VCと起業家の合宿プログラム「Incubate Camp」:ピッチ最優秀賞はD2CファッションブランドのIMCF

国内の有力VCと起業家による1泊2日の合宿型アクセラレーションプログラム「Incubate Camp」が、9月14日と15日の2日間で開催された。同プログラムは今年で11年目の開催だ。運営元のIncubate Fundは日本のスタートアップ投資業界を長らく支えてきた存在で、1999年の設立以来、GameWith、サイボウズ、gumiなど今や上場企業となったスタートアップを輩出してきた。

Incubate Campの特徴は、複数のVCファンドから招待されたキャピタリストが「メンター」となり、起業家と二人三脚で事業計画をさらに練り込んでいくという点だ。

メンターとなるベンチャーキャピタリストは、起業家による初日のプレゼンテーションと1対1のメンタリングを経て、合宿終了までタッグを組むことになる起業家を選出する。選出はドラフト方式だ。その後、メンターと起業家の両名は夜通し会話を重ね、2日目の最終プレゼンに備えるというシステムだ。この記事では、その最終プレゼンで最優秀賞を獲得したスタートアップを紹介しよう。

合計16社が参加したIncubate Camp 11thのピッチイベントで優勝したのは、D2Cモデルのファッションブランドを複数展開するIMCFだった。

写真左より、IMCF代表取締役の吉武正道氏と、メンターを務めた伊藤忠テクノロジーベンチャーズの河野純一郎氏

IMCFは日本発のグローバルファッションブランドを創出することを目指すD2C型ファッションブランドだ。従来はファッションデザイナー自身が行っていた販促やセールスなどのビジネス業務をデザイナーから切り離し、それを自社で引き受ける。そうすることでデザイナーは本来のやるべき「デザイン」に集中でき、結果的に複数ブランドを素早く立ち上げることを可能にしているという。

IMCFはこれまでに3つのファッションブランドを立ち上げ、そのすべてが単月黒字化している。代表取締役の吉武正道氏は「どんなデザイナーでも、最低限のマネタイズを実現することはできる」と話す。現在はファッションデザイナーとの相性がよいInstagramを中心にマーケティング実施。2018年4月には6000万円の資金調達も実施している

IMCF以下、2位は採用管理システムのHERP、3位は遠隔医療のAMI、4位は同点で在留外国人向け不動産プラットフォームの東京ハースと、睡眠データによる組織改善サービスのO:(オー)だった。また、前日のプレゼンからの“伸び幅”が一番大きかった起業家に贈られる「ベストグロース賞」を受賞したのは、サロン型ファッションブランドのモデラートだった。

Incubate Campに参加した全16社については、近日公開予定の記事で紹介する予定だ。

採用とは候補者の人生の時間投資を引き出すこと——TechCrunch School #12:キーノートレポート

写真左から:インキュベイトファンドGeneral Partner 和田圭祐氏、HR Partner 壁谷俊則氏

TechCrunch Japanでは今年3月から4回にわたり、イベント「TechCrunch School」でHR Techサービスのトレンドやスタートアップの人材戦略など、人材領域をテーマにイベントを展開してきた(過去のイベントについてはこちら)。HR Techシリーズ第4弾として12月7日に行われた「TechCrunch School #12 HR Tech最前線(4) presented by エン・ジャパン」では「スタートアップ採用のリアル」をテーマに、キーノート講演とパネルディスカッションが行われた。この記事では、キーノート講演の模様をレポートする。

登壇者はインキュベイトファンド General Partnerの和田圭祐氏とHR Partnerの壁谷俊則氏。インキュベイトファンドは創業期の投資・育成にフォーカスしたベンチャーキャピタル(VC)だ。キーノートではVCの立場から、スタートアップの採用戦略や支援の手法について紹介してもらった。

最初に和田氏がインキュベイトファンドの投資の取り組みについて説明した。インキュベイトファンドでは、4名の共同パートナーにより、累計300億円、300社のポートフォリオを運用。会社設立前のプレシード期から積極的に事業相談に応じている。最近では金融・医療・エネルギーなど既存の大きなマーケットに切り込む戦い方をするスタートアップや、研究開発を行い難易度の高い技術を活用する企業も投資先に増えているそうだ。

背景には、VCへの資金流入が増えていることがある。既存産業の主要プレーヤーである大企業も、スタートアップに期待をして資金を投入している。「こうした資金の最大の使途は基本的には人材だ」と和田氏は言う。「人材は事業の成長の加速度や成否が大きく左右される、最大のファクターだ。資金流入の加速により、数年前に比べても、CxOになる人たちは明らかにハイスペックな人が増えているという実感がある」(和田氏)

そうした状況下、資金を提供するだけではなく、採用の支援も行おうということで、4月からインキュベイトファンドのHR専任担当に就いたのが壁谷氏だ。壁谷氏はフューチャーベンチャーキャピタルを経て、人材紹介事業を行うクライス&カンパニーでマネジメント領域の転職支援、ランスタッドでキャリアコンサルタントのマネジメントを行った後、インキュベイトファンドに参画。現在は、投資先企業20〜30社の採用ステージを支援しているそうだ。

スタートアップ創業初期の採用は創業者の個人戦

スタートアップにおける採用のやり方は、創業初期の初めの5人を集める段階と、組織全体で数十人規模の採用を行っていく段階とで、かなり変わっていく。「それぞれのフェーズでどう採用を行っていくか、またフェーズによる差異をどう吸収していくか、ということを悩んでいる企業は多い」と和田氏は言う。

VCが投資を行い、採用活動をサポートする場合は、初めの5人の段階で手伝うことが多く、パートナー自身のネットワークの中で一緒に人を口説くこともやる、と和田氏は話す。「このタイミングでは創業者のカリスマ性やリーダーシップ、プロダクトにかける情熱など(を武器に)、アナログな戦い方で一人ひとりタレントをそろえる。プロダクトや会社としての実績、基盤や組織もできていない状況では、社長の魅力で勝負していくことになる」(和田氏)

このフェーズでは、投資は決定しているがファウンダーが一人しかいない。だが、やろうとしていることの規模感から考えると一人ではとても足りない、という状況だ。VCは、事業戦略に合わせてどんなコアメンバーが必要で、それぞれがどういったスキルセットをどれくらいの基準で持っていなければならないのかを創業者と徹底的に話し合い、バイネームで誰が欲しいかまでを記すような、具体的なスカウトリストを一緒に作ると和田氏は言う。

「ファウンダーのネットワークの中で候補となりそうな人を共有しながら、VCのネットワークでも該当しそうな人がいれば紹介していく。候補者の感触が良ければ、継続的にコミュニケーションを取っていく」(和田氏)

候補者を口説くプロセスについては、和田氏はこう話している。「初めからいきなり、『これから立ち上がるスタートアップに参画してくれ』といっても、なかなか踏ん切りが付かないものだ。また優秀な人ほど、今の職場でも非常に評価されていたりする。そこで時間をかけ、事業のアップデートがあれば随時、丁寧に伝え続けて口説くという手法をとる」(和田氏)

採用候補者がスタートアップや経営の経験を持つ人材の場合は、創業者の強みや弱み、癖などを客観的に見てどうかといった意見も、VCに対して求められることがあるという。また、どういうチームプレーやサポート関係になれば理想的になるか、と聞かれることもあり、ナンバー2、ナンバー3としての働き方をサポートしていくこともある、と和田氏は述べる。

採用強化フェーズで大切にしたい3つのポイント

初めの5人を集めた後は、数十人規模へ組織化していくフェーズへと移る。ここからは壁谷氏から、チームづくりと採用について説明してもらった。

このフェーズは、資金調達から人材採用に大きく舵を切り、会社全体の組織戦として採用を強化するとき。引き続き10人に満たない時点では、経営陣はアナログに採用を行いつつも、事業も大きくなり、忙しくなってくるため、それだけでは追いつかなくなってくる。壁谷氏は「この段階からは、採用の入口から出口までプロセス全体を設計し、アプローチからアトラクト(魅力付け)までをしっかり選んでやっていかなければならない」と話す。

また、この段階では最初期とは違い、サービスや事業の実績・評判、プロトタイプなどの先進的な事例は出ているはず。それを表に出して共有しながら「この事業を一緒により拡大していくために、皆さんの力が必要です」ということを伝えていくことになる。「(創業者の)思いだけではなく、事例も合わせて伝えていくことが必要になってくる」と壁谷氏は言う。

そして会社がまだ十数人規模の段階では「会社のメンバー全員が採用担当です」と言い切って採用活動が行える環境をつくることが大事だと壁谷氏は言う。「そういう意味では社長一人の努力でなく、組織文化や各人の業務範囲、権限委譲なども重要なファクターとなってくる」(壁谷氏)

投資先の採用強化フェーズで、壁谷氏がVCとして大切にしている点が3つあるという。1点目は採用計画の共有。事業計画を形にするためには、どういう採用を実現しなければならないかを共有し、採用フローの全体像を把握する。この時点ではメガベンチャーでもない限り「あらゆる手段を使って」採用を行うにはリソースが足りない。どの手段をとるかを決めて、採用をスタートしていく。

2点目は、誰を採るか、採用人材のターゲティングだ。「ややもすると『うちのようなスタートアップに来てくれる、アツい、イケてる人』といった漠然としたターゲットになりがち。『今どの会社で何をしている人が必要で、そうした人が自社のようなスタートアップに来る動機があるとすれば、転職理由はここなのでは?』と仮説を持ってターゲットを設定していくことが必要。仮説をたくさん持つことでターゲットを広げていくことはあり得るが、ぼんやりとしたターゲットにすることは適切ではない」(壁谷氏)

ターゲット設定はなぜ必要なのか。壁谷氏は3点目の「採用広報」と関係があると指摘する。「自社ホームページやWantedlyなどで採用広報をかけていくときに、ターゲットと仮説が曖昧だと、出すメッセージも曖昧になる。この人に読んでほしい、こういう志望動機の人に見てほしい、というのがなければいけない。ターゲットがハッキリしたら採用広報を強化し、事業ビジョンやマーケットの課題、それを解決するための自社のポジショニングなどを発信していく」(壁谷氏)

同時に資金があるなら、リソース不足を補うために人材紹介会社も活用できるが「ここでも、情報やターゲットをしっかりとエージェントに展開しなければいけない。何となくいい人連れてきてください、ということでは良い人材は出てこない」と壁谷氏は話している。

転職者の「企業選定」「面談」には手厚く対策すべし

続いて壁谷氏は、採用で起こりがちな課題を“打ち手”ごとに紹介した。

上図の左側の課題に対して、右側のような状況になることが理想なのだが、どうすれば“意図的に”そうした状況を作っていけるのだろうか。

壁谷氏は「企業側の採用フローと転職者の応募のフローを並べてみたときに、企業側は転職者の『企業選定』と『面談』への手当が抜けていることが多い」と指摘する。「企業側の採用フローの中で、転職者の企業選定と面談への対策は『アプローチ』と『面談』の間ぐらいにあるのだが、ここへの手当が少なくなっている」(壁谷氏)

では具体的に、どのように手を打てばよいのか。まず、採用候補者が企業を選定するフェーズでの対策について、壁谷氏は「この時点では転職者は、自分の興味関心のある分野の企業や共感できるビジョンを探している」と説明する。

転職者が企業情報から何を読み取るかといえば、

  • 事業領域、マーケットの伸び
  • 事業モデルのユニークさ、競争優位性
  • 経営チームの経歴や社長メッセージへの共感度
  • ポジションの魅力、将来的なキャリアの展望

といったポイントだ。壁谷氏は「このあたりのポイントをコンテンツとして出しておかなければ、そもそも次の面談に進まない。採用広報コンテンツには、これらの要素を盛り込んで発信することがとても大事だ」と言う。そこで壁谷氏が勧めるのは「採用PITCH資料」の作成だ。

壁谷氏の言う採用PITCH資料とは、求職者向けに会社のことを知ってもらうために、ファイナンスやプレゼンコンテストとはまた別に用意するピッチ資料のこと。この資料を作ることこそが採用コンテンツを作るためのベース作りになるのだと壁谷氏は言う。「我々はVCとして、いろいろな会社からプレゼンテーションを受ける。経営者は、まだ会社を立ち上げる前からしっかり資料を作り込んでピッチを行うが、それは我々から投資を引き出すため。だが採用も、候補者の人生の時間を直接投資してもらうことだと考える。もう戻らない、かけがえのない時間をその人から引き出すためには、その人が魅力に思い、自分の時間を投資してもいいと思えるような情報を伝えていくことが必要だ」(壁谷氏)

壁谷氏が言う「採用PITCH資料」に盛り込むべき内容は以下の通り。

  1. Vision・事業概要・会社情報
  2. メンバー紹介/ボードメンバーの経歴概要
  3. マーケットの課題(現状)と自社のポジショニング
  4. 今後の成長戦略
  5. サービス導入のケースと顧客の声
  6. チーム体制・組織図(現在→1年後→3年後)
  7. 採用ポジション情報
  8. 今のフェーズで入ることの面白さ、魅力
  9. ニュース、職場風景、イベント記事等の掲載

このうち、1〜5については、資金調達の際に作るようなピッチ資料でカバーされているはずのコンテンツ。6〜9が新たに採用候補者向けに盛り込むべき内容だ。

チーム体制や組織図については、事業戦略をもとに「事業計画通りに行けば、1年後、3年後にはこういう組織になる」というものがあれば、候補者にとって「今入社すれば3年後にどれぐらいの組織体になっていて、このポジションになっているんだろうな」ということがイメージしやすく、自分の時間を投資して良いかどうかを判断しやすいという。

これらの情報がきちんと準備され、四半期に1度ぐらいで更新されていれば、採用広報の場面では情報を「Twitterでどう出そうか」「Facebookでどう展開しようか」という出し方を考えればよい、というわけだ。壁谷氏は要素を盛り込むときには、Wantedlyの「なにをやっているのか、どうやっているのか」といった「問い」が参考になる、とも話している。

次は、採用候補者が企業と面談するフェーズでの対策について。ここで言う「面談」は正式な「採用面接」の前段階に当たる、カジュアルな面談のことだ。壁谷氏は、キャリアコンサルタントとしての経験から「面談・面接・相談はそれぞれ言葉が違う。面談とは何か、ということをきちんと定義しておいた方がいい」と語る。

「私としては、面談とは、候補者が今までどんな思いでどういうことをやってきたかというキャリアの棚卸しをし、次に将来ビジョンやその人の持つ仕事の価値観を引き出した上で、では一緒にこれから、こういうキャリアストーリーを描いていこう、ということを出していく場だと考える。最終的には、企業の人事や採用に関わる人が協力し、自社への強い応募動機につなげることを目的とするものだ」(壁谷氏)

この目的のために面談で実施することは、候補者の仕事力、価値観、状況、意思決定のポイントの“確認”と、自社からの事業ビジョン説明、候補者を理解した上でのやりがいの提案、キャリア価値の提案・共有といった“情報提供”だ。

壁谷氏は、スタートアップの悩みとしてよくある「たくさんの候補者に会っていても、候補者の志望動機が上がらない、次のステージへ進まない」というのは、上で述べられたような意図・目的で面談に臨んでいないからだ、と指摘する。

「企業側の採用フローにおける面談も、人材紹介会社が候補者にやっている面談と同様に、意図を持ってやらなければいけない。目的を見失うと、カジュアル面談の場で自分たちまで“カジュアル”になってしまう。演出上、敷居を低く、接点を多くしてカジュアルに面談を行うのはよいが、目的をイメージして面談に臨んでもらいたい」(壁谷氏)

意図・目的を持ち、面談の実施がうまくいけば、必ず次の正式面接に強い志望動機や高いモチベーションを持って、候補者が進んでくれる、と壁谷氏は話す。「採用情報の提供のときに事前の情報提供をしっかり行い、面談のときにも採用PITCH資料を渡せるといい。そして面談の中で候補者のキャリアの棚卸しにきちんと協力して、『うちで働くとこういうキャリアイメージがあるが、それはあなたにとってどうだろう』という話をし、本当に興味があって仮説が正しいと思ってもらえる人に正式にエントリーしてもらう。これでぐっと採用力は上がってくる」(壁谷氏)

エージェントが紹介する「最初の3社」に選ばれるために

壁谷氏はさらに「人材紹介会社をうまく使うということも、スタートアップ企業にとっては大事なこと」と続ける。採用エージェントとの関係においても「普通に声だけかけると、エージェントの担当者にも企業開拓のノルマがあるのでアポイントはいっぱい入ってくるが、本当に(人材を)出してくれるかどうかは分からない」と壁谷氏は明かす。

その理由は、エージェントビジネスの儲けの構造にある。エージェントは、人材を獲得しやすい案件で、書類選考から内定までの通過率が高く、採用者の年収が高くエージェントフィーの率もよい案件を好む。しかし「スタートアップ企業への人材紹介ビジネスは『市場の失敗』領域じゃないかと思えるぐらい逆」と壁谷氏は言う。

「全然知られていないスタートアップでは応募への反応がない。また、高スペックの人を選びながら採用に至らないことも多いので、エージェントの気持ちも萎える。さらに採用者の年収が低めでフィーも安くしてくれ、と言われるとエージェントとしてはやりたくなくなる」(壁谷氏)

もちろん人材紹介会社の中にも、スタートアップにぜひ人を紹介していきたい、という志ある人はいるが「経済合理性だけでは難しい。気持ちや社会的意義でやってくれるというエージェントは、ぜひ大事にしてほしい」と壁谷氏は言う。

また、壁谷氏は「担当エージェントのマインドシェアを高めることも重視しなければならない」と言う。エージェントの1カ月あたりの候補者との面談数は、キャリアコンサルタントとリクルーティングコンサルタントを兼ねる一気通貫型の担当で20名、分業型の場合で40〜80名。つまり分業型の場合、1営業日あたりで見れば2名以上、多い会社では5〜6名と面談することになる。

「1時間の面談の中で、エージェントは30分は候補者の話を聞く。後半20分で企業案件の提案をし、最後の10分で諸々の手続きなどを行うとすると、案件の説明には1社あたり5〜7分かかるので、提案できるのは平均3社ぐらい。スタートアップはエージェントと候補者の初回面談のときに、対面で提案するこの3社の中に入っていかなければいけない。それ以外の会社は『こういう候補もありますので後で見ておいてください』となってしまう」(壁谷氏)

エージェントがちゃんと熱を持って語った会社なら、スタートアップであっても魅力に感じてもらえるし、志望動機は上がっていく、と壁谷氏は言う。では担当者のマインドシェアを高めるためには、どうすればよいのか。

壁谷氏は「特に分業型エージェントの場合、リクルーティングの担当者だけではなく、候補者と対面するキャリアコンサルタントの手元に自社に関する情報がすぐある状態を作らなければならない」と説明。これは採用PITCH資料があればできる、と話す。

「話題が多ければ、エージェントは候補者に話したがる。またFacebookやYouTube、Twitterなどでの情報発信も、エージェントへの提供材料となり、印象も変わる。こうしたコンテンツ、ネタがあればあるほど最初の3社に入りやすい。誰かに話したくなるような、ユーザー体験をエージェントに持ってもらうことも大切。エージェントと経営陣との接触機会を増やしていくこともよいだろう。そうすることでエージェントのマインドシェアを高めていくことができ、(明確な)志望動機を持ったよい候補者が出てくるようになる」(壁谷氏)

「ダイレクトリクルーティングを行う場合にも同様だが、面接をするまでにどれだけ仕込みができるかに採用成功はかかっている」と言う壁谷氏。「そのためには、最初にも話したとおり、ターゲティングから仮説を考え、最適な情報提供をしっかりしていくことだ。スタートアップはどの企業よりもそれをやらないと、放っておくと情報は勝手に薄くなっていくので、それを意識すべきだ」と語り、キーノート講演を締めくくった。

インキュベイトが100億円の4号ファンド組成、シード期VC輩出視野に50億円の新FoFも同時に発表

独立系VCのインキュベイトファンドは今日、100億円規模となる4号ファンドの組成中で年内にクローズすることをTechCrunch Japanへの取材で明らかにした。2015年1月に組成した110億円の3号ファンドに続くもので、3号のスタイルを踏襲して、シード投資と、それに続くフォローオン投資をしていく。4号ファンドの出資者(LP)は事業会社のほか政府系機関、金融機関を含む。

インキュベイトファンド、ジェネラル・パートナーの和田圭祐氏(左)と村田祐介氏(右)

 

3号ファンドのファンドのパフォーマンス(収益性)が良いことから、4号ファンドの投資スタイルも「既存産業の変革を支援するもの」(インキュベイトファンド、ジェネラル・パートナー和田圭祐氏)を中心としていく。ただ、これまで変革のカギがスマホだったところは「コネクテッドな産業領域に広がってくる」(和田氏)といい、これまでゲームやメディア、SaaSなどネットで完結してた事業領域が「ネットの真ん中から染み出している。その染み出し方が深くなる。そこにゼロイチにこだわってシードから投資していく」(同)という。

これまでのFintechやシェアリング、電力系スタートアップなどへの投資に加えて、現状で市場が存在しないものの、もしあれば大きな伸びが見込まれる宇宙やMR、ドローンといった研究開発先行型の領域にも踏み込む。すでに3号ファンドでも月面資源開発事業のispaceや今年LINEが買収したバーチャルホームロボットGateboxのウィンクルなどへの投資実績がある。

ファンド・オブ・ファンズの取り組みを切り出し、新ファンド「IFLP」を始動

インキュベイトファンドでは4人のジェネラル・パートナーが対等なポジションで投資・運用をしてきた。それに加えてファンド資金の一部を若手VCに任せて子ファンドとして運用する、いわゆる「ファンド・オブ・ファンズ」(FoF)の取り組みも行ってきた。TechCrunch Japanの資金調達の記事でも何度も出てきている、プライマルキャピタルIF Angelソラシード・スタートアップスなどは若手VCによるインキュベイトファンドの子ファンドだ。それぞれ元本のリクープも見えていたり、大きなリターンを出してキャリー(キャピタルゲインに比例してVCが得る成功報酬)を得ている若手VCもいる。

これまでインキュベイトファンドでは、こうしたFoFの仕組みで17本(33億円)のファンド、10人以上のVCを輩出してきたという。

このFoFの取り組みを切り出して、新たに50億円規模のファンドとする「IFLP」を年始にも開始する。IFLPには9人のジェネラル・パートナーを置き、それぞれにIFLPから5億円を出資する。各ジェネラル・パートナーは自らの裁量で外部LPから引っ張ってきた資金を足して最大10億円のファンドとして投資を行うことになる。

シード期投資ができるジェネラル・パートナーが日本には圧倒的に足りていない

ベンチャーキャピタルのファームは、戦略コンサルなどと同じでパートナーにならない限りは下積み。伝統的な組織型VCはパートナーになるまで何年もかけて組織階層の中で出世するモデルだったが、もともとインキュベイトファンドは金融系VCから独立した4人のパートナーが運営している「パートナー型」のフラットな形態。「アソシエイトには、いずれ辞めてもらう前提で入ってもらっている。最低3年、最長5年と言っている」(インキュベイトファンド、ジェネラル・パートナー村田祐介氏)というスタイルだ。一人前になったらファンドレイズ(ファンド組成のために事業会社や金融機関から出資を募ること)をやって独立しろ、ということだ。

ただ、駆け出しの若手VCにとっては、ファンドレイズはもちろん、ファンド管理業務やLP報告業務など「重たい」タスクが多い。だから、そうしたVC共通の業務についてはFoFならインフラを共有することで、より多くの若手VCが育つ土壌を用意する。初号ファンドを立ち上げるタイミングくらいの若手VCのプラットフォームを作る、というのがインキュベイトファンドがIFLPを開始する理由だという。

インキュベイトファンドの前身となるインキュベイトキャピタルパートナーズを1999年に設立した赤浦徹氏は、シード期のゼロイチのフェーズで投資ができるジェネラル・パートナーを日本に増やしたいとの思いが強く、米国などスタートアップ先進国と、VCの質でも量でも差が開くばかりだという焦りがあるという。「1人のVCがピカピカの起業家10人を送り出せるとすると、ジェネラル・パートナーを増やしたほうが経済波及効果が大きいのではないかと思っています」(村田氏)

VCの多くは、経営や事業創造の手助けをする、いわゆる「ハンズオン投資」を行うが、インキュベイトファンドではシード期や、シード以前から事業アイデアについて起業家に近い目線で強力な支援を行うスタイルで知られている。

いま日本のスタートアップ界隈では資金が集まりすぎで、スタートアップ企業の数が足りていないと言われている。ただ、起業家が足りないというのは現実である一方、その理由としてVCが起業家となるべき人に出会って事業化の構想を一緒に考えるようなシード投資が少ないという面もある。昨今数も量も増えているCVCはシード期でのリスクを取りづらい。日本でも成功した起業家たちによるエンジェル投資が増えているが、それでも人数的にも金額的にも足りてないのが現状だ。こうした中、立ち上がるIFLPの取り組みがスタートアップ・エコシステムに果たす役割に注目が集まりそうだ。

若手VCによる丁寧なハンズオン型投資でシードのディールを増やす

インキュベイトの4号ファンドも含めて、日本のVCファンドの規模が大きくなっている結果、1回あたりの投資金額、いわゆるチケットサイズが大きくなっている。このためシード期の小さな投資領域が、いまの日本でエアポケットように空いてしまっている、というのが村田氏の見立てだ。本当は2、3000万円あればプロダクトを2回くらい作り直してキャッシュフローを作るところまで行けるチームがあるのに、そこへのシード投資が足りていない。インキュベイト3号ファンドの子ファンドによる出資は、そうした領域において、新しい市場やトレンドに敏感な若手VCが素早く投資して成長させるモデルがうまく行っている。中長期の継続投資になる研究開発型へ本体ファンドが踏み出すのと対をなすかのように、IFLPによる9つの子ファンドにより小回りの効くシード投資の領域もカバーしていくことになるかっこうだ。

ファンドへ出資するLPから見ると、FoFの仕組みは「ゲートキーパー」の役割も果たすことなるかもしれない、と村田氏は指摘する。小さなファンドに対して少額出資する判断を事業会社や機関投資家が個別にやるのは困難だ。多数の子ファンドを束ねた親ファンドであれば、機関投資家が資金を入れやすい。

インキュベイトファンドは、前身となるインキュベイトキャピタルパートナーズの1999年の設立以来、累計300億円以上の資金で300社以上のスタートアップ企業へ投資している。また、創業期に近い起業家と、日本のVCを繋ぐ場としてシードアクセラレーションプログラム「Incubate Camp」を2010年から運営をしている。

AIで発音や表現のレベルを診断、新英会話アプリ「TerraTalk」のジョイズが1.5億円を調達

元ソニーのエンジニアだった柿原祥之氏が2014年末に創業したジョイズは今日、AI英会話アプリをうたう「TerraTalk」のAndroid版をローンチした(iOS版は4月予定)。同時に、シードラウンドとして独立系VCのインキュベイトファンドから1.5億円の資金調達したことも発表している。

TerraTalkは音声認識や自然言語解析技術をベースに、利用者のスピーキングのレベルを「発音」「流暢さ」「表現」の3つに分類してフィードバックしてくれる。フィードバックというのは具体的には100点満点の点数付け。この評価をするのは人間ではなく、クラウド側のコンピューターだ。柿原CEOによればTerraTalkの技術的な差別化要因は、既存の言語解析エンジンを使うのではなく、先行研究を参照しつつ「音波→音素→単語→センテンス」といった音声認識のエンジンをエンド・トゥー・エンドで自社開発しているところだそう。なぜなら、既存の音声認識技術というのは実用でも研究でもネイティブが話していることを前提にしている。その前提で設計して研究データも集めているため、ノン・ネイティブ、しかも学習用途にチューニングしていくのは全然別の話なのだという。

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スピーキングのレベルを点数で評価

発音の良さの判定は音声認識エンジンによって、どれだけ曖昧さがなく聞き取れるかを基準の1つにしているという。また「表現」というのは、どういう構文を使っているのか、文法に間違いがないかなどを見ているそうだ。ローンチ時点でどの程度の精度でスピーキングレベルの判定ができるのか、ぼくはまだ見ていないので良く分からないが、自分のスピーキングに点数が付くことでゲーム感覚で繰り返し上達を目指すという動機付けの仕組みは分かりやすい。

柿原CEOは「ゆくゆくは採点だけではなく、指導がやりたい」と話す。特定の間違いのパターンについて、なぜ間違いなのか、どう直すべきなのかを指摘するような方向性だ。時制や冠詞、前置詞の誤りを指摘するなどは比較的やりやすそうだし、もし別の言い方を提示するパラフレーズのようなことまでが技術的に数年程度で実現可能なのだとしたら、これはとても面白いチャレンジになりそうだ。生身の人間の英語の先生がベストだとしても、AIで代替できる部分は大きそう。

いろんな役になりきって会話

どういう会話を吹き込むのかというと、「恋人との会話」「ウェイター」「ハリウッドスター」「ソフトウェアエンジニア」「婚活女子」「大学の新入生」「ホテル客室係」「空港のバゲージクレーム」などといったシチュエーションにに沿ったもの。それぞれのシチュエーションで「ロール」(役割)が設定されていて、TerraTalkを使った学習者は、役(ロール)になりきって会話の穴の部分を音声で埋めていく。対話は時間にして約2分。ユーザー側は7〜10発言程度で完結し、これを1レッスンとする。すでに書いたようにレッスン後には「発音・流暢さ・表現」が100点満点で表示される。

ローンチ時点では12のロールが用意されていて、それぞれに10〜15レッスンが含まれる。実は同じレッスン項目であっても会話の流れは枝分かれ状に分岐が起こる。事前に設定されたシナリオがあって、結末は結構違ってくるそうだ。例えば、恋人を怒らせてしまうこともあるんだとか。仕事関連だとミッションが完成するものが多いそうなので、ビジネスパーソンの営業トークの練習なんかには向いているのかもしれない。

ターゲットはグローバル、中級以上の英語学習者

ローンチ直前のデモ画面を見せてもらった感じだと、英語初学者には難しそうに見えた。初学者だと、そもそも何をどう言っていいのか分からずに画面の前で固まってしまうのではないかと思う。例えば、こんな感じだ。「空港で荷物がなくなりました、バゲージクレームで苦情を言います」というような前提が英語で表示される。続いて、いきなり空港スタッフに英語で話しかけられて、さあどうぞ何とか言って目的を達成してくださいという風に進む。模範解答や文例集はない。

ターゲットは「英語はいろいろやったけど1度挫折したくらいの人」や「グループ英会話をやっている人で会話量が足りていないと感じている人」などで、一定レベル以上の英語学習者。初学者向けには他に良いアプリもあるので、そこを超えた層に訴求していくという。

柿原CEOによれば、すでに会話練習など英語学習に取り組む人は国内に200万人いるそう。ただ、TerraTalkのシナリオ自体は英語ベースで対話が進むものなので、学習者の第一言語への依存度は低い。だからTerraTalkのターゲット市場はグローバルだ。まずは日本でローンチするものの英語で英語を学ぶ層に対してもリーチしていく。矢野経済研究所の調査(PDF)によれば国内大人向け語学教室は2100億円程度だが、ワールドワイドの英語学習市場は4.3兆円にもなるという。ソニー在籍時代に柿原CEOが個人で作っていた英語関連サービスはインドやパキスタンで人気となるなど、もともと日本国内だけを市場として見ているわけではないという。

ニッチなシチュエーションでもスケール可能という利点

TerraTalkが面白いのは、生身の英語の先生の劣化版というより、むしろ人間よりも有利なことがあるという点だ。

例えば、特定シチュエーションに対応できる人を探さなくて良いというマッチングの効率の良さがある。ローンチ時のロール数は12だが、年内には100程度に増やす。どんなニッチな話題であってもシナリオさえ作れば、労働集約型の英語学校と違って、いくらでもスケールできる。柿原CEOは「特定の職業に紐づくようなものは掘り下げたいです」と話していて、「例えば民泊のホストをやるために必要な英語ってありますよね。クレーム対応とか」と例を挙げる。人間の先生と違って同じロールプレイングを何回、何十回やっても退屈そうな顔をされずに済むということもあるかもしれない。

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ジョイズ創業者で代表の柿原祥之氏

柿原CEOの狙いは明確だ。「言葉はあくまでもツールなので、必要なシチュエーションだけでも使えるようになることが重要です。その上で何をするのかは人それぞれ。そこまでは誰でもできるようにしたい」という。例えば、これまでSkype英会話などでは、既存の教材やネット上の記事をシェアして先生とそれについて話すということになりがち。これだとトピックが一般的すぎて学習者のニーズを満たすとは限らず、なかなか日々の実用英語の場面で実力の伸びが感じづらいのが問題ではないか、ということだ。

TerraTalkは当初無償提供として、3カ月をめどにフリーミアムへ移行するそう。レッスン数が10以下なら無料で、それ以上は月額980円とする。年内50万DL達成を目標としている。

4年半のソニー在籍時代には後付型カーナビのソフトウェア開発に携わっていたという柿原CEOは、2014年末の起業時は27歳。16歳で日本の進学校を辞めて単身渡英。イギリスの高校、大学を卒業してソニーに新卒入社している。自身が英語を身に付けられたのは、そうした留学を許してくれた親や環境に恵まれたことがあるとして、「語学の習得は大博打になりがち」という現状を問題とみているという。留学のように思い切った時間的投資を必要とするからだ。そうではなく、英語学習を誰でもやろうと思えばできるという本当の意味での選択肢にしたいという。「どんな人でもできることが重要だと思っています。だからレッスンを続けられるといのを価値にして追求したいと思っていて、レッスンの終了回数をKPIにしています」

元学生起業家の22歳、シード期特化ファンド「IF Angel」をスタート

22歳という恐らく国内最年少のVCが誕生した。

元学生起業家で、2014年7月から独立系インキュベイトファンドでアソシエイトとして活動していた笠井レオ氏が今日、「IF Angel」というファンドを立ち上げたことを発表して活動を開始した。LP出資するのはインキュベイトファンドで、IF Angelという名前が示すようにインキュベイトファンドから独立した形だ。ファンドサイズは1.5億円。笠井氏が単独の個人ジェネラル・パートナー(無限責任組合員)となっている。22歳が負うにはちょっと重たい借入を個人でしていて、笠井氏の自己資金もファンドに入っている。すでにインキュベイトファンドではIF Angelのように若手キャピタリストのファンドに対して出資(ファンド・オブ・ファンズ:FoF)してきていて、これまでに「プライマルキャピタル」や「ソラシード・スタートアップス」が設立されている。

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起業して大学を退学した元学生起業家

ぼくが初めて笠井レオ氏に会ったのは2年前のTechCrunch Schoolというイベントでのことだった。トークセッションが終わるなり、目をキラキラさせて、ものすごい勢いで手を挙げてくれたのが、当事学生起業家だった笠井氏だった。正確に言うと、そのときすでに「実は先週、休学していた学校を退学しました!」と発言していたので、すでに学生起業家そのものではなかったのだけど。

笠井氏は、2012年5月にProsbeeという会社を設立して読書関連サービス「Booklap」を世に問うた。起業は大学在学中の19歳のときのこと。1年間休学して、インキュベイトファンドやVOYAGE GROUPなどから投資を受け、最盛時にはフルタイムが5人、外部ライターなども全部入れると15人くらいのチームとなっていた。

「でも、事業は全然うまくいきませんでした。次の(資金調達)ラウンドに進むか、それとも残金を精算して会社をクローズするのかという岐路に立ったのが2014年6月でした」(笠井氏)

ユーザー数は少しずつは伸びていたものの、当初想定していた数十万UUには遠かった。Booklapは書籍の一部を引用してコメントする形でシェアできるソーシャルサービスだったが、すでに先行していた読書メーター(後の2014年9月にドワンゴが17億円で買収)などに対して勝ち目がないように見えたと笠井氏は振り返る。

Booklapのサービスで学んだことは、SEOがカギとなるサービスで勝つには2つの条件が必要だということだという。新しいキーワードが出てくることと、それが大きなトラフィックを生むこと。

「書籍の場合は、そもそも昔から多くのサイトがあってコンテンツが蓄積されています。どんどん新しい本も出てきていますが、ヒットとなる書籍は少ないのです。例えば、ニンジン、切りかた、という検索ワードで、今からクックパッドには勝てないのと同じです」

Booklapはソーシャル時代らしく実名制採用とか、コンテンツの一部を引用してコメントできるなど目新しい機能はあったが、先行サービスに対して差別化といえるほどのものではなかった。

間近でVCの仕事をみて、その存在意義に気付いた

2014年6月に会社を清算した。この時点では笠井氏は「次は何の事業で起業しようかと考えていた」という。リサーチャーとして独立系VCのインキュベイトファンドに入り、もう1度スタートアップをやろうと事業機会を探していた。

インキュベイトファンドで2014年7月にアソシエイトになって活動する中で、笠井氏は徐々に考えが変わって行った。起業したいという思いは変わらなかったものの、「VCとして起業しよう」という考えに至ったのだそうだ。VCのパートナーを間近で見るようになって、「起業家とあまり変わらないんだなと思った」というのが理由の1つという。

これは多くのスタートアップ業界関係者が言うことだが、独立系VCのパートナーたちの多くは「投資家という役割の起業家」だ。大手投資会社やCVC、あるいは事業会社などで修行を積み、その経験や知見、業界内で築いた人的な信用のネットワークを活かして自らファンドを組成。ファンド出資者にリターンを返すべく奔走する。このとき、多くのVCは自己資金をファンドに投資することで自らリスクを取る。それはコミットメントを示す意味もあるし、出資者と運用者のインセンティブを一致させる意味もある。アメリカではファンド規模の1%とか2%を、そのファンドのジェネラル・パートナーが自己資金として投資することが多い。十分なリターンが出せないと、投資家としての評価が下がって次のファンドが組成できないし、自分も経済的痛手を受ける。

IF Angelの強みは、笠井氏と同年代の若い起業家のネットワークに笠井氏自身が「中の人」として存在していること。優秀な起業家を発掘するというよりも、友だちの友だちという広がりの中から投資先を見つけるスタイルになるという。例えば、いま投資を検討している起業家は2年前からの友人だという。

VCを含む複数のスタートアップ業界の関係者に、若い人が独立VCの道を歩むことについて感想を求めると、「もっと事業経験を積んでからのほうがいい」という意見もあれば、「起業家と同じ目線でシード期に本気でコミットして伴走できるVCは、実は日本に多くない。そうした人材は極めて重要」という意見もあった。

IF Angelの1件あたりの投資額は1000万円程度になる見込み。インキュベイトファンドのほうはファンドが3号目となって、シード投資といっても大型案件が多くなっている。このため投資規模の違いで、IF Angelとインキュベイトファンドは相補関係にある。笠井氏はインキュベイトファンドのアソシエイトとしての籍も残してあるそうだ。

VCという起業で社会貢献がしたい

インキュベイトファンドは2010年の設立以来、これまでに累計で100社程度に投資してきている。笠井氏は新規投資に関わる一方で、6社ほどの投資先の経営会議にジェネラル・パートナーとともにオブザーバーとして出席することで「(VCが)裏方に徹して仕事をして、それで会社が伸びるのを見た」という。

photo03「最後は起業家を信頼して背中を押すんですが、いろんな業界を見てきたパートナーたちは、人や情報を集めてくることができる。あらゆる領域を全て知ることはできません。でも投資家には広いネットワークがあって、それで解決できることがあるんです」。

力強く成長するスタートアップ企業の創業者たちが、ユーザー視点で深く物事を考えていて、多くの試行錯誤を繰り返す中で少しずつ当てながら伸ばしていくという様子を見ることができたのは、気づきに繋がったという。

インキュベイトファンドは、もともとハンズオンを強くやるタイプのVCで、投資家と起業家がチームとなって事業モデルを構築することがある。むしろ事業ドメインを先に決めていて、起業家に対して一緒にやれるならやりましょうと提案するスタンスのこともある。例えば最近だと、ある自動車関連スタートアップでは約10カ月をかけて、5回ぐらい事業プランを変えて1億円ほどの投資を集めた例があるのだそうだ。

笠井氏は、インキュベイトファンドの4人のジェネラル・パートナーからの影響に加えて、シリコンバレーの名門VC、セコイア・キャピタルのジェネラル・パートナー、ダグラス・レオーネ氏の影響を強く受けているという。以下のTechCrunch創業者マーケル・アーリントンとのインタビュー動画は100回以上も見ていて、憧れのキャピタリストだという。実際にアメリカに行って本人にも会ってきたそうだ。

「ジムで走るたびに、ずっとこの講演を聞いています。もうダグの発言が全部そらで言えるぐらいに内容を覚えています。セコイアが運用してきた何千億円というファンドの80〜90%は非営利団体の資金です。大学系の基金で、そのリターンが奨学金になったりして、また大学へ還元される。ダグは、そういう仕事が誇らしいというんですね。そうやって投資家という立場から社会貢献をすることもできると知って、これをやりたいと思ったんです」

インキュベイトファンド、起業志望者向けのEIR(客員起業家)制度を開始

インキュベイトファンドが起業家以外のビジネスマンも対象にして開催している業界研究コミュニティ「Fellow Program」。6月8日からこの中でEIR(Entrepreneur in Residence:客員起業家)向けのコースがスタートした。インキュベイトファンドが認めた人材に対して奨励金を提供。半年〜1年の期間で起業までの支援を行う。

「大人」のビジネスマンが集うFellow Program

まずはそもそものFellow Programについて紹介する。このプログラムは2014年にスタートしたもの。特定の業界や事業領域の研究や、その領域での起業などに興味のある人材に対して、月額3万円までの奨励金を提供している。これは起業家向けに限定したプログラムではなく、コンサルや外資系金融、メーカーや士業など、現時点で就職しているような人材も対象にしている。

メンバーは月次勉強会や都度開催される分科会に参加。研究・調査の結果を発表するほか、イベントなどで参加者間の交流を図る。また、立ち上げを検討する事業や起業のプランのメンタリングを受けることができる。

僕も前回の勉強会の様子を見させてもらったが、20人ほどの参加者が1カ月の進捗を共有し、その後3人の参加者が1人20分ほどのプレゼンを行って参加者同士での質疑応答をする、というものだった。今後その領域での起業を計画しているという人もいたので詳細は伏せるが、IoTや金融といった領域の現状分析やその領域での新規事業の可能性など、発表内容も質疑も、かなり具体的な話がされているというのが印象的だった。

プログラム参加者の中にはすでに起業している、もしくは現在起業の準備を進める人もいると聞いたが、参加者は20代後半から30代以上が中心。一般的なインキュベーションプログラムと比較すると年齢的にもキャリア的にも「大人」な人が多く、起業にも興味あるが、まずは自分の専門性を生かせる領域について深く調査したいという人が中心という印象だ。冒頭でも業界研究コミュニティと書いたが、リサーチとかシンクタンクとかいったような雰囲気を感じた。プログラムを手がけるインキュベイトファンド代表パートナーの和田圭祐氏も「意図的に(そんな雰囲気を)作っている」とのこと。

大きいビジネスを始めるための準備期間に

今回開始したEIRコースは、和田氏いわく「ネットに精通してるだけでは立ち上げられない非常に重たいテーマや大きいテーマで起業を志す人たち向け」とのことで、フェロープログラムの中でも明確に起業を前提にしたものだという。

年始に発表した新ファンド設立の際にも、IoTのほか、グローバル、レガシーマーケットといった比較的大きい規模のビジネスに対して数億円単位での投資をしていくとしているインキュベイトファンド。だがこういった領域に進出する場合、低コストで立ち上げられるネット完結のサービスとは異なり、それなりの資本が必要になるし、ビジネスが成功するかどうかの検証が終わる前に起業してしまうことのリスクが大きい。そこでまず検証の時間を作ろうというのがEIRコースの目的だという。「シード、アーリーステージで億単位で投資するに当たっての準備期間を設けたい」(和田氏)

インキュベイトファンドの指定する書類を提出した上、面接と筆記での試験でEIRの採択を決定する。条件としてあるのは、兼業ではなくEIRとしての事業に専業するということ。契約期間は半年から1年を予定。奨励金は在職時の月収額を参考にするとしている。金額について具体的な話は聞けなかったが、在職時とほぼ変わらない生活をしつつ、起業の準備ができるようにリビングコスト(生活費)を提供する」(和田氏)。また採択者には、ビジネスノウハウを提供するほか、今後の資金提供も検討する。

既存の業界を破壊するような大きなビジネスを作ろうとするのであれば、調査や研究に時間をかけるにこしたことはない。これまでの生活のコストを得つつそれが可能になるこのプログラムは、大きな事業を企画する人にとって有効な選択肢になるかもしれない。

インキュベイトファンドから若きキャピタリスト――新ファンド「プライマルキャピタル2号」始動

年始にお伝えしたとおり、インキュベイトファンドのFoF(ファンドオブファンズ)として新たなベンチャーキャピタルが生まれている。サムライト代表取締役の柴田泰成氏によるソラシード・スタートアップスもそうだし、1月20日に2号ファンドの組成を発表したプライマルキャピタルもそうだ。

プライマルキャピタルの代表パートナーである佐々木浩史氏は、2012年7月からインキュベイトファンドに参画。アソシエイトとして投資先企業を支援するのと並行して、インキュベーションプログラムの「Incubate Camp」の企画・運営を担当してきた。佐々木氏は1984年生まれの30歳。日本では若手のキャピタリストだ。

そんな佐々木氏だが、実は2014年2月にプライマルキャピタル1号投資事業有限責任組合を組成(インキュベイトファンドが出資)していたという。ファンドは4600万円の小規模ながら、Incubate Campに参加したスタートアップを中心に、エモーシブ、おでん、byus&co.、PurpleCow、ライフスタイルデザインの5社にシード期の投資を実行している。金額は非公開だが、1社数百万円から1000万円程度といったところのようだ。

すでにインキュベイトファンドの記事でも紹介しているが、今回、プライマルキャピタルは新ファンドの「プライマルキャピタル2号投資事業有限責任組合」の組成を発表した。ファンド規模は3億1000万円で、インキュベイトファンドが出資している。2号ファンドではすでに4社への投資を実行している。

2号ファンドの投資対象となるのは「その事業の存在がユーザーの生活(toC)や商習慣(toB)に劇的な変化を生み出す、社会的意義ある事業」とのことだが、Incubate Camp参加者へのシード出資が中心になりそうだ。またインキュベイトファンドではIoT領域の投資を強化するとしているが、プライマルキャピタルでもIoT領域の投資も行うとしている。

佐々木氏はY Combinatorを例に、インキュベーションプログラム参加時にシード出資を行い、プログラム終了時にはインキュベイトファンドを含めた複数のベンチャーキャピタルでの資金調達を行えるようなスキームを作りたいと語る。なお今後は投資に注力するため、Incubate Campの企画・運営担当を探しているところだそうだ。


インキュベイトファンドが110億円の新ファンド――IoTに注力、FoFも

2014年にも様々なスタートアップと出会うことができたが、その中で2015年により注目が集まることが確信できたテーマの1つが「IoT」だ。そういえば11月に開催したイベント「TechCrunch Tokyo 2014」のスタートアップバトルで優勝したのもインクジェットプリンターや専用のペンで回路製作を実現するAgICだった。そして今回インキュベイトファンドが組成した新ファンドでも、IoT関連の投資積極的に進めていくという。

新ファンドは総額110億円、IoTに特化

インキュベイトファンドが1月5日に組成完了を発表した「インキュベイトファンド3号投資事業有限責任組合」は、総額110億円のベンチャーキャピタルファンドとなる。出資するのは産業革新機構、ヤフー、三井住友銀行、Tencent Holdings、セガサミーホールディングス、Mistletoe、東京放送ホールディングス、ミクシィ、日本政策
投資銀行のほか、個人投資家など。聞いたところによると、ヤフーや三井住友銀行が独立系VCに出資するのは今回が初になるそうだ。

インキュベイトファンドのゼネラルパートナーである村田祐介氏に聞いたところ、今回のファンドでは「Global Scale」「Legacy Market」「Enabling」をキーワードに、IoTを軸としたイノベーションを創出するスタートアップへの投資を進めるという。具体的には、次世代メディア、エンターテイメント、ゲーム、コマース、物流、 医療、金融、不動産、自動車、住宅などの領域に注力していくとのことだ。すでに米国で車載用アプリの開発を進めるDrivemodeに出資をしている。

1社あたりの投資金額は、3億〜5億円を想定しているという。ただ村田氏は「大きな金額をコミットするが、この金額でシード投資をやっていく」と強調する。これまでインキュベイトファンドは、起業家育成プログラムの「Incubate Camp」を開催するなどしてシード期の投資に注力してきたところがある。同プログラムの参加者はもともと3000万円のバリュエーションで300万円を出資というスキームだったし、プログラム以外の出資では数千万円前半の出資というケースが多かったが、同じステージに対して桁1つ大きな金額を出資する計画だという。

村田氏は2012年以降に新設されたファンドを取りまとめた金額が約2700億円と説明する(中でも金融系VCなどに比較すると、独立系VCがファンドの担い手として活躍しているそうだ)。しかし、増えたファンドはシリーズAを対象としたものばかりで、シリーズAの手前のシードファイナンスを手掛けるファンドは増えていないと語る。もちろん山田進太郎氏率いるメルカリのように、シリアルアントレプレナーがシードで大型調達をして勝負をするというケースはあるが、「結局大きな勝負をできるスタートアップはほとんどいなかった」(村田氏)と語る。

ではそんな大型調達した資金を使ってきっちり成長できる起業家をどうやって見つけるのか? 村田氏はその1つの取組みとして、インキュベイトファンドが手掛ける「Fellow Program」について教えてくれた。このプログラムはインキュベイトキャンプ ゼネラルパートナーの和田圭佑氏が中心となって立ち上げたもので、大企業の成績優秀者や外資系金融マン、何かしらのプロフェッショナルなど、本業を持ちつつスタートアップについて調査・研究し、毎月1回発表を行うというもの。これによって商社やメーカーから士業、官公庁まで、広く優秀な人材を集めているのだそうだ。「特にこの半年はIT・ネット業界以外でも人と会うようにしてきた。プログラムでも他業界の中堅、エースと出会えたと思っている。IoTはインターネットの人たちだけでは作れない。既存産業側のプレーヤーと一緒になって立ち上げていきたい」(村田氏)。

ファンドオブファンズでシード投資を更に活性化

村田氏は「シードファイナンスを増やす」という観点からインキュベイトファンドが取り組んでいる活動についてさらに教えてくれた。インキュベイトファンドでは、若手キャピタリストのファンドに対して出資(ファンドオブファンズ:FoF)も行っているという。

実はサムライインキュベートについては1号ファンドから出資をしているし、前述のIncubate Campで優勝したサムライト代表取締役の柴田泰成氏の「ソラシード・スタートアップス」、インキュベイトファンドのアソシエイトでもある佐々木浩史氏の「Primal Capital」のほか、スタートアップ支援を行うインクルージョンジャパンが立ち上げるファンドにも出資している。さらに海外でもFoFでファンドの立ち上げを準備中だそうだ。

「赤浦(インキュベイトファンドのゼネラルパートナーである赤浦徹氏)がいつも言っているが、日本でスタートアップが増えない理由の1つはキャピタリストが増えないことにある。そしてそれはサラリーマンVCではなく、腹をくくっているキャピタリストでないといけないと思っている」(村田氏)


名古屋を拠点とするクラウド請求管理「Misoca」のスタンドファームが3,000万円の資金調達を実施

TechCrunch Tokyo 2011にも出場した名古屋のスタートアップであるスタンドファームがインキュベイトファンドから第三者割当増資で3,000万円を調達した。スタンドファームが運営するのはクラウド請求管理の「Misoca」というサービスだ。

Misocaはオンライン上で請求書や見積書を作成・編集することはもちろん、これらを紙に印刷して郵送してくれる。郵送システムは自動化されているので、請求書の中身が人の目に触れることはないそうだ。

また、請求書の管理やPDFの作成・ダウンロードなどの機能は無料で利用でき、書類の検索や納品書の発行といったものは有料プランのみの利用となっている。郵送には1通あたり160円から210円ほどかかる。

Misocaには2011年11月のローンチ以降、約8,000の事業者が登録しており、今では毎月700以上の事業者が登録しているという。今月からはGMOペイメントゲートウェイと提携し、口座振替による代金回収サービスなどにも力を入れている。

今回調達した資金は開発力をあげるためにエンジニアを増やすことはもちろんだが、エンジニアのみのチームで運営しているため、マーケティングの人材も採用していくという。さらに、請求書だけではなく支払い明細書や領収書といった文章類を電子配信する「MisocaのWeb請求書」というサービスもクローズドで運営し始めており、こちらも強化していくようだ。

冒頭でも述べたようにスタンドファームは名古屋に拠点を置くスタートアップで、どうしても東京と比べると先輩の起業家に会ってアドバイスをもらう回数や自社にジョインしてくれそうな人達と出会う回数は減ってしまうだろう(スタートアップは開発だけに専念すればよいという意見もあるが)。

この点に関してスタンドファーム代表取締役の豊吉隆一郎氏は「地方でスタートアップすることにデメリットは多いと感じる」としているものの、「今ぐらいの規模まで持って来れたのなら地方でも特に問題はない」と考え、来月末に予定しているオフィスの移転先も名古屋で検討しているようだ。