fukuがライフサイエンス分野の研究支援サービス「Sophiscope」のオープンβ版の提供を開始

ライフサイエンス分野の研究者を対象とした研究支援サービス「Sophiscope」(ソフィスコープ)を開発中のfukuは10月14日、総額4500万円の資金調達を明らかにした。第三者割当増資よるもので、引受先はプライマルキャピタル(プライマルキャピタル2号投資事業有限責任組合)、ディープコア(DEEPCORE TOKYO1号投資事業有限責任組合)、島田達朗氏。今回調達した資金は、バイオ自然言語処理、機械学習エンジニアリングの体制強化に活用するとのこと。

資金調達の発表に合わせて、Sophiscopeオープンβ版の先行利用の応募受付も開始した。

開発中のサービス画面

ライフサイエンスの研究では、試薬の量や反応時間などの適切な実験条件を調整するための予備実験に多大な手間がかかるという問題がある。fukuが実施したユーザーヒアリングでは、本実験(論文に掲載するデータを取得する実験)までに平均3回以上の予備実験を実施していることがわかったそうだ。

さらに新たな研究テーマに取り組む際には、予備実験の前に平均27本の論文を調査し、実験条件の検討に平均86時間を要することが判明。原因が、膨大な先行研究から目的に合致した論文を見つけ出すの作業や、論文の内容が再現可能か検証する作業に時間や手間がかかることなどが原因と考えられている。

同社は、これらの情報の検索・比較・精査に多大な手間がかかっている現状を解消し、研究者が研究活動により集中できる環境を整えるための支援サービスとしてSophiscopeを開発。

Sophiscopeでは、膨大な量のライフサイエンス論文の内容を、自然言語処理と機械学習を用いて構造化することで、すべての実験条件を統一したフォーマットに整理できるのが特徴だ。複数の論文を横断的に比較することが可能になり、先行研究の検索と比較を広範囲かつ高速に実現できる。

オープンβ版では、がんの移植実験(Cell Line-Derived Xenograft, Patient-Derived Xenograft)に関して10万件の論文(3000ジャーナル)から2万件のプロトコルを抽出。抽出している実験条件とその種類数は以下のとおり(2020年10月14日現在)。

  • マウス:22種
  • がん:1370種
  • 細胞株:243種
  • 評価指標:7種

なお、オープンβ版では対象疾患をがんに絞っているが、今後は糖尿病、認知症、AIDSなどにも拡大するとのこと。実験条件の抽出を足がかりに、将来的には「論文の再現可能性の測定」「実験条件の提案」「実験結果のシミュレーション」などの機能を開発する計画もある。オフィシャルローンチは2021年上半期を予定している。

fuku代表の山田涼太氏は、東京大学入学後農学部獣医学専修に進学後、転学部を経て同大学工学部システム創成学科を卒業。学内のアントレプレナーシッププログラムを通じてプロジェクトを立ち上げる経験を積んだあと、2018年在学中にfuku株式会社を創業している。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:fuku、Sophiscope、ライフサイエンス

中国が米国のバイオテクノロジーの未来に資金を供給している

【編集部注】著者のArman TabatabaiはTechCrunchのコンサルタント

中国のVCは、中国最大の健康問題を解決するために、米国のスタートアップに何十億ドルもの投資を行っている

シリコンバレーは健康ブームの只中にいて、それは「東洋」医学によって推進されている。

米国の医療投資に関しては、今年は過去最高の年となったが、北京と上海の投資家たちは、米国のライフサイエンス企業やバイオテクノロジー企業にとって徐々に最大の取引相手となっている。実際、Pitchbookによれば、今年中国のVCは、中国内で行うよりも多い、300を超える投資を米国のライフサイエンス企業やバイオテック企業に対して行っている。メリーランド州に本拠を置く、炎症や自己免疫疾患の治療法を探るViela Bio社の場合は、中国の3社が主導したシリーズAで、2億5000万ドルの調達が行われた。

中国の食欲旺盛な新規資金は、中国国内にも流れ込んでいる。中国の医療スタートアップにとってもビジネスは活況を呈しており、今年はこれまでにないベンチャー投資の年になりそうだ。100社以上の企業が40億ドル以上の投資を受けている。

中国の投資家たちが、その戦略をライフサイエンスならびにバイオテックへとシフトするにつれて、中国は未来の世界の主要な健康機関に対して、大きな影響を及ぼす医療投資のリーダーの地位を、確かに獲得しつつある。

中国のVCたちは健全なリターンを求める

私たちは直接触れるものや、楽しませてくれるものについて語ることが大好きだ。そしてまた、9桁(1億ドル)の小切手がしばしば中国を出入りする様子をみることができるために、私たちはTencentやAlibabaなどに支援された、インターネット大企業やゲームリーダー、そして最新のメディアプラットフォームに目を奪われがちだ。

しかし、もしお金の流れを追っているならば、中国のトップベンチャーファームたちが、その関心を国内の不十分な医療システムに向けて来ていることは明らかだ。

中国の戦略転換における明確なリーダーの1つがSequoia Capital Chinaだ。同社は、今年だけでも複数の数十億ドルレベルのIPOに関わった(その1その2その3)最も著名なベンチャーファームである。

歴史的にみると、かつてのSequoiaは医療分野にあまり関心を持ってこなかった医療分野は、同社の最も小さな投資カテゴリーの1つであり、2015年から2016年にかけてはわずかに3件の医療関連の取引に参加しただけである。投資金額全体に占める割合は4%に過ぎない。

しかし最近は、ライフサイエンスがSequoiaを魅了していると、同社の広報担当者は語っている。Sequoiaは、2017年には6つの医療関連取引に参加し、2018年は既に14件に参加している。同社は現在、中国で最も活発な医療投資家のとしての位置に立っていて、医療分野そのものは、2番めに大きな投資領域になった。最近では、ライフサイエンスやバイオテクノロジー企業が、投資活動のほぼ30%を占めるようになっている。

Pitchbook、Crunchbase、およびSEC Edgarから集計された、2015-18年の医療関連投資データ

現在の中国の医療の中で、変革を必要とする領域が不足することはない。そして中国のVCたちによって、幅広い戦略が採用されている。インフルエンザへのアプローチを行う投資家たちがいる一方、高血圧糖尿病、および他の慢性疾患のための革新的治療法に焦点を当てている投資家たちもいるという具合だ。

例えば、Chinese Journal of Cancerによれば、 2015年には世界の肺がん診断の36%が中国で下されたが、中国国内でのがんの生存率は世界平均よりも17%低い。Sequoiaはその視点を中国の高いがん罹患率と低い生存率に向けていて、過去2年の投資のおよそ70%が、がんの検出と治療に焦点を当てたものになっている。

この動きの一部は、上海に本社を置き、革新的な免疫療法がん治療法を開発しているJW Therapeutics社に対して行われた、9000万ドルのシリーズA投資などによっても促進されている。同社は、中国のVCが国際的な経験と世界で学んだことを用いて、どのように国内の医療スタートアップを育てようとしているのかを示す典型例である。

米国のJuno Therapeuticsと中国のWuXi AppTecによるジョイントベンチャーとして設立されたJWは、Junosのがん免疫療法薬のトップ開発者としての経験と、医薬品の研究開発と開発サイクルのすべての側面に力を注ぎ、世界をリードする契約研究機関の一つとしてのWuXiの知見が、結集したものだ。

特にJWは、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)技術を用いた細胞ベースの免疫療法の、次世代がん治療に焦点を当てている(おっと失礼…!)健康情報サイトWebMDの熱心な読者や、背景医学知識が高校1年の化学レベルで止まってしまっている私たちのために言い添えておくならば、CAR-Tは基本的に体自身の免疫システムを利用して、攻撃対象のがん細胞を探す。

過去に現れたバイオテクノロジースタートアップたちは、しばしば動物の体内で作製された遺伝子改変抗体を使用していた。その抗体は効果的に「警察官」として行動し、悪性細胞の活動を止めたり静かにさせるために、「悪い奴」特定して取り付く。CAR-Tはその代わりに、身体のネイティブな免疫細胞を改変し、悪い奴直接攻撃して殺すようにするのだ。

中国のVCたちは、革新的なライフサイエンスやバイオテクノロジーのスタートアップに幅広く投資している(写真提供:Eugeneonline、Getty Images)

中国の新しい医療リーダーたちの国際的および学際的な系統は、組織自体にだけでなく、そうしたシーンを運営している側にも適用される。

JWの舵取りの位置に座るのはJames Liである。このJWの共同創業者兼CEOは、これまでの人生の中で、世界最大のバイオ医薬品会社(AmgenやMerckなど)の、中国内での展開の責任者の地位に就いていたこともある。またLiはかつて、シリコンバレーの有名投資家のKleiner Perkinsと、パートナーを組んでいたこともあった。

JWは知見と専門知識を取り入れることによって得られる利益を体現している。そして同国の賢明な資本がますます海外へと流れる中で、医療の未来を牽引する企業を見定める活動と言うことができるだろう。

GVとFounders Fundが、シリコンバレーの競争力を保つことを狙う

中国の有力ベンチャーキャピタルによる多額の投資にもかかわらず、シリコンバレーは米国の医療分野での投資を倍増させている。(AFP PHOTO / POOL / JASON LEE)

医療における革新は国境を超えている。残念なことに、病気と死は普遍的なもので、ある国で行われた画期的な発見が、世界中の命を救うことが可能である。

中国のライフサイエンス産業ブームは、高い評価額を残し国境を越えた投資や、中国の輸入規制は改善されてきた。

こうして、中国のベンチャーファームたちは、徐々に海外のイノベーションを探すようになって来ている。革新的な技術を提供できるより成熟した米国企業や、アジアに持ち帰ることができるより進んたプロセスに対して投資することで、拡大の機会を狙っている。

4月には、また別の中国の有力VCであるQiming Venture Partnersが、米国の早期段階医療に焦点を当てた1億2000万ドルのファンドを設立した。Qimingは医療スペースへの参加を拡大しており、2017-18年の間には24社に投資している。

この分野に飛び込んできた新しいVCたちは、(中国からの投資と同時に、米国の医療分野への投資額を倍増させてきた)ベイエリアの有力な投資家たちを恐れさせてはいない。

米国で最も影響力のあるVCのパートナーディレクトリには、元医師や医療に通じたVCたちが徐々に増えている。そのため最高の医療ベンチャーを発見したり、米国内でのベンチャー資金の流れにより大きな影響を与えることができる。

そのリストの一番上に載るのが、GV(旧Google Ventures)のゼネラルパートナーであるKrishna Yeshwantである。彼こそが同社の医療業界への積極的な参入を率いている人物だ。

TechCrunch Disrupt NY 2017のKrishna Yeshwant(GV)

医師でもあるYeshwantの関心は、リアルタイムの患者ケアへの洞察から、がんや神経変性疾患のための抗体と治療技術などの、多くの医学領域に広がっている。

PitchbookとCrunchbaseのデータによれば、Krishnaは過去2年間における、GVの最も活発なパートナーであり、総額10億ドル以上の投資に参加している。

Yeshwantその他の努力によって、医療業界はGoogleのベンチャーキャピタル部門にとって最も重要な投資分野の1つになり、2015年には投資額の15%だったのに比べて、2017年には約30%を占めている。

医療投資に対するGVの接近は、新しい方向を切り拓いたが、ライフサイエンスもまた同社のDNAの一部なのだ。他の多くの有名なシリコンバレーValley投資家と同様に、GVの創設者であるBill Marisも、長い間医療スタートアップに情熱を傾けていた。2016年にGVを去った後、Marisはバイオテクノロジー、ヘルスケア、ライフサイエンスに特化した自身のファンドSection32を立ち上げた

同じように、ライフサイエンスと医療投資は、Founders Fundのような大手米国ファンドの重要事項として取り上げられてきた。Founders Fundは少なくとも2015年以降、その提供資金のうちの25%以上をこの分野に一貫して割り当てて来ている。

とはいえ、この潮流は変化する可能性がある。対米外国投資委員会(CFIUS)によって最近行われた監視の強化は、米国の医療領域に対する中国の資本流入に対して、厳しい影響を及ぼす可能性があるのだ。

その拡大された権限の下でCFIUSは、バイオテックの研究開発を含む、27の重要な産業リストに分類される技術に関係し、生産、設計、テストに対して海外の事業者が関わるあらゆる投資と取引に関して、レビューを行う(そして阻止する可能性もある)。

拡張されたルールの真の意味は、CFIUSがどれほど積極的に、どのくらいの頻度で、その力を行使するかによって異なってくる。しかし、長いレビュープロセスと規制によるブロックの恐れは、中国の投資家の負担を大幅に増大させ、中国の資金流入を効果的に差し止める可能性がある。

CFIUSの動向がどうであれ、米国の医療市場における中国の積極的なプレゼンスは、シリコンバレーの主流となることを押し留めてはいない。中国の医療革新への取り組みは、中国の医療システムの厳しい崩壊と政府の後押しを受けた投資環境の改善によって、ますます強くなっている。

VCたちは悲惨な医療システムをターゲットにしている

中国の医療分野における欠陥は、歴史的にみると厄介な結果へとつながっている。現在、政府は支援政策を通じた投資のテコ入れをしている。(写真 Alexander Tessmer / EyeEm、Getty Imagesより)

彼らは成功したスタートアップたちが、解決を必要とする本当の問題を特定していると語る。非効率による傷害、悪い結果、そして消費者の複合した欲求不満など、中国の医療産業は問題を山積させている

一部の富裕層以外の市民は、混雑し人手不足にあえぐ都市部の中心の病院へ、大変な思いをして長距離を通うことを強いられている。受付エリアは名ばかりで、あらゆる空き場所はあっという間に、心配し、具合が悪く、恐れでへたり込む多くの人たちで埋め尽くされる。待ち時間は長く、数日に及ぶこともある。

そして患者がやっと診察受けられる段になっても、多くの場合には、過労か経験の浅いスタッフの診察を受けることになり、後に続く果てしない患者の列を相手にするために出入りを急かされる。

かつては、患者への診断が下されても、治療の方法は限られそしてあまり効果がなかった。なぜならば輸入に関する法律と、価格の問題により、世界的に認可されている薬が手に入らなかったからだ。

想像できるように、診察と治療が不十分であると、結果的に問題が生じる。世界銀行からの最近の報告書によると、心臓病、脳卒中、糖尿病、そして慢性肺疾患は中国の死因の80%を占めている。

不正行為、誤魔化し、不誠実な問題の繰り返しが、人びとの積み重なる不満を増幅させている。

ワクチンの誤った取扱によって病気が広がった過去の事件にも関わらず、中国のワクチン危機は今年の始めにある限界点に達した。25万人もの子供たちが、効果がない虚偽の狂犬病予防接種を行われていたことが発覚した。そして検査官がそれを何ヶ月も前に発見しながら見て見ぬふりをしていた事実も発覚したのだ。

医療に対する大衆の信用を破壊することは、深刻で、潜在的に不安定な影響を生み出す。また、中国の保健医療インフラの、ほぼすべての面に非効率性が浸透しているため、そこには大きな変化の機会がある。

これらの問題に対応して、中国政府は、医療革新の追求に重点を置いた。そのためには、医療スタートアップたちの成功のチャンスを引き上げると共に、投資家たちのコストとリスクを削減する政策を展開した。

数十億ドルの公的投資がライフサイエンス分野に流れ込み、特許研究助成金、そしてジェネリック医薬品の承認プロセスが容易になり、中国におけるライフサイエンスやバイオテクノロジー企業の設立が、より簡単になった。

中国のベンチャーキャピタリストたちにとっては、財政的インセンティブと高い成長を遂げる地方の医療セクターに加えて、薬物輸入法の緩和が、海外のイノベーションを通じて、中国の医療システムを改善する機会を拓いた。

世界的なヘルスケアへの関心が高まることで流動性も改善した。さらに、香港証券取引所が最近、まだ収益を上げていないバイオテクノロジー企業の上場を許可する変更を発表した

中国の主要機関で実施された変更は、効果的に中国の健康分野投資家たちに、より幅広い機会、より速い企業成長、より速い流動性、そして確実性の向上を、より低いコストで達成させた。

しかしながら、中国の医療システムの構造的および規制上の変化は、より多くの成長を伴った、より多くの医療スタートアップにつながったが、必ずしも質を向上させたわけではなかった。

米国と西側の投資家たちは、北京の同業者たちのような国境を越えるアプローチをとってはいない。業界の人びとと話してみたところ、中国のシステムのいい加減さやその他の理由によって、多くの米国投資家たちは海外のライフサイエンス企業に投資することに、疲れてしまったという。

そしてシリコンバレーが同様に、米国の強力な大学システムから生み出されるスタートアップに焦点を当てることで、バブル的評価が懸念され始めている。

しかし、世界中で何十億ドルもの投資を行う中国は、その国内の医療システムにあいた大きな穴を塞ぎ、自身を国際医療イノベーションの次世代リーダとして確立することを決意しているのだ。

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(翻訳:sako)

CRISPRは次のステージへ?科学者たちはRNA編集に一歩近づいた

有名なSalk研究所の研究者たちが、細胞内の機能をより正確に操作できるようにするCRISPR酵素の分子構造を、決定できたと報告している。

過去数年間にわたって、CRISPR-Cas9が、個人の細胞の中にある欠陥を修正するために、遺伝子編集能力を提供してくれるのでは、という大衆の期待を担い続けてきた ―― 突然変異を治療し、多くの病気の出現を防いでくれるかもしれないものとして。

具体的には、Cas9酵素群は、はさみのような振る舞いをして、遺伝子コードの一部を切り取り、それらを代替片と置き換える働きをする。しかし、これらの酵素は生体の発達の基本を司るDNAを標的としているために、酵素を使ってDNAを再プログラムする行為が、有益さを上回る有害な結果を生み出すのではないかという懸念も高まっているのだ。

Scientific Americanのレポートには次のように説明されている:

月曜日に発表された研究は、それはタイタニック号サイズの氷山の一角に過ぎないと示唆する:専門家が考えていたものよりも遥かに厳しい遺伝的大混乱を、CRISPR-Cas9が引き起こす可能性があるのだ。研究は、将来CRISPRベースの治療を受ける患者の健康を、脅かしかねないと結論付けている。

この結論は、関連する問題を特定した2つの研究の直後に出されたものだ:CRISPR処理を受けた細胞の中には、おそらく主要抗ガンメカニズムを欠いてしまうものがあり、そのため腫瘍を誘発してしまう可能性がある。

化膿連鎖球菌由来のCRISPR-CAS9遺伝子編集複合体。Cas9ヌクレアーゼタンパク質は、相補的部位でDNAを切断するためにガイドRNAシーケンスを使用する。Cas9タンパク質:白い表面のモデル。DNA断片:青いはしご状のもの。RNA:赤いはしご状のもの。写真提供:Getty Images

ジャーナル誌Cellに掲載されたSalk Instituteによる新しい発見には、DNAの代わりにRNAを標的とすることができる酵素であるCRISPR-Cas13dの、詳細な分子構造が示されている。

かつては、単にDNAにエンコードされた命令の伝送機構に過ぎないと考えられていたRNAは、今や酵素のような生化学反応を行い、細胞の中でそれ自身が調節機能を果たすことが知られている。細胞機能の全体計画ではなく、細胞が機能するための機構を標的とすることができる酵素を同定することにより、科学者はより少ないリスクでより高度に洗練された治療法を考え出すことができる筈だ。

より簡単に言えば、科学者たちに、遺伝子に対する恒久的な(そして潜在的に危険な)変更を加えることなしに、遺伝子の活動を変えることができるような編集ツールを与えることは、探究に値するオプションであるということだ。

「DNAは一定ですが、常に変化しているのはDNAからコピーされるRNAメッセージなのです」と語るのはSalk研究所AssociateのSilvana Konermann(ハワード・ヒューズ医学研究所のハンナグレーフェローであり、研究の筆頭著者の一人)である。「RNAを直接制御することによってそれらのメッセージを調節できるということは、細胞の運命に対して重要な影響をもたらすということです」。

Salkの研究者たちは、今年のはじめに彼らがCRISPR-Cas13dと呼ぶ酵素ファミリーをまず同定し、この代替システムがRNAを認識して切断できることを示唆した。彼らの最初の研究は認知症治療を巡るもので、ツールを使って認知症患者の細胞の中でのタンパク質バランスの不均衡を修正できる可能性があることを示した。

「以前の論文では、ヒト細胞の内部でRNAを直接操作するために使用できる新しいCRISPRファミリーを発見しています」と語るのは新しい研究の共著者である、Helmsley-SalkフェローのPatrick Hsuである。「Cas13dの構造を可視化することができたので、これからは酵素がどのようにRNAに導かれ、どのようにRNAを切断することができるかを、より詳細に見ることができます。これらの知見によって、私たちはシステムを改善し、プロセスをより効率的にして、RNAに起因する疾患を治療する新しい戦略の道を切り開くことができるのです」。

この論文の他の著者は、SalkのNicholas J. BrideauとPeter Lotfy、ホワイトヘッド研究所バイオメディカルリサーチのXuebing Wu、スクリプス研究所のScott J. Novick、Timothy Strutzenberg、そしてPatrick R. Griffinである。

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(翻訳:sako)

画像提供: Sashkin / Shutterstock

Googleのライフサイエンス部門Verily社が細菌に感染した蚊2000万匹をフレズノに放つ

Googleの親会社Alphabet傘下のライフサイエンス企業Verilyが、研究室で育てて、細菌に感染させた蚊2000万匹を、カリフォルニア州フレズノにリリースする計画を準備している。そしてそれは、良いことなのだ!

実は、ジカ熱を媒介するネッタイシマカがその地域に蔓延している。今年の初めには、ある女性がフレズノで、ジカ熱の最初の感染者と確認された。それは、それまで旅をしていたパートナーとの性的接触によるものだった。今では、何か対策をとらないかぎり、感染の流行が避けられないおそれがある。VerilyのDebug Projectと呼ばれるそのプランは、ジカ熱を媒介する蚊の人口(生息数)を一掃して今後の感染を防ぐ、というものだ。

蚊の人口をいじると予期せざる弊害はないのか? それはない。この種類の蚊は、2013年に初めてその地域に入ってきたのだ。既存生態系の一部ではない。

では、どうやって退治するのか? Verilyの雄の蚊はボルバキア菌に感染していて、人間には無害だが、雌の蚊と交配すると感染し、卵子を発生不能にする。

おまけに、雄の蚊は噛まないから、フレズノの住民が今以上に痒さを我慢することにはならない。

費用に関する発表はないが、蚊をリリースするチームのエンジニアLinus UpsonがMIT Technology Reviewで、次は同じことをオーストラリアでやる、と言っている。

“環境が変わっても同じ効果があることを、証明したいんだ”、と彼は同誌に述べている。

Verilyの計画では、フレズノの面積300エーカーの地域社会二箇所に、20週間にわたって、毎週100万匹の蚊を放つ。ボルバキア菌に感染している蚊をリリースする規模としては、アメリカでは過去最大である。

Fancher Creek地区の住民は今日(米国時間7/14)から、Verilyのバンがやってきて小さな虫たちの健康的な大群をリリースする様子を、目にすることになるだろう。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

「ライフサイエンス界のGoogle Docs」BenchlingがThrive Capitalなどから700万ドルを調達

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リサーチャー向けのクラウドベース・ソフトウェアを提供するBenchlingが700万ドルを調達した。BenchlingはY Combinatorから卒業したバイオテック企業だ。Benchlingはこの資金を利用して、リサーチャーが製薬会社などの調査資料にアクセスできるツールの強化をはかる。

Benchlingをライフサイエンス業界のGoogle Docsと考えてもよいかもしれない。ITソリューションはバイオテック業界の「最もセクシーなもの」とは言えないかもしれないが、調査資料の整理は業界にとって重要なステップであり、Benchlingはそのエコシステムの一部を提供しているのだ。

科学者向けのクラウドベースのコラボレーション・ツールとして2012年に創業したBenchlingは、現在では4万人のリサーチャーが利用するツールへと成長した(2014年には2000人だった)。さらに同社によれば、MITの研究所や、Zymergen、Editasなど、アメリカ国内のトップ20の製薬研究所と提携を結んでいるという。

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つい昨年には、Benchlingは同社のソフトウェアをよりパワフルでよりスピーディーなものへと進化させたと話している。これにより、リサーチャーが必要な時に必要な情報を手に入れることが可能になった。Google検索やエクセルのスプレッドシートよりも数倍速いスピードを実現したという。

今回のラウンドではThrive Capitalがリード投資家を務め、既存投資家のAndreessen Horowitz(前回のラウンドのリード投資家)もラウンドに参加した。これらに加え、Y CombinatorのパートナーGeoff Ralston、SequoiaのパートナーMatt Huang、そしてTencentのCXOであるDavid Wallersteinなど、数名のエンジェル投資家も参加している。

バイオテック・スタートアップへの追加投資を考えていると言われていた俳優のAshton Kutcherも、少額かつ非公開の金額ではあるものの、今回のラウンドからBenchlingの新しい投資家の1人となった。

Benchlingはこれまでに合計で1300万ドルを調達している。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter