18カ月前、Uber(ウーバー)の自動運転部門である Uber Advanced Technologies Group(ATG)はトヨタやデンソー、ソフトバンクのビジョンファンドから10億ドル(約1047億円)の出資を受けてバリュエーションが72億5000万ドル(約7600億円)になった。そのATGはいま、売りに出ている。競合相手のスタートアップがATG買収でUberと交渉中だ。この件に詳しい3人の情報筋が明らかにした。
Google(グーグル)、Tesla(テスラ)、そしてUberで自動運転技術に携わった3人の業界ベテランによって設立されたスタートアップAurora Innovation(オーロラ・イノベーション)はUber ATG買収で交渉している。取引条件などはまだ明らかになっていないが、両社は2020年10月から交渉しており、そのプロセスは進展を見せていると情報筋は話す。
Uberの広報担当は、当社はこうした種の問い合わせには答えない、としてコメントを却下した。Auroraの広報担当は憶測についてはコメントしないと述べた。
交渉は決裂することもあり得る。しかしもしうまくいけば、Auroraの社員は3倍に増え、Uberにとっては短い社歴の間にいくつかの議論の種を抱え込むことになった費用のかかる長期的プロジェクトという荷をおろすことになる。
Uberは「売買」してきた
Uber ATGの売却は、ここ数カ月Uberが配車サービスや配達といった主要事業に注力し、また資金を注ぐことになったスピンオフや他のディールに続く動きだ。2年前の2018年、Uberのビジネスモデルは「上記のすべて的」なアプローチだった。配車サービス、マイクロモビリティ、ロジスティック、荷物・フードデリバリー、そして将来の自動運転ロボタクシーすらも含むあらゆる交通の形態から売上を生み出すことに賭けていた。
Uberが上場してから戦略は変わり、また新型コロナウイルスパンデミックが経済をひっくり返し、人々の暮らしを根本的に変えて以降、その戦略変更は加速した。過去11カ月、Uberはシェアリングマイクロモビリティ部門のJumpをたたみ、成長しているもののまだ黒字化を達成できていないロジスティック部門Uber Freightの株式を売り、Postmates(ポストメイツ)を買収した(Postmatesの買収は2020年第4四半期のクローズが見込まれている)。
Uber ATGは、価値が大きい最後のUberの所有物だ。多くの長期的約束、そしてかなりのコストをUber ATGは抱える。Uberは2020年11月に、 ATGと「他のテクノロジー」(Uber Elevateを含む)が2020年9月30日までの9カ月で3億300万ドル(約320億円)の赤字だったと報告した。UberはフォームS-1の中で、ATGと「他のテクノロジープログラム」の取り組みの研究・開発費用4億5700万ドル(約478億円)が発生した、と述べた。
4人の業界情報筋はTechCrunchに、Uberが今年、自動車メーカーを含む数社にATG売却を打診してきたと語った。また、Uber ATGがダウンラウンドの可能性に直面しており、これがAuroraとの交渉の裏にあるもう1つの動機かもしれない、とも話した。
2017年創業のAuroraは完全自動運転の構築に専念している。車が高速道路や街中の通りをドライバーなしで走行できるようにする技術だ。同社は著名なベンチャーファーム、資産運用会社、そしてGreylock Partners、Sequoia Capital、Amazon、T. Rowe Priceといった企業の関心と資金を集めてきた。創業者のSterling Anderson(スターリング・アンダーソン)氏、Drew Bagnell(ドリュー・バグネル)氏、Chris Urmson(クリス・アームソン)氏も出資している。
アームソン氏は、後にAlphabet(アルファベット)傘下のWaymo(ウェイモ)となるためにスピンアウトしたグーグルの自動運転プロジェクトを率いていた。アンダーソン氏はTeslaのModel XとAutopilotプログラムの開発・立ち上げを主導したことで最もよく知られている。カーネギーメロン大学の准教授であるバグネル氏はUberの自動運転部門立ち上げをサポートし、ピッツバーグにあるAdvanced Technologies Centerの自律・認知チームを率いていた。
Auroraは零細の新スタートアップから、いまやサンフランシスコのベイエリア、ピッツバーグ、テキサス、モンタナ州ボーズマンに事業所を展開し、従業員600人を抱える企業に成長した。ボーズマンは、Auroraが2019年に買収したLiDAR企業であるBlackmore(ブラックモア)の拠点だった。LinkedIn(リンクドイン)の記録によると、Auroraの現在の従業員の約12%が元Uber従業員だ。
そうした成長にもかかわらず、AuroraはUberを大株主にもつUber ATGよりもまだだいぶ小さい。Uber ATGは従業員1200人超を抱え、ピッツバーグやサンフランシスコ、トロントなどに拠点を構える。米証券取引委員会に提出された書類によると、UberのUber ATGの持分は86.2%だ。残りの投資家の持分は13.8%となっている。
Uberの自動運転車両テクノロジーへの参入は、同社がカーネギーメロン大学のNational Robotics Centerとの戦略的提携を発表した2015年に本格的に始まった。ドライバーなし車両テクノロジーの開発を共同で行うという提携は、Uberによる数十人ものNRECの研究者や科学者のハンティングにつながった。1年後、社内にAV開発部門を立ち上げ、共同創業者のTravis Kalanick(トラビス・カラニック)氏が当時率いていたUberはOtto(オット)という自動運転トラックのスタートアップを買収した。
この買収は最初からトラブル続きだった。Ottoはグーグルのスターエンジニアの1人Anthony Levandowski(アンソニー・レヴァンドフスキー)氏、それから3人のグーグルのベテラン、Lior Ron(リオル・ロン)氏、Claire Delaunay(クレア・ドローネ)氏、Don Burnette(ドン・バーネット)氏らがその年の初めに共同で創業した。そして創業から8カ月も経っていなかったOttoをUberが買収した。
買収の2カ月後、グーグルはレヴァンドフスキー氏とロン氏に対して仲裁を要求した。どちらの要求にもUberは含まれなかった。この件は決着がついたが、それとは別にWaymoは2017年2月に企業秘密の窃盗と特許侵害でUberに対して訴訟を起こした。Waymoは2018年に和解した裁判の中で、レヴァンドフスキー氏が同社の企業秘密を盗み、それが後にUberによって使用されたと主張した。
和解の中でUberは、Waymoの機密情報をハードウェアやソフトウェアに組み込まないことに同意した。Uberはまた、シリーズG-1ラウンド時のバリュエーション720億ドル(約7兆5000億円)に基づく同社の発行株式の0.34%を含む賠償金を払うことにも同意した。当時、その額は約2億4480万ドル(約256億円)と算出された。
TechCrunchが最初に報じた裁判資料によると、Otto買収の初期にUberは2019年までに自動走行車両7万5000台を走らせ、2022年までにドライバーなしのタクシーサービスを13都市で展開できると想定していた。そうした野心的な目標を達成するのに、Uberは自動運転テクノロジーの開発に1カ月あたり2000万ドル(約21億円)を使っていた。
同社がそうした目標の達成に近づくことは決してなかった。技術的困難、Waymoとの裁判、トラブルに満ちたレヴァンドフスキー氏との関係、そして2018年3月にアリゾナ州テンペで同社の自動運転テスト車両が起こした死亡事故など、ミッションは狂った。
事故を受けて同社はテストを中止し、過去18カ月はより対外的なオペレーションをゆっくりと展開してきた。自動運転車両開発の事業は多額の資金を要することから、Uberはトヨタ、車部品メーカーのデンソー、ソフトバンクのビジョンファンドから10億ドルを調達した後の2019年春にATGをスピンアウトすることになった。
公開企業としてUberがデビューする1カ月前にあったスピンアウトは、何カ月もの間、憶測の対象だった。費用のかかる事業を他の投資家と共有し、主要事業の業績と短期的な利益目標にフォーカスするための手段としてみられた。
Auroraは何を得るのか
トラブルはさておいて、Uber ATGはAuroraにとって魅力的な2つの重要かつ重大な要素を有している。人材とトヨタだ。
トヨタは2019年に現金を注入する前にUberに5億ドル(約523億円)を投資している。当時、2社は「Uber ATGの自動運転技術、トヨタの高度安全サポートシステムGuardianの強みを展開する」べく、トヨタのSiennaに自動走行技術を搭載したライドシェア車両の試験を2021年にUberのライドシェアネットワークで始める意向を発表した。
2019年のUber ATGへの投資により、トヨタのUberとの関係は深まった。
Uberが企業秘密窃盗に関する裁判でWaymoと対決している間に、Auroraは華々しく創業された。18カ月の間に同社はHyundai(現代自動車)、Byton(バイトン)、VW Group(フォルクスワーゲングループ)などと複数の提携を確保した。いくつかは立ち消えになったが、Fiat Chrysler Automobiles(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)といった大手との提携も獲得した。いす取りゲームのような変化は、自動運転事業における有望なプレイヤーが多いことを示すものだ。この業界は、よく知られていない事業者や最善の技術とディールを求める移り気な車メーカーで溢れている。
2018年1月にAuroraと提携したVW Groupは2019年6月に、「提携が終了した」ことをTechCrunchに認めた。VW Groupは最終的に、もう1つの自動運転車両テクノロジー開発会社のArgo AI(アルゴAI)に出資した。Argo AIはFord(フォード)からの出資と取引を獲得していた。
現代自動車はAuroraの少数株を保有している一方で、2019年秋に自動運転テクノロジー企業Aptiv(アプティブ)との合弁会社の設立を決めた。AptivとのディールによるMotional(モーショナル)という合弁会社の両社の持分は50%ずつとした。Motionalへの両社の投資総額は計40億ドル(約4200億円)となる見込みだ(エンジニアリングサービス、R&D、IPの合算額を含む)。
それでもAuroraは勝利を収めた。同社は2019年春、Sequoiaがリードし、AmazonとT. Rowe Priceからの「巨額投資」があったシリーズBラウンドで5億3000万ドル(約555億円)を調達した。Auroraの当時のポストマネーでのバリュエーションは25億ドル(約2620億円)だった。直近では、Aurora内ではDavid Maday(デイビッド・メディ)氏の部屋が特に活発だ、と業界筋は話す。Auroraの新しい副社長である同氏は、21年にわたってGeneral Motors(ゼネラルモーターズ)で事業開発とM&Aを統括した。
Auroraは常に、AVのブレインとなるソフトウェアとハードウェアを組み合わせた同社の完全自動運転技術は特定の車両に限定されないものだと述べてきたが、初期テストで同社はロジスティックではなくロボタクシーへの応用にフォーカスしているようだ。同社は2019年に、長距離トラックへの技術応用についてこれまでよりもオープンに語り始めた。特にBlackmore買収後に、応用により積極的になった。
Auroraは2020年7月、テキサス州に進出し、ダラス・フォートワースエリアでFiat Chrysler Pacificaのミニバンと大型トラックを使っての商業ルートテストを計画していると発表した。まずは少数のPacificaが当地に運び込まれるとされた。同社によると、年末までにトラックもテキサスの道路を走行する見込みだ。
Jumpの先例
よくわかっていないのは、Uber ATGの買収がどういう仕組みになるのかということだ。さらに重要なのは、果たしてAuroraがUber ATGに興味を持ち続けるのか、ということだ。たとえUber ATGのバリュエーションが若干減少したとして、外部からの追加の投資が確保できない限りAuroraの守備範囲を超えるか、Uberが株の一部を所有し続けるような買収構造にするか、となりそうだ。
後者の場合は先例がある。2020年初め、UberはLime(ライム)への1億7000万ドル(約178億円)の投資をリードした。複雑なディールの一環として、Uberは自社の自転車・スクーターシェアリング部門Jump(ジャンプ)をLimeに引き取らせた。
過去において、UberのCEOであるDara Khosrowshahi(ダラ・コスロシャヒ)氏がUber ATGを切り離そうと熱心だという噂は時々あった。しかし新型コロナパンデミックでそれは鳴りを潜め、同氏や他の同社幹部は配車サービスという主幹事業に注力し始め、デリバリーに賭けた。マイクロモビリティ部門とUber Freightのスピンオフに加えて、同社はローカルのライバル企業との競争でコストが増大していた世界各地の事業の多くを売却した。
2人の情報筋によると、Uber ATG売却への関心はJumpのディール後に大きくなった。
ある業界投資家はUber ATG売却を、やや上昇傾向であることの恩恵を受けつつATGを切り離すことができる、Uberにとって興味深いプランBだと表現した。
画像クレジット:JOSH EDELSON/AFP / Getty Images
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(翻訳:Mizoguchi)