Jarno M. KoponenCrunch Network Contributor
Jarno M. Koponen is a designer, humanist and co-founder of media discovery startup Random.
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パーソナライズした体験をもたらすアルゴリズムは、昨日選んだものにも、今日選ぶもの、明日選ぶものの全てに影響を与えるようになる。
しかしパーソナライズ化が上手く行っていない所もある。私たちは興味のない、ユーザーの気を引こうとする広告に継続的に出くわす。デジタルのパーソナルアシスタントはそんなにパーソナライズされていない。ニュースフィードの深いアルゴリズムの溝がユーザーと友人を引き離しているし、オンラインで見るコンテンツは同じものがずっと繰り返し表示されている。
パーソナライズのための私たちの偶像は、遊園地の鏡張りの迷路に映る自分の姿のようだ。パーソナライズ化の過程でユーザーは抽象化され、デジタルという鏡に投影されたユーザーの興味関心は実際のものと乖離してしまっている。
パーソナライズ化のために埋めるべきギャップ
現在のパーソナライズされた体験が未完成なのには、5つの主要な要因がある。
データギャップ:これは、アルゴリズムの環境によりユーザーに関するデータが限定されていることで起きる。システムは、ユーザーに提供する体験とそれに対するフィードバックのループの文脈でしか、ユーザーを理解することができない。システムに外部のデータソースからの情報を入力したとしても、ユーザーの興味や好みの一部しか理解することができない。
計算処理ギャップ:計算処理の能力と機械学習テクノロジーの限界を指す。現在最速のシステムでも、複雑な個人をシステムのルールに従って理解するには遅すぎるのだ。同時に、最も先進的な機械学習のソリューションも、コンピューターがユーザーのことを遅滞なく学び、順応するには、まだ十分ではない。
パーソナライズ化の過程でユーザーは抽象化され、デジタルという鏡に投影されたユーザーの興味関心は実際のものと乖離してしまっている。
興味ギャップ:ユーザー、プラットフォーム、そしてサードパーティーの関係者(例えば、マーケッター)の意図が合致しないことを指す。つまり、ユーザーが見るものやできることは、誰の興味や好みを元に優先順位が決定されているかという問題だ。ユーザーは広告に興味がないかもしれないが、彼らの意思とは関係なく表示される。誰かがユーザーの注意を引くために料金を支払っているのなら、ユーザーが選べる範囲が狭まるのだ。
行動ギャップ:ユーザーの本当の意図と利用できるものの不一致を指す。例えば、ユーザーは存在していない「これは面白くない」ボタンを押したいと思っているかもしれない。あるいは、特定の画像を今後一切見たくないと思うかもしれないが、そのようにできる方法が存在しないといった場合だ。ユーザーの行動はフィードバックループの限定的な環境に収まるように簡略化されているのだ。
コンテンツギャップ:プラットフォームやアプリケーションにユーザーが求めていることやニーズにぴったり合うコンテンツがないことを指す。また、提供しているコンテンツの多様性が限定的な場合もある。例えば、スポーツニュースやレストラン情報のアプリやウェブサイトは関連するコンテンツがなくなる場合がある。トピックがニッチであるほど、ユーザーにとって継続的に有益なコンテンツが提供されるチャンスは少なくなる。
また、パーソナライズ化の根幹には普遍的なパラドックスが存在している。
パーソナライズ化は、デジタルの体験を個人の興味や好みに適応することを約束している。同様にパーソナライズ化はユーザーに影響を与え、毎日の選択や行動を起こす基準となり、ユーザーを形作っている。複雑でアクセスできないアルゴリズムが、ユーザーの代わりに見えない所で選択を行っている。それらは、ユーザーが認識できる選択肢を減らしている。つまり、個人の裁量を制限しているとも言える。
パーソナライズ化におけるギャップと内在するパラドックスにより、パーソナライズ化は不十分で未完成のままだ。ユーザーにとってアルゴリズムが自分の意図ではなく、他の誰かの意図を汲んでいるように感じてしまうのはそのためだ。
アルゴリズムによるパーソナライズ化の中核に人を置く
パーソナライズにより、個別ユーザーに対して更に良いサービスを提供するためには3つのデザインと開発の道が考えられる。
まず、パーソナライズ化には新しいユーザーインターフェイスの枠組みとインタラクションモデルが必要だ。直接的なアクションやそうでないアクションを効率的に学習してパーソナライズするインターフェイスは、データギャップを埋めることができる。同様に、システムがユーザーがしていることとそうでないことを学習することで、計算処理ギャップも埋まっていく。興味ギャップの問題を解くには、ユーザー自身が表示されるものを直接コントロールできるようにすべきだろう。ユーザー主導で異なるコンテンツやサードパーティーからの関連コンテンツを混ぜることのできるインターフェイスが必要だ。これによりユーザーは、自分に対し表示されているものを知ることができる。システムの透明性は、ユーザー自身が自分の好みを調節することを可能にし、プラットフォームやサードパーティーにとっても有益に働くだろう。
行動ギャップを埋めるには、本当の意図や反応を反映したカスタム絵文字やジェスチャーといった文脈も意識したインタラクションを実現する、ユーザー順応のインターフェイスが必要だ。また、システムはユーザーが興味を持ちそうなものが利用可能になった時、あるいは具体的なアクションが取れるようになった時に通知することでコンテンツギャップの減少につながるだろう。それは、腕に着けた端末の振動や、デバイスの画面の賢い通知メッセージといった形かもしれない。新しいインターフェイスは、リアルタイムではなく、パーソナライズ化した「自分時間」を優先するようになる。
次にパーソナライズ化には、関連したもの、意外なもの、タイムリーなもの、成熟したコンテンツを混ぜて提供することだ。データギャップと計算処理ギャップの観点では、より多様な選択肢を提供することで、システムがユーザーの本当に興味のあるものを詳しく理解することができるようになる。ユーザーは、自分の興味関心をより詳細に伝えることができる。そしてシステムは、ユーザーの行動から、これまで知り得なかったあるいは、形式通りではないものの中に関連性を見出すことができるだろう。
興味ギャップに関しては、関連情報と意外な情報を混ぜることで、ユーザー自身がどの情報を優先するかを決定することができる。関連した情報の中でも多様な選択肢を用意することで、システムが限定した情報の箱の中にユーザーを閉じ込めることがなくなる。時に表示される関連のないコンテンツも体験を阻害することはない。関連性があるかどうか、セレンディピティを起こす内容であるかどうかは、どちらも主観的で文脈に依存しているものだ。アルゴリズムはユーザーが新しいことを探索するのに前向きな時と、目標があり、特定の情報を求めている時を判別することができるようになる。
行動ギャップを狭めるためには、多様な賢いレコメンドで、ユーザーが自身のルールで選択することができるだろう。システムはユーザーの短期と長期における関心をそれぞれ理解し、ユーザーの情報ニーズを予測することができるようになる。タイムリーであるかどうかは、関連性と同義ではない。大量のコンテンツは、時間の経過と共に魅力や意味を失うのではない。コンテンツギャップは、幅広く分野の濃い内容の興味深い情報が集まるほど、効果的に埋まっていくことだろう。
そしてパーソナライズ化は、集合的知識と人工知能を取り入れるべきだ。物事の関連がすぐに分かり、コンピューターはより賢くなって、物事は更に効率的になる。計算処理ギャップを減少させるためには、人と機械の情報の流れを加速させることだ。人は(まだ)この世界で最もパターン認識に優れたシステムだ。私たちは協力して、意味のあるサインを見つけだすことができるだろう。人工知能が順応するインターフェイスと予測を立てる学習システムを強化することにより、人による意味付けを活用することができる。
人が主軸となるパーソナライズ化は、人がキュレートしたシグナルと順応する機械学習のソリューションを統合する。この方法で知的なシステムは、個人及び集合的なインタラクションと洞察により進化することができる。そして、人の想像力と非合理性がアルゴリズムの決定による制限を打破するだろう。
パーソナライズ化のパラドックスはどうだろうか?パーソナライズ化の領域の中には、客観性は存在しないし、客観的な視点もあるべきでもない。ユーザーがアルゴリズムを形作り続け、アルゴリズムもユーザーを形作り続ける。それがさらに私たちにとって有益になるよう、人が周りの物事の関連性や意味付けを主観的に行う方法をパーソナライズ化アルゴリズムが理解する必要がある。
結局の所、パーソナライズというコンセプトは、産業的な大量生産とマーケティングの世界から派生したものだ。アルゴリズムの力を借りた意思決定を行う新時代に移行しつつ、個人の能力に重きを置くには、パーソナライズ化アルゴリズムではなく、選択アルゴリズムを作らなければならないということかもしれない。
そのようなアルゴリズムをどこが構築することになるのだろうか?
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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter)