コモディティ取引のデジタル化を進めるOpen Mineralが約36億円を調達

2018年に、コモディティ取引に透明性を取り込むことを目指しているOpen Mineral (OM)がどのようにして225万ドル(約2億5000万円)を調達したかを取り上げた。いやはや、長い道のりだった。そしていま、ようやくその時が来た。スイス拠点の同社はMubadala Investment CompanyがリードしたシリーズCラウンドで3300万ドル(約36億円)を調達した。既存投資家のXploration Capital、Emerald Technology Venturesに加えて、新規投資家のStatkraftとLingfeng Capitalも参加した。

Open Mineralは、サプライチェーン業者の活動を強固なものにするのに資金を使う、と話す。コモディティ取引マーケットは2000億ドル(約22兆円)の価値があり、今日でもいまだに紙の書類が飛び交っておりデジタル化が進行中だ。

Open Mineralのプラットフォームには世界の金属・鉱業の企業900社超が登録しており、コモディティサプライチェーンにわたってOpen Mineralの価格設定アルゴリズムを使用していると同社は話す。

業界のデジタル化と同様、売り手と買い手に「自然に優しい」ESG(環境、社会、ガバナンス)指標を組み込むためにサードパーティのプロバイダーと協業している、とも語る。

同社はまた「物理的な金属一次産品の取引をより効率的でよく情報が提供されたものに、そして収益性の高いものにする」自動化された材料ブレンド/製錬の最適化ソリューションを開発したと主張する。これらは炭素低排出への移行に影響を及ぼす、とのことだ。

CEOで共同創業者のBoris Eykher(ボリス・イーカー)氏は声明で次のように述べた。「金属取引産業の未来はデジタルデータと分析にあり、マーケット参加者がこれまでよりも迅速にコミュニケーションを取り、そしてすばやくデータ駆動の決定を行うことができます。eBayが買い手と売り手に多くの選択肢を提供して小売購入を刷新したように、当社はOpen Mineralプラットフォームのキュレートされ、信頼できる環境で物理的なコモディティ生産者のために同じことを行います」。

MubadalaでロシアとCISの投資の責任者を務めるFaris Al Mazrui(ファリス・アル・マズルイ)氏は「Open Mineralはデータ分析テクノロジーを活用することでコモディティ取引事業をディスラプトしています。卑金属商品の買い手と売り手はより効率的に取引し、そして恩恵を受けるためにユニークな専用データハブを利用することができます」。

画像クレジット:Open Mineral

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

バングラデシュの小売店のDXを進めるコマースプラットフォームShopUpが同国最大規模となる約82.5億円調達

バングラデシュの小規模店舗のデジタル化を進めているスタートアップのShopUp(ショップアップ)は、南アジア市場でも最大規模となる新たな資金調達ラウンドで7500万ドル(約82億5200万円)を調達した。

Peter Thiel(ピーター・ティール)氏のValar Ventures(バラール・ベンチャーズ)がShopUpの7500万ドル(約82億5200万円)のシリーズBラウンドを主導した。このラウンドには、Prosus Ventures(プロサス・ベンチャーズ)の他、既存の投資家であるFlourish Ventures(フローリッシュ・ベンチャーズ)、Sequoia Capital India(セコイヤ・キャピタル・インディア)、VEON Ventures(VEON ベンチャーズ)も出資している。今回の新たな投資により、同社の累計調達額は1億ドル(約110億円)を超え、ValarとProsusにとっては、1億人以上のインターネットユーザーがいるバングラデシュでの初めての取引となる。

バングラデシュでは、隣国のインドと同様、小売全体の95%以上が近隣の店舗で行われている。バングラデシュには約450万店の小売店があるが、そのほとんどがデジタル化されていない。

インド、パキスタン、その他のアジア諸国と同様に、バングラデシュでもこれらの小規模店舗は多くの課題に直面している。在庫選択のための大規模な目録を持たず、良質な価格設定や迅速な配送のための交渉をすることもできない。また、これらの小規模小売店では、売上全体の3分の2以上が、現金やデジタル決済ではなく、クレジットで処理されているため、大規模な流動性リスクに陥っている。

ShopUpはこれらの課題を解決しようとしている。同社は、フルスタックの企業間商取引プラットフォームを構築し、在庫を確保するための卸売市場、物流(顧客へのラストマイル配送を含む)、運営資金など、多くの核となるサービスをこれらの店舗に提供している(インドの多くのスタートアップ企業と同様に、ShopUpは銀行やその他のパートナーと協力して運営資金を提供している)。

ShopUpの共同創業者兼CEOのAfeef Zaman(アフィエフ・ザマン)氏は、同社はこの1年間で、提供するサービスを拡大し、バングラデシュ国内での普及を進めてきたとTechCrunchのインタビューで述べている。例えば、バングラデシュ最大のメーカー、生産者、流通業者と提携し、小規模店舗へ在庫の確保と供給をしているという。また、その物流サービスは、すでにバングラデシュで最大のものとなっている。

ShopUpは、他の企業と同様にパンデミックの影響を受けたが、国が開かれ始めたことで、回復の兆しが見えてきたという。全体として、この1年間で事業は13倍以上に成長したとのことだ。

「ShopUpのリーダーシップチームは、過去12カ月間、強力な実行力を発揮してきました。バングラデシュの十分なサービスを受けていない小規模事業者向けに作られた3つの製品で2桁の成長を遂げ、明らかに市場のリーダーとなりました。バングラデシュのような急成長を遂げているフロンティア経済圏では、小規模事業者が経済の主な原動力となっています。オンライン経済への移行を迅速に進めるために、製品の連携したエコシステムを構築するというアフィエフ氏のビジョンに協力できることをうれしく思います」とValar Venturesの創業パートナーであるJames Fitzgerald(ジェームズ・フィッツジェラルド)氏は声明の中で述べている。

ザマン氏によると、この1年間で、バングラデシュのこうした小規模店舗の間でテクノロジーの導入が加速しているという。「彼らは今、複数のネットサービスを利用しています。ShopUpだけでなく、メッセージや暗号資産なども利用しています。今後もこの傾向は続くでしょう」。

ダッカに本社を置くこのスタートアップは、技術者やエンジニアの大部分が暮らしているベンガルールにオフィスを構えており、今回の新たな資金は、チームの拡大のために投入される予定だ。ザーマン氏は、今回の資金調達の一環として、従業員のストックオプションの数を3倍に増やしたことを明らかにした。

「今回の投資は、過去10年間で最も急速に成長している経済圏の1つであるバングラデシュへの参入を意味しています。ShopUpは、細分化された市場の中で、小規事業者のさまざまなニーズを解決するために、強い実行力を発揮してきました。何百万もの小売業者に力を与え、彼らが国の経済成長に参加できるようにするというShopUp の取り組みを支援できることをうれしく思います」。とProsus Venturesのインド投資部門責任者Ashutosh Sharma(アシュトシュ・シャルマ)氏は語っている。

画像クレジット:ShopUp

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(文:Manish Singh、翻訳:Akihito Mizukoshi)

コロナ後のインバウンドをにらみホテルのDXを加速させる韓国と日本を拠点を置くH2O Hospitality

パンデミックは、接客業の非接触、スタッフレス運営への要求をいっそう高めた。無人ホテル管理会社のH2O Hospitality(エイチ・ツー・オー・ホスピタリティー)は、その追い風を受けて3000万ドル(約33億円)の調達ラウンドを完了した。韓国と日本を拠点とするスタートアップは、宿泊予約、客室管理、フロントデスク業務などのフロントエンドとバックエンドを自動化する。同社は新たな資金を得て事業の拡大を続けていく。

今回のシリーズCラウンドをリードしたのはKakao Investment(カカオ・インベストメント)で、Korea Development Bank(KDB、韓国開発銀行)、Gorilla Private Equity(ゴリラ・プライベート・イクイティー)、Intervest(インターベスト)およびNICE Investment(ナイス・インベストメント)も参加した。他に東南アジアのジョイントファンドであるKejora-Intervest Growth Fund(ケジョラ・インターベスト・グロース・ファンド)も参加していることから、H2O Hospitalityが東南アジア市場に特に焦点を当てていることがわかる。H2O Hospitalityは2020年2月にシリーズBラウンドで700万ドルを調達し、Samsung Ventures(サムスン・ベンチャーズ)、Stonebridge Ventures(ストーンブリッジ・ベンチャーズ)、IMM Investment(アイエムエム・インベストメント)、Shinhan Capital(シンハン・キャピタル)らが参加した。

関連記事:日本の民泊仲介サービスH2O Japanがサムスンなどから7億円超を調達

H2O Hospitalityは2021年と2022年に韓国と日本でさまざまなタイプの宿泊施設を追加して事業を拡大する予定で、2022年第4四半期には同社の東南アジア浸透戦略の一環としてシンガポールとインドネシアにも進出する計画だ、と同社の共同ファウンダーでCEO、John Lee(ジョン・リー)氏はいう。

「現在H2O Hospitalityは、いくつかの国際ホテルチェーン企業と、韓国、日本以外でのデジタルトランスフォーメーションと事業運用の提携について話し合っています」とリー氏がTechCrunchに語った。

H2Oは同社の顧客チャンネルソリューションと非接触チェックインシステムをアジア各国の顧客ニーズに合わせて進化させるために、研究開発に投資していくつもりだ。

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後にも、ホテル・デジタル・トランスフォーメーションで成功しリードしていくためには、それぞれの宿泊施設と状況に合わせたシステム開発とカスタマイズが必要です」とリー氏がメールのインタビューに答えた。

H2O Hospitalityは、2015年にCEOのジョン・リー氏が設立し、そのご買収と拡大を繰り返してきた。たとえば2017年には日本に進出して宿泊管理会社をいくつか買収した。2021年、H2Oは自社のテクノロジーとESG(環境・社会・ガバナンス)の競争力を高めるために、非接触ホテルソリューション企業のImGATE(イムゲート)とローカル・クリエイターのスタートアップ、Replace(リペレース)の韓国企業2社を買収した。

現在同社は東京、大阪、ソウル、プサン、バンコクにホテル、旅館、ゲストハウスなど約7500の宿泊施設を運用している。

H2O Hospitalityの情報通信技術(ICT)ベースのホテル管理システムは、チャンネル管理システム(CMS)、設備管理システム(PMS)、客室管理システム(RMS)、施設管理システム(FMS)などを使ってホテル業務の自動化とデジタル化を可能にしている。

同社の統合ホテル管理システムは、ホテル業務の運営費固定分を50%縮小し、売上を20%上昇させることが可能だと同社の声明に書かれている。

「新型コロナウイルスは宿泊業界に最も強い打撃を与え、そのために多くのホテルが固定費を減らしたいと考えましたが、現在の運営フローでは不可能でした」とリー氏は語った。「デジタル・トランスフォーメーションが必要だったのです」。

新型コロナが未だに旅行業界の大部分を凍結している今、パンデミックがH2Oにどう影響を与えているかを質問したところリー氏は、パンデミック前、H2Oの売上は最大30%増加していたが、新型コロナ後は5~15%に落ちたと答えた。最近の売上拡大要因は、顧客の効率を改善するために同社が作ったツールによる。例えば自動ダイナミックプライシング(ADR)ツールや、オンラインとオフライン、国内、国外の旅行代理店の多様なセールスチャネルなどがある。

リー氏はさらに、H2Oに多くの施設が加入しており、それが最近18カ月間の売上増に貢献していることを指摘した。H2Oの事業はアジア唯一であり、このため2020年8月以来多くの施設所有者が加入し始めている、と同氏は説明した。

「パンデミック中に加入したホテルはすべて収支が改善し、財務損失を取り戻しつつあります」とリー氏は言った。

現在世界に1640万の客室があり、年間5700億ドル(約62兆5889億円)を生み出している、とリー氏はいう。H2Oは世界中の宿泊施設をデジタル化できると信じており、会社の主要目標はホテルブランドを作ることではなく、ホテルオーナーがよりよい方法で自分の施設を運用できるようにすることだと彼は言った。

リー氏は、現在のホテル運用プロセスは「2G携帯」とよく似ていて、スマートフォンに切り替わる前の状態であり、H2Oはすべてのホテル運用を「スマートフォン」にする、と説明した。

「これは(接客)業界にとってごく自然な変化であり、それは携帯電話ユーザーが2Gからスマートフォンに移行したのと同じことです」とリー氏は言った。

韓国と日本では、国内需要は高まりつつあるものの、残念ながら国境を越えるインバウンドツーリズム市場は未だに停止している。

「両国(韓国と日本)ともワクチン接種が進んでいるので、インバウンドツーリズム市場は1年以内に復活すると信じています」とリー氏は言った。

Kejora-Intervest Growth Fundのマネージングディレクター、Jun-seok Kang(ジュン・シュー・カン)氏はTechCrunchに次のように語った。「ホテルのデジタル・トランスフォーメーションに新しい波がやってくることはパンデミック以前からわかっていました。しかし、新型コロナ遷移を早めたことは間違いありません。H2Oがホテル市場の転換に成功すると私たちは信じています」。

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(文:Kate Park、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【インタビュー】デロイトトーマツのテクニカル・ディレクターが語る「データは客観的」の嘘

DXを語る上で無視できないデータ活用。業界を超えて先進企業が取り組んでいるが、Deloitte Tohmatsu(デロイト トーマツ)でテクニカル・ディレクターを務めるIvana Bartoletti(イヴァナ・バートレッティ)氏は「盲目的なデータ活用は課題解決につながりません」と警鐘を鳴らす。データはどう使われるべきなのか。現在のデータ活用方法にどのような問題があるのか。同氏が詳しく語った。

本記事はB’AIグローバル・フォーラム主催「Power, Politics, & AI:Building a Better Future
の講演をもとに編集・再構成したものである。

「データは客観的」なのか?

近年、DXの必要性が叫ばれ、データとAIの活用を進めようとする機運が高まるばかりだ。AIの機械学習により病気の症状が表出する以前に病気を発見するなど、前向きなデータ活用が拡大している。しかしバートレッティ氏は危機感を覚える。

「多くの人が『データは客観的なものだ』と思っています。だからこそ、意思決定や法整備にデータを活用すべきだという声が上がります。しかし、それではうまくいかないのです」と同氏は話す。

データを読み込んだAIが意思決定に活用されることで、結果として差別が再生産されることがあるからだ。

例えば、銀行などの金融機関が既存のデータをAIに学習させ、顧客の信用を予測させるとしよう。すると、男性の方が女性よりも高い信用があると結論され、その金融機関は男性に有利な方針を採用することがあり得る。なぜなら、これまでビジネス活動の重要ポジションの多くは男性により占有され、それにより女性の収入は男性の収入よりも一般的に少なかったからだ。同様の問題は人種の異なる者の間でも起きるだろう。

バートレッティ氏は「データの問題は、実は政治的な問題なのです」と指摘する。

差別をするのはアルゴリズムか、人間か

こうした議論を聞くと「差別的な結果が出てしまうのはアルゴリズムの問題だから、アルゴリズムを改善すれば良い」と考える人もいるかもしれない。

しかし、バートレッティ氏は「アルゴリズムは差別をしません。差別をもたらすのはシステムを作る人間です」と断言する。

ここで同氏は1つの例を挙げた。大きな都市の中心に1つの会社がある。この会社のCEOが自分の側近を社員の中から選ぼうと考えた。CEOはソフトウェアを使って自分の条件に合う社員を検索した。CEOは自分が午前7時に出勤するので、同じ時間に出勤する社員に絞り込んだ。

これだけでは「午前7時に出勤する社員」というのが検索の条件であるように見える。しかし、実際にはそうではない。

「朝早くに都市の中心の会社に出社できるのはどんな人でしょう?街中にアパートを借りる財力がある若い男性社員でしょうか?あるいは2人の子どもがいる郊外在住の女性社員でしょうか?この場合は若い男性社員でしょう」と同氏はCEOが気づいていない隠れた条件を説明する。その上で「重要なのは、差別やステレオタイプ、バイアスを自動化してしまうシステムに注意を払うことです」と話す。

データで未来は予測できるのか?

「AIは『客観的な』データを摂取することで答えを導き出すと思われています。しかし、客観的なデータ、中立的なデータなどというものは存在しません」とバートレッティ氏はいう。

なぜなら、データというものは「現在」という瞬間の写真でしかないからだ。つまり、データはこれまで積み重ねられてきたあらゆる差別や不平等が「今」どうなっているかということを見せるだけだ。こうした「今」や「今まで」をAIに取り込ませ、未来を予測しようとすれば、今現在起きている問題や差別を自動化し、継続させることしかできない。

「既存のデータで未来を予測することは、今、弱い立場にいる人々を抑圧することにつながります。AIの機械学習は今までのデータをもとにパターンを見つけ出し、方針を決定します。これは未来のあるべき姿を創造することとは異なります」とバートレッティ氏。

同氏はまた「システムは選択されるもので、自然とでき上がるものではありません。先程の金融機関の男女の信用の例で言えば、『データを活用する金融機関が女性に大きな信用を置く』というような状況は自然ともたらされることはないのです」という。

ダイバーシティを取り入れたデータ活用、AI活用に向けて

では、どうすれば前向きに、既存の差別構造を持ち込まずにデータやAIを活用できるのだろうか。

バートレッティ氏は「今、データ活用に関わる決定の場にいる女性の数は多くありません。女性などのマイノリティが意思決定の場にいなければ『これは問題ですよ』という人がいないということです。組織はデータ活用やアルゴリズムに関して公平・公正でなければなりません」と答える。

しかし、これには大きな課題が立ちはだかる。男性が多数派の意思決定の場に女性などのマイノリティを増やすということは、意思決定の場に今いる人々からすれば、自分の特権を手放すことを意味するからだ。既存の意思決定者たちが得るものもなく特権を手放すことは考えにくい。彼らがマイノリティの意思決定の参加を加速させることで得る利益はあるのだろうか。

バートレッティ氏は「彼らには2つの利益があります」という。

1つは自社の評判確保による利益の確保だ。データ活用の場、意思決定の場にマイノリティが参加していなければ、その事実が自社の評判を下げる。評判が下がれば、顧客が自社の商品やサービスを利用しなくなり、経済的な損失になるというのだ。そのため、自身の特権を手放してでも、意思決定の場にマイノリティを呼ぶことで、評判と利益を守る必要がある。

もう1つは人材確保だ。同氏は「IT企業に勤める人々は、テクノロジーを使って社会的に正しいことをしようと思っています。最近では、自社の方針が倫理的でない場合に、デモなどの行動に出る人たちもいます。つまり、優秀な人材に自社に居続けてもらうために、企業は倫理的でなければならないのです」と話す。

IT企業だけではない。例えば建設業界のエンジニア採用にAIを使う場合、これまでのデータをもとに良い人材を探すことになる。エンジニアには男性が多いため、AIは「良い人材=男性」という図式を踏襲してしまう。実際の能力ではなく、性別によって人材が選別されてしまうのだ。意思決定の場に女性が居れば、どのデータをどのように使うのか、良い人材の定義は何かなどを設定し、より適切なデータ活用をできるようになり、より良い人材を確保できる。

最後にバートレッティ氏は「データは万能、テクノロジーは万能と思わないでください。『適切なデータセットとは何か』という問いは政治的なものです。AIを有意義に使うためには、哲学者、歴史家など、多様なバックグラウンドの人材が必要です。『データ活用はすばらしい』かもしれませんが、誰にとって都合が良いのか考えてください。知らないうちに『自分にとって都合が良い』『男性にとって都合が良い』になっているかもしれませんよ」と語った。

デジタル化、リモート化が進むビジネスオペレーションをモダナイズするRattle、就業時間短縮で好評

テクノロジー企業の従業員たちは、いつも消費者向けのすばらしいアプリを開発しているが、社内におけるお互いのコミュニケーションは、使いにくいアプリで困っていることが多い。

中規模から大規模ほどの企業では、社員たちは1日の時間の4分の1もしくは3分の1を社内コミュニケーションに費やしているため、これは深刻な問題だ。

現在、サンフランシスコに本社を置くあるスタートアップが、ビジネスサービスをより便利に利用できるソフトを構築しようとしている。

Rattleは、現代の記録管理や情報プラットフォームのサイロ化した性質を対応するために、リアルタイムで協力的な「接続性のある組織」を構築していると、同名スタートアップの共同創業者兼最高経営責任者Sahil Aggarwal(サヒール・アガーワル)氏は、TechCrunchのインタビューで語っています。

「Salesforceを例にとると、Salesforceにデータを書き込むことと、Salesforceからデータを取り出すことの2つを行っています」とアガーワル氏は説明する。「Rattleは、Salesforceからのすべてのインサイトをメッセージングプラットフォームに送信し、メッセージングサービス内のデータをSalesforceに書き戻すことを可能にします」。

画像クレジット:Rattle

 

Rattleのユースケースは、もっといろいろなサービスで可能だ。たとえば電話の通話を認識して個人にそれをログするよう促し、そこから生ずる商機をSlackで追えるようにするようにもできる。

「SlackとSalesforceの統合から初めましたが、その買収によってその真価は実証されました。それは企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を急速に進めるでしょう」とアガーワル氏はいう。彼がこのスタートアップを思いついたのは、以前の企業で社内チームのために作ったアプリケーションが大好評だったからだ。

関連記事:SalesforceがSlackを約2.9兆円で買収、買収前の企業評価額は2.6兆円強だった

3月にローンチしたそのスタートアップは、すでに試用した企業の70%ほどが正規ユーザーになっている。顧客は50社を超え、その中にはTerminusやOlive、Litmus、Imply、Parse.lyなどがある。

Rattleの導入後、「導入部分の応答時間(リードレスポンスタイム)が75%、主要なプロセスが数日から数分に短縮されました」とLogDNAのGTM Ops ManagerであるJeff Ronaldi(ジェフ・ロナウディ)氏はいう。

Rattleは米国時間8月31日に、LightspeedとSequoia Capital Indiaからの280万ドル(約3億1000万円)のシードラウンドを発表した。Ciscoの執行副社長でDisneyの取締役Amy Chang(エイミー・チャン)氏と、Outreachの初期の投資家Ellen Levy(エレン・レヴィ)氏、Brex & Cartaの初期の投資家Jake Seid(ジェイク・セイド)氏、ユニコーンのSaaSであるChargebeeの創業者Krish & Raman(クリシュ&ラマン)氏らが参加している。

LightspeedのパートナーであるHemant Mohapatra(ヘマント・モハパトラ)氏は声明で次のように述べている。「世界中の企業は、営業、マーケティング、人事、ITなど、さまざまなプロセスに縛られています。デジタル化やリモートワークの増加にともない、プロセスやその遵守状況は時間の経過とともに乖離していきます。Rattleのチームが、このパズルの最も重要なピースである、プロセスに巻き込まれた人々に絶え間なくフォーカスしていることに感銘を受けました。これほどまでに顧客から愛されている企業は稀であり、Rattleと一緒にこの旅に出られることを光栄に思います」。

同社のサービスの利用料金は、社員1人あたり月額20ドル(約2200円)から30ドル(約3300円)となる。同社は今回の資金をプロダクトの拡張と、より多くのエンタープライズアプリケーションの統合に当てる計画だ。

画像クレジット:Rattle

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(文:Manish Singh、翻訳:Hiroshi Iwatani)

「建設界のShopify」を目指すBrokreteは業界のDXを推進させる

パンデミックは、生活と産業のあらゆる面に影響を与えている。そして当然ながら、建設業界でもデジタル化が急速に進んでいる。建設のサプライヤーも、他の業界と同じく、もっと高いレベルで仕事せよというプレッシャーに日増しに迫られている。現在、DozerやReno Run、Toolboxといった企業がそれに対応しようとしているが、そのモデルは垂直統合に近くあまりオープンなものではない。しかしそれでも、建設企業はコンクリートやレンガが必要になるたびに仕入れの交渉をしなければならず、同時に記帳もしなければならない。

そこを突こうとするのがBrokreteだ。同社は「建設のShopify」を自称している。

Brokreteは今回、Xploration Capitalがリードするシードラウンドで300万ドル(約3億3000万円)を調達し、これには匿名の新たな戦略的投資家と既存の投資家も参加した。同社はY Combinatorの2020年の冬季を卒業した。戦略的投資家は、Ronald Richardson(ロナルド・リチャードソン)氏やAngeLlist VenturesのAvlok Kohli(アヴロク・コーリ)氏、そしてMaRS Investment Accelerator Fund(IAF)だ。資金は北米とヨーロッパの市場拡大に充当される。Brokreteはまた、建設業界のサプライヤーのためのeコマースプラットフォーム「Storefront」も立ち上げた。

同社の創業者でCEOのJordan Latourelle(ジョーダン・ラトゥーレル)氏は次のようにいう。「今の建設業はほとんどがオフラインで、レガシーのコマースを規範とする1兆2000億ドル(約132兆2180億円)の市場です。BrokreteのStorefrontプロダクトは、彼らの日々の操業を桁違いに強化するために必要なツールでサプライヤーを武装します。私がBrokreteを創業したのは、eコマースの巨人たちに無視されている業界を見たからです。今では我々は、建設業界のeコマースのためのオペレーティングシステムになりつつあり、あくまでも使いやすさと値頃感の両立を目指しています」。

Brokreteのプラットフォームは、コードレスでホワイトレーベル、マルチチャネルで、業界固有の販売と注文の管理をオンラインで行なう。サプライヤーはiOSやAndroidのアプリでeコマースを動かし、伝統的な顧客からのオフラインの注文を受け取る。また、アプリはオーダー管理と支払いと発送、ロジスティクスそしてリアルタイムでの配達を行なう。さらに財務とオペレーションのERPを統合している。Brokreteの主張によると、同社は現在、1000社あまりの請負建設企業を顧客としており、250社あまりのサプライヤーのネットワークを構築している。

「私たちは建設業界にShopify的に利用してもらい、自分のストアを持ってもらいたい。サプライヤーが自己のブランドと店を持ってもらいたいのです」とラトゥーレル氏はいう。

Xploration CapitalのゼネラルパートナーであるEugene Timko(ユージン・ティムコ)氏は次のように語る。「建設は、まだほとんどデジタル化していないサプライチェーンを抱えた巨大な業界として生き残っている数少ない業種の1つです。この業界が歴史的に抱えている主要な問題は、実際のストックへのリアルタイムのアクセスがないことであり、そのために生産者と流通業者とがオンライン化できないでいます。しかしBrokreteのようなエンド・ツー・エンドのソリューションがあれば、この業界もBrokreteのマーケットプレイスで販売できるだけでなく、自分自身のダイレクトなオンラインチャネルを作ることができます。それは、Shopifyが多くの人にネットショップを提供しているのと同じです。何千何万という、それまでオフラインだった企業が、オンラインでオーダーを受け取るようになるでしょう」。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:Brokrete建設DX

画像クレジット:Brokrete

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hiroshi Iwatani)

1990年代のような旧態依然とした自動車修理工場の業務を変革するShopmonkey

自動車修理工場に行くと、まるで過去に足を踏み入れたような気分になることがある。手書きのメモや領収書、不便なPOSシステムやスケジュール管理ツール(もしあったとしても)は、顧客に21世紀ではなく、1990年代にいるような感覚を与える。

Shopmonkey(ショップモンキー)はそんな状況を変えようとしている。

「この業界はすばらしいサービスを提供していますが、今の時代とサービスから5〜10年は遅れていると感じます」と、ShopmonkeyのCEOであるAshot Iskandarian(アショット・イスカンダリアン)氏は、最近のインタビューで語っていた。

同氏の会社は、自動車修理業界向けに開発されたクラウド型の店舗管理ソフトウェアを提供している。2500万ドル(約27億4000万円)を調達したシリーズBラウンドの発表から1年も経たないうちに、Shopmonkeyはまた新たな資金を獲得した。以前にも出資したBessemer Venture Partners(ベッセマー・ベンチャー・パートナーズ)とIndex Ventures(インデックス・ベンチャーズ)の主導でシリーズC投資ラウンドを実施し、7500万ドル(約82億3000万円)を調達したと発表したのだ。このラウンドには、継続出資を決めたHeadline(ヘッドライト)とI2BF、そして新たに投資家に加わったICONIQ Growth(アイコニック・グロース)も参加した。

今回調達した資金は、製品、営業、マーケティングの各チーム増員と、プラットフォームのさらなる開発に充てられる予定だ。

イスカンダリアン氏は、多くの自動車修理工場が業務プロセスの犠牲となっていることに気づいた。例えば、工場の経営者たちは、請求書の発行、スケジュール管理、部品の発注などの作業を行うために、多くのツールやプラットフォームを使わなければならない泥沼にはまっていた。あるいは、工場の中には、1台のローカルなマシンにダウンロードした店舗管理システムを使っている場合さえある。「これらのショップはそういう世界にいたのです」と、イスカンダリアン氏はいう。

画像クレジット:Shopmonkey

Shopmonkeyは、これらの異なる機能を単一のクラウドベースのツールに統合し、複数のコンピュータ、タブレット、スマートフォンからアクセスできるようにする。また、同社のソフトウェアは、予約のリマインダーや確認、アップセルのおすすめなども提供し、ショップと顧客のコミュニケーションにも役立っている。

イスカンダリアン氏がShopmonkeyを設立したのは2017年のこと。それ以来、従業員は約125人に増え、2500以上のショップがこのソフトウェアを使用している。同氏によると、ショップオーナーの年齢層の移り変わりや、顧客からの圧力により、管理ソリューションを求める自動車修理工場が増えているという。

多くの業界と同様に、自動車修理業界も新型コロナウイルスの流行で打撃を受けた。しかし、それも回復しつつある。ある調査報告によると、2021年は数百万の人々が路上に戻ったり、中古車の購入を決めたりすることで、7%の成長が見込まれるという。これは自動車修理工場にとって朗報であり、Shopmonkeyもこの需要増にチャンスを見出している。

新型コロナウイルス収束と世の中のさまざまな動きの活発化は「中古車や中古車修理など、自動車のアフターマーケット全体に大きな追い風となっています」と、イスカンダリアン氏はいう。「創業者にとっても、自動車修理業界にとっても、良い時代です」。

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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Shopmonkey資金調達DX自動車

画像クレジット:Shopmonkey
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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

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North Summit CapitalとAlibaba Cloudの元チーフサイエンティストであるミン・ワンリ氏(画像クレジット:North Summit Capital)

Min Wanli(ミン・ワンリ)氏は、コンピューターサイエンスを追求している人みなが切望するキャリアパスを持っていた。天才のミン氏は14歳のときに中国の一流大学に入学を許可された。同氏はその後、シカゴ大学で物理学と統計学の博士号を取得し、IBMとGoogleに計10年近く勤めた。

米国で働く多くの野心を持つ若い中国人科学者と同様、ミン氏は2010年代初めに中国でインターネットブームが起きたときに帰国した。同氏はAlibabaに設置されたばかりのクラウド部門に加わり、高速道路の交通量を抑制するために視覚的識別を使ったり、工場の効率を高めるためにコンピューティングを活用したりするような、同社のテックを産業面で応用する取り組みの最前線にいた。

そして2019年7月に、ミン氏は思い切った行動にで出た。eコマースの巨人Alibabaの成長の主要原動力となり、当時中国最大の公共クラウドインフラプロバイダーだった(今でもそうだ)Alibaba Cloudを辞めた。投資の経験はなかったが、ミン氏はNorth Summit Capitalというベンチャーキャピタル会社を興した。

「2016年と2017年ごろは、多くの企業が『デジタルトランスフォーメーション』についてかなり懐疑的でした。しかし(Alibaba Cloudからの)成功ケースを目にし、企業は2019年には実行可能性について疑問に思わなくなりました」とミン氏は深圳市の街並みや高層オフィスビルを見下ろしながら自身のオフィスで語った。きれいにアイロンがかけられた水色のシャツに身を包んだ同氏は子どものようなピュアな笑顔で話した。

「突然誰もがデジタル化したがりました。しかしわずか400〜500人のチームでそうした需要にどうやって応えられるでしょう」。

ミン氏のソリューションは、時代遅れの工場や会社に自らサービスを提供するのではなく、多数の企業がサービスを提供するよう資金を提供しサポートすることだった。間もなく、同氏はアラブ首長国連邦の氏名非公表の富裕人物から「数億ドル(数百億円)」を獲得してNorth Summit最初のファンドをクローズした。この人物とミン氏は、ミン氏が2018年に開催されたドバイテック会議にAlibabaの代表として参加したときに出会った。

「ベンチャーキャピタルは、私が多くのテック企業とコネクトし、私が昔得た教訓を共有できる拡大鏡のようなものです。ですので、テック企業はすばやく、そして効率的に従来の産業の顧客と協業できます」とミン氏は話した。

「たとえばポートフォリオにある企業と、まずハードウェア、あるいはソフトウェアの販売にフォーカスすべきなのか、それとも同等に重視すべきなのかを話し合います」。

ミン氏は支援する会社に深く関与するよう努めている。North Summitはこれまでのところ約500万〜2500万ドル(約5億5000万〜27億7000万円)の範囲で投資している。同氏はまた、ポートフォリオ企業に投資後のサポートを提供するQuadtalentというテクノロジーサービス会社も興した。

深圳市にあるNorth Summitのオフィス

デジタルトランスフォーメーションの概念は、従来の産業の性質がかなり複雑で細分化されているために、多くの投資家にとって手強いものだ。しかしミン氏はターゲットを絞るのに役立つ基準のリストを持っている。

まず最初に、投資可能なエリアはデータ集約型であるべきだ。たとえば地下鉄の追跡は鉄道システムの状況をモニターするかなりの数のセンサーを埋め込むことで恩恵を得ることができるかもしれない。2つめに、製造あるいは事業プロセスは、とてつもない設備を使う製造ラインのように、資本集約的でなければならない。そして最後に、産業は警察の交通誘導のように反復的な人間の経験にかなり頼るものでなけれなならない。

産業問題の解決は、創業者のコンピューティングの発明の才だけを要するのではなく、より重要なのは伝統的なセクターでの経験だ。なので、ミン氏は起業家を探すときに、コンピューターサイエンスウィザードの向こう側「遠く離れたところ」を見ている。

「今日我々が必要としているものは、『複合アルゴリズム』を扱える、複数の異なる分野にまたがる人材です。それは、センサーシグナル、ビジネスの論理的根拠、製造、コンピューターアルゴリズムの理解を意味します。他の要素なしにアルゴリズミックなブラックボックスを通じてニュートラルネットワークを適用するのは単なる無駄です」。

投資家らが次のABB、Schneider、中国Siemensを捉えようとするのにともなってミン氏はかなりの競争に直面している。中国は経済のすべての面でテクノロジーでの独立に向かっていて、新型コロナウイルスが世界のサプライチェーンをディスラプトしている中でその任務は緊急性を帯びている。その結果「産業用アップグレード」ソリューションをうたうスタートアップの評価額はうなぎのぼりだ。

しかし工場長たちは、自動化ソリューションプロバイダーが勝ち目のない企業なのか、あるいはユニコーンのスタートアップなのかは気にしない。「結局のところ、工場のCFOは『このソフトウェアや設備はいくら節約したり儲けたりするのに役立つのか』と聞くだけです」。

投資家らはミン氏の初のファンドの展開について慎重だ。展開を開始して2年、North Summitはこれまでに4件のディールを完了した。オートメーションを取り込んでいる創業17年の履き物メーカーTopScore、ロンドンを拠点とする就学前の中国人の子ども向けの英語学習アプリLingumi、マレーシアのドローンサービスプロバイダーのAerodyne、中小企業に安価なAIビジョンソリューションを紹介するマーケットプレイスのExtreme Visionだ。

North Summitは2021年、中国内外で企業に1億ドル(約111億円)近くを投資することを目指している。このところミン氏が注目している分野は光学式記憶装置とロボティックプロセスオートメーション(RPA)だ。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:North Summit CapitalAlibabaDX中国Alibaba Cloud

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(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】DXを「エシカル」にリードする方法、倫理優先の考え方は従業員と利益を守る

【編集部注】本稿の著者Angela Love(アンジェラ・ラブ)氏はリーダーシップ開発のコンサルティング会社であるThe Daymark Groupの創設者。Fortune 50に名を連ねるスタートアップのリーダーやチームのために、明確さと成功を生み出す手助けをしている。

ーーー

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、ほぼすべての分野でデジタル変革(DX)の必要性が加速されたことは周知の事実だ。この状況下で、企業が成功を収めるために行っている活動は常に注目されている。しかし、企業がどのようにそれを行っているかについては、あまりわかっていない。

端的に言えば、イノベーションとデジタルソリューションの導入が爆発的に進む中で、倫理的配慮が犠牲になることは許されない。

これはモラルの問題でもあるが、同時に最終的な利益の問題でもある。社内外の利害関係者は、倫理的な境界を曖昧にする(あるいは無視する)企業に対して寛容ではなくなっている。このような現実は、組織のリーダーが新たな学習曲線、すなわち「設計段階からのエシックス(倫理)」を含むDXの取り組みを受け入れる必要があることを意味する。

倫理を後回しして生じる問題

エグゼクティブのライフスタイルやゴールデンパラシュート(敵対的買収を防止するために事前に経営陣や役員の退職金を巨額に設定しておくこと)の弊害を指摘するのは簡単だが、倫理違反のパターンは、リーダーシップだけではなく、会社全体の文化に起因することがほとんどだ。従業員個人の価値観に合致しているから(従業員が)倫理的な行動をとる、というのが理想的だが、最低限、倫理違反が組織に与えるリスクを理解しておく必要がある。

筆者の経験では、そのような議論は行われていない。コミュニケーション不足とか、ビジョンの欠如と言ってもいいかもしれないが、ほとんどの企業では、潜在的な倫理的リスクをモデル化することは、少なくとも公式には行われていない。議論があるとしても、上層部のメンバー間で、密室で行われることが多い。

倫理的な問題はなぜもっと大々的に扱われないのだろうか?答えの1つは、ビジネス上のヒエラルキーに関する従来の考え方を捨てたくないことかもしれない。また、積極的な姿勢が支配する強い(かつ皮肉なことに有害な)文化的メッセージに関係しているかもしれない。リーダーが「破壊的思考の文化を作りたい」と話す例もあったが、単にそれを「成長思考が不足している」と発言した従業員に伝えただけだった。

では、どうすればいいのだろうか?筆者が効果的だと思う解決策は3つある。

  • 倫理観を組織の中核的価値観にする
  • 透明性を確保する
  • 倫理的な課題や違反に対処するための戦略を積極的に策定する

これらのシンプルな解決策は、DX以降の倫理問題を解決するために最適な出発点となり、リーダーが会社の中核をよく検討し、今後何年にもわたって組織に影響を与えるような決断をするきっかけとなる。

DXの分野では対人関係の力学が懸念される

DXは、本質的には技術的な作業で、AIやデータ運用などの分野の高度で多様な専門知識を持つ人材が必要とされる。この分野のリーダーには、困難な課題に取り組めるだけの複数のドメインを扱える能力が求められる。

ここに大きな課題がある。技術的に優れた人材を集めれば、専門用語を知らない人を委縮させ、質問することを躊躇させる専門知識に傲慢な文化が生まれるからだ。

DXは、単にインフラやツールの問題ではなく、本質的にはチェンジマネジメントの問題であり、健全な変革を実現するためには、多機能なアプローチが必要だ。企業が犯しうる最大の過ちは、技術的な専門家だけで議論するべきだと思い込んでしまうことだ。その結果、サイロ化が進み、エコーチェンバー(反響室)のようになって、倫理に関する会話ができなくなってしまう。

どれほど技術的な問題であっても、DXを急ぐ場合でも、基本的に人を第一に考えて解決しなければならない。

エシカルなDXには出発点が必要である

DXに関連する倫理的要請のすべてが「人を第一に考えなければならない」という提言のように議論の余地があるわけではない。中には「そこに到達するための出発点はここ」というような、もっと白黒がはっきりしたものもある。

幸いなことに「そこに到達する」のにゼロから始める必要はない。ガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)の基準を利用することで、解釈の余地がほとんどない高度に構造化されたフレームワークを構築し、デジタルソリューションの設計と導入に向けた強固な基盤を準備することができる。

GRCモデルはスタートアップ企業にも多国籍企業にも有用で、単なるガイダンス以上のものを提供する。よく検討してGRC基準を適用すれば、リーダーシップの評価、進捗報告、リスク分析にも利用できる。ボウリングのバンパーのように、ストライクは保証できないものの、ボールが絶対に溝に落ちないようにすることが可能になる。

GRCベースのフレームワークの作り方を知らない企業もあるかもしれない(ボウリングのバンパーを作れと言われても困るのと同じ)。そのため、多くの企業が、IBM OpenPages、COBIT、ITILなどのあらかじめ製作された基盤を提供している。これらの「スターターキット」に共通する目的は、組織が属する業界や組織に関連するポリシーや統制を特定し、そこから重要なコンプライアンスポイントに線を引くことである。

一般的にクラウドベースで開始されるGRCプロセスは、少なくとも部分的には自動化されているが、組織全体の意見と透明性を必要とする。特定の部門による主導や、厳密なトップダウン方式では、効果的な運営はできない。実際、GRC基準の導入に際して理解しておくべき最も重要なことは、組織のリーダーシップと組織全体の文化の両方がGRCの方向性を完全に支持しない限り、GRCはほぼ確実に失敗するということだ。

倫理を優先する考え方が従業員と利益を守る

経営者、起業家、インフルエンサーなど、今日の社会におけるリーダーは、デジタル競争に「勝つ」ことだけを考えるべきではない。変革は短距離走ではなくマラソンのようなものだが、いずれにしても技術が重要である。競争上の優位性という最終目標を達成するためには「何を行うか」と同様に「どのように、なぜ行うか」が欠かせない。

これは、組織のすべての部門に当てはまる。オーナーや従業員などの内部の利害関係者は、倫理に対する周縁的アプローチを黙認することで、自分のキャリアや評判を危険にさらす。顧客、投資家、サプライヤーなどの外部の利害関係者も、内部の利害関係者と同様に多くのものを失う。この事実をお互いに理解しているからこそ、業界・業種を超えた透明性の追求が可能になる。

自身の監視下での倫理的堕落を許容した個人や企業に対する大規模な攻撃を観たことがあるだろう。同じような経験をするリスクを完全に排除することは不可能だが、リスクを管理することはできる。危険なのは、DXの「技術面から目をそらす」ことによって、全体像を見渡せなくなってしまうことだ。

このリスクを軽減し、真に倫理的な方法でデジタル時代の課題に立ち向かおうとする企業は、組織の内外で、倫理性、透明性、包括性の意味についてシンプルに話し合うことから始める必要がある。そして、必要に応じて行動を起こし、組織全体で先入観を持たずにその会話をフォローしていく。

組織がかつてないほど急速に活動し、変化している今、イノベーションの遅れを心配するのは賢明だが、適切なすべての倫理的配慮を行う時間はある。それを怠ると組織の先行きは危うい。

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【コラム】パブリッククラウドにおけるセキュリティ課題の解決に向けて

カテゴリー:その他
タグ:コラム倫理DX

画像クレジット:Janis Lacis / Getty Images

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(文:Angela Love、翻訳:Dragonfly)

【コラム】パブリッククラウドにおけるセキュリティ課題の解決に向けて

編集注:本稿の著者Nick Lippis(ニック・リッピス)氏は、先進的なIPネットワークとそのビジネス上のメリットに関する権威。大企業のITビジネスリーダー約1000人が参加する年2回のミーティングを主催するONUGの共同設立者であり、共同議長も務めている。

ーーー

専門家の間では、データレイク市場は今後6年間で315億ドル(約3兆4000億円)の巨大市場になると言われており、この予測は大企業の間で大きな懸念となっている。データレイクの増加はパブリッククラウドの使用量の増加を意味し、その結果、通知、警告、セキュリティイベントの急増につながるというのがその理由である。

Sumo Logic(スモーロジック)による調査結果を引用した2020年のDark Readingの記事によると、企業組織の約56%が毎日1000件以上のセキュリティアラートを処理しており、70%のITプロフェッショナルが過去5年間でアラートの量が倍増したと報告している。実際、ONUGコミュニティでは、1秒あたりに約100万件のイベントが発生しているという。1秒あたりである。という事は年間で数十ペタのイベントが発生していることになる。

あらゆることのデジタル化が進む今、この数字は増え続ける一方だ。企業のITリーダーらは日々このようなイベントへの対応に追われ、より優れた対処方法がないかと頭をひねらせている。

今や社会の運営基盤となっているパブリッククラウドのセキュリティに、なぜ標準的なアプローチが存在しないのか。

パブリッククラウドのセキュリティに対処するための統一されたフレームワークがないことが、この問題を悪化させている一因だ。エンドユーザーやクラウド消費者は「適切な」セキュリティ体制で運用するために、SIEM、SOAR、セキュリティデータレイク、ツール、保守、スタッフなどのセキュリティインフラへの支出の増加を余儀なくされている。

今後パブリッククラウドがなくなることはなく、データやセキュリティへの懸念が消えることもありえない。しかし、この問題を解決するためにITリーダーは延々と奮闘し続けなければいけないのだろうか。我々は現在、高度に標準化された世界に住んでいる。小学生の送り迎えや社用車の借り出しなどのごく単純な作業にでも、標準的な業務プロセスが存在する。それではなぜ、今や社会の運営基盤となっているパブリッククラウドのセキュリティに標準的なアプローチが存在しないのか。

ONUG Collaborative(ONUGコラボレティブ)も同じ疑問を感じていたようだ。FedEx(フェデックス)、Raytheon Technologies(レイセオン・テクノロジーズ)、Fidelity(フィデリティ)、Cigna(シグナ)、Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)などのセキュリティリーダーが集結し、Cloud Security Notification Framework(CSNF)を設立した。クラウドプロバイダーがセキュリティイベント、アラート、アラームを報告する方法に一貫性を持たせ、エンドユーザーにデータの可視性とガバナンスの向上をもたらすというのがこの取り組みの目的である。

パブリッククラウドのセキュリティ上の課題と統一されたフレームワークによって、CSNFがどのようにこの課題を解決しようとしているのかを詳しくご紹介したい。

問題の根源

パブリッククラウドにおけるセキュリティアラートの増加を引き起こしている主な要素は次のとおりだ。

  • 新型コロナウイルス(COVID-19)を発端とした急速なデジタルトランスフォーメーション
  • 現代の在宅ワーク環境によるネットワークの広がり
  • セキュリティ攻撃の種類の増加

最初の2つの課題は密接に関連している。企業がオフィス閉鎖を余儀なくされ、業務と従業員をリモート環境に移行することになった2020年3月、サイバー脅威と安全性の間を隔てていた壁が音を立てて崩れた。すでにリモート運用を行っていた企業にとっては大きな問題ではなかったものの、多くの企業にとってはすぐに問題が表面化することとなった。

当時はセキュリティよりもスピードが重視されていたと複数のリーダーが筆者に話している。ガバナンスよりもすべてを早く稼働させることが優先されていたわけだ。会社のネットワークエッジの一部を各従業員の自宅のホームオフィスに持ち込み、基本的なガバナンス管理や従業員へのフィッシングやその他の脅威の見分け方を教えるトレーニングが行われないまま、攻撃がいつされてもおかしくない状況を作り上げていたのだ。

2020年、FBIのサイバー部門にはセキュリティインシデントに関する苦情が1日あたり4000件近く寄せられていた。これはパンデミック前と比べて400%の増加である。

向上し続けるサイバー犯罪者の知能もセキュリティ上の問題の1つである。Dark Readingの記事によると67%のリーダーが、管理しなければならないセキュリティ脅威の種類が常に変化していることがコアとなる課題だと主張している。サイバー犯罪者はこれまでになく賢くなっている。フィッシングメール、IoTデバイスからの侵入、その他さまざまな手段を駆使して組織のネットワークに侵入するため、ITチームは常に対応を迫られ、何が重要で何が重要でないかの選別作業に貴重な時間を奪われているのだ。

統一されたフレームワークがなければ、インシデントの量は制御不能に陥ることになる。

CSNFが活躍できる場所

CSNFはクラウドプロバイダーとITコンシューマーの双方にとって有益なものとなるだろう。通常、セキュリティプラットフォームでは、アセットインベントリー、脆弱性評価、IDS製品、過去のセキュリティ通知など、サイロ化されたソースからすべてのデータを取り込むために、統合タイムラインが必要となる。またこういったタイムラインには高額なコストがかかり効率も悪い。

しかし、CSNFのような標準化されたフレームワークを使用すると、過去の通知の統合プロセスが簡略化され、エコシステム全体のコンテキストプロセスが改善されるため、支出を効率的に削減し、SecOpsチームやDevSecOpsチームはセキュリティ体制の評価、新製品の開発、既存のソリューションの改善など、より戦略的なタスクに集中する時間を確保することができる。

標準化されたアプローチがすべての関係者にもたらすメリットについて詳しく見てみよう。

  • エンドユーザー:CSNFは、IT部門などの企業のクラウド利用者のオペレーションを効率化し、データのセキュリティ体制の可視化やコントロールの向上を可能にする。クラウドガバナンスの改善によるこういった安心感の向上は、誰にとっても有益なことである
  • クラウドプロバイダー:CSNF は、追加のセキュリティリソースを解放することで、企業が特定のクラウドプロバイダーからの追加サービスを利用することを妨げている現在の参入障壁を取り除くことができる。またエンドユーザーのクラウドガバナンスが向上することで、クラウド利用が促進され、プロバイダーの収益が増加するとともに、データの安全性に対して安心感を提供することができる
  • クラウドベンダー:SaaSソリューションを提供するクラウドベンダーは、日々増え続けるセキュリティ通知に対応するため、エンジニアリングリソースに多くの費用を費やしている。標準化されたフレームワークを導入すれば、このような追加リソースは必要ない。特定のニーズや労働力にコストをかける代わりに、従業員はユーザーダッシュボードやアプリケーションなどの製品やオペレーションの改善に専念できるようになる

すべてのグループが協力することで、セキュリティアラートによる摩擦を効果的に減らし、長期にわたって確実にコントロールされたクラウド環境を構築することができる。

今後の展開

現在CSNFは構築段階にある。クラウドの消費者が団結して要件をまとめ、プロトタイプの確立に向けてガイダンスを提供し続けている。そしてクラウドプロバイダーは今、CSNFの重要なコンポーネントであるDecoratorの構築を進めている。Decoratorとはオープンソースのマルチクラウドセキュリティ報告書の翻訳サービスを提供するものだ。

パンデミックは我々の世界に多くの変化をもたらし、それはパブリッククラウドにおける新たなセキュリティ上の課題にまでに及んだ。セキュリティに関する安心感を高め、リソース増加の必要性を回避し、より多くのクラウド消費を可能にするために、ITにおける課題の軽減が最優先されなければ堅実なガバナンスと効率的な運用を続ける事はできない。デジタルトランスフォーメーションが急速に進むこの時代、ONUGは業界がセキュリティイベントの一歩先を行くことができるよう取り組んでいる。

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カテゴリー:セキュリティ
タグ:データレイクパブリッククラウドCloud Security Notification Framework(CSNF)DXパンデミックコラム

画像クレジット:Blue Island / Shutterstock

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(文:Nick Lippis、翻訳:Dragonfly)

Sansanが請求書をオンライン受領・管理できる「Bill One」を中小規模事業者に無料提供開始

Sansanの寺田親弘CEO

クラウド名刺管理サービスなどを提供するSansanは5月27日、請求書をオンラインで受領して管理できるサービス「Bill One」を、従業員数が100人以下の中小規模事業者に対して無料で提供するプランを始めた。従来、基本プランで月10万円ほどの費用が必要だったが、基本無料で利用できるようになる。同社は国内の中小規模事業者にBill Oneを通して、請求書業務のDX化を促していく。

Sansanの寺田親弘CEOは27日に開いた会見で「もちろん無料提供は慈善事業ではなく、ビジネスとしての狙いがあります。Bill Oneを通して、アナログ・デジタルを問わず、オンライン上で請求書のやり取りができるネットワークを作っていきたいと考えています。国内企業の99.7%を占める中小規模の事業者に使っていただくことで、Bill Oneはより浸透していくはずです」と語った。

Sansanは今後1年間でBill One無料プランの導入企業5000社を目指す。

クラウド請求書受領サービス「Bill One」

2020年5月から提供を始めたBill Oneは、請求書業務をDX化するクラウド請求書受領サービスだ。郵送で届く紙の請求書やメールで送付されるPDFの請求書など、請求書の宛先をBill Oneに変えるだけで、さまざまな方法・形式で送られる請求書をオンラインでまとめて受け取ることができるようになる。

Bill Oneでは、企業が受け取る紙の請求書は専門のセンターが代理で受領する。同社の名刺データ化技術を基にした独自システムでデータ化してクラウドにアップロード。PDFの場合はそのままBill Oneのシステムで受け取ることになる。これにより企業は取り扱うすべての請求書を、紙やPDFなどの形式に関係なく、クラウド上で受け取って一元管理ができるようになるのだ。

また、データで請求書情報を受け取ることで、支払業務もデジタル化できる。Bill One上で承認のデジタルハンコを捺印できる上、支払依頼に必要な関連データやコメント・メモも、請求書情報に貼り付けることが可能になり、請求書業務ためだけに出社するといった問題も軽減できる。

さらにBill Oneを利用することで、請求書のデータベースも構築されていく。請求書は企業間の取引情報であり、仕入れ先などの情報を営業部に共有することで、営業活動にその情報を活用できるようになる。営業の新たなチャンスを生むことに繋がる。

Bill Oneを無料で使える「スモールビジネスプラン」

今回のスモールビジネスプランは、請求書のスキャン代行やデータ化、オンライン管理などBill Oneの基本機能を、従業員規模が100人以下の中小規模事業者を対象に、初期費用、月額費用を無料で提供するプランとなる。

同社の調査によると、企業が1カ月に受け取る請求書の枚数は平均96.1枚だという。このため、同プランで受け取れる請求書の枚数は月100件までとした。また、Bill One上で過去にオンライン受領した請求書の閲覧枚数は、500件までとなる。制限をなくしたい場合などは、有料プランへの変更が必要だ。

寺田氏は「Bill Oneは単なるソフトウェアでなく、人的なコストもかかるサービスであり、無料で公開することに相応のリスクはあります。この判断を後押ししたのは『ビジネスインフラになる』という我われが掲げるミッションです。日本のDXを支えるビジネスインフラになっていくための、大きな一手として進めていきたい」と意気込んだ。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:Sansan日本DX請求書

奨学金・出産・子育てに関する助成費や保険など用公共制度の認知や手続きを簡素化する「Civichat」が1500万円調達

公共制度の認知や申請の手間などの手続きを簡素化するクラウド型ソフトウェア「Civichat」を開発するCivichatは5月25日、East Venturesを引受先とした総額1500万円のシードラウンドの資金調達を実施したと発表した。

Civichatは、LINEを利用したチャット形式にて、補助金や給付金、奨学金、妊娠・出産に関する助成費用、子育てに関する保険などの制度を知ることができる。さらに国の申請システムを利用しており、申請の代行までが可能だ。

Civichatは利用者にあわせて学習するシステムを採用しており、検索のたびにキーワードを入力する必要がなくなる。またCivichatのデータも毎日更新される。

無料のフリープランでは、質問やおすすめを受けることができる。給付金の15%となるスタンダードプランでは、補助金の申請サポートが受けられる。

Civichatは今回の資金調達により、さらなるプロダクト開発と体制の強化を進めるとしている。わかりやすいとはいえない行政関連の情報や手続きの普及を手助けする本サービスは、今後の成長が注目されそうだ。

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マイナンバーカードの交付率が30%に到達、2021年5月5日時点で3814万6771枚を交付済

カテゴリー:GovTech
タグ:資金調達(用語)Civichat(企業・サービス)DX / デジタルトランスフォーメーション(用語)日本(国・地域)

請求書受け取りから経理の会計・支払処理まで自動化する「LayerX インボイス」が「回収漏れ網羅チェック」機能提供

業務プロセスのデジタル化を推進するLayerXは5月19日、クラウドでの請求書処理業務を可能にする請求書AIクラウド 「LayerX インボイス」にて、請求書の回収漏れ網羅チェック機能をリリースしたと発表した。また、取引先からの請求書アップロード機能も搭載された。

LayerX インボイスは請求書の受け取り後、AI-OCRが請求書を自動でデータ化の上、仕訳データや振込データの自動作成及び会計システム連携をシームレスに実行することで経理DXを推進するサービスだ。2020年10月より一部のスタートアップや上場企業を対象としてβ版が提供され、2021年1月より本提供が開始された。

請求書の回収漏れ網羅チェック機能では、取引先ごとに回収予定月を設定することで、設定した月に回収できているかどうか、またその処理状況を一覧で網羅的に確認可能となる。これにより、計上・支払漏れの温床になっていた請求書回収漏れを防止できる。

また取引先からの請求書アップロード機能では、取引先ごとに回収用の請求書URLを発行可能となった。発行したURLを取先に渡することで、直接請求書をアップロードでき、毎月の回収作業の効率化が図れる。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:DX / デジタルトランスフォーメーション(用語)LayerX(企業)日本(国・地域)

ペット業界に特化したTYLが獣医師往診サービス「anihoc」開始、往診料金税込5500円

ペット業界に特化したスタートアップTYLは5月19日から、獣医師往診の新サービス「anihoc(アニホック)」の提供を始めた。anihocは獣医師が飼い主の自宅や専用の往診車で、ペットの健康診断や内科全般などの獣医療を行うサービスだ。

TYLは2017年に設立され、「ペットの家族化推進」をミッションに掲げる。同社はペット業界の求人サイト「アニマルジョブ」や、動物 / ペットに関する通信資格・講座の比較・資料請求ができる「動物資格ネット」などを提供している。

anihocでは専用のウェブフォームから予約すれば、最短即日で往診サービスを受けられる。コロナ禍での「外出を控えたい」「待合室での密な状況」といった悩みをanihocで解決していく考えだ。

TYLの取締役/獣医師の藤野洋氏

TYLの取締役で獣医師の藤野洋氏は、同日に開かれたオンライン会見で「飼い主やペットも普段と変わらない生活環境で獣医療を受けることができます。『待合室での時間』『ペットと通院する負担』といった既存の獣医療の課題を解決し、DX化する新たなサービスでもあります」と語った。

コロナ禍でペット関連市場は変化

新規飼育者によるペットの飼育頭数は、2018~2020年の推移をみると増加傾向にある。藤野氏は「コロナ禍でペットの立ち位置の変容がありました。人との関わり合いの希薄化やお家時間の増加などにより、これまでよりも『癒しの存在』『コミュニケーションパートナー』といった傾向が顕著になり、ペットの家族化が進んでいます」という。

また、ペット1匹にかける平均支出額の推移では、犬猫とも2019年に減少したものの、2020年に犬は約34万8561円、猫は16万4835円といずれも過去最高額となった。コロナ禍によってライフスタイルの変容や生活環境に影響が出てことで、ペット市場にも変化が生じているのだ。

anihocの全国展開を目指す


anihocの往診はTYL社員の獣医師3人体制で行う。獣医師3人で1日、1人当たり飼い主3人に対応できるという。藤野氏は「今後は獣医師の人数を増やしていきたいと思っています」と語った。また、犬や猫だけでなくハムスター、ウサギ、フェレットなどもanihocの対象となっている。

現在は東京都内23区を中心に、埼玉県南部と神奈川県北部の一部エリアでサービスを提供する。診察料はすべて税込みで、初診料が2200円、再診料が1100円、往診料金が5500円、深夜料金(午後7時~9時)が1万1000円となっている。

TYL代表の金児将平氏

TYLの金児将平代表は「私自身、犬を飼っています。ただ、よく吠えてしまうので、動物病院に行くと待合室で冷たい目で見られることもありました。動物病院に行きたくても行けない飼い主は多いと思っています。そのような方々のためにもサービスの普及に力を入れ、全国展開を目指していきます」と意気込みを語った。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:TYLペット日本DX

データ活用支援のDATAFLUCTが3億円調達、スタートアップスタジオモデルで2年後の上場目指す

「多くの企業は、データを会社の中で腐らせてしまっています」。そう話すのは、データサイエンスビジネスを展開するDATAFLUCT(データフラクト)CEOの久米村隼人氏だ。同社は2021年4月20日、東京大学エッジキャピタルパートナーズよりシリーズAで3億円の資金調達を行ったと発表した。

埋もれているデータに「価値」を与える

DATAFLUCTは、企業がもつデータを最大限に活用するためのさまざまなサービスを提供している。企業に「埋もれているデータ」と、同社が保有する外部データや機械学習アルゴリズムを組み合わせることで、新しいインサイトを創造する。

同社が提供するサービスの1つは、大型スーパーの新規出店候補地を探すサポートだ。これは、クライアントであるスーパーの過去の出店履歴や売上データなどを取得し、立地条件を当てはめるという手法をとる。例えば、駅からの距離・フロアの面積・周辺エリアの人流・近隣にある学校や企業など、200から300ポイントにおよぶデータをAIに学習させる。これにより「○○の条件下では売上は○○」といった推測を行い、新規出店の場所を決定していく。

画像クレジット:DATAFLUCT

久米村氏は「もちろん、実際に出店してみないことには正確な売上げはわかりません。例えば、周辺に橋があると人の流れが大きく変わったり、ライバル店の商圏に影響されたりなど、科学できない部分はある。でも私達が大切にしているのは、『ダメな選択肢を削る』ということです。仮に毎月100件の物件を検討するときに、そもそも商機がないところをあらかじめ除外できるサービスは、企業にとって非常に大きいインパクトをもたらします」という。

同社の事業領域は、不動産にとどとどまらない。メディア企業向けに「さまざまな媒体での広告出稿の効果」をクリック1つでビジュアル化するツール。食品メーカー向けに「油を変える最適なタイミング」を示すツール。物流会社向けには「最も効率よく配送を完了できる道順」を示すツールなど、多岐にわたる業界にDXソリューションを提供している。

同時多発的にプロダクトをローンチ

しかし「データを活用したDXソリューション」は、DATAFLUCTが展開する事業のほんの一部にすぎない。同社は創業から約18カ月間でモビリティ、スマートシティ、EdTech、スマートグリッド関連など13プロダクト(SaaS)を矢継ぎ早にローンチ。これは、同社が各ユニットに独立採算制を採用するスタートアップスタジオだからこそ実現した。一方で「JAXA認定ベンチャー」としての顔も持ち、衛星データ解析を活用したSDGs事業を意欲的に行う。久米村氏自身も「うちは常識から逸脱していることが多すぎて、VCにも理解されにくい」と苦笑いだ。

それにしても「なぜさまざまな業界に同時に参入する必要があるのか?」と思われる読者がいるかもしれない。久米村氏はこう説明する。「私達のサービスは、そもそも社会課題を解決するという出発点から始まっています。例えば、食品廃棄ロス問題を解決したいとすると、生産者(農家)、製造業、卸売、スーパーなど、サプライチェーン上のすべての課題を解決する必要がある。私達は、これらをデータで統合することで解決に導きたいと考えています。例えば、衛星データを活用した野菜の収穫支援から、店舗での需要予測アルゴリズム、ダイナミックプライシングの導入まで、包括的にデータを活用することでサプライチェーンの効率化を実現したい。そのために、これまで同時多発的にプロダクトをローンチし、全領域を攻めてきました」。

データ活用を通じて社会の変革を目指す

DATAFLUCTのCEOである久米村氏は、これまでベネッセコーポレーション、リクルートマーケティングパートナーズ、日本経済新聞社などを渡り歩き、データ分析を活用した新規事業開発を主にてがけてきた。「私自身、DXコンサルで約70業界に携わり、立ち上げた新規事業は30を超えます。物流のことを聞かれてもおおよそわかるし、ヘルスケアのことを聞かれてもおおよそわかる。顧客が言ったことに対して、すぐに打ち返せるパワーが強みだと思っています」。

独立のきっかけは、同氏が会社員時代に持っていた不満だった。「ハッキリいうと、コンサル会社に金を払いすぎていると思ったのです。彼らの働きを見て『自分だったらもっとうまくできるのではないか』と」。それでも独立後は、新型コロナウイルスの影響により、リアル店舗を対象とした初期のプロダクトから一時撤退を余儀なくされた。しかし、データ活用のニーズを持つ多様な業種の企業から声がかかり、DXソリューションの提供へとピボットしていくうちに事業が軌道に乗った。

今回調達した3億円の主な使途は人材採用だ。久米村氏は「2年後の上場を目指しています。でも2年だとできることは少ない。お金稼ぎはできるかもしれないが、社会の変革はできない。5年先、10年先にはじめてDATAFLUCTの価値がでてくるのかな、と考えています」と話す。

「21世紀の石油」ともいわれるデータ。もし今後、多くの企業が社内に眠ったままだったデータの価値を掘り起こすことができるようになれば、DATAFLUCTが目指す社会課題の解決も夢物語ではなくなるだろう。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:DATAFLUCTデータサイエンス東京大学エッジキャピタルパートナーズ資金調達DX日本

画像クレジット:DATAFLUCT

死別の悲しみに暮れる家族のためのデジタルアシスタント「Empathy」が14億円調達

死は、人生において絶対に避けられない出来事であると同時に、非常に複雑で厄介な問題でもある。感情的あるいは宗教的な複雑で不安な気持ちに圧倒されるなか、多くの遺族はお金や、対処すべきさまざまな問題にも悩まされる。米国時間4月6日、Empathy(エンパシー)というスタートアップが、そうした課題に正面から取り組み、遺族の心の傷を部分的に肩代わりすることを目指して、ステルスモードから姿を現した。同社は、AIベースのプラットフォームを使い、亡くなった家族に関連して行うべき作業や手続きの取りまとめを行ってくれる(したがって、遺族による大変な事務手続きを間接的に支援できる)。

「遺族は、亡くした家族に関連するさまざまな作業に平均500時間を費やしています」と、Yonatan Bergman(ヨナタン・バーグマン)氏と同社を共同創設したCEOのRon Gura(ロン・グラ)氏は話す。「遺族を励ますためのネイティブアプリのかたちでデジタルコンパニオンを提供します」と同氏は述べ、Empathyを「家族を亡くしたばかりの遺族のためのGPS」だと説明した。

同社はイスラエルのスタートアップなのだが、VCs General CatalystとAlephが共同で主導した投資ラウンドで1300万ドル(約14億円)を調達し、まずは米国市場でローンチする。

米国では、平均して年間約300万人が亡くなっている。この数は、このところの新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で跳ね上がった。遅かれ早かれ誰もが遭遇する、ある意味最も自然で予測のつきやすい問題ではあるが、その準備を整えている人は少ない。その理由は、恐れであったり、宗教上の問題であったり、単にそうした不吉なことは考えたくないという感情によるものであったりする。皮肉なことにこの問題は、自身のためのものであれ、人に代わって提供するものであれ、それに対処すべく構築されたサービスが逆に激しく忌み嫌われるという事実によって、あまり改善されていない。

しかしスタートアップ企業にとってこれは、まさに教科書どおりの好機を意味する。

「数年間、私はこの話に取り憑かれてきました」とグラ氏はいう。同氏はバーマン氏とともにThe Gift Project(ザ・ギフト・プロジェクト)で働いていたが、この会社があるソーシャルギフトのスタートアップに買収された後は、イスラエルのeBay(イーベイ)に移った。「死は、イノベーションがまだ及んでいない最後の消費者セクターです。その原因は、技術的な問題でも、規制による障壁の問題でもありません。それは、私たちに内在する楽観主義と、死や死ぬことという避けられない事実を語りたがらない人類の本質によるものと思われます。そのため、今日では多くのセクターが取り組んでいるトランスフォーメーションに取り残された、暗黙のセクターでもあるのです」。

さらに、死は人々の心を大きく挫くため、それを商売とする企業は嫌われるという理由もあると私は推測する。

そこに手を貸そうというのがEmpathyのアプローチだ。そうした考え方の周囲に、できる限り透明なビジネスを構築しようとしている。同社は、最初の30日間は無料でサービスを提供する。それ以降は65ドル(約7100円)の料金を1度払えばずっと使えるようになる。5カ月、5年(もっと長くても)と長期に利用しても料金が上がることはない。

個人的な事情に関する詳細事項をいくつか書き込むと、人の死去にともなうさまざまな手続きや作業をステップ・バイ・ステップでガイドしてくれる。

これには、人々への告知の方法(および告知)、葬儀やその他の儀式の手配、必要な書類の入手、遺書の対応、故人の身元の保証、遺品整理、遺言検認の手配、福祉手当や銀行口座や請求書やその他の資産や税金に関連する決済、また必要ならば遺族のカウンセリングの手配など、まず早急にやらなければならないことも含まれる。多くの人は、気持ちが動転しているばかりでなく、このような手続きを行った経験を持たないため、すでに感情の位置エネルギーによるローラーコースターに乗っている人間がこれだけのことを熟すには、非現実的なカーブを描く学習曲線に立ち向かわなければならない。

Empathyの考え方は、一部にはユーザー自身で対処しなければならないものもあるが、プラットフォームが「デジタルアシスタント」の役割を果たして、次にするべきことを促し、それを乗り切るためのガイダンスを提供するというものだ。他の業者を紹介したり、他のサービスを宣伝したりすることはなく、今後そうする予定もない。プラットフォームにもたらされる個人データは、やるべきことを済ませるための作業の外では、一切使われないとグラ氏は話している。

Empathyは、この分野に興味を持ち、この分野に挑戦して少しずつ成長を見せているスタートアップの一団の中では、先発ではなく後発となる。同社の他には、自分で遺書を書きたい人を支援する英国のFarewill(フェアウィル)、死とその準備に関する話し合いを促すLantern(ランタン)、遺産計画のスタートアップTrust & Will(トラスト・アンド・ウィル)などがある。競争は起きるだろうが、少なくとも現段階では、これらのテクノロジーが、人生で最も難しいこの分野で役に立つことを示すものとなるだろう。

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「終末期業界は、他のあらゆる業界ではすでに起きているデジタルトランスフォーメーションが、未だに手をつけていない大きなセクターです」と、General Catalystの共同創設者で業務執行取締役のJoel Cutler(ジョエル・カトラー)氏は声明で述べている。「Empathyは、死別にともなう悲しみと複雑な事務処理の両面に対処する点がユニークです。このテクノロジーとエクスペリエンスは、すべての家族に恩恵をもたらすと私たちは確信します」。

「Empathyのスタッフは、消費者向けソフトウェアでの幅広い経験を駆使して、死にともなう膨大な負荷の対処方法を大幅に改善しています」と、Alephのパートナーであり共同創設者のMichael Eisenberg(マイケル・アイゼンバーグ)氏はいう。「悲しみに暮れる遺族に、数々の作業や事務手続きに対処する余裕などありません。金融テクノロジーと同情心を組み合わせることで、Empathyは、思いやりを柱とした近親者のための製品を構築しました」。

長期的には、このプロセスの別の面にもEmpathyで挑戦したいとグラ氏は話す。それは例えば愛する人が亡くなる前に物事を整えておくサービスだ。さらには、同様に事後に膨大な処理作業を残す離婚など、その他の問題にも同氏は目を向けている。

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タグ:Empathy資金調達DXイスラエルお葬式遺言資産管理終活プラットフォーム

画像クレジット:Dilettantiquity Flickr under a CC BY-SA 2.0 icense

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:金井哲夫)

幼稚園・学校・塾・習い事教室の集金業務キャッシュレス化・DX化を実現する「enpay」が4億円調達

幼稚園・学校・塾・習い事教室の集金業務キャッシュレス化・DX化を実現する「enpay」が4億円調達

集金業務のキャッシュレス化・DX化を実現するFintech×SaaSプラットフォーム「enpay」(エンペイ)を提供するエンペイは4月1日、シリーズAラウンドにおいて、第三者割当増資による総額4億円の資金調達を完了したと発表した。引受先は、リードインベスターのDNX Ventures、ちゅうぎんインフィニティファンド。累計調達額は4億7000万円となった。

調達した資金は、「お金の流れを円滑にし、幸せな社会を創造する」というビジョン達成に向けて、enpayの非連続な事業拡大および圧倒的な品質向上、新たな金融サービスの開発、それらに伴う組織の拡充へと投資する予定。

enpayは、PCとスマホを活用し、現金や紙を一切やり取りすることなく、請求から支払いまで対応する集金業務支援サービス。保育園・こども園・幼稚園・学校・塾・習い事教室などに特化しており、リアルタイムでの支払い状況の確認や消し込み作業などすべて自動管理が可能。また、集金業務だけでなく会計データを自動作成し、会計業務管理までワンストップで行えるという。集金業務から会計業務まで、圧倒的な業務負担軽減を実現するとしている。

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タグ:エンペイ (企業・サービス)SaaS(用語)資金調達(用語)DX / デジタルトランスフォーメーション(用語)FinTech(用語)日本(国・地域)

「建設DX」のスパイダープラスが上場、現場出身の創業者「俺にわかるものを作れ」

今、デスクレスSaaSが熱い。物流ラストワンマイルの変革を目指す207は、TechCrunch Startup Battle Online 2020で優勝を飾った。また、製造工場から紙をなくすカミナシは、2021年3月シリーズAで約11億円を調達している。

そして2021年3月30日、「建設DX」を推進するスパイダープラスがマザーズに上場した。SPIDERPLUSは、建設現場の施工管理者(現場監督)の業務を効率化するクラウドアプリだ。

大量の図面をiPadに収める

ビルやマンションといった大型の建設現場では、現場監督がA1サイズの図面(紙)を大量に持ち歩く光景は日常的だ。さまざまな箇所の検査を行う中で、図面にメモを記入したり、記録写真を数百枚から数千枚という単位で撮影していく。現場を巡回し終えると、現場監督は事務所に戻り「どの写真がいつどこで撮影されたものか」などの整理を行い、最後に報告書を作成する。この膨大な「まとめ作業」は深夜にまで及ぶことも珍しくないという。

このような「建設現場の非効率」を解決するのがSPIDERPLUS(スパイダープラス)だ。同アプリは、建築図面をクラウド上で管理することができ「iPad1台」で、現場での業務が完結させられる。大量の図面、記録写真、検査記録をいつでもどこでも参照できるため、現場で起こりがちな「忘れた書類を事務所に取りに帰る」こともなくなる。現場での記録写真やメモは、クラウド上で図面に直接紐づけることができ、後の「まとめ作業」も削減可能だ。つまり、現場監督は1台のiPadで現場での検査からレポートの作成までを一気通貫で完結できるというわけだ。

スパイダープラスの導入効果は明確にあらわれている。同社が行ったアンケートによると、ユーザーの40%以上が月20時間以上の業務時間の削減に成功した。現場監督の残業時間が月間約50時間に及んでいたある電気設備工事業者では、スパイダープラスを導入したことで月100時間近くの業務時間削減に至ったという。

画像クレジット:スパイダープラス

現場出身の創業者

スパイダープラス創業者兼CEOの伊藤謙自氏も、かつては作業着を身にまとい建設現場で働く職人の1人だった。2010年頃に初代iPadが発売された頃「こんな便利なものがあるのに、なぜウチの会社には未だに紙や色鉛筆が転がっているんだ」と疑問に思ったことが、スパイダープラス誕生のきっかけとなった。

伊藤氏は早速、幼馴染でともに上京していたエンジニアの友人に相談。伊藤氏のアプリのアイデアを聞いた友人は「作れると思う」と答え、そこからスパイダープラスの開発が始まった。この友人が、現在同社でCTOを務める増田寛雄氏だというからおもしろい。

建設現場出身であり、同時にSaaS創業者でもある伊藤氏の口癖は「俺にわかるものを作れ」だ。同社はあくまでも現場目線に立った使いやすいプロダクトを作ることで、顧客の支持を獲得してきた。現場でアプリを使うユーザーからは「スパイダープラスはとにかく簡単に使える。ボタンが1つしかないくらいにシンプルだから」との声が聞こえてくるという。

それでも、2011年のリリースからしばらくは顧客に受け入れられない期間が続いた。とにかく現場に足繁く通い、顧客と対話を重ねてプロダクトの改良を続ける他なかったという。転機は2013年の東京オリンピック開催決定だった。建設業界の人手不足が顕在化し、大手企業を中心に「建設DX」を真剣に検討する機運が高まり始めた。このニーズに、それまで「もがきながら」地道に改良を続けてきたスパイダープラスがフィットしたのだ。

スパイダープラスは、2017年から3年連続で契約社数を昨対比200%伸ばし、2021年1月時点で鹿島建設をはじめとする大手ゼネコンやサブコンなど約800社が導入し、約3万5000人のユーザーが利用する。既存顧客の売上継続率を測るNRRは145%、また解約率は0.6%という。

建設DXはスパイダープラスの独壇場というわけではない。Forbes JapanのCloud Top 10に選出されたアンドパッドをはじめ、今後さらに競合が増える可能性は十分にある。しかし、アプリ開発前より行う保温断熱工事業を「祖業」として継続するスパイダープラスの視線の先にあるのは、あくまで顧客だ。同社は「建設業者」として顧客と同じ目線に立ち続けることで、他のSaaS企業との差別化を図る。上場企業となった今こそ、現場を重視するスパイダープラスの姿勢は大きな強みになるだろう。

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タグ:スパイダープラス建築DX日本新規上場

「昭和」な方法が残る債権管理・督促業務のDXを進めるLectoが総額1.1億円調達

債権回収のDXを進める

債権管理・督促業務のDXを進めるスタートアップLecto(レクト)は3月22日、第三者割当増資によって総額1億1000万円の資金調達を行ったと発表した。

Lectoは今回の調達で、債権管理・督促回収業務を一貫して支えるSaaS(Software as a Service)プロダクトの開発を進める。金融事業者がユーザーにサービスを提供した後に発生する請求通知や督促連絡、債券譲渡など、さまざまな業務をワンストップで管理できるようにする。また、2021年7月を目途に債権回収を自動化する機能を開発して提供する見通し。

金融事業にはさまざまな業務フローがある

金融事業にはさまざまな業務フローがある

なお、引受先はシンガポールに本社を置くBEENEXTが運営するALL STAR SAASFUNDのほか、East Venturesやラクマ(フリル)創業者の堀井翔太氏、コネヒト創業者の大湯俊介氏らとなる。

Lectoは2020年11月に会社を設立後、2021年1月から債権管理などにおけるハンズオン支援のコンサルティングサービスを提供している。すでにyupナッジに同サービスを提供しており、今後は複数社でのサービス導入が決まっている。

レガシーな金融業界と新たな動き

金融業界では債権管理業務自体をMicrosoft Excelなどのアナログ管理で行っている事業者が少なくない。また、既存事業者には督促回収を電話や個別訪問で行うなど、昭和から続くアナログな方法が残っているという。

金融業界には現在、ITを活用した決済テクノロジーが進歩し、決済サービスなどが多様化している側面もある。このため政府は2021年4月から、改正割賦販売法を施行し、新しい決済テクノロジーやサービスに対応するための環境を整えている。

改正法では、限度額10万円以下となる少額の分割後払いサービス提供事業者に対する登録制度を創設する。また、限度額審査については、AI技術などによる新たなテクノロジーに基づく審査手法を許容するとしている。改正法が施行されれば、少額の分割後払いサービスを提供する事業者が多く金融市場に参入することになる。

Lectoでは、既存事業者に対しては債権管理・督促回収のDXを展開し、スタートアップをはじめとした新規参入事業者にはゼロベースからの債権管理・督促回収の支援サービスを提供していく考えだ。

Lectoは「金融サービスの裏側を変えていくことは一見地味な取り組みだが、我々の取り組みこそが金融ビジネスを成長させるキモだと考えている。債権管理・督促回収のアップデートが金融市場に与える影響は大きく、我々はARR(年間経常利益)で1000億円以上を目指せると試算している」と述べた。

カテゴリー:フィンテック
タグ:LectoSaaS資金調達日本DX

金属加工のDXを推進する「Mitsuri」運営のCatallaxyが総額4.1億円調達で未来の製造業を目指す

Mitsuriサービスのイメージ

Mitsuriサービスのイメージ

特注金属部品における受発注の商取引プラットフォーム「Mitsuri」を提供するCatallaxyは3月22日、第三者割当増資により総額約4億1000万円の資金調達を行ったと発表した。引受先はインキュベイトファンドとSMBCベンチャーキャピタル、フューチャーベンチャーキャピタル、長瀬産業、パビリオンキャピタル、エンジェル投資家となる。

金属部品の図面を工場に持ち込んで、職人と膝を突き合わせて話し合う。そんな当たり前に思える仕事を、オンライン上で完結するプラットフォームが「Mitsuri」だ。日本の金属加工技術は世界レベルである一方、現場は労働集約型で動いているという。

Catallaxyは2020年3月17日に約3億2500万円を調達したばかりだが、ここ1年の累計調達額は約7億3500万円となった。また、直近3年間でみれば累計調達額は約8億1000万円に上る。事業スピードを上げていく中、Mitsuriを通じてレガシーな金属加工業界のDXを進める。

依頼総額30億円を超えたMitsuri

日本の金属加工技術は世界レベルで、金属製品製造業は約15兆円という巨大産業であるものの、労働集約型のオペレーションによる競争力低下が大きな課題となっているという。経済産業省によると、2019年における金属製品製造業の事業所数は、従業員30人以上であれば約4400となる。一方、従業員が4人以上の場合は約2万5000であり、この小規模な事業所におけるDXの推進が特に急がれている。

Mitsuriは2018年のリリースされ、2019年には依頼総額が30億円を超えた。さらに2021年2月までには、全国300社の協力工場と、1万を超える発注社数を抱えるプラットフォームに拡大している。

Catallaxyは全国100カ所以上の工場に足を運び、業界の課題を直接ヒアリングした上で、Mitsuriを作り上げた。Mitsuriは、従来の発注業者が自社のCADオペレーターが作った図面を工場に持参して説明し、見積もりを依頼して、そして実際に発注するといった流れを根本から変えていく。

Mitsuriは金属加工の図面をアップロードするだけで、300社以上のパートナー工場から、同社が発注業者に合った加工業者をコーディネートする。発注業者はそこから見積もりや仕様など、条件に合った加工業者を選び、オンライン上で具体的な商談が始められるというものだ。

加工業者側からすれば、Mitsuri上で同社の専門スタッフと発注業者が上流工程を行っているため、製品製造に集中することができる。このため、納期遅れは全体の3%未満となっている。

また、発注業者が金属加工に専門的な知識を持っていなくても、金属部品を選び、見積り比較から発注までオンライン上でできる「Mitsuriカタログ」も提供している。Mitsuriカタログは、希望する金属部品がなければ、カタログ上で希望と近い金属の形状からカスタマイズできる。そこから自動で図面を作成され、そのまま発注も可能なセミオーダー方式となっている。

金属加工業の無人化を

Catallaxyは今回の資金調達によって、Mitsuriを通して金属加工業界における商取引・生産管理のデジタル化や見積りの自動化、ソフトウェア前提の部品製造を促進していく。

金属加工業界は依然、レガシーな業界構造だ。メール、FAX、対面、書面での営業活動、生産管理が常態化している。

Catallaxyは「現状、金属加工業界は商談や生産管理のスタンダードが確立されていない。各工場で Microsoft Excelや紙を中心とした管理をしており、生産性が低い状態が続いている。Mitsuriのウェブシステムを浸透させ、これまで工場内で営業職や管理職、CADオペレーターが担っていた業務を8割削減することで、業界スタンダードになることを目指す」と述べた。

また、見積りの自動化については、Mitsuriで3DCAD、2DCADの自動見積りを可能にし、これまで不透明だった特注部品価格を対応できる工場ごとに比較できるようにしている。自動化ではカバーしきれない場合、同社専門スタッフがCADファイルなどを解析し、解析内容と加工内容を紐づけて稼働時間を割り出すことで、見積り金額を算出する流れも作っている。

この他、Catallaxyは職人の知識や機械などの加工能力をデータ化に成功。協力工場に工作機械を動かすためのプログラムコードとして送り、工場ではそのプログラムコードを元に金属を加工できるようにしている。ソフトウェアを前提とした部品製造により、職人のスキルに依存せずに再現可能なQCD(Quality・Cost・Delivery)を提供することで、属人化していた金属加工業界を変えていく。

Catallaxyはこれらの施策をさらに推し進めることで、金属加工業の無人化を果たし、未来の製造業を作り上げる狙いだ。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Catallaxy資金調達金属加工DX日本