世界の有害な慣行や問題の多くは、戦うのが難しく、終わらせるのが複雑すぎると言われている。極度の貧困、食糧不安、ジェンダーに基づく暴力、その他の人道的危機などの問題は、しばしば乗り越えられないと感じられることがある。これらの問題は、世界の貧困層に不均衡な影響を与える気候変動という存亡の危機によって悪化している。中でも子ども、女性、障がい者は最も脆弱であり、適応するのも困難だ。
これらの問題は信じられないほど複雑だ。しかし、解決不可能な問題ではない。
なぜ、わかるのか?私は、女性器切除と強制結婚の廃止に取り組むプロジェクトのグループと一緒に仕事をしたからだ。そして、私たちが協力したケニアのコミュニティでは、これらの有害な慣習は一世代のうちに、時には10年未満で終了した。
30年以上テクノロジーの世界に身を置き、Microsoft(マイクロソフト)では長年、さまざまな業界や教育機関のデジタル変革を支援する仕事に携わってきた私は、自分が学んだことを複雑なグローバル問題に適用しようと考えた。10年以上にわたって、World Vision(ワールド・ビジョン)やGlobal Give Back Circle(グローバル・ギブ・バック・サークル)、そして最近では私自身の団体であるMekuno Project(メクノ・プロジェクト)を通じて、女性器切除や児童婚など、ジェンダーに基づく暴力の問題に取り組んできた。
私がテクノロジーのキャリアで学んだことのいくつかは、公共部門や非営利団体にも応用できる。ここでは、特に人権を向上させ、有害な慣習をなくそうとする組織のために役立つ洞察と戦術を紹介する。
システム思考を応用した多面的な問題の理解と解決
テクノロジーの仕事をしている人は、システム思考に馴染みがあるかもしれない。簡単に言えば、複雑な問題をより小さな論理的な部分に分解して考える分析手法だ。システムを一連の部分としてではなく、全体として捉えながら、システムのさまざまな部分がどのように相互作用しているかを理解することが必要だ。その目的は、最終的に複雑なものを単純化することであり、Microsoftが社内文化の見直しを図った際に適用された。
例えば、ケニアにおけるジェンダーに基づく暴力の問題を考える場合、システム思考では、強制結婚といった特定の問題を超えて、なぜその問題がそもそも存在するのかという大局を見据えることが求められる。
単に問題に目を向けるだけでは不十分で、その問題が存在する生態系に目を向ける必要があるのだ。例えば、女性器切除や児童婚は、孤立して存在するものではない。それらは、極度の貧困、文化的規範、非識字率の高さなどと関連しており、これらすべてが農村地域の少女たちに不当に影響を及ぼしている。これらの危険因子は、気候変動と新型コロナウイルス(COVID-19)の流行によっても悪化し、両方の有害な慣習の割合の急増につながっている。このような根本的な原因がコミュニティに影響を与え続けるため、このサイクルは次の世代へと続くことが多いのである。
有害な習慣をなくすには、パートナーの協力のもと、現場で全体的かつ拡張可能な、相互作用のあるアプローチが必要だ。これなくして、どのような介入も持続可能な変化をもたらすことはできない。
私たちは、世界的な問題や有害な慣行が存在する理由を理解することで、それらを取り除くことができる。システム思考は、大局的な見地から、これらの問題を解決することを可能にする。
人を巻き込むデザインを通してコミュニティを活性化する
ジェンダーに起因する暴力を含む問題を、地域社会の総体的なアプローチによって解消することは、1つの地域社会で機能するだけでなく、複数の組織が目標達成のために協力すれば、規模を拡大することもできる。
しかし、コミュニティへの信頼が育たないやり方もあり、常にコミュニティの条件での成功を優先させなければならない。人を巻き込むデザインは共感に根ざしている。つまり、コミュニティとの信頼関係、包括性、そして共有のビジョンを構築するために、そのコミュニティにとって何が有効かを学ぶつもりで耳を傾けなければなない。
このように共感することで、より早く変革的な変化をもたらす新しいイノベーションを生み出すことができる。私たちが支援しようとしているコミュニティの中で協力体制を築けなければ、持続可能で大規模な変化をもたらすことはできない。
地域社会を巻き込み、共感をもって耳を傾け、解決策を共同で創造し、透明性をもってコミュニケーションを図り、地域社会のニーズや懸念を尊重し優先することが、複雑な問題を解決する上で最も重要なことなのだ。
コミュニティの信仰指導者を巻き込む
これは、多くのコミュニティで根深い問題を解決するために重要であり、見落とされがちな点だ。
The Gates Foundation(ゲイツ財団)の副理事長であるBlessing Omakwu(ブレッシング・オマクウ)氏は、宗教的なパートナーの関与なくしてジェンダーの平等は実現できないし、実現することもないだろうと述べている。宗教指導者はコミュニティで最も信頼されている人物であることが多く、オーガニゼーションがコミュニティと関わるための道徳的な枠組みを作る手助けをすることができる。実際、World Economic Forum(世界経済フォーラム)は、信仰指導者はコミュニティとの協働において未開発の資源であると述べている。
私たちが抱える問題は、乗り越えられない、解決不可能なものに見えるかもしれないが、決してそうではない。世界最大の問題の多くを解決する鍵は、個々に取り組むことではなく、相互に関連する考え方で取り組むことだ。なぜなら、最大の問題は他の問題から独立して存在するわけではないからだ。そして、今日の相互に関連しあっている世界で、私たちはそれらの問題の解決に向けて動き出すことができる。そして、多角的な戦略を用いることで、一世代のうちにより良い世界を作り始めることができるのだ。
編集部注:執筆者のMargo Day(マーゴ・デイ)氏は、ケニアで女性器切除と児童婚の根本原因を取り除くために活動する非営利団体Mekuno Project(メクノ・プロジェクト)のCEO兼共同設立者。
画像クレジット:Hiroshi Watanabe / Getty Images
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(文:Margo Day、翻訳:Yuta Kaminishi)