【コラム】新たなハイブリッド生活、私たちと共存するハードウェアにできること

社会におけるさまざまな場面でハイブリッドモデルが登場しているが、それらは驚くほどの柔軟性がある一方で、仕事とプライベートの境界線はますます曖昧になり、私たちが精神的に疲弊をしていることは明らかだ。

儀式というのは、常に私たちの精神的、感情的な状態を形作る強力な力を持っている。例えば、人の集まり、物理的なトーテム、衣装や空間デザインなどはすべて、その経験を生み出すために機能する。しかし、ハイブリッドで働く人々にとっては、これまで慣れ親しんできた儀式の多くがもはや手の届かないものになっているのだ。彼らの日々の仕事には、人と集まることも、場所の変更も必要なく、服装もほとんど(あったとしても)変える必要がない。

1日に7時間以上も画面を見ている若者は、うつ病や不安症にかかりやすく、仕事をこなすのが難しいという研究結果が出ているにもかかわらず、私たちはハイブリッドなバーチャル体験を増やし続けている。さらに、従業員たちは、複数のタイムゾーンにまたがって行われる会議の連続で、毎日が果てしなく続くような感覚に陥り、疲労や倦怠感を訴えている。

現在、多くの人々が仕事や学校、買い物、銀行、医療など、あらゆる場面でコンピューターデバイスに依存していることを考えると、私たちは、ハイブリッドな仮想世界での新たな儀式に備えて、これらのデバイスをどのように設計・開発しているかを、より注意して見ていかなければならない。

今日「コンピュータデバイス」とは、従来のデスクトップ型ワークステーションから超ポータブルな携帯電話まで、あらゆるシナリオを想定している。しかし、これらのデバイスのデザインが、ユーザーの仕事とプライベートの境界を明確にするのに役立つとしたらどうだろう?

例えば、画面の前にキーボードがあるデバイスは「生産性の高いツール」という印象を与えるが、タッチ式のタブレット端末では、よりカジュアルでエンターテインメントに特化した印象を与える。もし、リモートワーカーがこの2つの様式を切り替えることで「仕事」から「プライベート」への切り替えを知らせることができたらどうだろう。

また、最近注目されているのが、ビデオチャットや会議ツールだ。私たちの多くにとって、人との交流の大半は、ビデオ会議アプリを使ったバーチャルミーティングで行われている。HDウェブカムやリング型ライトの需要は高く、バーチャルな背景やエフェクトの数は日々増加している。

ただ、ハードウェアの設計に大きく依存していることもあり、ビデオ会議の体験にはまだ多くの課題や制限がある。Zoom、Google Hangouts、Teamsなどのツールは、最新のアップグレードに対応しようと競い合っているが、統合された照明源、改良されたオーディオ、さらには触覚フィードバックなどのハードウェア上のハードルに取り組まなければ、ソフトウェアができるのはここまでだ。

しかし、対面からバーチャルへのパラダイムシフトを受け入れることができれば、ユーザーが同僚と直接目を合わせているように見せるために、ディスプレイ内埋め込み型の1ピクセル以下のカメラレンズのようなハードウェアのアップグレードによって、未来の日常に向けたデザインができるようになる。他にも、温度や触覚の技術を応用することで、仮想空間を介してお互いのつながりをより深く感じることもできるだろう。また、没入型の体験が進化していく中で、嗅覚の技術を追求することで、新たな可能性が生まれるかもしれない。

しかし、このようなハードウェアの進化は、実際に生産や消費の面ではどのようなものになるだろう?テクノロジーの便利さには目を見張るものがあるが、その一方で地球への負担も大きい。

消費者は地球を酷使する存在になってしまったのだろうか?

自分が大切にしているものを考えてみると、それらに共通しているのは、どれも古くて希少なものだということだ。もちろん、これは貴重なものに共通することだが、この価値観をハイテク製品にも適用できないだろうか。私はiPhoneを1〜2年ごとに交換しているが、Ducati(ドゥカティ)のバイクはパーツを少しずつアップグレードしていくことに大きな喜びを感じている。新品に交換するために捨てようとは決して思わない。

サステイナブルなソリューションを求める消費者が増えれば、ハードウェアメーカーはサービスを調整しなければならない。Apple(アップル)のような強力なブランドは、環境再生活動の強力なリーダーとなり得るだろう。デスクトップPCを自作することは(特にハードコアゲーマーにとっては)目新しいことではないが、すべてのポータブル機器がアップグレード可能なモジュール式になった未来を想像してみて欲しい。50年後、2025年に購入したスマートフォンが、いまだに機能していて価値の高いビンテージ品になっていたとしたらどうだろう?

私たちの新しい日常の現実は、デバイスの多さが解消されない一方で、ソフトウェアの開発が飛躍的に進んでいることだ。そろそろ私たちは、自分のデバイスを、クルマや家と同じように、最新の進歩に合わせて修理したり、改造したりして、大切にしていく対象として考えていかなければならない。

編集部注:執筆者Francois Nguyen(フランソワ・グエン)氏はfrogのプロダクトデザインのエグゼクティブデザインディレクター。

画像クレジット:Peter Cade / Getty Images

原文へ

(文:Francois Nguyen、翻訳:Akihito Mizukoshi)

VRグローブHaptXが「Metaの試作品は自社デバイスと実質的に同じ」と主張

Facebook(フェイスブック)、つまりMeta(メタ)は米国時間11月16日、新しい触覚フィードバックグローブのプロトタイプを公開した。このグローブは、新世代のAR / VRユーザーに、これまで以上にデジタルコンテンツを身近に感じさせることができると説明している。そして11月17日、同じミッションを持つVRスタートアップのHaptX(以前ここで取り上げたことがある)は、Metaが自社の特許技術と「実質的に同じ」プロトタイプを公開したことを非難する、かなりアグレッシブな声明を発表した。

HaptXのCEOであるJake Rubin(ジェイク・ルービン)氏の声明によると、同氏のスタートアップは長年にわたって「Metaの多くのエンジニア、研究者、幹部」に自分たちの技術を披露してきており、最新のプロジェクトではMetaから相談を受けていないという。「Metaからはまだ連絡を受けていませんが、懸念を解消し、我々の革新的な技術を将来の消費者向け製品に組み込むことができるような、公正で公平な取り決めに向けて、Metaと協力していきたいと考えています」とルービン氏は述べている。

画像クレジット:HaptX

Metaの広報担当者はコメントを控えた。

HaptXのものと、最近発表されたMetaのプロトタイプは、ともにマイクロ流体フィードバックと呼ばれる技術を使用している。携帯電話やゲームのコントローラーには、小さなモーターを使ってブザーやゴロゴロという音をシミュレートする触覚フィードバックが搭載されているが、ユーザーの手全体のより深い感覚をシミュレートするとなると、マイクロ流体フィードバックは、チューブのネットワークを流れる空気の流れを制御するアクチュエーターを使って異なる動作を行い、物を拾うことに関連する感覚や、すべてデジタルでレンダリングされた独特の質感を高度に模倣することができる。

Facebookではこれまでにも数多くのAR / VRのプロトタイプを公開し、最終製品には至らないことが多いが、特定のテクノロジーの最先端をテストする複雑な技術を示してきた。HaptXは長年にわたって法人顧客向けに触覚フィードバックグローブを製造してきた。この技術を小型化するために、グローブの感覚フィードバックを管理するバックパックサイズの空気圧ボックスが必要だった。しかし、これはまだ非常に複雑な技術であり、Facebook、いまとなってはMetaがQuest 2で追求してきたようなメインストリームのユーザーにリーチするには、おそらく何年もの開発期間を要する。

しかし、Metaのチームがこの技術を大幅に進化させたことは明らかだ。Metaの研究ブログ投稿では、こうしたフィードバックコントロールを操るグローブのチップセットである「世界初の高速マイクロ流体プロセッサ」が開発されたことが報告されている。同社の研究者の1人は「目標は、AR / VRインタラクション問題の両面に対応するソフトで軽量な触覚グローブを発明することです。つまり、コンピュータが着用者の手の動きを正確に理解して反映するのを助けること、そして着用者のために圧力、感触、振動などの複雑で微妙な感覚を再現して、仮想オブジェクトを手で感じているような効果を生み出すことです」と詳細に述べている。

Facebookはこれまで、自分たちの製品が大手ハイテク企業に不当にコピーされたと、スタートアップから多くの批判を受けてきた。また、反競争的な行為を行っている、と規制当局からも厳しい調査を受けてきた。

以下は、HaptXのルービン氏による声明の全文だ。

この10年間、HaptXはマイクロ流体による触覚フィードバックの分野を開拓してきました。数々の賞を受賞した当社の技術は、一般紙や専門誌で広く取り上げられており、高忠実度の触覚フィードバックへのアプローチとして、マイクロ流体のユニークな利点を開発し、普及させるためにたゆまぬ努力を続けてきました。また、当社のエンジニア、開発者、投資家の方々の長年にわたる献身により、当社の技術と製品を保護するための業界屈指の特許ポートフォリオを確保しています。

VR業界の他社との交流において、我々は常に業界全体の発展のためには協力が最も重要であると考えています。長年にわたり、当社はMetaの多くのエンジニア、研究者、幹部を招き、当社の画期的な触覚技術のデモンストレーションを行ってきました。

本日、Metaは独自のマイクロ流体式触覚フィードバックグローブのプロトタイプを発表しました。シリコンベースのマイクロ流体触覚フィードバック積層体と空気圧制御アーキテクチャを含むこのプロトタイプのコア構成要素は、HaptXの特許技術と実質的に同じであると思われます。我々は、マイクロ流体触覚の分野における関心と競争を歓迎します。しかし、業界が繁栄するためには、競争は公正でなければなりません。

まだMetaからの連絡はありませんが、我々の懸念を解消し、Metaが我々の革新的な技術を将来の消費者向け製品に取り入れることができるような、公正で公平な取り決めに向けてMetaと協力していきたいと考えています。

画像クレジット:Meta

原文へ

(文:Lucas Matney、翻訳:Nariko Mizoguchi

Ultraleapの空中触覚技術はメタバースのインターフェースになる、テンセントが約93.5億円のシリーズDに参加

UltraleapのCEOであるトム・カーター氏とCFOのChris Olds(クリス・オールズ)氏(画像クレジット:Gareth Iwan Jones

いまはUltraleap(ウルトラリープ)となった会社が、超音波で触覚を再現するその先駆的技術をTechCrunch Disruptで披露したのは、2017年にさかのぼる(当時の名前はUltrahaptics)。印象的な「スター・ウォーズ」のデモンストレーションが観客を魅了した。

そのデモは見ものだった(下の動画参照)。この技術は、その発明者であり現在もCEOを務めるTom Carter(トム・カーター)の大学院での研究に基いている。Ultrahapticsはその後、2300万ドル(約26億2000万円)の資金を調達し、自動車メーカーが興味を持つようになった。その後、大きな注目を集めていたLeap Motionを吸収したがハンドトラッキング空中ハプティクス(空中触覚)の組み合わせはすばらしいものであることがわかった。

今回Ultraleapが、Tencent(テンセント)、British Patient Capitalの「Future Fund:Breakthrough」、CMB Internationalらが主導した8200万ドル(約93億5000万円)のシリーズD調達を行った。また、既存の株主であるMayfair Equity PartnersとIP Group plcも参加した。

UltraleapのCEOであるTom Carter(トム・カーター)氏は、Facebookなどの企業によるVRベースの「メタバース」に関する最近の話題や、パンデミックによってもたらされたタッチレスインターフェースへの移行が今回の資金調達に貢献したとコメントしている。

彼はいう「メタバースという概念は、Ultraleapにとっては新しいものではありません。フィジカルな世界とデジタルな世界の境界を取り除くことは、常に私たちの使命でした。パンデミックの影響で、物理的な世界をデジタル要素で強化することの重要性を理解する人が増え、この言葉がさらに台頭したのです。Ultraleapにとっては、この新しい時代はVRヘッドセットに限定されるものではありません。インターネットのように、家庭、オフィス、車内、公共の場など、生活のあらゆる場面で私たちが接することになる現実なのです。今回のシリーズD調達の目的は、主なインターフェースである手への移行を加速することです。なぜなら、誰もが思い描くメタバースの中には、物理的なコントローラ、ボタン、タッチスクリーンがないからです」。

Ultraleapの第5世代ハンドトラッキングプラットフォームGemini(ジェミニ)は、明らかに多くのデバイスへの適用を意識している。実際、Qualcomm(クアルコム)のSnapdragon(スナップドラゴン)XR2チップセットや、Varjo(バルジョ)VR-3およびXR-3ヘッドセットなど、複数のプラットフォームやカメラシステム、サードパーティのハードウェアにすでに組み込まれている。

Ultraleapの計画では、GeminiをさまざまなOSに対応させ、ツールや研究開発への投資を増やし、開発者が技術をどのように応用するかについて、想像力を膨らませることができるようにすることを目指している。

このタッチレス技術の重要な推進力の1つは、もちろん「グレートパンデミック」だ。もう何かに無防備に触れたいと思うひとなどいなくなったのではないだろうか?

そのため、ペプシコやレゴなどの企業が、すでにUltraleapの技術をパブリックインターフェイスに採用している。

そして2017年にも示唆されたように、自動車メーカーは「車内での体験」を現実のものにしようとしている。Ultraleapは、すでにDS Automobiles(DSオートモビル)やHosiden(ホシデン)と協力して、新たな空中ハプティック体験を提供しようとしている。

カーター氏は電話でこれらの動きについて話ながら、VRベースのメタバースの中で機能するユーザーインターフェースの可能性が、Ultraleapの技術のビジョンであると説明した「確かにメタバースは今とても話題になっていますが、実際にそこで語られているのは、私たちが目指していること、すなわち人間とバーチャルコンテンツの間にある障壁を取り除くことなのです。

今回の資金調達は、私たちがターゲットとするすべての市場において、すべての人が自分の手を使った最適なインターフェースに移行できるようにするためのものなのです。XRに関してはGeminiを発売しましたが、ここ数週間で新世代のハンドトラッキングは大絶賛されています。いまこそ、大きく拡大をするべきタイミングなのです。ペプシコの導入例では、好ましいとしたユーザーが85%に達し、注文を終了するまでの時間ではタッチスクリーンと同等でした」。

そして、自動車だ。彼は「UXは新しい推進力です」という。「私たちは今でも車を運転していますが、車内での体験にもっと焦点を当てようとしています。仕事をしているのか、楽しんでいるのか、あるいはその他のメタバースに似た活動を車内で行っているのか、などです」。

彼によれば、道路から目を離さなければならないタッチスクリーンではなく、空中に置かれたインターフェースを使用することで、安全面で非常に大きなメリットがあることがわかったそうだ「ドライバーが道路から目を離す回数が減ることで、ドライバーの精神的な負担が約20%軽減されるのです。こうしたインターフェースに移行することで、より安全な運転ができるようになります。そして、一旦そのインターフェースを手に入れ、みんながこの方法で対話することに慣れれば、未来の世界への移行が容易になります」。

以下が2017年のデモの様子だ。

原文へ

(文: Mike Butcher、翻訳:sako)

グーグルがAndroid 12の開発者プレビュー最新版を公開、触覚フィードバックなど拡張

Google(グーグル)は米国時間4月21日、同社のモバイルOSの最新版であるAndroid 12の開発者プレビュー第3弾を予定どおり公開した。Googleのロードマップによると、今回の開発者プレビューは、Android 12がベータ版に移行する前の最後のプレビューとなる。通常、開発者ではないユーザーがAndroid 12を試したい場合はベータ版が最初の無線(OTA)アップデートになる。今のところ開発者は、サポートされているPixelデバイスにシステムイメージをフラッシュする必要がある。

Googleは、ベータ版のリリースを間近に控えた今こそ、開発者は自分のアプリの準備が整っているかどうかを確認するために互換性テストを開始する必要があると指摘している。現在のところAndroid 12は、2021年8月までにプラットフォームの安定性を実現する計画だ。その時点で、アプリ向けのすべての機能がロックされ、確定される。

では、今回のプレビューでは何が新しくなったのだろうか?いつものように、数多くの小さな新機能、調整、変更があるが、今回の目玉は、開発者がアプリケーションで新しいハプティック(触覚)フィードバック体験を提供できるようになったことと、新しいアプリ起動アニメーションだ。

新しいアプリ起動エクスペリエンスは、開発者とユーザーの両方にとって、今回の最も顕著な変更点かもしれない。この新しいアニメーションは、アプリの起動から、アプリのアイコンを表示するスプラッシュ画面、そしてアプリ本体へと続く。「新しいエクスペリエンスは、すべてのアプリの起動に標準的なデザイン要素をもたらしますが、各アプリが独自のブランディングを維持できるように、カスタマイズも可能にしました」とGoogleは説明している。開発者は、このスプラッシュスクリーンを自分のブランドでどのようにカスタマイズするかについて、かなりの自由度を持っている。ただし、デフォルトでは最もベーシックな起動エクスペリエンスが有効になっている。

また、リッチなハプティックフィードバックも今回のリリースで加えられた。それを聞くと、今ではほとんど使われなくなったApple(アップル)のForce Touchを思い出さずにはいられないが、これは少し違う。ここでは「ゲームには没入感のある楽しい効果を、プロダクティビティには注意力を向上するハプティック」を提供するものだという。

本リリースのその他の新機能には、着信および進行中の通話をユーザーがより簡単に管理できるようにする新しい通話通知テンプレートが含まれている。Googleによるとこれらの新しい通知は、より視認性が高く、読み取りやすいものになるという。また、機械学習ワークロードのためのNeural Networks API(NNAPI)の改善や、より幅広い超高解像度カメラセンサーをサポートするための新しいAPIも含まれる。

またAndroid 12では、計算負荷の高いタスクを実行するためのRenderScript APIが廃止され、VulkanやOpenGLなどのGPUコンピューティングフレームワークが採用される。

今回のリリースに含まれるすべての変更点の詳細については、こちらから見られる。

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:GoogleAndroidハプティクスOSスマートフォンPixel

画像クレジット:juniorbeep / Getty Images

原文へ

(文:Frederic Lardinois、翻訳:Aya Nakazato)

遠隔地でも仮想空間でも釣りができる小型ロボット「TeleAngler」、ロボティクスのRe-alが2021年秋販売へ

TeleAnglerは2台利用。遠隔地にある1台を手元の1台で操作

近い将来、自宅から遠く離れた海や川にいる魚を釣ることができるようになるかもしれない。ロボティクススタートアップのRe-alは2021年秋に、小型の遠隔 / 仮想釣りロボット「TeleAngler(テレアングラー)」を販売する予定だ。現在も開発が進められているこのTeleAnglerには、リアルハプティクス(力触覚技術)を応用している。

リアルハプティクスは人間が生み出す力の加減といった「力触覚」をロボットで再現できる技術だ。遠隔地にある対象物の触覚情報などをデジタルデータ化し、それを遠隔地側と操作側の双方向にリアルタイムで伝送する。

TeleAnglerの場合、このリアルハプティクスにより遠隔地で釣り針にかかった魚の動きが手元にあるTeleAnglerを通してユーザーに伝わる。さらに魚との駆け引きに合わせて竿を上げたり、引いたりするといったユーザーの複雑な動きを、遠隔地にあるTeleAnglerが再現。これにより、まるで現地にいるかのように釣りを楽しむことができる。さらに身体が不自由な人や高齢者といった釣り場に足を運ぶことが難しい人でも、気軽に釣りができるようになる。

遠隔 / 仮想釣りロボットTeleAngler

ユーザーはTeleAnglerの取っ手部分を握って操作する

TeleAnglerの本体は横幅が約30cm、奥行きが約25cmとなっている。竿を取り付ける取っ手部分を含めた高さは約30cm。これまでRe-alが開発してきた釣りロボットよりも小型化や低コスト化を果たしている。TeleAnglerによる遠隔釣りは、小ぶりな淡水魚(300~600グラム程度)を対象としている。

直近では、Re-alが事務所を置く神奈川県川崎市から東京都奥多摩町で遠隔釣りの実証実験を行った。TeleAnglerの電源は釣り堀の建屋から延長コードを伸ばして共有し、現地の映像と音声を伝送する装置は市販のものを用いた。

実証実験の遠隔釣りは、TeleAnglerの取っ手の先に竿を固定し、スタッフが餌を付けて釣り堀に糸を垂らしてスタート。有線の光ケーブルで繋いだインターネット介して、もう1台のTeleAnglerからモニター越しにマスを釣り上げることができた。なお、釣り上げた魚をスタッフがその都度外すようにしている。

多くの人が気になるのは、遠隔釣りが実用レベルで遊べるかということだろう。Re-alの新明脩平代表は「日本国内であれば、TeleAnglerを使った遠隔釣りを問題なく遊べるはずです。我々はこれまで東京都から大分県までの約1000km離れた距離で、魚を釣った実績があります。その距離でも操作する人と魚がかかった反応のラグは、人間が感じ取ることのほうが難しいレベルです」と説明した。デジタルデータ化された力触覚の情報量は、映像よりも小さいため、映像より先に手元へ力が伝わるほどだという。

仮想空間で魚の引きを再現

さらにRe-alは、TeleAnglerによる仮想釣りの実装も進めている。Re-alはすでに過去に人が魚を釣った時のデータを保存し、TeleAnglerで再生するシステムの開発が進んでいる。完成すれば仮想空間で24時間365日、釣りが楽しめるようになる。

Re-alは、TeleAnglerをゲームセンターなどの施設に販売していく。本体価格は現段階で、50~60万円ほどを想定している。今後、実証実験を踏まえて価格などを調整していくが、ゲームセンターなどでは1プレイ500~600円ほどで約15分間遊べるイメージだという。

また将来的にRe-alは、TeleAnglerを家庭用ゲーム機としてアップデートし、自宅で遠隔釣りも仮想釣りもできるようにしていく考えだ。さらに新明氏は「遠隔地で釣った魚を、ユーザーに宅配するサービスも視野に入れて動いています」と話した。

リアルハプティクスによるロボティックス領域の展開

TeleAnglerに応用されているリアルハプティクスを開発したのは、慶応義塾大学の大西公平教授で、その特許は同大学が所持している。

リアルハプティクスは現状、産業界に一般提供されている技術ではない。慶應義塾大学ハプティクス研究センターは、リアルハプティクスの実用化や市場流通を念頭に、リアルハプティクス技術協議会を設立した。同センターでは共同研究企業を募集し、この中で民間企業と新たなビジネスの創出などに向けたリアルハプティクスの研究を進めている。Re-alも同協会の会員だ。

また、リアルハプティクスをロボットに実装するために必要なキーデバイスとなるICチップ「ABC-CORE」は、同大学発のスタートアップとなるモーションリブが製品化し、リアルハプティクス技術協議会の加盟企業に先行提供している。今後、リアルハプティクスに関する共同研究が進んでいけば、ロボティクス領域は大きく発展していくはずだ。

カテゴリー:ロボティクス
タグ:Re-alTeleAnglerリアルハプティクス触覚技術日本釣り

触覚を再現するハプティクス技術はコロナ時代における希望となるか

著者紹介:

Devon Powers(デヴォン・パワーズ)氏はテンプル大学の広告学の准教授。著書に『On Trend: The Business of Forecasting the Future』がある。

David Parisi(デービッド・パリジ)氏はチャールストン大学の准教授。著書に『Archaeologies of Touch: Interfacing with Haptics from Electricity to Computing』がある。

ブルックリンに住むJeremy Cohen(ジェレミー・コーエン)はこの3月に、近所に住むTori Cignarella(トーリ・シニャレラ)というすてきな女の子とお近づきになりたいと綿密な作戦を練って実行したことで、インターネットでちょっとした有名人になった。

隣のビルの屋上にある通気口の横にいるトーリさんを初めて見かけたジェレミーは、ドローン、Venmo(ベンモ)、メッセージ、FaceTimeなど、ソーシャルディスタンスを守ったあらゆる手段を駆使してトーリさんと連絡を取り合った。そして、2回目のデートで彼の作戦は頂点をきわめる。巨大なビニール袋を買って風船のように膨らませ、自分がその中に入って、トーリを接触なしの散歩に誘ったのだ。ジェレミーはインスタグラムに、「ソーシャルディスタンスを守って人と物理的な距離を取る必要があるからといって、気持ちまで距離を置いてよそよそしくする必要はないんだ」と書いている。

ジェレミーの奇抜で手作り感満載のアプローチは、数日間、人気のあるクリックベイトになり、面白がってクリックする人が続出した。同時に、このエピソードは、新型コロナウイルス感染症の時代に急増している接触中心型の起業家精神に対するいくらか手厳しいメタファーでもある。新型コロナウイルスのせいで、デートから銀行の顧客対応、学校から小売り店舗に至るまで、日常生活の中で接触と近接をどう位置付けるべきか、誰もがいや応なしに考えさせられる状況になっている。企業は、いつ発令されるかわからない休業命令、部分的な営業再開、リモートワーク、感染の急拡大や消費者行動の変化などに悩まされ、その場の判断でさまざまな対応策を試さざるを得ない状況だ。

このような混乱の中、一般に定着してきた対応策もある。一方で、より広範な解決策はあきらめて手っ取り早い解決策を採用し、急いで通常の状態に戻ろうとする企業もあれば、パンデミックを口実にして技術的シフト(歓迎されないもの、実用的でないもの、またはその両方)を加速しようとする企業もある。あるいは、ガイドラインの一部にのみ従う、あるいはガイドラインをまったく無視して、ある程度「通常の対応」(つまり、ソーシャルディスタンスも規制もなし)をすると約束し、客を呼び戻そうとする店舗もある。

さて、ハプティクス技術(触覚技術)について説明しよう。接触技術への投資は新型コロナウイルスの拡大前から上向きだった。仮想現実によって触覚インターフェイスを備えた手袋や全身スーツへの新たな関心が高まり、ウェアラブルデバイスやスマートウォッチなどのモバイル機器の触覚技術によってこの分野に新しいリソースが注入された。ハプティクス業界の健全性と成長度を1つの数字で表すのは難しいが、ある推計では、世界のハプティクス市場は2020年現在で129億ドル(約1兆3663億円)、2027年までに409億ドル(約4兆3322億円)まで成長すると予測されている。

1993年に創業し、ゲーム、自動車、医療、モバイル、工業など、広範囲の接触アプリケーションに積極的に取り組んでいるImmersion Corporation(イマージョンコーポレーション)などの定評のある老舗企業に加えて、Sony(ソニー)、Apple(アップル)、Microsoft(マイクロソフト)、Disney(ディズニー)、Facebook(フェイスブック)の各社も専任チームを設置して新しいハプティクス製品の開発に取り組んでいる。また、多数のスタートアップも現在、新しいハードウェアやソフトウェアを使ったソリューションを市場に投入している。例えば、英国のブリストルに本社を置くUltraleap(ウルトラリープ、旧称Ultrahaptics)は、空中ハプティクス技術を開発する企業で、8500万ドル(約90億円)の資金を調達している。VRやリモート操作に使用する外骨格力フィードバックグローブを製造するHaptX(ハプトエックス)は、1900万ドル(約20億円)を調達した。また、手首に装着するBuzzというデバイスを使い皮膚を通して音をルーティングする技術に特化したNeosensory(ネオセンサリー)は1600万ドル(約17億円)を調達している。最近はマルチメディアコンテンツにハプティクスを簡単に埋め込めるようにすることを目指して業界全体で取り組みが始まっており、この分野の成長は今後さらに加速していくだろう。

こうしたトレンドにもかかわらず、接触技術関連のビジネスは明確に定義された1つの方向に向かっているわけではない。企業によって対応もさまざまであるため、消費者側でも混乱、落胆、不安、抵抗感などの気持ちが交錯している。とはいえ、新型コロナウイルス感染症は、単に不満を募らせる原因になっているというより、未来の社会は接触型と非接触型のどちらの方向に向かうのかという長年の議論に光を当てる格好になっている。接触技術をめぐる緊張感はすでに高まっているが、早急な変化や一時しのぎの解決策、短期的思考は問題を悪化させるだけだ。

今求められているのは、長期的な視野である。消費者であり、市民であり、人間である我々が、どのような状況で接触を求め必要としているのかという点について、真剣かつ体系的に考える必要がある。そのような思考に到達するには、単に良さそうに見えるテクノロジーだけでなく、未来においてつながりと安全に関する真のニーズに応えてくれるテクノロジーへの投資を増やす必要がある。

マスクの次はプレキシガラス

世界のどこにおいても今回のパンデミックで最も目につくシンボルはマスクだろう。しかし、コロナ禍における新しい日常には別のもっとクリアなシンボルがある。プレキシガラスだ。

プレキシガラスは、ウイルスから身を守れるように生活環境を作り直す方法を切り開いた素材だ。米国では、3月にプロキシガラスの需要が急激に伸びた。最初は、病院や、食料品店などの必需品販売店で大量に使われるようになった。それに比べると自動車など従来の分野の需要はずっと少ないが、それを補ってあまりあるほど、レストラン、小売り業、オフィス、空港、学校での需要が急激に伸びた。体験修行を行うお寺、ストリップクラブマッサージパーラーフィットネスクラブなどでも、仕切りとして使用されている。

プレキシガラスが接触に及ぼす目に見えない影響は、プレキシガラス自体がウイルス対策の素材として果たす役割と同じく、非常に大きい。プレキシガラスというと無菌状態やウイルスからの保護を思い浮かべるかもしれないが、実際には、汚れやすく、ウイルスも簡単に回り込める。何より、人の間に文字通り壁を作ってしまう。

使い捨てビニール、換気システム、手の除菌用ローション、紫外線などと同様、プレキシガラスの事例は、少なくとも初期段階では、ありふれた防御策が機能することをよく示している。食料品店では、客とレジ係の間に飛沫防止用のアクリル板を設置したほうが、非接触型ショッピングや(ネットで注文し店の専用駐車場で受け取る)カーブサイド・ピックアップなどの抜本的な対応策を講じるよりはるかに簡単だ。プレキシガラスなどの防御策は低コストで、ある程度の効果はあるし、客の側も行動を大きく変えずに済む。それに、コロナ後の生活様式が以前の行動に非常に近い形に戻った場合でも、簡単に元に戻せる。

プレキシガラスのように透明な樹脂素材を使った対策は、明らかに環境に悪いだけでなく、接触するという行為と人との関係や、触れ合うことで生まれるお互いの関係を損なう可能性もある。例えばブラジルでは、一部の介護施設で「ハグ・トンネル」を設置して、入居者が家族とビニールのフェンス越しに抱き合うことができるようにしている。「いつになったらもう一度愛する人をハグできるの」という胸が痛むような質問を最近よく耳にすることを考えると、ハグトンネルによって再会が可能になったというのは、感動的ではある。だが、本人が目の前にいては、じかに抱きしめ合いたいという気持ちが強くなるだけだろう。

ソーシャルディスタンスを守るためにエレベーターの床に描かれた円や、店の通路の案内標識についても同じことが言える。こうした対策は、最大限に理性を発揮し規則に従順であることを人に求めるものであるため、親密さという人間らしい気持ちとは相いれない。すばらしい新未来というより、嫌々ながら現状を受け入れているという感じが強い。こうした対策は重要だが一時的なものだというメッセージを正しく伝えないと、必ず失敗することになるだろう。

タッチテクノロジーは救世主となるか

肌の接触に対する飢えを満たす方法として、未来学者はハプティクスによるソリューションを勧めている。ハプティクスとは、接触によって生じる身体的感覚をシミュレーションによって再現するデジタル技術だ。ハプティクス技術の応用は多岐にわたる。簡単な通知ブザーの類いから、振動、電気、力などによるフィードバックを組み合わせて本当にモノに触れているかのような感覚を再現するものまで幅広い。しかし、仮想現実の人気再燃により最先端技術が短期間で進歩したものの、ハプティクス技術を搭載したデバイスで一般消費者向けに実用化されているものはほとんどない(例外として、15年以上に及ぶ開発期間を経て今年初めに発売されたCuteCircuit(キュートサーキット)のHug Shirtという製品がある)。

ハプティクスは通常、スマートフォン、ビデオゲームコントローラー、フィットネストラッカー、スマートウォッチといった他のデジタル機器の一部として組み込まれている。ハプティクス専用デバイスというのはまだ希少で、比較的高価だが、人気のメディアや技術関連雑誌では、専用デバイスの普及は目前に迫っていると広く報じられている。効果的なハプティックデバイス、とりわけ「撫でる」といった社交的かつ感情的な触れ合いを伝えるように設計されたものは、Zoom偏重のコミュニケーションに触感を組み込むのに非常に有効だろう。

こうしたアプリケーションは、フェイスブックマイクロソフトディズニーといったリソースの豊富な企業は大いに買っているものの、ホームオフィスやテレビ会議といった環境ですぐに利用されるということはないだろう。離れた場所にいながら握手できるようにするデスク据え置き型システムのような製品は実現できそうに思えるかもしれないが、そうしたデバイスを大量生産するには、触感を正確に合成する高価なモーターが必要になるため、コストがかなり高くなるだろう。かといって安価な部品を使うとハプティクスの精度が落ちる。現時点では、触感の再現精度について明確に定義された品質基準はまだ存在しない。例えば、音声の場合であれば、十分な試行を重ねた上で策定された圧縮標準があるが、そのハプティクス版はまだ策定されていないのである。イマージョンコーポレーションのYeshwant Muthusamy(ヤシュワント・ムシャーミー)氏は最近、ハプティクス技術が普及しないのは、標準の欠落という難しい問題があるからだと指摘している。

ハプティクス技術に特化した研究はすでに30年以上にわたって行われているが、今でも解明が難しい分野である。新型コロナウイルス感染症の影響で、すでに始動していたプロジェクトが加速したという証拠も見当たらない。仮想触覚という発明は相変わらず魅力的だが、精度、人間工学、コストの最適なバランスを実現するのは今後も課題となるだろう。これを解決するには市場での試行錯誤という時間のかかるプロセスを経るしかないと思われる。ハプティクスの潜在的価値は確かに高いが、物理的距離を保つことによる心理的ダメージを修復する特効薬にはならない。

興味深い例外として、手の動きのトラッキングと空中ハプティックホログラム(ボタンの代わりとなる)を組み合わせてタッチスクリーンを置き換える製品があり、期待できそうだ。これはブリストルに本社を置くウルトラリープの製品で、スピーカー群を使って、触れることができる超音波を空中に投影する。この超音波は押すと抵抗を感じられるため、ボタンをクリックするときの感覚を効果的に再現できる。

ウルトラリープは最近、映画広告会社CENと提携して、米国各地の映画館のロビーにある広告用ディスプレイに非接触ハプティクスを搭載する計画を発表した。画面に触れずに操作できるようにすることが目的だ。同社によると、これらのディスプレイを使えば「ウイルスの感染を抑え、コンテンツを安全かつ自然に操作できる」という。

ウルトラリープが実施した最近の調査によると、回答者の80%以上がタッチスクリーンの衛生状態に関して懸念を抱いていることが判明した。この結果から同社は「公共の場にタッチスクリーンを設置する時代の終焉」が近づいているのではと推測している。今回のパンデミックは、テクノロジーの変革をもたらすというよりも、既存のテクノロジーの実装を推し進める機会となった。タッチスクリーンはもはや自然で創造的な対話の場ではなくなり、接触による伝染を回避すべき場所となった。ウルトラリープの未来型ディスプレイにより、我々は、汚染されたガラスではなく空気にタッチするようになるだろう。

タッチの少ない世界

人との接触(タッチ)が危機にひんしているという概念は心理学では繰り返し登場してきたテーマだ。接触が不足すると、神経生理学的にマイナスの影響があることは、数多くの研究によって実証されている。乳児は接触が不足する、つまり人に触れてもらう機会が少ないと、ストレスホルモンであるコルチゾールの濃度が高くなり、発育にさまざまな悪影響が及ぶ。拘置所では、拘束や隔離によって接触が奪われることは、拷問にも等しい罰となる。テクノロジーが日常生活にますます深く入り込み、かつては近接や接触を必要とした対話がテクノロジーに仲介されるようになったため、接触ではなくテクノロジーによるコミュニケーションを行うとどのような結果になるのか、さまざまな臆測が飛び交っている

今回のパンデミックでは、物理的な接触を社会全体で控えるよう突然要求されたため、人との接触が奪われる危機がより増幅されている。コロナウイルスは容赦のない罠を仕掛けてくる。人は離れていると、余計に連帯感を欲しがるようになり、危険なリスクでも平気で犯すようになる。しかし、触れたいという欲求に屈すると、我々は自分自身と自分の愛する人たちを命に関わる危険にさらすことになるだけでなく、また元通り触れ合えるようになるまでにさらに長い時間がかかることになる。

今回のパンデミックは、接触、ハプティクス、そして人間らしさについて、すでに重要な教訓を示してくれている。第一に、環境はあっという間に変わり得るが、本当の意味での社会的および行動的な変化には時間がかかるということだ。多くのアメリカ人たちがパンデミックなど発生していないかのように振る舞っているため、接触が必要なくなる未来がもうすぐ実現すると思っていた人は、そう考えるのをやめてしまうかもしれない。加えて、惰性と規制疲れという問題がある。つまり、パンデミック時代の感染防御策の中には、後々ずっと残るものもあれば、時間の経過とともに消滅または緩和されるものもあるということだ。9.11のことを思い出してほしい。あれから約20年が過ぎた今、愛する人を入国ゲートで出迎えることが再びできるようにはまだなっていないが、ほとんどの空港では液体やジェルの厳しいチェックは行っていない。

同様に、現在のコロナ禍の名残として、除菌用ローションスタンドの容器が空のまま放置されている状況を想像できる。地下鉄の乗客の間にプレキシガラスの仕切りを設置することは受け入れられるだろうが、レストランやスポーツイベントでのそうした仕切りは嫌われるだろう。今後はスライド式の自動ドアや手の動きをトラッキングする機能をよく目にするようになるかもしれないが、普及がうまくいかなければ回転ドアや取っ手や押しボタンに戻るかもしれない。

第二に、これも1つ目と同様に重要な洞察だが、過去と現在は隣り合っているということだ。テクノロジーの開発は行動の変化よりもさらに長い時間を必要とするし、一時的な流行、コスト、技術的な限界などの問題がつきまとう。例えば、今現在も、店舗やレストランをラストワンマイル(物流の最後の区間)のフルフィルメントセンター(通信販売で注文を受けた商品の発送センターのこと)にするとか、ARとVRを活用するとか、接触なしのスペースを再考するなど、多くの対策の実現を求める圧力が存在する。これらのシナリオでは、モノに触れたり操作したりするのに、仮想的なショールームで高精度のデジタル触感テクノロジーを使うことになるだろう。しかし、こうしたシナリオの一部は、ハプティクス分野でもまだ実現されていない機能が今すぐ使えることを前提としている。例えば、携帯電話を使って衣類に触れることは理論的には可能だが、実際には難しいし、携帯電話の機能、サイズ、重量、速度などはトレードオフの関係にあるため、すべてを同時に解決することはできない。

タッチの多い世界

今回のパンデミックで接触が不足して物足りなさを感じることはなかったが、同時に、接触について何か問題が発生したこともなかった。我々が慣れている接触には非人間的な部分もある。例えば、満員の地下鉄の車両での強制的な接触や飛行機の窮屈な座席などだ。#MeTooやBlack Lives Matter などの社会運動によって、望まない接触が衝撃的な結果を招き力の不均衡を拡大させるという事実に注目が集まった。接触が持つ意味とそのメリット・デメリットは人によって異なる。我々はそのことを広い視野で考える必要があり、決して画一的な解決策に飛び付いてはならない。接触は基本的に生物学的な感覚だと思われるかもしれないが、その意味は、文化的な条件と新しいテクノロジーの変遷に応じて繰り返し再考されてきた。新型コロナウイルス感染症は世界中で、接触に関する習慣に対して、少なくとも1世代で経験するものとしては最も急激な大混乱をもたらしている。しかし、必ずやこの混乱に対処できるテクノロジーが開発され、コロナウイルスによってあきらめざるを得なかった接触の一部を(直接触れる形ではなくても)取り戻せるようになるだろう。

しかし、タッチテクノロジーは、「こんなことができるのか!」という好奇心をかき立てるばかりで、生活に根付いた日常的なニーズへの応用についてはおろそかにしがちだ。ハプティックテクノロジーの採用を検討する企業は、宣伝文句や誇大な想像は無視して、どのような状況でタッチが(あるいはタッチレスが)最適なのかについて長期的な計画を立てる必要がある。ハプティクス設計者は、接触や触感に関する複雑なエンジニアリングの問題を解決することだけに焦点を当てるのではなく、日常のコミュニケーション習慣に楽に取り込むことができるようなテクノロジーに注意を向ける必要がある。

今後に向けて有益な練習として、「2030年に別の型のコロナウイルスのパンデミックが発生することがわかっていたらハプティックの設計をどのように変更するだろうか」と自問してみるとよい。人間らしい接触のニーズを部分的にでも満たせる、どのようなタッチテクノロジーが生まれるだろうか。企業はハプティックソリューションに関して、どうすれば事後対応ではなく事前に予測して対応できるだろうか。ハプティクスの分野で仕事をしている人たちは人間のコミュニケーションにタッチを復活させようという崇高な使命感で動いているかもしれないが、この使命には切迫感が欠落していることが多い。新型コロナウイルス感染症によってソーシャルディスタンスを守ることが現実となった今、この物理的な隔たりをハプティクスによって、完全ではないにしてもある程度は埋める必要性がより明白になっており、求められるレベルも高くなっている。

顧客対応において「人間味」と「つながり」を顧客対応に復活させようとしている企業も、同じように感じている。皮肉なことだと感じるかもしれないが、今こそ、この危機を乗り越えるだけでなく、次の危機に備えるべきときだ。回復力、柔軟性、余剰能力を蓄えるのは今しかない。それには、いくつか厳しい質問と向き合う必要がある。高精度の感覚世界を再現するには、たとえコストが高くても、VRが必要だろうか。低コストで低精度のデバイスでも十分だろうか。人々はテクノロジーによって実現されたハグを本物に代わる有意義なものとして受け入れられるだろうか。タッチテクノロジーが生活に取り込まれても、やはり物理的な存在が一番なのだろうか。未来は接触が増える方向と減る方向のどちらに向かうのだろうか。

答えは簡単には見つからないかもしれない。しかし、新型コロナウイルス感染症がこれまでにもたらしてきた苦難、トラウマ、喪失感について考えると、これらの難題にできる限り真剣かつ注意深く取り組む必要があると感じる。我々は、今も、そしてこれからも、接触とテクノロジーが実現できることとできないことについて、計画的、現実的であり、希望を持ち続ける義務がある。

関連記事:Google、英スタートアップ、Reduxを買収と判明――オーデイオとハプティクス分野で大きな武器に

カテゴリー:ハードウェア

タグ:コラム ハプティクス / 触覚技術

[原文へ]

(翻訳:Dragonfly)