ユーザーが修理可能なノートPCで注目を浴びたFrameworkが製品ラインナップの拡大を計画中

2021年11月、Apple(アップル)は「Self Service Repair(セルフサービスリペア)」プログラムを開始すると発表した。これまで個人による修理を認定していなかった同社にとって、これは驚くべきことだ。もちろん、このような変化が何もないところで起こったわけではない。米国では大統領も議会も、いわゆる「修理する権利」を開放するよう働きかけてきた。その理由は、消費者の選択を増やすためや持続可能性への配慮など、いくつもある。

しかし、かつての抵抗勢力だった企業がこの変化を受け入れ始めたとしても、修理できる可能性をユーザーに開放することと、製品を実際にユーザーが修理できるようにすることでは異なる。近年の家電製品は薄型化が進み、ますます専門家でなければ修理することが困難になっている。

元アップルやOculus(オキュラス)・Facebook(フェイスブック)のエンジニアだったNirav Patel(ニラブ・パテル)氏が2019年後半に設立したFramework(フレームワーク)という会社は、修理可能性を製品設計の重要な機能として位置づけることに注力する、急成長中のハードウェアスタートアップの1つだ。米国時間2月1日、同社は1800万ドル(約2億円)のシリーズA資金調達を発表したが、これはそのミッションの正当性を証明するものだと宣伝している。

画像クレジット:Framework

「私たちの使命とFramework Laptop(フレームワーク・ラップトップ)に対するみなさまの多大かつ迅速な関心は、私たちが正しい道を歩んでいることを明白にしてくれました」と、パテル氏は資金調達を発表したリリースで述べている。「この業界では、長く使えるように設計されたパーソナルな製品が、以前から高く必要とされています。このことは、私たちだけでなく、誰にとっても明らかであり、Spark(スパーク)社のパートナーもそれを確信しています」。

パテル氏によれば、今回のラウンドを主導したSpark Capital(スパーク・キャピタル)は、OculusのシリーズA資金調達も主導していたという。この投資により、SparkのゼネラルパートナーであるKevin Thau(ケビン・トー)氏がFrameworkの取締役に就任した。他にシード投資家のPathbreaker Ventures(パスブレーカー・ベンチャーズ)、Anorak Ventures(アノラック・ベンチャーズ)、Formic Ventures(フォーミック・ベンチャーズ)もこのラウンドに参加した。パテル氏は、ベイエリアを拠点とするFrameworkが「会社の存続のために投資家の資金が必要だった」わけではなく「アップグレード、カスタマイズ、修理をより多くのコンシューマーエレクトロニクスに提供する」ための製品ラインナップの拡大に、この資金を使うと述べている。

それが、どのようなカテゴリーになるのかは明らかにされていないものの、同社はすでに今後2年間のロードマップを作成しているという。スマートフォンは、その一般性の高さから、妥当な判断だと思われるが、最近の市場はノートパソコンよりもさらに飽和状態にある。アムステルダムを拠点とするFairphone(フェアフォン)は、2021年「Fairphone 4」をリリースするなど、積極的にこの市場をターゲットにしている。

今回の追加資金は、Frameworkの人員増強に充てられる。ユーザーによる修理が可能であるという魅力が、比較的ニッチな顧客層を超えて十分に関心を集められるかどうかは、まだわからない。同社より大きないくつかの企業が、修理可能性の実現に向けて一定の成果を上げているものの、多くの大企業がFrameworkやFairphoneと同じようにオープンな設計に取り組むことは、おそらくないだろう。

画像クレジット:Framework

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

アップル、自分でiPhoneやMacを修理するための純正パーツ・ツールを提供するプログラムを発表

Apple(アップル)からうれしい、そして予想外のアップデートがあった。同社は、ユーザーが自宅でデバイスの一般的な修理を行えるようにするための新しいプログラム「Self Service Repair」を発表した。このプログラムでは、故障したデバイスを持っているユーザーに、同社のGenius Bar(ジーニアスバー)で使用しているものと同じ「Apple純正」のツールや部品が提供される。

また、新しいApple Self Service Repair Online Storeでは、オンラインの修理マニュアル(動画ではなくテキスト)を提供する。これは、同社が独立系修理業者(現在、米国内に2800社とApple正規サービスプロバイダー5000社が存在)向けに、ディスプレイ、バッテリー、カメラの修理を中心にiPhone 12と13から展開してきたものと似ている。また、M1Mac向けの同様のサービスも「間もなく」開始する予定だ。

COOのJeff Williams(ジェフ・ウィリアムズ)氏は今回の発表のリリースの中で「Apple純正部品へのアクセスを拡大することで、修理が必要になった際の顧客の選択肢がさらに広がります」と述べている。「Appleは過去3年間で、Apple純正部品、ツール、トレーニングを利用できるサービス拠点の数を約2倍に増やしてきましたが、今回、自分で修理をしたい人のための選択肢を提供します」。

Appleは具体的な価格をまだ公表していないが、顧客が破損した部品をリサイクルのために郵送した場合、最終的な価格に対するクレジットを得る。2022年初めに米国でサービスを開始する際には、約200種類の部品やツールを提供する予定だ。修理作業を自宅で行っても機器の保証は無効にはならないが、修理の過程でさらに製品を破損させてしまった場合は無効になるかもしれない。なのでマニュアルをしっかりと読んだ方がいい。これらを確認した上で、Apple Self Service Repair Online Storeから部品を購入できる。

今回のニュースは、修理する権利の法制化を求める動きが強まっている中でのものだ。これには家電業界の一部の大物が反対している。米議会図書館は最近、ユーザーによる修理を妨げるDMCA(デジタルミレニアム著作権法)の適用除外を承認した。「違法な修理制限に対処するために、FTC(米連邦取引委員会)は法的権限に基づいて、適切な法執行や規制、消費者教育などの選択肢を追求していく」と記されたFTCの5月の議会への書簡を受けて、大統領までもがこの問題に取り組んでいる。FTCはまた、消費者が購入・所有した製品を修理する際の選択肢を確保するために、州または連邦レベルで議員と協力する用意がある、としている。

修理できるようにすることを支持する人たちは、計画的な陳腐化による価格負担の軽減や、E-waste(廃棄物)に関する世界的な関心の高まりなど、多くの問題を挙げているが、後者は過去数年間にわたってAppleが取り組んできた問題でもある。スマートフォンの技術が高度化するにつれ、家庭での修理がますます困難になっている。バッテリー交換が可能だった時代からは程遠い状況だ。こうした中、ユーザーの修理性を前面に押し出したFairphoneのようなブティック系の製品が生まれた。

Appleの新しいプログラムは、2022年以降、さらに多くの国で展開される予定だ。それでも同社は明らかに、状況が許す限りユーザーに正規販売店での修理を奨励しているが(特にAppleCare+に加入している場合)、自分の手で解決したいと考える多くのユーザーにとっては、これはすばらしい一歩となる。

画像クレジット:Apple

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(文:Brian Heater、翻訳:Nariko Mizoguchi

月額料金で新品または再生品のSIMフリー端末をリースするスマホサブスサービスの英Raylo

英国を拠点とし、スマホサブスクリプションサービスを展開するスタートアップ企業Raylo(レイロ―)は、Octopus Ventures(オクトパスベンチャーズ)が主導するシリーズAラウンドで1150万ドル(約12億7000万円)を調達した。

今回の資金調達は、2020年の債務による資金調達に続くもので、2019年の創業以来、Rayloが調達した金額は株式発行と債務による調達を合計して4000万ドル(約44億円)になる。同社には、Macquarie Group(マッコーリーグループ)、Carphone Warehouse(カーフォンウェアハウス)のGuy Johnson(ガイ・ジョンソン)氏、Funding Circle(ファンディングサークル)の共同設立者なども投資を行っている。

調達した資金は「消費者がスマートフォンを所有するのではなく、月額料金を支払って新品または再生品のSIMフリーデバイスをリースする」サブスクリプションサービスの強化のために使用される。

Rayloによると、顧客数と売上高は前年同期比で10倍の伸びを示しており、今回の調達で、従業員の倍増やさらなる技術開発など、英国における成長の加速を計画しているという。将来的にはグローバルに展開することも示唆しているが、現時点では英国を軸に着実に成長したいという考えだ。

Rayloを通じた最新スマートフォンの購入では、契約終了時のハードウェアの所有権移転をともなわないので、ユーザーは希望小売価格よりも安い価格でスマートフォンを利用することができる。

環境への配慮はさることながら、数年前から10万円を超えているiPhoneの最上位機種のようなプレミアムスマホの価格を考えると、希望小売価格よりも安い価格というのはますます重要なポイントになるかもしれない。

さらに、スマートフォンに大金を支払える消費者はそれほど多くはないという事実もある。リースや返却という手段は、そのようなユーザーに高額なハイエンドモデルを利用する方法を提供する。

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一般的なRayloのサービスでは、ユーザーは12カ月または24カ月の契約期間終了後にデバイスを返却し、返却されたデバイスは2~3回リサイクルされて他のユーザーに利用される。

Rayloによれば、返却されたデバイスは同社のパートナーによってリサイクルされる。通信事業者による販売では、消費者は使用しなくなった古いデバイスを引き出しにしまい、デバイスが持つ潜在的な有用性を無駄にしてしまうのに対し、Rayloのサービスでは、デバイスを長く使うことで持続可能性を促進する循環型モデルを構築できるとしている。

使わなくなったデバイスを家族に譲ったり、売却や下取りに出したりする人も少なくないが、Rayloによれば、英国では約1億2500万台のスマートフォンが使われずに「冬眠」しているという。スマホユーザーの多くが、スマートフォンの第二の人生を気にしていないということだ。

Rayloは、1台の定額制リースを6~7年間で3人のユーザーに利用してもらえると考えている。これが実現すれば、英国でのスマートフォンの平均寿命(2.31年)は約2倍になる。

できるだけ長期間利用できるように、Rayloのすべてのスマートフォンにはケースと液晶保護フィルムが無料で提供される。

ユーザーは、リースされたスマートフォンを傷つけたり、高額な修理代や返却できなくなったりした際の料金をカバーできるように、保険に加入するかどうかを検討する必要がある。Rayloは、独自のデバイス保険をオプションとして販売しており、保険に加入すると月額料金は少し高くなる。

Rayloのサービスは通信事業者のサブスクリプションプランと競合するが、同社はリース方式の方が安いと主張する。契約終了の際、消費者はデバイスの所有権を持たない(すなわち、他の場所で売ったり下取りしてもらったりできる権利が付与されない)ので、当然といえば当然である。

契約終了時にデバイスを返却したくない(あるいは返却できない)場合、ユーザーはノンリターン(返却不可)料金を支払うが、この料金はスマートフォンの種類やリース期間によって異なる。例えばSmsungの「Galaxy S21 Ultra 5G」や「iPhone 12 Pro Max」(いずれも512GBモデル)を12カ月間使用した場合など、プレミアムモデルのノンリターン料金は600ポンド(約9万円)以上になることもある。

一方、契約終了後もアップグレードせずに同じデバイスを使い続けたい場合は、通常の月額料金を最長36カ月まで継続して支払うことが可能で、ノンリターン料金は1ポンド(約150円)になる。

Rayloのリースデバイスにはすべて24カ月間の保証が付いており、ユーザーによる破損や事故に起因しない故障については無償で修理を行い、修理ができない場合は代替機を提供するとしている。

今回のシリーズAラウンドについて、Octopus Venturesのアーリーステージフィンテック投資家であるTosin Agbabiaka(トーシン・アグバビアカ)氏は、声明の中で次のように述べる。「サブスクリプションエコノミーによって、商品やサービスへのアクセスは急速に変化しています。しかし、個人にとって最も価値のあるデバイスであるスマートフォンに関しては、消費者は所有権一体型のサービスの利用を余儀なくされています。ほとんどの人が買っては捨て、買っては捨てのサイクルに陥っていて、経済的にも環境的にも大きな負担となっています」。

「Rayloは、多くの消費者にプレミアムスマホを低価格のサブスクリプション料金で提供し、最新技術を利用できるようにすることでこの問題を解決します。一度使用された機器を再利用する同社のサービスは、この市場において消費者に支持される持続可能な選択肢となります。この市場には大きなチャンスがあります。私たちは、(Rayloの共同設立者の)Karl Gilbert(カール・ギルバート)氏、Richard Fulton(リチャード・フルトン)氏、Jinden Badesha(ジンデン・バデシャ)氏の3人には、スマートフォンの提供方法を進化させるビジョンと深い専門知識があると信じています」。

近年、ヨーロッパでは、多くの再生電子機器ビジネスが投資家の注目を集めており、欧州委員会でも「修理する権利」法の制定が検討されている。

この分野で最近行われた資金調達には、フランスの再生品市場スタートアップ「Back Market(バックマーケット)」の3億3500万ドル(約369億円)、ベルリンを拠点とする「Grover(グローバー)」の電子機器サブスクリプション事業に対する7,100万ドル(約79億円)、フィンランドを拠点とし、中古iPhoneの再生・販売を行う「Swappie(スワッピー)」の4,060万ドル(約45億円)などが挙げられる。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

FTCがビッグテックの聖域「不法な修理制限」の調査と政策立案を開始

スマートフォンやその他の消費者製品が機能を増していくにつれて、それらはますます修理しづらいものになっていく。その不名誉な集団のトップにいるのがApple(アップル)だ。FTCもこの点に留意し、同機関がこの問題に関して手ぬるかったことを認めているが、しかし今後は、消費者が自分の所有物を修理、改造、および再利用するやり方に対する企業の違法な制限をより重視していく、と言っている。

現在のデバイスは、容易な修理や改造への配慮なく作られていることが多く、かつては定番だったRAMの増設や電池交換などのアップグレードさえできない製品もある。Appleのような企業は、ある部分に関してはハードウェアを長期にサポートしていることが多いが、ただし、たとえば画面の破損に対応するとはいっても、その修理をしてもよいのは、メーカー自身に限られている。

それは多くの点で問題だ。iFixitの創業者で修理する権利の活動家であるKyle Wiens(カイル・ウィーンズ)氏は、活動声明を誇らしげにブログに載せるだけでなく、この問題に関して長年、一貫して闘ってきた。FTCはこの問題に関するコメントを2019年に募集し、数カ月前に報告書を発行した。そして今回発表したのは政策声明だ。これらはおそらく新委員長Lina Khan(リナ・カーン)氏の、ビッグテック企業の姿勢を正すためなら何でもやる、という方針の表れだろう。

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全会一致で可決された政策声明の骨子は、修理を意図的に制限する慣行は重大な結果を招きかねないとする所見だ。被害が及ぶのは例えばかつては簡単な修理で済み、今でもそうであるべき故障の修復に対して、お金のない人でも一律に払わなければならないアップル税が、そんな問題の1つの例だ。

修理の制限に関する委員会の報告書は、これらの問題を数多く探究および議論して、修理の制限が家族や企業にもたらしている苦難を記述している。委員会が懸念するのは、この重責を負担する者が有色や低所得に代表される、恵まれない人びとのコミュニティであることである。テクノロジーへの依存がかつてなく大きくなっている消費者社会においては、パンデミックがこれらの負の効果をさらに激化している。

不法な修理制約は長年、委員会が優先する執行事項ではなかったが、委員会はこのたび、これらの慣行と闘うために、より多くの執行原資を投ずることになった。したがって今回委員会は、関連法に基づいて、不法な修理制限に対する調査を優先する。

そして声明は、4つの基本点を挙げている。まずそれは、不法で問題ある修理制限と感取されるものを消費者やその他の公共団体が報告し、その性格を明らかにする必要性を、改めて繰り返している。FTC自身が自発的に企業に出向いて調査するのではなく、Facebookによるユーザーデータの誤用の場合のように、当事者の苦情から調査などが始まる。

第2は、意外にも反トラストとの関係だ。FTCによると、修理制約が、消費者を特定の排他的なデザインに束縛する独占的な慣行の一部ではないか、検討する必要がある。それには、消費者による自由なアップグレードを拒否したり、ストレージやRAMの増設で法外な料金を請求したり、競争がありえないほどの設計やデザインにしてしまうなどの慣行が関与している。あるいはまた、ねじ1つ取り外しただけで保証対象外にされたり、デバイスをサードパーティの修理に持ち込むことを禁じたりすることも、この問題の関連項だ。もちろんこれらに関しては、企業の独占状態や市場力の確立との関係が立証されなければならない。それは従来FTCにとって、困難な課題だった。

第3に、商行為に対するFTCの通常の規制としては、修理制約が「不公正な行為ないし慣行」であるかを評価する。それは、独占とは特に関係なく、範囲が広くて応じることも容易な要求だ。「オープン・スタンダード」が人に誤った印象を与えることを主張するのに、独占は必要ない。あるいは、サードパーティアプリや周辺機器の動作を遅くするための隠された設定がある、という主張に対しても、独占を持ち出すことはない。

委員会が言及している最後の4つ目の項目は、新しい規制や法律を施行するために必要な州との協力だ。それは、2020年マサチューセッツ州で成立した先駆的な法律「修理権法」に言及しているのだろう。今後の失敗も成功もすべて考慮の対象となり、国と州の政策立案者らが、互いを比較しあうことになる。

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こういう動きは前にもあったが、でも、いちばんわかりやすいのが今回だろう。これまでのテクノロジー企業は壁に書かれた落書きを読まされ、独立の修理プログラムの拡張みたいなことをやってきたが、しかし今回のアクションは、この問題に対するFTCの強硬路線が期待されている中で作成された政策声明だ。

FTCはここで、手の内をすべて明かしてはいない。しかし、関連する企業がこれまでのような運を信じて卓につく気なら、お相手しましょうと言っている。今後委員会は、消費者の苦情の収集と消化を開始し、修理の状況がよく分かってくれば、その手の内ももっと具体的になるだろう。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:FTC修理する権利

画像クレジット:boonchai wedmakawand/Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

アップル共同創業者ウォズニアック氏が「修理する権利のおかげでアップルが創業できた」と明かす

アップル共同創業者ウォズニアック氏が明かす、「アップルが創業できた理由」とは?

米国で「修復する権利」、つまりユーザーが自ら選んだ方法で(主にメーカー非公認の修理業者に持ち込んで)購入した製品を修理できる権利を法案化する運動が盛り上がりを見せており、ジョー・バイデン大統領もそれを後押しする動きを見せているほどです。それを阻止しようと、アップルがロビイストや業界団体を通じて働きかけていることも伝えられていました

そうした「修復する権利」をアップルの共同創業者のひとりスティーブ・ウォズニアック氏が支持し、それが自分の人生にどれほどの影響を与えたのかを約10分間語っています。

ウォズ(愛称)氏の話を引き出したのは、「修復する権利」運動の中心人物であるルイス・ロスマン(Louis Rossmann)氏です。ロスマン氏がウォズ氏にCameo(著名人に謝礼を支払い、短編のカスタム動画を作ってもらえるサービス)のリクエストを送ったところ、ウォズ氏は「自分はとても忙しいので、この運動にはあまり参加していないが支持している」と切り出しています。

ウォズ氏は「私が非常にオープンな技術の世界で育っていなかったら、アップルは存在しなかったでしょう」「当時、テレビやラジオなどの電子機器を購入すると、回路や設計のすべてが紙に書かれていました。完全なオープンソースだ」と振り返っています。

さらに「技術者ではない家族でも、真空管を引っ張り出してきて、真空管テスターを探し、故障していれば新しい真空管を買ってくる。当時は誰もがそうしていた」と修理がどれほど簡単だったかを説明。そして創業時のアップルが、当時のオープンな回路図から恩恵を受けたことを強調しています。

すなわち「アップルを設立するとき、私は入出力用のテレタイプ(印刷電信機)を買うことができなかった」ため、信号の出力用にテレビを使うことができたとのこと。「それもこれも、自分で修理したり、改造したり、利用したりすることができたからだ」として、回路図が公開されていたから金がない若者でも自力でどうにかなったというわけです。

そんな自らの修理経験を踏まえて「なぜ自分で修理するコミュニティを止めるのか?なぜ人々の修理する権利を止めるのか?Apple IIを見てください。完全な回路図付きで出荷された…この製品はアップルの最初の10年間、唯一の利益源だった」として、累計で約600万台が販売された名機の原動力が「修復する権利」だったと語っています。ちなみにApple IIの手書き回路図は、約6500万円で落札されたこともありました。

それに続けてウォズ氏は「修復する権利をもっと全面的に認めるべき時が来ている」と述べ、「企業がそれを邪魔するのは、彼らに権力を与え、すべてを支配することに繋がるからだと思う」と語っています。締めくくりの言葉は「自分のコンピュータなのか、それともどこかの会社のコンピュータなのか。それを考えてみてください。正しいことを始める時が来たのです」というものです。

ウォズ氏の考えは「修復する権利」の阻止に動くと噂されるアップルの方針とは真逆にも思えますが、一方でアップルは独立系修理業者の認定プログラムを日本を含むグローバルに拡大するなど歩み寄りの姿勢も見せています。アップルが「修復する権利」に恩返しをするのか、今後の展開を見守りたいところです。

(Source:Steve Wozniak speaks on Right to Repair。via 9to5MacEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:Apple / アップル(企業)オープンソース / Open Source(用語)修理する権利 / Right to Repair(用語)Steve Wozniak / スティーブ・ウォズニアック(人物)

半導体不足で新品入手が困難となる中アップルやマイクロソフトが「修理する権利」法案成立の阻止に尽力

半導体不足で新品入手が困難となる中アップルやマイクロソフトが「修理する権利」法案成立の阻止に尽力

Phone-Service-Centre via Getty Images

米国では「修理する権利」つまりユーザーが自ら選んだ方法で(主に製造メーカー非公認の修理業者に持ち込むことで)購入した製品を修理する権利に関する法案が次々と提出されています。具体的には製造メーカーに純正の修理部品や回路図を独立系の修理業者に提供することを義務づける内容です。

こと新型コロナ感染拡大によるリモートワークや自宅学習が広まったもと、タブレットやChromebookなどの需要が増えており、壊れたデバイスをメーカー修理に送ると時間や費用がかかることや、半導体不足が悪化の一途をたどり新品の入手が困難となっているため、いっそう機運が高まっている事情もあります。

しかしアップルやマイクロソフト、アマゾンやGoogleといったハイテク大手が、それらの法案成立を阻止するために数々の努力をしていることが報じられています。

米Bloombergによると、2021年だけで全米27の州にて「修理の権利」法案が検討されたものの、そのうちの半分以上はすでに否決されたり、却下されたとのことです。それはハイテク大手を代表するロビイストや業界団体が猛反発しており、特にアップルはこうした法律がデバイスの損傷や、修理しようとする消費者の自傷行為につながる可能性があると主張していると伝えられています。

例えばワシントン州の下院議員ミア・グレガーソン氏も「修理する権利」法案を提出したところ、MS、Google、アマゾン、そしてアップルを代表するロビイストに反対されたと述べています。なかでもアップルのロビイストは法案が取り下げられれば、地元の大学での修理プログラム(授業)を支持すると持ちかけたそうです。

ほかアップルはコロラド州やネバダ州でも法案に反対しており、独立系修理業者のひとりは学校で需要が高いiPad(その地域で1万3000台以上が流通し、うち10~15%が修理が必要のため)のスクリーンを調達するのに苦労しているとのこと。その人物はアップルが新しいデバイスを買ってもらうために修理プログラムに反対していると主張しています。

アップルは「修復する権利」法案と戦う一方で、日本を含む世界各地で独立系修理業者の認定プログラムを展開しています。これは非正規業者にも純正部品や工具、修理マニュアル、診断方法を提供し、アップル直営店や正規サービスプロバイダと同等の品質を受けられるようにすることが目的とされています。

このプログラムは無償で提供されていますが、やはり独立系業者はiPadのディスプレイなど一部の部品は入手できないため、アップルと正規サービスプロバイダが修理する上で唯一の選択肢となっているわけです。

ほかBloombergの記事はMSのブラッド・スミス社長がワシントン州の議員らを集めた会議を仕切って、「修理する権利」法案が自社の知的財産権を脅かすもので「存亡の危機」だと主張したこと。そうした会社そのものが関わるMSと違い、アップルは雇ったロビイストや業界団体に反対運動を任せているなど興味深い事実も伝えられています。

ある議員が発した「なぜ自分のXboxのファンが壊れたとき、ゲーム機をMSに返送し、修理のために何週間も待たなければならないのか」という疑問は、多くのゲーマーが頷けるところかもしれません。

(Source:BloombergEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:iPad(製品・サービス)Apple / アップル(企業)Amazon / アマゾン(企業)カーボンニュートラル(用語)Google / グーグル(企業)修理する権利 / Right to Repair(用語)Microsoft / マイクロソフト(企業)リサイクル(用語)

マサチューセッツ州の有権者が自動車データへの前例のないアクセス権限を与える「修理する権利」法案に賛成

マサチューセッツ州の投票者の75%が賛成した投票法案(ballot measure)によって、自動車業界にとって広範な意味を持つ可能性のある厄介な問題が決着した。ある人が車両を購入したならば、そのデータはすべて所有者のものとなるということだ。

投票用紙に第一項として(法案一覧サイト)記載されたその法案は、マサチューセッツ州の消費者に対して、所有している車両を修理する権利を与えている法律を、改定し内容を拡大するものだ。この法案決定により、マサチューセッツ州でテレマティクスシステムを備えた車両を販売する自動車メーカーは、2022年以降のモデルからは、標準化されたオープンデータプラットフォームを装備する必要がある。この標準化されたオープンデータプラットフォームは、車両所有者と独立した修理業者に対して、直接アクセスを提供し、モバイルベースのアプリケーションを通じて、自動車のデータを取得したり診断を実行したりできるようにする必要がある。

重要なことは、この法案が、テレマティクスシステムが収集しワイヤレスで送信するデータをも包含していることだ。また、機械のデータにアクセスできるだけでなく、オーナーや独立したメカニックが修理、メンテナンス、診断テストのために車両にコマンドを送ることも許可する。

マサチューセッツ州には、「修理する権利」(right-to-repair)を率先して訴えてきた歴史がある。2012年には有権者が、自動車メーカーが車載診断用ポートに非独自の標準規格を使用することを義務付ける法律を承認した。このポートとは、ディーラーがデータを取得するために使用している物理的なポートのことだ。その結果、車の所有者は、エンジンチェックのライトが点灯した場合、ディーラーに行く必要がなくなり、代わりに地元の整備士から診断を受けることができるようになった。この法律では、無線で送信されるデータは免除されていた。だがこの免除は、現代の車両のテレマティクスシステムがより高度化するにつれて、「修理する権利」支持者にとってより差し迫った課題となってきていた。

米国時間11月3日に通過したこの法案は、消費者保護の支持者によって称賛される一方、自動車メーカーだけでなく一部のデータセキュリティ支持者からは激しく反対されている。カリフォルニアに拠点を置くiFixitの創業者であるKyle Wiens(カイル・ウィンズ)氏は、「これは大きな前進です」と、TechCrunchへのメールで述べている。「もし自分で修理できないなら、対象を本当に所有していることにはなりません。メーカーが車両にテクノロジーを追加するときには、オーナーが自分で手を入れる権利と、地元の整備士が修理を行えるようにすることに注意を払う必要があります」。

それはまた、利益を生み出す可能性のある機会だともみなされている。

Gartner (ガートナー)のアナリストであるMike Ramsey(マイク・ラムゼイ)は最近のインタビューで、「これは、私たちが携帯電話上に持っているような、アプリの巨大なエコシステムを生み出す大きな可能性を秘めています」と語っている。例えば大規模な車両群を所有する企業が、車両をより適切にモニターし、管理できるようになるだろう。

一方、業界ロビー活動グループのAlliance for Automotive Innovation(AAI、米国自動車イノベーション協会)は、この法案はセキュリティと安全上のリスクを生み出すと主張している 。例えばCoalition for Safe and Secure Data(CSSD)を含む、同投票法案に批判的な人たちは、それはあまりにも範囲が広すぎると主張している。「カリフォルニア州では、より侵襲性の少ない類似法案が否決されました、不要かつ危険だと思われたからです」とTechCrunchへのメールで指摘するのはCSSDの広報担当者であるConor Yunits(コナー・ユニッツ)氏だ。

「自動車会社の懸念は理に適ったものです、つまり『車両に新しいソフトウェアを投入したら、車に変なことが起きるぞ、そいつ安全上まずい』ということなのです」とラムジー氏は語る。

AAIの協会長でCEOのJohn Bozzella(ジョン・ボゼラ)氏は、協会がリスクを軽減するためのなんらかの方策を探ることを、最新の声明として発表している。だが同協会が積極的に法案の範囲を狭めるために戦うかどうかははっきりしていない。

「The National Highway Traffic Safety Administration (米国運輸省道路交通安全局)は、私達の顧客の車両に真のリスクをもたらす、この法案への多大な懸念を示した多くの関係者の1つです。これらの懸念は残されたままです」とボゼラ氏は声明で述べている。「自動車メーカーは、車両に対して安全かつセキュアなサービスを行うために必要な、すべての診断および修理情報を入手可能にしています。消費者が選択できることは変わりません。今後も、自動車メーカーはお客様を保護し、安全性、プライバシー、車両のセキュリティを優先する取り組みを続けていきます」。

この法案の効力は、マサチューセッツ州内に限定されているものの、そうしたものが国内の残りの部分に拡大したという前例がある。最初の「修理する権利」法は、2013年にマサチューセッツ州で施行された。2014年までに業界は、その法案を拡大し、国の残りの部分もカバーするという覚書で合意した。Teslaはその覚書に署名しなかった唯一の自動車メーカーだと、ウィンズ氏は指摘した。

「再び同じことがおきる可能性はとても高いと思います」とウィンズ氏は語り「異なる法律のパッチワークは誰も望んでいませんけれどね」と付け加えた。

「いまこそスマートフォンから農業機械に至るまで、自動車からすべてのテクノロジーに対して『修理する権利』を拡大しべきときです」ウィンズ氏は語る。そして、マサチューセッツ州をはじめとする他の多くの州が、2021年には広範な電子機器「修理する権利」に関する立法の検討を行う準備が整っている、と付け加えた。

カテゴリー:モビリティ
タグ:修理する権利

画像クレジット:Jackie Niam / Getty Images

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(翻訳:sako)