モバイルゲームの巨人ZyngaのCEOが広告危機への対応とブロックチェーンゲーミング部門について語る

ウォール街と自身のガイダンスを上回る実績を上げたZynga(ジンガ)は、第3四半期決算で売上7億500万ドル(約804億円)、前年同期比40%を記録し、月間アクティブユーザー数1億8300万人、前年同期比120%増でモバイルユーザー数は過去最大に達した。

第2四半期にはApple(アップル)のプライバシーポリシー変更の深刻な影響を受け、8月5日から11月4日の間に持ち株の30%を売却するという劇的な出来事があったにも関わらず、予測を超えるユーザー数を獲得し、好調のうちに年を終える見込みが立ったことを伝える米国時間11月10日のニュースを受け、Zyngaの株価は急騰した。

ZyngaのCEOであるFrank Gibeau(フランク・ジボー)氏(画像クレジット:Zynga)

TechCrunchはZyngaのCEOであるFrank Gibeau(フランク・ジボー)氏をインタビューし、モバイルゲームの巨人がどうやって広告危機を乗り越えながら、クロスプラットフォームの拡大とブロックチェーンへの進出という転換ができているのかを尋ねた。

嵐を乗り切る

4月26日、Apple(アップル)はIDFA(広告識別子)を変更し、デベロッパーにATT(アプリ追跡透明性)ツールを使ってユーザーがiOSアプリを横断して追跡されることからオプトアウトできるようにすることを要求し、モバイル広告エコシステムを震撼させた。ロックダウン中に獲得した新規ユーザーは、パンデミックによる制約が解除されると一気に離脱し、獲得コストは急増した。企業は次々と15~20%の売上減少を報告し始めた、とConsumer Acquisitionは伝えている。中でも最も影響が大きかったのが、Snapchat(スナップチャット)のような広告プラットフォームや広告主のPeloton(ペロトン)、広告プラットフォームでも広告主でもあるZyngaなどだ。

「2021年の中間点は大変でした」とジボー氏がTechCrunchに語った。「当社はIDFAと大きな再開需要の問題の重なりから最初に立ち直った企業の1つです。進路を正すために、広告出費を抑え、新しいツールと技術の実験を開始して、9月には平常状態に戻りはじめました」。

ジボー氏は、「FarmVille 3」の公開を成長速度が回復するまで待ったことを話し、11月4日の発売後、この新作ゲームがiPadとiPhoneのApp Storeでそれぞれ第1位と第2位になったことを大いに喜んでいた。

「最悪の状態を脱したことを実感し、第4四半期に向けて新規ゲームへの投資を拡大できることを喜んでいます。この時期を乗り越えるための鍵は、当社のファーストパーティーデータ(自社で収集したデータ)をChartboost(チャートブースト)プラットフォームでどう使うかです」と、Zyngaが2021年買収した広告ネットワークに言及した。

「プレイヤーが当社のゲームにやってきた時に起きることやプレイしたイベント、当社の既存サービスで広告主が何をしているかなどに関して、私たちは大量のデータを持っています。ファーストパーティーデータを活用することで、会社にとって有益なリターンやオークションを予測するためのモデルを構築することができます」と同氏は語った。

Zyngaは、Unity(ユニティ)、Google(グーグル)、Iron Source(アイアンソース)とも提携して、プレイヤーをターゲットするよりよい方法を見つけようとしている。

「この問題には多くの賢い人が取り組んでいます。これはどちらかというと時間の問題で、答えがないわけではありません。長期的に見て、Appleは健全な広告市場を支える有効なプラットフォームを作ると同時に、プレイヤーのプライバシーを守ろうとしているので、私たちは喜んで協力しています」と同氏は語った。

ハイパーカジュアルを使いこなす

Zyngaのビジネスの80%はサブスクリプションとアプリ内購入の少額決済だが、売上の5分の1は広告によるものだ。ハイパーカジュアルゲームと呼ばれる、シンプルなインターフェースで通常30秒以内にプレイが終わるゲームの人気が広告を支えている。

第3四半期、Zyngaは広告売上を前年同期の2倍近くに伸ばした、とジボー氏はいう。この成功に寄与したのは、Zyngaが1年前に買収したトルコ拠点のゲームメーカーRollic(ロリック)で、Zyngaが同カテゴリーのトップ3パブリッシャーになるきっかけとなった。

「アプリストアのインストール数を見ると、ハイパーカジュアルは最大のカテゴリーです。非常に安上がりのゲームで膨大なオーディエンスにリーチできるので、広告を主要な収益方法として利用しています。当社にとって非常に実入りの良い分野であり、私たちのネットワークにユーザーを誘う理想的な入口です。このネットワークは、2022年以降に当社の成長を支える大規模なパブリッショングと広告のプラットフォームを作るという私たちの野心的計画につながっています」とジボー氏は言った。

すべての道はメタバースに続く

Zyngaが次にリリースする大型ゲームは、「Star Wars:Hunters」で、Androidの一部市場で2021年11月中旬に限定公開し、iOSとSwitchで2022年にテストを開始するとジボー氏はいう。これは同社にとってゲーム専用機で動く最初のクロスプラットフォームゲームであり、「Farmville 3」は、macOSで公開された最初のクロスプラットフォームゲームだった。

ジボー氏は、Zyngaのモバイルゲームを他のプラットフォームでプレイできるようにすることへの関心について話した。

「FarmVilleファンとStar Warsファンはどこにでもいるので、プラットフォーム無依存にして私たちの体験をできるだけ多くの場所に提供するのは至極当然のことです」と彼はいう。「結局私たちは、ゲームは1人より一緒にプレイするほうが楽しいと信じているソーシャルゲーム会社です。だから、革新を起こして新しいことを試すことは会社カルチャーの一部なのです」。

2020年以来、ZyngaはSnapchatGoogle Nest、およびAmazon Alexaでゲームを提供してきた。そしてつい最近、TikTokで同社初のゲーム、Disco Loco 3Dを公開した。これは無料でプレイできる音楽とダンスのチャレンジだ。

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「ゲーミングの世界では、次のプラットフォームを逃すと窮地に追い込まれます。そこで失敗すると、非常に痛い目にあいます。だから、さまざまなソーシャルプラットフォーム向けに体験を開発して、チャンスがあるかどうかを見ることは非常に重要だと思いました。Snapchatとの提携では、彼らのエコシステムでゲーミングの存在を大きくするに方法を協力して考え、いくつか良い結果を得ていますが、まだ始まったばかりです」とジボー氏はいい、それらのゲームは概念証明が目的であり収益を生むためではないことを強調した。

Netflix Gaming(ネットフリックス・ゲーミング)は11月2日に公開され、Zyngaの元最高クリエイティブ責任者であるMike Verdu(マイク・バードゥ)氏が指揮をとった、とジボー氏は語った。「Netflixにとって、このビジネスのサブスクリプション部分にどうアプローチしたいのか、ユーザーはゲームをどのような操作するのかなど、検討すべきことがまだたくさんあるので、彼らがサードパーティーコンテンツを受け入れる準備ができているのかどうか私にはわかりませんが、将来どこかの時点で話をするのはとても有意義だと思います」。

さらにジボー氏はこう付け加えた「それがNetflixでもRobloxでもEpicでもValveでも、そこにプラットフォームがあり、私たちのコンテンツがそこにあって聴衆に届けることが理に適っているなら、私たちは間違いなく追究していきます」。

しかし、おそらくZyngaにとって今後最大の冒険は、元EA(エレクトロニック・アーツ)幹部のMatt Wolf(マット・ウルフ)氏を新設のブロックチェーンゲーミング部門の責任者として迎えたことにかかっている。NFT(非代替性トークン)の狂乱がゲーミング業界に吹き荒れ、ブロックチェーンのスタートアップ、Mythical Games(ミシカル・ゲームズ)やAnimoca(アモニカ)やForte(フォーテ)の評価額は過去数カ月で10億ドル(約1140億円)に達し、デベロッパーがゲームを横断して使える永久収集アイテムを作る後押しをした。

「この分野には多くの資金と人材が流れ込んでいます」とジボー氏は言い、決断のタイミングを説明した。「当社のファンダーで会長のMark Pincus(マーク・ピンカス)氏と、長年取締役を務めているBing Gordon(ビン・ゴードン)氏がこの分野に非常に熱心なので、ブロックチェーンは長期的にゲーミングの一部になると私たちは信じています。

ウルフ氏が現在最適な道筋を見極めるための専門部隊を立ち上げているところで、FarmVilleで農場を所有することでエンゲージメントや定着率が向上するかどうかなどを調べる予定だとジボー氏は語った。

「私たちはZyngaのスピードで動くつもりなので、数カ月のうちには何かをお見せできると思います」と同氏は語る。

画像クレジット:Zynga

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(文:Martine Paris、翻訳:Nob Takahashi / facebook

ザッカーバーグ氏がアップルのプラットフォームポリシーと手数料は「イノベーションを阻害する」と非難

Facebook(a.k.a Meta)のCEOであるMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏は、米国時間10月28日の自社イベント、Facebook Connect 2021の基調講演でメタバースの計画について述べた際、Apple(アップル)およびアプリのエコシステム全体に対する明らかな批判を口にした。具体的には、アプリプラットフォームとそれにともなう手数料は「イノベーションを阻害」していると非難し、同時にFacebook自身が手数料を高く維持することについては、成長を続けるVRエコシステムと自社のOculus Questストアへのさらなる投資が必要であることを理由に正当化した。


同氏の発言は、Facebookの広告ビジネスに打撃を与えた、Appleによる最近のアプリ・プライバシー変更を受けたものだ。App Tracking Transparency(アプリのトラッキングの透明性[ATT])の導入によって、Appleはアプリが他のアプリやウェブサイトを横断して消費者を追跡することを消費者が拒否できるようにした。そしてこの変更によってFacebookの収益が落ち込んでいることを会社は認めている。

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現在Facebookは、Oculus向けに独自のアプリプラットフォームを構築することで新たな収入の流れを作る可能性に期待してる。デベロッパーが手数料を払う代わりに、収益を得るプラットフォーム。そして、別の会社の気まぐれな戦略変更によってビジネスが破壊されることのないプラッフォームだ。

ザッカーバーグ氏は、今こそこの変化を起こす時であることを強調し、最近彼が「プロダクトを作るだけでは十分ではない」ことを学んだと語った。

「私たちは、将来何百万もの人たちが恩恵に預かることのできる、人々の仕事が報われ、波が高まるにつれ利益をあげられるようなエコシステムを構築する必要があります。消費者だけでなく、クリエイターやデベロッパーにとっても」と彼は言った。「この時期私たちは謙虚でもあります。なぜなら私たちのような大きな会社でも、他のプラットフォームのためにものを作ることがどういうことかを学んだからです。そして彼らのルールの下で生きることは、テック業界に対する私の見方に大きな影響を与えました」とザッカーバーグ氏は続けた。

「何よりも、選択肢の欠如と高い手数料はイノベーションを妨げ、人々に新しいものを作るのをやめさせ、インターネット経済全体を抑制します」とザッカーバーグ氏は付け加えた。

一連のコメントは、AppleとGoogle(グーグル)に直接向けられたものであり、Facebookのプロダクトのほとんどは両社のプラットフォーム上にある。Facebookはアプリ内購入の手数料をApp Storeに払わなくてはならず、例えばユーザーがクリエイターをサブスクライブしたり、バッジを買ったり、ストリーミング提供者に直接チップを渡す場合も含まれる。Apple、Googleともに、小さな会社やメディア・プロバイダーやサブスクリプション・アプリに対しては手数料を値下げしたが、標準の取り分は今も変わらず70 / 30(プラッフォーム / デベロッパー)だ。

App Storeのルールは、Facebookが高い収益を得る可能性のある他のプロダクトを開発することも妨げている。最新のゲーミングサービスが一例だ。

たとえば2020年、iOSでFacebook Gaming(フェイスブック・ゲーミング)を公開した際、同社はAppleのポリシーを激しく非難した。Appleは他のアプリやゲームを中に含むようなアプリを許していおらず、それはサードパーティー・デベロッパーから収益を得る機会を失うからだ。このため、Android(アンドロイド)版ではミニゲームをプレイできるのに、iOSユーザーはFacebook Gamingでストリームを見ることしかできない。

しかし、Facebookの将来にとって本当の懸念は、手を出せないプラットフォームのポリシー変更によって、広告収益が脅かされていることだ。

広告収益は、過去何年にもわたってFacebookが他分野に投資し、アプリを無料にすることを可能にしてきた、とザッカーバーグ氏は指摘した。

「私たちはできるだけ多くの創作と商取引が生まれるように、クリエイターや販売者向けのツールを原価あるいはわずかな料金で提供しています。そして成功しています。何十億人もの人たちが私たちのプロダクトを愛しています」と同氏は強く語った。「私たちのプラットフォームには何億ものビジネスがあるのです」。

現在会社は、メタバースのエコシステム構築にも同じアプローチを取ろうとしている。デバイスを助成したり原価で販売することによって、消費者が手に入れやすくなる、とザッカーバーグ氏は言った。そしてAppleのApp Storeと異なり、Facdbookはサイドローディング(ストア外からのダウンロード)やパソコンへのリンクを可能にすることで、囲い込むのではなく消費者とデベロッパーに選択肢をあたえる計画だとFacebookは言っている(もちろん、多くのデベロッパーは発見してもらうためにQuest Store(クエスト・ストア)で公開することを選ぶだろう。Facebookにこの約束ができる理由はそこにある)。

さらに同氏は、Facebookはデベロッパーとクリエイターのサービス費用を極力低く抑えるつもりだとも言った。しかしザッカーバーグ氏は、会社の次のビジネスモデルへの思いを馳せながら、そうではないケースもあると警告した。新エコシスコムへの投資規模を踏まえると、一部の手数料は高くなるだろうと彼は話した。

「将来への投資を続けるために、一部の手数料を一定期間高く据え置いて、このプログラム全体であまり大きな損がでないようにする必要があります」とザッカーバーグ氏は説明した。「なんといっても、すでに利益をあげているデベロッパーが増える一方で、私たちは将来メタバースの規模が大きくなるまでの何年間、数十億ドル(数千億円)を投資する見込みなのです。しかし私たちは、次の10年間全員で努力を続ければ、メタバースは10億人に達し、何千億ドル(何十兆円)ものデジタルコマースをホストし、何百万人ものクリエイターとデベロッパーの職を支えられるようになると期待しています」。

言い換えると、Facebookの計画は今まで以上にデベロッパーの収益を活用し、独自のルールを決めることで、むしろAppleに似てくるだろうということだ。

画像クレジット:Facebook(ライブストリームより)

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】自由とプライバシーの保有格差、デジタルフロンティアにおける不平等の拡大

プライバシーは感情的な側面がある。不快なデータエクスペリエンスにさらされて脆弱性や無力感を感じたとき、私たちは往々にしてプライバシーの価値を最大限に高めるものだ。しかし裁判所の視点では、感情は必ずしも、プライバシーの法的体系における構造的変化につながるような損害あるいは理由をなすものとはみなされない。

米国が切実に必要としているプライバシーの改善を促進するには、拡大するプライバシーの格差と、それがより広範な社会的不平等に及ぼす影響について、実質的な視点を持つ必要があるかもしれない。

Appleのリーダーたちは2020年に、App Tracking Transparency(ATT)に関するアップデート計画を発表した。端的にいうと、iOSユーザーは、アプリが他社のアプリやウェブサイトを横断して自分の行動を追跡するのを拒否することが可能になる。このアップデートにより、iOSユーザーの実に4分の3が、アプリ間トラッキングからオプトアウトしている。

ターゲティング広告の個別プロフィール作成に利用できるデータが少なくなることから、iOSユーザー向けのターゲティング広告は、広告代理店にとって効果的かつ魅力的なものとは映らなくなってきている。その結果として、広告主がiOS端末に費やす広告費は3分の1程度減少していることが、最近の調査で明らかになった。

広告主らはその資金をAndroidシステムの広告に振り向けている。AndroidはモバイルOSの市場シェアの42.06%余りを占めており、一方iOSは57.62%だ。

こうした動きが生み出すプライバシーの格差は、漠然とした不快感を超えたところにある、感情的、評判的、経済的などの実質的な害のリスクを徐々に高めていくだろう。多くのテック企業がいうように、プライバシーが私たち全員に等しく帰属するのであれば、なぜそれほどのコストが費やされているのか。あるユーザーベースがプライバシー保護措置を講じると、企業は単純に、最も抵抗の少ない道に沿って、法的または技術的なリソースがより少ない人々に向けてデータプラクティスを方向転換するのだ。

単なる広告以上のもの

Android広告への投資が増えるにつれて、広告テクニックはより巧妙になるか、少なくともより積極的になることが予想される。カリフォルニア州のCCPAのような関連法の下で、ユーザーのオプトアウトの法的権利を遵守する限りにおいては、企業がターゲティング広告を行うことは違法ではない。

これは2つの差し迫った問題を提起している。第1に、カリフォルニア州を除くすべての州の住民には現在、そのようなオプトアウト権がない。第2に、ターゲティング広告をオプトアウトする権利が一部のユーザーに供与されていることは、ターゲティング広告に害あるいは少なくともリスクがあることを強く示唆している。そして実際にそうしたことはあり得るのだ。

ターゲティング広告では、第三者がユーザーの行動に基づいてユーザーのプロフィールを舞台裏で構築し、維持する。フィットネスの習慣や購買パターンなど、アプリのアクティビティに関するデータを収集することで、ユーザーの生活の微妙な側面に対するさらなる推測につながる可能性がある。

この時点で、ユーザーの表現は、ユーザーが共有することに同意していないデータを含有する(正しく推測されているかどうかに関係なく)、規制が不十分なデータシステム内に存在することになる。(ユーザーはカリフォルニア州居住者ではなく、米国内の他の場所に居住しているものと想定)

さらに、ターゲティング広告は、ユーザーの詳細なプロフィールを構築する上で、住居取得や雇用の機会における差別待遇を生む可能性があり、場合によっては連邦法に違反することもあることが調査で明らかになっている。また、個人の自律性を阻害し、ユーザーが望まない場合でも、購入の選択肢を先取りして狭めてしまうこともある。その一方で、ターゲティング広告は、ニッチな組織や草の根組織が関心のあるオーディエンスと直接つながるのを支援することができる。ターゲティング広告に対するスタンスがどのようなものであっても、根本的な問題となるのは、対象となるかどうかについてユーザーが発言権を持たない場合だ。

ターゲティング広告は大規模で活況を呈するプラクティスだが、ユーザーのデータを尊重することを優先していない広範なビジネス活動網の中のプラクティスとしては唯一のものだ。米国の多くの地域ではこうした行為は違法ではないが、法律ではなく、自らのポケットブックを使用することで、データの軽視を回避することができる。

高級品としてのプライバシー

著名なテック企業各社、特にAppleは、プライバシーは人権であると宣言しているが、これはビジネスの観点において完全に理に適っている。米国連邦政府がすべての消費者のプライバシー権を成文化していない現状では、民間企業による果敢なプライバシー保護のコミットメントはかなり魅力的に聞こえる。

政府がプライバシー基準を設定しなくても、少なくとも筆者の携帯電話メーカーはそうするだろう。企業が自社のデータをどのように利用しているかを理解していると回答した米国人はわずか6%にとどまっているにしても、広範なプライバシー対策を講じているのは企業である。

しかし、プライバシーを人権だと宣言する企業が、一部の人にしか手が届かない製品を作っているとしたら、それは私たちの人権について何を物語っているだろうか?Apple製品は、競合他社の製品に比べて、より裕福で教育水準の高い消費者に偏っている。これは、フィードバックループが確立され、持てる者と持たざる者との間のプライバシー格差がますます悪化するという厄介な未来を投影している。プライバシー保護を得るためのリソースがより少ない人は、ターゲティング広告のような複雑なプラクティスに付随する技術的および法的な課題に対処するためのリソースがより限定されてしまう可能性がある。

これについて、プライバシーとアフォーダビリティを巡ってAppleとの確執を抱えるFacebookの側に立つものだと解釈しないようにしていただけたらと思う(最近明るみに出たシステムアクセス制御の問題を参照)。筆者の考えでは、その戦いにおいてどちらの側も勝ってはいない。

私たちには、誰もが手にすることができる、有意義なプライバシー保護を受ける権利がある。実際、その表現を重要な論点へと転換するならば、どの企業も自社製品から除外するべきではない、尊重すべきプライバシー保護を受ける権利を、私たちは有している。プライバシーの意義に重きを置き、プライバシーの広範な適用を確保するという、両方の側面を満たす「both/and(両方 / および)」アプローチがなされるべきである。

私たちが進むべき次なるステップ

先を見据えると、プライバシーの進歩には2つの鍵となる領域がある。プライバシーに関する法制化と開発者のためのプライバシーツールである。筆者はここで再び、both/andアプローチを提唱する。私たちは、テック企業というよりも、消費者のために信頼できるプライバシー基準を設定する立法者を必要としている。また、開発者がプロダクトレベルでプライバシーを実装しない理由(財務的、ロジスティクス的、またはその他の理由)を持たない、広範な適用を確保できる開発者ツールも必要だ。

プライバシーの法制化に関しては、政策の専門家がすでにいくつかの優れた論点を提起していると思う。そこで、筆者が気に入ったいくつかの最近の記事へのリンクを紹介しよう。

Future of Privacy ForumのStacey Gray(ステイシー・グレイ)氏と彼女のチームは、連邦プライバシー法と、州法の新たな寄せ集めとの相互作用に関する、良質のブログシリーズを公開している。

Joe Jerome(ジョー・ジェローム)氏は、2021年の州レベルのプライバシー状況と、すべての米国人のための広範なプライバシー保護への道筋について見事な要約を発表した。重要なポイントとして、プライバシー規制の有効性は、個人と企業の間でいかにうまく調和するかにかかっていることが挙げられている。これは、規制がビジネスに優しいものであるべきだということではなく、企業は明確なプライバシー基準を参照できるようにして、日々の人々のデータを自信を持って、敬意を払って処理できるようにすべきだということを示している。

プライバシーツールに関しては、すべての開発者に対してプライバシーツールへの容易なアクセスとアフォーダビリティを確保することで、プライバシー基準を満たすための弁解をテクノロジーに一切残さないことになる。例としてアクセス制御の問題を考えてみよう。エンジニアは、すでに機密性の高い個人情報が蓄積されている複雑なデータエコシステムにおいて、多様なデータにどの担当者とエンドユーザーがアクセスできるかを手動で制御しようとする。

そこでの課題は2つある。まず、すでに取り返しの難しい状況にある。技術的負債が急速に蓄積される中、プライバシーはソフトウェア開発の外に置かれている。エンジニアには、本番稼働前に、微妙なアクセス制御などのプライバシー機能を構築できるツールが必要だ。

このことは第2の課題につながっている。エンジニアが技術的負債をすべて克服し、コードレベルで構造的なプライバシーの改善を行うことができたとしても、どのような標準や広く適用可能なツールが使用できる状態にあるだろうか?

Future of Privacy Forumによる2021年6月のレポートが明らかにしているように、プライバシー技術には一貫した定義が切実に求められており、それは信頼できるプライバシーツールを広く採用するために必要なものだ。より一貫した定義と、プライバシーのための広く適用可能な開発者ツールという、技術的なトランスフォーメーションは、XYZブランドの技術に限られない全体的な技術としてユーザーによる自身のデータ制御に寄与する方法の、実質的な改善に結びつく。

私たちには、このゲームに関わっていない機関によって設定されたプライバシー規則が必要だ。規制だけでは現代のプライバシーの危険から私たちを守ることはできないが、有望な解決策には欠かせない要素である。

規制と並行して、すべてのソフトウェアエンジニアリングチームは、すぐに適用可能なプライバシーツールを持つべきである。土木技術者が橋を建設しても、一部の人々にとっては安全ではない可能性がある。橋の安全性は、横断するすべての人のために機能しなければならない。デジタル領域内外の格差を拡大させないようにする上で、データインフラストラクチャについても同じことが言えるだろう。

編集部注:本稿の執筆者のCillian Kieran(シリアン・キエラン)は、ニューヨークを拠点とするプライバシー企業EthycaのCEO兼共同設立者。

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(文:Cillian Kieran、翻訳:Dragonfly)

アップルがアプリ追跡の透明性をユーモラスに表現した「iPhoneのプライバシー|追跡」CMを公開

アップルがアプリ追跡の透明性をユーモラスに表現した「iPhoneのプライバシー | 追跡 」CMを公開

Apple

今年4月末に配信されたiOS 14.5ではアプリトラッキング透明性(App Tracking Transparency/ATT)が導入され、今後アプリが異なるWebやアプリをまたいでユーザーを追跡する際には、ユーザーの明示的な許可を得ることが義務づけられるようになりました。アプリがユーザーのIDFA(広告識別子)を取得する前には、プロンプトを表示してユーザーの許可をもらうことが必須となっています。

これを受けてアップルは、ATTをユーモラスに表現したテレビCM「iPhoneのプライバシー|追跡」の公開を開始しました。

アップルいわく、アプリのトラッキング透明性とは「あなたのデータを、あなた自身がコントロールできる新しい機能」とのこと。それを朝の一杯のコーヒーを買った人の一日を追うかたちで分かりやすく可視化しています。

その人がコーヒーを買ったり店で買い物するたびに後を付いてくる店員(勝手にプライバシーを追跡するアプリの擬人化)が続々と増えていき、気が付けば部屋は追跡者で満員に。そこでiPhoneに「アクティビティを追跡することを許可しますか?」というプロンプトが表示され、「Appにトラッキングしないように要求」をタップすると追跡者がドロンと消えてゆくという流れです。

アップルはプライバシーが基本的人権であり、ユーザーが自分の情報を自分でコントロールできるように製品を設計していると述べています。そうした信念は昨日今日のことではなく、共同創業者スティーブ・ジョブズ氏がCEOだった時代まで遡り長年にわたって追求されてきたものです。4月初めに公開されたプライバシー保護原則やATTに関するデジタルブックでも、ジョブズ氏の「彼らのデータで自分たちが何をしようとしているのか、正確に説明すべきです」との言葉が引用されていました。

かといってアップルは広告一般に反対しているわけではありません。ティム・クックCEOも人々がオンラインで費やす時間が長くなるなかで、デジタル広告が増えていくのは自然な成り行きであると認めていました。その上で「このような詳細なプロフィールの構築(追跡から得た情報に基づいて作ったユーザー属性)をお客様の同意なしに行うことが許されるかどうかです」として、広告関係者には事前にどんな情報を集めるかを知らせ、ユーザーが自らのデータを制御できる権利を尊重するよう呼びかけているしだいです。

iPhoneにATTが導入された直後、米国ユーザーの96%がアプリ追跡を無効にしたとの調査結果もありました。その一方でマーケティング業界団体は一時的にはiOS向けの広告費は減りながらも、いずれはユーザー追跡なしの広告が増えていくという楽観的な見通しも発表しています

無料でアプリやサービスが楽しめる対価として広告が表示されるビジネスモデルはテレビやラジオから引き継がれたものであり、もしも否定してしまえばあらゆるコンテンツが有料になりかねません。

ATTはあくまで異なるWebやアプリをまたいだユーザー追跡に同意を求めるにすぎず、自社アプリやサイト上でのデータ収集は今まで通り続けられるはず。今後はその会社の経済圏内に留まり続けるかぎり行動履歴に基づくパーソナライズド広告が表示され、一歩外に出ればテレビのスイッチを切るように追跡もオフにされる、という新たな行動様式が定着していくのかもしれません。

(Source:Apple(YouTube)Engadget日本版より転載)

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カテゴリー:セキュリティ
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