新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、欧州全域で都市の変革を促す触媒の役割を果たしている。市当局が、市民の健康を危険にさらすことなく、あるいは過剰な交通量により渋滞を招くことなく、いかにして都市の機動性を管理するかに力を注いでいるためだ。
いくつかのケースで都市再生のための短期的および長期的な解決策になると見られているのが、マイクロモビリティとローカルコマース(地元経済)だ。この記事では、歩道や自転車専用レーンについて、さまざまなペースで見直しや再生に取り組む4つの大都市(パリ、バルセロナ、ロンドン、ミラノ)の政策を紹介する。
パリの「15分シティ」構想
パリでは毎年、大気汚染のために約2500人が天寿をまっとうすることなく亡くなっている。ヨーロッパのほとんどの都市と同様に、公害の最大の原因は自動車の交通量にある。
過去20年間にわたり一貫した政策が施行された結果、大気汚染は徐々に軽減されてきた。これは長くて険しい道のりであり、その一歩一歩がまた新たな課題を生んでいる。
この20年間にパリ市長を務めたのは、Bertrand Delanoë(ベルトラン・ドラノエ)氏とAnne Hidalgo(アンヌ・イダルゴ)氏の2人のみだ。つまり、その長い任期によってもたらされたいくつかの変革と長期的な構想が論議を呼んでいる。
パリ市当局と自動車との間には、長い対立の歴史がある。20年近く前、バス専用レーンの設置は他の車のスペースを減らすとして、大きな議論を呼んだ。今日では、そのレーンの撤去を求める者はいない。
そのため、同じことが何度も繰り返されているのは、少し皮肉な話だ。例えば、パリのアンヌ・イダルゴ市長は2016年にセーヌ川右岸からの車の通行を禁止した。この決定には、多くの政敵や自動車愛好家から批判の声が上がった。今年の初めの市政選挙では、候補者の誰一人としてセーヌ川右岸について言及しなかった。もはや論点にすらならなかったのである。
しかし、パリ市の政策は自動車の禁止だけに焦点を当てているわけではない。官民を問わず多くの取り組みが行われているパリは、欧州各都市にとってモビリティ実験場のような存在となっている。パリでの取り組みが上手くいけば、その取り組みは他の都市でも再現される可能性があるからだ。
パリがモビリティの実験に適している理由は2つある。1つ目は、人口密度が世界で29番目の大都市であることだ。19世紀後半にGeorges-Eugène Haussmann(ジョルジュ=ウジェーヌ・オスマン)氏が始めたいくつかの急進的な都市化計画は、ほとんどが環状道路に並ぶ7階建ての建物という、同市の近代的な都市計画の基礎を築いた。
パリ市の境界は、100年が経過しても変わっていないため、他の大都市に比べると、比較的小さい方だ。例えば、サンフランシスコは米国の基準では小さな都市だが、面積ではパリよりも大きい。
2つ目の理由は、パリは(何事もなければ)多くの観光客を惹きつけることだ。2019年には、3800万人の観光客がパリを訪れた。これらの観光客は、普通にツーリストらしい行動をとることが多い。つまり一日中、街のあちこちを移動するのだ。
モビリティ改革の原動力「ヴェリブ」
パリ市長アンヌ・イダルゴ氏とヴェリブの自転車(画像クレジット:Loïc Venance / AFP / Getty Images)
地下鉄、地方鉄道、バス、路面電車などの公共交通網が発達していることに加え、他の交通手段も登場している。2005年、リヨン市は、市内に点在する駅のサービス網をベースに、公費の助成により自転車をシェアするサービスVélo’v(ヴィロヴ)を導入した。
その2年後には、パリ市がVélib’(ヴェリブ)と呼ばれる同様のサービスを導入した。ヴェリブが交通機関に与えた影響は計り知れない。サービス開始からわずか数年後、加入者は数十万人に達し、利用回数は1日あたり10万回を超えた。
欧州や米国の他の都市も後を追い、独自のバイクシェアリングサービスを導入している。しかし、ヴェリブほどの成功には至っていない。成長の過程で多少の苦悩はあったものの、ヴェリブは現在40万人以上の加入者を抱えている。2020年9月4日の時点で、同サービスの利用回数は1日あたり20万9000回にのぼる。使用されている自転車は約1万5000台だ。つまり、1日1台あたり14回近く利用されていることになる。
ヴェリブがニューヨークのCiti Bike(シティ・バイク)やロンドンのSantander Cycles(サンタンデール・サイクルズ)よりも成功している理由は、ヴェリブがはるかに安いからだ。乗り放題付きの標準的なヴェリブの会員費は月3.70ドル(約390円)だが、これに対して、ロンドンのサンタンデール・サイクルズの会員費は年間90ポンド(約1万2600円)なので、月約10ドル(約1050円)の計算になるし、ニューヨークのシティバイクは月15ドル(約1560円)だ。ヴェリブの会員費が安いことは明白である。
そして、これはすべて政治的な意図によるものである。ヴェリブは政府から助成を受けているサービスだ。しかし、ヴェリブが財政に与える影響はそう単純な話ではない。走る車が減ることは、道路の維持費を削減する。さらに、公害の低減や自転車で身体を動かすことは、市民の健康促進と、公共医療体制への負担の軽減につながる。
自転車シェアリングサービスでは、サービス網の密度を高めて利用率を高めることが重要であり、それは公的資金がなければ上手くいかない。一定規模のサービス網を整備できれば、サービス網の拡大と新規利用者の獲得という好循環を続けていくことができる。
マイクロモビリティの激戦市場
画像クレジット:Romain Dillet / TechCrunch
多くのスタートアップが、独自のドックなし方式自転車シェアリングサービスで、収益性の高いこの市場に参入してきた。Gobee.bike(ゴービー・バイク)、oBike(オーバイク)、Ofo(オッフォ)、Mobike(モバイク)、そして最近ではBolt(ボルト)が、パリの路上に何千台もの自転車を配備していた。しかしその後、それらはすべて閉鎖されてしまった。現在でも残っているのはLime(ライム)の子会社となったJump(ジャンプ)のみだ。
しかし、自転車は、フランスで「ソフトモビリティ」と呼ばれる交通手段の一つに過ぎない。フリーフローティング(何処にでも停められる)方式の原動機付きのスクーターサービスを運営するCityscoot(シティスクート)もフランスのスタートアップで、同社のサービスも1日に数万回利用されている。
さらに、スクーター(電動キックボード)がある。一時期、あまりにも多くのスクーターのスタートアップがあった。Bird(バード)、ボルト、Bolt Mobility(ボルトモビリティ、ウサインボルトが起業)、Circ(サーク)、Dott(ドット)、Hive(ハイブ)、ジャンプ、ライム、Tier(ティア)、Voi(ヴォイ)、Ufo(ユーエフオー)、そしてWind(ウィンド)。彼らは皆、面白い響きの名前を持っていたし、同じ名前(ボルト)を持つ2つの別会社もあった。それに、いくつかの会社を忘れているかもしれない。
画像クレジット:Romain Dillet / TechCrunch
このことも、パリがマイクロモビリティのスタートアップにとってやはり魅力的な都市であることを示している。観光客も多く、ある場所から別の場所への移動も簡単だ。
スクーターが都市空間を占拠していたため、パリ市行政はマーケットを規制しなければならなかった。現在パリでは、ドット、ライム、ティアの3社がシェアリング電動スクーターの運営許可を得ている。それぞれ5000台のスクーターを運営しており、現在は専用のドックが用意されている。
15分シティ構想
続いて、パリ市長アンヌ・イダルゴ氏は、変革を加速させるいくつかの意欲的な計画を表明した。同氏は、今年初めの再選に向けたキャンペーンで、キーコンセプトとなる「15分シティ」という明確な複数年計画を打ち出した。
「15分シティは、分散型都市の可能性を示す構想だ。その中心にあるのは、都市の社会的機能を融合して、活気に満ちた周辺地域を作るというコンセプトである」と、パリ第一大学教授のCarlos Moreno(カルロス・モレノ)氏はBloomberg(ブルームバーグ)に語った。
モレノ氏は、居住地域、ビジネス街、商業地域は原則として別の区域に分けるべきではないと考えている。それぞれの居住区は、職場、店舗、映画館、保健所、学校、パン屋などがある小さな街であるべきだ、というのが同氏の考えだ。
この「15分シティ」というコンセプトは、二酸化炭素排出量の削減だけでなく、近隣地域の活性化にもつながる可能性を秘めている。社会機能を優先すれば、道路をどう整備すべきかという点はすぐに明らかになるだろう。
15分シティは、多くの事が集約されたコンセプトである。突然、次の10年の都市計画のための強力なブランド力を持つ明確な政治的アジェンダが登場した、ということだ。
新自由主義的に言い換えれば、多くの政策が15分シティ構想から派生していく。パリでは車の所有率は比較的低く、60%を超える世帯が車を持っていない。さらに驚くべきことに、通勤者が車を使うことは極めて稀であり、9.5%に過ぎない。
ここから2つの結論が導き出される。1つ目は、自動車はもはや優先事項ではないということだ。2024年には、パリでディーゼル車を運転できなくなる。2030年にはガソリン自動車も禁止される。
いくつかの幹線道路では「ソフトモビリティ」に主眼が置かれるようになった。コロナウイルスの大流行に起因するロックダウンを機に、パリ市は新しい自転車レーンを設置したり、道路の用途を変更したりして、モビリティの課題解決を加速させた。これは、Naomi Klein(ナオミ・クライン)氏が自身の著書で説明した、新自由主義的なショック・ドクトリン(惨事便乗型資本主義)を模倣しているように感じる。しかし同時に、行政はグリーンイニシアチブに力を入れているのだから、”逆”ショック・ドクトリンのようにも感じられる。
例えば、リヴォリ通りはかつて、シャンゼリゼとバスティーユを結ぶ幹線道路だった。現在では、道路の3分の1がバス専用、3分の2が自転車やeスクーターの専用レーンとなっている。
リヴォリ通り(画像クレジット:Romain Dillet / TechCrunch)
2つ目は、パリ市がスペースを再生利用しようとしているということだ。パリにある自動車は、時間にして95%が駐車されたままだ。そのため、パリ市は駐車場の50%を撤去し、代わりに、いくつかの通りを庭園に変えたいと考えている。市庁舎前や、エッフェル塔とトロカデロ広場の間に新しい公園を造るという、さらに大規模な計画もある。
何十年にもわたる漸進的な変化は、すべてが劇的な変遷の下地となっている。パリでは、変革は少しずつ進み、そして突然、その目的を達成する。
画像クレジット:Romain Dillet / TechCrunch
バルセロナの「スーパーブロック」計画
スペイン第2の都市であるカタルーニャ州都バルセロナは、2013年、ひどい状態の街路空間を歩行者に優しいものに変え、自家用車の優先順位を下げることを目的とした新しい都市モビリティ計画を承認した。バルセロナは欧州で最も車両密度が高く、それが大きな問題となっている。
バルセロナ市当局の報告によると、車両密度は1平方キロ当たり約6000台で、大気の質や公衆衛生に悪影響を及ぼすことが明らかになっている。公式統計によると、交通公害は年間3500人の早死に原因となっており、1800人が心肺疾患で入院している。また、成人では5100人、子供では3万1100人が気管支炎を発症し、子供と成人合せて5万4000人が喘息発作を起こしている。
この公衆衛生上の危機に対するバルセロナ市の解決策は、近年の意欲的な歩行者専用道路化計画であり、「super islands(スーパーアイランド)」や「superblocks(スーパーブロック)」としても知られる「superilles(スーペリアレス、カタルーニャ語)」を作ることに重点を置いている。これは、いくつかの道路の機能を、車を運ぶことから近隣住民の生活を第一に考えることへの転換を意味する。
ここ何年かで、数か所にスーパーブロックが設置された。グラシア区にあるようなスーパーブロックはすっかり馴染みの風景の一部となっているため、その効果に気付きにくいが、立ち止まって意識すれば、多くの歩行者が出歩いていること、車はその後ろを忍び寄るように徐行していること、また、歩道の端が段差もなく道路に溶け込んでいることに気付くだろう。
しかし、バルセロナは現在、Ada Colau(アダ・コラウ)市長が提唱するこの政策を、さらに広範囲に拡大することを計画している。今後10年間で、密集した中心部のアシャンプラ地区にスーパーブロックを整備し、より多くの緑豊かな(そして低速の)都市空間を創出しようとするものだ。そしてこれは、同市の中心部に位置し、以前のものと比較して規模が大きいことを考慮して、バルセロナ・スーパーブロックと名付けられた。
当然ながら、スーパーブロック構想はマイクロモビリティと相性が良く、自転車レーンのネットワークを市内に構築することは、都市モビリティ計画の重要な部分となっている。
バルセロナでは2007年から、赤い自転車が目印の、Bicing(ビシング)と呼ばれるドックあり方式自転車レンタルスキームを導入している。最近になって、普通の自転車に加えて電動自転車も導入され、パリの利用回数には及ばないとはいえ、地元住民の間では非常に人気がある(ちなみに、ビシングに加入するには地元で発行された身分証明書が必要であるため、観光客は利用できない)。
公式データによると、ビシングは2020年9月の時点で12万7000人を超える加入者を獲得しており、1か月あたりの利用回数は約130万回にのぼったという。
近年はeスクーターの所有者も急増しており、公道での個人利用を禁止する法律は特にないが、レンタル会社は規制に直面している。しかし、バードからボルト、ウィンドまで、スクーターのスタートアップ各社はあきらめていない。何とかして同市に参入しようと、規制を回避する方法を模索している。
既に歩行者と自転車が車よりも優先されているバルセロナ、グラシア地区の通りに停められた1対のWind社eスクーター(画像クレジット:Natasha Lomas / TechCrunch)
スーパーブロック計画は、自転車やマイクロモビリティの促進のみならず、街路を、「自動車のための」通路という用途から、人々が出会い、集まり、商売することを奨励する、緑豊かで快適な空間へと転換し、地元経済を活性化させることも目的としている。
バルセロナは、別の交通規制政策として、今年に入ってから排出ガス量に基づく車両の規制を開始し、古いガソリン車やディーゼル車のピーク時間帯の進入を禁止した(この規制は、来年から配送用車両にも適用される)。また、規制対象車両の所有者には、公共交通機関を3年間無料で使えるカードと引き換えに車を手放すように奨励している(つまり、既存の地下鉄、電車、バスのネットワークを利用するように人々を誘導している)。
歴史上の過ちを正す
スーパーブロックへの変換に伴い、バルセロナの都市計画担当者が解決を目指している、建築に関する歴史上の課題がある。
1856年にカタルーニャ人の土木技術者Ildefons Cerdà(イルデフォンソ・セルダ)氏によって考案されたアシャンプラ地区中心部のグリッド構造は、成長する都市の健全な拡張を目的とし、すべての住宅ブロック内に緑地を確保できるようにしていた。
しかしこの計画は、不十分な規制の下で推進され、地価と住宅価格の上昇の煽りを受けたこともあり、時間の経過とともに開発業者や投機家が緑地用地を別の目的で使うことを許してしまった。そのため、開放された公共スペースとして用意されていたブロックの隙間が食い尽くされ、その結果、セルダ氏が計画していたよりもはるかに密集した街になってしまった。そして(ガソリン車やディーゼル車が密集している限り)、散策するには騒がしく、汚染されていて不快な場所となっている。
バルセロナのスーパーブロックは、市行政の都市計画の遂行におけるこのような歴史的過ちを正そうとする試みである。あるいは「19世紀後半のバルセロナを近代化し、公衆衛生のためにより良い状態を造り上げること」と、市当局は語る。
これはまた、都市計画が公共の利益のため確実に機能するように、私的な経済的利害による不当な外圧を抑え、住民の健康、生活の質、地元経済を守るために、計画に応じた適切な規制が必要であることの教訓にもなっている。
バルセロナのスーパーブロック計画では、2030年までにアシャンプラ区にある61の道路の約3分の1が、歩行者専用道路の「緑の軸」に転換される予定だ。また、21か所の対角交差点に新しい公共広場が作られることになっている。
市当局は、この転換には時間がかかると見ており、住民の協力を得ることが必要だと考えている。しかし、市当局には、この計画を支持するデータがある。例えば、ポブレノウ地区をはじめとするスーパーブロック成功例がいくつかあり、転換後の交差点の1つで二酸化窒素の汚染が3分の1に減少した事例や、街路レベルでの商業活動が同様に増加した事例もある。
新しい街路モデルの詳細はまだ決定されておらず、来年、同市はモデルを選ぶためのデザインコンテストを開催する予定だが、夏季には街路の80%を樹木や植生で日陰にすることや、路面の少なくとも20%を舗装ではなく透水性のあるものにするなど、重要なパラメータが設定されている。
バルセロナのスーパーブロック都市構想が描く街路の進化(画像クレジット:Barcelona City Council)
「出歩きたくなるような空間、子供の自発的な遊びや快適な生活を促すような空間を創り出す必要があります。また、フェア、コンサート、その他のイベントなど様々な臨時の用途に対応できる柔軟なスペースを設計することが求められます。女性に優しく、子どもや高齢者を優先する視点を持って、サービスや地域商業を促進します」とプレスリリース[カタルーニャ語から翻訳]には書かれている。
市当局はその目的について、「住民のことを考えて設計された、健康的で、より持続可能な公共空間のモデルにより、社会的な関係を促進して地元の商業活動を活性化させ、子供や高齢者のニーズに焦点を当てること」、と説明している。
当局はまた、スーパーブロック全体で公共交通機関を利用しやすくすることも計画している。
最初の4つの道路(コンセル・デ・セント通り、ジローナ通り、ロカフォート通り、コンテ・ボレル通り)の転換作業は、2022年の第1四半期に開始される予定である。市当局は、この転換作業のために3780万ユーロ(約47億円)を支出することをすでに決めている。しかし、完全な転換を実現するには、さらに多くの公的資金が必要なことは明らかだ。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、規模は小さいが歩行者に焦点を当てた都市改造を加速させる機会となってきた。例えば、バルセロナ市当局は、ロックダウンのせいで街が比較的静かな間に、市内の自転車レーンのネットワークを拡大し、新型コロナウイルス感染症対策として緊急歩行者ゾーンを設置して屋外のスペースを拡大した。
また、バルセロナ市内の路上駐車場の一部は、市の要請によりパンデミックの間、カフェやバーの屋外テラススペースとして代用されている。
しかし、自動車交通が独占している不健康な都市インフラをリセットする必要性は、バルセロナ市が何十年にもわたって取り組んできた問題である。これまでも、地域イベントの開催時や週末に一時的に道路を閉鎖することを許可するなど、さまざまな政策で少しずつこの問題に対処してきた。
そのため、バルセロナの多くの住民にとって、健康的で商業的に活発な都市空間を作ることは、自動車が歩行者に道路を明け渡すことであると言っても過言ではない。そして2030年の「バルセロナ・スーパーブロック」は、全体のバランスを良い方向へと変えていくように見える。
とはいえ、市の中心部を横断するいくつかの高速道路に対して何の措置も講じていないため、このプロジェクトは十分に急進的ではないという批判もある。バルセロナの自動車からの脱却はまだ、パリで計画されているものほど急進的とは言えないようだ。
バルセロナ、ポブレノウ地区の自転車専用レーンとバードのeスクーター (画像クレジット:Natasha Lomas / TechCrunch London’s Low-Traffic Neighbourhoods)
ロンドンの「低交通量区域(LTN)」規制
英国の首都ロンドンは2003年以来、市の中心部で渋滞料金の徴収を行っており、最も混雑する時間帯の道路利用を減らすために、その地域に進入する自動車の運転手から料金を徴収している。この政策により、ロンドンは欧州において、都市部における車両通行規制の先駆者となった。
しかし、この問題に関する国民的、および政治的なコンセンサスの欠如により、長期にわたって政策の展開が制限され、2010年末には、当時のロンドン市長Boris Johnson(ボリス・ジョンソン)氏が西部拡張地域として知られるゾーンの一部を廃止したことで、政策の後退にさえつながった。
ロンドンの巨大な人口と無秩序に拡大した規模は、商業ゾーンがクラスター化している傾向があり、大規模な住宅地(所得によって分けられている場合が多い)から離れた場所に集中しているため、移動手段の問題は、人々や企業にとって意見が分かれる問題となるだろう。そのため、ロンドンが「自動車ゼロの街」になれないことは明らかだ。
しかし同時に、ロンドンは公共交通機関(バス、地下鉄、路面電車、市内鉄道)が非常に充実しており、車を使わなくても移動には事欠かない。自家用車を持つ必要もない。また、ここ数十年の間に、市内の自転車専用レーンのネットワークの拡充にも投資してきた。また、2010年からは、利用時払いのドックあり方式自転車の有料レンタルサービスが運営されており、2017年の時点で合計のべ1000万回利用されている。
しかしまた、車で埋め尽くされた道路と欧州北部の気候が、自転車で風雨に立ち向かおうとする人々の意欲をくじく可能性がある。
さらに、英国の既存の規制も、eスクーターのような現代的な代替手段の採用を妨げてきた。しかし現在、この種のマイクロモビリティに街路を開放しようとする動きがあり、同市の交通規制当局は、スクーターのレンタル会社を対象とした試験運用の準備をしている。
車の使用を抑制するための断固とした政策の欠如は、間違いなく、数十年にわたってロンドンの空気を酷く汚染し、ひいては市民の健康に深刻な影響をもたらしてきた(2015年のある研究では、汚染に長期間さらされたことによる死亡者数は年間9500人にも上る可能性があることが示唆されている)。その一方、都市交通に関連した健康リスクに対する意識の高まりは、市当局が課徴金の適用により、有害物質を多く排出する車両が渋滞区域を通過することを抑止する政策の推進につながり、汚染レベルを低減させる効果として現れてきている。
ロンドンの「超低排出ゾーン(ULEZ)」は来年、市内のより広い範囲をカバーするように拡大される予定だ。このように、都市部での車の利用をよりクリーンで無害なものにしていこうという取り組みは、一貫性が欠けてはいたものの、政府主導で多少なりとも持続的に行われてきた。
しかし、最近では、新型コロナウイルス感染症のショックが、住宅地の通り抜けを行政区や地域レベルで禁止しようとする草の根キャンペーンを誘発するという、より劇的な変化が起きている。
このような取り組みは、いわゆる低交通量区域(LTN)を適用することによって行われる。LTNの適用には、効果的に配置されたプランターや車止めポール、抜け道としての使用を防止するための時間的な通行制限など、交通量を低減するためのさまざまな措置が含まれる。
交通によって発生する騒音や汚染と隣り合わせの生活にうんざりしているロンドンのいくつかの行政区の住民たちは、新型コロナウイルス感染症に関連した移動制限を利用して、自宅近くの道路が抜け道として利用されることを抑制するチャンスをつかんだ。
Bloomberg(ブルームバーグ)によると、7月下旬の時点で、ロンドンでは114のLTNの計画が進行中である。
ここでも意見の対立はあり、LTNを適用しても、抜け道を使う車が他の道路に移動するだけではないかという苦情を含め、反対意見も上がっている。
また、相対的に裕福な地域が不釣り合いに恩恵を受け、より貧しい地域を犠牲にしているという、社会経済的に重要な批判もある。
このような反対意見は、LTNがパンデミック後、比較的迅速に実施されたことが一因で発生している可能性もある。より参加型のプロセス、および多方面にわたるモニタリングと協議を行えば、このような反対意見は回避できるかもしれない。
しかし、LTNに住んでいる幸運な人々にとっては、その恩恵を無視することは難しい。ブルームバーグは、あるLTNで見られた街路環境の変化について、「今では、スピードを出して走る車の代わりに、通りには、車から降りて近所を探索するように呼びかけるストリートチョークや壁画、花、子どものイラスト入りの看板などがある」と報じている。
新型コロナウイルス感染症緊急対策の一環として、住民のためにより多くの街路スペースを作れるよう歩行者専用化されたダリッジ地区の交差点(画像クレジット:Richard Baker / In Pictures / Getty Images)
5月、ロンドンのSadiq Khan(サディク・カーン)市長は、来年再選された場合、2030年までにロンドンをカーボンニュートラルにすることを公約した。また「ストリートスペース」計画を発表し「ロンドンの街路を急速に変容させて自転車の10倍の増加と 徒歩の5倍の増加に対応する」ことを目的としたさまざまな政策を推進している。
この計画では、ロンドンでの市内移動で優先される方法として、徒歩や自転車と並んでスクーターの使用が明示的に奨励されている。
ロックダウン規制の緩和後も依然として新型コロナウイルス感染症のリスクが残る現在、市民がロンドンの公共交通機関から離れ、車の利用に戻ってしまうことを避けることも、この政策を推進する動機の一部となっている。
カーン市長のストリートスペース計画はまた、LTNの支援を表明している。しかし、最終的には、ロンドンの交通を制限する権限は地方自治体(または中央政府)にある。市長の権限でできるのは、ロンドン市民が「よりクリーンで持続可能な交通手段」に切り替えるよう、市民を促す措置への取り組みを政府または自治区議会に「要請する」ことだ。
LTN関連政策にロンドンの中央当局が関わっていないことは、これらの「通り抜けできない地域」がロンドンで普及する範囲と速さを制限する可能性がある。
それでもなお、この取り組みは、ロンドン市民が住宅地の街路を安らげる場所として取り戻したいと考えていることを示す、興味深い動きである。
ロンドン市長のストリートスペース計画の一環として、プランターを置いて通り抜けを防止している(画像クレジット:Photo by Richard Baker / In Pictures / Getty Images. Milan’s Open Streets)
ミラノの「オープンストリート」計画
イタリアの北部工業地帯は、新型コロナウイルス感染症パンデミックの第一波の間、ヨーロッパで最も被害の大きかった地域の一つだった。ロックダウンの延長により、ミラノのような都市では、企業が閉鎖されて住民が屋内に閉じこもり、数か月の間、自動車が通りから一掃された。そして、その結果、汚染されていることで悪名高い地域の大気の質が顕著に改善された。
ミラノ当局は以来、、これを、スモッグで満ちた「いつもの生活」と強制的な決別する機会と考え、Strade Aperte(ストレイド・アペルテ、オープン・ストリートの意味)と呼ばれるモビリティ計画の下で、実験的に自転車専用レーンと歩行者専用ゾーンの市全体への拡大を推進している。これは、ロックダウンが解かれて都市生活が元に戻ったときに、ソーシャルディスタンスを確保できるようにインフラを適応させることを目的としている。
オープンストリート計画には、道路標識や速度制御のための構造的要素を取り入れることにより、ミラノの多くの道路で制限速度を50km/hから30km/hに引き下げること、また、年内に既存の自転車ネットワークを35km延ばすことなどが含まれている。
ミラノ市は、2008年にドックあり方式の自転車レンタルサービス、BikeMI(バイクミー)を開始した。
ミラノは、自転車レーンのネットワークを拡大することで、ロックダウン後の自転車利用を促進しようとしている(画像クレジット:Emanuele Cremaschi / Getty Images)
ミラノ市当局はこの計画について、「ミラノ2020適応戦略が予見しているように、現在の健康危機は、より持続可能で汚染のない移動手段を増やし、物理的な距離要件を尊重しながら、商業、レクリエーション、文化、スポーツのために道路や公共スペースを再定義することで、人々により多くのスペースを提供し、市の環境条件を改善することを決定する機会となり得る」と、同計画に関するある覚書に書いている。
推進される政策を包括的に見ると、その方向性は、パリのビジョンと同じ目標、つまり「地域のサイズ」という概念と同じだ。つまり、すべての市民が、徒歩15分以内に、ほぼすべてのサービスに確実にアクセスできる街を作る、ということだ。
住民がウイルスと共に生きることを余儀なくされている今、これは戦略的な目標である。同時に、対策のいくつかは「一時的な」ものとして策定されている。
しかし、パンデミックが今のように急速な変化を促す触媒または大義として機能する前から、市当局は都市インフラを再利用して市民に健康面での利益、および環境面での利益をもたらし、人々を車から降ろして近所を自転車や徒歩で移動させることで地域の商業 を後押しする方法を探していた。
そのため、より騒がしく、汚染を悪化させ、遊び心のない道路に逆戻りすることを望む声が上がるとは考えにくい。
ミラノでも同じことが言える。都市交通の方向性は、車が庶民を支配し道路を他の場所へのデフォルトハイウェイとすることを許すのではなく、人々と地元密着型のマイクロモビリティのために開かれた公共空間として道路の在り方を再考することにある。Addio macchina(自動車よ、さらば)。
ミランの街をスクーターで走る(画像クレジット:Mairo Cinquetti / NurPhoto / Getty Images)
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(翻訳:Dragonfly)