外骨格テクノロジーは、人間に取って代わる機械を作るのではなく、身に着けた人間の能力を何倍にも高めるハードウェアを作る、ロボット工学の世界で最も興味深い開発の1つだ。産業および物理的な応用を目的とした外骨格ロボットを設計しているスタートアップ、German Bionic(ジャーマン・バイオニック)は今日、その将来性を明確にする資金調達ラウンドを発表した。同社のCray X ロボットは、重いものを持ち上げて作業する人間にパワー、精度、安全性を提供してサポートする「ネットワークに接続した世界初の産業用外骨格ロボット」だという。
ドイツのアウクスブルクに拠点を置く同社は、2000万ドル(約20億7000万円)の資金調達を達成した。この資金は、同社の事業を継続し、外骨格ロボットのハードウェア技術と、ハードウェアを最適化し、より優れた機能の「学習」を支援するクラウドベースのソフトウェアプラットフォームであるGerman Bionic IOの技術を構築し続けるために使われる。
Cray Xは現在、1度の持ち上げ動作で最大30kgまでサポートすることができるという。
ジャーマン・バイオニックのCEOであるArmin G. Schmidt(アルミン・G・シュミット)氏は声明の中で「当社は人間の動作とIIoT(産業IoT)を組み合わせた画期的なロボット技術により、すぐに利用できる持続可能な方法で、現場作業員を文字通り背後から増強します。このテクノロジーが生産性と作業効率を向上させることは、測定可能なデータによって実証されています。スマート・ヒューマン・マシン・システムの市場は巨大であり、当社は今、将来的に大きな市場シェアを獲得し、多くの人々の仕事と生活を大幅に改善するために最適な位置に立っています」と述べている。
シリーズAはハードウェア大手の戦略的投資部門であるSamsung Catalyst Fund(サムスン・カタリスト・ファンド)とMIG AGが共同でリードした。MIG AGは、初めてグローバルに展開した新型コロナウイルスワクチンを開発した画期的な企業BioNtech(バイオエヌテック)を当初支援した投資会社の1つであるドイツの投資会社だ。
Storm Ventures(ストーム・ベンチャーズ)、Benhamou Global Ventures(ベナムー・グローバル・ベンチャーズ)(Palm(パーム)の創業者兼CEOであり、それ以前は3com(スリーコム)のCEOを務めたEric Benhamou(エリック・ベナムー)氏が設立し率いている)の他、IT Farm(アイティーファーム)も参加している。過去にジャーマン・バイオニックが調達したのは、アイティーファーム、Atlantic Labs(アトランティック・ラブス)、個人投資家が参加したシードファンディングの350万ドルのみにとどまっていた。
自動化とクラウド技術が労働現場を席巻している最中という非常に興味深いタイミングで、ジャーマン・バイオニックが注目を集めている。次世代の産業労働について語るとき、一般には、自動化と生産の様々な段階で人間に取って代わるロボットに注目が向けられる。
しかし同時に、異なるアイデアに取り組んでいるロボット技術者もいる。人間そっくりでありながら、認知やすべての動作の面で人間より優れたロボットを作れるようになるまでは、まだかなりの時間がかかるだろう。そのため、実際の労働者に取って代わるロボットではなく、人間の信頼性が高く細やかな専門知識を維持しつつ人間を補強するハードウェアを作ろうというアイデアだ。
COVID-19の感染拡大により、産業界における自動化の議論はここ最近より緊急性を帯びたものとなっている。工場はアウトブレイクが多い場所であり、ウイルスの拡散を減らすために物理的な接触や近接を減らす傾向にあるからだ。
外骨格ロボットはCOVID-19のこの側面には対処していない。たとえ外骨格ロボットを使用した結果必要なマンパワーが減ったとしても、結局のところ人間がそれを身につけて作業する必要があることには変わりはない。しかし、一般的に自動化に注目が集まっていたことから外骨格ロボットを使用する機会への関心が高まっている。
パンデミックを度外視したとしても、あらゆる状況で人間に完全に取って代わる費用対効果の高いロボットが完成するのは、まだまだ遠い先の話だ。そのためワクチン接種が開始され、ウイルスへの理解が多少深まった今、外骨格ロボットのコンセプトには強力な市場が用意されている。ジャーマン・バイオニックによれば、2030年までに200億ドル(約2兆700億円)の価値を創出する可能性があるとアナリストは予測している。
そういった意味ではSamsung(サムスン)が投資家であるという事実は実に面白い。サムスン自体が消費者・産業用電子機器を提供する世界有数の大手製造業者だが、自社ブランドとして、またHarman(ハーマン)のような子会社を通じて、他社の製造業務に使用する機器も製造している。サムスンの興味が、独自の製造・物流業務でCray Xを使用することなのか、または他社のためにこれらを製造する上で戦略的パートナーになることなのか、どちらにあるのかは分からない。両方という可能性もあるだろう。
Samsung Electronics(サムスン電子)のコーポレートプレジデント兼最高戦略責任者であり、ハーマンの会長でもあるYoung Sohn(ヤン・ソン)氏は声明の中で「ジャーマン・バイオニックの世界をリードする外骨格テクノロジーの継続的な開発が支援できることを大変嬉しく思います。外骨格テクノロジーは、人間の健康、健全性、生産性の向上において大きな可能性を秘めています。マスマーケットに拡大できる可能性がある、変革的な技術になると考えています」と述べている。
ジャーマン・バイオニックはCray Xを、主に持ち上げる動きを強化し、着用者が怪我の原因となる誤った判断を下すことを予防するのを目的とした「自己学習型パワースーツ」であると説明している。工場労働者、倉庫労働者、あるいは地元のガレージで働く個人事業の整備士などに応用できる可能性がある。同社は顧客リストを公開していないが、広報担当者によると「大手物流企業、工業生産者、インフラのハブ」などが含まれているようだ。そのうちの1つとして、シュトゥットガルト空港が同社のサイトに掲載されている。
MIGのマネージングパートナーであるMichael Motschmann(ミヒャエル・モッチマン)氏は声明で、「これまで肉体労働における効率化と健康増進はしばしば相反するものでした。ジャーマン・バイオニックはこの問題を打破しただけでなく、肉体労働をデジタルトランスフォーメーションの一部として、エレガントにスマートファクトリーへと統合させることに成功しました。私たちはこの企業に計り知れない可能性を感じており、経験豊富な起業家やエンジニアからなる一流のチームと一緒に仕事ができることを特に嬉しく思っています」と述べている。
外骨格テクノロジーは、概念としてはすでに10年以上前から存在しており、MITが2007年に重い荷物を運ぶ兵士をサポートすることを目的とした初の外骨格ロボットを開発した例もある。しかしクラウドコンピューティング、ハードウェア自体のプロセッサの小型化、人工知能などの技術が進歩したことによって、外骨格ロボットがどこでどのように人間を強化できるのかというアイデアが広がってきた。産業界以外にも、膝を痛めた人(または膝の怪我を避けたい人)がうまくスキーで滑走できるようにしたり、医療目的で利用したりと様々なアイデアもあるが、最近のパンデミックの影響でこういった利用例の一部に制限がかかり、いつ生産が開始できるかは未だ見通しが立っていない。
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(翻訳:Dragonfly)