不動産DXのWealthParkが25億円調達、オルタナティブ投資のプラットフォーム目指す

株式や仮想通貨を運用する人にとって、アプリやウェブで資産管理をすることは、いまや常識となった。しかし現在、不動産オーナーの多くは「紙」で資産管理を行っている。この状況を変えようとするスタートアップがWealthParkだ。

2021年3月22日、WealthParkはJICベンチャー・グロース・インベストメンツから25億円を調達したと発表した。同社は、不動産オーナーと不動産管理会社をデジタルにつなぐシステム「WealthParkビジネス」を提供している。

収支報告書をワンクリックで送信

不動産管理会社は、オーナーが所有する物件の管理を委託されている。入居者からの家賃回収や部屋の修繕依頼への対応などに加えて、毎月、オーナーに収支報告を行う。いわばオーナーと管理会社は「経営パートナー」のような間柄といえる。問題は、大半の管理会社とオーナーのコミュニケーションの方法が「電話・FAX・紙」であることだ。例えば管理会社は、毎月の収支報告書を郵送してオーナーに届けている。その数が多ければ印刷代や人件費は馬鹿にならないものであり、オーナー側としても書類の保管・整理に手間がかかってしまう。

WealthParkは不動産管理会社向けのシステム「WealthParkビジネス」を提供することで、この課題の解決を目指す。同システムを利用すると、管理会社は管理物件別の賃料・共益費・駐車場代などをダッシュボードで一覧することができる。毎月の収支報告書は自動で作成され、ワンクリックでオーナーのスマホに送信可能だ。また、オーナーとシステム内のチャット機能で会話ができるため、工事の見積もり費などの確認作業がスピーディに完結できる。つまり、管理会社とオーナー双方が、従来よりシンプルかつ気軽にコミュニケーションをとれるというわけだ。

画像クレジット;WealthPark

不動産小口化商品の取り扱いも

2014年にローンチされたWealthParkビジネスは着実な成長を見せている。現在、国内大手の東急住宅リース三菱地所ハウスネットを含む80の不動産管理会社が同システムを導入しており、約1万7000人の不動産オーナーが利用する。管理戸数は10万室を超え、同社CEOの川田隆太氏は「ようやく基盤が固まってきた」と自信をのぞかせる。

WealthParkのビジネスモデルは、管理会社から毎月のサブスクリプション手数料を得るというもの。管理会社は、WealthParkビジネスを自社のコスト削減に加え、顧客である不動産オーナーへの「CRMツール」として活用できるため、顧客満足度向上の観点でも導入するメリットは大きい。

またWealthParkは今回の資金調達により、不動産小口化商品の取り扱いもスタートする。川田氏によると「不動産オーナーには、毎月数十万円から数百万円という家賃収入があります。しかし、その利息分をそのまま眠らせてしまっていることが多い」。そのようなオーナーに対して、管理会社から不動産小口化商品を提案する。オーナーはすでに現物資産(不動産)をWealthParkのシステム上で運用しているため、小口化商品も同一ダッシュボード上でシームレスに管理できるのがメリットだ。オーナーにとっては資産運用の効率化につながり、管理会社にとっては新たなビジネスチャンスになる。

Amazonや楽天で売っていないもの

「賃貸管理業務のDX」という分野で存在感を放つWealthPark。CEOの川田氏がこのサービスを始めた理由は、以前経営したスタートアップでの「苦い経験」にある。同氏は若年層の女性向けアパレルECを4年半経営するなかで、リーマンショックや東日本大震災を経験し「資金があと3、4カ月で底をつく」という状況に陥ったことがある。株主からの資金援助はすべて断られ、自分自身の手持ち資金だけでは足らず、親・親戚・友人を回り、会社を存続させるための資金をかき集めた。その後同業大手による買収提案があり、川田氏の経営者としての最初のキャリアは幕を閉じた。

酸いも甘いも知った川田氏はこう振り返る。「前の会社の経営では、『マーケット選定の重要さ』を思い知りました。IPOを目指してあらゆる手段を講じましたが、結局はターゲットのTAM(獲得可能な最大市場規模)が小さかったので採算が合わなかった。だからこそ、次の事業はこの反省を活かそうと思ったのです」。

川田氏は、次のビジネスのマーケットを選ぶために「Amazonや楽天で売っていないもの」は何かと考えた。そのなかでも、TAMが大きく、かつDXが遅れている不動産を次のステージに選んだ。「不動産を含むオルタナティブ資産は、株や債券にはない『期中管理』が付き物です。例えば不動産であればトイレや水道の故障を直したり、アートやワインであれば適切な温度・湿度で保管したりなど、『管理の仕方』で資産の価値が大きく変わります。だからこそ、管理会社へのDXソリューションを提供することで、道が開けると考えたのです」。

川田氏は将来への想いを語る。「WealthParkは不動産に限らず、あらゆるオルタナティブ投資をサポートする存在になりたいと考えています。例えば、クリスティーズでレオナルド・ダ・ヴィンチの絵が100億円で売りに出されたとしても、今はアラブの石油王みたいな人しか買えないですよね。でもWealthParkを通して、10万人が10万円ずつ出資してオーナーになり、それをデジタルに管理できたらカッコいいじゃないですか。そんな世界をつくっていきたいと思っています」。

オルタナティブ資産とは「代替資産」を意味し、株式や債券などの「伝統的資産」の対になる存在として考えられてきた。しかし、WealthParkが推進する不動産小口化商品をはじめ、ワインやアート、金、仮想通貨、NFTなどが今後メインストリームに躍り出ることで、オルタナティブ資産がもはや「代替」ではなくなるということも、十分にありえる未来だろう。

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カテゴリー:フィンテック
タグ:WealthPark資金調達不動産DX日本賃貸

「東大IPC 1st Round」第4回の採択企業5社を発表、シード期から東大発スタートアップを支援

東大IPC 1st Roundのロゴマーク

東大IPC 1st Roundのロゴマーク

スタートアップが初めに直面する課題の1つにシード期の資金調達がある。東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)は、東大発のスタートアップなどを対象に、企業連携型インキュベーションプログラム「東大IPC 1st Round」を用意している。東大IPCは三井不動産など計10社のコーポレートパートナーと手を組み、最長6カ月の期間でさまざまなサポートをしながら、採択企業の垂直立ち上げを目目指している。同プログラムは採択企業の約9割が採択から1年以内に資金調達を実施するなど、大きな効果を生んでいる。

東大IPCは3月15日、第4回「東大IPC 1st Round」採択企業を発表した。採択されたのは、EVや鉄鋼材リサイクル、AI、バイオ、獣医DXで事業展開する5社だ。

Yanekara:商用電気自動車をエネルギーストレージ化する充放電器とクラウドの開発

Yanekaraは「自然エネルギー100%の日本を創る」ことをミッションとしている。電気自動車を太陽光で充電し、それらを群制御することで電力系統の安定化に必要な調整力を創出できる充放電システムを開発している。

電気自動車が拠点や地域内の太陽光発電で走るだけでなく、駐車中に遊休資産となっている車載バッテリーから調整力を生み出すことができれば、エネルギーの脱炭素化と地域内自給、さらには高い災害レジリエンスを実現できるという。

今回の支援によって、プロダクトを完成させEV利用企業への提供実績を作り、Yanekaraシステムの社会実装に繋げていく。

Citadel AI:AIを可視化し、AI固有の脆弱性・説明責任リスクから顧客を守る事業

Citadel AIは、AIの思考過程を可視化の上、顧客のAIの品質・信頼性を確保する「AI監視ツール」を提供する。元米国Google BrainのAIインフラ構築責任者が開発をリード。同ツールは、オンライン・バッチ環境、学習・運用フェーズのいずれにも対応し、さまざまなAIシステムへの適用を可能としている。

Citadel AIは、AIを「消費期限がある生鮮食料品のようなもの」と表現する。出来上がった瞬間から社内外の環境変化のリスクに晒され、品質劣化が始まる。AI固有の脆弱性を狙ったアタックも存在し、さらにAIの説明責任・コンプライアンスの観点から、学習データに潜むバイアスにも常に注意が必要となるという。

Citadel AIは「24時間いつでも頼れるAIをあなたに」という事業ビジョンを持つ。

EVERSTEEL:画像解析を用いた鉄スクラップ自動解析システムの開発

EVERSTEELのミッションは、鉄スクラップの自動解析システムにより鉄鋼材リサイクルを促進し、世界の二酸化炭素排出量を削減することだ。

鉄鋼材生産による二酸化炭素排出量は、世界の製造業全体において最も多い25%を占めており、低減の促進が望まれている。また、リサイクル過程での不純物混入により鉄鋼材の品質などが低下し、多大なコストが発生してしまう。さらに鉄鋼メーカーは、不純物混入制御を現場作業員の目視で行っており、品質確保と作業の効率化に限界がある。

EVERSTEELは自動解析システムを実用化することで、高効率・高精度な不純物混入制御を実現していく。また、世界の基盤材料である鉄鋼材のリサイクルを促進することで、世界規模でのSDGs達成を目指す。

LucasLand:バイオ産業にDXをもたらす簡便微量分析法の開発

創薬や食品科学、環境安全、感染症検査、科学捜査などのバイオ産業において微量分析は重要視されている。しかし、一般的な微量分析法(X線、NMR、質量分析など)は分析装置の大きさやコストが問題となる。また、簡便微量分析法である表面増強ラマン分光法は生体試料への適合性の課題があった。

LucasLandのミッションは、これらの難問を解決した東大発の新素材「多孔性炭素ナノワイヤ」を用いて、バイオ産業全般のDXに資する微量分析プラットフォームを創造すること。今回の支援を活用し、事業化を推進していく考えだ。

ANICLE(予定):獣医業界のDXを進める遠隔ペットケアサービス事業

ANICLEは、すべてのペットが最適なヘルスケアを受けられる社会の実現を目指していく。現在の獣医業界には、さまざまなハードルにより飼い主が動物病院に行くタイミングが遅れ、救えたはずの命が失われているという深刻な課題がある。

ANICLEはITを活用し、トリアージ、オンライン相談・診療、往診といった遠隔獣医療サービスを提供することで、獣医療へのアクセスの改善を図る。さらに家庭と動物病院を繋ぎ、シームレスなヘルスケアをペットが受けられるように獣医業界のDXを進めていく。

東大IPC 1st Roundでコーポレートパートナーと協業機会も

東大IPC 1st Roundは米国スタンフォード大学出身者によるアクセラレータプログラム「StartX」をベンチマークに、東大IPCが始めたインキュベーションプログラムだ。対象は起業を目指す卒業生や教員、学生などの東大関係者や、資金調達を実施していない東大関連のスタートアップとなる。

また東大IPCは、コーポレートパートナーを東大IPC 1st Roundに迎えることで、採択企業との協業機会の創出に力を入れている。コーポレートパートナーには、JR東日本スタートアップ、芙蓉総合リース、三井住友海上火災保険、三井不動産、三菱重工業、日本生命保険、トヨタ自動車、ヤマトホールディングスなど、各業界のリーディングカンパニーが参加している。

東大IPCによると、すでに採択先と各企業との資本業務提携など、オープンイノベーションの事例が10社以上も生まれたという。2020年からは採択先に対する東大IPCによる投資も開始し、BionicMやアーバンエックステクノロジーズ、HarvestXなどに対する投資を実行している。

今回の発表では、産業ロボット業界をけん引する安川電機と、基幹業務ソフトから中小企業の「マネジメントサポート・カンパニー」を目指すピー・シー・エーが新たにコーポレートパートナーに加わったことが明らかになった。新たに迎えた2社を加え、コーポレートパートナーは全部で10社となった。

インキュベーションプログラムとして高い実績

東大IPCはこれまで計34チームを採択した。採択1年以内の会社設立割合は100%で、資金調達成功率は約90%、大型助成金の採択率は50%だという。設立直前直後のチームを対象とするインキュベーションプログラムとして、東大IPCは実績を積んでいる。

具体的な支援としては、東大IPCは採択企業に対し、コーポレートパートナーによる協賛も含めた最大1000万円の活動資金を出している。事業推進に必要な資金調達や実証実験、体制構築、広報、資本政策などに関して、東大IPCや外部機関からのハンズオン支援なども提供する。

なお、東大IPC 1st Roundにおける採択企業の詳細な選定基準は非公開となっている。東大IPCの広報によると、スタートアップの事業性と実現性、支援意義の3つの観点で選定しているという。また、イノベーションエコシステムの拡大を目指す狙いから、審査プロセスにはコーポレートパートナーや外部VCも参加し、最終選定を行っているとのこと。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:東京大学協創プラットフォーム開発東京大学人工知能DX

DXに必要なのはイノベーションを生み出す土壌、社員の情報収集とコミュニケーションを加速する「Anews」でDXを推進

2018年9月、経済産業省は「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」を公開し、日本企業のDXが進まない場合「2025年以降、最大12兆円の経済損失が生じる可能性」があると警鐘を鳴らした。

あらゆる分野でテクノロジーを駆使する新規参入者が増え、市場環境は急速に変化している。どの企業にも関係あることだが、特にレガシーな会社は、継続的な成長と競争力を保つために「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」を進めることが急務と言えるだろう。

しかし、DXレポート公開から2年ほど経った現在でも日本企業のDXはあまり進んでいないようだ。2020年12月に経済産業省が公開した「DXレポート2」によると「95%の企業はDXにまったく取り組んでいないか、取り組み始めた段階であり、全社的な危機感の共有や意識改革のような段階に至っていない」という。

どうすれば企業のDXが進むのか。今回、社員の情報収集とナレッジシェア推進サービス「Anews」を展開するストックマークの代表取締役CEO林達氏に、DXにおける企業の課題と同社サービスのDX推進について話を聞いた。

ストックマーク代表取締役CEO、林達氏

DXはまず人材育成から

「DXレポート2」にも言及があったが、DXがうまく進まないのは、全社的な危機感が共有されず、現場間で取り組みに対する理解の差があるためと林氏は説明する。企業はDXを進める施策としてまずDX部門や新規事業部門を立ち上げることが多い。そしてDX部門が何か新しいことをする際、既存事業のリソースが必要になってくる。けれど、既存事業の社員に話しても取り組みを理解されない、あるいはうまく融合できない、といった現場間での温度差があり、それがDXを阻む要因になっているという。

こうした背景から、企業はDX単体の施策ではなく、もっと広く、人事の面から取り組みをはじめ、社員の意識を変えていこうという流れに変わってきていると林氏は言う。DXを進めるために、急がば回れの要領で、人材育成から始めようということだ。

「特にこの半年くらいで、PoC(概念実証)をやろうとか、新しいビジネスを作ろうといったある種短期的な施策から、そもそもの企業文化を変え、イノベーションを生み出す土壌を作らないといけないという考えに大きくシフトしてきていると感じています」。

社員の「熱」が伝播するプラットフォーム

ストックマークが提供する社員の情報収集とナレッジシェア推進サービス「Anews」は社員の情報感度を高め、コミュニケーションを活性化し、アイデアが生まれやすくすることで企業文化変革の推進を目指しているという。

Anewsは端的に説明すると、文章解析AIを用いてニュースをキュレーションし、チームメンバー間で共有できるサービスである。社員それぞれにパーソナライズしたニュースや、チームや部門で設定したテーマに沿ったニュースが届く。それに加え、ニュースにコメントをつけて、他の社員とコミュニケーションできる機能も搭載している。

Anewsの利用画面

Anewsの主な利点は、幅広く仕事と関連するニュースが届くこと、チームメンバーが同じニュースを見て共通理解が得られること、組織内で縦横斜めのコミュニケーションが促進できることと林氏は話す。会社の規模が大きくなると、直接会ったことがない社員も多くなるが、Anewsではニュースを起点に今まで出会わなかった人たちと接点ができ、一緒に仕事をするきっかけが生まれやすくなるという。

利用企業の中には、当初DX部門でしか導入していなかったが、組織全体の意識を変えるために、全社で導入するに至ったケースも増えてきているそうだ。「組織の中から100名、200名の変革人材をピックアップして、彼らが中心となって情報感度を上げ、情報流通とコミュニケーションをすることで熱を高めていく。そしてその熱がさらに組織に広まる。そうした動きが出てきています」と林氏は話す。

社内のコミュニケーションや情報共有のためのツールを提供するSaaSは多いが、Anewsの目指すところについて林氏はこう説明している。

「Slackなどのツールで、チームのコミュニケーションは効率化されました。ですが、そこではその日の仕事のこととか、直近の業務のやりとりが多いでしょう。これから新しいことをしていくには、ちょっと未来の話をする必要があります。今まで言いたくても言えなかったことや良いアイデアをみんな持っているはずです。Anewsはニュースを起点にコミュニケーションを促し、人のポテンシャルを引き出してアイデアが生まれるプラットフォームを目指しています」。

ストックマークは2015年4月創業。Anewsは2017年4月にリリースした。2020年2月にWILLから3億円を調達。調達後に新サービス「Astrategy」「Asales」の2つを立ち上げた。「Astrategy」は市場動向や競合の動きをAIが可視化し、経営戦略をサポートするサービスで、「Asales」は社内にあるデータを整理するサービスだ。

2021年3月9日には、Bonds Investment Group、大和企業投資、NTTドコモ・ベンチャーズ、既存投資家のWiL Fund Ⅱを引受先として、総額10億円を調達している。調達した資金はさらなる研究開発、採用、プロダクトのマーケティングに充てていく予定だという。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:ストックマークDX

画像クレジット:ストックマーク

テレビ、映画、CM制作会社の給与支払いのDXを進める「Wrapbook」がシリーズAで29.4億円調達

Wrapbook(ラップブック)はテレビ、映画、CM制作会社の給与支払いを簡単にするスタートアップだ。このほどシリーズAで2700万ドル(約29億4000万円)調達した。ラウンドにはテック、エンターテインメント双方の世界から著名人が参加した。

リードしたのはAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)でEqual VenturesとUncork Capitalも参加した他、エンターテインメント業界からDreamWorksとQuibiのファウンダー / 共同ファウンダーであるJeffrey Katzenberg(ジェフリー・カッツェンバーグ)氏率いる投資・持ち株会社WndrCoとCAAの共同ファウンダーであるMichael Ovitz(マイケル・オーヴィッツ)氏も出資した。

「今こそ制作会社の会計業務を21世紀にするときです」とカッツェンバーグ氏が声明で語った。「制作会社のますます複雑化する研修、給与、キャスト・クルー確保などの業務が新型コロナでさらに悪化する中、改善するためにはITソリューションが必要です。私はWrapbookが解決してくれると信じています」。

Wrapbookの共同ファウンダーでCEOのAli Javid(アリ・ジャビッド)氏は、エンターテインメントの給与支払いはほとんどが紙ベースで旧態依然としていて、1年に最大30回もプロジェクト間を移動するキャストやクルーを追跡するのは特に大変だと説明した。Wrapbookはそのプロセスをデジタル化によって簡略化する。必要な書類や署名は制作開始時に電子的に集め、給与処理自体を代行して支払い状況を追跡するダッシュボードを作り、必要な保険を簡単にかけられるようにする。

Wrapbookの共同ファウンダーであるキャメロン・ウッドワード氏、アリ・ジャビッド氏、Hesham El-Nahhas(ヘシャム・エル・ナハス)氏、Naysawn Naji(ネイソーン・ナジ)氏

スタートアップは2018年に設立されたが、ジャビッド氏によるとパンデミック中に制作が再開すると需要が劇的に増え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は業界のカルチャーを「根底から」覆し、制作会社に「おい、これを自宅でできる早くて簡単な方法はないのか、やってみようじゃないか」と言わしめた。

ジャビッド氏はWrapbookプラットフォームについて「業界で急速に成長しているバーティカルフィンテックソリューションで、我々は非常によく理解しているが考えてみたことのある人は多くない分野」だと説明した。実際、会社の売上は2020年に7倍に増えた。

また、Wrapbookの直接顧客は制作会社だが、共同ファウンダーでCMOのCameron Woodward(キャメロン・ウッドワード)氏(以前は映画製作保険とコマーシャル制作の仕事をしていた)は、同社プラットフォーム経由で給与を受け取っているキャストやスタッフのために良い経験を作り出すことにも力をいれていると語った。Wrapbookプロフィールを使って複数のプロダクションから支払いを受けている人も増えている(現在12%)。

画像クレジット:Wrapbook

スタートアップは以前シード資金360万ドル(約3億9000万円)を調達している。将来についてジャビッド氏とウッドワード氏は、Wrapbookのソリューションはいずれプロジェクト・ベースの他業界にも採用されるだろう、と語った。しかし現在は、エンターテインメント業界だけで十分成長を続ける余地があると見ている。現在この業界で年間2000億ドル(約21兆7500億円)の支払いが行われている、と彼らは推測している。

「まずエンターテインメント業界で顧客から依頼されたことを中心とした業務とものづくりに注力していくつもりです」とジャビッド氏は語った。「そのために、次の1年間で100人を新規雇用する計画です」。

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カテゴリー:その他
タグ:Wrapbook資金調達エンターテインメントDX

画像クレジット:Wrapbook

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(文:Anthony Ha、翻訳:Nob Takahashi / facebook

保育園向け食材キットの給食支援サービス「baby’s fun!」のsketchbookが資金調達実施

「baby's fun!」の拡大を目指す(画像は同社HPより)

「baby’s fun!」の拡大を目指す(画像は同社HPより)

保育園向け給食支援サービス「baby’s fun!」を提供するsketchbookは3月8日、シードラウンドにおいて第三者割当増資による資金調達を行ったと発表した。引受先はヤマダイ食品、はんぽさきの小林俊仁代表、さくらインターネットの田中邦裕代表のほか個人投資家となる。資金調達額は非公表。今回の資金調達でbaby’s fun!のサービス拡充などを進めていく。

現在、保育園は待機児童という大きな社会問題を抱えている。背景には職員の人員不足がある。一人ひとりが抱える仕事量は多く、特に給食については献立の作成から食材の管理、調理、事務作業と多大な時間を割いている。この状況が労働環境の悪化や十分な教育時間の確保を困難にし、食材の仕入れや管理の難しさは食品ロスにも影響しているという。

sketchbookは2020年7月10日に設立した。同社が提供するbaby’s fun!は保育園向けの給食支援サービスで、管理栄養士作成の献立に沿った離乳食・幼児食専用の食材キットを販売している。

会社設立に先立ち2019年6月から提供を始めていたbaby’s fun!は、当初年間5000食だった取扱数も今期は年間35万食となる見込みだ。今後、大手の保育園運営会社などで導入予定もあるという。

baby’s fun!はすべて国産の食材を使用している。管理栄養士が栄養価計算した献立に合わせてカット・調理し、冷凍食材としてキットで提供する。献立表とキットだけで、利用者は簡単に給食を作ることができる。1食単価は税別380円からで、仮に園児60人分の給食を同キットでまかなった場合、一度の給食費は税込みで2万3000円ほどになる。保育園は申し込みから最短2週間で始めることが可能だ。

また、保育園側からすれば、baby’s fun!を利用することで献立作り・栄養価計算、食材の発注・買い物、食材の下処理・カットが不要になり、給食全体の作業を大きく減らすことができる。必要分だけを使える食材キットのため、食品ロスや経費の削減にも繋がる。

今回の資金調達で、baby’s fun!の製造・営業・開発体制を強化するほか、食育コンテンツなどのサービス拡充を図る。保育園の人手不足を解消し、職員が子供と一緒に過ごす時間の創出に繋げていく考えだ。同社は「保育園給食の作業効率化とさらなる価値向上を進めていく」とコメントした。

建機の遠隔操作や自動操縦で建設現場のDXを進める東大発スタートアップARAVがシードラウンドで6300万円を調達

建設現場のDXを進めるARAV(画像は同社HPより)

建設現場のDXを進めるARAV(画像は同社HPより)

建設現場のDX・自動化を目指す東京大学発スタートアップのARAVは3月8日、シードラウンドにおいて第三者割当増資による6300万円の資金調達を行ったと発表した。引受先は東京大学協創プラットフォーム開発(IPC)となる。今回の資金調達で建機の遠隔操作システムパッケージ化などを進めていく考えだ。

ARAVは2020年4月に設立し、ロボット工学を用いて建機の遠隔操作や自動操縦に取り組み、既存の重機に後づけするプロダクトを開発している。建設現場のDXを促進し、研究・開発・実証実験を通じて収集・解析したビッグデータを活用することで、建設現場が抱える課題の解決を目指す。

会社設立から1年経たずにARAVは事業を大きく拡大する。

2020年4月に設立して以来、同社は国土交通省の「建設現場の生産性を向上する革新的技術」に選定されたほか、伊藤忠TC建機と建設機械の遠隔操作実用化に関する開発業務委託契約も結んでいる。

伊藤忠TC建機とは、ARAVの建設機械遠隔操作装置技術をベースに災害対策用遠隔建設機械操作システムの早期実用化を目指す。今後、実際の救助や普及作業を行う消防組織、地方自治体、災害救助犬組織とも連携し、実証実験を行う予定だ。また、現在10社以上の建機メーカーらと遠隔および自動化の共同開発を行っているという。

今回の調達資金では事業投資と採用活動の強化していく。特に遠隔操作システムのパッケージ化や自動制御システム開発を行う方向だ。

遠隔操作では、災害時や製鉄所といった過酷な労働環境下における対応を進め、実用化を目指す。一方、自動制御システムは単純な反復作業がともなう現場を改善していくため、開発に注力していく。

この他にもARAVは、建機メーカーだけでなく建機のリース会社とも提携して、特殊な建機を購入せずに遠隔操作や自動運転できる建機を日本中で利用できる環境を整備していく。

ARAVの白久レイエス樹代表は東大IPCからの資金調達について「取引先企業様と実証実験した成果を踏まえた量産化準備に向け、β版の生産体制を構築するための人材採用を強化し、ベンチャー企業としてさらなるDXソリューションを提供できるよう取り組んでいく」とコメントした。

日本生産性本部の調査によると、建設業界は年間60兆円という市場規模を持ちながら、1990年代以降の労働生産性は横ばいとなっている。労働時間は他産業と比べて年間300時間も多く、過酷な労働環境は若年層の定着率低下を招く一因となっている。しかし、国交省によると、業界内の労働人口における高齢者(60歳以上)は全体で4分の1以上を占めるなど、人手不足の改善、生産性向上が大きな課題となっている。

カテゴリー:ロボティクス
タグ:ARAV建設DX日本資金調達

ノンデスクワーカーの現場から紙をなくす「カミナシ」が約11億円を調達

「これからの5年間は、ノンデスクワーカー(ブルーカラー)向けの『デスクレスSaaS』の時代が来ると思っています」と意気込むのは、カミナシCEOの諸岡裕人氏だ。同社は2020年12月、インフィニティ・ベンチャーズ主催の「ローンチパッドSaaS」にて優勝している。

2021年3月4日、カミナシはシリーズAラウンドでALL STAR SAAS FUNDCoral Capitalなどを引受先とする第三者割当増資を実施し、総額約11億円の資金調達を行ったと発表した。

点検作業をiPadアプリで完結させる

「現場から紙をなくす」ためのプラットフォームであるカミナシは、ブルーカラー(現場で働く従業員)を対象とした業務効率化ツールだ。従来、紙やExcelで行われていた点検記録や作業記録などをiPadのアプリで完結できるようにする。

約300台の機械がある食品工場を例にしてみよう。現場の担当スタッフは、毎日すべての機械を1台ずつ点検しながら、手書きで用紙に記録していく。その後、管理者は提出された書類を1枚ずつ確認して押印する。驚くことに、スタッフが行う点検回数は1日1000回以上、管理者が承認する書類は1日100枚以上に及ぶこともあるという。

カミナシCEOの諸岡氏は「このような書類での点検作業は、非効率なだけなく、ケアレスミスや形骸化にもつながっています。年間数百万円から数千万円の膨大な費用をかけているにもかかわらず、そのデータが必ずしも信用できないというのは、あまりにもったいないと感じていました」と話す。

これを解決するのが、カミナシの役割だ。上記のような現場の「点検リスト」などをクラウド上でノーコードで作成でき、スタッフは作業中にiPadのアプリを通じて記録することが可能になる。管理サイドはリアルタイムに報告内容を確認でき、これまで数時間かけていた承認作業も数クリックで完結できる。カミナシを導入すれば、現場から「紙」は瞬く間に姿を消すというわけだ。

画像クレジット:カミナシ

エンジニアが現場に足を運ぶ

しかし、実際にブルーカラーの現場をデジタル化することは、言うほど簡単ではない。従業員のなかには高齢者や、ITリテラシーが低い人も当然いる。現場で多忙な実務をこなすスタッフにとって、ツールは本当に使いやすいものでなければならない。

「ひと言でいうと大変です」と諸岡氏。とにかく現場に足を運ばなければ話が始まらない。同社はセールスだけでなく、エンジニアやデザイナーまでもが実際にクライアントの現場まで足を運び、従業員と対話を重ね、「現場の痛みを知る」ことに重きを置いている。

そんな「現場ドリブン」を徹底するカミナシのアプローチは功を奏した。プロダクトローンチからわずか8カ月で導入社数は70社を超え、食品から航空、ホテルまで14の業界に導入されるまでに成長。現在アウトバウンドセールスは行っていないものの、ウェブ経由からの流入で月間問い合わせ件数は150を超えるという。

「負け続けた3年間」があった

ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。 父親が経営する食品工場などで働きながら、地道に経験を積んできた諸岡氏。2016年に起業し、食品工場向けのソフトウェアを開発したものの、3年間は鳴かず飛ばずの状態が続いたという。

この苦しい期間を経て、2019年12月にピボットを決断しカミナシが誕生する。「これまで僕は、ずっと自信がなかったんです。『まだ結果が出ていないから、前に出るべきじゃない』と思っていた。でも、2019年にピボットを決意した時『もう、恥も外聞もなくやってやろう』と思ったんです」と当時の心境を語る。 これが大きな転機となった。

諸岡氏は自身のnoteにて、過去の赤裸々な失敗談を含めたカミナシの理念や、メリットを積極的に発信。すると、自然に「熱い想い」を持った仲間達がカミナシに集まったという。

悪戦苦闘した3年間も決して無駄ではなく、カミナシ誕生の糧となった。諸岡氏は「僕自身、3年間で300以上の現場を見てきた。1000人以上の話を聞いた。もう二度とごめんだ、と思えるくらいにはやってきた。その時に蓄積したデータや知見があるからこそ、当時より10倍も20倍も良いプロダクトを完成させられた」という。

2020年6月のリリース以降、ローンチパッドSaaSでの優勝、シリーズAの資金調達と、順調に階段を駆け上がってきたカミナシだが、「現場から紙をなくした」先にある将来も見据える。今回の調達資金の一部は、工場などが最先端のIoTやAIを導入するためのシステム作りに投入する予定だという。「現在人間が行っている点検作業を、IoTセンサーが自動的に行い、データをカミナシに送信。それをAIが分析して報告書を作成する」などの活用を想定する。

「ノンデスクワーカーのDX」。誰もが理屈ではわかるものの、本当の意味で現場の課題を理解し、ユーザーに寄り添ったプロダクトを作ることができる企業はそう多くないだろう。父親の会社で働く時代から、「現場」をその目に焼き付けてきた諸岡氏が率いるカミナシは、数少ないその内の1社かもしれない。

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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:カミナシiPadアプリDX資金調達日本