TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」第15回が6月20日、開催された。今年のテーマはスタートアップのチームビルディング。今シーズン2回目となる今回のイベントでは「チームを育てる(オンボーディング・評価)」を題材として、講演とパネルディスカッションが行われた(キーノート講演のレポートはこちら)。
本稿では、パネルディスカッションの模様をお伝えする。登壇者はVoicy代表の緒方憲太郎氏、空CEOの松村大貴氏、STRIVE共同代表パートナーの堤達生氏、エン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏の4名。モデレーターはTechCrunch Japan 編集統括の吉田博英が務めた。
パネルディスカッションでは、チーム育成に関わる悩みや問題点について、起業家やVC、それぞれの立場から議論が行われた。まずは各氏から自己紹介があった(STRIVEおよび堤氏の紹介はキーノート講演レポートを参照してほしい)。
寺田氏はエン・ジャパン執行役員および「LINEキャリア」を運営するLINEとのジョイントベンチャーLENSAの代表取締役を務める。企業が無料で採用ページ作成から求人情報の掲載・管理までできる採用支援ツール「engage(エンゲージ)」に立ち上げから関わり、現在も運営を中心になって行っている。
「求人媒体には求人同士を比較する役割はあるが、それとは別に企業の詳しい情報、採用情報を見るためには、独自の発信の場があるべき」との思いから、2016年にengageを立ち上げた寺田氏。「クックパッドにレシピを投稿できる人なら、誰でも採用ページを作れるようなUIにしている」ということで、手軽に始められることから利用を伸ばし、現在の利用企業数は20万社に上るという。
engageでは、採用情報、求人情報を掲載できるほか、IndeedやGoogle しごと検索など、求人情報のメタ検索サービスに対応したマークアップを実装し、これらのサービスへ求人情報の自動掲載が可能だ。
また付随サービスとして、求職者と録画面接ができるビデオインタビュー機能や、オンライン適性テスト「TalentAnalytics(タレントアナリティクス)」、入社した人の離職リスクを可視化して、対策を提案する「HR OnBoard(エイチアールオンボード)」といったツールを提供。起業したばかりであまり費用がかけられないスタートアップも、採用に加えて入社後活躍まで使えるサービスを無料で利用開始できる。
緒方氏が創業したVoicyは、音声×テクノロジーをテーマとするスタートアップだ。直近のラウンドでは合計8.2億円の資金調達を実施。現在、4つのミッションを持って事業を進めている。
音に関わるインフラ・デザイン・メディア・ビッグデータの4つを通じて、「音声で生活のどこにでもリーチすることができるようになり、今まで端末がなければ情報が得られなかった世界から、普通に生活しているだけで情報を得られる世界を実現しようとしている」と緒方氏は説明する。
もっとも知られている事業はボイスメディアのVoicyだ。「できるだけ簡単に発信ができて、聞けるように、と心がけている。人の生声が聞けることで、その人らしさが一番届けられるメディアになっているのではないかと自負している」と緒方氏は語る。
Voicyには企業チャンネルも多く開設されている。会社のイメージアップや採用活動にも利用されているそうで「組織づくりにも応用できる」と緒方氏は述べている。
外部に発信するチャンネルやコミュニティとは別に、Voicyでは社員だけに届く「声の社内報」もサービスとして提供する。このサービスはVoicy内でも運用されており、30名ほどいる社員の評判もよいとのこと。Voicyでは社長の日報や週次報告などを音声で届けているそうだ。
声の社内報は2000名規模の企業にも実証実験として導入され、社長の音声が何分で離脱されるか、誰が何時に聞いたか、といったデータも収集されつつあるという。緒方氏は声の社内報が「カルチャー共有とエンゲージメント向上につながる」と話している。
空はホテル価格のダイナミックプライジングを実現するサービス「MagicPrice」を開発・運営する。CEOを務める松村氏は「空を立ち上げるまではヤフーに勤めており、起業は初めて。部下も持ったことがなかった」と語る。「だから僕は、どうしたら、少なくとも僕が楽しく働けるかを考えた。僕と近い考え方の人がここにいたら楽しいだろう、とか、何人ここにいたら楽しいだろう、といったところを、ゼロベースで考えながら組織を作っている」(松村氏)
そんな松村氏の空が掲げるビジョンは「Happy Growth」だ。「みんな、日々幸せに生きたいはずだが、それを続けていくのは大変。そのために空に集まる個人の人生でも、空という会社自体でも、一緒に実現しようという考え方が『Happy Growth』だ。超楽しく働いて、超幸せと思いつつ、経済的にもすごく伸びているというのを実現して、還元し、社会にも『そうやって生きていっていいんだ』ということを示していく」(松村氏)
「プロダクトを通じてクライアントのHappy Growthも支持する。プロダクトも人事制度も採用の仕方もカルチャーも、ゼロベースで、どうすればベストかを考えながらつくっている」と松村氏は述べている。
空がミッションとするのは「世界中の価格の最適化」。MagicPriceはそのうち、ホテルの料金設定を最適化するプロダクトとしてSaaSで提供されている。
SaaSを運営するには、カスタマーサクセスがカギとなる。松村氏は「カスタマーサクセスには、文化が必要で、大事」と話す。空では、社員のエンゲージメントを確認する組織サーベイを月に1度実施しているそうで、結果は良好だということだ。「特に人間関係や、戦略・理念への共感の値が比較的高いので、より伸ばしていきたい」(松村氏)
松村氏によれば、入社した人材へのオンボーディングプログラムは実施しているが、評価制度の運用や入社後の育成プログラムはまだ実施していないという。松村氏は「アーリーステージだけかもしれないが、組織文化や組織の状態は採用で9割が決まると考えている。また成果・評価を短期的報酬とは連動させないとかたくなに決めている。もうひとつ、完璧な評価はムリという前提で考えるようにしている」と空の評価に対する考え方を語る。
スタートアップでは評価制度はリスクになることも
登壇者紹介の後、ディスカッションが始まった。最初の話題は「メンバーを評価する基準」について。自己紹介で「完璧な評価はムリ」と語った空の松村氏は「評価とはなぜ必要なのかというところから考えたい」と問いかけた。
「起業家は誰からも評価されなくてもモチベーション高く働ける。同様に評価がなくても働ける人はいる。誰も楽しくない評価に時間を割いて、それは何の役に立つのか。空では形だけの評価はせず、成長支援や本人の気づきになる評価だけをするようにしている。コアバリューへの寄与など、定性的で自己判断が難しい部分については数値化して分かりやすくしてはいるが、基本的にはそれほど評価を行っていない」(松村氏)
また松村氏は「チームがワークしていないことを、評価制度やマネジャーのせいにしない方がいい」とも述べている。
「それは採用ミスマッチの問題。それを評価制度で補おうとするのはキツいのではないか。だからスタートアップこそ、1人目の採用からしっかりやらなければ、後で気づいてやり直そうとしても辞めてもらうしかなくなる。採用でマッチングすることを僕の会社では心がけている」(松村氏)
Voicyの緒方氏も、評価を実施すること自体の価値について、このように述べている。
「大企業に所属していたこともあるので、組織で人を動かすためには評価が必要かもしれないとは思う。ただスタートアップの場合は、そもそもやる気満々で来ている人たちが働いている。だから評価によってさらにお尻をたたくことで、燃え尽きてしまう恐れがある。またスタートアップには『がんばっていることを認めてもらいたい』という自己承認欲求の強いメンバーが集まりがちで、『評価が平等じゃない』といってもめる可能性の方が高い。だから評価を取り入れることで起こるリスクの方が高いというのが僕のイメージ」(緒方氏)
緒方氏は「基本的には評価と報酬は連動させない」と話している。「スタートアップでは外部との相場が全然違う。そこで評価と報酬を連動させるとおかしなことになってしまう」(緒方氏)
これらの前提を踏まえた上で、Voicyでは「評価は本人にしてもらっている」と緒方氏はいう。
「自分で自分を評価することは必要。僕が今までいた会社では、評価する側とされる側に共通の尺度がないことが多かった。評価する側のリテラシーが低いことも多く、低いレベルで仕事の評価が行われている。Voicyでは、今いるメンバーに、3年後には会社を支えられる強いメンバーになってほしいと考えている。だから、自分で自分のことを評価できる力を付けてほしい」(緒方氏)
自己評価に対しては「なぜそう評価したのか」を確認し、「僕はこう思う」とフィードバック。「個人の能力アップのための評価」になるようにしていると緒方氏は説明する。
「Voicyはフィードバックをする文化がすごく強い。1日体験に参加した人からびっくりされることもあるほど。行為を判断することはよいことだ。ただ、それにより、その人を査定する必要はないと思っている」(緒方氏)
STRIVE共同代表パートナー 堤達生氏
STRIVEの堤氏は、VC組織での評価について、以下のように打ち明ける。「プロフェッショナルファームなのでスタートアップとは環境が少し違うと思うが、日本人に比べて外国人がすごく評価してもらいたがるので、いつも悩む。フィードバックだけでなく、次の給与など、具体的に明確に評価しなければならない。コミュニケーションのひとつとして、評価を行わなければすぐ辞めてしまうこともある」(堤氏)
評価基準については「VCは個人事業主の集まりと思われがちだし、もちろん個人の力は大きいが、実はチームにどれだけ貢献しているかという点を最も大事にしている」という堤氏。「投資件数が多くても、チームに貢献していなければ『自分のことしか考えていない』として、評価がディスカウントされる」と話している。
エン・ジャパンはすでに日本で1500人、世界で4000人規模の従業員を抱える規模となっていることから「評価を回さなければ(組織が)立ち行かない」と寺田氏。評価で気になることは「みんな評価されるとなった途端に、急に『俺のことをどう思っているのか』という“for me”、自分のことになる点」だという。
エン・ジャパン執行役員 寺田輝之氏
「同じミッションや目的に向かって仕事をしていく中で、個人の評価とはある意味、プロダクトや事業への評価と同じ。そこと連動して初めて評価が決まるというのが本来の姿。『事業やプロダクトに対して自分は何ができるのか、何をやっていくべきか』という視点で目標設定を行い、言語化することで“for me”から“for product”“for business”へ目線が向かうようにすることを繰り返して、評価への納得度が高まるようにメンテナンスはしている」(寺田氏)
寺田氏には、緒方氏から「評価制度を設計するときに、参考にしたい」と質問があった。質問は「本来は絶対評価で、その人の行為に対する評価が望ましいはずだが、『あの人より自分の方ががんばった』といった相対評価の方がやる気が出る、という人が相当多い。相対評価的な要素も加味して取り入れるべきか」というものだ。
寺田氏は「最終的には相対評価も入ることは否めない」としながら、「でも評価の対象はがんばったか、がんばっていないかではない。自己基準ではなく、設定されているものに対しての評価」と説明している。
エン・ジャパンでは、業績に対する評価と、ミッションやビジョンへのコミットやスキルへの評価を分けているという。「業績評価への報酬については、良かったタイミングでボーナスとして支給する。考え方やカルチャー、スキルの部分については能力・グレードとして基本給に反映している」ということだった。
メンバーのグループ分けとコミュニケーション
続いての話題は「メンバーをグループに分けていくときに気をつけていること」、そして「グループ間のコミュニケーション」についてだ。
「Voicyではプロダクトで3つに部署を分けている。法人向け、個人向け、そして会社自体もひとつのプロダクトと考えて『自社向け』の3グループだ」と緒方氏は現在の体制について説明。部署間での人材ローテーションは積極的に行っているそうだ。
「グループ意識が付かないように、安心している暇がないぐらいに、どんどん変えている。ただし能力が偏っている人は1部署にとどまることもあるので、その場合は役割を変えるようにしている」(緒方氏)
緒方氏は「会社というコミュニティを『七輪』に例えて考えている」という。「七輪の上でうまく焼き肉を焼きたいと考えて、火が盛んに付いている炭があったら少し端の方によけておいて、その隣にまだ火が付ききっていない炭を置く。これから赤くなりそうだな、という炭は風通しのよいところに置く。そんな感じで人を配置していくようにしている。『いま一番燃えているな』という人をサポート側にさっと回す、ということは意識してやっている」(緒方氏)
空CEO 松村大貴氏
空の松村氏は「SaaSビジネスをやっていると、マーケティング、セールス、広報、デザイナー、エンジニアと、本当に多様な職種の人が集まる」と話す。
そんな中で「人に気を遣わないグループ分けを心がけている」という松村氏。「誰かへの温情で今のポジションに残す、といったことにならないように、合理性を重視している」と話している。合理性重視で意思決定をする会社だということは、入社の際にも伝えているそうだ。「役割が変わってもいいよね」と採用時に確認した上で、グループ分け、配役をしているという。
松村氏には、コミュニケーションについては悩んでいる点があるらしい。「SaaSは総力戦。どれか1つだけがよくてもうまくいかず、プロダクトからマーケティング、カスタマーサクセス、全部整って初めて伸びていくサービスだ。そうした中で、公式なミーティングをどう持つかで、少し悩んでいる」(松村氏)
一方で「非公式なコミュニケーション」は勝手にやってくれていると松村氏。「そこは職種や意見は違っても、根底でビジョンには共感しているからだと思う。人生観・価値観が合う人を面接で採用することによって、意見は割れることがあっても、基本的には信じられる人の集まりになっている」(松村氏)
堤氏のSTRIVEには、投資とバリューアップの2つのチームがある。「小さい組織だからカルチャーフィットを大事にしている」という堤氏は「VCでは論文採用などが進んでいるが、僕らは時代に逆行している(笑)。面接の回数は多いわ、ケーススタディーは実施するわで、会食も内定前提でなくても、飲んだりしながらその人の生い立ちを聞くといったことをやっている。最初の採用時点でのセレクションはすごく大切にしている」と語る。
コミュニケーションに関する堤氏の最近の悩みは、投資チーム以外にも人が増えていくステップで、「一般的な会社っぽい」人たちといかにプロジェクト単位でうまく融合させるか、それぞれをどう盛り上げていくか、という点だそうだ。
寺田氏からも「グループ分けで悩むことは確かにある。ただ採用の段階で先に悩んでおいた方がいい」と採用時の選択の重要性について発言があった。「カルチャーフィットしない人を入れると、どうしてもうまく回らなくなってしまう。そこを基準にしてチームを考えると、本質的でないところへ意識がいってしまうので、まず採用の段階でカルチャーフィットや目的に対する共感を第一指標にすべき」(寺田氏)
その上でグループを分けるとき、寺田氏は「メンバーシップ型の『人に仕事を割り振っていく』形で組織を作るケースと、ジョブ型の『仕事に人を付けていく』ケースとで、分け方を多少変えている」という。
「メンバーシップ型の場合は、人の性格・価値観のバランスを見て、チームとして協調しながら進むようにグループ分けをしていく。ジョブ型でそれぞれのミッションが決まっている場合は、パフォーマンスの塊で分けている」(寺田氏)
採用・育成・評価、それぞれの考え方
最後のお題は「会社の規模によって評価基準は変わるかどうか」。松村氏は、今後規模が大きくなっても「どこまでそういった制度なしで、今のまま伸ばせるかチャレンジしたい」と語っている。
「当然、採用と育成のコストパフォーマンスは変わっていく。今は採用の方がコスパがよいが、確かにそのうち育成の方がコスパがよいような人数拡大ベースになっていくかもしれない。ただ、評価制度が必要なほどコミュニケーションがうまく回らなくなってきた、とか、評価制度が浸透していないとみんなの方向性が分からなくなる、というのは全て、採用時点の妥協からスタートすると思っている。だから、どこまでこだわりの採用を、手を緩めずにやれるか粘ってみたい」(松村氏)
こうした観点から、空では「新卒はしばらく採らない」という松村氏。育成しなくてもスター、という人材を集めるスタイルを当面続けていく考えだと話す。
人材採用においては、空は「21歳から59歳まで多様。年齢に関係なく、ビジョンに共感してくれる人を採用している」と松村氏。今は「マネジメントだけができる経験者はいない。人材をケアしてくれる人と、仕事のディレクションをする人、重要な意思決定を責任を持ってやってくれる人、これらの役割は必ずしも全部同じ人がやらなくてもよいのではないかと考えているので、『マネジャー職』ではなく、役割分担をしている」と話す。
「ただ、長期間、多くの人数や予算を使って成果を出すときに、ディレクター的な役割は必要かと考えている。それができる人を今増やそうとしている段階だ」(松村氏)
Voicy代表 緒方憲太郎氏
松村氏とは対照的に、緒方氏は「育成する気満々」だそうだ。新卒でも1名採用を行ったという緒方氏は「自分の会社でみんなが伸びたらうれしい」と述べている。
「うちで育てる、という会社が増えないと、日本の経済が伸びない。新卒から、日本経済まで支えて『税金を多めに払ったってかまわない』というぐらいのマインドを持つ人たちをつくるということは、スタートアップが一番やらなければならないんじゃないかと思う」(緒方氏)
緒方氏は、社員には「全部の時間を3分の1ずつに割って、3つの時間の使い方をしてくれ」と話しているという。「1つは自分のアウトプットとバリューを出すこと、1つは組織に対してバリューを出すこと。最後の1つは会社の投資として、本人の成長につながり、個人では受けられない挑戦の場を提供している。挑戦にトライすることで、自分のアウトプットとバリュー、組織へのバリューを増やせれば、会社としてはもっと挑戦できる。挑戦をどれだけ提供できるかが、Voicyの価値だと思っている」(緒方氏)
「評価についても既に変えようとしている」という緒方氏。30人規模となり、平均年齢もぐっと上がる今のタイミングで、海外でも戦えるように集まる人に合わせて「評価が必要」と判断した。ただし「評価をすることが大事なのではない」と緒方氏は続ける。
「日本型の評価は『後払い』っぽい。今までがんばってきたことに『がんばってきたよね』とするものだが、Voicyではそれをする気は全くない。今まで100の仕事をしていた人に『あなたは120の仕事ができるから、次の給料はこれ』として、次にお願いする仕事に対して報酬なり立場なりを提供する形が正しいと思う。『この給料でこの仕事』と任せておいて、その人がアンダーパフォームだったとすれば、それは経営者の投資ミス。プレイヤーの方に責任を負わせるのは違う。だからこそ、与える仕事の評価、能力値算定ができなければいけないと思っている」(緒方氏)
緒方氏からは、「会場に来ている人の参考になれば」ということで「スタートアップの組織論」についても話が挙がった。緒方氏はスタートアップの組織を「火が付いたろうそくで調理をしている状態」と例える。
「一番適正な火の量で料理ができるわけで、ガンガン火をたいたところで料理はできないかもしれないけれども、火力が小さくてもダメ。そこで火力を大きくしようとすると、ろうそくはどんどん減っていく。みんなに給料をすごく出して『いい会社です』なんてやっていても、火だけが強くなって、すぐにろうそくはなくなってしまうかもしれない。それを上にある料理にピッタリな火力にして、そのときのろうそくの量で上にできた料理を見せながら『もうちょっとろうそくを足したい』と訴えてろうそくを足す、という強弱の調整をしているのが経営者だ」(緒方氏)
緒方氏が起業しようと考えて、社長の話を参考にしたスタートアップのうち、もう半分ぐらいはいなくなっているという。「どんなにきれい事を言っていても組織として成り立たなければ意味がない」と緒方氏はいい、「社長がやるべき方向性は大きく2つある」と話している。
「ひとつは適正なバランスで事業モデル、組織モデルをつくっていくこと。もうひとつは圧倒的に粗利率の高い事業をつくること。見ていると『圧倒的に粗利の高い事業で売って、きれい事を言う人』と『きれい事は言わずにバランスをすごくチューニングしていく人』の話しか、ほとんど参考にならない」(緒方氏)
こうした考え方は組織づくりでも大切だと緒方氏は訴える。「今ファイナンスがどれくらいできるか、人事マーケットがどれくらい逼迫している、または余裕があるかによって、ろうそくの火力を変えていく必要がある。今でいえば、エンジニアがいなければ事業がつくれないという世の中になってきていて、エンジニアが全然足りないというリスクがある。いわばエンジニアが巨神兵みたいなもので、入れないと戦えないが、扱いが難しいといったところ。だが、ビジネスサイドだけでなんとかしようとしても、事業としてのアップセルは望めない」(緒方氏)
そこで人に費用を投下していくのだが「その時に、ろうそくを火に変えてその場の熱とするフローに使うことのほかに、ストックとして組織の体力のほうに持っていくことも考えなければならない」と緒方氏。「長期的に、将来もっと大きくなったときのための仕込みが必要になってくる。フローの部分だけ見てうまくいっているように見えるところでも、ストックの部分がスカスカという事業もすごくある」と語る。
緒方氏は「今、自分たちのステージがどこなのかを考えて、ストックに積み込むモデルでやっているからこそ、人を育てること、育てる力がある人をつくるということを大事にしている」とVoicyでの組織づくりについて言及する。
「スタートアップの中で組織を考える場合、ビジネスモデルにメチャクチャくっついている。また、労力をつぎ込んでも、スカることもある。そんな中で僕が気をつけていることは『事業が分からない奴に組織はつくらせない』ということだ。組織をたくさん見てきただけで『組織については任せろ』といってジャブジャブ採用だけしているような人を入れると、いつの間にか会社がスカスカの骨だけになってしまう状況になるので、そこは気をつけた方がいい」(緒方氏)