禁酒スタートアップの序盤戦

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター、The TechCrunch Exchangeへようこそ。

みなさんこんにちは!今日は、シンプルな料理にこだわった。私たちの持ち場の、肉とポテト、豆のプロテインとグルテンフリーのデンプン。すなわちスタートアップの活動だ。ということで今回は、私たちがとてもすばらしいと思うスタートアップのニュースをご紹介する。

個人的な話で恐縮だが、私はお酒とは複雑な事情を抱えていた。最終的には飲酒を完全に止めた。なので、先々週Reframe(リフレーム)が私の視界に入ってきたとき、私は興味を持った。

このスタートアップは、まだアルコール依存症ではないがアルコール摂取量を減らしたい、あるいは完全にやめたいと考えている人に焦点を当て、アルコール摂取量を減らすためのアプリを提供している。飲酒に限らず、あらゆる薬物中毒や依存症、その問題を解決するための市場は巨大だ。私がこのことを知っているのは、酒の量を減らしたり、完全にやめたりしようとしている多くの人たちと、話をできる機会があるからだ。パンデミックの中で状況が悪化していることも付け加えておこう。

なので、Reframeが最近急速に成長していることを知っても驚きはなかった。同社はAtlanta Venturesから140万ドル(約1億6000万円)を調達した後、Y Combinatorに参加している(2021年夏のクラスで、私はお気に入りの企業の1つとして挙げている)。アクセラレータープログラム終了後に340万ドル(約3億9000万円)を調達し、つい最近1250万ドル(約14億4000万円)のラウンドをクローズした。最後の資金調達ラウンドは、2021年末に行われ、資金調達後の評価額は1億ドル(約115億2000万円)となった。

このスタートアップは明らかに何かをつかんでいる。そして、ありがたいことに、同社はその結果を詳細に話してくれた。

同社のCEOであるVedant Pradeep(べダント・プリディープ)氏に話を聞いたところ、Reframeはこの6カ月間でARRが約79%の複利で拡大したという。また、プリディープ氏は、同社では過去12カ月間に毎週10.3%の成長が見られたという。その結果、1月28日までに計950万ドル(約10億9000万円)のARRが発生したが、先週初めにプリディープ氏がメッセージを使ってその数字を1000万ドル(約11億5000万円)に修正してきた。

さらに良いことに、認知行動療法や日記などのツールを組み合わせることで、人々の飲酒量を実際に変化させることができている。プリディープ氏によると、約88.63%のユーザーが2カ月で「飲酒目標を達成した」と報告しているという。さらにCEOは、自社のデータに基づいて、このデータは「彼らの飲酒量が50%(以上)減少したことを意味します」と付け加えた。

大したものだ。

さて、私は薬物関連の営利目的のケアには少々うるさい。そこで私は、プリディープ氏に会社の価格モデルや、Reframeに支払うだけのお金がない人たちに対する方針について話を聞いた。少なくとも私の基準では、この会社は公正なバランスをとっている。

テクノロジー界のリーダー、著名人、悪党が皆、大金を得ようと暗号資産の世界に頭から突っ込んでいるように見える今、Reframeは現実の問題を解決することもお金を稼ぐ方法の1つだということを思い出させてくれる。最近のスタートアップの価格傾向を考えると、なぜこの会社の最新の評価額にもう1つゼロが加わっていないのかが不思議だ。

そして、お酒といえば

今日のテーマであるお酒を続けよう。次はワインだ。それはすべてだ。

ワインについて学ぶ時間は決して無駄なものではない。Reframeの顧客でないのなら、ワイン通でいるのは楽しい過ごし方だ。友人と椅子を並べて、ゆっくりと頭の中に酔いを回すことが好きな人をを酔わせるのが好きな人は、カリフォルニアのしっかりしたカベルネとともにシャブリを楽しむ方法を知ることで食卓が華やぐだろう。

しかし、すべてのワインが飲むためのものではない。その中には、実際に投資に適したものがある。それこそがVinovest(ビノベスト)が、ワインの価格上昇に賭けることができるプラットフォームを開発している理由だ。最近同社は、顧客が個々のワインに投資できるサービスをリリースした。以前のVinovestは、ワイン投資のカテゴリーで、ロボアドバイザーによるサービスに力を入れていた。簡単に言えば同社は、これまで手の届かなかった高級ワインのような、代替投資の選択肢を求める人々が増えていることに賭けているのだ。

このVinovestのニュースを取り上げたのは、2021年に運用資産残高(AUM)が500%成長したことをはじめとして、何かが起きようとしているからだ。同社の勇猛果敢な広報担当者であるWilliam Ruben(ウィリアム・ルーベン)氏によれば、Vinovestは25万本以上のボトルをユーザーの名のもとに管理しており、それらは「世界各地にある特注の倉庫」に保管されているという。

暗号資産の急増や、デジタルコレクション購入の動きなどの中で、おそらくワイン投資は、ありふれた401(k)により多く組み込まれるようになるだろう。もしそれがうまく行けば、Vinovestの市場への賭けは、楽しみの多い果実を実らせることができるだろう。

画像クレジット:Nigel Sussman

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

【TC Tokyo 2021レポート】酔っぱらいたくない新世代に届けたい、米国の酒販D2CブランドHausの「誰のまねもしなかった」起業ヒストリー

12月2日から3日にかけてオンラインで開催されたスタートアップとテクノロジーの祭典「TechCrunch Tokyo 2021」。2日目午後0時30分から1時00分には、D2Cブランドについてのセッションが行われた。ゲストは米国でネットを介して食前酒を販売するスタートアップ「Haus」の共同創業者兼CEOであるHelena Price Hambrecht(ヘレナ・プライス・ハンブレヒト)氏が登壇。硬直した米国酒販業界でどのように後発組として成功してきたかについて語ってくれた。モデレーターはライター / 翻訳家の大熊希美氏だ。

IT屋とワイン屋の夫婦から生まれた新しいサービスHaus

ハンブレヒト氏は、シリコンバレーでFacebook(現Meta)、Fitbit、Google、インスタグラム、Microsoft、Pinterest、Square、Twitterなどさまざまなブランドの立ち上げにPRという立場で関わってきた、いわば「IT屋」だ。

そこで新世代の消費者が、製品の原料を強く意識していること、製品の信ぴょう性、販売者の透明性を重視していることを知った。

なかでも、アルコール類への不満が多いことに気づいたハンブレヒト氏は「高カロリーで、酩酊性が強く、眠りが浅くなるうえ、二日酔いもひどい。合成原料やさまざまな添加物など、摂取を控えたいようなものを含んだ飲料しかなく、その他の選択肢がないことへの不満の声だった」という。

共同創業者は元夫のWoody Hambrecht(ウッディ・ハンブレヒト)氏。ワイン醸造農園主の三代目だ。

関連記事:酔っ払いたくないミレニアル世代は仕事の飲み会で何を飲む?

そのこともあり、アルコールにまつわる業界の態度と消費者のニーズに強い興味を持ったハンブレヒト氏は、さらにミレニアル世代やZ世代のニーズを調べ、そこでアルコール業界の真実を知ることとなる。

「米国だけでも280億ドル(約3兆1790億円)という巨大産業が硬直したまま革新的なことをしてこなかった。新しい世代は、自分たちの飲むアルコールに関して変化を求めていた」(ハンブレヒト氏)

そこで、欧州で何世紀も愛されてきた実績があり、米国内でも人気が出てきたアルコール度数が低く、たくさん飲んでも酩酊することの少ないアルコール飲料である食前酒を開発し、販売するためにHausを立ち上げたのだった。

型破りな解決策

Hausが販売する食前酒は、従来のリキュールと異なり、甘みや苦味が薄く、新鮮な天然の原料から造られる。ブドウを主原料にさまざまなハーブをブレンドした蒸留酒で、飲み口が優しいのが特徴的だ。

フレーバーは8種類あり、カンパリやアペロールといった、従来のリキュール類と異なり「グレープフルーツハラペーニョ」「レモンラベンダー」など、名前だけでどのようなフレーバーなのかをイメージしやすくなっている。

「ロックでも、ソーダ割りでも、低度数カクテルとしても飲むことができる。さらにはそのままでも洗練されたカクテルのような味わいのある飲みやすいお酒だ」とハンブレヒト氏は説明する。

販売方法は、今のところオンラインのみで、基本はサブスクリプション制。会員は、月1本、2本、6本のコースを選べ、本数によって割引を受けられる。フレーバーも自分で選択でき、一時停止も可能だ。会費、送料ともに無料。限定フレーバーやセールの案内も受け取れる。

起業するに当たり、障害となったのは「禁酒法時代から変わりのない酒販への厳しい規制と、フィジカルなものづくりに必要な費用の準備」だった。

酒類販売には厳しい規制があるため、ネットで注文があると「受注したウェブサイトでは、宅配業者を手配し、その宅配業者が注文品を買って配送する」という複雑な手を使うのが一般的であるという。

「製造業者、卸売業者、消費者が購入するための酒類販売店がある。酒類販売には、こうした重層的な制度を使うしかなかった」(ハンブレヒト氏)

しかし、Hausはオンラインで直販している「酒販業として、米国で唯一の」D2Cブランドだ。それが実現した理由を「ブドウを主原料とする低度数のアルコール飲料はネット通販が法的に可能だったから」と説明する。

オンライン直販を全米で開始するためにかなりの資金をかけたというが「史上初のD2C酒販業となれたし、目立った競合もいない」と、その成果を語る。

Hausの製品は自社製造のため、インフラ整備に莫大な費用がかかった。米国の酒造業界では、小企業が製造委託を行う仕組みがないからだ。

製造設備、包装設備、倉庫などを用意せねばならなかったが、酒販スタートアップへの出資を禁止しているファンドが多く、VCは非協力的。「シリコンバレーとファンドに知人が多かったものの、投資家のほとんどが手を出さなかった」と振り返る。

そこで取った方法が、少額でも多数の出資家を募ることだ。

10社のファンドと100人の個人投資家から450万ドル(約5億1000万円)を調達することに成功した。「面談に面談を重ね、理念に共感してくれる出資者を探した」と、ハンブレヒト氏。「初期のスタートアップは、資金調達先を絞るのが定石といわれているが、何事も固定概念に縛られてはいけない。創造的に、これまでにない解決策を探していけば、驚くような答えに巡り会えるものだ」。

「出資者を絞らなかったおかげで、その人の人格に悩まされるというよくある話とも無縁だったし、何より全員が応援してくれるようになった。資金調達の方法が増えれば監視の目はゆるくなり、起業や成長、イノベーションの機会が広がる。

消費者向けブランドの場合、出資者、つまり利害関係のある人が多いことは、顧客になる可能性のある人が増えることを意味している。クラウドファンディングならなおさらだ。大勢から出資を受ける方法にはメリットしかない」(ハンブレヒト氏)

手を抜かないものづくりのために、かさんでしまう初期費用を無事に調達し、生産性の高いインフラを完成させた。しかも、理念に共感し、応援してくれるたくさんのファンを生み出すことにも成功したのだ。

2019年6月にローンチしてからの販売ペースについて大熊氏から尋ねられたハンブレヒト氏は「起業からの2年間で数十万本が売れた」と回答。「業界人から無謀だと思われていたし、反感を買いやすい製品だと自分では考えていたので、これほど早く全米に波及するとは予想外だった」と振り返る。

成功の秘訣は、ハンブレヒト氏が新興企業のPRを経験しており、ブランド創出に詳しかったこと、製品自体が注目を集めやすくメディアが取り上げたこと、また「なぜその製品が必要なのか」を宣伝したこと。

それまで、酩酊性と二日酔いの強いアルコール飲料しか選べず、不満をいだいていたZ世代からミレニアル世代、さらにはベビーブーマー(WWII後のベビーブーム時代に生まれた世代)までもが顧客になっているという。

パンデミックの影響を最小限に抑えられた理由とは

コロナ禍の影響については「強かった」とハンブレヒト氏。「Hausは、人とのつながりで広がっていく製品。共有したいと思うような飲み物だ。しかし、人の交流が途絶え、口コミも止まってしまった。仲間と飲んでいたのが、突如として1人きりで飲むようになり、消費も鈍った」。

しかし、追い風になったこともあるという。

「酒類のネット購入が増加傾向にあった。これはHaus創業時に意識していたこと。それを最大限に活かし、オンライン宣伝を開始。これにより、かなりの成功を収めることができた」(ハンブレヒト氏)

なお、酒類卸売業界全体では停滞が見られたが、Hausは卸との関係が薄かったため、その影響を受けることがなかったという。口コミという強力なマーケティングの有効性がなくなったときに、すぐさま変化に対応するスピーディーさも悪環境を事態を好転させられた理由の1つだろう。

顧客の課題解決を優先し誠実さを示す

現在は、配送先を米国内に限定し、かつオンラインでの直販という形をとっているHausだが、卸売や、将来的には国外への販売も視野に入れているという。

「大手の傘下に入らなければ、全国的な流通網に乗せられず、独立業者は地元のレストランにしか商品を売れない。そこで、D2Cを足がかりに、全国に顧客網を広げた。人気や需要の高さをデータで視覚化できれば、卸売進出へ有利になる。

今は、飲食店や小売店、販売店から前代未聞とも思える数の引き合いがききている。卸売のテスト販売は、まだカリフォルニアでのみ行っているが、2022年には多くの市場に本格参入する予定だ」(ハンブレヒト氏)

Hausが米国で最初で唯一の酒販のD2Cとなったことで、米国の酒販に関係した法律が変わる可能性も出てきた。というのも、重層的な流通体制や前述のような配送仲介を通したネット通販では収益性が低いからだ。D2Cの収益性を目にし、規制緩和への声が高まる可能性がある。

「ネット通販では売れない、と硬直していたのは消費者ではなく販売側」とハンブレヒト氏。「しかし現実はそうではなかった。飲食店で店外用の酒類販売も認められるようになった。厳格な規制が緩み始めた。規制緩和への明るい材料がそろってきたと考えている」。

このように、前例のない事業を展開してきたハンブレヒト氏は「顧客の価値観を最優先させる魅力的なD2Cブランドを尊敬し、さまざまな企業のロードマップを参考にしてきたが、誰の真似もしていない」と言い切る。「その企業が起業した当時の環境に合っていたから成功しただけかもしれず、再現性があるとは限らない。1つの企業だけを手本にしてもいいことがない」。

最後に、これから起業する人へ向けて次のようなメッセージで締めくくった。

「資金調達の方法は1つではない。大手ファンドやVCがだめだったからとあきらめず、個人投資家やクラウドファンディングなどさまざまな方法を探して欲しい。挑戦し続けて欲しい。

D2Cブランドの創業は、以前より難しくなっている。だからプロダクトには十分な配慮が必要だ。粗悪な原料を使わない、ズルをしない、手を抜かない、他社の真似をしない。顧客を優先させ、顧客の持つ課題を解決するように努めて欲しい。その誠実さは、消費者に伝わり、さまざまな障害を克服する助けとなるに違いない」(ハンブレヒト氏)

TechCrunch Tokyo 2021は、12月31日までアーカイブ視聴が可能だ。現在、15%オフになるプロモーションコードを配布中だが、数量限定なのでお早めに。プロモーションコード、およびチケット購入ページはこちらのイベント特設ページからアクセス可能だ。

データで最適化を図るサブスク型のワイン販売会社Bright Cellars社が約12億3200万円の資金調達を達成

6年前に設立されたサブスクリプション型のワイン販売会社Bright Cellars(ブライト・セラーズ)は、多くの新興企業と同様に、時間をかけて進化してきた。アメリカのウィスコンシン州ミルウォーキーを拠点とするBright Cellarsは、かつては会員の嗜好に合ったサードパーティ製のワインを送っていたが、現在では顧客に関する十分なデータが蓄積されているため、他のブランドのワインは販売していない。その代わりに、Bright Cellarsの「オリジナル」商品の中には確かに他のブランドから別の名前で販売されているものもあるが、パートナーであるワインメーカーにレシピの調整を指示することで、成功を収めるケースが増えている。

「私たちは、デジタル製品を最適化するのと同じように、ワインを最適化しています」と語るのは、サンフランシスコ出身の共同創業者兼CEOのRichart Yau(リチャード・ヤウ)氏だ。彼のスタートアップは、早い段階で地域のアクセラレータープログラムに参加し、そこに留まったが、現在では会社の大部分が分散化した。

今朝早く、ヤウ氏とこの方向転換について話をした。Cleveland Avenue(クリーブランド・アベニュー)を中心に、Revolution Ventures(レボリューション・ベンチャーズ)やNorthwestern Mutual(ノースウェスタン・ミューチュアル)などの投資家が参加して、シリーズBとして1,120万ドル(約12億3200万円)の資金調達を行っている。同社は現在、合計で約2,000万ドル(約22億円)ほどの資金を調達している。

また、ヤウ氏は、すべてのデータ収集によって見えてきた業界のトレンドについても語ってくれた。

TC:ワインのポートフォリオを作っていますよね。それはどういうことなのでしょうか?

ヤウ氏:私たちは、土地を所有していません。[Gallo(ガロ)やConstellation(コンステレーション)のような大手企業と同じように]主にサプライヤーと仕事をしていますが、以前よりも規模が大きくなったので、ワインの味や見た目をデザインすることができるようになました。このワインはどのくらい甘くすべきか、酸味はどうか、どのような色やブランド、ラベルにしたいのか、どの層のお客様がこのワインを一番楽しめるのかなど、さまざまな変数を最適化することができます。

TC:御社が調合したワインの中で、どんなものがあるのですか?

ヤウ氏:誰もスパークリングワインに使っていないブドウ品種を使って、シャンパーニュ方式で製造されたスパークリングワイン(シャンパーニュワインではなく、国産ワイン)がありますが、これは私たちのプラットフォームでもトップクラスの評価を得ています。スパークリングワインは、本当に好調です。

TC:サービスの登録者数はどのくらいいますか?

ヤウ氏:それは言えませんが、パンデミックの期間中、新規加入者数だけでなく、お客様の購買がD2C(ダイレクトtoコンシューマーの略)に流れる割合が増えたことで、かなり良い影響を生んでくれました。状況がすこし改善した夏になっても、家で引き続き料理をしたり、ワインを飲んだりする人が増えていました。

TC:このプラットフォーム上では、ワインの平均価格はいくらですか?

ヤウ氏:20ドル(約2200円)から25ドル(2750円)です。

TC:ブドウの仕入れ先はどこですか?

ヤウ氏:ワシントン州やカリフォルニア州などの西海岸が多いですが、南米やヨーロッパなどの海外にもブドウのサプライヤーがいます。

TC:ワインの種類はどれくらいありますか?また、どれくらい試し置きしているのですか?

ヤウ氏:これまでに約600種類のワインを試しましたが、常時40~50種類のワインを用意しています。すべてをずっとストックしているわけではなく、あまり売れないものは基本的に排除しています。

TC:多くのD2Cブランドが、最終的に実店舗を出店します。御社はそれをしていませんね。なぜでしょうか?

ヤウ氏:いつかはそうなるかもしれませんが、私たちはD2Cであることを気に入っていますし、登録会員の皆様が自宅で仕事をしていて、家にいても荷物を受け取ることができる今の世界では、D2Cであることはとても意味のあることだと思います。これは 、一般的なeコマースのトレンドとも一致します。食料品をお店で買わなくなったということは、ワインもお店で買わなくなったということですよね。

TC:ボトルはどこから出荷されるのですか?

ヤウ氏:様々な場所からですが、主に(ベイエリアの)サンタローザからです。

TC:カリフォルニアのワインメーカーの中には、ブドウを守るために日焼け止めを吹き付ける人もいるようですが、天候が与える影響を実感されていますか?

ヤウ氏:(気候変動が)ワイン業界に影響を与えているのは確かです。幸いなことに、私たちは取引先に柔軟性があるので、事業の健全性の観点からはそれほど影響を受けていません。なぜなら、当社の事業の多くはカリフォルニアで行われているからです。2年前は物流が滞り、出荷できない日があったり、気温の上昇による影響を受けたりしました。しかし幸いなことに、今年はこれまでのところ、オペレーションやサプライチェーンの混乱はありません。

TC:老舗企業(レガシー企業)から提携や買収の話を持ちかけられたことはありますか?

ヤウ氏:会話はしていますが、私たちは多くのデータを持っていて、彼らを手助けすることができるので、パートナーシップという意味での会話をしています。例えば、新しいワインを発売し、フォーカスグループのような形でフィードバックを得て、誰が何を好むかを把握することができます。また、あるワインの2種類のブレンドをスプリットテストして、どちらが良いかを調べることもできます。彼ら老舗のワイン企業との会話もそこから始まります。

TC:それでは、データの対価としてお金が支払われるのですね。

ヤウ氏:将来的にデータを売ることに反対はしませんが、どちらかというと、大きなワイン会社でイノベーションがどのように活用できるかを学ぶ機会としてアプローチしています。各州で大規模な営業力やディストリビューターをもつConstellationが得意とすることと同じことができるとは思っていませんが、補完的な方法でできることは、消費者を理解するということです。

TC:外部の人が驚くような発見はありましたか?

ヤウ氏:プティット・シラーは、プラットフォーム上でカベルネやピノ・ノワールと同等か、それ以上の成果を上げています。カベルネやピノはプティット・シラーの50倍もの市場規模がありますが、会員の皆様にはとても気に入っていただけているようです。

また、すべての層の人々が、思っている以上にメルローを気に入っています。メルローは嫌われがちですが、赤のブレンドワインで成功しているものを見ると……。

TC:人々はメルローに対してどんなイメージを持っているのですか?

RY:(笑)映画『Sideways』を見たことがありますか?やはり、それが関係しているのでしょうね。(作中、ピノ・ノワールを崇拝するキャラクターに、メルローがとにかく嫌われている)一方、ピノ・ノワールは依然として人気がありますが、(他のワイン販売業者が)思っているほど、人々はピノ・ノワールを好きではありません。

[原文へ]

ワインのレコメンドとマーケットプレイスアプリ「Vivino」が約164億円調達

ワインに興味がある人なら誰でも一度はVivino(ヴィヴィーノ)を頼って購入すべきワインを探したことがあるだろう。人々がより上質なワインを楽しめるよう、2010年よりサービスを提供している同社とそのアプリだが、今回のシリーズDラウンドでは1億5500万ドル(約164億円)の調達に成功した。この調達額はこれまでに同社が調達してきた合計額の倍以上に当たる。2018年には2900万人だったユーザーベースが5000万人にまで成長した現在、Vivinoは巨額な資本を注入して同社のコア技術とパーソナライズドレコメンデーションエンジンを大幅に強化するとともに、主要な成長市場での同社の存在感を世界的に拡大したいと考えている。

Vivinoはさまざまな面で興味深い企業だが、特に注目すべきなのは同社の設立当初のビジョンと現在のビジョンがほとんど変わっていないという点だ。創設者でCEOのHeini Zachariassen(ハイニ・ザチャリアッセン)氏は筆者とのインタビューにて、同アプリが、目まぐるしく変化するスタートアップの世界の中ではごく当たり前の大きな転換というものに、いかに無縁であるかを語ってくれた。

「私が10年前にプレゼンをした際の資料を見返してみると、『ワインボトルをスキャンしてから購入しましょう』というようなことが書いてありますが、これは誰が見ても理に適っていますし、だからこそほとんど何も変わっていません」と同氏はいう。

「アプリを作るのは、あのプレゼン資料を作るよりもかなり難しいですよ」と同氏はおどけるが「でも何も変わっていません。このモデルであるべきだということは常にわかっていました」と振り返る。

そのコアバリューこそが、人々が同社のアプリをダウンロードして使用する理由である。レストランでワインメニューに目を凝らしている時や、ワインショップに並ぶワインボトルを眺めている時など、アプリを使用するきっかけとなるシナリオは似たり寄ったりだ。筆者自身は、「ワイン、おすすめ、アプリ」などと検索した際にApp Storeで偶然見つけたVivinoをインストールしたのだが、数分後にはラベルやメニューの写真を撮っていた。最初はおすすめのワインから始まるが、以来、自分の好みを入力していくうちによりパーソナライズされた提案を受けられるようになった。

画像クレジット:Vivino

Vivinoが世界中の大小の業者と築き上げたパートナーシップのおかげで、同社のマーケットプレイスでは気に入ったワインをアプリ上で直接購入することが可能だ。ワインの販売元がユーザーにどのような対応をしたかは、アプリの提供元であるVivinoの評価に直接つながるため、パートナーに関しては高い基準を維持するよう努めているとザチャリアッセン氏はいう。

より幅広い地域のより多くの業者と関係を築いていくということは、主要な成長市場に対応するための拡大目標の1つでもあるが、同社はレコメンデーションエンジンの改善と拡大にも巨額の資本を投入する予定だ。Vivinoが10年かけてほぼゼロから作り上げたワインデータベースはもとより、さまざまな構成要素に大きな改善が施されることになる。

関連記事:ワイン愛好家の日常を大きくアップグレードするAveineのスマートワインエアレーターが登場

「商用化される前の時点で直面した最も高いハードルは、やはりデータの構築作業でした」とザチャリアッセン氏。「集計されたデータはどこにもなかったため、まったくゼロの状態からデータを作り上げる必要がありました。ワインボトルの写真を撮って、誰かがデータを入力するという作業を毎日繰り返しました。今では15億枚のワインラベルの写真がありますが、この大量のデータを構造化された方法で構築するためには10年の歳月がかかったわけです」。

ワインはロングテール市場である傾向が著しく、個人の好みが強く表れる分野であり、同社の経験からしてもそれが今後大きく変わることはほとんどないとザチャリアッセン氏はいう。需要と供給の両面において地域に密着したVivinoのマーケットプレイスのアプローチはこの分野のニーズへの対応に適しているが、これに対するVivinoの仕事はまだ始まったばかりだと同氏はいう。これまでの控えめな資金調達額と比べると大規模なラウンドとなった今回だが、なぜこのタイミングなのかと尋ねてみた。

Vivinoのワインアプリ、サンフランシスコにて(画像クレジット:Nader Khouri 2018) 

「我々はある意味で、臨界点に達したと感じています。2020年は大規模な成長を遂げ、【略】実際に売上高は2億5000万ドル(約264億円)にまで達し、このユニットエコノミクスで考えると、当社は非常に順調と言えます。しかし同時に、弊社は他のマーケットプレイスとは物事の順序が異なります。たとえばUber(ウーバー)の場合、市場に参入してマーケティング活動や需要を構築するために多くのお金を使い、その上で供給を構築するということになります。我々の場合は需要がすでに存在するという時点で異なります。世界中にすでに5000万人のユーザーがいるため、我々はその需要に従うという形になるのです」。

「しかしネックなのは、弊社は現在17か国でワインを販売する200人規模の企業だという点です。つまり我々はどの市場でも比較的手薄になっています。このモデルで事業がうまくいくことはわかったから、それぞれの市場にもっと多くのリソースを投入して、実際に各市場にもっと深く入り込んでいこうと考えたわけです」。

ザチャリアッセン氏によると、同社はこれまでマーケティングにあまり費用を費やしてこなかったとのことで、今後は有機的な成長を促すためにより多くのコストをかけていくつもりだという。また、ユーザーは既存のアプリに十分満足しているようであるものの、「まだまだ多くの可能性を実現する」ため、プロダクトエンジニアリングに力を入れていきたいと同氏はいう。

Vivinoはワインのローカルな魅力を維持しながらも、オンライン上のグローバルなマーケットプレイスのメリットを提供するアプローチにより、これまで長い間地域の専門業者や個人のワインセラーなど特定の情報のみに限定されていた製品カテゴリーの近代化に取り組んできた。そして今、同社が見出した水面下に隠れた巨大な需要に取り組んでいくわけだが、今回の新たな資金調達はその目的の実現に向けて大いに役立つことだろう。

1億5500万ドルのシリーズDラウンドは、スウェーデンのKinnevik(キネヴィック)が主導し、Sprints Capital(スプリンツ・キャピタル)、GP BullHound(GPブルハウンド)の他、シリーズAを主導した既存投資家のCreandum(クリーンダム)も参加している。これにより同社の資金調達総額は2億2100万ドル(約233億円)となる。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Vivino資金調達ワイン

画像クレジット:

原文へ

(文:Darrell Etherington、翻訳:Dragonfly)

宇宙で気候変動に強いワイン用ブドウの木を育てるSpace Cargo Unlimited

宇宙の商業化では、安価な小型衛星にどんな新しいセンサーを載せるかが話題になるが、製造や生産に役立つ微小重力の恩恵を研究も外せない。ヨーロッパのスタートアップSpace Cargo Unlimited(スペース・カーゴ・アンリミテッド)は、微小重力の利点を収益性のある地上でのベンチャーに活かす事業を進めているが、このほど、世界的なワインの種苗企業Mercier(メルシエ)と組んで、宇宙の利点を活かした丈夫なワイン用ブドウの栽培を行うと発表した。

Space Cargo Unlimitedは、微小重力がワインに与える影響について、すでにいくつか実験を行ってきた。2019年には国際宇宙ステーション(ISS)に赤ワインを1箱送っている。ワインは、ほぼ0Gに近い環境で丸12カ月間寝かされてから、2020年、地上に戻ってきた。現在、同スタートアップは宇宙でのバイオテックに特化した子会社Space Biology Unlimited(スペース・バイオロジー・アンリミテッド)を立ち上げ、Mercierと共同で栽培地の気候変動に強いワイン用ブドウの新しい品種の開発に乗り出した。

Space Cargo Unlimitedはボルドーのケースだけでなく、320本のブドウの茎(基本的に新芽の成長によって生まれたかブドウのコア構造)も宇宙に打ち上げている。同社はつい先日、SpaceX(スペースエックス)の貨物船でISSから帰還した茎を受け取ったところだ。送られた茎の半数はメルロー種で、もう半数がカベルネ・ソーヴィニヨン種だが、MercireのCEOであるGuillaume Mercier(ギョーム・メルシエ)氏は声明の中で「前代未聞の生物学的変化」が見られたと語っている。これらは現在クローン培養され、「急速に温暖化が進む地球」での発育において優位性が示されるかが調べられていると彼は話す。

バッテリーの生産から積層製造、基礎的な化学および医療用製造に至るあらゆるものが、微小重力環境で試されている。微小重力には、最もわかりやすい例として、重力による物理的な緊張が軽減されることで地上では困難な複雑な構造体の製造が可能になるという効果がある。その特異な環境では、放射パターンが地上と大きく異なることもあり、有機構造体の成長と発達に予想外の変化が引き起こされる。地上で自然に発生するものではないが、再現することで有用な結果が引き出せることもある。

ISSを利用した微小重力の効果に関する研究は、何年も前から行われている。しかし、宇宙へのアクセスが安価になり機会も増えたことで、それまでは費用やスケジュールの折り合いが付かず手が出せなかった多くの企業やスタートアップにも、ずっと現実的な商業利用の道が開かれた。Space Cargo Unlimitedは、この成長分野で収益が上げられる大変に有利な位置にある企業だといえる。

カテゴリー:宇宙
タグ:Space Cargo UnlimitedMercier植物ワインISS

画像クレジット:Space Cargo Unlimited

原文へ

(文:Darrell Etherington、翻訳:金井哲夫)