Adobeの売上は記録破り―大企業でもビジネスモデルの根本的転換は可能だ

2015-12-15-adobe

IBM、HP、EMCなどの大企業がビジネスモデルの転換を目指して苦闘していることはわれわれもよく知っている。それらに比べると、Adobeは興味深いケースといえるだろう。つい数年前までAdobeは箱入りソフトを売る会社だった。それがごく短期間でクラウドサービスの定期課金(サブスクリプション)を主力とする会社となった。先週発表されたAdobeの財務報告を見る限り、この変身に大成功を収めている。

まずその根拠として数字をチェックしてみよう。Adobeはこの四半期に13億1000万ドル、対前年比で22%のアップという成績を収めている。同社はまた通年の売上が48億ドルという記録破りの額に達したことを発表している。もちろんこうした数字自体も大きいが、私が特に強い印象を受けたのは、継続する課金収入だった。これは今やAdobeの売上の74%を占め、メインビジネスとなっている。2015年の同社のデジタル・メディア関連の通年定期課金収入(annual recurring revenue=ARR).は30億ドルだった。

実際、Adobeはこの第4四半期だけでARRに3億5000万ドルも加えている。同社の発表によれば、この成長は主としてエンタープライズが課金モデルへの転換を積極的に採用しているためだ。この四半期に個人やチームの83万3000人がAdobe CC(Creative Cloud)に新たに登録しているという。

多くの企業が苦闘する中、Adobeは比較的短期間に急速にクラウド企業へと変身を遂げた。これは同社が事前に周到な計画を準備していたことが大きいようだ。

Adobeの創立は1986年とはるか昔に遡る。しかしAdobeが箱入りソフトを販売していたのはそう昔ではない。それが変わったのは2013年のことだ。同社はCC(Creative Cloud)にビジネスの主力を移すと発表した。そしてその言葉どおり、従来の主役だった箱入りソフトのシリーズ、CS(Creative Suite)の販売を中止した。この決断は業界を震撼させた。 TechCrunchのLardinois記者は当時驚きを次のように書いている

Adobeはソフトウェアの将来は定期課金ベースのネットワーク配信にあると信じ、それに社運を賭けるつもりのようだ。…Maxカンファレンスの参加者の大部分はここでCS7が発表されるものと思っていたはずだ。ところが意外にもCreative Suiteのブランド名は消えていくことが判明した。…(CCの責任者)Morrisは私の取材に対して、この方針転換がかなりの冒険であることを認めた。「多くのユーザーはこういう転換が起こるとしても数年後のことだと考えていただろう。しかしそれが今日だったことはショックだったかもしれない。」

Adobeのような世界的大企業がCCの発表後、わずか2年半でにこのような思い切った決断をするというのはかなり珍しいことだ。また顧客ベースも課金モデルへの転換を強く支持ことも注目に値する。.

「牛を捕らえるには角をつかめ」

Adobeが実行したのは他の会社が恐れるような道だ。普通の会社なら確立した箱入りソフト販売モデルの横に少しずつサブスクリプション・モデルを忍び込ませるというような方法を取っただろう。しかしAdobeはいきなり箱入りソフトの販売を止め、全面的に定期課金モデルを導入した。

比較という点ではMicrosoftが参考になるかもしれない。同社は現在でも箱入りソフトのOfficeとクラウド版のOffice 365を並行して販売している。エンタープライズソフトの分野でも同様だ。

公平を期すなら、Adobeといえども古き良きマーケティング・リサーチをしなかったわけではない。AdpbeはCCを開発し、ユーザーを相手にテストを行った。その結果は思いがけないほど積極的な反応だった。前述のScott MorrisはわれわれのLardinois記者の質問に答えて2013年にこう語っている

われわれがこの決断をしたのはCreative Cloudの登録ユーザーのほとんど全員が気に入ってくれていることを発見したからだ。AdobeのオンラインストアでCreative Cloudの満足度はPhotoshopより高い。これは前代未聞だ」とMorrisは言う。

注意すべき点は、当時Adobeは極めて高価な箱入りソフトを売っていたことだ。その価格は1200ドルから上は2500ドルまでした。つまりユーザーはそれほどの金額を支払ってもそれらのソフトが提供する機能を必要としていたわけだ。サブスクリプション・モデルに移行するにあたってこうしたクリエーティブなチームや個人のユーザーは一時に高額な支払いを必要としなくなった。毎月少額を支払えばよく、しかもAdobeは常時ソフトをアップデートして最新のものにしてくれる。Adobeとしてもときおり巨大な新バージョンを出荷するより、オンラインで少しずつアップデートを繰り返す方がはるかに開発を管理しやすい。

Adobeの新モデルはユーザーにもメーカーにもメリットの大きいものとなった。関係者全員が得をするという珍しい例だった。利用ケースによって価格は大幅に異なるものの、個人ユーザーは月額わずか9.99ドルからLighroomやPhotoshopなどの人気ソフトが利用可能であり、全アプリが使い放題となるセット契約でも月額80ドルだ。エンタープライズ向け契約では1人あたり月額70ドルの使い放題や1人1アプリ月額30ドルの契約も選べる。〔日本版:日本では月額980のフォログラフィプランから月額4900円のコンプリートプラン、さらにさまざまな法人向けプランが選択できる。詳しくはこちら。〕

Adobeという教訓

Adobeは多くの大企業がはまり込んでいる泥沼を避け、まったく異なるビジネスモデルに移ることに成功した。業界の常識とは逆に、同社は箱入りソフトの販売で得ていた以上の売上を定期課金モデルで得られることを証明した。.

とはいえ、われわれもどんな規模、種類の会社もAdobeのとおりに行動して成功できるとは考えていない。

そもそも、Oracleのような純然たるエンタープライズ向け企業と個人、エンタープライズをまたいでビジネスをしてきたAdobeのような企業を単純に比較するのは難しいのだろう。それでもなおAdobeが従来のビジネスモデルを一変させ、かつそれに大成功を収めたという事実は残る。他社はおそらくAdobeの成功の秘密を知りたがるだろう。市場は現在も急変し続けており、強い意思に基づく決断によって成功したAdobeを手本にしたい企業は多いはずだ。.

画像: sikerika/Flickr UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

ハンズオン・レポート:YouTubeの月額9.99ドルの有料音楽アプリ、Redは快適で有用

今日(米国時間11/12)、YouTubeは音楽アプリを公開した。このYouTube Musicは新しい楽曲を簡単に発見できる。またユーザーにまったく新しい音楽体験をもたらすものだ。有料版のYouTube Redは月額9.99ドルとなる。

YouTubeの音楽ビデオは圧倒的人気があり、専用音楽アプリは長らく待たれていたので、今日の発表自体は大きな驚きではないかもしれない。YouTubeの視聴者は世界で最大10億人に上るということだ。

もちろんモバイル・アプリのストアにはすでにYouTubeの曲をリストしたり、再生したりする製品が多数アップされている。Googleの新しいYouTubeアプリの特色は、シンプルで軽く使いやすいことと、ビデオ視聴とバックグラウンドのオーディオ再生の間を簡単に行き来できることだろう。

ユーザーが新しいYouTube Musicを立ち上げると、まずカスタマイズされたホーム画面が表示される。ここには簡単なジャンル分けがされており、個人の好みに従ってさらに複雑な設定が可能だ。ユーザーはMusicを立ち上げた状態ですでにYouTubeにログインしている可能性が高い。そこでGoogle側ではユーザーの視聴、検索履歴を知っていることになる。
YouTube Musicはここからさらに一歩を進めて、ユーザーの音楽の好みを知ろうとする。

曲を再生したとき、下部に表示される親指を立てた「いいね」ボタンをクリックすると、その曲は自動的に「後で聞く」リストに追加される。「いいね」ボタンからさらに詳しくYouTubeに音楽の趣味を伝えることも可能だ。

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トレンドのタブをクリックすると、現在人気上昇中のアーティストや楽曲を聞くことができる。またThe Daily 40では正統的なヒット曲も聞ける。これはありきたりの「トップ
40」のようなネット・ラジオ番組ではない。人間の専門家が現在YouTubeに登録された楽曲を精査してリストを作成している。ビデオは再生後に、無制限に続くラジオに移行することが可能で、
同じアーティストが次に発表した曲を聞くこともできる。またユーザーは曲のリストをさらに斬新で冒険的なものにしたり、これまで聞いた楽曲に趣味が似たものを再生するようにしたりできる。

どこから利用を始めようとMusicアプリで音楽がストップすることはない。曲またはアーティストを選択すれば、その情報にもとづいてYouTubeに登録された膨大な音楽カタログがただちに検索される。あまり選択肢が多いことに圧倒されたら、ともかくホーム・タブを押しておけばよい。YouTubeは視聴履歴にもとづいてユーザーが興味を持ちそうな楽曲を集めたラジオ局を作成してくれる。

さて全体としてこのアプリのユーザー体験を評価してみよう。有料版のYouTube Redに広告は表示されず、チャットやメール処理など他の作業をしながらバックグラウンドで音楽再生を続けることができる。このYouTube
Redにはオフライン機能もあり、ビデオを見ないでよい場合はオーディオ再生のみのモードも利用できる。スマートフォンをポケットに入れた状態で引き続き音楽を楽しみたい場合にオーディオのみ再生モードは必須の機能だ。ユーザーがポケットからスマートフォンを取り出してアンロックすると、YouTubeで現在再生されている曲のビデオが直ちに表示されるのも便利だ。またこのスマートなスイッチ機能のおかげでバッテリーやデータ通信量が大幅に節約される。

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しかし音楽アプリの無料版となると、広告が表示され、バックグラウンドでの音声のみ再生モードもサポートされない。ユーザーが作成したリストに基づいてオフラインで楽曲を聞くこともできない。つまり新アプリの特色をなす機能のほとんどは有料版のみの機能ということになる。

ユーザーのほとんどはすでにYouTubeを利用しているだろうが、月額有料版のYouTube Musicはアプリは音楽体験をまったく新しく、大いに楽しめるものにしてくれる。試してみる価値は間違いなくある。ユーザーは今日からYouTube MusicをGoogle PlayまたはApp Storeから無料でダウンロードできる〔日本版:訳者の環境では日本語版はまだ未公開〕。この場合、有料プレミアム版のRedの機能は2週間無料で試すことができる。Redはたいへん快適なので、トライアル終了が終了するのが惜しくなり、有料版に登録することになってしまいそうだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

エイベックスとサイバーの定額制音楽配信サービス「AWA」は5月27日よりスタート

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米国ではSpotifyがプレスイベントを開催して、ビデオ配信サービスランナーのペースに合わせて楽曲を選択する機能などを発表している。数日前にはスターバックスとの提携によって、店舗内に流れる楽曲の選択が可能に…なんて話もあった。

ではSpotifyは日本でどんな状況なんだろうか? 日本法人の設立はもう数年前のことで、日本で音楽配信サービスの立ち上げに関わったキーマンらが参画しているなんて話は聞くものの、「間もなくサービス開始」というステータスから変化はないようだ。

ソニーではサブスクリプション(定額制)モデルの音楽配信サービス「Music Unlimited」を3月に終了し、Spotifyと提携した「PlayStation Music」を開始しているが、それも海外だけの話。日本では光景サービスは利用できず、ただ「Music Unlimitedが終了した」というだけの状態。

現在国内で展開するサブスクリプション型の音楽配信サービスと言えば、アジアを中心に1000万超のユーザー数を誇るKDDI傘下の「KKBOX」やJ-POPに強い「レコチョクBEST」など。またちょっと毛色が違うかも知れないが、USENも2013年末から「スマホでUSEN」を開始している。LINEも2014年末にエイベックス・デジタル、ソニー・ミュージックエンタテインメントとともにLINE MUSICを設立。サービス開始に向けて準備を進めている状況だ。

そんな中、以前からサービスの提供を発表していたエイベックスとサイバーエージェントによる音楽配信サービス「AWA」が、5月27日からスタートするという発表があった。

サービスを提供するAWAは、2014年12月の設立。エイベックス・グループ・ホールディングスの100%子会社であるエイベックス・デジタルとサイバーエージェントが共同出資している。アプリケーションの開発や運営をサイバーエージェントが、配信楽曲調達の手配をエイベックス・グループがそれぞれ担当している。

AWAに楽曲を提供するのはKADOKAWAやソニー・ミュージックエンタテインメント、ユニバーサルミュージックをはじめとする17主要レーベル。2015年末までに約500万曲、2016年末までに1000万曲の提供を見込む。また、6000以上のオリジナル「プレイリスト」を用意。ユーザーは自らプレイリストを作成したり、人気DJや音楽プロデューサーなどのプレイリストを利用したりできる。

サービスはプレイリストの視聴などができるLite Plan(月額360円を予定)と、Lite Planの内容に加えてプレイリストの作成・公開などに対応するPremium Plan(月額1080円を予定)の2つのプランを用意。サービス利用開始から90日間は、お試し期間として無料での利用が可能となっている。

YouTube、広告のない有料サービスの提供を準備中?!

Googleが運営するYouTubeが、迷惑がられることも多いプレロール広告を廃する方法を、利用者に提供しようと考案中であるらしい。Wall Street Journalの記事によれば、有料のサブスクリプションサービスを提供し、この有料利用者に対しては一切の広告を表示しないというスタイルを準備中なのだそうだ。

YouTubeのトップであるSusan WojcickiがCode Mobileカンファレンスで語ったところによれば、利用者にさまざまなオプションを提供していきたいのだとのこと。たとえばモバイルでYouTubeを閲覧している人は、広告の間だけ他のアプリケーションを利用するというようなこともやりにくい。したがって増えいく広告に対する不満も徐々に増えつつあるらしいのだ。

そこでひとつの解放として考えられるのが、有料版を提供することだ。広告を表示するかわりにコンテンツを無料で提供するというスタイルに加えて、新たな仕組みを導入することになる。有料版を提供することにすれば、あるいはNetflixに近づいていくということになるのかもしれない。WSJの情報元は、ニュースなどの特定コンテンツ毎の有料オプションを提供する可能性についても言及しているようだ。

コンテンツジャンル毎に、広告のない有料版を提供していくというのは、各ジャンルの閲覧者たちから注目を集めることになるだろう。広告なしで提供する範囲を特定ジャンルに絞ることにより、有料版の費用を抑えることもできるだろう。そして有料で提供するジャンル以外については、従来通り広告付きで配信するという方式は、トータルな収益の面でもプラスに働く可能性がある。

これは噂ばかりが先行する、Googleによる有料の音楽配信サービスとも結びつくものだと考えられる。Wojcickiも、この噂のサービスにつき「間もなく」提供を開始する予定だと話していたが、相変わらず詳細な予定については言及しなかった。

YouTubeが本当に有料サービスの提供を開始するのなら、まずはオリジナルないし人気シリーズの無広告視聴を促すようなものとなるのだろう。特定の番組についてのプロモーションなども増えてくることになりそうだ。これにより、これまでのYouTubeとは別のものが生まれてくることになるのかもしれない。それによる変化に不安を感じる人もいるだろう。しかしともかく広告スキップのためのボタンを押さずに済むことに、魅力を感じる人も多いに違いない。

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(翻訳:Maeda, H