【編集部注】著者のBen Dicksonはソフトウェアエンジニア兼フリーランスライターである。ビジネス、技術、政治について定期的に寄稿している。
IoT(Internet of Things)がIoE(Internet of Everything)へと進化し、実質的にあらゆる領域へ侵入するにつれ、高速なデータ処理と分析、そして短い応答時間の必要性がこれまで以上に高まっている。こうした要件を満たすことは、現在の集中型のクラウド(雲)ベースのモデルで支えられたIoTシステムでは困難なことも多い。こうしたことを容易にするのがフォグ(霧)コンピューティングである。その分散型のアーキテクチャパターンはコンピューティングリソースとアプリケーションサービスをサービスのエッジ(界面)に近付ける。そのエッジこそデータソースからクラウドへの連続体の間で最も理にかなった効率的な場所である。
Ciscoによって提唱されたフォグコンピューティングという用語は、クラウドコンピューティングの利点とパワーを、データが作られ適用される場所へ近付ける必要性を指したものである。フォグコンピューティングは、IoT業界の主要な関心事であるセキュリティを向上させながら、処理および分析のためにクラウドに転送されるデータの量を削減する。
ではクラウドからフォグへの移行が、IoT業界の現在そして未来の挑戦を如何に助けるかを以下に解説しよう。
クラウドの問題
IoTの爆発的な成長は、実際の物体やオペレーションテクノロジー(OT)が、分析や機械学習のアプリケーションと結びつけくことに負っている。そうしたアプリケーションはデバイスの生成したデータから少しずつ洞察を収集し、人間が介在することなく「スマート」な意思決定をデバイスが行えるようにする。現在そのようなリソースは、主に計算パワーおよび記憶容量を所有するクラウドサービスプロバイダによって提供されている。
しかしそのパワーにもかかわらず、クラウドモデルは、オペレーションの時間制約が厳しかったり、インターネット接続が悪い環境に適用することはできない。これは、ミリ秒の遅れが致命的な結果を招く、遠隔医療や患者のケアなどのシナリオでは特に課題となる。同じことは、車両同士のコミュニケーションにも適用される、衝突事故を回避するための機構は、クラウドサーバーへのラウンドトリップに起因する遅延を許容できない。クラウドパラダイムは、何マイルも離れた場所から脳が手足に司令をだすようなものである。迅速な反射を必要とする場所では役に立たない。
クラウドパラダイムは、何マイルも離れた場所から脳が手足に司令をだすようなものである。
またそれ以上に、クラウドに接続されているすべてのデバイスからインターネットを介して生データを送信することには、プライバシー、セキュリティ、そして法的懸念が考えられる。特に異なる国家間のそれぞれの規制に関係する、取り扱いに注意を要するデータを扱う場合にはそれが問題となる 。
フォグの位置付けは完璧
IoTノードは作用する場所の近くに置かれているが、現状では分析や機械学習をこなすためのリソースを保有していない。一方クラウドサーバーは、パワーは持つものの、適切な時間内にデータを処理したり応答したりするためにはあまりにも遠く離れすぎている。
デバイスの配置されたエッジ近くで、クラウド機能を模倣するための十分な計算、ストレージ、そして通信リソースを持ち、局所的なデータ処理と素早い応答を返すことのできるフォグレイヤーは、完璧な接合場所である。
IDCによる調査によれば、2020年までに世界のデータの10パーセントは、エッジデバイスによって生成されることが推定されている。これは、低レイテンシと同時に総合的なインテリジェンスを提供する、効率的なフォグコンピューティングソリューションの必要性を促す。
フォグコンピューティングには支持母体がある。2015年11月に設立されたOpenFogコンソーシアムがそれで、その使命はフォグコンピューティングアーキテクチャにおける業界や学術のリーダーシップをまとめることである。コンソーシアムは、開発者やITチームがフォグコンピューティングの真の価値を理解するために役立つリファレンスアーキテクチャ、ガイド、サンプルそしてSDKを提供する。
すでに、Cisco、DellそしてIntelといった主要ハードウェアメーカーたちが、フォグコンピューティングをサポートする、IoTゲートウェイやルータを提供しているIoT分析や機械学習のベンダーたちと提携している。その例の1つが、最近行われたCiscoによるIoT分析会社ParStreamとIoTプラットフォームプロバイダJasperの買収である。これによりネットワーク業界の巨人はそのネットワーク機器により良い計算能力を埋め込むことができ、フォグコンピューティングが最も重要なエンタープライズITマーケットにおける大きなシェアを得ることができるようになる。
分析ソフトウェア会社も製品を拡充し、エッジコンピューティングのための新しいツールを開発しいる。ApacheのSparkは、Hadoopエコシステム(エッジが生成するデータのリアルタイム処理に適している)上に構築されたデータ処理フレームワークの一例である。
クラウドによって得られた洞察は、フォグレイヤーでのポリシーや機能の、更新や微調整を助けることができる。
IoT業界の他の主要なプレーヤーたちもまた、フォグコンピューティングの成長に賭けている。最先端のIoTクラウドプラットフォームの1つであるAzure IoTを擁するMicrosoftは、フォグコンピューティングでの優位性の確保を目指して、そのWidows 10 IoTを、IoTゲートウェイ機器や、フォグコンピューティングの中核を担うその他のハイエンドエッジデバイスのためのOSの選択肢としてプッシュしている。
フォグはクラウドを不要にするのか?
フォグコンピューティングは効率を改善し、処理のためにクラウドに送られるデータ量を削減する。しかしそれは、クラウドを補完するために存在するもので、置き換えるものではない。
クラウドはIoTサイクルにおける適切な役割を担い続ける。実際に、フォグコンピューティングがエッジ側で短期分析の負担を引き受けることにより、クラウドリソースは、特に履歴データや膨大なデータセットが関わるような、より重いタスクをこなすために使われるようになる。クラウドによって得られた洞察は、フォグレイヤーでのポリシーや機能の、更新や微調整を助けることができる。
そして、集中化され非常に効率的なクラウドのコンピューティングインフラストラクチャが、パフォーマンス、スケーラビリティそしてコストの点において、分散システムをしのぐ多くの事例も、まだみることができる。これには、広く分散したソースから得られるデータを解析する必要がある環境などが含まれる。
フォグとクラウドコンピューティングの組み合わせこそが、特に企業におけるIoTの適用を加速するものなのだ。
フォグコンピューティングのユースケースは?
フォグコンピューティングの適用対象は多い、それは特に各産業環境におけるIoTエコシステムの重要な部分を支える。
フォグコンピューティングのパワーのおかげで、ニューヨークに拠点を置く再生可能エネルギー会社Envisionは、運用する風力タービンの巨大ネットワークの効率の15%向上を達成することができた。
同社は、管理する2万基のタービンにインストールされた300万個のセンサによって生成される20テラバイトのデータを一度に処理している。エッジ側に計算を移管することによって、Envisionはデータ解析時間を10分からたったの数秒に短縮することができ、これにより彼らは対応可能な洞察と重要なビジネス上の利便性を手に入れることができた。
IoTの会社Plat Oneは、同社が管理する100万個以上のセンサーからのデータ処理を改善するために、フォグコンピューティングを使っている別の事例である。同社は、スマート照明、駐車場、港、および輸送の管理、ならびに5万台のコーヒーマシンのネットワークを含む膨大な数のセンサーのリアルタイム計測サービスを提供するためにParStreamプラットフォームを利用している。
フォグコンピューティングは、スマートシティにもいくつかのユースケースを持っている。カリフォルニア州パロアルトでは 連携する車両群と信号機を統合する300万ドルのプロジェクトが進行している、うまくいけば他の車両のいない交差点で理由もなく待たされることはなくなる未来がやってくるだろう。
走行時には、運転パターンからリアルタイムに分析と判断を提供することによって、半自動運転車のドライバーたちの注意力の低下や、進行方向が曲がることを防ぐことを助ける。
また、警察の計器盤やビデオカメラから生成される音声やビデオ記録の膨大な転送データ量を削減することも可能である。エッジコンピューティング機能を搭載したカメラは、リアルタイムでフィードされる動画を分析し、必要なときに関連するデータのみをクラウドに送信する。
フォグコンピューティングの未来とは何か?
現在フォグコンピューティングは、その利用と重要性がIoTの拡大に伴って成長を続け、新しい領域を広げていく傾向にある。安価で低消費電力の処理装置とストレージがより多く利用できるようになれば、計算がよりエッジに近付いて、データを生成しているデバイスの中に浸透し、デバイス連携によるインテリジェンスと対話による大いなる可能性の誕生をも期待することが可能になる。データを記録するだけのセンサーは、やがて過去のものとなるだろう。
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(翻訳:Sako)