タンパク質シーケンシングを超高速化、Glyphic Biotechnologiesが6.6億円調達

DeepMind(ディープマインド)のおかげでヒトのプロテオーム(ある細胞に含まれているすべてのタンパク質)はすべて自由に閲覧できるようになるようだが、バイオテクノロジーの最先端では、毎日新しいタンパク質が作られ、テストされている。ここで重要になるのがタンパク質のシーケンシング(配列決定)だ。Glyphic Biotechnologies(グリフィックバイオテクノロジーズ)は、時間のかかるシーケンシングを高速化して、医薬品の開発期間を大幅に短縮しようとしている。

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タンパク質はたくさんの新しい治療法や製品の中核となっている。体内のどこにでもある、無限に変化するアミノ酸の鎖(タンパク質)は、細胞や体内物質、他のタンパク質とねじれて絡まりながら、DNAの複製からカリウムでは対応できない異物の排除まで、あらゆることを行っている。

創薬やバイオテクノロジーの分野において、タンパク質は無限の可能性を秘めている。適切なタンパク質があれば、がん細胞を捕らえたり、自然治癒を促進したり、有益な物質の生成を促したりすることができる。しかし、新しい分子を見つけてテストするのは簡単ではない。特に難しいのは、テストしようとしているタンパク質の正確な構造を調べるシーケンシングである。

現在、いくつかの大企業がタンパク質の同定ビジネスを展開しているが、一般的な方法は、タンパク質鎖の末端にあるアミノ酸を特定し、そのアミノ酸を切り取って次のアミノ酸を特定する、というプロセスを繰り返すものである。

この方法の問題点は、タンパク質の形状や次のアミノ酸の分子特性によって、末端のアミノ酸における結合を調べて特定するというプロセスが妨害されてしまうことだ。そのため、この方法には一定量の不確実性があり、信頼性に欠けていた。

Glyphic Biotechnologiesは、共同創業者の1人が開発したClickPと呼ばれる新しい分子を用いて、まずターゲットとなるアミノ酸を切り離し、すぐに(ClickPに)結合させるというステップを追加することで、この問題を解決する。既知の分子に固定された1つのアミノ酸は、はるかに簡単に特定することができる。1つのアミノ酸を特定したら、従来の方法と同じようにこのプロセスを繰り返す。

簡単に説明したが、この進歩は大きなものだ。現在の抗体同定技術では、(非常に高価な)機械1台で、1週間で数万個のタンパク質の配列しか生成・検査できない。多いようにも見えるが、タンパク質はその性質上無限に存在するので、これはバケツの中の一滴に過ぎない。24時間365日稼働しても、需要を満たすことはできないのだ。

Glyphic Biotechnologiesの方法では、ClickPと単一分子顕微鏡(DNAシーケンサー大手のIllumina(イルミナ)が使用しているようなもの)を利用することで、1週間に数百万から数千万個、将来的には数十億個の配列の検査が可能になる。控えめに見積もっても、桁違いの成果が得られることになる(別の方法ではB細胞を培養して対象の抗体を生成するので、数万個の情報には(ほぼ確実に)繰り返しやジャンクの情報が含まれる)。

画像クレジット:Glyphic Biotechnologies

さらに、ClickP法では隣のアミノ酸からの干渉の問題を避けることができるので、非常に高い選択性と信頼性が得られる。つまり、単にタンパク質の配列を従来の100倍、1000倍決定するのではなく、はるかに確実な結果を得ることができるのだ。

当初、Glyphic Biotechnologiesは送られてきたサンプルを処理していたが、最終的には競合他社と同じように自社の技術を他の研究室で利用してもらうことになる。同社のロードマップは、サービスからハードウェアの販売およびサポートへと進んでいる。

バイオテクノロジー分野で配列決定の需要が急増する中、すべてが触れ込みどおりに機能すれば、Glyphic Biotechnologiesの技術は、タンパク質配列決定の新しい標準になるかもしれない。しかし、そのためには、もう少し成長の時間が必要だ。

同社が開拓したプロセスは、共同創業者のJoshua Yang(ジョシュア・ヤン)氏(CEO)とDaniel Estandian(ダニエル・エスタンディアン)氏(CTO)が、MIT(マサチューセッツ工科大学)のEd Boyden(エド・ボイデン)博士の研究室で行った研究が元になっている(ヤン氏とエスタンディアン氏は「科学的創業者」としてチームに参加した)。

CTOのダニエル・エスタンディアン氏(左)と、CEOのジョシュ・ヤン氏(画像クレジット:Glyphic Biotechnologies)

ヤン氏は、同社が業界を支配する可能性を阻んでいるのは、単なる化学工学の問題だと説明する。

「共同創業者であるエスタンディアンは、ClickPを自分で開発しました。組み合わせがうまくいったのです」とヤン氏は話す。「しかし、大学の研究室から独立した私たちは、まだ20種類のバインダーすべてを開発できていません。これは既製の分子ではないのです」。

これらのバインダーは、20種類のアミノ酸のそれぞれを調べるためのアダプターのようなものだ。バインダーの開発には時間と費用がかかるので、彼らはまずいくつかのバインダーを使ってシステムを公表し、残りのバインダーを開発するための資金を得ることにした。「このシステムを世に送り出すためには、時間をかけるしかありません」とヤン氏。

今回のシードラウンドで602万5000ドル(約6億6000万円)を調達したアーリーステージの同社は、プラットフォームの構築を進めている。このラウンドは、OMX Ventures(オーエムエックスベンチャーズ、過去に10X Genomics(テンエックスゲノミクス)とTwist Bioscience(ツイストバイオサイエンス)に投資している)が主導し、Osage University Partners(オーセージユニバーシティパートナーズ)、Wing VC(ウィングブイシー)、Artis Ventures(アルティスベンチャーズ)、Cantos Ventures(カントスベンチャーズ)、Civilization Ventures(シビリゼーションベンチャーズ)、Axial VC(アキシャルブイシー)が参加し、エンジェル投資家としてMammoth Biosciences(マンモスバイオサイエンス)のCEO、Trevor Martin(トレバー・マーティン)氏が参加した。

Glyphic Biotechnologiesは、カリフォルニア大学バークレー校に新設されたバイオテックインキュベーター「Bakar Labs(バカールラボ)」に最初の拠点を置く予定。次の大きなステップを踏み出す準備が整うまで、Bakar Labsで過ごすことになるだろう。2022年にはシリーズAラウンドで資金調達してハードウェアの製造に乗り出すかもしれない。同社初の有料サービスも開始されるはずだ。巨大な抗体市場も、同社の始まりに過ぎない。

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インタビューの後、ヤン氏はメールで説明をしてくれた。「抗体は単なる出発点に過ぎません。タンパク質の配列決定は多くの用途に利用できます」「もう1つの有望な分野は、産業用バイオテクノロジーです。進化させた酵素をタンパク質の配列決定に基づいてスクリーニングすれば、強化された機能や新しい機能(より優れた洗濯用洗剤や排水処理など)を特定することができます。また、診断テストの開発にもメリットがあります。サンプルに含まれるより多くのタンパク質をシーケンシングして同定することができれば、発見しにくい重要なバイオマーカーを同定したり、優れたバイオマーカーパネルを開発したりすることが可能で、それらを一緒に利用すれば、疾患の検出や予測の可能性が高まるからです」。

Glyphic Biotechnologiesのような会社は、資金力のある競合他社の格好の餌食のようにも思われるが、ヤン氏は、それを乗り越える自信はある、と話す。

「この分野の動きは非常に活発です。エスタンディアンと私は、次のIlluminaや10X Genomicsのように、プロテオミクス分野のリーダーになりたいと思っています」。競合他社が切り札を隠していなければ、ヤン氏の野望が成就する可能性も高い。

画像クレジット:Glyphic Biotechnologies

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

AI創薬のSyntheticGestaltが約12億円を調達、機械学習モデルの拡張・自社パイプライン拡充に向けウェット試験実施

AI創薬事業を手がけるSyntheticGestaltが約12億円を調達、機械学習モデルの拡張・自社パイプライン拡充に向けウェット試験実施

AIによる創薬事業を展開するSyntheticGestalt(シンセティックゲシュタルト)は9月29日、シリーズAラウンドにおいて、1100万ドル(約12億円、このうち400万ドルが株式、700万ドルが転換社債)の資金調達を発表した。引受先は英国政府系ファンドFuture Fundをはじめ、インキュベイトファンド、三井住友海上キャピタル、ほか2社。累計調達額は1400万ドル (約15億円)となった。

ロンドンと東京に拠点を持つSyntheticGestaltは、AI創薬事業を展開するスタートアップ。新薬候補物質を製薬企業に提供する「自社創薬」と、創薬システムを基軸としたケイパビリティをライフサイエンス系企業との協業にいかす「共同研究」の2つの事業を主軸としている。今回調達した資金は、機械学習モデルの拡張および自社パイプライン拡充のための各種ウェット試験にあてる方針。

SyntheticGestaltの創薬システムは、より多くの新薬候補物質を機械学習を用いて発見するために開発された。数十億の化合物から新薬候補物質をスピーディーに発見し、創薬における研究期間を大幅に短縮することが期待されている。また、従来の機械学習を用いた創薬と異なり、創薬標的タンパク質の構造情報を必要としないため、これまで治療薬の創出が困難であった標的も創薬の対象にできるという。

ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円調達

ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円のシリーズB調達

ナノテクノロジー応用がん免疫薬(ナノ免疫薬)に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」(UI)は9月7日、シリーズBラウンドにおいて、第三者割当増資による約5億円(4.995億円)の資金調達を実施したと発表した。引受先は、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)、KISCO。

2017年11月設立のUIは、京都大学大学院工学研究科と三重大学大学院医学系研究科の長年の医工連携研究の成果を実用化すべく設立され、次世代ナノ免疫薬の基礎研究から臨床応用まで幅広く取り組んでいるという。

独自のナノ粒子型免疫デリバリーシステム(プルランナノゲルDDS)を活用した免疫活性化の基盤技術を活用し、難治性がんの治療薬や新型コロナウイルスワクチンの研究開発を手がけているそうだ。

調達した資金により、免疫チェックポイント阻害剤でも十分な薬効を示せない難治性がんの治療を目指す抗がん剤「T-ignite」、新型コロナウイルスワクチンの臨床試験実施の準備(どちらもAMED CiCLE事業の支援で研究開発を推進中)、および他の自社研究開発プログラムの加速化を推進する。また、アステラス製薬子会社のXyphosと実施中の共同研究の加速、人材獲得を含めた経営体制の強化を推進する。

UIによると、今までの治療法が効かない免疫的難治性がん(cold tumor)の原因となっているがん組織内のマクロファージの機能をうまく調節できれば、免疫的難治性がんを治療感受性の(T細胞が豊富に存在し免疫的に活性化した)「hot tumor」に変換して、治療効果を発揮する可能性があるという。そこで同社は、治療成分を搭載したプルランナノゲル型ドラッグデリバリーシステム(DDS)を「T-ignite製品」と名付けて鋭意開発している。

例えば、静脈内投与されたT-igniteは、プルランナノゲル型DDSの働きによってがん組織内のマクロファージに選択的に取り込まれる。そこで、T-igniteに含まれる薬剤がマクロファージの機能で抗がん免疫を活性化する方向に調節することで、がん組織の中から免疫が活性化して、がんを難治性から治療感受性へ変換できると考えているという。搭載する薬剤や適応疾患の種類を変えることで、多様なT-ignite製品をシリーズ化するとしている。ナノテクノロジー応用の次世代がん免疫薬に特化した創薬スタートアップ「ユナイテッド・イミュニティ」が約5億円のシリーズB調達

波紋を呼んだアルツハイマー病治療薬「Aduhelm」への承認を皮切りに、米FDAの迅速承認経路への保健福祉省による審査開始

米国保健福祉省の監察総監室(HHS-OIG)は米国時間8月4日、米食品医薬品局(FDA)の迅速承認プロセスについての調査を開始すると発表した。Biogen(バイオジェン)が開発したアルツハイマー病治療薬「Aduhelm(アデュヘルム)」に対する承認が物議を醸してから、わずか2カ月後のこの事態である。

この審査では、FDAの迅速承認経路(既存の治療法がない重篤な疾患の治療薬が、サロゲートエンドポイントと呼ばれる一定の中間ベンチマークを達成すれば承認される経路)に焦点が当てられる予定だ。こういった薬剤は臨床的に有用であると考えられていても、その有用性が実際に証明されていない状態での承認となり、承認後には第Ⅳ相試験で臨床効果を実証する必要がある。

アルツハイマー病治療薬として2003年以来初めて承認され、大きな議論を呼んだAduhelmは、この経路によって承認された。そしてこの承認に対するHHS-OIGの審査プロセスが動き出したことが、監察総監室の8月4日の発表で明らかになったというわけだ。

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発表文には次のように記されている。「FDA内での科学的論争、諮問委員会による承認反対票、FDAと業界間の不適切な密接関係への疑惑、FDAによる迅速承認経路の使用などの理由により、FDAによるAduhelmの承認に対する懸念が生じています」。

「こういった懸念に対応し、FDAが迅速承認経路をどのように実施しているのかについて評価を行なっていきます」。

FDAはこの経路によるAduhlemの承認決定について防衛的な構えを見せているが、この薬の有効性やそもそもどのようにして承認されたのかという経緯については大きな反感が持たれている。

「Aducanumab(アデュカヌマブ)」としても知られるAduhelmは、脳内のアミロイド斑(脳細胞間のコミュニケーションを阻害する粘着性化合物)を減少させることができると実証されている。しかし、アミロイド斑を減らすことでアルツハイマー病の最も悪質な症状である認知機能の低下を実際に遅らせることができるかどうかは不明であり、実際に患者がこれによるメリットをどの程度得ることができるのかについては疑問が残っている

2019年3月、この薬に対する2種の第Ⅲ相臨床試験が実施されたが、独立監査委員会がこの薬が患者の認知機能の低下率を改善していないと判断したため中断されている。しかし、Biogenが10月に行った別の分析では異なる結果が得られており、1つの第Ⅲ相臨床試験では認知機能の低下の改善が見られなかったが、もう1つの試験では最高用量を投与された患者にわずかな効果が見られている。

2020年11月、FDAの独立諮問委員会はこの薬への承認支持を拒否。しかし2021年6月、この薬はどういうわけだか承認されたのである。

Aduhelmが承認されたことで、製薬業界ではFDAがバイオマーカーに基づいた承認を拡大するのではないかという楽観的な見解が広がった。しかし、このような楽観的な見方は科学コミュニティの大方の意見とは違っていた。

承認に反対していた独立諮問委員会の3名の委員が、抗議のために辞任するという事態に発展。またデータに一貫性がないとして、マウントサイナイ医科大学やクリーブランド・クリニックなどの主要な病院システムが、この薬を処方しない意図を表明したのだ。

Aduhelmの承認を巡っては、承認に至るまでのFDAとBiogenの関係性が特に密接であったのではないかとの疑惑が議論の中心となっている。STATが最初に報じたところによると、Biogenは規制当局を説得するための「Project Onyx」と呼ばれる社内活動を開始し、最終的には一部のFDA職員が外部の専門家の前で同社との共同プレゼンテーションを行うなど、薬の承認に対して積極的な役割を果たしている。

FDA長官代理のJanet Woodcock(ジャネット・ウッドコック)氏は、7月9日の書簡でHHS-OIGに対し、BiogenとFDAの関係性を調査するための外部調査を行うよう求めた。

「メーカーと当局の審査担当者との間で生じたやりとりが、FDAの方針や手順と矛盾していなかったかどうかを判断するには、独立した機関による評価が最善の方法であると考えています」と同氏はTwitterに書き込んでいる。

HHS-OIGによる今回の調査は、Aduhlemの問題に端を発しているものの、今回のレビューはAduhlem(あるいは他の医薬品)の科学的根拠を検証することに重点を置いておらず、むしろFDAがどのようにして、いつ、製薬会社に迅速承認を行うのかを評価するための、迅速承認に関する全体的な監査を行うためのものである。

HHS-OIGは今度、FDAと外部関係者間のやりとり、方針や手続きを検討し、FDAがそれらの手続きを遵守しているかどうかを調査。またAduhelmのレビュープロセスを対象とするだけでなく、他の医薬品の承認に対しても、この経路がどのように使用されてきたかを調査する予定だ。

また、ウッドコック氏はTwitterでの声明内で、FDAはHHS-OIGのレビューに対して「完全に協力する」と伝えている。

「HHS OIGが実行可能な項目を特定して何らかの提言を行った場合、FDAはそれを迅速に検討し、最善策を決定します」と同氏。

また、アルツハイマーの治療薬を開発している他の企業にとっても、この経路は魅力的な選択肢となっているため、今後の動きは治療薬の行先に大きな影響を与える可能性がある。

例えばEli Lilly(イーライリリー)は「Donanemab(ドナネマブ)」というアルツハイマー病治療薬を開発しており、この薬がアミロイドなどのバイオマーカーを低下させ、患者の改善につながることを示す第II相試験の結果を発表している。しかしこの結果の大部分は個々の患者の治療結果ではなく、アルツハイマー病のバイオマーカーに対する薬の有効性を示すものとなっている。

Eli Lillyのシニアバイスプレジデント兼チーフ・サイエンティフィック・メディカル・オフィサーのDaniel M. Skovronsky(ダニエル・M・スコブロンスキー)氏は、先に行われた第2四半期の決算説明会で、FDAによるAduhelmの承認は「政策の転換を反映し、米国におけるアルツハイマー病治療薬の承認に新たな道筋をつけるものである」と述べ、同社が年内にはFDAの迅速承認経路を利用してDonanemabの承認を申請する意向であることを明らかにした。

これは、これから正にHHS-OIGが調査を行おうとしている経路そのものである。

しかしすぐに結果が出るわけではない。「政策の転換」を利用しようとする将来のアルツハイマー病治療薬メーカーに今回のニュースがどのような影響を与えるかは不明である。この報告書は2023年に発表される予定だ。

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画像クレジット:Grandbrothers / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

タンパク質探索プラットフォームのAbsciが市場デビューを果たす

バンクーバーを拠点とし、多面的な医薬品開発プラットフォームを開発するAbsci Corpは米国時間7月22日、株式を公開した。一般的にリスクが高いと言われている医薬品開発事業だが、これはこの分野における新しいアプローチへの関心が著しく高まっていることを示唆するニュースである。

Absciは前臨床段階での医薬品開発の加速化に注力しており、薬の候補を予測し、潜在的な治療ターゲットを特定し、治療用タンパク質を何十億もの細胞でテストして、どれが追求する価値のあるものかを特定することができる複数のツールを開発、取得している。

Absciの創業者であるSean McClain(ショーン・マックレーン)氏は、TechCrunchのインタビューに応じ「我々は医薬品開発のための完全に統合されたエンド・ツー・エンドのソリューションを提供しています。タンパク質創薬とバイオマニュファクチャリングのためのGoogle検索だと想像してみてください」と話している。

IPOの初値は1株あたり16ドル(約1760円)。S-1ファイリングによると、プレマネー評価額は約15億ドル(約1650億円)となっている。同社は1250万株の普通株式を提供し、2億ドル(約220億円)の資金調達を計画しているが、Absciの株式はこの記事を書いている時点ですでに1株あたり21ドル(約2300円)にまで膨らんでいる。同社の普通株は「ABSI」というティッカーで取引されている。

同社がこのタイミングでの株式公開を決めた理由は、新たな人材を獲得して維持する能力を高めるためだとマックレーン氏は話している。「急速な成長と規模拡大を続ける当社にとって、トップクラスの人材の確保が欠かせません。IPOによって、優秀な人材の確保と維持のために必要な知名度が得られることでしょう」。

2011年に設立されたAbsciは、当初から大腸菌でのタンパク質の生産に着目。2018年には複雑なタンパク質を構築できるバイオエンジニアリングされた大腸菌システムである「SoruPro」という初の商用製品を発売した。2019年、同社は「タンパク質印刷」プラットフォームを導入することで、このプロセスをスケールアップさせている。

創業以来、今では170人の従業員を抱えるまでになり、2億3000万ドル(約253億円)を調達した同社。Casdin CapitalとRedmile Groupが主導して2020年6月にクローズした1億2500万ドル(約138億円)のクロスオーバーのファイナンスラウンドが最近の資金流入だ。しかしAbsciは2021年になって2つの大きな買収を行い、タンパク質の製造・検査からAIを活用した医薬品開発まで、提供するサービスを完成形へと近づけたのである。

2021年1月、AbsciはディープラーニングAIを用いてタンパク質の分類と挙動予測を行うDenoviumを買収。Denoviumの「エンジン」は、1億個以上のタンパク質で学習されたものだ。また6月には、特定の病気に対する免疫系の反応を分析するバイオテック企業、Totientを買収した。買収当時、Totientはすでに5万人の患者の免疫系データから4500の抗体を再構築していた。

Absciはすでにタンパク質の製造、評価、スクリーニング技術を保有していたものの、Totientの買収により新薬の潜在的なターゲットを特定することが可能になった。また、Denoviumの買収によりAIベースのエンジンが追加され、タンパク質の発見がこれにより容易になったのである。

「我々が行っているのは、ディープラーニングモデルに(自社のデータを)投入することで、それがDenoviumを買収した理由です。Totientを買収する前は創薬や細胞株の開発を行っていました。今回の買収により統合が完全になったため、ターゲット発掘もできるようになりました」とマックレーン氏は話している。

この2つの買収によって、Absciは医薬品開発の世界でとりわけアクティブかつニッチな位置に身を置くことになったわけだ。

数十年もの間、医薬品の研究開発はローリターンとされてきたにもかかわらず、医薬品開発における新たなアプローチの開発には注目すべき財政的関心が寄せられている。Evaluateの報告によると、新薬開発企業は2021年上半期、欧米の取引所でのIPOで約90億ドル(約9900億円)を調達している。医薬品開発は一般的にハイリスクであるにもかかわらずだ。バイオ医薬品のR&Dリターンは、2019年に1.6%と過去最低を記録し、現在も約2.5%までにしか回復していないとDeloitteの2021年の報告書は指摘している

医薬品開発の世界ではAIの役割がますます大きくなってきている。「ほとんどのバイオファーマ企業が、AIを創薬、開発プロセスに統合しようとしている 」と、同じくDeloitteのレポートは伝えている。また、スタンフォード大学のArtificial Intelligence Indexの年次報告書によると、2020年に創薬プロジェクトはこれまでで最も多くのAI投資を受けていたという。

最近では候補化合物を前臨床開発の段階へと進められた企業によって、医薬品開発におけるAI活用の将来性が高められているようだ。

6月、香港のスタートアップInsilico MedicineはAIが特定した特発性肺線維症の薬剤候補を前臨床試験の段階にまで進めたことを発表。この成果により2億5500万ドル(約280億円)のシリーズCラウンドが成立した。創業者のAlexander Zharaonkov(アレクサンダー・ジャラオンコフ)氏はTechCrunchに対し、PI薬の臨床試験を2021年の終わりか2022年初めに開始する予定だと話してくれた。

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AIとタンパク質生産の両方をてがけるAbsciは、誇大広告が多く、混み合った空間ですでに確固たる地位を確立している。ただし、ビジネスモデルの詳細については今後詰めていかなければならないだろう。

Absciは医薬品メーカーとのパートナーシップによるビジネスモデルを追求している。つまり、自社で臨床試験を行うことは考えていないわけだ。医薬品の開発過程のある段階に到達することを条件とした「マイルストーンペイメント」や、医薬品が承認された場合に販売額に応じたロイヤルティで収益を得ることを想定している。

これにはいくつかの利点があるとマックレーン氏はいう。何百万ドル(何億円)もの研究開発費を投じて試験を行った後に新薬候補が失敗するというリスクを回避でき、また一度に「数百」もの新薬候補の開発に投資することができるのだ。

現時点でAbsciは製薬会社との間で9つの「アクティブなプログラム」を行っている。同社の細胞株製造プラットフォームは、Merck、Astellas、Alpha Cancer technologiesを含む8つのバイオファーマ企業の薬剤試験プログラムで使用されている(残りは非公開)。これらのプロジェクトのうち5つは前臨床段階、1つは第1相臨床試験、1つは第3相臨床試験、最後の1つは動物の健康に焦点を当てたものであると同社のS-1ファイリングに記載されている。

現在Absciの創薬プラットフォームを使用しているのはAstellasのみだが、マックレーン氏がいうように、創薬機能は2021年展開したばかりである。

しかしこれらのパートナーはいずれも、Absciのプラットフォームを正式にライセンスして臨床または商業利用しているわけではない。マックレーン氏は、9つのアクティブなプログラムの中には、マイルストーンやロイヤリティの可能性があると考えている。

確かに同社の収益性に関しては、まだ改善の余地がある。2021年の時点でAbsciは約480万ドル(約5億3000万円)の総収入を得ており、2019年の約210万ドル(約2億3000万円)から増加傾向にある。それでもコストは高止まりしており、S-1ファイリングによると過去2年間で純損失を計上。2019年には660万ドル(約7億3000万円)の純損失、2020年には1440万ドル(約16億円)の純損失を計上しているという。

同社のS-1によると、これらの損失は、研究開発費、知的財産ポートフォリオの構築、人材の雇用、資金調達、およびこれらの活動に対するサポートに関連する支出とされている。

マックレーン氏によると同社は最近、7万7000平方フィートの施設を完成させたという。今後事業規模を拡大していく可能性があるという意味なのだろう。

当面はIPOで調達した資金を使ってAbsciの技術を使用するプログラム数を増やし、研究開発に投資し、同社の新しいAIベース製品を継続的に改良していく予定だ。

画像クレジット:CHRISTOPH BURGSTEDT/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

AI創薬のMOLCUREが総額8億円調達、製薬企業との共同創薬パイプライン開発やグローバルを主戦場とした事業展開を加速

AI創薬のMOLCUREが総額8億円調達、製薬企業との共同創薬パイプライン開発やグローバルを主戦場とした事業展開を加速

AIを活用した新薬開発を行うMOLCURE(モルキュア)は8月18日、第三者割当増資による総額8億円の資金調達を発表した。引受先は、ジャフコ グループ、STRIVE、SBIインベストメント、日本郵政キャピタル、GMOベンチャーパートナーズ、日本ケミファ。今後は、国内外の製薬企業との共同創薬パイプライン開発を推進するとともに、グローバルを主戦場とした事業展開をさらに加速する。

有効な治療薬のない疾患は3万以上存在するとされるものの、製薬業界では創薬の難易度が年々高まり、開発効率が下がっているのが現状だ。製薬企業が医薬品を市場に提供するまでには約10年という期間、また約1000億円という巨額なコストが必要といわれており、新たな技術や開発手法が求められている(How to improve R&D productivity: the pharmaceutical industry’s grand challenge)。

これに対して、MOLCUREが提供するバイオ医薬品分子設計技術は、AIとロボットを活用し自動的に大規模スクリーニングと分子設計を行えることから、既存手法と比較して、医薬品候補分子の発見サイクルを1/10以下に効率化すること、また10倍以上多くの新薬候補の発見、従来手法では探索が困難な優れた性質を持つ分子の設計を行えるという。現在同技術を活用し、製薬企業とパートナーシップを組んで新薬開発を行っているそうだ。AI創薬のMOLCUREが総額8億円調達、製薬企業との共同創薬パイプライン開発やグローバルを主戦場とした事業展開を加速

特に、2021年に製薬企業と実施した共同創薬パイプライン開発では、既存のバイオテクノロジー実験ドリブンな手法と比較して100倍以上の結合力を持つ分子を大量に設計することに成功したという。また世界で初めて、ある創薬標的に対して効果を持つ分子の設計にも成功し、AIを活用した創薬事例で大きな成果を残したとしている。

MOLCUREが提供する技術は、圧倒的に多くの優れた医薬品分子を探索できる点や、業界トップの研究者集団が提供するAI×バイオ医薬品開発の質の高いノウハウが支持されているとしている。共同で創薬パイプライン開発を行っているパートナーとしては、これまでに米Twist Bioscience、日本ケミファをはじめ(2021年8月18日時点の例)、製薬企業・製薬バイオテック企業など累計7社10プロジェクトで利用されているそうだ。

AI創薬のMOLCUREが総額8億円調達、製薬企業との共同創薬パイプライン開発やグローバルを主戦場とした事業展開を加速

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カテゴリー:バイオテック
タグ:医療 / 治療(用語)AI / 人工知能(用語)創薬(用語)MOLCURE(企業)ロボット(用語)資金調達(用語)日本(国・地域)

開発期間も費用も短縮させるAI創薬プラットフォームのInsilico Medicine、大正製薬も協業

医薬品開発と創薬のためのAIベースのプラットフォームInsilico Medicine(インシリコ・メディスン)は現地時間時間6月22日、2億5500万ドル(約282億円)のシリーズC資金調達を発表した。この巨額のラウンドは同社の最近のブレイクスルーを反映している。そのブレイクスルーとは、AIベースのプラットフォームが病気の新たなターゲットを生み、その問題を解決するためにオーダーメードの分子を開発し、臨床試験プロセスを開始できると証明したことだ。

また、このラウンドはAIと創薬が引き続き投資家にとって特に魅力的であるという別のサインでもある。

Insilico Medicineは、1つの前提を中心に据えて2014年に創業された香港拠点の会社だ。その前提とは、AIがアシストするシステムが治療法のない病気のための新規創薬ターゲットを特定して新しい治療法の開発をアシストし、ゆくゆくはそうした治療法が臨床試験でどのような成果をあげるかを予想できるというものだ。Crunchbaseによると、同社は以前5130万ドル(約57億円)を調達した。

創薬を促進するためにAIを使うというInsilico Medicineの目標は特に目新しいものではないが、同社が実際に試験予知の初めから終わりまでを通じて新薬発見を実際に達成できるかもしれないことをうかがわせる、いくらかのデータがある。2020年に同社は特発性肺線維症という、肺の中の小さな気嚢が傷つき呼吸が困難になるという病気のための新薬ターゲットを特定した。

2つのAIベースのプラットフォームはまず可能性のある20のターゲットを特定し、そこから1つに絞った。そして動物実験で有望性が認められた小分子治療をデザインした。同社はFDA(米食品医薬品局)に新薬治験の開始届を提出しており、2021年後半あるいは2022年初めに臨床試験を始めることを目指している。

しかしここで注目すべきは薬ではなく、そのプロセスだ。プロジェクトは、通常複数の年にまたがり数億ドル(数百億円)もかかる前臨床医薬品開発のプロセスを期間18カ月、費用約260万ドル(約2億9000万円)に圧縮した。それでも創業者のAlex Zhavoronkov(アレックス・ザボロンコフ)氏は、Insilico Medicineの強みが主に前臨床医薬品開発を加速させたりコストを削減したりすることだとは考えていない。主な魅力は創薬における推測の要素をなくすことにある、と同氏は示唆する。

「現在当社はIPF(特発性肺線維症)だけでなく、16の治療に関する資産を持っています。それは間違いなく人々を驚かせました」と同氏は語る。

「成功の確率がすべてです。すばらしい分子で正しいターゲットを正しい病気につなげることに成功する確率は極めて低いです。当社がIPFやまだ話せない他の病気でそれを行うことができるという事実は、一般的にAIにおける自信を高めます」。

部分的にはIPFのプロジェクトとAIベースの創薬をめぐる熱狂によって展開された概念実証によって支えられて、Insilico Medicineは直近のラウンドでかなり多くの投資家を引きつけた。

ラウンドはWarburg Pincusがリードし、Qiming Venture Partners、Pavilion Capital、Eight Roads Ventures、Lilly Asia Ventures、Sinovation Ventures、BOLD Capital Partners、Formic Ventures、Baidu Ventures、そして新規投資家が参加した。新規投資家にはCPE、OrbiMed、Mirae Asset Capital、B Capital Group、Deerfield Management、Maison Capital、Lake Bleu Capital、President International Development Corporation、Sequoia Capital China、Sage Partnersが含まれる。

ザボロンコフ氏によると、このラウンドには4倍の申し込みがあった。

2009年から2018年にかけてFDAによって承認された63の薬にかかる2018年の研究で、薬をマーケットに投入するのに必要なR&D投資の中央値は9億8500万ドル(約1090億円)だったことが明らかになった。この額には失敗に終わった臨床試験の費用も含まれる。

そうした費用と薬が承認される可能性の低さは当初、創薬プロセスを減速させていた。2021Deloitteレポートによると、バイオ医薬品のR&Dの見返りは2019年に1.6%という低さを記録し、2020年にわずか2.5%に立ち直った。

AIベースのプラットフォームが、試験の失敗を減らすことができる豊富なデータで訓練されるのが理想だとザボロンコフ氏は思い描く。そのパズルの2つの主要なピースがある。ターゲットを特定できるAIプラットフォームのPandaOmicsと、ターゲットに結合するための分子を製造できるプラットフォームChemistry 42だ。

「我々をターゲット発見のための60超の原理を有するツールを持っています」とザボロンコフ氏は話す。

「あなたは斬新な何かに賭けますが、と同時にあなたの仮説を強化する証拠のポケットも持っています。それが我々のAIがうまくこなしているものです」。

IPFプロジェクトは論文審査のある専門誌で全文掲載されていないが、似たようなプロジェクトがNature Biotechnologyで発表された。その論文では、Insilcoの深層学習モデルは可能性を持つ化合物をわずか21日で特定することができた。

IPFプロジェクトはこのアイデアの拡大版だ。ザボロンコフ氏は知られているターゲットの分子を特定するだけでなく、新しいターゲットも見つけて臨床試験に導きたいと考えている。そして、将来の創薬プロジェクトを向上させるかもしれないそうした臨床試験のデータを引き続き集めている。

「これまで、提携して病気を治そうと誰も当社に申し込んでいません。もし実現すれば、かなりうれしいです」。

とはいえ、新しいターゲット発見へのInsilico Medicineのアプローチは断片的だった。例えばInsilico Medicineは新しいターゲット発見でPfizerと、小分子デザインでJohnson and Johnsonと、大正製薬とはこの2つで協業してきた。Insilico Medicineは6月22日にTeva Branded Pharmaceutical Products R&Dとの提携も発表した。Tevaは新薬ターゲットを特定するのにPandaOmicsを使うつもりだ。

2019年にNatureは、大手製薬会社とAI創薬テック企業の間で少なくとも20の提携があった、と指摘した。スタンフォード大学のArtificial Intelligence Index年次レポートによると、医薬品開発を追求しているAI企業の投資は2020年に前年の4倍の139億ドル(約1兆5390億円)に増えた。

創薬プロジェクトには2020年、民間AI投資から最も多い額が注がれた。これは部分的に、パンデミックによる迅速な医薬品開発に対する需要に起因している。しかしながら、創薬における過熱傾向は新型コロナ前からあった。

ザボロンコフ氏はAIベースの医薬品開発が現在やや誇大宣伝の傾向にあることに気づいている。「AIで動く創薬を支える実質的な証拠を持たない企業が迅速に調達できると主張しています」と同氏は指摘する。

Insilico Medicineは投資家の質で他社よりも優れている、と同氏は話す。「当社の投資家は賭け事をしません」。

しかし他のAIベースの創薬プラットフォームの多くと同じく、そうしたプラットフォームが臨床試験のふるいを抜けることができるのか、様子を見る必要がある。

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

HACARUSと東京大学がアルツハイマー病やパーキンソン病の治療法開発を目指すAI創薬研究を開始

HACARUS(ハカルス)と東京大学大学院薬学系研究科は6月16日、アルツハイマー病やパーキンソン病の治療法開発を目指す、AI創薬の共同研究を開始すると発表した。今回の共同研究では、両疾患の病因となるタンパク質の凝集・散開するメカニズムの解明をHACARUSのAIを活用した画像解析技術を用いて試み、治療法開発を目指す。

アルツハイマー病、パーキンソン病ともに、脳内でのタンパク質凝集が病因となることがわかっている。人間にはタンパク質を分解する能力(オートファジー)が備わっているものの、アルツハイマー病・パーキンソン病は、この能力の機能不全であることも解明されてきているという。

研究課題としては、アルツハイマー病では、病因となるタンパク質の生産を抑制する阻害剤がいくつか見つかっているものの、毒性の問題があり治療への活用に至っていないこと、またパーキンソン病では対症療法が「L-ドパ」という薬を使ったドパミン補充が中心であることを挙げられている。ともに根本的な治療法が発見されておらず、新たな予防・診断・治療法の開発が必要としている。

東京大学大学院薬学系研究科は、「医薬品」という難度が高く、かつ高い完成度が要求される「生命の物質科学」と、国民生活に直結した「生命の社会科学」を探求し、2つの科学の最終目標である「人間の健康」を最重要課題としていることが最大の特徴の部局。同機能病態学教室の富田泰輔教授は、アルツハイマー病やパーキンソン病をはじめとする神経変性疾患の病態生化学に関する研究を行っている。

HACARUSは、スパースモデリング技術をAIに応用したデジタルソリューションを提供しており、少ないデータ量で高精度なAIを活用できることから産業分野だけでなく、希少疾患への応用など医療分野でも数多くの課題解決に貢献している。

富田教授によると、様々な神経変性疾患において、細胞内外の異常タンパク質の蓄積や細胞内輸送の異常などが発症プロセスにおいて重要であることが明らかとなっており、これらを定量的に解析し、様々な薬剤の影響を見積もる必要が出てきているという。ただ従来は、細胞や組織を染色後画像データの解析を人為的に行っていたため、HACARUSと共同でそのプロセスを自動化し、機械学習を用いてノンバイアスに解析する手法を開発することで詳細に解析できるのではないかとしている。

またHACARUSは、スパースモデリング技術を用いた画像診断およびR&Dプロセスの自動化に取り組んできており、その2つの強みを掛け合わせて、CNS(中枢神経系)分野において富田教授と共同研究に取り組むとしている。

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腸の免疫調節に作用するメカニズムを発見し免疫医薬品を開発するアイバイオズが7.7億円を調達

腸の免疫調節に作用するメカニズムを発見し免疫医薬品を開発するアイバイオズが7.7億円を調達

創薬バイオテック企業アイバイオズ(AIBIOS)は6月11日、第三者割当増資による総額約7億7000万円の資金調達を発表した。引受先は、リードインベスターのSBI インベストメント、既存株主のBeyond Next Ventures、アクシル・キャピタル。

調達した資金により、免疫学に基づき、消化器・オンコロジー (がん)・ニューロサイエンス(神経精神疾患)および希少疾患の4疾患領域という研究開発パイプラインの中長期的な開発を実施。同時に、慢性炎症性疾患が長期的に悪化すると悪性腫瘍に至るリスクが高くなることから、がん免疫分野も強化していく方針という。戦略的ビジネスパートナリングを通じ医療機関および製薬企業と共同研究・開発を継続して行い、アンメット・メディカルニーズ(Unmet MedicalNeeds)に応える技術革新を活用した新薬創出を目指す。

AIBIOSは、事業創立時より免疫システムの重要性を重視しており、岡山大学と有機合成プラットフォームを通じ新規低分子医薬品創出の共同研究を行い、また慶應義塾大学と免疫疾患モデルを通じて、腸における過剰な炎症を抑える新しいメカニズムを発見し、腸管粘膜の新たな免疫調節機構を解明した。炎症性因子の抑制と粘膜修復の可能性を持った作用機序のある低分子は、さまざまな慢性炎症性疾患の治療に多大な貢献をするものと期待されているという。

AIBIOSは、腸管内の免疫システムのバランスに着目しており、生体防御の最前線で働く腸粘膜で発症する炎症性腸疾患(IBD。Inflammatory Bowel Disease)を対象とした新薬候補物AIB-301のグローバル開発を手がけている。

IBDは、最も患者数の多い指定難病であり、大腸と小腸など消化管に炎症が起こり、腫瘍を合併することもある疾患という。原因は不明で、根治できる方法がいまだにないそうだ。IBDでは主に下痢や腹痛といった症状が起こり、悪化した「活動期」と落ち着いている「寛解期」を繰り返す、極めて治療が難しい病気という。

このIBDを対象とするAIB-301は、免疫システムを過度に抑制せず、中長期的に使用できる新規医薬品としての開発を目指しているという。そのため、安定した治療過程を観察しながら適した診断ができるように、遺伝的要素や腸内細菌といった新規バイオマーカーも併せ持ってグローバル臨床試験の実施を計画しているそうだ。

また近年の臨床研究では、腸は独自の神経ネットワークを持っており、脳腸相関を介してお互いに密接に影響することが明らかになりつつある。北海道大学遺伝子病制御研究所とAIBIOSとの共同研究では、脳内の特定血管に免疫細胞が侵入し、微小炎症(MicroInflammation)を引き起こす、新しい「ゲートウェイ反射」を発見した。この血管部の微小炎症は、通常は存在しない神経回路を形成して活性化し、消化管や心臓の機能不全を引き起こすリスクがあることを解明した。

これらの発症メカニズムは慢性的なストレスにも関連しており、AIBIOSでは、米国の神経外科医師との共同研究を通じて、多発性硬化症やパーキンソン病の新規治療薬の開発しているという。加えて、慢性ストレスが「睡眠障害」を誘導し、さまざまな臓器に対して悪影響をおよぼしていることもわかってきた。これらの研究成果をもとに、腸疾患のみならず、抗炎症作用と免疫調節を介して、中枢神経系、呼吸器系疾患、自己免疫疾患の治療薬の開発を目指しているとした。

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新薬発見のために膨大な数の化学合成を機械学習でテストするMolecule.one

ポーランドの計算化学企業Molecule.oneは、理論的な薬剤分子を現実のものとするための活動を拡大するため460万ドル(約5億円)を調達した。同社の機械学習システムは、有益と思われる分子を合成する最良の方法を予測するもので、新薬や治療法を生み出す上で重要な役割を果たしている。

Molecule.oneはDisrupt SF 2019のStartup Battlefieldに登壇し、彼らは大量の理論的治療法を考え出すが、それらの分子すべてを実際に作ることはできないという創薬業界が直面している難題を説明した。

エキゾチックな化合物を発想しそれを実際に試験したいが、その作り方がわからないとき、同社のシステムの出番となる。それらの分子は科学にとってまったく新しいもので、過去に誰も作ったものがないため、その作り方もわからない。Molecule.oneが作ったワークフローは、まず普通のありふれた化学物質からスタートして、段階的に既知の方法を適用していく。AからBへ、そしてCへ、Dへ、というように。もちろん、実際にはこんな簡単な手順ではない。

同社は機械学習と、化学反応に関する大量の知識ベースを利用してこれらの工程を作っていくが、CEOのStanisław Jastrzębski(スタニスワフ・ヤストルツニェフスキ)氏の説明によると、同社はそれを逆方向で行っていく。

「合成計画はゲームに似ています。このゲームの1つ1つの動きにおいて、私たちはボード上のピースを移動するのではなく、1対の原子を結びつけている科学的なボンドを外します。そのゲームの目標は、ターゲットの分子を、市場で一般的に手に入れることができそれらからターゲットを合成できるような分子へと分解することだ。私たちが使っているアルゴリズムは、DeepMindが合成手筋を見つけて碁やチェスをマスターするために使ったものと似ています」とヤストルツニェフスキ氏はいう。

共同創業者のPiotr Byrski(ピオトル・ベルスキ)氏とPaweł Włodarczyk-Pruszyński(パヴェウ・ヴウォダルチク・プルシェンスキスキ)氏によると、有機反応を予測することは決して容易なことではなく、これまで彼らは、システムを効率的かつ検証可能なものにするために大量のリソースを投じてきた。Molecule.oneは良いアイデアだけではなく、実行可能なアイデアを提供していると企業から評価されるように、定期的に社内でテストを行っています。

ベルスキ氏によると、Disruptでデビューしてからは年契約の顧客も増え、同社プラットフォームの機能も多くなった。また、ヴウォダルチク・プルシェンスキスキ氏によると、仕事の効率も上がったという。

画像クレジット:Molecule.one

「システムは成熟し、プラットフォームの拡張により1時間に数千種の分子の合成を計画できるようになりました。大量の分子合成機能を、膨大な量の候補薬剤分子を生成する創薬用のAIシステムと組み合わせると、すごく便利になります。多くの改良によって業界の信頼度も上がり、有意義な企業などとのコラボレーションもできるようになりました」。

確かに、顧客がひと握りではなく何十万もの治療用分子の経路について尋ねるようになると、問題はスケーリングになる。彼らにとって、製造コストを負担するのであれば、検討している化合物の1つが、同様の効果を持つ他の化合物よりもかなり容易に製造できるかどうかを確認するために、最初に出費を行う価値がある。はっきりとは言えないプロセス全体をシミュレーションすることなく、Molecule.oneにリストを送って数日後にレポートを受け取ることができる。

画像クレジット:Molecule.one

成功事例もあると思われるが、企業秘密が関係するケースも多いため、同社は顧客の成功例を明らかにしていない。しかし同社によると、他のバイオテック企業と同じく、現在は新型コロナウイルス治療関連の研究開発が多いという。

「私たちは、新型コロナウイルス関連の創薬に取り組む対象となる研究者にプラットフォームの一部を無料で提供しました。これにより、Yoshua Bengio(ヨシュア・ベンジオ)教授が顧問を務めるMILAのLambdaZeroプロジェクトとの永続的な協力関係が生まれました」とベルスキ氏はいう。

そのようなプロジェクトでは候補分子を、効果だけでなく製造のしやすさでも評価しなければならないため、同社の新たなスケール拡大方法をテストする機会も生まれている。

ベルスキ氏によると「まだ合成されていない薬を探すという意味では、非常に有望な化学空間の新領域を横断することができるため、この分野には非常に期待しています」という。

今回の投資ラウンドをリードしたのはAtmos Venturesで、参加した投資家はAME Cloud Ventures、Cherubic Ventures、Firlej Kastory、Inventures、Luminous Ventures、Sunfish Partners、そしてBayerの役員であるSebastian Guth(セバスチャン・グス)氏などの個人だ。

同社は、資金をチームの拡大と今後の拡大の継続に充てる計画だという。また今後もポーランドの企業でありながら、米国や西ヨーロッパにもオフィスを開きたいとのことだ。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Molecule.one資金調達ポーランド機械学習創薬計算化学

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

クライオ電子顕微鏡による構造解析を活かした創薬事業を手がけるキュライオが約3.1億円を調達

クライオ電子顕微鏡による構造解析を活かした創薬事業を手がけるキュライオは6月1日、シリーズAラウンドにおいて、第三者割当増資による総額約3億1000万円を実施したと発表した。引受先はBeyond Next Ventures2号投資事業有限責任組合、Ono Venture Investment(小野薬品工業CVC)、旭化成ファーマ、Gemseki投資事業有限責任組合。

調達した資⾦は、パートナリング(共同研究創薬)事業、⾃社創薬事業の拡⼤、クライオ電⼦顕微鏡構造解析技術のさらなる創薬への有効活⽤のための基盤技術の開発を⽬的とした、設備投資や創薬研究開発事業の体制強化に用いる。

キュライオは2019年8⽉、生体内構造を染色することなく凍らせて観察できるクライオ電⼦顕微鏡による構造解析技術に特化した企業として設⽴。独⾃の解析ノウハウを⽤いた構造解析精度を強みとしており、現在は構造解析ベース創薬(SBDD。Structure-Based Drug Discovery)事業を展開している。「科学の力で、より安心で健康な人生の実現へ」の会社理念の下、人々に画期的新薬を提供することを使命とし、製薬会社や大学研究室との共同研究にも積極的に取り組んでいるという。

キュライオによると、現在は低分⼦医薬のみならず環状ペプチドに代表される中分⼦医薬や抗体医薬、核酸医薬などの医薬品の多様化が進み、それに伴って遺伝⼦治療なども含む新たなモダリティーの開発など、創薬のDXが起こっているという。同社はクライオ電⼦顕微鏡を利用したSBDDによる創薬事業を進めており、同⼿法により多様かつ⾰新的な医薬品創製事業の拡⼤と加速化を目指している。

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カテゴリー:バイオテック
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コロナ禍で押し進められたDXの中、AIに期待される今後の役割とは

コロナ禍で押し進められたDXの中、AIに期待される今後の役割とは

アフロ

編集部注:この原稿は、MIN SUN(ミン・スン)氏による寄稿である。同氏は、AppierのチーフAIサイエンティストを務めている。Appierは、AI(人工知能)テクノロジー企業として、企業や組織の事業課題を解決するためのAIプラットフォームを提供している。

2020年、新型コロナウイルスの存在が確認されて以来、その猛威は世界中に広がり、2021年になった今でも終息のめどが立っていない。

新型コロナウイルス感染症の流行により、人々の健康に対する意識はもちろんのこと、社会のあり方そのものに対しても大きな影響を与え、ミクロレベルからマクロレベルにいたるまであらゆるものごとが変革を余儀なくされたことに疑いの余地はない。

特に、営利企業において新型コロナウイルスの影響は甚大で、これまで遅々として進まなかったデジタルトランスフォーメーション(DX)が事業規模の大小を問わず急速に押し進められている。

この状況下、にわかに注目を集めているのが業務の自動化や省力化を得意とするAI技術の活用だ。

これまで、AIという技術に対する疑心や懸念をもっていたために活用に消極的だった企業においても、AIソフトウェアパッケージの導入やシステム開発が加速している。

新型コロナウイルスの流行が5年分のDXを1年で押し進めた

新型コロナウイルスの流行拡大により、企業内で最も大きく変わったことといえば、従業員の働き方だろう。新型コロナウイルスの流行以前は「仕事をする」ことは「オフィスにおもむく」ということに直結していた。しかし、コロナ禍で避けるべき3つの密と呼ばれる密閉、密集、密接の全条件に当てはまってしまうケースがあり、多くの企業が従業員を健康維持のため、出社制限を設けざるを得なかった。

このことにより、在宅勤務が急激に増加したわけだが、すべての業務をいきなりリモートで実施するのは当然難しい。そのため、自粛期間の合計が1年を超えてくる中でオフィスへの出社を要する業務においてもDXに取り組む企業が増加している。

バックオフィス業務における契約対応業務を例にあげると、これまでは紙媒体に押印し、それを送付するという流れが一般的だったのに対し、コロナ禍でDXが進められたことにより、契約書類がデータで渡されるようになり、押印もデジタル環境で実施した上で、契約書類の返送もオンライン上で完結させるケースが増加している。

ただ、このような業務のデジタル化に必要な技術やサービスの多くは、コロナ禍で生まれたものではなく、以前から存在していたが導入が先送りされていたものだ。つまり、企業における大規模なDXを推進したのはCEOでもCTOでもなく、新型コロナウイルスということになる。

コロナ禍で価値を発揮するAI

現在社会で起こっているDXは一過性のものではなく、さらなる推進に向け多くの企業が取り組んでいる。その中でもAIは、どのような価値を発揮しているのだろうか。

AIは様々な分野で活躍しており、その中でも特に医療分野では大きな価値をもたらしている。

医療分野におけるAI活用に関するひとつ目の事例は創薬の迅速化だ。従来、新薬が臨床試験に至るまでには4~5年以上の研究期間が必要だといわれてきた。だが、イギリスのオックスフォードを拠点とするAIスタートアップのExscientiaはAIを用いて新薬に用いる化合物を設計し、12カ月という短い期間で新薬の臨床試験にこぎつけた。また、通常の創薬では莫大な投資コストが発生することが多々あるが、AIの活用がその圧縮にもつながっている。

また、このような創薬ノウハウは新型コロナウイルスに効果的な薬品の特定にも用いられているという。したがって、過去に開発された薬品から新型コロナウイルスの予防や治療に効果的なものを特定する作業にはAIが少なからず貢献しているということになる。

AIを医療分野に活用する事例はもちろんこれだけではない。中国や台湾、韓国などでは、新型コロナウイルスへの感染予防に向け、AIを用いた陽性者のマッピングなども行われているという。

AIに期待される今後の役割とは

コロナ禍においても、AIが一定の価値を生んでいるが、AIがより大きな価値をもたらすのはこれからだろう。というのも、AIには学習のためのトレーニングデータが必要なため、中長期的な問題解決に適しているからだ。新型コロナウイルスの感染拡大が終息したとしても、いずれ人類は新たな感染症の流行に見舞われる。その際には、AIはより大きな価値をもたらすことは間違いない。

たとえば、感染症の予防においては電子医療記録をデータとして用いることで感染時の重症化リスクを予測できるようになる。また、新型コロナウイルスの感染経路を記録しておくことで、どのような場所で、誰を、どのように検査すれば感染症拡大の防止に役立つかを分析することも可能だ。

なお、上記の電子医療記録と地理空間に関するデータを組み合わせることで、検査、隔離、その他リソースの割当に関する優先順位の策定を支援するという構想は将来的な期待が高まっている。

さらに、ウイルスの遺伝子配列を分析し、変異をモニタリングすることにより、製薬会社による医薬品開発のターゲット明確化やウイルスの拡散速度予測、変異体の有害性の特定など、これまでは専門家が時間をかけて実施していた一連の取り組みの迅速化も期待されている。検査においても、現状ではPCR検査による感染の判断が主流だが、早期にウイルスの特性を明らかにできれば、CTスキャンデータなどを基に感染判断ができるようになる可能性はある。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大は突発的だったため、AIが価値を発揮することが間に合わなかったケースも見受けられるが、私達が今直面している問題が、将来的なAI活用の礎として生かされるはずだ。

もちろん、技術を活かすも殺すも結局は人によるところが大きいため、将来的に期待されているAI活用が机上の空論で終わる可能性もある。

だが、政府や企業が主体となり、将来的な感染症に備えた仕組みを整え、人々がコロナ禍で得た教訓をしっかりと学習しパンデミックに備えることができれば、感染症拡大による社会的なリスクは大きく減少することだろう。

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AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

創薬および再生医療高品質化の研究開発を行うナレッジパレットは3月29日、シリーズAにおいて、第三者割当増資による総額約5億円の資金調達を発表した。引受先は、リード投資家の未来創生2号ファンド(スパークス・グループ)、きぼう投資事業有限責任組合(横浜キャピタル)、既存株主のANRI。創業以来の累計調達額は約7億円となった。

ナレッジパレットのミッションは、遺伝子の活性化パターン(遺伝子発現プロファイル)からなる細胞ビッグデータを「正確に・速く」取得する技術で細胞を診断し、製薬・再生医療業界の課題「開発・製造の困難さ」を解決するというもの。

人体を構成する基本要素である「ヒトの細胞」の状態について、同社の技術を基にした遺伝子発現プロファイルにより取得・診断し、「病因は何か」「薬の効果はあるか」「製造された細胞の品質」を特定。AI創薬により「開発効率の低さ」の解決、またAI再生医療による「製造の困難さ」の解決を目指している。

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

調達した資金は、研究開発および人材採用にあて、さらなる技術開発と各領域における共同研究を加速し、より多くの難病に対処できる創薬・再生医療プラットフォームを構築する。

また今後2年間は、シリーズAで調達した資金をベースに業容を拡大。2023年にシリーズB調達の実施を目指しており、2025年にIPOを計画している。中長期的には、他社との協業のほかに、AI創薬事業、AI再生医療事業において自社での研究開発を進め、最終的には構築したデータベースを基とした新薬や再生医療プロダクトを他社にライセンスするなども目指すとした。

遺伝子の活性化パターン(遺伝子発現プロファイル)というビッグデータ

ヒトは約37兆個の細胞で構成されており、細胞1個は30億文字に相当するDNAを持つ。さらにその中に3万カ所の「遺伝子領域」があり「RNA」として転写され、細胞の構成物質であるタンパク質を作るもととなる。

一口に「細胞」といっても心臓や肝臓など臓器の違いが生まれる理由は、この遺伝子の種類・状態により3万種類の遺伝子の活性化パターン(遺伝子発現プロファイル)が存在していることによる。同様に、病気による違い、化合物(薬)の効果の違いなども遺伝子発現プロファイルとして現れるという。

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

ナレッジパレットは、この遺伝子発現プロファイルを正確・高速・大量にとらえる技術を有しており、これを基にビッグデータとして分析・診断結果を蓄積し創薬・再生医療に活用するという。

国際ベンチマーキングの精度指標と総合スコアで1位を獲得したコア技術

同社のコア技術は、共同創業者兼代表取締役CEO 團野宏樹氏が理化学研究所在籍時に開発した「シングルセル・トランスクリプトーム解析技術」だ。このコア技術は、国際ベンチマーキングの精度指標(遺伝子検出性能・マーカー遺伝子同定性能)と総合スコアにおいて1位を獲得しており、トップ学術誌Nature Biotechnologyに掲載されている(2020年4月)。

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

同技術は、精密な分子生物学実験術とAI技術を組み合わせて、1細胞レベルで全遺伝子発現プロファイルを取得するというもので、実験室で行う精密実験プロセス「精密分子生物学実験」と、コンピューター上で行う計算科学技術「AIによる大規模バイオインフォマティクス」により構成されている。

精密分子生物学実験では、解析対象となる細胞から多段階の分子生物学実験によりRNAを抽出し、次世代シーケンス技術により全遺伝子発現プロファイルを取得する。さらにAI科学計算・二次元マッピングといったバイオインフォマティクスを介し、どのような細胞がどの程度含まれているのか、また細胞に含まれる希少かつ重要な細胞(間葉系幹細胞など)も含めて、網羅的・高精度に細胞の状態を診断するという。

製薬会社と協業が進むAI創薬事業

近年、医薬品の開発現場では、薬のターゲットとなる体内物質(創薬標的)が枯渇しており(開発が容易な新薬・疾病はあらかた手が付けられている)、難病になるほど新薬開発の難易度が上昇、開発コストが急速に肥大化しているという。このため、新薬の開発効率を高める新たな創薬技術が必要となっている。

そこでナレッジパレットは、製薬会社との連携・協業の下、様々な病気の細胞や薬剤を投与した細胞の遺伝子発現データベースを構築し、これを活用したAI解析により新薬の開発を進めている。

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

同社コア技術では、数多くの「微量な細胞サンプル」に対して、従来技術と比較して10~100倍のスループットで、どの化合物(薬品)が特定の細胞に効果が高く毒性が低いのかを選び出す「全遺伝子表現型スクリーニング」が可能という。

製薬会社では、薬剤の基となる数多くの化合物をまとめたライブラリーを持っており、対象の(かつ微量の)培養細胞などに対してそれぞれ処理を行い解析を行うことで、実際にどういった病気や細胞に効果があるのか特定する。ナレッジパレットは、これら大量の化合物サンプルと微量の細胞サンプルといった組み合わせでも、高精度・高速に遺伝子発現プロファイルの変化を捉えられる。これにより、従来技術と比べ1/10から数十分の1のコストで、大規模な全遺伝子表現型スクリーニングを可能としているという。

再生医療に関する3つの課題

現在の医薬品は、化合物合成で低分子化合物の製造を行う「低分子医薬品」、細胞の中でタンパク質を合成・製造する「バイオ医薬品」、ヒト由来の細胞を細胞培養により利用し機能の修復を行う「再生医療」に大別される。

再生医療では、「生きた細胞」をどう制御するかが医薬品として製造する上で大きなカギとなっているという。細胞のコントロールでは、大きく分けて「品質にバラツキが生じる」「培養液の未確立」「高い製造コスト」という3点の課題が存在しているそうだ。

品質のバラツキという点では、そもそも生きた細胞であることから個性が現れ、性質の制御が難しい。例えば同じ条件で培養した細胞、また違う研究機関が再現しようとしたところ別の細胞ができてしまったなどが起こりうるという。患者に移植予定の細胞シートが離職試験で剥がせず、移植に失敗するということもあるそうだ。

また、細胞を育てる培養液(培地)については、細胞の性質や増殖の機能を決定する生育環境にあたるものの、どのような化合物をどの程度の濃度で組み合わせると、特定の細胞に最適なのか、グローバルスタンダードが存在していない状況を挙げた。その理由として、細胞ごとに最適な生育環境を生み出すための培地調液は、高度なノウハウと手作業、多段階の実験プロセスが必要なため、試作可能なパターンが1年あたり約200種類と少なく、最適な培養液にたどり着けていないという。

これら品質のバラツキや培養液の課題が製造コストの高騰に結びついており、採算が取れない状況になっているそうだ。

同社は3つの課題の原因として、細胞がどのような性質を持っているのかという「細胞の診断技術」がなかった点を指摘。培養・製造の評価指標が不十分で、製造コストを下げられていないとした。

コア技術活用の「培養最適化」に基づく再生医療

ナレッジパレットは、コア技術(シングルセル・トランスクリプトーム解析技術)を用いることで、非常に多くの種類の培養条件で培養された細胞について、高速に全遺伝子レベルで診断することで、最適化された培養液を開発できる(培養最適化)という。

製造改善が必要な再生医療用細胞に対して、CTOの福田氏による独自のチューンナップを施した自動分注機・ロボットで多種類の培養液を作成。コア技術である遺伝子発現解析・分析により、どのような条件で培養された細胞がどのような性質を持つのか網羅的・高速に培養性能を評価しその情報を蓄積する。このデータベースとAIにより、最適な培養条件を選択できるようにするという。

AI創薬・AI再生医療スタートアップ「ナレッジパレット」が創薬・再生医療領域の停滞を吹き飛ばす

この取り組みにより、バラツキのない再現性の高い細胞製造をはじめ、さらに従来増殖が難しかった細胞についても10~100倍の収量を実現するといった生産性向上、製造コストの削減が可能になるという。再生医療を「製品」として確立させ、難病の治療に役立つものにするとした。

再生医療・細胞治療に関し、日本は国際的なトップランナー

創薬・再生医療領域において日本で起業したスタートアップというと、残念ながら耳にする機会はあまりない。TechCrunch Japanでも資金調達などの掲載例は数少ない状況にある。

国際ベンチマーキングの精度指標と総合スコアで1位を獲得(後述)という同社の技術力を考えると、海外での起業もあり得たのではないか。そう尋ねたところ、CEOの團野氏は、国内の製薬業界自体がそもそもグローバルに通じている点を挙げた。また同氏が理化学研究所においてバイオテクノロジーとAIの融合研究に従事したという経歴・人脈が、優れた人材をスピーディに採用する際に強みになると考えているそうだ。

また再生医療領域は、日本が力を入れている分野でもある。京都大学iPS細胞研究所所長・教授の山中伸弥氏が2012年のノーベル医学生理学賞を共同受賞したことから国として推している点が追い風となっており、民間企業やアカデミアが取り組むなか日本で起業する価値は高いという。

共同創業者兼代表取締役CTO 福田雅和氏は、日本では再生医療に関する新法が制定され、規制改革が大胆に行われた点を挙げた。法整備面では日本は進んでおり、海外から日本に参入する傾向も見受けられるという。再生医療・細胞治療に関しては日本は国際的なトップランナーといえるとした。

ナレッジパレットの技術、ナレッジパレットの事業で停滞を吹き飛ばし前進する

一方で團野氏は、「製薬の開発がすごく大変だという点は痛感しています。同時に、この領域が加速すると多くの方の幸せにつながると信じています。再生医療も同様です。再生医療だからこそ治る病気が多くあると期待されているにもかかわらず、日本では追い風があるにもかかわらず、承認された製品がまだまだ少ない状況です」と指摘。「私達の技術、私達の事業であれば、この停滞を吹き飛ばして前に進むことができると、強い気持ちで運営しています」と明かした。

福田氏は、「身近な人を治せるように、再生医療がそれが実現できるように、この領域でトップになることを決意して起業し、がんばっています」と続けていた。


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アミノ酸トランスポーターLAT1を創薬標的に画期的医薬品開発を目指すジェイファーマが5億円を調達

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ジェイファーマは1月7日、ラウンドDにおいて、第三者割当増資による総額5億円の資金調達を発表した。引受先はEight Roads Ventures、F-Prime Capital Partners。ラウンドDの累計調達額は総額22億4600万円となった。

今後は、現在治験実施中の低分子化合物「JPH203」の胆道がんでの国内の臨床開発を進める。同時に、Eight Roads VenturesおよびF-Prime Capital Partnersの有する海外、特に米国でのコネクションと専門知識を活用してJPH203のグローバル展開の基盤づくりを進めていく予定。

また、OKY-034の膵臓がんでの臨床開発、さらには、アミノ酸トランスポーターLAT1」(SLC7A5)阻害剤の自己免疫疾患への応用を進めるとともに、日本発の新規薬剤標的を厳格な臨床試験の中から立証し、医療への応用を積極的に推進していく。

JPH203は、ジェイファーマが独自に見出した新規の低分子化合物。細胞が増殖または活性化されエネルギーを緊急に必要とする際に、アミノ酸を取り込むために細胞表面に発現するLAT1を選択的に阻害する。LAT1を創薬標的とし臨床開発を進めている世界初の化合物であり、医薬品の承認を取得すれば、日本発のファースト イン クラス(FIC / First In Class。画期的医薬品)の新薬となるという。

また、固形がん患者対象の第1相試験において良好な忍容性を確認していることから、がんに対する治療効果が示唆するものとしている。現在、標準的化学療法に不応・不耐となった進行性の胆道がん患者を対象に第2相試験を実施中。この第2相試験では、患者の背景因子に基づき層別し試験を実施しており、コンパニオン診断薬の開発も同時に進めている。

OKY-034は、JPH203と同じ創薬標的LAT1に対してアロステリックに結合することでLAT1の働きを阻害する新規の低分子化合物。ジェイファーマは、OKY-034の物質特許を保有する大阪大学および神戸天然物化学より全世界での独占的な専用実施権を得ている。

現在OKY-034は、標準的化学療法に不応・不耐かつ外科的切除不能すい臓がん患者を対象に大阪大学で医師主導の第1/2a相試験が進行しているという。

ジェイファーマは、細胞膜表面のSLCトランスポーターを創薬標的とした創薬ベンチャー企業。2005年に杏林大学を退官した遠藤仁元教授により設立され、これまでに様々なSLCトランスポーターを標的とした新規薬剤の研究開発に取り組んできた。近年は、Lタイプ・アミノ酸トランスポーター(LAT1/SLC7A5)阻害剤の研究開発に特化し、標準的化学療法が不応・不耐となった進行性がんの治療を目的に複数の新規薬剤(JPH203とOKY-034)の臨床開発を進めている。

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D3 LLCは12月24日、30億円規模の1号ファンド「D3バイオヘルスケアファンド1号投資事業有限責任社員」のセカンドクローズを行ったと発表した。

投資対象は、バイオ/創薬、デジタルヘルス/ヘルステックを中心に、広く医療健康への貢献を志すスタートアップ企業。また、日本にとどまらず、世界に通用し海外市場まで視野に入れうる企業の支援を重視する。

同ファンドでは、「日本発・世界の医療健康に貢献」をミッションに、サイエンス・ビジネス双方の専門性を持つメンバーが、投資・経営支援に取り組む。

これまでに同ファンドには、新規事業創造を通じて医療健康への貢献を志す日米の大手事業会社4社がLP(有限責任組合員)として出資。LPと投資先の積極的な連携は、戦略コンサルティングにて一定以上の戦略構築の経験を積んだメンバーが触媒する。

また同ファンドからは、すでに、新モダリティのバイオ創薬、医療機関向けSaaS、新規機能性素材を用いた製品開発などに取り組むスタートアップに出資しており、2021年より投資活動を加速する。

2017年創業のD3 LLCは、ヘルスケア領域特化の、投資・事業・コンサルティング会社。「世界の医療健康への貢献」をミッションに、有望な科学技術シーズや事業アイデアへの資金提供(Discovery)に留まらず、経営者と伴に、有意義なプロダクト・サービスの創造とそれらを顧客に届けるためのビジネスモデルの構築(Development)を通じて、科学技術・アイデアの社会実装(Deployment)を志している。

ベンチャーキャピタルに関しては、投資の数を目的とせず、バイオヘルスケア領域のグローバル・スタンダードにも従い、少数の投資先に丁寧な支援を行うとしている。

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TikTokの親会社ByteDanceがAI創薬チームを採用開始、多角化を目指しヘルスケア産業へ参入

TikTok(ティックトック)の親会社であるByteDanceは、広告やライブストリーミング販売に依存する事業の多角化を目指して、ヘルスケア産業へ参入する。コンテンツアルゴリズムを得意とする同社はマウンテンビュー、上海、北京全域でAI創薬の人材募集を開始したことが、同社の求人ページにて明かされた

求人情報には「弊社のチームに参加し、AIアルゴリズムを駆使した創薬と製造の最先端研究を行う人材を募集しています」と書かれている。

この創薬チームはインターンを含む少なくとも5つの職種で募集をしており、同チームはByteDance AI Lab所属する。AIに特化した研究開発部門はTikTokの中国版であるDouyinのように、ByteDanceのコンテンツサービスを提供するために2016年に設立されたが、ショート動画に応用される機械学習技術から恩恵を受けることができるため、医薬品にその範囲を広げたのは驚くことではない。

ByteDance AI Labのウェブサイトには、「AIの研究分野の数を考えると、これらの新技術の応用範囲は当社の製品ポートフォリオのあらゆる分野で見ることができる」と説明されている。

5つの創薬研究職はすべてコンピュータサイエンス、数学、計算生物学、計算化学などの関連分野の博士号を求めている。求人情報によると応募者はデザイン、識別、シミュレーションなどの創薬開発に携わることになるという。

この件に関するByteDanceからのコメントは得られていない。

他の中国の大手テクノロジー企業も、同様の動きをヘルスケア分野で見せているる。Tencent(テンセント)のAIを活用した薬剤チームは、同社のAI Labの下で少なくとも2019年8月以来、積極的に研究結果を発表してきた。Baidu(バイドゥ)は、創薬とAIを活用した診断に焦点を当てた新しいバイオテクノロジースタートアップのために20億ドル(約2070億円)を調達する計画だと、Reutersが9月に報じている。Huawei(ファーウェイ)もクラウドコンピューティング部門を通じて、創薬や医療画像の分野にも取り組んできた。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:ByteDance創薬

画像クレジット:Mattza / Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(翻訳:塚本直樹 / Twitter