10億ドル超スタートアップ、いわゆるユニコーン企業の代表、Airbnbは11月16日にアメリカ証券取引委員会にS-1書式を提出し、株式上場を申請した。これで同社は公開企業にまた一歩近づいた。
公開された財務諸表は同社の打撃からの回復を示しているが、企業規模は縮小している。これはパンデミックが旅行業界のユニコーンにいかに深刻な打撃を与えたかを物語っている。Airbnbの企業価値を見極めるには、急速な成長カーブが中断された打撃と、そこから回復しては再び利益を上げていることの間でバランスを取る必要がある。
ここまでの経緯
宿泊施設共有のスタートアップにとって2020年は多難な時期となった。COVID-19によるパンデミックはAirbnbは第1四半期、第2四半期の業績に大きな打撃を与えたが、その後地域内旅行の増大によって回復した。
Airbnbの上場申請は、ユニコーン仲間のDoorDash、C3.aiの申請のほんの数日後に行われ、高価値スタートアップのちょっとした上場ラッシュとなっている。
Airbnbが証券取引委員会S-1書式を提出するのは先週の予定だったが大統領選挙による影響を理由に延期されていた(実のところTechCrunchのスタッフはこの説明に完全に納得していたわけではない)。
われわれは以前からAirbnbの財務状況についてはなんども記事にまとめてきた。しかし今回のS-1申請書は文字通り宝の山だった。以下、重要な数値を吟味し、財務と株主について掘り下げてみる。
判明した財務状況
まず知りたいのはパンデミックがAirbnbのビジネスにどのように影響したかだ。今年に入ってからの全期間と四半期ごとの傾向からどういうトレンドが読み取れるだろうか?
AirbnbのS-1申請書の最初のグラフはこのサービスを通じて行われた予約を示す月単位グラフだ。つまりこれがAirbnbがわれわれに積極的に公表したい数字らしい。以下トレンドを見てみよう。
当然だがAirbnbは3月に大打撃を受けた。 しかし、5月までにビジネスは成長軌道に戻りそれを維持した。
しかし6月以降は予約数の増加はごくわずかだ。数か月たった現在、予約数は減少している。さらに悪いことに、キャンセルを除外した後の正味予約数は対前年比で減少している(当初の記事で表を読み間違えている部分があったのでアップデートした)。
では伝統的な財務諸表ではどういう結果になったのか? Airbnbが報告した損益計算書は次のとおりだ。
残念ながらAirbnbは今年驚異的な成長をとげていない。われわの読み方が正しければ同社の規模は2018年とほぼ同一だ。
2020年の最初の3四半期と前年同期を比較すると、収入に対するコストの減少(収入が減ればそれに対するコストも減る)を別にすれば、費用の大幅な減少がもっとも注目される。Airbnbはセールスおよびマーケティング支出を2019年の最初の3四半期の11.8億ドルから、2020年の同時期にはわずか5億4550万ドルに減らしている。
2020年3月31日を終期とする四半期までAirbnbの成長は続いたがこの第1四半期は対前年比で実質的に横ばいだった。COVID-19の打撃がなければもっと大きく成長していたに違いない。その後、2020年6月30日を終期とする四半期では、Airbnbの売上は前年同期の12億ドルからわずか3億3480万ドルへというショッキングな売上減少が起きた。ここで実際の被害が計上された。
しかし第3四半期には大きな回復が見られる。なるほど今年の第3四半期は昨年同期より会社規模が縮小している。売上は2019年は16.5億ドルだったが、今年は3億4000万ドルにすぎなかった。しかし直前の四半期からみると売上をほぼ4倍に伸ばした。同社が今年の第4四半期にさ第3四半期なみの売上を確保できれば2018年の売上より数億ドル増える計算だ。
重要なことに、Airbnbは、長く続いた赤字四半期の後、今年の第3四半期に黒字に転換することに成功した(2019年も第三第3四半期は黒字だった)。しかし第3四半期にGAAP純利益2億1930万ドルを計上したものの、それ以前の巨大な赤字にくらべるとさほど印象的ではない。同社が2020年にブレークイーブンに達することはない。
ではAirbnbの財政状況は2020年末にはどうなっているのか? 四半期ごとの結果を確認すると以下のとおりだ。
Airbnbは調整後の利益指標も発表した。EBITDAの調整は次のとおりに行われている。
EBITDAは、純利益または純損失に以下の費目を加えたものとして計算しています
(i)法人税引当金
(ii)受取利息、支払利息、およびその他の収入(費用)
(iii)減価償却
(iv)株式に基づく報酬費用
(v)宿泊税の徴収および納付について、ホストと連帯して責任を負う可能性のある宿泊税準備引当金
(vi)リストラ費用
Costanoa Venturesの投資家、Amy Cheetham(エイミー・チーサム)氏は、リストラ費用を撤廃するという決定は眉をひそめ、「リストラ費用を含めるは少し行き過ぎでないでしょうか」と述べた。この点についてはわれわれも同感だ。 運用コストの削減など良い方向への努力は反映できる一方、その結果を得るために必要なリストラなどのコストを除外しているのはいささか都合が良すぎるとわれわれも感じた。よく「ケーキを持っていることと食べてしまうことは両立しない」というが、「ケーキを食べてしまった上にカロリーを勘定に入れない」ようなものだ。
TechCrunchは知り得た情報はなんであれ読者と共有するのが信条だ。そこでAirbnbが発表した強く調整されたEBITDAは次のとおりだ。
同社の財務はあれこれのコストを削減してもまだ健全な水準にならない。キャッシュバーンはさらに悪い。その赤字は、Airbnbが今年初めに巨額の資金を調達する必要があった理由を説明するものだ。
今回のS-1申請書を断定的に評価するのは困難だ。ここには投資家の期待に応えるグッドニュースも含まれている。しかし2020年第3四半期の収入が対前年比で減少していることと、直前の2020年第2四半期と比較すれば急速な回復を遂げたことの間の比較が企業価値の推定にあたって重要な点となるだろう。 全体としてみればAirbnbはどん底から立ち直るという離れ技をなしとげた。
しかし株式上場に向かって進み始めた以上、この回復を「グッドジョブ!」と賞賛しているだけではすまない。Airbnbは企業価値の最大化、取引の活発化を図らねばならない。投資家が進んで株式を買う気になるのはどれくらいの価格だろうか? 株式公開に当たっての株の値付範囲に強い注目が集まっている。
画像:OSHIFUMI KITAMURA / Contributor / Getty Images
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