病気と老化をハックする長寿テックGero AIが健康状態の変化を定量化するモバイルAPIを発表

スマートフォンやウェアラブルデバイスのセンサーデータにより、個人の「生物学的年齢」やストレスへの耐性を実用レベルで予測することができると語るのは、Gero AI(ジェロ・エーアイ)だ。

この長寿技術のスタートアップは、そのミッションを「Gero AIで複雑な病気と老化をハックする」という簡潔な目標に集約しており、モバイルユーザーの身体的活動を追跡する歩数計センサーデータのパターン認識に基づいた「デジタルバイオマーカー」を用いて、罹患リスクを予測するAIモデルを開発した。

単に「歩数」を計測しただけでは、個人の健康状態を予測するのに十分な差異を識別できない、というのが同社の主張だ。同社のAIは、大量の生体データを用いて学習し、罹患リスクに結びつくパターンを見つけ出す。また、生物学的ストレスからの回復の早さも測定するが、これも寿命に関連するバイオマーカーの1つだ。つまり、ストレスからの回復が早ければ早いほど、その人の全体的な健康状態が良くなるということだ。

査読付き生物医学誌Aging(エージング)に掲載されたGero AIの研究論文では、ディープニューラルネットワークを学習させてモバイル機器のセンサーデータから罹患リスクを予測する方法を説明している。そして、その生物学的年齢加速モデルが血液検査の結果に基づくモデルと同等であることを実証した。

また、2021年5月末にNature Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)誌に掲載される予定の別の論文では、デバイスを用いた生物学的回復力の測定について詳しく説明している。

シンガポールを拠点とするこのスタートアップは、ロシアに研究のルーツを持ち、理論物理学のバックグラウンドを持つロシア人科学者によって2015年に設立された。そして、これまでに2回のシードラウンドで合計500万ドル(約5億4000万円)を調達している。

共同設立者のPeter Fedichev(ピーター・フェディチェフ)によると、出資者はバイオテック分野とAI分野の両方から参加しているという。投資家には、ベラルーシを拠点としAIに特化したアーリーステージファンド、Bulba Ventures(バルバベンチャーズ)のパートナーであるYury Melnichek(ユリー・メルニチェク)が含まれている。製薬分野では、ロシアの医薬品開発企業であるValenta(バレンタ)に関連する(匿名の)個人投資家数名からの支援を受けている(バレンタ自体は出資していない)。

フェディチェフ氏は理論物理学者で、博士号を取得し、10年ほど学術研究の世界に身を置いた後、バイオテックの世界に入り、創薬のために分子モデリングや機械学習に取り組んだ。そしてそこで老化の問題に興味を持ち、会社を設立することにした。

同社では、長寿に関するマウスや線虫を用いた生物学的研究に加え、モバイルデバイスで取得したセンサーデータを使って人間の生物学的年齢やストレスからの回復力を予測する、AIモデルの開発にも力を入れている。

「健康は、もちろん1つの数字だけで表せるものではない」とフェディチェフ氏は率直にいう。そして「そのことに幻想を抱くべきではない。しかし、人間の健康を1つの数字に集約するのであれば、多くの人にとって、生物学的年齢が最適な数字となる。自分のライフスタイルがどれだけ不健康であるのか、本質的に知ることができる。実年齢に比べて生物学的年齢が高ければ高いほど、慢性疾患や季節性の感染症にかかる可能性が高くなり、またそういった季節性の疾患から合併症を併発する可能性も高くなる」と語る。

Gero AIは最近、GeroSenseという(今のところ有料の)APIを公開した。このAPIは、健康やフィットネス関係のアプリを対象としており、AIモデリングを適用して、ユーザーに生物学的年齢とストレス耐性(ストレス状態から各個人の基準値への回復率)の個別評価を提供できる。

初期のパートナーは、長寿に注力する別の企業、AgelessRx(エイジレス・アールエックス)とHumanity(ヒューマニティ)だ。そして、このモデルをフィットネスアプリに広く搭載し、長期的な活動データをGero AIに安定的に送信してAIの予測能力をさらに高め、製薬会社との協業によりアンチエイジング薬の開発を進めるという広範な研究ミッションをサポートすることを意図している。

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フィットネスプロバイダーがAPIを導入するメリットは、楽しい上に価値のある機能をユーザーに提供できることだ。個人の健康状態を測定することで、ポジティブな(あるいはネガティブな)生物学的変化を把握することができ、利用しているフィットネスサービスの価値を定量化することが可能になる。

「ジムなどを含めた、あらゆるヘルス&ウェルネスプロバイダーは、自分のアプリに、例えば【略】ジムのすべてのクラス、ジムのすべてのシステムを、さまざまなタイプのユーザーに合った価値に応じてランク付けすることができる」とフェディチェフ氏は説明する。

「マウスではなく、人間の老化の仕組みを理解するために、このような機能を開発した。開発後は、遺伝子を見つけるための高度な遺伝子研究に使用し、見つけた遺伝子は研究室でテストしている。しかし、ウェアラブルデバイスから得られる継続的な信号から老化を測定するこのテクノロジーは、それだけでも優れた手法だ。だからこそ、このGero AIセンスプロジェクトを発表した」と続ける。

「老化とは、機能的能力が徐々に低下していくことであり、望ましいことではないが、ジムに行けば改善できる可能性がある。しかし、問題はこの回復力を失っていくこと、つまり、(生物学的な)ストレスを受けたときに、できるだけ早く通常の状態に戻ることができないということだ。そのため、回復力をフィードバックしている。この回復力が失われ始めると、頑健さを維持できなくなり、20代と同じレベルのストレスを受けたときに、ノックアウトされてしまうことになる。

この回復力の低下は、病気になる前の段階でも、近いうちに病気にかかる可能性があることを教えてくれるので、老化の重要な表現型の1つだと考えている。

社内では老化がすべてだ。当社は、老化の測定と介入に全力で取り組んでいる」とフェディチェフ氏は語り、「長寿と健康のためのオペレーティングシステムのようなものを作りたいと考えている」と付け加える。

Gero AIは「トップクラス」の保険会社と2件の試行的運用からも収益を得ている。フェディチェフ氏によると、この試行は、現段階では基本的にビジネスモデルの実証として行なっているとのことだ。また、Pepsi Co(ペプシコ)とも試行の初期段階にあるという。

さらに同氏は、健康転帰の分野で保険会社と連携することとElon Musk(イーロン・マスク)氏がセンサーを搭載したTesla(テスラ)の所有者に対して、その検知した運転状況に基づき保険商品を提供することとの関連性を説明する。両社はどちらもセンサーデータを利用しているためだ。(「イーロン・マスクが自動車に対して行おうとしていることを、当社は人間に対して行おうとしている」と、同氏はいう」)。

しかし、近い将来の計画は、さらに資金を調達し、APIの提供を無料に切り替えてデータ収集の機会を大幅に拡大することだ。

話を少し広げると、Googleが出資するCalico(キャリコ)が「死の克服」というムーンショットミッションを掲げて設立されてから、約10年が経過した。それ以来、小さいながらも成長を続ける「長寿」分野ではスタートアップが誕生し、(まず第1に)人間の寿命を延ばすための研究を行っている。(死を終わらせることは、明らかに、ムーンショットの中のムーンショットだ)。

もちろん死は避けられるものではないが、死神の襲来から逃れるための薬や治療法を見つけるビジネスはペースを上げ続けており、投資家からの資金も集まってきている。

研究データのオープン化や、健康状態把握のためのデジタルデバイスやサービスの普及により、健康や生物学的なデータがますます充実し、入手しやすくなっていることに加え、予測医療や創薬などに急速に展開されている機械学習の将来性も相まって、この傾向は加速している。

また、最近では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、健康やウェルネス、そして特に死亡率に関心が集まっていることから、長寿への関心の高まりも見られる。

しかし、そうは言っても、複雑で多分野にまたがるビジネスであることに変わりはない。これらのバイオテックでのムーンショットを狙う企業の中には、病気の診断や創薬を推進するためにバイオエンジニアリングや遺伝子編集に焦点を当てた企業もある。

また、Gero AIのように、AIやビッグデータ解析を利用して、生物学的な老化を深く理解し進行を妨げようとしている企業も数多くある。そういった企業では、物理学、数学、生物学の専門家を集めてバイオマーカーを探し、老化にともなう病気や機能低下に対処するための研究を進めている。

最近の例としてはAIスタートアップのDeep Longevity(ディープ・ロンジェビティ)が、2020年の夏にAI創薬企業Insilico Medicine(インシリコ・メディシン)からスピンアウトしステルスモードから姿を現した。同社は、AIによる「サービスとしての長寿」システムを謳い、個人の生物学的年齢を「従来の方法よりも大幅に正確に」予測できるとしている(また、科学者らが「老化に関連する疾患を引き起こす生物学的な原因」を解明するのに役立つと期待している)。

Gero AIは、包括的には同じ目標に向かっているが別のアプローチを取っている。つまり、人々が日常的に持ち歩いている(あるいは身につけている)モバイルデバイスに搭載された活動センサーが生成するデータに注目し、生物学的研究のための代用信号として活用する。

その利点は、自分の健康状態を把握するために、定期的に(侵襲による)血液検査を受ける必要がないことだ。その代わりに、人々のパーソナルデバイスを使って、生物学的研究のための代用信号を、受動的に大規模かつ低コストで生成することができる。つまり、Gero AIの「デジタルバイオマーカー」によって、個人の健康状態の予測に使うデータを民主的に取得できるようになる。

Peter Thiel(ピーター・ティール)氏のような億万長者は、死の一歩手前でいられるよう、特注の医療モニタリングや医療介入に大金を払う余裕があるが、そのようなハイエンドのサービスは、一般の人々の手が届くはずもない。

Gero AIのデジタルバイオマーカーが同社の主張に沿うものであれば、少なくとも何百万人もの人々をより健康的なライフスタイルへと導くことができるだろう。そして同時に、長寿の研究開発のための豊富なデータを得ることができ、人間の寿命を延ばすことができる薬の開発の助けにもなる(そのような延命薬剤がいくらかかるかはまったく別の話だが)。

保険業界も当然関心を示しており、このようなツールを使って契約者に健康的なライフスタイルを促すことで、保険金の支払いコストを削減できる可能性がある。

健康増進に意欲的な人にとって、現在の問題は、どのようなライフスタイルの変化や医療介入が自分の生物学的特性に最も適しているのかを正確に知ることが非常に困難なことだとフェディチェフ氏はいう。

例えば、ファスティングは生物学的老化の防止に役立つという研究結果がある。しかし、同氏はこのアプローチがすべての人に有効であるとは限らないと指摘する。同じことが、一般的に健康に良いとされている行動(運動や特定の食品を食べたり避けたりすることなど)にも言えるだろう。

また、そういった経験則も、個人の特定の生物学的性質に応じて、さまざまな差異があるかもしれない。さらに、科学的な研究には、どうしても資金面での制約がある。(そのため、研究の対象では、女性よりも男性、中高年よりも若年層といったように、特定のグループに焦点が当てられ、他のグループが除外される傾向がある)。

そのような理由から、フェディチェフ氏は、基本的に個人の費用負担なしで健康に関する知識のギャップに対処できるように、評価基準を作成することに大きな価値があると考えている。

Gero AIは、研究パートナーの1つである英国のバイオバンクの長期間にわたるデータを用いて、同社のモデルによる生物学的年齢と回復力の測定値を検証した。しかし、もちろん、より多くのデータを取り込むことで、さらにモデルを進化させたいと考えている。

「技術的には、当社が行なっていることとそれ程違うものではない。ただ、UKバイオバンクのような取り組みがあるからこそ、今、当社ができることがある。政府の資金と業界のスポンサーの資金に加え、おそらく人類史上初めて、何十万人もの人々の電子医療記録、遺伝学、ウェアラブルデバイスが揃った状況になり、それが可能になった。技術的なものだけでなく、(英国のバイオバンクのような)『社会技術』と呼ばれるものも含めて、いくつかの開発が収束した結果だ」と同氏はTechCrunchに語る。

「想像してみて欲しい。すべての食事、すべてのトレーニング、すべての瞑想……ライフスタイルを実際に最適化するために、(それぞれの人にとって)どのようなことが効果的で、どのようなことが効果的でないのかを理解できることを。あるいは、すでに動物で寿命を延ばすことが証明されている実験的な薬が有効かもしれないし、何か違うことができるかもしれない」。

「100万件の追跡データ(100万人の半年分のデータ)が集まれば、それを遺伝学と組み合わせて、老化を解決できるだろう」と、起業家らしく語り「この計画の挑戦的なスケジュールでは、年末までにその100万件の追跡データを手に入れたいと考えている」と続ける。

フィットネスや健康のアプリは、データを必要とする長寿研究者にとってパートナーのターゲットとなることは明らかだが、お互いに関心を引く関係になることも想像に難くない。一方はユーザーを提供し、もう一方は高度なテクノロジーとハードサイエンスに裏付けられた信頼性のオーラをもたらすことができる。

「当社は、これらの(アプリ)が多くのユーザーを獲得することを期待している。そして、まず楽しい機能として、ユーザーのためにユーザー自身を分析できるだろう。しかし、その裏では、人間の老化に関する最高のモデルを構築する必要がある」とフェディチェフ氏は続ける。そして、さまざまなフィットネスや健康増進法の効果をスコアリングすることが、ウェルネスと健康の「次のフロンティア」になると予測している(あるいは、より簡潔に言えば「ウェルネスと健康は、デジタルで定量的なものにならなければならない」ということだ)。

「当社が行なっていることは、物理学者を人間のデータの分析に参加させることだ。最近では、多くのバイオバンクがあり、人間の老化プロセスを数年単位で表示するデバイスからのものを含め、多くのシグナルを入手している。つまり、天気予報や金融市場の予測のような、動的なシステムだ」と同氏は述べる。

「治療方法は特許を取得できないので自分たちのものにはならないが、パーソナライゼーション、つまり治療法を各個人に合わせてカスタマイズしてくれるAIは自分たちのものになるかもしれない」。

スタートアップの視点からは明確だ。長い目で見れば、パーソナライゼーションは、ここにある。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:Gero AI健康長寿人工知能APIアプリウェアラブルデバイスムーンショット

画像クレジット:Gero AI

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

グーグルがWear OSの大規模アップデートを発表、Fitbitの「健康」関連機能も導入

Wear OS(ウェアOS)はこれまで、Google(グーグル)のOSの中でもダークフォース的な存在だった。パートナーシップや投資がなかったわけではないが、何らかの理由で、Googleはそのウェアラブル用オペレーティングシステムを成功に導くことができなかった。

このカテゴリーでは、以前からApple(アップル)が圧倒的な強さを誇っている。Googleは家電業界のいくつかの大手企業から協力を得たにもかかわらず、この市場を切り崩すことにほとんど失敗してきた。Strategy Analytics(ストラテジー・アナリティクス)の表によれば、市場シェアでWear OSは「その他」に分類されている。

ここでもう一度確認しておくが、Googleの戦略とはパートナーシップによるものだ。より正確に言えば、パートナーシップと買収の組み合わせである。その「勝てなければ仲間にしてしまえ」というアプローチは、長年オープンソースのTizen(タイゼン)にこだわってきたSamsung(サムスン)にも向けられた。Samsungの戦略は奇策の1つのように見えたが、Tizenの独自バージョンを作り出すことは、このカテゴリーでアップルに次ぐ存在となったSamsungにとって、勝利の戦略であることが証明された。

過去最大のアップデートを@wearosbygoogleに施します。Googleマップのターンバイターンナビゲーションや、YouTube Musicから曲をダウンロードしてオフラインで聴くことが可能になるなど、各Googleアプリにも新機能が導入されます。もう携帯電話を置いてきても大丈夫。#GoogleIO

米国時間5月18日行われた「Google I/O」の基調講演で、GoogleはSamsungとの新たなパートナーシップを明らかにし「Wear OSとTizenの長所を組み合わせる」と発表した。これがどのように展開されるのか、我々にはまだわからないが、2つのビッグプレイヤーが力を合わせてアップルに対抗するというのはおもしろい見物になりそうだ。「You come at the king, you best not miss.(王者を目の前にしたら、見逃すべきではない)」とは、有名な人気テレビドラマの言葉である。両社にとって大きな問題となっていたのがサードパーティ製アプリの品揃えだが、このパートナーシップによって開発者は両プラットフォーム向けに共有のアプリを作成できるようになると思われる。

Wear OSのもう1つの大きな変更は、GoogleがFitbitに興味を持った理由を明らかにするものだった。確かにFitbitは、フィットネスバンドで市場を席巻したウェアラブル製品のリーダー的存在であり、最終的には(Pebble[ペブル]を買収するなどして)独自のスマートウォッチを開発しているが、ここで重要なのは「健康」である。

画像クレジット:Google

健康モニタリングは近年、ウェアラブル製品における話題の中心となっている。GoogleのFitbit買収は、何よりもその情報を統合することが目的だったようだ。「Fitbitが提供するワールドクラスのヘルス&フィットネスサービスが、このプラットフォームで利用できるようになります」と、Googleは述べている。人気が高いFitbitのフィットネストラッキング機能を追加するだけでなく、Wearの機能をGoogleのハードウェアに統合することで、両社の境界線を曖昧にしようとしている。

「健康とフィットネスのトラッキングは、ウェアラブルにとって不可欠です」と、Googleはブログに書いている。「最新のWearアップデートでは、Fitbitが長年培ってきた健康に関する専門知識を取り入れることになります。1日を通して健康状態をトラッキングしたり、達成した目標を手首の上で祝う機能などが、より健康になるための意欲を高めます」。

ユーザー体験も同様に改善される。Calm(カーム)、Sleep Cycle(スリープ・サイクル)、Flo(フロー)などのアプリには専用のタイルが用意され、どこからでもショートカットにアクセスできる。Google自身のアプリも、Google マップ、Google アシスタント、Google Payなどが刷新され、Google Payは現在の11カ国に加えて新たに26カ国で展開が始まる。2021年後半には、YouTube Music(ユーチューブ・ミュージック)アプリのWear版もリリースされる。

以上のようなアップデートは、2021年後半から利用できるようになる予定だ。

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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:GoogleGoogle I/O 2021Wear OSSamsungTizenウェアラブルデバイススマートウォッチFitbit健康

画像クレジット:Google

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

長寿スタートアップのLongevicaが長期研究に基づくサプリメントを発売予定

LongevicaのCEOであるアイナル・アブドラフマノフ氏

人間の寿命を延ばすサプリメントの研究に11年を費やしてきたバイオテクノロジー企業Longevicaは、2021年後半にサプリメントを発売する計画を立てている。Longevicaによると、同社は長寿技術に投資を行い同社の社長でもあるAlexander Chikunov(アレクサンダー・チクノフ)氏を含む投資家から合計1300万ドル(約14億円)を集めたという。

Longevicaによると、同社は実験用マウスの寿命を研究した後に、バイオテクノロジーのプラットフォームを立ち上げた。Longevicaは今後、延命のための医薬品と食餌療法サプリメント、食料品を生産していくとのことだ。

長寿はテクノロジースタートアップにとっても成長市場だ。Googleもこの分野でCalicoの立ち上げを支援した。2020年はHumanity Inc.がボストンのファンドOne Way Venturesがリードするラウンドで250万ドル(約2億7000万円)を調達しているが、その資金は、AIを使って人の健康期間を延ばす同社の長寿技術企業を支える。

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LongevicaのCEOであるAynar Abdrakhmanov(アイナル・アブドラフマノフ)氏は、長生きしたいという人たちの欲求に奉仕する彼の企業について、次のように述べている。「WHOによると、2050年には60歳以上の人が20億人に達する。2019年には17兆ドル(約1834兆4000億円)だったが、2026年までにはこの年齢層の人たち向けのサービスとプロダクトの売り上げがは約27兆ドル(約2913兆4000億円)になります」。

調査会社CB Insightsによると、寿命延長サービスのスタートアップは2018年だけで過去最高の8億ドル(約863億2000万円)を調達した。一部の高名な投資家および投資企業も、この投資に加わっている。

PayPalの共同創業者Peter Thiel(ピーター・ティール)氏は、加齢にともなう疾病の治療薬を開発するUnity Biotechnologyに投資している。Ethereumの創業者Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏は、若返りのためのバイオテクノロジーを開発している非営利団体SENS Research foundationに、240万ドル(約2億6000万円)相当のEtherを投資した。SENS Researchは、Aubrey de Grey(オーブリー・デ・グレイ)氏が最高科学責任者を務め、若返り技術のバイオテクノロジーを開発していることで知られている。

Longevicaのプラットフォームは、科学者であるアレクサンダー・チクノフ氏の業績に基づいている。彼は米国の特許を10件持ち、タンパク質生合成細胞の統制に関して長年、研究している。

「この分野でよく知られている科学者を集めて、問題への彼らのアプローチを議論したことがありあmす。そのときAlexey Ryazanov(アレクセイ・リアザノフ)氏が、長寿のマウスにある既知の薬理学的物質をすべて大規模にスクリーニングして、生命を延ばしているものを発見するという画期的なアイデアを提案しました」とチクノフ氏は語る。

Longevicaによると、同社はリアザノフ氏の指導の下、2万匹の長寿の雌のマウスと、62の薬理学的クラスの合成物質を表している1033種の薬品を使って、統計的に寿命を16〜22%と大きく延ばしているイヌリン、ペンテト酸、クロフィブラート、プロシラリジンA、D-バリンというた5つの物質を発見した。

この研究から、彼らは特定の重金属を体内から排除するという見解を形成し、体内の毒素を除去する能力を向上させた。

カテゴリー:バイオテック
タグ:Longevicaサプリメント長寿資金調達健康

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ペプシコがM13の客員起業プログラムを支援、健康に関するスタートアップ立ち上げへ

M13内に作られた新しいベンチャースタジオが、その最初の新しい企業パートナーとして、PepsiCo(ペプシコ)と契約した。

この契約によりペプシコは、ニューヨークとロサンゼルスを拠点とするこのベンチャーファーム初のファウンダー・イン・レジデンス(客員起業家)プログラムを支援することに合意。M13は元Techstars Los Angeles(テックスターズ・ロサンゼルス)のマネージング・ディレクター、Anna Barber(アンナ・バーバー)氏(未訳記事)を新しいイニシアチブのリーダーに抜擢した。

このM13 Launchpad(ローンチパッド)プログラムでは、まずペプシコの役員やアドバイザーを活用して客員起業を行い、12週間のプログラムで健康とウェルネスに焦点を当てたスタートアップのアイデアを考え、立ち上げる予定だ。

「現在、消費者は自分の健康について豊富なデータを入手することができ、自宅で検査しようとする人が増えていることから、ますますその健康データの重要性が高まっています。これは、一貫した総合的な健康とウェルネスのソースとして、人々に栄養をより効果的に利用してもらう絶好の機会を生み出します」と、バーバー氏は電子メールで書いている。「この春、私たちはスナック菓子や、食事代替食品、飲料、サプリメントから、栄養を最適化するためのソフトウェアプラットフォーム、データを収集・管理するための接続デバイスまで、あらゆるものに目を向けていく予定です」。

この契約は、M13がすでにProcter & Gamble Venturesのような企業パートナーと一緒に行っている仕事を補完するものだ。そこではプレミアム美容技術のOPTEKindraの更年期製品、敏感肌ケアのためのBodewellなどの企業の開発に貢献している。

このLaunchpadプログラムは独立し、Target(ターゲット)、Anthropologie(アンソロポロジー)、Urban Outfitters(アーバン・アウトフィッターズ)で手ごろな価格の女性用ウェルネス製品を販売しているRaeを設立することができた。

12週間のバーチャルLaunchpadプログラムでは、起業家に毎月1万ドル(約103万円)の奨学金と、卒業時に製品の市場適合性をテストするための十分な現金が支給される。プログラムを卒業すると、各企業にはビジネスを継続的に成長させるための少額のシードラウンドも提供されると、M13は述べている。

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:PepsiCo健康

画像クレジット:Tim Boyle / Getty Images

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(翻訳:TechCrunch Japan)

新型コロナで悪化するテクノロジー依存:脱するために今できること

著者紹介:Stuart Wall(スチュアート・ウォール)氏は、スモールビジネスの拡張を手助けするクラウドベースのカスタマーコミュニケーション・プラットフォームSignpost(サインポスト)を創設したテクノロジーエグゼクティブであり起業家。

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新型コロナのパンデミック(世界的流行)により、アメリカにおけるテクノロジー依存が加速した。依存によって多くの人が悲しみや不安にかられたり、やる気を失っている

Facebook(フェイスブック)やTikTok(ティックトック)、 Snapchat(スナップチャット)などの企業では、我々が彼らの製品を頻繁に使用すればするほど、より多くの広告収益を得ている。こうした企業はプッシュ通知やパーソナライズされたフィードを使用して我々消費者を惹きつけ、感情を操り行動に影響を与えている。

こういった企業の商売は実に順調だ。今アメリカ人は、デバイスを毎日5時間以上使用している

だから何なのか?Netflix(ネットフリックス)の「The Social Dilemma(監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影)」で語られるように、テック企業は引き続き自社の利益の動機に従って、我々を惹きつけることだろう。政府が、砂糖や違法薬物の消費よりも不健康なテクノロジーの消費のコントロールに関与する可能性は低いだろう。我々自身がコントロールする必要があるのだ。

私の見解はテック企業の元CEO、そしてテクノロジー依存者としてのものだ。私が創業したマーケティングプラットフォームは1億ドル(約104億円)以上集め、350名の従業員を持つ会社に成長し、去年プライベートエクイティ会社に売却した。私はその中で、酷いテクノロジーの習慣をいくつか身に着けてしまった。メールは常にチェックし、対面でのやり取りもプッシュ通知があれば中断していた。

昨年家族を訪ねたときには、私のテクノロジー依存は落ちる所まで落ちていた。そこで私はスマホを置き、重度のパーキンソン病を患う母と一緒にガーデニングに励むことにし、意図的にゆっくりと行動した。

禁断症状に苦しむ中毒者のような気分だった。スマホはまるで磁石のように、未読の仕事メールやニュース速報を確認するように私を引き寄せていたのだ。テクノロジーの使い過ぎにより、脳の配線回路が変わり、生活意識の質は下がり、疎外されているような感覚に陥っていた。

私は今年の初めにCEOを辞め、空いた時間を利用してマインドフルネス、神経の可塑性、テクノロジー依存症について学んだ。また最も重要なことだが、テクノロジーの使用を管理する戦略を作った。これにより気分は優れ、より生産的になった。

私が学んだことをお伝えしたい。

テック企業は我々の脳につけ込んで、注意を引こうとしている

一部のテック企業は我々の注意を引くために、UCLAの精神医学者Daniel Siegel(ダニエル・シーゲル)氏が「一階脳」と呼ぶ、脳の最も古い部分をターゲットにしている。一階脳には、脳幹と辺縁域があり、本能と衝動(闘争・逃走)や強い感情(怒りや恐怖)をコントロールする。反対に二階脳には大脳皮質があり、思考、想像、計画といった複雑な精神機能をコントロールする

一階脳は反応性で、緊急事態から我々を守るように設計されている。素早い判断ができ、意識をハイジャックして、強い感情を通じて行動を促すことができる。この一階脳が、 注意を引きたい製品のターゲットとなる。怒りを覚えるようなヘッドラインや、素早く反応したくなるTikTokの通知は、我々の一階脳に訴えかけてくるのだ。

反応的な状態の時間が長いと、脳の回路が変わってしまう

脳は訓練によって変わるものだ。研究では、我々の脳は神経細胞の発火パターンで再プログラミングされることが分かっている。神経系は、神経可塑性と呼ばれるプロセスで反復的な集中や行動を通じて再配線したり、変換したりすることができるのだ。

繰り返しデバイスを使用することは、神経可塑性の最適な例だろう。プッシュ通知に反応したり、無限スクロールで動画を視聴したり、SNSで社会的評価を求めたりなどにより多くの時間を費やすことで、脳の回路は再配線され、同じことをさらにやりたくなってしまうのだ。

企業による注意を引きつける力が増すと我々の依存はどんどん進む

多くのテック企業は、自社製品の過剰使用がもたらす問題について把握しているが、このアテンションプロフィットプールの分け前を減らすために必要な抜本改革をする企業はない。もしそんな企業があれば、別の企業がその後釜に座るだけだ。

こうした企業は、甘いドリンクを販売しているのだ。その味は飛躍的に改善された、今までにない最高に甘いドリンクだ。飲めば飲むほど、やめられないのだ。我々は消費と習慣をコントロールしなければならない。テクノロジーダイエットをする必要があるのだ。さもなければ、病的肥満に相当する精神病に悩まされることになる。

習慣を変えることで、より生産的で幸せになるように脳を再配線できる

テクノロジーの消費を食品の消費のように考えると、テクノロジー製品は、情報の質と配信方法に基づき、4つの食品グループに分けられる。コンテンツの質は重要だ。コンテンツには価値があるもの(MITのオンラインコースウェアなど)や重要なもの(仕事用のメールなど)があるが、その一方でほとんどは、役に立たない(TikTokなど)。

また配信方法も重要だ。健全なプラットフォームでは、ユーザーに主体性が与えられ、必要なときに役立つコンテンツが引き出されるようになっている。一方で有害なプラットフォームはプッシュ通知に頼ることが多く、何か別のことをしているときに、あまり役に立たない情報を送ってくるのだ。私の経験から、テクノロジーダイエットを実施するためにできる3つのステップを紹介したいと思う。

1. 一階脳を強化する製品を排除する(プッシュ通知される品質の低いコンテンツ)

自制には限度がある。甘いドリンクが要らないなら、家の中には置かないことだ。我々は、今までに開発された中でも最も注意散漫になるアプリを、常に手に届くところに置いている。こうしたアプリが一階脳を食い物にし、より有意義な思考をハイジャックし、ほとんどの人にネガティブな価値を植え付ける。最も効果的な防衛策はこれらを生活から排除することだ。こうしたアプリはそもそも使用すべきではない。

助言:私はiPhoneとMacBookにApple(アップル)のコンテンツ制限を使用している。TikTok、Instagram、Facebook、Snapchatといった明らかな元凶と、個人的に害となっているZillow(ジロー)、StreetEasy(ストリートイージー)、NYPost(NYポスト)も追加した。上書きコードは妻が持っている。必要に応じて解除できるが、生活意識に入ることがない程度に、困難なプロセスとなっている。

2. 二階脳を強化する製品をより多く消費する(必要に応じて利用できる質の高いコンテンツ)

優良なコンテンツは知識やスキルを広げてくれ、思いやり、想像力、マインドフルネスに繋がる方法で二階脳の再配線に貢献する可能性がある。

優良コンテンツの消費は実りのあるものだが、努力が必要になる。途切れることのない集中力が求められる。無意識に消費してしまう甘いドリンクと違い、生野菜は意図的に消費する必要がある

助言:お気に入りの「生野菜」のリストを作ろう。私の生野菜リストは、Kindle(キンドル)、Feedly(フィードリー)、テック系の定期刊行物、お気に入りのキュレーションプラットフォームのHackerNews(ハッカーニュース)、Product Hunt(プロダクトハント)だ。人気急上昇中のマインドフルネスアプリの1つCalm(カーム)も入っている。ホームスクリーンに入れているアプリはこれだけだ。おかげでもっと頻繁に使うようになっている。食べ物のダイエットのように、「良い」消費を達成するための目標を設定し、進捗状況をモニターしている。

定期的にテクノロジー断ちをすることもお勧めする。私は息子と散歩するときや、友達とディナーに行くときはスマホを家に置くようにしている。また二階脳の再配線を促す、ハイキングや楽器を習うなどのテクノロジーを使用しないアクティビティもお勧めだ。

3. 生産性ツールの消費パターンを再設計する

Eメールはほとんどの人にとって必要なものだろう。生産的になれる可能性もある。だが平均的なメッセージの質は低く、常にオンで、頻度が高く、デフォルトでプッシュ通知になっているデザインにより、我々の生産性はベストな状態ではなくなっている

助言:私は緊急を要したり、タイムリーなメッセージではないものすべての通知をオフにしている。テキストメッセージやLyft(リフト)、Tovala(トバラ)オーブンなどがその例だ。Boomerang(ブーメラン)のChrome(クローム)拡張機能では、1時間ごとにすべてのEメールを配信するように設定できる。 Eメールを1時間ごとにバッチ処理することで、中断を大幅に減らすことができる。応答に影響することはない。

我々は、食品、製品、セキュリティなど、近代の祖先も嫉妬するような相対的に豊かな世界で生活しているが、豊かさは我々を幸せにはしていない。記録によると、我々世代は最も幸せではないらしい。大の大人が強い感情、情動、衝動ばかりに気をとられて、ひっきりなしにかんしゃくを起こしている、一階脳の感情を集めた中で生きているように思われる。

だがまだ希望はある。

個人的には、たった数ヶ月でもテクノロジーダイエットは効果があったと思う。衝動的になることが減ったし、より気を配れるようになった。従業員ならば、アテンションエコノミーから利益を得る企業で働くことを辞めることができる。マネージャーならば、夜はデバイスをオフにし、Slack(スラック)の通知をオフにして本当のバケーションを取るように、チームに強く主張できる。親ならば、子供が健康的な消費パターンを築けるように助けることができる。

集団行動と脳の回路の再配線によって、政治の方向性を変えたり、21世紀において最も重要な課題を協力して解決できるかもしれない。

アメリカのイノベーションにより、アテンションエコノミーは圧倒的な勢いをつけてきたが、今度はそのイノベーションでテクノロジーの使い方を正す時がきたのではないだろうか。

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カテゴリー:その他
タグ:新型コロナウイルス コラム 健康

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(翻訳:Dragonfly)

コーチングアプリRosita Longevityが高齢者に伝えたい健康長寿の秘訣とは

スタートアップ企業にとって、長寿とは、現代版の錬金術を探求するかのようにバイオテクノロジーやAIなどの技術を実験的に応用する、途方もなく壮大な野望の世界である。究極の目的は、何らかの方法で生態を「ハック」して人間の寿命を大幅に伸ばすこと、そしてできれば死さえも取り除くことだ

この点でもっと地に足のついた取り組みをしているのが、スペインのスタートアップ企業、Hearts Radiant(ハーツ・ラディアント)だ。「長寿テクノロジー」ビジネスを展開する同社は、老化に立ち向かうため、壮大な野望よりもはるかに強力な根拠に基づく、実用的なアプローチを取っているという。要するに同社は、人々が長生きするための秘訣を突き止めたと考えているのだ。

この記事では、同社が考える、「健康的に」長生きする方法を紹介する。

ハーツ・ラディアントの挑戦は、聖書時代のように150歳まで生きられるようにする、あるいはそれより少し短い120歳まで生きられるようにする、というものではない。同社が目指すのは、(できれば)自立性と活力を維持しながら、高齢者が95歳くらいで「天寿を全うする」まで元気に生きられるよう、テクノロジーを応用してサポートすることだ。このテクノロジーを活用すれば、生きがいを感じられる整った生活習慣を確立でき、高齢化に伴うフレイル(身体的機能や認知機能の低下が見られる状態)や社会的孤立などの問題に対処する助けとなる。

段階的にアプローチする

ハーツ・ラディアントは本日、これまでの沈黙を破り、プレシード資金調達の第1トランシェ(融資区分)を開示した。同社はまた、TechCrunchの取材に応じ、アクティブで充実かつ自立した生活を送れるよう高齢者をサポートするという夢について語ってくれた。

JME.vc(JMEベンチャーキャピタル)がリードし、Kfund(Kファンド)、Seedcamp(シードキャンプ)、NextVentures(ネクストベンチャーズ)が参加した45万ユーロ(約5600万円)のプレシードラウンドは、Rosita Longevity(ロジータ・ロンジェビティ)デジタルコーチングアプリ向けの研究と継続的な開発のために使用される見込みだ。このアプリは、1月から限定された形でベータテストが行われている。高齢者は家族のお下がりのスマートフォンを使っていることが多いため、現在はAndroid(アンドロイド)デバイスのみが対象だ(ただし、iOSも開発計画に入っている)。同アプリは60歳以上をターゲットに、有酸素運動ができるフラメンコや年齢に合ったヨガなどのレッスン動画を、ライブストリーミングとオンデマンドで提供している。

Rosita Longevityを開発するハーツ・ラディアントは、夫婦である最高経営責任者(CEO)のJuan Cartagena(フアン・カルタヘナ)氏と最高顧客責任者(CCO)のClaraFernández(クララ・フェルナンデス)氏が、最高技術責任者(CTO)のDavid Gil(デービッド・ギル)氏と共同で創業した企業だ。高齢者が本当に必要としているのは、できるだけ長く活動的であり続けるための手引きと動機付けであり、パーソナライズされた「健康的な習慣」を形成するという療法を多くの高齢者に利用してもらうにはデジタルプラットフォームが最適な方法である、というのが彼らの基本理念だ。

カルタヘナ氏は「当社が、習慣の形成を促す存在になるべきだと考えています」と述べ、彼らが目指す姿を示すもう1つのキーワードとして「健康寿命」を挙げた。

ハーツ・ラディアントの経営には、バレンシアを拠点とする家族経営の事業Balneario de Cofrentes(バルネアリオ・デ・コフレンテス)のCEOを長年務めるフェルナンデス氏の経験が直接生かされている。同氏はこの事業のことを「長寿の学校」または「高齢者向けのキャンプ」と表現しており、バルネアリオのウェブサイトでは、スパ・ホテル、理学療法・リハビリテーション施設、そして教育センターが統合されたものだと紹介されている。同氏はこの施設で、高齢者向けのアクティビティや教育プログラムの監督を担当し、指導者付きのエクササイズや、病気の予防、良好な栄養状態を保つ方法などについてアドバイスを提供してきた。

フェルナンデス氏はこう説明する。「私たちはこの10年の間に、高齢者の方々が健康寿命を延ばすための教育方法や習慣作りの方法について、非常に包括的な戦略を立ててきました。私たちには具体的な方法論があります。高齢者の方々に現在の健康状態を管理する方法を教えることから始め、生活習慣や主な病気の予防、さらには科学分野における最新の発見についての教育を段階的に進めていく予定です」。

続けて、プログラムをデジタルコーチングアプリへとパッケージ化したことについてはこう述べた。「この手法を拡大するには、オンラインにするのがいいと考えました。そうすればもっと多くの高齢者の方々に活用してもらえるからです」。
生活習慣はRosita Longevityアプリが提案する手法の重要な要素である。しかし同社は「長寿テクノロジー」という表現を好む。

カルタヘナ氏はこう語る。「さまざまな理由から、私たちはフィットネス分野で勝負しようとはしていません。フィットネスには限界があり、私たちはその限界を超えようとしています。フィットネスは身体を強化し、最終的に病気につながるような健康問題に対処するための出発点にすぎません」。

定期的かつ適度な運動が、フレイルにつながる筋肉量の減少や骨密度の低下(転倒や股関節の骨折につながり、突然、要介護の状態になる可能性がある問題)など、加齢に伴うさまざまな状態に対抗するための手段として有効であること、さらに、精神と脳の健康維持にも有効であることは(壮大な野望ではなく)科学によってすでに実証されており、それが、Rosita Longevityアプリ開発の基盤になっている。

とはいえ、AIやチャットボットのような、おなじみだがまだ時々ぎこちないテクノロジーによってパーソナライズされ、デジタル配信で提供される生活習慣コーチングのプログラムに高齢者がリモートで参加した場合に、(何よりもまず)フレイルを、人間の理学療法士の手を借りずに克服できるのだろうか。これは、Rosita Longevityアプリがこれから実証すべき点である。

Rosita Longevityアプリのスクリーンショット(画像クレジット:Hearts Radiant/Rosita Longevity)

そのため、調達資金の一部は、バルネアリオで実施されている「長寿の学校」プログラムをデジタルプラットフォームに変換する方法に関する研究に充てられる予定だ。具体的には、60歳以上の高齢者向けにパーソナライズされたデジタルコーチングによって、対面でのグループエクササイズと同じように、フレイルを克服できるか(またそれによってアクティブに過ごせるか)どうかを調査する(純粋なデジタル体験によって得る人との社会的つながりと、対面でのグループ療法とで、効果に違いがあるかどうかという点は、綿密な研究を行うべき点の1つだ)。

確かに、世界中のどんなスマートフォンも、普通のバスルームをバルネアリオにある高級スパのような設備に変えることはできない。しかし、バルネアリオのプログラムのそれ以外の部分は、デジタル化と体系化によって対面と同様の効果をもたらすことができる、というのがRosita Longevityアプリの考え方だ。

彼らがこのアプリのために開発しているデジタル活動プログラムは、高齢者が楽しく使えることだけでなく、フレイルのレベルに合わせて調節できるように設計されている。現在提供されているクラスの例としては、動きを抑えたダンス、バーピーをしない「クロスフィット」、変形性関節症でも安全にできる空手などがある。

ユーザーの身体状況に適した活動レベルのコンテンツを提供するために、アプリの使用開始時には、フレイルのレベルを判断するための評価が行われる。

長い道のり

カルタヘナ氏は、長寿研究の分野で有名なバレンシア大学教授のDr. José Viña(ホセ・ヴィーニャ博士)の協力を得ていると述べる。「ヴィーニャ博士は、いくつかの生活習慣に加えて、運動療法により特定の筋肉に特定の方法で働きかけることによって、フレイルを初期段階で克服できることをすでに証明しています。まだ証明されていないのは、それを自分1人で行うリモート環境に適用できるかどうか、という点であり、それこそが今、私たちが取り組んでいることです。今回のプレシードラウンドの目的は、証明されていないこの点について調査するために、数千人のユーザーにこのアプリを使ってもらい、12か月後に[ユーザーのフレイルレベルが]改善するかどうかを確認することです」と同氏は付け加えた。

バルネアリオの施設は、新型コロナウイルスによる健康被害のせいで現在閉鎖されているが、2021年3月には再開する予定だ。その後はRosita Longevityアプリの受講者を毎年受け入れて、健康をサポートする習慣へユーザーを導くことができているかどうかについての継続的なフィードバックを集める。

カルタヘナ氏は次のように説明する。「お客様についてしっかり理解するということが何よりも大切で、それが当社の強みです。年間1万5000人の高齢者がバルネアリオのクラスに参加されます。それにより、お客様の習慣や、お客様が普段していること、していないことをよく把握できます。毎年参加される方には、去年は何をしていたかをお聞きすることもできます」。

「これはつまり、大きなフォーカスグループを活用できるということです。例えば、アプリを10日間使用しているフォーカスグループをデータ上で観察できるとします。しかし、そのような解析データを見るだけでなく、アプリを使用している人を目の前で実際に観察することにより、アプリの修正をはるかに迅速に行えるようになります。 私たちのリゾートを利用されるお客様は1日100人、ときには500人に達します。これが、お客様に本当に必要とされ、愛用してもらえる製品を作り上げるための基本的なやり方になると思います」。

Rosita Longevityアプリの現行バージョンには、パーソナライズされたAI搭載のコーチングはまだ含まれていない。 しかし、ここにもプレシードの資金が投入される。「教育と、フレイル克服プランの最初のコーチングプログラムは(iOS用アプリと同時に)3週間で準備が整うはずです。これにより、ユーザーが抱えている差し迫った問題が解決されます」とカルタヘナ氏は言う。

「パーソナライズされたコーチング(病理学、フォローアップ、コンテキスト、エクササイズの細分化など)は数多くの論理に基づいており、これをきちんとテストするには長い時間がかかります。 コーチングプログラムは段階的に展開する予定で、クリスマスの頃には『自信を持っておすすめできる』アプリになっていると思います。 それが私たちの『Habits Engine(習慣エンジン)』となるでしょう。このテストとジェロサイエンス(老年科学)研究計画にも、今回調達した資金を活用する予定です」。

Rosita Longevityアプリのもう1つの重要な目的は慢性的な痛みの解消だが、対処できない痛みもあることを、カルタヘナ氏は認めている。 このアプリは従来の医療に取って代わるものではなく、補完することを目的としている、と創設者たちは付け加えた。アプリはユーザーがより前向きになれるように設計されており、加齢による問題の予防こそが、健康で長生きするための戦略だと彼らは語る。

フェルナンデス氏は次のように説明する。「遠隔医療の目的はどちらかというと病気を管理することです。しかし、私たちの目的は病気を予防することです。高齢者が、自分の体に何が起こっているのか、この先10年間で何が起こるのかを理解し、自然な老化プロセスの進行を最小限に抑えられるような習慣を、ゆっくりと身につけることができるようにする。私たちはそれを着実に実行できるようにするための指標やツールを見つけだすことに重点を置いています」。

カルタヘナ氏によれば、フレイルを予測する能力を強化するために、アプリと連動できるセンサーハードウェアの開発についても研究者と協力して進めているそうだ。これにより、ユーザーカテゴリーの幅を広げて細分化できるようになるという(アプリの最初のバージョンには3つのカテゴリーがあるが、それを9つに増やしたいそうだ)。

スマートフォンとセンサーハードウェア、それにAI技術のおかげで、何年か前から、新世代のガイド付き理学療法アプリが登場し始めている。これらのアプリは、慢性的な痛みに対して、薬剤を使う治療に代わるものを提供しようとしている。Kaia Health(カイア・ヘルス)Hinge Health(ヒンジ・ヘルス)がその例だ。そしてもちろん、マインドフルネスやガイド付き瞑想は巨大なアプリビジネスになっている。一方、「デジタルヘルス」という広い概念から、いつでも気軽に利用できるCBT(認知行動療法)という治療プログラムがここ5年ほどで増えてきている。したがって、高齢者向けの健康長寿コーチングサービスという考え方は、そもそも奇妙なものでも、物珍しいものでもない。

とはいえ、意図された通りのユーザー体験を実現することが最大の課題になるかもしれない。 カルタヘナ氏は、バーチャルコーチと実際に良い関係を築き、利用を継続してもらうには、アプリのトーンが重要だと言う。「横柄」な印象を与えたり、アプリが「宿題」を与えているように感じさせたりしないトーンにしたいということだ。

フェルナンデス氏も、目標は良い習慣を維持することだと強調している。それには、全力で走る短距離走ではなく、ゆっくり走るマラソンの方が向いている。

高齢者が不快に思ったり、退屈、混乱を感じたりしない、安全で魅力的な体験を設計することができれば、生活の質を向上させるセラピーや活動、情報へのアクセスを拡大できる可能性は非常に大きくなる。フレイルはRosita Longevityアプリチームが取り組む最初の課題にすぎない。製品を開発し、利用率を上げていく中で、例えば認知症などの神経変性疾患の予防に役立つ健康習慣をユーザーが身につけられるようなサポートも提供していきたいそうだ。孤独感や社会的孤立に対処することも目標の1つだ。そのため、同アプリでは多種多様な健康プランを提供していきたいと考えている。

フェルナンデス氏は次のように語る。「現在の取り組みは、特にフレイルに焦点を当てており、その上でパーソナライズされたAIコーチを開発しています。そしてこれからは、長寿コーチングとは別に、さまざま健康プランを作り、追加していくことを考えています。栄養学、認知刺激、リラクゼーション、呼吸法、さまざまな予防戦略など、健康長寿を目指すためのさまざまなクラスを導入していく予定です」。

「私たちがクリニックで試してきたことの中で非常に重要なものの1つに、ユーザーへの助言があります。 その日何をすべきかということだけでなく、その人の老化プロセスがどうなっているのか、代謝がどうなっているのか、筋骨格系がどうなっているのかについても話します。 自分の体がどんな風に、なぜ老化するかを知らなければ、日常のちょっとした決定を下すことはできません。 助言を通じて力づけることにより、ユーザーは、その助言が長期的に役に立つ理由を理解し、共感できるようになります」。

「私たちは、現在進行形で体に生じている長寿化という現象と、長寿について科学が現在理解していることに基づいてコーチングプログラムを開発しました。これは大きな成功を収めてきた戦略の1つです。加えて、老化の症状を最小限に抑える方法も突き止めました。そして、これらを完全に[アプリ]の形に落とし込んでいることも、この戦略が成功している理由です」と同氏は付け加えた。

カルタヘナ氏はまた、新型コロナウイルス感染症「第4波」での死亡リスクについても指摘している。ロックダウン措置や感染リスクへの懸念から高齢者の活動がさらに制限され、その結果、体を動かさないためにフレイルが進行し、死亡リスクが高まる可能性があるという。

言い換えれば、自宅のソファに座っていれば高齢者のウイルス感染を防げるかもしれないが、急に動かなくなり、活力が低下すると、それもまた健康寿命を縮める原因になり得るということだ。そのため、高齢者のアクティブな生活を維持するためのツールは、これまで以上に重要になっているように思える。 こうした状況に鑑みて、Rosita Longevityアプリはパンデミックが終息するまで無料で提供する予定であり、その期間は2022年まで伸びる可能性がある、とカルタヘナ氏は言う。
Rosita LongevityアプリのビジネスモデルはB2Cであり、ユーザーとセラピストを直接つないで進捗状況をチャットで共有する機能などの有料コンテンツに力を入れているようだ。その一方で、デジタル版「モチベーションエンジン」であるこのアプリを市場に出すために、VCから支援を受けている。

現在、アプリには5000人が事前登録していて、1000人の高齢者が積極的に体験利用に参加している(場所はスペインで、ユーザーはいずれも60歳~80歳)。最近、アプリの更新プログラムがリリースされた。ソフトウェアは「早期アクセス」の段階を終え、「長寿のための個別AIコーチ」サービスの提供に向けて準備中だ。

Rosita Longevityアプリのコーチングが対応している言語は現在スペイン語のみだが、チームはこれまでにさまざまなレベルや慢性疾患に対応した「何百本」もの動画を作成しており、英国市場から始めて欧州全体に(そしておそらく欧州外にも)規模を拡大していくことを目指している。 そのため、次は英語のコンテンツを開発することになるだろう。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:エクササイズ 健康

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(翻訳:Dragonfly)

老化速度のモニターと対策を可能にするHumanity

いまやほとんどの人が、歩いた歩数、心拍数、体重などを記録できるウェアラブルデバイス、いわゆる「デジタル・バイオマーカー」を監視するアプリに慣れ親しんでいる。近年では比較的簡単な方法で、コレステロールのレベルなどの「生物医学マーカー」の監視を可能にするというスタートアップも現れている。まだ数は少ないが、彼らはバイオマーカーと生物医学マーカーの両方を監視することで、私たちの体の状態を全方位の視野で監視できる手段を探っている。

その中間の位置に、まさにその2つの合体を目指すHumanity(ヒューマニティー)が躍り出た。2人の経験豊富な起業家によって創設された同社は、デジタルおよび生物医学のバイオマーカーを統合した一般消費者向けアプリを、来年本格的にローンチさせる予定だ。

米国時間8月20日、同社は最初のシード投資となる250万ドル(約2億6000万円)を調達したと発表した。このラウンドは、ボストンのファンドOne Way Venturesと、長年のヘルステック系エンジェル投資家として高名なEsther Dyson(エスター・ダイソン)氏をはじめとする投資家たちが主導している。

歴史あるソーシャルネットワークWAYN(ウェイン)の共同創設者でもあり、多くの企業を立ち上げてきた起業家Peter Ward(ピーター・ウォード)氏と、元Badoo(バドゥー)のMichael Geer(マイケル・ギア)氏は、AIを駆使して人の健康寿命を最大限に延ばす健康と長寿のための企業で「人類の生活をより健康に、より長生きにしたい」と考えている。

彼らの狙いは「実際の老化速度」をモニターできる能力をユーザーに与え、どの行動が有効でどれが無意味かを示し、どうすれば老化プロセスを逆転させられるかを教えることにある。

彼らは、George Church(ジョージ・チャーチ)氏やAubrey de Grey (オーブリー・デ・グレイ)氏など、遺伝学と老年学の世界的権威をも引きつけ、同社の科学諮問委員会に招き入れた。

デ・グレイ氏は、老化防止技術の研究を奨励するMethuselah Mouse Prize(メトセラマウス賞)の運営団体Methuselah Foundation(メトセラ財団)の共同創設者として有名だ。

声明の中で、デ・グレイ氏は「世界の科学者は、ますます老年学に注目するようになっています。そのお陰で、画期的な大発見が加速度的に増えています。しかしながら、我々にはまだ、それらの発見を人々に直接届ける手段がありません。それを解決しようとしているのがHumanityであり、私が勇んで彼らの使命を支援するのは、そのためです」と語る。

Humanityの筆頭投資企業であるOne Way Venturesの業務執行社員Semyon Dukach(セミョーン・ドゥカチ)氏は「我々はこのラウンドを、一般消費者向け技術と健康分野の主要ファンドやエンジェルといった数多くの素晴らしい投資家とともに主導できたこと、そしてこの類い希なチームを支援できることを誇りに思います。我々はHumanityの使命を信じ、人々にこうした製品を提供するには今以上の好機はないと確信しています」とコメントしている。

ウォード氏は「病気を避けて老化を遅らせることに関して、多くの人が無力感を覚えています。世界に新型コロナウイルスが蔓延する中で、老化と体の不調がリスクを大幅に高めることを、我々はみなはっきりと認識しました。人々の最大の関心は、日々どのような行動をとれば健康を長期にわたって維持できるのか? という当然のものです」と付け加えた。

ギア氏は「人はこれまで、健康のために行っていることが本当に役に立っているのかどうかを知るための、正確で明確なフィードバック・ループを手にしたことがありません。我々は、まさにそのスーパーパワーを提供したいのです」と説明する。

Humanityは現在、その製品のアルファ版を「数百人のユーザー」を対象にテストしているところであり、いち早く使いたい人たちが「数千人」待っているという。アプリは、2021年の早い時期に英国と米国でローンチされる。2020年には世界医展開される予定だ。
画像クレジット:Humanity

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(翻訳:金井哲夫)

歯列矯正装置のbyteが絶好調、2020年の売上高は108億円を予想

自己資金で創業した企業にみられる特徴の1つが、VCの支援を受けた競合相手より成長スピードが遅いことだ。外部から支援を受けずに行うマーケティングの費用は売上高に頼っていて、売上高は往々にしてマーケティングでの支出に頼っている。この2つの要素の微妙な関係は成長スピードを緩やかにする。それに比べ、VCの支援を受けた企業は売上をあげる前に資金を注入でき、これにより成長スピードを早めることができる。

byte(バイト)は自己資金でもっと早く成長できる方法を見つけ出した。2017年に設立され、2019年初めにプロダクトを立ち上げた同社は、会長のNeeraj Gunsagar(ニーラジ・ガンサガー)氏によると、売上高のランレートが2020年第2四半期に1億ドル(約108億円)に達する勢いだ。

同社は創業は初めてという人が自己資金で興したスタートアップではない。byteはシリアルアントレプレナーのScott Cohen(スコット・コーエン)氏とBlake Johnson(ブレーク・ジョンソン)氏によって設立された。コーエン氏は2011年に初めての会社を設立し(2016年にDeluxe Corporationに買収された)、ジョンソン氏とともに立ち上げたコーエン氏の2つめの会社Currencyは未公開会社に2019年に売却された。

そしてコーエン氏とジョンソン氏は、byteを次のステージへと成長させ、国際展開と次のプロダクトの展開に備えるために、TrueCarの元CMOで同社で8年過ごしたガンサガー氏に助けを求めた。

しかし話を戻そう。byteは目立たない歯列矯正装置を扱っていて、InvisalignやSmileDirectClubといった大手、そしてCandidのような小規模の在宅歯列矯正のスタートアップが競っている業界に参入した。しかしそうした競合相手とbyteの間には大きな違いがある。

まず、テクノロジーだ。治療プランには歯型を取るキット、目立たない矯正装置そしてHyperbyteと呼ばれるデバイスが含まれる。Hyperbyteは、歯列矯正をスピードアップするために、高頻度振動(HFV)で歯の根やその周辺の骨に微小パルスを送る口の中で使用するデバイスだ。

HFV治療はFDA(米食品医薬品局)に承認されており、歯科矯正医のクリニックで提供されている。しかし通常かなり高額になる。

Hyperbyteは、byteのサービスに含まれていて、サービス代金は1895ドル(約20万4000円)だ。bytePayという支払いプランも用意されていて、この場合、月々83ドル(約8900円)を2年ちょっと払う。一括払いの方が349ドル(約3万7600円)安い。同社はまた、歯列矯正と併せて使用できるホワイトニングのソリューションもパッケージに含めている。

byteのすべての治療プランは、医師免許を持っている歯科矯正医がレビューする。そして顧客は治療期間中に臨床面で何か問題があれば歯科矯正医または歯科医に相談できる。また、咬合治療に保険を適用できる場合もある。

別の表現をすると、byteは歯列矯正治療にかかるコストと時間を軽減するものだ。重要なことには、byteは軽度の咬合異常、そして少しの隙間やわずかな歪みといったさほどひどくはない歯並び、過蓋咬合のような複雑ではない問題を専門としている。

最も興味深いのは、byteが2020年第1四半期に爆発的な成長を見せたことだ。2020年1〜3月の売上高は前年同期の10倍だった。そして第2四半期も10倍成長の勢いを持続しているという。byteはまたTechCrunchに対して、新型コロナウイルス(COVID-19)前のEBITDAは良好だった、と述べた(すべての非公開企業にいえることだが、そうした数字はbyteのものでありTechCrunchは確認していない)。

利益がbyteの財政状態を改善している。最初の歯型取りキットにたどり着くまでの顧客獲得コスト(CAC)は、2019年末に平均189ドル(約2万円)だったが、2020年4月末までに88ドル(約9500円)に下がった。

CACの急激な低下にはいくつかの要因が絡んでいる。ガンサガー氏によると、Googleキーワードの価格は新型コロナウイルスパンデミックの最中に大幅に下がり、直接そしてオーガニックのトラフィックが倍に増えた。これはおそらく新型コロナパンデミックで自己磨きへの関心が高まったためだ。

高まる自己磨きの潮流に乗った企業はbyteだけではない。「自己磨きへの関心、この期間を有効活用しようというトレンドがある」とRakuten IntelligenceでマーケティングSVPを務めているJaimee Minney(ジャイミー・ミニー)氏はCNBCに語った。「本の売上が増えている。ゲームやパズル、そして健康・美容部門の売上も同様に伸び始めている。特に2019年と比較するとそうだ。私が今後注意を向けるのは自己磨きのものだ」。

これまでは、こうした状況で会社の成長を加速させるために他の企業はマーケティングにより資金を投じていた、とガンサガー氏は説明した。

「我々は事業拡大に伴って、顧客体験も収益性も犠牲にしない」とガンサガー氏は話した。「我々はシステムを通じてあまりにも多くの歯型取りキットを展開したくない。何故なら、テクノロジーと体験の点でしっかりとサポートできることを確かなものにしたいからだ。我々が投じる資金はすべてかなりの収益を生んでいる。さらに資金を投入しても目標とするCAC150ドル(約1万6000円)は下回っていて、今年の売上高は1億ドルを超える。しかし我々のNPS(ネットプロモータースコア)や顧客満足度がひどいものにならないはず、とすごく自信があるわけではない」

用心深い成長戦略を描く中で、ガンサガー氏とbyteは幅広いテックエコシステムを漠然と眺めているわけではない。成長のためにあらゆる犠牲を払い、結局失敗に終わったテック企業を我々は目の当たりにしてきた。歯列矯正の分野でもそうした例はある。例えばSmileDirectClubは2019年9月のIPO前にすばらしい成長を達成したが、返金と引き換えにNDAを求められたという顧客から批判を浴びた

byteのもう1つの重要な戦略は、今後立ち上げられる歯科医や歯列矯正医とつながることができるbyteProだ。ヘルスケア専門家を切り離すのではなく、ともに成長しようという考えに基づいている。

2020年6月から展開されるbyteProでは、歯科医や歯列矯正医はbyteのプロセスにこれまで以上に関わることになる。これからサービスの利用を始めるクライアントは、byteの歯列矯正プロセスに関わって欲しいとかかりつけの歯科医や歯列矯正医に依頼できる。またオンラインで注文しなくても歯型取りインプレッションキットをかかりつけ医のクリニックで入手することすらできる。一方で、歯科医や歯列矯正医はbyteProネットワークに加入して新規患者とマッチングしてもらえる。さらにbyteを購入した人が年間を通じてこれまでよりもクリーニングや他の治療など歯のことを気に掛けるようになる、とbyteは話す。笑顔をすてきなものにするために投資した人に、いい歯科医や歯列矯正医を引き合わせることをbyteは目的としている。

byteはVCの支援は受けていないが、女優で投資家のKerry Washington(ケリー・ワシントン)氏から小額の資金を受けている。ワシントン氏はThe WingとCommunityにも投資していて、byteではクリエイティブ・ディレクターを務める。

「ポートフォリオを引き続き増やすための方法を探していたとき、自分自身が関わることを誇りに思えるような企業にフォーカスしていた。誇りに思えることとは、プロダクトの質と人々の暮らしの質をいかに向上させるかというものだ」とワシントン氏は述べている。「声を上げられることは本当に重要だ。byteに関しては『もし口を開けられらないのなら、声を出すことはできない』といってきた。そして顧客から話を聞くとき、人々は笑ったり話したりすることを恐れる。私はbyteが多くの点で人々の暮らしをいい方向へと変えられるツールだと認識した」。

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(翻訳:Mizoguchi