない)。

この、ケンブリッジ大とトリエステ大の研究が含意しているのは、将来的にはグラフェン製の電極を安全に脳に移植できるのではないか、という点だ。それによりたとえば、失った感覚を取り戻したり、四肢の麻痺を治癒できるのではないか、と思われる。癲癇やパーキンソン病などの治療も、可能になるかもしれない。このような将来の可能性はきわめてエキサイティングだが、現状はまだ理論の段階にすぎず、実用化は遠い先だ(ラットの脳の培養試験ではグラフェンの利用がすで成功している)。

研究者たちの注記によると、以前、ほかの研究集団が、特殊処理をしたグラフェンと脳内のニューロン(脳の神経細胞)を対話させる可能性を示したが、しかしその特殊処理をしたグラフェンはS/N比がきわめて低いという問題があった。何も処理をしないグラフェンは、グラフェンの重要な特性のひとつと言われているように、伝導性がとても高いので、良質な電極を作れる。その脳細胞との相性も、ラットの脳のニューロンでは良好だった。

トリエステ大学のLaura Balleriniは、声明文の中で次のように述べている: “われわれは初めて、グラフェンをニューロンに直接インタフェイスすることに成功した。そのときわれわれは、ニューロンが脳の活動を示す電気信号を生成することをテストし、それらのニューロンがその神経信号伝達特性を正常に保持していることを確認した。これは、被覆をしないグラフェンを用いる脳神経接合部(シナプス)の活動に関する、初めての機能研究である”。

科学者たちは、この研究が、神経とインタフェイスするための電極としてグラフェン製の新しい素材を使っていくための研究開発道程の、“最初の一歩”にすぎない、とほのめかしている。だから、グラフェン製のバイオデバイスが来年のCESに登場することはありえない。登場はおそらく、20年後か。

彼らが次の研究課題としているのは、グラフェンのさまざまな形状による、対ニューロン効果の違いだ。また、生物学的応答性を良くする(シナプスの性能と神経の活性化能力)ための素材の調整も、課題となる。

“この研究が、より良い脳深部移植技術の道を拓(ひら)き、脳の活力増進とコントロールを可能にする高感度で無用な副作用のない技術の実現に、つながることを期待したい”、とBalleriniは付言している。

 

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最後のナノメータ問題: 光→電子変換の不効率を一挙に解消するグラフェン感光素子

われわれシロウトの知識では理解できない未来の科学技術を、本誌もときどき取り上げるが、今回のもその一つだ。それは、グラフェンによる感光素子(光センサ)。

高速なデータの多くが今は光ファイバのケーブルで送られるが、それにはつねに、“最後のナノメータ”という問題がつきまとい、最後には光信号を電子のパルスに換えなければならない。そのためには光検出器というものを使って光を検知し、信号の変換を行う〔光回路と電子回路がそれぞれ別〕。そこにグラフェンが登場するとどうなるか。

六角形が並んだ形の単層の炭素原子を使って、ウィーン工科大学の研究者たちは、光子を電子に変換するための超微細で超高速で超効率的な方法を作り出した。これまでの光検出器は大きくてかさばっているものが多いが、この方法では約1平方センチのチップが最大2万の入力を受け取れる。これならコンピュータは、メモリとのデータのやりとりを光で行えるし、メモリの、光で動作する“スイッチ”〔ビットの1←→0書き換えスイッチ〕も可能だ。一つのUSBポートで2万ポートのルータを使える、と考えてもよい。

“光を電気信号に換える素材はたくさんあるが、グラフェンは特別に速い”、と研究者の一人Thomas Müllerが、ニュース記事の中で言っている。“この技術はデータの長距離伝送に重要なだけでなく、コンピュータ内部のデータ伝送が光で行われることが、今後はますます重要になる”。

非常に特殊な変換技術だから、部品間が光で結ばれたPCが登場することはないだろう。でも大型のメインフレームなら、銅線による接続が光に換わるかもしれない。Ethernetやシリアルポートは、絶滅種になるのだろう。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


米のシリコンバレーの後を継ぐのは欧のグラフェンバレーだ–EUが10億ユーロの研究助成金を提供

【抄訳】
Creative Commons by CORE-Materials<br />
http://www.flickr.com/photos/core-materials/5057399792/sizes/m/in/photostream/

EUの“政府機関”の一つである欧州委員会(European Commission, EC)は、グラフェンに関する研究プロジェクトを、大規模研究助成施策Future and Emerging Technologies(FET)(未来および最先端技術)の二つの最優秀プロジェクトの一つに認定した。今後10年にわたって、総額10億ユーロの研究助成金が授与される。これはECとしては過去最大の研究助成金施策だ。もう一つの最優秀研究プロジェクトは、人の脳のモデルを開発するプロジェクトである。

このグラフェン研究プロジェクトは、“この革命的な炭素系素材のユニークな特性を調べて利用方法を確立”することが目的で、厚さが原子一個ぶんというこの素材の物理的化学的性質を探究する。導電性が銅よりもはるかに大きく、鋼鉄の100〜300倍強く、また光学特性も特異であることが知られている。

そのほかの研究者たちはすでに、グラフェンによる電池容量の増大や、撥水性に着目している。しかしECの視野はもっと大きくて、それを“21世紀の驚異的素材”と位置づけている。情報通信技術においてシリコンをリプレースし、また同時に、20世紀におけるプラスチックのような重要性と遍在性を持つ、と期待しているのだ。

【中略】

FETの巨額助成金をもらうことになったこのグラフェン研究は、スウェーデンのChalmers University(チャルマース大学)のJari Kinaret教授が指揮し、100あまりの研究グループから成り、筆頭研究者136名の中にはノーベル賞受賞者もいる。

【中略】

ECの副理事長Neelie Kroesは記者会見で、この研究からヨーロッパに“グラフェンバレー”(graphene valley)が生まれることを期待する、と述べた。“それは、シリコンバレーの次の時代の、世界のテクノロジセンターである。グラフェンは、科学にまだ大きな未知と驚異が存在することを示している”。

先週はイギリスのCambridge University(ケンブリッジ大学)が2500万ポンドを投じてグラフェン研究センターを開設する、と発表した。こちらは、政府補助金のほかに、Nokia、Plastic Logic、Philips、Dyson、 BaE Systemsなどが研究資金を出す。

[画像出典: CORE-Materials, より。]

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))