【コラム】メタバースで優先されるべき課題は「責任あるAI」

最近のBloomberg Intelligence(ブルームバーグ・インテリジェンス)の調査によると、メタバースには8000億ドル(約92兆円)の市場規模があるそうだ。実際にメタバースとは何なのか、ということについては、多くの人が議論しているところではあるが、これだけの金と好奇心に取り巻かれているものだから、誰もが話題にしたがるのも当然だろう。

メタバースではAIが、特に私たちが他者とコミュニケーションを取る際に、重要な役割を果たすことは間違いない。私たちはこれまで以上に他者とつながりを持つようになるだろうが、政府や規範、倫理規定に縛られないAIは、邪悪な影響をもたらす可能性がある。元Google(グーグル)CEOのEric Schmidt(エリック・シュミット)氏が最近問いかけたように「誰がルールを決めるのか?」ということだ。

AIの影響を理解する

AIアルゴリズムは、偏向のある人間によって作られるため、作成者の思考パターンや偏見に従うように作られることがあり、しかも、それが増殖していくことがある。AIが性差別を生み出す、例えば、女性よりも男性に大きなクレジットカードの限度額が与えられたり特定の民族がより不当な差別を受ける傾向にあることは、我々がこれまで見てきたとおりだ。より公平な、繁栄するメタバースを作るためには、偏向を生み出し、それを永続させるダークなAIのパターンに対処する必要がある。しかし、誰がそれを決定するのだろう? そして、人間はどうやって偏向を回避できるのだろうか?

この「野放しのAI」を緩和するための解決策は、すべての組織で倫理基準を策定することだ。私たちの見解では、ダークAIのパターンは侵略的になる可能性が高い。ほとんどのAIは倫理的な監視なしに開発されているが、メタバースではこれを変えなければならない。

AIをメタバースにおけるメッセージの翻訳に活用する

私は、1人の熱心な語学学習者として、また、AIと人間を使って人々をグローバルにつなぐ会社の創設者として、誰もが複数の言語を話すスーパーポリグロットになれるという可能性に胸を踊らせている。だが、さらに興味があるのは、そのAIがどのように機能するかを理解することだ。

メタバースでは、多くのユーザーが各々の言語でコミュニケーションすることになるだろうが、AIによる言語翻訳が利用できる可能性もある。しかし、AIを使った言語テクノロジーは、我々が注意しなければ、偏向を永続させてしまうおそれがある。その言語AIが、倫理的であるようにきちんと訓練されていることも、確認する必要がある。

例えば、ジョーのアバターがミゲルのアバターと話したがっているが、ジョーとミゲルは同じ言語を話さないという状況を想像してみよう。AIは彼らのメッセージをどのように翻訳するのだろうか? そのまま言葉を直訳するのだろうか? それとも、文字通りに訳すのではなく、メッセージを受け取った人が理解できるように、その人の意図に沿った翻訳をするのだろうか?

人間と機械の境界線を曖昧にする

メタバースでは、いかに私たちが「人間的」かということが重要になるだろう。企業は言語テクノロジーを使って、会話を異なる言語にすばやく翻訳することで、オンラインコミュニティ、信頼、インクルージョンの創出に役立つことができる。

しかし、私たちが選ぶ言葉に気をつけなければ、テクノロジーは偏見を生み、不作法な行動を許すことにもなりかねない。どのようにかって?あなたは3歳児がAlexa(アレクサ)に話しかけているのを聞いたことがあるだろうか?それはとても「感じが良い」とは言えない。人は、自分がやり取りしている相手が本物の人間ではなくテクノロジーであるとわかると、礼儀正しくする必要を感じなくなる。だから顧客は、チャットボットやAmazon(アマゾン)のAlexa、電話の自動応答などに対して失礼な態度を取るのだ。それはさらにエスカレートしてしまう可能性がある。理想とする世界は、言語のためのAIが、人間を正確に表現するために必要なニュアンスや共感を捉えるようになり、それによってメタバースが人間とテクノロジーがともに栄える場所となることだ。

メタバースの非人間的なAIは、ネガティブにもなりかねない。適切な言語は、リアルで感情的なつながりと理解を生み出すことができる。AIを活用した言語運用によって、適切なメッセージはブランドを人間的に感じさせるために役立つ。ブランドが瞬時に多言語でコミュニケーションできるようにするための技術は、極めて重要なものになるだろう。顧客の信頼は母国語によって築かれると、私たちは考えている。しかし、ボーダーレスでバーチャルな社会は、どうやって母国語を持つことができるだろうか? そして、そんな環境は、どうやって信頼を生み出すことができるのだろうか?

先述したとおり、メタバースは企業にとって、バーチャルな世界で露出を増やすことができる大きな可能性を秘めている。人々はすでにバーチャル・ファッションにかなりの大金を投じるようになっており、この傾向は間違いなく続くだろう。ブランドは、実際に会って交流するよりも本物らしい、あるいはそれ以上に魅力を感じられるような、オンライン体験を作り出す方法を見つける必要がある。これは越えるのが大変な高いハードルだ。スマートな言語コミュニケーションは、そのために欠かせないものとなるだろう。

メタバースが最終的にどのようなものになるかは、誰にもわからない。しかし、AIがある集団に他より過度な影響を与えたり、AIが自社製品の人間性を失わせた、なんてことで記憶される企業には誰もなりたくないはずだ。AIは良い意味でパターンを予測する能力がどんどん向上するだろう。しかし、野放しにしておくと、AIはメタバースにおける私たちの「生き方」に深刻な影響を与える可能性がある。だからこそ、責任あるAI、倫理的なAIのための倫理が必要なのだ。

AIが、言語やチャットボット、あるいはブランドの仮想現実に多用されていくと、それによって顧客が信頼や人間らしさの感情を失う機会も増えるのだ。私たちがメタバースで平和に「生きる」ことができるように、AIの研究者や専門家が企業と協力して、責任あるAIの枠組みに解決を見出すことが求められている。

編集部注:本稿を執筆者Vasco Pedro(ヴァスコ・ペドロ)氏はAIを利用して人間が編集を行う翻訳プラットフォーム「Unbabel(アンバベル)」のCEO。

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(文:Vasco Pedro、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】アジャイルなスタートアップモデルに倫理観を導入する時代がきた

アイデアを得て、チームを作り、「実用最小限の製品(MVP)」を完成させてユーザーに届ける。これは誰もが知っているスタートアップの事業の進め方である。

しかし、人工知能(AI)や機械学習(ML)がハイテク製品のいたるところに導入されるようになり、意思決定プロセスにおいてAIが人間を補強、または代替することの倫理的意味を市場がますます意識するようになった現在、スタートアップはMVPモデルの再考を迫られている。

MVPモデルとは、ターゲット市場から重要なフィードバックを収集し、製品の発売に向けて必要な最小限の開発に反映させるというもので、今日の顧客主導型ビジネスを推進する強力なフィードバックループを生み出している。過去20年間で大きな成功をもたらした、スマートでアジャイルなこのモデルは、何千社ものスタートアップを成功に導き、その中には10億ドル規模に成長した企業もある。

しかし、大多数のために機能する高性能な製品やソリューションを構築するだけでは、もはや十分ではない。有色人種に偏見を持つ顔認識技術から、女性を差別する信用貸付アルゴリズムまで、ここ数年間でAIやMLを搭載した複数の製品が、その開発とマーケティングに何百万ドル(何億円)も注ぎ込まれた後に倫理的ジレンマが原因で消滅している。アイデアを市場に出すチャンスが一度しかない世界でこのリスクはあまりにも大きく、安定した企業であっても致命的なものになりかねない。

かといってリーンなビジネスモデルを捨て、よりリスク回避的な代替案を選ばなければならない訳ではない。リーンモデルの俊敏性を犠牲にすることなく、スタートアップのメンタリティに倫理性を導入できる中間領域があるのだが、そのためにはスタートアップの最初のゴールとも言える初期段階の概念実証から始めると良い。

そして企業はMVPを開発する代わりに、AI / MLシステムの開発、展開、使用時に、倫理的、道徳的、法的、文化的、持続可能、社会経済的に考慮するアプローチであるRAI(責任ある人工知能)に基づいた倫理的実行可能製品(EVP)を開発して展開すべきなのである。

これはスタートアップにとってだけでなく、AI / ML製品を構築している大手テクノロジー企業にとっても優れた常套手段である。

ここでは、特に製品に多くのAI/ML技術を取り入れているスタートアップがEVPを展開する際に利用できる、3つのステップをご紹介したい。

率先して行動する倫理担当者を見つける

スタートアップには、最高戦略責任者、最高投資責任者、さらには最高ファン責任者などが存在するが、最高倫理責任者はそれと同じくらい、またはそれ以上に重要な存在だ。さまざまなステークホルダーと連携し、自社、市場、一般の人々が設定している道徳的基準に適合する製品を開発しているかどうかを確認するのがこの人物である。

創業者、経営幹部、投資家、取締役会と開発チームとの間の連絡役として、全員が思慮深く、リスクを回避しながら、正しく倫理的な質問をするよう、とりはからうのもまたこの人物の仕事である。

機械は過去のデータに基づいて学習する。現在のビジネスプロセスにシステム的な偏りが存在する場合(人種や性別による不平等な融資など)、AIはそれを拾い上げ、今後も同じように行動するだろう。後に製品が市場の倫理基準を満たさないことが判明した場合、データを削除して新しいデータを見つけるだけでは解決しない。

これらのアルゴリズムはすでに訓練されているのである。40歳の男性が、両親や兄妹から受けてきた影響を元に戻せないのと同様に、AIが受けた影響も消すことはできない。良くも悪くも結果から逃れることはできないのだ。最高倫理責任者はAI搭載製品にそのバイアスが染み込む前に、組織全体に内在するそのバイアスを嗅ぎ分ける必要がある。

開発プロセス全体へ倫理観を統合する

責任あるAIは一度きりのものではなく、組織のAIとの関わり合いにおけるリスクとコントロールに焦点を当てた、エンド・ツー・エンドのガバナンスフレームワークである。つまり倫理とは、戦略や計画から始まり、開発、展開、運用に至るまで、開発プロセス全体を通じて統合されるべきものなのだ。

スコーピングの際、開発チームは最高倫理責任者と協力して、文化的、地理的に正当な行動原則を表す倫理的なAI原則を常に意識するべきである。特定の利用分野において道徳的な決定やジレンマに直面したとき、これらの原則はAIソリューションがどのように振る舞うべきかを示唆し、アイデアを与えてくれるだろう。

何より、リスクと被害に対する評価を実施し、身体的、精神的、経済的に誰も被害に遭っていないことを確かめる必要がある。持続可能性にも目を向け、AIソリューションが環境に与える可能性のある害を評価するべきだ。

開発段階では、AIの利用が企業の価値観と一致しているか、モデルが異なる人々を公平に扱っているか、人々のプライバシーの権利を尊重しているかなどを常に問い続ける必要がある。また、自社のAI技術が安全、安心、堅牢であるかどうか、そして説明責任と品質を確保するための運用モデルがどれだけ効果的であるかも検討する必要がある。

機械学習モデルの要素として重要なのが、モデルの学習に使用するデータである。MVPや初期にモデルがどう証明されるかだけでなく、モデルの最終的な文脈や地理的な到達範囲についても配慮しなければならない。こうすることで、将来的なデータの偏りを避け、適切なデータセットを選択することができるようになる。

継続的なAIガバナンスと規制遵守を忘れずに

社会的影響を考えると、EUや米国などの立法機関がAI/MLの利用を規制する消費者保護法を成立させるのは時間の問題だろう。一度法律が成立すれば、世界中の他の地域や市場にも広がる可能性は高い。

これには前例がある。EUで一般データ保護規則(GDPR)が成立したことをきっかけに、個人情報収集の同意を証明することを企業に求める消費者保護政策が世界各地で相次いだ。そして今、政界、財界を問わずAIに関する倫理的なガイドラインを求める声が上がっており、またここでも2021年にAIの法的枠組みに関する提案をEUが発表し、先陣を切っている。

AI/MLを搭載した製品やサービスを展開するスタートアップは、継続的なガバナンスと規制の遵守を実証する準備を整える必要がある。後から規制が課される前に、今からこれらのプロセスを構築しておくよう注意したい。製品を構築する前に、提案されている法律、ガイダンス文書、その他の関連ガイドラインを確認しておくというのは、EVPには欠かせないステップである。

さらに、ローンチ前に規制や政策の状況を再確認しておくと良いだろう。現在世界的に行われている活発な審議に精通している人物に取締役会や諮問委員会に参加してもらうことができれば、今後何が起こりそうかを把握するのに役立つだろう。規制はいつか必ず執行されるため、準備しておくに越したことはない。

AI/MLが人類に莫大な利益をもたらすというのは間違いない事実である。手作業を自動化し、ビジネスプロセスを合理化し、顧客体験を向上させる能力はあまりにも大きく、これを見過ごすわけにはいかない。しかしスタートアップは、AI/MLが顧客、市場、社会全体に与える影響を強く認識しておく必要がある。

スタートアップには通常、成功するためのチャンスが一度しかないため、市場に出てから倫理的な懸念が発覚したために、せっかくの高性能な製品が台無しになってしまうようではあまりにももったいない。スタートアップは初期段階から倫理を開発プロセスに組み込み、RAIに基づくEVPを展開し、発売後もAIガバナンスを確保し続ける必要がある。

ビジネスの未来とも言えるAIだが、イノベーションには思いやりや人間的要素が必要不可欠であるということを、我々は決して忘れてはならないのである。

編集部注:執筆者のAnand Rao(アナンド・ラオ)氏はPwCのAIグローバル責任者。

画像クレジット:I Like That One / Getty Images

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(文:Anand Rao、翻訳:Dragonfly)

ミレニアル世代やZ世代を惹きつけたいインスタ風アプリSupernovaはSNS大手の「倫理的オルタナティブ」になれるか

Supernova(スーパーノヴァ)は新しいアプリで、Apple(アップル)とAndroid(アンドロイド)のアプリストアで公開されており、広告収入の大部分を慈善事業に寄付している。Instagram(インスタグラム)とFacebook(フェイスブック)の新しい「倫理的オルタナティブ」と謳う同アプリに、チャンスはあるだろうか?

Facebookがパノプティコン(一望監視施設)のような刑務所になり、米国政府の権力を覆そうとするプライベートグループに参加することを軽々しく提案するのを何年も見てきたか、あるいはInstagramをドゥームスクローリング(ネット上で悲観的なニュースや情報を読み続けること)して、自身や10代の子どもたちのメンタルヘルスが徐々に損なわれていくのを経験した後であれば、多くの人々は、より高潔な原則を持つ代替のソーシャルメディアプラットフォームに大きな満足を覚えるだろう。こうした代替のいくつかは何年にもわたって現れたり消えたり(RIP Path)しているが、Zuckerberg(ザッカーバーグ)氏の悪徳のような支配から大衆を遠ざけることに成功した者はいない。

おそらく人々は忘れてしまっているかもしれない。Facebook(その延長線上でInstagram)がこれほど大きい唯一の理由は、広告収入がこうした無料サービスを支えているからだということを。もし広告主が、十分に魅力的なアプリでソーシャルメディアの群衆を取り込むことができる他の場所を持っていれば、FacebookとInstagramはある程度プレッシャーを感じ始めるだろう。少なくとも、理論上はそうなっている。

広告業界を知り尽くしている英国の起業家が、ミレニアル世代やZ世代にアピールするために設計された独自のソリューションを使って、これらの大手企業に対抗しようと計画している。これらの世代は一般的に、前世代よりもはるかに大義を支援したいという欲求に導かれている。

Supernovaの創業者でCEOのDominic O’Meara(ドミニク・オメーラ)氏(画像クレジット:Supernova)

Supernovaの創業者でCEOのDominic O’Meara(ドミニク・オメーラ)氏は、かつてSaatchi(サーチ)に在籍した広告の第1人者で、英国アカデミー賞の受賞歴もあり、同スタートアップを主に自己資金で運営している。同氏は次のように語っている。「ASICS(アシックス)のようなスポンサーやMQのような慈善団体は、このアプリに備わる、ユーザーの安全を中心に据えた包括的なソーシャルネットワークという要素を評価して、今回のローンチに参加することを選んでいます。Supernovaが補完するのはまさにそこに存在するギャップであり、私たちは今後数カ月から数年のうちにこのギャップを縮小し、社会に成果を還元するソーシャルネットワークとなることを目指しています」。

「私たちの技術とアクセシビリティは、ソーシャルメディアと広告の力を使って世界がお互いに心から助け合うこと、そしてそれらの行動がどこでどのように役に立っているのかを常に透過的かつ正確に見ることを可能にします」と同氏は付け加えた。

Supernovaはこれを、同社のプラットフォーム上で有害性を防止することにより実現しようとしており(その方法については後述)、ユーザーが「安全かつセキュアであり、友人たちとの前向きで、刺激的で、人生を肯定するようなインタラクションを持つことを推奨されていると感じることができ【略】ヘイト、人種差別、ホモフォビア(同性愛嫌悪)、極端な政治思想などを目の当たりにすることのない場所を作ろうとしている」。

ビジネスモデルはシンプルである。同社は広告収入の60%を世界の慈善事業に寄付し、寄付金は気候変動、動物福祉、緊急事態の対応、健康と福祉、ホームレス支援、人権、メンタルヘルス、海洋清掃の各項目について、会員の希望に応じて配分される。どの要因が最も多くの資金を得るかは、ユーザーによって決定される。

Supernovaによると、世界のソーシャルメディア広告市場の1%以上を獲得できれば、年間6億ポンド(約925億円)を慈善団体に寄付することになるという。対照的に、FacebookとInstagramからの相当額は510億ポンド(約7兆9000億円)となる。しかし当然ながら、その現金は現在すべてザック氏の金庫に入っている。

FacebookやInstagramがヘイトスピーチを禁止していることはよく知られているが、もちろん、実際に行われることはほとんどないことも私たちはわかっている。Supernovaはまず最初に、自社のコミュニティ基準に基づいて「100%人間によるモデレーション」を行うとしており、さらにはユーザー向けに完全な憲章を約束している。

Supernovaアプリ(画像クレジット:Supernova)

どのようなアプリなのだろうか?

Instagramとの類似点はすぐにわかるだろう。ユーザーはコメントやメッセージングとともに写真やビデオを共有できる。ユーザーはフォローすることもフォローされることも可能である(1つか2つのバグが残っており、筆者のプロフィールは選択していないユーザーを自動的にフォローしているようだ)。

ユーザーはアカウントに対して、非公開、検索、フォロー、不要なユーザーのブロックなど、私たちが慣れ親しんできたソーシャルメディアツールのほとんどを設定することもできる。

ここで異なるのは、基礎となる仕組みである。

まず、ユーザーは自身のプロフィールで、Supernovaが広告パートナーから調達した資金を使って支援したい慈善分野を指定できる。

次に、ユーザーにナルシシズムを誘発することなく「Like」が慈善事業の広告収入の一部を得るための票のような働きをする。ユーザーの投稿に「Like」がついた場合、彼らが選んだ慈善団体は寄付として「Supernova Action Fund(Supernova活動基金)」のより大きな部分を得ることになる。

Superlikeや「Supernova」を獲得した投稿は、通常の「Like」の10倍の票を獲得する。ただし1つ難点がある。Supernovaを提供するには、まずユーザーが十分な「Karma Point」を獲得しなければならない。おそらくこれは、エンゲージメントを促進するためであろう。

今のところ、世界的なスポーツブランドであるASICSがSupernovaのスポンサーとなり、メンタルヘルスの慈善団体MQ Mental Health(MQメンタルヘルス)が最初に選ばれた慈善事業となっている。

また、Instagram(というよりFacebookのようなもの)とは異なり、Supernovaにはユーザーがグループに集まることのできる「グループ」機能がある。

オメーラ氏によると、Supernovaへの投資は「友人、家族」による資金調達ラウンドで100万ポンド(約1億5000万円)を超えており、2022年前半には機関投資家からのさらなる資金調達を予定しているという。

人間によるモデレーションについてオメーラ氏に尋ねたところ、次のように回答してくれた。「英国に拠点を置く訓練を受けたチームで、24時間体制で私たちが管理するシフト制を採用しています。彼らは若くて聡明な人材であり、主にコンピュータサイエンスの大学院や学部出身者です。会社の成長に合わせて社内で育成することで、チームが最初からコミュニティに親近感と共感を持てるようにしています」。ただし、同社の規模拡大に伴い、機械学習の支援を受けることになるだろうと同氏は言い添えた。

「Supernovaは、AIによって他のプラットフォーム上で活発に宣伝されている、有害で急進的なコンテンツから解放されます。その結果、Supernovaが万人向けではなく、熟慮される存在になることは間違いありません」とオメーラ氏は語っている。

Instagramでは禁止されていることで知られる乳首は同プラットフォーム上で許可されるのだろうか。

「すべては、投稿の内容や性質、投稿内のテーマによって異なりますが、コミュニティ基準に準拠しているかどうかは確実にチェックされます。違反した場合は削除されます」と同氏。

もし女性が母乳育児について説明しているのなら、それは許されるだろうかと筆者は尋ねた。

「その意図が明らかに有益であり、主題の真の側面を扱っている限りは、おそらくそうなるでしょう。もしその意図や内容が、その主題や私たちのコミュニティに対して、私たちの考えでは失礼であるか、有害であるか、あるいは否定的であるならば、コミュニティ基準や憲章を侵害することになり、削除されるでしょう」と同氏は回答した。

広告主にとってのメリットは何であろうか?

オメーラ氏は次のように語っている。「正しいことをしている『新時代』のソーシャルメディアの一部であることは、ブランドに害を与える可能性のある古い有害な秩序の一部であることとは対照的に、彼らのブランド(PR)にとってすばらしい価値があります。Deloitte(デロイト)によると、ミレニアル世代の80%は、他人の利益を自分の利益よりも優先するブランドからのみ購入したいと考えています。大手広告主は、ソーシャルメディアの現状に辟易しているようです。私は昨日、100億ドル(約1兆円)を超えるグローバル予算を投じている広告主に会い、そのことを明確に伝えられました」。

「当社のプロダクトは完全にスケーラブルで、ミレニアル世代のわずか1%にリーチすれば、毎日4000万人にスポンサー広告を届けられるでしょう。広告主たちが『量より質』を求めている今、これで十分です。1000社以上の広告主による42億ドル(約4822億円)規模のFacebookのボイコットは、その初期の兆候であり、今も消え去ってはいません。代替のオファーは今のところ提供されていません。そこにSupernovaが登場したのです」と同氏は付け加えた。

Supernovaが生き残れるのか、それともDavid Beckham(デイビッド・ベッカム)氏がローンチし、痕跡を残さず沈んだストリーミングソーシャルメディアアプリ、MyEyeになるのかはまだわからない。

タフで物議を醸す話題がこれまでほとんど登場してこなかった、一種の「バニラ(ありきたりな)」ソーシャルネットワークであるだけで、ユーザーを惹きつけるのに十分かどうかという疑問が残る。そして、潜在的に偏った人間によってコンテンツがモデレートされた場合、Supernovaはその決定を好まない人々から訴えられることになるのだろうか?

しかし、少なくとも今回の初公開からは、Supernovaは好調なスタートを切ったようだ。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Dragonfly)

【コラム】クリエイターエコノミーとクリエイターテックが実現する大きなビジネス

クリエイターエコノミーという言葉を聞いたことがある人は少なくないはずだ。もはや新しい概念ではないし、それが何かをよく知っている人もいるだろう。しかし、その名が示す通り、クリエイターエコノミーにはクリエイターが必要だ。

私たちがクリエイターエコノミーと呼んでいるものは、本質として2つのグループを内包している。1つは、主に独立したクリエイターで構成された、大規模で分散化された非定形のグループで、何らかの方法でデジタル空間に接続されているものだ。ミュージシャン、ビジュアルアーティスト、映像クリエイター、グラフィックデザイナー、ブロガー、インフルエンサーなどがこれに含まれる。そしてもう1つは、こうしたクリエイション(創造)を可能にするツールを提供する企業やプラットフォーム(クリエイターテック)で、その延長線上には、配信や収益化も含まれる。

当然のことながら、クリエイターエコノミーのビジネスは基本的にデジタル上で行われ、ハイテクの領域にある。これにより、組織に属さないクリエイターが従前よりも簡単に自分の作品で収益を上げることができるようになった。

これが、長期にわたり栄華を極めてきたスーパースターモデルの崩壊のきっかけにもなっている、というのは驚くべきことだろうか。スーパースターモデルとは、一部の著名なスター集団によるコンテンツをユーザーが視聴するという、昔ながらのエンターテインメントビジネスの手法である。何十年にも及ぶスーパースターモデルのもとで、サブカルチャーが繁栄していなかったわけではない……実際繁栄していたのだが、大きな収益を上げることは難しかった。

クリエイターエコノミーとクリエイターテックは、どちらかというと自然に発生したものだ。当初はバイラリティ(SNSなどであっという間に人気が爆発すること)や新しいソーシャルメディアチャネルを通じたオーディエンスのアクセスで実現したシフト(変化)だったが、今やクリエイターテック自体が独自の世界を構築している。そのため、スーパースターモデルからのシフトを継続できるかどうかが、クリエイターテックの存続の鍵となっている。

スーパースターモデルに風穴を開ける

Netflix(ネットフリックス)は、7月16日の株主総会で「TikTokは『驚異的な』成長を遂げている」として、真のライバルであることを認めた。NetflixがTikTokの競争力を最初に認めたのは、2020年、TikTokに対応すべく「Fast Laughs(ファストラフス、短いおもしろ動画)」を立ち上げたときだったと考える人もいるかもしれない。Fast LaughsはTikTokのコンセプトを借用して、Netflixのコメディーラインナップから抜粋した短いクリップを提供する動画フィードである。

Netflixが長い間スーパースターを利用してきたのは紛うことなき事実である。Zac Efron(ザック・エフロン)は世界中を旅し、Paris Hilton(パリス・ヒルトン)は料理をし、有名なコメディアンは1つ以上のスペシャル番組を持ち、オリジナルの映画やシリーズでは、ほんの数例挙げるだけでもTimothée Chalamet(ティモシー・シャラメ)、Jane Fonda(ジェーン・フォンダ)、Sandra Oh(サンドラ・オー)、Anthony Hopkins(アンソニー・ホプキンス)などが活躍している。古き良き時代の姿だ。

一方、TikTokにおける最大のスターは、いわゆる「スター」ではなく、たまたまおもしろくて、賢くて、痛烈で、アルゴリズムの運と自分の創造性だけで視聴者を集めたごく一般の人々である。たとえ有名でなくても、多くのクリエイターがニッチなフィールドを見つけ、熱心なファンを獲得している。彼らは(オーディエンスの)貴重な注目と視聴率を奪う新しいプレイヤーだ。

クリエイターエコノミーには「テントポール」の作品が存在しない。テントポールとは、そのスタジオ自体の経営を左右するほどの大ヒットを記録する作品を意味する用語である。ほとんどのアルバムは制作費を回収できない(メジャーレーベルでも同様だ)。そこにAdele(アデル)が現れてレコードを発表し、回収できなかったレコードの代金を支払い、多少の収益をもたらす。

これはクリエイターエコノミーには当てはまらない。確かにTikTokでもKhaby Lame(カベンネ・ラメ)のようなタイプのスターが生まれている。彼は、複雑すぎるライフハックに対しておもしろおかしく苛立ちを表現することで世界的に有名となり、今ではMeta(メタ)の宣伝をしている

しかし、カベンネ・ラメのフォロワーが、彼の最新の動画を観るためだけにアプリを開く(そして視聴後はアプリを閉じる)ことはない(そうさせないようにアルゴリズムが設計されているのだが、それはまた別の話だ)。フォロワーたちはこれらの有名人だけでなく、小規模なクリエイターも数多くフォローしており、彼らが鑑賞する動画の大半は、世界的に有名ではないクリエイターが作ったものであることが統計的に明らかになっている。

小規模クリエイターがニッチなフィールドで成功を収め、熱心なファンを獲得し、すべてが変わりつつある現在、クリエイターテックもリアルタイムでそのニーズに応えるために進化している。クリエイターの幸福(ウェルフェア)を重視し、その維持を最優先すべき時が来た。

良い倫理観=良いビジネス

クリエイターの報酬を単に倫理的な問題としてとらえるのは簡単だが、すでに語りつくされた議論である。もちろんアーティストは自分の作品にふさわしい報酬を得るべきだ。では、別の視点から考えてみよう。

クリエイターエコノミーにおけるテックプラットフォームや企業が活動を存続するためには、小規模クリエイターへの公正な報酬をビジネスモデルの中核とすることが重要である。クリエイターをプラットフォームに呼び込み、定着させて、プラットフォームへの需要を喚起するのである。

これは現実的な解法でもある。今は90年代ではないし、大きなイベントも存在しない。クリエイターテックにとってはクリエイターの数こそが重要である。プラットフォームの需要を支えているのは多くの小さなクリエイターたちだ。

クリエイターテックは、小規模クリエイターの支援に全力で取り組むべきである。彼らを支援し、適正な報酬を提供し、クリエイターをスポンサーやパトロンと結びつけるプラットフォームを継続的に改良していかなければ、スーパースターモデルに対する(クリエイターエコノミーの)進化はすべて無駄になってしまい、クリエイターテックは自らの首を絞めてしまうことになる。

クリエイターの利益よりも(プラットフォームを提供する企業の)株主の利益の方が大きいというビジネスモデルは、特に視聴者の需要と支払い意欲が高い状況において、望ましいものではなく、持続可能性も損なっている。コンテンツクリエイターが更新を中断すると罰せられるようなアルゴリズムは馬鹿げており、廃止すべきだ。クリエイターエコノミーモデルとそれを利用する企業は、根底から見直しを行うべき時である。

クリエイターテックは、クリエイターのパトロネージュ(支援者)としての役割を受け入れ、革新し続けなければならない。すでに特定のクリエイターのニーズに対応して、場合によってはブランドとクリエイターを結びつけて収益性の高いパートナーシップを実現する、競争の激しいパトロンサービスの市場を作り出そうとしているクリエイターテックも存在する。

Substack(サブスタック)は、フリーランスライターのためのプラットフォームを進化させようとしている。Patreon(パトレオン)はあらゆるタイプのコンテンツクリエイターに使ってもらえると自称しているが、公式な手段ではない。今後は最も多くの報酬、知名度、チャンス、そして最も使いやすいサービスを提供するプラットフォームが勝利することになるだろう。

ライセンス、配信、ブロックチェーン認証などの面で進化を続けることは、クリエイターのウェルフェアにとっても、これらの進化を実現する企業にとってもメリットがある。アートオークションのプラットフォームが従来型のギャラリーの枠を超えてユーザーに利用してもらうにはどうするべきだろうか。デジタル音楽、映像、画像のライセンシング(ライセンスを供与して利益を得る行為)は加速し、映像コンテンツクリエイター、フォトグラファー、ソングライターなどのクリエイターエコノミーの中で重要な役割を果たしている。

冷静に考えれば、収益を上げる過程で誰かが搾取される必要はないのだ。

小規模クリエイターへの投資は経済的にもメリットがある

個人がクリエイターになる時代、クリエイターテックが負うクリエイターに対する責任は、自己保身のためだけでなく、倫理的にも重要である(繰り返しになるが、クリエイターテックは小規模クリエイターのエコシステムが充実していなければ成立しない)。スーパースターエコノミーは、プラットフォームやメディアに散在する熱心なファンを持つ独立したクリエイターが支えるエコノミーに道を譲ろうとしている。

活発なクリエイターエコノミーには、まずクリエイター自身の健全な成長が必要である。熱心なファンは意外なところからボトムアップで生まれるので、オーディエンスがコンテンツに簡単にアクセスできることが必要だ。クリエイターテックの成功は、クリエイター自身の成功と切り離せない関係にあるのだから、クリエイターテックはクリエイターを搾取してはならない。

テック産業は、自分たちの命運をユーザー(クリエイター)の命運と結びつけて考えない悪い癖がある。純粋なビジネスの観点からも、倫理的な観点からも、クリエイターテックはこの間違いを犯してはならない。

編集部注:Ira Belsky(イラ・ベルスキー)氏は、Artlistの共同設立者兼共同CEO。

画像クレジット:Stephen Zeigler / Getty Images

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(文:Ira Belsky、翻訳:Dragonfly)

Twitterが「業界初」機械学習アルゴリズムの「バイアス」を対象とする報奨金コンテスト実施

Twitterが「業界初」機械学習アルゴリズムの「バイアス」を対象とする報奨金コンテスト実施、ハッカーと企業をつなぐHackerOne協力

Andrew Kelly / Reuters

Twitterが、システムが自動的に画像をクロップする際の”偏り”を発見した人に謝礼を支払う報奨金コンテストをHackerOneを通じ開始しました。報奨金と言えば、セキュリティ上の問題や処理上の不具合を発見した人に対して賞金を支払うバグバウンティ・プログラムが一般的におこなわれていますが、今回Twitterが始めたのは、ユーザーが投稿した写真をサムネイル化するため、ちょうど良い具合にクロップ(切り抜き)するアルゴリズムにどこか偏りがないかを探そうというコンテスト形式のプログラムです。

Twiiterの自動画像クロップは2018年から使われ始めましたが、一部ユーザーからはこのアルゴリズムが肌の白い人を中心にするようなバイアスがかった処理を行う傾向があると批判の声が上がっていました。

「われわれは5月に画像切り出しアルゴリズムの提供をいったん止め、認識の偏りを識別するアプローチを共有し、人々がわれわれの作業を再現できるようにするためコードを公開しました」とTwitterはブログで述べ「この作業をさらに進めて、潜在的な問題を特定するため、コミュニティに協力を仰ぎ、奨励したいと考えています」としました。

Twitterいわく、この報奨金コンテストは「業界初」のアルゴリズムのバイアスを対象とした報奨金プログラムとのこと。賞金額は最高3500ドル(約38万円)と控えめではあるものの、Twitterで機械学習倫理および透明性・説明責任チームのディレクターを務めるRumman Chowdhury氏は「機械学習モデルの偏りを見つけるのは難しく、意図しない倫理的な問題が一般に発見されて初めて企業が気づくこともあります。われわれは、それを変えたいと考えています」としています。

そしてこのプログラムを行うのは「これらの問題を特定した人々が報われるべきだと信じているからであり、我々だけではこれらの課題を解決することはできないからだ」と述べています。このコンテストは、2021年7月30日から2021年8月6日までエントリーを受け付けるとのこと。受賞者は、8月8日に開催されるTwitter主催のDEF CON AI Villageのワークショップで発表されます。

(Source:TwitterEngadget日本版より転載)

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中国が「冷却水いらず」な実験用原子炉による9月実験開始を計画、2030年に商業用原子炉の建設を予定

中国が「冷却水いらず」な実験用原子炉による9月実験開始を計画、2030年に商業用原子炉の建設を予定

Thorium pellets. Pallava Bagla/Corbis via Getty Images

中国政府の科学者は、世界初をうたう、冷却のための水を必要としない実験用原子炉の計画を発表しました。来月にも原子炉は完成し、9月から最初の実験が開始される予定です。中国はこの実験炉での実験がうまくいくならば、早ければ2030年に最初の商業用原子炉を建設する予定。そしてその後は水が必要ない利点を活かして砂漠や平原地域にこの原子炉を置き、さらには「一帯一路」構想に参加する国にも最大30基を建設する予定だとしました。

中国人民政治協商会議(CPPCC)の常任委員、王守軍氏は、CPPCCのウェブサイトに掲載された報告書で「原子力での『進出』はすでに国家戦略であり、原子力の輸出は輸出貿易の最適化と、国内のハイエンドな製造能力を解放するのに役立つ」と述べています。

この構想の原子炉が大量の水を必要としないのは、燃料にウランではなく液体トリウムを使う溶融塩原子炉だからです。この原子炉ではトリウムを液体のフッ化物塩に溶かし込み、600℃以上の温度で原子炉に送り込みます。原子炉の中で高エネルギーの中性子が衝突することでトリウムがウラン233に変化し、核分裂の連鎖反応を開始します。こうしてトリウムと溶融塩の混合物が加熱され、それを2つめの炉室に贈ることで大きなエネルギーを抽出、発電に利用します。

溶融塩は空気に触れれば冷えて固まります。そのため、万が一漏洩があったとしても、核反応は自然におさまり、トリウムが外界に漏れ出ることもほとんどないとのこと。またトリウムはウランに比べて核兵器への転用が難しく、また安価で入手しやすいという点もメリットとされます。

この溶融塩原子炉の試作機を開発した上海応用物理研究所によれば、計画は中国が2060年までにカーボンニュートラルを実現するという目標の一環とのこと。2019年の米調査会社の報告によると、世界の炭素排出量の27%が中国が占めています。これは他の先進国全体を合計しても届かない数値であり、世界からの厳しい目が中国に向けられています。

溶融塩原子炉のアイデアは新しいものではなく、1946年に米空軍の前進組織が超音速ジェット機を開発するときに考えられました。しかし、その後の開発においては溶融塩のあまりの温度に配管が耐えられなかったり、トリウムの反応がウランに比べて弱いことから、結局ウランを添加しないと核分裂反応が持続させられないといった技術的なハードルを解決できず、研究は中止されました。

ちなみに、米国では6月に資産家のビル・ゲイツ氏とウォーレン・バフェット氏が出資する企業が「ナトリウム高速原子炉(SFR)」という新しい原子力発電方式の実証炉をワイオミング州の石炭火力発電所に建設することを発表しています。こちらは仕組み的には日本がかつて研究開発していた高速増殖炉「もんじゅ」の方式を発展させた方式のものとされます。

原子力発電というと、われわれ日本人はどうしても福島の原発事故や、広島・長崎の原爆投下を思い出し、放射能流出が心配になりがちです。化石燃料を使った発電から再エネへの積極的な転換を目指す大きな流れもあるなか、米中という大国が従来より安全とはいえ新たな原子力を開発し、これを推進するなら、その先の世界がどうなっていくのかは気になるところです。

(Source:LIve ScienceEngadget日本版より転載)

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【コラム】DXを「エシカル」にリードする方法、倫理優先の考え方は従業員と利益を守る

【編集部注】本稿の著者Angela Love(アンジェラ・ラブ)氏はリーダーシップ開発のコンサルティング会社であるThe Daymark Groupの創設者。Fortune 50に名を連ねるスタートアップのリーダーやチームのために、明確さと成功を生み出す手助けをしている。

ーーー

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、ほぼすべての分野でデジタル変革(DX)の必要性が加速されたことは周知の事実だ。この状況下で、企業が成功を収めるために行っている活動は常に注目されている。しかし、企業がどのようにそれを行っているかについては、あまりわかっていない。

端的に言えば、イノベーションとデジタルソリューションの導入が爆発的に進む中で、倫理的配慮が犠牲になることは許されない。

これはモラルの問題でもあるが、同時に最終的な利益の問題でもある。社内外の利害関係者は、倫理的な境界を曖昧にする(あるいは無視する)企業に対して寛容ではなくなっている。このような現実は、組織のリーダーが新たな学習曲線、すなわち「設計段階からのエシックス(倫理)」を含むDXの取り組みを受け入れる必要があることを意味する。

倫理を後回しして生じる問題

エグゼクティブのライフスタイルやゴールデンパラシュート(敵対的買収を防止するために事前に経営陣や役員の退職金を巨額に設定しておくこと)の弊害を指摘するのは簡単だが、倫理違反のパターンは、リーダーシップだけではなく、会社全体の文化に起因することがほとんどだ。従業員個人の価値観に合致しているから(従業員が)倫理的な行動をとる、というのが理想的だが、最低限、倫理違反が組織に与えるリスクを理解しておく必要がある。

筆者の経験では、そのような議論は行われていない。コミュニケーション不足とか、ビジョンの欠如と言ってもいいかもしれないが、ほとんどの企業では、潜在的な倫理的リスクをモデル化することは、少なくとも公式には行われていない。議論があるとしても、上層部のメンバー間で、密室で行われることが多い。

倫理的な問題はなぜもっと大々的に扱われないのだろうか?答えの1つは、ビジネス上のヒエラルキーに関する従来の考え方を捨てたくないことかもしれない。また、積極的な姿勢が支配する強い(かつ皮肉なことに有害な)文化的メッセージに関係しているかもしれない。リーダーが「破壊的思考の文化を作りたい」と話す例もあったが、単にそれを「成長思考が不足している」と発言した従業員に伝えただけだった。

では、どうすればいいのだろうか?筆者が効果的だと思う解決策は3つある。

  • 倫理観を組織の中核的価値観にする
  • 透明性を確保する
  • 倫理的な課題や違反に対処するための戦略を積極的に策定する

これらのシンプルな解決策は、DX以降の倫理問題を解決するために最適な出発点となり、リーダーが会社の中核をよく検討し、今後何年にもわたって組織に影響を与えるような決断をするきっかけとなる。

DXの分野では対人関係の力学が懸念される

DXは、本質的には技術的な作業で、AIやデータ運用などの分野の高度で多様な専門知識を持つ人材が必要とされる。この分野のリーダーには、困難な課題に取り組めるだけの複数のドメインを扱える能力が求められる。

ここに大きな課題がある。技術的に優れた人材を集めれば、専門用語を知らない人を委縮させ、質問することを躊躇させる専門知識に傲慢な文化が生まれるからだ。

DXは、単にインフラやツールの問題ではなく、本質的にはチェンジマネジメントの問題であり、健全な変革を実現するためには、多機能なアプローチが必要だ。企業が犯しうる最大の過ちは、技術的な専門家だけで議論するべきだと思い込んでしまうことだ。その結果、サイロ化が進み、エコーチェンバー(反響室)のようになって、倫理に関する会話ができなくなってしまう。

どれほど技術的な問題であっても、DXを急ぐ場合でも、基本的に人を第一に考えて解決しなければならない。

エシカルなDXには出発点が必要である

DXに関連する倫理的要請のすべてが「人を第一に考えなければならない」という提言のように議論の余地があるわけではない。中には「そこに到達するための出発点はここ」というような、もっと白黒がはっきりしたものもある。

幸いなことに「そこに到達する」のにゼロから始める必要はない。ガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)の基準を利用することで、解釈の余地がほとんどない高度に構造化されたフレームワークを構築し、デジタルソリューションの設計と導入に向けた強固な基盤を準備することができる。

GRCモデルはスタートアップ企業にも多国籍企業にも有用で、単なるガイダンス以上のものを提供する。よく検討してGRC基準を適用すれば、リーダーシップの評価、進捗報告、リスク分析にも利用できる。ボウリングのバンパーのように、ストライクは保証できないものの、ボールが絶対に溝に落ちないようにすることが可能になる。

GRCベースのフレームワークの作り方を知らない企業もあるかもしれない(ボウリングのバンパーを作れと言われても困るのと同じ)。そのため、多くの企業が、IBM OpenPages、COBIT、ITILなどのあらかじめ製作された基盤を提供している。これらの「スターターキット」に共通する目的は、組織が属する業界や組織に関連するポリシーや統制を特定し、そこから重要なコンプライアンスポイントに線を引くことである。

一般的にクラウドベースで開始されるGRCプロセスは、少なくとも部分的には自動化されているが、組織全体の意見と透明性を必要とする。特定の部門による主導や、厳密なトップダウン方式では、効果的な運営はできない。実際、GRC基準の導入に際して理解しておくべき最も重要なことは、組織のリーダーシップと組織全体の文化の両方がGRCの方向性を完全に支持しない限り、GRCはほぼ確実に失敗するということだ。

倫理を優先する考え方が従業員と利益を守る

経営者、起業家、インフルエンサーなど、今日の社会におけるリーダーは、デジタル競争に「勝つ」ことだけを考えるべきではない。変革は短距離走ではなくマラソンのようなものだが、いずれにしても技術が重要である。競争上の優位性という最終目標を達成するためには「何を行うか」と同様に「どのように、なぜ行うか」が欠かせない。

これは、組織のすべての部門に当てはまる。オーナーや従業員などの内部の利害関係者は、倫理に対する周縁的アプローチを黙認することで、自分のキャリアや評判を危険にさらす。顧客、投資家、サプライヤーなどの外部の利害関係者も、内部の利害関係者と同様に多くのものを失う。この事実をお互いに理解しているからこそ、業界・業種を超えた透明性の追求が可能になる。

自身の監視下での倫理的堕落を許容した個人や企業に対する大規模な攻撃を観たことがあるだろう。同じような経験をするリスクを完全に排除することは不可能だが、リスクを管理することはできる。危険なのは、DXの「技術面から目をそらす」ことによって、全体像を見渡せなくなってしまうことだ。

このリスクを軽減し、真に倫理的な方法でデジタル時代の課題に立ち向かおうとする企業は、組織の内外で、倫理性、透明性、包括性の意味についてシンプルに話し合うことから始める必要がある。そして、必要に応じて行動を起こし、組織全体で先入観を持たずにその会話をフォローしていく。

組織がかつてないほど急速に活動し、変化している今、イノベーションの遅れを心配するのは賢明だが、適切なすべての倫理的配慮を行う時間はある。それを怠ると組織の先行きは危うい。

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画像クレジット:Janis Lacis / Getty Images

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(文:Angela Love、翻訳:Dragonfly)

倫理的データ慣行の青写真を描くための4つのステップ

編集部注:本稿を執筆したJoel Shapiro, JD, Ph.D.(ジョエル・シャピロ、法務博士、医学博士)氏はケロッグ経営大学院でデータ分析研究を行う臨床准教授であり、ケロッグの分析コンサルティング研究室の運営にあたっている。

もう一人の執筆者であるReid Blackman, Ph.D.(レイド・ブラックマン、医学博士)氏は、 Virtue(バーチュー)の創設者兼CEOであり、 企業と協力し、新たなテクノロジー製品の開発、展開、調達と倫理的リスクの低減を統合させる取り組みを行っている。

2019年、UnitedHealthcare(ユナイテッドヘルスケア)のヘルスサービス事業部門、Optum(オプタム)は、50の医療機関に機械学習アルゴリズムを展開した。医師と看護師はこのソフトウェアを用いて糖尿病、心臓病、その他の慢性疾患を持つ患者をモニターし、また患者が処方箋を管理したり受診予約を入れたりするのを支援することができるようになった。しかし、研究の結果、このアルゴリズムがより症状の重い黒人患者よりも白人に注意を払うよう推奨していたことがわかり、Optumは現在調査を受けているところである。

今日、データや分析を主導する責任者は、データに基づき価値を生み出すことを任されている。彼らの技能や権限を考えると、彼らは社内で倫理的データ慣行を推進する責務を持つ特殊な立場にある。運用化可能で、かつ拡張性および持続性を備えたデータ倫理フレームワークが欠如していると、質の劣ったビジネス慣行、関係者からの信頼に対する裏切り、ブランドに対する評判の低下、規制当局による調査、訴訟などのリスクを招く。

以下に、データ責任者/サイエンティストおよび分析責任者(CDAO)が社内で倫理データ慣行およびビジネス慣行のフレームワークを構築する際に実践すべき4つの重要なポイントをまとめた。

組織内の既存の専門家グループを見出し、データリスクの処理にあたらせる

CDAOは分析の経済的機会を見出し実行する責任があるが、機会にはリスクが伴うものである。データが、顧客保持やサプライチェーンの効率を高めるなど、社内向けの取り組みに使用されることもあれば、顧客向け製品やサービスの開発のため使用されることもあるだろう。しかしどちらにせよ責任者はデータの使用に伴うリスクを特定し低減する必要がある。

倫理的データ慣行を打ち立てるにあたり最善の方法であるのが、データガバナンス委員会など、データ倫理フレームワーク構築のためにプライバシー、コンプライアンスやサイバーリスクの問題に既に取り組んでいる既存のグループに目を向けることである。倫理フレームワークを既存のインフラストラクチャーに組み合わせると、導入を効率良く進めることができ、成功の確率も高まる。あるいは、そのようなグループが存在しない場合は、組織内から関連知識を持つ専門家を募り新たなグループを立ち上げる必要がある。データ倫理を管轄するこういったグループが、データ倫理における原則を公式化し、開発中または既に展開されている製品やプロセスにこれらの原則を適用することに対しての責任を担うべきなのだ。

データ収集および分析における適切な透明性とプライバシーの保護を確保する

あらゆる分析やAIプロジェクトには、データ収集と分析戦略が必要である。倫理的にデータ収集を行うには、人々からデータを取る際十分な説明を行い同意を得たり、GDPRへの準拠など法的コンプライアンスを確保したり、個人を特定することが可能な情報を匿名化処理し、逆行的手法で個人が特定されないように対処してプライバシーを保護するなどの実践が必須である。

プライバシー保護などのこれらの基準の一部は、必ずしも厳格な要件を提示しているわけではない。CDAOは、倫理的な正しさと彼らの選択がビジネスに与える影響について、適切なバランスを見極める必要がある。その後、これらの基準は製品管理者の責務へと置き換えられ、今度は彼らが、現場でのデータ収集がこれらの基準に従って行われるよう責任を持って管理することになる。

またCDAOは、アルゴリズム上の倫理や透明性を重視する姿勢を取らなければならない。例えば、AI駆動形の検索機能または推奨システムの予測精度を最大限に高めるよう努め、ユーザーが知りたいと望んでいることに対し最善の予測を提供すべきだろうか?マイクロセグメンテーションを行って、結果や推奨を他の「類似の人々」が過去にクリックしたものに限定するのは倫理的と言えるだろうか?実際には予測的性質はないが、第三者にとって利益が最大化される結果や推奨を含めるのは倫理上問題がないだろうか?アルゴリズムの透明性はどれほどのレベルが適切なのか、そして、ユーザーはどの程度それを気にかけているのか?堅牢で倫理的な青写真を描くには、こうした決定を行うための訓練や経験を十分に経ていないデータサイエンティストや技術開発者個人に判断を押し付けるのではなく、こういった課題に体系的かつ細心の注意を払って取り組む必要があるのだ。

不公平な結果を予測し、回避する

部門責任者や製品責任者は、不公平で偏りのある結果を予測する方法についての指針が必要である。不公平や偏りは、単に収集時にデータのバランスが取れていないことが原因で発生することがある。例えば、10万人の男性の顔と5000人の女性の顔を使用して訓練された顔認識ツールでは、性別で効果に違いが出る可能性が高いだろう。CDAOはバランスの取れた代表的なデータセットを確保しなければならない。

もう一つの偏りは、それほど目立たないが、今述べた偏りと同様に重要である。2019年、 Apple Card(アップルカード)とGoldman Sachs(ゴールドマンサックス)はクレジットの貸付額増額の判断において、男性を女性より有利に扱っているとして非難を受けた。Goldman Sachsは、貸付金額の決定要因は性別ではなく、あくまでも信用度であると主張したが、女性が信用を構築する機会が男性に比べ少なかった歴史的事実は、アルゴリズムが男性に有利に働く可能性が高いことを意味した。

不公平を緩和するため、CDAOは技術開発者や製品責任者をサポートし、公平性についての認識を高める必要がある。コンピューターサイエンスの文献には公平性についての指標や定義が数え切れないほど提示されているが、データが最終的にどう使用されるのかを詳しく説明できる事業責任者や外部の専門家からの協力無しに、開発者が適切な指標を選ぶのは難しい。公平性についての基準が選択されたら、データ収集者が確実にこの基準を満たすよう、効果的に伝達される必要がある。

倫理的リスクの特定プロセスと組織構造を調整する

CDAOは多くの場合、次の2つのうちどちらか1つの方法を用いて分析機能を構築する。1つは、中核となる拠点を介し組織全体にサービスを提供する方法。もう1つは、データサイエンティストや分析のための投資がマーケティング、ファイナンス、運用など特定の部署に配置される、分散型モデルに基づいた方法である。組織構造を問わず、倫理的リスクの特定に向けたプロセスと規範が明確に伝達され、適切に奨励される必要がある。

重要なステップは以下の通りである。

  • データ倫理を扱う組織と部門やチーム間の結びつきを構築することにより、説明責任を明確に確立する。これは、各部門やチームが倫理問題に目を配る「倫理責任者」を各々指定することで実現可能だ。責任者はデータに対する懸念をデータ倫理組織に報告し、組織は既存のデータの増強、透明性の向上、新たな目的関数の作成など、緩和戦略について助言を行う。
  • データやAI倫理に関する教育とトレーニングを通し、一貫した定義とプロセスを各チーム内に浸透させる。
  • 社内チーム間の協力関係を促進し、他の分野の例や研究を共有することにより、倫理的問題の特定と修正に対するチームの視野を広げる。
  • 金銭的な報酬、または他の手段を用いてインセンティブを付与し、倫理的リスクを特定し緩和することに価値を置く社風を醸成する。

CDAOはデータを戦略的に使用し展開することで新製品の収益を促進し、社内における一貫性を高める責任を持つ。現在、あまりに多くの事業責任者やデータ責任者が倫理的問題が持ち上がった際、単純に決定の良い点と悪い点を比較することで「倫理的」であろうとしている。この近視眼的視点は不必要な評判低下のリスクや、金銭的および組織的リスクを生み出す。データへの戦略的アプローチがデータガバナンスプログラムを必要とするのと同様に、優れたデータガバナンスには、倫理プログラムが必要なのである。つまるところ、優れたデータガバナンスとは倫理的データガバナンスなのである。

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(翻訳:Dragonfly)

社会貢献するテクノロジー企業に投資するVCが増えない理由

編集部注:本稿はJohanes Lenhard博士による寄稿記事である。Lenhard博士は、ベンチャーキャピタル業界における倫理を専門にしたケンブリッジ大学の研究者だ。

—–

ロンドンにある有名企業のVCパートナーの1人が率直にこう話してくれた。

ベンチャーキャピタルは金そのものだよ(笑)。ハイリスクで、おそらく最も先が読めない資産クラスだけど、リターンは最高だね。

他の記事で詳しく書いたことがあるが、筆者は、しばしば株主価値資本主義に起因する即時回収のメンタリティを超越して、それよりさらに価値のあるものに関心を向けることは(経済的にも倫理的にも)意義深いことだと考えている。ただし、筆者の議論は規範的、イデオロギー的なもので、VC投資の現状を説明するものではない。これまで、ベルリンからシリコンバレーまで150を超えるVCにインタビューする機会があったが、彼らの話を聞けば聞くほど、ほとんどのVCは環境・社会・ガバナンス(ESG)、社会貢献、サステナビリティ、環境保全技術(Nicholas Colin(ニコラス・コリン)氏が言うところの Safety Net 2.0)など気にもかけていないことが明確になってくる。昨年のVC資金の大半は、フィンテックに投資された。不動産、オートメーションにも引き続き多額の資金が投資されている。これらの分野で少しでも「社会貢献」事業と言えるものはわずかしかない。

では、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)、BlackRock(ブラックロック)、JPMorgan Chase(JPモルガンチェース) などの、決して進歩的ではないとされる大手資産運用会社や投資ファンドが、社会貢献投資に関心を示す(意向がある)と宣言し始めているのは一体なぜだろうか。

資本主義の中心に鎮座するこれらの企業が、ESGガイドラインに注目し、規制強化を叫び、気候にやさしい企業をポートフォリオに加えているのは何を目論んでのことだろうか。大企業のCEOが株主価値だけを追求するのを止めて、すべてのステークホルダーの利益を考えるようになったのはなぜだろうか。その理由が金であること、つまり新しい投資機会が絡んでいることは間違いない。「社会貢献すること」が利益に結び付く時代になりつつあるのだ。しかし、先進的なビジネスモデルで時代を先取りして投資することを常とするはずのVCが、この大波に乗ろうとしないのはなぜなのか。

誤解しないでほしいのだが、社会貢献投資や「ソーシャルグッド(社会や地球環境を良くしようとする活動・製品・サービスなど)」への投資に特化する決断を下した新しいクラスのVCは確かに存在する。DBL(ディービーエル)は例外としても、こうした新しいクラスの投資ファンドの多くは最近設立されたものばかりだ。現時点で大手ファンドと呼べるものは1つもない。例外は、ルールが存在することを示すだけだ。

Twitter(ツイッター)の共同設立者Ev Williams(エヴァン・ウイリアムス)氏などが率いるB-Corp認定企業Obvious(オブビアス)がBeyond Meat(ビヨンドミート)のIPOを成功させる一方で、Greylock Partners(グレイロックパートナーズ)などの既存大手投資ファンドでは、投資チームの性別多様性を達成できていない(同社投資チームの女性メンバーは1人のみ)。ドイツでは、社会貢献投資に特化していることをうたう投資会社はAnanda(アナンダ)1社のみで、Holtzbrinck(ホルツブリンク)、Earlybird(アーリーバード)、Point9(ポイントナイン) などの大手投資会社は今でも、eコマースとSaaSから今後も利益をあげるために奮闘を続けたり、3倍のリターンが得られる方法としてゲーム業界をやっと見いだしたりしている。

なぜなのか。考え得る最大限の利益を追求するためだけに集められたバカみたいに莫大な運用資金を扱うKKRがESGガイドラインを適用する一方で、頭の切れる何百人ものVCジェネラルパートナーたちが、まるで見て見ぬふりをするかのように、過去の成功例にとらわれて、「ソーシャルグッド」と「社会貢献」以外のあらゆる分野で革新的企業を追いかけているのはなぜなのだろうか。

以下に6つの仮説と口実を挙げてみる。

1.「社会貢献」の定義があいまいである。GIIN(グローバルインパクト投資ネットワーク)、OECD(経済協力開発機構)、UN(国連)などが、ESGと社会貢献レベル測定基準を毎日のように更新している(関連する用語も改訂される)ため、現場の投資家たちはついていくのが難しい状況だ。筆者は社会貢献投資を専門とする多数の投資家たちに話を聞いたが、その基準の解釈は十人十色だった。筆者がインタビューしたVCの中には比較的安直な結論に達しているところもある。何を目指すべきか定義が明確でないのだから、取り組むことなどできない、というわけだ。

2.VC業界では、社会貢献投資の利益率について信頼できるデータがまだ存在していない。VCには強い群本能がある。VCは新しい分野への挑戦に慣れているように見えるが、財務的リターンのことになると、実績のない収益パターンは見て見ぬふりをする。リターンの点でも、LP出資者への説明の点でも、「社会的に優良な企業」がVC業界に財務的利益をもたらすことを証明するデータがない限り、多くのVCは動かないだろう。

3. 今のやり方で利益が出ているため変える必要性を感じない。テクノロジー業界やバイオ業界を中心にハイリスク投資を行うというVCビジネスモデルはこれまで非常にうまく機能してきた。実のところ現在、低金利の影響で、ますます多くの資金がそのような資産クラスに流れ込んでいる。まさに従来のVCモデルによって生み出されてきた平均以上の利益を得るためだ。今、この投資方法を変える必要性が見当たらない。

4. VC以外の投資企業も社会貢献投資を実行に移していない。多くの資産運用会社やプライベートエクイティ投資会社が「ESG投資への参入」や「社会貢献投資の実施」を広く表明しているが、具体的に多額の資金が投資された例はまだない。Bain(ベイン)の運用資産総額は300億ドル(約3兆2000億円)だが、同社の社会貢献投資部門Double Impact(ダブルインパクト)のファンド総額は3億9000万ドル(約‭417億円)である。また、KKRの運用資産総額は2070億ドル(約22兆円)にのぼるが、同社の社会貢献投資部門Global Impact Fund(グローバルインパクトファンド)のファンド総額は13億ドル(約1400億円)にすぎない。

5. 他の運用先への圧力のほうがずっと強い。LP出資者は大手資産運用会社に対してより強い影響力を持っている(その影響力が変化を推進する場合も多い)。しかし、その一方で、KKRやBlackStones(ブラックストーンズ)などの大手は、世間の悪評を埋め合わせるために過補償する必要がある。CSRのような美徳アピールは、(経済的な利益をともなう場合は特に)その良い方法だ。

6. 多くのVCはあえて社会貢献投資をしないという選択をしている。有名なSV企業の元パートナーの1人が「今の若者は『社会的に良い会社』を作るためではなく、財を成し権力を振るうためにVCになる」と話してくれたことがある。テクノロジー業界にもかつてはSteve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏のような理想を追求する経営者がいたが、今は、海上都市を建設し、ニュージーランドの土地を買い占め、(時として)トランプ大統領を支持する(そして、観察期間を延長することでそのコネから金もうけをする)ようなテクノ自由主義の経営者が多い。蒔かぬ種は生えぬ、のだ。

営利の社会貢献投資はまだごく小規模な資産クラスでしかない(最新のGIINの統計を参照)など、上記の理由のいくつかは納得できるものだとしても、VCというのは本来、誰よりも早く先陣を切るものではないのか。逆張り投資的に、従来の型を破るチャンスを探し求めるものではないのか。新たな投資機会や投資分野をいち早く見つけ出すことこそがVCの仕事ではないのか。そして何より、信頼性が高く社会貢献度が高い企業を求める消費者の声は強まる一方だが、そうした声をVCはいつまで無視し続けるのだろうか。

結局のところ、2000年代のKleiner Perkins(クライナー・パーキンス)以降初めて、大手VCが「社会貢献テクノロジー企業」に特化した投資を発表するのは一体いつになるのか、という筆者の疑問に対する答えはまだ見つからないままだ。

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Tag:倫理 コラム

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(翻訳:Dragonfly)