SpaceX(スペースエックス)をはじめとする商用ロケット打ち上げ市場の各企業は、宇宙の経済に変革をもたらし、小型衛星起業家の時代を切り拓いたものの、実際に使われているロケットエンジンの技術は、50年前にNASAが初めて宇宙に進出したときからそう進歩していない。
CEOのWill Edwards (ウィル・エドワーズ)氏と会長兼最高科学責任者であるRon Jones(ロン・ジョーンズ)氏が創設した新しいスタートアップFirehawk Aerospace(ファイヤーホーク・エアロスペース)は、安定した費用対効果の高いハイブリッドロケット燃料でそれを変えようとしている。彼らは、これまでのハイブリッド燃料用エンジンの製造にともなう困難や制約を、積層造形法(工業規模の3Dプリンター)で克服したいと考えている。
固体燃料と液体酸化剤を組み合わせるハイブリッドロケットは、それ自体がそう新しいものではないが、パフォーマンス指標や最大推力の面で、常に大きな制約に悩まされてきた。長期にわたってロケット燃料と航空宇宙構造物の研究に携わり、先端複合材料エンジニアでもあるジョーンズ氏は、以前からエンジン技術に興味を抱き、その利点を活かしつつ、さらに安全性とコストにも配慮しながら過去のハイブリッドエンジンの設計における制約を克服する方法を考えてきた。
ジョーンズ氏は高校から大学を通して物理学と工学が大好きだったが、結局、海軍に入隊して飛行士となり、その後ようやく航空宇宙産業に落ち着くことができた。その一方で、彼は黎明期のインターネットを活用し、ロケット工学への情熱を深めていた。特にハイブリッドエンジン技術を研究したり、世界の専門家たちと意見交換を行っていた。
「最終的に、私は2つのコンセプトを合体させることを思いつきました」とジョーンズ氏はインタビューで話した。「1つは、燃料が間違っていたという点。これまで使われていた燃料は、弾性が高すぎます。圧力をかけると、燃料はその影響を受けてしまいます。薄くなるに従って強度が低下し、基本的にバラバラになってしまい燃料の多くが無駄になります。そこで私は、構造的に非常に強いポリマーに切り替えました。もう1つは、型に入れて成形するやり方は利口ではないという点です。私はそれを、積層造形法に変更しました」。
材料を少しずつ時間をかけて重ねることで構造を作り上げていく積層造形法であれば、液状の燃料を型に流し込んで固めるモールド方式では不可能だったことができる。例えば、内部構造を非常に細かく意図したとおりに作ることも可能だ。家庭用の3Dプリンターを見たことがある人なら、大きなモデルを作るときに内部を格子状にして強度を高め、表面を支える技法をご存知だろう。それが、固形ロケット燃料のペレットの潜在能力を解き放つ鍵となった。
「積層造形法を使うことで、私はこれまで誰もやらなかったことができるようになりました。それこそが、モールド方式では不可能だった高度に設計された内部構造を構築する方法です」と彼はいう。「その内部構造を採用したことで、ロケットエンジンの性能が大幅に向上しました。信頼性だけでなく安全性も大きく高まりました。それは、私が目指していた最も重要な特性です」。
Firehawkは現在、ロケット燃料の3Dプリントに関連した5つの特許を取得し、すでに32基のエンジンを使った燃焼試験を推力200ポンド(約90kg)と500ポンド(約230kg)の2種類で実施し、設計の有効性を実証している。また同スタートアップは、推力5000ポンド(約2.3トン)のエンジンにも取り組んでいる。これは、Rocket Lab(ロケット・ラボ)のElectron(エレクトロン)ロケット第2段の推力とほぼ同じだ。2020年末に、燃焼試験に建設中の施設でテストを開始する予定だ。
前述のとおり、現在すでに運用を行っているロケット打ち上げ企業は、ずっと旧式の、それでもいまだに効率的なロケット技術を採用している。ならば、新種のハイブリッドエンジンなど使う必要がどこにあるのか?いろいろあるが、特に注目すべき理由は効率性と安全性だ。
Firehawkの燃料は、保管も輸送も取り扱いもずっと安全にできる。燃料と酸化剤を別々にしている限り、偶発的な発火事故の心配がないからだ。また毒性もない。この燃料は「環境に優しい」排気しか出さないとFirehawkは話している。大型ロケット用の既存のロケット燃料を安全に取り扱うには、大量の特殊な手順や安全策を講じる必要がある。作業員の訓練も欠かせないため、その分、時間と費用がかさむ。
しかもFirehawkでは、特注設計のエンジンを4カ月から6カ月で提供できるという。既存技術に基づいて新しいロケットエンジンを開発しようとすれば、通常は5年から7年はかかる。この時間的節約で、大きなコストを数億ドル(数百億円)単位でさらに減らすことができる。つまり、世代ごとの研究開発初期費用を回収しようとロケットの運用寿命を延ばす必要がなくなり、より新しくより優れたロケットの試作を、より短期間で繰り返せるようになるということだ。
この燃料は、長期間の保管と輸送に耐えられる。また、飛行中の停止と再点火も可能だ。これらが意味するのは、長期にわたる複雑なミッションも、これまでに比べてずっと低予算で遂行できるようになるということだ。当然のことながら、この可能性が民間企業と政府機関の両方の顧客の強い関心に火を点けたとCEOのエドワーズ氏は述べていた。
2020年の初め、Firehawk Aerospaceは200万ドル(約2億1000万円)のシードラウンドをクローズした。これにはVictorum Capital、Achieve Capital、Harlow Capital Managementが参加している。現在は人員増強を目指し、特に未来のロケット推進技術の仕事に高い関心を持つ意欲あるエンジニアを求めている。さらに、複数の潜在パートナーとの提携話を進めつつ、この技術の商品化に関するいくつもの申し出にも対応しているとのことだ。
カテゴリー:宇宙
画像クレジット:Firehawk Aerospace
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(翻訳:金井哲夫)