D-Waveが5000量子ビット超の量子コンピュータAdvantageシステムを発表

D-Waveは米国時間9月29日、新しい量子コンピュータ「Advantage」を発表した。この新システムは、5000量子ビット(Qubit、キュービット)以上と15ウェイ量子接続の能力を備え、同社のクラウドコンピューティングプラットフォーム「Leap」で利用できるようになる。これは、6ウェイ接続を特徴とする従来のシステムの約2000量子ビットから大幅に増加している。従来のCPUとGPUと同社の量子システムを組み合わせたLeapのハイブリッドソルバーを使用することで、量子ビット数と接続数の増加により、ユーザーはより複雑な問題を短時間で解けるようになる。

D-WaveでCEOを務めるAlan Baratz(アラン・バラッツ)氏は「量子ビット数が2倍以上、接続数が2倍以上、超電導チップ上のデバイス数が5倍以上になっても、同じ時間でプログラムし、同じ時間で読み出し、同じ温度で実行することができます。」と説明する。同氏は自社のシステムを競合他社と比較することを恐れず「これは非常に重要なポイントです。というのも、長年にわたってD-Waveテクノロジーはスケールしないだろうと言ってきた、さまざまな専門家がいたからです。にもかかわらず、私たちはスケールした唯一の量子コンピューティング技術を持っています」と続けた。

D-Waveの競合他社の中には、時間をかけてシステムをスケールアップしてきた企業もあるが、D-Waveの量子アニーリングのアプローチは、競合他社が使っているものとはかなり異なる。

バラッツ氏が説明したように、この新プロセッサは新製造スタックを使用してゼロから設計された。来月にD-Waveは、ソルバーである離散二次ソルバー(Discrete Quadratic Solver)のメジャーアップデートも公開する。

「これまで我々のハイブリッドソルバーは、変数が2進変数である2進2次問題に取り組んできました。物理学者であれば、0か1、プラスとマイナス1の話です」とバラッツ氏。

変数を追加してスケールアップすることもできますが、限界があります。
今回の新しいシステムでは、開発者は最大100万個の変数を持つ離散変数を使えます。D-Waveは「開発者がシステムで取り組める一連の問題を拡大する」と主張している。例えば、スケジューリングはD-Waveのシステムにとってスイートスポットであり、今では企業が非常に大きな問題を解決できる領域の点だ。

同氏はまた「タンパク質のフォールディング(折り畳み)は、ユーザーが現実世界のより大きな問題の解決を検討できるもう1つの分野だ」と指摘した。

Menten AIは、現在タンパク質の設計にD-Waveを利用している企業の1つだ。

同社の共同創業者兼CEOのHans Melo(ハンス・メロ)氏は「我々は現在、タンパク質の設計に量子コンピュータを使用しています。ハイブリッド量子アプリケーションを使用することで、天文学的なタンパク質設計問題を解決し、新しいタンパク質構造の創出に貢献しています」と語る。「ハイブリッド量子法は、競合する古典的なソルバーよりも優れた解を発見が多く、非常に心強い結果が得られています。これは、より優れたタンパク質を生み出し、最終的には新薬の発見を可能にすることを意味しています」と続けた。

実際の使用例としては、例えばVW(フォルクスワーゲン)は、塗装工場のスケジューリングアプリケーションを実行するためにD-Waveのハイブリッドソルバーを使っている。カナダのSave-On-Foodsは、プロセスの一部を最適化し、計算を高速化するために試験的に使用している。

もう1つの新製品はD-Wave Launchで、企業が量子コンピューティングを使い始めるのを支援する新しいサービスだ。D-Waveは、企業と特定の分野の専門家、そしてAccenture(アクセンチュア)のようなパートナーとのペアリングを行い、これらのユーザーが量子コンピューティングの導入に成功するよう導く。

「これまで量子コンピューティングの開発者や顧客の多くは、同社の研究部門であり、システムを使って研究や実験をしたりすることを望んでいました。しかし、実際のビジネスアプリケーションを構築したいと考えている部門こそが、私たちが現在求めているものです」とバラッツ氏は締めくくった。

画像クレジット:D-Wave Systems

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(翻訳:TechCrunch Japan)

D-Waveが新型コロナ対策用に量子コンピューターへのアクセスを無料提供

D-Waveは、カナダにある量子コンピューティング企業だ。米国時間3月31日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応に取り組んでいる人なら誰にでも、Leap 2と呼ばれる量子コンピューティングのクラウドサービスへのアクセスを無料で提供すると発表した。これは新薬の開発に取り組んでいる人たちだけのものではなく、現在の危機を解決するために働いている研究者、チームなら誰にでも提供される。例えばロジスティクス、ウイルス蔓延のモデル化、あるいは新しい診断方法の開発など、分野は問わない。

D-Waveのプログラムをユニークなものにしているのは、すでに同社と他のプロジェクトで仕事をしている多くのパートナーを巻き込んだことだ。そこにはVolkswagen(フォルクスワーゲン)、デンソー、Jülich Supercomputing Centre、MDR、Menten AI、Sigma-i/東北大学、Ludwig Maximilian大学、OTI Lumionicsが含まれている。こうしたパートナーは、Leap 2を使って新型コロナウイルス危機の解決策を開発しようというチームに、エンジニアリングの専門知識を提供する。

D-WaveのCEOであるAlan Baratz(アラン・バラッツ)氏が私に語ったところによれば、このプロジェクトは約1週間半前に具体化し始めたばかりだという。その会話で同氏は、Leap 2を使用するチームは商用ライセンスを取得することになるので、開発したソリューションをオープンソース化する必要はないという点を強調した。また、通常D-Waveクラウドサービスを利用する際に標準的な、1月あたり1分という制限も課されることがないという。

「Leap 2はハイブリッドのソルバーサービスによって2月26日から利用可能となっています。これはかなり大きな問題を解くことができる量子コンピューティング機能です。現実世界における生産上の問題を解決する規模で、大きな課題を解くことができます」とバラッツ氏は述べた。「そこで私たちは、他に方法がなければ、これはパンデミックへの対応策を考え出そうとしている人たちの役に立つツールとなる可能性があると考えました。そして、これを利用可能にすべきだと考えたのです」。

同氏も、このシステムにアクセスすることになったチームが、実行可能なソリューションを考え出せる保証はないことも承知している。「それでも私たちは、このツールを公開しないのは、怠慢にあたると判断したのです」と述べた。

Leapは現在、米国、カナダ、日本そしてヨーロッパの32カ国から利用可能となっている。それらの国々では、D-Waveのパートナーも活動しており、研究者は同システムを無料で利用できるようになる。

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

D-Waveが量子クラウドサービスの最新版Leap2をリリース

D-Waveは米国時間2月26日、同社の量子クラウドサービスの最新バージョンであるLeap 2のローンチを発表した。これは開発者に量子システムへのリアルタイムのアクセスを提供するものだ。

D-Waveによると、18カ月前に前世代のサービスが開始され、それを使った何千人もの開発者のフィードバックを念頭においてLeap  2は開発されている。

Leap 2のコアとなるのはD-Waveの新しいハイブリッドソルバーで、最大1万個の変数を使って複雑な問題を処理できる。ハイブリッドシステムとして、D‐Waveはこれらの問題を解決するために、古典ハードウェアと量子ハードウェアの両方を使用する。

もちろんD-Waveは、この市場の他のプレーヤーとはまったく異なる種類の量子ハードウェアを使用している。量子アニーリングに焦点を当てているため、同社はノイズの問題を心配することなく、何千ものキュービットを持つマシンを構築することができるが、これは同時にユーザーがこれらのマシンで解決できる問題の種類を制限するものでもある。

Leap 2では、D-Waveのハイブリッドシステム用の新しい統合開発環境(IDE)も発表された。これにより開発者は、同社の最新のOcean SDKやツールを含む、プラットフォーム上で動作するソフトウェアを構築するための事前設定されたツールを入手できる。

「Leapにより、リアルタイム量子アクセスへの扉が開かれた。そしてLeap 2では、開発者と企業にビジネスアプリケーションの鍵を提供する。ハイブリッドシステムを提供することで、複雑さと問題の大きさに関連する多くの障壁を取り払う」と、D-WaveのCEOであるAlan Baratz(アラン・バラッツ)氏は2月27日の声明で語っている。「開発者や企業のリーダーは、自分たちのアイデアやイノベーションをビジネスに真のインパクトを与える量子アプリケーションに変えるためのツールとサポートを必要としている。量子アプリケーションを迅速に考案、構築、導入できなければ、新たな収益を獲得したり、業界が直面する最も困難な問題を解決したりすることはできない。Leap 2はこのギャップを初めて埋めるものだ」。

今のところ、Leap 2はD-Waveの量子コンピュータである2000Qを利用している。また準備が整い次第、同社のより強力なAdvantageシステムへのアクセスも提供される。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

D-Waveがハイブリッド量子プラットフォームを公開

初期の量子コンピュータのスタートアップD-Waveが、新製品「D-Wave Hybrid」の一般提供を開始することを発表した。これはオープンソースのハイブリッドワークフロー・プラットフォームで、開発者は通常のコンピューティングと量子コンピューティングを融合したハイブリッド量子アプリケーションを作ることができる。D-Wave Hybridは、同社の量子コンピューティング・クラウドサービスであるLeapの一部を構成するソフトウェア開発キット、Oceanの一コンポーネントとして提供される。

量子コンピューターは、量子チップを制御するために伝統的コンピューターが必要なため、基本的にほとんどがハイブリッドシステムだ。本プラットフォームは、D-Waveが最近発売した2000Qファミリーハードウェアおよび将来のシステムで走るアプリケーションを開発するための環境を提供する。

D-Wave HybridやRigettiなどのライバルが提供する類似のツールは、量子コンピューターをコプロセッサーとして有効な場面で使うアプリケーションを作るという使い方が一般的だ。さらにD-Wave Hybridは、今はまだ比較的能力の限られている量子プロセッサーで処理できるように、大きい問題を小さな部品に分解するときにも役立つ。

「量子ハイブリッド開発では、伝統的コンピューティングと量子コンピューティングの能力をすばやく組み合わせることができる。実際、われわれの量子テクノロジーを使うアプリケーションのほとんどは、伝統的コンピューティングと量子コンピューティングのハイブリッドとして動作する。現在多くのプログラムでCPUとGPUが協調して動作しているのと同じだ」とD-Waveの執行副社長・最高製品責任者のAlan Baratz氏は言う。「われわれのアプローチは実践的だ。D-Wave Hybridは、現行の問題解決の知識をハイブリッドプラットフォームに適用することで、ユーザーが段階的に量子の力を利用できるようにしている。こうすることでわれわれは、顧客が真の企業利益を得られるサービスを開発できる」

同システムの初期ユーザーであるVolkswagenは、トラフィックフローの最適化やその他の最適化問題に関わるさまざまな小規模の概念証明にこのシステムを使っている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

約17億円の量子コンピューターを無料で貸し出すD-WAVEの「Leap」、ついに日本でも正式公開

カナダの量子コンピューター企業D-WAVE Systems(以下、D-WAVE )は日本時間3月26日、同社の量子コンピューター「D-WAVE 2000Q」に無料でアクセスできるクラウドサービス「Leap」を、日本を含む33カ国で利用可能にすると発表した。これまではアメリカおよびカナダ限定の公開だった。

D-WAVE Systemsの量子コンピューター「D-WAVE 2000Q」

Leapは、D-WAVEが販売する量子コンピューターにアクセスできるクラウドサービスだ。その量子コンピューター「D-WAVE 2000Q」は販売価格が1500万ドル(日本円で17億円程度)とも言われ、さらにシステムを最適な状態で動作させるには専門家のサポートが必要だった。しかし、そのコンピューターへのアクセス権をクラウド上で貸し出すことで、誰もが気軽に量子コンピューターを使用することができる。また、本格的な開発者のためには1時間あたり2000ドル(約22万円)の有料プランも用意している。

これまで、Leapは(正式には)アメリカとカナダ限定のサービスであったが、今回の発表でEU、日本、アイスランドなど33カ国でも新たに利用可能になる。D-WAVE CEOのVern Brownell氏は、TechCrunch Japanの取材に対し「D-WAVEの日本顧客は、量子コンピューターアプリケーションという領域を真っ先に拡大してくれた人たちです。自動運転からデジタル広告配信の最適化、工場の自動化まで、彼らは様々な分野で素晴らしいイノベーションを起こしました」とコメント。

また、日本市場への拡大について同氏は、「私たちは何千もの量子コンピューターエンジニアのためにLeapを開発してきましたが、それを日本人の開発者にも届けることは私たちにとっても重要なマイルストーンの1つだったのです。今後も、日本マーケットは最新鋭の量子コンピューターアプリケーション、その専門知識、そして研究成果の生まれ故郷となるであろうと思っています」と話した。

D-WAVEはこれまでにデンソーやリクルートコミュニケーションズなどの日本企業と量子コンピューターアプリケーションの実証実験を進めてきた。同社は今回の発表と併せ、それらの実証実験が終了したと発表。今後はそのアプリケーションを実際のビジネスの現場へと応用していく。デンソーはD-WAVEの量子コンピューターによって開発した自動走行車を同社の工場に配置。そしてリクルートコミュニケーションズは量子コンピューターによって最適化されたTVコマーシャルを運用する予定だ。

量子計算機をNASA/Googleに売ったD-WaveのCEO Vern Brownellインタビュー

量子計算(quantum computing)のD-Waveにとって、今年はビッグな年だった。5月に同社は、NASAとGoogleが同社のD-Wave Twoコンピュータを共同購入して‘Quantum Artificial Intelligence Lab’(量子人工知能研究所)を作り、機械学習に関する最先端の研究を行う、と発表した。カナダのブリティッシュコロンビア州Barnabyの小さな企業であるD-Waveはこれまで、同社の量子計算技術に対して一部の科学者たちから批判も浴びてきたが、ここにきてNASAとGoogleが顧客になったことは、同社に大きな支持票が集まったことを意味する。

そこで、D-WaveのCEO Vern Brownellが先日サンフランシスコに来られたとき、本誌TechCrunchの本社にお招きして、D-Waveの概要と同社の過去から未来への軌跡について語っていただいた。日頃の本誌は量子力学や超伝道体などについて疎い方なので、通常のビデオインタビューよりも長くかかってしまった。でも、その17分はとても有意義な時間だった。そしてインタビューに応じていただいたBrownell氏は、とても心配りのできるお方だった(無知な私なんかに対して!)。

インタビューの最後に彼は、シリコンバレーのスタートアップ環境について語り、これからのファウンダやエンジニア、そしてとくに投資家たちは、もっと困難な問題に挑戦してほしい、と述べた。この部分が私はとくに好きだけど、それはだいたい16:10あたりだ:

“ちょっとがっかりしていることがあるとすれば、それは、世界の未来を大きく左右する本当に革新的な技術に、今の投資家たちがほとんど関心を示さないことだ。ゲーム企業やTwitter、Facebookなどの企業も立派だけど、人間の生き方を根本的に変えるものではない。でも、成果を生むために何年もかかるような革新的な研究やハードウェアの開発に取り組んでいるところは、投資も乏しいため、とても少ない。そのことが、とても不満だ。

でも、いつかは時計の振り子の振れる方向が変わって、技術開発よりも科学研究の方が重視される時代が来ると思う。ちょっとした思いつきではなく、新しい科学を技術に変えていくことの方が、ずっと重要なのだから。”

量子チップの動作原理や、D-Waveが浴びた批判、量子計算技術によるクラウドサービス、学問と技術の橋渡し、などなどの話題については、上のビデオをご覧いただこう。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))