遺伝子配列解析のIlluminaがスピンオフしたがん検査のGrailを約8320億円で買収し出戻り

機械学習や遺伝学、医療機器、生物学における進歩が巨大な健康産業向けの新たなプロダクトに融合するにつれ、バイオテックは近年ベンチャー投資が盛んな分野の1つとなった。

そのいい例がGRAIL(グレイル)だ。遺伝子シーケンスの大企業Illumina(イルミナ)のスピンオフとして始まり、Google(グーグル)で長らく役員を務め、実験ラボGoogle[x]の設立に携わったJeff Huber(ジェフ・フーバー)氏が2016年に共同創業した。そのGRAILは現在、買収額80億ドル(約8320億円)でIlluminaに戻ろうとしている。9月21日に買収が発表された(米国証券取引委員会リリース)。

Crunchbaseによると、Illuminaはスピンアウト時にGRAILに1億ドル(約105億円)を投資し(MedCity News記事)、またGRAILはARCHや中国のトップVCであるHillhouse Capitalなどから20億ドル(約2100億円)を調達した。Illuminaの持ち分は現在14.5%で、実質的な買収額は70億ドル(約7330億円)近くになる。

GRAILのテクノロジーは、現在市場に出回っている競合するプロダクトよりも早くがんを検知するために現代の遺伝子シーケンスツールをデータサイエンスと組み合わせて使うためのものだ。

同社が9億ドル(約940億円)を調達した2017年にTechCrunchで報じたように(未訳記事)、「がんを検知するためのリキッドバイオプシーは目新しいものではなく、GRAILは大小のいくつかの競合相手と競争しなければならない一方で、血液サンプルを採取して血流中を漂う初期のがんDNAを検知するテクノロジーはこの業界において革命的で、これは新しいDNAシーケンス装置を使ってのみ可能」だ。

がん検査は1000億ドル(約10兆円)規模のマーケットで、急速に成長している。特に、経済発展するにつれてより多くの患者が積極的な検査を求めている中国やインドのような国でマーケットは拡大している。早期のがん発見は死亡リスクを下げるために極めて重要で、GRAILの有望性は命を救うための「理想」となる。米政府によると、米国では今年約60万人ががんで死亡すると推定され、第1位の死因となっている。

買収の一環としてGRAILは35億ドル(約3660億円)を現金で、45億ドル(約4710億円)をIlluminaの株式で受け取る。買収は12月20日までに完了する見込みで、そこからIlluminaはGRAILに毎月3500万ドル(約37億円)現金で支払う。両社は3億1500万ドル(約330億円)の合併終了契約にサインした。

買収は当局の審査をクリアすることが条件となる。

カテゴリー:バイオテック

タグ:GRAIL Illumina 買収 / 合併 / M&A

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(翻訳:Mizoguchi

「遺伝子編集技術CRISPRは新型コロナ治療に欠かせない」とダウドナ教授は語る

最新の遺伝子編集技術、CRISPRの共同開発者であるJennifer Doudna(ジェニファー・ダウドナ)教授がDisrupt 2020に登場し「(CRISPRは)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以降のパンデミックに対する戦いで最も有効なツールの1つになる」と述べた。CRISPRはコンピューターソフトウェアと同様、目的に応じて柔軟にプログラムの組み替えが可能であり、やがて無数の治療法と検査法に応用されるだろうという。

ダウドナ教授はバーチャルカンファレンスにおけるインタビューで「CRISPRはすでにいくつかの分野で確実な成果を上げている」として明るい見通しを述べた。

「このテクノロジーが独特な存在である理由の1つは極めて柔軟性が高く、遺伝子編集において多様な目的のために利用できる万能ツールだという点だ。またウイルスを構成する要素を、的確に検知をするためにも利用できる。CRISPRはワクチンを作るために必須のものとなる」という。

これらの可能性は、CRISPRの本質による。このテクノロジーは、ウイルス中の特定の遺伝子配列ないし構造を極めて精密に探し出して操作することができる。特徴的な配列を発見し、切断することによってウイルスを不活性化できるのと同時に、ごく微量の検体からウイルスを発見するために用いることができる。

「これは、バクテリアがウイルスを探知する方法を利用するテクノロジーだ。我々はこのメカニズムをパンデミックの原因となるウイルスの検知に役立てることができる」という。

ダウドナ教授によれば、CRISPRの利点は3つある。第1は特定の遺伝子配列の検知だ。現在のウイルス検査の手法は、酵素とタンパク質の反応を利用している。しかしこの手法は間接的な証拠に過ぎず、特定のウイルスの存在を直接示すものではない。そのため信頼性とスピードは著しく制限される。ウイルスが細胞に侵入していても、特定の酵素と反応するようなタンパク質を生成し始めるまで検知できない。これに対してCRISPRはそのウイルスに特有な遺伝子配列そのものを検知するため、はるかに確実な発見ができる。「ウイルスの検知を、従来よりスピーディーかつ確実に行うことができる。ウイルスの存在を示す証拠が直接的であり、ウイルスの濃度との相関度も高いからだ」という。

第2にCRISPRタンパク質を利用したシークエンシングは、検索対象とするターゲットを容易に変更できる。「我々はCRISPRシステムのプログラムを簡単に書き換えることができる。新型コロナウイルスが突然変異しても、変異しない部分を検知の対象にすることができる。我々はすでにインフルエンザと新型コロナのウイルスを同時に検知する実験を進めている。これ自身もちろん非常に重要なテクノロジーだが、同時に将来現れるかもしれない別のウイルスに対しても簡単にピボットして検出ターゲットとすることができるはずだ。

 

上は非常に長いGIF画像。CRISPR CAS-9タンパク質がウイルスのDNAを探索し、特定の場所を発見して切断する様子を示している。(画像クレジット:UC Berkeley)

「今後もウイルス性パンデミックが、完全になくなることはないだろう。今回のパンデミックはいわば警告だと思う。次の新しいウイルスによる攻撃に対処する科学的な体制を整えておくことが重要だ」。

第3のメリットは、CRISPRベースの薬剤は製造にあたって用意すべき素材が、他のテクノロジーの場合よりもはるかに容易に入手できることだ。ワクチンにせよ、治療薬にせよ、多くの人々に迅速に供給するするためにはこの点が極めて重要になる。

CRISPRの実用化にあたって壁は、理論的なものではなく実際的なものだ。現在はまだ研究室における実験段階であり、人間の現実の疾病予防や治療に用いるためには、まだ長い審査過程が残っている。一部では人間に対する治験が始まっているし、新型コロナウイルス関連で審査がファーストトラックに載せられたものも多い。しかしコストの問題を別としても、まったく新しいテクノロジーであるだけに、実際に治療に利用できるようになるまでにはまだ時間がかかる見込みだ。

「これらの点が、バイオテクノロジーの進歩にあたって最も重要な課題になる。CRISPRを経済的な価格で、できるだけ多数の人々に提供できるようにすることが必要だ。将来、CRISPRが標準的な医療となって症例の少ない遺伝的疾病の治療ができるようになることを期待している。そのためには本格的な研究開発が必須となる」。

このテクノロジーを進歩させる最も有望な方向は、CRISPR Cas-Φ(ファイ)だ。基本的な仕組みは同様だが、Cas-Φの酵素は、はるかにコンパクトだ。もともとCas-Φはバクテリアなどの単細胞生物がウイルスやプラスミドから自己を防衛するためのメカニズムだからだという。「バクテリアが、独自のCRISPRを持ち歩いているとは誰も想像していなかった。しかし(我々が発見したところによれば)それは事実だ。興味深いのは、オリジナルのCRISPRよりはるかにサイズが小さいタンパク質である点だ。巨大タンパク質はターゲット細胞に導入することが難しい。CRISPR Cas-Φを利用して、コンパクトで効率が高い遺伝子編集ツールを作成できる可能性がある」。

ダウドナ教授のチームはCRISPRだけでなくCRISPR Cas-Φの共同発見者の1つであり、応用の可能性についてさらに詳しく説明してくれた。下にDisrupt 2020におけるインタビュー全体をエンベッドしておいたのでぜひご覧いただきたい。

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タグ:Disrupt 2020 CRISPR DNA COVID-19 新型コロナウイルス

画像クレジット:Alexander Heinl/picture alliance / Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

新型コロナ治療に道を開くワシントン大ベイカー教授の研究に3.2億円のブレークスルー賞

ブレークスルー賞財団(Breakthrough Prize Foundation)は画期的科学研究に対する総額23億8000万円に上る賞金の授与を発表した。ライフサイエンス部門の受賞者、ワシントン大学のDavid Baker(デヴィッド・ベイカー)教授には3億円が贈られた。

ベイカー教授の研究はクノロジーとサイエンスの統合により分子生物学の進歩を図るもので、過去20年にわたってコンピューターを利用して複雑なタンパク質の構造を解明、合成する試みを続けてきた。最新の成果は新型ウイルスに対する治療法の発見に道をひらくものと期待されている。

ベイカー教授はワシントン大学のタンパク質デザイン研究所の責任者を務めており、過去20年にわたってコンピューター支援分子生物学分野におけるリーダーだった。ベイカー教授のラボが開発してきたタンパク質モデリングソフトウェア、Rosettaは極めて複雑なタンパク質の構造を立体的に可視化できる。世界中のボランティアが所有するコンピュータの空き時間を活用し、ここで開発されたソフトウェア、FoldITをインストールして並列分散ネットワークを作り、タンパク質がどのように折り畳まれているかの解明に貢献している。

ベイカー教授は「進化によって新しいタンパク質が現れるのには数百万年かかるかもしれない。しかしデザインして合成すれば今すぐ手に入れることができる」という。

財団は「自然界には存在しない全く新しいタンパク質をデザインするテクノロジーを開発した。これには人間の疾病の治療に役立つ可能性のある新しいタンパク質も含まれる」ことをブレークスルー賞受賞の理由として挙げている。ベイカー教授のチームは分子生物学全般における進歩に貢献してきたが、財団は最新の研究が病気の治療に役立つ可能性がある点を特に重視したようだ。具体的には新型コロナウイルスのスパイク状の突起に付着するようデザインされた新しいタンパク質はウイルスが正常細胞に侵入することを妨げる効果があると期待されている。

刀に鞘をかぶせるようにウイルスにたタンパク質の覆いをかけてしまう仕組みだ。もちろん自然界にはウイルスの鞘など存在しないため、人間がそれをデザインしなければならない。言うは易く行うは難いという典型で、アミノ酸分子がどのように折れ曲がりどのように相互作用するかについては無限に近い可能性が存在する。ベイカー教授のチームが取り組んできたのはまさにこの点を解明するためのプラットフォームだった。

A rendering of a molecule created to bind to a coronavirus spike protein.

赤い部分がミニバインダーとしてコロナウイルスに付着する新しいタンパク質(画像:David Baker / UW)

TechCrunchの取材に対してベイカー教授は「ゼロからタンパク質をデザインする汎用的な手法を開発した。これにより特定のタンパク質と相補的な立体構造と化学的特質を持つタンパク質をデザインできる。我々はこれを新型コロナウイルスに当てはめたわけだ」と述べた。

自然界には存在しないタンパク質を作り出すことはde novo合成と呼ばれる。ベイカー教授のチームが作り出したde novoタンパク質は新型コロナウイルスのスパイク状突起に強固に付着し、分離しないという。そのため「超安定性ミイバインダー」と名づけられた。

「もちろん奇跡的な効果を期待してはならないが、ウイルスが正常な細胞に侵入することを防止する治療法の第一歩になる可能性がある。そのためにはまず効果と安全性を完全にテストする必要がある。今日Scienceに発表した論文でこのタンパク質について詳細に説明しているが、新しい治療法として非常に有望だと思う。我々は臨床前実験を行い、このままで治療薬として使えるか、さらに改良が必要かどうか確かめているところだ」とベイカー教授は述べた。

ベイカー教授によれば、FoldITやRosetta@homeをインストールしている世界のボランティアのネットワークは膨大なコンピューティングパワーを提供することによって新型コロナウイルス対策においても非常に重要な役割を果たしているという。

数学や基礎物理学の分野でも今年多数のグループが受賞している。詳細はこちらのページに

ブレークスルー賞財団(The Breakthrough Prize Foundation)の創立者はYuri and Julia Milner(ユリ・ミルナー)、ジュリア・ミルナー夫妻だ。ライフサイエンス賞の共同スポンサーはSergey Brin(セルゲイ・ブリン)、Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)とPriscilla Chan(プリシラ・チャン)夫妻、 Tencentの創業者、馬化騰(ポニー・マ)、23&MeのAnne Wojcicki(アン・ウォジスキー)の各氏だ。

画像:TEK IMAGE/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

水産物の品種改良とスマート養殖のスタートアップ「リージョナルフィッシュ」が約4億円を調達

水産物の品種改良とスマート養殖のスタートアップ「リージョナルフィッシュ」が約4億円を調達

水産物の品種改良とスマート養殖を手がけるリージョナルフィッシュは8月31日、シリーズAラウンドにおける第三者割当増資として総額4億3200円の資金調達を完了したと発表した。

主要引受先は、きょうと農林漁業成長支援ファンド投資事業有限責任組合、Beyond Next Ventures(既存)、宇部興産、三菱UFJキャピタル、中信ベンチャー・投資ファンド5号投資事業有限責任組合、イノベーションC投資事業有限責任組合。

今回調達した資金は、水産物の品種改良(対象品種の拡大+新規特性の付与)とスマート養殖の研究開発を進めるとともに、地元京都での品種改良済み品種の上市を目指す。

  • 品種改良の対象品種および新規特性の拡大、効率的な品種改良技術の開発に向けた体制の充実
  • スマート養殖(養殖水浄化や自動化など)の実現に向けた研究開発
  • 京都での品種改良済み品種の量産および上市の体制構築

2019年4月設立のリージョナルフィッシュは、京都大学大学院農学研究科 木下政人助教、近畿大学水産研究所 家戸敬太郎教授らを創業者とし、京都大学・近畿大学などの技術シーズをコアとするスタートアップ。社名のリージョナルフィッシュ(地魚)は、各地域の環境にに合う魚を作り、地方創生に貢献したいとの思いからの命名という。

オープンイノベーションを通じた、短期間の品種改良とスマート養殖を組み合わせた次世代水産養殖システムを作り、「世界のタンパク質不足の解消」(SDGs 2番:飢餓をゼロに)、「日本の水産業再興および地域の産業創出」(SDGs 8番:働きがいも経済成長も)、「海洋汚染の防止」(SDGs 14番:海の豊かさを守ろう)を目指している。

従来は30年程度の時間がかかった水産物の品種改良において、アカデミアの超高速の品種改良技術を適用することにより、2年での品種改良に成功しているという。

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微⽣物ゲノム解析の早大発スタートアップbitBiomeが7億円を調達、疾患と微生物の関連について大規模研究を開始

微⽣物ゲノム解析技術の早稲田大発スタートアップbitBiomeが7億円を調達、疾患と微生物の関連性に関する大規模研究を開始

微⽣物のシングルセルゲノム解析技術「bit-MAP」を⽤い、微⽣物の産業応⽤を⽬指すbitBiomeは、シリーズBラウンドにおける第三者割当増資として総額7億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は東京⼤学エッジキャピタルパートナーズ、ユニバーサル マテリアルズ インキュベーターを含む複数企業(既存・新規)。累計資金調達額は10.5億円となった。

今回調達した資金は、さらなる飛躍に向け、自社起点の研究、最新機器の購入、米国展開など5つの重点テーマに投資し、爆発的な事業成長を促すとしている。

  • 疾患と微生物の関連性を解析する自社研究
  • さらなる研究開発力強化に向けたウェットラボ設備導入(次世代シーケンサーなど)
  • ⽶国での研究・事業活動の加速化
  • 特許の出願・維持
  • 人材採用

またbitBiomeは、先に挙げた自社研究として、がん、腸内疾患、自己免疫疾患、神経精神疾患などを含む20を超える疾患について患者の便および唾液サンプルを取得し、種々の疾患と腸内細菌・⼝腔内細菌の関連性を明らかにする大規模研究を開始する。

患者検体についてはQLifeと協⼒し、同社パネルに登録している患者から取得する。疾患ごとに、医薬品研究開発・新規バイオマーカー探索を⽬指したパートナリング・共同研究、解析データの共有および独占販売などを検討しているという。

bitBiomeは2018年11月創業の早稲田大学発スタートアップ企業。bitBiome開発のゲノム解析技術bit-MAPは、世界唯一の微生物を対象としたシングルセルゲノム解析技術で、地球上のあらゆる環境に生息する微生物のゲノム情報をひとつの細胞から高精度に解読することを可能とする。

bit-MAPによって、従来のマイクロバイオーム研究で必要とされてきた煩雑な単離・培養、あるいは複雑なシーケンスデータの計算処理の必要なく、未知の微生物ゲノム情報を高速・網羅的に獲得可能となった。

同技術を次世代のマイクロバイオーム解析サービスとして提供し、医療・農業領域を中心にあらゆる微生物関連の企業・アカデミアとの協業を通じて、同社のミッション「Unlock the Potential of Microbes」を実現し、社会へこれまでない価値を提供するとしている。

昆虫テックのムスカが個人向け園芸肥料をMakuakeにて先行販売開始、熊本県菊池市とのアグリ実証実験も開始

ムスカは8月24日、同社のテクノロジーを使って製造した有機肥料を個人向けの園芸肥料として、クラウドファンディングサイトの「Makuake」(サイトは8月24日14時オープン)で先行発売を開始することを明らかにした。

同社の特徴は、約50年間、1200世代の選別交配を重ねたイエバエの幼虫を活用した高効率なバイオマスリサイクルシステム技術を擁する点。通常は最低でも3~4週間かかる糞尿などの肥料化を1週間で処理できるうえ、肥料化にために働いたイエバエの幼虫はそのまま乾燥させてタンパク質が豊富な飼料に転換できる。

現在国内では、年間8000万トン、東京ドーム約61個ぶんにあたる畜産糞尿が出ているほか、食べ残しや売れ残りなどのフードロスは年間640万トンもある。特に問題なのは、年間8000万トンの畜産糞尿の処理過程で発生する温室効果ガス。これは地球温暖化の一因でもある。

畜産糞尿は堆肥化させることが法律で義務付けられているが、堆肥化処理の過程でメタンガスと亜酸化窒素が発生し、それぞれCO2の25倍と300倍の温室効果があるとされている。全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)の調査では国内総放出量の11%と22%におよぶとのこと。ムスカのテクノロジーを使えば、このメタンガスと亜酸化窒素の発生を大幅に抑えられるのが特徴だ。

現在同社は、同社の技術をつぎ込んだ完全閉鎖型の第1号(PoC)プラントの建設を進めているが、コロナ禍などに影響で完成がずれ込んでいるとのこと。そこで、同社の技術の一端を認知してもらうべく、クラウドファンディングによる肥料販売を開始したというわけだ。

5月にはムスカの飼料を利用して宮崎地鶏の地頭鶏を育てている宮崎県の石坂村地鶏牧場を支援するためにオンラインストア「Sustainable Food Market」も開設している。

また同社は、リバネスが主催する熊本県菊池市のアグリ技術実証事業に採択されたことも明らかにし、生産者とムスカ肥料の利用および効果について実証試験を進めていくという。具体的には、地作りおよび減農薬栽培にこだわりを持って野菜などを栽培する生産者と組み、豚糞由来のムスカ肥料を既存の堆肥などの農業資材の代替品として使用。作物の収量、成分、土壌などの変化を分析することで、ムスカ肥料の有効性を科学的な検証を進める。

小さな海の生き物を顕微鏡観察できる回転式水槽装置

我々の海に満ちている微細な生物を観察することは重要な作業だが、野生の状況下でそうした生物を観察し続けることは実際には難しい。また実験室の平たい皿の中で観察することは野生状況とは異なる。だがこの「流体力学式トレッドミル」を使えば、野生と実験室との両者を織り交ぜたベストの観察環境を提供することができる。これは水中生物が泳ぎ続けることができる終端のない水の入ったチューブで、同時に自動化された顕微鏡による観察を継続的に行える仕掛けだ。

The Gravity Machine(グラビティ・マシン)という名のその機械は、生物工学者であるManu Prakash(マヌ・プラカシュ)教授の下で、スタンフォード大学の研究者たちが生み出したものだ。教授と一部の学生たちは、マダガスカルへの調査旅行中に、生物が上下に動くのを追跡できる顕微鏡が取り付けられた、少し不格好な1mほどの長さのチューブを作った。しかし、こうした微生物は、太陽や水中の栄養素を追いかけるために、1日数百m移動することがある。

「こうした生き物を、それらの生息環境で観察することはできていませんでした。ここ200年ほどの間ずっと。私たちは限定された環境を顕微鏡で覗いて観察していただけなのです。例えば、1km以上にわたって移動するある生物を追跡したいなら、1kmのチューブを用意しなければならなかったのです」とプラカシュ教授はいう。「ひらめいたのは、その問題についてあれこれと考えていた最中でした。『アハ!』の瞬間です。長いチューブを使う代わりに、チューブの端同士を連結してしまったらどうだろう?」。

できてしまえば、この仕掛はほとんど明らかなものに思える。浅い水の中で生き物が泳ぎ回っている皿に向けて、顕微鏡を上から向けるのではなく(そうした状況は自然には存在しない)、水と観察対象の生物が入った閉じたガラスのループ状のチューブを、横から観察するのだ。生き物は自由に上下に向かって泳ぐことができ、それに伴ってループがゆっくりと回転して顕微鏡のフレーム内に対象を保ち続ける。

3D顕微鏡に接続されたコンピュータービジョンシステムが、対象となる生き物の位置を注意深く追跡して焦点を合わせ続けるが、その傍らで補助システムが移動した正確な距離やその他の数値を記録している。

チームはこのデバイスを使用して、微視的生物たちの、あらゆる種類の美しく科学的に興味深い行動を捕らえることができた。「なにかの生物をこの器具に入れるたびに、新しい発見があったと言っても過言ではありません」とプラカシュ教授は語った。

例えば、目新しいものの1つは、こうした生き物をこのような形で観察していることから明らかになったことだが、流動的な環境でミクロン単位の大きさで生活しているにもかかわらず、重力がかれらの生活の大きな要素を占めているという事実だ。「彼らはみな重力(グラビティ)を認識していますし、みな重力を気にしています」とプラカシュ教授はいう。生き物の振る舞いを科学者たちが直接観察できるようにするこのマシンが作成されるまでは、それが正確にどのようなものかと言うことはとても難しかった。それこそがこの機械の命名の理由だ。


機器が生み出した画像は、一般の人にとっても視覚的に引きつけられる興味深いものだ。普通海洋微生物学の分野では、一般市民の関心を引くことは非常に困難だ。渦鞭毛藻目に属する海生プランクトンの、日中の行動習慣について言葉で説明しようとしても、聞き手の目はどんよりしてしまうのが普通だ。だがこうした美しい生き物たちが一生懸命何かやっている様子を、それが何にせよ、クローズアップされピントの合った状態で見せられるのは単純に魅力的なのだ。

水はループ内に留まっているものの、それは完全に閉じたシステムであることを意味していない。ちなみに理想的にはそうなのだが「実験室で水をぶちまけてしまったこともあります」とプラカシュ教授は語る。

「我々は生き物が何をしているかに基づいて、さまざまな要素を追加することができます」と語るのは大学院生のDeepak Krishnamurthy(ディーパック・クリシュナムマーシー)氏だ。「我々は栄養素を投入し、光の強度を変えることもできます。それは、生物とその環境の間のフィードバックループとなります。また我々はは、圧力、温度、その他の海洋の性質の側面からも取り組んでいます」。

私は以前このようなものを見たという記憶を振り払うことができなかった、実際Gravity Machineの開発に際しても、プラカシュ教授自身が1950年代にあった似たようなアイデアに出合っていたのだ。それはHardy(ハーディ)氏という名前の海洋生物学者が、クラゲを無限に泳がせるために使っていた、はるかに大きなループ水槽である。もちろん、現在の装置は、我々はが現在持っている高度な機械学習とロボット技術があるからこそ可能になったものだが、プラカシュ教授は「歴史的な背景は、実際非常に美しいものです。我々はは実験室の中で、そこから大事な要素を引き出したのです」という。

スタンフォード大学のこのGravity Machineは、史上初のものというわけではないものの、チームはそれがこの先も受け継がれていくように、機器をどのように開発し運用するかについての詳細な文書を公開する。

「我々はそれができる限りオープンになるように注意しました、それはハードウェアとソフトウェアに対する我々はの選択にも影響を与えました」とクリシュナムマーシー氏は語る。「その目的は、この機器を研究目的のために完全にオープンソースにすることです。追跡にはオープンソースのアルゴリズムを使用し、ピントを維持するためのコントロール、データを監視および収集するためのUIは自作しました」。

「我々は、gravitymachine.orgサイトに、これを作るための一連の説明を置くつもりです」とプラカシュ教授は付け加えた。通常の顕微鏡を、少しばかり改造して、容易に手に入る部品を使うことで利用することができる。いずれにせよそれは、各研究室が自身で利用する機器を自作する手間と、あまり変わるものではない。彼は、好奇心の強いユーザー向けに、無限に続く水柱の中で、生き物が何をしているのかを観察できる「家庭版」の作製さえほのめかした。シーモンキーのライブショーをテレビの上で見るようなものだ。

Gravity Machineの正確な仕様はまもなく公開され、チームがデバイスを使用して発見した新しくてとても奇妙な事実に関する論文もまもなく発表される。それは自発的に密度を制御して水柱の中を上昇したり下降したりする珪藻についての論文だ。デバイスのさらに詳細については、そのサイトまたはスタンフォードのニュース投稿(スタンフォード大サイト)で読むことができる。

画像クレジット: Stanford University

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(翻訳:sako)

CRISPR遺伝子編集の発見者ダウドナ教授のスタートアップが新Casタンパク質の特許ライセンスを得た

遺伝子編集のスタートアップ、Mammoth BiosciencesがCRISPRテクノロジーを利用した新しいタンパク質に関する独占的ライセンスをカリフォルニア大学バークレー校から得た。

このライセンスは研究開発から商用化まで極めて幅広い分野をカバーしておりMammothにとって知的所有権のポートフォリオの極めて大きな拡大となる。ライセンスを取得したCasɸタンパク質はCas9と似た働きでサイズはほぼ半分にすぎない。Cas9はDNAのCRISPR座位付近にあり、CRISPRと共同して遺伝子切断タンパク質として機能する。CAS9の発見はバークレー校のCRISPR研究の本格化の出発点となった業績だった。

CRISPRではサイズは非常に大きな要素となる。サイズが小さいほど合成も容易で標的遺伝子への付着位置も正確になる。Casɸファミリーのタンパク質が優れていると考えられるのはそういう理由だ。遺伝子編集における切断位置の正確性、生体細胞への伝達効率、またmultiplex処理と組合わせて複数の標的配列を同時に切断する性能の向上などが期待されている。

7月にScienceに査読を経て掲載された論文がCasɸの発見とCRISPR遺伝子編集において期待される優秀性を述べている。 Casɸはバクテリオファージ中に発見されたタンパク質だが、バクテリオファージは細菌に感染して自らの複製を大量に作り出すある種のウィルスだ。「バクテリオファージ」というのはラテン語由来で「バクテリアを食べるもの」という意味だ。

CRISPRを利用した遺伝子編集テクノロジーにおいて正確性の向上は現在もっとも熱心に追求されている分野だ。Cas9をベースにした遺伝子編集では「失中」つまり意図しない遺伝子編集が起こる可能性があり、これを減少させるために様々なアイディアが提出され研究が続けられている

Mammoth Biosciencesの共同ファウンダーの一人はバークレー校のジェニファー・ダウドナ(Jennifer Doudna)教授だ。ダウドナ教授はCRISPRの共同発見者だ。MammothのIPポートフォリオにCasɸが追加されたことは将来の商用化を踏まえて同社のビジネスに非常に大きな意味を持つはずだ。

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滑川海彦@Facebook

透析患者の予後を改善する新技術を擁するVenoStent

Timothy Bouré(ティモシー・ブーレ)氏と共同創業者のGeoffrey Lucks(ジェフリー・ラックス)氏はいずれも、最初にアクセラレーターに参加するためダラスに引っ越したとき、破産寸前だった。ダラスに来る前に、彼らは透析患者の予後改善を目指すVenoStent(ビノステント)を創業した。

同社によれば、透析(準備)手術の失敗は末期腎疾患患者の約55〜65%に起こっている。こうした患者のケアに関してMedicare(メディケア)とMedicaid(メディケイド)制度にかかるコストは年間約20億ドル(約2100億円)に上る可能性がある。2人は自分たちなら解決策を考え出せると信じていた。

ヴァンダービルト大学でVenoStentのビジネスの中核をなす技術を何年も開発した後、2人はナッシュビルからサウステキサスに引っ越してビジネスを成功させた。

ブーレ氏は2012年に博士論文の一部としてVenoStentの中核技術に取り組み始めた。ビジネススクールの大学院生だったラックス氏は材料科学者に紹介され、VenoStentが医学界に巨大なインパクトを与える間際まで来ていると確信した。5年後、2人はダラスにいて、Houston Medicine(ヒューストンメディシン)で血管外科の責任者に会い、会社を始めた。

2018年の小規模なシードラウンドにより会社は存続し、同年末近くに成功した動物試験により前進に必要な勢いを得た。最近、Y Combinatorコホートを卒業し、ついに同社は黄金期を迎える準備を整えた。

その間、一連の助成金やKidney XPrizeの受賞が事業継続を支えてきた。

成功は苦難の末に勝ち取ったものだ。ブーレ氏はヒューストンのJ-Labs(ジェイラボ)でほぼ3日間徹夜し、ポリマーの合成とスリーブステントの印刷に取り組んだ。J-LabsはJohnson and Johnson(ジョンソンエンドジョンソン)傘下の医療技術およびイノベーションアクセラレーターの会社だ。J-Labsは末期腎疾患患者が受ける、危険で失敗しがちな手術に代わるものを作ろうとしていた。

ブーレ氏の重要な発見は、透析(準備)手術からの回復に必要な細胞の成長を促す新しいタイプのポリマーに関連している。

ブーレ氏は2012年、自身の仕事のベースとなるポリマーに出会った。その後、2014年にNational Science Foundation(米国立科学財団)のコアプログラムを実施し、血管を覆うことについて考え始めた。 血管外科医との一連の議論を通じて、同氏は問題が末期腎疾患患者にとって特に深刻であると認識した。

VenoStentはすでに給付金、少額の資本注入、保健福祉省および米国腎臓学会からのKidneyX Prizeの受賞(VenoStentは6社の受賞者の1社)により240万ドル(約2億5000万円)を調達している。

「この賞は透析をめぐる状況を改善しようとする政府の継続的な取り組みの一部だ」とブーレ氏は述べた。「透析患者は世界で最もコストがかかるグループの1つ。基本的に、政府は患者の生活改善のための技術の探索に対して非常に積極的だ」。

現在、同社は動物実験の次の段階に向けて進んでおり、2021年には米国外で最初の治験を実施する予定だ。

同社はまず腎不全に取り組んでいるが、ブーレ氏が開発した素材は他の状況にも応用できる。「大腸の材料になる可能性もある」とブーレは言う。「どんな特性にも合わせることができる。また、特定の応用に合わせて修正することもできる」

画像クレジット:VenoStent under a license.

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi

Mammoth BiosciencesのCRISPRベースのCOVID-19テストがNIHのRADxプログラムを通して資金獲得

米国時間7月31日、CRISPR(クリスパー)技術スタートアップのMammoth Biosciences (マンモス・バイオサイエンス)が、米国立衛生研究所(NIH)のRapid Acceleration of Diagnostics(RADx)プログラムから資金を獲得したことをに明らかにした。Mammothは、自社が開発するCRISPRベースのSARS-CoV-2(新型コロナウィルス)診断テストを拡大し、米国全体の検査不足問題に対応するために、この契約を締結した。

MammothのCRISPRベースのアプローチは、PCR技術に基づく既存の方法と比較した場合、検査の手法が非常に異なるために、現在の検査のボトルネックを解消するための重要なソリューションとなる可能性がある。またスタートアップは製薬大手のグラクソ・スミスクライン(GSK)の協力を得て、新しいCOVID-19検査ソリューションの開発および生産を行っている。これはわずか20分で医療現場で結果を判定することができる、携帯性に優れた使い捨て式の検査手段である。

同社の検査はまだ開発中だが、今回受け取ったRADxの資金は、民間検査室で利用できるように、同社のDETECTRプラットフォームの製造を拡大するために使われる。これは、GSKと一緒に開発しようとしている「その場検査」ではなく、検査室で行うソリューションだが、それでも「検査能力を何倍にもできる」ものである。

すでに、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)は、FDAからSARS-CoV-2の検査のためにDETECTR試薬セットを使う緊急使用許可(EUA)を受けているが、スタートアップは同様の検査能力を米国内の他のラボにも拡張できることを望んでいる。

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(翻訳:sako)

3万人が参加する最大規模の新型コロナワクチン治験をモデルナが米国で開始

新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチン候補の最大規模の治験が米国7月27日に始まった。製薬会社Moderna(モデルナ)が3万人の参加が想定されているボランティアの一部にワクチンの接種を開始している。治験は盲検テストで、参加者にはワクチンかプラセボ(偽薬)が接種される。各参加者への接種は2回行い、通常の生活の中でどちらのグループが新型コロナ感染の影響をより受けるか研究する。

治験は全米70カ所以上で行う。最初の治験場所はジョージア州サバンナだ。参加者の構成は、新型コロナの影響が深刻な地域やさほど影響が深刻ではないエリアを含めたさまざまな地域の在住者であるばかりでなく、人口統計的にも幅広いサンプルになるようになっている。

Modernaの治験は米国立衛生研究所(NIH)との提携のもとに行われ、これまでで最も早く進められているワクチン開発となる。同社のワクチン開発が始まってからまだ2カ月しか経っておらず、初の治験は実施済みだ。第1段階のテスト(小規模での治験)の初期データでは、実際に感染からの保護を示す有望な結果が示された。ただ、効果について最終的な結論を下す前に今回のような大規模治験は必須だ。

ワクチンが本当に効果があることを確認するのに加え、大規模治験では接種が安全であることを証明する意図もある。初期の治験結果では一部で副作用がみられた。しかし繰り返しになるが、それなりの規模で試すまでは副作用について最終結論を出すことはできない。

他のワクチン候補の治験も迅速に進んでいる。ここには、オクスフォード大学が開発したものも含まれる。Modernaは以前、すべてが順調に進んだ場合、2020年秋にも医療従事者向けに実験バージョンのワクチンを提供できるかもしれない、と話していた。

画像クレジット:David L. Ryan/The Boston Globe / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

動物素材を使わない植物性コラーゲンとゼラチン生産のGeltorに巨額投資が集まる

同社に近い筋によると、皮革などの動物素材を使わずにコラーゲンを生産するGeltorが、新たに9000万ドル(約95億5000万円)の資金を調達した。

それは持続可能性と、動物製品に代わる細胞培養ベースの植物性置換製品の大きな将来性を示すまた新たな兆候だ。

持続可能なバイオ製品は、それが植物ベースや遺伝子組み換え、あるいは細胞培養方式であっても、2020年は良い年になった。2020年7月だけでも、動物農業(畜産と酪農)やその副産物に代わる持続可能な製品を開発している企業3社が、合計3億3500万ドル(約355億5000万円)の資金調達ラウンドを完了した。その3社とはこのGeltor、The Not Company(未訳記事)そしてPerfect Dayだ。

GeltorのCEOであるAlexander Lorestani(アレクサンドル・ロレスターニ)氏は新たなラウンドについてコメントを拒否し、複数の情報筋はリード投資家を明かさなかった。

Crunchbaseによると、同社はこれまでSOS VenturesやIndieBio、Fifty Years、Cultivian Sandbox Ventures、Starlight Ventures、New Crop Capital、Baruch Future VenturesおよびFTW Venturesなどから資金を調達していた。

2020年11月にTechCrunchは、同社の5000万ドルあまりの資金調達を報じたが、今度のラウンドでは調達額がおよそ1億ドル(約106億円)に達したようだ。

関連記事:非動物由来コラーゲン製造のGeltor、食品添加物の大型契約締結後に約54億円調達へ

同社とその技術に詳しい筋によると「Geltorの生産方法は持続可能性が大きく、動物虐待の必要性を排除しているが、しかし化粧品や食品の業界が同社の製品に殺到するのは、同社製品が動物由来のゼラチンやコラーゲンでは得られない機能性を実現するからだ」という。

市場調査企業のGrand View Researchによると、コラーゲンの世界市場の規模は2027年に75億ドル(約7960億円)に達する(Grand View Researchレポート)。またGrand Viewの別のレポートは、同じ時期のゼラチンの市場規模を67億ドル(約7110億円)と見積もっている(Grand View Researchレポート)。

Geltorの狙いは、これらの添加物と、その他の動物由来だったプロテインを安価かつ効率的に、そして動物を使わずに作ることだ。

化粧品やスキンケア製品、そして食品産業の製品の多くが動物の副産物を使用している。ラノリンは羊毛の脂肪から作られ、スクアランはサメの肝油が原料、そしてゼラチンは牛や豚の骨や腱、靭帯などから作られる。Geltorはこれらすべてを、ビールのような発酵素材の中で醸造した細胞由来のプロテインに置き換える。

創業者のアレクサンドル・ロレスターニ氏とCTOのNick Ouzounov(ニック・ウゾノフ)氏は、プリンストン大学の院生だったときに出会い、2015年に2人の会社を立ち上げた。

ロレスターニ氏が2019年のForbes誌に語っているところによると、ウゾノフ氏はいつも彼のところに、その会社のための新しいアイデアを持ち込んだ。卒業した2人はシリコンバレーへ移り、アクセラレーターのIndieBioが彼らを受け入れた。

Geltorは最初、ゼラチンの製造に挑戦した。それはマシュマロやゼリー菓子など、至るところで使われている食品添加物だが、同社はすぐに美容製品やダイエット用サプリに使われるコラーゲンにも手を広げた。そのときすでにGeltorは、コラーゲンの世界最大のメーカーであるGelitaと協力していた。

Geltorや植物性乳製品のPerfect Dayなどに投資が集まり始めていることは、産業生物学に日が当たってきたことを意味している。細胞の機能のリエンジニアリングやプロテインの開発が数十億ドル(数千億円)の企業価値を新たに作り出していることは、その一例にすぎない。

新しいバイオ製品に注目している投資家にとって、未来は非常に明るい。

画像クレジット:Getty Images

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

オクスフォードと武漢の新型コロナワクチン候補の試験結果は良好、人体にも安全

新型コロナウイルス(COVID-19)の流行拡大を防ぐために世界各国で努力が続けられているが、有望な結果が2つ現れている。1つはオクスフォード大学、他は国家重点研究開発計画の資金援助による武漢における研究だ。公表された情報によれば、初期段階の結果ではあるが双方のワクチン候補ともに新型コロナウイルス感染症を引き起こす原因となるウイルスに対する抗体値を高める結果を示している。これらのワクチン候補は人体に投与しても安全だったという。

オクスフォード大学の研究(The Lancet記事)は世界のワクチン開発の中でも最も重要であり、開発が進んでいるものの1つだ。研究対象の1077人は全員が過去にSARS-CoV-2との感染が確認されていない18歳から55歳までの健康な成人だった。この点は非常に重要だ。被験者は実験者側もどの薬剤が投与されているか知ることができないようにランダム化された二重盲検法とよばれる方法で試験を受けているためだ。プラセボ(偽薬)としては既存の髄膜炎ワクチンが用いられた。その結果、ワクチンの追加接種を受けたグループを含めて参加者の100%がウィルスを抑制する中和抗体反応を示した。

参加者の一部は「痛み、発熱、悪寒、筋肉痛、頭痛、倦怠感などの軽い副作用」を示した。いずれも深刻なものではなく、処方箋なしに薬局で購入できるアセトアミノフェンのような鎮痛剤によって緩和される程度のものだった。参加者の状態ははワクチン投与後28日間モニターされた。

この結果により、オックスフォードの研究者は参加者を拡大したフェーズ3の治験に進む 。これはワクチンの認可とこれにともなう大量生産、医療現場へ流通に進む前の重要なステップだ。従来のワクチン実用化は極めて時間のかかるプロセスだったが、今回のオクスフォード大学の開発は驚くほど迅速だった。

一方、中国における研究(The Lancet記事)では18歳以上の603名を対象とし、508名に絞り込んでワクチンないしプラセボを接種した 。報告によれば参加者は副作用を示さなかった。こちらのプログラムもフェーズ3の治験に進む可能性が高い。

2020年7月初め、米国の製薬企業であるModerna(モデルナ)はフェーズ1治験の結果を発表し、実用化を目指して進むと発表している。しかしこのテストは参加者が18歳から55歳までの45人と小規模であり、また今後の大規模な治験でモニターする必要がある重大な副作用の可能性も示されていた。規模が大きく深刻な副作用が報告されていない点でオックスフォードと中国のワクチン研究は非常に有望なようだ。

もちろんこれらは初期段階の治験であり、多くの推測をするには早すぎる。例えば、新型コロナに感染して回復した患者から採取した血清が抗体値のアップにどれほど役立つのかなどまだ研究は充分に進んでいない(NPR記事)。新型コロナウイルスに対する有効なワクチンの実用化まで、関連する人間の免疫システムの研究が今後も続けられる必要があるだろう。

画像クレジット:Pedro Vilela / Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

細胞培養スタートアップのインテグリカルチャーがエビ細胞培養肉の研究開発を開始、シンガポール企業とタッグ

培養肉 細胞培養 細胞農業 インテグリカルチャー Shiok Meats

細胞培養スタートアップのインテグリカルチャーは7月20日、シンガポールのShiok Meats Pte. Ltd.(Shiok Meats)とともにエビ細胞培養肉の共同研究を開始すると発表した。

インテグリカルチャーの食品グレード培養液と汎用大規模細胞培養技術「CulNet System」は、これまでに牛と家禽の細胞における有効性を確認済み。同共同研究では、これらを新たに甲殻類の細胞にも拡張し、長期的にはエビの細胞培養肉を安価で大規模に製造することを目指す。

細胞培養肉の原料である培養液は、タンパク質・糖質・脂肪・ビタミン・ミネラル・血清成分からなり、特に血清成分の低価格化が培養肉の実用化において鍵となるという。同研究ではCulNet Systemの技術をベースに、血清成分を添加せずにエビの細胞を大量培養する技術を開発。Shiok Meatsは、この培養技術を活用し製造される培養エビ肉を2022年頃商品化することを目指す。

また同研究は、2020年5月開始のCulNet Systemにおいて、個別企業の細胞培養商用化をサポートする「CulNetパイプライン」ソリューションにおいて運用する。

インテグリカルチャーは、細胞農業(細胞培養)が普及する世界の実現に向けて、その低価格化・大規模化の技術開発を行うスタートアップ企業。

従来の細胞培養方法で純肉を生産するには、100gで数百万円のコストがかかっていたという。そこで同社では、食品材料を用いた培養液とCulNet Systemとともに、細胞培養のコストを大幅に下げる技術を開発した。

CulNet Systemは、汎用性の高い細胞培養プラットフォーム技術で、動物体内の細胞間相互作用を模した環境を擬似的に構築する装置となっているという。同技術は、理論的にはあらゆる動物細胞を大規模・安価に培養可能で、培養肉をはじめコスメから食材まで様々な用途での活用を想定している。

すでにラボスケールでは、管理された制御装置下で種々の細胞を自動培養し、高コストの一因であった血清成分の作出を実現している(国内外で特許取得済み)。血清成分の内製化実現により、従来の細胞培養が高コストとなる主因の牛胎児血清や成長因子を使わずに済み、細胞培養の大幅なコストダウンを実現した。

CulNetパイプラインは、CulNet Systemを用いて、個々の企業が希望する動物種の細胞を使い、細胞農業商用化をサポートするソリューション。

Shiok Meatsは、幹細胞の研究者Dr. Sandhya Sriram(CEO。写真右)とDr. Ka Yi Ling(CTO。写真左)が共同設立した、シンガポールおよび東南アジアで初の細胞農業企業。同社は、動物ではなく細胞から食肉を製造することで、クリーンで上質で健康的な魚介類や食肉を提供することをミッションとしており、エビ・カニ・ロブスターなど甲殻類の細胞培養肉に取り組んでいる。

培養肉 細胞培養 細胞農業 インテグリカルチャー Shiok Meats

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DNA分析のGEDmatchが、警察のデータ利用に関するユーザー承諾を巡る問題を調査中

DNA分析サイトで、かつて警察がGolden State Killer(ゴールデンステート・キラー)(未訳記事)を捕まえるのに使用したことで知られるGEDmatch(ジェドマッチ)は、米国時間7月19、一時的にオフラインになった。ユーザーのDNAプロファイルデータを警察がどのように利用しているかを親会社が調査するためだった。

このサイトは、ユーサーが自分のDNAプロファイルをアップロードして、家系図や先祖を探すサービスで、2018年に警察が、連続殺人容疑者(未訳記事)のDNAを、同サイトのデータベースにある100万人以上のDNAプロフィールと会社に無断で照合したことで一夜にしてその名を知られるところとなった。

GEDmatchはユーザーにプライバシー警告を発行し、自身のDNAを警察の検索に含めるかどうかを選択できる管理機能を追加した。

しかし19日、この設定が承諾なく変更され、自分のDNAデータが警察の検索対象になったという複数のユーザーから報告が寄せられた。

ユーザーらはこれを「プライバシーの侵害」であると言った。しかし会社のオーナーに尋ねたところ、この問題がなんらかのエラーかセキュリティー侵害によるものかどうかは答えず、調査中であるとだけ話したを。

「当社はGEDmatchでユーザーの承認が正しく設定されなかった問題を認識している」と、2019年にGEDmatchを買収したVerogen(ベロジェン)のCEOであるBrett Williams氏が答えた。「われわれはこの問題を解決した。ただし、予防措置として、エラーの原因を調査している間サイトを閉鎖した。原因が分かり次第正式な声明を発表する予定だ」

DNAプロファイリングと分析の会社は、新たな先祖を発見することで自分の文化的人種的背景を理解しようとする人々によって急速に人気が高まっている。しかし警察は、現場に残されたDNAから犯人を見つけるために、遺伝子データベースを利用しようと圧力をかけ始めている。

Williams氏は、これまでにVerogenやGedmatchが警察からユーザーデータを要求されたことがあるか、対応したことがあるかについて質問を受けたが、何も語らなかった。

Gedmatchは、警察がどのくらいの頻度で同社のデータ利用を要求しているか公表していない。ライバルの23andMeとAncestry.comは、これについていわゆる透明性レポートを発行している。今年2月Ancestry.comは、ある州外の捜査令状を拒否した(未訳記事)ことを発表し、警察がDNAプロファイリング・分析サイトの情報を今も使っていることを示した。

「問題を認識することは第一歩だが、『解決』の意味が単にエラーを修正することだというのなら、まだまだ多くの疑問が残っている」とカリフォルニア大学デービス法科校のElizabeth Joh教授がTechCrunchに語った.

「たとえば、GEDmatchは誤ってタグ付けされたユーザーのデータを警察機関が利用したかどうかを知っているのか? 侵害の詳細を今後発表するつもりなのか? そしてもちろん、これはGEDmatchだけの問題ではない。遺伝子系図データベースにおけるプライバシー侵害は、市民の自由に関わる新たな分野の最も繊細な情報を守るための規制が痛ましいほど不適切であることを強調している」と彼女は言った。「これはひどい」。

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連続殺人犯逮捕へと導いたDNA分析サイトは、ユーザープライバシーに関する懸念を再燃させる

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

3MとMITが新型コロナを数分で診断できる安価な検査を共同開発

産業界とアカデミズム科学の強力な提携が重要なタスクに注力している。そのタスクとは、低コストでその場で結果がわかる新型コロナウイルス(COVID-19)検査の開発だ。化学産業のリーダーである3M(スリーエム)は、扱いが簡単で、大量販売・使用向けに安くで大量生産できる新型コロナの診断ツールを開発するためにマサチューセッツ工科大学(MIT)と提携した。

検査は研究段階にあり、化学エンジニアリングを専門とするMITのHadley Sikes(ハドリー・サイクス)教授がチームを率いる。サイクス氏のラボはタンパク質テストの成績を高める技術の開発にフォーカスしていて、これはつまり迅速で正確な結果を提供することを意味する。

3Mは大量生産向けのプロダクト製造における経験とともに、正体材料と正体処理工学の専門性で貢献する。最終目標はウイルス抗原を検知するテストを作ることだ。新型コロナでの使用が5月初めにFDA(米食品医薬品局)によって初めて承認されたテストだ。このテストではPCRベースの分子テストよりも早く結果がわかる。しかし偽陰性を示す可能性も分子テストより高い。それでも、現場ですぐに実施して数分で結果が判明するという性能は検査能力を拡大するのにかなり貢献する。特に、症状を有していないものの、もしかすると無症状なだけでウイルスを他人にうつすかもしれないというケースで有用だ。

3MとMITの新たなプロジェクトは、米国立衛生研究所が米国の検査体制を拡大できる開発に資金を提供するRADxテックプログラムの一環だ。最初の資金50万ドル(約5400万円)が3MとMITのプログラムに提供され、開発の成果が出ればさらに資金提供を受けられる可能性がある。

画像クレジット:3M

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(翻訳:Mizoguchi

医薬品の研究開発を支援する鳥取大発スタートアップが伊藤忠商事と資本業務提携

染色体工学 chromocenter クロモセンター CHO細胞 染色体解析

最先端の染色体工学技術をバイオ関連企業に提供する鳥取大学発スタートアップ企業「chromocenter」(クロモセンター)は7月13日、伊藤忠商事からの出資受け入れと業務提携を発表した。

今回の資本・業務提携により、同社の染色体工学の技術ノウハウと伊藤忠の国内外ネットワークを融合。国内外のバイオ関連企業の創薬研究活動に貢献するため、オリジナルCHO細胞(Chinese Hamster ovary:チャイニーズハムスター卵巣)による物質生産事業の加速化と多様化、染色体解析事業の業容拡大を目指す。

また昨今、バイオ医薬品はがん向けなどで医薬品売上ランキングの上位を占める一方、製造方法が複雑で高価な点が課題となっているという。chromocenterでは主力の染色体解析サービスを通じた製造の品質管理向上に加えて、同社のオリジナルCHO細胞の提供を通じて製造コストの低減につなげ、より一層のバイオ医薬品普及に貢献できると見込んでいる。

chromocenterは、「最先端のセル・プロダクション技術によって健康と医療の発展に貢献します」をミッションに掲げ、人工染色体ベクター技術、染色体解析(信頼性保証体制)サービス、オリジナルCHO細胞による物質生産技術をバイオ関連企業に提供するバイオテクノロジー関連スタートアップ。

同社は、2018年にオリジナルCHO細胞の新規樹立に成功。CHO細胞はバイオ医薬品作成に向け利用される宿主細胞にあたる。

同社のオリジナルCHO細胞は、従来大腸菌や酵母では生産が困難だったタンパク質を高収量・低コストで生産する特徴を備えているという。医薬品原料のみならず機能性食品や化粧品、化成品など幅広い分野におけるタンパク質原料の製造も可能になっている。

また同社では、アカデミア、製薬企業などから委託を受け細胞品質評価を実施。再生医療分野など細胞の医薬技術進歩に重要な技術と位置付けられており、国内外を問わず多数の依頼を引き受けているという。また、医薬品の当局申請に対応した、日本で唯一の受託試験企業として信頼性保証試験を提供している。

リモートからも脳のイメージング装置を利用できる技術で神経科学の深化を目指すKernelが約53億円調達

ロサンゼルスに拠点を置くバイオサイエンスのスタートアップであるKernelがGeneral Catalyst、Khosla Ventures、Eldridge、Manta Ray Ventures、Tiny Blue Dotらの投資家たちから5300万ドル(約56億7000万円)を調達した。これはKernelにとって初めての外部資金となるが、それでもシリーズCなのは創業者でCEOのBryan Johnson(ブライアン・ジョンソン)氏がこれまで5400万ドル(約57億7000万円)の資金をKernelに投資してきたためだ。ジョンソン氏は最新のラウンドに外部投資家たちとともに参加した。

今回の資金調達は、同社の脳の活動を記録する生体に負担を与えない非侵襲的な技術への「オンデマンド」アクセスをさらに規模拡大するために使われる。同社の技術は主に2つのアプローチあり、Kernelはそれらを別のプロダクトとして区別している。Fluxは脳内の中性子の集団的活動によって生じる地場を検出するもので、Flowは脳内の血液を測定するものだ。これらはいずれも研究者や医療従事者が脳の働きをモニターするときの重要な信号だが、これまでは侵襲的で高価なハードウェアを使用せねばならず、脳の手術が必要になることもあった。

Kernelの目標はその技術を広く普及することであり、「サービスとしての神経科学(Neuroscience as a Service、NaaS)」を提供している。それにより有料クライアントがリモートからでも脳のイメージングデバイスにアクセスできるようになる。2020年初めにKernelは、このプラットフォームを一般的な顧客にも提供することを発表している。

SFのように思えるが、この技術は実際に、これまで密室のような環境で行われていた極めて高価で、専門的だが被検者にとって危険でもあった技術を、オンデマンドで誰にでも利用できるようにする試みだ。これは、多くのヒトゲノム企業がビジネスや研究コミュニティのために、ヒトのゲノム配列決定の速度と利用可能性の進歩を利用して、同じようなことをしようとしているのと似ている。

ジョンソン氏の長期目標は、神経科学の分野での理解をより深めることだ。

「意識的なものと潜在意識的なものを問わず思考と感情を定量化できれば、理解や健康、人間の向上につながる新しい時代が訪れる」とジョンソン氏はプレスリリースで述べている。

確かに脳内部の働きは、多くの研究者にとって今だにその大部分がわかっておらず、特にそれらの働きが私たちの認識や感覚に行動にどのように反映されているかという点では謎が多い。Kernelのプラットフォームのようなものがあれば、もっと多くの人が脳の働きの背後にある科学を研究することが可能になり、神経科学のまだ解明されていない領域の説明を提供できるようになるだろう。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

イーロン・マスクが脳コンピュータインターフェイス企業Neuralinkの最新情報を8月28日に発表

イーロン・マスク氏は今週、Twitterで自身が2016年に創業した脳コンピューターインターフェイス企業であるNeuralink(ニューラリンク)の最新状況に関する報告を8月28日に行うと発表した。Neuralinkのインターフェイスは、人間が高度な人工知能に歩調を合わせるのを助けるという明確な目的に向けて開発されている。最後にNeuralinkからの情報が発表されたのはおよそ1年前のことだ。そのとき発表されたのは、外科手術ロボットを使って極細の糸を人間の脳に埋め込んで、外部のコンピューターユニットへ接続し、最終的には両者の接続をワイヤレスにして最大限の自由度と柔軟性を提供したいというビジョンだった。

2019年7月には、マウスだけでなく類人猿さえも使ったそのテクノロジーのテストを成功裏に実行できたことを公表した。そして、もしそのときのことを覚えているなら、同時に翌年、つまり2020年、今年には、人間の最初の被験者を対象にテストを実施すると発表していた。

共同創業者でCEOであるJared Birchall(ジャレド・バーチャル)氏が率いるNeuralinkは、サンフランシスコに本社を置き、カリフォルニア大学デービス校と共同研究を進めている。同社の当初の目標は、この技術を利用して患者の運動や日常機能に影響を与えている神経障害を緩和することだが、最終的には、コンピューティングデバイスと、思考の速度で相互作用できるように、人間を本質的に「アップグレード」することも狙っている。

マスク氏は、キーボードやマウスなどの従来の手段を介して思考を入力に変換するやり方が、いかに「無駄の多い欠落的なもの」であるかを一貫して指摘し続けており、人とコンピューター間のより緊密でより高精度な結合が、高度なAIが人間の知能の能力を追い越してしまうリスクを減らすことができると信じている。マスク氏は、制御されず規制もされない高度な汎用人工知能が、人類の存亡に関わるリスクをもたらすと彼が考えていること、そしてNeuralinkはその脅威に対する保護手段となることを意図していることを繰り返し表明している。

マスク氏とNeuralinkが、2019年に行った最後のアップデート以後進めてきた進捗がどのようなものかはまだわからないが、できれば人間を使った臨床試験に関する計画についての何かを耳にしたいものだ。マスク氏はまた、同社による最新情報発表日程とともに、Neuralinkの「ミッションステートメント」と呼ぶものを発表した。それは「If you can’t beat em, join em.」(打ち倒せない相手とは仲間になってしまえ)というものだ。

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(翻訳:sako)

ハーバード大発スタートアップがコロナを除去する鼻孔スプレーの市販を計画

ハーバード大学のバイオメディカル・エンジニアリングのDavid A. Edwards(デビッド・A・エドワーズ)教授が開発し、今秋に市販が予定されているデバイスは、呼気中に存在するウイルスをほぼ100%除去できるという。つまり新型コロナウイルスを他人に感染させるリスクとともに、感染させられるリスクをも大幅に減らせることになる。第一線で患者のケアにあたる医療関係者にとって、フェイスシールドのようなPPE(個人用防護具)ともに用いることで大きな助けになるはずだ。

FENDと名付けられたこの製品は、エドワーズ教授が創業したスタートアップであるSensory Cloudが製造し、9月に市場に投下される予定だ。 このシステムが噴霧するのは、簡単にいえば「塩水の霧」。薬物を含まない生理食塩水の一種であり、ほぼ海水と同様の天然塩が成分となる。

Sensory Cloudが医学専門誌のQRB Discoveryに発表した査読済み論文によれば、この霧は鼻吸入器を使って深鼻腔に噴霧されると、従来のマスクではフィルターできなかった1nm(ナノメートル)未満の上気道のウィルス性微粒子を除去できることが確認されたという。

ただし同社が実施した試験は 65歳以上の5人と未満の5人の10人のボランティアに対するものだったので、サンプルの母集団がきわめて小さいという点については留意が必要だ。それでもサンプルグループ全体で、空気1Lあたりの微粒子の約99%を除去することに成功している。ブロックされた微粒子の大部分は従来のマスクで防御するには小さすぎるサイズだった。

Sensory Cloudは、FENDが「新型コロナウイルスの危険にさらされているすべての人」に有効な追加的保護を提供できるとしている。つまり新型コロナウイルスに感染してない場合、上気道を塩水のミストで拭うことにウィルス微粒子を除去して感染を防げる。またすでに感染している場合も呼気中にウィルス微粒子が含まれることを防止する。

同社では世界中の第一線の医療従事者を含む、高い感染リスクに直面している人々がまず利用できるようにする。その後一般向けにオンライン・ショップで市販し利用範囲を拡大していく計画だ。また同社はこの夏にさらに臨床試験を予定している。これが初期の小規模なテスト結果を裏付けるものであれば、製品の実用化に向けて大きな前進が得られるだろう。

Sensory Cloudでは吸入器を含むFENDを2セット49ドル(520円)で発売する予定だ。詰め替えの食塩水ボトルは6ドル(640円)を予定している。各ボトルは250回程度の噴霧が可能で、同社のテストによれば1回の噴霧で6時間程度効果が持続するという。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook