チャットやビデオ会議の代わりにアバターを採用、孤独を感じない快適なデジタルワークプレイスを提供する「Pesto」

Pesto’の社員アバター(画像クレジット:Pesto)

私たちの仕事の世界がメタバースに移行しつつある中、以前はPragli(プラグリ)として知られていたPesto(ペスト)は、リモートワークを少しでも孤独を軽減しようと、アバターアプローチで参入している。

「Zoom疲れ」は、2019年に会社の構想を練り始め、1年後に正式発表したDoug Safreno(ダグ・サフレノ)氏と共同創業者のVivek Nair(ヴィヴェク・ネア)氏にとってリアルなものだった。彼らのアイデアは、従業員が職場でアバターをカスタマイズできるデジタルネイティブなヒューマンワークプレイスで、アバターがビデオの代わりとなり、疲労感が少なく、よりパーソナルになるというものだ、CEOのサフレノ氏はメールで説明した。

「workplace(ワークプレイス)」には、社員が作ったさまざまな部屋があり、スクリーンシェア、ビデオ、ゲーム、または空間的な機能を含むオーディオファーストのコラボレーションのための組織的なスペースとなる。

「私たちがPestoを設立したのは、テキストチャットとビデオ会議の間で行き詰まったからです」と、サフレノ氏は付け加えた。「テクストチャットは、やりとりが多く、時間がかかるのでイライラしますし、また、ビデオ会議は堅苦しく、スケジュールを組むのが大変でした。ビデオ会議は、やる気をなくさせるようで、楽しいものではないです。Pestoは、より人間らしいリモートワークの方法なのです」。

2年近く経った今、Enhatch(エンハッチ)、Sortify.tm(ソルティファイ.tm)、HiHello(ハイヘロー)、FullStory(フルストーリー)、aiPass(aiパス)、Tidal Migrations(タイダルマイグレーション)といった企業の1万以上のチームと連携し、ユーザーは1億分以上の音声とビデオを記録しており、同社の初期の仕事は成果を上げている。

米国時間2月1日、同社は、Headline(ヘッドライン)が主導し、K9 Ventures(K9ベンチャーズ)、Rucker Park Capital(ラッカーパークキャピタル)、NextView Ventures(ネクストヴューベンチャーズ)、Collaborative Fund(コラボレーティブファンド)、Correlation Ventures(コーリレーションベンチャーズ)、Garrett Lord(ギャレット・ロード)、Nikil Viswanathan(ニキル・ヴィスワナサン)、Joe Lau(ジョー・ラウ)が参加する500万ドル(約5億7300万円)のシード資金調達を発表した。

サフレノ氏は、世界は「産業革命以来、人々の働き方に最大の変化が起きています」と、語る。オフィスの稼働率が20%以下にとどまっている中、ほとんどの社員が対面式の仕事に戻る可能性は低いにもかかわらず、オフィスで働くために作られたツールを使わざるを得なくなっていると彼は考えている。これに対し、Pestoは、対面よりもデジタルで共同作業や交流を行う未来の仕事に適合するように設計されていると、彼は付け加えた。

利益率や売上高は明らかにしなかったが、1年前は創業者2人だけだったのが、今では従業員数は8人に増えたという。

今回の資金調達により、ペストは総額600万ドル(約6億8800万円)の投資を行うことになる。この資金は、製品設計やエンジニアリングチームの雇用、製品開発、特に職場のメタバース体験を深める機能の構築し、より複雑なコラボレーションニーズを持つ大企業をターゲットにした開発に使われる予定だ。

Pestoは現在、無料で利用できるが、2022年後半には有料ティアを導入する予定だ。

HeadlineのパートナーであるJett Fein(ジェット・ファイン)氏は「こだわりのあるユーザーベース」を持つ企業をよく探しており、Pestoにそれを見出した。

リモートワークがなくなるとは思えないので「より本格的でコラボレーション可能なツール」が求められているのだと、彼は付け加えた。Pestoは、多くの企業や従業員が抱えている、ビデオ会議疲れやコラボレーションスペースの不足といった問題を解決してくれると確信しているからだ。

このように、同社のメタバース機能は「自然で自由な人間同士の交流」を職場に取り戻すことができる点で、際立っていると感じており、今後このような従業員間の交流に投資する企業が増えていくことが予想される。

「Doug(ダグ)、Vivek(ヴィヴェック)、Daniel Liem(ダニエル・リエム)氏(創業者 / 製品責任者)の3人は、まさに未来の仕事のために作られたプラットフォームを作り上げました」とファイン氏はいう。「過去数年間、私たちは分散型チームで仕事をすることの利点と落とし穴を目の当たりにしてきました。自由と柔軟性を手に入れた反面、職場でよく見られる仲間意識や予定外の会話は失われてしまいました。Pestoはこうした課題に対する答えであり、遠隔地でのコラボレーションや共同作業が、直接会っているときと同じかそれ以上に効果的に感じられるような未来を創造するものです」。

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(文:Christine Hall、翻訳:Yuta Kaminishi)

ユニコーン以上の価値があるWorkplaceにスピンアウトして欲しいVCと、それを手放したくないフェイスブック

Workplace(ワークプレイス)とは、もともとFacebook(フェイスブック)が従業員同士のコミュニケーションの場として作ったアプリである。友人や家族と楽しむためのものとして定着したFacebookと実質的に同じこのツールは、現在700万人以上のユーザーに利用されており、企業の社内コミュニケーションを支援するアプリとして地位を確立している。そして今、この人気を背景にWorkplaceには別の意味での注目が集まっているようだ。

Meta(メタ)に社名を変更する前、Facebookが企業投資家から「Workplaceをスピンオフして、スタートアップとしてバックアップさせて欲しい」という提案を受けていたという事実が浮上した。関係者によれば、この取引によってWorkplaceが独立していたら、少なくとも10億ドル(約1138億ドル)の「ユニコーン」として評価されていたとのことである。

情報源によるとこの話は進まなかったようだが、それは主にFacebook(現在はMeta)がWorkplaceを「戦略的資産」と見なしたからだという。MetaがFacebookやInstagram(インスタグラム)などのプラットフォーム上の広告から得ている数十億ドル(数千億円)に近い売上を、Workplaceが上げているわけではない。しかし、Metaの多様な側面を市場に強調するためには、Workplaceが重要なのだという。規制当局にとって、Facebook / Metaはあまりにも強力すぎるソーシャルネットワークなのであるのに対し、企業組織にとってFacebookは広告を販売する以外にもまだ多くのポテンシャルを秘めている存在なのである。

情報源によると「WorkplaceはFacebook(およびMeta)を大人っぽくみせてくれる」のだという。

MetaとWorkplaceの広報担当者はこの記事へのコメントを控え、何も伝えることはないと述べている。

どの投資家が関係していたかは明らかにされていないが、ある関係者によるとその企業投資家とは、資本注入を目的とした後期の成長ラウンド投資に重点を置く、エンタープライズに特化した投資家だという。

スピンアウトしたWorkplaceに出資しようという彼らのアプローチは、2021年レイトステージの投資家やプライベートエクイティの投資家らが成熟した大規模なテック企業を買収するために活動を活発化させていた時期(今もそうだが)と重なっている。Thoma Bravo(トーマス・ブラボー)は2021年、350億ドル(約3兆9840億円)を調達してこの分野でより多くの買収機会を得ようとしていたと報じられている(そしてそのためにさまざまな投資や買収を行ってきた)。2021年のプライベートエクイティによる買収総額は約800億ドル(約9兆円)に達し、2020年に比べて140%以上増加しているとBloomberg(ブルームバーグ)は推定している。

このペースは2022年も衰えそうにない。その中には、あまり主要ではなく収益性の悪い、どちらかといえば低迷中の資産を合理化してより多くの資本を回収しようと、大手テクノロジー企業に対して事業のスピンアウトを持ちかけるPE企業もある。ちょうど今日、Francisco Partners(フランシスコ・パートナーズ)はIBM(アイビーエム)のWatson Health(ワトソン・ヘルス)事業を約10億ドル(約1138億ドル)で買収することを発表した

SaaS展開の足がかりを構築

Metaの場合、Workplaceをスピンアウトさせるためには、2つの面での展開が必要となる。

企業面では同社の解体を求める声が上がっている。2022年1月初め、米連邦取引委員会(FTC)がWhatsApp(ワッツアップ)とInstagramの売却を求める訴訟の継続を裁判所が認めた他、報道によるとVR部門が反トラスト法違反ではないかという別の調査も行われているという。一部の投資家や株主にとってこの状況はチャンスだが、Metaにとってはあらゆる資産の保持を正当化するための検討が必要になってくるだろう。

Workplaceはこの数カ月間、重要な岐路に立たされていた。

多くの人材が離職したのである。その中には、1月BREX(ブレックス)のチーフプロダクトオフィサーに就任したKarandeep Anand(カランディープ・アナンド)氏や、ロンドンのベンチャー企業Felix Capital(フェリックス・キャピタル)のパートナーに就任したJulien Codorniou(ジュリアン・コドルニウ)氏というトップ2人の幹部も含まれている。その他多くの人たちも、新たな旅路をスタートさせるため同社のビルを去っていった。

これはMetaのPRの失敗が原因なのではなく、むしろごく自然な現象なのだと私は聞いている。これまでここにいたのはWorkplaceを一から作り上げるために集められた人々だ。同社の製品が成熟し、より明確な焦点を持った今こそ、新たな人員が入社して次のステージに取り組むのに適切な時期であるのだという(私の個人的な意見だが、Workplaceの新リーダーであるUjjwal Singh[ウジワル・シン]氏は、今のWorkplaceを率いるのにふさわしい人物だと感じている)。

しかしそれとはに、Metaが常に世論からバッシングを受けていることで従業員が疲弊しているのではないかという報道もある。Workplaceもこれは人ごとではない。以前Workplaceは最大手のレストランチェーンと大きな契約を結んだと私たちは理解しているのだが、その顧客は昨秋、穏やかでないニュースの数々と「評判の問題」を理由にその発表を控えるよう求めてきたという。

「他のSaaS企業ではありえないことだ」とある人物はいう。

これはWorkplaceを親会社から切り離すための良い理由となったはずだし、スピンアウトへの一歩ともなりえただろうが、Metaはそうは感じていないようだ。

Workplaceは製品として展開された当初から、実は大きな変化を遂げている。

もともとFacebookの「仕事版」として設立されたWorkplace。Facebookの従業員がすでにFacebookを使ってプライベートなグループでコミュニケーションをとっていたのを発展させたもので、Slack(スラック)やその他の職場向けチャットアプリの台頭に対抗する形で登場した。何十億もの人々がすでにFacebookを利用しているのだから、 当然Workplaceに優位性があるだろうというのが同社の当時の考えである。異なる種類のユーザーをターゲットにした新サービスを導入し、広告収益ではなく有料化という異なるビジネスモデルを採用することで、同社にとって新たなビジネスの可能性の扉を開いたのだ。

時とともにWorkplaceの焦点が変わろうとも、この戦略が変わることはほとんどない。もともとWorkplaceは、SlackやTeamsに対抗するためにナレッジワーカーを対象とした他の職場生産性向上ツールとの統合を数多く導入していたのだが、時が経つにつれ、Workplaceは主にモバイルで雇用主とコミュニケーションをとるデスクレスワーカーに支持されるようになったのである。つまり、ナレッジワーカーとデスクレスワーカーの両方に対応するコミュニケーションアプリになることがWorkplaceのスイートスポットとなったのだ。

「Teams、Slack 、Workplaceのどれかを選んでもらうのではなく、両方持っていてもいいのではないかと気づいたのです。他の会社はナレッジワーカーのためのリアルタイムのメッセージングコミュニケーションを扱って、Workplaceはそうではないサービスをすべての人のために提供すれば良いのです」と関係者は振り返る。

そして、これが現在の Workplace の戦略の指針となっている。最近では、Microsoft Teams(マイクロソフトチームス)の機能をプラットフォームに統合して補完を行っている他、先に、同社はWhatsAppとの新たな統合を発表した。これはすでに最前線のチームに人気があるのだが、今後はWorkplaceでのコミュニケーションのため、より正式なインターフェースとなるようだ。また、MetaのVR事業とPortal(ポータル)との統合やサービス提供も予定されているという。

同社が最新のユーザー数を公表するのは2022年の後半になる予定だが、ある関係者によるとWorkplaceのユーザー数は現在1000万人近くに達しており、Walmart(ウォルマート)やAstra Zeneca(アストラゼネカ)など世界最大級の企業もその顧客リストに含まれているという。

Workplaceはこれまでに独立型製品として販売されていたこともあるが「今後独立型のアプリケーションとして販売されることはないと思います」と関係者は話している。

その代わりに、例えばビジネスメッセージングとWorkplaceを組み合わせて販売したり、Facebookのログイン機能と組み合わせて販売したりと、Metaにはさまざまな可能性が広がっている(CRMのスタートアップであるKustomer買収の背景には、このような企業への幅広い売り込みがあると思われるが、この買収はまだ完了していない)。

Workplaceを手放す準備などもっての他で、Metaはより大きなSaaSビジネスを構成する足がかりとしてWorkplaceを位置づけているようだ。果たしてMetaは独立会社のように、そのチャンスを逃さずに動けるだろうか。それができなければVCが舞台のそでで出番を待っているのである。

画像クレジット:Workplace

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

新規事業開発パートナーのコパイロツト、誰でもプロマネを実践できるSuperGoodMeetingのスタートアップ向けプランを開始

新規事業開発、DX推進などプロジェクト推進支援を行うコパイロツトは、2021年6月に提供を開始した。定例会議・ミーティングを活用して不確実性の高いプロジェクトを最短で成功まで導くクラウドサービス「SuperGoodMeetings(SGMs)」の少人数向けプランを開始した。

同社は、2005年の創業以来、100社以上の企業にプロジェクト推進支援を実施。現在は、主に新規事業開発やデジタルマーケティング、DX(デジタルトランスフォーメーション)など大型プロジェクトの推進支援を行い、そのスキルセットを普及させるためSGMsの開発、提供を行っている。

定例ミーティングを活用したプロジェクト推進支援の経験から生まれたプロジェクトマネジメントSaaS

SGMsは、熟練のプロジェクトマネージャーたちが行っているファシリテーションや会議術を、誰でも簡単に実践できるようにしたウェブサービスだ。定例会議・ミーティングと合わせて利用することで、多様なメンバーを取りまとめ、複雑性の高いプロジェクトを着実にゴールへと導いていく。同サービスには、長年にわたり、コパイロツトで数多くのプロジェクト支援を手がけてきたメンバーの知見やノウハウが盛り込まれている。このサービスでは「プロジェクトの目標は何か」「いつまでに何をすべきか」「今、この会議で何を議論すべきか」を徹底的に可視化する。

会議運営を支援するのはプロジェクトをさらに推し進めるため

コパイロツトではこれまで、数々のプロジェクト推進支援を行ってきた。その経験から新規事業開発などの不確実性の高いプロジェクトにおいては、定例会議・ミーティングをより良い場にすることが、プロジェクトの質を上げることにつながるという仮説を立てている。

「Slackなどの非同期ツールで反応があまりない人がいる場合、その人の性格というよりも、プロジェクトの理解が足りていなかったり、関係構築ができていないことがその原因になっている場合もあります。定例会議で良く交流できていれば。非同期のコミュニケーションも円滑になるのではないでしょうか」と同社共同創業者の定金基氏はいう。そのため、SGMsは定例会議をベースにしたプロジェクト管理ツールとなっている。各自がマイルストーン(中間目標)を立てて、状況を書き込めるようになっており、定例会議で「いま何を意思決定すべきか」の状況把握がしやすく、議論を促す設計になっている。

左から共同創業者の定金基氏、プロダクトCOOの高山道亘氏

ツールの開発のきっかけは、社内にあったプロジェクト推進のための知見を体系的に整理し、メソッドとして社外に広く公開したことだ。そのメソッドを実践するために、Officeなど自由度の高い既存のツールや、その他のプロジェクト管理ツールなどを試したが、プロジェクト推進のための会議運営には特化していなかったため、限界があると感じた。そこで開発されたのがSGMsだ。開発にあたり、よりプロジェクトの参加者がプロジェクト全体の状況を理解し、自律的に動けるようになる環境づくりを支援する設計を意識した。

プロダクトCOOを担う高山道亘氏は「ユーザーのみなさまからは、『資料が点在せず、議事録、タスク、アジェンダが一元管理できた』『参加者のロール(具体的に何をすればいいか)が明確になった』といった声が寄せられています。今後は、よりチームとして使いやすくなるような機能の拡充や、他サービスとのAPI連携も視野にプロダクトを育てていきます。まだまだ一部の方にしかアプローチできていないので、分野・チーム規模に関わらず、プロジェクト推進に関わるすべての方に知っていただきたいですね」とプロダクトの拡張に意欲を示している。

スタートアップなどの少人数向けプランも登場

SGMsは、アカウント数制限なし、1プロジェクトまで無料。これまで有料プランは大規模利用向けの月額8580円(税込)のものだけだったが、2021年11月にスタートアップなどの小さなチームでも導入しやすい月額880円(税込)のプランが追加されている。

また、SGMsを使用したプロジェクト推進コンサルティングパッケージも展開している。

これまで従来のクライアントに導入を推奨してきていたが、広く多くの方に使って欲しいということからプランを拡充している。多様なメンバーで、変化の激しいプロジェクトに取り組んでいる幅広いチームに、ぜひ利用してみて欲しい。

画面録画で情報共有、職場の生産性を高めるコラボプラットフォームCloudAppが約10億円調達

ビジュアルワークコミュニケーションツールのCloudApp(クラウドアップ)は、Grayhawk CapitalとNordic EyeがリードするシリーズAで930万ドル(約10億円)を調達した。このラウンドには、既存投資家のKickstart Fund、Cervin Ventures、New Ground Ventures、Bloomberg Beta、そして新たにPeninsula VenturesとForward VCが加わっている。また、CloudAppの顧客であるAtriumのCRO、Peter Kazanjy(ピーター・カザンジー)氏、Startup GrindとBevyのCEOであるDerek Andersen(ドレク・アンダーセン)氏も参加している。

CloudAppは、瞬時に共有できる動画、GIF、スクリーンショットを通じて、チームがより速く情報を共有できるようにすることを目的に2015年に設立された。このツールはHDビデオ、マークアップされた画像などをキャプチャしてワークフローに埋め込む、オールインワンの画面録画ソフトウェアだ。ユーザーが作成したファイルはすべてクラウド上に安全に保存され、CloudAppのネイティブMacアプリおよびWindowsアプリからアクセスできる他、パスワードで保護された安全なリンクを通じてウェブ上で共有することもできる。

同社の目標は、チームが電話や電子メールではなく、シンプルな共有可能な動画でメッセージを伝えられるようにすることだ。CloudAppは、ワークフローを中断することなくいつでも読むことができるビジュアルなボイスメールと自らを位置づけている。このツールはSlack、Atlassian、Trello、Zendesk、Asanaなど、数十のインテグレーションをサポートしている。サービス開始以来、CloudAppは400万人超のユーザーを獲得した。CloudAppの著名な顧客にはAdobe、Uber、Zendesk、Salesforceなどが含まれる。

CloudAppのCEOであるScott Smith(スコット・スミス)氏はTechCrunchに、今回調達した資金をツールの高速化、より深い統合、安全性向上のために使うと電子メールで述べた。同社はまた、より多くのチームが職場の生産性を高めるためにCloudAppに出会い、利用できるようにしたいと考えている。

画像クレジット:CloudApp

「これらの目標を達成するためには、当社がすでに持っているもの、つまりすばらしい人材がもう少し必要です」とスミス氏は話した。「スピードとユーザーエクスペリエンスを向上させるために、プロダクトチームとエンジニアリングチームを強化する予定です。また、マーケティングにも力を入れ、すべての職場でCloudAppがワークフローに欠かせない存在となるように努めます。営業チームの規模を拡大し、CloudAppを最も必要とするチームに直接提供できるようにします」。

将来については、従業員や顧客とのやりとりがこれまで以上に瞬時に検索・共有できるようになる世界をCloudAppは想定している、と同氏は話す。人工知能が最も関連性の高い重要なコンテンツを浮上させることができ、それがCloudAppのビジョンを可能にする、と同氏は指摘した。

「当初、我々はCloudAppを、共有する必要のあるものを非常に簡単かつ迅速に取り込むための方法だと考えていました。知識は力です。そこでチームは、ワークフローや統合を通じて、販売、サポート、製品、エンジニアリングチームなど、組織のあらゆる部分を助けるために使用できるコンテンツやクイックヘルプ動画のリポジトリを構築することができます」とスミス氏は書いている。「これからは非同期型の仕事です。そして、CloudAppは、すべてのチームメンバーがより生産的で超人的な存在になるのを支援できます」。

CloudAppのシリーズAは、2019年5月に発表された430万ドル(約5億円)のシードラウンドに続くものだ。シードラウンドはKickstart Seed Fundがリードし、既存投資家のCervin Ventures、Bloomberg Beta、当時Oracleの戦略担当副社長だったKyle York(カイル・ヨーク)氏も参加した。

画像クレジット:CloudApp

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(文:Aisha Malik、翻訳:Nariko Mizoguchi

オンラインの部屋を作って集まれるサービスcoromを運営するworkeasyが5000万円調達、スマホ版を強化

オンラインの部屋を作って集まれるアプリ「corom」(コロム)を開発・提供するworkeasyは12月15日、5000万円の資金調達を行ったことを発表した。引受先は千葉道場ファンド、Gx partners。調達した資金は、誰もが利用しやすくなり場所を選ばずコミュニティに参加できるようスマートフォン用アプリの開発にあて強化する。

coromは、オンラインの部屋を無料の作れ、会話を楽しめるというコミュニティアプリ。2021年2月にリリースされた「workle」を前身としている。workleはリテラシーの高いIT企業のリモートオフィスを市場参入ターゲットとしていたのだが、「みんなで集まって話す」「近づいてコソコソ話す」「手を振って合図する」といったリアルに近いコミュニケーションが取れるUXにこだわったことから、「お悩み相談」「占い」などビジネスシーン以外でのコミュニティ形成の手段として利用されるようになったという。

これを受け同社はcoromへとリブランディング。これまでのウェブ版に加えてスマートフォンアプリ(Android版iOS版)をリリースした。今後は、「誰でも簡単にオンラインの部屋をつくって集まれるアプリ」として、ユーザーの獲得、ユーザビリティの改善、東南アジアへの進出などを行う。

coromでは、同じ部屋に入るだけで音声通話が始まり、その場に居るように同時に複数ユーザーで会話できる(マイク必須)。また、ユーザーを示すアイコンの距離によって音量が変わるようになっており、他のユーザーに近づくだけでコソコソ話も行え、ちょっとした悩み事やプライベートなことも話しやすい。これら会話にはカメラが必要ないためお互い気軽に話しやすく、拡声器機能で部屋にいるユーザー全員に話しかけることもできる。

グーグルが発話障がい者のための音声認識・合成アプリ「Project Relate」 をテスト中

Google(グーグル)が、発話障がいがある人たちにコミュニケーション手段を提供するAndroidアプリの開発で、テスターなどの協力者を求めている。Project Relateと名づけられたプロジェクトおよびアプリは、音声の書き起こしと合成を提供し、言葉の理解をサポートする。

Project Euphonia」がこのプロジェクトの始まりで、TechCrunchは2019年に発表されたときに取り上げ、その後の研究についても触れている。その研究開発努力のリーダーはGoogleの研究科学者Dimitri Kanevsky(ディミトリ・カネフスキー)氏で、彼自身も発話能力に障害があり、その体験者としての知識をAIを用いるソリューションに持ち込んだ。現在、このプロジェクトの主要パートナーでアプリのユーザーでもあるAubrie Lee(オーブリー・リー)氏はマーケティングのチームにも所属しておりアプリの命名者でもあるが、筋ジストロフィーのため自分の言葉を人やアプリに理解してもらうのが難しい。彼女の様子は動画で見ることができる。

シンプルな事実として、AIによる音声認識は、人の発話を正しく理解できるようになるために大量の録音された発話を必要とするが、しかしそれらのデータは多くの場合、健常者の発話パターンに偏っている。訛りや変わったアクセントのある発話はAI用の教材として使われていないことが多いから、それらの理解もできない。発話障がいの人びとの喋りが含まれていることは、さらに稀だ。そこで、通常の音声認識デバイスを彼らは使えない。

第三国などで特殊なアクセントで喋られる英語の理解は最近改善されているが、しかし障害などで個人によって強烈なクルのある発話パターンを集めて分析するのはとても難しい。声は人によってみな違うが、脳卒中や重度傷害などで相当特殊なパターンになってしまった発話を機械学習のシステムに正しく理解させるのは困難だ。

関連記事:インドやフィリピンなどアクセントが異なる英語の認識が向上した音声認識モデル「Speechmatics」

Project Relateの中核にあるのは、障がい者のための改良された音声書き起こしツールだ。その「Listen」ファンクションはユーザーの発話をテキストに変換する。それをどこかにペーストして、他の人が読むことができる。「Repeat」は、入力された発話を繰り返すが、2度目はやや聞き取りやすく加工されている。「Assistant」は書き起こしをGoogleアシスタントに転送して、音楽の再生や天気予報など単純なタスクをやらせる。

その能力を実現するためにGoogleはまず、できるかぎり多くのデータを集め、ボランティアによる100万以上の発話サンプルをデータベースに収めた。それらを使って、音声認識AIの基底的インテリジェンスとでも呼ぶべきものを訓練する。機械学習システムの例にもれず、これもまたデータは多ければ多いほど良いが、個々のユースケースに対応できるためには、特異なデータが多いほど良い。

 

Google ResearchのプロダクトマネージャーであるJulie Cattiau(ジュリー・カティアウ)氏は、TechCrunch宛のメールでこんな説明をしてくれた。

ターゲットのオーディエンスが必要とするものを事前に想定することを避けたかった。そのための最良の方法は、このプロダクトを利用すると思われる人たちと一緒になって作ることです。そうした人たちの最初の集団をテストに参加させることにより、アプリケーションが多くの人の日常生活の中でどのように役に立つかを、良く理解できました。どれほど正確であるべきか、どこを改良すべきかを理解してから、広範なオーディエンス向けに拡張しました」。

同社は、日常生活の中でこのアプリを試用してくれる、第一ラウンドのテスターを募集している。最初のステップではフレーズを集めて記録し、それを発話のモデルに組み入れて多様な発話パターンに対応する。このやり方なら自分の日常生活にも役に立ちそうだ、と思った方はボランティアに応募できる。あなたも、このアプリの改良に貢献できるだろう。

画像クレジット:incomible/iStock

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ロボットに社会性を与えるMITの実験

あなたがAからBまで行くことをプログラミングされているのなら、丁寧であることはあまり必要とされない。しかしロボットが人間社会で果たす役割が増えるにともって、彼らはどうやって人間たちと正しくうまくやっていくのか、という問題が生まれてくる。

MITのCSAIL(コンピューター科学人工知能研究所)の研究員Boris Katz(ボリス・カッツ)氏が、最近の研究論文で「ロボットはもうじき私たちの世界の住人になるため、私たちと人間のようにコミュニケーションをとることができるようになる必要がある」という。「彼らは、いつ自らが手伝うのか、いつ自らが何かを防ぐために何ができるのかを理解する必要があります」。

彼のチームはその研究論文を「人間と機械が社会的に対話するとはどういうことかを理解するための、初めてで極めて真剣な試み」と呼んでいる。このような主張の正当性をめぐって議論はあるだろうが、彼らが極めて初期的な段階として解こうとしている問題は疑いもなく、人間の生活の中でロボットの役割がすごく大きくなろうとしている今日、ロボット研究者たちが今後ますます真剣に考慮すべき問題だ。

研究者たちが行ったシミュレーションテストでは、ロボット同士の「リアルで予測可能な」対話を開発した。そのシミュレーションでは、1人のロボットがもう1人の仕事ぶりをウォッチし、その目標を知ろうとし、その後両者は仕事をしながら目標達成に進んだり、それを妨げたりする。

プロジェクトのリーダーでフェローのRavi Tejwani(ラヴィ・テジュワニ)氏は次のように述べている。「私たちは、2つのエージェント間の社会的な対話のモデルを作るための数学的枠組みを公開しました。あなたがロボットで、X地点に行きたいとします。そのとき私はもう1つのロボットで、あなたがX地点へ行こうとしていることを見ます。私はあなたに協力して、あなたがX地点に速く到着できるように助けます。それは、Xを動かしてあなたに近くすることかもしれません。もう1つの、もっと良いXを見つけることかもしれません。あるいはあなたがXに到着するためにやるべき何らかのアクションを、やってあげることかもしれません。私たちの公式では「how(どうやって)」を見つけるための計画ができます。また「what(何)」は、ソーシャルな対話の数学的な意味に基づいて指定します。

そのモデルは現在、比較的単純な2Dのシミュレーションだ。チームは現在、3Dバージョンに移行しようとしており、また、ニューラルネットワークを使ったロボットのプランナーを加えて、ロボットがこれらのアクションから学ぶスピードを速めようとしている。

画像クレジット:charles taylor/Getty Images

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

非同期コミュニケーションに特化したSlack対抗アプリ「Twist」をDoistが全面改訂

Todoist(トゥードゥーイスト)とTwist(ツイスト)を販売するDoist(ドゥイスト)は、社内コミュニケーションツールのTwistを改訂した。筆者が初めてTwistを取り上げた時、それは気を散らされないSlack(スラック)のようだった。そして米国時間10月12日の改訂で、同社はそのアイデアをさらに強化した。その結果、組織内の会話のための、集中を高めチームの軌道を正しく保つ頑固なツールになった。

DoistがTwistに取り組み始めたのは新型コロナのパンデミックよりずっと前のことだが、今はTwistがこれまでになく重要に感じられる。この数年、多くの人々が初めてリモートワークを始めた。Microsoft 365のサブスクリプションがある会社はMicrosoft Teamsを使い始め、他の会社は「多くの」時間をZoom会議で過ごしている。

Doistの創業者であるAmir Salihefendic(アミール・サリへフェンディック)氏は、今あるツールではうまくいかないと思った。彼は非同期コミュニケーションを何年も前から推奨してきた。SlackやMicrosoft Teamsは、通知やチャットメッセージで頻繁に割り込んでくる。ついていくのは大変で、他のメンバーと違う時間帯で働いている場合は特にそうだ。同じチャンネルで同じ時間に2つの会話をすることもできない。

TwistのSlackに対する最大の差別化要因は今もそこにある。Twistではあらゆる会話がスレッドだ。会話を始めたい人は、#design、#ios、#support などのチャンネルをクリックして、タイトルと何か本文を書いてスレッドを開始する。新しいスレッドを投稿したあとは、他のユーザーがコメントしたり絵文字で反応することができて、人をタグ付けすることもできる。

画像クレジット:Twist

すぐにフィードバックを返したり、特定の相手に質問したり、プライベートな会話をしたい時は、ダイレクトメッセージを送ることもできる。ただし、これはテキストメッセージを送るのと同じなので、重要な仕事の会話をするためではない。

インターフェースは全面的に刷新された。見た目がすっきりして、現在、見ていることに集中しやすい。3つのカラムのレイアウトで左にチャンネル、何中にスレッドのリスト、右に今開いているスレッドを見せる代わりに、Doistは2カラムのレイアウトを採用して現在のスレッドに集中させる。

スレッドを開くと、ほぼ画面いっぱいに広がるので会話をフォローしやすくなる。他のスレッドのリストは見えないので、別スレッドのコメントに邪魔されることがない。

画像クレジット:Twist

Inboxビューはデザイン変更され、Twistを見なかったために見逃したものを見つけやすくなった。このビューから、自分がフォローしているスレッドの新しいコンテンツを見ることができる。それらのスレッドは読んだり、コメントを付けたりできる。1つのスレッドでやり取りが終わったと思ったら、完了マークをつけることができる。TwistはそのスレッドをInboxから「Done」ビューへと移動する。

本日、リリースされた他の新機能には、スレッドからスレッドへ移動するための新しいショートカットキーやよくなった検索機能がある。アプリの使用料金は年間契約を結んだ場合1人1カ月当たり5ドル(約570円)。無料で試してみることもできるが、コメントとメッセージは1カ月分しか見ることができない。

画像クレジット:Twist

画像クレジット:Jason Leung / Unsplash

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(文:Romain Dillet、翻訳:Nob Takahashi / facebook

発達障害支援VRのジョリーグッド社長が提言「職場・学校でもソーシャルスキルを学ぶ機会を」

ジョリーグッド代表取締役上路健介氏

少子高齢化に端を発する人手不足が深刻化する中、多様な人材に長く働いてもらうことが重要になってきている。発達障害や精神疾患を抱える人々も例外ではない。医療福祉系VRビジネスを開発・展開するジョリーグッドは、発達障害支援施設向けVRサービス「emou」(エモウ)を提供している。VRゴーグルを装着してバーチャルな環境でコミュニケーションを学ぶサービスだ。VR技術によって障害者支援はどう変わるのか。同社代表取締役の上路健介氏に話を聞いた。

「VRで発達障害支援」が事業化するまで

ジョリーグッドは2014年5月創業の医療VRサービス事業者だ。医師の手術を360度リアルタイムで配信・記録する医療VRサービス「オペラクラウドVR」、発達障害の方の療育をVRコンテンツで行う発達障害支援施設向けVRサービス「emou」、薬などを使わずにうつ病などの病気を治療するデジタル治療VRサービス「VRDTx」(未承認開発中)を中心にビジネスを展開している。

創業者でもある上路氏がテレビ業界出身だったことから、ジョリーグッドはメディアや制作プロダクション向けのVRコンテンツ作りのサポートから事業をスタートした。その後観光業向けのVRブームが起こり、それに関連したVR活用セミナーを開催したところ、医療機器メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソンから高い評価を受けた。それがきっかけとなり、2018年11月に同社と医療研修VRを共同開発することを発表。医療VRビジネスを開始した。

そうこうしているうちに、ジョリーグッドの医療VRサービスのことを聞きつけた発達障害支援施設の関係者などから「ジョリーグッドの技術は発達障害の人が苦手とするソーシャルスキルトレーニング(以下、SST)に活用できるはず」と声をかけられ、emouを開発するに至った。

上路氏は「当時の私は発達障害のことをよく知りませんでした。ですが、こうして声をかけていただいて、VR技術の新しい活用方法を開拓することができました」と振り返る。

発達障害とソーシャルスキルトレーニング

では、発達障害とはどんな障害なのか。

厚生労働省によると、発達障害とは「生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態」だ。自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習症(学習障害)、チック症、吃音などが発達障害に含まれる。

発達障害の人はソーシャルスキルに課題を抱えることが多い。ソーシャルスキルとは、社会の中で周りの人と協調して生きていくための能力だ。コミュニケーションを取るためのスキルとも言い換えられる。

「ソーシャルスキルとひと言でいっても、その内容は多岐にわたります。声の大きさ、話し方、会話をしている最中の相手への配慮などが含まれます」と上路氏はいう。

ソーシャルスキルが試される場面は数多くあるが、仕事でミスをした時の対応の仕方、周りの人が噂話をしているときの立ち回りなど「気まずい空気」に対処する時を想像してもらえるとわかりやすいだろう。

さらに同氏によると、ソーシャルスキルを鍛える機会がなかったために、学校や職場などでコミュニケーションに失敗し、その経験がトラウマとなって社会に出たくなくなってしまう発達障害者もいるという。そのため、ソーシャルスキルを身につけ、強化する訓練であるSSTは重要なのだ。

上路氏は「大切なのは、発達障害を抱える人たちが学校や職場などの『社会』で経験するであろうさまざまな場面を事前に予習し、人やコミュニケーションに対する恐怖を取り除くことです。SSTはいわば『社会の予習』なのです。発達障害を抱える人の状況はそれぞれ異なりますし、症状の重さも多様です。『人に向き合うのがもう無理』という方もいます。1人ひとりに合わせて『まずは外の景色を見せる』『動物を見せる』『人を見せる』というように、段階的に、何回でも安全なVR空間でコミュケーションを練習してもらうことがSSTでは重要です」と話す。

「発達障害者支援」の課題

「VRでSSTを行う」と聞くと、それだけで画期的に聞こえる。しかし、実際のところ、発達障害支援施設ではVRを必要としているのだろうか。発達障害支援施設にはどんな課題があるのだろうか。

上路氏は「支援施設ではSSTを行いたくても、SSTのマニュアルがなかったり、カリキュラムがなかったりする施設は珍しくありません。また、SSTを行う指導員の育成にも時間がかかります。VRを使用しないSSTは、指導員による寸劇や紙芝居で行われます。『Aさんがこんな行動に出ました。Bさんがこんなことを言っています。あなたはどうしますか?』という具合に、特定の状況を再現し、適切な対応を学んでいきます。この時、発達障害を抱える方は想像することが苦手なため、受講者の理解の深さは指導員の演技力や個人の能力に依存してしまいます」と問題を指摘する。

それだけではない。寸劇や紙芝居でのSSTは、現実に起きるであろうあらゆるシチュエーションを発達障害者に見せ、イメージさせることで、実際の「その場面」に備えさせるものだ。しかし「その場面」にまだ遭遇していない発達障害者にとっては、イメージすること自体が非常に難しい。

「中にはイメージ作業そのものが負担になり、SSTを嫌いになってしまう方もいるんです」と上路氏。

だが、VRを使ったSSTでは、発達障害者はVRを通して「その場面」を擬似的に体験できるため「イメージする」という作業がなくなる。さらに、没入感の強いバーチャル空間をゲーム感覚で体験することもでき、SSTを楽しむ人もいるという。

支援施設の課題はSSTだけではない。発達障害支援施設の数は年々増しており、当事者やその家族がより良い施設を選ぼうとしているのだ。施設間の差別化や競争が始まっている。

「現状、支援施設は独自のツールとノウハウでSSTを行っています。そのため、支援施設の違いや個性が見えにくかったり、指導員の質にばらつきが出ます。emouのようなVRとSSTコンテンツがセットになったものを使えば、同じクオリティのコンテンツで何人もの施設利用者にSSTを行えます。指導員の教育コストを下げることもできます。さらに、『VRを活用している』ということでプロモーションにもなります。実際、emouを導入した支援施設で、導入をきっかけにメディアに取り上げられたところもあります。支援施設のビジネスというのは、定員を満たさないと十分な利益が出せません。なので、プロモーションや差別化というのは非常に重要な問題なのです」と上路氏はいう。

コミュニケーションで問題を抱えているのは障害者だけ?

emouは、SSTコンテンツのサブスクリプションサービスだ。360度のVR空間で「挨拶」「自己紹介」「うまく断る」「自分を大事にする」「気持ちを理解し行動する」「仲間に誘う」「仲間に入る」「頼み事をする」「トラブルの解決策を考える」など、100以上のコンテンツを利用することができる。

emouには指導員向けの進行マニュアルと導入マニュアルも含まれており、SSTの実績がない施設や、SSTの経験が浅い人材でも一定の質でSSTを実施できる。

導入開始時に導入初期費(5万5000円)、VRゴーグルにかかる機材費(3台で19万8000円、こちらは導入施設が買取る)、月々5万5000円のサービス利用費がかかる。翌月からはサービス利用費の支払いだけで良い。導入施設で準備するのはコンテンツ管理 / SSTの進行管理のためのiPadのみとなる。

ここまで見てきたように、emouは発達障害者の支援のために開発されたサービスだ。しかし、emouの開発と活用が進むにつれ「SSTが必要なのは発達障害を抱える人だけではない」と上路氏は気づいた。

「うまく断るとか、自分を大事にするとか、頼み事をするとか、トラブルの解決策を考えるというのは、発達障害を持っていない人でも十分に難しいですよね。胸を張って『得意です』といえる人は多くないと思います。また、今はコロナ禍で学校に通えない子どももいます。これまでは学校がソーシャルスキルを学ぶ場として機能してきましたが、そうもいかなくなってきています。ソーシャルスキルは今や発達障害を抱える人だけではない、大人も子どもも巻き込んだ課題なのです。なので、企業の研修や、学校教育の一環として、emouが役に立つ可能性もあると思っています」と上路氏。

こうして発達障害者ではない層にも目を向ける中で、今上路氏が注目しているのがリワーク市場だ。

2020年に内閣府が発表した『令和2年版 障害者白書』によると、精神障害者数(医療機関を利用した精神疾患のある患者数)は2002年から2017年まで増加傾向が続いている。さらに、精神疾患による休職者のうち、職場に復帰できているのは半数以下だ。

上路氏は「復職者支援のために1企業にemouを1セット設置したり、emouのノウハウを生かしてVR産業医のようなサービスを展開することで、ソーシャルスキルに関わる課題を抱える人を助けることができるかもしれません。今後はリワーク市場を視野にサービスを充実させていきたいですね」と語った。