クイズ買取サイト「AQUIZ」がDMMに1円で事業譲渡、代表の飯野氏が目指す“新しいバイアウト”とは

DMM.comは12月13日、クイズ買い取りサイト「AQUIZ(アクイズ)」を運営するレイヴンから同サービスの事業譲渡を受けたと発表した。特徴的なのはその金額。DMM.comが支払ったのはたったの1円だ。

レイヴン代表取締役の飯野太治朗氏を含むメンバーである3人は今後DMM.comにジョイン。引き続きAQUIZの運営を続けるとともに、新サービスの創出に取り組む。TechCrunch Japanは飯野氏にインタビューを実施。「1円事業譲渡」の背景を聞いた。

事業の創出と売却を繰り返す

飯野氏はレイヴン創業以前から、新規事業の創出と売却を繰り返してきた。彼が最初に事業を立ち上げたのは19歳のときだ。

それは、業務スーパーで1つ30円のコーヒーを買い、それを喫煙所にいる人々に100円で売るというビジネス。当時大学生だった飯野氏は「バイトのような感覚」としてその事業を始め、1日1時間ほどの労働で月5万円の売上を立てていたという。

「いつか起業家になりたい、特に不動産をやりたい、とは思っていたが実際に行動してはいなかった。ミュージシャンを目指していた友人に『行動に移したら』と指摘したが、それがきっかけで自分の状況を見直し、その足で業務スーパーに行ってコーヒーを買いに行ったのが始まりだった」と飯野氏は語る。

その翌年の2011年、飯野氏は自費で移動販売車を買い、そこでタピオカドリンクを売るというビジネスを始めた。その事業も軌道に乗せることができたが、しばらくするとその移動販売車のビジネスも売却。売却代金を元手にWebサービスの受託開発を手がける企業を設立。

受託開発で稼いだお金で、彼らは2014年11月に現在のレイヴンを設立。フードデリバリー事業やウェディングメディアの「DIAER(ディアー)」を立ち上げる。この2つのサービスは両方ともすでに事業譲渡済みだ。

そして、その後2018年5月にリリースしたのが、今回DMM.comに売却することになった「AQUIZ(アクイズ)」である。

当初、AQUIZはクイズ特化型SNSとしてスタートしたが、2018年7月に現在のクイズ買い取りサイトへとサービスをリニューアル。現在のAQUIZは、ユーザーがPCかスマホでクイズを作成すると、レイヴンがそれを1問10円程度で買い取るというサービス内容になっている。また、運営やスポンサーが用意したクイズに解答することでお金を受け取ることもできる。

1円事業譲渡

移動販売車、フードデリバリー、ウェディングメディアとこれまで何度も事業を作っては売却するということを繰り返してきた飯野氏。しかし、今回の事業譲渡はそれらとはまったく違う性質を持つ。

これまでは事業の価値に対して相応の対価を受け取ってきた飯野氏だが、今回レイヴンが受け取るのはたったの1円。その代わり、レイヴンのチームはDMM.comにジョインし、AQUIZの成長、そしてDMM.com社内における新規事業の創出などの成果に応じて報酬を受け取るという条件になっている。

DMM.com COOの村中悠介氏は、「AQUIZがもつポテンシャルはもちろんだが、レイヴンのチームがもつ新規事業をつくる力と『事業をやり抜く力』を評価した。DMM.comはこれから、そういった人材の層を増やそうとしているところだ」と話す。

この1円譲渡の話を持ちかけたのは、DMMではなく飯野氏だった。その飯野氏は、この1円事業譲渡で起業家にとっての新しいバイアウトの形を示したいと話す。まず“ゼロイチ”で新しい事業を作り、その事業をリソースのある企業に対して“チームと一緒に売却”し、大きなリソースを武器に一気に加速するというやり方だ。その事業の「種」に対する報酬は、最初は1円でもいい。それが育つにつれて後から成果に応じた報酬を受け取れさえすればいい、という考え方だ。

「自力で新規事業の立ち上げを繰り返すうちに、“最強”なのは大きな会社のなかでゼロイチを行うことだと痛感した。DMMの事業マネージャークラスの人たちには、普通の起業家より経験値をもつ人たちがたくさんいる。DMMがもつ経験や、リソースを使えば、僕らがゼロイチでつくった事業を伸ばしていくことができる」(飯野氏)

ただ、この飯野氏がいう新しいバイアウトの形は、VCマネーを軸にした従来のスタートアップが容易に追随できるものではない。レイヴンはこれまで外部資本を受け入れていなかったが、もし外部資本を受け入れていれば、企業そのものや核となる事業を1円で売却することなど許されないだろう。それに、DMMのような、ある意味特殊な企業が“受け皿”として存在している必要がある。

しかし、飯野氏はその条件さえ整えば、「ゼロイチを連続でやりたい、そしてなによりプロダクトを成長させたいと願う起業家には最適な方法だ」と語る。「もちろん、お金のことだけを考えれば、大きく調達して大きく売るという方がいい。しかし、本当にプロダクトを成長させるには外部から得られるお金だけでなく、1を10にしたり、100にするというノウハウも必要になる。その点で、リソースとノウハウの2つをもつDMMは最適な売り先だと思った」(飯野氏)

今回の事業譲渡は、外部資金をこれまで受け入れず、ただゼロイチを連続的に続けていきたいと願う飯野氏と、巨大な非公開企業という立場で大小さまざまなサービスに対するノウハウを蓄積し、社員にも成果に応じた報酬を支払うことができるDMMという「2つの変わり者」がいるからこそ成り立った特殊な例なのかもしれない。

しかし、今後このような新しいバイアウトの形が日本のスタートアップ業界に根付く可能性はゼロではない。個人的には、従来のエグジットのあり方になんの文句もない。ただ、DMMのような企業の存在により、「VCから調達した資金をもとに事業を拡大させ、M&AかIPOでエグジットをする」というスタートアップのエグジットのあり方が「唯一無二のもの」ではなくなる日も来るかもしれない。

DMMがプログラミングスクールのインフラトップを買収ーー今月だけで2度目、DMMの財産が起業家を惹きつける

DMM.comは11月22日、プログラミング教育スクール「WEBCAMP」を運営するインフラトップを買収したと発表した。インフラトップが発行する株式の60%を取得する。株式取得総額は非公開。なお、今回の買収によりDMM.com COOの村中悠介氏、同CTOの松本勇気氏がインフラトップ取締役に就任する。

写真左より、DMM.com CTOの松本勇気氏、インフラトップ代表取締役の大島礼頌氏

インフラトップは、社会人向けプログラミングスクールのWEBCAMPを運営するスタートアップ。これまでに3000人の卒業生を輩出しているという。同社はWEBCAMPの上位コースとして転職に特化した「WEBCAMP PRO」も提供。プログラミング未経験者であっても、3ヶ月のコースを修了後にエンジニアとしての転職を保証するというものだ(転職が決まらなかった場合、スクール費用は返却する)。

インフラトップ代表取締役の大島礼頌氏は、「転職保証は、弊社のビジョンでもある“プログラミング教育を通して人生を実際に変える”ことにコミットするという意思表示だった。それを達成するため、Gitによるチーム開発なども想定した実践的なカリキュラムを設計した」と語る。その結果、現在までにWEBCAMP PRO卒業生の転職成功率は98%、転職後3ヶ月間の離職率は0%と高水準となっている。

今回の買収を主導したDMM.com CTOの松本勇気氏も、「インフラトップはチーム開発を含めたカリキュラムによる実践的な教育や、またその成果として、その後の就職率の高さなどが際立っている」とコメントし、同社のプログラミングスクールの質を評価している。

DMM.comによるスタートアップ買収と言えば、2018年11月に発表された終活ねっとの買収が記憶に新しい。「当初は上場しか考えておらず、今回の買収以前にも並行して他社からの増資の話もあった。しかし、DMM.comには『DMM英会話』を通してスクール運営のナレッジが溜まっていたこと、そしてサービスの磨き上げについて、松本さんからのコミットメントを感じたことを踏まえ、今後1〜2年の成長速度を考えるとDMMグループに入ることが正解だと思った」と大島氏はDMM傘下入りの理由を語る。

インフラトップのこれまでの株主構成は、総数の約80%が同社代表取締役の大島礼頌氏、残り20%がEast VenturesやMistletoeなどの外部投資家だった。今回の買収により、株式60%をDMM.comが所有、40%が大島氏が保有することになる。現時点での増資はなく、同社に直接キャッシュが入るわけではない。だが、大島氏は今後利用可能になるDMMのリソースを利用して、サービスのさらなる改善とマスプロモーションに注力すると話す。

「転職市場の現状として、40代や50代のエンジニア転職は難しいという現実がある。しかし、今後はWEBCAMPを利用すれば年齢や経歴関係なく転職によって人生を変えられるということを実現したい。また、弊社はリアルとオンラインのどちらでもスクールを運営しているが、オンラインでもリアルと遜色ないクオリティを追求していく」(大島氏)

終活ねっとの買収でも同様だが、DMM.comが事業拡大のためにアクセルを踏みたいと願う起業家を強く惹きつけている。DMMの事業は非常に広範囲に渡り、それだけ蓄積されたノウハウの種類も多い。キャッシュカウ化した本業から潤沢な資金も流れ込む。だからこそ、即時買い取り、終活メディア、プログラミングスクールなど、彼らが手を組めるスタートアップのスコープも当然広くなる。DMM.comが日本の若手起業家を惹きつける“シェアハウス”のようだと感じるのは僕だけだろうか。

DMM、葬儀など“終活”情報ポータル提供する終活ねっとを買収ーー取得額は10億円程度か

写真左より、DMM.com 執行役員の緒方悠氏、終活ねっと代表の岩崎翔太氏

DMM.comは10月12日、人生のエンディングを意味する「終活」にまつわる情報ポータルサイトなどを提供するスタートアップ、終活ねっとの発行済株式総数の51%を取得したと発表した。金額は非公開だが、関係者らの情報から推測するに10億円程度とみられる。また、これを期にDMMの執行役員である緒方悠氏、および経営企画室室長の市村昭宏氏が終活ねっとの取締役に就任する。

終活ねっとはお墓や葬儀関連のメディアなどを展開するスタートアップ。同社には現在、メディアのライター・編集者として大学生を中心に約40人が在籍している。主要メンバーは4人で、代表取締役を務める岩崎翔太氏は現役東大生だ。2017年12月にはジェネシア・ベンチャーズなどから8300万円を調達している。

終活ねっとは2016年9月の設立。創業から約2年というタイミングでDMMとのディールを受け入れた理由として、岩崎氏はDMMが持つリソースなどを活用して同社のビジネスを加速したかったと話す。「かねてより、ライフエンディングのNo1ブランドを目指していたが、リソースや経験の壁など様々な問題に直面することもあった。積極的にMAという手段を考えていたタイミングではなかったが、たまたま共通の知人の紹介でDMM側の担当者に会い、終活ねっとにはないものをDMM社がもっていると強く感じた。DMM社の力を借りることで、ライフエンディングのNo1ブランドへの近道になると思った」(岩崎氏)

なお、DMMは2018年10月に100億円規模のマイノリティ投資ファンド「DMM Ventures」を設立しているが、今回の出資はDMM Venturesとは無関係だという。しかし、DMMは今回の出資についても「若手起業家への支援・サポート」という意味をもつものだとコメント。岩崎氏ら終活ねっとは今後も独立性を保ったまま経営されるという。

DMMが100億規模のファンド設立、若手起業家支援の目的で比率1〜5%のマイノリティ投資へ

DMM VENTURESの運営を担う、DMM COOの村中悠介氏と同CTOの松本勇気氏

DMM.com(以下、DMM)は10月4日、ベンチャーコミュニティ活性化に向けたマイノリティ出資を行う「DMM VENTURES」を設立すると発表した。ファンド規模は100億円。

DMM VENTURESは、ベンチャーコミュニティ活性化への貢献と若手起業家支援などを目的としたファンド。出資比率を1〜5%に抑えた“マイノリティ出資”を基本理念としている。

このマイノリティ出資を基本理念とする理由として、DMM最高経営責任者の片桐孝憲氏は、「DMMはこれまでにも買収などのマジョリティ投資は行ってきた。今後は、できるだけ多くの若手起業家、より幅広いベンチャーコミュニティに対して機会提供を行うために、マイノリティ投資にも取り組みたいと考えた」と話す。

DMM VENTURESの投資対象はビジネス領域にとらわれず、「ジャンル・規模を問わず次世代を担う人材(「ヒト」への投資)」としている。また、投資先のスタートアップにはDMMグループが保有する経営ノウハウやネットワーク等のリソースも必要に応じて提供するとしている。

なお、DMM会長の亀山敬司氏は10月4日、5日の2日間で開催中の「B Dash Camp」に登場。DMM VENTURESについて、亀山氏は壇上で「将来的な買収が前提。失敗してて、売らないといけないというときに『売ってよ』と言いやすいように。1社あたりは数百万とか数千万くらいの規模で、どちらかと言えば早めに人間関係をつくることなどを求めている」とコメントした。

元グノシー松本氏がDMMの新CTO就任、『モチベーション×能力』で測る組織づくりへ

「最初に会ったとき、この人は宇宙人だと思った」ーーこれは、DMM最高経営責任者の片桐孝憲氏が同社の新しいCTOのことを表した言葉だ。

DMMは9月14日、グノシー元CTOの松本勇気氏を新たに迎え、同社の新しいCTOとして起用する人事を発表した。TechCrunch Japanでは片桐氏と松本氏の両名にインタビューを行い、その背景を聞いた。

新CTOに就任する松本氏は、大学在学中に学生ベンチャーのLabitなど複数のスタートアップにてiOS/サーバーサイドの開発を担当し、2013年1月にグノシーに入社した。2014年6月には開発本部執行役員に就任。そして2015年からはグノシーのCTOとして、KDDIと共同開発した「ニュースパス」の立ち上げや、ブロックチェーン事業子会社のLayerXの立ち上げなどを手がけてきた人物だ。

ニュースパスチームの立ち上げの際には、松本氏はCTOの役職を返上してみずから開発の現場に参画。立ち上げから8ヶ月でチームのかたちを作り、再びCTOに就任した。

一方のDMMでは、片桐氏がCEOに就任した直後から、前CTOの城倉和孝氏と新しいCTOの招聘を検討していた。城倉氏から「自分の代わりにCTOになってほしいヤツがいる」と紹介されたのをきっかけに、松本氏と片桐氏が出会ったのは2018年春ごろのことだ。

当初、片桐氏は松本氏が「DMMに来てくれる可能性は低いだろう」と思っていたが、可能性を探るためにまずは3人で食事に行くことにした。

「(松本氏は)宇宙人みたいな人だなと思った。僕がDMMに入ってすぐの頃からCTO探しは続けていたが、DMMにフィットしてかつ未来が見える人はなかなか見つからなかった。みんな大人過ぎるなと。その一方、松本くんは飄々としていて、自分にもよく分からないような新しい未来の話をしてきた。彼のようにエンジニアとして具体的にビジネスの話をできる人もなかなかいない」(片桐氏)

松本氏を新しいCTOとして迎え入れたいと思うDMMだったが、当時の松本氏はグノシーを退職したあと独立して起業することも検討していた。そこで片桐氏と城倉氏は、月に一度のペースで松本氏との“親睦会”を行うことにした。松本氏を連れてDMMのマイニングファームを見せたり、金沢にある開発拠点を訪れ、現地のスーパー銭湯のサウナで語り合い、そのままその銭湯で一泊するなんてこともあったそうだ。

一方の松本氏は片桐氏について、「楽しそうに仕事をする人だと思った。僕自身も仕事においてモチベーションは非常に重要だと思っているので、ここに来れば何か楽しいことができると思いました」と話す。2018年6月にDMM会長の亀山敬司氏と面会する際には、8割方こころは決まっていたという。

創業19年目のカルチャーを作り変える

そもそもDMMが新しいCTOを探し始めたのは、片桐氏がCEOに就任してすぐのことだった。その背景には、以前からビジネス寄りの人材が多かったDMMを“テックカンパニー”にしたいという想いがあった。

「自分が最高経営責任者に就任するとき、亀山さんとも『DMMが今よりももっとテック寄りの企業になれたら成長が加速する』と話していた。僕が呼ばれたのもそのためだ。それを実現するために、技術的な方針を示してくれる人、エンジニアの見本となるような人物が必要だと思っていた」と片桐氏は話す。

片桐氏は現時点のDMMについて、「テックカルチャーが育つ余地はまだある」と評する。社内にはエンジニア出身の事業部長が少ないなど、改善の余地は大きい。

これまでにもテックカルチャーを根付かせるための改革を進めてきたが、片桐氏が松本氏に期待するのは、その改革をさらに加速させ、DMMを技術思考の会社へと作り変えることだという。

「Netflixは目標とするテックカンパニーの1つ。自分の親がNetflixを利用しても、『なんか面白い映画がどんどん出てくるな』くらいにしか思わないだろう。そんな風に、ユーザーが全然気づかないところで、実はデータ分析やテクノロジーが活かされている点が素晴らしいと思う」(片桐氏)

では、そのテックカンパニーを作りあげるためにはどうするか。

これからはじまるDMMの組織改革について、松本氏は「チームの総力を測る方程式は、『モチベーション×能力』だと思っている。チーム全体のモチベーションを高めるには、会社の戦略や文化に共感してくれる人を採用し、そういう人たちがモチベーションを高く維持したまま働けるような仕組みを作らなければいけない。ビジネスとエンジニア、どちらが偉いということではなく、どちらも対等に会話できる環境を作っていきたい」と話した。

総勢450人のDMMエンジニアを率いる29歳の新CTOの前には、創業から19年間で培ったカルチャーを作り変えるという大仕事が待っている。

DMM.comがクルマの即時買い取りサービス開始、3枚の写真ですぐに現金化

仮想通貨から競走馬のシェアまで、幅広い領域で事業を展開するDMM.comグループ。次に彼らが手がけるのは、クルマの即時買い取りサービスだ。DMM.comは6月5日、クルマの写真を撮るだけで簡単にクルマの査定と売却ができる「DMM AUTO」のサービスを開始した。

DMM AUTOでクルマを売るときに必要なのは、スマホ、車検証、クルマの3つだけだ。ユーザーがクルマ本体、メーターパネル、車検証の写真をスマホで撮り、クルマのカラーや事故歴などの簡単な質問に答えると、即座にクルマの査定額が表示される。TechCrunch Japan読者のみなさんには、DMM AUTOは「CASHメルカリNOWのクルマ版」と説明すると分かりやすいだろうか(ちなみに、DMMが買収したCASHのチームはDMM AUTOに関わっておらず、AUTOの開発が始まったのも買収前のことだという)。

ユーザーが提示された買取価格に納得すれば、すぐに交渉成立だ。最短で3日後にクルマを引き渡したあと、銀行口座にお金が振り込まれる。査定するのはAIなので24時間365日好きなときにクルマを売却できる。

一度提示されたクルマの査定価格は7日後までは変化せず、査定価格が有効な間はいつでもその価格で売却することが可能だ。だから、まずは手軽に査定してみて、ざっくりと自分のクルマの価値を調べてみたり、他の業者と比較するなんて使い方もできそうだ。

DMM AUTO事業部マーケティング部長の出村光世氏は、「これまでのクルマの買い取り業界は『1円でも高く買い取る』というのが訴求ポイントだった。しかし、クルマを売ろうとして業者を回ると休日が潰れてしまうなど、クルマを売却するまでの手間が大きすぎる。DMM AUTOは、その手間を無くし、かつユーザーが納得する価格で買い取るというサービスだ」と同サービスについて説明する。

即時買い取りサービスというとよく耳にする疑問に「(故意に傷を隠すなど)悪い人がいたらどうするの」というものがある。DMM AUTOについても同様だろう。その点について同社は、土地や店舗を持たないからこそ実現可能な運営コストの低さ、そして買い取り価格に含まれた“バッファ”でカバーできると考えている。また、車検証にプリントされたQRコードにはその車両についての細かなデータが含まれているので、他の製品と比べると比較的リスクが低いとも考えられるだろう。

でも、DMM AUTOに関して言えば、浮かぶ疑問はそれだけではない。出村氏が上で述べた「納得できる価格」は何を根拠にしているのか。例えばメルカリNOWの場合、同グループにはフリマアプリの「メルカリ」を通して集められた価格データがあった。だからこそ、ユーザーも買い取り価格に納得できるとも考えられる。しかし、DMMはクルマの相場データを社内に持ち合わせていない。

その点についてDMM AUTO事業責任者の西小倉里香氏は、「具体的なデータの入手の仕方は非開示だが、年間600万台とも言われる中古車売買の価格データを独自に集計し、最適価格を計算している。ただ、本当に納得できる価格を実現するために、初年度は価格データベースをつくることに注力すべきだと考えている」と話す。

異業種への参入だからこそ、信頼獲得や価格決定アルゴリズムの強化は超えるべきハードルであることは確かだが、実際にクルマを売却したことがある身からすれば、このイノベーションは非常にありがたい限りだ。

僕の場合は、クルマを売るために週末を2日とも潰すという苦い経験をした。そういった経験がある人の中には、たった3枚の写真を撮るだけなら「とりあえず査定してみよう」という人も多いはずだし、それだけでもアルゴリズムの精度向上にはつながる。また、個人的には、CASHが世に広めた即時買い取りサービスが単価の高いクルマにも通用するのかどうかにも注目したいところだ。

「クルマをライフスタイルに合わせて気軽に買い換えられる、そんな世界を目指したいと思っています」(出村氏)

写真左より、マーケティング部長の出村光世氏、事業責任者の西小倉里香氏、開発リーダーの有馬啓晃氏

サービス運営2カ月弱での大型イグジット、買取アプリ「CASH」運営のバンクをDMM.comが70億円で買収

左からバンク代表取締役兼CEOの光本勇介氏、DMM.com代表取締役社長の片桐孝憲氏

“目の前のアイテムを一瞬でキャッシュ(現金)に変えられる”とうたう買取アプリ「CASH(キャッシュ)」。そのコンセプト通り、ファッションアイテムなどをアプリで撮影するだけで即査定というシンプルで素早い現金化のフローもさることながら、サービスローンチからわずか16時間でユーザーからの申し込みが殺到し過ぎてサービスを2カ月ほど停止したこと、さらにはその16時間で3億6000万円分の「キャッシュ化」がされたことなどとにかく話題を集め続けている。そんなCASHが創業から約8カ月、サービス運営期間で言えばわずか2カ月弱で大型のイグジットを実現した。

DMM.comは11月21日、バンクの全株式を取得、子会社化したことを明らかにした。買収は10月31日に合意。買収金額は70億円。代表取締役兼CEOの光本勇介氏をはじめ、6人いるバンクのメンバーは引き続きCASHを初めとしたサービスの開発を担当する。今後は、DMMグループの持つ資本力やシステム基盤、サービス体制を連携させることで、拡大成長を目指すとしている。

「リリースしてから思ったことは、僕たちが取りたい市場には想像した以上のポテンシャルがあるということ。ただ、需要があるからこそ、競合環境も厳しくなると考えた。市場が大きくなる中で、それなりの自己資本も必要。(資金を調達して)一気にアクセルをかけなければならないこのタイミングでの戦い方を考えている中で今回の話を頂いた」

「DMMグループはいわば現代の超クールな総合商社。金融にゲームから、水族館にサッカーチームまで持っている。一方で僕たちみたいなサービス運営が2カ月、売上もこれからの会社の買収も数日で決めてしまう。こんなに“ぶっ込んでいる”会社はない。大きい市場を取りに行こうとしているときに、経済合理性をいったん置いてでも挑戦する会社がサポートしてくれるというのは、とても心強い。困っていることや強化したいことを相談すると、ほとんど何でもある。例えば物流まで持っているんだ、と」

光本氏は今回の買収についてこう語る。

一方、DMM.com代表取締役社長の片桐孝憲氏は、同年代(片桐氏は1982年生まれ、光本氏は1981年生まれ)の経営者である光本氏を自社に欲しかった、と語った上で、「(光本氏は以前ブラケット社を創業、イグジットした上で)2回目でもいいサービス、いいチームを作っていると思っていた。もともとDMMでも(CASHのようなサービスを)やるという話はあったが、結局チームまではコピーできない。とは言えバンクを買収することは不可能だと思っていたので、ちょっと出資ができないかと思っていた」と振り返る。

買収のきっかけとなったメッセージ

片桐氏は以前から競合サービスの立ち上げについてDMM.comグループ会長の亀山敬司氏と話していたが、10月になって事態が動き出したという。片桐氏の海外出張中に、以前から面識があったという亀山氏が、光本氏に直接メッセージを送り、翌日の食事に誘って買収の提案を行ったのだという。その後はトントン拍子で話が進み、約1カ月で買収完了に至った。「きっちりとCFOがデューデリジェンスもしているが、基本的に口頭ベースで合意したのは5日くらいのスピードだった」(片桐氏)

ちなみに今回の買収、光本氏にはロックアップ(買収先の企業へ残って事業の拡大をする拘束期間。通常2〜3年程度付くことが多い)が設定されていないという。「もし明日辞めても、『そっかー……』というくらい。ロックアップというのは意味がないと思っている。僕が担当した会社(DMM.comが買収したnana musicとピックアップのこと)はロックアップがない。経営者との関係性や経営者のやる気がなくなったら意味がないから。僕がバンクを経営できるわけではない。モチベーションを上げるためのソースがないと無理だと思っている。(買収は)事業を付け加えていくことというよりは、いい経営者にジョインしてもらうこと」(片桐氏)

光本氏は先週開催したイベント「TechCrunch Tokyo 2017」にも登壇してくれており、その際にも尋ねたのだけれども、現状CASHに関する細かな数字については非公開とのこと。「まだ運営して2カ月くらいのサービスなので、僕たちもまだデータをためている段階。ただ、2カ月前に再開して、改めて確信したのは、今までは二次流通や買取の市場——つまり『モノを売る』という手段の一番簡単なものがフリマアプリだと捉えられていたが、(より手軽という意味で)その下はもっとあったのだということ。この市場はフリマアプリと同様に持っていけるポテンシャルがある。それをただただ構築していきたい」(光本氏)

また、少額・即金という資金ニーズに対応するCASHに対して、FinTechをもじって「貧テック」と揶揄する声もあったが、「全く理解できない。前提として僕たちは1円でも高く買い取れるよう努力している。今の時点でも、不利に、安く買いたたいているわけではない。『この価格ならノールックで買い取らせて頂ける』と提示しているだけだ」と反論した。

バンクはDMM.com傘下で開発体制も大幅に強化する。すでにDMMグループからの出向も含めて人数を拡大中で、2018年中には100〜150人規模を目指して採用を進めるとしている。また当初はCASH以外のサービスも展開するとしていたが、「機会があれば(DMMと)一緒に新しい事業をやっていきたい。会社としてはやりたいネタがいっぱいある。まずはCASHに注力しつつ、新規の事業も出していきたい」(光本氏)と語っている。

なお11月20日にはヤフーがオークションサービス「ヤフオク!」内で、ブックオフコーポレーション、マーケットエンタープライズと連携した家電・携帯電話・ブランド品などの買い取りサービス「カウマエニーク」を公開している。こちらはブックオフ店舗持ち込みか宅配による買い取りだが、フリマに続いて買取のマーケットにも続々動きがありそうだ。

DMMが秋葉原にモノづくりの大拠点――3億円超の機材を揃え、CerevoやABBALabが入居


MAKERSムーブメント、IoT――言葉としてはよく聞くし、その動きは活性化している。多くの人たちは3Dプリンターにばかり目が行きがちだが、それだけの話ではない。ハードウェアスタートアップに必要な機材が利用できる場所が増え、そのノウハウを持ったプレーヤーも徐々に育ち、MoffRingといったプロダクトが世に出てきた。またそんなプレーヤーに出資したい投資家も現れている。

そんな中、DMM.comが日本のモノづくりスタートアップの中心地づくりに動いた。同社は11月11日に東京・秋葉原にてモノづくりの拠点となるスペース「DMM.make AKIBA」をオープンする。あわせて同スペースにはハードウェアスタートアップのCerevoやハードウェアスタートアップを対象にした投資を行うABBALabが入居。ノウハウや立ち上げ資金の提供を進める。

DMM.comでは、サイト上でデータをアップロードし、3Dプリンターでパーツやフィギュアなどの造形物を製作する「DMM.make 3D PRINT」を2013年夏にスタート。その後はIoT関連の情報を配信するオンラインメディア「DMM.make」も展開してきた。3Dプリント事業はすでに月間数千メデルを制作するまでになったが、「実際のところこれまでの事業は『入口』。これまでの我々の事業もそうだが、プラットフォームを作ることを目指している」(DMM.make AKIBA総支配人吉田賢造氏)とのことで、そのプラットフォームとしてDMM.make AKIBAを立ち上げるに至ったという。

3億円超の“本物”の機材が揃う「Studio」

DMM.make AKIBAの所在地は、秋葉原駅そばの富士ソフト秋葉原ビル10〜12階。10階は電子工作から量産向け試作品の開発・検証までが行える。「DMM.make AKIBA Studio」。11階は3Dプリンターを設置し、3Dプリンターや各種機材に関する法人向けのコンサルティングサービスを提供する「DMM.make AKIBA Hub」。12階はイベントスペースやシェアオフィスなどを展開する「DMM.make AKIBA Base」となる。なおCerevoは12階の一部に入居する(余談だが、Cerevoは今夏に株主が変わって以降、人材を大幅に拡大しており、現在自動車メーカーや電機メーカー出身のエンジニアも続々参画しているそうだ)。

Studioには合計180点以上の設備があるそうで、その金額は「機材だけでも3億円超」(吉田氏)だという。また、機材の監修をしたCerevo代表取締役の岩佐琢磨氏は、「機材は『本物』を揃えた、ということが重要。
5軸CNC(切削機)をはじめとして、小さな工場では高価で導入できないものも用意されている。また、水深30mまでに対応した耐圧潜水試験設備など、試験用設備もある。これがあれば最近出ているいわゆるハードウェアスタートアップの量産のほぼ一歩手前までができる」と語る。僕もそのリストの一部を読んだのだが、言葉の意味は分かるけど実物を見たことがない…というような試験設備も数多く並んでいた。

ハードウェアと聞くと僕らは機器そのものに目が行きがちなのだけれど、岩佐氏いわく配達までに壊れないよう梱包素材の選定だって重要だということで、そのための試験機までが用意されている。こういった試験機やハードウェア製作のための機器をスタートアップが一度に利用できる施設は国内では今までまずなかったそうで、岩佐氏は「1製品作るのに平均10カ月近くかかっていたが、うまくいけばそれが1〜1.5カ月短縮できるのではないか」と語る。

利用料金はStudioが月額1万5000円(初期費用3万円)から。オフィススペースのBaseと同時利用の場合、月額3万円(初期費用6万円)からとなる。この設備にたいしてこの料金設定でビジネスとして回るのか吉田氏に尋ねたが、「まだ投資フェーズだと考えている。施設単体でどうかというところだけでなく、ビジネスをより波及させることになる。まだまだ市場を広げて初めて価値を出す」とのことだった。

ハードウェアスタートアップ向けの支援プログラムも

また、ABBLab代表取締役の小笠原治氏は、ここでスタートアップ向けのシードアクセラレーションプログラム「ABBALab Farm Programing」を展開する。現在BoltやHighway1、HAXLR8Rなど、海外では20以上のハードウェア向けシードアクセラレーションプログラムがあるが、日本で大々的なプログラムはこれまでなかった(これについて小笠原氏は「これまでモノづくりができていなかった地域ほど、プログラムが活発だ」と教えてくれた。同時に「日本はモノづくりに強いが、個人や起業して作る人が少ない」とも)。

プログラムに参加するには、毎月開催される「トライアウト」と呼ぶプレゼンで合格する必要がある。合格すれば、業務委託や投資(基本的には評価額3000万〜5000万円で、50万〜1000万円を出資する)「スカラシップ」、自らが持つスキルでスカラシップを教育・支援して対価を得られる「フェロー」になることができる。なおプログラム参加者は毎月発表を行う場が用意され、そこで支援継続、支援追加、支援中止のジャッジを受けることになるという。プログラムはまず、並行して10社程度の参加を予定する。

プログラムでの目標を達成したプロダクトは、クラウドファンディングなどを通じて市場に出し、初期ロットの生産数を試算できるようになった時点で適量生産(大量生産の手前の段階、数を限定した生産)までを進める。もちろんABBALabや他のベンチャーキャピタル、事業会社と連携した追加投資も行うという。

岩佐氏は最後にこう語った。「大義名分にはなるが、海外は気合を入れてモノを作っている。我々はそれに負けてはいられない。日本はハードウェアの国だったのに海外にやられている状況。我々Cerevoが偉い、儲かっているとは言わないが、ハードウェアベンチャーとしては先を走っていて、ノウハウがある。ここにはDMM.comの機材があって、スタッフがいる。ここでこそ我々のノウハウが生きると思っている」