【編集部注】執筆者のNeil Haranは、エンジェル投資家で暗号通貨の提唱者。
投機筋がBitcoin市場やその他の代替通貨市場に早くから参入し、大きなリターンを狙っている一方で、一般の消費者に関しては、まだ暗号通貨を受け入れる準備が整っていない。
その理由はさまざまだが、暗号通貨の普及を妨げている大きな壁のひとつがボラティリティだ。
そもそもなぜ暗号通貨の価格はあんなに大きく変動するのだろうか?その究極的な理由は需要と供給に関係している。ほとんどの暗号通貨では流通量の上限が決まっているものの、投機的な動きのせいで需要が常に大きく変化しているのだ。
もちろん問題について語るのは簡単だが、重要なのはその解決策を模索することだ。
価格を安定させることの大切さ
価格の安定は、暗号通貨以外でも重要なことだ。どんな通貨であっても、等価交換を行う手段としての信頼を勝ち取るためには、その価値が安定していなければならない。価格の上下が大きいほど、普通の人が日常生活でその通貨を使う頻度は下がるのだ。
値上がりを期待して持っておくにしろ、値下がりを不安視して使わないようにするにしろ、そもそもまだ一般の人は暗号通貨を本当のお金として見ていない。
さらに価格の不安定さが、送金や為替、ATMの利用など通常の金融サービスにも悪影響をおよぼすため、暗号通貨を扱う企業は法外な手数料をとってリスクをヘッジしなければいけないのだ。
BitcoinのATMの中には、現金化に最大15%の手数料をとっているものさえある。これは、従来の決済手段よりも低コストで柔軟性のある通貨を作ろうという、暗号通貨の理念と矛盾してしまっている。公式通貨よりもメリットがなければ、一般の人は暗号通貨を使おうとさえ思わないだろう。
忍耐は美徳
価格のボラティリティは、Bitcoinの誕生直後から大きな問題だった。既にBitcoinの誕生から10年弱が経過しているにもかかわらず、なぜボラティリティへの対策が講じられていないのだろうか?
これには、他の分野でも往往にしてそうであるように、人間の性質が関わっている。市場を操り、出来るだけ高い金額で手持ちの通貨を売り抜こうとしている人がいる限り、価格を安定させるのは難しいのだ。新しい暗号通貨をリリースする前から価格の安定化について入念に計画していないと、いざ投機筋に目をつけられたときにどうしようもなくなってしまう。
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フェーズ1;安定したエコシステムの構築
ゼロから暗号通貨をつくるときは、まずしっかりとした土台を築かなければいけない。そうすれば後から手を加えなくても、その通貨は自ら軌道修正しながら成長していく。
需要測定
大きなパズルの1ピース目となるのが、確実な需要の測定だ。価格変動の主な原因は、需要の不透明さにある。他人の思いとは推し量るのが難しいものなのだ。自分がつくろうとしている通貨の実質的な需要を計測する手段があれば、問題解決にグッと近づくことができる。
その一方で、需要を測定する上で問題になってくるのが、投機筋のつくりだす人工的な需要だ。これこそ価格変化の問題の根本なのだ。投機的な動きが増えてくると、暗号通貨の価格に実需が反映されなくなってしまう。その結果、いつ破裂するかわからないバブルが生まれ、誰も汗水垂らして稼いだお金を暗号通貨につぎ込もうとは思わなくなる。
既存の通貨では、各地の中央銀行が価値の安定化に関わってきた。彼らは通貨の供給量を変化させることで、価格をコントロールしているのだ。しかし、暗号通貨は非中央集権的な性質こそが売りであるため、ボラティリティの問題を解決するためには、中央銀行に取って代わる全く新しいアプローチを取らなければいけない。インフレに頼らず、ユーザーの自由を損なうこともないような方法だ。
競争よりも協力:非中央集権的なコミュニティ
「団結すれば立ち、分裂すれば倒れる」
人々が協力し合うのを促すような通貨が存在すればどうなるだろうか?私欲ではなく、コミュニティの成長がインセンティブの根源にあるとすればどうだろうか?理想的なモデルでは、協力的な事業やサービスのネットワークが、ひとつの共同体としてお互いに作用し合い、通貨はこの協力関係によって形作られることになる(コントロールされるのではなく形作られるのだ)。そうすれば、人々はネットワーク全体が成長することにインセンティブを見出すようになり、さらにブロックチェーン技術を使えばそのプロセスを公平なものにできる。
また、各ユーザーはオンライン上での投機的な動きをとる代わりに、地元の取引所を訪れて通貨を売買するようになるだろう。そして通貨の価値を上げるかどうかはコミュニティ全体で決める。そうすれば、民主的なプロセスをとりながら、同時に通貨価値が急激に上下するのを防ぐことができるのだ。
公式取引所
取引の段階で、実際に人と会わなければいけないとなると、人間の心理には大きな変化が起きる。公式な場所での直接取引が必要となれば、自然と売買のボリュームが制限されるだけでなく、実需の計測も楽になる。”前線”にいる人たちが取引の様子を見てから、価格の引き上げに関する投票を行えばいいのだ。さらに、すぐには潰れないであろう取引所があれば、ユーザーはどこであれば通貨を売買できるのかと考えあぐねる必要がなくなり、ネットワーク全体に一貫性が生まれる。
経済的な側面以外にも、取引所の設立にはメリットがある。暗号通貨の評判は、悪意を持った人たちのせいもあり、一般的にあまりよくない。しかし取引のほとんどが対面で行われているコミュニティであれば、非倫理的または非合法の企業が自然と追い出されることになるため、通貨の信頼性自体も高まっていく。もちろん悪徳企業を立ち上げることは不可能ではないが、そのような企業がコミュニティに参加できる可能性はないだろう。
オンラインよりもオフライン
このようなアプローチがうまく機能するためには、実在する取引所の数がオンライン取引所よりもずっと多くなければなれない。そういう意味では、取引所が通貨の価値を決めているといっても過言ではない。
早期のマーケティングは控える
マーケティングは強力なツールだが、それゆえに慎重に扱わなければいけない。もちろんファウンダーは出来るだけ早い段階でお金を集めたいと考えている。お金が集まれば、暗号通貨の価格が上昇し、インフラコストをカバーでき、コミュニティの成長も加速する。その一方で、これまでの様子を見る限り、誕生間もない暗号通貨に投資している人たちの質は極めて低い。投機筋である彼らは、通貨の未来を潰し、一般ユーザーをその通貨から遠ざけてしまう。
投機的な動きに対抗して通貨を安定させるには、資本注入という手があるが、これはかなり大掛かりなものになる可能性がある。例えば、Bitcoinの時価総額は約200億ドルと言われており、価格を安定させるには膨大な量のお金が必要になる。
「慎重かつ確実に」こそが勝利の法則
暗号通貨というものが誕生してからまだそれほど時間が経っていないこともあり、主要な暗号通貨がどのような方向に進もうとしているのかはハッキリしない。彼らが目指す”ゴールライン”とは何なのだろうか?その先には何があるのだろうか? ほとんどの暗号通貨について、市場の気まぐれな動き以外には特にこれといった指針がないため、それぞれがどこを目指しているのかは知る由もない。しかし中には、いくつかの戦略をもとに、ある一定の方向へ進もうとしている通貨も存在する。
セントラルアプリ戦略
この戦略は、通貨に関連したユニークなサービスや製品を使って価値を生み出そうというものだ。つまり、通貨の価値は人々が実際に欲しがるモノで支えられることになる。
例えばMaidSafeは、暗号通貨を使ってユーザーがネットワーク全体にとって有益なモノ(=ストレージスペース)を提供するインセンティブを与えているほか、さまざまなアプリやサービスをユーザーに提供している。この仕組みのもとでは、自然とユーザー同士が協力するようになる。というのも、通貨の価値をあげるため、各ユーザーは自分たちのリソースや労力を投入し、通貨の価値に直結するサービスの価値を高めようとするからだ。
土台構築戦略
これはセントラルアプリ戦略とも似ているが、まずユーザベースを確立し、その後に通貨を導入するというやり方だ。Bitsharesやその関連企業が、この手法をとっている組織の好例と言える。SteemitのSTEEMやPeerplaysのトークンなど、複数のネットワークがそれぞれの通貨を持ち、徐々にユーザーを獲得しながら等価交換のシステムをこれまで築いてきた。現在彼らは、Bisharesと共に全てのネットワークを通して使える中心的な通貨をつくろうと計画している。この戦略をとれば、個々のネットワークでそれぞれの土台を作ってから、全体のリソースを統合することができるのだ。
草の根戦略
最後に、暗号通貨にとって極めて重要な真摯なユーザーが集う基盤を築くためには、自己資金でネットワークを創り上げるのが1番だ。そして通常のスタートアップのように、これを実現するためには共通のミッションを信じているユーザーベースが必要になる。ネットワーク内の全員がその通貨に固有の価値を見出し、通貨の価値が時間と共に高まっていくと思えなければいけないのだ。
FairCoinはそんな草の根運動を通して自分たちのネットワークを築いてきた通貨のひとつだ。この通貨をつくったFairCoopは、ユーザーが最大限のメリットを受けられるように、参加企業が協力し合うようなエコシステムをつくろうと考えていた。FairCoinはユーザーが短期的な欲望よりも長期的な利益を優先するのを促すような仕組みを念頭につくられた通貨だ。つまり、ユーザーは正しいから長期的な利益を優先するのではなく、自分にとって利益があるからそうしているのだ。
またFairCoinは、設立当初から一般ユーザーを想定してインフラを構築してきた。コミュニティに属するメンバー間の繋がりがとても強いからこそ、FairCoopは何千台というATMを設置でき、デビットカードや両替サービスを揃えることができた。このようなサービスが揃っていれば、一般の消費者も暗号通貨を利用しやすくなる。
この戦略をとれば、暗号通貨は投機筋の集中砲火を浴びることなく、ゆっくりとユーザーベースを拡大していくことができ、はじめから通貨の価値を安定させることができるのだ。ただしFairCoinがそうであるように、自己資本でネットワークを運営していくとなると、他の通貨に比べて少ない資本で戦っていかなければならない。そのため、(投機的な動きの結果)人工的に吊り上げられた価格をもってCoinMarketCap上で名を上げることはできない。
つまり、FairCoinはボラティリティや欲望によって巻き起こる盛り上がりの代わりに、先を見据えた静かな成長戦略をとったのだ。この戦略の唯一の問題点は、なかなか人の目に入りづらいということ。結局のところ、ドラマが人の注目を集めるのだ。
ハードフォーク
近い将来起こると言われている、Bitcoinのハードフォークについて考えてみよう。まるで複雑な事情など関係していないかのように、現在Bitcoinは競合し合うふたつの暗号通貨に分裂しようとしている。既にBitcoinは、一般に普及する上での障壁となる技術的な問題を抱えているにも関わらず、ここに新たな問題が加わろうとしているのだ。ハードフォークが先に見えていることで、Bitcoinのボラティリティがさらに高まり、状況を悪化させている。どんな通貨にとってもボラティリティは毒のような存在だ。
その一方で、強固なブロックチェーンと大規模で協力的なコミュニティが存在すれば、ハードフォークが発生する可能性は低くなる(そもそもハードフォークの必要性もない)。MaidSafeやBitshares、FairCoinのようなコミュニティでは、一攫千金を狙った動きよりも協力的な動きが促進されているため、各通貨はそれぞれのネットワーク内で、市場価格よりも実質的に高い価値がつく可能性がある。
このような状態にある通貨であれば、ユーザーにはコミュニティから抜け出すインセンティブがほぼなくなる。というのも、ハードフォークが起きるとユーザーが他者と協力し合うことで享受できていたさまざまなメリットが無くなってしまうため、彼らはその通貨のもともとのビジョンに忠実にあろうとするのだ。つまり、欲望ではない深い気持ちで繋がっているコミュニティでは、ハードフォークが発生する可能性は低くなるということだ。
まとめ
安定した通貨価値とは、偶然の産物でもなければ、市場で起きる奇跡でもなく、綿密な基盤づくりがあってこそ生まれるものなのだ。そして安定的な通貨には、エコシステムの安定が欠かせない。
十分な資金があれば、通貨にとって重要な初期段階にその価値を引き上げるられるため、なるべく早く自分たちの通貨を世に知って欲しいという気持ちもわかるが、そこはぐっとこらえた方が良い。広告を打つというのは、パンドラの箱の中身を世界中に披露するようなものだ。中には純粋にその通貨に興味を持つ人もいるだろうが、ただそのシステムに寄生しようとしているだけの投機筋もいる。さらに通貨価値を安定させるためには、少数の投資家だけでなく、”ほぼ全員”がその通貨を利用するようにならなければいけない。
通貨は人の前を通り過ぎるのではなく、人と共に成長していかなければならない。Bitcoinの現状とその膨れ上がった価格について考えてみてほしい。一般消費者は自分たちでBitcoinを採掘することができなければ、高い手数料やリスクなしには日常的な取引で同通貨を使うことさえできない。Bitcoinは投機筋によって支えられているネットワークなのだ。
逆に本当に安定している通貨であれば、ユーザーは両替や送金、ATMでの引き出しといった金融サービスを従来の通貨よりも安い手数料で利用することができる。つまり、暗号通貨が狙い通り(お金として)の機能を果たすことができるのだ。これこそが一般大衆の支持を獲得し、彼らが従来の通貨から暗号通貨に切り替えるのを促進するカギとなる。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)