徳島大学発スタートアップが6300万円調達、ゲノム編集受託サービス提供のセツロテック

セツロテック

ゲノム編集受託サービスを提供する徳島県拠点のセツロテックは7月1日、第三者割当増資による6300万円の資金調達を発表した。引受先は、えひめ地域活性化投資事業有限責任組合(えひめ活性化ファンド)、産学連携1号投資事業有限責任組合、産学連携キャピタル。2020年4月以降の累積調達額は総額5億2900万円となった。

セツロテックはゲノム編集技術を提供する徳島大学発のスタートアップ企業。徳島大学で受精卵エレクトロポレーション法(GEEP法)による高効率ゲノム編集技術を開発した徳島大学教授の竹本龍也氏(代表取締役会長CTO)と、培養細胞のゲノム編集技術を開発した徳島大学特任講師の沢津橋俊氏(取締役CSO)らの技術を事業化し、2017年2月に会社設立を行った。

創業以来同社は、ゲノム編集技術を活用した研究支援事業において、大学などの研究機関や製薬会社の研究開発部門に対しゲノム編集マウスやゲノム編集培養細胞を提供。また、ゲノム編集基盤技術を発展させ、畜産分野における新品種開発の事業も進展している。海外でもゲノム編集技術に対するニーズがあることから、調達した資金により海外展開も強化していく。

えひめ活性化ファンドは、愛媛銀行、ゆうちょ銀行、ひめぎんリースおよびフューチャーベンチャーキャピタルが共同で設立。愛媛県内の創業・第二創業期および成長性の高い未上場企業など。

産学連携1号投資事業有限責任組合は、徳島大学発ベンチャー企業の創業・経営支援を目的として、徳島大学、阿波銀行、地域経済活性化支援機構(REVIC)および大学支援機構の協力により設立されたファンド。

産学連携キャピタルは、阿波銀行および大学支援機構の出資により、産学連携1号投資事業有限責任組合の運営母体として設立された。徳島大学発ベンチャーや大学が保有する人的資源、研究シーズを発掘し、投資と事業化へ向けたハンズオン支援を行うことで、徳島から新産業創出の実現を目指している。

バイオテック専門アクセラレーターIlluminaの出資企業93%が追加の資金調達に成功している

1998年の設立以来、Illuminaとその遺伝子解析ツールキットおよびサービスは、過去25年間に誕生した新しい生物学的製造業と治療法開発産業にとって不可欠な要素となってる。

また、ここ6年間はバイオテック分野の新しいスタートアップを市場に送り出すインキュベータープログラムを通じて、業界の発展を促進しようと試みてきた。そして2014年に1期生を迎えて以来、卒業生の約93%が追加の資金調達に成功している。一例として、投資家は標的型遺伝子治療を提供するEncoded Therapeuticsに1億5000万ドル(約160億円)以上を注ぎ込んでいる。

今週はじめに同社は、英国ロンドンと米国サンフランシスコを拠点とする同社のチームが担当する、最新のスタートアップ企業を発表した。

  • AarogyaAI Innovations Pvt.:薬剤耐性を迅速に診断する技術を持つ診断薬会社。
  • MEDIC Life Science:CRISPRと癌オルガノイドをベースにした数百万の腫瘍サンプルの臨床前テストベッドを開発しており、個人に合わせた癌の標的治療を可能にする
  • Pluton Biosciences:細菌・真菌・ウイルス由来の除草剤や農薬を開発。化学処理に代わるものを目指している。
  • WellSIM Biomedical Technologies:エクソソーム(膜小胞)を分離・解析するための高いスループットを備えるマイクロ流体ベースの自動プロセッサーを開発。
  • Alchemab Therapeutics:患者の抗体を用いた抗体治療薬を開発。
  • Neurolytic Healthcare:ゲノミクスに基づく診断と神経疾患に対する個別化された治療法の提案を提供。
  • Tailor Bi:腫瘍の遺伝学的パターンを特定し、患者が異なる治療法にどのように反応するかを予測するための精密腫瘍学プラットフォームを開発。

Illumina Acceleratorの共同創業者でグローバル部門のトップであるAmanda Cashin(アマンダ・キャシン)氏は声明で「現在の世界的なパンデミックをよく調べると、人間の健康を変えてさらに先へ進めるようなゲノミクスのブレークスルー的スタートアップが緊急に必要であることを痛感する。第2の事業所をオープンしてシード段階の資本を提供する投資家をパートナーにすることにより、これらの革新的なスタートアップに投資でき、制約を押し広げてゲノミクスの前途をさらに大きく広げられることを誇りに思う」と語っている。

このアクセラレータープログラムは、米国と英国の両方でファミリーオフィスであるDBM Investが一部支援する投資組織のFirst In Venturesと提携している。米国ではWing Venture Capitalが引き続き転換社債を提供し、英国ではCambridgeshire & Peterborough Combined Authorityを通じて政府機関が企業を支援する。

またIlluminaは次のバッチの企業の募集も開始している。

画像クレジット: MR.Cole_Photographer/Getty Images

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

マイクロソフトがスコットランド沖の海底データセンターを新型コロナワクチン開発に活用

新型コロナウイルスの効果的な治療法を発見する努力における課題の1つは、簡単にいえば規模の問題だ。 ウイルスが健康な細胞に感染するメカニズムを解明するためにはタンパク質の構造解明がカギとなる。

新型コロナウイルスの折り畳み構造をモデル化するためには巨大なコンピューティング能力を必要とするため、一般ユーザーのパソコンをグローバルな分散処理ノードとして利用するFolding@homeのような取り組みが非常に効果的だ。Microsoft(マイクロソフト)は、こうした努力に貢献するためにオンデマンドで処理をスケール可能な海底データセンターを利用しようとテストを始めている。このデータセンターは海上コンテナのサイズで事前にセットアップされ海底で高効率かつ長期間作動できる。同社はスコットランド沖の海底データセンターを新型コロナウイルスのタンパク質のモデル化に提供している。

同社は以前からプロジェクトに関わっていた。35mの冷たい海底に沈められたデータセンターは、すでに2年前から研究に貢献している。ただし新型コロナウイルスに研究の焦点を移したのは最近だ。これはもちろんパンデミックの治療、感染拡大の防止のために新型コロナウイルスの解明が緊急に必要とされてる事態に対応したものだ。

この水中データセンターは写真のように円筒形で864台のサーバーを収めており、相当の処理能力を備えている。海中に沈めたのは海水による冷却で作動の効率性を確保しようとするためだ。大容量の処理装置は途方もない発熱量があるため冷却システムが欠かせない。ゲーム用の高性能パソコンに精巧な冷却装置が用いられれるのはこのためだ。ましてデータセンターのレベルになれば冷却が極めて重要になるのはいうまでもない。

データセンターを水中に沈めれば自然冷却が実現でき、プロセッサを安定して高速で動作させることが可能になる。ファンや複雑な液冷配管が不要になるだけでなく、冷却に用いられるエネルギーも節約できる。

Natickと名付けられたこの海底データセンターが期待どおりに機能すれば将来のコンピューティングにとって朗報だ。こうした分散型データセンターを需要に応じて海底に沈めることで高効率なオンデマンド分散コンピューティングが可能になるだろう。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

名古屋大学発スタートアップのIcariaが資金調達と社名変更、尿検査による早期のがん発見目指す

Icaria(イカリア)は6月17日、シリーズAの資金調達を実施したと発表した。第三者割当増資による調達で、引受先は既存株主のANRIのほか、新規で大和企業投資、Aflac Ventures、森トラスト、FF APEC Scout(米ベンチャーキャピタルファンドFounders Fundのスカウトファンド)、国内大手企業1社、米投資ファンド1社。同時に、社名をIcariaからCraif(クライフ)に変更することも明らかにした。

同社は、尿検査を通じた早期のがん診断を目指す名古屋大学発のスタートアップ。酸化亜鉛ナノワイヤを用いた独自デバイスにより、核酸やタンパク質などの生体分子を含むエクソソームを尿中において捕捉。このエクソソームから、疾患の発症・悪性化に深く関与しているmiRNA(マイクロRNA)を1300種以上検出し、発現パターンをAI(機械学習)で解析することで、高精度のがん検出を成功させている。

Craif

さらに同社は、これら技術を基に1滴の尿から高精度でがんを早期発見する検査や、個別化医療を実現する治療選択プラットフォームを開発。今回の資金調達により、独自デバイスのさらなる開発や、臨床研究の推進に取り組むとしている。

新社名のCraifは、日本文化において長寿の象徴とされる「鶴」を意味する「Crane」(クレーン)と、人生を意味する「Life」(ライフ)を組み合わせたもの。同社は「人々が天寿を全うする社会の実現」というビジョンのもと、尿検査により、痛みを伴わず高精度にがんの早期発見を行える世界を目指している。がんの早期発見は健康寿命の延伸、医療費抑制に直結する重要課題であり、世界でも高い高齢化率である日本でこそ率先して取り組むべき課題であるという。日本発の同社がこの課題に取り組み、世界の手本となるような高齢化社会の実現に貢献したいという思いを込め「Craif」にしたとのこと。

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新世代の細胞治療のために、あらゆるヒト細胞の再現を目指すBit Bioが約44億円を獲得

「生命ソフトウェアのキーボードのEnterキー」を売り込むスタートアップBit Bio(ビットバイオ)は、最近の4150万ドル(約44億5000万円)の資金調達に3週間しかかからなかった。

もともとBit Bioは、Elpis Biotechmologyというギリシャ神話における希望の女神にちなんだ社名で知られていた。英国のケンブリッジにある同社は、2016年にMark Kotter(マーク・コッター)氏が創業した。ヒト細胞株のコスト削減と生産能力向上のための技術の商業化を目指している。ヒト細胞は、製薬会社の創薬や標的遺伝子療法を加速する手段として利用できる。

同社の目標は、あらゆるヒト細胞を再現することだ。

「現代は生物学と医学において非常に重要な時期だ。明らかになった本当のボトルネックは、ヒト細胞の大量かつ安定的な供給源だ」とコッター氏は語る。「これは創薬にとって重要だ。臨床試験の失敗率を見ると、史上最高となっている。研究所や臨床現場におけるバイオテクノロジーの大幅な進歩とは正反対だ」。

科学者が人間のゲノムを完全にマッピングしてから17年、CRISPRと呼ばれる遺伝子編集技術で遺伝物質を編集し始めてから8年で、病原体が生物内に広がるメカニズムを正確に狙う新薬や個々の患者の遺伝物質に基づく治療法が急増した。

病原体の広がりを防止したり疾患の影響を軽減したりする治療法や低分子薬の開発には、市場に出す前にかなりの試験が必要となる。Bit Bioの創業者は、同社が市場投入までの時間を短縮し、患者に新しい治療法を提供できると考えている。

Richard Klausner(リチャード・クラウスナー)氏のような投資家が、Bit Bioの事業に投資するチャンスに飛びついた仮説はそれだ。同氏は有名なバイオテクノロジー関連の連続起業家であり、国立癌研究所の元ディレクターで、Lyell Immunopharma、JunoGrailといった革新的バイオテクノロジー企業の創業者でもある。

クラウスナー氏の他にも、有名なバイオテクノロジー投資会社であるForesite Capital(フォーサイトキャピタル)、Blueyard Capital(ブルーヤードキャピタル)、Arch Venture Partners(アーチベンチャーパートナー)が加わった。

「Bit Bioは美しい科学に基づいている。同社のテクノロジーは、幹細胞の応用に、エンジニアリングに対して切望されている精度と信頼性をもたらす可能性がある」とクラウスナー氏は声明文で語った。「Bit Bioのアプローチは、新世代の細胞治療を可能にし、数百万人の生活を改善する生物学のパラダイムシフトを象徴している」。

画像クレジット:Andrew Brookes / Getty Images

Bit Bioの事業の中心にある技術の開発にあたるコッター氏自身の道は、ケンブリッジ大学の研究所で10年前に始まった。同氏はそこで、科学者らにヒトの成熟細胞を胚性幹細胞に変換することを可能にした(UCSFリリース)山中伸弥氏の革命的な発見に基づき研究を開始した。

「我々がやったことは、山中氏がやったことだ。すべてをひっくり返した。知りたいのは各細胞がどのように定義されているか。それがわかればスイッチを押すことができる」とコッター氏は語る。「ある細胞をコードする転写因子を見つけ、そのスイッチをオンにする」。コッター氏によると、この技術は胚性幹細胞に新しいプログラムをアップロードするようなものだという。

同社はまだ初期段階だが複数の重要な顧客を獲得しており、その技術に基づく姉妹会社を立ち上げることに成功した。Meatable(ミータブル)というその会社は、同じプロセスを利用してラボで育てた豚肉を製造している。

関連記事:動物を殺さずに肉の細胞を得る、培養肉生産技術開発のMeatableが10億円超を調達

Meatableは、動物を殺さずに細胞の分化と成長を利用して、肉の細胞を製造する商業的に実行可能で特許取得済みのプロセスを初期から提唱している会社だ。

他社は細胞分裂と培養を刺激するためにウシ胎児血清またはチャイニーズハムスターの卵巣を利用してきたが、Meatableは動物から組織をサンプリングして多能性幹細胞に戻し、その細胞サンプルを筋肉と脂肪へと培養し、おいしい豚肉製品を作るプロセスを開発した(Cell Based Tech記事)という。

「当社は、初期段階の細胞が筋細胞になるとき、どのDNA配列が寄与するのか理解している」とMeatableの最高経営責任者であるKrijn De Nood(クリジン・デ・ヌード)氏は述べた。

Bit Bioと似ているように見えるのは、それが同じ技術だからだ。ただ、人間の細胞ではなく動物を作るために使用されているだけだ。

画像クレジット:PASIEKA  / SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

Meatableが細胞分化技術を商業化する形の1つなら、Bit Bioと創薬会社であるCharles River Laboratories(チャールズリバーラボラトリーズ)との提携はまた1つの形だ。

「当社は研究と創薬のためにヒト細胞を使用して実際に収益を生み出すビジネスの顔を持っている。大規模な前臨床受託研究機関であるCharles River Laboratoriesと提携している」とコッター氏は述べた。「この提携により、Charles Riverに対し当社のテクノロジーへの早期アクセスを提供した。彼らには、創薬を手助けして欲しいという通常のビジネスクライアントがいる。現在の大きなボトルネックは、ヒト細胞へのアクセスだ」。

新薬の試験が失敗するのは、開発された治療法が人間にとって毒であったり、人間には作用しなかったりするからだ。違いは治療がどれほど効果的であるかを証明するための実験のほとんどが、人間の試験に移る前に動物実験に頼っているということだ、とコッター氏は説明する。

コッター氏によると、同社はまた独自の細胞療法を開発する準備を進めているという。最大のセールスポイントは、Bit Bioが精密医療にもたらす精度の向上だ。「細胞療法では細胞の混合バッグを使う。機能するものもあれば危険な副作用をともなうものもある。当社は正確性をもたらすことができる。安全が現時点で最も大きい」。

同社は、他社の細胞培養の混合バッグと比較して、1週間未満で100%の純度の細胞株を生産できると主張する。

「当社の究極の目標は、あらゆるヒト細胞を生産できるプラットフォームを開発すること。これは人間を形作る『生命のオペレーティングシステム』としての細胞の動きを支配する遺伝子を理解すれば最終的に可能だ」とコッター氏は声明で述べた。「癌、神経変性疾患、自己免疫疾患に取り組む新世代の細胞療法や組織療法の可能性を解き放ち、さまざまな状態で効果を発揮する薬の開発を加速する。主だったディープテクノロジーやバイオテクノロジー投資家の支援が、生物学と工学のこのユニークな融合を促進する」。

画像クレジット:KTSDESIGN / SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

新世代の細胞治療のために、あらゆるヒト細胞の再現を目指すBit Bioが約44億円を獲得

「生命ソフトウェアのキーボードのEnterキー」を売り込むスタートアップBit Bio(ビットバイオ)は、最近の4150万ドル(約44億5000万円)の資金調達に3週間しかかからなかった。

もともとBit Bioは、Elpis Biotechmologyというギリシャ神話における希望の女神にちなんだ社名で知られていた。英国のケンブリッジにある同社は、2016年にMark Kotter(マーク・コッター)氏が創業した。ヒト細胞株のコスト削減と生産能力向上のための技術の商業化を目指している。ヒト細胞は、製薬会社の創薬や標的遺伝子療法を加速する手段として利用できる。

同社の目標は、あらゆるヒト細胞を再現することだ。

「現代は生物学と医学において非常に重要な時期だ。明らかになった本当のボトルネックは、ヒト細胞の大量かつ安定的な供給源だ」とコッター氏は語る。「これは創薬にとって重要だ。臨床試験の失敗率を見ると、史上最高となっている。研究所や臨床現場におけるバイオテクノロジーの大幅な進歩とは正反対だ」。

科学者が人間のゲノムを完全にマッピングしてから17年、CRISPRと呼ばれる遺伝子編集技術で遺伝物質を編集し始めてから8年で、病原体が生物内に広がるメカニズムを正確に狙う新薬や個々の患者の遺伝物質に基づく治療法が急増した。

病原体の広がりを防止したり疾患の影響を軽減したりする治療法や低分子薬の開発には、市場に出す前にかなりの試験が必要となる。Bit Bioの創業者は、同社が市場投入までの時間を短縮し、患者に新しい治療法を提供できると考えている。

Richard Klausner(リチャード・クラウスナー)氏のような投資家が、Bit Bioの事業に投資するチャンスに飛びついた仮説はそれだ。同氏は有名なバイオテクノロジー関連の連続起業家であり、国立癌研究所の元ディレクターで、Lyell Immunopharma、JunoGrailといった革新的バイオテクノロジー企業の創業者でもある。

クラウスナー氏の他にも、有名なバイオテクノロジー投資会社であるForesite Capital(フォーサイトキャピタル)、Blueyard Capital(ブルーヤードキャピタル)、Arch Venture Partners(アーチベンチャーパートナー)が加わった。

「Bit Bioは美しい科学に基づいている。同社のテクノロジーは、幹細胞の応用に、エンジニアリングに対して切望されている精度と信頼性をもたらす可能性がある」とクラウスナー氏は声明文で語った。「Bit Bioのアプローチは、新世代の細胞治療を可能にし、数百万人の生活を改善する生物学のパラダイムシフトを象徴している」。

画像クレジット:Andrew Brookes / Getty Images

Bit Bioの事業の中心にある技術の開発にあたるコッター氏自身の道は、ケンブリッジ大学の研究所で10年前に始まった。同氏はそこで、科学者らにヒトの成熟細胞を胚性幹細胞に変換することを可能にした(UCSFリリース)山中伸弥氏の革命的な発見に基づき研究を開始した。

「我々がやったことは、山中氏がやったことだ。すべてをひっくり返した。知りたいのは各細胞がどのように定義されているか。それがわかればスイッチを押すことができる」とコッター氏は語る。「ある細胞をコードする転写因子を見つけ、そのスイッチをオンにする」。コッター氏によると、この技術は胚性幹細胞に新しいプログラムをアップロードするようなものだという。

同社はまだ初期段階だが複数の重要な顧客を獲得しており、その技術に基づく姉妹会社を立ち上げることに成功した。Meatable(ミータブル)というその会社は、同じプロセスを利用してラボで育てた豚肉を製造している。

関連記事:動物を殺さずに肉の細胞を得る、培養肉生産技術開発のMeatableが10億円超を調達

Meatableは、動物を殺さずに細胞の分化と成長を利用して、肉の細胞を製造する商業的に実行可能で特許取得済みのプロセスを初期から提唱している会社だ。

他社は細胞分裂と培養を刺激するためにウシ胎児血清またはチャイニーズハムスターの卵巣を利用してきたが、Meatableは動物から組織をサンプリングして多能性幹細胞に戻し、その細胞サンプルを筋肉と脂肪へと培養し、おいしい豚肉製品を作るプロセスを開発した(Cell Based Tech記事)という。

「当社は、初期段階の細胞が筋細胞になるとき、どのDNA配列が寄与するのか理解している」とMeatableの最高経営責任者であるKrijn De Nood(クリジン・デ・ヌード)氏は述べた。

Bit Bioと似ているように見えるのは、それが同じ技術だからだ。ただ、人間の細胞ではなく動物を作るために使用されているだけだ。

画像クレジット:PASIEKA  / SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

Meatableが細胞分化技術を商業化する形の1つなら、Bit Bioと創薬会社であるCharles River Laboratories(チャールズリバーラボラトリーズ)との提携はまた1つの形だ。

「当社は研究と創薬のためにヒト細胞を使用して実際に収益を生み出すビジネスの顔を持っている。大規模な前臨床受託研究機関であるCharles River Laboratoriesと提携している」とコッター氏は述べた。「この提携により、Charles Riverに対し当社のテクノロジーへの早期アクセスを提供した。彼らには、創薬を手助けして欲しいという通常のビジネスクライアントがいる。現在の大きなボトルネックは、ヒト細胞へのアクセスだ」。

新薬の試験が失敗するのは、開発された治療法が人間にとって毒であったり、人間には作用しなかったりするからだ。違いは治療がどれほど効果的であるかを証明するための実験のほとんどが、人間の試験に移る前に動物実験に頼っているということだ、とコッター氏は説明する。

コッター氏によると、同社はまた独自の細胞療法を開発する準備を進めているという。最大のセールスポイントは、Bit Bioが精密医療にもたらす精度の向上だ。「細胞療法では細胞の混合バッグを使う。機能するものもあれば危険な副作用をともなうものもある。当社は正確性をもたらすことができる。安全が現時点で最も大きい」。

同社は、他社の細胞培養の混合バッグと比較して、1週間未満で100%の純度の細胞株を生産できると主張する。

「当社の究極の目標は、あらゆるヒト細胞を生産できるプラットフォームを開発すること。これは人間を形作る『生命のオペレーティングシステム』としての細胞の動きを支配する遺伝子を理解すれば最終的に可能だ」とコッター氏は声明で述べた。「癌、神経変性疾患、自己免疫疾患に取り組む新世代の細胞療法や組織療法の可能性を解き放ち、さまざまな状態で効果を発揮する薬の開発を加速する。主だったディープテクノロジーやバイオテクノロジー投資家の支援が、生物学と工学のこのユニークな融合を促進する」。

画像クレジット:KTSDESIGN / SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

製薬会社のModernaが新型コロナワクチンの最終治験を7月開始へ

製薬会社のModerna(モデルナ)は米国6月11日、このままのペースでいくと新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンの最終治験を7月までに開始できると語った(Bloomberg記事)。Modernaはワクチン候補のヒト臨床試験を米国で最初に行った企業だ。研究の最終ステージは米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)とのパートナーシップのもとに実施され、3万人が参加する見込みだ。

研究の目的は、Modernaのワクチンが実際に新型コロナウイルスの発症を防ぎ、少なくとも入院が必要になるようなひどい症状を防ぐことができるという最終的な臨床証明を示すことにある。同社の第2段階治験は先月始まった。同社は以前、早ければ今秋にもヘルスケアワーカーに量限定ながらワクチンの提供を実験的に始めるかもしれないと話していた。

多くのワクチン候補の開発ペースはかなり速い。Johnson & Johnson(ジョンソン・エンド・ジョンソン)は今秋初め、ワクチンの試験を7月後半に開始すると述べ、一方でAstraZeneca(アストラゼネカ)と同社のR&Dパートナーであるオクスフォード大学は今月に治験最終ステージに入る。

Modernaが手掛けているのはmRNAワクチンで、これは活性化または不活化のウイルスそのものを体内に入れなくても、健康な細胞にコロナウイルス抗体の生産を指示できる技術を活用している。mRNAワクチンは家畜には使われているが比較的新しい技術で、人間への使用はまだ承認されていない。しかしこの技術を取り入れた数多くのワクチンの試みが展開されている。開発のスピードが早く、初期治験参加者を含め人にもたらす健康リスクが理論上少ないなどのメリットがあるからだ。

画像クレジット: David L. Ryan/The Boston Globe / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

畜糞を1週間で肥料化する昆虫テックのムスカがECサイト開設、代表取締役2名の新体制に

ムスカは6月4日の「虫の日」に、持続可能な農業を推進している事業者の食品を扱うECサイト「Sustainable Food Market」を開設した。取り扱い商品の第1弾は、宮崎県南西部に位置する清武町で、石坂村地鶏牧場が生産する宮崎地鶏の「地頭鶏」。牧場では、地鶏の飼育にムスカの飼料を一部取り入れている。

同社は、約50年間1200世代の選別交配を続けて誕生したイエバエの幼虫を利用して、1週間程度で家畜から出る糞尿や家庭から出る生ゴミを肥料化、さらには肥料化に使用したイエバエの幼虫を乾燥させてタンパク質を多く含む飼料として再生できる、バイオマスリサイクルシステムの構築技術を擁する2016年12月設立のスタートアップ。現在、テストプラントの建設を進めているが、同社の飼料を使った養鶏場の商品をECサイトでいち早く販売することになった。

ECサイト開設に合わせて同社は新体制も発表した。これまで取締役COOを務めていた安藤正英氏が代表取締役に就任。これまでCEO兼代表取締役を務めていた流郷綾乃氏との2名体制となる。

蚕を利用した医薬品製造を目指すKAICOが2.6億円調達、新型コロナ抗体検査キットやワクチンを開発へ

KAICO525日、5月22日に2億6000万円を調達したことを明らかにした。シリーズAラウンドの第三者割当増資による調達で、引受先はFFGベンチャービジネスパートナーズ、九州広域復興支援投資事業有限責任組合、東京センチュリーなど。シードラウンドを合わせた累計調達総額は3億円となる。同社は、2019年にTechCrunch Japanに開催したイベント「TechCrunch Tokyo 2019」のピッチコンテスト「スタートアップバトル」で、100社超の企業から勝ち残ったファイナリストの1社。

同社は九州大学が半世紀以上にわたって系統整備と体系的な選抜育種を進めてきた独自のカイコを利用したカイコ・バキュロウイルス発現法により、再生医療用研究試薬やワクチン、診断薬などを大量生産できる生産プラットフォームの構築技術を擁するスタートアップ。

カイコ・バキュロウイルス発現法とは、目的のタンパク質DNAをバキュロウイルスに挿入してカイコ体内に注入することにより、ウイルスの増殖に従って目的タンパク質が発現させる方法。発現された目的タンパク質を体内から回収・精製してワクチン製造などに利用する。

同社の説明によると、カイコは個々がバイオリアクター(生体触媒を用いて生化学反応を行う装置)の機能を果たすため、開発したタンパク質は頭数を増やすだけで、医薬品の量産が可能なるとのこと。少量多品種の生産に対応できるのが特徴で、複数薬を同時並行開発できるほか、大量生産も容易だとしている。

今回の新型コロナウイルスに関しては、技術導出元である九州大学農学研究院日下部研究室が主導し、組み換えウイルス抗原と組み換え抗ウイルス抗体の共同開発。抗原に関しては、新型コロナウイルスのSプロテイン三量体の開発に成功し、 複数の抗体との結合を確認したという。

この結果を受け、新型コロナウイルスの抗原・抗体を合わせて供給できることにより、パートナー企業と抗体検査キットの開発を開始した。また、抗原Sプロテインはワクチン候補として今後量産体制を確立し、製薬企業へ共同開発を呼びかけていくという。

今回調達した資金は、医療品製造に求められるGMPルールに則った生産設備の施工と機器の設置、研究開発・生産を担う人材増員のために使われる。さらに、同社が擁するカイコ・バキュロウイルス発現によるタンパク質開発の世界展開に向けた動きも加速させる計画だ。

合成生物学ツールで創薬を大規模化するOctant、UCLAの研究チームが開発したテクノロジーがベース

Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)が支援するOctant(オクタント)が、ついに公の場に姿を現した。合成生物学用ツールを駆使して創薬の最新トレンドを支える企業だ。製薬業界の視線が高精度医療、つまり遺伝子工学を用いた患者個人に合わせた疾患の治療法の研究に集まる中、Octantは同じ技術を用いて創薬と診断の大規模に取り組んでいる。

同社のテクノロジーは、ヒトゲノムの中の最も一般的な薬物受容体の識別子として機能するよう、DNAを遺伝子操作するというものだ。基本的にそれは、細胞中の各種タンパク質受容体が、さまざまな化学物質にどう反応するかを特定し識別するQRコードを生成する。それは、免疫反応から視覚や嗅覚、ニューロンの発射に至るあらゆる制御、さらにはホルモンの分泌、体内の細胞間の通信の調整を助ける生物学的センサーだ。

「私たちの発見プラットフォームは、化学物質、複数の薬物受容体経路、疾患の相互連絡関係をマッピングし評価するために作られました。それにより、広い範囲のターゲットにわたり、より合理的な方法で複数標的を持つ薬のエンジニアリングが可能になります」と、Octantの共同創設者でCEOのSri Kosuri(スリ・コズリ)氏は声明の中で述べている。

Octantの研究は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)でコズリ氏の研究チームが初めて開発したテクノロジーをベースにしている。それは、遺伝子配列の作成コストを、遺伝子ひとつあたり50〜100ドルだったものを、2ドルにまで押し下げた。

「私たちの方法を使えば、どんな研究所でも、独自のDNA配列を作成できます」とコズリ氏は2018年の声明で話している。「これによって初めて、平均的な研究所でも100万ドル(約1億800万円)も投じることなく、1万個の遺伝子をゼロから作れます」。

Octantの創設に参加したのは、コズリ氏の長年の友であり、GoogleDropboxの元幹部でもあるRamsey Homsany(ラムゼイ・ホムサニー)氏だ。ホムサニー氏は、奇遇にも学校で細胞生物学を学んでいた。コズリ氏が研究中のテクノロジーについてほのめかしたとき、2人は会社を設立すべきだと同時に感じた。

「この新しいテクノロジーは、どのバーコードが、作業中のひとつのウェルに収まったどの構成、どの遺伝的変異体、どの経路に対応しているかを知るためのものです」とコズリ氏。「そこで可能になるのは、小分子のスクリーニングです。私たちはそれを、数千のウェルで同時に行えます。そのため私たちは、医薬品開発に欠かせない、科学物質、標的、経路の関係性をマッピングできるのです」。

UCLAに来る以前、コズリ氏は米国の西海岸と東海岸の両方で複数の企業に属し、合成生物学に基づく製品開発にあたっていた経歴がある。2007年、バイオ燃料ブームが起きて間もないころに行っていた研究を通じて、コズリ氏はFlagship Ventures(フラグシップ・ベンチャーズ)と、ハーバード大学を拠点に活動していた著名な合成生物学者George Church(ジョージ・チャーチ)氏と知り合うようになった。コズリ氏はまた、Gen9(ジェンナイン)の科学顧問にも就任した。同社は合成生物学の数十億ドル規模の大手企業Ginkgo Bioworks(ギンゴー・バイオワークス)に買収されている。

「歴史上、最も価値の高い医薬品には複合的な薬剤標的に対応するものがあります。複合薬理学に的を絞ったOctantに説得力があるのは、そのためです」と、Gingko Bioworksの共同創設者でCEOにしてOctantの役員でもあるJason Kelly(ジェイソン・ケリー)氏は声明の中で述べている。「Octantは、その革新的なプラットフォームと独自の生物学的見識のビッグデータを使った創薬の方程式から数多くの幸運を生み出し、コストを低減させてきした。それは同社の社内開発計画と、潜在的なパートナーシップの原動力になっています」。

この新テクノロジーは「製薬会社が、一般的な疾患の治療よりもむしろ、特異的突然変異とつながりのある疾患の標的治療に軸足を移そうという業界の特別な時期と合致した」とホムサニー氏は話す。

「みんな一般的な疾患から離れようとしています」と彼は言う。「大手のプレイヤーが一般的な疾患を見捨てるというのは、私たちにすれば、なんとも合点のいかないことです。そこで私たちは、一企業として、その新しいテクノロジーを、一般的な疾患の治療に応用できないかと考えました」。

大勢が患っている病気から業界が目をそらしたひとつの理由には、薬に頼らずに症状に対処できる新しい治療法の登場がある。一方、具体的な明言は避けたもののOctantの共同創設者たちは、コズリ氏が「代謝領域」と「神経精神病学の領域」の症状と呼ぶものの治療法を追求している。

創薬企業であるOctantは、その研究を支えるための3000万ドル(約32億円)をAndreessen Horowitzを筆頭とする投資家から調達した。「創薬は今でも試行錯誤の世界です。Octantは、合成生物学での高い専門性を生かし、人の細胞をエンジニアリングして、薬剤の分子が生きた細胞内でどう関与し効果を示すかといった複雑な内容を正確に完璧に、リアルタイムで読み出せるようにしました」と、Andreessen Horowitzのジェネラル・パートナーでありOctantの取締役会の役員でもあるJorge Conde(ホーヘ・コンデ)氏は言う。「こうした前代未聞の規模で生物学を探ることで、Octantは薬物標的とそれに対応する非常に厄介な疾病の革新的な治療法の完全なマッピングをシステマチックに行える潜在力を備えたのです」。

画像クレジット:Andrew Brookes / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

国産植物肉開発のDAIZが総額6.5億円調達、年間3000トンの生産能力拡充を目指す

大豆由来の植物肉原料(ミラクルチップ)を開発・製造するDAIZは5月18日、シリーズAラウンドで総額6.5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。第三者割当増資による調達で、引受先は農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)、三菱UFJキャピタルをはじめとする5社。同社の計調達額は12億円となる。

同社は今回調達した資金を、ミラクルチップの生産体制の拡大と研究開発の強化に使うとのこと。生産体制については、特許技術「落合式ハイプレッシャー法」を採用して、植物肉原料生産ラインを拡充する。研究開発については、本物の肉の味に近づけるためにAIプロファイング技術の開発を進める。生産体制の強化と研究開発により、ミラクルチップを生産能力を年間3000トンに引き上げることを目標とする。

DAIZは2015年設立のスタートアップ。大豆由来の植物肉原料の開発、製造、そして植物肉原料を用いた食品の開発、製造および販売を行っている。味と食感に残る違和感、大豆特有の青臭さや油臭さ、肉に見劣りする機能性といった大豆ミートの課題をを解決し、植物肉の普及を目指している。

落合式ハイプレッシャー法とは、大豆の発芽中に、酸素、二酸化炭素、温度、そして水分などの生育条件にプレッシャーを与える栽培方式。酵素が活性化し、遊離アミノ酸量が増加することで、大豆の旨味を引き出せるという。ミラクルチップの成形時においても独自独自の膨化成形技術によって、他の原料や添加物を何も足さずに、肉のような食感を再現できるとしている。同社は、九州大学や京都大学と共同で大豆ミートの研究開発を進めているほか、2020年1月には、冷凍食品大手のニチレイフーズと資本業務提携している。

Everlywellの在宅新型コロナ検査キットが米食品医薬品局の認可を取得

Everlywell(エヴァリーウェル)は、新型コロナウイルス(COVID-19)の在宅検査キットに取り組んでいると最初に発表したスタートアップの中の1社だ。当初、規制当局がガイドラインに沿っていないと判断を下す前にキットを出荷することを模索していた。後に同社は、消費者にキットを提供する前に、FDA(米食品医薬品局)の正規の緊急使用許可(EUA)を取得することにした。そうしたアプローチは報われ、FDAは5月16日に同社の技術に対しEUAを出した。

EverlywellのCOVID-19在宅検査キットではユーザーが自分で検体を採取できる。この手のものをFDAが認可するのは初めてだ。他のキットは医療従事者による検体採取が想定されている。また特定の検査所で調べられるものだったりする。そうした点で、今回の認可はユニークだ。Everlywellはあらゆるテストラボにサンプルキットを提供し、さまざまなラボと協力して検査体制を拡充させることができる。

Everlywellのテストキットは、別の新型コロナEUAが認可されている2つのラボのどちらかに送られる。このラボの数は近い将来さらに増えることが予想される。ただし、EUAを申請し、緊急許可を受けるにあたって必要なデータを提出しなければならない。綿棒を使って鼻からサンプルを採取するやり方で家庭で回収された検体がラボに搬送される間も安定した状態を保てることを示すために、Everlywellはビル&メリンダ・ゲイツ財団の支援を受けた研究などから得られたデータを提出・開示したとFDAは言及している。

そうしたデータは同様のテストキット提供を考えている他社も閲覧できる、とFDAは述べている。これにより、競合する製品で認可を得ようとしている企業は証明にかかるかなりの負担を減らすことができる。これはひいては、さらなる検査実施につながる。多くの公衆衛生の専門家らは、新型コロナ抑え込みでは検査が鍵を握ると考えている。

「複数のラボで使え、複数のテストに使用できる在宅新型コロナ検査キットの認可では、患者がテストを受けやすくなるだけでなく、ウイルスとの接触から人々を守ることができる」とFDA機器・放射線医学センターのディレクター、Jeffrey Shuren(ジェフリー・シュレン)氏はTechCrunchへの声明文で述べた。「今日の決定は、私費研究のデータがEUA申請をサポートするために業界で使われるという公私提携の素晴らしい例であり、パンデミックに関する取り組みを続ける中で時間を節約することになる」。

画像クレジット: Sebastian Gollnow / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

有望な新型コロナ抗体を米Sorrentoが発見、実験室では100%の効果と発表

カリフォルニアの新治療法研究企業、Sorrento Therapeuticsは新型コロナウイルス対策の突破口となる可能性のある物質を発見したと発表した。この物質はパンデミックの原因となっているSARS-CoV-2(COVID-19)ウイルスに対して臨床前実験で100%の感染阻止の効果を示したという。

5月15日にSorrentoは前臨床研究の論文を発表し「4日間にわたる培養で健康な細胞へのSARS-CoV-2の感染を100%阻止する抗体を発見した」と報告した。論文は前臨床研究の報告であり、まだ専門家の査読を受ける必要がある。これはインビトロ(「試験管内」という意味)の研究で、臨床前のものだが、有望な発見だ。SorrentoはさらにSARS-CoV-2ウイルスが変異しても有効な抗体の「カクテル」の開発を進めるという。

SorrentoによればSTI-1499と呼ばれる抗体が候補物質の中で際立った効果を示したのだという。同社は広汎なヒト抗体ライブラリーを持ち、数十億の候補をスクリーニングした。SARS-CoV-2ウイルスはスパイク状のタンパク質を標的細胞の受容体に結合させて細胞に侵入する。STI-1499はこの結合作用を完全にブロックする能力がみられた。つまり、ウイルスがヒトの健康な細胞に感染するのを阻止できるわけだ。

現在、Sorrentoは新型コロナウイルス治療薬を開発中だが、STI-1499は細胞への感染阻止に高い有効性があるため、この「カクテル」に含まれる最初の抗体の候補だという。「カクテル」と呼ばれるのは治療薬はウイルスが細胞と結合するのをブロックする効果のある多数の抗体を含むことになるからだ。これはウイルスがヒトからヒトへの感染ないし特定個人の体内で変異を起こしても効果が持続することを狙っているためだ。

実際、研究者が現在答えを求めている最大の問題の1つは、SARS-CoV-2変異原性だ。例えば普通の風邪のワクチンや抗ウイルス薬の開発が困難なのは、原因となるコロナウイルスが急速に変異する傾向を示すためだ。

Sorrentoが開発している抗ウイルスカクテルのCOVID-SHIELDは、さまざまな変異株に対しても効果があるよう多数の抗体をミックスさせたもになるはずだが、同社ではSTI-1499を単独の抗体として使用する研究も進めるという。Sorrentoは、STI-1499の実用化を加速するためにFDA(米国食品医薬品局)と協議中だとしている。またFDAの使用承認の取得を進める一方で、投与100万回分を生産する準備も進めている。

ただしSARS-CoV-2(COVID-19)を根絶できる「魔法の弾丸」となるようなワクチンや特効薬が、すぐに登場する可能性はほとんどないことに留意しておく必要があるだろう。そうではあっても、これは非常に有望な発見であり、今後の臨床試験の結果や使用承認のプロセスに注目していくべきだろう。

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新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

免疫システムの完全なマッピングを目指すImmunai、細胞療法と癌免疫療法に新しい道を拓く

この2年間、Immunai(イミュナイ)は、あらゆる患者の免疫システムをマッピングする技術の開発を密かに進めていた。

ハーバード大学とMITで学び博士号を取得した研究者Noam Solomon(ノーム・ソロモン)氏と、元Palantir(パランティア)の技術者Luis Voloch(ルイス・ボロシュ)が創業したImmunaiは、この2人の計算生物学とシステム工学の興味がきっかけだった。2人が、スタンフォード大学腫瘍免疫科教授のAnsuman Satpathy(アンスマン・サトパシー)氏と、パーカー癌免疫療法研究所でデータサイエンティストとして働いていたDanny Wells(ダニー・ウェルズ)氏と出会ったことから、起業につながる道筋が明らかになった。

「私たちは互いに、私たちにはこの仕事に導入すべきテクノロジーと機械学習のあらゆる知識があり、アンスとダニーには単一細胞生物学の知識があると考えていました」とソロモン氏は話す。

今、その存在を公にし、Viola VenturesやTLV Partners,を始めとする投資会社から2000万ドル(約21億ドル)の資金調達を行ったことを発表した。同社は今後、人材採用を強化し、すでに強固な基盤のある研究と開発活動をさらに拡張しようと考えている。

Immunaiによれば、同社はすでに、10件を超える医療機関との臨床パートナーシップを、そしていくつものバイオ医薬品メーカーとの商業的なパートナーシップを結んでいるという。またすでに「PD-1阻害の後の抗腫瘍T細胞の起源について審査済みの論文を公開した」とImmunaiは話している。

「私たちは複雑な工学的パイプラインを組み入れようとしています。数百人の患者と数千のサンプルに対応できる規模に拡大したいのです」とウェルズ氏。「現在、癌治療の世界では、間もなくチェックポイント阻害薬と呼ばれる新薬が発売されます。(私たちは)そうした分子の機能を理解し、新しい組み合わせと新しいターゲットを見つけ出そうとしています。そのためには、免疫システムを完全な粒度で見る必要があります」。

「それを可能にするのが、Immunaiのハードウェアとソフトウェアの組み合わせだ」とウェルズ氏は説明する。「これは単一細胞プロファイリングのための垂直統合プラットフォームです」と同氏。「さらに私たちは先へ進み、そこにどのような生物学があるかを見極め、それを新しい組み合わせデザインの中で解明して治験に役立てます」。

細胞療法と癌免疫療法は医療を変え、さまざまな病状に新しい治療法をもたらしたが、免疫システムが複雑なあまりに、こうした治療法の開発者たちは、その療法の免疫システムへの影響に関する見識をほとんど持っていない。患者はみな違うため、製品にバリエーションを持たせることで、患者の治療効果が大きく変わると同社は言う。

画像クレジット:Andrew Brookes/Getty Images

immunaiには、個々の血液サンプルから1TBを超えるデータを生成し細胞のプロファイリングを行う単一細胞テクノロジーを利用することで、そうした治療法の開発方法を変革する可能性がある。同社の独自データベースと機械学習ツールは、取得したデータを異なる細胞タイプにマッピングして、分化した要素に基づいた免疫反応のプロファイルを生成する。最終的に、免疫プロファルのデータベースは生物指標の発見を助け、潜在的変化の監視を可能にする。

「私たちの使命は、免疫システムとニューラルネットワークをマッピングすることであり、免疫学の深い知識からもたらされる学習技術を伝達することです」とボロシュ氏は声明の中で述べている。「私たちは、その道に長けたすべての癌免疫療法と細胞療法の研究者を支援するツールとノウハウを作り出しました。これにより、その作用と回復のメカニズムが明らかになり、薬の開発と市場投入がスピードアップします」。

ソロモン氏によれば、製薬会社はすでにこの技術による変革の可能性に気付いているという。同社は今、Fortune 100のある企業と数100万ドル規模の契約交渉の終盤に入っているとのことだ。

同社の初期の研究戦略は、抗PD1分子が導入されたときに免疫系がどのように機能するかを示す内容だった。通常、PD-1の存在はT細胞の生産が抑えられることを意味する。Immunaiの研究は、その反応は腫瘍の中のT細胞で起きているのではないことを示した。ウェルズ氏によれば、腫瘍と闘おうと腫瘍に移動した新しいT細胞で起きているのだという。

「私たちが用いたこのアプローチ全体で、そのすべての兆候が示されています。私たちが正解と考える、こうした疾患の研究に最も強力な方法は、トップダウンで免疫システムを見ることだと確信しています」ボルシュ氏はインタビューの中で話していた。「異なるシナリオをすべて見ることです。上から見れば、他の方法では見ることのできないそのパターンが見えてきます」。

画像クレジット: TEK IMAGE/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

新型コロナ用ワクチンの早期開発に欠かせない伝令RNAの生成技術を持つGreenLight Biosciensesとは

新型コロナウイルス(COVID-19、SARS-CoV-2)ワクチンを開発している医薬品会社が現在頼りにしているのがmRNA(伝令RNA、タンパク質生成の命令を出す)ワクチンだ。mRNAは比較的新しい手法で、動物を治療するために承認された例があるが、人体への利用はまだ承認されていない。そして、mRNAの生成はかなり特殊な作業だ。しかし、このほどmRNAの生成に特化したバイオ技術スタートアップが、製造能力拡大のための特別目的ファンドとして1700万ドル(約18億2200万円)を調達した。

ボストン拠点のGreenLight Biosciences(グリーンライト・バイオサイエンス)は、既存および新規の出資者から新たな資金を引き出した。Flu Lab、Xeraya Capital、Baird Capitalらが出資した資金は同社のmRNA生産能力の強化に用いられる予定で、世界中で実施されるであろう新型コロナウイルスワクチンの試験、および効果が証明された場合の「数十億投与」分の生産に寄与することになる。

ちなみにGreenLightは、そのmRNAを利用して新型コロナウイルスによる感染を予防するワクチン候補も何種類か独自に開発している。資金の一部はこれに充てられる。

新型コロナによる世界的パンデミックを受け、さまざまな企業がmRNAワクチン候補の開発に力を入れており、すでに臨床試験に入っているところもある。この種のワクチンは人間の細胞に対して、ウイルスをブロックする能力のあるタンパク質を生成する特殊な命令群を送り込むことで、ウイルスが足場を築くのを防ぐ。これは従来のワクチン開発が、実際のウイルスの無効化されたものあるいは少量を投与して免疫反応を誘発するのとは異なる手法だ。

mRNAワクチンは実際のウイルスを含まないため比較的安全であり、かつ非臨床開発時間を短縮できるという利点がある。これは試験から接種までの開発時間全体が短縮されることを意味している。この分野が注目を集め、パンデミックによってさらに投資熱が高まっている理由はそこにある。しかし、上記のとおり開発が完了し、人体の治療が認められた例はまだ存在しない。

この投資は、mRNAワクチンが人体に有効であることが証明されるだけでなく、このパンデミックに限らずインフルエンザなど既存のウイルスによる脅威も抑制する有効な手段になることへの大きな賭けである。

画像クレジット:JUAN GAERTNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

癌などの新薬や治療法を研究開発するHummingbird Bioscienceが約6.4億円を調達

癌などの新しい治療法を開発しているHummingbird Bioscience(ハミングバード・バイオサイエンス)が、この前発表したシリーズBに加えて600万ドル(約6億4500万円)を調達し、このラウンドの総額が2500万ドル(約26億8800万円)になったことを発表した。

この拡張ラウンドはSK Holdingsがリードし、既存投資家であるHeritas CapitalとSEEDS Capitalらも参加した。後者は中小企業を支援する政府機関であるEnterprise Singaporeの投資部門だ。

Hummingbird Bioscienceのこれまでの調達総額はこれで6500万ドル(約69億9000万円)になる。同社によると、シリーズBラウンドの申し込みに投資家が殺到したため、ラウンドを拡張したという。今回の資金は、同社が開発中の治療薬をより迅速に臨床試験に適用し、初期段階の新薬候補の研究開発を進めるために使用される。

Heritas Capital Managementの常勤取締役でCEOのChik Wai Chiew(チク・ワイ・チウ氏)はHummingbirdへの投資について「シリーズAの拡張ラウンドのリードに次いでHummingbirdのチームへの支援を継続できることは、極めて喜ばしい。新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックで投資が鈍化していても、われわれが革新的なバイオテクノロジー企業の支援を忘れることはない。とくに患者が必要とする治療を開発しているHummingbirdのような企業が、弊社のプライオリティから去ることはない」と語る。

同社は今年初めに悪性腫瘍の治療に関連する2つの抗体のデータを発表し、今後の定期的な提出により今年後半にはフェーズ1の臨床試験を開始できると期待されている。

Hummingbird Bioscienceは、オフィスがシンガポールと米国のヒューストン、サウス・サンフランシスコにあり、Cancer Research United Kingdom(英国王立癌研究基金)およびバイオテクノロジー企業のAmgen(アムジェン)と戦略的業務提携を結んでいる。同社は以前、テキサス州の癌予防研究所から製品開発の助成金を支給された実績もある。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

オックスフォード大学が500人規模の新型コロナワクチンの臨床試験を実施へ

現在進められている最大の新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチン試験の1つで、ボランティア500人超でのテストが5月中旬までに行われる。オックスフォード大学の研究者らは、ワクチンの可能性を調べる無作為臨床初期・中期ステージ試験のために、年齢18〜55才の代表的サンプルを含む参加者を既に確保した。このワクチンは、新型コロナウイルスに対して効果のある免疫を作り出すために、改変された無害のウイルスを使用する。

テストは参加者510人を5つのグループに分けて行う。1つのグループはワクチン接種のあとフォローアップがあり、追加の接種を受ける。このワクチンの技術は既に10種の治療法開発に使用されているが、結果を確かなものにするためには異なる国における異なるテストグループを用いるというアプローチをとる必要がある。これは採用されている対策が異なるために地域によって感染率に大きな差があるからだ、と研究を主導するSarah Gilbert(サラ・ギルバート)氏はBloomberg(ブルームバーグ)に語った。 

ワクチンを手掛けるチームはまた、6カ月かかる臨床試験の後にワクチンの大量生産を開始することを目指しており、生産規模を拡大するために追加の資金確保を模索している。最終目標は秋までに大量生産できるようにすることだ。ワクチンの有効性が証明され、5000人規模での最終試験が行われた後、9月に現場のヘルスケアワーカーへの接種を開始するという仮定に基づいている。

オクスフォード大学が行っているのは、ヒト臨床試験段階まで進んだひと握りの試験のうちの1つだ。しかし今後さらに加わることが予想される。すでにModernaInovioのヒト臨床試験が米国で行われており、それらもまた初期臨床結果を受けて幅広く展開されるようになる前に緊急使用される可能性がある。

こうしたワクチン候補の一部が秋までに入手可能になったとしても、広く利用できるようになることを意味するわけではない。さらなるテスト、生産の増強、流通と管理に関する取り組みが必要で、これらのプロセスでさらに数カ月かかることが見込まれる。しかしながら、前例のない新型コロナウイルスパンデミックでは開発プロセスにおけるこれまでにない効率性が引き出されており、この尋常ではない状況でさらなる取り組みが続くかもしれない。

画像クレジット:Rost-9D / Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Mizoguchi

米食品医薬品局が新型コロナ回復者に血漿提供を呼び掛けるウェブサイトを開設

新型コロナウイルス(COVID-19)の効果的な治療法の開発で、現在進められている手法の1つが新型コロナから回復した人の血漿を使ってのものだ。基本的にこれは、新型コロナに感染し、完全に回復した人が提供する血液の液体成分を使うもので、ウイルスと戦う過程でつくられた抗体を他の人に提供して治療につなげる。FDA(米食品医薬品局)は回復した患者の献血を呼びかけるとともに、可能性のある使用法を説明する専用のウェブサイトを立ち上げた。

回復した人の血漿の使用は、新しいコンセプトではない。実際1890年代後半から使われていて、1918年のスペイン風邪パンデミックの際も「結果はまちまちだった」が活用された。現代の手法は、治療法としての回復期血漿の効果と可能性を改善させることができるかもしれない。また血漿(動物と人間の両方のもの)を基本有効成分として使用した多くの薬剤が開発中だ。

回復期血漿の提供を呼び掛けるFDAの新たなウェブサイトでは、回復期血漿がどういうものか、なぜ有効な治療法としての可能性を調査しているのかを説明している。また個人が血漿を提供するにはどういう状態でなければならないのかも示していて(提供前の少なくとも28日間は症状がない、あるいはウイルス検査で非陽性が確認されてから14日たっていること)、米国赤十字社か最寄りの血液センターで提供するよう案内している。

新型コロナ治療での有効性がまだ証明されてもいないのに、なぜ大量の新型コロナ回復者の血漿が必要なのか。それは主に、新型コロナと戦うのに回復期血漿が本当に有効かを確かめる多くの研究が行われているためだ。そこにはさまざまな治療法の臨床試験や、FDAが1回限りの使用を承認する緊急研究用新薬制度を通じての患者治療も含まれる。

新型コロナを解決する可能性のある治療法やワクチンが開発途上にあるように、回復期血漿もまだ有効性が証明されていない。有効性を調べるために現在展開されている取り組みがすぐに確証を得るというのはありそうにない。それでもさらに研究を進めるために血漿需要は高まっていて、今回のウェブサイトのようにFDAが情報を提供するとともに血漿提供を広く呼び掛けるに至った。

画像クレジット:THOMAS FREDBERG/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Mizoguchi

環境破壊のパーム油廃液から人間の必須栄養素DHAを産出、筑波大の研究から生まれたMoBiolのテクノロジー

パーム油と聞いて何を連想するだろうか。シャンプーやマーガリンを思い浮かべる人も多いだろう。アブラヤシから取れる植物性のオイルで、液体でも固体でも扱いやすい性質から出荷量の71%が食品に、24%が洗剤・芳香剤などに使われている。主な産出国はインドネシアとマレーシアで、この2国で世界の出荷量のほぼ100%となる。

パーム油は単位あたりの脂抽出量が多いのも特徴で、インドネシアとマレーシアでは現在プランテーションでのアブラヤシ栽培が盛んだ。2国ともそれまで栽培していた天然ゴムからは2000年に入ってからアブラヤシに切り替え、世界的な需要の高まりを受けて売上高が3倍程度に伸びているという。

産出国にとっては売上が伸びることで国が豊かになるというメリットがある半面、農地拡大による森林伐採とアブラヤシからパーム油を搾取したあとの廃液(残りかす)が重大な環境問題になっている。この問題は、COP23(国連気候変動枠組条約第23回締約国会議)でも取り上げられたので知っている読者もいるかもしれない。

森林伐採については各国政府が計画性をもって農地の拡大に制限を設けるべきだが、パーム油廃液(パームオイル生産工場廃液、Palm Oil Mill Effluent)の処理については悩ましい問題となっている。というのも、パーム油廃液をそのまま河川や海に流すと富栄養化によるプランクトンの大量発生など引き起こすからだ。

そのためパーム油の生成工場ではパーム油廃液を専用の池に流し込み、水に油が浮く性質を利用して上澄みを除去することで油分を回収する作業が必須だ。この作業を4回程度繰り返したあとに河川や海に放流するのだが、放流するまでにかかる日数は50日程度と長い。また、上澄み液については肥料としての使い道があるものの、廃液処理の最中にCO2やCH4(メタンガス)が発生するほか、温室効果ガスであるとともにオゾン層破壊物質であるN2O(亜酸化窒素)も生み出してしまう。パーム油の世界的な需要の高まりの裏で、深刻な環境破壊が問題になっているのだ。

前置きが長くなったが、今回紹介するのは茨城県つくば市を拠点とするMoBiolというスタートアップ。同社は筑波大学の藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センターでセンター長を務める渡邉 信教授の研究成果を社会実装したテクノロジーを利用して、このパーム油廃液問題の解決に取り組んでいる。

写真に向かって左から、MoBiolの高田大地氏、同社代表取締役を務める筑波大学の渡邉 信教授

渡邉教授は、国立環境研究所で赤潮問題などを研究していた藻類のスペシャリスト。同教授は自身のこれまでの研究を「規制をかけるための実験、つまりどのような影響や問題が出てくるかという研究が多かった」と振り返る。そして「問題提起のみで解決策を示さない研究だけでは人生に悔いが残る思った」と続ける。MoBiolはそんな渡邉教授の研究が地球規模の環境問題を解決する手段として社会実装されるわけだ。

渡邉教授は藻類のスペシャリスト

実は藻類からエネルギーなどを生み出す研究は学会でも過去に何回かブームになったそうで、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が130億円を投資したプロジェクトもあったが、実用化のメドが立たず2000年代に終了してしまったという。その後の藻類人気は下火なっていたが、近年SDGs(持続可能な開発目標)というキーワードをもと、産業界で環境問題を考える機運が高まったことから渡邉教授は自身の研究を加速させたそうだ。そんなとき、後に渡邉教授と共同でMoBiolの代表取締役を務めることになる中島敏秀氏を出会い、自らの研究成果の社会実装の道が開けたという。

渡邉教授の研究室にある試験プラント

渡邉教授が見つけ出した藻類を特殊な方法でパーム油廃液に投入することで、その藻類がパーム油廃液を栄養素として取り込んでDHAを排出する。この藻類によるパーム油廃液の処理時間はたった2~4日で、専用池を使った処理方法に比べてオゾン層破壊物質を産出しないほか、処理時間は大幅に短縮される。もちろん、パーム油廃液を摂取した藻類からDHAを取り出す技術もMobioilが保有している。同社はこれら一連の技術の国際特許を取得済みであり、現在追加で一部を申請中とのこと。ちなみに、藻類はこれまで約4万種が確認されているが、実際には1000万種類以上にいると推定されるほど多種多様とのこと。藻類を長年研究してきたからこそ、廃液処理に適した藻類を見つけ出せたといえるだろう。

  1. Dryalgae_spraydryer

  2. Dryalgae_Sample

  3. Dryalge_Microscope


藻類が生み出すDHAとはもちろん、ドコサヘキサエン酸のこと。人間に必須の栄養素で、EPA(エイコサペンタエン酸)とともにオメガ3とも言われている不飽和脂肪酸だ。人体では生成できないことから、EPA-DHAを多く含む青魚を摂取したり、これらを含んだ健康食品を利用したりして体内に取り込む必要がある。EUでは、DHAを1日100mg摂取することで乳幼児の正常な視力に発達に寄与するという研究結果などから、乳幼児用ミルクにDHAを入れることを義務化する動きを見せている。

インドネシアにあるテストプラント

同社ではすでにテストプラントを建設済みで、2年以内にDHAの供給元として事業を展開する計画を進めている。すでにテストプラントからはDHAの原料となる乾燥藻の取り出しに成功しており、商用培養プラントおよび抽出プラントを設置、事業化を急ピッチで進める予定だ。その背景には、日々深刻化していくパーム油廃液の問題が念頭にある。渡邉教授は「MoBiolが利用する藻類を使うことで、パーム油廃液では2万~6万ppmほどになるBOD(Biochemical Oxygen Demand、生物化学的酸素要求量)を2000~5000ppmまで落とせる」と語る。この2000~5000ppmというのがMoBiolの藻類が栄養素を摂取してBODを落とせる限界だそうだ。「そこから従来の専用池の処理方法を併用してBODを100以下にしてから池から川へ放流するが、今後はこの2000~5000のBODの処理水までも別の藻類を使って安価かつ環境に優しい方法で処理する方法を考えたい」と渡邉教授。

MoBiolの技術を使えば、パーム油の生産者にとってもこれまでは厄介者で処理にコストと手間がかかったパーム油廃液を、DHAを生み出す栄養素として販売できることで、経営基盤の強化や低賃金労働者の給与アップが可能になるのだ。

Y CombinatorのW20デモデーに参加したスタートアップ(ヘルスケア、バイオテック、フィンテック、非営利団体)

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に対する懸念が高まる中、Y Combinator(Yコンビネーター)はこれまで慣れ親しんできた2日間にわたる米国サンフランシスコでの会合からイベントの開催方式を切り替え、デモデーのウェブサイトを通じて、招待された投資家とメディアにクラス全体を同時公開する方法で開催することを決定した。

さらに驚きなのが、投資家の動きが加速してきた事実を受け、YCがデモデー開催日を1週間前倒しにしたことだ。このため、デモデーのウェブサイトに録画したプレゼンを掲載するというプランは変更せざるをえなくなり、各事業は代わりにスライドに事業概要、今後の見通し、チームの経歴などの説明をまとめてプレゼンを行った。急速に進化する投資環境と相まって、この新たなスタイルがこのクラスにどのように影響するかは今のところはわからない。

プレゼンやウェブサイトのほか、場合によっては以前の記事から収集した情報をもとに、我々が集めたそれぞれのクラスの各事業のメモをまとめてみた。

読みやすさを優先し、全事業をすべて羅列するのではなくカテゴリー別にまとめている。今回はヘルスケア、バイオテック、フィンテック、非営利団体だ。ほかのカテゴリー(B2B、コンシューマー、ロボティクスなど)に関してはこちらから読むことができる。

ヘルスケアとバイオテック

Simple Strips
専用の血糖値計を必要とせず、スマートフォンのカメラで読み取り可能なストリップを開発し、グルコース検査を安価により多くの人に提供することを目指している。同社は6月にこのストリップのFDAの認可申請を行う予定とのこと。

nplex biosciences
新薬開発に必要なタンパク質パネルの評価を迅速、安価に実施する方法を提供。大手製薬会社を含め400万ドル(約4万3千円)以上の基本合意書が予定されている。

Healthlane
アフリカのユーザー向けに医師とのコミュニケーション、予約、検査結果の追跡を支援するアプリ。すでに採算が取れており、顧客定着率は98%とのこと。

Breathe Well-being
インドの慢性疾患(糖尿病など)のあるユーザー向けに減量をサポートする16週間のプログラム。同社は体重、食事、活動などを記録し、認知行動療法でストレス軽減の指導を行う糖尿病の個人指導を提供する。現在のMRR(月間定額収益)は1万1200ドル(約120万円)。

Dropprint Genomics
個々の細胞活動の解析時間とコストを削減できる「シングルセルゲノミクス」ソフトウェアで創薬を支援。同社は2か月で100万ドル(約1億840万円)以上の基本合意書を締結した。

Newman’s
インドネシアの男性向けデジタル診療所。同社は恥ずかしく感じる悩み(毛髪の悩み、勃起不全)や途中で放棄されることが多い問題(禁煙)に特化し、遠隔受診を通じてより容易、安価、内密に診断を受けることを可能にする。Newman’sについて以前書かれた記事はこちら

Menten AI
同社は「量子コンピューティングと機械学習」を合成生物学と組み合せて新しいタンパク質性製剤を開発しているという。

Loop Health
Loop Healthによるとインドの健康保険の大半が「入院のみカバー、通院は適用外」である。同社は専用の「Loop Healthクリニック」への無制限のアクセスとアプリを利用した遠隔医療を提供し、この状況の改善を目指している。

Synapsica Healthcare
「AIレポート作成アシスタント」。現在脊椎MRIに注力している同社では、測定の注釈と椎間板変性症の所見を自動的に行うことで放射線医師のレポート作成時間の80%を削減する。同社によれば現在10万ドル(約1083万円)を投資した放射線医学でのパイロットプログラムは250のカイロプラクティック・クリニックに選ばれているとのこと。

Volumetric
Volumetricは血管新生化されたヒト組織を作成する3Dバイオプリンターを製造している。2人の博士により創設された同社は製薬会社や科学者向けに感光性組織を販売している。同社は機能性組織、さらには臓器まで生成できるバイオプリンターとバイオインクの製造に資金を投じている。Volumetricについて以前書かれた記事はこちら

Ophelia
Opheliaは米国の300万人のオピオイド依存症患者に遠隔医療でリハビリの代替治療を提供している。同システムでは、患者は遠隔医療で受診し、発行された処方箋でブプレノルフィン/ナロキソンなどの治療薬を配達してもらい、偏見にさらされることなく治療を受けられる。創設者は長年のガールフレンドがオピオイド依存症で亡くなった後、同社を立ち上げた。Opheliaはこれまでに40人の患者の治療に当たってきた。

Lilia
「将来、女性は卒業記念に卵子凍結するだろう」と主張するLiliaは、卵子凍結保存コンシェルジェ・サービスだ。このスタートアップ企業はコンシェルジュサービスに500ドル(約5万4千円)、クリニックでの体外受精時にさらに500ドル(約5万4千円)の支払いを受ける。Liliaによれば総市場規模は330億ドル(約3兆5760億円)だという。

Equator Therapeutics
同社はエクササイズをすることなくカロリー燃焼を手助けする薬品を開発している。アンチエイジング薬品を開発する企業での経歴を持つ2人の博士とデータサイエンティストによって創設されたEquator Therapeuticsは、肥満と2型糖尿病の人々をターゲットにしている。

Altay Therapeutics
サンフランシスコのBayer Collaborator内にあるAltay Therapeuticsは、病気を引き起こすDNA結合タンパク質(転写調節因子)をブロックする小分子療法を開発した。同社の初回治療は関節炎、線維症、潰瘍性大腸炎、肝癌に焦点を合わせている。

Tambua Health
Tambua Healthは「耳で聞く」聴診器と高度なイメージングが可能な独自のソフトウェアを使って、X線を照射することなく肺を画像化する。

Abalone Bio
ライフサイエンス領域のシリアルアントレプレナーによって創設されたAbalone Bioは、数十億の抗体バリアントを発現する酵母細胞のライブラリを使って、薬品の対象を活性化したり阻害できる特定の抗体を生成している。遺伝子配列、機械学習、合成生物学を活用して抗体の組み換えタンパク質を作成し、その有効性をヒト細胞アッセイで確認している。同社は痛み、炎症性疾患、希少癌、希少腎臓病の治療薬を皮切りとしてターゲットにしている。

Felix Biotechnology
イェール大学の著名な研究者であるPaul Turner氏によって創設されたFelix Biotechnologiesは、抗生物質の効かないバクテリアと菌類に対する治療法を開発している。同社によると、これらの病原体は米国だけで毎年280万件の感染症例と3万5000件の死亡例を引き起こしている。平均すれば、米国で15分に1人が抗生物質抵抗性の感染症により死亡していることになる。2050年までに抗生物質抵抗性による死亡者は癌による死亡者を上回るとの警告が、すでに研究者から出されている。

Genecis Bioindustries
同社は食品廃棄物を生分解性プラスチックに変えている。Genecisについて以前書かれた記事はこちら

Candid Health
Candid Healthは保険会社への手続きを行い拒絶された申請に自動的に不服申し立てを行う、ヘルスケア業界向けの自動請求ソフトウェアを開発した。同社は支払いの5%を徴収する。

Ochre Bio
Ochreによれば臓器提供された肝臓はその数が不足しているにも関わらず多くが廃棄されているらしい。脂肪が多すぎて移植が成功しないためだ。同社は移植の前に処置を施す方法を見つけることで「肝臓を体外で若返らせる」ことを目指している。

フィンテック

Facio
ブラジルの銀行は問題を抱えている。五大銀行が市場を寡占しており、手続きは遅くカスタマーサービスは最悪で、実質金利は高く中小企業は相手にしない。Facioは負債の餌食になることから労働者を守り、従業員向けの低金利の短期ローンで経済的自由を提供することを目指している。これは雇用者と一体になって給与から直接ローン返済額を天引きする仕組みだ。

delt.ai
Delt.aiはサービスを受けにくいメキシコの中小企業とフリーランス向けに支払い、請求、コーポレートカードを取り扱うデジタル銀行だ。このスタートアップはラテンアメリカの500憶ドル(約5兆4190億円)を上回る企業預金市場をターゲットにしている。Delt.aiはラテンアメリカをターゲットにしたBrexやMercuryだ。

Nexu
ラテンアメリカのほかの多くのパーソナルファイナンス業務と同様に、自動車金融は割高でローテクな、気の遠くなる手続きだ。ラテンアメリカの自動車販売代理店向けファイナンス・プラットフォームであるNexuは、動的な信用評価を使って自動車購入者にわずか数秒でローンの承認を与える。創設者チームの出会いは、ウォートン校のMBA在学中だった。

Fondeadora
Fondeadoraは飽和状態のメキシコのフィンテックシーンに、従来の銀行に代わるネオバンクデビットカードで参入する。同社はアプリで取引ができる完全モバイルのデジタル預金口座を提供する。同社には6万5000人のユーザーと650万ドル(約7億450万円)の月間取引がある。メキシコのもう一つのデビットカードであるAlboは、現在、プラットフォーム上で取引を行う月間20万人のアクティブカスタマーのシェアを持ち、2600万ドル(約28億1780万円)の資金を調達している。メキシコの銀行は、複数のスタートアップを大成させるのに十分な問題を抱えている。メキシコの人口1憶3000万人の45%は銀行口座を持たない。つまり借入と貯蓄により資産を形成するための金融商品を持たないのだ。

Jenfi
アジアの小規模事業に収益に応じて通常1万ドル~10万ドル(約108万円〜約1080万円)の資金を貸し出している。Jenfiに関しては以前にもこの記事で伝えている。

yBANQ
インドの大規模B2B企業向け代金回収・会計調整システム。同社によれば1月下旬の立ち上げからすでに18社の顧客を獲得し、流通取引総額は約1万8000ドル(約195万円)に達している。

ZeFi
米ドルによる預金と「ステーブルコイン」暗号通貨を内部的に換金する預金口座。ZeFiが換金された資金を貸し付けて利息を得る仕組みだ。

Grain
Grainは既存のデビットカードを「責任のある」クレジット金額(現在は収入やキャッシュフローに応じて上限500ドル(約5万4千円))に結びつける。長期間にわたって信用情報の信用評価が最小あるいは不良になっている人の援助になることを目指している。同社によれば立ち上げから3か月で1000人の顧客と契約し、顧客当たり年間約80ドル(約8600円)の収入が想定されている。

CrowdForce
アフリカで地域の商店主を銀行の支店として活用し、銀行が遠距離にしかない場合に取引の仲介を行う。同社によれば先月の純収益は7万ドル(約760万円)で、顧客当たり年間平均20ドル(約2170円)ほどの収益がある。

Stark Bank
ブラジルのテクノロジー企業向けのB2B取引を取り扱うバンキングAPI。同社は立ち上げから1年あまりで1200万ドル(約13億円)の月間総取引額を見越している。

Bamboo
世界中の有価証券を購入するアフリカの富裕層向けのオンライン仲買業務。同社によればおよそ5か月前の立ち上げからすでに2100人を超える投資家を集め160万ドル(約1億7340万円)以上の取引がプラットフォーム上で行われているという。現在の月間収益は1万ドル(約108万円)を超える。

Swipe
「アフリカのBrex」を自称するSwipeは、アフリカの中小企業に給与と支出をカバーするクレジットカードを提供している。無料の経費・請求ツールを提供することからビジネスを始め、次いでクレジットカードを提供した。現在顧客は30社、発行したクレジットカードで2万ドル(約216万円)の取引が行われている。

goDutch
ルームメイトなど、請求書をシェアしているグループ内で費用を分割できる支払いカードだ。インドに注力している。代金は1枚のカードに課金され、それぞれのグループメンバーの口座から自動で引き落としが行われる。

Paymobil
Venmo式のアプリで暗号通貨のステーブルコインを使って世界中に送金するシステム。創設者のDaniel Nordh氏はCoinbaseでカスタマーデザインを率いた経歴を持つ。

Karat
Karatは銀行業務、ローン、クレジットカードをインフルエンサーに提供している。同社は彼らの人気度のデータをリスク管理に活用して、ローンの実質金利40%を達成し、平均返済期間は45日だ。創設者のInstagramでのインフルエンサー・ツール構築とゴールドマン・サックスでの債務の構成の経験により、すでに1000万を超えるフォロワーを持つスターたちと契約を結んでいる。

Homestead
Homesteadは自宅を所有する人向けに初期費用なしでガレージの賃貸物件への転用をサポートする。工事、入居者捜し、管理の費用はHomesteadが負担し、賃貸収入を所有者と分配する。カリフォルニア州の新しい法律では、州内の800万のガレージを居住スペースとして賃貸できるようになり、巨大な市場機会が生まれている。Homesteadの創設者たちはマサチューセッツ工科大学の建設・都市計画大学院で出会った。すでに100万ドル(約1億840万円)の売り上げを上げてげているスタートアップである。

Benepass
Benepassはスタートアップと小規模企業向けに福利厚生カードを提供している。従業員はBenepassデビットカードで支払いをすると税制優遇と、医療費支出口座、子育て、通勤、フィットネスや教育などの福利厚生特典を受けられる。購買履歴はアプリに記録される。雇用者には無料で提供されているがBenepassのテイクレートは6%だ。それでも何千ドルもの所得税と給与税を節税できる。優秀な人材の獲得をめぐって大手のテクノロジー企業と競っているスタートアップには、Benepassで従業員に大きなサポートを実感させることができる。

GAS POS
米国のガソリンスタンドオーナーは、コンピューターチップを搭載したクレジットカードの国際標準であるEMVテクノロジーを採用し、給油ポンプのアップグレードを競っている。GAS POSは北米の18万のガソリンスタンドがEMVを導入してセキュアな取引を行うための最新のPOSシステムを提供するために創設された。同社にはいくつかの収益源があり、支払い処理金額の3%の手数料、機器購入者への無料のSaaS、顧客に提供される翌日資金調達サービスがある。

YearEnd
YearEndは数字の上ではリッチな人向けの税務ソフトウェアを開発し、顧客の株式を最適化してスタートアップの従業員の税務申告を支援している。 このスタートアップは個人ユーザーに年間330ドル(約3万6千円)を課金し、YearEndを従業員手当として導入したい企業に売り込んでいる。

GIGI Benefits
インドのGIGI Benefitsは同国のギグエコノミーワーカー向けの福利厚生プロバイダーを目指している。この事業は昨年最もホットなY CombinatorスタートアップのCatch、ベンチャーキャピタルの支援を受けたTrupoなどの事業を手本に、健康保険や退職資金口座などをギグエコノミーワーカーに提供している。

Easyplan
Easyplanはインド版のQapitalやDigitとして、ユーザーが具体的な目標に向けてシームレスに貯蓄を行えるようにしている。

Haven
Havenは住宅ローンサービスの次世代プラットフォームだ。最新のカスタマーインターフェース、貸し手向けのより優れた払いモデルなどを提供している。

WorkPay
WorkPayは「アフリカのGusto」を名乗る、当地の中小企業をターゲットとした次世代型の給与・関連サービスだ。

Spenny
Spennyはインドの消費者向け貯蓄ツールで、購入額の端数を切り上げて貯蓄に回すことで顧客は貯蓄を始めることができる。

Kosh
Koshはアルゴリズムで強化されたインド向け貯蓄・投資プラットフォームで、良好な信用評価を持つ人が評価の低い友人を実質的に保証することで借り入れを支援するシステムだ。

非営利団体

Potential
Potentialは服役した過去のある人を仕事や生活資源に結びつけたいと願う非営利団体だ。同社は拘置所と雇用団体と連携し、より人に優しい雇用環境を作ろうとしている。