心臓リハビリ治療用アプリなどを開発するCaTeが1億円のシード調達、プロダクト開発と臨床研究を加速

心臓リハビリ治療用アプリなどを開発するCaTeが1億円のシード調達、プロダクト開発と臨床研究を加速

心臓リハビリ治療用アプリなどの開発を行うCaTeは3月10日は、シードラウンドとして、J-KISS型新株予約権の発行による1億円の資金調達を2021年12月に実施したと発表した。引受先はCoral Capital。調達した資金は、プロダクトの開発と臨床研究にあてる。また2022年3月、東京都より第二種医療機器製造販売業の許可を取得したと明らかにした。

心疾患患者は超高齢化社会において年々増加する中、再入院・死亡率の減少のためには、心臓リハビリテーション(心臓リハビリ)が有効であることが知られている。実際に心臓リハビリを行うことで、例えば心不全患者における再入院率が約30%低下すると報告されているという。

しかし日本では、心臓リハビリを実施可能な医療機関が限られていることや患者の通院負担などから、外来心臓リハビリへの参加率は約7%と低い。結果として心不全患者の多くが再入院を繰り返し、医療費負担が発生しているという。この課題を解決するため、遠隔心臓リハビリシステムの早期社会実装が望まれている。

CaTeは、2020年3月の設立時から教育事業におけるiOS・Andoridアプリを含めたシステムを開発。その知見を活かし、外来心臓リハビリを自宅で行える心臓リハビリ治療用アプリの開発に取り組んでいる。同社アプリには、運動療法に加えて、日々のバイタルデータ共有、生活食事管理、AIによる通知・チャット機能などの行動変容を促す機能も採用しており、包括的心臓リハビリテーションを提供できるという。

冠動脈疾患・脳梗塞治療に向け医師がX線被曝なしにトレーニングできる血管内治療シミュレーター開発、小型化・コスト削減

冠動脈疾患・脳梗塞・脳動脈瘤の治療に向け医師がX線被曝なしにトレーニングできる血管内治療シミュレーター開発、小型化・コスト削減を実現

血管モデルの可視光による画像(左)と、非被爆血管内治療シミュレーターによるX線模擬画像(右)

理化学研究所は2月25日、通常は、医師がX線透視像を見ながら行う血管内治療のトレーニングを、放射線被曝しない形で簡便に行える「非被爆血管内治療シミュレータ」を開発した。テーブル上に設置でき、従来方法よりはるかに安価なため、いつでもどこでもトレーニングが行えるという。

冠動脈疾患、脳梗塞、脳動脈瘤などの治療には、血管内にカテーテルやステントを通す血管内治療が行われることが多い。奥行き情報のない2次元的なX線透視像で、器具の先端の動きを見ながら血管の中に器具を通しゆくため、高度な技術を要する。しかしそのトレーニングは実際にX線を使って行う必要があり、医師は放射線被曝が避けられない。また、実際のカテーテル室で行わなければならないため、時間的な制約があり、同時に複数の医師がトレーニングできないといった課題があった。

血管内治療の模式図。(A)術部へのカテーテルの誘導。(B)脳動脈瘤に対する血管内治療。(C)頚動脈狭窄に対する血管内治療。(D)脳血管閉塞に対する血管内治療。(E)心臓冠動脈梗塞に対する血管内治療

白色光源とビデオカメラを使ったトレーニングシステムもあるが、それでは血管の分岐部やガイドワイヤーの上下の動きなどが陰影から推測できてしまうため、平面的な映像だけが頼りの実際の治療とは条件が違ってしまう。そこで、理化学研究所(深作和明氏)は、琉球大学病院(横田秀夫特命教授、岩淵成志特命教授、大屋祐輔教授)と共同で、「非被爆血管内治療シミュレータ」を開発した。

このシミュレーターの特徴は、X線透視像と同じく、奥行き情報のない画像で訓練ができる点にある。このシステムでは、高感度カメラと波長選択フィルターを使い、透明な血管モデルを可視光で撮影するという方式を採っている。造影剤には液体の蛍光色素を使い、ガイドワイヤー、カテーテル、バルーン、ステントにも同じ波長の蛍光色素を塗り、血管内と器具の特定の部位だけが発光するようにした。それにより、X線透視像と同じく奥行きのない映像を作ることができるようになった。さらに、リアルタイムで画像処理を行い、実際の手術の際に用いられる、複数の映像を重ねたり輝度を反転させたり差し引いたりして作られるサブトラクション血管造影と同等の、デジタル化したサブトラクション血管造影(DSA)の機能も実現させた。

(A)造影剤を入れた血管の画像。(B)ガイドワイヤーとカテーテルの画像。(C)血管とカテーテルを重ねた画像。(D)一般のカメラで撮影した画像

そしてもちろん、X線を使わないため、トレーニングを行う医師に放射線被曝の心配は一切ない。装置は60cm四方の場所に設置できるため、いつでもどこでも安全にトレーニングが行える。コストも、従来方法よりもはるかに安価になるという。

研究グループは、同グループが開発した患者個体別血管モデリングシステムと組み合わせ、実際の患者の血管形状を反映した3Dモデルや、統計的に多発する病態モデルでのシミュレーションへの展開を目指すと話している。

犬を立たせたまま足の裏の肉球を通し1分で心電図検査、ハカルスと動物用医療のDSファーマアニマルヘルスがAI活用

犬を立たせたまま足の裏の肉球を通し1分で心電図検査、ハカルスと動物用医療のDSファーマアニマルヘルスが犬の心電測定にAI活用

産業・医療分野向けのAI製品とサービスを提供するHACARUS(ハカルス)と動物用医薬品メーカーのDSファーマアニマルヘルスは2月18日、犬を立たせたまま足の裏の肉球を通して心電図検査を行ない、AIがデータを解析・診断するサービスを開始したと発表した。

これまで犬の心電図検査は、犬を横向きに寝かせて体にクリップを挟んで測る方法が一般的だった。場合によっては身動きが取れないよう押さえることもあり、犬に負担のかかる検査だったが、今回のサービスでは従来のようなストレスを感じさせずに測定できる。

ハカルスは2018年、DSファーマアニマルヘルス主催の「動物の健康を支える新規事業探索プログラム2018」において「スパースモデリング技術を応用した診断・治療支援AI」を提案。以降両社は連携を深めてきた。2019年にはドイツで開催された医療機器見本市でデモ機を展示、2021年には公募で選定された動物病院で試用を開始。それらの成果を経て今回のサービスの開始に至った。

ハカルスは、このサービスを動物病院に普及させることで、より手軽に愛犬の健康チェックができる環境を整え、犬の死因において高い割合を占める心臓病の早期発見への貢献を目指す。また今後は、犬だけではなく他の動物も視野に入れ、広範囲にわたる健康関連サービスを支援するプラットフォームに拡張する方針という。

検査の流れと特徴

犬を立たせたまま足の裏の肉球を通し1分で心電図検査、ハカルスと動物用医療のDSファーマアニマルヘルスが犬の心電測定にAI活用

  • 心電測定:電極シートに犬を立たせたまま乗せ、ボタンを押すと約30秒間で測定が完了する。犬の心臓が全身に血液を送り出す際に発生する電気のデータを肉球から取得する
  • AI解析:測定したデータはAIが約30秒間で解析・判定。日本獣医循環器学会の獣医循環器認定医が診断した「健康な犬」と「心疾患の犬」の状態を学習したAIが心電波形を判定し、結果をレポートに表示する
  • 解析結果(閲覧・確認):解析結果は、DSファーマアニマルヘルスが運営する獣医療支援プラットフォームサービス「あにさぽ」で閲覧可能。心電計の扱いについて特別な技術は不要で、動物病院が導入しやすい仕様になっている

ヒトの幹細胞から培養し作った心筋細胞を利用、自動的に泳ぐロボット魚をハーバード大ウィス研究所が製作

ヒトの幹細胞から培養し作った心筋細胞を利用、自動的に泳ぐロボット魚をハーバード大ウィス研究所が製作

Michael Rosnach, Keel Yong Lee, Sung-Jin Park, Kevin Kit Parker

米ハーバード大学ウィス研究所の研究チームが、ヒトの心筋細胞の性質を利用し、自動的に泳ぐロボット魚を作り上げました。このロボット魚は、ヒトの幹細胞から培養して作り出した心筋細胞を、魚の形をしたゼラチン製模型の脇腹に埋め込んだもの。心筋細胞は糖分を動力源として、心臓が鼓動を打つように収縮をリズミカルに繰り返す性質を持っており、それがここでは魚の泳ぐ動作を生み出します。

筋肉はイオンの流入で収縮をする性質を持っています。これは通常、神経インパルスがトリガーとなって起こります。しかし、研究者はロボット魚に対して特定の波長の光に反応してイオン流入を起こす、光活性化イオンチャンネルのはたらきを持つタンパク質をいくつか発見し、ロボット魚の両脇の心筋細胞の一方が青い光で、もう一方が赤い光で収縮するように仕組みました。これにより、ロボット魚に青と赤の光を交互に当てることで、身体を左右にくねらせ、泳ぐ動作を誘発できました。

ヒトの幹細胞から培養し作った心筋細胞を利用、自動的に泳ぐロボット魚をハーバード大ウィス研究所が製作

Michael Rosnach, Keel Yong Lee, Sung-Jin Park, Kevin Kit Parker

また、研究者らは別の方法も作り出しました。それは心臓の構造から着想を得たもので、2つの脇腹の心筋細胞を中央で繋ぐ心筋細胞の球を作り、それが収縮を制御するペースメーカーの役割を果たすような仕組みです。この方法では、ペースメーカーとなる中央の細胞で始まったイオンの流入が両脇の心筋細胞に拡がり、収縮を引き起こすようになっています。

この方法の場合、普通に考えれば両脇の筋肉が同時に収縮するかとも思われますが、実際にはどういうわけか両側の細胞が互いに収縮するタイミングを調整するようになりました。心筋細胞は筋肉が収縮をした時、伸長を促すための受容体が活性化されることで、伸ばす動作に転じる性質があります。この性質によって、右側の筋肉が収縮をした際に反対、つまり左側の細胞が伸び、次のサイクルでは左が収縮した際に、右側の細胞が伸びるようになりました。この動作は、それぞれが勝手に動いていれば周期のズレからだんだん同期が取れなくなっていきますが、中央のペースメーカーとして機能する細胞が、左右それぞれの動きの同期を保つ役割を果たしました。

このロボット魚は、上のようなやり方で3か月にわたって壊れることなく泳ぐ動作を続けることができました。しかも、製作から1か月の時点までは心筋細胞の成長により筋肉が増強して性能的な向上がみられ、1秒間にその体長よりも長い距離を泳げるようになったとのこと。

この研究で生み出されたバイオロボット魚は、鑑賞するぶんには多少面白いかもしれませんが、将来的に何らかの用途に使うことを想定したものではありません。それでも、ヒトの心臓は死ぬまでに数十億回拍動を繰り返すことから、非常に高い耐久性を必要とする用途に応用するための可能性が、この研究によって少しは拡がったと言えるかもしれません。

(Source:Wyss Institute for Biologically Inspired Engineering at Harvard UniversityEngadget日本版より転載)

【レビュー】Withings ScanWatch、Apple Watchと正反対なスマート腕時計には乗り換えるべき価値がある

Apple Watchをリリースしたとき、Appleは「デジタルクラウン」や「コンプリケーション」がいかにすばらしいものか消費者に説いて大騒ぎしていた。しかし、我々のような時計愛好家には、あの騒動は理解し難いものだった。当然だが、時計にはそんなものはすべて付いているからだ。

当時、Appleは、コンピューティング企業として既存自社製品の犠牲になっていた。要するに、Appleが作っていたのはスマートウォッチなどではなく、手首に着けることができる小さなiPhoneだったのだ。それでもAppleは「いや、これは腕時計ですよ。絶対に」と言い張りみんなを必死に説得しようとしていたが。

Withings(ウィジングス)のHealth Mateアプリは格別だ。Withingsの健康関連プロダクツを複数使っているならなおさらだ。このアプリはGoogle FitおよびApple Health Kitと統合されているため、お好みのエコシステムにデータを移植できる。(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

これと同じような状況をクルマの世界で見たことがある。多くの従来の自動車メーカーは困惑して、こう思っていた。「一体どうすればトラック1台分のバッテリーと電気ドライブトレインを1台の車に詰め込むことができるのだろう」と。しかし、一部のメーカー、とりわけテスラはこの難題をまったく違った方向から捉えた。テスラのアプローチはこうだ。「iPhoneはソフトウェアアップデートが利用可能になると自動的に更新される。それなら、iPhoneを中心に据えて、その周りに車を構築したらどうなるだろう」と。その結果、テスラが生まれた。テスラは、外観も使い勝手も他の車とは見事に異なっていた。テスラのインテリアと所有権を取るか、メルセデスの最新世代電気自動車を取るかを決める要因はさまざまだが、筆者の考えでは、製品の全般的な哲学およびデザインと機能に対するアプローチの問題だと思う。

それらすべての要因を考慮するとScanWatchに行き着く。Withingsは常に、Appleとは異なるアプローチを取ってきた。ScanWatchはミニマリズムの外観と操作性を備えているが、Appleが解決しようとしていたのと同じ問題を抱えていた。時計の外観と操作性を持ちながら、優れた実用性を備え、そしていく分のスマートな機能も備えた時計を作るにはどうすればよいだろう、と。Withingsは、この問題をあくまで時計メーカーのやり方で解決しようとした。Steel HRはその後に登場する製品を示唆していた。WithingsのScanWatchは、Steel HRを自然な形で、より野心的にステップアップさせたものだ。

Withings独自のデザイン哲学とは要するに次のようなことだ。つまり、ScanWatchを手持ちのスマートフォンで写真を撮るためのリモートコントロールとして使うことはできない。ScanWatchに話しかけたりメールを打つこともできない。ScanWatchでメールを読んだり音楽を聴いたり、音声メモを録音することもできない。こうした機能が重要なら、ScanWatchはあなたが求めている製品ではない。あなたが求めているのはスマート腕時計ではなく、超小型スーパーコンピューターだ。

全体的な品質の高さと細部へのこだわりが光るScanWatchは本当にすばらしい製品だ。小型コンピューターというよりむしろ高級腕時計に近い(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

筆者は、Withingsの最上位機種のスマート腕時計をしばらく使ってみたが、この時計が備えているすべての機能に、そして何より、この時計から余分な機能が取り除かれていることに、何度もうれしい気分になった。筆者がApple Watchを着けるのを止めてしまったのは、デザインが嫌いだったし(味気ない黒の四角で、むしろスマートフォンに近い)、メッセージやツイートやメールの着信音がしょっちゅうブンブンと鳴ることに辟易していたからだ。もちろん、着信音をオフにすることはできるが、そうするとApple Watchを着けている意味がほとんどなくなってしまう。わざわざ毎日充電してまで着けたいとは思わなくなってしまった。

Withings ScanWatchの文字盤サイズには、38ミリと42ミリの2種類がある(画像クレジット:Withings)

WithingsのScanWatchはApple Watchとは正反対の時計だ。第一に、見た目がシンプルでミニマリズムだ。小さなPMOLEDディスプレイをオフにすると、多くの時計メーカーが作っているハイエンドの控えめなデザインの時計だと勘違いしても無理もない。ディスプレイはしゃれたRetinaディスプレイではないが、その代わり、電池は最大1カ月は持つ。腕時計らしさもよく出ている。思ったより重いが、それもある意味安心感を与えてくれる。着けていることが分かるし、上質の時計を着けるのに慣れるのも悪くない。

ScanWatchは、健康とウェルネス機能を重視した多くの極めて高度なテクノロジーを腕時計に取り込んでいる。これらの機能は、スマートフォンの機能ではなくフィットネストラッカー機能を拡張したものだ。

WithingsのScanWatchには、多数の医療用トラッカーが組み込まれている。EKG(心電図)機能はこのスマートウォッチとアプリの組み合わせで最も重要な部分だ(画像クレジット:Withings)

ScanWatchは欧州ではリリースされてしばらく経つ。米国でのリリースが遅れている理由を聞くと、このデバイスが競合他社製デバイスと大きく異なっているがよくわかる。ScanWatchを販売するにはFDAの認可が必要なのだ。Withingsによると、ScanWatch内蔵の心電図機能(EKG)は非常に高品質であるため、心房細動(afib)を検出できるという。心房細動は、最も一般的な不整脈で、脳卒中、心臓麻痺、その他の心臓疾患の主な原因でもある。

同社によると、この心電図データをユーザーに提供するには、処方箋が必要で、最初の心電図の出力を医療専門家に分析してもらう必要があるという。同じような心電図機能を備えたスマートウォッチを提供している他のメーカーがこの承認プロセスをどのようにして回避しているのかはよく分からない。Withingsがこの機能を根本的に異なる方法で実装しているのかもしれない。

心電図の承認プロセスは無料で受けることができる。継続的な心電図機能の利用を承認されるかどうかに関係なく、料金はかからない。しばらくの間、同社は処方箋と追加費用なしでユーザーが心電図機能をフルに使えるようにするための取り組みを進めている。おそらく、Apple、サムソンなどがFDAの承認を回避するために行ったことを真似するのだろう。

FDAの承認とはやり過ぎだと感じるかもしれない。そう感じたのはあなただけではない。WithingsはScanWatchのリリース前から守りの姿勢を取っており、心電図機能に関するFAQまで公開している

ここで、健康ファーストデバイスのブランドになろうとするWithingsの野心にスポットライトを当ててみよう。Withingsは、スマートスリープトラッカー血圧測定バンドスマート体温計体脂肪測定器具などを販売している。また、すべてのWithings製デバイスで稼働している優れたHealth Mateアプリは、体の健康のセントラルハブとして人目を惹き付ける。

ScanWatchには2つのサイズがある。これは38ミリ版で「筋トレやってる?」と聞かれるくらいひ弱な手首の筆者にはちょうどよい(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

ScanWatchは着けているのを忘れてしまうようなおしゃれなデバイスだが、その中に、心拍数、血中酸素濃度の監視、心電図機能、歩幅 / トレーニング / アクティビティトラッカー、接続されたGPS、高度計、スリープトラッカー、スマート目覚ましアラームなどの機能がすべて詰め込まれている。これらの機能がすべて揃っているのは本当にすごい技術力だ。

筆者はテクノロジーレビューワなので、これらがすべてWithingsが謳っている機能を本当に実現しているのどうかを判断できるような医療専門知識は持ち合わせていない。何人かの医療専門家に聞いたところ、病院にあるような数千ドル(数十万円)の工業医療機器と同等と言えるほどの機能は提供していないということのようだ。正直、手首に着けられる300ドル(約3万4000円)程度の消費者向けアイテムで、そこまでの機能を提供していたら理屈に合わないだろう。

体型を気にしている健康フィットネス志向の人なら、この時計を選択して間違いないはだろう。手首装着型デバイスとしては信じられないほどの大きな進歩であり、若干低酸素状態で行き詰まり始めていたこの製品カテゴリーに、新鮮で酸素を豊富に含んだ血液を流し込んでくれる、そんな製品だ。

最後に余談を少し。筆者は、数年前eBayでApple Watchを売り払ってせいせいしていたのだが、このレビューのためにお借りしたScanWatchをWithingsに返却したらすぐに、自前でScanWatchを購入するつもりだ。最近たくさんのガジェットを疑いに満ちた目で見ている筆者だが、この時計は本当にすばらしいと思う。

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

Apple Watchが心房細動以外の不整脈も検出できることを示す新たな研究結果

スタンフォード大学とAppleが2017年に実施した「Apple Heart Study」では、40万人を超える被験者の登録に成功し、この種の研究としては過去に実施された中でも最も大規模なものの1つとなった。継続的な研究により、Apple Watchは心房細動(AF)に加えて、その他の不整脈も検出できることが明らかになっている。Apple Watchは現在、心電図(ECG)センサーを追加したSeries 4アップデートにより、心房細動の検出と通知の機能をコアヘルス機能の1つとして提供している。

Apple Heart Studyの結果は、この機能の背後にある科学的根拠を証明している。Apple自身は、非常に正確な予測や実際の医療機器ではなく、自分の健康や心臓の健康に影響を与える可能性のある状態をより認識するための方法だと位置づけている。しかし何年も前からApple Watchユーザーの中には、心房細動の通知機能と医師によるフォローアップのおかげで無症状の問題を早期に発見できたという話が数多く確認されている。

今回のHeart Studyの追加調査では、収集したデータをさらに掘り下げ、Apple Watchから不整脈の可能性に関する通知を受けたものの、医療用心電図によるフォローアップ検査でAFが検出されなかった参加者の40%に、他の不整脈が存在していたことがわかった。これらの不整脈には、早発性心室複合体、非持続性心室頻拍などがある。これらの不整脈はごく一般的なもので、経験者の間では動悸として認識されることが多いが、特に早発性複合体は他の基礎疾患の指標となる可能性がある。

米国心臓協会の「Circulation Journal」に掲載された今回の研究では、通知を受けた後に心電図パッチを使って心房細動が検出されなかった参加者の約3分の1が、Apple Heart Study終了時には実際に心房細動と診断されていたことも判明した。これは、これまでの研究で示されたよりも、Apple製ウェアラブルデバイスの有効性が高いことを示唆している。

新世代のApple Watchに導入される新しいセンサーや技術的機能の可能性については、常にさまざまな憶測が飛び交っているが、Apple Heart StudyやApple Heart and Movement Studyといった大規模な研究から、既存のハードウェアやセンサーを利用した新機能への道筋が見えてきている。他の心臓の不整脈を検出するというApple Watchの有望な結果は、将来、より多くの「ヘルスケア」機能を生み出すかもしれない。

画像クレジット:Apple

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Dragonfly)

心不全の「デジタル治療」でFDAのブレークスルーデバイス指定をボストンのBiofourmisが取得

ボストンを拠点とするBiofourmis(バイオフォーミス)の創業者、Kuldeep Singh Rajput(カルディープ・シン・ラジプート)氏は、心不全患者が処方箋に加えてウェアラブルセンサーとアプリを持って退院するという未来を思い描いている。そして2021年7月下旬、FDAによる新たな指定により同社はその目標に一歩近づいた。

2015年に設立されたBiofourmisは、患者のケアを「拡張」するためのソフトウェアを開発するデジタルセラピューティクス企業である。これまでに約1億4500万ドル(約159 億円)の資金を調達し、約350人の従業員を抱えているとラジプート氏は説明する。

BiofourmisのBiovitalsHFは米国時間7月29日、心不全の投薬モニタリングのためのプラットフォームとして、FDAのブレークスルーデバイス指定を受けた。ブレークスルーデバイス指定が必ずしもFDAの認可を意味するわけではないが、これにより審査プロセスの迅速化を可能にし、開発中に連邦政府機関から専門知識を得ることができるようになる。

ラジプート氏によると、Biofourmisには大きく分けて2つの注力分野があるという。1つ目は製薬会社と共同でのデジタル治療法の開発(例えば、投薬のためのアプリや、健康状態をモニターできるセンサーなど)。2つ目は、急性疾患の患者に向けた、自宅でのフォローアップケアである。

前者への進出の一例がBiovialsHFだ。これまでに同社は、冠動脈疾患や心房細動などの疾患の「パイプライン」に対するデジタル治療法を開発しており、また化学療法を受ける患者や慢性的な痛みに対処するためのデジタル治療法も計画している。しかし、BiovitalsHFシステムはFDAのブレークスルー指定を受けた最初の製品であり、ラジプート氏はこれを同社の「主要デジタル治療」と呼んでいる。

BiovitalsHF製品は心不全患者の服薬管理を目的としたソフトウェアプラットフォームである。予め決まった処方箋をもらっていても、心不全患者が自宅に戻ってから薬の量を調整する必要が出てくることがあることから、この発想が誕生した。

心不全の治療では医師が複数の薬剤を使用することが多く、また時の経過とともに投与量を変更することも少なくない。特にACE阻害剤とβ遮断剤の2種類の薬の場合は、漸増、つまり患者が低用量で治療を開始し、時間をかけてゆっくりと用量を増やし、最適な「目標」用量を達成するプロセスが必要になることがある。

しかし、漸増は実生活では困難だ。2020年のある研究では、最適な投与量が達成されているのは心不全患者の25%以下だと示唆されている(他の研究では1%以下という結果になっているものもある)。2017年のCardiac Failure Reviewの解説によると、ACEの目標用量を守っている患者はわずか29%、β遮断剤の目標用量を守っている患者は18%と推定されている。

一方、臨床試験では、多くの患者が50〜60%の割合で最適な量を達成することができており、試験中での服用と実際の服用にギャップがあると考えられている。

BiovitalsHFは、ウェアラブルデバイスからデータを収集および分析することで、患者が退院した後の服薬調整プロセスを効率化したいと考えている。そのデータが、患者の健康状態に応じて薬を漸増させるために使われるというわけだ。

患者、ウェアラブルデバイス、外部の検査結果からの情報をもとに薬の投与量を調整するこのソフトウェア。ウェアラブルデバイスが心拍数、呼吸数、ストローク量、心拍出量などのデータを収集し、その一方で患者が自分の症状をアプリに報告、医師は検査結果を入力する。

「センサーを使って患者から収集したデータとモバイルプラットフォームに基づいて、自動的に増量や減量、薬の切り替えを行い、患者が適切で最適な量を服用できるようにします」とラジプート氏は話す。

すると患者には薬の調整が行われることを知らせる通知が届くという仕組みである。

BiovitalsHFプログラムはまだ概念実証試験が一度しか行われていないが(詳細は後述)、Biovitals患者モニタリングプラットフォームはこれまでに他の疾患でもテストされている。

例えば、香港のクイーン・メアリー病院では、バイオセンサーを1日23時間装着した、軽度の新型コロナウイルス(COVID-19)患者34人のモニタリングにBiovitalsシステムが採用されている。Scientific Reportsに掲載された論文によると、このプラットフォームは患者が悪化するかどうかを93%の精度で予測し、入院期間を78%の精度で予測することができたという。

BiovitalsHFシステムはこれとは少し異なる。患者をモニタリングすることを目的としてはいるものの、ラジプート氏が目指すのは、このテクノロジー自体を治療プログラムとして投与するということである。

つまり医師がBiovitalsHFプログラムを3カ月間「処方」し、ソフトウェア自体が患者の治療結果をモニターし、投与量を決定するということだ。

Biovials HFを単なる意思決定支援ソフトウェアとしてではなく、治療レジメンとして販売できるようにすることが目的なのである。わずかな違いのように感じるが、つまり同社は単なるデリバリーデバイスではなく、それ自体が医薬品のような存在になろうとしているわけである。

「デジタル治療用の製品ラベルには、臨床決定支援のための単なるモニタリングツールではなく、実際の治療効果が記載されています」とラジプート氏は話す。

当然、このような主張をするからにはしっかりとした結果が必要だ。同社は2021年3月に終了した概念実証臨床試験で、このコンセプトの初期テストをすでに行っているが、有効性を証明するためには今後さらに多くのテストを行う必要がある。

この試験では282名の患者を90日間モニターし、BiovitalsHFを使用している人と通常の標準治療を受けている人を比較。このプラットフォームが薬の投与量を最適化できるかどうか、つまり、この場合は最適な投与量の50%以内に収めることができるかどうかを判断するというのがこの試験の目的である。

同研究の結果はまだ公表されていない。しかし、ラジプート氏によるとこの研究はそのエンドポイントを満たしており、患者の生活の質や心臓の健康状態の改善にもつながっているようだ。

「3カ月以内に、患者のQOLや心機能が大きく改善され、血中バイオマーカーであるNT-proBNP(心不全のマーカー)も減少しました。これをもとにFDAにデータを提出したところ、ブレークスルー指定を受けることができました」と話している。

同社は査読付きジャーナルへの掲載に向けて、このデータを提出したという。

ブレークスルー指定を受けたことで、BiovitalsHFの開発が急速に進むかのように思えるが、実際はFDAの正式承認はおろか、市販承認に至るまでの道のりはまだ長いと言えるだろう。

「ピボタル試験はすぐにでも開始する予定です。そしてFDAへの正式な申請は、来年の6月か7月頃になると思います」とラジプート氏は話している。

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画像クレジット:Biofourmis

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

【インタビュー】アップルがiOS 15で明らかにした「ヘルスケア」の未来、同社VPが語る初期Apple Watchから現在まで

Apple(アップル)が最近開催した世界開発者会議(WWDC)の基調講演には、iPhone、Mac、iPadの新機能が詰まっていた。2014年に最初のヘルスケアアプリがデビューして以来ほぼ一貫してそうだったように、それらの新機能には、個人のヘルスケアや健康を中心としたアップデートが含まれている。Appleがこの分野で行っている取り組みの影響は、すぐには評価できないことが多い。例えば、ヘルスケア関係の新機能は一般に、Appleのデバイスのソフトウェアで行われるユーザーインターフェイスの全面的な見直しほど目立つことはない。しかし全体として見ると、Appleは、個人が利用可能な、最も強力でわかりやすいパーソナルヘルスケアツールスイートを構築したようだ。そして、その勢いが衰える兆しは見えない。

筆者は、Appleの技術担当VPであるKevin Lynch(ケヴィン・リンチ)氏にインタビューする機会を得た。実はリンチ氏は、2014年9月のAppleの基調講演イベントにおいて、世界の舞台ではじめてApple Watchのデモを行った人物であり、Apple Watchが大きく成長するのを見てきただけでなく、Apple Watchにおけるヘルスケアの取り組みの進展に欠くことのできない人物でもある。Apple Watchがどのようにして今日の姿になったか説明してくれた。また、将来の展望のヒントも与えてくれた。

「これまでの進展ぶりに驚いています」と、最初のヘルスケアアプリについてリンチ氏は語った。「このアプリは実は、Apple Watchから始まりました。Apple Watchで、カロリー消費アクティビティと『アクティビティ』のリングを完成させるための心拍数データを取ったため、心拍数データを保存しておく場所が必要でした。それで、データを保存する場所としてヘルスケアアプリを作りました」。

Appleのヘルスケアアプリは2014年に、Apple Watchのアクティビティデータを保存する簡単なコンパニオンアプリとして始まった(画像クレジット:Apple)

そこでAppleは、中心になる場所ができれば、他の種類のデータも保存できるシステムを開発して、プライバシーを尊重した方法で開発者が関連データをそこに保存できるAPIとアーキテクチャも構築できることに気づいた、とリンチ氏は語る。最初の頃、ヘルスケアアプリは基本的にまだ受け身の格納庫で、ヘルスケア関係のさまざまな情報の接点をユーザーに提供していたが、Appleは間もなく、それをさらに発展させて他にも何かできることはないか、と考え始めた。そして、アイデアのきっかけはユーザーからもたらされた。

ユーザーに導かれた進化

ヘルスケアに対するAppleのアプローチの主要な転換点は、ユーザーがApple Watchの機能を使って、Appleが意図した以上のことを行っていることにAppleが気づいたときに訪れた、とリンチ氏はいう。

リンチは次のように説明する。「私たちは、ユーザーに心拍数を示そうとしており、実際、ユーザーは自分の心拍数を見ることができました。私たちは、心拍数を消費カロリーの測定に使っていました。しかしある時、こんなことがありました。ワークアウトをしていないときに心拍数を見て、心拍数が高いことに気づいた一部のユーザーが【略】医師に診てもらうと、心臓の異常が発見されたのです。Appleはそのようなユーザーから手紙を受け取るようになりました。今でも、私たちがしている仕事について手紙が来ます。それはとてもうれしいことです。しかし、初期のそうした手紙の中にはヒントを与えてくれたものがありました。『待てよ、実は同じことをバックグラウンドで自分たちでできるんじゃないか』ってね」。

その後Appleは、心拍数が高い場合にアラートを通知する仕組みを開発した。ユーザーがあまり動いていないときにApple Watchが異常に高い心拍数を検出すると、それをユーザーに知らせることができる。休息時の高い心拍数は、潜在的な問題に関する良い指標である。Appleは後に、異常に低い心拍数の通知も加えた。これはすべてユーザーがすでに利用できるデータであったが、Appleは、目ざといApple Watchオーナーがすでに享受しているメリットを、先を見越して機能として提供できることに気づいた。

2017年、心拍数が高いことを知らせる通知がApple Watchに導入された(画像クレジット:Apple)

そこでAppleは、似たようなインサイトを探り出せる検討対象の分野を増やすための投資を大きく増やし始めた。ユーザーの行動によって研究対象の新たな分野が特定されるのを待つのではなく(リンチ氏によれば、これはチームにとって依然として重要であるが)、ヘルスケア機能の発展への道筋を切り開くために、臨床医や医療研究者の採用を増やし始めた。

その成果の一例が、WWDCで発表された「Walking steadiness(歩行の安定性)」である。これは、Apple Watch装着者の平均的な歩行の安定度を簡単なスコアで示す新しい基準だ。

リンチ氏は次のように説明する。「歩行の安定性【略】は実は、転倒の検出から得られたものです。私たちは転倒の検出に取り組んでいました。本当にすばらしい取り組みだったのですが、進めていくうちに、ただユーザーの転倒を検出するだけでなく、ユーザーが実際に転倒しないようにサポートする方法についてブレインストーミングを行うようになりました。転倒するその瞬間にサポートするのはかなり困難です。実際に転倒し始めたら、できることは限られています」。

リンチ氏は、Appleが2018年に導入した転倒検出機能のことを言っている。モーションセンサーのデータを使って、突然の激しい転倒と思えるものを検出し、転倒した装着者をできれば助けるために緊急アラートを送る機能である。Appleは、10万人が参加した心臓と運動に関する研究でユーザーの転倒検出データを調べ、それを歩行の基準に関する同じ研究でiPhoneから収集したデータと結び付けることができた。

「(心臓と運動に関する研究のデータ)は、この機械学習に関する仕事の一部でとても役立っています」とリンチ氏は述べた。「それで私たちは、特に転倒と歩行の安定性を中心とした研究に重点を置き、歩行の安定性に関する従来の測定データ一式を、真実を語る資料として使いました。アンケート調査、臨床観察、受診と医師による歩行の様子の観察も同様です。そして1~2年の間、研究対象の人が転倒することがあれば、転倒に先立つ測定基準をすべて調べて、『転倒の可能性を測る本当の予測因子は何か』を理解することができました。その後、それを基にモデルを構築できました」。

iOS 15におけるAppleのヘルスケアアプリの「歩行の安定性」に関する測定基準(画像クレジット:Apple)

実はAppleは、歩行の安定性の機能によって、ヘルスケアやフィットネスの業界では非常にまれなことを成し遂げた。個人のヘルスケアを中心として、臨床的に検証された、意味のある新しい測定基準を作ったのだ。ヘルスケアアプリでは、AppleのiPhoneのセンサーを通して受動的に収集されたモーションセンサーのデータに基づいて「とても低い」から「低い」または「OK」までのスコアが示される(リンチ氏の話では、iPhoneの方が、腰の位置にあるので測定基準をより正確に検出できるという)。おそらくこのデータは、ユーザーが本当に意味ある改善を実際に行うのに役立つだろう、とリンチ氏はいう。

「別のすばらしい点は、すぐに使えるということです」と氏は述べた。「変えるのが難しいものもある中で、歩行の安定性に関しては、改善するためにできるエクササイズがあります。それで、私たちはそうしたエクササイズをヘルスケアアプリに組み込みました。ビデオを見てエクササイズを行い、転倒する前に、安定性を改善するために努力できます」。

歩行の安定性というのはおそらく、ヘルスケアに関してAppleが重視する分野を最も効果的に具現化した機能である。持ち歩くデバイスが、周囲を取り巻く一種のプロテクターに変わるのだ。

「インテリジェントな保護者」

Appleのヘルスケアアプリは、追跡対象の測定基準を概観するのにうってつけである。Appleは、目に映るものを理解することを容易にする、入念に吟味した状況認識情報のライブラリを着実に構築してきた(例えば、研究室のアップデートされた新しいディスプレイでは、結果がiOS 15でわかりやすい言葉に変換される)。しかし、革新の点でAppleが比類のない位置にいる分野の1つは、先を見越した、または予防的なヘルスケアである。リンチ氏は、歩行の安定性の機能はそうした努力の進展の結果であることを指摘した。

「歩行の安定性に関する取り組みは、私たちが『インテリジェントな保護者』と考えているこのカテゴリーに属します。『どうすれば、他の方法では見ることも気づくこともないかもしれないデータを使ってユーザーを見守るサポートができるだろうか。そして、変化の可能性を知らせることができるだろうか』ということです」と同氏は語る。

「インテリジェントな保護者」のカテゴリーは実のところ、当初はApple Watchとヘルスケアの計画に含まれていなかったことをリンチ氏は認めている。

「最初の頃は、『インテリジェントな保護者』について今のような考え方はしていませんでした。Apple Watch初期にユーザーから寄せられた手紙によって、私たちは、本当に意味のあるアラートをユーザーに通知できることに気づきました。ユーザーからの手紙のおかげで、本当に意義深いひらめきを得られました」。

Apple Watchの転倒の検出(画像クレジット:Apple)

そのような手紙は、ヘルスケアの機能に取り組むチームに今もひらめきを与えており、チームに動機付けを与えてその仕事が正しいことを証明するのに役立っている。リンチ氏は、Appleが受け取った1通の手紙を引用してくれた。ある人が父親にApple Watchを買ってあげたが、父親は自転車で外出中に自転車から溝に落ちてしまった。Apple Watchはその転落を検出し、父親の意識がないことも検出した。幸いにも、Apple Watchは緊急連絡先と911番に通知するように設定されていて、その両方に通知が送信された。Apple Watchによって地図上の場所が息子に通知されたので、息子は現地に駆けつけたが、現場ではすでに救急医療隊員が父親(幸い大事には至らなかった)を救急車に乗せているところだった。

リンチ氏は次のように語る。「『人について私たちが感知して知らせることができることとして、他に何があるだろうか』と考えたことはたくさんあります。ヘルスケアに関する取り組みの中で、私たちは、臨床的な観点から人について知るべき真に意味のある事柄とは何か、という点について常に話し合っています。また、人について感知できることについて科学的な観点からどう考えるべきか、という点についても話し合っています。この2つの点が重なる部分にこそ、収集データを理解して活用するための鍵があります。あるいは、疑問に対して臨床的にしっかりとした根拠に基づく回答を出すためのデータを構築する新しいセンサーを開発するヒントが得られる可能性があります」。

個人のヘルスケアに対するコミュニティとしてのアプローチ

iOS 15でAppleのヘルスケアアプリに加えられる別の大きな変更は共有だ。ユーザーと家族や、医師など世話をする人の間で、ヘルスケアのデータを非公開で安全に共有できるようにする。ユーザーは、共有するヘルスケアのデータを正確に選ぶことができ、いつでもアクセスを無効にできる。Apple自体がデータを見ることは決してなく、データはデバイス上でローカルで暗号化され、受信するデバイスのローカルメモリーで復号化される。

iOS 15でのAppleのヘルスケアアプリの共有(画像クレジット:Apple)

ヘルスケアの共有は、インテリジェントな保護者に関するAppleの取り組みの自然な拡張である。これによって、個人のヘルスケアは、常にそうであった状態、つまり個人がつながっているネットワークによって管理される状態に引き上げられるからだ。しかも、現代のテクノロジーとセンサー機能によって拡張されている。

リンチ氏は次のように説明する。「見守り対象の相手はその情報を見たり、変化の通知を受け取ったりすることができ、見守る人は小さなダッシュボードで情報を見ることができます。特に年配者やパートナーの世話をする人にこれが大いに役立つことを願っています。一般的に言って、ヘルスケアの過程で相互にそうしたサポートができるようになります」。

リンチ氏は、単に他の方法では見いだせなかったデータを明らかにすることが目的ではなく、実際には、ヘルスケアに関連した家族間のコミュニケーションを活発にしたり、普通なら決して生じないような個人的なつながりの扉を開けたりすることが目的だということを指摘している。

「最近どれくらい歩いたかとか、よく眠れるかといった話を自然にすることがないような状況で、会話が促されます。そうしたことを共有する気があるなら、さもなければしなかったような会話ができます。医師とのやり取りでも同じです。医師とやり取りするとき、医師は患者の普段の健康状態をあまり見ていないかもしれません。サイロ思考になって、その時の血圧など、部分的にしか診ません。では、医師と話すときに、どうすれば短い時間で全体像を伝えて、会話の内容を豊かにするサポートができるでしょうか」。

医師との共有は、医療提供者の電子医療記録(EHR)システムとの統合に依存するが、リンチ氏によれば、そのシステムでは相互運用可能な標準が使用されていて、さまざまなプロバイダーがすでに米国を広くカバーする準備を整えている。この機能を利用する医療従事者は、ユーザーが共有するデータをWeb表示のEHRシステムで見ることができる。データは一時的に共有されるだけだが、医療従事者は患者のために、簡単に特定の記録に注釈を付けて、永続的なEHRに保存し、必要に応じて診断結果や治療過程をバックアップできる。

EHRには導入と相互運用性の点で困難な問題に直面してきた歴史がある。この点についてリンチ氏に尋ねると、同氏は、Appleが何年も前にEHRとの連携に取り組み始めた当時は、実際に機能させるためにApple側に多大の技術的な負担が求められたと語った。幸い、業界は全般的に、もっとオープンな標準の採用に向かった。

「業界は、もっと標準化された方法でEHRに接続する方向に大きく変化してきました。確かにAppleは、EHRに関するすべての問題に取り組み、改善を支援するために努力してきました」とリンチ氏は語る。

ユーザーとの長期的な関係を築くメリット

ユーザーと医師の両者にとって、Appleのヘルスケアアプリが持つ大きな潜在的メリットの1つは、長期にわたって大量のデータにアクセスできることである。Appleのプラットフォームにこだわり、ヘルスケアアプリを使ってきたユーザーは、少なくとも7年ほど心拍数のデータを追跡してきたことになる。その理由で、iOS 15の別の機能であるHealth Trends(健康のトレンド)は、将来に向けてさらに大きな影響力となる可能性を秘めている。

iOS 15のAppleの健康のトレンド機能(画像クレジット:Apple)

リンチ氏は次のように説明する。「トレンド機能では、長期的な変化を調べ、各分野で統計的に重要な変化の特定を開始します。最初は20ほどの分野が対象となります。注意すべきトレンドが現れ始めたら、それを強調表示し、その様子を表示することができます。例えば、休息時の心拍数に関する現在と1年前のデータを比較できます」。

これもまた、Appleの心臓と運動に関する研究と、Appleがその研究から継続的に引き出したインサイトの結果である。Appleはこの研究の間、提供するインサイトの微調整に大いに力を注いだ。活用できるインサイトをユーザーに提供すると同時に、過剰な負荷や混乱の増大を回避するためだ。

「健康のトレンドのような機能を扱う場合、インサイトでユーザーを圧倒したいとは思いません。しかし、示すべき関連情報がある場合は、それを抑えたいとも思いません。どのように調整すべきか考えました。私たちは、心臓と運動に関する研究で得たデータを調整することに力を注いだので、それが公開されている様子を見ると胸が高鳴ります。これは何度でも言います。これは長期的な変化を理解する本当に強力な方法になると思います」。

ヘルスケアの未来は「融合」にあり

Appleのヘルスケアに関する今日までのストーリーは主に、iPhoneやApple Watchに搭載されている、最初は別の目的を持っていたセンサーを通じてヘルスケアに関するすばらしいインサイトが継続的に提供されたことによって成り立っている。以前はまったく不可能で、実際的ではなかったことだ。その状況は、Appleが、Apple WatchやAppleの他のデバイスに統合できる新しいセンサー技術を探し出して、日常のさらに多くの健康問題に取り組むという、意図的な戦略へと進展した。また、Appleは引き続き、既存のセンサーを使う新しい方法を見つけ出している。iOS 15に追加された、睡眠中の呼吸数の測定が主な例である。一方で、さらに多くのことを行うため、次なる新しいハードウェアの開発にも取り組んでいる。

しかし、将来のヘルスケア機能の観点から見ると、さらに可能性を探るべき分野は、センサーの融合である。歩行の安定性は、iPhoneとApple Watchが単に独立して機能する結果ではなく、Appleがそれらを組み合わせて活用するときに得られる成果である。Appleのソフトウェアとハードウェアの緊密な統合によって強化される分野もある。そのような分野は、デバイスとそのデバイスに搭載されているセンサーで構成されるAppleのエコシステムとして増殖し、成長を続ける。

インタビューの最後に、AirPodsのことを考慮に入れるとどんな可能性が開かれるのか、リンチ氏に尋ねた。エアポッドにも独自のセンサーがあり、iPhoneやApple Watchでモニタリングされるヘルスケア関連データを補完できるさまざまなデータを収集できるためだ。

「現在すでに、いくつかのデバイス間でセンサーの融合を行っています。ここには、あらゆる種類の可能性があると考えています」とリンチ氏は語った。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:AppleiOSiOS 15WWDC 2021Apple Watchヘルスケアアクティビティ心拍数心臓インタビュー

画像クレジット:Apple

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Dragonfly)

ペースメーカーをハッカーから守るため医療機器MedtronicとサイバーセキュリティのSternumが提携

サイバー攻撃を怖いと思うのであれば、もしその攻撃の矛先が心臓ペースメーカーに向けられていたらどうだろうか?医療機器メーカーのMedtronic(メドトロニック)は、ここ数年、同社のペースメーカーがネット上のソフトウェア更新システムを通じてハッキングされていたことで話題になっていた。しかし、イスラエルに拠点を置くIoTサイバーセキュリティのスタートアップであるSternumとの新たなパートナーシップにより、Medtronicはこの問題の解決に注力している。

問題は医療機器そのものではなく、デバイスのアップデートに使われるリモートシステムにあった。Medtronicの以前の解決策はデバイスをインターネットから切り離すことだったが、それ自体が別の問題を引き起こす可能性がある。

「Medtronicは、将来の開発に役立つ長期的なソリューションを求めていました」と、Sternumの創業者兼CEOであるNatali Tshuva(ナタリー・トゥシュヴァ)氏は語る。同社は、すでに約10万台のMedtronic社製デバイスをセキュリティ保護した。

Sternumのソリューションにより、医療機器はリアルタイムで自らを守れる。

トゥシュヴァ氏はTechCrunchにこう語った。「脆弱性との戦いは終わりがありません。企業は脆弱性を発見したらアップデートを行う必要がありますが、医療分野ではアップデートが非常に難しいことが多く、アップデートが行われるまでデバイスは脆弱な状態にあります。そのため当社は、アップデートや脆弱性へのパッチ適用を必要とせずにデバイスを保護できる、デバイス内から動作する自律的なセキュリティを実現しました」。

しかし新しいデバイスを保護するのは、レガシーデバイスをさかのぼって保護するよりも簡単だ。年々ハッカーの手口がますます巧妙になってきているため、医療機器メーカーは、すでに世の中に出回っている機器をいかにして守るか考えなければならない。

「市場ではすでに何百万、あるいは何十億もの医療機器が(ネットワークに)接続されており、セキュリティや管理の面で悪夢となりかねません」とトゥシュヴァ氏は付け加えた。

個人に被害が及ぶ可能性だけでなく、ハッカーはデバイスの脆弱性を利用して病院のネットワークに侵入し、より多くの人々に影響を与える可能性がある。トゥシュヴァ氏は、病院のネットワークは内側から保護されているが、ネットワークに接続する保護されていないデバイスが侵入経路となる可能性があると説明した。

実際、医療機関はあらゆる分野の中で最も多くのデータ漏洩を経験していることが知られており、2020年に報告された全漏洩件数の79%を占めている。また、Health IT Securityのデータによると、2020年の最初の10カ月間で、医療システムへのサイバー攻撃が45%増加しているという。

SternumはMedtronicとの提携に加えて「インターネットに接続されていなくても、デバイスが自分自身を守ることができる」IoTプラットフォームを今週発表したという。

これまでに約1000万ドル(約10億9000万円)を調達しているSternumは、ヘルスケア以外のIoT機器にもサイバーセキュリティを提供しており、トゥシュヴァ氏によると「ミッションクリティカル」な分野に焦点を当てているとのこと。例えば、鉄道インフラのセンサーや管理システム、電力網などがそれに含まれる。

イスラエルで育ち、コンピューターサイエンスの修士号を取得し、イスラエル国防軍の8200部隊(米国の国家安全保障同盟に似ている)に勤務していたトゥシュヴァ氏は、常に医療分野でインパクトを与えたいと考えていたという。「医療分野と自分の人生を結びつけようと考えたとき、遠隔医療機器に貢献できると気づいたのです」と彼女は語った。

カテゴリー:IoT
タグ:MedtronicSternum心臓心臓ペースメーカー医療データ漏洩

画像クレジット:Sternum

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(文:Marcella McCarthy、翻訳:Aya Nakazato)