荷降ろしロボットを手がけるMITのスピンオフPickleが約6200万円の資金を調達

この1年間がロボティクス業界にとって大きな分岐点となったことは間違いない。在宅勤務などの労働力不足が続く中、企業は事業を継続させる手段として、特に倉庫や物流の自動化を推し進めてきた。

MITのスピンオフ企業であるPickle(ピックル)は、新たにこの分野に参入したスタートアップ企業の1つだ。同社は限られた資金と小規模なチームで創業したが、最近はその片方を大きく変えた。ホットな投資のニュースが続く今週、同社は57万ドル(約6200万円)の資金を調達したと、TechCrunchに明かした。このシードラウンドは、Hyperplane(ハイパープレーン)が主導し、Third Kind Venture Capital(サード・カインド・ベンチャー・キャピタル)、Box Group(ボックス・グループ)、Version One Ventures(バージョン・ワン・ベンチャーズ)などの投資会社が参加した。

Pickleは、その「Dill」と名づけられた最初のロボット(明らかに狙ったネーミングに違いない)の性能について、かなり大きな主張をしている。同社によれば、このロボットは、トレーラーの荷台から1時間に1600個の荷物を拾い上げることができるという。この数字は「競合他社の2倍のスピード」にあたると、同社は謳っている。

CEOのAndrew Meyer(アンドリュー・マイヤー)氏によると、その鍵はロボットと人間の協業にあるという。「私たちは最初から人をシステムに組み込んで、特定の問題に焦点を当てました。それは、搬入口での荷物の処理です。私たちは、完全に無人で動作するシステムや、世の中にあるすべてのロボットの問題を解決できるシステムを作ろうという愚行には手を染めませんでした」。

トレーラーの荷降ろしを対象としたPickle最初の製品は、2021年6月に受注を開始し、2022年初頭の出荷を予定している。

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カテゴリー:ロボティクス
タグ:Pickle資金調達MIT物流ロボット

画像クレジット:Pickle

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

全米ロボット週間の話題を振り返る、隠れたものを拾い上げる技術からSPACまで

ロボティクス週間おめでとう。とはいえ、2021年は愛する人と一緒に過ごせない人も多いはず。ということは、ロボットツリーも、ロボットエッグの入ったロボットバスケットも、緑のロボットビールもない。しかし、National Robotics Week(全米ロボット週間)組織は、4月3日から11日までの期間中、全米50州でたくさんのバーチャルイベントを開催した。

この1週間には、注目すべき財務関連のニュースもあった。米国時間4月6日火曜日にはSarcos(サーコス)がロボティクス系SPACの薄い空気に加わった。スタートアップの世界でこのような活動が盛んに行われていることは事実だが、ロボティクス企業では特別買収目的会社による合併を受け入れる動きが遅れている。すぐに思い浮かぶ会社は、Berkshire-Grey(バークシャー・グレイ)くらいだ。

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画像クレジット:Sarcos Robotics

Sarcosは、James Cameron (ジェームズ・キャメロン)監督の映画のためにデザインされたようなロボットやロボット外骨格を製造している企業だ。同社は、2020年9月に4000万ドル(約43億8000万円)を調達するなど、すでに多くの資金を調達しているが、多くの読者にとって最も注目に値するのは、同社が最近のデルタ航空によるハイテク推進の中心となっていることだろう。デルタ航空は、従業員が大きな荷物を持ち上げる作業を支援するために、同社の技術の一部を使用することを計画している。

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画像クレジット:Rapid Robotics

一方、サンフランシスコに拠点を置くRapid Robotics(ラピッド・ロボティクス)は、シリーズA投資ラウンドにおける1200万ドル(約13億1000万円)の調達を発表。大規模なシードラウンドに続く今回のシリーズAラウンドで、同社のこれまでの資金調達額は1750万ドル(約19億1000万円)となった。同社の目的は、ロボット製造のためのプラグ・アンド・プレイ・ソリューションを提供することであり、さまざまな産業分野における製造オートメーションの参入障壁を下げることにある。

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この分野に強い関心を持ち続けているSoftBank(ソフトバンク)は、AutoStore(オートストア)の株式の40%を28億ドル(約3063億円)で買収し、このノルウェーの会社の評価額は77億ドル(約8424億円)に達した。同社の技術はロボットを使って倉庫の活用を最大限に効率化し、従来の約4分の1のスペースに集約することができるとしている。AutoStoreはすでにかなりの規模で事業を展開しており、約600の施設に2万台のロボットを配備しているという。ソフトバンクの孫正義CEOは、次のように述べている。

AutoStoreは、世界中の企業のために迅速でコスト効率の高い物流を可能にする基盤技術であると、私たちは見ています。AutoStoreと協力して、エンドマーケットや地域を積極的に拡大していくことを楽しみにしています。

投資のニュースばかりになってしまうといけないので(そうすることもできるのだが、誰がそんなのを望むだろう?)、最後にMITのクールな研究をご紹介しよう。同校の研究者は、ハーバード大学やジョージア工科大学の研究者とともに、電波を使って隠れた物を感知するロボットを披露した。この「RF-Grasp」と呼ばれる技術は、覆われていたり、視界に入らないものも、目標物としてロボットが拾い上げることを可能にする。MITのFadel Adib(ファデル・アディブ)准教授は、これを「超人間的な知覚」と表現している。

カテゴリー:ロボティクス
タグ:MITSarcos RoboticsRapid RoboticsソフトバンクグループAutoStoreBerkshire Grey

画像クレジット:AutoStore

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ジェフリー・エプスタイン関連失言で辞任したリチャード・ストールマンがFSF理事会復帰、Red HatやSUSE反発

ジェフリー・エプスタイン関連の失言で辞任したリチャード・ストールマンがFSF理事会復帰、Red HatやSUSEが反発

3月22日、フリーソフトウェア財団(Free Software Foundation:FSF)は、2019年にFSF会長および理事会を離れたリチャード・M・ストールマン氏を復帰させたとする動画を公開しました。ストールマン氏と言えばEmacsやGCCの開発、GNU Public License(GPL)の策定などフリーソフトウェア界に多大な貢献をしてきたものの、思想の面では他に相容れない偏固なところがあり、時おり論争を巻き起こすこともあった人物。

2019年のFSF離脱も、当時MeToo運動で女性への差別的発言や行動が大きく批判されているなか、MIT CSAIL設立者のマービン・ミンスキー氏が資金提供者だった性犯罪者ジェフリー・エプスタインの斡旋で未成年者と性的関係を持ったと報道されていることに対し、ミンスキー氏を擁護する考えを表明したことが原因でした。

ストールマン氏はFSFのオンラインイベントにおけるライブ配信でFSFへの復帰を自らアナウンスしました。現在に至るまでFSFは正式にストールマン氏の復帰を発表していませんが、理事会のメンバー紹介ページにはすでにストールマン氏の名が掲載されています。

これに対し不信感をあらわにしたのが、オープンソースソフトウェア界のリーダー的企業Red Hat。Red Hatは「ストールマンのFSFへの復帰を知って愕然とした」と述べ、直ちにFSF関連の一切の資金提供をとりやめることを決定しました。FSFは同日、理事会メンバー選出プロセスの透明化やFSFスタッフからの選出による代表を理事会の一因に加えることなどの改善策を提示したものの、ストールマン氏の復帰には変わりなく、これが前向きで有意義なコミットメントとは信じることができないとしています。

Red Hatと同じく主要LinuxディストリビューションのSUSEのCEOも「世界はもっと良くなるべきだ。リーダーとして、忌まわしい決定がなされたときには、声を上げ、身を挺して行動する必要がある。いまがその時だ。われわれはFSFの決定に失望し、あらゆる女性蔑視や偏見に断固として反対する」とメリッサ・ディ・ドナート氏はツイートしました

さらにオープンソースのOfficeスイートLibreOfficeを手がけるDocument Foundationは、FSFの諮問委員会への参加およびFSFと関わる活動を停止すると表明、Debianも最新の理事会メンバーからストールマン氏の名前を取り除くことを求める書簡への署名の是非について投票による決定を行うとしています。

フリーソフトウェア界隈でも、ストールマン氏の復帰を望まない人々が多くいるようです。たとえば上級のGCC開発者ネイザン・シドウェル氏はストールマン氏の存在を最も意識する立場と言えますが、今回の騒動に対してストールマン氏をGCC運営委員会から除くよう求めました。シドウェル氏は「以前はストールマン氏が巻き起こす”真の毒性”に目をつぶっていたし、皆もそうしていたことでしょう。それによって私は影響を受けずに済んだ。彼と交流する必要がなかったからです。私は女性ではありません。しかしそれを無視することは、私たち全員の価値を下げることになります」と述べ、さらにストールマン氏の最後の貢献は2003年に勃発したSCOとLinuxのソースコードコピー論争のときが最後だとして、すでにストールマン氏はGCC開発メンバーでは無いとの見解を示しました。

FSFの内部メンバーにも、ストールマンの復帰を望まない人は多く、すでにそのひとりCat Walsh氏は辞任を表明。FSFのエグゼクティブ・ディレクターを務めていたジョン・サリバン氏もやはり辞任しました。

ストールマン氏は、事の発端となったストリーミングでの復帰表明で「私の復帰を喜ぶ人もいれば、がっかりする人もいるでしょう。まあそれはともかくもはや決まったことなので、私は二度と辞める気はありません」と述べています。

ただでさえクセの強いストールマン氏の復帰は、フリーソフトウェア界隈だけにとどまらない議論を呼びそうな気配です。

フリーソフトウェア運動開祖ストールマン、MIT職とFSF代表を辞任。エプスタイン献金関連で失言

(Source:Free Software Foundation、Via:mixCraft(Twitter)Ars TechnicaZDNetEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:オープンソース / Open Source(用語)Jeffrey EpsteinSUSE(企業)Document Foundation(組織)フリーソフトウェア(用語)Free Software Foundation(組織)マサチューセッツ工科大学 / MIT(用語)Richard StallmanRed Hat(企業)

ロボット構造の硬度を変化させる自然現象の影響を受けた新たなケーブル技術

ソフトロボティクスというサブカテゴリーは、この分野に対する多くの人々の考え方を変えた。自然現象の影響を強く受けたこの技術は、ロボットを論じるときに従来考えられていたような硬い構造とはまったく異なるアプローチを提供する。

ソフトなロボットのデザインには、製造業およびフルフィルメント分野においてすでに多くの実世界での応用例を含む、多くの利点がある。しかしより剛性の高いロボットと同様に、柔軟なロボットにも限界がある。そのため設計者は通常、与えられた仕事のためにどちらか一方を選択するか、あるいはよくて部品交換が可能な設計をすることになる。

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マサチューセッツ工科大学(MIT)のCSAILラボのチームは、そのトレードオフを少なくする技術を研究している。このプロジェクトは2017年から始まっているが、まだプロジェクトは初期段階にあり、詳細は新しい論文で概要が説明されているものの、大部分はコンピュータシミュレーションの領域である。

「これは私たちが両方の世界の良いところを得ることができるかどうかを試す、最初のステップです」と、CSAILのJames Bern(ジェームズ・バーン)博士研究員はリリースで述べている。

プロジェクトでは(シミュレーション版ではあるが)ロボットは、一連のケーブルによって制御される。適切な組み合わせでそれらを引っ張ると、ソフトな構造がハードな構造に変わる。チームは「正しい筋肉を屈曲させれば、効果的に位置を固定することができます」と、人間の腕を制御する一連の筋肉に例えた。

チームは2021年4月の会議で、発見内容を発表する予定だ。同チームは現在のところ、実際の環境でどのように動作するかを示すプロトタイプの開発に取り組んでいる。この2つの分野を組み合わせることで、人間の労働者と共同で働くより安全な作業ロボットの開発に向けた道が開けるかもしれない。

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カテゴリー:ロボティクス
タグ:MIT

画像クレジット:MIT CSAIL

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(文:Brian Heater、翻訳:塚本直樹 / Twitter

MITの昆虫サイズのドローンは衝突しても平気

昆虫といっても、その種類はあまりにも多いが、彼らは決してもろいものではない、たしかに、人間が足に全体重を乗せて踏めばほとんどの昆虫はつぶれてしまうが、それでもあの小さなサイズにしては、極めて頑丈で弾性のある生物に進化してきたのだ。しかし、昆虫サイズのテクノロジーとなれば、それはまた別の話となる。

超小型ドローンの歴史についても、同様のことがいえる。特にそれらの部品は、小さくなればなるほどもろくなる。またモーターも、小さくなると効率が悪くなり弱くなる。どうやって進化すべきだろう?

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究室で開発された初期のモデルは、硬質セラミックベースの材料を使用していた。彼らはロボットを空中に飛ばすという点では成功したが、「野生のマルハナバチは毎秒1回の衝突に耐える」と自ら指摘しているようにもろい。つまり、これほど小さなものを作ろうとするなら、最初に何かに触れたときに壊れないようにする必要がある。

MITの助教授であるKevin Yufeng Chen(ケビン・ユフェン・チェン)氏「小さな空中ロボットを作るという課題は、とても奥が深い」と述べている。

彼らが「羽根を付けたカセットテープ」と呼ぶ新しいドローンモデルは、カーボンナノチューブでコーティングされたゴム製シリンダーで作られた柔らかいアクチュエーターで構成されているアクチュエーターは電力を与えると毎秒最大500回で伸び、これにより翼が動き、ドローンが飛行する。

ドローンはとても計量で約0.6グラムしかない。大きなマルハナバチ程度だ。この初期のモデルにも制約があった。電力を供給するために有線接続する必要がある。下のGIF画像では、給電をしながら飛んでいる。かなり不格好だ。また、今度のプロトタイプはトンボのような自然界に実際に存在する形状にするといった改良が、現在行われている。

画像クレジット:MIT

研究所が、画像処理能力と適度な大きさのバッテリーという制約に縛られずにこのようなロボットを作ることができれば、この小型ドローンの潜在的用途は計り知れない。現在、大規模なドローンが行っている簡単な調査から受粉や捜索、救助まであらゆることが行える。

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カテゴリー:ドローン
タグ:MIT

画像クレジット:MIT

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

MITの学生たちがロボットやドローン製作の全行程を自動化したシステムを開発

付加製造法は、特定の作業に理想的なソリューションであることが証明されているが、この技術は多くのカテゴリーで従来の製造方法におよばない点がある。その最も大きなものの1つは、3Dプリントした後の組立て工程だ。3Dプリンターは非常に複雑な部品を作成することができるが、それを組み立てるには外部の人間または機械が必要になる。

MIT(マサチューセッツ工科大学)のCSAIL(MITコンピュータ科学・人工知能研究所)が米国時間2月8日に公開した「LaserFactory(レーザー・ファクトリー)」は、「ワンストップショップ」でロボットやドローンなどの機械を製作しようとする新しいプロジェクトだ。このシステムは、ソフトウェアキットとハードウェアプラットフォームで構成されており、機械の構造を作成し、回路やセンサーを組み立てることができるように設計されている。

このプロジェクトを現実化した完全なバージョンは5月のイベントで紹介される予定だが、チームはこのコンセプトが実際にどのようなものであるかを示すために、少しだけカーテンを開けて見せた。以下はCSAILのページからの抜粋だ。

あるユーザーが自分のドローンを作りたいと思っているとしましょう。それにはまず、パーツライブラリから部品を配置してデバイスを設計し、回路トレース(プリント回路基板上の銅線やアルミ線で、電子部品間を電気が流れるようにするためのもの)を描きます。次に、2Dエディタでドローンのジオメトリを完成させます。この場合は、プロペラとバッテリーをキャンバス上に配置し、それらを配線して電気的な接続を行い、クアッドコプターの形状を定義する輪郭を描きます。

基板のプリントは確かに新しいものではない。それだけに留まらないCSAILのマシンの特徴は、1台のマシンに詰め込まれた機能の幅広さだ。それは下の動画を見れば一目瞭然だろう。

もちろん、これはまだ初期の段階であり、正式発表は数カ月先だ。多くの疑問点があり、もっといえば、このような複雑な機械にとって多くの潜在的な不安要素もある。それは特に、これが専門家ではない人をターゲットにしているらしいことだ。

博士課程の学生であり、開発リーダーでもあるMartin Nisser(マーティン・ニッサー)氏は、リリースの中で次のように述べている。「安価で高速で誰でも扱える製造方法の実現は、未だに課題として残さています。LaserFactoryは、3Dプリンタやレーザーカッターのような広く利用可能な製造プラットフォームを活用し、これらの機能を統合して、機能的なデバイスを作るための全工程を1つのシステムで完全に自動化した初めてのシステムです。

そのソフトウェアは大きな鍵となりそうだ。ユーザーは実際に製作が始まる前に、製造工程を画面で視覚的に確認することができる。未然に不具合を発見できるかもしれない。

カテゴリー:ロボティクス
タグ:MIT3Dプリント

画像クレジット:MIT

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

MIT研究者が新たな情報に適応していく「流動」ニューラルネットワークを開発

最初の訓練を受けた後、その基礎となる動作を適応させることができる新しいタイプのニューラルネットワークは、自動運転やロボットの制御、病状の診断など、状況が急速に変化する状況において、大きな改善の鍵となる可能性がある。このようないわゆる「流動」ニューラルネットワークは、MITコンピュータ科学・人工知能研究所のRamin Hasani(ラミン・ハサニ)氏と彼のチームによって考案されたもので、訓練段階の後、実際に現場で行われる実用的な推論作業に従事する際に、AI技術の柔軟性を大幅に拡大する可能性を秘めている。

通常、ニューラルネットワークのアルゴリズムは、関連する大量のターゲットデータを与えられて推論能力を磨き、正しい応答に報酬を与えて性能を最適化する訓練段階を経ると、基本的には固定化される。しかし、ハサニ氏のチームは、彼の「流動」ニューラルネットが、新しい情報に反応して、時間の経過とともに「成功」のためのパラメータを適応させていく方法を開発した。これは、たとえば自動運転車の認知を担うニューラルネットが、晴天から大雪に変わった場合、状況の変化に対処して高いレベルの性能を維持できるようになることを意味する。

ハサニ氏とその共同研究者達が開発した方法が従来と大きく異なる点は、時系列的な適応性に焦点を当てていることだ。つまり、基本的に多数のスナップショットや時間内に固定された静的な瞬間からなる訓練データに基づいて構築されるのではなく、流動ネットワークは本質的に時系列データ、つまり孤立したスライスではなく、連続的なイメージを考慮しているということである。

このように設計されているため、従来のニューラルネットワークと比較すると、研究者による観察や研究がよりオープンになるということでもある。この種のAIは一般的に「ブラックボックス」と呼ばれている。なぜなら、アルゴリズムを開発している人たちは、入力したものや成功した行動を奨励して決定するための基準は知っていても、成功につながるニューラルネットワークの中では何が起こっているのかを正確に判断できないからだ。この「流動的」なモデルは、より透明性が高く、より少数の、しかし洗練されたコンピュートノードによって構成されるため、コンピューティングにかかるコストが低くなる。

一方、パフォーマンスの結果は、既知のデータセットから未来の値を予測する精度において、他のシステムよりも優れていることを示している。ハサニ氏と彼のチームの次なるステップは、このシステムをさらに優れたものにする最善の方法を明らかにし、実際の実用的なアプリケーションで使用できるように準備することだ。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:MITニューラルネットワーク

画像クレジット:imaginima / Getty Images

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

MITの研究者がカスタムチップを使ってロボットの「応答速度」を高速化

MITの研究者たちは現在、ロボットがどれだけ速く情報を処理できるか(まだまだ遅い)と、どれだけ速く動けるか(現代のハードウェアの進歩のおかげで非常に速い)の間の大きなギャップに対処しようとしており、そのために「robomorphic computing(ロボモーフィック・コンピューティング)」と呼ばれるものを用いている。

この方法は、MITコンピュータ科学・人工知能(CSAIL)の卒業生であるSabrina Neuman(サブリナ・ノイマン)博士によって考案されたもので、応答時間を高速化するための手段として、ハードウェアアクセラレーションを提供することができるカスタマイズしたコンピュータチップを使用するというものだ。

特定の目的に合わせて、カスタマイズされた特注のチップというのは新しいものではない。しかし、企業や技術者が、ネットワーク接続を介して大規模なデータセンターとデバイスの間でデータを往復させるよりも、より控えめな電力と処理能力の制約のあるデバイスで、より多くのローカルコンピューティングを行うことを求めるようになるにつれ、カスタムチップはより一般的になってきた。

このロボモーフィック・コンピューティングという方法では、ロボットの物理的なレイアウトや用途に応じて設計された超特化型のチップを製作することになる。ロボットが周囲の環境を認識し、その中で自分を位置づけて理解し、それに基づいて計画される動作を考慮した上で、ソフトウェアのアルゴリズムをハードウェアアクセラレーションで補完すれば、最終段階の効率を大幅に向上させる処理チップを、研究者たちは設計することができる。

多くの人が日常的に遭遇するハードウェアアクセラレーションの典型的な例は、GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)だろう。GPUは基本的に、ディスプレイのレンダリングやビデオ再生などの画像処理を行うために特別に設計されたプロセッサだ。現代では、ほとんどすべてのコンピューターが画像処理を多用するアプリケーションを実行するため、GPUは広く使われている。しかし最近は、より高いカスタマイズが可能で効率的な小ロットのチップ製造技術が進化したおかげで、さまざまな機能を備えたカスタムチップの方が、より一般的になってきた。

MIT Newsでは、特にロボット制御用ハードウェアチップの設計を最適化する際に、ノイマン博士のシステムがどのように機能するかについて、以下のように説明している。

このシステムは、特定のロボットのコンピューティングニーズに最適なカスタマイズされたハードウェアの設計を作成します。ユーザーはロボットの手足のレイアウトや様々な関節の動き方など、ロボットのパラメータを入力します。ノイマン博士のシステムは、これらの物理的特性を数学的な配列に変換します。これらの配列は「疎」であり、ロボットの特定の解剖学的構造では不可能な動きにおおむね相当するゼロ値を多く含むということを意味します。(同様に、あなたの腕は特定の関節でしか曲げられないため、動きが制限されています。無限に柔軟なスパゲッティヌードルではありません)。

このシステムでは、配列の中の0以外の値だけを計算することに特化したハードウェアアーキテクチャを設計します。ゆえに結果として得られるチップの設計は、ロボットのコンピューティングニーズに合わせて効率を最大化するようにカスタマイズされたものになります。このカスタム化はテストで成果を発揮しました。

ノイマン博士のチームは、FPGA(Field-Programmable Gate Array)をテストで使用した。これは完全なカスタムチップと既製品のCPUの中間のようなもので、後者よりも大幅に優れた性能を実現した。つまり、実際にゼロからチップをカスタム製造した場合には、はるかに大きな性能向上が期待できるということだ。

ロボットが環境に対してより速く反応するようになるということは、単に生産の速度や効率が上がるというだけではない(もちろんそれもあるが)。人がロボットのすぐ側で作業したり、一緒に作業したりという状況で、ロボットをより安全に働かせることもできるということだ。これは、我々の日常生活の中でロボット工学がより広く使われるようになるための大きな障壁となっている。つまり、ノイマン博士の研究は、人間とロボットが調和して暮らすSF的な未来の扉を開くのに役立つ可能性があるのだ。

関連記事:軌道上で設定変更可能で機械学習に最適化されたXilinxの宇宙規格チップ

カテゴリー:ロボティクス
タグ:MITロボットプロセッサ

画像クレジット:Ivan Bajic / Getty Images

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(翻訳:TechCrunch Japan)

MITが植物を実験室で植物の組織を培養する方法を開発、最終的には林業や農業の代わりに木材や野菜を生産

企業や研究者が実験室で肉を育てることにアプローチしているように、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者は、植物の組織を実験室で育てる新しい方法を開発した。このプロセスは実験室環境で木材や繊維を生産することが可能で、研究者たちはすでにジニアの葉から採取した細胞を使って単純な構造体を成長させることで、このプロセスがどのように機能するかを実証している。

この研究はまだ非常に初期の段階にあるが、実験室で栽培した植物材料の潜在的な応用は大きく、農業と建築材料の両方の可能性を含んでいる。伝統的な農業は畜産に比べれば生態系へのダメージは少ないが、それでも大きな影響とコストがかかり、維持するためには多くの資源を必要とする。もちろん、小さな環境の変化でも作物の収量に大きな影響を与えることはいうまでもない。

一方、林業は環境への悪影響がより顕著だ。今回の研究者たちの研究成果を利用して、最終的には拡張性と効率性を備えた方法で建設や製造に使用する実験用木材を生産する方法が開発できれば、林業が世界的に与える影響を減らすという点で大きな可能性がある。たとえば木製テーブルを直接成長させるように、最終的には植物由来の素材を特定の形状に成長させることで、研究室が製造の一部を担うこともできると、研究チームは考えている。

研究者たちの道のりは、まだ先が長い。彼らは非常に小規模な規模でしか材料を育てておらず、最終的に異なる特性を持つ植物由来の材料を育てる方法を見つけることが、課題の1つになると考えている。また、効率を上げるためには大きな壁を克服する必要があり、研究者たちはこれらの解決策に取り組んでいる。

研究室で栽培された肉はまだ黎明期にあるが、研究室で栽培された植物材料はさらに初期の段階にある。しかし、そこに到達するまでには長い時間がかかるとしても、非常に大きな可能性を秘めている。

関連記事:動物性代替タンパク質開発企業は1500億円超を調達、微生物発酵技術に投資の波

カテゴリー:バイオテック
タグ:MIT植物農業林業

画像クレジット:Getty Images

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(翻訳:塚本直樹 / Twitter

MITメディアラボの新所長は元NASA副長官のデイヴァ・ニューマン教授

学際的研究・開発のパイオニアであり各方面に大きな影響を与えてきたMIT Media Lab(マサチューセッツ工科大学メディアラボ)の新所長はいわば裏庭から選ばれた(MIT News記事)。候補者は世界中に数多くいたが、オバマ政権におけるNASA副長官で現在MITで航空工学と宇宙工学の教授を務めるDava Newman(デイヴァ・ニューマン)氏がこの重要な知的ハブを指揮することになった。

Media Labは自由な気風の中、知性とテクノロジーとの融合によって数々の業績を上げてきた。しかし伊藤穰一氏の辞任以後、1年以上リーダー不在の状態が続いていた。伊藤氏の辞任は児童買春容疑で有罪となって自殺したJeffrey Epstein(ジェフリー・エプスタイン)氏がメディアラボに出資していたことが明らかとなったことによる。報道によれば見返りとしてエプスタイン氏はメディアラボの研究に特別のアクセスが許されていたという。

新所長はまったく予想外の人選ではない(ニューマン氏とMITの関係は何十年も前からだ)が、新しい血を入れることになったことは確かだ。メディアラボは60人の候補者を選び、うち13人と面接したという。最終的にニューマン教授を選んだ理由についてMITのHashim Sarkis(ハシム・サルキス)学部長は任命を発表したメールで次のように述べている。

候補者はいずれもそれぞれの分野でトップクラスの人々でしたが、ニューマン教授は、研究の先駆性、幅広い学際的な取り組み、強いリーダーシップで際立っていました。ニューマン教授はデザイナー、思想家、メーカー、エンジニア、教育者、メンター、組織者、コミュニケーター、未来派、ヒューマニストであり、そして重要なことですが楽観主義者なのです。

ニューマン教授は先週TechchCrunchの宇宙関連の話題を扱うセッション、TC Sessions:Spaceで講演を行い、偶然にも(ではないかもしれないが)、NASAが準備している有人月面探査であるアルテミス計画のような大きなプロジェクトに参加することの重要性についてビジョンを述べた。


TC Sessions:Space

「(アルテミス計画には)科学者とエンジニアが集まるでしょうが、プロジェクトにはアーティストが必要であり、デザイナーも必要です。つまりビジョナリーが必要なのです」と彼女は述べた。

リーダーが持つべき重要な資質は指揮下に入る人々の話によく耳を傾けることだが、ニューマン教授はまさにこの点から仕事を始めるようだ。MITの発表声明でこう述べている。

多くの人々に聞き取りを行って学んでいくことから仕事を始めるつもりです。人々が働く現場に出向き、素晴らしいアイデアをすべてテーブルの上に置いてもらうよう勧めます。これが教職員、学生、スタッフなどコミュニティ全体と協力し、人々の創造性を活用して前進していくための最善の方法だと思います。仕事を始めるのが待ちきれません。

関連記事:伊藤穰一氏がMITメディアラボの所長を辞任、資金調達の不正処理で

カテゴリー:その他
タグ:MITNASA

画像クレジット:Dougas Sonders/Dava Newman/Guillermo Trotti

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

海洋探査を変えるかもしれないMITが開発したバッテリー不要の水中ナビシステム

MIT(マサチューセッツ工科大学)は水中で使用する新しいナビゲーションシステム(MIT News記事)を開発した。このシステムは、地上や空中でGPSが行っている方向案内を水中で実現しようとするものだ。GPSは、水中にはほとんど届かない。電磁波と水は相性が悪いからだ。潜水艦でソナーなどが使われているのはそれが理由だ。ソナーは音波を発信し他の水中物体や海底からの反射を測定する。しかしソナーをはじめとする音声信号方式は、一般的に消費電力が大きい。そのため、MITの新しいバッテリー不要システムには大きな可能性がある。

GPSは電力効率が良いシステムでもあり、カーナビゲーションからスマートフォンの地図まで、私たちの移動方法を大きく変えた理由の1つでもある。現在の水中ナビゲーション技術の制限は、音波発生発信装置を駆動するために大きくてすぐに消耗するバッテリーパックが必要なことだ。MITのシステムが利用する新しいバッテリー不要の音声ナビゲーションシステムは、自分で音波を作り出すのではなく、すでに周囲にある信号を利用する。

システムが使用している圧電材料は機械的応力を受けると電荷を生成する。応力は音波が材料に与える衝撃からも生まれる。研究チームは圧電材料を使ったセンターで音波情報をバイナリーコードに変換する方法を編み出し、周囲の海水温度や含有塩分などの測定に使っていたが、これを位置情報の決定にも使えるはずだという理論を立てた。

それは想像するほど簡単なものではない。音は水中のさまざまな表面で反射し、しばしば予想外の角度で戻ってくるからだ。しかし研究チームは、「周波数ホッピング」と呼ばれる方法でこの課題に取り組み、広い範囲の波長にわたって情報を集めた。これが深海で効果を発揮し、現在、彼らは浅い水深の雑音の多い環境でも効率を高める方法を研究している。

最終的に、このシステムや同じテクノロジーに基づく将来のバージョンでは、未来型ロボット探査潜水艦による海底の地図化の効率を高め、あらゆる自動モニタリングと海中ナビゲーションを可能にすることが目標だ。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:MIT

画像クレジット:Reza Ghaffarivardavagh / MIT

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

MITの技術者チームが完全にフラットな魚眼レンズを開発、広角レンズの製造が容易になる可能性

MIT(マサチューセッツ工科大学)の技術者とマサチューセッツ大学ローウェル校が協力して、従来の超広角レンズのような球状の曲面カーブがなくフラットで、本物の魚眼のように像に歪みを実現したカメラ用レンズを考案した(MIT News記事)。魚眼レンズは比較的特殊なレンズで、180度以上の広い範囲をカバーすることができるが、製造コストがとても高く、重くて大きなレンズであるためスマートフォンについてるような小型のカメラには不向きだ。

平面レンズでありながら180度のパノラマをきれいに撮れるのは、これが初めてだ。技術者は片面に薄いガラスのウェハをパターニングし、曲面ガラスと同じように入射光を散乱させるために微細な三次元構造を精密に配置することでこれを実現している。

今回研究者たちが作ったものは、光のスペクトルのうちの赤外線部分に特化して設計されているが、可視光線でもそれは可能だという。赤外線であっても可視光線であっても、この技術にはさまざまな用途が考えられる。180度のパノラマを撮ることができれば、医療用画像システムや、画像データの解釈に範囲が重要なコンピュータービジョンアプリにも利用することが可能だ。

このような設計は、「メタレンズ」と呼ばれるレンズの一例となる。外側にカーブを描くレンズを作ったり、曲率の異なる複数のガラスを重ねて希望の視野を実現したりと、これまでのマクロな設計変更では達成できなかったような方法で、ミクロの特徴を利用して光学特性を変化させるレンズを作ることができる。

今回珍しいのは、完全にフラットなメタレンズでありながら、きわめて精細で正確な180度のパノラマ画像が得られることで、プロジェクトに参加していた技術者自身も驚いている。これは多くの人が想定していた最先端の科学の進歩であることは間違いない。

カテゴリー:ハードウェア

タグ:MIT

画像クレジット: MIT / Mikhail Shalaginov, Tian Gu, Christine Daniloff, Felice Hankel, Juejun Hu

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

プライバシーを保護しながら、介護施設の利用者の行動をモニターできるMITのワイヤレスシステム

マサチューセッツ工科大学(MIT)のComputer Science and Artificial Intelligence Lab(CSAIL、計算機科学と人工知能研究室)の研究者は、完全にワイヤレスなシステムを使って、動きやバイタルサインを非接触で監視するだけでなく、ビデオを使用せずより強力にプライバシーを保護するやり方で活動を追跡する手法を開発した。このシステムは、長期介護施設や介護サービス付き住居で使用することが可能で、入居者のプライバシーを尊重しつつ、より高い水準のサポートを提供できる。

開発研究チームによって「RF-Diary(RFダイアリー)」と名付けられたこのシステムは、人の生活空間のマップと様々な動きのタイプを組み合わせることによって、対象者の睡眠、読書、料理、テレビ視聴などの活動を識別することができる。研究チームは、これらのスペースの中で、既知の動作を行う人間によって生成された無線信号でシステムをトレーニングした。そして、そのトレーニングを通じて得た知識を利用して、全く新しい場所で新しい人間が行う動作を識別できるようにすることができた。

研究者たちは、このRF-Diaryシステムがビデオベースのモニタリングよりもプライバシーをより効果的に保護できるだけでなく、実際にはより正確であることも発見した。つまり、対象者は暗い場所にいるときや、物陰で視覚的なチェックが行えないときでも、個人の活動内容ラベルを正確に識別できた。全体として研究者たちは、彼らのシステムが家庭内で行われる30の活動に対して、90%以上正確にその動作を識別できることを発見した。

このテクノロジーは、公共の介護施設だけでなく、エイジング・イン・プレイス(年齢・所得・能力に関係なく、自分の家や地域で安全・安心・快適に暮らしていくこと)に役立つ。なぜなら1人暮らしの高齢の親族をサポートしたいと考えている家族たちが、最新の状況を知るための手段として利用できるからだ。

バイタルサインや一般的な動きも監視できるため、MIT CSAILチームによって開発されたこのシステムは、リソースが限られている介護施設だけでなく、物理的距離の確保が安全で責任ある行動の前提条件となるCOVID-19時代の、介護支援と遠隔モニタリングにも役立つ包括的なソリューションになるかもしれない。現在、チームは、システムを一般販売にむけて商品化するためのステップとして、実際の現場で使えるように準備をしようとしている。

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カテゴリー:セキュリティ

タグ:MIT

画像クレジット:MIT CSAIL

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(翻訳:sako)

Boston Dynamicsの四足歩行ロボの医療版「Dr. Spot」は新型コロナ患者のバイタルサイン測定に役立つ

新型コロナウイルスについて衛生機関が絶えず言ってきたアドバイスは「ウイルスにさらされた可能性のある人との接触を可能な限りなくす」というものだ。しかしこれは病院では難しい。医療関係者は適切な医療を提供するために一定の時間ごとに患者の体温や血圧などのバイタルを計測しなければならない。しかしマサチューセッツ工科大学(MIT)、ブリガム・ウイミンズ病院、Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)などのコラボレーションによって、現場のヘルスケアワーカーが直接患者に接することなくこれらバイタル情報を計測できるようになるかもしれない。

発表された論文の中で、MITの研究者はBoston Dynamicsの四つ足イヌ型ロボットのカスタマイズバージョンである「Dr. Spot」を、コンタクトレスのバイタルサイン計測装備としてどのように開発したか説明している。Dr. Spotにはタブレット端末が取り付けられていて、医師や看護師は「フェイストゥーフェイス」で患者とやりとりしながら検査できる。この遠隔診療の超ローカル版は医療従事者の新型コロナ接触リスクを減らすだけでなく、個人用保護具の使用を大幅に減らして最も必要とされるときのためにとっておくのにも貢献する。

Dr. Spotは皮膚温、呼吸数、心拍、血中酸素飽和度などのバイタルサインを一度に測定できる。これらバイタルサインは患者の新型コロナ感染の進行状況を判断するときに医療者が追跡する重要な指標だ。研究目的でDr. Spotは病院に配備されたが、計測とセンサーの精度を証明するためにボランティアのいくつかの項目を測定しただけだ。

この取り組みはDr. Spotを実際に展開したり、あるいは臨床研究における似たようなシステムの可能性を証明するための研究にすぎない。しかし結果は有望だ。リモートでのバイタルモニタリングは新しい概念ではない。ただ、これを実現するための他のシステムの多くが、遠隔での患者のバイタルサイン測定を行う実際の場所を確保する必要がある。一方、Dr. Spotは現存する病院やクリニックにフレキシブルに展開できるかもしれない。

画像クレジット: MIT

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(翻訳:Mizoguchi

MIT製のルンバ似ロボットがボストンの食料倉庫で新型コロナを紫外線で消毒

MIT(マサチューセッツ工科大学)のCSAIL(コンピュータ科学とAIラボ)は研究プロジェクトの1つを利用してグレーターボストンフードバンク(GBFB)の倉庫の消毒サービスを提供し始めた。GBFBは食料配給のチャリティ団体で、MITは新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を抑制することにより同団体が活動を継続できるよう支援する。

CSAILがデザインし、Ava Roboticsと共同製作したロボットシステムは、新型コロナウイルスが付着した可能性がある物体表面を消毒するのと同時に、空気中に感染性のあるウイルスのエアロゾルが浮遊している場合にも一掃する効果があるという。

CSAILが提供するのは高度な消毒殺菌システムだが、家庭用掃除ロボットのルンバにやや似ている。強力な紫外線を利用して完全自動で施設の消毒を行う。人間の操作者を必要としないロボットであることがキーポイントだという。物体の表面や空気中のエアロゾルのウイルスを消毒できるレベルの紫外線は人体に有害なので人間が操作することができないからだ。

設計チームはAvaのテレプレゼンスロボットを利用し、遠隔地にいるロボットの操作者を表示するディスプレイ部分を取り外し、上の写真のように紫外線ランプのアレイに置き換えた。カメラとセンサーによってロボットは置かれた空間をマッピングする。ロボットは指定されたポイントをナビゲートしながらエリア内を消毒していくが、どの部分の消毒を済ませたかを記憶できるという。このシステムでは人間のスタッフが通常作業する場所を指定することで、優先的に消毒するゾーンを設定できる。

このシステムは移動経路の再設定にも柔軟に対応できる。GBFB倉庫で消毒が必要なエリアは食品の在庫状態によって常に変化するためロボットの巡回ルートは頻繁に変更が必要だ。開発チームは、将来はさらに高機能なテレプレゼンスロボットを利用し、多様なセンサーによって人間の作業員の動作や在庫状況を把握してどの部分が消毒が必要であるか優先度を自動的に判断して動作できるようにしていきたいと考えている。しかし当面はそのような調整は人間が行う。

食料供給を必要とする人々に食品を届けるGBFBは、新型コロナウイルスのパンデミックに際して極めて優先度の高い活動であるため、CSAILはまずここでの利用に焦点を当てている。ただしCSAILの研究者は今後この種のロボットシステムが食品企業、学校、航空機など清潔を保ち頻繁な消毒を必要とする複雑な空間で広く利用されるようになると考えている。

画像:Alyssa Pierson – MIT CSAIL

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(翻訳:滑川海彦@Facebook