波紋を呼んだアルツハイマー病治療薬「Aduhelm」への承認を皮切りに、米FDAの迅速承認経路への保健福祉省による審査開始

米国保健福祉省の監察総監室(HHS-OIG)は米国時間8月4日、米食品医薬品局(FDA)の迅速承認プロセスについての調査を開始すると発表した。Biogen(バイオジェン)が開発したアルツハイマー病治療薬「Aduhelm(アデュヘルム)」に対する承認が物議を醸してから、わずか2カ月後のこの事態である。

この審査では、FDAの迅速承認経路(既存の治療法がない重篤な疾患の治療薬が、サロゲートエンドポイントと呼ばれる一定の中間ベンチマークを達成すれば承認される経路)に焦点が当てられる予定だ。こういった薬剤は臨床的に有用であると考えられていても、その有用性が実際に証明されていない状態での承認となり、承認後には第Ⅳ相試験で臨床効果を実証する必要がある。

アルツハイマー病治療薬として2003年以来初めて承認され、大きな議論を呼んだAduhelmは、この経路によって承認された。そしてこの承認に対するHHS-OIGの審査プロセスが動き出したことが、監察総監室の8月4日の発表で明らかになったというわけだ。

関連記事:大論争の末、2003年以来初のアルツハイマー病治療薬を米食品医薬品局が承認

発表文には次のように記されている。「FDA内での科学的論争、諮問委員会による承認反対票、FDAと業界間の不適切な密接関係への疑惑、FDAによる迅速承認経路の使用などの理由により、FDAによるAduhelmの承認に対する懸念が生じています」。

「こういった懸念に対応し、FDAが迅速承認経路をどのように実施しているのかについて評価を行なっていきます」。

FDAはこの経路によるAduhlemの承認決定について防衛的な構えを見せているが、この薬の有効性やそもそもどのようにして承認されたのかという経緯については大きな反感が持たれている。

「Aducanumab(アデュカヌマブ)」としても知られるAduhelmは、脳内のアミロイド斑(脳細胞間のコミュニケーションを阻害する粘着性化合物)を減少させることができると実証されている。しかし、アミロイド斑を減らすことでアルツハイマー病の最も悪質な症状である認知機能の低下を実際に遅らせることができるかどうかは不明であり、実際に患者がこれによるメリットをどの程度得ることができるのかについては疑問が残っている

2019年3月、この薬に対する2種の第Ⅲ相臨床試験が実施されたが、独立監査委員会がこの薬が患者の認知機能の低下率を改善していないと判断したため中断されている。しかし、Biogenが10月に行った別の分析では異なる結果が得られており、1つの第Ⅲ相臨床試験では認知機能の低下の改善が見られなかったが、もう1つの試験では最高用量を投与された患者にわずかな効果が見られている。

2020年11月、FDAの独立諮問委員会はこの薬への承認支持を拒否。しかし2021年6月、この薬はどういうわけだか承認されたのである。

Aduhelmが承認されたことで、製薬業界ではFDAがバイオマーカーに基づいた承認を拡大するのではないかという楽観的な見解が広がった。しかし、このような楽観的な見方は科学コミュニティの大方の意見とは違っていた。

承認に反対していた独立諮問委員会の3名の委員が、抗議のために辞任するという事態に発展。またデータに一貫性がないとして、マウントサイナイ医科大学やクリーブランド・クリニックなどの主要な病院システムが、この薬を処方しない意図を表明したのだ。

Aduhelmの承認を巡っては、承認に至るまでのFDAとBiogenの関係性が特に密接であったのではないかとの疑惑が議論の中心となっている。STATが最初に報じたところによると、Biogenは規制当局を説得するための「Project Onyx」と呼ばれる社内活動を開始し、最終的には一部のFDA職員が外部の専門家の前で同社との共同プレゼンテーションを行うなど、薬の承認に対して積極的な役割を果たしている。

FDA長官代理のJanet Woodcock(ジャネット・ウッドコック)氏は、7月9日の書簡でHHS-OIGに対し、BiogenとFDAの関係性を調査するための外部調査を行うよう求めた。

「メーカーと当局の審査担当者との間で生じたやりとりが、FDAの方針や手順と矛盾していなかったかどうかを判断するには、独立した機関による評価が最善の方法であると考えています」と同氏はTwitterに書き込んでいる。

HHS-OIGによる今回の調査は、Aduhlemの問題に端を発しているものの、今回のレビューはAduhlem(あるいは他の医薬品)の科学的根拠を検証することに重点を置いておらず、むしろFDAがどのようにして、いつ、製薬会社に迅速承認を行うのかを評価するための、迅速承認に関する全体的な監査を行うためのものである。

HHS-OIGは今度、FDAと外部関係者間のやりとり、方針や手続きを検討し、FDAがそれらの手続きを遵守しているかどうかを調査。またAduhelmのレビュープロセスを対象とするだけでなく、他の医薬品の承認に対しても、この経路がどのように使用されてきたかを調査する予定だ。

また、ウッドコック氏はTwitterでの声明内で、FDAはHHS-OIGのレビューに対して「完全に協力する」と伝えている。

「HHS OIGが実行可能な項目を特定して何らかの提言を行った場合、FDAはそれを迅速に検討し、最善策を決定します」と同氏。

また、アルツハイマーの治療薬を開発している他の企業にとっても、この経路は魅力的な選択肢となっているため、今後の動きは治療薬の行先に大きな影響を与える可能性がある。

例えばEli Lilly(イーライリリー)は「Donanemab(ドナネマブ)」というアルツハイマー病治療薬を開発しており、この薬がアミロイドなどのバイオマーカーを低下させ、患者の改善につながることを示す第II相試験の結果を発表している。しかしこの結果の大部分は個々の患者の治療結果ではなく、アルツハイマー病のバイオマーカーに対する薬の有効性を示すものとなっている。

Eli Lillyのシニアバイスプレジデント兼チーフ・サイエンティフィック・メディカル・オフィサーのDaniel M. Skovronsky(ダニエル・M・スコブロンスキー)氏は、先に行われた第2四半期の決算説明会で、FDAによるAduhelmの承認は「政策の転換を反映し、米国におけるアルツハイマー病治療薬の承認に新たな道筋をつけるものである」と述べ、同社が年内にはFDAの迅速承認経路を利用してDonanemabの承認を申請する意向であることを明らかにした。

これは、これから正にHHS-OIGが調査を行おうとしている経路そのものである。

しかしすぐに結果が出るわけではない。「政策の転換」を利用しようとする将来のアルツハイマー病治療薬メーカーに今回のニュースがどのような影響を与えるかは不明である。この報告書は2023年に発表される予定だ。

関連記事
HACARUSと東京大学がアルツハイマー病やパーキンソン病の治療法開発を目指すAI創薬研究を開始
開発期間も費用も短縮させるAI創薬プラットフォームのInsilico Medicine、大正製薬も協業
AI創薬のMOLCUREが総額8億円調達、製薬企業との共同創薬パイプライン開発やグローバルを主戦場とした事業展開を加速
画像クレジット:Grandbrothers / Getty Images

原文へ

(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

睡眠中の脳卒中も早期に警告、治療開始までの時間を短縮するZeitのウェアラブルデバイス

脳卒中のリスクがある人は、進行中の脳卒中の兆候に常に注意を払っているが、寝ているときに注意を払うことは誰にもできない。つまり、何千人もの人が「目覚めたときの脳卒中」に見舞われ、数時間後にようやく判明するということだ。Zeit Medicalが開発した脳モニタリングウェアラブルは、脳卒中の兆候を早期に発見して病院に搬送することで、脳卒中によるダメージを軽減し、命を救うことができる。

数十年前までは、脳卒中の患者を助けるためにできることはほとんどなかった。しかし、90年代には有効な薬が使われるようになり、その少し後には外科手術も行われるようになったのだが、それらはいずれも脳卒中発症後数時間以内に処置する必要がある。

Orestis Vardoulis(オレスティス・ヴァルドゥリス)氏とUrs Naber(ウルス・ネーバー)氏は、脳卒中に関する911コールから被害者が必要な治療を受けるまでの時間を短縮するために、多くのリソースが使われているのを知り、Zeit(ドイツ語で「時間」の意)を立ち上げた。同社は、Y CombinatorのSummer 2021グループに参加している。

「以前は何もできなかったが、突然、いかに早く病院に行けるかが重要になってきた」とネーバー氏は語る。「脳卒中になると、すぐに脳が死滅し始めるため、時間が最も重要だ。911番通報から搬送までにかかる時間、そして病院の扉を開けてから治療にあたるまでの時間を短縮しようと多くの人が力を注いできたが、誰も911番通報の前に起こる時間には対応していない。だから、イノベーションが必要な分野だと思った」。

本人が気づかないうちに脳卒中を発見できれば、救急車が呼ばれるよりもずっと前に、本人や周囲の人に警告して病院に搬送することができる。しかし、これを実現するためには、手術室での作業が必要となる。

EEG信号の特性が変化した場合、このアルゴリズムによってすばやく検出することができる(画像クレジット:Zeit)

手術を行う外科医や看護師は、患者のバイタルを注意深く観察し、脳波から脳梗塞の兆候を見極めることができる。

「脳波には特定のパターンがあり、彼らはそれらを目で捉えられるように訓練されている。私たちは、最も優秀な神経学者から、彼らがこのデータをどのように視覚的に処理するかを学び、それを自動的に検出するツールを作った」とヴァルドゥリス氏はいう。「この臨床経験は本当に役に立った。というのも、彼らが信号内の特徴を定義付けするのを助けてくれたおかげで、何が重要で何が重要でないかを決定するプロセスの進行を加速させることができたからだ」。

チームは、脳からの関係する信号をモニターするコンパクトなEEGを内蔵した、柔らかいウェアラブルヘッドバンドを作った。このデータがスマートフォンのアプリに送られ、前述のパターンで訓練された機械学習モデルによって分析され、何かが検出されると、ユーザーと事前に指定した介護者にアラームが送られる。また、自動的に911に通報するように設定することもできる。

「私たちが分析したデータの大部分は手術室から出てきたものだ」とヴァルドゥリス氏は語る。このデータをすぐに整合性チェック用データと照合することができる。「その結果、手術室で発生した事象を偽陽性ゼロで確実に捉えることができるアルゴリズムがあることがわかった」。

この結果は、複雑な変数が少ない家庭でも活用できるはずだとのこと。それを実験するために、すでに一度脳卒中にかかったことのある、ハイリスクと言われる人たちのグループと協力して進めている。脳卒中やそれに関連する症状(臨床的にはさまざまなカテゴリーに分類される)が発生した直後の数カ月間は、2回目が多発する危険な時期だ。

画像クレジット:Zeit

「現在、ヘッドバンドと携帯電話をセットにした研究用キットを、研究に参加している人たちに届けている。ユーザーは毎晩それを装着している」とヴァルドゥリス氏はいう。「我々は、2023年のどこかのタイミングで商業化できるような道筋を準備しているところだ。この認可を得るために必要な臨床証明を明確にするため、現在FDAと協力して動いている」。

脳卒中のリハビリテーションを行うBrainQと同様に、彼らのものも「画期的なデバイス」の分類に位置づけられており、試験や認証を迅速に進めることができる。

「まずは米国での販売を開始するが、世界的にもニーズがあると考えている」とネーバー氏はいう。「高齢化がさらに進み、障害者介護のサポート体制がさらに整っていない国もある」。このデバイスは、これまで定期的に病院に通わなければならなかった多くの人々にとって、在宅介護や障害者介護のリスクとコストを大幅に低減することができる。

現在の計画では、データと協力してくれるパートナーを集め続け、大規模な研究を準備することになっている。この研究は、このデバイスを直販から、費用払い戻しの適用(保険適用など)の対象にするために必要なものだ。また、現在は脳卒中に焦点を当てているが、このメソッドは他の神経疾患の検査にも応用できるはずだ。

「将来的には、脳卒中のリスクがある人全員にこのデバイスが支給されるようになることを期待している」とヴァルドゥリス氏は述べている。「私たちは、このデバイスが脳卒中の治療において現在欠けているパズルのピースであると考えている」と述べている。

関連記事



画像クレジット:Zeit

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Akihito Mizukoshi)

音楽を利用して脳卒中患者の歩行能力を改善させるMedRhythms

MedRhythms(メドリズムス)は、神経系の損傷や病気を患った人の歩行能力を測定し、改善することを目的としたデジタル治療プラットフォームの開発を進めるために、2500万ドル(約27億4000万円)の資金をシリーズBラウンドで調達した。

このラウンドは、Morningside Ventures(モーニングサイド・ベンチャーズ)とAdvantage Capital(アドバンテージ・キャピタル)が共同で主導し、以前から出資していたWerth Family Investment Associates(ワース・ファミリー・インベストメント・アソシエイツ)も参加。メイン州ポートランドを拠点とする同社は、これまでに3100万ドル(約34億円)の資金を獲得している。

共同設立者でCEOのBrian Harris(ブライアン・ハリス)氏は、ボストンのSpaulding Rehabilitation Hospital(スパルディング・リハビリテーション病院)で神経学的音楽療法の研究者として、脳卒中患者や脳の障害を持つ人々に音楽を使った治療を行っていた。そこでハリス氏は、患者やその家族から、病院外で同様の治療を受けるにはどうしたらよいかという質問を受けるようになった。適切な代替手段が見当たらなかったため、2016年にハリス氏は起業家のOwen McCarthy(オーウェン・マッカーシー)氏とともにMedRhythmsを起ち上げた。

同社のプラットフォームは、センサー、音楽、ソフトウェア、そして「リズミカルな聴覚刺激」という根拠に基づく介入を用いて、運動を制御する神経回路に働きかける。この技術は、脳の聴覚システムと運動システムが外部のリズミカルな手がかりに同期して結合するという神経学的プロセス「エントレインメント(引き込み現象)」を利用することで、時間の経過とともに歩行機能の改善をもたらす。

「音楽ほど脳を活性化させる刺激は他にありません」とハリス氏はいう。「音楽に夢中になっている時には、神経可塑性が新しい結合を作り、古い結合を強化することを助けます。神経可塑性によって私たちは新しいことを学び、脳に障害がある人は回復することができるのです」。

MedRhythmsの製品サイクル(画像クレジット:MedRhythms)

1年前、MedRhythmsのデジタル治療製品は、脳卒中による慢性的な歩行障害を治療するとして、米国食品医薬品局(FDA)からBreakthrough Device(ブレイクスルー・デバイス)指定を受けた。これは、パーキンソン病、急性脳卒中、多発性硬化症などの神経疾患の治療に、音楽を使用することに注目している同社のパイプラインにおける最初の製品でもある。そのために、同社はMassachusetts General Hospital(マサチューセッツ総合病院)と、ニューロイメージング(脳機能イメージング)の研究を行っている。

ハリス氏は、今回のシリーズBで調達した資金を、製品の市場投入やチームと治療パイプラインの拡張に充てたいと考えている。同社ではこの技術を商業化し、臨床試験を開始するために、FDAへの申請を準備しているところだ。

Morningsideの投資パートナーであるStephen Bruso(スティーヴン・ブルーソ)氏は、MedRhythmsのチームを1年前から知っていたと語っている。デジタルヘルス分野に積極的に取り組んでいるMorningsideは、それ以来、MedRhythmsに注目していたという。

新型コロナウイルスは、ヘルスケアの提供の仕方を根本的に変えた。これまでの病院や診療所で治療を受けるという形は、強固だが変化に抵抗するものだったと、ブルーソ氏はいう。しかし、新型コロナウイルス感染流行によって在宅での遠隔医療を余儀なくされ、それはまた、医療業界に革新をもたらすことになった。在宅療法は、患者のコンプライアンスと回復の両方において改善の余地があるとブルーソ氏は期待しており、MedRhythmsは治療を家庭に移行させるという最近の風潮を利用している。

この2〜3カ月の間に、Morningsideが興味をそそられたのは、医薬品以外の方法で脳に影響を与えるという発想だった。

「音楽的な介入によって神経学的な変化や改善を促すというMedRhythmsのやり方には説得力があります」と、ブルーソ氏はいう。「感情的な記憶は音楽と結びついていることがあります。音楽によって薬を飲むよりも豊かな体験ができる。そのためにこの会社は存在しているのです」。

関連記事
小型の超音波デバイスを商用化しすべての医師に渡したいExo
排泄予測デバイス「DFree」法人版とIoTゲートウェイ「obniz BLEゲートウェイ」がタッグ、介護施設などに導入開始
保育施設で紙おむつが使い放題になるサブスク「手ぶら登園」を手がけるBABY JOBが約5億円の資金調達

カテゴリー:ヘルステック
タグ:MedRhythms資金調達歩行音楽遠隔医療

画像クレジット:Hiroshi Watanabe / Getty Images

原文へ

(文:Christine Hall、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

米FDAが脳血管内手術で利用されるステントを応用した脳コンピューター接続デバイス「Stentrode」の臨床試験を許可

米食品医薬品局が脳梗塞の治療などに利用されるステントを応用した脳コンピューター接続デバイス「Stentrode」の臨床試験を許可

Synchron

米食品医薬品局(FDA)が、埋込型の脳コンピューターインターフェース(BCI)の臨床試験に許可を出しました。

この脳コンピューターインターフェース”Stentrode”を開発するSynchron社は、今年後半にもニューヨークにあるマウントサイナイ病院で6人の被験者を対象として、早期実現可能性を確かめる試験をに開始する予定です。なお、Synchronは「重度の麻痺を持つ患者に対する安全性と有効性」を評価するとのこと。

脳コンピューターインターフェースというワードを見れば、Engadget読者の方々ならあのイーロン・マスクが設立したNeuralinkはどうしたと思うかもしれません。

Neuralinkは2020年に脳埋込デバイスLinkを発表し、今年春にはそれを埋め込んだサルがゲームをプレイする様子を動画で公開するなど、技術開発が着々と進んでいることをアピールしていました。

しかしBCIのような人体に作用する器具を米国で販売するには、FDAに対して機能と安全性を示し、認可を得なければなりません。米国で先に臨床試験にたどり着いたのはNeuralinkではなくSynchronでした。

Synchronはオーストラリアにおいては、米国に先駆けてStentrodeの臨床試験をすでに始めています。こちらでは4人の患者にこのデバイスをインプラントしており、「脳の運動野から電極を通じてデータを転送し、デジタル機器を制御する」ことができるのを確認しています。

そしてJournal of NeuroInterventional Surgery誌への報告によると、被験者のうち2人はStentrodeの機能を通じた体外への脳インパルスの伝達によって頭で考えるだけでコンピューターを操作し、テキストメッセージを送ったり、オンラインバンキングやネット通販で買い物をしたり、仕事関連のタスクをこなしたりできるようになったとのこと。

ちなみに、Stentrodeのインプラントには約2時間かかる手術をする必要があります。この手術は低侵襲ながら、デバイスを首にある血管に挿し入れ、そこから脳内にまで移動させると言う手順が必要です(脳動脈瘤の治療など脳血管内手術に用いられている網目状のチューブ「ステント」を応用しており、頭蓋骨を開く開頭手術に対して患者の肉体的な負担が比較的小さい)。

Synchronは、3~5年でStentrodeが医療現場で広く利用できるようになるだろうと述べています。

米食品医薬品局が脳梗塞の治療などに利用されるステントを応用した脳コンピューター接続デバイス「Stentrode」の臨床試験を許可

Synchron

米食品医薬品局が脳梗塞の治療などに利用されるステントを応用した脳コンピューター接続デバイス「Stentrode」の臨床試験を許可

Synchron

(Source:SynchronEngadget日本版より転載)

関連記事
初実験で致命的な脳腫瘍を30%縮小させた磁気ヘルメット
大論争の末、2003年以来初のアルツハイマー病治療薬を米食品医薬品局が承認
イーロン・マスク氏のNeuralinkデバイスを装着したサルが脳でピンポンゲームをプレイ
思い描いた手書き文字を脳インプラントとAIで認識し毎分90文字入力、スタンフォード大が研究論文
イーロン・マスク氏創業のNeuralinkが開発した脳手術ロボットの詳細
イーロン・マスク氏が脳インターフェイスNeuralinkの技術をライブ披露、脳モニタリング装置を移植した豚を使って
イーロン・マスクのNeuralinkは来年から人間の脳とのより高速な入出力を始める
イーロン・マスクが脳直結インターフェイス「Neuralink」をプレゼン

カテゴリー:ヘルステック
タグ:医療 / 治療(用語)Stentrode(製品)Synchron(企業)Neuralink(企業)脳(用語)BCI / 脳コンピューターインターフェイス(用語)米食品医薬品局 / FDA(組織)

初実験で致命的な脳腫瘍を30%縮小させた磁気ヘルメット

脳腫瘍を発見するヘルメットAIはこれまでにもあったが、実際に脳腫瘍を治療することもできる新しいヘルメットが登場した。

神経学上の最新ブレイクスルーの一環として、研究者たちは、磁場を発生させるヘルメットを使い、致命的な腫瘍を3分の1縮小した。この治療を受けた53歳の患者は、最終的には無関係の負傷で死亡したが、彼の脳を解剖したところ、短期間で腫瘍の31%を除去したことがわかった。この実験は、致命的な脳腫瘍である膠芽腫に対する初めての非侵襲的な治療法となる。

このヘルメットには3つの回転マグネットが搭載されており、それらはマイクロプロセッサーベースの電子コントローラーに接続され、充電式バッテリーで動作する。治療の一環として、患者はこの装置を5週間にわたってクリニックで装着し、その後、妻の助けを借りて自宅でも装着した。その結果、ヘルメットが作り出す磁場の治療は、最初は2時間、その後は1日最大6時間まで増やされた。この期間中、患者の腫瘍の質量と体積は約3分の1縮小し、縮小率は治療量と相関関係があることがわかったという。

この装置は、米国食品医薬品局(FDA)から例外的使用(Compassionate Use、CU)の承認を受けており、発明者たちは、放射線治療や化学療法を行わずに脳腫瘍を治療できる日が来ると主張している。

ヒューストンメソジスト神経研究所の脳神経外科ケネス・R・ピーク脳・下垂体腫瘍治療センター長であるDavid S. Baskin(デイビット・バスキン)医師は「今回の結果は、非侵襲的かつ無毒な治療法の新しい世界を開くものであり、将来的に多くのエキサイティングな可能性を秘めています」と述べている。この治療の詳細は、学術誌「Frontiers in Oncology」に掲載されている。

編集部注:本記事はEngadgetに最初に掲載された。

関連記事
HACARUSと東京大学がアルツハイマー病やパーキンソン病の治療法開発を目指すAI創薬研究を開始
大論争の末、2003年以来初のアルツハイマー病治療薬を米食品医薬品局が承認
思い描いた手書き文字を脳インプラントとAIで認識し毎分90文字入力、スタンフォード大が研究論文

カテゴリー:ハードウェア
タグ:治療ヘルメット腫瘍磁気米国食品医薬品局(FDA)

画像クレジット:Houston Methodist Neurological Institute

原文へ

(文:Saqib Shah、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】「脳の多様性」を活用してサイバーセキュリティのスキルギャップを解消する

編集注:本稿の著者Cat Contillo(キャット・コンティロ)氏は、HuntressのThreat Analyst IIで、誇り高き自閉症のクィア。LGBTQ+の権利、自閉症、神経多様性、DEI、サイバーセキュリティに情熱を注いでいる。

ーーー

組織はさまざまな考え方や視点からサイバーセキュリティのスキルギャップに対処し、さまざまな能力や思考プロセスを持つ人材を取り入れてセキュリティチームを強化する必要がある。その際の最初のステップとなるのがニューロダイバーシティ(脳の多様性、神経多様性)の理解である。ニューロダイバーシティを持つ人には、未開発の可能性があることをご存じだろうか?

ニューロダイバーシティが意味するところは私たち1人ひとりで異なる。ニューロダイバーシティとは、ADHD、自閉症、失読症、トゥレット障害などの認知障害や発達障害などの神経学的差異を、人間の脳の自然なバリエーションとしてとらえ、脳の違いはただの多様性でしかないと考える概念である。

私は、自分が人とは異なるオペレーティングシステムを持っているという自覚を常に持っていた。Mac OSで育てられた、Windows専用OSのような感覚だ。自閉症と診断されて初めて、なぜ自分がこのように感じていたかを理解し、目的を持つことができた。そして社会に出て、ニューロダイバーシティを持つ人々がサイバーセキュリティ業界にとって重要視されることを知ることができた。

自閉症の人には、サイバーセキュリティの分野での業務に適した特性がたくさんある。例えば自閉症の人の多くはパターン思考を持ち、細部にまでこだわる性格である。自閉症の人は、脅威ハンティングで悪意のあるコードとそうでないコードの微妙な違いを見つけ、自動化されたツールが見逃してしまうような脅威をキャッチすることができる。過集中という特性では、問題解決に集中し、他の人が投げ出したくなる複雑な問題にも粘り強く取り組むことができる。

もちろん、私たちが持つ能力、興味、強み、弱点は1人ひとり異なる。しかし、適切なサポートや環境があれば、サイバーセキュリティにプラスに働く特性もある。

自閉症の大人がテクノロジーやサイバーセキュリティに興味を持っていれば、特にその傾向が顕著である。興味があることで細部へのこだわりがさらにアップし、防御チームの優秀なサイバー専門家になることができるのだ。サイバー脅威の数や種類は常に変化している。明らかに排除できるものもあれば、もっと巧妙なものもある。コンピュータにもともと備わっているアプリケーションや実行ファイルのようなネイティブファイルを利用する「Living off the Land(LOTL:自給自足型、環境寄生型)」という攻撃手法もある。このような情報、何を探すべきか、どこに注目すべきかさえわかれば、ニューロダイバーシティ人材は、最も巧妙な脅威に対しても、集中して検査、調査、追跡することができる。

利点を受け入れる

私たちは、ニューロダイバーシティ人材の「違い」に注目するのではなく、異なる考え方や視点がサイバーセキュリティの分野にもたらすメリットを受け入れるべきである。実際、世界はさらに多くのサイバーセキュリティの専門家を必要としている。チームの多様性を確保するには、ニューロダイバーシティを受け入れることが必要だ。細部にこだわる人、規則にこだわる人、論理的な人、人とは違う考えを持つ人など、ユニークな才能を融合したチームは、サイバーセキュリティにおける競争力の源泉であり続けることになる。

サイバーセキュリティ分野でキャリアを積むには、論理性、規律性、好奇心、そして問題解決やパターン発見の能力が必要だ。この業界は、ニューロダイバーシティ人材に、特に脅威分析、脅威インテリジェンス、脅威ハンティングといった幅広いポジションとキャリアパスを提供している。

ニューロダイバーシティ人材は、干し草の中から針を見つけるように、潜在的な脅威を探し出して分析するのに欠かせない、小さな危険信号や細かな情報を見つけることができる。パターン認識、既成概念にとらわれない思考、細部へのこだわり、鋭い集中力、論理的な思考、誠実さなどの長所もある。

チームの多様性が高まれば高まるほど、チームの生産性、創造性、成功率は向上する。また、ニューロダイバーシティ人材が存在することで、サイバーセキュリティを強化できるだけでなく、異なる考え方や視点を採用してコミュニケーションの問題を解決し、チームや企業全体にプラスの効果をもたらすことができる。

米国労働省労働統計局によると、サイバーセキュリティ専門家の一般的なキャリアパスの1つである情報セキュリティアナリストの需要は、2029年までに31%増加すると予想されているが、これは他の職業の平均成長率4%をはるかに上回る。サイバーセキュリティ分野の重要な業務に空席がある一方、その業務に理想的な人材が何百万人も失業したままで取り残されている。

第一歩を踏み出す

今こそ「優秀な人材=神経学的定型(ニューロダイバーシティの逆の意味)」という思い込みを改める時である。職場における包括性と帰属意識を高める方法は数多くある。いずれも、求人情報が最初のステップだ。

求人情報には、求める人材や業務の要件を明確に記載する。より包括な求人情報を作成し、制限を減らしてみよう。配慮を必要とする応募者がアクセスできる連絡先のアドレスを記載し、必要な配慮を提供して、従来の方法とは異なる働きかけを行う。

ニューロダイバーシティ人材にとって一般的な面接は難しく、雇用に向けた最初のハードルになることが多い。面接時の質問のリストをガイドラインとして提供すれば、応募者の緊張を和らげることができるだろう。アイコンタクトの異常で人を判断しないことはさらに重要だ。

職場でニューロダイバーシティ人材を受け入れる包括的な文化を促進するためには、職場でさまざまなニーズに対応できるようにする必要がある。あらゆるレベルの従業員が、多様性のあるチームの力を引き出せる、風通しがよく包括的な職場環境を構築するための知識と理解を持つことが不可欠である。そのためには、全従業員を対象とした多様性、公平性、包括性、帰属意識を目的としたトレーニングが必要である。コミュニケーション手段を変更することも検討しなければならない。ニューロダイバーシティ人材は人によってコミュニケーションの仕方が異なるので、手段を考えないと職場内でのコミュニケーションの断絶につながりかねない。

サイバーセキュリティの分野で活躍したいニューロダイバーシティを持つ人や自閉症者にもアドバイスしたい。学習を続け、サイバーセキュリティの専門家とつながってネットワークを作り、決してあきらめるな。企業の大小を問わず、あらゆる面で意識を高め、包括的な対応を求め続ければ、成功のチャンスは増えるはずだ。

関連記事
【コラム】サイバーセキュリティ分野における次の11兆円市場とは
【コラム】サイバーテロを終わらせるために政府は民間セクターとの協力を強化すべきだ
【コラム】多様性、公平性、包括性の面から評価した現在米VC業界の進歩

カテゴリー:セキュリティ
タグ:コラム自閉症多様性LGBTQ+

画像クレジット:Chris Madden / Getty Images

原文へ

(文:Cat Contillo、翻訳:Dragonfly)

HACARUSと東京大学がアルツハイマー病やパーキンソン病の治療法開発を目指すAI創薬研究を開始

HACARUS(ハカルス)と東京大学大学院薬学系研究科は6月16日、アルツハイマー病やパーキンソン病の治療法開発を目指す、AI創薬の共同研究を開始すると発表した。今回の共同研究では、両疾患の病因となるタンパク質の凝集・散開するメカニズムの解明をHACARUSのAIを活用した画像解析技術を用いて試み、治療法開発を目指す。

アルツハイマー病、パーキンソン病ともに、脳内でのタンパク質凝集が病因となることがわかっている。人間にはタンパク質を分解する能力(オートファジー)が備わっているものの、アルツハイマー病・パーキンソン病は、この能力の機能不全であることも解明されてきているという。

研究課題としては、アルツハイマー病では、病因となるタンパク質の生産を抑制する阻害剤がいくつか見つかっているものの、毒性の問題があり治療への活用に至っていないこと、またパーキンソン病では対症療法が「L-ドパ」という薬を使ったドパミン補充が中心であることを挙げられている。ともに根本的な治療法が発見されておらず、新たな予防・診断・治療法の開発が必要としている。

東京大学大学院薬学系研究科は、「医薬品」という難度が高く、かつ高い完成度が要求される「生命の物質科学」と、国民生活に直結した「生命の社会科学」を探求し、2つの科学の最終目標である「人間の健康」を最重要課題としていることが最大の特徴の部局。同機能病態学教室の富田泰輔教授は、アルツハイマー病やパーキンソン病をはじめとする神経変性疾患の病態生化学に関する研究を行っている。

HACARUSは、スパースモデリング技術をAIに応用したデジタルソリューションを提供しており、少ないデータ量で高精度なAIを活用できることから産業分野だけでなく、希少疾患への応用など医療分野でも数多くの課題解決に貢献している。

富田教授によると、様々な神経変性疾患において、細胞内外の異常タンパク質の蓄積や細胞内輸送の異常などが発症プロセスにおいて重要であることが明らかとなっており、これらを定量的に解析し、様々な薬剤の影響を見積もる必要が出てきているという。ただ従来は、細胞や組織を染色後画像データの解析を人為的に行っていたため、HACARUSと共同でそのプロセスを自動化し、機械学習を用いてノンバイアスに解析する手法を開発することで詳細に解析できるのではないかとしている。

またHACARUSは、スパースモデリング技術を用いた画像診断およびR&Dプロセスの自動化に取り組んできており、その2つの強みを掛け合わせて、CNS(中枢神経系)分野において富田教授と共同研究に取り組むとしている。

関連記事
大論争の末、2003年以来初のアルツハイマー病治療薬を米食品医薬品局が承認
AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす
TikTokの親会社ByteDanceがAI創薬チームを採用開始、多角化を目指しヘルスケア産業へ参入
医療・産業分野でAIソリューション開発を手がけるHACARUSが累計13億円のシリーズB調達
NVIDIAのGPUで新型コロナ研究中のAIスタートアップElix、アステラス製薬とAI創薬の共同研究開始
AIスタートアップのHACARUSが大阪ガスから数億円規模の資金調達、Daigasグループのシステムを開発へ

カテゴリー:ヘルステック
タグ:アルツハイマー病(用語)医療(用語)創薬(用語)東京大学(組織)HACARUSパーキンソン病(用語)ヘルスケア(用語)脳(用語)日本(国・地域)

大論争の末、2003年以来初のアルツハイマー病治療薬を米食品医薬品局が承認

米国時間6月7日月曜日、米食品医薬品局(FDA)は、医薬品メーカーのBiogen(バイオジェン)が開発した注目のアルツハイマー病治療薬「aducanumab(アデュカヌマブ)」を承認した。過去に失敗作として研究が中止されていたaducanumabの承認については、数カ月前から科学界や規制当局の間で議論が交わされていた。

FDAのプレスリリースによると、aducanumab(米国商品名:Aduhelm、アデュヘルム)は、2003年以来初の新しいアルツハイマー病治療薬の承認である。aducanumabは、アルツハイマー病の原因とされているいくつかの要因のうち、脳内に蓄積され、神経細胞の伝達を阻害するβアミロイドによるアミロイド斑を対象とした初めての治療薬でもある。

重要なのは、aducanumabが「迅速承認プログラム」と呼ばれる条件付きの承認を受けたことだ。迅速承認とは、重篤な疾患の治療薬かつ疾患の指標に作用するものであれば、臨床試験の全体的な結果にFDAが懸念を持っていても早期に利用できるように承認するプログラムで、Biogenは、承認後もaducanumabの再検証を行う必要がある。

FDAは声明で「意図したとおりの効果が得られなければ、市場から排除する措置を取ることができます。今後の臨床試験でさらに多くの人々がAduhelm(aducanumab)の治療を受けるようになり、効果が証明されることを期待しています」と述べる

TechCrunchはBiogenに今後の確認試験についてのコメントを求めている。回答があればこの記事を更新する。

今回の迅速承認プログラムの採用が、FDAの決定に至るまでの数カ月間、aducanumabを悩ませてきた長引く論争に対処するためのものであることは明らかだ。

aducanumabの初期段階の試験では、アルツハイマー病の主な症状である認知機能の低下を遅らせる可能性があるという有望な兆候が見られた。Natureに掲載された2016年の試験では、125名の軽度または中等度のアルツハイマー病患者に月1回の点滴を行ったところ、アミロイド斑のレベルが低下し、認知機能低下の症状が改善された。

Lancet Neurologyに掲載された論文では、脳内のアミロイド斑の減少は「強固で疑う余地のないもの」だったが、治療によって人々の認知機能がどの程度向上したのかという臨床的な知見は不明瞭だった。

このような初期の試験を経て、最終的にFDAは、薬の投与量を特定するための第II相臨床試験をスキップして、第III相臨床試験に進むことを許可したが、一部の医師からは批判されている

論争の的となったのは「ENGAGE(エンゲージ)」または「EMERGE(エマージ)」と呼ばれる、この第III相臨床試験だ。どちらも初期のアルツハイマー病患者約1600人を対象に、月1回の静脈注射を行う試験だったが、2019年、両試験とも中止された。試験の主要評価項目である、認知機能の低下を遅らせる効果が認められなかったからである。

EMERGE試験の追加データは2019年末に分析され、プラセボ(偽薬)との比較で、aducanumabが認知機能の低下を23%抑制することにつながったことを示した。試験参加者の約40%に副作用(脳の腫れや炎症)が見られたが、ほとんどが症状をともなわず、症状をともなうもの(頭痛、吐き気、視覚障害)であっても大部分が4~16週間後に解消された。

しかし、この新しいデータも、独立機関であるFDA諮問委員会を説得するには十分ではなく、2020年11月、委員会はaducanumabの承認を不支持とした。

FDAは米国時間6月7日の声明で、βアミロイド斑に対するaducanumabの効果は、リスクを上回る有益性を十分に示唆する、と主張している。ここで重要なのは、FDAは臨床試験の成果についてコメントしていないという点にある。要するに、この承認は、各患者の認知機能の反応ではなく、アミロイドβ斑に対する薬剤の効果に基づくものであり、今後の調査では、認知機能の改善という結果を出す必要がある。

しかし、米国のアルツハイマー病患者約600万人と患者団体は、aducanumabに期待を寄せ、アルツハイマー病協会は、この薬を「アルツハイマー病とともに生きる人々への勝利」と称賛している。

米国時間6月7日のFDAの決定を待たずとも、aducanumabが承認されれば、すぐに「ブロックバスター (従来の治療体系を覆す薬効を持ち、開発費を回収する以上の利益を生み出す新薬)」になることは明らかだった。この薬を取り巻く財務状況は、その考えを裏づけている。

発表直後に取引が停止されたBiogenの株式は、その後米国時間6月8日には40%上昇。Biogenと提携しているエーザイ株式会社の株価もFDAの承認後、3時間で46%以上も上昇した。

もちろんBiogenはこの承認を長期的な戦略として当てにしていただろう。同社は2021年4月の決算説明会で、承認後、すぐに治療を開始できる施設が600施設あると発表している。同社はさらに、ブラジル、カナダ、スイス、オーストラリアでもaducanumabの販売承認申請を行っていて、米国時間6月7日には、年間費用は5万6000ドル(約613万円)であると発表した。

アルツハイマー病治療薬の世界では、今回の承認が、βアミロイド斑を標的とする他の薬剤の概念実証とみなされる可能性がある。

Banner Alzheimer’s Institute(バナー・アルツハイマー研究所)のエグゼクティブディレクターであるEric Reiman(エリック・レイマン)氏は、aducanumabに関する2016年のNature論文を受けたエディトリアルで、βアミロイドを標的とした治療が認知機能の低下を遅らせると科学的に確認されたら「ゲームチェンジャー 」になるだろう、と述べている。aducanumabの臨床試験は、この考えを検証するためのテストに例えられる。Alzheimer’s Drug Discovery Foundation(アルツハイマーズドラッグディスカバリー財団)の創設者であるHoward Filit(ハワード・フィリット)氏は、フィナンシャル・タイムズの取材に対し、aducanumabを「βアミロイド仮説の最初の厳密なテスト」と称した

その意味で、今回の条件付き承認は、FDAがこの手法によるアルツハイマー病治療に好意的であるとも言える。

大手製薬会社の臨床試験では、少なくとももう1つ、Eli Lilly(イーライリリー)のβアミロイド標的薬がある。Biogenのaducanumabの確認試験でFDAが承認を取り消すようなことがなければ、近いうちにいくつかが承認されるかもしれない。

関連記事
思い描いた手書き文字を脳インプラントとAIで認識し毎分90文字入力、スタンフォード大が研究論文
考えるだけで操作できる脳モニタリングデバイス「Cognixion One」、重度障がい者の円滑な意思疎通をアシスト
やっぱり「ビデオ会議が続くと脳にストレスが溜まる」ことをマイクロソフトが科学的に証明

カテゴリー:ヘルステック
タグ:米食品医薬品局 / FDAアルツハイマー病

画像クレジット:Nature

原文へ

(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

やっぱり「ビデオ会議が続くと脳にストレスが溜まる」ことをマイクロソフトが科学的に証明

ビデオ会議を続けていると、脳に何らかの影響があることは、誰でも知っている。家の中で1日中座っているだけで、疲れてくたくたになるのだから当然だろう。ところで、Microsoft(マイクロソフト)がちょっとした脳科学的調査を行ったところ、ビデオ会議を繰り返し続けていると、脳にストレスが溜まり、集中力が失われてしまうことがわかった。今すぐ上司に伝えよう!

この調査では14人の参加者を対象に、30分程度のビデオ会議を、1日に4回ずつ、2日に分けて合計8回行った。ある日は4回のビデオ会議を連続して行い、別の日にはビデオ会議の間に10分間の休息(瞑想アプリを使用)を挟んだ。参加者は脳波用電極キャップを装着していたが、これは脳灰白質の活動の種類を大まかに把握するための脳モニタリング機器だ。

研究者たちが発見したことは、特に驚くようなものではない。というのも、我々の誰もがこの1年間(あるいはすでにリモートワークで仕事をしていた人はそれ以上の間)に体験してきたことだからだ。しかし、それをテストで示すことにはやはり意味がある。休息なしにビデオ会議を続けた日は、ストレス、不安、集中力に関連するベータ波のレベルが高くなった。ストレスレベルの最高値と平均値も高く、時間が経つにつれてゆっくりと上昇していった。

10分間の休憩を入れた日は、ストレスの数値が平均して低く保たれており、上昇を防ぐことができている。会議への積極的な関与を示す他の測定値も増加した。

画像クレジット:Microsoft / Valerio Pellegrini

当たり前のように思えることでも、確かに検証された。脳波測定はストレスを正確に測定するものではないが、かなり信頼性が高く、参加者に「2回目のビデオ会議の後、どのくらいストレスを感じたか、1~5段階で評価してください」と尋ねる回想的自己評価よりも優れていることは間違いない。もちろん、MRI装置でノートPCを使用している状態の脳を測定するわけにはいかない。というわけで、この調査による検証結果は参考にはなるが、それを誇張して捉えることがないように注意するべきだろう。また、ストレスというものが複雑で、時には不公平な職場環境がその原因となることも忘れてはいけない。

例えば、スタンフォード大学が発表した最近の研究によると、「Zoom Fatigue(ズーム疲れ)」と呼ばれる症状は、男性より女性に多く起こることがわかっている(ズームにとっては喜ばしいことではないが)。ビデオ会議の後に深刻な疲労感を訴えた女性は、男性の2倍以上だった。おそらく、女性の会議は長くなりがちで、会議の間に休憩を取ることも少ないからだろう。さらに女性の場合は外見が重視されることも多く、単に「ビデオ会議を好む人はいない」と一括にされる状況でないことは明らかだ。

当然ながらマイクロソフトは、自社の製品であるMicrosoft Teams(マイクロソフト・チームズ)で、問題に対する技術的な解決策を用意している。例えば、会議と次の会議がすぐに続かないようにバッファタイムを追加したり、全員の頭が講堂のような場所に置かれる、ちょっと奇妙な「Together(一緒に)」モード」(その方が自然に感じられるということらしい)を用意するといった具合だ。

スタンフォード大学では、1日の中でしばらくの間は音声のみ使用を許可するとか、カメラを遠くに設置して歩き回る(服装の確認を忘れずに)とか、あるいは単にセルフビューをオフにするなど、いくつかの推奨事項を挙げている。

最終的には、すべて個人で解決するのではなく、構造的に取り組む必要がある。我々は今、バーチャル会議のみの1年を終えようとしているかもしれないが、今後もバーチャル会議が増えていくことは間違いない。そのため、雇用主や主催者はこれらのリスクを認識し、リスクを軽減するためのポリシーを策定する必要がある。単に個々の従業員の責任を増やすだけではいけない。ビデオ会議の間に休息を入れることを提案したり、カメラの映像をオフにしようとした時、誰かにその理由を聞かれたら、「その方が良いと、科学で証明されている」と答えよう。

関連記事:

カテゴリー:ネットサービス
タグ:MicrosoftMicrosoft Teamsビデオ会議ストレス

画像クレジット:Microsoft / Brown Bird Design

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

イーロン・マスク氏のNeuralinkデバイスを装着したサルが脳でピンポンゲームをプレイ

Elon Musk(イーロン・マスク)氏が率いるNeuralinkは、彼の数ある会社の1つで、現在、唯一マインドコントロールに焦点を当てている企業だ(私たちが知る限り)。Neuralinkは同社のハードウェアを使いサルが脳だけでピンポンゲームできるようになったといったことをまとめた最近のアップデートの詳細をブログと動画で公開した。

上の動画は、Neuralinkのセンサーハードウェアと脳インプラントを使って、マカクザル(「Pager」という名前の)の活動のベースラインを記録し、画面上でジョイスティックを使ってトークンを異なるマスに移動させるゲームをプレイしている様子のデモだ。Neuralinkはこのベースラインのデータを元に、機械学習を使ってマカクザルが物理コントローラーを動かす場所を予測し、最終的には実際に動く前にそれを正確に予測することに成功した。その後、研究者たちはスティックを完全に取り外し、ピンポンゲームと同じことを行った。マカクザルはもはや存在しないスティックで手を動かすことさえしなくなり、代わりにLinkハードウェアと埋め込まれたニューラルスレッドを介してゲーム内のアクションを完全に頭で制御するようになった。

私たちが最後にNeuralinkを見たのは、マスク氏自身が2020年8月にLink技術をライブで実演したときだ。ブタを使ってさまざまな刺激に応じて脳から信号を読み取る様子を見せた。マカクザルによる新しいデモでは、人間への応用という点で、この技術の方向性がより明確に示されている。なぜなら、同社はブログで同じ技術を使った、例えば麻痺のある患者によるコンピューター上のカーソル操作サポートを紹介しているからだ。またNeuralinkによると、この技術はiPhoneのタッチ操作やバーチャルキーボードを使ったタイピングなど、他のパラダイムにも適用できる可能性があるという。

関連記事:イーロン・マスク氏が脳インターフェイスNeuralinkの技術をライブ披露、脳モニタリング装置を移植した豚を使って

マスク氏はまた別のツイートで、Neuralinkの初期バージョンでは、スマホ操作ができない麻痺のある人でも、親指を使って入力する一般的な人よりもすばやくスマホを使えるようになると述べている。また、プロダクトの将来的な改良により、患者の体のさまざまな部位にあるNeuralink間の通信が可能になり、例えば、脳内のノードと脚の神経経路の間で通信を行い「下半身不随の患者が再び歩ける」ようにすることができるだろうとも付け加えています。

これらは明らかに大胆な主張だが、同社は既存の実証実験と近い将来の目標を裏づける多くの既存研究を引用している。しかしながら、マスク氏の野心的な主張は、彼のすべての予測と同じく十分に懐疑心を持って受け止めるべきだろう。彼は人間による臨床試験は「できれば2021年後半には開始したい」と付け加えているが、これは当初彼が予想していたものよりもすでに2年遅れている

関連記事:イーロン・マスクのNeuralinkは来年から人間の脳とのより高速な入出力を始める

カテゴリー:バイオテック
タグ:Neuralinkイーロン・マスク

原文へ

(文:Darrell Etherington、翻訳:Katsuyuki Yasui)

心でコンピュータを操作するNextMindの開発キットは技術に対する新鮮な驚きを与えてくれる

NextMind(ネクストマインド)は、2019年のCESでその開発キット用ハードウェアを初披露していたが、ようやくその発売が開始され、同スタートアップはお試し用として私に製品版を送ってくれた。NextMindのコントローラーは、脳の視覚野の電気信号を読み取るためのセンサーで、それを入力信号に変換して接続されたコンピュータに送るというもの。眼球運動や電気的インパルスを検出する革新的な入力ソリューションを開発する企業は多いが、NextMindは私が試してきた中でも、即座に、素晴らしく機能する初めての製品だった。コンピュータ利用におけるパラダイムが比較的成熟してきた現在となっては、滅多に出会える機会がなくなった本当の驚きを与えてくれた。

基本情報

NextMindの開発キットは、まさに、NextMindのハードウェアとAPIを利用するソフトウェアの開発に必要な一切合切を開発者に提供することを意図した製品だ。これには簡単なストラップ、Oculus VRヘッドセット、さらには野球帽などのさまざまなヘッドギアに装着できるNextMindのセンサー、パソコンで機能させるために必要なソフトウェアとSDKが含まれている。

画像クレジット:NextMind

NextMindが私に送ってくれたパッケージにはセンサー、布製のヘアバンド、エンジンがインストールされたSurface PC、同社がインストールしたデモの中の1つで使用するUSBゲームパッドが入っていた。

センサー自体は軽量で、1回の充電で連続8時間まで使用できる。充電はUSB-Cで行う。ソフトウェアはManとPCの両方に対応している。さらにOculus、HTC、Vive、Microsoft(マイクロソフト)のHoloLensにも対応している。

デザインと機能

NextMindのセンサーは、驚くほど小さくて軽い。本体は手のひらに収まる程度のサイズで、2つのアームがわずかにはみ出る感じだ。ほぼあらゆるものに取り付けられる汎用クリップマウントが付いていて、頭にしっかりと固定できる。装着の際には、2極が一対になった9組の電極センサーを肌に密着させる必要がある。NextMindの説明には、ヘッドバンドを頭にしっかりと装着してから、「櫛でとく」要領でセンサーを少し上下に動かせと書かれている(上下に動かすことで、挟まっている髪の毛をどかすわけだ)。

装着感は悪くないが、電極が肌に押しつけられている感じが伝わってくる。特に長時間着けていると、その感覚は強くなる。普通の野球帽にもクリップで取り付けられる仕様は、取り付けも装着も簡単にできてとても便利だ。Oculus RiftとOculus Questのヘッドストラップにも、簡単にすばやく取り付けられる。

画像クレジット:NextMind

セットアップは楽勝だった。私はNextMindの開発者たちからご教授をいただいたが、とてもわかりやすい説明書も付属している。最初に、パソコンに表示されるアニメーションを見ながら行う調整プロセスがある。NextMindに最適化されたソフトウェアを使うときに目的の操作が行えるよう、後頭葉から発せられる特定の信号を検知するためのものだ。

ここで、NextMindが「心を読む」方法を解説しておこう。基本的にセンサーは、脳が「アクティブな視覚焦点」と同社が呼ぶ状態に入ったことを検知する。これは、ソフトウェアのグラフィカルユーザーインターフェイスの操作対象の要素にオーバーレイされる共通の信号を使って行われる。そうすることで、特定のアイテムに視点を合わせると、それが「押す」や「掴んで動かす」といったアクションや、その他数々の対応可能な出力結果に変換できるようになる。

NextMindのシステムは、優美なまでにシンプルなコンセプトで成り立っており、力強い豊かな使用感はそこからくるのだろう。私は調整プロセスを済ませると即座にデモに飛びついたが、脳と連動して実際に幅広い操作を行えることがわかった。まずはメディアの再生とデスクトップのウィンドウの操作。次に音楽の作曲、テンキーパッドでPINコードの入力、いろいろなゲームもプレイした。あるゲームプラットフォームでは、USBゲームパッドの手の操作を心の操作が補うという、他の方法では決して味わえないまったく新しいレベルの楽しくて複雑なプレイが楽しめた。

これは開発キットなので、付属しているソフトウェアはNextMindで実際に何ができるかを体験するだけの簡単なサンプルに過ぎないのだが、これで開発者たちは、独自のソフトウェアを作れるようになった。驚いたのは、一部のサンプルはそれ自体が息を呑むほど素晴らしい内容であったことだ。それらは、あらゆる可能性を最高のかたちで表していて、大変に刺激的な体験を味合わせてくれる。NextMindのハードウェアがさらに小型化されて、コンピュータのあらゆる使用状況に溶け込んだ未来を想像してみてほしい。これまでの入力方法が、実にじれったいものになるはずだ。

まとめ

NextMindの開発キットは、まさに開発キットそのもの。同社のユニークで安全で便利なかたちのブレインマシンインターフェイスの利点を活かして独自のソフトウェアを生み出そうとする開発者のための製品だ。キットの価格は399ドル(約4万1000円)。すでに出荷が始まっている。NextMindは、ゆくゆくは消費者向け製品を出したいという計画があり、OEMと協力して実装を行いたいと考えているが、現在この段階ですでに、私たちの日常的なコンピュータ利用における大きなパラダイムシフトの一面を、非常に刺激的なかたちで覗かせてくれている。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:NextMind

画像クレジット:NextMind

原文へ

(翻訳:金井哲夫)