情報格差(デジタルデバイド)は今更驚くような現象ではない。しかし、Covid-19の猛威によりアメリカ国内で学級閉鎖が始まりつつあった3月、学校関係者らはオンライン授業を進めることがいかに難しいかを目の当たりにし、そしてこの事実はアメリカ人に大きな驚きを持って受け止められた。
生徒たちへのカリキュラムを変更すればよいという話ではない。多くの生徒がインターネットへのアクセスやパソコン自体、またはその両方を持っていないという状況だったのだ。元Microsoft(マイクロソフト)CEOのSteve Ballmer(スティーブ・バルマー)氏が資金提供した無党派組織、USAFactsによると、パンデミックの間、子供のいる440万世帯の家庭がオンライン学習のためパソコンを継続的に使用できる環境になかったのだ。
この問題にスタンフォード大学の学生、Isabel Wang(イザベル・ワン)氏とMargot Bellon(マーゴット・ベロン)氏の2人が果敢に取り組んでおり、その努力が一部実を結んでいる。2人が6か月前に設立した501(c)(3)組織、Bridging Tech(ブリッジング・テック)を通し、彼らはすでに400台以上の修理調整済みノートパソコンを、それを最も必要とするホームレスシェルターに住む子供たちに提供している。サンフランシスコだけで推定2000人のホームレス生徒がいるとされており、2人はベイエリアからこの活動に着手した。
これは2人の純粋な情熱によって開始されたプロジェクトではあるが、当然のことながら2人は同組織を永続的に構築していきたいという強い意思を持っているようだ。彼らは常にデジタルデバイドの問題を気にかけてはいたものの、現状を知ってしまった今、ここからただ立ち去ることはできない。
オハイオ州クリーブランドに位置する裕福な郊外、シェーカーハイツで育ったワン氏は、そこには「常に人種的な緊張感があった」と振り返る(ベストセラー小説の『Little Fires Everywhere』も同様の理由からこの地を背景に書かれている)。「コミュニティに存在した人種差別」の影響もあり、ワン氏は早い時期から十分なサービスを受けられていない人々を対象とした公衆衛生に関する取り組みに関わるようになる。そこで同氏が熱心に取り組んだのは教育への公平なアクセスを中心としたものだった。
生物学専攻のベロン氏は、スタンフォード大学の学生らが主催するアウトドアをテーマにしたOutdoor Houseでワン氏と知り合った。同氏は2人が初めから同じような興味を持っていたと語る。カリフォルニア州サンマテオで育ったベロン氏は、高校とカレッジ時代にホームレスシェルターでボランティア活動をした経験から、テクノロジーへのアクセス不足がもたらす課題に気付く。多くの人にとって、Wi-Fiを使うためにはスターバックスの外で過ごさなければならないという事実があり、また彼らにとっては図書館の中にしか利用可能なパソコンがないと同氏は指摘する。
今年の春世界が閉ざされたと同時に、ベロン氏は多くの人にとってこのような選択肢さえもがなくなってしまったことに気づく。同様にワン氏も同じ心境を抱えていた。友人たちの力も借り、今ではほぼ全員スタンフォードの学生から構成される30名のボランティアとともにこの取り組みに力を注いでいる。
これまでBridging Techはテクノロジーにアクセスできない生徒のためにラップトップを確保することに大きな重点を置いてきた。Citrix Systems(シトリックス・システムズ)とGenetech(ジェネンテック)が大口寄付企業として存在するが、同新興組織がより多くのテック大手からの支援を必要としていることは容易に想像がつく。
状態の良い中古パソコンが手に入ると、Bridging Techが提携している数社の修理調整業者に渡される。どの業者も1年間の保証をつけている。そのうちの1社で、サンディエゴを拠点とするComputers 2 Kidsは、子供たちがあまり助けを借りずにすぐにパソコンを立ち上げて使えるように分かりやすい説明書を添えている。
ベロン氏によると、通常ベイエリアのホームレスシェルターには技術ボランティアがおり、子供たちがコンピューターの電源を入れたり設定したりするのを手伝っているという。ShelterTechという組織は、Bridging Techと提携してコンピューターを受け取ったこれらの子どもたちがWi-Fiにもアクセスできるように取り組んでいる。
これらのデバイスは贈り物として、子供たちに恒久的に使用してもらうことができる。
またBridging Techは、コンピューターサイエンスなどよりスキルに基づいた活動をベースとしたメンターシッププログラムの他、個人を指導するチュータープログラムも開始している。
つい最近まで次の課題をやり遂げることに主に力を注いでいた2人の大学生にとって、非常に大変な取り組みである。しかし北カリフォルニアに彼らがもたらした変化を、他の地域でも引き起こさない訳にはいかない。ベロン氏によると、ニューヨーク、ロサンゼルス、ボストン、ワシントン、アトランタを含むその他の都市のシェルターとすでに話を進めているそうだ。
パンデミックの影響でリモート教育を強いられた恵まれない子供たちが、さらに遅れをとる結果となっており、全米中でこの問題は日に日に深刻度を増している。
これは連邦政府や州政府が真剣に取り組まない限り、簡単に解決する問題ではない。Pew Research Center(ピュー研究所)による2018年の調査によると、アメリカのティーンエイジャーの約5人に1人がコンピューターやインターネット接続へのアクセスが不十分なために宿題を完了できないことが多い、またはそういったことが時々あると答えている。同じ調査内で、低所得層のティーンエイジャーの4分の1が自宅にコンピューターがないと答えている。
ワン氏とベロン氏にとっての最大の問題の1つとして、今後彼らの志をどのように広げていくかという点がある。例えば現在、Bridging Techが修理調整したコンピューターは、ボランティアによって車でシェルターに直接届けられている。Bridging Techは、他の都市でも同じことを可能にするためのネットワークやインフラをまだ備えていない。
2人とも自分たちの限界を認識している。ワン氏は、Bridging Techに必要なのはデバイスの寄付を増やすことだけではなく、助成金の申請書を準備してくれる人材やマーケターそして、他の潜在的なパートナー組織に同組織を紹介してくれる開発の専門家などが必要だと述べている。「私たちは大学生なので、何か教えてもらえることがあれば何でもありがたいのです」と同氏は言う。
また同氏は「Bridging Techは他の都市ではデバイス寄付のプロセスを確立できていないので、ほとんどの都市でデバイスの購入を始めている」と明らかにしている(Whistleと呼ばれる組織を通して購入するのが1つの方法である。この組織は古いデバイスをユーザーから買い取るだけでなく、ユーザーが売却で得た利益を寄付できるような仕組みをとっている)。
ワン氏の新学期が始まり、またベロン氏が来年から修士課程に移った後も、2人はこの活動を続けていきたいと考えている。
「より公平な社会を実現するためには、テクノロジーが公平である必要があります。Covid-19はこれらの問題を悪化させていますが、あらゆるものにテクノロジーが必要であり、これが変わることはありません」とベロン氏は語る。
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(翻訳:Dragonfly)