世界中からオススメのスタートアップを募集ーYCが一般推薦の受付をスタート

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長年にわたって卒業生から新しいスタートアップの情報を入手してきたY Combinatorが、スタートアップの推薦ネットワークを一般に広げることを決めた。この施策の目的は、教授やメンター、初期の顧客など、誰でも自分が知っているスタートアップを推薦できるようにすることで、YCと繋がりを持ったスタートアップの数を増やすことにある。

YCでパートナーを務めるKat Manalacは、ファウンダーの多くが、自分の企業はYCのプログラムに参加するには成長しすぎている、もしくは小さすぎると思い込んで応募を諦めていると説明する。そこでYCは、応募を悩んでいるファウンダーでもとりあえずチャレンジできるような仕組みを作ろうとしたのだ。さらにManalacは、これまでにYCのプログラムに参加した企業の多くが、メンターや投資家による説得を通じて応募を決心したと語る。

YCが推薦を受け付けるようになったことで、応募には推薦が必須だと考えるファウンダーもいるかもしれない。しかしYCは、プログラムへの参加資格を獲得するために推薦は必要ないと話す。

ほとんどのベンチャーキャピタルは、公式もしくは非公式に、warm referral(推薦者がまずVCにコンタクトして企業を紹介する推薦方法)を出資先候補となる企業の選定に利用している。しかしYCはこの仕組みを使わないことで、常にテック業界におけるネットワーキングのハードルを下げようとしてきた。

推薦内容についても同じことが言える。ファウンダーは、Marc AndreessenやMichael Moritz、Elon Muskなどテック界のスターの名前を並べて、インパクトを残そうとする必要はない。実際Manalacによれば、2017年冬期のプログラムへの参加が認められた企業のうち、YC卒業生からの推薦を受けていない企業の割合は60%だった。

推薦ページは以下のようなつくりになっている。YCはポジティブなコメントとネガティブなコメントどちらも受け付けており、推薦したいスタートアップがいる場合、推薦者はその企業が「ホームラン」となる可能性がどのくらいあるかというのを具体的に説明しなければならない。数年もすればきっと面白い傾向が見えてくるだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

フィンテックVCのMotive Partnersが誕生、1億5000万ドルのファンドを組成中

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現在ポンドの価値は過去50年間で最低の水準に達している(さらに下がる可能性もある)が、投資家の中にはこれをチャンスだと捉えている人もいる。

フィンテック界の起業家や投資家から構成されたチームが、本日Motive Partnersと名付けられたVCをローンチし、ロンドンとニューヨークにオフィスを開設した。ファンドの規模については明らかになっていないが、同社が今月はじめにアメリカ証券取引委員会(SEC:U.S. Securities and Exchange Commission)に密かに提出したForm Dには1500万ドルという金額が記載されていた。

しかもこの数字にはアメリカ分しか含まれていないため、イギリスにも本社を置く同社は、もっと大きな金額を調達している(もしくはしようとしている)可能性が高く、私たちもある情報源からそのような情報を入手している。

既に何百という数のVCが、フィンテックを専門に、または他の分野と併せてフィンテックスタートアップへの投資を行っている。そういった意味で、Motive Partnersは他社に遅れをとっているが、いくつかの理由を背景に同社はまだ勝機があると考えている。

まずは市場の大きさだ。Goldman Sachsの推測によれば、金融業界の年間売上のうち4兆7000億ドルが、フィンテック企業によって奪われる可能性がある。そこでMotive Partnersは、フィンテックスタートアップへ投資することで、4兆7000億ドルの市場を狙うことができると考えているのだ。

「私たちは金融サービスが今まさに変化の真っ只中にいると考えています。今後カスタマーエクスペリエンスの向上、テクノロジーを活用したシームレスなサービス、新しい業界基準、そして金融サービスへの”アクセスの民主化”が今後世界中で広がっていくでしょう。このような変化によって、専門家にとって素晴らしい投資のチャンスが、今後次々に生まれていくと考えています」とマネージング・パートナーのRob Heyvaertは声明の中で語った。

ふたつめは金融機関の幹部や投資家から構成されたMotive Partnersのチームだ。Heyvaert(FISのグローバルフィナンシャルソリューション部門の前コーポーレート・エグゼクティブ・ヴァイス・プレジデント、Capcoのファウンダー兼CEO、IBMの証券・金融市場担当ジェネラル・マネージャー、Cimad Consultantsのファウンダー兼CEO)に加え、Stephen C. Daffron(Interactive Data Corporationの前CEO、Morgan Stanleyのテクノロジー・オペレーション部門のグローバルヘッド、Renaissance TechnologiesのCOO)やMichael Hayford(FISの前CFO兼コーポーレート・エグゼクティブ・ヴァイス・プレジデント、Metavante Technologiesの社長兼COO)がファウンディングパートナーとして同社に参加している。

さらにAlastair Lukies(Monitiseのファウンダー、英首相のフィンテックアドバイザー)やAndy Stewart(BlackRock元社員)らが同社のパートナーを務める。

「ロンドンとニューヨークにいるスタッフは、フィンテックのエコシステムの最前線に立つべく、とてつもない努力を重ねています。両都市の著名な専門家のサポートとともに、私たちは社会と金融の関わり方に大きな変化をもたらす上で、有意義な役割を担っていくことに全力を尽くします」とLukiesは声明の中で語っている。

最初の投資案件に関する情報はまだ発表されていないが、昨夜Sky NewsLMRKTSに対するMotive Partnersの投資(金額は不明)について報じた。TechCrunchでも、この噂が真実であるという確認がとれている。

LMRKTSは、自社のことを”多角的に多方面をカバーする”専門家集団と表現している。同社の業務内容についてはウェブサイトから確認できるが、要点をまとめると、LMRKTSは大手金融機関の重複した外貨為替取引をみつけだし、それを解消することで金融機関のコストを抑えるようなアルゴリズムを開発しているようだ。

前アメリカ合衆国財務長官のLarry SummersもLMRKTSに投資しており、彼は同社の取締役まで務めている。もちろん有名企業の出身者や元官僚を取締役にしたからといって企業が成功するとは限らないが、理論上はデューデリジェンスこそ、Motive Partnersの専門性が発揮される部分だ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

VCファンドの組成額が大幅に増加ーースタートアップ投資の現状を投資家が語る

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11月17日から18日にかけて渋谷ヒカリエで開催されたTechCrunch Tokyo 2016。初日の夕方に、「変化するスタートアップ投資、その最新動向」と題し、村田祐介氏(インキュベイトファンド 代表パートナー) 、有安伸宏氏(コーチ・ユナイテッド ファウンダー) 、中西武士氏(KSK Angel Fund パートナー)のパネルディスカッションが行われた。モデレーターは、TechCrunch編集部の岩本有平が務めた。

村田氏は、”First Round, Lead Position” を投資哲学とし、スタートアップへの投資を行うインキュベイトファンドの代表パートナーを務めながら、JVCA(一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会)の企画部長も務め、ベンチャーキャピタル業界の調査や業界地位向上に関わっている。

有安氏は、プライベートコーチサービス「cyta.jp」を運営するコーチ・ユナイテッドのファウンダーで、同社をクックパッドに売却する以前から、個人でエンジェル投資を行っている。また、IPOやM&A等でイグジットした起業家が8名から成る「TOKYO FOUNDERS FUND(TFF)」のメンバーでもある。

中西氏はプロサッカー選手の本田圭佑氏が設立したKSK Angel Fundのパートナーを務める。日本ではまだ馴染みのない、セレブによる投資ファンドに注目が集まっている。彼らは「貧困をなくす」という思いのもと投資活動を行なっているという。2016年6月に正式にファンドを設立し、すでに中高生向けのプログラミング教育事業を展開するライフイズテックを始め、6〜7社に対し、500万円〜1億円程度の投資を実施している。

スタートアップ投資にそれぞれ異なる角度から関わる3人を迎え、スタートアップの動向を見ようというのが本パネルディスカッションの趣旨だ。JVCAを通してスタートアップの投資関連レポートを発表している村田氏のスライドに沿ってディスカッションを行った。

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そもそもスタートアップに投資するお金、つまりベンチャーキャピタルファンドに流れるお金はどのように推移しているのか。最近ではスタートアップの大型調達のリリースを耳にする機会も増えているので、ベンチャーキャピタルの資金も増えているはずだ。1年間のベンチャーキャピタルファンドの組成額は、ここ数年2000億円付近を推移している。ピークと言われる2006年は3500億円に達していたが、その後2008年のリーマンショックから続く金融危機の影響を受け、2009年、2010年は250〜300億円と10分の1まで落ち込んだ。

そのような時期を経て、やっと回復してきているという。村田氏の調べによると、2016年上半期の組成額はすでに2500〜2600億円程で、今年度は3500億円に達するのではと予想する。一方、アメリカの組成額はおよそ2兆円と、やはり大きく規模が異なる。日本とアメリカの差は絶対値で見ても、GDP対比で見ても大きい。

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スタートアップに目を向けると、起業という選択肢が身近になったと肌感覚で感じている人も多いと思う。大企業出身者が起業したり、東大の学生が進路としてスタートアップを選んだりする方向に変わってきていると村田氏は言う。「ベンチャーキャピタルファンドは、基本的に8年で運用する。その期間の半分の4年で組入れを完了しなければならないというルールがあるので、直近の組成額から7000億円程度は数年以内にスタートアップへ投資される」と村田氏は言う。

注目すべきは、調達額は増えているが、社数は減っている点だ。今年100億円以上の大型ファンドがすでに10本以上も発表されており、ポートフォリオ管理の観点から少額の投資はできず、1社に対しての投資額が増えていると村田氏は説明する。つまり、創業期の会社よりも、より後のステージの会社に投資が集中しやすいということだ。

調達額のグラフを見ると、10億円を超える超大型調達が一昨年は20社、昨年は25社だった。メルカリの84億円調達も記憶に新しいが、今年上半期に超大型調達を実施したスタートアップは30社を超えているという。

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投資家の属性は5つに分けられるが、これは日本特有のことだという。日本では金融機関の1つの機能としてのエクイティ投資が発達してきた背景があるが、アメリカでは金融系という分類は一般的ではない。日本における金融系VCの存在は変わらず大きいが、リーマンショック後から変化を見せている。様々なバックグランドの投資家が設立した独立系、そして事業会社が自社の既存事業とのシナジー投資などを行うCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が台頭し、昨年には金融系、独立系、CVCのファンドレイズ額が均衡するまでになっていると村田氏は話す。

それらに加え、エンジェル投資も増えてきている。パネルディスカッションに登壇した有安氏をはじめ、数は少ないが、起業家として成功した人たちが投資を行うという流れもある。また学内の技術や研究成果の事業化を目指し、旧四帝大(東京大学、京都大学、東北大学、大阪大学)などの大学系・政府系VCも広がってきている。このように数年で大きな変化を遂げた業界だが、2016年の変化としては「金融系VCが大型のファンド組成を行ったことだ」と村田氏は言う。

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独立系VCも引き続き勢い付いている。このスライドにある独立系VCの3分の2以上は、ベンチャー投資の谷であったリーマンショック以降に設立された。金融系VCやCVCで力をつけたキャピタリストが独立し、ジェネラルパートナーとなって設立している独立系VCが多いそうだ。

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2000年前後、大企業のCVCが50〜100億円ファンドの組成が活発で、その後、上場したインターネット系の事業会社がCVCを組成する流れがあったと村田氏は言う。一時期低迷していた大企業系CVCだったが、近年勢いを取り戻しているという。「少し前のガラケー時代は自社サービスとうまく紐付けられず、大企業がスタートアップと手を組み、オープンイノベーションを目指すということに消極的だった。だが、今ではスマホが普及したことによりIoT分野との相性がよくなってきている」と村田氏は説明する。

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産業革新機構などは独立系VCなどに多くの金額を出資しているが、大学・政府系VCの中にはスタートアップに直接投資する人もいるという。また前にも触れたように、エンジェル投資家の盛り上がりも著しい。個人としてスタートアップに投資する場合にも、5000万円〜1億円という規模感で投資したり、ベンチャーキャピタルにLPとして出資したりしているエンジェル投資家もいる。

「エンジェル投資家のコミュニティがあり、協調投資をするケースも多い」と有安氏は言う。有安氏は、自身の経験からコンシューマー向けのウェブマーケティングでサービスを伸ばせる会社に関わることが多く、投資額は250〜2000万円と幅広いそうだ。投資先との関わり方は、株主のメンバーや投資額により様々だという。

エンジェル投資の日本とアメリカの環境の違いについて、有安氏はスピード感をあげた。「アメリカは洗練されていて早い。優先株、法務面のチェックなど日本では非常に時間がかかるが、アメリカではフォーマットが決まっていて、乗る/乗らないの選択のみでシステマチック」と言う。エンジェル投資に関する話は、昨年のTechCrunch Tokyo 2015でコロプラ元取締役副社長の千葉功太郎氏と有安氏の対談記事もあるので、気になる方は是非見てほしい。

エンジェル投資において、日本とアメリカの違いを挙げるとすれば、存在感と注目度の大きいセレブ投資の存在もある。俳優のアシュトン・カッチャーはAirbnbなど名だたるスタートアップに投資していることでも有名だ。アメリカのセレブ投資について中西氏は「SNSの存在が大きい。セレブは自分たちでモノを売ることができるようになった。セレブには2つのタイプがあり、1つはアシュトン・カッチャーのように、スタートアップと他の企業を繋ぐなど、BizDevも担うタイプ。もう1つはセレブをフォローしている人向けに商品を訴求するタイプ」と言う。

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アメリカには芸能人、スポーツ選手などで投資を行う人がいるが、日本にはごくわずかだという。共同での投資実績もある村田氏は本田氏について「投資家が使うような言葉も使うし、会社の価値判断基準もほぼ同じ。スポーツ選手としてバリューアップしやすそうな会社だけでなく、VRやAIなども面白いと言っていた」と話す。中西氏いわく、本田氏は関心分野があるとすぐに大学教授などにもコンタクトを取ったり、関心分野に関する本を何冊も読んだりして投資先について勉強するそうだ。

日本においてセレブリティ投資がまだ未熟な点について中西氏は、セレブがスタートアップに投資するための情報が足りていないという。「アメリカでは各分野にセレブ投資を行う人がいるというのが広まった。日本でも時間の問題だと思う」と話した。

ピーター・ティール、トランプの政権移行チームに自らのFounders Fundの幹部を引き抜く

CLEVELAND, OH - JULY 21:  Peter Thiel, co-founder of PayPal,  delivers a speech during the evening session on the fourth day of the Republican National Convention on July 21, 2016 at the Quicken Loans Arena in Cleveland, Ohio. Republican presidential candidate Donald Trump received the number of votes needed to secure the party's nomination. An estimated 50,000 people are expected in Cleveland, including hundreds of protesters and members of the media. The four-day Republican National Convention kicked off on July 18.  (Photo by Joe Raedle/Getty Images)

ピーター・ティールが自分の選んだ人材に対して信義に厚いのは有名だ。逆もその通りで周囲の人材はティールに忠実だという。シリコンバレーでは何十人もの人々がティールの創立したベンチャーキャピタル、Founders Fundやヘッジファンド、Clarium Capitalで働いたことがある。ティールはClariumのマネージング・ディレクター、Ajay Royanと共に後期のスタートアップを対象とするベンチャーキャピタル、Mithril Capitalの共同ファウンダーでもある。

そこでティールがFounders Fundのプリンシパルの一人、トレイ・スティーブンス(Trae Stephens)をドナルド・トランプ次期大統領の政権移行チームに引き抜いたのは不思議ではない。ティール自身はチームに2周間前に正式参加している。Bloombergによると、スティーブンスはトランプ政権そのものに加わるわけではないが、国防総省および安全保障関連の政策立案とスタッフの任命を助けることが期待されているという。

スティーブンスの移行チームへの任命は奇妙であると同時に予想通りという二面性を持っている。 ジョージタウン大学で中東の比較政治学を学びながら首都ワシントンで下院議員のインターンを務め、卒業後はLexisNexisでデータ・アナリストを2年間務めた。その後Founders Fundが支援するPalantirのデータアナリストを経て2013年の12月にFounders Fundに加わっている。

スティーブンスはともかく優秀なのだろう。その点でティールを始めとするトランプの政権移行チームのメンバーには似たところがある。トランプの娘婿、ジャレド・クシュナー、息子のエリック、ドナルド・ジュニア、娘のイバンカ・トランプ(ジャレドの妻)、ヘッジファンドのマネージャー、アンソニー・スカラムッチ(Anthony Scaramucci)、外科医のベン・カーソン(Ben Carson、住住宅・都市開発省長官のポストを打診されているが本人は迷っているもよう)などの人々と同様、スティーブンスも優秀ではあろうが、政府機関でこれというほどの公職に就いた経験がない。

しかしティールは「アメリカ政府(Palantirの売上の40%を占める)は破綻している」と繰り返し述べており、新しい政治の必要性を説いている。ということは政権の要職にティールやスティーブンスのようなアウトサイダーをあてるのも予期したとおりかもしれない。

さらに予想どおりなのは、ティールがトランプの政権移行チームのメンバーに選んだ人間がティール自身の会社の幹部であるという点だ。ティールは人を見る目に自信を持っており、採用した人物を信頼しているという。一方でシリコンバレーではティール自身のサークル以外からはトランプを支持する人材を見つけるのが難しいという事情も伝えられている。

Washington Postの記事によれば、ティールはトランプ政権の要職について「編集可能な候補者リスト」をiPad上に持ってるということだ。このリストにはビジネス・ノンフィクションのベストセラー、『ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか』の共著者、ブレイク・マスターズやPalantirの共同ファウンダー、ジョー・ロンズデール、連続起業家で若者の起業を応援するThiel Fellowshipのエグゼクティブ・ディレクターのジャック・エイブラムが含まれるという。

Washington Postの記事によればシリコンバレーではトランプを嫌っており、トランプに接近することはビジネスに不利益になる可能性があるとしてティールを評価しない人々も多いという。

〔日本版〕シリコンバレーのベンチャーキャピタルにおける「プリンシパル」はアソシエートとパートナーの中間の職位。パートナーに昇進する可能性の高い地位だとされる。

画像:: Joe Raedle/Getty Images

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

大型新ファンドの組成、エンジェルの活躍、セレブ投資の加速——投資環境の変化をTechCrunch Tokyoで学ぶ

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いよいよ開催まで1週間弱となったスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」だが、まだご紹介できていなかったセッションをここで紹介しよう。

1日目、11月17日の午後には、「変化するスタートアップ投資、その最新動向」と題したパネルディスカッションが開催される。スタートアップ企業の動きが活発になるのと同時に、ベンチャーキャピタルによる投資も増えてきたのがここ数年のスタートアップエコシステムのトレンドだった。だが最近ではそのトレンドにも変化が起きているという。

1つ例を挙げるならば、国内のスタートアップ投資額は増加しているのに、一方で資金調達を実施している企業数は減少している。つまり「集まるところには集まっている」が、資金を集められないスタートアップには厳しい状況になりつつあるということ。ジャパンベンチャーリサーチが9月に発表したところによると、2016年上半期の資金調達額は928億円で、これは2015年の約56%。今後順調に推移すれば2015年を上回る予想だ。だが一方で、資金調達を行った企業数は2014年1071社、2015年946社と減少傾向。2016年上半期は、調達金額不明なものを含めても373社(調達金額判明のみは275社)なのだそうだ。

ほかにも独立系VC、金融系VC、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)に加えて、大学系VCも大きなファンドを組成しており、成長に時間のかかる技術系スタートアップにもVCマネーが回り始めた。さらにはここ数年でイグジットした起業家が、エンジェル投資家としてスタートアップに対して投資を積極的に行うようにもなっている。このセッションでは、そういったスタートアップ投資の変化やトレンドについて、3人の登壇者から話を伺う予定だ。

インキュベイトファンド 代表パートナーの村田祐介氏は、ベンチャーキャピタリストとして投資を行う傍ら、業界の調査を実施しており、JVCA(一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会)などを通じてそのレポートを発表している。またコーチ・ユナイテッド ファウンダーの有安伸宏氏は、自社をクックパッドに売却して以降、エンジェル投資家として積極的に投資を進めている。2人には日本のスタートアップ投資をそれぞれの立場から語ってもらう予定だ。

さらにKSK Angel Fund パートナーの中西武士氏も登壇する。KSK Angel Fundは日本代表でもあるプロサッカー選手・本田圭佑氏が手がけるファンドで、中西氏はそのパートナーとして活躍している(と同時に、Honda Estilo USAでサッカースクールビジネスを展開している)人物だ。海外ではセレブリティによる投資が盛んだがその実情、そしてなによりも、本田氏が投資活動をはじめた思いなどを聞いていきたいと思う。

起業家を待つのは華やかな話題だけではない——TC Tokyoで聞く「スタートアップの光と影」

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開催まで3週間を切ったスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」。プログラムも公開したが、まだ紹介できていなかったセッションについてここでご紹介しよう。

11月18日午後に予定されているのは、国内有力ベンチャーキャピタリストの2人に登壇いただくパネルディスカッション「投資家から見たスタートアップの『光と影』」だ。

TechCrunchを含め、オンラインメディアで目にするスタートアップのニュースは、「IPOやM&Aといったイグジットをした」「新しいサービスが登場して、こんな課題を解決してくれる」「資金を調達して、今後の成長に向けてアクセルを踏んだ」といった基本的にポジティブなものが中心だ。

だが華やかにも見えるスタートアップの裏側は、実に泥臭い努力の積み重ねで成り立っていたりする。いや、努力したところでうまくいかないケースだって多い。

起業家は企画を練り、チームをまとめ、プロダクトを立ち上げる。さらに資金が足りなければ投資家を探すし、プロダクトをより大きく育て、最終的に買収や上場を目指すことになる。この1つ1つのステップには、数多くの選択や交渉が必要とされている。例えばチームを集めれば株式の取り分や方向性で揉めることもあるし、資金を集める際には投資家との激しい交渉が待っている。時には起業家におかしな条件を提示する「自称投資家」「自称コンサルタント」だってやってくるとも聞く。M&Aによるイグジットまでたどり着いたとしても、買収先との折り合いの付けどころを調整することにだって苦労が伴う。それぞれの局面での困難さに起業家は立ち止まりそうになる、いや立ち止まってしまうことだって少なくないのだ。

このセッションでは、そんな普段メディアでは触れられない、スタートアップの「影」の部分について触れていければと思う。ただし勘違いして欲しくないのは、何もゴシップめいたことを発信していきたいわけではない。起業家の成功と失敗、その両面を見てきたベンチャーキャピタリストの生々しい経験から、成長途中にある落とし穴に落ちないよう、「○○すべき」「○○すべからず」というヒントをもらいたいと思っている。

本セッションに登壇頂くのは、グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナーでChief Operating Officerの今野穣氏、iSGSインベストメントワークス代表取締役で代表パートナーの五嶋一人氏の2人。いずれも投資経験豊富なベンチャーキャピタリストだ。チケットの購入はこちらから。

VCマネーの過剰接種:71社のIPOから学べること

Person consuming overdose of medicines depicting concept of health expense

編集部注: 本稿はFounder Collectiveのマネージング・パートナーであるEric PaleyとJoseph Flahertyによって執筆された。

 

ベンチャー・キャピタルは劇薬だ。適切に利用すれば、過去50年間そうであったように、素晴らしい企業を元気づけるアドレナリンのような働きをしてくれる。不適切に利用すれば、有害な依存症を引き起こす。

スタートアップのコミュニティに浸透している社会通念とは、素晴らしい企業がより大きな資本を活用することで成長を加速させることができるというものだ。しかし、この「どでかくやるか、家で寝てるか」というアプローチは、緻密な調査にも耐えうることができるのだろうか?すべてが理想的に進んだ場合、VCマネーを豊富に蓄えた企業は限られた資本を効率的に使う企業よりも本当にパフォーマンスが優れているのだろうか?その答えを見つけるため、私たちは過去5年間に新規上場した71社のテック系スタートアップを対象に調査を実施した

「Efficient Entrepreneurship」

Founder Collectiveでは、「効率的アントレプレナーシップ(Efficient Entrepreneurship)」と呼ばれる美徳について話し合ってきた。最近、私たちはスタートアップが豊富な資本を抱えることのデメリットを伝えるレポートを発行している。そのデメリットには、エグジットの選択肢が制限されることや、不安定なバーンレートを引き起こす危険性などが含まれる。しかし、積極的な資金調達の良い面として考えられるのは何だろうか?VCの成功例を調べることで、多額の資金調達をすることの意義について私たちは何を学べるのだろうか?

調査結果は驚くべきものだった。過去5年間のテック系スアートアップのIPO事例を調べることで分かったのは、IPO以前のパフォーマンスを比べてみても「富める者(豊富な資本をもつ企業)」が「貧しき者(限られた資本しかもたない企業)」をアウトパフォームすることはなかった。それどころか、IPO後のパフォーマンスを見てみると実際には富める者のパフォーマンスの方が悪かったのだ。

巨額の資金調達は「ユニコーン企業」という称号を受け取るための必要条件だ。しかし、テクノロジー業界の成功例を調べてみると、豊富な軍資金が成功と正の相関を持つわけではないことが分かる。

公開株式市場で取引されているスタートアップの上位20社(現時点の時価総額が高い順に選出)を見てみると、合計で1億ドル前後の資金を調達した企業は14社だった。5000万ドル以下を調達したのは6社であり、そのうちの1社は資金調達を行ってすらいない。非上場のユニコーン企業が調達した金額の中央値が2億8400万ドルであることを考えれば、この数字は驚くべきものだ。

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調査手法

スタートアップのパフォーマンス計測は厄介な作業だ。当然のことながら、レーターステージの企業は情報をあまり開示していない。企業が買収されていた場合、より厄介なことに実際の買収金額が不明瞭になるように考慮されていることが多い。IPO市場のデータは他に入手可能な数字のなかでも最も透明性の高い価値尺度である。不完全なデータではあるが、そこから学べることは多い。例外はあるものの、ベンチャー・キャピタルが獲得する成果の大部分はIPOから生まれるリターンなのだ。過去5年間のIPOとベンチャー・キャピタルとの関係性を調べることで、優秀な企業に多額の出資をすることが良いリターンを生むのかどうか調べることができる。

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  • 調査対象である71社の資金調達額の合計は102億ドル。
  • 71社合計の時価総額は5660億ドル。つまり、総投資金額の55倍。
  • 71社合計の調達金額の平均は1億4400万ドル、時価総額の平均は79億ドル。
  • 71社合計の調達金額の中央値は7900万ドル、時価総額の中央値は18億ドル。

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この世にFacebookという会社は1社しかなく、その1社がもつ数字が極端な異常値であることを理由に、私たちはFacebookを本調査から除外することにした。Facebookを除外した後も統計結果は以前として素晴らしいものであるが、たった1つの企業がこれほどまでに全体のデータを歪めていたことには驚かされるばかりだ。

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  • 調査対象の70社の資金調達額の合計は96億ドル。
  • 70社合計の時価総額は2020億ドル。つまり、総投資金額の21倍。
  • 71社合計の調達金額の平均は1億3700万ドル、時価総額の平均は28億ドル。
  • 71社合計の調達金額の中央値は7900万ドル、時価総額の中央値は18億ドル。

調査対象

本調査の対象となる企業は、2011年から2015年のあいだに新規上場をした企業とする。5年以上さかのぼった調査結果も興味深い物ではあるが、非公開企業が前代未聞の資金額を調達する「ユニコーン企業の時代」と呼ばれた時代に焦点をあてて調査することで、そこから私たちが学べることも多いだろう。また、本調査では2000年以前に創立された企業(GoDaddy、FirstDataなど)、通常とは違った資金調達方法をとってきた企業(Match Group、RetailMeNot)、欧米とはまったく異なる金融市場をもつアジア諸国、およびロシアの企業を除外している。71社を対象とした調査結果のデータセットはここで公開している。いくつかの例外を除き、データの大部分はCrunchbaseから取得している。

レーターステージのプライベート・エクイティ、セカンダリー・オファリング、借入金に関しては、スプレッドシート上には掲載しているが調査結果の計算からは除外している。また、私たちはIPOによって調達した資金にはあまり注目していない。その資金はベンチャー・キャピタルゲームの終点であり、企業の規模がその調達額の大小を決める最も大きなファクターであるからだ。できる限りの注意を払ってデータを集めてきたものの、データセットには以前として不完全な部分は残っている。データセットへのフィードバックは大歓迎であり、それがデータセットを公開している理由だ。

「Big VC」にとってのベスト・シナリオ

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データを見てみると、「どでかくやるか、家で寝てるか」というアプローチは特に投資家サイドにとっては機能しているように思われる。多額の資金を調達した企業群は、ドルベースで見れば確かに大きなリターンを生み出している。調達額の上位20社は合計で67億ドルをVCから調達し、時価総額は20社合計で620億ドルだ。つまり投資金額の約9倍のリターンを生み出したことになる。

下位20社のデータを見てみると、VCからの資金調達額は合計で6億2300万ドルだ。しかしながら、時価総額の合計は480億ドルであり、これは投資金額の77倍のリターンを生み出したことを意味する。

リターンの絶対額だけをみると、その違いは140億ドルだ。VCにとってこの差はささいな数字ではない。しかし、調達額が10億ドルに少し満たない程度だったTwitterを除外してみると、140億ドルの差のうち120億ドルがその1社によって生み出されていたことが分かる。つまり、FacebookとTwitterを除いて考えてみると、VCは20億ドルのリターンを得るために約50億ドルを費やしたことになるのだ。株式市場の変動は激しく、この記事の執筆中も、調達金額上位20社の時価総額は大きく変動していることは留意しなければならない。しかし、そうだとしてもその変動は1社か2社の異常値によって引き起こされることが多いのだ。

毎年多くの企業が誕生するなか、そのうちの数社によって多額のリターンが生まれることは確かだ。また、そのような異常値(FacebookやTwitter)が生まれた場合には、その企業に最も多く賭けていた投資家が勝つことも事実だ。しかし、VCが常にそのような企業を見つけられるとは限らず、たとえその企業が優秀であったとしても資金を必要以上に投入してしまっているということも考えられる。

これはVCモデルの根底を揺らがすものではない。VCはリスクを伴うものなのだ。ハイリスクな状況下であっても、本当に優秀なVCはいくつものファンドを成功させている。

しかし、起業家はこの結果から学ばなければならない。FacebookやTwitterといった企業はエコシステム全体にとって無くてはならない存在だが、すべてのスタートアップに彼らのモデルが当てはまるわけではない。次なるFacebookを生み出すことができると確信している場合は別として、起業家がフォーカスすべきなのはIPOによって生み出される金額の絶対値ではなく、収益率なのだ。

VCにはポートフォリオがある一方、起業家に与えられたチャンスは(一回の起業につき)一度きり

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VCは何度失敗したとしても、一度のホームランでその損害を取り返すことが可能だ。しかし、起業家に与えられたチャンスは一度きりである。起業家にとって、最良のケースでも24%しかないプレミアムを得るために4倍以上のリスクをとる価値があるだろうか?実際はどうだったのか調べてみると、資金調達上位の企業はそのプレミアムを得るためにリスクをとっていた:

  • 「富める者」が調達した金額の中央値は1億9300万ドル、時価総額の中央値は21億ドル
  • 「貧しき者」が調達した金額の中央値は3700万ドル、時価総額の中央値は17億ドル

しかも、起業家が実際に受け取るリターンはこの数字よりも悪い。数度にも及ぶ資金調達は起業家の持ち分比率を希薄化させるだろう。それに、スタートアップの快進撃が止まって結局IPOまで辿りつかなかった場合には、IPO以前に発行された優先株はVC側に有利に働くことになる。そのようなリスクがあるということ以上に、多額の資本をもつことはエグジット時の選択肢を狭めることになる。資本が少ないスタートアップの創業者たちは、満足のいくリターンを得られるのであれば、いつでも事業を売却することができる。その一方で、多額の資本を抱えるスタートアップの創業者たちは、エグジットすることで何十億ドルものお金を生み出さなければならず、しかも投下された資本が増えるごとに収益率は逓減していく。

これはVCにとって本当に最良のモデルなのだろうか?

VC業界に浸透する社会通念とは、投資家は勝ち組企業により多くの資金を投資するべきだというものだ。だが、リターンが逓減していく勝ち組への投資金額を抑える一方で、その分を10倍、20倍、30倍のリターンを得る可能性のある他のスタートアップへの投資にまわしたほうが良いのではないか?

ダビデ vs ゴリアテ

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極めて少ないサンプル数ではあるが、2億ドル以上を調達した企業(このサンプルでは9社)とリストの下位にいる同じ数の企業を比べてみよう。結果は驚くべきものだった:

  • 「富める者」は5億6700万ドルを調達し、その6倍となる35億ドルのリターンを生み出した。
  • 「貧しき者」は1290万ドルを調達し、その218倍となる28億ドルのリターンを生み出した。
  • 「富める者」は「貧しき者」の44倍の資金を調達したが、そこから得たリターンは「貧しき者」の1.25倍である。

少ない資本 = 良い企業?

新規上場時のスタートアップの市場価値は重要な指標である。その価値はベンチャー・キャピタルにとってリターンの源泉だからだ。しかし、上場して公開企業となった「富める者」と「貧しき者」を比較してみるのもおもしろい。「貧しき者」はVCから調達した資金によってではなく、徹底した顧客獲得戦略によって企業を成長させなければならない。企業をそのような状況下に置くことは、よりサステイナブルなビジネスを構築することにつながるのだろうか?

IPO以降の「貧しき者」と「富める者」を比べてみた結果、「貧しき者」のパフォーマンスの方がはるかに優れていた:

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極めて少ないサンプル数ではあるが、2億ドル以上を調達した企業(このサンプルでは9社)と、リストの下位にある同じ数の企業を比べてみよう。結果は驚くべきものだった:

  • IPO以降、「貧しき者」の株価は89%上昇した。
  • 同期間における「富める者」の株価は22%しか上昇していない。

この結果に対する私たちの仮説は、必要以上に資本をもつ企業では、クリエイティビティや経営上の規律よりもその豊富な資本に頼ってしまう企業カルチャーが生まれるのではないかというものだ。大きなバランシートをもつ企業はたとえ非効率であっても成長できてしまう。なにか問題が生じた場合、価値の創造というスタートアップのコア・エンジンによって問題を解決するのではなく、豊富な人員と資金によってその問題をカバーしてしまうのだ。一方で、資本をもたない企業は早い段階から難しい決断を迫られ、切らなければいつまでも残ってしまう経営のムダを省こうとする。「貧しき者」がもつ、効率性を追求する精神はやがて高いパフォーマンスを生み出す企業カルチャーとなる。効率的な経営の仕方を知らない「富める者」が同様の企業カルチャーを育てあげるのは困難だろう。

これに対する主な反論として、「富める者」はIPOの時点ですでに高いバリュエーションをもっており、しかもそのバリュエーションは公開市場の投資家によってではなく、非公開市場の投資家によって決められたものだというものがある。この反論は正しいかもしれないが、起業家やVCはこの反論自体が示唆していることを考慮しておかなければならない。つまり、IPO以前から多額の資本を抱えるユニコーン企業に対して、公開市場の投資家は相当な割引率を適応しているということだ。

正の相関があるべきではないのか?

この調査結果がどれだけ驚くべきものなのか、深呼吸してもう一度認識する必要がある。VC業界で広く信じられている仮説とは、最良のシナリオにおいては、より多くの資金を投入すれば企業の成長をより加速させることができるというものだ。真の勝ち組企業には「過剰な資本」という言葉など存在しないと主張する人もいるだろう。結局そのような企業は投下された資本を再投資して、彼らの企業エンジンをさらに加速することができるという主張だ。企業に資本が注入されることで、ビジネスの原動力である人材やR&Dなどへの投資が可能になる。直感に従えば「富める者」が「貧しき者」よりも有利な立場にあると考えるのは当然のことだ。

もしそれが本当だとすれば、資本量と成長との間にある正の相関をこのレポートで示し、その相関を引き起こす要因となっているのがVC業界なのだろうという推測を立てていてもおかしくはない。言い換えれば、成功する企業は多額の資金調達がしやすい企業であるということを考慮に入れながら(原因と結果の関係が不明瞭な相関関係)、多額の資本が果たして本当に成功を引き起こしているのかという因果関係について考察するのがこのレポートの目的だっただろう。

驚くべきことに、データはその正の相関が存在することを示してはいない。パフォーマンスが優れている企業ほど多額の資金を調達しやすいにもかかわらず、パフォーマンスと資金の調達額とのあいだに正の相関は見られなかったのだ。

数社の例外を除き、多額の資金を調達をしたからといって高いパフォーマンスを発揮するわけではなく、IPO以降の株価のパフォーマンスを比べてみると、実際には多額の資本をもつ企業のパフォーマンスの方が悪い事ことが分かった。確かに、VCは「異常値」を探しだすビジネスであり、ボラティリティを前提とする職業だ。しかし、「富める者」が「貧しき者」よりも高いパフォーマンスを出していないところ見ると、たとえ優秀な企業であってもどこかの時点で投下資本に対するリターンが逓減してしまうことが分かる。データが示すのは、VCがリターンが逓減していく分岐点を知るのは難しいということだ。VC業界に伝わる格言のなかに、毎年多くのスタートアップが誕生するなかで、本当に重要なのはそのうちの15社だけだという格言がある。資金を企業に投入することがVCの仕事だとしよう。そのうえでVCの格言が本当に正しいのか調べてみると、実際にはその「本当に重要な企業」は過去5年間においてたったの2社しか存在しなかったことが分かる。勝ち目のない戦いだ。

企業買収の場合はどうか?

データを見てみると、時価総額上位20社のなかで資金調達額が1億2500万ドル以下の企業は15社だった。(この計算にはWayfairのデータも含まれている。同社は創業後10年間は資金調達を実施しておらず、どちらかというとレーター・ステージにおけるプライベート・エクイティ投資に近い形で資金を調達している)。Four、Atlassian、shutterstock、Textura、SkullCandyにいたっては資金調達をまったく実施していない。SplunkとPalo Alto Networksの調達金額を合計すると約1億500万ドルであり、この2社の時価総額の合計は約200億ドルだ。GrouponとZyngaは1億ドル以上もの資金何度も調達しており、この2社の調達金額を合計すると約20億ドルにもなる一方で、時価総額の合計は50億ドル以下だ。

この分析が不完全なものであることは承知している。2015年に上場した企業のなかには上場後1年未満の企業もおり、1年分の決算資料がまだ出揃っていない企業もある。また、たとえVCマネーを豊富にもつ企業であったとしても、もっと長期的な目線で見れば高いパフォーマンスをあげるという可能性もある。それでも、このデータはVCと起業家に重要な示唆を与えるものだ。ユニコーンの時代には時代遅れのことを言うようだが、5000万ドルかそれ以下の投資で何十億ドル規模の公開企業を生み出せる可能性はとても高く、そして恐らくはそれが賢いVC投資のあり方なのだろう。

資金調達額は虚栄の指標

製品戦略、マーケティング戦略、人事戦略などと同じように、資金調達は企業の戦略的なオプションの一つである。それゆえ、資金調達を行うべきなのかどうか、事前に慎重な検討を重ねる必要がある。だが残念ながら、起業家は日和見的に資金調達を実施する傾向があり、さらに悪いことに、彼らのプライドや間違ったバリデーションを理由に資金調達が実施されることもある。

経営が順調であれば、資金は勝手に近づいてくる。資金調達ができるということは喜ばしいことであるし、大きなバランスシートを持つことは時として良いことだ。しかし、それがエグジット時の選択肢を狭めてしまうのも事実だ。企業とって資本とは、最大の制約でもなければ、最大のチャンスでもないのだ。彼らにとって何よりも悪いニュースなのは、バランスシートが企業の長期的なパフォーマンスを支えるのには限界があるとデータが証明していることだ。データをよく見てみると、多額の資金を調達してきた「富める者」のパフォーマンスが悪いことは確かだが、それでも現存するユニコーン企業は彼ら以上の資本を抱えていることが分かる。「富める者(データ中の時価総額上位20社)」の非公開市場での資金調達額の中央値は1億9300万ドルだった一方で、ユニコーン企業2億8400万ドルだ。しかも、ユニコーン企業は非公開企業であることから上場するまでにさらなる資金調達があってもおかしくはない。

私たちは企業に自給自足を勧めているわけでもなければ、のろのろとした成長を奨励しているわけではない。VCからの資金の申し出には「ただNOと言っておけ」と主張しているわけでもない。だって、私たちもVCなのだから。資金調達をまったく実施しなくても成功を収めた企業がいることは確かだが、それはとても珍しいケースだ。誰にも頼らずにスタートアップを創りあげたからといってボーナスポイントが貰えるわけではない。

起業家はみな同じように野心をもって企業を立ち上げ、みな同じように成功を渇望している。それは「貧しき者」も「富める者」も同じだ。「貧しき者」はただ効率的に事業を運営してきただけだ。何十億ドル規模のグローバル企業をつくりあげるために「貧しき者」がとったリスクは「富める者」よりも非常に少なく、かつ企業の持ち分も多い。この調査によって新たに分かったのは、資本の制約は企業に悪い影響を与えるわけでなく、逆に良い影響を与えるということなのだ。

これはVCに対する宣戦布告ではない。起業家への祝辞なのだ。

かつて、人々はゼロから何かを創り出すという起業家精神の神秘性に魅了されていた。しかし今では、まるで銀行のようにVCから多額の資金を調達する起業家が賞賛される時代となった。この状況は健全ではなく、変えていく必要があると私たちは思う。スタートアップ市場に大量の資金が流れ込んでいる一方、起業家が成功するために多額の資金を調達する必要はなく、少ない資本がより良いパフォーマンスにつながることが調査結果から明らかになった。それでも、今日の起業家の多くはそれとは逆のアプローチを取ろうとしているのだ。

私たちが批判しているのはVCマネーそのものではなく、VCマネーの非効率な使い方である。VCは多くのスタートアップにとって成功の原動力ではあるが、追加的に多額の資金を調達することを正当化できることはほとんどない。薬と同じように、VCマネーも服用すべき時と場合があり、それが持つ副作用には注意する必要がある。

私たちのポートフォリオには、大きな資本をもつ「富める者」も、ガソリンの匂いだけでエンジンを動かしているのかと思うほど効率的な「貧しき者」もいる。私たちが彼らに与えるアドバイスは同じだ。もし、追加の資金調達が不可能で、銀行口座に残っている資金が最後の資金だとしたら、あなたはどのように経営の仕方を変えるべきか?この答えまでたどり着くことができたとすれば、億万長者への入口はすぐそこかもしれない。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

 

なぜシリコンバレーのトップ投資家たちは今、ラテンアメリカに投資するのか?

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ベンチャー〔編集部〕Julie Ruvoloは元TechCrunchライターで、現在はLatin American Private Equity and Venture Capital Associationの論説主任を務めている。

ラテンアメリカは、今地球上で最も見過ごされている市場かもしれない。

ラテンアメリカのベンチャー市場規模はインドや中国には及ばない。ウォールストリートジャーナルによれば、2016年前半の中国における新規ベンチャーキャピタルファンドは118億ドル(14%減)に上るのに対し、ラテンアメリカでは2億1800万ドルだった。「真のスタートアップ」となるには10億を超えるユーザーが必要だと考える投資家たちは、同地域の6億人という人口規模も見落としている。

しかしAndreessen Horowitz(コロンビア)、Founders Fund、Sequoia Capital(ブラジル)、QED(メキシコおよびブラジル)からの初投資によって、その様相は変わりつつある。

自分はここ数年、TechCrunch向けにラテンアメリカでの投資について書いてきた。VivaRealPSafeComparaOnlineDescomplicaなどのスタートアップのラウンドについて取り上げたこともある。また、幅広く成功中のMercadoLibreが設立した「KaszeK Ventures」や、その名のとおりRedpointとe.Venturesのジョイントベンチャーである「Redpoint e.Ventures」のようなラテンアメリカ地域の主要なローカル投資家を取材したこともある。

ローカル投資家の視点から見た場合、ラテンアメリカにおける機会には次のようなものがあるだろう。

  • インターネット人口は3億人から6億人へと倍増する見込み。
  • 人口の半数が銀行システムを利用していない(たとえばメキシコではわずか15%しかクレジットカードを所持していない)。
  • 人々のほとんどが安価なAndroid経由でオンラインに接続している。

注目に値するのはブラジルで、その人口2億人のうち、半数しかオンラインにいないにもかかわらず、すでに主要ソーシャルプラットフォームで世界2位または3位を占めている事実だ。また、データよっては、ブラジル人は(不思議なことになぜかOrkutに端を発して)世界のどの国民よりもオンラインで時間を過ごしているという。

ではベンチャーに関するデータはどうだろうか。ベンチャーキャピタルによる投資はこの5年間で着実な増加をみせている。2015年には過去最高となり、総額5億9400万ドル、182件以上の取引があった。ブラジルは経済的・政治的危機にもかかわらず、調達額と投資額の点でラテンアメリカのベンチャー市場ではトッププレイヤーだ。

Latin American Private Equity and Venture Capital Association(LAVCA)による年半データによると、ラテンアメリカでのベンチャーキャピタル取引は前年比で46パーセント増加したという(ちなみにLAVCAは筆者が勤務するOmidyar Networkがサポートする非営利団体だ)。

アメリカ国境よりも南では「大したことは起きていない」と思っているあなたのために、以下に自分が気づいた投資トレンドをいくつか紹介しよう。

シリコンバレーのトップ企業がラテンアメリカで投資を始めた

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ちょうど今年、Andreessen Horowitzがコロンビアの食料品宅配サービスRappiに、ラテンアメリカで初めての投資を行った。

Founders Fundもラテンアメリカでデビューを飾った。投資先は弁護士マッチングプラットフォームのJusbrasilと、フィンテック関連のスタートアップNubankだ。Nubankは昨年にかけてFounders Fund、Sequoia Capital(同キャピタル初のブラジルへの投資)、Tiger Global、KaszeK Ventures、QED Investorsから8000万ドルを調達し、さらに今年に入ってゴールドマンサックスによる5200万ドルの債務投資も受けた。

またゴールドマンサックスは今年、ブラジルの物流系スタートアップCargoXに対する1000万ドルの投資も率いた。その際にはValor Capitalと、Uberの共同設立者Oscar Salazarの参加があった。

メキシコではAccel PartnersとQED Investorsが初めての投資を行った。Accelは同国の食料品ショッピングサービスCornershopへのシリーズAで670万ドルを出資したのだ。このラウンドはラテンアメリカで最もアクティブなベンチャーキャピタルの1つ、ALLVPが率いた。QEDはKaszeK、Quona Capital、Accion Frontier Inclusion Fund、Jaguar Ventures(メキシコの投資会社)とともに、融資プラットフォームKonfioに向けた800万ドルのシリーズAに参加した。

メキシコは2015年、資金調達で初めてブラジルを追い抜いた

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2016年上半期には、メキシコの資金調達件数はラテンアメリカでトップとなった。取引数は47件(2015年上半期と比較して4.2倍)で、政府機関であるFondo de FondosとNational Institute of the Entrepreneur(INADEM)がここ数年で提供した資本によって活気づいたところが大きい。

(ちなみに、ブラジルにおけるベンチャーキャピタルのエコシステムも、BNDESFINEPからの政府出資で活性化した経緯がある。また、多数国間投資ファンドFOMINのSusana Garcia-Roblesが、ラテンアメリカ地域における70ファンド以上で個人的にアンカー投資を率いているのも注目に値する。)

今のところラテンアメリカのベンチャー投資ではフィンテックが優勢

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IT関連の投資では、フィンテックが投資額面で2015年には29パーセント、2016年上半期では40 パーセントを占めた。メキシコでは前述のKonfioに加えて、同じく融資プラットフォームのKueskiがCrunchFund、Rise Capital、Variv Capitalなどから1000万ドルを調達した(さらに2500万ドルの借入もあり)。ブラジルではIFCが1500万ドルを調達したGuiaBolsoのシリーズCを率い、KaszeK Ventures、Ribbit Capital、QED Investorsが名を連ねた。興味深いのは、ラテンアメリカでは人口の半数が銀行サービスを利用していないため、ほとんどすべてのフィンテック系スタートアップは直接的、あるいはそうと意図せずとも、市民の金融サービスへのインクルージョンに影響していると言える点だ。

MonsantoやQualcomm、BASFによる大規模投資で、アグテックもヒートアップ中

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ブラジルは、アメリカに次いで世界第2位の農業ビジネス市場だが、ラテンアメリカにおけるアグテックは全くといっていいほど注目されておらず、2011年以降は同地域におけるベンチャー投資の1パーセント以下しか占めていなかった。しかしこれも変わりつつあるようだ。Monsantoが、ブラジルのアグテックファンドBR Startupsに最大9200万ドルを投資することになった。このファンドはMicrosoftがQualcomm Venturesとの協力のもと管理しているものだ。

またQualcomm Venturesは、ブラジルで200万件以上あるすべての農場にドローン1機を配置するプログラムをローンチした。さらにドイツの大手殺虫剤メーカーBASFも、アグテックアクセラレーターのAgrostartを先頃ローンチしたばかりだ。

買収に精を出すブラジルのモバイル複合企業Movile

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ラテンアメリカ関連のデジタルM&A取引については、公に入手可能なデータが十分とはいえないが(これについては現在改善中だ)、現在最も活発に買収活動を行っているのはMovileのようだ。

Movileの子会社で、ラテンアメリカでオンデマンド式フードデリバリーの先陣を切るスタートアップのiFoodは、シリーズFで調達したばかりの3000万ドルでSpoonRocketを買収した。これは過去2年以内で15件目の買収にあたる。

また、メキシコではMovileのオンデマンド式デリバリー・配送サービスのRappidoが、ブラジルでのライバル会社99Motosを合併し、ますます勢いを増している。

注目の集まるアルゼンチン

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新たに選出されたマウリシオ・マクリが大統領となったアルゼンチンでは、起業を促そうと構造改革が進行中だ。

マクリ大統領とNational Secretary of Entrepreneurship(起業庁)長官のMariano Mayerは、起業家精神と新規企業設立の促進を目的とした一連の法案を発表した。このLey del Emprendedor(起業家法)では、起業家はオンラインから24時間かからずに登記して会社を設立できるようになる。Ley de Sociedades de Beneficio de Interés Colectivo(集団的利益に関する会社法)は、持続可能な環境的・社会的影響について定義し、ビジネスを承認する法律としてはラテンアメリカ地域で初めてのものとなる。

加えて、新たに10件のファンドを設立して起業家が資本にアクセスできるようにする計画(このうち3件は今年末までにそれぞれ3000万ドルを調達する予定)や、クラウドファンディングの許可に関する法案も提出予定となっている。これと似た企業の新設を後押しするための法案プロジェクトは、メキシコシティとブラジルでも進行中だ。

<筆者付記>ラテンアメリカのベンチャー資金調達や投資データ、ローカルおよび世界で最もアクティブな投資家と最大規模の取引などについては、LAVCA発行の5年間の動向レポートをお読みいただきたい。最新のベンチャーキャピタル取引をフォローするには、同じくLAVCAが隔週発行するLatAm Venture Bulletinの定期購読をおすすめする。

 

画像提供:LEIRIS202/FLICKRCC BY 2.0ライセンス)

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(翻訳:Ayako Teranishi / website

ファンドレイジングに成功したスタートアップ創業者の出身大学は?

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【編集部注】著者のJoanna GlasnerCrunchBaseの記者である。

特定の大学が資金を得てスタートアップを起業する人材を多く輩出することは、良く知られている。これらの学校はある種のクオリティを共有している:大学の威信、大規模なSTEMプログラム、研究の技量、そして投資家たちの資金源が集中する場所の近隣にあることなどだ。

CrunchBase内で私たちは、そのような大学間の記録を追跡するための定量化を行ってみた。まず、米国のトップ研究大学のリストから開始した。2016年のファンディングデータと所属大学のクロスレファレンスを使って、どの大学機関が、シードやVCによって資金調達を果たしたスタートアップの創業者(卒業生、在学生)を、最も多く輩出したのかを決定した。

結果、資金調達を受けたスタートアップ創業者の輩出数としてスタンフォード大が圧倒的なリーダーとして示された。今年ここまでの実績は225人であり、Crunchbase Pro検索によれば、他のどの大学よりも遥かに多い。MITは第2位で、少なくとも145人を輩出、そのあとに続くのがカリフォルニア大学バークレー校ハーバード大学 だ。

以下に示したのがトップ10の比較である。

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高額の資金調達を果たしたスタートアップの創業者の出身大学、という観点で見てもランキングはあまり変化しなかった。

私たちは少なくとも1000万ドルの調達を果たした2012年以降のスタートアップを調べてみた。スタンフォード大学は、ここでも依然トップだった。同大学に所属していた創業者の会社は420社に及ぶ。次はMITの269、ハーバード大学の251、そしてカリフォルニア大学バークレー校の239と続いている。

しかしほとんどの資本をプライベートに調達している企業の創設者の出身大学を見ると、こうした予測は難しくなる。CrunchBaseのUnicorn Leaderboardメンバーの、米国における最も価値ある5社のCEOの出身大学を見てみた結果、過去に大きなスタートアップを創業した卒業生がいることで知られた大学に通っていたことは、ある程度助けにはなるものの、決して必須条件ではないことがわかった。

最も価値ある米国のプライベートなベンチャー支援5社とは以下のものだ:Uber、Airbnb、Palantir、Snapchat、およびWeWork。それぞれの創業者CEOの出身大学は、UCLA、ロードアイランドスクールオブデザイン、スタンフォード、スタンフォード、そしてバルークカレッジである。

[ 原文へ ]
(翻訳:Sako)

Genuine Startupsが世界的デザインコンサルのIDEOとタッグ、新VC「D4V」を設立

左からトム・ケリー氏、高野真氏、谷家衛氏

左からトム・ケリー氏、高野真氏、谷家衛氏

MOVIDA JAPANの投資部門を引き継ぐかたちで2014年にスタートしたベンチャーキャピタルのGenuine Startups。MOVIDA時代からスタートアップ投資を担当していた伊藤健吾氏に加え、元ピムコジャパン取締役社長でアトミックスメディア代表取締役CEO・フォーブスジャパン発行人兼編集長の高野真氏、あすかアセットマネジメント取締役会長の谷家衛氏の3人体制で投資を進めていた同社が、世界的なデザインコンサルティング会社であるIDEOと組み、新たなベンチャーキャピタルを設立することを発表した。

Genuine StartupsとIDEOで設立するのは「D4V(Design for Venturesの略)合同会社」。出資比率はGenuine Startupsが60%に対して、IDEOが40%となる。会長にはIDEO共同創業者のトム・ケリー氏が、CEOには高野真氏が、COOには伊藤健吾氏がそれぞれ就任。ファンディングパートナーは前述の3人に加えて谷家衛氏、IDEOディレクターの計5人。これに加えて、ソニー元CEOの出井伸之氏、ハリウッド俳優でプロデューサーのマシ・オカ氏がエグゼクティブアドバイザーとなる。

D4Vでは2017年3月をめどに日本の事業会社や金融機関をLPとした50億円規模のファンドを組成する予定。最終的には米国など海外LPを含むファンドの組成も視野に入れる。なおGenuine Startupsが組成していた2号ファンドは、D4Vの新ファンドに移管することになる。

投資対象とするは、国内・海外の両方の市場にインパクトを与えるアーリーステージのスタートアップ。これまでスタートアップ投資に関わってきた伊藤氏に加え、金融系のバックグラウンドを持つ高野氏や谷家氏が中心となって大企業とスタートアップの橋渡しを支援。また一方では、IDEOがデザイン思考やベンチャーデザインに関する知見を提供するという。

「4つのエレメント(ここではGenuineの3人のパートナーとIDEOを指す)は全て違いを持っている。スタートアップ投資のネットワークがあるのが伊藤。谷家さんエンジェル投資家としていくつかの事例を成功しており、アントレプレナーの間では『ビッグブラザー』的な存在。私は2年前にForbes(日本版のフォーブスジャパン)を立ち上げるまでは金融畑で、そのコネクションがある。これにIDEOが入ることでグローバル展開、デザイン思考といったものが実現できる」(高野氏)

だが、バズワードになっている「デザイン思考」をスタートアップに無理矢理持ち込もうとしたプロジェクトではないのだそう。「本質は色んなバックグラウンドの人が一緒に作っていくこと。人が共感するサービスやビジネスを作る。IDEOにはそういった経験がある」(野々村氏)

では、世界的なデザインコンサルであるIDEOがどうして彼らと組み、日本のスタートアップの支援に乗り出すのか?トム・ケリー氏は次のように語る。

「日本といえば——多少の変化はあるにしても——『大企業が成功している国』と思っていた。だが、(スタートアップ向けイベントの)Slush Asiaに参加してその考え方は大きく変わった。大企業で働く人たちだけでなく、起業する、起業を継続するという人が集まっていた。もしかしたらスタートアップに投資する完璧なタイミングが整っているのではないかと考えるようになった。そうと思っているところでD4Vの提案を頂いた。IDEOは世界で9カ所にオフィスを構えてコンサルサービスを提供してきた。私たちのビジネスも多様化していかなければならないと考えていた時期だった」

またケリー氏は、創業期のアップル社を例に日本の状況を語る。

「日本はジョブズ(スティーブ・ジョブズ)がHP(Hewlett Packard)で働いていたウォズ(スティーブ・ウォズニアック)に出会った状況に近い。ジョブズについては知られているが、アップルを世界に羽ばたくまで育て上げたのはウォズのテクノロジーの知識。日本の大企業にはウォズが埋もれているが、それを開放していかないと行けない。堅牢なベンチャーが育つ環境作りを促進したい」

デザインコンサルティングファームとして知られるIDEOだが、クライアントとしてスタートアップを支援してきただけでなく、実はスタートアップとの協業プログラムを展開するほか、スピンアウトを前提とした新規事業を社内で立ち上げるなどしてきている。例えばIDEOと組んで生まれた「PillPack」は毎日飲む薬を1回分ごとに個装して提供することで、飲み忘れを防げるというプロダクトだ。また「Omada Health」はIDEO社内で立ち上がったプロジェクトで、糖尿病予防プログラムなどを提供している。

ヤフーとYJキャピタル、テック領域特化の新ファンド「YJテック」を組成

ヤフーと100%子会社であるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のYJキャピタルがテック領域での投資を強化する。両社は7月27日、ビッグデータやAI、サイバーセキュリティ分野特化の投資ファンド「YJテック投資事業組合(YJテック)」を5月に組成。あわせて国内外2つのファンドへのLP出資を決定したことを発表した。

YJテックは2016年5月末時点で35億円規模(持分割合ではヤフー98.6%、YJキャピタル1.4%)の資金を運用する投資ファンド。米国やイスラエル、日本などで最先端技術を保有するスタートアップ企業への投資を行い、最先端の知見や技術トレンドをYahoo! JAPANが提供するサービスに活用していくことを目指すという。

ファンド組成にあたり、ヤフーコーポレート統括本部企業戦略本部総合事業企画室長/データ&サイエンスソリューション統括本部D&S事業開発室長を兼任する谷口博基氏が専任パートナーに就任する。これに加えて、Yahoo! JAPANの技術領域の3人の執行役員が助言を行う。

またYJテックでは米Data Tribeおよび慶應イノベーション・イニシアティブの両ファンドに対してのLP出資を決定したとしている。Data Tribeはサイバーセキュリティ、アナリティクス、ビッグデータ領域のスタートアップに特化した投資を実施している。また慶應イノベーション・イニシアティブはグリー共同創業者で元副社長の山岸広太郎氏が手がける7月設立の慶應義塾大学初のファンド。IT融合領域、デジタルヘルス、バイオインフォマティクス、再生医療の4分野を中心にして、大学の研究成果を活用したスタートアップへの投資を行うとしている。

ベンチャーキャピタルがみつめる中国のフィットネスブーム

This photo taken on June 19, 2016 shows Chinese enthusiasts practicing yoga at Futian sports park in Shenzhen, south China's Guangdong province.  
June 21 marks the International Yoga Day. / AFP / STR / China OUT        (Photo credit should read STR/AFP/Getty Images)

【編集部注】本記事はJenny Lee氏とHaojun Li氏によって共同執筆されたもの。Lee氏はGGV Capitalのマネージングパートナー。Li氏は上海を拠点に活動する、GGV Capitalのヴァイスプレジデント。

過去10年間で中国経済が急成長を遂げる中、無数の中産階級が誕生した。そして中国人はより豊かになっているだけでなく、より健康になっているのだ。どうやら中国ではフィットネスブームが巻き起こっており、ベンチャー投資家にとっては新興の健康系テック企業に投資する一世一代のチャンスだと言える。

健康にこだわる若者文化

とりわけ、18〜35歳の若者にあたる中国の巨大なミレニアル世代の人口(3億8500万人超)においては、記録的な数の人たちが、ジム通いやマラソンへの挑戦、エクササイズクラスへの参加やスポーツへの参加・観戦を行っている。彼らは、「新しい」資本主義下の中国で育った最初の世代で、親が体験したよりよっぽど多くのものを自分たちの人生に期待している

マズローの欲求段階説の通り、彼らは、共産主義の支配下で物不足に苦しんでいたこれまでの世代の人たちとは違い、住む場所と食べるものがあるという簡素な生活では満足できないのだ。高学歴で、インターネットに精通し、海外旅行を体験している中国の若者の欲求は、健康面を含めてとどまるところを知らない。特に若い女性は、健康的で引き締まった体型を保つことに必死で、そのスリムな体の写真をソーシャルメディア上で公開している。

中国の若者のフィットネスへの熱中具合は、中国のジム・フィットネスクラブ関連企業の売上が過去5年間で倍増し、今年はその額が50億ドル以上に達するという調査会社IBIS Worldの予測からも見て取れる。アメリカにおける同業界の市場規模である約250億ドルには届かないものの、中国の健康・フィットネス業界の方がずっと若く、成長スピードも桁違いだ。

「たった数年前までは、ウエイトリフティングに汗を流したり、きついエクササイズに息を切らす中国人女性はなかなかいませんでした」と中国のフィットネスブームに関する最近のWall Street Journalの記事には書かれている。それが今では、Nike、Under Armour、AdidasそしてThe North Faceといったブランドが、猛烈な勢いで中国に出店しその売上を伸ばしている。

多岐に渡る投資チャンス

中国で何かが流行すると、その人口サイズの影響から参加者は膨大な数になる。これが、ベンチャーキャピタルが特に3つのカテゴリーのスポーツ・フィットネススタートアップに強気の投資を行っている背景だ。

フィットネス・ヘルスアプリ。この大きなカテゴリーには、健康アプリや、フィットネストラッカー、健康に関する情報やコミュニティなど、モバイル主導の消費者向け健康プラットフォームが含まれる。これらのアプリは、特に2億8000万人に及ぶ中国の15〜25歳のスマートフォンと共に育った世代に人気だ。中国の若者は、ファッションに高い関心を寄せており、見た目を良くし、健康だと感じたいという一心からヨガ、ピラティス、マラソンなど世界のフィットネスの流行を追っている。

中国のミレニアル世代は、より健康で幸せになるための新たな手段を模索し続けるだろう。

彼らはアプリを使ってフィットネスのビデオを見て、グループエクササイズに参加し、進捗をトラッキングしながら食べるものを管理するのだ。特にゲームのようにゴール設定がされ、フィットネスを楽しめるアプリが中国のミレニアル世代の間で人気を博している。このカテゴリーには、ソーシャルエクササイズアプリのKeep(GGVの投資先)、Daily Yoga、ランニングアプリのCodoonやランニンググループの検索・スケジューリングができるYuepaoquanが含まれる。中国の若者は、段々とスポーツ鑑賞にも興味を持ちだしており、アプリを利用してお気に入りのチームの情報を追ったり、コメントしたりしている。

スマートフィットネスとスポーツデバイス。歩数や消費カロリーを計測するウェアラブル端末からゴルフスウィングやサッカーのキックフォームを向上させるためのデバイスまで、中国の消費者はフィットネスに参加するにあたって自分たちのデータを集めるのが大好きだ。投資家にとっては、このようなデバイスを開発する企業に投資することは「データ遊び」の一環だと言える。

デバイスを開発する企業が、集められたデータを使って健康や節約、減量といったユーザーにとってのゴールを達成する方法を解明できれば、「ガジェット」企業の枠を飛び出し、消費者・市場調査会社にその姿を変えることとなる。中国でこの業界を引っ張っているのが、FirbitMi BandMisfit、そしてNike+といったアメリカ・中国企業だ。

大自然と自由。今日の中国の若者は、自由の精神を信じている。彼らは、車や家を買うことで自由が奪われるのを恐れ、友人や趣味やキャリアにおける選択の自由を求めているのだ。この精神が、中国の若者のスポーツやアウトドアレクリエーションへの参加の仕方にも影響を与えている。

人々を「外出させる」のを促進するようなサービスを開発するテックスタートアップの市場は今後成長が期待できる。参加可能な地元のサッカーやバスケットのリーグを探すアプリや、短期集中トレーニングセッションの参加者をまとめるアプリがその例として挙げられる。

たった30年前の中国の若者は、十分な食料配給チケットがもらえるかどうかを心配していた。

さらに、このカテゴリーには最先端のテック企業も含まれている。GGVの投資先のひとつであるNiuは、中国都市部のミレニアル世代に人気の電動スクーターを製造しており、同社のスクーターは、入り組んだ北京の街中を移動するだけでなく、スモッグやストレスが溢れる環境から逃れるのにも使われている。週末には、山やビーチへNiuのスクーターを走らせる人の姿を見かけることがよくある。ハイキングやロッククライミング、サーフィンは全て、中国の若い消費者がどうしても体験したいと感じているスポーツなのだ。同様に台湾企業のGogoroは、スマートスクーターと専用のバッテリー充電インフラを販売している。

北京の街中に立ち並ぶジムやピラティススタジオ、さらにはThe North Faceのジャケットを着て山道でハイキングを楽しむ若者のグループを見ていると、たった30年前の中国の若者は、新しいLululemonのウェアを着れるくらい体が引き締まっているかよりも、十分な食料配給チケットがもらえるかどうかを心配していたという事実を忘れそうになる。

しかし、中国は驚くべきスピードで変化を遂げており、今日の中国の若者は他の先進国の若者となんら変わりなく、自己実現や個人の成功を求めているのだ。中国のミレニアル世代が、より健康で幸せになるための新たな手段を模索し続ける中で、投資家は中国のフィットネスブームが今後持続するだけでなく加速していくことをハッキリと見込んでいる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ベンチャーキャピタルのパイオニア、KPCBの共同ファウンダー、Tom Perkins、84歳で逝去

2016-06-10-tom-perkins

シリコンバレーの著名なベンチャーキャピタル、, Kleiner Perkins Caufield & Byers(KPCB)の共同創業者であるトーマス・パーキンス(Thomas Perkins)が84歳で亡くなった。死因は自然死とされている。

投資家となる以前、PerkinsはUniversity Labsと呼ばれるレーザー製品の企業を創業した。またHewlett-Packard(その後のHP)のコンピューター事業部の初代のゼネラル・マネージャーを務めた。1972年にPerkinsはEugene Kleinerと共にKleiner Perkinsを創立し、シリコンバレーにベンチャーキャピタルの基礎を築いた。

KPCBの共同創業者としてPerkinsは数多くの投資先企業の取締役を務めた。その中にはCompaq、Genentech、News Corpなどの有名企業が含まれる。PerkinsはHPの取締役だったが、2006年に内部情報がメディアにリークしたことに関連して取締役会が漏洩元を調査することに反対して辞任している

テクノロジー分野以外でもPerkinsは回想録小説を執筆し、Maltese Falcon〔マルタの鷹〕と名付けられた巨大ヨットを建造した。一方、近年、 Wall Street Journalに寄稿した公開状が「成功した1%への憎しみのトレンド」をナチス・ドイツに例えた点で批判を集めた。 公開状はもともとPerkinsの元妻で作家のDanielle Steeleに関する記事でのネガティブな記述への反論だった)。

2013年のTechCrunch Disrupt SFカンファレンスでPerkinsはSequoia Capitalのファウンダーー、Don Valentineと対談し、HPの共同創業者、David Packardを偉大なメンターだったと賞賛した。また投資家としての経歴における成功(Genentech投資)、失敗( Appleへの投資の機会を見過ごした)についても語った。PerkinsはまたKPCBがTechCrunchの親会社となったAOLを支援していることにも触れた。

「最良の投資方法というのはどうものかについては常に議論がある。人間に投資すべきか、アイディアに投資すべきか? こうした議論は永遠に続けられるだろう。しかし私は良いアイディアに投資する。悪い人間は良いアイディアを思いつくことはないと思うからだ。これは単純な法則だ」とPerkinsは語った。

〔日本版〕KPCBKの共同ファウンダー、Frank CaufieldとBrook Byersのメッセージについては原文を参照。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

KPCBに加わって半年たったアリエル・ザッカーバーグにVCになった感想を聞いた

2016-02-16-ariellezuckerberg

昨年11月のアリエル・ザッカーバーグがベンチャーキャピタリストになるというTechCrunch記事が出た後、アリエルはKleiner Perkins Caufield & Byersに加わった。それから半年たったので、アリエルを私のポッドキャストに招いてVCの世界に入った感想を話してもらったら面白いだろうと考えた。

さいわい、アリエルはベンチャーキャピタリストになるにあたってどこがもっとも困難だったか、過去の経験がどのように役立ったかを実に率直に語ってくれた。アリエルはKPCBに加わる以前、Googleに勤務しており、次いでスマートフォン・アプリのHuminに参加し、エンジェル投資やプロダクト・マネージャーを務めた。

われわれの会話は多岐にわたったが、その中には兄のマーク・ザッカーバーグが今後はあらゆるプロダクトで人工知能が利用されるようになるだろうちう信念や、偉大なファウンダーとなるにあたって何が必要なのかベンチャーの世界に入ろうとする人間が地位を確立するにはどのようにすべきか、などが含まれた。アリエルは月曜朝のKPCBの全体会議で自己紹介としてムーンウォークをアカペラで歌ったことも話してくれた。

〔日本版〕アリエル・ザッカーバーグはFacebookのファウンダー、マーク・ザッカーバーグの1番下の妹。記事の筆者のハリー・ステビングズ自身がポッドキャストでアリエルにインタビューしている。ロンドン育ちのため英国風の英語。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

ベンチャーキャピタル革命が始まろうとしている

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編集部記Ross BairdはCrunch Networkのコントリビューターである。Ross BairdはVillage Capitalのファウンダーで執行役員である。

世界中のどのスタートアップの支援企業も業界を覆すような次の「ディスラプトをもたらすトレンド」を探している。そしてついにベンチャーキャピタル業界は、彼ら投資家自身がディスラプトの必要な市場と見なすようになった。

毎週のように「次のドットコムバブル」と危惧されるようになった。Kauffman Foundationは20年に渡り多くの起業家に対しベンチャーキャピタル投資を行ってきた。彼らは「私たちは敵を見つけた。それは自分たちだ」と伝えた。ベンチャーキャピタル業界は古びた割高の市場で、求められる結果を出せない業界なのだろうか?

ベンチャーキャピタルが世界を本当に良くするためには、彼らも投資先の企業のようにイノベーティブでなければならない。私たちVillage Capitalの投稿にも記したように、私たちは何万もの起業家に対して数百の新しい投資アプローチが行われていることを目撃している。そこで私たちはベンチャーキャピタルを良い方向に導く3つの挑戦課題を見て取ることができ、将来に胸を高鳴らせている。

実世界への影響

Economistの特集記事は、シリコンバレーがアメリカの資本主義の中心地になったことを祝うと共に、存続への課題に直面していると示した。「ギークはバブルの中に住み、彼らの帝国は彼らが必死に変えようとしている世界から隔離されている」。多くのテクノロジーを駆使したスタートアップは社会の恵まれた者に関わるものだが、他の何億人、そして何兆ドルにも及ぶ市場を置き去りにしている。

ベンチャーキャピタリストは実世界に影響のある業界を避けている。例えば、食品、健康、教育などだ。これらの業界は資本を大量に必要とし、複雑で、法律と深く関わることが求められるからだ。「健康は難しすぎる」、「教育の販売サイクルは長すぎる」という。

チャンスは平等でなくても、才能はありとあらゆる所にある。

しかし同時に、大多数の人の毎日の生活に影響を与える企業の方が、企業と関わりが深くなる従業員を引き寄せ、カスタマーの気持ちを引きつけることができる。また、ベンチャーキャピタルが避けていることもあり、投資家はより良い評価額を期待できる。実世界に影響を与える事業は、起業家にとっても投資家にとっても望ましいものだ。

ベンチャー投資企業のStellarは最近、Core Innovation CapitalDBL InvestorsOwl Venturesをローンチし、このような分野に他社に先駆けてアプローチしている。金融サービス、食品、教育関連の企業を支援し、結果として強いリターンを生み出している。

また、大手金融機関のBain Capitalがマサチューセッツ州の前州知事のDeval Patrickを採用したことやゴールドマン・サックスが影響度に関する助言を行うImprint Capitalを買収したことから、投資家の事業を底上げするのは、このような実世界に影響を与えるセクターの企業であると考え、優先していることが分かる。

他の地域の台頭

チャンスは平等でなくても、才能はありとあらゆる所にある。アメリカのスタートアップ投資の75%はニューヨーク州、カリフォルニア州とマサチューセッツ州の3つの州に集中している。しかし、先進的な考えを持つ投資家は、世界の至る所で起業家がその地域に素晴らしい企業を構築していると考えている。

AOLのファウンダーであるSteve Caseと彼が立ち上げたRevolutionは、「Rise of the Rest(他地域の台頭)」と呼ぶ取り組みをローンチした。これは見過ごされている地域のスタートアップに焦点を当てる取り組みだ。これまでバスで14の競争力のある都市を巡り、成功が期待されるスタートアップに投資を行ってきた。

アイオワシティのPear Deckという企業はアイオワ州が開発した学生テスト(アイオワ州の基本スキルテスト)を用いて、次世代の学生向けの試験を製作している。ニューオーリンズのGoToInterviewは、ニューオーリンズ州で働く多くの接客スタッフに注目し、最低賃金スタッフを雇用する包括的な方法を構築している。両社のファウンダーは、それぞれが拠点を置く都市の特徴を活かしているのだ。

ベンチャー投資企業が慣例的に中心地と定めている場所以外のスタートアップに投資することで、結果的に投資家により高い評価額をもたらすだろう。また管理コストも低く、大抵の場合成功したスタートアップの周りにコミュニティーが形成される。一般的な投資家が注目していない場所に視野を広げる投資家は有利になるだろう。そして、成功するバランスの取れた経済を構築することもできるだろう。

包括的な起業家精神

起業が世界を変えるなら、それに全員を含めなければならない。しかし残念なことに、投資コミュニティーの大半はそのような視点を持っていない。アメリカのベンチャーキャピタル投資の10%以下しか女性が運営する企業に向かわず、少数民族の企業には3%以下しか回らない。多くの場合これは意図的なことではないが、Y CombinatorのファウンダーであるPaul Grahamはこのことに真摯に向き合い「Mark Zuckerbergに似ている人に騙されやすい」と話している。

Mark Zuckerbergは突出したリーダーだが、次の素晴らしい企業のファウンダーが彼に似ているとは限らない。オースティンを拠点とするStudent Loan Geniusのファウンダーは、ラテン系アメリカ人のTony Aguilarだ。彼は10万ドルの負債を抱え大学を卒業し、スタートアップを始めた。このスタートアップは、雇用主が学生ローンの返済を助ける福利厚生(401Kに似ている)を提供することができるようにする。最初の一年で既に100万人の適格する従業員を獲得している。

素晴らしい起業家が「資金力のある賢い男」を知らない場合はどうしたら良いのだろうか?

何故起業に関するダイバシティーの数字は低迷しているのだろうか?投資家は「パイプラインの問題」と考えている。「資金力のある賢い男(やはり、大抵男性)が企業を発掘し、投資パートナーに対して、その会社との取引が良いものであると説得する企業」に投資するのが一般的な投資戦略であり、ピッチの場合も「知人からの温かい紹介」があるのが好ましいと考えている。しかし、素晴らしい起業家が「資金力のある賢い男」を知らない場合はどうしたら良いのだろうか?

業界や地域、そして経歴に対する無意識の偏見を無くすには異なるアプローチが必要だ。Freada Kapor KleinとMitch Kaporは先日、グローバルに4000万ドルを少数派民族グループに対して投資を行うと発表 した。Gallupは経歴に関わらずリンカーンシティとデトロイトの全ての高校生を対象に起業家向きのスキルがある候補者を探している。Village Capitalでは投資する企業を起業家が互いを評価する方法で決定している。

ベンチャーキャピタルの未来

ベンチャーキャピタルは象徴的な企業を育て、限られた都市において少数の人に多大な価値をもたらした。しかし世界中の起業家は更に統括的でバランスが取れた適切な経済を構築しようとしている。彼らにはそのポテンシャルがあるのだ。

業界、地域、ファウンダーの経歴の先を見据えるベンチャーキャピタリストが私たちの求める経済を構築することになり、そしてその過程でこれまでにない成功を収めるだろう。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter