Microsoft(マイクロソフト)は、ChromiumベースのEdgeブラウザーに、いくつかの大きな目標を掲げている。Edge担当副社長Chuck Friedman(チャック・フリードマン)氏は、Edgeで10億人のユーザーを確保したいと考えている。そこに到達して初めてChromeのユーザー数と張り合うことができるのだ。だがその前に、フリードマン氏が率いるチームは1月にEdgeのバージョン1.0を公開しなければならない。
マイクロソフトが自暴自棄になってChromiumを採用したことは周知の事実だ。実際、約2年前にチームに加わったフリードマン氏はそれを実存的危機と呼んでいた。それは、はたしてユーザーは現在のEdgeを使いたいと思うのだろうか?といった疑問から発している。「私が着任したときほとんど全員が、で、我々は何がしたいんだ?といった実存的危機感を抱いていました。それは、なぜEdge?みたいな時期でした。ユーザーがこれを選ぶ理由はなんなのか?重要な問題にうまく対処できるのか?」。その当時、彼はそうした疑問への答を持ち合わせていなかった。そこでチームは、ブラウザー空間に提供できるマイクロソフトならではの価値とは何か、さらにはEdgeには将来的に役割があるのかという基本に立ち戻ることにした。
フリードマン氏は、Edgeのプロダクトチームを担当する以前、Windows 10のユーザーエクスペリエンスのためのプログラム管理チームを統括し、Windows 8のつまづきからの挽回に貢献した人物だ。それを考えると、Edgeがマイクロソフトにとっていかに大切な製品であるかがわかる。
ブラウザー空間には、やらなければならない仕事が山ほどあるとフリードマン氏は言う。「まるで足が生えているかのように、新しい問題の塊が次々に現れます」と彼は私に話してくれた。「なので、過去5年間の問題を解決することではなく、今後5年間の問題を解決するという仕事でした」。そのために彼らは、Edgeに元からあった互換性の問題を克服しなければならなかった。まだ世の中には、少なくとも職場環境には、レガシーなウェブとの互換性が必要だという認識があった。
マイクロソフトを含むブラウザー業界では、誰であれプライバシーが最重要課題であることは明からだ。ネットサーフィンを行う人々のプライバシー問題への意識は一般に高いが、自分自身を守るための手段を持っていないとフリードマン氏は言う。「私たちはそこに辿り着き、ウェブのお約束を認識したのです。世界のあらゆる情報に自由にアクセスできるのは爽快だが、その代償として、その中に自分の個人情報も含まれるとなると困る」とフリードマン氏。そうしてこれも、チームの目標となった。しかし、それらすべての課題を総合して考えたとき(セキュリティーの課題も加わって)、Edgeチームは、これらすべてをマイクロソフト製品全体と調和させるという問題に取り組むことになった。「これはオペレーティングシステムだけの問題ではありません。検索だけの問題でもありません。実際にこれは、完全なMicrosoft 365の話なのです。つまりオペレーティングシステムにセキュリティーと生産性ツールを加えたものです」。
だが、フリードマン氏の話は、私がGoogleのChromeチームから聞いたことと重なる。つまり、現在のウェブは広告のビジネスモデルに大きく依存していて、少なくとも現状では、ウェブでパブリッシングを行っているほとんどの企業では、広告が収益の柱になっているというものだ。そこのバランスを取るのが非常に難しい。マイクロソフトは透明性を高めることで対応しようとしている。「ユーザーは、自分の個人情報がどこにあるかを知っているべきなのに、どのデータが何に使われているのかを知らされていません」と彼は説明する。そのためユーザーには、自分のデータがどのように使われるのかを把握し管理できる能力が与えられるべきだという。
「私たちの業界にも、徹底的なプライバシーの保護と管理が絶対に必要だと訴える人たちがいます。それを求めるユーザーも一部にいると私は思っています。しかし、その中の一部の要素がウェブを崩壊させるとも考えています。そしてそれには、パブリケーションが正当な方法で収益を得る能力を奪ってしまう恐れががります」。さらに彼は、ユーザーのおよそ半数が、通常の広告よりもターゲッティング広告を好んでいて、彼らが不満に感じているのは広告の管理権がないことだと指摘した。
マイクロソフトのブラウザーは、デフォルトでサードパーティーのCookieをブロックするようになっている。そのために、彼らはMozillaと同じホワイトリストを利用しているが、ユーザーが自分のデータを削除できることをサイトが示している場合、そのリストは定期的に更新される。そうすることで、広告業界の多くの企業がユーザーに管理機能を与えるよう促す考えだ。
Edgeはまた、ビジネスユーザーのための強力なツールでもある。そこでチームは、一般の顧客に加えてビジネスユーザーに向けたブラウザーの生産性全体を改善する方法も考え始めている。例えば、そこからCollection(コレクション)のアイデアが生まれた。これは、ブックマークとスクラッチ パッドとリーディング リストのハイブリッドだ。まだ本格的には公開はされていないが、Edgeの試験的なカナリアビルドに実装されていて、フラグを有効化すれば使えるようになる。
また彼らは、ユーザーがよくOffice製品からEdgeにコンテンツをコピー&ペーストしていて、そのためこの機能をもっと強化して欲しいと望んでいることに気がついた。「私たちは、あらゆる素晴らしいウェブエクスペリエンスを有するOffiseの資産を統合することで、連携を強化しようとしています。しかし正直言って、ある程度まで彼らと一緒になって、もっとできるように力を貸す必要があります。Officeのウェブ資産を大幅に刷新できるチャンスなので、とてもエキサイトしています。そこでは、もっと革新的なものが作れます」。
もうひとつ、彼らが注目しているのはタブの管理だ。「タブのカオスは興味深い問題です。それは、いまだに存在します。その問題解決に大きく貢献できた人はいなかったのでしょう」とフリードマン氏は言う。それが実際にどのような形になるかはお楽しみだ。
まだ今すぐには見ることができないがCortanaとの統合もある。それは、今の非Chromium版のEdgeに組み込まれているが、まだ新バージョンに搭載できるまでに成熟していないとフリードマン氏は見ている。ブラウザーには便利なものだが、パーソナルアシスタントは間違いがあってはいけないと彼は言う。新しいEdgeに、それがどのような姿で搭載されるかは、まだわからない。可能性はあると彼は考えているが、現実にどのような形で実装されるかは、いまだ不明だ。
バージョン1.0が出荷された後は、彼らは毎年、2つか3つのメジャーな新機能を追加していく考えだ。おそらく最初はコレクションになるだろう。
フリードマン氏はまた、現在Edgeを利用しているユーザーが多くいることを理解している。その数はおよそ1億5000万人。彼らがEdgeを使っている理由は、Windowsに付属しているからだ。低信頼度ユーザーと彼が表現するその人たちは、新しいEdgeがまったく違う姿をしていたら、わざわざ今とは違うブラウザーをダウンロードするとは思えない。代わりに、iPadなど見た目にずっとシンプルな別のデバイスに乗り換えてしまう可能性がある。
だがマイクロソフトは、明らかに経験豊富なユーザーに向けて、Chromeに取って代わるものとしてEdgeを位置付けている。チームは、そうしたユーザーたちに、できるだけ摩擦の少ない移行方法を提供しようと準備を進めている。そのバランスがとても難しいのだが、フリードマン氏は可能だと信じている。そこには、彼がWindowsのために働いてきた経験が生かされる。
「私の直前の仕事はWindows 10です。Windows 10のためのコアユーザー向けのエクスペリエンスを作り上げるプロダクトチームを率いていました。ある意味、Windows 7と8のコードベースを受け継ぎながら、こう問いました。さて、どうやったらこれらのユーザーを統合して、どちらも新製品に満足してもらえるようになるか。今回も同じようなチャレンジです。数々の異なる分野のユーザーの気持を本気で考えることが重要です」。
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(翻訳:金井哲夫)