名古屋大学発スタートアップのAcompany(アカンパニー)は10月5日、秘密計算手法のひとつマルチパーティ計算(Multi-party Computation。MPC)による秘密計算エンジン「QuickMPC」を独自開発したと発表した。
今後同社は、QuickMPCを基にパートナー企業との実証実験、共同研究を推進する。QuickMPCは現在、位置情報やマーケティングデータといったユーザーのプライバシーを守る必要のあるデータの統合分析、リモートワーク環境での安全な機密データの解析業務支援などの領域での活用に取り組んでいるという。
秘密計算技術は、データを暗号化(秘匿化)した状態のまま機械学習や統計分析などの計算処理を行える技術で、データの保護と活用を両立が可能として近年注目されている。同技術を利用し組織を越えて暗号化したデータを提供し合うことで、ユーザーのプライバシーを含む、位置情報や顧客情報、医療情報などを秘匿化してプライバシーを保護したデータ分析に繋げるといった応用が可能となる。
MPCとは、複数サーバー間で通信しながら同じ計算を同時に行う仕組み。MPCによる秘密計算は、1980年代より研究されているものの、長らくコンピューティング能力とネットワーク通信速度に課題があり、実用化には至っていなかった。しかし、近年のクラウドコンピューティングをはじめ、ハード面と、効率の良いアルゴリズムおよびプロトコルの研究によるソフト面の両面からの向上により、実用化が進展しつつある。
一方、MPCエンジンの構築には高度な専門性とエンジニアリング能力が必要なため、実用的なMPCエンジンは世界的に見ても非常に少ない状況にある。研究目的で開発されてきたMPCエンジンが多く、実際のユースケースに合う実装を行っていく上で柔軟性やセキュリティ上の問題を抱えるといった課題が存在している。
このような状況からAcompanyでは汎用的なMPCエンジンを独自開発する構想を立ち上げ、今回QuickMPCを独自開発した。
QuickMPCでは、比較的高速かつ汎用的に演算処理が可能な秘密分散方式のMPCプロトコルを採用しており、基本とされる加算と乗算の演算を高速に計算可能。これにより、実際のユースケースにマッチした分析手法を高速に計算できるという。
さらに、従来の研究目的のMPCエンジンでは、本番環境での運用を想定していないためシステムの可搬性と一貫性が実現できていなかったが、QuickMPCではコンテナ技術を採用し開発。優れた可搬性と一貫性を達成したことにより、MPCエンジンの構成をユーザーの要件に合わせて柔軟に設定可能とした。
MPCエンジンと外部とのやり取りに向けた独自SDKも開発しているため、ユーザーは簡単なインターフェースを操作するだけで、データの秘匿化・分析の実行・データの復号を実行可能。つまり、簡単に素早くデータ保護と活用を両立したデータ分析を実現できるとしている。
2018年6月創業のAcompanyは、「なめらかなデータ活用社会」を目指し「データを価値に進化させる」をミッションとする、名古屋大学発および名古屋工業大学発の認定スタートアップ企業。秘匿計算(秘密計算)技術およびブロックチェーン技術を中心にデータセキュリティの研究開発を行っている。
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