AIによるダイナミックプライシング活用の電力サービス開始、電気自動車の充電シフト実証実験も

AIによるダイナミックプライシング活用の電力サービス開始、電気自動車の充電シフト実証実験も

デジタルイノベーションで脱炭素化社会の実現を目指すCleanTech(クリーンテック)企業のアークエルテクノロジーズは11月5日、業界初のAIによるダイナミックプライシングを活用した電力サービス「アークエルエナジー」を発表した。AIを活用し、変動する価格で電力を購入できる「DPプラン」、100%クリーンなCO2フリー電気だけを使用した基本料金無料の従量料金プラン「フラットプラン」を用意。両プランともすでに開始済みで、九州エリアより順次全国展開予定。

また、経済産業省・資源エネルギー庁の実証事業「令和2年度 ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業」に採択され、電力卸取引市場の動きによって価格が変動する「ダイナミックプライシング」による電気自動車(EV)の充電シフトに関する実証実験を、11月1日より開始したと明らかにした。

AIによるダイナミックプライシングを活用した電力サービス「アークエルエナジー」

アークエルエナジーは、利用者のニーズに合わせて「DPプラン」(ディーピープラン)と「フラットプラン」というふたつの料金プランからCO2フリーなクリーン電力の購入方法を選べる電力サービス。

DPプランは、AIを活用し、変動する価格で電力を購入できる業界初のダイナミックプライシングを活用したプラン。税別1000円の月額利用料を支払うことで、30分ごとに変動する電気料金を原価で購入可能となる。利用者は、事前にLINEで通知された電気料金を参考に安いタイミングで電気を利用することで、家庭の電気料金を1〜3割節約できるという。AIによるダイナミックプライシングを活用した電力サービス「アークエルエナジー」

AIによるダイナミックプライシングを活用した電力サービス「アークエルエナジー」

電力小売市場では、クリーン電力の供給量が増加する昼の時間帯に電気料金が安くなる傾向にあるため、同サービスが普及し安価な電力の利用を促進することで、クリーン電力の有効活用促進を狙う。

DPプランは、30分ごとに変動する日本電力卸売市場(JEPX)の価格によって電気料金(従量料金の部分)を決定。託送料と電気料金はアークエルテクノロジーズが原価で提供する。また、アプリからマイページを参照することで、EVの充電履歴や料金を確認できる。

料金の概要は、サービス料(月1000円固定)+託送料(kWhあたり固定)+電気料金(kWhあたり変動)の合計(再エネ賦課金は別途発生)となっている。

例えば、一般的な戸建て3人世帯の電気代(九州電力の従量電灯B 40A契約で、毎月556kWh使用の場合)では、毎月約5164円(約35%)節約可能としている。AIによるダイナミックプライシングを活用した電力サービス「アークエルエナジー」AIによるダイナミックプライシングを活用した電力サービス「アークエルエナジー」

フラットプランは、100%クリーンなCO2フリー電気だけを使用。基本料金無料で、使用量に応じて電気料金を支払う従量料金プランとなっている。一般的な電力会社とは異なり、どれだけ電力を使用しても1kWhあたりの単価が変わらないため月々の支払い料金を抑えられる(九州電力管内においては、一律1kWhあたり税込23.3円で提供)。

例えば、一般的な戸建て3人世帯の電気代(九州電力の従量電灯B 40A契約で、毎月556kWh使用の場合)では、毎月約1745円(約11%)節約可能としている。AIによるダイナミックプライシングを活用した電力サービス「アークエルエナジー」

「ダイナミックプライシング」による電気自動車(EV)の充電シフトに関する実証実験

今回の実証実験では、EVやPHV(プラグインハイブリッド自動車)がさらに普及した未来社会に向け、クリーンエネルギーを有効活用した電力供給をどのように実現していくかの検証を行う。令和2年(2020年)9月から九州電力エリアで実証実験を開始し、令和3年度(2020年度)以降は全国に拡大予定。

アークエルテクノロジーズが小売電気事業者として、日本卸電力取引所(JEPX)での取引を活用し、電力市場価格に連動した料金契約サービスを提供。30分ごとに電気料金が変化している中、同社が料金情報をLINEやウェブ上から利用者に通知することで、電気料金が安い時間帯での充電を促進できるとしている。

実証実験における利用者への情報通知は、同社が開発を進めるエッジAIとIoT機器を活用した「充電を最適化するアルゴリズム」をもとにして行う予定。現在、東京大学先端科学技術研究センターと連携し、同センターの特任助教である辻真吾氏を中心とした学術指導のもと、開発を進めている。

また実証実験にともない、同社ではモニターを募集。モニターは、同社開発のIoT機器をEV(ダッシュボード)と自宅(ブレーカー周辺)に設置する。

実証実験で使用する車載器

実証実験で使用する車載器

実証実験で使用する検定なしメーター(自宅/事務所に設置)

実証実験で使用する検定なしメーター(自宅/事務所に設置)

電気料金が安い時間帯の充電とクリーンエネルギーの有効活用

同社は、電気が安い時間帯に充電することがクリーンエネルギーの有効活用となる理由として、再生可能エネルギーの導入が拡大すると、季節・時間帯によっては電気が余る時間帯が出てくる点を指摘。すでに九州では、よく晴れた春と秋に太陽光発電の出力を制御することが多くなっており、2019年は出力制御が48日(一般家庭約年間1万世帯分に相当)発生しているという。「ダイナミックプライシング」による電気自動車(EV)の充電シフトに関する実証実験

発電量が需要量を上回る場合、まず火力発電の出力抑制、揚水発電のくみ上げ運転による需要創出、連系線を活用した他エリアへの送電を行う。それでも解消されない場合、バイオマス発電の出力制御の後、太陽光発電、風力発電の出力制御を実施する。水力・原子力・地熱は「長期固定電源」と呼ばれ、出力の小刻みな調整が技術的に難しく、最後に抑制するという。これを「優先給電ルール」と呼び、手順が法令で定められているそうだ。

電力は日本電力卸取引市場(JEPX)を通じて電力会社間で30分単位で取引されている。九州において太陽光発電の出力制御が行われている時間帯では、その取引価格が急激に下がり、通常5円~7円/kwhのところ0.01円(1銭)/kwhに貼りつく状況が見られるという。

またこの時市場では、電力供給に余裕のある時間帯は取引価格が安く、需給が逼迫している時間帯は取引価格が高いという特徴が見られるとした。これらの理由から、市場価格と連動するダイナミックプライシングによる充電シフトは、クリーンエネルギーの有効活用に寄与すると考えているという。「ダイナミックプライシング」による電気自動車(EV)の充電シフトに関する実証実験

2018年8月設立のアークエルテクノロジーズは、ソーシャルアントレプレナー精神とともに「デジタルイノベーションで脱炭素化社会を実現する」をミッションとして掲げ、福岡・東京の企業を中心に「脱炭素化プラットフォームサービス事業」「DXコンサルティング事業」などのサービスを提供。

脱炭素化社会に向けては、化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトが重要である一方、再生可能エネルギーは変動が大きく余剰になることも多いという課題がある。この解決に向け同社はテクノロジーを活用し、クリーンエネルギーを最適に利用できる社会システムの構築を目指している。

関連記事
フィアット・クライスラーが電動ピックアップトラックRamの市場投入を計画、市場一番乗りを目指す
電気の生産者や空気の「顔の見える化」で社会をアップデートする「みんな電力」が15億円を調達
セダンタイプの電気自動車Lucid Airの普及モデルは実質約736万円で登場
テスラが7人乗りModel Yの生産を11月開始、12月初旬に納車へ
アマゾンがRivianとの提携で初の完全電気自動車を発表、車内にはもちろんAlexa内蔵
フォードがオール電化SUVのMustang Mach-Eの価格を約30万円引き下げ、完全な競争力維持狙う
カリフォルニア州が2035年までに全新車のゼロ・エミッションを義務化

カテゴリー: 人工知能・AI
タグ: アークエルテクノロジーズ環境問題(用語)再生可能エネルギー(用語)電気自動車 / EV(用語)モビリティ日本

クラウド型製品マスターSaaSのLazuliが5000万円を調達、東大の松尾豊氏がAIアドバイザー就任

クラウド型製品マスターSaaSのLazuliが5000万円を調達、東大の松尾豊氏がAIアドバイザー就任クラウド型製品マスターSaaSを開発/提供するLazuli(ラズリ)は11月5日、J-KISS型新株予約権方式による5000万円の資金調達を発表した。引受先はCoral Capitalおよび個人投資家。2020年7月創業以来初の資金調達という。

調達した資金により、エンジニア採用など開発・オペレーション体制の強化を図るとともに、企業とのシステム連携や積極的な実証実験を進めていく。

また、松尾豊氏(東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター / 技術経営戦略学専攻 教授、一般社団法人日本ディープラーニング協会理事長)が同社AIアドバイザーに就任したと明らかにした。同氏より、最新の技術・トレンド、これまで培われてきた経験に基づく研究開発や事業開発における助言、アドバイスを受け、開発・オペレーション体制の構築と、企業との連携を加速する。

Lazuliの萩原静厳CEO/CTOは、DX/AIのスペシャリストとして多くの企業のデータ分析/AI/DXについてコンサルティングを行ってきた中、多くの企業が製品マスターの管理に労力や人員を割いていることが分かったという。

製品マスター管理はデータ活用/DXの基礎となるため、非常に重要であるものの、企業にとっては労働集約的なノンコア業務であり、そこにかかるコストと時間は本来コア業務に割り当てられるべきだと、企業の方からも課題の声をきいてきた。

Lazuliは、世界中の製品情報を整理し、分析・検索・レコメンド・マーケティング・サプライチェーン管理・その他のデジタルソリューションにデータを利用できるようにするSaaSプラットフォーム「Ninja DB」(仮称)の開発と提供を推進。

大企業から個人事業主に至るまで、誰もが容易にデータを利活用でき、DX化を進める際の土台となるよう開発している。Lazuliであれば、膨大な製品数と、AIによる高精度の付加情報にSaaSという形で利用できるという。

Ninja DBは、世界中に存在する製品情報を収集し、同社独自のアルゴリズムによって名寄せし、その特徴を抽出して独自のタグ付けを実施。数多ある製品情報を正規化し、クラウド型の製品マスターとして日々アップデートされ続けるこの巨大なデータベースを通じて、企業のDX活動に様々な価値を提供していく。

関連記事
日本ディープラーニング協会が高専生対象コンテスト開催、最優秀賞の東京高専チームが企業評価額5億円を獲得
東大・松尾研発のAIスタートアップACESと陸上自衛隊がAI技術活用の助言について合意
東大・松尾研発AIスタートアップDeepXが総額16億円の資金調達、建機自動化や工場内作業自動化の事業化加速
本郷発のAIを世界へ、AIスタートアップを支援する「HONGO AI 2019」が始動

カテゴリー: 人工知能・AI
タグ: Lazuli資金調達(用語)日本

インテルが機械学習を管理、構築、自動化するためのプラットフォームcnvrg.ioを買収

Intel(インテル)が、その機械学習とAIの運用基盤を構築するために、スタートアップ企業の買収を続けている。その最新の動きとして、TechCrunchは、Intelがcnvrg.io(コンバージ)を買収したことを確認した。cnvrg.ioは、データサイエンティストが機械学習モデルを構築して実行するためのプラットフォームを、開発し運用している企業だ。このプラットフォームは複数のモデルを訓練し、追跡し、比較し、レコメンデーションなどを行うために使うことができる。

Intelは、私たちからの買収の確認に手短に答え、広報担当者は「私たちは確かにcnvrgを買収しました」と回答した。「cnvrgはインテルの独立系企業となり、今後も既存および将来のお客様にサービスを提供していきます」。そうした顧客には、Lighttrick(ライトトリック)、ST Unitas(STユニタス)、Playtika(プレイティカ)などが含まれている

Intelは、取引に関する財務条件を開示せず、スタートアップの誰がインテルに入社するのかも回答していない。Yochay Ettun(ヨーチャイ・エトゥン)CEOと、Leah Forkosh Kolben(リア・フォルコシュ・コルベン)氏が共同創業したcnvrgは、PitchBookがその評価額を1700万ドル(約17億8000万円)と推定した前回のラウンドで、Hanaco Venture Capital、Jerusalem Venture Partnersなどを含む投資家から800万ドル(約8億4000万円)を調達した。

IntelがAIビジネスを後押しするために、機械学習モデリングの分野でも、別の買収を行った(未訳記事)のはわずか1週間前のことだ。そのときに買収したのは、機械学習モデリングとシミュレーションを実行するための最適化プラットフォームを開発しているSigOpt(シグオプト)だ。

SigOptはベイエリアを拠点としているが、cnvrgはイスラエルにあり、Intelがイスラエル国内に構築した幅広いネットワークに参加する。そのネットワークの人工知能の研究開発の分野にはすでに、2017年に150億ドル(約1兆5700億円)以上で買収した自動運転ビジネスのMobileye(モバイルアイ)や、2019年末に20億ドル(約2100億円)(未訳記事)で買収したAIチップメーカーのHabana(ハバナ)が存在している。

cnvrg.ioのプラットフォームは、オンプレミス、クラウド、ハイブリッドのいずれの環境でも機能し、無料プランと有料プランが用意されている。私たちは2019年に、Coreというブランドで提供される無料サービスの開始に関して(未訳記事)記事を掲載した。これは、Databricks(データブリックス)、Sagemaker(セージメーカー)、Dataiku(データアイク)や、オープンソースフレームワーク上に構築されたH2O.ai のような小規模なシステムと競合するものだ。Cnvrgが想定する前提は、データサイエンティストたちが、実行するプラットフォームの構築や維持ではなく、アルゴリズムの考案や動作の測定に集中できるように、ユーザーフレンドリーなプラットフォームを提供することだ。

Intelは今回の買収について多くを語っていないが、先週のSigOptの買収の際に語られていた理由と同様なものがここにもあるように思える。Intelはそのビジネスを次世代チップ(Intelリリース)周辺に絞り、NVIDIA(エヌビディア)や、より小規模なGraphCore(グラフコア)などにより有効に対抗しようとしている。したがって、特にこれらのチップで実行されるコンピューティング負荷を支援するサービスを提供する、顧客向けのAIツールを提供したり投資を行ったりすることは理に適っている。

私たちが2019年に書いたCoreの無料プランに関する記事では、クラウドでこのプラットフォームを使用しているユーザーならば、Kubernetesクラスター上で実行されるNVIDIAに最適化されたコンテナ上で、それを実行できることを指摘した。それが引き続き当てはまるのかどうか、もしくはコンテナがIntelアーキテクチャー用に最適化されるのかどうか、あるいはその両方なのかどうかは明らかではない。cnvrgのその他のパートナーとして、Red Hat(レッド・ハット)やNetApp(ネットアップ)の名前が挙げられる。

Intelの次世代コンピューティングへの注力が目指すものは、レガシーな運用の減少を相殺することだ。前四半期には、データセンターの事業の減少に引きずられて、売上高が3%減少したことを、Intelは報告している(Intelリリース)。同社は2024年までにAIシリコン市場は250億ドル(約2兆6000億円)を超え、データセンター内で使われるAIシリコンは100億ドル(約1兆500億円)を超えると予測している。

2019年には、IntelはAI関連の売上として約38億ドル(約3990億円)を報告したが、同社はさらに、SigOpt のようなツールがそのビジネスにおけるより多くの活動を促進し、より幅広いビジネスでのAI アプリケーションと組み合わされることを期待している。

関連記事:Intel、Mobileyeを153億ドルで買収―自動運転テクノロジーの拠点をイスラエルに移す

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Intelcnvrg.io買収

画像クレジット:MR.Cole_Photographer / Getty Images

原文へ

(翻訳:sako)

東大発AIスタートアップTRUST SMITHが障害物回避型アームのアルゴリズムで特許取得

東大発AIスタートアップTRUST SMITHが障害物回避型アームのアルゴリズムで特許取得

TRUST SMITHは11月4日、人工知能を使った障害物回避型アームのアルゴリズム開発に成功し、特許を取得したと発表した。特許番号は特許第6765156号(P6765156)。独自技術を発明し社会実装することで、技術的優位性の高いビジネスを展開していくとともにに、最短経路で良いよい社会の実現を目指す。

同社は、社内の組織体制として「ラボ制」を採用。東京大学や京都大学をはじめとする学術機関に在籍あるいは卒業した研究員を中心に、当社独自のアルゴリズムの研究開発に取り組んでいる。OSSを活用したソリューションの提供ではなく、他社に模倣されない同社独自の技術を発明し社会実装することで、技術的優位性の高いビジネスを展開していくと共に、最短経路で良いよい社会の実現を目指す。

TRUST SMITHは、少子高齢化による労働人口減少に由来する「人材不足」、技術力への自負とIT導入コストへの懸念による「IT活用の遅れ」といった製造業での問題を解決すべく、人工知能を使った障害物回避型アームのアルゴリズム開発。これまで手作業で行っていたとされる工場などでのピックアップ作業を自動で行えるようになり、(1)人件費削減と労働力不足の解消、(2)データの蓄積と消費エネルギーの最適化、(3)作業のミス・災害の防止の実現を目指す。

開発に成功したのは、「リーマン計量」と呼ばれる微分幾何学の理論に基づくもの。空間内に存在する障害物を回避し、目的物へアプローチできるアルゴリズムという。アームから見た空間内の物体との距離、相対速度または相対加速度に応じて適切に場を計量できるため、障害物が動いていても安全に回避しながら、目的物に到達可能になる。

障害物回避型アームの活躍の範囲は多岐にわたり、従来人々が手作業で行ってきたあらゆる作業をサポートすることを期待している。具体的には、以下のような業界・業種において障害物回避型アームが自動で作業を行えるようになるとしている。

  • 製造業(金属製品/電子部品など):部品の分別、部品の溶接などの作業
  • 製造業(食品):食品の調理工程における作業全般
  • 農業:野菜や果物の最適な収穫時期の判定と収穫作業
  • インフラ(原油):原油配管の超音波非破壊検査作業
  • サービス業(卸・小売):食品スーパーにおける商品陳列作業
  • サービス業(空港):空港内手荷物のバックヤードにおける搭載・取降工程における作業

関連記事
東大発スタートアップTRUST SMITHが創業以来金融機関からの融資のみで総額1.1億円を調達

カテゴリー: 人工知能・AI
タグ: TRUST SMITH東京大学(用語)日本

咳を監視するAIに新型コロナの早期感染警報システムの期待

無症状病原体保有者が新型コロナウイルスの感染拡大に大きく関わっているわけだが、症状のない人をどうやって見分けて隔離すればよいのか、どのように検査を受けさせたらよいのだろうか?感染初期の可能性が高い人を、その咳の音に潜む微妙ながら確かなパターンから見分けられる(MIT News記事)ことが、MITの研究でわかった。これには、強く求められているウイルスの早期警告システムの実現につながる可能性がある。

人の咳の音にはいろいろな意味が含まれていることを、医師たちは昔から知っていた。そこで肺炎、喘息、さらには神経筋疾患などの症状を検出するためのAIモデルが作られた。どれも咳の仕方に違いがある。

パンデミック以前、研究者Brian Subirana(ブライアン・サビラナ)氏は、咳はアルツハイマーの予測にも役立つことを指摘していた。これはちょうど1週間前にIBMが発表した研究結果(The Lancet記事)と重なる。最近になってサビラナ氏は、これほど小さなものから、これほどたくさんのことがわかる能力がAIにあるのなら、新型コロナウイルスもわかるのではないかと考えた。実際、同じことを考えた人は他にもいる

彼とその研究チームは、人々に咳を提供してもらうためのサイトを立ち上げ、「我々が知る限り最大の咳の研究用データセット」を作り上げた。彼らは数千件のサンプルを使ってAIモデルのトレーニングを行い、その論文をIEEE(米電気電子技術者協会)の「オープンジャーナル」で公開している。

このモデルは音の強さや調子、肺と呼吸器の能力、筋肉の衰えから微妙なパターンの検出に成功したようで、無症状病原体保有者の100%、症状のある感染者の98.5%を特定できるまでになった。特異度はそれぞれ8%と94%。つまり、偽陽性と偽陰性の数が多くないことを示している。

「人が立てる音が、新型コロナウイルスに感染すると、無症状であっても変わることをこれが示していると私たちは考えました」とスビラナ氏は、この驚きの発見について語った。だが、このシステムは不健康な咳の検出を得意とするものの、症状はあるが根底の原因が不明な人の診断ツールとして使うべきではないと彼は警告する。

この点について、私はスビラナ氏に詳しい説明を求めた。

「このツールは、新型コロナウイルス感染者とそうでない人ととの区別に役立つ特徴を検出するものです」と彼は電子メールで述べている。「これまでの研究では、他の症状も検出できることがわかっています。さまざまな症状を区別できるシステムを開発することも可能でしょうが、私たちの狙いは、その他の症状と新型コロナウイルスとを区別することにあります」。

統計学を重んじる人なら、驚くほど高い成功率には危うさを感じるだろう。機械学習モデルはさまざまな分野で高い能力を発揮するが、100%という成功率はそう聞くものではない。別の見方をすれば、たまたまよい結果が出ただけなのかも知れない。当然、この発見は他のデータセットで検証し、他の研究者によって審査される必要がある。だが同時に、新型コロナ感染者の咳には、コンピュータの聴覚システムで簡単に、ほぼ確実に聞き分けられる手がかりが含まれているという可能性もある。

研究チームは現在、さまざま病院と協力して多様なデータセットの構築を進めている。さらに民間企業とアプリを共同開発し、米食品医薬品局の認可が取得し次第、このツールを広く配布する予定だ。

関連記事
新型コロナ患者に早期警告する喉装着型ウェアラブル、NWUの研究者が開発
公共スペースを自律的に監視するFluSenseシステムが病気の動向を追跡

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:新型コロナウイルス

画像クレジット:Ponomariova_Maria/iStock / Getty Images

原文へ

(翻訳:金井哲夫)

高度なAIでウェブ検索時のCtrl-F(もしくはCommand-F)を本当に便利にするHebbia

ここ数年、ディープラーニングが大きく進化している。GPT-3のような新しいシステムとモデルが、人の言語の解釈で高い性能を発揮するようになり、それをさまざまな形で応用するよう開発者たちを奮い起こさせている。文章を読み上げるボイスレコーダーや翻訳アプリなどでその結果が見られるが、最近の性能の進歩にはビックリさせられる。

では、このAIインフラが引き出す次なる機能の波は何だろう?Hebbia(ヘビア)はそこを探ろうとしている。

Hebbiaは、現在ではスタートアップだが、そもそもはプロダクトスタジオだった。スタンフォード大学博士課程に在籍し、現在休学中のGeorge Sivulka(ジョージ・シバルカ)氏と、その他3人のスタンフォード大学のAI研究者とエンジニアからなる混合部隊が創設した、いわばAIに関するアイデア帳のような存在だ。彼らは現在使える最新のディープラーニング技術とモデルを使い、知識グラフ、意味解析、AIが最終的に人の生産性に役立つことの限界を押し広げようとしている。

シバルカ氏は、知識経済で働いていた友人の経験を知って刺激を受け、この分野に焦点を当てようと思い立った。「多くの仲間が……、全員が一日中机に向かって膨大な量の情報を読むだけというホワイトカラーの職種に進みます」とシバルカ氏は話す。「金融アナリストになった人たちは、1行か2行の情報を得るために米国証券取引委員会の報告フォームを徹底的に読み込みます。またはロースクールに進んだり法律家になった人たちも、同じことをしています。……文章の壁に挟まれ身動きが取れない状態で、情報の雪崩の中から意味を読み取ることなど不可能です」。

(おっしゃるとおり)

彼自身とその仲間たちが目指しているのは、個々人の知識のパーソナルユニバースの解明を助ける検索と分析と要約のツールを開発して、人の生産性をパワーアップさせることだ。「人々の仕事のやり方を強化するとの方針に従って、Hebbiaがそうした思考のための生産性向上ツールを作るというのが私たちの目標です。具体的にそれは、みなさんが毎日処理している情報のインプットとアウトプットを管理するものです」とシバルカ氏はいう。

野心的なビジョンだ。そのため彼らは、どこかでスタートを切る必要があった。そんな同社の最初の製品が、そのビジョンに私が興奮を覚えたこのChrome(クローム)のプラグインだ。しばらくプライベートなベータテストを行った後、米国時間10月29日、世界に向けてリリースされる。これはChromeの検索機能をアップグレードして、単なるテキストパターンのマッチングを超え、入力されたテキストから、実際に何を知りたいのか、どう答えるべきかを考える。下の動画は、TechCrunchのサイトでこのプラグインを試したところだ。

HebbiaのCtrl-FをTechCrunchのサイトで使っているところ(画像クレジット:Hebbia)

例えばWikipediaのページでCtrl-Fを使い「この人はどこに住んでいた?」と質問すると、プラグインはこの文章は場所を聞いているのだと判断し、そのページで関連情報を含む文章をハイライトする。もちろんこれはAIで、しかも現時点ではまったくのベータ版AIなので、その答えに一貫性がないことも現在のところあり得る。しかし、Hebbiaがこのモデルの精度を高めてテキストの読解力を改善すれば、ブラウザーでの検索は完全にこちらに移行し、生産性が大幅にアップすることが期待できる。

シバルカ氏は、いわゆる神童だった。十代のころからNASAで働き始め、スタンフォード大学の学部を2年半で卒業。その後、修士号を1年ちょっとで取得し、Hebbiaに寄り道をする前に博士課程に進んだ。

Hebbiaのアイデアは、創設から数カ月以内にベンチャー投資家の関心を惹きつけた。Floodgate(フラッドゲート)のAnn Miura-Ko(アン・ミウラ=コー)氏は110万ドル(約1億1500万円)のプレシードラウンドを主導し、Naval Ravikant(ナバル・ラビカント)氏、Peter Thiel(ピーター・ティール)氏、Kevin Hartz(ケビン・ハーツ)氏、Michael Fertik(マイケル・フェルティク)氏、Cory Levy(コリー・レビー)氏がそれに参加した。

Ctrl-Fは、現在Hebbiaの最重要製品であり、知識グラフと個人の生産性がもたらす大きな可能性への入口の役割を果たしていると、シバルカ氏は話す。「これは、コンピューターにできることの最後のフロンティアなのです」とシバルカ氏。コンピューターは、データをデジタル化して処理しやすくすることで、すでに数多くの分野に革命をもたらしたと彼は指摘する。Ctrl-Fに関してはこう話す。「これは基本テクノロジーなので、(私たちは)これを使ってできることの、ほんの上面を引っ掻いているに過ぎないのです」。

関連記事:AIでAIモデルを最適化するプラットフォームを構築するイスラエルのDeciが9.5億円を調達

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Hebbiaディープラーニング検索

画像クレジット:RapidEye / Getty Images

原文へ

(翻訳:金井哲夫)

安価な汎⽤デバイスで高速エッジAIを実現する「Actcast」のIdeinが20億円を調達

安価な汎⽤デバイスで高速エッジAIを実現する「Actcast」のIdeinが20億円を調達

Idein(イデイン)は10月28日、エッジAIプラットフォーム「Actcast」(アクトキャスト)の事業拡⼤に向け、第三者割当増資により20億円の資⾦調達を実施ししと発表した。引受先は、アイシン精機、KDDI(KDDI Open Innovation Fund3号)、双⽇、DG Daiwa Ventures(DG Lab 1号投資事業有限責任組合)、DGベンチャーズ、伊藤忠テクノソリューションズ、いわぎん事業創造キャピタル(岩⼿新事業創造ファンド2号投資事業有限責任組合)。これにより累積資⾦調達額は約33億円となる。

安価な汎⽤デバイスで高速エッジAIを実現する「Actcast」のIdeinが20億円を調達Ideinは、2020年1⽉にActcastの正式版をリリース。Actcastエコシステムにおいて重要なパートナプログラム「Actcast partners」を拡⼤させ、現在71社が参画している。さらに4⽉には事業開発部を創設し、すでに複数の事例・PoC案件を抱えており、Actcast事業の本格的な拡⼤に向けたスタートラインにあるという。同社は、Actcast事業の拡⼤をより着実に実現させ、さらなる成⻑への⾜がかりとすべく、事業戦略ラウンドとして位置づけた資⾦調達を実施したとしている。

また引受先の多くが、事業会社およびその関連会社であり、Actcastの⾃社および事業での活⽤について取り組む重要なパートナーとなっている。Ideinは、今回の資⾦調達を経て、そのパートナーシップをより強固なものとし、Actcast事業の拡⼤を加速させていく。

安価な汎⽤デバイスで高速エッジAIを実現する「Actcast」のIdeinが20億円を調達

Actcastは、エッジデバイス上で画像解析AIなどを実⾏して実世界の情報を取得し、ウェブと連携するIoTシステムを構築・運⽤するためのプラットフォームサービス(PaaS)。セキュリティ、産業IoT、リテールマーケティング、MaaSなど様々な分野で利用可能としている。

安価なデバイスを⽤いてエッジ側で解析を行うことで、不要な情報を送信せず運⽤コストを削減すると同時に、本社側データベースなどに個人情報につながるデータを蓄積しないなど、プライバシーへの配慮も⾏いながらAI/IoTシステムの普及を実現するという。

Ideinによると、AI/IoTシステムにおいて、クラウドだけでなくエッジの計算資源を活⽤しようという⼤きな流れがある⼀⽅、現状ではその実⽤化には課題が存在しているという。その課題を解決する⾰新的な技術およびプラットフォームとしてActcastを開発した。

Ideinは、安価な汎⽤デバイス上での深層学習推論の⾼速化を実現した、世界にも類を⾒ない⾼い技術⼒を有するスタートアップ。同社技術を⽤いたエッジAIプラットフォームActcastを開発し、実⽤的なAI/IoTシステムを開発・導⼊・活⽤する開発者・事業会社へのサービス提供。今後もパートナー企業とともに、AI/IoTシステムの普及に貢献していく。

関連記事
安価なエッジデバイスにディープラーニング搭載、AIoT時代の開発基盤構築へIdeinが8.2億円を調達
エッジで安価にディープラーニング活用、Ideinが1.8億円を調達

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:IoTActcastIdeinエッジコンピューティング資金調達日本

AIでAIモデルを最適化するプラットフォームを構築するイスラエルのDeciが9.5億円を調達

イスラエルのテルアビブを拠点とするスタートアップのDeciは、AIを使ってAIモデルを最適化し本番環境にする新しいプラットフォームを構築している。同社は米国時間10月27日、EmergeとSquare Pegが主導するシードラウンドで910万ドル(約9億5000万円)を調達したと発表した。

Deciのプラットフォームは、企業がAIのワークロードを簡単に短時間で本番環境にし、さらにその本番環境モデルを最適化して精度とパフォーマンスを向上しようとするものだ。これを実現するために同社は、モデルをパッケージングしてデプロイする前に、エンジニアがトレーニング済みモデルを用意し、それをDeciで管理してベンチマークを取り最適化するエンド・ツー・エンドのソリューションを構築した。ランタイムコンテナまたはEdge SDKを使うことで、Deciのユーザーはほぼすべてのモダンなプラットフォームやクラウドにモデルを提供することもできる。

Deciのインサイト画面には、深層学習モデルに関して本番環境で予測される動作の指標を組み合わせたDeciスコアが表示される。これはモデルのパフォーマンス全般をまとめた単一の評価基準だ

Deciの共同創業者は、深層学習サイエンティストのYonatan Geifman(ヨナタン・ガイフマン)氏、テクノロジーアントレプレナーのJonathan Elial(ジョナサン・エリアル)氏、そしてコンピュータサイエンティストで機械学習の専門家であるテクニオン・イスラエル工科大学のRan El-Yaniv(ラン・エル・ヤニフ)教授だ。

CEOで共同創業者のガイフマン氏は「DeciはAIにおけるパラダイムシフトの先頭に立ち、データサイエンティストや深層学習のエンジニアが有効でパワフルなソリューションを作ってデプロイするために必要なツールを提供しています。ニューラルネットワークの複雑さや多様性が急速に増し、企業にとっては最高のパフォーマンスを得るのが難しくなっています。AI自体を利用してこの問題に取り組むのが最適な戦略であると我々は認識しました。Deciのゴールは、AIを実用的に使うすべての人をAIで支援し、世界で最も複雑な問題を解決することです」と語る。

ユーザーはDeciのラボ画面を使って深層学習モデルのライフサイクルを管理し、推論のパフォーマンスを最適化し、デプロイの準備をすることができる(画像クレジット:Deci)

同じハードウェアで同等の精度であれば、Deciで最適化したモデルはこれまでより5〜10倍速く動作すると同社は述べている。推論のワークロードの実行にCPUとGPUを利用することができ、自動運転、製造、通信、ヘルスケアなどの顧客とすでに連携していると同社はいう。

EmergeのパートナーであるLiad Rubin(リアド・ルービン)氏は「最高のパフォーマンスの深層学習ソリューションを自動で作り上げるDeciの手腕は人工知能におけるパラダイムシフトであり、さまざまな業界にわたる多くの企業の可能性を開きます。我々はこれほど優れた創業者たちと協力し、旅の初日からともに歩めることを大変嬉しく思っています」と述べている。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Deci資金調達イスラエル

画像クレジット:Deci

原文へ

(翻訳:Kaori Koyama)

東大IPCが道路点検AI開発の東大発UrbanX Technologiesに7000万円を出資

東大IPCが道路点検AI開発の東大発UrbanX Technologiesに7000万円を出資

東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)運営のオープンイノベーション推進1号投資事業有限責任組合(AOI1号ファンド)は10月26日、道路点検AIを開発する東京大学関連スタートアップ「UrbanX Technologies」(アーバンエックステクノロジーズ)に対して、7000万円の出資を決定したと発表した。今回のUrbanXへの投資は、東大IPC経営陣の他、ANRIとの共同出資となり、東大IPCがリード投資家を務める。

UrbanXは、今回の資金調達により事業拡大を加速し、道路以外の分野においても都市のデジタルツインを構築。提携先開拓・開発を担う人材も積極的に採用する方針としている。

東大IPCは、同社主催コンソーシアム型インキュベーションプログラムの第3回「東大IPC 1st Round」でUrbanXを会社設立前に採択。会社登記から三井住友海上との協業(後述)など様々なハンズオン支援を実施し、今回の投資実行にいたったという。

道路メンテナンスなど、老朽化した社会インフラメンテナンスの課題対応に東京大学の技術を活用

2020年4月設立のUrbanXは、都市が抱える様々な問題をデータ×AIの力で解決し、スマートシティの実現を目指すスタートアップ。同ビジョンを実現するため、大手企業との提携により都市インフラの様々なデータを収拾し、ディープラーニングなどによるAI解析を行い、都市の変化を定量化している。また同ビジネスモデルの第1弾として、都市インフラの要となる道路におけるビジネス化を開始している。

現在、自治体などが実施する道路メンテナンスの点検方法は、主に高額な専用点検車両の使用や専門職員の目視による確認などがあるものの、これらでは総延長120万kmにおよぶ全国の道路を十分に点検できず、計画通りに維持管理することが困難な状況となっている。

また、日本だけでなく世界先進国において、高度成長期に次々と建設・整備された社会インフラの老朽化が急速に進んでおり、予防保全による安全の確保と費用削減は世界共通の課題テーマとなっている。

UrbanXの前田紘弥社長は、東京大学の特任研究員として東京大学生産技術研究所 関本研究室にて同社のベースとなる技術を開発。同技術は、すでに東京大学として基本特許を出願。また東京大学生産技術研究所 関本義秀准教授もUrbanXの取締役として同社の事業を主導している。

社会インフラメンテナンス支援に向けた実証実験も開始

UrbanXは、車載スマホ・ドラレコで撮影した画像をAI分析し、道路の破損箇所を検知するシステムを開発し、現在まで20以上の自治体で実証実験を行って教師データを収拾してきた。

しかし、全国の道路情報をリアルタイムに把握することをUrbanX単独で実現することは困難なため、東大IPCの仲介にて「東大IPC 1st Round」のパートナー企業の1社である三井住友海上火災保険(三井住友海上)との実証実験を開始した。

具体的には、三井住友海上の専用ドライブレコーダーに、UrbanXのAIによる画像分析技術を搭載し、東京都品川区・千葉県千葉市・石川県加賀市・滋賀県大津市・兵庫県尼崎市といった自治体での自動車走行においてデータを収集。道路の破損箇所を適切に検知するための技術的課題の検証、画像品質やハードウェアの性能などを検証し、道路メンテナンスの点検業務への有用性について確認する。

AOI1号ファンドは、東京大学周辺でのオープンイノベーション活動の推進を目的に、「企業とアカデミアとの連携によるスタートアップの育成・投資」というコンセプトで2020年組成。同ファンドでは、各業界のリーディングカンパニーと連携した新会社設立やカーブアウトベンチャー、彼らのアセットを有効活用するスタートアップへの投資を通じ、新分野におけるオープンイノベーションの成功事例創出を目指す。

今後も東大IPCは、東京大学周辺のイノベーション・エコシステムの発展およびそれを通じた世界のイノベーションを加速するため、ベンチャーキャピタルやオープンイノベーションを推進する企業との様々な連携を通じ、アカデミアの生み出す学術・研究成果を活用するスタートアップの創出・育成・投資を進めていく。

関連記事
道路点検AI開発の東大発アーバンエックステクノロジーズが8000万円を調達、スマホとAIで道路の損傷状態を即時判別
ゴミテック、道路点検AI、小型衛星エンジンなど、東大IPC起業支援プログラムが新たな支援先を発表
東大IPCインキュベーションプログラム「東大IPC 1st Round」が第3回支援先を発表
漫画の自動翻訳、手術支援AI、下膳ロボ、昆虫食など、東大IPC起業支援プログラムが第4回目の支援先を発表

カテゴリー: ネットサービス
タグ: UrbanX Technologies資金調達東京大学東京大学協創プラットフォーム開発 / 東大IPC日本

機械学習の最前線「アルツハイマー病スクリーニング」「森林マッピングドローン」「宇宙での機械学習」など

研究論文は次々に生み出され、もはやそれらすべて目を通すことは誰にもできない。特に、実質的にあらゆる業界や企業に影響を与え、論文も生み出している機械学習の分野ではなおさらだ。今回のコラムは、特に人工知能を中心とした、関連する最近の発見や論文を集めて、なぜそれが重要なのかを説明することを目的としている。

今週は、森のマッピングに無人ドローンを使うスタートアップや、機械学習がソーシャルメディアのネットワークをマッピングしたり、アルツハイマーを予測する方法、宇宙ベースのセンサーのためのコンピュータビジョンの改善、その他の最近の技術の進歩に関するニュースを見てみよう。

発話パターンからアルツハイマーを予測する

機械学習ツールは、人間が検出しにくいパターンにも敏感に反応するため、様々な方法で診断を支援するために利用されている。IBMの研究者たちが、話し手がアルツハイマー病を発症していることを予測できる(EClinicalMedicineサイト)発話のパターンを発見したかもれない。

臨床現場でこのシステムを使うには数分程度の普通の会話があれば良い。研究チームは、1948年に遡る大規模なデータセット(フラミンガム・ハート・スタディ)を使用して、後にアルツハイマー病を発症する人々の発話のパターンを識別した。統計的に情報量の多い人の精度は約71%、AUC(Area Under Curve)値では0.74となっている。これは信頼できる結果とはいえないが、現在の基礎検査は、この病気をはるかに先取りして予測するという目的には、コイン投げよりはなんとか優れている手段だ。

アルツハイマーは発見が早ければ早いほど、管理しやすくなるので、このことはとても重要なことだ。治療法はないが、最悪の症状を遅らせたり軽減させたりできる有望な治療法や実践法は存在している。健康な人に対するこのような身体に負担をかけない非侵襲的で迅速なテストは、強力な新しいスクリーニングツールになり得ることはもちろん、技術のこの分野での有用性を示す優れたデモンストレーションでもある。

(論文に、正確な兆候例などが書かれていると期待しないで欲しい。発話の特徴の並びは、日常生活で気がつくことができるようなものではない)。

ソー「セル」ネットワーク

深層学習ネットワークが学習環境の以外のデータにも適用できるほど一般化されているかどうかを検証するのは、あらゆる本格的な機械学習(ML)研究のキモとなる部分だ。しかし、完全に無関係なデータにモデルを適用しようとする試みはほとんど行われていない。おそらくそうすべきなのに!

スウェーデンのウプサラ大学の研究者たち(ウプサラ大学サイト)は、ソーシャルメディアでグループやつながりを識別するために使用されたモデルを、生体組織のスキャンに適用した(もちろん無修正ではない)。その生体組織は、結果として得られた画像がmRNAを表す多数の小さなドットを生成するように処理されていた。

通常、組織の種類や領域を表す細胞(セル)の異なるグループは、手作業で識別され、ラベルづけされてる必要がある。しかし、仮想空間の中で、共通の関心事のような類似性に基づいて構成されたソーシェルグループを識別するために作られたグラフニューラルネットワークは、細胞に対しても同様の仕事を行うことができることが証明された(トップ画像参照)。

「私たちは、最新のAI手法、特にソーシャルネットワークを分析するために開発されたグラフニューラルネットワークを利用して、組織サンプルの生物学的パターンや連続的な変化を理解するために、それらを適用しています。細胞はソーシャルグループに似ています。なぜならソーシャルグループもグループ内で共有するアクティビティに基づいて定義することができるからです」とウプサラ大学のCarolina Wählby(カロリナ・ヴェールビー)氏は語る。

これは、ニューラルネットワークの柔軟性を示すだけでなく、構造やアーキテクチャがどのような形であらゆるスケールや文脈で繰り返されるのかを示す興味深い例だ。もし願うなら「外の如く内も然り」だ。

自然の中のドローン

私たちの国立公園や林業が営まれる広大な森には無数の木があるが、書類に「無数の木」と書くことはできない。いろんな地域でどれだけ成長しているのかや、木の密度や種類、病気や山火事の範囲などを、誰かが実際に評価しなければならない。航空写真やスキャンでわかることは限られている一方で、地上での観察では詳細な情報は得られるものの非常に時間がかかるため、この評価プロセスは部分的にしか自動化されていない。

Treeswift(ツリースイフト)はドローンに森の中の飛行と正確な計測の両方に必要なセンサーを装備することで、中間的な道を歩もうとしている。歩行する人間よりもはるかに速く飛ぶことで、木を数えたり、問題箇所を探したり、一般的に有用なデータを膨大に収集することができる。ペンシルバニア大学からスピンアウトし、米国立科学財団(NSF)からSBIR(Small Business Innovation Research:小規模事業イノベーション研究)助成金(未訳記事)を獲得した同社は、まだごく初期のステージにいる。

「企業は気候変動に対抗するために、ますます森林資源に注目していますが、そのニーズを満たすための人材供給が追いついていません」とPenn(ペン)ニュースの記事の中で語るのは(ペンシルベニア大学サイト)、Treeswiftの共同創業者でCEOのSteven Chen(スティーブン・チェン)氏だ。彼はペンシルバニア大学工学部のコンピュータ・情報科学(CIS)の博士課程の学生でもある。「林業家の1人ひとりが、もっと効率よく仕事ができるようにしたいと思っています。このロボットは人間の仕事を置き換えるものではありません。その代わりに、森林を管理するための知見と情熱を持った人たちに新しいツールを提供するのです」。

ドローンがおもしろい動きをたくさんみせてくれる、また別のエリアは水中だ。外洋に出る自律型潜水艇は海底の地図を作成したり、氷棚を追跡したり、クジラを追跡したりすることに役立っている。しかし、それらは定期的に回収し、充電して、データを取り出す必要があるという小さなアキレス腱を持っている。

パデュー大学工学部のNina Mahmoudian(ニーナ・マフムディアン)教授は、潜水艇が電力とデータ交換のために簡単かつ自動的に接続できるドッキングシステムを作成した(パデュー大学サイト)。

水中左側にいる黄色の海洋ロボットは、作業を続ける前に、充電とデータのアップロードのために移動式ドッキングステーションを探してたどり着く(画像クレジット:Purdue University photo/Jared Pike)

潜水艇にはドッキングステーションを見つけ、プラグを差し込んで安全な接続を行うための、特別なノーズコーンが必要となる。ドッキングステーション自身は自律的に動く水上機もしくは、恒常的な施設である。大事なことは、小型潜水艇がさらなる任務を行う前に、充電と報告のためのピットインをすることができるということだ。もし潜水艇で失われてしまっても(海上では実際に起こり得る危険性)、そのデータがともに失われることはない。

以下の動画で、実際の様子を見ることができる。

理論上の乱気流音

一部の人がもうすぐ実現すると考えているような、自動プライベートヘリコプターの登場はまだまだ先だと思われるが、ドローンが都市生活に溶け込むようになるのにはそれほど時間はかからないかもしれない。しかし、ドローンが高速で行き交う下で生活するということは、四六時中ノイズを聞かされることを意味する。そのため翼やプロペラまわりの乱気流やそれにともなう雑音を減らす方法が常に検討されている。

炎上しているように見えるが、これは乱気流だ

キング・アブドラ科学技術大学の研究者たちは、このような状況下での空気の流れをシミュレートする、新しくより効率的な方法(Nature Research記事)を発見した。流体力学は基本的に複雑であり、ここで大切なことは計算能力を問題の適切な箇所に注ぎ込むことだ。彼らは、理論上の航空機の表面近くの流れだけを、高解像度でレンダリングすることを可能にした。一定の距離が離れてしまうと、何が起こっているのかを正確に知ることはほとんど意味がないことを発見したからだ。現実のモデルを改善する際には、すべての場所を改善する必要はない──結局のところ、結果が重要なのだ。

宇宙での機械学習

コンピュータビジョンのアルゴリズムは長い道のりを歩んできたが、その効率性が向上するにつれ、データセンターではなくエッジに配置されるようになってきた。実際、携帯電話やIoTデバイスのような、カメラを搭載した製品では、画像に対してその場でML作業を適用することが、かなり一般的になってきている。しかし、宇宙ではそれは別の話だ。

画像クレジット:cosine

宇宙空間で機械学習を実行することは、ごく最近までは、考えるまでもなく電力的に高価すぎることだった。その電力を使って、別の画像を撮影したり、地上にデータを送信したりすることなどができるからだ。HyperScout 2(ハイパースカウト2)は宇宙でのML作業の可能性を探っている。その衛星は、収集した画像に対して地上に送る前に、コンピュータビジョン技術を適用し始めている(cosineサイト)(「ここに雲がある、ここにポルトガルがある、ここに火山がある……」など)。

現在のところ実用的なメリットはあまりないが、オブジェクト検出は他の機能と簡単に組み合わせて新しいユースケースを生み出すことができる。例えば関心のあるオブジェクトが存在しない場合の省電力化から、メタデータを他のツールに渡した方がよりよく機能する場合などが考えられる。

新しきを捨てて、古きを得よ

機械学習モデルは教育された範囲の推測を行うのに優れている。整理されていないまたはろくに文書化されていない大量のデータがある分野に対して、大学院生がより生産的に時間を使えるように、AIに最初のスキャンを行わせることは非常に有用だろう。議会図書館がそれを古い新聞に対して行っているが、新たにカーネギーメロン大学(CMU)の図書館もその気になってきている(CMUリリース)。

CMUの100万点におよぶ写真アーカイブはデジタル化の過程にあるが、歴史家や好奇心旺盛な閲覧者に役立つようにするためには、写真を整理してタグ付けする必要がある。そのためコンピュータービジョンアルゴリズムが適用されて、類似画像のグルーピング、対象と場所の特定、その他の価値ある基本的な分類タスクが行われている。

「部分的に成功したプロジェクトであっても、コレクションのメタデータは大幅に改善されています。もしアーカイブが、コレクション全体をデジタル化するための資金を獲得することができれば、メタデータ生成のための可能なソリューションを適用することができます」と語るのはCMUのMatt Lincoln(マット・リンカーン)氏だ。

まったく異なるプロジェクトだが、どこかでつながっているように見えるのが、ブラジルのペルナンブーコ大学工学部の学生によるこの成果だ。彼は古い地図を機械学習できれいにする(IEEE Spectrum記事)素晴らしいアイデアを研究している。

彼らが使用したツールは、古い線画の地図を使って、それに基づく衛星写真のようなものをGAN(Generative Adversarial Network)を利用して生成するものだ。GANとは本質的に、AIが自分自身をだまして本物と見分けがつかないようなコンテンツを作成しようとする技法だ。

画像クレジット:Escola Politécnica da Universidade de Pernambuco

まあ、現在の結果は完全に満足できるものではないが、それでも期待はできる。このような地図は正確なものではないが、かといって完全に空想上のものというわけではない。それらを現代的なマッピング技術の文脈で再現することは、楽しいアイデアで、きっとそうした場所を、より身近なものとして感じさせてくれることだろう。

関連記事:米国議会図書館が機械学習で300年ぶんの新聞の画像を抽出し検索可能に

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:機械学習

画像クレジット:Uppsala University

原文へ

(翻訳:sako)

Psyckeは消費者の個性とファッションをマッチさせる製品でシード投資を調達

オンラン・ファッションブランドがひしめく市場では、消費者はサイトを選び放題だ。しかし通常は、各ブランドをひとつずつ訪ね、自分で取捨選択して好みのものを探し出すという手段を強いられる。これはあまり楽しい体験ではない。過去の購入履歴やクッキーは、ユーザー体験を仕立てるほどの役には立たない。たとえば、アーミーグリーンのミリタリージャケットを買った場合、その後のおすすめにアーミーグリーンのミリタリージャケットばかり出てくるようでは、そのeコマースサイトに成功の見込みはひとつもない。

それに対してPsycke(サイク:ブランド名はPSYKHE)は、AIと心理学を利用し、ユーザーの人物プロファイルと製品の「個性」をもとに製品のおすすめをするeコマース・スタートアップだ。たしかに、このような技術を主張するスタートアップはたくさんある。しかしPsyckeは、主立ったファッション小売り業者の製品情報のアグリゲーターになることで、ファッション製品の購入を簡易化するユニークなアプローチを売りにしている。それぞれのユーザーごとに異なる店頭が提示され、次第にパーソナライズされてゆくと同社は話している。

このほどPsyckeは、幅広い投資家から170万ドル(約1億8000万円)のシード投資を調達し、今後、他の消費者向け垂直市場のための企業間取引にも事業を拡大する新計画を発表した。

今回の投資に参加したのは、Net-a-Porterの最大のファンド投資家であるCarmen Busquets(カーメン・ブスケッツ)氏、北米の高級ファッション販売代理店MadaLuxe Groupの新しい投資部門SLS Journey、DAZNの会長でDisney Media Networksの前共同会長、ESPNの元社長でもあるJohn Skipper(ジョン・スキッパー)氏、Aser Venturesの最高執行責任者でありMP & Silva とFC Inter-Milanにも在籍していたLara Vanjak(ララ・バンジャック)氏。

Littel Black Doorは高級服の共有や売買、持続可能性にも配慮した現代女性のためのソリューション(日本語訳)

電子商取引ビジュアル検索プラットフォームのSyteが米国とアジアでの拡大のためにシリーズCで31.4億円を調達(日本語訳)

それで、これは何をしてくれるのか? 企業対消費者間取引のアグリゲーターとして、主要な小売業者の在庫をプールする。そして同社のプラットフォームが、機械学習と性格特性科学を用いて、ユーザーが登録時に行った性格テストの結果を踏まえた製品のおすすめを見繕う。この技術は国際特許を申請中であり、Moda Operandi(モーダ・オペランディ)、MyTheresa(マイテレサ)、LVMHのプラットフォーム24S、11 Honoré(イレブンオノレ)といった主要小売り業者とアフィリエイトパートナー契約を結んでいると同社は話している。

このビジネスモデルは、アフィリエイトパートナー・モデルに基づいており、売上げごとに5〜25パーセントの収益を得る。同社は、将来的にユーザーが自分の個性に合わせてアイテムを並べ変えられるプラグインを提供し、他の消費者向け垂直市場のための企業間取引にも事業を拡大する予定だ。

この性格テストの結果はどのように役立てられるのか? まずPsyckeは、パートナー取引先の100万点を超える実際の製品それぞれに、機械学習を使って(トレーニングデー対基づき)全般的な心理学的プロファイルを割り当てている。

そのため、たとえば金属の鋲打ちがされた革のブーツ(つまり「反抗的」な雰囲気)の場合、「同調性」の特性では中から低の点数が与えられる。ピンクの花柄ドレスの場合は、同じ特性では高い点数となる。保守的なツイードのブレザーは「開放性」という特性では点数は低い。なぜならツイードのブレザーは保守的なスタイルを主張する傾向にあり、従ってそうした人間性を示すからだ。

現在、Psyckeの小売パートナーには、Moda Operandi、MyTheresa、LVMHのプラットフォーム24S、Outdoor Voices(アウトドア・ボイセズ)、Jimmy Choo(ジミー・チュー)、Coach(コーチ)、サイズに大きな幅があるプラットフォーム11 Honoréなどが加わっている。

競合相手にはThe Yes(ザ・イエス)とLyst(リスト)がある。しかし、Psyckeの差別化の中心は、この性格の得点付けにある。さらに言えば、The Yesはアプリのみ、アメリカのみで、モノブランドだけをパートナーにしている。Lystは数千件のブランドのアグリゲーターだが、どちらかと言えば検索プラットフォームだ。

Psyckeは、ロックダウンの最中にある人々をオンラインに殺到させ、世界のeコマースを急成長させている新型コロナウイルスの今なお続く影響を、うまく利用できる立場にある。

このスタートアップは、CEOで創設者であるAnabel Maldonado(アナベル・マルドナルド)氏の発想から生まれた。創設チームには、CTOのWill Palmer(ウィル・パーマー)氏、主任データサイエンティストRene-Jean Corneille(ルネ=ジャン・コルネイユ)氏も加わっている(写真上)。マルドナルド氏は、故郷トロントで心理学を学んだ後、イギリスの国民保険サービス(NHS)で5歳未満の子どもの発達診断を行う専門家チームに就職した。

転機となったのは、ファッション誌Marie Claire(マリ・クレール)イギリス版の編集指導のコンペに勝ったときだった。その後彼女は、Christian Louboutin(クリスチャン・ルブタン)の出版部門に進み、さらにMail on Sunday(メール・オン・サンデー)とMarie Claireでインターンを経験した。こうして雑誌出版で数年間を過ごした後、CoutureLab(クチュールラボ)でeコマースの世界に足を踏み入れた。フリーランスとなった彼女は、いくつもの高級ブランドやプラットフォームと編集コンサルタントとして仕事を重ねた。ファッション・ジャーナリストとしては、The Business of Fashion(ザ・ビジネス・オブ・ファッション)、The New York Times Style(ザ・ニューヨーク・タイムズ・スタイル)、Marie Claireに業界コラムを寄稿している。

ファッション業界に10年間携わってきた彼女は、「ファッションに実際よりも軽薄な印象を与えた」言説にフラストレーションを募らせていったという。「これは1兆ドル規模の産業です。私たちはみな、美的なものに、自分自身の感覚で反応するはずです。しかし、みんなが口に出して語るのは、秋の流行のニューカラーや、みんなお揃いの、いわゆるマストアイテムのことばかりです」

しかし彼女はこう話す。「これまで、個人差の調査は行われてきませんでした。この世界は、本来あるべき深みを完全に失っています。そこで私は、誰もが美に対して高い感受性を持ち、服装の選択に、その人だけの内なる必要性に基づく心理学的な影響が大きく作用していることを、何らかの方法で証明したいと思ったのです」。そうして彼女はその「ファッション心理学」または彼女が言う「なぜ私たちはこれを着るのか」に対応するためのスタートアップを立ち上げたのだ。

アマゾンが月額約530円で毎月スタイリストが選んだ男性用ファッションアイテムが届くサービスを開始(日本語訳)

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

AdobeのProject Sharp ShotsはAIで動画内のボケをデブラー処理で鮮明に

Adobe(アドビ)は毎年MAXユーザーカンファレンスで、Creative Cloudアプリに搭載されるかもしれない、あるいは搭載されないかもしれない研究プロジェクトを発表している。近いうちに動画編集アプリに搭載されることが楽しみなのが新プロジェクトのProject Sharp Shotsで、米国時間10月20日のMAX Sneaksイベントで正式発表される。アドビのAIプラットフォームであるAdobe Senseiを利用したSharp Shotsは、AIを使って動画をデブラー(ブレ補正)化する研究プロジェクトだ。

プロジェクトに参加するアドビのエンジニア、Shubhi Gupta(シュビ・グプタ)氏によると、この機能では手ブレや動きの速いカメラのせいで動画がぼやけていても、1回のクリックで動画をデブラー処理できるという。彼女が披露したデモでは、ウクレレを弾いている動画のように比較的微妙な効果が得られることもあれば、下のバイクのように劇的な効果が得られることもある。

Project Sharp Shotsには、従来のようなパラメータによる調整はない。「これはワンクリックで動作しますが、魔法ではありません。単純なディープラーニングとAIがバックグラウンドで働き、各フレームを抽出してぼかしを加え、高品質なぼかしのかかった写真やビデオを生成するのです」。

画像クレジット:Adobe

グプタ氏によると、チームは既存の画像のブレ補正に関する研究に着目し、そのプロセスを動画用に適応し、メモリ使用量と速度を低下させるために最適化したという。

Adobe After Effectsにはすでにデブラーと手ブレ補正のための機能がありますが、それは独自の制限があり異なるアルゴリズムだ。

今回の新しいシステムは、アルゴリズムが前後の複数の関連フレームにアクセスできる場合に最もうまく機能し、ビデオ内の少数のフレームでもその機能を発揮する。

画像クレジット:Adobe

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Adobe、Creative Cloud

画像クレジット:Ayzenstayn / Getty Images, Adobe

原文へ

(翻訳:塚本直樹 / Twitter

AIがコード補完を行うツールKiteが新たに11言語をサポート

2019年にローンチしたAIベースのコード補完ツールKiteは、とても魅力的で、早い段階から十分な資金も獲得していた(未訳記事)が、当時はPythonしかサポートしていなかった。しかし2020年初めにはJavaScriptを追加し、米国時間10月21日には11の新しい言語のサポートを発表した。

新たにサポートされた言語はJava、Kotlin、Scala、C/C++、Objective C、C#、Go、TypeScript、HTML/CSSそしてLessだ。KiteはVS CodeやJupyterLab、Vim、Sublime、Atom、それにJetBrainsのIntelliJをベースとするAndroid Studioなどをはじめ、よく使われている開発ツールのほとんどで使用することができる。

これによってKiteは、多くのデベロッパーにとって魅力的なソリューションになるだろう。同社によると、このツールを使うと、最も忙しい開発者でも1日に約175ワードのタイプ量を節約できるという。Kiteが特に傑出しているのは、その場の状況に基づいて補完の候補に適正度のランクを付ける点だ。AIを使わない競合製品のように、アルファベット順などではない。そのモデルを作るために、KiteはアルゴリズムのコードをGitHubで提供している。

サービスは無料でダウンロードして使えるだけでなく、サーバーから提供される有料のエンタープライズバージョンもある。後者は大きな深層学習のモデルを使うので、AIの能力もより優秀で、カスタムモデルを作る能力もある。有料バージョンでは複数行のコード補完もできるが、無料バージョンは1行ずつの補完しかできない。

Kiteによると、今回は新しい言語を加えただけでなく、2019年に行ったユーザー体験の評価と改善に基づいて、使用中に集中力を削ぐ要素を減らし、より適切な補完ができるようにしたとのことだ。

画像クレジット:Kite

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Kite

画像クレジット:Bin Wang / EyeEm / Getty Images

原文へ

(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

絶滅危惧種など画像が少ないケースでも合成データでAIを訓練するSynthetaicが4.7億円を調達

Synthetaicは、人工知能の訓練に使用できるデータ、特に画像の作成に取り組んでいるスタートアップだ。

創業者でCEOのCorey Jaskolski(コーリー・ジャスコルスキー)氏の経歴には、National Geographicや3Dメディアのスタートアップがある。前者は彼を「今年のエクスプローラー」に指名した(Business Wire記事)。ジャスコルスキー氏によると、保護活動にもっとデータが必要だと気づかせてくれたのがNational Geographicでの仕事だったという。

自然保護と人工知能は、おかしな組み合わせだろうか?ジャスコルスキー氏によると、彼は映像から密猟者や絶滅危惧種の動物を自動的に発見するプロジェクトを担当していたが、最大の壁は密猟者はカメラを避けようとし、絶滅危惧種の動物は野生での生存数が少ないため、それらを見つけるようにAIを訓練できるほど多くの映像が得られないことだった。

また、他社では3Dワールドビルディング(「AIに学習させたい世界のレプリカを作る」こと)によって合成AIの学習データを作成しようとしているが、多くの場合、このアプローチは法外なコストがかかると彼は付け加えた。

対照的に、Synthetaicのアプローチは、3Dアーティストやモデラーの仕事と、生成的な敵対的ネットワークに基づいた技術を組み合わせたものであり、ジャスコルスキー氏によると、はるかに手頃な価格で拡張性が高いという。

画像クレジット:Synthetaic

Synthetaicのモデルには2つの部分があり、それらが相互作用する。ジャスコルスキー氏は、密猟者を見つける例でそれを説明する。まず3Dのアーチストたちは、AK-47ライフルといった武器の実物そっくりのモデルを作成する。それからは敵対的生成ネットワークを使って、その模型をさまざまな背景の上に置いた数十万点以上の画像を生成する。

そしてAIはSynthetaicの合成画像で訓練された後、そのAIを実際のデータでテストすることで、結果を検証する。

ジャスコルスキー氏はSynthetaicの最初のプロジェクトとして、世界を現在よりも良い場所にしようとしている団体と協力したかった。例えばSave the Elephantsは同社の技術を使って動物の個体数を調べている。ミシガン大学は、脳腫瘍のさまざまなタイプを同定するAIを開発している。

ジャスコルスキー氏は、同社が「エンド・ツー・エンド」のソリューションを提供しているため、Synthetaicの顧客は独自のAIの専門知識を必要としていないと付け加えた。

米国時間10月20日、同社はLupa Systemsがリードするシードラウンドで350万ドル(約3億7000万円)を調達したことを発表した。これにはBetaworks VenturesとTitletownTechが参加した。後者はMicrosoft(マイクロソフト)とGreen Bay Packersのパートナーシップだ。同社はこれまでに合計450万ドル(約4億7000万円)を調達した同社は、LupaとBetaworkの「インターネットの修正」に役立つ仕事をするスタートアップのBetalabプログラム(未訳記事)にも参加している。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Synthetaic資金調達

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

原文へ
(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

インテルが人工衛星にローカルAI処理機能を提供、雲を自動的に除去し最大30%の帯域幅を節約

Intel(インテル)は米国時間10月21日、9月2日に太陽同期軌道に打ち上げられた小型衛星PhiSat-1への貢献について詳細を発表した。PhiSat-1には新しい種類のハイパースペクトル熱カメラとMovidius Myriad 2 Vision Processing Unit(VPU)が搭載されている。このVPUは地上にある民生機器の多くに搭載されているが、今回初めて宇宙へと打ち上げられ、大量のローカルデータを扱うことで研究者は貴重な時間と衛星ダウンリンク帯域幅を節約できるようになる。

具体的にはPhiSat-1に搭載されたAIが、科学者たちが実際に見たい地球の画像を隠す雲を自動的に識別する。画像を送信する前にこれらの雲を取り除くことで、衛星は最大30%の帯域幅節約を実現し、地上局と通信できる位置にあるときにより有用なデータを送信できる。

Intel Myriad 2上で動作するPhiSat-1のAIソフトウェアは、ハイパースペクトルカメラを手がけるハードウェアメーカーと協力している新興企業のUboticaによって開発された。過剰な放射線曝露を補正するためにも調整が必要だったが、CERNでのテストではミッションに必要な基準を満たすためのハードウェアの変更は必要はないことがわかった。

エッジコンピューティングが軌道上の人工衛星に適用されるという意味では新しいが、ローカルAIが非常に理に適う利用方法であることは間違いない。企業がセンサーの近くでデータ処理や分析を処理しようとする理由は宇宙でも同じだが、ネットワークへのアクセスのしにくさや接続の質などは異なっている。

PhiSat-1はArianspace(アリアンスペース)の最初のライドシェア実証ミッションの一環として2020年9月に打ち上げられたが、これは小規模なスタートアップ企業に、より低コストかつ小さなペイロードのための打ち上げサービスを提供する能力をアピールすることを目的としている。

関連記事:欧州の打ち上げ会社Arianespaceが衛星ライドシェアに成功、民間企業を含む計53基を宇宙空間に運ぶ

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Intelエッジコンピューティング

画像クレジット:Intel

原文へ

(翻訳:塚本直樹)

農業×AIにより独自の農産物栽培方法を確立し農家支援を行うHappy Qualityが資金調達

農業×AIにより独自の農産物栽培方法を確立し農家支援を行うHappy Qualityが資金調達

農業×AIにより高品質・高機能な農産物を1年中安定的に栽培する方法を確立し、農業支援・青果卸売業務を展開するHappy Quality(ハッピークオリティー)は10月20日、資金調達を実施したと発表した。引受先はSony Innovation Fund、ベンチャー投資育成研究会。

調達した資金により、中部地方をはじめさらなるFC農家の展開に向けたマーケティング強化のほか、より高品質な栽培をしていくためのAI灌水システムの高度化、そして今後の事業展開に向けた採用強化を推進する。

Happy Qualityは、静岡県で「農業の新しいStandardを作る」というビジョンのもと、農家の減少や高齢化により匠の農業技術が失われるといった「農業における社会課題」を、「テクノロジー」で解決するためデータドリブン農業の実践・研究開発を展開。

現在、新規就農者が抱える課題として最も多い「所得が少ない」「技術が未熟」(農水省 平成23年度 ⾷料・農業・農村⽩書)という点に対して、市場流通や農学、テクノロジーといった専門知識を持つメンバーが研究開発を重ね、ビックデータやAI、光学センサーなどを用いて高品質・高単価なメロンやトマトの安定生産、FC農家からの全量買取および品質保証による高単価販売を実現してきた。

農業×AIにより独自の農産物栽培方法を確立し農家支援を行うHappy Qualityが資金調達

Happy Quality独自ブランド製品としては、「Hapitoma」(トマト)や「DOCTOR MELON」(メロン)を展開。

Hapitomaは「ストレス緩和機能」の機能性表示を取得済みで、光センサー選果機によって1粒ずつ糖度・形・リコピンを計測・選別し、厳しい基準をクリアしている。リコピンは通常のトマトの2倍以上のもののみを採用し、糖度別に6~10度のラインナップを用意している。

農業×AIにより独自の農産物栽培方法を確立し農家支援を行うHappy Qualityが資金調達

DOCTOR MELONは温室メロン出荷量日本一の静岡県で生まれた、甘さそのまま低カリウムメロン。カリウム濃度を低減化したことで、腎臓病疾患などカリウム摂取制限がある方も食べやすいという。またカリウム低減により、口内の刺激となるアレルギー抗原が低下、ピリピリとした刺激感が緩和、特有の青臭さも軽減している。

農業×AIにより独自の農産物栽培方法を確立し農家支援を行うHappy Qualityが資金調達

関連記事
農業用土壌水分センサー・灌水制御・ビニールハウスソリューションのSenSproutが資金調達
自動野菜収穫ロボのinahoが実証事業・補助金プロジェクト3種類に採択
産業用リモートセンシングのスカイマティクスが日本初のAI米粒等級解析アプリ「らいす」公開

カテゴリー: 人工知能・AI
タグ: 資金調達農業Happy Quality日本

Juniper NetworksがボストンのAI SD-WAN企業128 Technologyを475億円で買収

Juniper Networksは米国時間10月19日、スマートワイドエリアネットワーキングのスタートアップである128 Technologyを4億5000万ドル(約475億円)で買収したと発表した。

JuniperがAIを活用したネットワーキング企業を買収するのは、2019年3月にMist Systemsを4億500万ドル(約427億6000万円)で買収した(Juniper Networksリリース)のに続き、ここ1年半で2社目となる。128 Technologyの買収で、同社はより多くのAI SD-WAN技術を手に入れることになる。SD-WANとは、Software-Defined Wide Area Networkの略で、ソフトウェアによって仮想的なネットワークを作る技術、コンセプトで、定義された空間のネットワークではなく、サテライトオフィスのような広い地理的領域をカバーする。

今日の新しいシステムでは、単にソフトウェアで定義されたネットワーキングを行うのではなく、人工知能を使用してセッションやポリシーの詳細を必要に応じて自動化しているため、すべての状況に完全に適合するとは限らない静的なポリシーを扱うことができます。

買収を発表したブログ記事で、Juniperの執行副社長兼最高製品責任者のManoj Leelanivas(マノジ・レラニバス)氏は、レガシーな形態からAI駆動のモダンなネットワーキングへ移行しようとしている同社にとって128 Technologyは、Mistの買収と並んでポートフォリオに大きな柔軟性をもたらす、と述べている。

「128 Technologyの画期的なソフトウェアとJuniper SD-WAN、WANアシュアランス、Marvis Virtual Network Assistant(Mist AI駆動)を組み合わせることで、AI主導の完全なWAN運用への道筋が最も明確かつ迅速に見えてくる。カスタマイズ可能なサービスレベル(個々のユーザーまで)、シンプルなポリシーの実施、プロアクティブな異常検知、推奨される是正措置をともなう障害の隔離、自動運転のネットワーク運用、AI駆動のサポートなど、初期設定から継続的なAIOpsまできわめて多岐にわたる」とレラニバス氏はブログ記事で語っている。

Crunchbaseによると、128 Technologyは2014年に創業され、これまでに9600万ドル(約101億円)あまりを調達している。同社の最近のラウンドは3000万ドル(約31億7000万円)のシリーズDで、それは2019年9月にG20 VenturesとThe Perkins Fundのリードにより行われた。

4億5000万ドル(約475億円)の買収価額に加えてJuniperは128 Technologyに、オーナー企業の移行に際して既存社員の定着を図るために、ボーナスとしてつなぎ留め株式の発行を求めている。その株式をJuniperが正規に認めることも、買収の条件に含まれている。買収はJuniperの会計年度で第4四半期に完了し、規制当局の承認を待つことになる。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Juniper Networks買収SD-WAN

画像クレジット:zf L / Getty Images
原文へ
(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

偏見や不適切な語調を検知するAIスタイルガイドサービスWriterがシードラウンドで約5億円を調達

オンラインやオフラインの文書作成ツールで文章を書く人なら誰でも、スペルが間違っている単語や拙い表現の下に必ず出現するあの波線にすっかり慣れていることだろう。しかし、別の意味合いを含む言葉や、堅苦し過ぎる表現、または馴れ馴れしい表現を使ってしまった場合、あるいは、ある集団に対して今は使われなくなった呼称を使ってしまった場合はどうだろうか。Writer(ライター)は、文章を打ち込んでいるときに指定のスタイルガイドや価値基準から外れている言葉を入力すると、その場で警告してくれるサービスだ。そのWriterが最近、事業を拡大するために500万ドル(約5億3000万円)を調達した。

Writerのサービスを利用する個人も企業も、単に文法やつづりの誤りを検知する以上のレベルで、文章の質を向上させたいと願っている。もし、インクルーシビティ(包含性)を大切にすると主張する企業のプレスリリースや社内ブログに時代錯誤な考え方や偏見を示す表現が散見されたら、その企業がインクルーシビティを大切にしたいという思いはその程度のものなのだ、と示すことになってしまう。

Writerの創業者兼CEOのMay Habib(メイ・ハビブ)氏はこう語る。「企業は自分たちの発言を裏付ける行動をしようと躍起になっている。ユーザーとの接点があるすべての場所で、一貫性のあるメッセージを発信できるようになりたいと考えているためだ。そこでWriterは、配慮に欠けた言葉やネガティブに受け取られかねない表現が文章に含まれていた場合に、それを作成者に知らせるサービスを提供し、企業がブランドのガイドラインを設定するサポートをしている」。

企業が提供するコンテンツや公式なコミュニケーションにおいては普通のことになっているとはいえ、従業員が使う言葉を企業が指図するなんて少し不吉な感じがすることは否めない、というのが第一印象だろう。 しかし、今回注目したいのは、権力を振るうために言論を統制するという側面ではなく、意思伝達を完璧に行える人間は存在せず、誠実であるためには助けが必要であるという事実を認めることである。警察というよりも、物知りの天使が「その弁護士のことを『エキゾチック』と表現して大丈夫?」と耳元でささやいて教えてくれるようなものだ。

Writerがチェックする項目の一例。出典:Writer

我々は皆、言葉の使い方の点で数えきれないほどの失敗をするものだ。気づかれにくいものもあるが、だからといって人を傷つける可能性が低くなるわけではない。広報の現場では特に、特定の集団を表すために、こちらが真っ先に思い浮かべた名称ではなく、その集団が好む名称を使うことが重要である。このような情報について、Writerは、当事者のコミュニティから収集した最新のライブラリを備えている。中には、ここ数年の間に政治的に別の意味合いを含むようになったフレーズもあるが、それを知らなくても心配はいらない。Writerが代替案を教えてくれる。必要以上に性別を意識させる表現を使いたくないと考えて言葉遣いに配慮したくても、ところどころでミスしてしまうことは誰にでもある。そんなときも、Writerを使えばそのミスに気づくことができるし、先述される代名詞と関連づけて判断して、匿名の情報源を性別に結びづけずに言及できる。

Writerには、「ポリティカル・コレクトネス」に関する非難が付いて回るだろう。しかし、ハビブ氏は次のように説明する。「これは政治的に正しいかどうか以前の問題である。特定の生き方または在り方をしていて、特定の表現の使用を好む人々を尊重するかどうか、という問題なのだ。自分の居場所があると誰もが感じられるコミュニティを企業が築けるようにすること、当社はその手助けをしている」。我々がテクノロジー業界で繰り返し目にしてきたように、企業がある理念をどんなに熱く語っても、同じ企業がその理念とは相反する方法で従業員を扱っている、というのはよくある話だ。正直なところ、単に適切な言葉を使うだけというのは、スタート地点としてはハードルが低すぎるのではないかと思う。

Image Credits: Writer

しかし、Writerは単に要注意表現をリスト化して更新していくだけのサービスではない。Writerの中核であるNLP(自然言語処理)エンジンは、文章構造の複雑さ、段落の長さ、語調などにも深く配慮して開発されている。Writerにはそのような奥深い理解が必要である。「指摘するために下線を表示するだけでは不十分である。どの箇所をどの表現で置き換えるべきかを理解する必要があり、その表現を文章になじませる必要もある。これらはNLP上の難問だ」と、ハビブ氏は説明している。

そのため、WriterのNLPエンジンは、インクルーシビティに配慮した表現だけでなく、さまざまな役割に適応できる。例えば、通常のスペルミスや文法ミスに加えて、フォーマルさの度合い、能動態、「生き生きした表現」(これが何であれ、筆者にはないものだ)など、ブランドのイメージを決定づける上で役立ついろいろなメトリクスに対応できる。

もちろん、Writerで自社独自のスタイルガイドを使うこともできる。そうすれば、編集担当者は目を皿のようにして、メインタイトルにシリアルコンマが使われていないか、emダッシュの代わりに二重ダッシュが使われていないか、「email」とすべきところが「e-mail」になっていないかをチェックする必要がなく、そのブランドとして一般に認識されるような文体を保つための細かいルールで頭をいっぱいにする必要もない。

Image Credits: Writer

Writerでは、複数のスタイルガイドを切り替えて使用することや、アプリやサイトによってスタイルガイドの調整や無効化を行うことができる。そのため、社内メールとプレスリリースでガイドラインを使い分けることも、ブログ投稿とニュースレターとでスタイルを分けることもできる。

この分野で明らかに最大のライバルとなるのがGrammarly(グラマリー)だが、ハビブ氏は、Grammarlyも、増え続けるブラウザ内・アプリ内校正サービスも、技術的な面にフォーカスしていると考えている。Writerにとっては、個々の文書作成者のミスを防ぐことよりも、複数の文書作成者の間で一貫性を確保し、言語面で同じ総合基準を守りながら作業できるようにすることの方が重要な課題だ。

もちろん、セキュリティも重要である。どんなに便利なツールだったとしても、キー入力した内容がすべて記録されることを望む人はいない。ハビブ氏は、Writerは現時点でブラウザ用プラグインとしてローカルで実行され、WordまたはChromeへのみ統合が可能だが、他のアプリやサービスにも今後対応していくと慎重な言葉遣いで強調した。同氏は「そのようなアプリやサービスのデータがWriterのサーバーに保存されることも、メタデータが生成されることもない。処理はすべてテキスト領域で実行される」と説明している。Writer側に送信されるデータは、例えば「should of」を「should have」に、「illegal aliens」を「undocumented immigrants」に修正したなど、提示された修正案が使用されたという事実のみだという。このモデルをトレーニングするためにユーザーのデータが使用されることはなく、修正そのもの以外のコンテンツがWriterに送信されることも、Writerのサーバーに保存されることもない。

Writerは現在、ベーシック版は1ユーザーあたり毎月11ドル(約1200円)で利用できる(もちろん、無料トライアル期間が必ず付いてくる)。複数のスタイルガイドが使用できて、盗用検出などの機能が使えるエンタープライズ版もあるが、利用料金は不明だ。また、対応している言語は英語のみである。もちろん、他の言語でもこのサービスのニーズはあるが、NLPモデルの奥深さと、同モデルが認識する表現がその言語において持つ特異性を考えると、他言語への展開は簡単にはいかない。例えば、スペイン語や韓国語に対応するには、まったく新しい製品を開発する必要があるだろう。そのため、現時点では英語のみの対応となっている。

Writerは創業して間もない企業で、NLPエンジンを(GitHubリポジトリで対ユーザー言語をモニタリングするという取り組みを前身として)18か月間、まるでステルスのようにひっそりと開発してきた。Upfront Ventures(アップフロント・ベンチャーズ)、Aspect Ventures(アスペクト・ベンチャーズ)、Bonfire Ventures(ボンファイア・ベンチャーズ)、Broadway Angels(ブロードウェイ・エンジェルズ)がリードしたシードラウンドで調達した500万ドル(約5億3000万円)が、同社のさらなる事業拡大を後押しすることは間違いない。同社の顧客にはすでに一流の有名企業が名を連ねている。その実績と今回の資金調達のおかげで、しばらくは安泰だろう。

関連記事:日本語に特化したAI文字起こしサービス「Rimo Voice」が登場、1時間の保存音声を最短5分でテキスト化

カテゴリー:人工知能・AI

タグ:資金調達 自然言語処理

[原文へ]

(翻訳:Dragonfly)

東大発AI企業の日本データサイエンス研究所(JDSC)がシリーズBラウンドで29億円超を調達

東大発AI企業の日本データサイエンス研究所(JDSC)がシリーズBラウンドで29億円超を調達

UPGRADE JAPANをミッションとして掲げる東大発AI企業の日本データサイエンス研究所(近日中に「JDSC」に変更予定)は10月19日、第三者割当増資で約26億円と、当座貸越契約(デットファイナンス)の締結による約3億円の枠を合わせ、総額で約29億円超の資金調達を実施したと発表した。

第三者割当増資の引受先は、未来創生2号ファンド(スパークス・グループ)、東京大学エッジキャピタルパートナーズ、ダイキン工業、中部電力、SMBCベンチャーキャピタル、みずほキャピタル、三菱UFJキャピタル、複数名の個人投資家。借入先は、三井住友銀行、りそな銀行。これにより、創業2年強での累計資金調達額は、約33億円となる。

今回調達した資金は、現在のパートナーシップの大型化にともなうチーム拡充、ソリューションの多様化・安定化への対応、新たなパートナー企業とのDX推進/AI実装の案件獲得に備える。今後は、専門性の高いデータサイエンスやエンジニアリングの技術人材・豊富な経験を有するビジネス人材の登用、DX/AIソリューションの開発、新領域へのR&D投資などを強化する。

JDSCは数多くの産業のリーディングカンパニーと強固なパートナーシップを結び、共同でDX推進/AI実装を実施。これら連携の中で、需要予測ソリューション(demand insight)や電力データを活用したフレイル検知(要介護予兆の特定)、不在配送回避のソリューションなど産業共通の課題を解決する幾つものソリューションを創出している。

JDSCのアプローチの特徴は「再現性の高さ」にあるという。これは、AIアルゴリズム構築やシステム実装といった技術的知見を有するメンバーと、AI活用にyる具体的な解決策の提示や難易度の高いDXプロジェクト執行といったビジネス面の能力を有するメンバーを擁することで担保しているとした。

こうした背景から、技術知見とビジネス知見の双方を兼ね備えたAIベンチャーとして、多くのリーディングカンパニーとプロジェクトを推進するに至り、今回の資金調達にもつながったとしている。

東大発AI企業の日本データサイエンス研究所(JDSC)がシリーズBラウンドで29億円超を調達

カテゴリー: 人工知能・AI
タグ: JDSC資金調達日本

ビジュアルデータを管理、アノテートに特化したAIデータ管理プラットフォームのDataloopが約11.55億円を調達

データセットのアノテートなど企業のAIプロジェクトに使われるデータのライフサイクル全般の管理を専門とするテルアビブのスタートアップ、Dataloopが米国時間10月14日、これまでの合計で1600万ドル(約16億8500万円)を調達したことを発表した。これは未発表だったシードラウンドの500万ドル(約5億3000万円)と、最近完了したシリーズAの1100万ドル(約11億5500万円)の合計だ。

シリーズAを主導したのはAmiti Venturesで、ほかにF2 Venture Capital、クラウドファンディングプラットフォームのOurCrowdNextLeap VenturesSeedIL Venturesが参加した。

DetaloopのCEOであるEran Shlomo(エラン・シュロモ)氏は「データのラベリングが制限されていることやリアルタイムで検証するには人間がシステムに入力する必要があることから、多くの組織がAIと機械学習のプロジェクトを最終版に移行するのに苦戦しています。今回の資金で我々はパートナーとともにこうした障壁を取り除き、グローバル市場でAI業界を変えイノベーションのための需要増に対応できる次世代のデータ管理ツールを提供することに努めます」と述べた。

基本的にDataloopは企業のビジュアルデータを管理しアノテートすることに特化している。どのような業界が顧客になるかはまだ定かではないが、ロボティクスやドローンから小売業、自動運転まで、あらゆる業界が対象になると考えられる。

プラットフォーム自体は「人間参加型」モデルを中心としている。これは自動化されたシステムを補完するモデルで、必要に応じて人間がモデルをトレーニングし修正できる。ホストされているアノテーションプラットフォームを開発者向けのPython SDKやREST APIと組み合わせ、データフローを自動化するKubernetesクラスタ上で動作するサーバーレスのFunctions-as-a-Service環境もある。

Dataloopは2017年に創業した。同社は新たに調達した資金で、イスラエルのスタートアップでよく見られるように欧米市場での成長を目指す。またエンジニアリングチームの強化も図る。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Dataloop資金調達イスラエル機械学習

画像クレジット:Dataloop

原文へ

(翻訳:Kaori Koyama)