Vingroup(ビングループ)傘下のベトナムの自動車メーカーVinFast(ビンファスト)は、消費者に印象を残そうと2021年のLAオートショーに参加した数多くのニューカマーの1社であった。
同社はこのショーで全電動クロスオーバー2車種を披露した。そして自動車業界へ新規参入する多くの企業がそうであるように(VinFastの場合は米国への新規参入)、両車種ともまだ生産に入っていない。
2022年後半に米国で登場予定のこの車両の仕様について、VinFastは詳細をほとんど明らかにしていない。同ショーを訪れた人は、Typeform(タイプフォーム)を介して登録することで、このクルマをいち早く「体験」し、購入に関心があることを示すことができる。
「今すぐ人々に登録してもらいたいと思っています。そして【略】顧客がどこにいるのか、誰が興味を持っているのかを把握するために、データベースを収集し構築したいと考えています。その上で、当社が提供しようとしているプロダクトやサービスの進捗状況について、人々に継続的に最新情報を発信していく予定です」と、VinFast USのCEOを務めるVan Anh Nguyen(ヴァン・アン・グエン)氏は木曜日のTechCrunchとのインタビューで語った。
興味のある顧客は、2022年第1四半期に、デポジットを払って希望のクルマを8色のうちの1色で予約することができる(更新情報:グエン氏はデポジットは500ドル[約5万7000円]だと語っていた。広報担当者はその後、この数字は正しくなく、顧客が予約に対して支払う金額は決定していないと説明し、適切な時期が来たらすぐに発表するとしている)。
グエン氏によると、数カ月後に車が利用可能になった時点で、関心のある顧客は試乗してそのデポジットを購入に充てるかどうか判断できるようになるという。仕様や詳細の情報は乏しいものの、VinFastは米国市場への参入計画を急速に進めているようだ。
工場、本社、および60店舗
VinFastの米国での計画は、電動クロスオーバーの販売に留まらない。同社はロサンゼルスに米国本社を置くために2億ドル(約227億円)超を投資するという野心的な計画を発表した。また、2022年までに、60を超える販売拠点、多角的な展開のサービスセンター、いくつかのモバイルサービスサイトの開設を計画している、工場もリストに挙がっているが、2024年後半まで開設の予定はない。
VinFastにとっては、多額の資本とスタッフを必要とする迅速な準備段階だ。
グエン氏は、米国に滞在してまだ14カ月しか経たないが、VinFastのモデルを米国市場に投入するチームの編成に取り組んでいるという。しかし、その製造施設がどこにあるかについては明らかにすることを控えた。
また、VinFastはReuters(ロイター)に対し、同社は今後数年のうちに米国株式市場に上場する計画だと述べている。
韓国のHyundai(ヒョンデ、現代自動車)やKia(キア、起亜自動車)、日本のトヨタ、スバル、マツダなど、他のアジアの自動車メーカーが米国市場に進出している中、VinFastはベトナム企業として初めてこの試みに乗り出すことになる。BYD(ビーワイディー、比亜迪)のような中国企業は、米国市場への参入を試みたが失敗した。
VinFastはどのような企業
VinFastは、1993年にスタートしたベトナムの民間コングロマリットVingroupの一部である。Vingroupは、不動産、ホスピタリティから産業、テクノロジー、さらには教育まで、幅広い分野に事業を展開している。
その自動車部門であるVinFastは、2018年のパリモーターショーで、同社初の内燃機関搭載車を発表した。同社はその後すぐに、各種の電動スクーター、Lux SUV、そしてベトナム市場向けの自動車の販売を開始した。同社によると、1年も経たないうちに、同社の車両はベトナムで最も早く売れるクルマになったという。
そして2021年、同社はベトナムで全電動バスとさらなるスクーターの販売を開始し、先のLAオートショーでSUV2車種の覆いを取り去って、グローバル車両になると同社が述べているVinFast VFe35とVFe36を発表した。いろいろな意味で、VinFastはHyundaiグループと類似しているように見受けられる。他の主要事業の中で自動車事業が占める割合はとても小さい。
VingroupはVinAI(ビンAI)も所有している。VinFastがショーで公開した新型SUV2台の脇に置かれた小さなディスプレイによると、VinAIは独立した法人で、車載AIと思われるものに取り組んでいる。運転席でのユーザーの動きを追跡して、ユーザーが注意を払っているか、スマートフォンを見たり、眠気を催したりしていないかを判断するものだ。このシステムはまた、センサーとカメラを使って車外の歩行者やスクーターなどの障害物を特定し、衝突を回避することにも役立つ。
グローバル市場向け電動SUV2車種
どちらも電気自動車であるVinFast VFe35とVFe36は、ベトナムにあるVinFastの90%自動化された大規模製造施設で作られる予定だ。この2車種は自動車ブランドのPininfarina(ピニンファリーナ)と提携して設計された。Pininfarinaは、クラシックフェラーリや、200万ドル(約2億2600万円)の電気スポーツカーPininfarina Battista(バッティスタ)の設計で知られている。
VinFastによると、SUVは1回の充電で約300マイル(約483km)走行できるということだが、充電や容量の詳細は明らかにされていない。グエン氏は、各車種にはEcoとPlusの2つのバージョンがあると付け加えた。VFe35の航続距離は、Ecoモデルで約285マイル(約459km)、Plusモデルで約310マイル(約499km)。より大型のVFe36のEcoモデルは約310マイル、Plusは約420マイル(約676km)になると同氏は述べている。
LAオートショーのステージに登場した2台のSUVはいずれもプロトタイプである。スペックシートによると、VFe35とVFe36のプロトタイプは、402hp(約300kW)の出力と472lb-ft(約640Nm)のトルクを発揮し、さまざまなエアバッグ、バーチャルアシスタント、そして「VinFastアプリによるリモートコントロール」機能を備え、eコマースサービス、ビデオゲーム、車内オフィス、さらにはロケーションベースの行動ターゲティング広告と呼ばれるものを搭載しているようだ。
VinFastは複数のパートナーと緊密に連携しているとグエン氏は話す。バッテリーの供給元については明かさなかったが「非常に有名な会社」のものだという。
バッテリーパックはベトナムのVinFastの施設で作られる。「私たちはProLogium(プロロジウム)のようなバッテリーパートナーと密接に協働しており、他の数社とも同様に協力関係を築いています」と同氏は言い添えた。「当社は、バッテリー技術に関して非常に優れた経験豊富なパートナー各社を選定しています」。
ProLogiumは、台湾を拠点とするソリッドステートバッテリーのメーカーである。
VinFastによると、両車種には標準的な先進運転支援システム、フルカラーヘッドアップディスプレイ、15.5インチのタッチスクリーンが搭載され、指をスワイプするだけでお気に入りの写真を「Zenモード」で表示できるという。
LAオートショーでは、どちらのクルマのドアも開けることはできなかった。小型のVFe35は本物の内装のように見えたが、ステアリングホイールの前にデジタルクラスタはなく、一方VFe36は内装を備えていなかった。
VinFastは、米国では電気自動車のみの販売を計画している。自動車生産への4年間という急速な道のりは、自動車業界ではほとんど聞いたことがない。車両の配送は2022年末に開始されると同社は述べている。すべてがどうなるかを見るには、来年まで待たなければならない。
画像クレジット:Abigail Bassett
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(文:Abigail Bassett、翻訳:Dragonfly)