早起きは三文の「損」であることが判明!? 朝型人間と夜型人間の睡眠の問題と生産性との関連を調査

早起きは三文の「損」であることが判明!? 朝型人間の夜ふかしと夜型人間の早起きに関する生産性との関連を調査

東京医科大学は3月28日、いわゆる朝型人間と夜型人間の睡眠の問題と生産性との関連性を調査し、朝型人間の夜ふかしと、夜型人間の早起きが、生産性低下に関連していることを明らかにした

人間には、早寝早起きで昼間に高い生産性を発揮する朝型の人と、遅寝遅起きで夜に高い生産性を示す夜型の人がいる。こうした朝型か夜型かの体内時計の傾向は「クロノタイプ」と呼ばれている。クロノタイプは遺伝や細胞周期によって決められているため、後天的に修正することは難しい。そのため、朝型の人の夜勤、夜型の人の早朝勤務では体の調子が出ずに生産性が下がり、これを続けると健康上の問題が生じることがわかっている。しかし、クロノタイプと生産性低下との関連を調べた既存研究がわずかにあるものの、見解が一致していない。そこで、東京医科大学精神医学分野の志村哲祥兼任講師らによる研究グループは、クロノタイプと生産性の関係、つまり本当に「早起きは三文の得」なのかを調査した。

調査対象は、2017年から2019年にかけて、IT・官公庁・金融・放送業・コンサル業などの第三次産業42社に勤務する人のうち、質問紙調査に回答しデータ利用に同意した8155人。平均年齢は36.7歳。

まずは体内時計の指標となる「睡眠負債がない状態において、自然に眠り自然に起きるときの、睡眠時間帯の中間時刻」を調べたところ、平均は午前4時16分だった(平均4:16。標準偏差:1:33)。これは、0時過ぎに寝て8時ごろに起きることを意味し、ここに属する人が全体でもっとも多かった。そして、午前1時30分以降に寝て9時30分以降に起きる夜型と、夜10時半ごろ前に寝て6時半以前に自然に起きる朝型の人とが少なくない割合で存在した。

生産性については、1時間の遅寝で生産性が0.29%低下し、1時間の早起きで0.14%低下することがわかった。この傾向には朝型と夜型で違いがある。朝型は起床時刻による影響はなく、入眠時刻が1時間遅れると生産性が0.48%低下していた。夜型では入眠時刻の影響はなく、起床時刻が1時間早まると生産性が0.26%低下した。

夜型の傾向が強いほど生産性が低いことも示されたが、それはクロノタイプと生産性低下(プレゼンティズム)が直接関連しているからではなかった。夜型の人は様々な要因から睡眠に問題を生じやすく、そのために生産性が落ちるという間接的な理由からだった。

早起きは三文の得か否かについては、前述のとおり1時間の早起きで0.14〜0.26%の生産性低下が見られる。これをOECDの平均賃金に換算すると年額8000〜1万3500円ほどとなり、日額にすると約3文になるとのこと。つまり、早起きは3文の損だったわけだ。

このことから研究グループは、健康的な生活を通じて生産性を維持するためには、「夜ふかししないこと」、「無理に早起きしないこと」、「良好な睡眠をとること」が重要だと話している。

職域向けオンライン診療など健康支援プログラムを提供するリンケージが約5.5億円のシリーズA調達、上場準備室も設置

職域向けオンライン診療など健康支援プログラムを提供するリンケージが約5.5億円のシリーズA調達、上場準備室も設置

予防医療テックで職域向けにオンライン診療などの健康支援プログラムを提供するリンケージは3月30日、第三者割当増資による資金調達を実施した。引受先は、マイナビ、Medical Development Support 1号投資事業有限責任組合、個人投資家の竹内真氏、上沢仁氏など。これにより、シリーズAラウンドの累計調達額は約5億5000万円、また累計調達額は8億円となった。調達した資金は、主にプロダクトの機能拡充、質の高いサービス提供のための人材採用にあてる予定。

また同社は、さらなる企業成長を見据え、上場準備室を設置した。ヘルスケアスタートアップとしてのノウハウを活かした事業展開で健康総合支援企業となるビジョンを体現し、次のステージへの到達を目指す。

「テクノロジーとのつながりで健康意識の温度をあげる」をミッションに掲げるリンケージは、2011年6月の設立以来、「オンライン禁煙診療」や、オンライン問診を起点に従業員の心身の健康課題を可視化し、必要な医療へのアクセスや組織の生産性向上につなげる「Rasika」「FEMCLE」などの企業向けヘルスケアサービスを展開。のべ174組合、企業1550社への健康サポート実績があり、加入者数約600万人以上のネットワークを有している。

Rasikaは、テレワークなどの新しい働き方にも対応したメンタルウェルネスサービス。東京大学医学部附属病院心療内科との共同研究により開発した独自ストレスチェックの質問項目により、テレワークや生活習慣との相関を含め、従業員のストレス要因を多角的に分析可能という。またFEMCLEは、働く女性の健康課題を可視化し、専門医のフォローで労働生産性を改善する法人向け女性ヘルスケアサービス。NPO法人日本子宮内膜症啓発会議(JECIE)、豊富な経験・実績を持つ約100名の専門医のサポートのもと展開する、働く女性の健康課題に着目したサービスとなっている。

同社が考える「健康」とは、「自分らしくあることを阻害する、こころとからだの不調がないこと」という。あらゆるネットワークを活用し、企業コミュニティを通じて人々の健康意識を高めており、厚生労働省「国民医療費の概況」にある医科診療費の傷病別内訳では、生活習慣病、老化に伴う疾患、精神疾患、その他(腎不全など)の順となっており、リンケージではこれらの領域のほとんどをカバーしているとした。職域向けオンライン診療など健康支援プログラムを提供するリンケージが約5.5億円のシリーズA調達、上場準備室も設置

グーグルがFitbitの不整脈監視技術をFDAに認可申請、Apple Watchより高精度との研究結果

グーグルがFitbitの不整脈監視技術をFDAに認可申請、アメリカ心臓協会がApple Watchより高精度との研究結果

FitBit Charge 5 Engadget

Googleが、ユーザーの心拍を監視する技術のデータを米食品医薬品局(FDA)に提出、審査申請したことを明らかにしました。Googleによれば、この心拍モニタリング技術のアルゴリズムはユーザーの心房細動を98%の確率で発見できるとのこと。

この技術は、赤外線を照射して動脈や毛細血管の血流量変化を監視、心拍情報を得る光電式容積脈波記録法(PPG)を用い、受動的にユーザーの手首の血流を追跡することで不整脈などを検知します。

FItbitはGoogleに買収される前の2020年からこの技術に関する研究を開始しており、これまでに50万人近いユーザーが参加してデータを提供してきました。その結果、参加者の約1%となる5000人弱に不整脈が見つかったとのこと。そして、この技術の正確性を判断するため、不整脈が見つかった人々にパッチ型の心電図レコーダーを使用した遠隔診断を提案、約1000人がそれに応じて調査を実施したところ、その1/3の人たちの診断が確定。心房細動に関するこの技術の予測正確性が98%と算定されました。この研究調査結果は2021年にアメリカ心臓協会に発表されています。

ちなみに、Apple Watchの心房細動検出機能は、同様の規模で行われた研究によると84%だったとのことで、Fitbit社のリサーチサイエンティストTony Faranesh氏は「この結果は非常に有望であり、不整脈の早期発見と治療に実際に役立つものと考える」とコメントしています。

不整脈の一種である心房細動は、血流の停滞を引き起こすことで心房内に血栓を発生し、それが剥がれて末端の血管を詰まらせたり、はては心原性脳塞栓症と呼ばれる脳梗塞を引き起こす可能性があります。日常的に身につけるデバイスでより正確に不整脈の監視が可能になるということは、このような命に関わる症状を実際に予防するまではできなくとも、心構えや何らかの備えになることが期待されます。

なお、この研究で用いられたパッシブ心拍モニタリング技術はFDAに承認申請が出された段階であるため、Faranesh氏はこの機能がいつ頃Fitbitのデバイスで利用可能になるのかについては述べていません。しかし、同種の機能を用いたApple Watchでは、心電図アプリがユーザーの異常を早期に検知した結果重大な事態に至らずに済んだという話がよく伝えられており、より高精度に異常検出が可能なFitbitデバイスの発売が期待されるところです。

(Source:GoogleEngadget日本版より転載)

NVIDIAが高性能AIを医療の現場にもたらす、AI搭載の医療機器開発プラットフォーム「Clara Holoscan MGX」を発表

高性能な画像処理装置(GPU)で知られるNVIDIA(エヌビディア)は今週、AI搭載の医療機器を開発するためのプラットフォームをデビューさせた。Clara Holoscan MGX(クララ・ホロスキャンMGX)と呼ばれるこのデバイスは、そのコンピューティングパワーにより、医療用センサーが複数のデータストリームを並行して処理し、AIアルゴリズムを訓練し、生物学をリアルタイムで視覚化することを可能にする。

NVIDIAの2022年GTCカンファレンスでデビューしたClara Holoscan MGXは、Jensen Huang(ジェン・スン・フアン)CEOが基調講演で述べたように「オープンでスケーラブルなロボティクスプラットフォーム」であり、ロボットの医療機器やセンサーをAIアプリケーションとつなぐために設計されたハードウェアとソフトウェアのスタックだ。

どう機能するのか。内視鏡検査のプロセスを例にとる。通常、医師は体の中に小さなカメラを挿入し、内部を観察する。Clara Holoscan MGXはカメラに直接接続され、収集したデータをリアルタイムに処理する。データはAIモデルに送られ、異常を検出し、解剖学的な分析を経て、外科医が治療計画に役立てる(断っておくが、これらのAIモデルはNVIDIAが作るのではなく、同社のハードウェア上で動くだけだ)。

NVIDIAはすでにGPUでよく知られており、そのGPUは特に並列計算を高速に実行することに優れている。GPUはかつてゲーマーに最もよく知られていたが、今やディープニューラルネットワークのトレーニングに関心を持つあらゆる業界にとって重要なアクセラレータになった。ディープニューラルネットワークは、例えばX線の読み取りを学習する際に、何十億ものデータポイントをすばやく計算する必要がある。そして、得られたモデルをリアルタイムで使用するためにも、多くの計算が求められる。このプラットフォームは、そうした用途を念頭に置いている。

NVIDIAはAI分野の支配的なプレイヤーとなった。上記のようなプロジェクトの多くに必要な生の計算能力を提供し、業界に特化したハードウェアとソフトウェアの組み合わせで、それを実現してきたからだ。例えば同社は、自動運転車の訓練と開発のためのプラットフォームであるNVIDIA Driveなどの自動運転車の分野のプロジェクトで積極的に動いている。

NVIDIAは、すでにヘルスケア領域への進出を果たした。2018年に初めて発表されたClaraプラットフォームは当初、スムーズな医療画像体験を実現するために設計された。このプラットフォームは年々拡張されてきたが、今回のClara Holoscan MGXプラットフォームは、基本的にはワンストップショップになることが目的だ。

NVIDIAのヘルスケア担当副社長Kimberly Powell(キンバリー・パウエル)氏はTechCrunchに対し、Clara Holoscanは「完全なエンド・ツー・エンドプラットフォームです。医療機器にとってのNVIDIA Clara Holoscanは、自動運転車にとってのNVIDIA Driveと同じ関係です」と語った。

Clara Holoscanの中核となる革新的な技術は2つあるとパウエル氏はいう。まず、医療用ソフトウェアを安全に開発するためのベンチマークプロセスであるIEC 62304規格に準拠した設計になっていること。そして、フアン氏が「非常識」と呼ぶほどのコンピューティングパワーを搭載していることだ。

この組み合わせにより、AIを搭載した医療機器の開発やトレーニングを検討している企業は、より迅速に前進することができるはずだ。

画像クレジット:NVIDIA

「Clara Holoscanのアーキテクチャは、新しい医療機器や『医療機器としてのソフトウェア』を市場に投入するために必要なエンジニアリング投資を大幅に削減します」とパウエル氏は話す。

NVIDIAが売り込んでいること、つまりデバイスとAIの組み合わせを実現しようとしている企業はすでに多数存在する。例えばスタートアップのActiv Surgicalは、AI支援型手術用スコープ(製品名:ActivSight)にNVIDIAのGPUを使用しており、スコープのデータから情報を得るAIアプリケーションをさらに充実させようとしている。そのために、同社はNVIDIAのInceptionプログラムに入り、Clara AGX Developer Kitに早期にアクセスできるようになった。プレスリリースを読む限り、そのキットは、NVIDIAの技術が製品開発を加速させるというパウエル氏の主張を象徴している。

「ActivSightを含め、将来、Activ Surgicalの製品を今後2年以内に市場に出すために、この開発者キットが全体の開発期間を短縮することにもなります」とActiv Surgicalのプレスリリースには書かれている。

現時点では、Clara Holoscanの全能力を利用することはできない。基調講演でフアン氏は、医療グレードの技術が早期利用できるようになるのは2023年第1四半期だと述べた。その時点で、ハードウェアの価格がNVIDIAのODMパートナーによって設定されて初めて、ソフトウェアの価格が「判明する」とパウエル氏は付け加えた(その情報はここに登場するようだ)。

今のところ、Clara Holoscan MGXの発売は、AIヘルスケア分野におけるNVIDIAのすでに確固たる足場をさらに強化するように思われる。基本的に、同社はそのプラットフォームの下にある計算の岩盤を構築しているのだ。

そして、それは良い分野だ。スタンフォード大学の「2022 AI Index」レポートによると、2021年のAIへの民間投資の2大領域は、上記2つの交わるところだった。データ管理・処理・クラウドコンピューティングに122億ドル(約1兆4830億円)、医療・ヘルスケアツールに112億9000万ドル(約1兆3720億円)が投資された。

画像クレジット:NVIDIA

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

美容クリニック向けSaaS「medicalforce」を展開するメディカルフォースが1億円調達、サービス開発および採用を強化

美容クリニック向けSaaS「medicalforce」を提供するメディカルフォースは3月18日、プレシリーズAラウンドにて総額1億円の資金調達を実施したことを発表した。引受先はDNX Ventures、ANRI、個人投資家2名。調達した資金は、medicalforceの開発とチームの採用強化にあてる。また、シードラウンドおよびデットでのファイナンスを含めた累計調達額は約1億3000万円となった。

medicalforceは、美容クリニックの現場業務のデジタル化および経営支援を目指すサービス。予約、問診、カルテ、会計といった日常業務をすべて一元管理することが可能。「予約はGoogleカレンダーで、カルテは保険診療向け電子カルテ」など個別のシステムを使っている場合に発生する、情報がバラバラなためにダブルチェックの手間や集計が煩雑になるという課題を解決できる。また、予約・カルテ・会計の集約情報を基にLINEやメールでのメッセージ発信も行なえる。経営管理ダッシュボード、リマインド・ステップ配信などのCRM機能を搭載しており、経営面においても効率化を図れる。

美容クリニック向けSaaS「medicalforce」を展開するメディカルフォースが1億円調達、サービス開発および採用を強化

次世代型mRNA創薬の実用化に向けた名古屋大学発スタートアップCrafton Biotechnology設立

次世代型mRNA創薬の実用化に向けた名古屋大学発スタートアップCrafton Biotechnology設立

名古屋大学は3月18日、メッセンジャーRNA(mRNA)の製造、分子設計・医学に関する知見、AI、データサイエンス、シンセティックバイオロジー(合成生物学)などの最先端技術を融合し、次世代型mRNA創薬を目指す名古屋大学発スタートアップCrafton Biotechnology(クラフトンバイオロジー)を3月1日に設立したと発表した。国産mRNAワクチンの速やかな供給をはじめ、がんや遺伝子病の治療、再生医療にも応用されるmRNA創薬に取り組むという。

Crafton Biotechnologyは、名古屋大学、京都府立医科大学、早稲田大学、理化学研究所、横浜市立大学の共同研究を実用化することを目的に設立された。10年以上にわたりmRNAワクチンと医薬品の開発に取り組んできた名古屋大学大学院理学研究科の阿部洋教授と京都府立医科大学大学院医学研究科医系化学の内田智士准教授らが、AI、データサイエンスを専門とする早稲田大学の浜田道昭教授、シンセティックバイオロジーを専門とし進化分子工学の手法を採り入れた次世代mRNAの製造法と設計法を開発する理化学研究所の清水義宏チームリーダー、さらに、副反応の少ないmRNAワクチンの開発を進める京都府立医科大学大学院医学研究科麻酔科学の佐和貞治教授と横浜市立大学眼科学の柳靖雄教授らが連携し、「強固なベンチャーエコシステム」を構築するという。そのとりまとめを行うのが、代表取締役を務める名古屋大学大学院理学研究科の金承鶴特任教授。そのほか、安倍洋教授が最高科学責任者、内田智士准教授が最高医療責任者に就任した。名古屋大学インキュベーション施設に拠点を置き、各研究機関の技術をライセンス化して一元的に集約。mRNA技術の事業基盤を確立し開発を促進する。

同社は数年以内に国内でmRNAを製造できる体制を整備し、安定供給を目指す。また独自の創薬技術を整備して、新型コロナウイルスに限らず、感染症のパンデミック時に独自開発したmRNAワクチンの迅速な供給を可能にすると話す。また、治療技術の海外依存度が大変に高くなっている現在、医薬品産業における日本の国際競争力を高める上で非常に重要な「ワクチンを超えた医薬品としてのmRNAの応用」として、がんや遺伝性疾患、再生医療への応用にも取り組むとしている。

Ultrahumanのグルコーストラッカー「Cyborg」を4週間装着、自分を定量化することで何ができるのか?

2021年のある4週間、TechCrunchの記者である私は、インドのベンガルール本拠のスタートアップUltrahuman(ウルトラヒューマン)が提供している「代謝健全性」サービスを思い切ってテストした。このトラッカープログラムは商標名をCyborg(サイボーグ)といい、腕に装着する医療用のハードウェアを使用して血中グルコース値をリアルタイムで読み取る。Cyborgは、この動的なデータポイントを利用して食事の内容や運動の方法にスコアを付ける健康定量化サービスであり、1日を通して健康的な生活習慣を選択するようユーザーにアドバイスする。

研究によると、質の悪い食生活や運動不足などの要因で起こる代謝性の慢性炎症によって、糖尿病、心臓血管疾患、慢性腎疾患、がんなど、さまざまな病気を発症する危険性があるという。Cyborgの背後にある理論は、生活習慣の中で数多くの選択を積み重ねることで、より健康的な長期的展望が開けるというものだ。それには、そのような日々の決断を最適化して炎症や酸化ストレスを回避することが前提となる。

この長い記事では、皮膚に穴を開けるタイプのデバイスを身に付け、動的に更新される生体内プロセスのデジタルウィンドウを見ながら生活を送ったときの興味深い体験、および健康全般とフィットネスのために継続的グルコースモニタリング(CGM)を行う価値について書いてみたい。また、この種のセンシングハードウェアが次々に製品化されている現状における市場勢力図についても触れてみたい。

この記事は、Ultrahumanの製品とサービス(現在は非公開ベータ版で運営)に関する大まかなレビューだが「評定と価格」というセクションも設けた。動作の詳細をすぐに知りたい方は読み飛ばしていただきたい。その前に背景について少し説明することにしよう。

前置きと注意事項

Cyborgになるのはもはやまったくのサイエンスフィクションではなくなってきている。何年にも渡る「自己定量化」トレンドによって、身体の活動を計測し、出力を追跡して最適化するようアドバイスするさまざまなセンサーやサービスが次々に生まれた。歩数計心拍数モニター、ストレスおよび睡眠センサー、肺活量測定器などだ。最近ではさらに変わったものも登場している。血中グルコース値モニター、唾液小便大便分析器などだ。大便を解析することで、必要に応じて、ホルモンや微生物叢 / 代謝に異常があるかどうかを知ることができる。

心配症の人たちに手首装着型、またはベルト固定式の自己管理型センシングデバイスを装着させ、サブスクリプションサービス(計測したデータの意味をアプリで解釈し、数値を改善する方法を提示する)を提供するビジネスが活況を呈している。Apple Watchのリングを完成させる、深く呼吸する、早めに就寝する、といったことをアドバイスされる。

こうした定量化ヘルステックは少し浅薄で不真面目だと受け取られる可能性がある。毎日の生活にちょっとした小道具を持ち込み、単に散歩に行ったり早めに寝たりすればよいだけなのに役に立ちそうもない小物を押し付けてくる感じだ。やる気の出ない人に行動を起こしてみるよう勧める電話サービス、失われた子ども時代の代わりになる環境、あるいは存在の証明としてのデータ化サービスなどを販売する、もっと基本的で単純な製品でも十分だ。

しかし、餅は餅屋ということもある。睡眠障害があったり、ストレスや心配事で苦しんでいたりするなら、睡眠をトラッキングして、少しでも睡眠時間を増やすためのアドバイスやヒントを貰えば、質の高い睡眠を安定的にとれるようになるかもしれない。

利用できるテクノロジーもどんどん洗練されてきている。市販のトラッカーは臓器(心臓や肺)の機能障害の有無に焦点を合わせているのに対して、定量化というのは良さそうに思えるかもしれないが、正確性には疑問の余地がある。というのは、この種の製品は、規制の対象となる医療機器ではなく消費者向けレベルであることが多いからだ。

歩数計のデータでさえかなり不正確な場合がある。

しかし、最近の開発現場では、医療用レベルのセンシングハードウェアを使用して自己管理型の代謝分析機能を提供するスタートアップがどんどん増えている。こうしたデバイスは、皮膚上(というより皮膚中)に装着するセンサーを介して血中グルコース値の変化をほぼリアルタイムでトラッキングする。

これは魅力的な機能であり、成長しているが、健康定量化スタートアップとしてはまだまだ新しい領域だ。だが、有望な領域に思える。個人の有益な健康情報を提供でき、なおかつ十分なデータがあれば実用面でも大きく向上する可能性がある。また、多くの人たちがより健康的な生活習慣を選択できるようになる。

しかし、大きな問題がある。代謝健全性の科学的理解が我々が思っているほど完全ではないのだ。

UltrahumanのCyborg。欧州にいる筆者に送られてきた箱の中身。Abbott(アボット)製のCMGセンサー、アルコールティッシュ、センサーの上に貼るテープパッチ(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

まだ多くのことが解明されていない。例えば個人によって代謝反応に大きな差がある(まったく同じ食事を摂っても、人によって反応が大きく異なることがある)のはなぜかや、糖尿病やがんなどの発症リスクの増大に炎症がどのような役割を果たしているのか、といったことだ。

したがって、スタートアップ各社の病気を予測する能力は、今後の研究の必要性によって決まってくる(ただし、研究の進展のためにデータを収集して理解することは、企業家がひそかに狙っているビジネスチャンスの重要な部分ではあるが)。

また、問題となっているセンシングハードウェアは、大半のスタートアップが追求している「一般的な健康」という使用事例において規制の対象になっていない。

つまり、こうしたサービスはまだ新しい領域、つまり実験段階ということだ。たとえスタートアップが転用しようとしているハードウェアが老舗の医療機器会社によって製造されているという点で合法であり、より狭い範囲における使い方(糖尿病管理など)では規制の対象になるとしてもだ。

通常、このようなセンサーは、糖尿病患者が定期的に血糖測定を行う代わりに血糖値をトラッキングするためのデバイスとして規制当局の認可を受けている。そのため、スタートアップ各社は信頼性を付与され、同じデバイスメーカーのAPIに接続して同じデータストリームを取得できるようになるかもしれない。しかし、こうしたサービスがデータに付与するのは、偏った解釈だ。

生活習慣に関するアドバイスを含む、より広範な分析を行えば、FDAには絶対に認可されない。

栄養に関して長年に渡って激しく繰り返されてきた議論、すなわち、一時的な流行りの食事療法、ベストセラー本、体に良い食物と悪い食物や効果的な運動に関して繰り返される議論などは、人間の生態と人間が定期的に自分の体をさらすもの(食物、運動など)の間の相互作用に関する理解が不十分であるために起こってきた現象だ。

すべての構成要素がどのように相互作用するのかを完全に理解せずに複雑なシステムを計測しても、全体像を把握することはできない。把握できるのはせいぜいスナップショットだ。それでも理解を深めることができるかもしれないが、すべての答えがそこにあるわけではない。誤った解釈のリスクは本当に存在するのだ。気を付けなければならない。

「代謝健全性」の計測を実際にどのように行うのかという疑問もある。代謝健全性というのは漠然とした言葉だ。複雑な生物相互作用が化学反応を引き起こし、それによって体に必要なエネルギーが生成され、その結果、健全な体重を簡単に維持できることになる(あるいは維持できない場合もある)。つまり、体全体の健康を実現するのを支援することもあれば邪魔することもある。

食事の内容、方法、時刻、およびその時に十分に活動し休息を取れているか(ストレスを感じることなく)は、代謝機能に影響を及ぼす可能性のある動的な変動要因のほんの一部に過ぎない(わかりやすい例。今日体内で食材が代謝される方法は、昨日食べたものによって影響を受ける可能性がある)。センシングデバイスで焦点を絞って追跡するよう選択された生体指標(複数の場合もある)によって「代謝健全性」サービスでわかるもの、そして推定できるものも明らかに違ってくる。

代謝健全性を追求するスタートアップは、血中グルコース値のトラッキングから腸内微生物や体の排出物(尿など)の分析、あるいは、出力とシグナルの組み合わせの確認(心拍数を考慮に入れることもある)など、さまざまな方法を模索している。そのうち、より多くの体のシグナルがチェック対象に追加され、十分に解明していくための取り組みが行われるだろう。しかし、現状の代謝トラッキングの多くはせいぜいパズルの1ピースに過ぎない。陰影付けの線よりも空白のほうが多いスケッチ(つまり、大まかな推測)のようなものだ。

あらゆる生体化学を理解する最新技術の製品化を試みる人たちにとって、さまざまな代謝シグナルの組み合わせから得られるデータを理解する、いや最善の解釈を導き出す方法については、疑問と課題が山積みの状態だ。Ultrahumanの創業者もこの点を認めており、次のように話す。「血中グルコース値という生体指標から生成される情報を正確なものにすることが、当社の最も重要な使命です」。

Ultrahumanのウェブサイトには、Cyborgのサービスは「スポーツ愛好家が自分の血中グルコース値レベルと運動能力を把握するための一般的な情報を提供するもの」であり、医師の意見の代わりになるものでもなければ、特定の病状や健康上の懸念のケアや対処方法を構成するものではないという免責条項がある。

代謝の謎を解き、代謝健全性の概念を商用化するという企業使命はまだまだ現在も進行中だが、次の2つのことは明確だ。第1に、生物学的機能の理解を深めようとするニーズが存在している(トップアスリートだけでなく多くの人たちが体内で起こっていること全般、とりわけ代謝について関心を持っている)。第2に、この種のヘルストラッキングテクノロジーが個人ユーザーにもたらす長期的利点は何なのかについて、重大でありながら、未確認のさまざまな主張が行われている。

そこで、注意していただきたい点をもう1つ。代謝バイオハッキングに是非関わりたいと考えている人は、その制限についても明確にしておく必要がある。

少しばかりのデータを取得しても、診断を下すどころか、適切な理解さえできないこともある。この場合データ量が多いと、ノイズと混乱が増え、必ずしも明確なシグナルが得られるとは限らない。本来心配する必要のないことまで心配になることもある。

この10年間、デジタルでの健康 / ウェルネストラッキングの消費ブームは、侵襲的 / 半侵襲的なウェアラブル機器に関しては伸びが鈍化していたが、それもうなずける。侵襲的ウェアラブルとは、体の内部に(少しだけ)刺し込んで使うセンシングデバイスのことだ。

たとえ部分的でもウェアラブルな(UltrahumanのCyborgの場合は、皮膚パッチを皮下に刺して間質液中にセンシングフィラメントが押し込まれるようにする)代謝トラッキングサービス、それがこのレビューの中心テーマだ。この半侵襲的センサーとアプリの組み合わせで、代謝健全性を把握して評価する代わりにほぼリアルタイムでグルコース濃度をモニタリングする。血糖値が高いと、効果的な生活習慣に向けて改善するよう装着者にアドバイスや警告が出される。

目的は、センサー装着者の日常生活におけるグルコース濃度を安定させて(著しく高いまたは低い状態を避けて)、健康に悪影響を及ぼすような炎症と酸化ストレスを軽減するという包括的なミッションを達成することだ。

Ultrahumanが提案しているのは「代謝健全性」(同社が自社のミッションを説明するために好んで使うフレーズ)に注意を払い、食事の内容と時刻、運動や睡眠の質と時刻に関して少しでも対策を講じることで、時間の経過とともに、糖尿病、非アルコール性脂肪肝、心臓血管病などの代謝異常を発症する可能性のある慢性的炎症を回避したり好転させたりできるというものだ。

食事療法は、CGMテクノロジーを製品化しているスタートアップによって常にあからさまに宣伝されているわけではないが、血糖値の急上昇は、もちろん甘い食べ物の摂取(および過剰摂取)と関連している。いずれも体重の増加につながる可能性がある。したがって、代謝健全性を支援することは、健康的な体重を達成してそれを維持できるよう助けることを意味する。

慢性疾患のリスク軽減、体重管理支援、運動能力を向上させるスマートなデジタルアシスタントなど、マスコミに取り上げられそうな潜在的利益があることを考えると、大手スタートアップがこぞって代謝の謎を解明しマネタイズしようとしているのもうなずける。

また、スタートアップ側のビジネスチャンスという点では、文字どおり「ワイヤイン(針を刺す)」タイプの消費者向けヘルストラッカーは間違いなく、Apple Watchなど、手首に装着するトラッキングギアなどの主流からは外れた位置付けだ。だがそのおかげで大手消費者向けテック企業との競争は少なくなり、挑戦を続ける企業家には成功のチャンスとなる。

Appleのウェアラブルデバイスのバックパネルに収納可能なグルコース測定用の金属針が埋め込まれていたら、そのグルコース検知フィラメントの外観がどれほどしゃれていても、Apple Watchの出荷数は現状に遠く及ばなかっただろう(噂では、Appleはもちろん、針を使わないグルコースモニタリング機能をApple Watchに埋め込みたいと考えているようだ。うまく機能するならだが)。

皮膚に針を刺すのは(実際にはそうでもないとしても)面倒そうな感じがする。そして当然、多くの人が針と聞いただけで嫌がる。ということは、バイオハッキングの最先端で健康定量化スタートアップが、主流の大手消費者向けテック企業よりもはっきりとした足跡を残す存在になるチャンスと市場余地があるということだ。人々の針恐怖症に臆せず挑む自己定量化テクノロジーは、より本格的であるように思える。というのは、トラッキングされる生体内作用に文字どおり近い位置で計測するからだ。

とはいえ、トラッカーを皮下に挿入することで、センサーを侵襲性の低い形で装着する場合に比べて、取得されるデータの質、そのデータの分析、結果としてユーザーに提示されるアドバイスといった点において有意な差異が生まれるのかどうかは簡単には答えられない質問だ(実際、非常に多くの質問が生じ、その内容はコンテキストとサービスの実施によって変わる)。

UltrahumanのCyborgの場合、大げさな約束をしないよう慎重に事を進めている。マーケティングでは「食事と運動が体に与える影響と毎日の改善のモチベーションとなるスコアをリアルタイムで確認し、改善の取り組みを行う」のはユーザーの責任である、とベータ版に同梱されている簡単な説明書に記載されている。

Cyborgが出力する代謝スコアはパーソナライズされるが、科学的にはまだ解明されていない部分が多い生体内作用を抽象化し解釈したものだ。したがって、再度いうが、これは答えを探している途中の段階であって、明確な1つの「生物学的真実」をやすやすとユーザーに与えるものではない(要するに、差し出す真実などないのだ。あるのはユーザーの好奇心を満たす示唆的な大量のデータだけである)。

少しばかり知識があるのは危険なことだが(問題になっているデータが自分の生物学的状態に関連する場合、その危険性はもっと高まる)、人の体内の働きを垣間見るのは興味のある人にとって間違いなくおもしろいことだろう。このデジタル時代にあっては、コンピューターのキーを一打するだけで、健康に関する研究情報をいくらでも見ることができる。誰でも自分の生物学的状態について多少なりとも興味があるのではないだろうか。

危険なのは、おそらく、侵襲性の高いセンサーを装着することで、この種のトラッカーが、単なるデータ処理(および代謝プロセスに関するより広範な科学的理解)の域を出ない機能よりも高品質の情報(より個人の特質に沿った情報)を与えてくれるものとユーザーが自動的に思い込んでしまうことだろう。

しかし、Ultrahumanはこのサイエンスフィクション的なイメージをセールスポイントとして前面に押し出すことを恐れない。だからこそ、皮膚の中にセンサーを装着し、センサーと人体を直接接合することを意図的に強調した「Cyborg」という商標名をあからさまに選択したのだ。つまり、このデバイスが「少しずつ段階を追って健康増進へと導く」ことを約束する健康定量化サービスを実現する特殊なソースであることを暗示している。しかも、食事内容の大幅な変更や退屈でストレスのたまる包括的な運動プランは必要ない。

他の多くのスタートアップが同じ(または類似の)CGMハードウェアを利用しているため、魔法のごとく自動的にデータを取得する機能はすでにコモディティ化されている可能性がある。重要なのは、取得した情報を視覚化し、分析して、個々のユーザーの特質に合わせて提供することだ。

しかし、ここでも、上述の科学的理解の不確実さを考えると、定量化は本質的に難しそうだ。

もちろん皮肉屋に言わせれば、それこそスタートアップにとって完璧なビジネスチャンスだということになるのだろうが。

Ultrahuman製Cyborgの動作の仕組み

Ultrahumanは、代謝健全性を算定するために、血中グルコース値の動的な変化をトラッキングすることを選択した。

なぜグルコースなのか。UltrahumanのCEO兼共同創業者のMohit Kumar(モーヒト・クマール)氏によると、グルコースは「食事、ストレス、睡眠、活動に敏感に反応するリアルタイムの生体指標」であるため、Cyborgで達成したいことを実現するのに最適だったからだという。

「当初は健康増進をパーソナライズするための生体指標と手法も探していましたが、当社が目指しているインパクトが与えられる生態指標を特定するのに1年に渡る実験が必要でした。HRV(心拍数のばらつき)、睡眠、呼吸数など、あらゆる生体指標を検討しましたが、グルコースは生活習慣の食事面についてフィードバックが得られるため、最もおもしろいものに思えました」とクマール氏はいう。

「つまり、さまざまな生活習慣要因について即座にフィードバックを得ることができるのです。そして、これまで見たところ、即座にフィードバックを与えたほうが実際に行動に移す可能性が高くなるようです。例えばスパイク(血糖値の急上昇)を引き起こす食事の後にすぐ散歩するようアドバイスしたほうが、翌日出力されるレポートよりも、行動に移す可能性が高くなります」。

「次に、活動のパフォーマンスを高めるフィットネスウェアラブルやマーカーはたくさんありますが、食事の最適化を支援するものは皆無です。栄養摂取は一般にブラックボックスであり、食事の種類と個人的好みが幾百もあることを考えるとはるかに複雑です。ですが、食物エコシステムが破壊されていることを考えると、栄養摂取は最も重要な生活習慣の要素です」。

「半侵襲的生体指標であってもグルコースを指標として選択することがROIの観点から大いに意味があると感じた理由もそこにあります。非公開ベータ版によって、どのようなアドバイスと情報を与えれば人の生活習慣を簡単に変えられるのかがわかってきました。アプリ公開時には大勢のユーザーが参加しました。21歳くらいのユーザーが毎日計測を行い、大半の人が使い始めてから約45日目で健康に大きな改善が見られました」。

CGMテクノロジーのおかげで血糖値の変動をリアルタイムでトラッキングできるようになったことは、数週間、数カ月に渡って試行錯誤しながら進める従来のダイエットのような、ユーザーに忍耐を強いるビジネスに即座に大きな前進をもたらした。こうした従来のダイエットでは、食事と運動の内容を変えて数週間または数カ月後に実際に効果があったかどうかを確認する。

指に針を刺して繰り返し計測する方法ではなく、継続的な血中グルコース値をトラッキングする方法が近年、CGMハードウェアの開発によって実現された。CGMは当初、糖尿病と正式に診断された患者向けだったが、最近は、このテクノロジーを製品化して健康に懸念のある、またはフィットネス指向の消費者に販売するスタートアップがますます増えている。

このテクノロジーによって興味深い科学的事実が明らかになっている。例えばこの2018年の研究論文には、グルコースの調節異常(正常と考えられる範囲外の値を示すこと)は実は健康な人たち、つまり糖尿病または糖尿病予備群と診断されていない人たちの間でもごく普通に起こっていることが示されている。これは、研究者にとって意外なことだった。

ベーシックレベルでは、Ultrahumanのサービスは腕に装着するセンシングハードウェア(円盤型のセンサー、2週間ごとに交換が必要)と血中グルコース値を視覚化し警告とアドバイスを行うアプリがセットで提供される。トラッキングを継続するために、センサーは交換のたびにアプリとペアリングする。

平均的なフィットネスウェアラブルではない(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

センサーハードウェアを製造しているのは、米国の医療機器メーカーAbbott(アボット)という別の会社だ。本稿の執筆時点でUltrahuman製品といっしょに出荷される専用センサーは、アボットのFreeStyle Libre 2(フリースタイル・リブレ2)というグルコースモニタリングシステムだ。

CGMセンサーを自分で装着するのは少し神経を使う。これは、1回で正しく装着する必要があるからだ。TechCrunchに送られてきたベータ版の箱にはセンサーが2つしか入っていなかったので、センサーを無駄にしたくなかった。

筆者が装着した時には、センサーの装着とセットアップを説明した2つの(ロボットのおもしろい音声による)動画がUltrahumanによって制作されていた。これは役に立った。が、少し耳障りなところがあった(数滴血が飛び散ることがあるのであまり強く押し付けないようにと言っている部分が原因だろう)。

アボット製のハードウェアにも、独自の操作説明書とばね仕掛けの装着器が同梱されている。これを手動で準備し、上腕を上げてプラスチックのカップを装着位置にセットしてから、不安な気持ちになりつつも、押し下げてフィラメントを皮膚に向けて発射する。この動作は非常に速いので、思わずぎくりとする。Ultrahumanの操作説明動画に出てくる「中空の針」というフレーズを思い出してもあまり役に立たないかもしれない。しかしこの針はフィラメントを誘導するためのもので、腕の中に目に見える金属が残されたままになることはない。

血は飛び散ったかというと、筆者の気づいた限りではそのようなことはなかった。ただし、2回目に装着したセンサーは神経か何かに刺さったのか数日間かなり痛みがあった。その後落ち着いて安定した。もしくは、筆者が慣れたのかもしれない。

1台目のセンサーは装着時に痛みはなかったが、腕にプラスチック片を付けた状態で眠るのに慣れるまで少し時間がかかった。あるヨガのポーズを取ると、センサーを不自然に押し付けてしまうのを避けるため、余分に体をねじる必要があることに気づいた。また、CGMを装着している期間中は夜間、非常に高いピッチのすすり泣きが確かに聞こえたように思うが、筆者が電気羊の夢を見ていただけなのかもしれない。

センサーを付けたままシャワーを浴びたり入浴したりすることはできる。Ultrahumanの製品箱には、センサーを保護するための(腕にブランド名を表示する目的もある)布テープパッチが同梱されている。このパッチは、生活習慣によっては数日で剥がれてくることもあるが、センサー自体は筆者の2週間のテスト期間中しっかりと固着されていた。ぼろぼろになったパッチを剥がして新しいものと交換することはできる(予備のパッチがあればだが)。しかし、パッチを早めに剥がしたためにセンサーを通常より早く引き抜いてしまいたくないので、この作業も神経を使う。基本的には、Macbook(マックブック)ステッカーを貼るのと同じくらい楽しい。

センシング用フィラメント自体に興味のある方のために言っておくと、これはそれほど細くない針金ような感じだ。最初に腕から引き抜くときに確認できる。この時見て思ったのだが、何らかの黒いペイントでコーティングされているようだった。で、見ていてあまり気持ちの良いものではなかったが、そのコーティングが少し剥がれていた。だが、皮膚に装着したまま生活して2週間が経過する頃までには、体がCyborgを受容した。スマートな感じだ。

センサーを腕から引き抜いたところ(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

跡が残るかどうかだが、フィラメントが皮膚を穿孔した場所に赤い小さな腫れが残る。これはしばらくすると消えた。テープおよびセンサー内蔵の固定具(テープよりもはるかにしっかりと皮膚に接触したままである)で皮膚に問題が生じることはなかった。

センサーはBluetooth経由でUltrahumanのアプリとペアリングされる。このため、電話が腕と数メートルの範囲内にないと接続が切れることがある。そうなると、データフロー(およびリアルタイムアラート)が停止する。電話を決して自分の側から離さないようにするための完璧な理由ができたわけだ。

接続が切れると、アプリからその旨が通知され、接続可能になったら電話をタップしセンサーと再接続して失われた読み取り値をアップロードするよう要求される(セットアップ時にも、センサーには、データフローを開始する前にちょっとした「ウォームアップ」時間が必要になる。このため、最初のワークアウトや食事を記録する準備が整うまで部屋の中を行ったり来たりして待つことになるかもしれない)。

1カ月以上に渡って2回に分けて行った(センサー1の装着期間とセンサー2の装着期間の間に中断を入れたため)TechCrunchでのテスト期間中、アプリはまだ開発中だった。このため、ソフトウェアは見た目の大きな変更を含め、多数の変更が行われた。

これにより、グルコースプロット線のグラデーションをあまりにも単純すぎる表示(グルコース値の高低に応じて、常に赤から緑のグラデーションで表示する)から中央の「ターゲットゾーン」を設けるように変更された。ターゲットゾーンでは、プロットが「正常値」を意味する霧がかった緑で表示されるが、値が急降下または急上昇すると黄色、オレンジ、赤の順にグラデーションで表示される。つまり、グルコース値が最適範囲(70mg/dLと110mg/dLの範囲)外になると高すぎる場合も低すぎる場合も赤で表示されることになる。

この変更は大きな改善だった。これまでのバージョンでは、緑は常に良いサインとしてグルコース値が低くなることは常に良いことであると視覚的に示唆されていた。たとえターゲットを下回る値(低血糖)であっても緑で表示されていた。これは、この種の健康定量化製品で見られるデザイン/UXの落とし穴の一例だ。

アプリは、1日を通じて血中グルコース値の増減(またはアボットのハードウェアが間質液から引き出した近似値。糖尿病患者なら誰もがいうだろうが、これらの値は血中グルコースの読み取りと正確に一致するわけではない。また、グルコース値が上昇または下降する際には、フラッシュグルコースモニターに表示されるまでの間に短いタイムラグが発生することがある)をプロットするだけでなく、Ultrahumanが「代謝スコア」と呼ぶ数字(0~100)も表示する。

これは、健康的な生活習慣に向けた改善の実施をアドバイスおよびゲーム化するためにアプリが使用するメインの「指標」の仕組みだ。

Ultrahumanは、このスコアを「全体的な代謝健全性」を表す指標と説明しており、グルコース値のばらつきと平均、およびターゲット目標範囲内に収まっていた時間に基づいて算出しているという。このスコアは毎日深夜に100にリセットされ「日中の活動と体の反応に応じて」増減する。

このゲーム化のミッションは非常にシンプルだ。「目標は毎日、このスコアを最大にすることです」。

実際には、良い(高い)スコアを得られるかどうかは個人の生物学的状態と生活習慣による。そして、気が滅入るが、前日の活動と食事の内容によっては朝起きるとスコアが80台(いや、それよりも悪い数値だと思われる)に落ちていることもある。

注意:ストレスも血糖値に影響を与える可能性があるため、自分では制御不能な出来事が起こると数値に影響が出ることがある。

食事、活動、およびテスト期間中に徐々にアプリに追加されていったその他のタイプの出来事は手動で記録する。

当初、記録は食事または活動の説明を手入力することで行っていたが、その後のアップデートで、食事と活動のインデックスが追加され、構造化されたリストから食事と活動を検索して選択し、その量または時間も指定できるようになったため、すべてを手入力する必要はなくなった。

筆者としては、結局、食事の内容は手入力で記録するほうが良い感じがした。というのは、用意されているリストはあまりに詳しすぎて煩雑なため便利だと感じなかったからだ(「チーズ」と入力すると、ありとあらゆるタイプのチーズが候補として表示されるが、自分が食べているチーズや、実際に皿に盛る量と完全に一致するとは限らないし、そもそも量など認識していないかもしれない。チーズ一品を記録するだけでこの状態だ。これを皿一杯の料理について繰り返すなどうんざりだ。それに、このリストはかなり米国寄りのようで、欧州の食事を記録するにはあまり役に立たなかった)。

対照的に、自分の好みのチーズまたは料理全体のカスタムの説明を手入力しておけば、アプリでカスタムラベルが記録されるため、次回その料理を食べるときに迅速に記録できる。

Ultrahumanが、でき得る限り最高品質の構造化データを実現して、AI予測モデルで要求される広範な実用性を構築したがっていることは間違いない。しかし、記録作業があまりに仕事のように感じられると、ほとんどのユーザーはその仕事をタダでやろうとはしないだろう。このため、カスタムだが謎めいたものではなく、正確で構造化された食事グルコース反応データをベータ版ユーザーベースから取得するよう作業が調整されたのかもしれない。

(実際、食事の写真を撮るようユーザーに依頼し、コンピュータービジョンテクノロジーを適用して情報に基づく推論を行う必要があるのかもしれないが、それでも多くの誤りが入り込む可能性がある。長期的には、このテクノロジーが本当に主流になれば、レストランのメニューに各料理のQRコードが印刷され、それをスキャンする方法も想像できる。この方法ならすべての正しい栄養素データが即座に記録され入力時のイライラも緩和される)。

活動の記録は食事の記録よりもはるかに簡単だ。オリンピック選手でもない限り、活動の記録量は食事の記録量よりもはるかに少なくて済むということもある。

Ultrahumanは、ベータ版ユーザーコミュニティからのフィードバックを受け「ストレスのかかる」出来事と断食を記録のオプションとして追加した。断食はもちろん、血中グルコース値に大混乱を引き起こす可能性があるが、いくつかの研究によると、断食特有の健康面での利点もあるという。したがって、ユーザーにより細かい選択肢を与えて、CGMデータの構造化を進めていくのが合理的だ。

将来的には、他のタイプの消費者向けウェアラブルとの統合により、記録を自動化する可能性もあるようだ。例えばフィットネスバンドやスマートウォッチで具体的な活動を検出し、そのデータをUltrahumanのアプリに渡すという方法は容易に想像できる。ユーザーはアプリで検出されたワークアウトの詳細を確認するよう求められるだけだ。

とはいえ、現時点では、データの入力と構造化の主導権を握っているのは依然としてベータ版ユーザーなので、データ品質は本当にごちゃまぜ状態になっている可能性が高い。

学び

Ultrahumanの使用上の注意によれば、使い始め当初は、安定した高いスコアを得られない可能性が高いとある。

これは、通常、血中グルコース値を安定させるために行う必要があることを学習するには少し時間がかかるからだ。というのは、何が自分に効果的かを確認するために、さまざまな要素(食事の組み合わせ、運動する時刻など)を試してみる必要があるからだ。それでもこれは、保守的なダイエットやフィットネス計画査定の退屈な作業に比べると随分時短プロセスだ(当然だが、何もしなくても安定したグルコタイプ(グルコースの性質)に恵まれている人は、手動による、言わば「舵取り」を実行する必要性はずっと少なくなる)。

筆者はまだ使い始めの恐怖に対する心の準備ができていない。第1週のかなりの部分は、筆者の普段の食事内容についてアプリで見積もられる低いスコアをぼうぜんとして見ていた。

ランチはフムスサラダのピタパン・サンドイッチの後、クルミとリンゴ半分とコーヒー(ミルク入り、砂糖なし)。この食事はまあまあ健康的に思えないだろうか。ところが、筆者にとってこの食事は明らかに健康的ではないのだ。このランチは、Cyborgとして4週間の期間中で常に「下方ゾーン」に位置したままである(スコアもひどかった)。

テスト期間中、常に最低(単に食後のグルコース値が急上昇したという意味で)と判定されたランチは筆者が用意したものではなく、ファストフードによる料理だった。ただし「自然」として謳っているブランドの食品でマックバーガーとポテトチップなどよりはるかに健康的な選択のはずだった。

問題の料理Leon’s lentil masala(「レオン」のレンズ豆のマサラ)は玄米を使用しており、レギュラーサイズのココナッツミルクラテ(植物性ミルクブランドRude Health(ルードヘルス)のもの)が付いていたが、これもひどいスコアを記録した。グルコース値があまりに急上昇したため、元のレベルに戻すために急遽高強度インターバルトレーニングを行う必要があると判断されたほどだ。

トレーニングは効いた。ただし、食物を代謝させるためにランチ直後にバーピーとスクワットを何度もやる必要があると、ランチ前にわかっていたら、ランチを変更していただろう。

継続的グルコースモニタリングが普及し、一般消費者が代謝データにリアルタイムでアクセスできるようになったら、ファストフード産業にどのような影響があるかというのは、実に興味深い質問だ。

ファストフードによる大きなスパイク。強度の高い運動をすると消えた(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

レオンの料理を食べる前に小さな文字で印刷されている原材料を確認しなかったが、アプリが赤色で警告してきたことを踏まえ、後で疑いの目でラベルを見てみると、添加物の長いリストの中に上白糖が含まれていることに気づき、さもありなんという感じだった。

ただ、こうした事実を認識したうえで、筆者にとってグルコース値急上昇の引き金となったのはココナッツミルク(シチューやコーヒーの原材料)ではないかと思っている。

残念ながら、食後のコーヒーもおそらく効いていなかった。

Cyborgを装着してわかったことで最も気に入らなかったのは、筆者の場合、コーヒーが血糖値を上げるらしいということだ。緑茶は問題ない。しかし、ブラックコーヒー、デカフェ、ミルク入りコーヒー、どれを飲んでもいくらか血糖値が上がる。筆者の場合、午後、ランチの後にコーヒーを飲むのが好きなのだが、これは食事による上昇に追い打ちをかけることになり、余裕で赤のゾーンに入る可能性がある。

それでも、モーニングコーヒー派になるのは未だに拒否している。

米も多くの人にとって血糖値急上昇の原因となる。白米は、繊維質の豊富な全粒穀物に比べてよりすばやく体に吸収されるからだ。しかし、筆者は白米中心の夕食を摂った後に起こる血糖値の急降下のほうを心配するようになった。血糖値が安定して一晩中ターゲットゾーンに維持されればよいのだが、白米はそれを妨げる方向に働くようなのだ。

結局のところ、低血糖も高血糖と同じくらい避けることが大事だ。少なくとも、それがCGMを4週間装着した後の感覚だ。アプリを使い始めた頃は赤の急上昇を避けることだけに専念していたが、時間の経過とともに急上昇を容易に管理できるようになった。それには、創造的なバイオハックと食事内容の戦略的な修正が必要だ。

例えば筆者は植物ベースのミルクをほとんど食事から除外した(ただし、コーヒーには少量のオートミルクを入れている。そう、コーヒーは完全にはやめていないし、やめる気もない。ただ、一杯のコーヒーを長時間ちびちび飲むようにはしている)。こうした代替ミルクによる血糖値の急上昇は決まって警告を発して無視できないため、筆者はこれはフルーツジュースのようなものと思い避けるのが一番だと考えるようになった。こうした加工度の高い飲み物の宣伝広告では「健康的な選択肢」を提供していることがしきりに強調されているのをよく見かけることを考えると、代替ミルクによる血糖値の急上昇もかなり興味深い。

おもしろいことに、他のCyborgユーザーも似たような問題を報告しているようだ。ある会社のニュースレター要約による共有学習には「アーモンドミルクと朝食のシリアルはホテルのビュッフェの朝食より大きなスパイクを発生させることがある」と書かれている。

これはおそらく、一杯のオレンジジュースは血糖値スパイクを引き起こすが、オレンジを1個まるごと食べてもスパイクは起こらないのと同じメカニズムなのだろう。あるいは、こうした飲料の製造方法における特有の何か(加工方法と特有の添加物など)が原因なのかもしれない。例えば多くのメーカーは飲料に砂糖を入れている(ただ、筆者がシリアルにかけるミルクには砂糖は含まれていないが、それでもスパイクは起きた)。自家製のオートミルクを作って市販のものと直接比較し、スパイクが小さくなるかどうか試したかったのだが、残念ながらその機会はなかった。

筆者は朝食に今でもオーツ麦を食べている。これも繊維質は豊富だが糖質には違いないのでスパイクを起こす可能性があるが、オートミールではなく特大のオーツ麦を摂るようにしている。そしてこれを忘れてはいけないのだが、シリアルにシナモンを多めにまぶすようにしている(これがグルコース値のスパイクを軽減することを発見したからだ)。さらには、水(ミルクの類ではない)、天然ヨーグルト(味付けと必須ビタミン)、そしてよくあるベリーと種子類のミックスといっしょに食べている。

これはCGM装着前の朝食(オーツ麦、ベリー、種子類など。ただしオーツミルクで流し込んではいたが)とそれほど大きく変わってはいない。しかし、代謝スコアでは大きな差が出た。通常スコアが「2」の食事が「9」になった。ばかげたことのように思えるが事実だ(正確には、Cyborgによる筆者の間質液変動の読み取り値によると事実だ)。

また、パンを食べても、それによって生じるスパイクを抑えることができる独創的な方法も見つけた。

パンの量を減らすかまったく食べないようにするのは、血糖負荷を軽減し、結果として血糖値の上昇を管理する方法の1つだ。ただし、オーツ麦などの全粒パンはダイエット効果のある複合糖質なので食事から除外したくなかった。そこで、アプリのリアルタイムグルコースビューの利点を活用して、他の繊維質、たんぱく質、高脂肪食品を摂った後、ランチの終わり近くに、全粒パンのスライスを食べて、消化吸収に時間がかかるようにしてみた。この方法は効果があったようだ。

もう1つリンゴ酢を使ったバイオハックを見つけた。これも効果があった。

シナモンと同様、この種の発酵酢はグルコース値の急上昇を抑える特性があることがわかったので、サワードウで作ったパンを食べる前に発酵酢をかけてみた(まあ、聞いて欲しい)。かなり奇妙に聞こえるが、これがとても美味しい。サラダ、ナッツなどを食べた後、食事の後半にこの方法でパンを食べることで、スパイクが発生していたランチを健康的ゾーンの範囲内のランチに変えることができた。血糖値の変動をリアルタイムで確認できなれば、このような具体的な方法を知る方法などなかっただろう。

問題は、スパイクを引き起こすランチを食べても、そうでないランチと比べてことさら非健康的な感じはしなかったという点だ。アプリで代謝反応を確認できなければ健康に悪いとは思えない。センサーのデータがなければ両者の違いに気づくことなどできなかっただろう。

もちろん、人によって代謝反応は異なるため、パンを5切れ食べてもスパイクがまったく起こらない人もいる。一般化する賢明な方法はない。糖質の摂取を抑え、注意深く食事のバランスをとるなどの基本的な制限を課すことくらいしかない。汎用的で大まかな戦略はあるが、これは即座にフィードバックが返されないとやる気がなくなる。その点で、CGMは、生活習慣ツールとして潜在性、個別対応性という点でまさに変革をもたらす内容になっている。突如として、食物を試して自分に効果があるかどうかを確認できるようになったのだ。

とはいえ、比較的小さな血糖値スパイクを管理することが、代謝トラッカースタートアップが勧めているほど、個人の長期的な健康にとって重要なことなのかどうかは、別の問題だ。

Cyborgを装着した筆者(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

英国のサンダーランド大学で人の代謝作用に影響を与える生物システムの研究をしている科学者Matthew Campbell(マシュー・キャンベル)博士にCGMテクノロジーの一般利用について意見を求めたところ、他の点では健康な人が血中グルコースの管理に精力を注ぐことの有益性については懐疑的だという答えが返ってきた。

「グルコース値は1日を通して変動するのが普通です。静的な値ではなく、動的に大きく動く値なのです。しかし、平均値は正常範囲内に収まっている必要があります。高いリスクがあると特徴付けられる人たちにはカットオフポイント(正常とみなされる範囲を区切る値)があります。例えば食事の後グルコース値が特定レベル以下に下がらないとか、慢性的に値が高い場合は朝の時間帯でもグルコース値が高いままであるとかいった場合です。それが、糖尿病や糖尿病予備群、つまり糖尿病を発症する危険性のある人たちを診断するときのカットポイントになります」。

「健康な人がグルコース値をトラッキングすることの問題点は、恣意的な値を取り得るという点です。数値が下がっているなら問題はなく、上がっているならあまり良くないわけですが、正常な範囲内に収まっている場合は、すでに健康な範囲内にあるグルコース値を1ミリモル減らすことが臨床的に有用なのか、健康上有益なのか、健康上の利点があるのかどうかについてはわかりません」。

「ですから、グルコース値が、全時間の95%、健全な範囲内に収まっているのに、変動幅を少なくして平坦にしたり、値をさらに下げるよう積極的に管理したりしても、さらなる健康上の利点がもたらされるとは思いません。すでに健康な範囲内にいるのですから」。

キャンベル博士はまた、CGMから得られる血中グルコース値データを、ユーザーの体内で起こっているグルコース値レベルに影響を与える可能性のあるすべてのことに正しく関連付けるのは難しいと指摘し、タイムラグだけでなく、ユーザーの腕のセンサー装着位置も読み取り値に影響を与える可能があると付け加えた。

「ですから特定の状況下で、体重、性別、民族性、個々の遺伝子構造など、さまざまなすべての要因がグルコース値に影響を及ぼします。睡眠、栄養素なども影響を与えます。このテクノロジーが単にグルコース値をトラッキングするだけでそうした他の要因を考慮しないなら、グルコース値に影響を及ぼしている要因を情報に基づいて判断するのは極めて難しいでしょう」と同博士はいう。

ただし、同博士は、アスリートがCGMを利用することの潜在性について肯定的だ。

「こうしたセンサーが役立つ例として、先程一流アスリートについて言及されていましたが、極めて高度な練習、または長時間に渡る練習をしている場合は、糖尿病でなくても、血糖値レベルが低下する危険があります。こうしたセンサーの多くは、アラート機能を備えていますから、安心です」と付け加えた。

またキャンベル博士はおもしろい比較もしてくれた。グルコース値が正常範囲外になっても、その人の代謝が積極的に対応して元のレベルに戻すことができるなら、常に問題になるとは限らないというのだ。

「考え方は、運動中の心拍数に少し似ています。同じ強度の運動をしても、他の人に比べて心拍数が上がる人がいます。そうすると、非常に激しく運動した結果、健康が低下したのだと考えるかもしれません」。

「しかし、心拍数の変動が非常に大きいということは、心臓血管の柔軟性が非常に高いことを示唆しています。これは運動耐性が非常に高く、健康状態が非常に良いことと深い関係があります。グルコース値の反応も同じことではないでしょうか 」。

「ですから、グルコース値のレベルが正常範囲外になったというのは必ずしも事実ではありません。なぜなら、そういう状態は多くの人たちに起こっており、その人たちは代謝的に健全だからです。全体像を見ることが重要だと思います」。

そのうえで、キャンベル博士はこうしたサービスの本当の有用性はCGMデータをアルゴリズムと機械学習で補強できる点にあると指摘する。機械学習では「データ内のパターンを見つけ、さまざまな情報を組み合わせることができます。『これを行った後にあなたのグルコース値は上昇しました』などと自分に都合の良いデータだけを選択するわけではありません。グルコース値が上昇しても、その後すごい勢いで下降すれば問題はありませんし、むしろ良いことですから」。

低血糖の話に戻ると、筆者は個人的に興味深い体験をした。一晩中グルコース値が低い状態が続いたのだが、それは夜中に冷や汗や生理痛で目が覚めたことと関係があることがアプリを使用して(Ultrahumanのアプリ内コーチとチャットして筆者のCGMデータを手動で解析してもらったことも含む)わかったのだ。

また、こうした一晩中続く低血糖は飲酒をともなう食事の後に起こることが多いことにも気づいた(飲酒には通常の代謝プロセスを妨げるという悪魔的な効果がある)。そこで、食事とアルコールの比率を用心深く見続けること、そして夕食に栄養分の少ない料理(白米など)でワインを飲んだ後、就寝前までの時間にたんぱく質の豊富なスナック菓子を食べることを、夜中に低血糖や生理痛が発生するリスクを抑えるためのちょっとしたハックとして行った。これならワインを飲みながらの食事を控えなくてもできる。

その場合の個人的な利点は明らかだ。睡眠を妨げられて不快にならずに済む。

この発見から推測して、私よりも年上の親戚に夜にスナック菓子を食べる同じようなハックを提案することができた。その親戚は数カ月間、夜間の慢性的な生理痛に悩まされていたのだが、ベッドタイムにスナック菓子を食べる戦略を含めるよう計画変更したところ、夜中の生理痛からほぼ解放されたという知らせがすぐに届いた。

これらはもちろん、単なる事例だ。しかし、それらは、生活習慣上の奇妙な行動とCGMデータ間の点を、個人が実験し、接続し、結び付けることができる可能性があることを示している。

スタンフォード大学の教授で上述の先駆的な研究論文の共著者であるMichael Snyder(マイケル・シンドラー)博士は、CGMを製品化する独自の代謝健全性トラッキングサービスを販売する米国のスタートアップJanuary AI(ジャニュアリー・エーアイ)の共同創業者である。シンドラー博士はご推察のとおり、このテクノロジーの利点を布教して個人ユーザーに価値ある事実を伝えている。

シンドラー教授は実は2型糖尿病患者であり、現時点で約10年間CGMを装着して病状を管理している。したがって、このテクノロジーの有用性をコメントするのにふさわしい人物だ。

シンドラー教授の個人的なCGMの使い方は具体的な病状に合わせたものであるため、Ultrahuman、ジャニュアリー・エーアイ、およびこの分野のその他のスタートアップがターゲットとしている一般的なフィットネスと健康のための使い方とは大きく異なる。しかし、CGMテクノロジーが広範に使われるようになることで、人々が糖尿病予備群または糖尿病になるリスクを管理または低下させることができると同教授は指摘する。

「自分がスパイクを起こす食物とそうでない食物がすぐにわかります。それは人によって異なります」と同教授は言い、こう続ける。「グルコース調節異常でありながらそれを認識していない人がいます。これは大事なことです。というのは、糖尿病予備群の9割は自分の病状を認識しておらず、7割がそのまま糖尿病になってしまうからです。ですから、グルコース値をコントロールして糖尿病の発症を数年遅らせることが期待できるのは本当に価値のあることだといえます」。

「人が食べる物には隠された秘密があります。少なくともその人にとっては秘密ですが、他の誰かにとっては明白なことかもしれません。しかし、何でも知っていると思っている人でさえ、私の見たところでは、わかっていなかったことを学びます。そう、とにかくあらゆるものに砂糖が含まれています」。

「この考え方には多くの人が賛同すると思いますが、第二次世界大戦直後と比較して、人々は現在、当時の4万倍以上の糖質を摂取しているはずです。とにかくあらゆるものに砂糖が含まれています」。

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「私に言わせると、世界中の人たちは、少なくとも何らかの治療を受けたときにはグルコース値を計測してもらうべきだと思います。グルコース値をコントロールしている場合は計測回数を減らして、定期的に計測します。糖尿病予備軍または糖尿病の人にとって、この情報はある程度命を救ってくれるものになると思います」と同教授はいう。

シンドラー教授は、このテクノロジーは今よりずっとパワフルになると予測する。あらゆる経験データに基づき食物に対する反応についてAIと予測モデリングが追加されていくからだ。現在はアーリーアダプターによって食後に入力されている状態だ。

「AIが必要なのはそのためです」と同教授は言い、こう続ける。「まず、自分がスパイクを起こす食物とそうでない食物を知る必要があります。これは経験しなければわかりません。実際に食べてみなければスパイクが起こるかどうかわかりませんから。ぶどうでスパイクを起こす人もいれば、パスタでスパイクを起こす人もいます。白米を食べると誰でもスパイクを起こします」。

「スパイクを起こす食物は人によって異なります。ゆくゆくはスパイクを予測できるようになりますが、今は経験するしかありません。このようなデバイスが行っているのはまさにそれで、スパイクが起きるかどうか教えてくれるわけです」。

「ジャニュアリー・エーアイには食物推薦システムが備わっています。というのも、『あなたが食べているものでスパイクを起こすのはこれです。他の食物の構成についてもわかっています』と教えたり、そこそこの予測精度で『この食物はスパイクを起こさなかったから食べて良い、これはダメ』といったことを示したりできるためです」と同教授は付け加えた。

「ばかげていると思うかもしれませんが、これはビッグデータの問題です。こうした推測を可能にするには大量のデータと十分な理解が必要です」。

同様に、ジャニュアリー・エーアイでは、ユーザーの活動レベルも考慮している。活動レベルもグルコース値に影響を与えるからだ。シンドラー教授は、この2つの要素をトラッキングするだけでもこうしたサービスは十分に役に立つと指摘する。

「スパイクを起こす食物と活動レベル、基本的にこの2つの要素が重要です。もちろん他にも要因はたくさんあります。これがデータの問題である理由もそこにあります。ユーザーの個人的なデータを十分に取り込むことで、そのユーザーに効果のある方法を判断するためのデータが得られます」と同教授はいう。

個人的に、このことだけは確実に言える。これほど興味をそそるガジェットは今まで見たことがない。純粋に情報レベルだけで判断してもそう思う。

Ultrahumanのアプリが提供する定型的なアラートは、ポップアップ表示され、グルコース値が上がっていると警告し、グルコースレベルを下げるために運動せよと提案したり「睡眠の質と代謝反応を上げるために」夕食を早めに摂るようアドバイスしたり、スパイク/クラッシュが最小限に抑えられた場合に「すばらしい/すごい1日の始まりです」なとど高らかに宣言したりする。しかし、アラートは筆者にとってこの製品のおそらく最も役に立たない要素だった。というのは、データに注意を払っていれば、いちいちアラートで通知されなくても自分でわかるからだ。

筆者は、食事と運動のさまざまな工夫を試してみて、霧がかった緑の正常ゾーンを維持するためのハックや戦略を見つけられないか確認するという作業にあっという間にはまってしまった。

食べたものが体内でどのように処理されるのかを見るのは、本当に素晴らしくもありゾッとすることでもある。しかし、注意が必要だ。ランチや夕食時に急に携帯を取り出して、まず食事の内容をアプリに記録し、食べたものに対する体の反応にスコアが付けられるのを我が事のように観察したりしたら、恋人に嫌われるだろう。スクリーンタイムも長くなるためダブルパンチだ。これまでの中でも最も使用時間が長いアプリだ(食事中も食べているものをアプリに記録していることを考えると、本当にそうだ)。

だが、もちろん、このアプリも完璧ではない。

筆者が見つけた機能上の目立った問題として、このアプリでは、運動関連のスパイク(強度の高い運動をすると血糖値がターゲット範囲外に上昇することがある)と食事関連のスパイクを区別できない場合がある(注意深く記録を取っていたとしてもそうだ)。このため、実際には問題ないのにひどいスコアになってしまうことがある。

アプリのチャット機能を使ってこの点を質問してみた。Ultrahumanのコーチによると、運動関連のスパイクは何も心配する必要はないという。「強度の高い運動やHIIT(高強度インターバルトレーニング)を行うとアドレナリンとコルチゾールの値が上がり、それが肝臓を刺激してグリコーゲンがグルコースに分解されます」というのがコーチの1人から受けた説明だ。「何の心配もいりません。自然な現象です」という安心できる言葉も頂いた。

しかし、糖尿病の人は、たとえ運動が原因であっても、グルコース値がターゲットゾーンの範囲外になる場合は心配する必要があるかもそれない。糖尿病患者は上昇した血中グルコースを元のレベルに戻すのに苦労する可能性があるからだ。糖尿病ではない人、つまりUltrahumanがCyborgの対象と考えている一般消費者は、理論上、心配する必要はない。

しかし、このアプリの場合、現状では激しい運動の直後に食事を摂ると、少し心配になることがある。HIITによるグルコース値の上昇(これは通常「良いスパイク」として通知される)と、食事関連のグルコース値の上昇が混ざり合って、代謝スコアが低くなるのだ。

「良いスパイク」と悪いスパイクを正確に識別する修正は明らかに現在進行中だ。

この点についてクマール氏に質問したところ、次のような回答が返ってきた。「グルコース生体指標から生成される情報の精度を高めることは、当社のミッションの中心課題です。食物などに対する人体の反応の度合いを判定する臨床レベルのパラメーターを見ると、X(食物のマクロレベルおよびミクロレベルの成分)とY(回復状態。ストレス、睡眠不足、微生物叢の多様性など)の組み合わせであることがわかります」。

「現行のプラットフォームでは、Xを詳しく見ているため、食物に対するグルコースの反応については多くの例外があります。2022年始めに導入される当社のカスタムハードウェアでは、Yの残りの要因(心拍変動、睡眠など)を捕捉することでXの見方を変更する予定です。これによって、食物と活動に対する反応の見方、結果として得られる精度がまったく変わってくると思っています」。

「例えば新しいプラットフォームでは、スパイクにおける活動と食物の寄与度を明確に算出できます。これができるのは、グルコースと、カスタムのハードウェアウェアラブルデバイスによって捕捉されるその他の要因の組み合わせに基づいて、グリコーゲンのおおよその放出しきい値を算定できるからです」。

またクマール氏によると、Ultrahumanは、グルコース、インスリン、その他の身体パラメーター(中性脂肪とホルモンバランス)に関連する研究の臨床試験を開始して「グルコースモニタリング機能による予測(代謝スコア)と実際の代謝健全性の間の適切な相関関係」を確立したいと考えているという。

「この目標は、より小さなツールと非連続のグルコース値を利用して過去にも試みたのですが、v2でははるかに多くの検証が行えると思います」と同氏は予測する。

というわけで、ここでも、CGMにおいてユーザーの腕から取得する「パーソナライズされた」データのスナップショットの精度を改善するには、さらなる研究が必要になる。つまり、こうした最先端の健康定量化サービスでも、体内で刻々と起こっていることを比較的大ざっぱに査定している可能性があるということだ。

食物についても、もちろん、同様の複雑な問題がある(毎回の食事で1つの食材しか摂取しない場合は別だが)。

ほとんどの人はさまざまな食材を組み合わせて(さまざまな成分をまとめて)食べる。重要なのは、私たちが食べているのは多種多様な成分の組み合わせであるという点だ。そして、皿の上のさまざまな成分を摂る順序によって、それらの代謝方法も影響を受ける可能性がある。同じ食事でも食べ方(または食べる時刻)が異なると代謝のされ方も異なる。

繊維質の豊富な食物(サラダ、野菜など)から始めて、たんぱく質と脂肪を摂り、最後に炭水化物で終わる食事(フムスサラダピタのランチを分解したもの)は、おそらく、同じ食材をパンに挟んで手早く食べやすい方法で食べるよりも代謝スコアは低くなるだろう。

Cyborgを装着した4週間ではっきりとわかった重要なことがある。便利なファストフードを一定の速度でガツガツ食べると、容赦なく、いかにも不健全なグルコースの大きなスパイクが発生する。

また、加工度の高い食品(つまり、砂糖、防腐剤、油などを使った調理済みの食事)は、鮮度の高い自然食品よりもスパイクが発生する可能性が高い。

これは別に驚きもしなかった。筆者は加工度の高い食品は避け、新鮮で最小限に加工された成分を使って自分で調理したものを食べるようにしてきたからだ。とはいえ、加工度の高い食品でスパイクが発生するという事実は、西洋の問題の多い食文化の多くがいかにして形成されてきたかを如実に示している。時は金なりという考え方でスピードを重視した結果、食べられる程度のインスタンス食品を日持ちのする儲かる食品に変えるために人工甘味料やその他の添加物が大量に使われるようになった。

CGMを使ってみてわかったのは、炎症と酸化ストレスの少ない健康的な方法で食べるには、食物の準備と消費の両方により多くの時間をかける必要があるということだ。

より健康的な成分を自分で買い集めるのは、包装済みの「すぐに食べられる」食品を買うよりもお金がかかる。つまり、健康には時間とお金の両面でコストがかかる。したがって、代謝健全性に本格的に取り組み始めると考えるべき社会経済的な考慮事項が山ほど出てくる。

このパンドラの箱を開けることには、我々の破壊された食品システムを超えた意味合いがある。つまり、我々の社会に焼き付けられた広範な構造上の不平等に触れることになる。

健康状態の悪さと貧困は関連していることがよくある。ビッグデータとAIが価値のある健康情報へのアクセスを民主化する(個人が十分な知識を習得することで広範な実用性がスケールする)ことでそのリンクを断つことができるかどうかはまだわからない。あるいは、健康テクノロジーのスマート化が進む中、テクノロジー格差によって不平等がさらに加速することになるのだろうか。これもわからない。

Cyborgというと人類の新しい上流階級がすぐに思い浮かぶ。だが、トラッカーを買う余裕などない人たちはどうなるのだろうか。

夕食にピザ?ゆっくりだが確実な血糖値の上昇が待っている……(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

評定と価格

筆者は代謝トラッキングが謳っている潜在的利益の大きさについては未だに懐疑的だが(懐疑的で健全だと思っている)、Ultrahuman製Cyborgを装着した4週間で、これが何か大きなものの始まりであることを十分に納得できた。それに筆者には、体重を落としたいとか、体を鍛えたいなど、この製品を是非試してみたいというニーズもなかった。ただ、健康を維持することに興味があっただけだ。

また、フィットネス用ウェアラブルデバイスの愛好者というわけでもない。だが、この製品は自己定量化ツールとしてレベルが異なっていると感じた。

未来のヘルスケアの目的は、データアクセシビリティを活用して何が健康に良くて何が悪いのかという情報を知らせ補強することによって、予防介入の方向へシフトすることだ。とはいえ、代謝健全性に関しては、まだまだ知識と研究が不足していることは否めない。

個々のセンサーから得られたデータ(Ultrahumanのサービスだけでも本稿の執筆時点で400倍のCyborgが生まれている)が研究に使用され、複雑な代謝プロセスの理解がどんどん深まっていくだろう。商業的関心から自社の見解を支持し強調する結果を探すようになる危険性は幾分あるものの、潜在的な使用規模(こうしたサービスはどんどん増えている)によって透明性が推進され、技術がクリーンな状態に維持されるはずだ。

と同時に、慎重になるべき点もたくさんある。

非常に関心があり科学的知識も豊富なユーザーは、データ解釈の助けとなる広範な知識とリソースを利用できるため、この種のトラッキングサービスを最大限に活用できるだろうが、情報の少ないユーザーは情報の意味を過度に単純化して読み取る可能性がある。

また、明白なストレス要因を食物や他の生活習慣にリンクさせることで、摂食障害などの問題を引き起こす(または悪化させる)危険性もある。したがって、こうしたサービスのラッパー(やさしく使うための仕組み)とサポートが、CGMテクノロジーで提供される機能を最大限に活用する鍵となる。

簡単にいうと、貧弱なUX設計は深刻な結果をもたらす可能性がある。サービスの設計と実施に関する十分なケアと適切な配慮が必要だ。

長期的に見ると、血中グルコースのスナップショットビューという機能自体、制約が多すぎるのかもしれない。

さまざまなシグナルや生体指標を取り込んで個人の代謝作用について最善の理解を得るには、より統合されたトラッキングプラットフォームが必要になるだろう。ただし、現時点では、グルコースのトラッキングが第一歩のように感じられる。つまり、時間の経過とともに大きな恩恵が蓄積していくであろう生活習慣の調整を試してみる機会を提供してくれるものだ。ある意味、このほうがずっとやる気が起きる。健康食品の選択にいろいろと迷ってもリアルタイムのフィードバックなど一切ないからだ。

この製品を4週間使っただけで多くの興味深い情報が得られたし、本当に示唆に富む経験ができた。アボガドと卵は最高の朝食だ。ビールはひどいスパイクを起こすがリンゴ酒は実際に薬効がある。オリーブとナッツはまさに神の食物だ。こうした経験から小さいが息の長い生活習慣の変更をいくつか行うことができた。

こうした変更が長期的な健康という観点から本当に価値のあるものなのかまだ結論は出ていない。だが、それほど極端な変更ではないことを考えると、効果が出る可能性はわずかしかないとしても、問題はないのではないか。

ただし、別の問題がある。炭水化物によって大きなスパイクが発生することはわかった。だが、その結果に基づいて炭水化物の摂取量をさらに減らすと、トレーニングのためのエネルギー量が制限されてしまうのではないかと心配になった。

筆者の場合、炭水化物の摂取量はすでにかなり低いため、食物はエネルギーとなることを忘れるわけにはいかない。そして必要なエネルギーは変動する。したがって、血中グルコース値について「スパイクは悪い、安定しているのがベスト」という考え方をするのは、平均以上のスポーツ好きの生活を送っている人にとっては単純化し過ぎのきらいがある。

トラッカーのデータは是非ともしかるべき専門家に見てもらう必要がある。パーソナルトレーナーは、トレーニングに必要なエネルギー量を認識したうえで筆者の測定結果をはるかに賢明に活用できる能力を備えている可能性が高い。このようなトレーナーは、食事の調整についてもアドバイスできるかもしれない。それに基づいてパンを食べることが許されるかもしれない。

もちろんパーソナルトレーナーやパーソナル栄養士など、誰でも雇えるものでもないし(オリンピック選手でもない限り)生活習慣に基づいて正当化できるものでもない。そういう点では、この製品は価値があるように思う(ただ、得られるのはほとんど生のデータなので、より広範な解釈の大半を自分で行う必要があるが)。

Ultrahuman製Cyborgの価格は、ベータ版プログラムで2週間最大80ドル(約9000円)または12週間で470ドル(約53000円)だ。専属のパーソナルトレーナーに24時間体制で自分のデータを解析してもらうと、これよりはるかに高くなる。そういう点ではかなりお買い得だと思う(まともなパーソナルトレーナーを雇うと1時間80ドル(約9000円)くらいは取られる)。

このアプリがフルタイムのパーソナルトレーナーになることを目指しているわけではないことは強調しておく必要がある。ただし、血中グルコース値が高くなりすぎると運動するよう勧めたり、過去を振り返ってベストなワークアウトゾーン(つまり、1週間の間で運動するのに最適な時間帯を食事の方法に基づいて決めたもの)を特定したりといった基本的なことはやってくれる(「傾向はわかっていますか?この時間を有益に使って次回のワークアウトをこなしてください」という提案をメールで受け取ったことがあるが、正直言って、このアドバイスは役に立つというより思いつきのような感じがした)。

このアプリには人間のコーチが数人付いていて、質問を受けたり、データを分析したりしてくれる。また招待者限定のCyborg Slack(Cyborgスラック) チャンネル経由で他のユーザーにいつでも助けを求めることもできる(ただし、これはクラウドソーシングによって得られる知恵であり、専属のプロによるサポートではない)。したがって、価格は比較的リーズナブルだが、微妙なニュアンスの情報を知りたいときには、ほとんどの場合ユーザーが自分だけで解決する必要がある。

もう1つよく考えておくべきことがある。データ駆動型で野心的に予測を行うAI製品はどれも同じだが、Cyborgはユーザーをトレーニングしているだけではない。ユーザーのデータによってCyborgもトレーニングされているのだ。自分の生体情報を24時間休みなく提供することに、どのくらいの金銭的価値があるとお思いだろうか。

極めて私的なパーソナルデータから導出される価値はユーザーとデバイスの間を双方向に流れる。しかし、両者間でフローが均等に分配されているとは限らない。このサービスから十分な価値を得ていると感じているなら、それでもよいだろう。だが、プライバシーへの配慮がなされているかどうかは無視できない。

サービスにアクセスできるなら、このような私的なデータを民間企業と共有してもかまわないという人もいるだろう。しかし、Ultrahumanが規定しているCyborg向けのプライバシーポリシーには、ユーザーの情報が別の場所に送られる状況について記載されている。例えば召喚状を受け取った場合は、応じることが法的に義務付けられている。

このプライバシーポリシーには「匿名の集約データは、広告会社、調査会社、その他のパートナー企業と共有することがあります」という記載もある。また、アドテック業界が同じトピックについて複数の方法でデータを収集し共有することで個人のプロフィールの質を高めてターゲティング可能にするために貪欲に取り組んではいるが(「糖尿病」などのラベルを付けることも含む)、ヘルスデータを確実に匿名化するのは難しいことがよく知られている。したがって、CGMから吸い上げられた極めて個人的なデータが最近のウェブの巧みに操作されるマイクロターゲティング広告マトリックスに登録されることも、残念ながら、想像される。

個人的な感想はこのくらいにしておこう。クマール氏自身はCGMを使ってグルコースをトラッキングすることで何を学んだのだろうか?

「私にとって最も大きな学びは、自分が食べるものの範囲を広げて、自分の好きな食物をもっと食事に取り入れるようにすることです。CGMが登場する前は、自己管理型のダイエットを行っていましたが、ソーシャルイーティングに影響するため、長くは続きませんでした。Cyborgを使うようになって、食事と活動のバランスをとる方法を理解できるようになりました。ウェイトトレーニングをする日や全般に活動量の多い日は、いつもより少し柔軟に考えて好きなものを食べてもよいのだと思えるようになりました」と同氏はいう。

「もう1つの大きな学び、これはまだ進行中ですが、1日を通して安定したエネルギーレベルを維持することです。私の場合、グルコースレベルの安定とエネルギーレベルの安定の間に大まかな相関関係があります。ですから、仕事で大量の資料を読む必要がある週は、エネルギーレベルを安定させるようにしています」。

最先端の競争

この分野は、自己定量化トレンドにおける針恐怖症を乗り越えて開けた真の開拓地だ。あまり踏み荒らされていない市場で、スタートアップが実験的にビジネスチャンスを狙っている。当然、退屈な旧式の歩数と睡眠のトラッキングよりもはるかにおもしろい。それはまさに、この種のトラッカーはあまりなじみがないからだ。

ばね仕掛けのCGMセンサーを自分の腕に発射すると純粋に発見の感覚を覚える。ある種の市民科学共同体に関与している先駆者のような気分だ。自身の生活習慣の健全性を問いただす実験を設計し実行するというすばらしい機会を与えられる。

それに加えて、自分で個人的に学習したことが他の人たちの役に立つかもしれないという包括的な可能性がある。これが実現できるのは、Ultrahuman製Cyborgに関するコミュニティ構築の取り組みのおかげだ(例えばSlackチャンネルでは、アーリーアダプターたちが自分たちの学びを共有するよう促される。また、バーチャルおよび対面のオフ会も開かれる)。それで、社会貢献の使命を果たしている気分にもなる。

皮膚の穿孔を通じたマンマシン相互作用に関わる勇気のあるスタートアップは注目を浴びるチャンスだ。結局、主流の大手テック企業はそこまで変わったことはやれないのだ。そんなことをしたら、もっと平凡な生体指標のトラッキングを支持するより広範な健康定量化ユーザーからそっぽを向かれてしまうからだ。

そのおかげで、このようなスタートアップは、極めて私的な生体データを取得して自社の製品開発、データサイエンス、AIモデル、アルゴリズムによる予測機能に入力として与える機会を得られる。そして、消費者がヘルスサービスのパーソナライズを望む中、競争で有利な立場を得て先頭に立てる可能性もある。

血中グルコーストラッキング(従来は糖尿病またはその予備軍の症状がある人たちを対象としていた)の最前線では、多くのスタートアップがその気のあるユーザーの間質液に入り込むという思い切った方法をとるようになっている。

インドのUltrahuman(Cyborgサービスはまだベータ段階)だけでなく、他にも多数のスタートアップがある。米国におけるCGMを活用したUltrahumanの競合他社をいくつか挙げてみる。ジャニュアリー・エーアイはグルコーストラッキングと心拍数モニターデータを組み合わせて食物の予測と運動レシピのパーソナライズを提供し、過剰摂取した食物を燃焼させるのを支援する。Levels Heath(レベルズ・ヘルス)はa16zからの支援を受けている。Signos(シグノス)はCGMを使用してリアルタイムの減量アドバイスを提供している。Supersapiens(スーパーサピエンス)は運動能力を重視している。NutriSense(ニュートリセンス)は日々の健康度を最適化する全体像キャッチフレーズを提供する。

競合他社は欧州にもいる。英国本拠のZoe(ゾーイ)は、大規模な微生物叢研究から得たデータを使用してAIモデルを生成し、個々の食物の反応を予測する。このため、ユーザーに血中グルコースモニターを装着させるだけでなく、糞便サンプルを提出してもらい、ラボで解析する。

他にも欧州でグルコースモニタリングを目指しているスタートアップとして、ドイツのPerfood(パーフード)は食事のパーソナライズによる体重管理を行い、オランダのClear Nutrition(クリア・ニュートリション)は食物に対するユーザー固有の反応を学習してユーザー専用の栄養プランを構築している。本稿の執筆時点では、この発生期の領域にある他の欧州企業として、フィンランドのVeristable(ヴェリステーブル)(略称Veri)は、24時間体制のグルコースモニターサービスの広告を写真共有ソーシャルネットワークInstagram(インスタグラム)に掲載している。

この広告では、いかにもヒップスター的な見た目のモデルがUltrahumanのサービス(および他の多くのサービス)で使用するのと同じ円盤型のウェアラブルデバイスを身に付けている。このデバイスはスタイリッシュなグレーのパッチで留められている。Ultrahumanの円盤型ディスクは白黒で、斜体のKの文字がくっきりと入っていた。「何を食べるべきか推測するのはもう終わり」とヴェリステーブルの広告は宣言し、この159ユーロ(約2万円)のサービスに目を向けさせている。

Veri(6月にシードラウンドで資金を調達、ベンチャーデータベースCrunchbase(クランチベース)による)とUltrahuman、および他の多くのスタートアップがアボット製のCGM(前述のフリースタイル・リブレ)を使用している。この円盤型のデータ収集デバイスには、中空の針の付いたばね仕掛けの装着具が同梱されている。位置を固定してしっかりと、しかしあまり強すぎない程度に押し下げるとフィラメントが皮膚に直接発射される。

ここで珍しいのはテクノロジーそのものではない。CGMは世に出てから数年経っている(アボットのフリースタイル・リブレは2016年に導入された。一方、別のメーカーDexcom(デクスコム)は、他社の糖尿病管理用電子デバイスで使用できる完全互換CGMとして2018年にFDAの認可を受けている)。実験的なのは、CGMを使って行っていることである。

つまり、CGMは変革的なテクノロジーとして糖尿病および糖尿病予備群の患者たちにすでに利用されているが、自分たちの体についてもっと知りたいと思っている一般ユーザー向けにCGMを商業化する動きがあったのは比較的最近のことだ。

2021年夏、デクスコムは、サードパーティーデベロッパーとデバイス向けのリアルタイムAPIとしてFDAの認可を受けた。フィットネスハードウェアメーカーGarmin(ガーミン)はユーザーによる自身のグルコースデータへのアクセスを拡張するためにデクスコムと提携した数社のうちの1社だ。ただし、依然として糖尿病患者向けの実用性を高めることに重点が置かれている。

ただし、投資家たちはすぐに幅広い消費者がいる可能性を察知し、資金をどんどん投入して開発を加速させ、より多くの人たちにCGMを広げようとしている。

例えば2021年初め、ジャニュアリー・エーアイはさらに880万ドル(約10億200万円)を追加調達し、ゾーイは2021年5月に530万ドル(約6億300万円)のシリーズBラウンドをクローズした(Balderton(バルデントン)が投資家として追加され、最近、事業規模を拡大している)。Ultrahumanも1750万ドル(約19億9000万円)のシリーズBラウンドを実施すると発表した(2021年8月)。一方、シグノスも11月にシリーズAで1300万ドル(約14億8000万円)を調達している。

データ量が増えれば、投入されるVC資金が急増するのは確実だ。

Ultrahumanの広報は潜在的な最大市場規模に触れ「代謝健全性危機」が始まろうとしていると指摘する。具体的には、米国人の88%以上(世界の人口の約80%)が「代謝性疾患に対処する」ことになるという。そして、Ultrahumanの「Cyborgアーミー」(同社はアーリーアダプターたちをこう呼んでいる)に加わることで恩恵を受けられる可能性があるとしている。

したがって潜在的な最大市場は巨大だ。だが、このような広範なオンボーディングを行うことで、結果的に容易に習熟できるようになると思われる。スタートアップ各社は、抵抗の少ないアーリーアダプターや運動愛好家たち以外にもユーザー層を拡大し、このテクノロジーが放っておいても伸びるような自己定量化とバイオハッキングコミュニティの外に踏み出そうとしている。

Ultrahumanのコミュニティ構築の取り組みでは、Cyborgの招待者限定スラックチャンネルとTownhall(タウンホール)を介してユーザーに個人の体験とさまざまなヒントを共有するよう促すことに重点を置いている。また、スポーツ好きのインフルエンサーを登録して、運動エネルギーの補給とその他のバイオハッキング手法の利点を伝えてもらい、CGMを身に付けることに目的を与えようとしている。

「現在、糖尿病患者の数は全世界で5億人を超えていますが、さらに全体的に見れば、6億人を超える糖尿病予備群がいることに気づけます」と同社の広報は指摘し、その対処方法として、CGMテクノロジーと「健康スコアアルゴリズム」および「即座の健康アドバイス」の組み合わせを提案する。そして、これにより「数百万人がこの危機を管理し回避することができる」としている。

数百万人が皮膚にセンサーを付けることに納得するかどうかはまだわからない。

このテクノロジーは進化して、あまり精度を落とすことなく、侵襲性が低く、主流に沿ったものになるだろう。そうなれば、標準的なフィットネスキットにはならないと考える理由はなくなる。

代謝トラッカーのサブスクリプションサービスに数百万人がお金を出すようになるかどうは、また別の問題だ。だが、この種のデータにアクセスできる状態を少しでも体験してしまうと、病みつきになる可能性がある。もちろん、センサーが生活習慣の選択に関するデータ、どのくらい健康的な生活を送っているを示すソフトウェアスコアをフィードバックしてくると、若干、監視され判断されているという気持ちにはなるかもしれない。

おかしなもので、世界中に蔓延している甘いものを追い求める不健康な習慣が、今や商業的に逆用されて、血糖値の上昇と下降をトラッキングしバイオハッキングするようになった。少なくとも、次の血糖値の上昇を盲目的に追いかけるよりも健康的な習慣だとは思うが。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

RFIDを利用した使い捨て可能な介護用排尿検知センサーC-Letter、介護現場での排尿記録を自動化し自立を支援

RFIDを利用した使い捨て可能な介護用排尿検知センサーC-Letter、介護現場での排尿記録を自動化し自立を支援

センサーを取り付けたオムツ。センサーは名刺サイズの大きさという

総合部品メーカーNOK(エヌオーケー)は3月16日、おむつに装着して排尿を検知し、無線で知らせる排尿検知センサー「C-Letter」を開発したと発表した。介護の現場での排尿記録を自動化し、要介護者の自立を支援するという。

人材不足が進む介護業界では、ITや介護ロボットといったテクノロジーの活用に期待が集まっている。特に、1日のうち何度も必要となる排泄ケアは、作業の効率化が求められる。また、介護される側の尊厳とプライバシーに大きく関与するデリケートなことでもある。テクノロジーをうまく使って排泄を検知し、記録をつけ、それを分析することで、要介護者の生活の質を高め、自立を促す介護計画の策定につなげることが重要となる。

NOKは、フレキシブルプリント基板(FPC)の技術を持つグループ会社の日本メクトロンと共同でC-Letterを開発した。濡れ検知機能とRFID(無線タグ)を組み合わせた濡れ検知デバイスを不織布で挟んだもので、両面テープでおむつに固定して使用する。これを介護施設の見守りシステムや記録システムと連動させれば、使用者の排泄タイミングを自動で記録できるようになる。

今後は介護現場での実証実験、連携する介護システムの拡大、収集した記録データを分析して排泄ケアに貢献するソリューションの開発を進め、事業化を目指すとしている。

大阪大学、薬剤耐性菌・非耐性菌を電子顕微鏡画像と深層学習により形で判別することに成功

薬剤耐性菌(左)と非耐性菌(右)の電子顕微鏡画像。耐性菌は外膜の形状が変化し、一部ブレブ構造(矢頭)も認められる。白矢印は異染顆粒

薬剤耐性菌(左)と非耐性菌(右)の電子顕微鏡画像。耐性菌は外膜の形状が変化し、一部ブレブ構造(矢頭)も認められる。白矢印は異染顆粒

大阪大学は3月16日、薬が効かない薬剤耐性菌を画像で判別できることを明らかにした。顕微鏡画像と深層学習により、耐性の獲得による形態の変化を検知し、さらにその特徴に寄与する遺伝子の紐付けにも成功した。薬剤耐性化の過程での細菌の形態変化、遺伝子や耐性化因子の変化が、機械学習によって複合的に理解できるようになるという。

抗菌薬に長い間さらされることで耐性を獲得した薬剤耐性菌による感染症が問題になっている。薬剤耐性菌が出現するメカニズムについては盛んに研究されているものの、耐性化の抑制に欠かせない総合的な理解は進んでいない。大阪大学産業科学研究所の西野美都子准教授、青木工太特任准教授、西野邦彦教授らによる研究グループは、複数の薬が効かなくなる多剤耐性に関する研究を行っており、その過程で、耐性を獲得した細胞は遺伝子だけでなく形も変化させていることを発見した。そこで細菌の顕微鏡画像と深層学習を用いて形態からの薬剤耐性菌・非耐性菌の判別を試みた。

電子顕微鏡解析の流れ

研究グループは、薬剤耐性菌であるエノキサシンを用いて、急速冷凍固定法で凍結して電子顕微鏡用のサンプルを作り、細菌の細胞内部構造が観察できるようにした。これを1万枚以上撮影し、深層学習で判別したところ、90%以上の正解率で耐性菌と非耐性菌の判別ができた。Grad-CAM(勾配加重クラス活性化マッピング)法で耐性菌の形態学的特徴を可視化すると、外膜領域に注目領域が集中していて、目視の所見と一致した。さらに、抽出された画像的特徴量と遺伝子発現データとの相関を計算すると、外膜を構成するリポタンパク質など、膜の構成に関わる遺伝子との高い相関が認められた。

Grad-CAMによる特徴の可視化。判別の根拠となった注目領域をヒートマップにて可視化。耐性菌(図左)の外膜に注目領域が集中している。非耐性菌(図右)は顆粒に集中している

顔認証など深層学習による画像判別技術は発展しているものの、微生物(肉眼では見ることのできない生物)、特に薬剤耐性菌を対象にした研究は、ほとんど例がないという。将来的には、細菌の形態から薬剤耐性能を自動的に予測する技術の開発につながることが期待されると研究グループは話している。

成人10万人分のデータを機械学習アルゴリズムで睡眠解析し睡眠パターンを16に分類、新たな不眠症診断法に期待

成人10万人分のデータを機械学習アルゴリズムで睡眠解析し睡眠パターンを16に分類、新たな不眠症診断法に期待

東京大学は3月15日、腕の加速度から覚醒と睡眠を判別する機械学習アルゴリズム「ACCEL」を開発し、約10万人の加速度のデータを解析したところ、睡眠が16種類のパターンに分類されることがわかったと発表した。その中には睡眠障害との関連が疑われるものもあるため、腕時計型ウェアラブルデバイスと「ACCEL」を組み合わせることで、睡眠障害の新たな診断方法や治療法の開発につながるものと期待されている。

ライフスタイルの多様化により、遺伝的に持っている睡眠パターンと相容れない生活が強いられると、不眠症となり健康リスクが高まる。例えば夜型の人は、昼間に学校や会社に通うといった社会的義務感により平日の睡眠時間が短くなり、平日と休日の睡眠時間が違ってくる傾向にある。これは「社会的時差ぼけ」と呼ばれ、肥満、高血圧、精神的なストレスといった健康への悪影響が心配される。実に現代人の60〜70%は睡眠不足を感じているという。その解消には正確な不眠症の診断と適切な治療が大切だが、そのためには週単位の睡眠パターンを把握しなければならず、その方法は問診などによる主観的な指標に頼っているのが現状だ。

そこで東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学分野の上田泰己教授、香取真知子氏、史蕭逸助教らによる研究グループは、簡単に正確に1週間以上の長期にわたる睡眠測定を行い、その結果を定量的に解析できれば、より詳細な診断ができると考えた。そして2022年に、腕の加速度から睡眠と覚醒の状態を判定するアルゴリズム「ACCEL」を開発した。

研究グループは、英国の遺伝情報や健康情報を含む研究用データベース「UK Biobank」にある、30〜60代の成人10万人分の加速度データから睡眠データを生成し、それを「ACCEL」で解析した。睡眠データを21の睡眠の指標に変換し、次元削減法とクラスタリング法という分析手法を用いて睡眠パターンを8種類のクラスターに分類。さらに、睡眠指標の中の睡眠時間や中途覚醒時間など、睡眠障害に関係が深いとされる6つの指標において、一般的な睡眠から大きく外れるデータを同様に解析したところ、新たに8種類のクラスターが分類された。こうして、不眠症診断に用いられている現行方式では判定が難しい社会的時差ぼけや、生活習慣に関連するクラスターを定量的に分類することに成功した。

今後は、睡眠障害と診断されている人のデータを用いて、各クラスターと睡眠障害の関係性をより正確に解明することで、定量的な指標に基づく新たな診断方法の開発が期待できるという。また、睡眠障害をより詳細な分類による適切な治療法の確立も期待される。

解析された16のクラスターは以下のとおり。

    • 1:中途覚醒を持つ(不眠症に関連)。合計睡眠時間は多い
    • 3a:中途覚醒を持つ(不眠症に関連)。合計睡眠時間は一般的
    • 3b:中途覚醒を持つ(不眠症に関連)。合計睡眠時間は少ない
    • 2a:不規則な睡眠スケジュールを示す
    • 2b:断片的な睡眠を繰り返し、合計睡眠時間が少ない
    • 3b-1:合計睡眠時間が短く、中途覚醒が長い(不眠症に関連)
    • 3b-2:合計睡眠時間が短く、長い中途覚醒と短い中途覚醒の両方を持つ(不眠症に関連)
    • 4a:1日の睡眠覚醒リズムが24時間よりも長いと推定される
    • 4b:平均的な睡眠を持ち、データ総数がもっとも多い
    • 4b-1:長眠型
    • 4b-2:朝型
    • 4bー3:1日の生活リズム(睡眠覚醒リズム)が24時間より短い
    • 4b-4:合計睡眠時間が短く、短い中途覚醒を持つ(不眠症に関連)
    • 4b-5:合計睡眠時間が一般的であり、少ない回数の長い中途覚醒を持つ(不眠症に関連)
    • 4b-6:夜型
    • 5:日中の睡眠を持たない

従業員コンディション分析のラフールが博報堂「ミライの事業室」と提携、生活者のウェルビーイング実現に向け新事業創造

企業向けに心身の健康状態などの調査・対策をサポートするラフールは3月14日、博報堂の広告事業を超えた新規事業を目指す「ミライの事業室」との業務提携締結を発表した。この提携により、生活者のウェルビーイング(心身ともに充足している状態)の実現に寄与するための新規事業創造を推進する。

提携による新サービスの第1弾は、共同開発した「ウェルビーイングタイプ診断」(ソフトクラスタリング)。ラフールの企業向け従業員サーベイツール「ラフールサーベイ」に搭載し、3月28日よりラフールサーベイ導入企業に提供を開始する。

近年、コロナ禍やテレワークの長期化などにより、従業員がメンタルに不調を抱えていても管理者側がそれら不調や変化を把握しにくいという状況がある。しかしそうした状況下でも、従業員が安心して業務をこなせるよう、従業員のメンタル変化に加えて個々の価値観や嗜好を踏まえたウェルビーイングの傾向を把握し、踏み込んだ形で向き合えることが重要という。この課題を解決するものとして、ラフールとミライの事業室は、ウェルビーイングタイプ診断モデルを共同で開発した。

これは、ミライの事業室による独自診断指標「生活者ウェルビーイング21因子」を基にした生活者調査を活用し、ラフールと共同で開発したものという。ラフールサーベイにおいて入力された回答から診断を行い、生活者ウェルビーイング21因子から抽出した5種類のウェルビーイングタイプのうちどれに近いのか結果を表示する。

またこの結果により、従業員が自身のメンタル状態に加えてウェルビーイングタイプ(価値観や嗜好性)を把握でき、従業員同士や組織内のコミュニケーション活性化ツールとして利用されることを目指しているそうだ。また2022年8月以降は、利用者のアンケート結果などを踏まえ、随時アップデートしていく予定とのこと。

2011年11月設立のラフールは、あらゆる業種の企業向けに、従業員のメンタル・フィジカルの状態や、エンゲージメント、衛生要因を可視化する組織診断サーベイとして、ラフールサーベイを開発・運営。ラフールサーベイは、人事施策の効果を定量化し、従業員・管理職・企業と立場の異なる人達が共通認識を餅、共通言語化できるものとしている。

また約3000社の従業員18万⼈以上のメンタルヘルスデータから、⼤学や臨床⼼理⼠の知⾒を取り⼊れた独⾃の調査項⽬を従来のストレスチェックに加えることで、多⾓的な分析が可能。組織エンゲージメント・ハラスメントリスク・離職リスクなども含めた包括的な診断も行える。

放射線治療で必要な臓器の自動認識と輪郭作成をAIで高精度に高効率に行うシステムを開発

放射線治療で必要な臓器の自動認識・輪郭作成をAIで高精度に高効率に行うシステムを開発

広島大学は3月11日、放射線治療で欠かせない腫瘍や臓器の輪郭作成を、AIで自動的に高精度に行うシステム「Step-wise net」を開発したと発表した。CTやMRIの画像から臓器の輪郭を自動的に抽出し、輪郭作成を行うというものだ。従来の方式に比べて、精度が「著しく向上」したという。

放射線治療では、臓器ごとに線量分布を評価できるように、CTやMRIの医療画像上で腫瘍の領域や正常な臓器の輪郭を作成する。臨床試験では、この輪郭作成は統一したルールの下で行われなければいけない。そのためにも、自動輪郭作成ツールの需要が高まっている。そこで広島大学学大学院医系科学研究科(河原大輔助教、小澤修一特任准教授、永田靖教授)と日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG。西尾禎治教授)からなる研究グループは、従来の深層学習を用いた輪郭作成技術を発展させた「Step-wise net」を開発した。

このシステムは、輪郭作成の対象となる臓器周辺域の抽出と、抽出した領域内での臓器の高精度な輪郭作成という2段構えになっている。研究グループは、これを用いて頭頸部の輪郭作成精度の評価を行った。その結果、すべての臓器において、画像変形技術を用いた非AIの市販ツール「Atlas」法よりも精度が高かった。さらに、従来のAI技術である「U-net」と比較しても、すべての臓器において「Step-wise net」の精度が高い結果となった。

ツール別の輪郭作成の結果。黄色が正解、緑線がツールが描いた輪郭。(a)Atlas、(b)U-net、(c)Step-wise-net。

自動輪郭作成が可能になれば、輪郭作成時間は従来の1/10にまで短縮予定で、臨床業務が改善されるという。また、手動で輪郭を描き出す方式とは異なり、施設ごとの差がなく、均質な輪郭が取得できるため、この自動輪郭作成ツールの活用が期待されるとのことだ。

心臓リハビリ治療用アプリなどを開発するCaTeが1億円のシード調達、プロダクト開発と臨床研究を加速

心臓リハビリ治療用アプリなどを開発するCaTeが1億円のシード調達、プロダクト開発と臨床研究を加速

心臓リハビリ治療用アプリなどの開発を行うCaTeは3月10日は、シードラウンドとして、J-KISS型新株予約権の発行による1億円の資金調達を2021年12月に実施したと発表した。引受先はCoral Capital。調達した資金は、プロダクトの開発と臨床研究にあてる。また2022年3月、東京都より第二種医療機器製造販売業の許可を取得したと明らかにした。

心疾患患者は超高齢化社会において年々増加する中、再入院・死亡率の減少のためには、心臓リハビリテーション(心臓リハビリ)が有効であることが知られている。実際に心臓リハビリを行うことで、例えば心不全患者における再入院率が約30%低下すると報告されているという。

しかし日本では、心臓リハビリを実施可能な医療機関が限られていることや患者の通院負担などから、外来心臓リハビリへの参加率は約7%と低い。結果として心不全患者の多くが再入院を繰り返し、医療費負担が発生しているという。この課題を解決するため、遠隔心臓リハビリシステムの早期社会実装が望まれている。

CaTeは、2020年3月の設立時から教育事業におけるiOS・Andoridアプリを含めたシステムを開発。その知見を活かし、外来心臓リハビリを自宅で行える心臓リハビリ治療用アプリの開発に取り組んでいる。同社アプリには、運動療法に加えて、日々のバイタルデータ共有、生活食事管理、AIによる通知・チャット機能などの行動変容を促す機能も採用しており、包括的心臓リハビリテーションを提供できるという。

栄養価不足などを調べられる即時尿検査サービス開発のユーリアが5500万円調達、6月の製品リリース目指す

栄養価不足などを調べられる即時尿検査サービス開発のユーリアが5500万円調達、6月の製品リリース目指す

尿検査キットと専用アプリで栄養価不足などを調べる「即時尿検査サービス」を開発中のユーリアは3月10日、第三社割当増資により約5500万円の資金調達を実施したことを発表した。引受先は、ミレイズ、秀インターなど。

調達した資金は、2022年6月のサービスリリースを目指し、研究開発およびシステム開発の強化、それに伴う人材の採用を強化にあてる。またまずは今春、スポーツチームやアスリートに向けた検査キットのリリースを予定しているという。

ユーリアは、「すぐわかるを、もっと身近に」をビジョンに掲げ、尿検査で体の状態を即時に解析することを目的に、東京大学との共同研究により起ち上げられたヘルスケア領域スタートアップ。独自バイオマーカーの研究による解析・計測技術、検出したデータをモニタリングするスマートフォンアプリを開発している。

現在開発を進める尿検査サービスでは、尿中の成分に応答するバイオマーカーを編み出し、検査キットとスマートフォンアプリを使い3ステップでアミノ酸やビタミン、ミネラルなどの成分を検出できるという。誰もが「低コスト・簡便・迅速」に尿から体の状態をモニタリングできる世界を実現するとしている。栄養価不足などを調べられる即時尿検査サービス開発のユーリアが5500万円調達、6月の製品リリース目指す

医療機関向け治療用アプリを手がけるCureAppの「高血圧症向け治療用アプリ」が薬事承認取得、ソフトウェア単体で日本初

医療機関向け治療用アプリを手がけるCureAppの「高血圧症向け治療用アプリ」が薬事承認取得、ソフトウェア単体では日本初

医療機関向けの治療用アプリを開発するメドテック企業CureApp(キュア・アップ)は3月9日、本態性高血圧症のための治療用アプリの薬事承認を取得したと発表した。薬だけに頼らず、アプリで生活習慣を修正するデジタル療法を実現する「高血圧症治療用アプリ」誕生の第1歩になるとのこと。ソフトウェア単体での薬事承認は国内初であり、高血圧領域における治療用アプリの薬事承認了承は世界初だという。これは、自治医科大学内科学講座循環器内科学部門との共同研究によるもの。

原因がはっきりしない本態性高血圧症の治療には生活習慣の修正が重要となるが、患者の価値観や意欲、生活環境に左右されるため継続が難しく、医療機関は介入しにくい。そのため、患者の70%は降圧目標が未達成もしくは未治療の状態だという。

このアプリは、そうした課題に対処するべく、患者ごとに個別化された治療ガイダンスを提供する。血圧と生活習慣の記録から、その人に合わせた食事、運動、睡眠などに関する情報を示すことで行動変容や継続的な生活習慣の修正を促し、正しい生活習慣の獲得をサポートすることで治療効果をもたらすことを目指している。患者の生活習慣の修正状況は、医師用アプリで医師が確認できるため、診療の質の向上も期待できる。

CureAppは、「アプリが病気を治療する効果を持つ」と考え、「治療アプリ」の開発を行っている。2020年8月には、ニコチン依存症治療アプリとCOチェッカー「CureApp SC」が薬事承認を取得し、保険適用になっている。現在は、非アルコール性脂肪肝炎向け、アルコール依存症向け、がん患者支援、慢性心不全向けの各治療アプリの開発に取り組んでいる。

大量出血も瞬時に止められる、体液に触れると固まる合成ハイドロゲルで迅速な止血を実現

大量出血も瞬時に止められる、体液に触れると固まる合成ハイドロゲルで迅速な止血を実現

東京大学は3月7日、血液などの体液に触れると瞬時に固化する合成ハイドロゲルを開発。大量出血も速やかに止血ができることを実証したと発表した。大規模な組織損傷や、血液をサラサラにする薬を服用している人にも効果があるという。

外科手術では、出血の制御が重要になるという。通常、人の血液は凝固反応によって自然に固まるものの、太い血管からの出血には止血剤を使い、圧迫止血を行う。しかしその方法では、止血までに長い時間がかかる。また、止血剤はヒトの血液由来なので、感染症の危険性を排除しきれない。東京大学医学部附属病院血管外科(大片慎也医師、保科克行准教授)、東京大学大学院工学系研究科(鎌田宏幸特任研究員、酒井崇匡教授)らによる研究グループが開発した新しい合成ハイドロゲルは、通常は液体だが、体液の一種である血液に触れると瞬時に血液を巻き込んで固化し、止血されるというもの。血液凝固反応とはまったく別の作用で固まるものであり、合成物質なので感染症の心配もない。

主成分は、4分岐型ポリエチレングリコール(PEG)。弱酸性では液体だが、中性になると急速に固まる。血液と反応すると、血液が中性を保とうとする緩衝作用により瞬間的に中和されて固化するということだ。

ラットを使った実験では、下大静脈大量出血の状態を作って合成ハイドロゲルを適用したところ、1分後には安定的な止血効果が得られた。比較対照のために既存の止血剤と圧迫止血を行ったラットでは、同じ時間内には止血はできなかった。止血から1週間後に再び開腹して合成ハイドロゲルを適用した部位を調べたところ、既存の止血剤よりも炎症反応が軽かった。

この合成ハイドロゲルは、「病気や抗凝固薬によって血液が固まりにくい状態にある患者さんにおいても、速やかに止血を達成できる局所止血材を開発できる可能性」があるとのこと。また、血液以外にも髄液などの体液漏出防止剤としても応用できるという。それにより、医師と患者の双方の精神的負担軽減に貢献できると、研究グループは話している。

4000年かかるヒト遺伝子の網羅的探索を富岳と「発見するAI」利用し1日で完了、肺がん治療薬と耐性の因果メカニズム抽出

富岳と「発見するAI」利用し4000年かかるヒトの遺伝子の網羅的探索を1日で完了、肺がん治療薬と耐性の因果メカニズムを抽出

東京医科歯科大学富士通の研究グループは3月7日、スーパーコンピューター「富岳」と、富士通が開発した「発見するAI」を用いて、肺がん治療薬の耐性の原因と思われる遺伝子の、新たな因果メカニズムの抽出に成功したと発表した。これは、2万変数ものデータを1日以内で超高速計算し、1000兆通りの可能性から未知の因果を発見できる技術の開発によるもの。

がんの原因となる分子だけに作用する「分子標的薬」は、投与を続けると、それに対する耐性を持つがん細胞が増殖し再発するという課題があり、そのメカニズムを解明するには、精緻なデータと解析技術が不可欠となる。また、薬の臨床治験では、効果が期待できる患者を選ぶ必要があるが、個人の遺伝子やその発現量により薬剤効果が異なり、遺伝子の発現量の組み合わせパターンは1000兆通りを超える。がんに関係することが判明している主な50個の遺伝子の組み合わせに限定し、各遺伝子の発現量を2分類(遺伝子の発現の「高い」「低い」など)とした場合でも、条件数は2の50乗となり、1000兆通り以上となるそうだ。

そのため、効率的な探索技術が求められており、その有力な候補となるのが富士通が開発した「発見するAI」だ。これは、判断根拠を説明でき、知識発見が可能なAI技術「ワイドラーニング」(Wide Learning)を用いて、特徴的な因果関係を持つ条件を網羅的に抽出する技術なのだが、2万個あるとされるヒトの全遺伝子を網羅的に探索しようとすると、通常の計算機では4000年以上かってしまう。

そこで研究グループは、富岳に条件探索と因果探索を行うアルゴリズムを並列化して実装し、計算能力を最大限に引き出した。そこに「発見するAI」を活用したところ、ヒトの全遺伝子に対する条件と因果関係の網羅的探索が1日以内で実現した。そして、肺がんの治療薬に耐性を持つ原因となる遺伝子の特定に成功した。

研究グループは、今後、薬効メカニズムやがんの起源の解明といった重要課題に取り組むとしている。また東京医科歯科大学は、この技術を用いてがんや難病の攻略法の研究を推進する。富士通は、マーケティングやシステム運用などで複雑に交錯する因子を発見し、意志決定を支援する取り組みを進めるとのことだ。

歯の再生治療薬の研究・開発加速、歯科領域創薬の京大発スタートアップ「トレジェムバイオファーマ」が4.5億円調達

歯の再生治療薬の研究・開発加速、歯科領域創薬の京大発スタートアップ「トレジェムバイオファーマ」が4.5億円調達

歯科領域創薬の京大発スタートアップ企業「トレジェムバイオファーマ」(Toregem Biopharma)は3月8日、第三者割当増資による総額4億5000万円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、京都大学イノベーションキャピタル、Astellas Venture Management LLC、Gemseki、フューチャーベンチャーキャピタル、京信ソーシャルキャピタル、京都市スタートアップ支援2号ファンド。

調達した資金により、USAG-1中和抗体の非臨床安全性試験と治験用製剤の製造準備を進め、世界初の歯の再生治療薬の研究開発を一層加速させ、2023年度内の治験開始を目指す。

トレジェムバイオファーマは、京都大学大学院医学研究科口腔外科学分野の髙橋克准教授(現、同客員研究員、公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院歯科口腔外科主任部長)による長年の研究成果に基づき、2020年5月に設立。

骨形成たんぱく質であるBMPなどの働きを阻害する分子「USAG-1」が歯の発生過程に関与し、USAG-1を抑制する中和抗体によって無歯症モデル動物で欠損歯が回復することを明らかにした。

一般的な歯の治療法である義歯やインプラントの人工歯に対し、抗体製剤(注射薬)など医薬品による自己歯の再生は根治的な治療法となりえる可能性があり、同社は、同研究で得られた中和抗体を新規医薬品として上市を目指すとしている。

また現在、先天性無歯症を最初の適応疾患として研究開発を進めているという。先天性無歯症では、患者が未成年で顎骨が発達期にあるため義歯やインプラントの適用が困難であり、成人するまで根治的な治療法の無い希少疾患となっている。現状は成人するまでの長期間を温存療法で耐えるしかなく、歯の欠損が栄養確保と成長に悪い影響を及ぼすため、根治的な治療法の開発が強く望まれている。

そこでトレジェムバイオファーマの開発物質により、先天性無歯症患者の自己歯を再生してQOLの改善を提供するという。さらに、USAG-1の中和抗体は永久歯の後の第三生歯を発生させることも期待されており、将来的には高齢者のオーラルフレイル(口腔内の虚弱)改善まで展開し、歯科治療に広く貢献したいと考えているそうだ。

規制上のハードルをすべてクリアし、Microsoftが2.3兆円のNuance買収完了へ

Microsoft(マイクロソフト)は2021年に、200億ドル(約2兆3000億円)でNuance Communications(ニュアンス・コミュニケーションズ)を買収すると発表した。同社はヘルスケア分野への進出を実現しようとしたが、規制がますます厳しくなる中、確実に買収できるというわけではなかった。しかし、ようやく規制上のハードルをすべてクリアし、同社は米国3月4日、買収が成立したと発表した。

Satya Nadella(サティア・ナデラ)CEOはビデオ声明で、NuanceをエンタープライズAIのパイオニアと呼び、両社が協力して何を達成できるかを楽しみにしていると述べた。「私たちは共に成果ベースのAIの未来を切り開いていきます。医療従事者が患者との時間を増やし、文書作成に費やす時間を減らせるようにします。私たちは共に、業界の主要なワークフローを安全にクラウドに移行することを支援します。そして、一緒にAIの力を使って、あらゆる業界の組織が摩擦のない、一人ひとりにあわせた顧客体験を実現できるよう支援します」と同氏は話した。

ナデラ氏の発言は、同社がNuanceの技術を、第一の対象であるヘルスケア以外にも幅広く活用する意向を強く示唆するものだった。既存のソリューションを基盤としてMicrosoftの膨大なリソースを活用し、金融サービス、小売、通信などの他分野にも導入していく。それがどのように実現されるかは、時間が経てばわかる。

MicrosoftとNuanceの統合に関して、今日のような発表に至るということが、決まりきっていたわけではない。業界の一般的な常識では、Microsoftはこの買収によってどの市場も支配することはないだろうと考えられていた。ただ、政府が最大のハイテク企業、もっと言えば競争に悪影響を与える可能性のあるメガディールをより厳しく見ている規制環境では、統合の実現が明白だとは言えなかった。

昨年、米司法省がこの取引を承認し、その後EUからも承認を受け、最後のハードルとして残った英競争市場局(CMA)の承認を待っていた

今週、CMAはこの取引を承認し、今日の発表にこぎつけた。CMAは声明の中で、両社が統合された場合、Nuanceが主に事業を展開してきた医療用トランスクリプション市場の競争に悪影響を与えるという証拠は見つからなかったと述べた。

「競争市場庁(CMA)は、Microsoft CorporationによるNuance Communications, Inc.の買収により、競争を著しく低下させるという現実的な見通しは生じないと判断しました」と同庁は調査結果の発見事項要約に記した。

これを受け、MicrosoftとNuanceは、2016年のLinkedIn(リンクトイン)の260億ドル(約3兆円)の買収に次ぐ、ナデラ時代における最大の買収の1つを進めることになる。なお、Microsoftは、1月に発表した690億ドル(約8兆円)のActivision/Blizzard(アクティビジョン・ブリザード)の買収案件が完了していないが、こちらはまだ承認プロセスを通過していない。

画像クレジット:JOSEP LAGO / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

長時間座ったままの状態において低着圧ストッキングがエコノミークラス症候群を軽減する可能性、東京医科大が発表

長時間座ったままの状態において低着圧ストッキングがエコノミークラス症候群を軽減する可能性、東京医科大が発表

東京医科大

東京医科大学の健康増進スポーツ医学分野 黒澤裕子講師らの研究グループが、長時間座ったままの状態の際、低着圧のストッキングを着用することで、血栓症の発症リスクを軽減できる可能性があるとする研究結果を発表しました。論文は、3月1日発行の国際医学雑誌Medicine & Science in Sports & Exerciseに掲載されています。

長時間、座った状態が続いた場合、足の静脈に血栓が生じるいわゆるエコノミークラス症候群や、命に係わる肺塞栓症を併発することがあるのは良く知られています。このため、姿勢を変えたり、適度に動きまわったりということが推奨されていますが、実際に長時間に渡る座位姿勢が人体にどのような影響を与えるのか、その詳細なエビデンスは不足しているとのこと。

このため研究グループでは、平均22.6歳の健康な男性9名を対象に、飛行機のエコノミークラスシートに近い形状の椅子に、8時間連続で座ってもらうという実験を実施。この際、無作為に選んだ左右どちらかの足に低い着圧のストッキングを着用してもらい、1時間ごとに足の周径囲、動脈血流、筋酸素化レベルの測定を実施し、ストッキングの着用有無の影響を確認しました。

この結果、いずれの場合も動脈血流の低下や足の周径囲の増大が起こったものの、ストッキングを着用した足では、その割合が有意に低かったとのことです。

ストッキングの着用は医療現場でも導入されていますが、着圧の高いものは筋力が低下し皮膚の弱い高齢者では履きにくさから着用率が下がったり、皮膚炎の原因ともなっていたとのこと。しかし、今回の研究でこれまで医療現場で推奨されていた着圧よりも低い着圧でも血栓症発症リスクの予防効果が期待でき、履きやすいために着用率の向上も期待できるとしています。

なお、研究グループは今後、座りっぱなしによる悪影響を予防する方法として、座位中の運動実施効果も検証する予定とのことです。

(Source:東京医科大学Engadget日本版より転載)